長門有希の救済 1 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 01:00:30.69 ID:kg/iL/6M0 壁。 俺がこの三年間、ひたすら見続けてきた壁。 いくら見続けたところで俺に話しかけてくるなんて、そんなおかしな壁じゃない。 ただの壁。 今もあの時も、俺はただただこの壁を見続けた。 クリスマス、正月、バレンタイン。 世間がいくら騒ごうと俺はただただこの壁を睨み続けた。 大学をやめた俺は何をする訳でもなく、坦々と流れる時間に身を任せた。 この三年間で失ったものは計り知れない。 時間、信頼、そして未来。 すべてを抱え込み、俺は道の途中で立ち止まった。 そして気づいてみれば全く中身のない三年という月日。 新たに進む活力もでない。 三年という膨大な時間が俺の脚に執拗に絡みつき、一歩を踏み出すことを許さない。 そして俺の錆付いた体は、螺旋の切れたブリキ人形の様に動く事をやめた。 2 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:00:48.88 ID:kg/iL/6M0 自らを嫌悪する