ハルヒ「……私のこと、嫌いになったんでしょ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 16:33:14.61 ID:tw9Cfgjx0  とてつもなく、屁がしたい。  その欲求に抗えなくなった涼宮ハルヒは、颯爽と席から立ち上がった。 「どうしたんだ?」 「何でもないわよ」  トイレに行って、一っ屁かましてくるわ、などと言えるわけもない。 「何でもないわけないだろ」 「キョンくん……」  問い詰めようとするキョンの言葉を、朝比奈みくるが制止する。涼宮ハ ルヒは心の中で、朝比奈みくるに礼を言い、そして、部室から立ち去ろう と、ドアに手をかけた。  そう、丁度、そのときである。 「みなさん、こんにちは」  なんと古泉一樹が、向こう側から扉を開けてきたのだ。  その衝撃に耐え切れず、涼宮ハルヒは、屁をしてしまった。  今まで我慢してきた分、その屁の音は半端ではない。勿論、臭いも、だ。 「……これ、笑うとこ?」  鼻を押さえながら言うキョンを、涼宮ハルヒは、涙目で、キッと睨んだ。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 16:37:41.21 ID:tw9Cfgjx0 「い、いまのは、私のおならですよぅ」  朝比奈みくるがフォローをする。しかし、キョンは聞かない。 「いえ、朝比奈さんの方からは、そんな音しませんでしたよ」  状況を察した古泉一樹は、朝比奈みくるに加担する。 「そうでしょうか? 僕も、朝比奈さんの方から聞こえましたが」  心の中では、悪いと思っているものの、涼宮ハルヒの機嫌を 損ねてしまうと、大変なことになる。 「私のおならですぅ。ね、長門さん」  これが間違いだった。長門有希は、真実を伝えるしかない。 そういう生き物なのだ。 「先程の屁は、涼宮ハルヒの肛門から放たれた」  朝比奈みくると古泉一樹の顔が真っ青になる。キョンはニヤ りと笑う。  一方、涼宮ハルヒは、もう一発屁をかましたいな、と思っていた。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 16:40:20.08 ID:tw9Cfgjx0  涼宮ハルヒが、もう一発かました瞬間、世界は粒子になった。  きらきらと輝くそれは、一瞬にして涼宮ハルヒの屁を取り囲んだ。  後に、古泉一樹は、こう語る。 「神は、屁ですらも美しい」  と。                          (完) 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 16:44:54.05 ID:tw9Cfgjx0 「私のこと、嫌いになったんでしょ」  突然のハルヒの言葉に、俺は目を見開いた。  俺がハルヒを嫌いになる? ホワイ? 何故? 「急に何を言い出したんだ、お前は」  意味が分からないし、笑えない。冗談かと思って ハルヒの目を見ると、その目は、藤岡弘よろしくばり の真剣さを孕んでいた。 「ううん、キョンはもともと私のことなんか好きじゃな かった」 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 16:51:55.28 ID:tw9Cfgjx0 「キョンは、私のことなんか……」  そのときだ。  俺は堪らず、屁をしてしまった。 「あ、いや、その……」  俺は居た堪れなくなって、ハルヒから目を逸らした。  ハルヒは何も言わない。  沈黙が続いたあと、ハルヒがくすくすと笑った。 「この、馬鹿キョン。悩んでるのが馬鹿らしく思えてきたじゃない」  そう。俺の屁が、ハルヒを悩みから救ったのだ。  屁は、人間を救うのだ。                             (完) 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:00:44.98 ID:tw9Cfgjx0 「屁がね」  古泉一樹は、こう切り出した。 「屁の音が聞こえたんです」  古泉一樹は絶望の最中に居た。  神人と戦わなければならない毎日は、苦痛でしかなかった。  自殺を考えた日もあった。  そんな時、古泉一樹は、ある音を聞いた。 「いつものように閉鎖空間で神人を戦っている最中、大きな音が聞こえたんです」  古泉一樹は、はかなげに微笑みながらも、話を続ける。 「そう、屁の音です」  その声は少し震えている。 「彼女の閉鎖空間に屁の音が溢れました」  泣いているのだろうか。確かめる術はない。  古泉一樹は、とうとう俯いてしまった。   22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:07:06.02 ID:tw9Cfgjx0 「今までに聞いたことの無い屁の音でした。その屁は、悲鳴のようにも聞こえました。  助けて助けて、嫌だ、私はこんなんじゃない、違う、私は特別なんだ、教えて、と。  屁は、そう叫んでいました。……泣き叫んでいました」  辛いのだろうに、古泉一樹は話を続ける。  その様が、私の眼には、とても痛々しく見える。 「僕は、そのとき、決めたんです。この人を守りたい、と。僕が絶望に陥ってどうする  んだ、と。ウイルスバスターがウイルスにかかってるようなものですよ、それは」  私は我慢できずに、彼を抱きしめた。  彼は、私の腕の中で、静かに嗚咽を漏らす。 「こんな屁を奏でる人を、どうして見捨てることが出来ますか。僕は、それから全力を  尽くしました。そして、それは今も変わりません。……でも、時々不安に思うんです」  腕の中で、嗚咽が大きくなるのを感じ、私まで、涙が出てきた。 「僕は、きちんと彼女を救えているんでしょうか。彼女を守れているんでしょうか」  二人で、泣いた。  途中、古泉は、私に、なんで森さんまで泣くんですか、と尋ねてきた。  その瞬間、古泉は屁をした。  その屁は、私に「助けて」と縋り付いているように聞こえて、また泣けてきた。                                   (完) 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:13:18.97 ID:tw9Cfgjx0 「屁は人間である証拠」 「長門……」 「その証拠に、私は、屁をすることが出来ない」 「……」 「屁ができる、ということは、人間である、ということの証明」  人々に疎まれる屁という存在を、長門は愛しく思うのだと言う。 「お願いがある」 「なんだ」 「屁をして」  透明な声で、長門は囁く。 「屁をして」  お望み通り屁をしてやると、長門は、少しだけ寂しそうな目をした。 「長門」  そんな目をする必要はないじゃないか。 「そういう願望が出てきた時点で、俺は充分、お前は人間だと思うがな」  もし、長門が、ただの宇宙人であれば、人間の証明である屁を愛しいと思いはしないだろう。  それに羨望を抱いたりはしないだろう。 「お前も、いつか屁が出来るようになるさ」  勘違いかもしれないが、そのとき俺には、長門が微笑んだように見えた。                                          (完) 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:47:38.23 ID:tw9Cfgjx0  鶴屋さんと俺が付き合うようになったのは、大学に入学してからだった。 「やあ! キョンくんじゃないかい! あっはっは」 「鶴屋さん……」  久しぶりにあった彼女は、相変わらず笑い上戸だった……いや、前にも 増して、と言った方がいいかもしれない。  それから、大学内でちょくちょく話すようになった。  高校時代は見えてこなかった彼女の色々な面を知ることになった。  段々と、俺は鶴屋さんに惹かれていった。  その明るさ、元気さ、朗らかさ、全てが俺の眼には魅力的に見えた。 「キョンくん、待たせてごっめんねっ」  そして、今日。  俺は、鶴屋さんに結婚を申し込もうと考えていた。  彼女に対する俺の想いは、もう抑えきれなくなっていた。 「いいえ、待ってませんよ。では、行きましょうか」 「あっはっは、そうだねっ、そうしようかっ」  彼女と居ると、沈黙が訪れない。  彼女は常にタンバリンを常備していて、少しでも話題が途切れると、 それをしゃららんと鳴らしてみせる。俺には、それが彼女の弱さに見えた。 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:54:51.78 ID:tw9Cfgjx0  きっと、彼女は静寂を恐れているのだ。  真面目な瞬間に、殺されるのではないかと怯えているのだ。  彼女に教えてあげたい。そんなことはない、と。  あなたは、もうちょっと息を抜いてもいいんですよ、と。 「どうしたんだいっ、キョンくんっ。暗いぞっ?」  黙りこんでいると、鶴屋さんが、しゃららんしゃららんとタンバリンを 鳴らしながら話しかけてくる。 「……鶴屋さん」  少し低いトーンで彼女の名前を呼ぶ。 「真面目な話があるんです。タンバリンを鳴らすのをやめてもらえますか」  彼女は目を見開く。 「え……い、いやぁ、別にタンバリンを鳴らしたままでも真面目な話は出来るんじゃ」 「鶴屋さん」  俺は彼女の手に、そっと自分の手を添える。 「何をそんなに恐れているんですか。大丈夫です。そんなに、ずっと笑っていなくても、  そんなに、ずっと騒がしくしていなくても、あなたは充分魅力的な人です」  彼女は真面目な顔で、俺の眼を見る。  けれど、タンバリンを鳴らすのをやめようとはしない。 「なんでも、大学の講義中にもタンバリンを鳴らして、停学処分になったこともあるらしい  じゃないですか」  彼女が息を呑んだのが分かった。 「何をそんなに怯えることがありますか、恐れることがありますか。少なくとも、俺には、  そんな気を使わなくてもいいじゃないですか。俺は、どんな鶴屋さんでも愛しいと思い  ます。確かに、俺が惹かれたのは、明るいあなたです。明るくて、元気で、朗らかなあ  なたです。でも、そんなあなたを守ってあげたいとも想っているんです」 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 17:59:09.93 ID:tw9Cfgjx0  中々鳴り止まないタンバリンの音に、俺は苛々する。 「そんなに、俺は信用ありませんか」 「ちが、違うよっ! でも、その……」 「鶴屋さん、俺は、今日あなたとしたい話があってここに来ました」  彼女の眼が、少し曇る。 「別れ話……かな」 「違います」 「それじゃあ……」 「結婚したいと思っています」  タンバリンは鳴り続けている。 「あなたのことを本当に愛してるんです、鶴屋さん」 「……」 「本当のあなたを見せてはくれませんか」  そのとき、タンバリンの音が止んだ。  その代わりに、ぷすぷす、というガス欠のような音が、彼女の尻辺りから聞こえてきた。 「実は、私、病気なんだ……」 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:06:51.28 ID:tw9Cfgjx0  彼女の突然の告白に、俺は目を見開く。 「高校卒業してからね……やけに頻繁に屁が出るようになったんだ……。  最初は、芋の食べすぎだろうって思ってた……臭いもそんなに無かったし、  ずっとほったらかしにしてたら……ある日の朝、常時屁が出るようになってた」  タンバリンを持つ、彼女の手が震えている。 「恥ずかしかったけど、病院にいったら、お医者さんに怒られちゃったよ。  なんで、もっと早く来なかったんだ、って。病名は、常時屁放出病っていって、  発症率は、六十三億分の一っていう難病なんだって……」  信じられない。  そんな病気と、今まで彼女は、たった一人で闘っていたのだろうか。 「私、こわくて……誰にもいえなかった……タンバリンで自分を隠すことしか出来  なかった……。もし、私が常時屁をこいてることがバレたら、嫌われちゃうんじゃ  ないかって……。友達も、皆居なくなっちゃうんじゃないか、って……」  俺の眼を見る彼女の眼は、涙で濡れていた。 「キョンくんも、私のこと嫌いになっちゃうんじゃないか、って」 「そんなわけないじゃないですか!」  俺は叫んだ。そうしないと、彼女に俺の声が届かないような気がしたのだ。 「屁があったからって何だ! 俺は、そんなもので鶴屋さんを嫌いになったりはしません!」 「キョンくん……」 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:13:16.71 ID:tw9Cfgjx0 「結婚して下さい」  俺は、彼女に指輪を差し出す。  皮肉にも、その指輪は、芋の形をしていた。 「受け取れないよ……」 「どうしてですか」 「だって、治す方法、まだ何もないんだよっ!?  もし、キョンくんと私の間に子供が出来たとして、子供にも病気がうつったら……?  それに、絶対キョンくん後悔するよ……」 「しません!」 「そんなの信じらんないよっ」  俺は、彼女の尻に口付けをした。  周りの眼なんか気にするかよ。 「キョンくん、何やって……」 「鶴屋さんの屁! よく聞いとけよ! 俺は何があったって、鶴屋さんを愛し続ける!  絶対だ! 屁、お前の思い通りにはさせない! 寧ろ、俺は、屁ごと愛せるんだからな!」 「…………」 「鶴屋さん……俺の気持ち、分かっていただけましたよね」 「もう、馬鹿だなあ、キョンくんは!」  そう言った鶴屋さんの顔は、今までに見たどんな笑顔よりも輝いていた。  俺も釣られて笑う。病気がなんだ、屁がなんだ、そんなものに愛情が負けるかよ。  鶴屋さんが、そっと左手を差し出す。俺は、その薬指に指輪を差し込む。  彼女の尻付近から聞こえる、ぷすぷす、という音が、俺には、教会の音に聞こえた。                                  (完) 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:19:41.61 ID:tw9Cfgjx0 「西山中出身、涼宮デルヘ。ただの屁には、興味ありません。  この中に、糞塗れっ屁、尿塗れっ屁、  ゲロ塗れっ屁をしたことがある奴は私のところまで来なさい!」  これ、笑うとこ?  振り向くと、偉い美人がそこに居た。  掴みのギャグか何かなんだろうが、入学早々下ネタは、ちょっとチャレンジャー過ぎ やしないか、デルヘさんよ。 「さっきの自己紹介のあれ、どこまでが本気なんだ?」  ちょっとくらい下ネタが酷いやつとはいえ、美人なのだ。仲良くなっておかない手はない。 「なによ、あんた、糞っ屁とかしたことあるわけ?」 「いや……」 「無いなら話かけないで」 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:25:57.11 ID:tw9Cfgjx0 「デルヘと仲良く? 無謀だ、やめとけ」 「どういうことだ」  弁当を突付きながら、俺は、デルヘと同じ中学だったという谷口に問いかける。 「あいつは、正真正銘の変態だ。自己紹介のあれは、掴みでも何でもない。マジだ」 「へえ」  国木田。それはジョークなのか、それとも純粋に相槌なのか、どうなんだ。 「顔は良いから男は寄ってくるんだが、その日の内にふっちまうんだよ。  あんた全然屁こかないじゃない! とかなんとか言って」 「へえ」  国木田。俺は、突っ込まないぞ。 「それに、校庭にも変な落書きをしてな……ほら、あの、白い粉が出てくるやつある  だろ? あれで、屁万歳って校庭に……」 「ああ、それ、新聞に載ってたよね」 「教師たちはカンカンで、涼宮に、なんでこんなことをしたんだ、と問い詰めた」 「デルヘはどうしたんだ?」  谷口はニヤリと笑って答えた。 「デルヘは教師たちにこう言った。  『屁が好きだから、屁最高って書いたのよ。何が悪いの!』  ……学校中に響き渡るような爆音の屁を放ちながらな」 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:33:20.47 ID:tw9Cfgjx0 「なあ、デルヘよ」 「軽々しく名前で呼ばないで」 「じゃあ、涼宮」 「……何よ」  ぶっきらぼうにも返事をするデルヘの顔は、それはもう可愛かった。  こんなに可愛いのに、屁が好きだなんて、神は酷いことをする。 「中学の時、校庭に、屁最高と落書きしたのか」 「谷口から聞いたの? そうよ、したわよ」 「その後、教師たちに理由を問われて、学校中に屁を轟かせたのか」 「そうよ。一発、ぶっぱなってやったわよ」 「そうか」  冷静に返事をしながらも、俺は絶望していた。  谷口の作り話に違いない、と思っていたのだ。  顔だけならば、顔だけならば、すさまじく俺の好みなのに、それなのに、中身は 屁が好きな変態だなんて、本当に酷い。こんな思いをするくらいなら、いっそ会わ なければよかった。 「あんた、どっかで会ったことある?」 「へ?」 「いや、無いならいいんだけど」  デルヘはそれだけ言うと、もう話しかけないで、とでもいうかのように、ぷいっと右 を向いた。俺は、そんなデルヘの様子を気にかけることもなく、無意識のうちに、「へ?」と、 屁関連の返答をしてしまった自分を恨んだ。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:38:52.17 ID:tw9Cfgjx0 「部活には入らないのか」 「屁部活がないのよ」 「まあ、あるわけないがな」  中身はこんなんだが、外見はすさまじく俺の好みだ。  俺は毎日のようにデルヘに話しかけた。 「おい、キョン。やめとけって」 「まあ、キョンは、ちょっとかわった女の子が好きだからね」  国木田。デルヘの変わり具合は、ちょっとどころじゃないぞ。 「ねえ、キョン」 「お、おう」  デルヘから話しかけてくるなんて珍しい。  俺はドキドキしながらも、デルヘの言葉を待つ。 「あんたさ、自分の屁がどれほどちっぽけか、考えたことある?」 「は?」 「私はある。野球観戦に行ったときのこと。ホームランを打った音よりも大きい音で屁  をしたやつが居たの。皆、ホームランよりも、その屁の主を探してたわ」 「……」 「そのとき、思ったのよ。ああ、私は今まで、なんてちっぽけな屁をしてきたんだろう、って。  私の屁なんて、この地球上に存在していないレベルのものだったのよ。ううん、屁だけじゃない。  私は、自分の存在の全てが否定されたような気持ちになった」 「……」 「あんたには分かる? そのときの、私の気持ちが」  正直に言おう。分からないし、分かろうとも思わない。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:43:07.77 ID:tw9Cfgjx0  そんなこんなで、デルヘは、SOS部を作った。  S 世界を  O 大いに屁で沸かせる  S 涼宮ハルヒの団  だ。……ああ、笑ってやるなよ。本人は至って真面目だからな。  流石に、部員は集まらないだろうと思っていたが、意外や意外、なんと、俺とデルヘ 以外に、三人も集まった。  長門有希と、朝比奈みくると、古泉一樹だ。  あとで告白されたことだが、三人とも、それぞれ、糞っ屁、尿っ屁、ゲロっ屁の経験者だと言う。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:49:43.65 ID:tw9Cfgjx0  信じがたい話だが、デルヘは凄い力を持ったやつらしい。  長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹が、それぞれ変な屁をしたのは、三年前。 つまり、デルヘが野球観戦に行ったあの日だという。まじかよ。 「僕が、ゲロっ屁をしたのは、家族で遊園地に行っている最中でした。屁と共に、  ゲロを出したんです」 「それで、どうなったんだ」 「どうもこうも、勘当されました。途方に暮れているところを、機関に拾われました」 「…………」 「信じてくださらないかもしれませんが、僕は超能力者です。いつでも、ゲロっ屁を出  すことが出来ます。おえ」 「実演するな、うわ、おまえ……」 「……あなたも、あの日の家族と同じ目をするのですね」 「男の人とこうやって出かけるのなんて初めてです」 「どうしてですか? 朝比奈さん可愛いのに」 「私、尿っ屁しちゃうから……」 「……」 「えへへ、だから、恋なんてしない、って決めてるんです」 「私は、保健室登校」 「……」 「糞っ屁をしてしまうから」 「……」 「涼宮デルヘさえ、屁への興味を棄ててくれれば」 「……」 「私は、糞っ屁から逃れることが出来る」 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:56:49.00 ID:tw9Cfgjx0  三人の話によると、涼宮デヘルから屁の興味を失せさせることが出来れば、 それぞれ、屁から逃れることが出来るのだという。とはいっても、だ。あのデル ヘに屁の興味を失せさせることなど出来るだろうか? 「ねえ、馬鹿キョン」 「なんだ」 「私、あんたの屁、嗅いだことないわ」 「……」 「ちょっと、一発かましてみてよ」  好みの顔のやつに頼まれたんじゃ、しょうがない。  俺は、デルヘの顔の上で屁をした。  デルヘは死んだ。  死因は、ショック死だった。  俺の屁が、あまりにも臭すぎたらしい。   60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:03:05.88 ID:tw9Cfgjx0 「そんなこともありましたねぇ」  朝比奈さんが、少し寂しそうに笑う。 「俺は、いまでもあの日の夢を見ます。  もし、あの時、俺が屁をしていなかったら、デルヘは……」 「でも、あなたがあの時屁をしていなかったら、  私たちは、いまも、それぞれ、屁に悩まされていた」 「そうですよ。あなたは、僕たちを救ってくれたんです」 「……そうか」  あれから、ニ十年が経った。  デヘルと絡んだ半年間だけが、狂っていた。 「おかえり、あなた」  美人とまでは行かないが、中々可愛く気立てもいい嫁を貰い、そして、娘も出来た。 「パパ! 明日、野球観戦に行くんだからね! ……なんかお酒臭くない?」  名前は、ハルヒ。年齢は、十二歳だ。  心なしか、少しだけ、デルヘに似ている。 「分かってる。野球観戦だな」  デルヘの人生を変えた野球観戦が、自分の娘の人生も変えることになるとは。  その野球観戦を境に、ハルヒは、段々とおかしくなるのだった。                                       (完) 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:05:15.33 ID:tw9Cfgjx0 もう私に屁SSを書く気力は残っていないので、このスレは好きに使ってください 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:47:32.79 ID:tw9Cfgjx0 「屁袋、っていうんです」 「屁袋ですか?」  驚いたような声を出した僕を見て、朝比奈さんは笑いながら答えた。 「はい、この時代でいう笑い袋みたいなものです」 「……」 「こうやって、押すと……」  そう言って、彼女は袋の中心を押した。  ぷぅぷぅ、と屁の音が辺りに響く。 「何が面白いんですか」 「うーん……面白くは無いけど、寂しくはなくなるかなぁ」 「それじゃあ、私はこれで」  涼宮さんの件も解決し、彼女が未来に帰ることになった。  僕に引き止める権利があるわけもない。 「ええ、お元気で」 「…………」  彼女は黙り込んだ。  待っているのだ。僕が引き止めるのを。 「朝比奈さん。お元気で」  けれど、僕はそれを拒否した。 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:50:55.41 ID:tw9Cfgjx0  彼女は僕のその言葉を聞いて、少しだけ寂しそうに微笑んでから、 「うん、分かった。古泉くんも、お元気で」  と言った。  きっと、彼女は知りもしないだろう。  僕が、右手を、血が出るんじゃないか、という程握り締めていたことを。  今でも、ときどき、あの日の朝比奈さんの声が蘇る。 『うーん……面白くは無いけど、寂しくはなくなるかなぁ』  その声と共に聞こえていた、ぷぅぷぅという屁の音。  彼女は、いま元気だろうか。  幸せだろうか。  寂しがってはいないだろうか。  今更、こんなことを思ってももう遅いのに、こんなことばかりを考える。  願わくば、彼女の部屋に、あの屁袋の屁の音が、響いていませんように。                                    (完) 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:57:09.06 ID:tw9Cfgjx0  目が覚めると、そこは粒子の世界だった。 「涼子、何を作ってるの?」 「長門さん」  どうやら、ここは、粒子にされた者が来る世界らしい。  そして、ここに来たものは、ここにある粒子で、なんでも作ることが出来る。 「涼子は、本当に長門さんが好きだね」 「そうよ」 「でも、長門さんのせいで、涼子はここに来たんでしょ?」  ためらいがちに言う彼女の言葉に、私は頷く。 「だけど、長門さんだけのせいじゃないわ。私もいけなかったの」  青がかった粒子で、長門さんの眼を作る。  彼女の眼は、酷く虚ろで、だけど、いつでも私の心を捉えて止まなかった。 「私が勝手なことしたから、長門さんは罰したのよ」 「涼子……」  粒子によって形作られていく長門さん。  しかし、それは、ただの粒の集まりに過ぎない。 「当然の報いだわ」 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:01:40.43 ID:tw9Cfgjx0  ある日、彼女は、黄色がかった粒の集まりを持って、私のところへとやって来た。 「涼子、これあげる」  差し出されるがまま、受け取る。  何故かは分からないけれど、それは汚いもののように思えた。 「何? これ」 「これはね、屁よ」 「屁……?」 「屁っていうのは、すごく汚いものなのよ」  彼女は、自慢げな顔をしてそう言う。 「なんでそんなものを私に……」 「いい? 涼子。それは、長門さんの屁よ」 「……長門さんの?」 「そう。長門さんも、そんな汚い屁をするのよ」  手の中で、うねうねと動く、黄色い粒子。  これが、長門さんのものだと思うと、それだけで愛しく思える。 「ね、涼子、長門さんのこと、嫌いになったでしょ?  もう、長門さんを作ろうなんて思わないでしょ?」 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:08:41.34 ID:tw9Cfgjx0  私は、彼女の眼を見ながら、長門さんの屁を食べた。  粒子に味がする筈もない。だけど、それは美味しく感じられた。 「な、何やってるのよ、涼子……」 「無理よ……」  何故かは分からないけれど、目から水が出てきた。  確か、これの名前は、涙だったと思う。 「あなたがどうしてこれを作ってくれたのかは、分かるわ。  私が長門さんのことを忘れられるように、作ってくれたのよね」  どうしてだろう、涙が溢れて止まらない。 「でも、無理なの。長門さんを忘れることなんて、私には無理なのよ。  だって、消されたのに、私、粒子にされたのに、まだこんなに好きなの。  毎日毎日、粒で長門さんを作っちゃうほど、長門さんのことが好きなのよ」 「じゃあ、私が、毎日、長門さんの屁を作るわ」  彼女の声は震えていた。泣いているのだ。 「私が毎日長門さんの屁を作る。  涼子が、長門さんのこと嫌になるまで、そして、私のことを好きになってくれる日まで」  あれから一年が経った今でも、彼女は、長門さんの屁を象った粒子を私に持ってくる。  けれど、それも今日までだ。 「はい、涼子。長門さんの屁よ」  少し寂しそうに、しかし笑いながらそう言う彼女のことが、私はどうしようもなく愛しく感じていることに気付いたから。                                         (完) 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:17:19.27 ID:tw9Cfgjx0  キョンと何度セックスをしても、繋がったような気がしない。 「ハルヒ……」  キョンは熱っぽい声で、私の名前を呼んでくれるけれど、それを信じることが出来ない。 「キョン……」  もっと、深く繋がりたい。  屁を混ぜ合わせようと思ったのは、そうおかしなことではなかった。  恋人の屁と自分の屁を混ぜ合わせることによって出来た屁の臭いがどんなものなのかを 知りたがるのは、どこの国へ行っても共通だ。 「キョン」 「何だ」 「屁を混ぜるわよ」 「ああ……」  観念したように、キョンが呟いた。  もう、混ぜるしかないのだ。 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:23:16.17 ID:tw9Cfgjx0 「じゃあ、キョン。屁をしなさい」  試験管に屁をするキョン。  私はその屁を逃がさないように蓋をする。 「それじゃあ、私もするわよ」  違う試験管に屁をし、蓋をする。 「本当に、するのか」  馬鹿みたいに真面目な声で、キョンが言う。 「本当に、混ぜ合わせるのか」  そんなの答えは決まってるじゃない。 「そうよ」 「でも……」 「キョン。私ね、信じられないの。何をしても、どんなに近くに居ても、キョンが  もっとほしいって思う。それって普通のことでしょ? 恋人なら、当たり前の  ことでしょ?」 「それはそうだが……でも、屁を混ぜるというのは……」  そう、屁を混ぜるという行為は、法律によって禁止されている。  二人の屁を混ぜ合わせることによって出来た屁の臭いは、その二人の子供の屁の 臭いである、と、世界一受けたい授業で放送されてから、屁を混ぜ合わせる恋人が増 えたのだが、その屁の臭いに絶望したカップルが増えたため、子供を作らなくなり、 少子化問題は益々深刻さを増したのだ。 「大丈夫よ、キョン。私は何があっても、絶対にキョンと別れるつもりはないわ」 「……俺もだ、ハルヒ」 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:29:49.27 ID:tw9Cfgjx0  そして、二つの試験管を蓋を開け、すばやく中の屁をビーカーの中に流し込んだ。 「これが……」 「俺たちの屁の臭いだな……」  二人は、一緒にその臭いを嗅ぎ、そして笑いあった。 「ハルの屁の臭いを嗅ぐ度に、あの時のことを思い出すわ」 「そうだな」 「ぷぅ〜ですぅ」  二人の屁を混ぜ合わせて出来た屁の臭いは、なんともいえないものだった。  しかし、二人は別れなかった。それほど、愛が深かったのだ。  ハルは、今年、十五歳になる。  六十三億分の一、だという難病の常時屁放出病にかかった。  けれど、ハルの顔から、笑みが消えることはない。  何故なら、屁をこく度に、家の中が笑いで満ち溢れるからだ。 「本当に、ハルの屁の臭いを嗅ぐと、懐かしいわね」 「そうだな」 「ぷぅ〜」  屁をこきながら、ハルは思う。  この家に生まれてきて、本当に、良かったと。                                    (完) 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:32:03.06 ID:tw9Cfgjx0 今日、世界で一番「屁」という単語を言ったであろうことに感動しつつ、 このスレから立ち去ります 本当に立ち去ります 保守やら何やら、有難うございました それでは、おやすみなさい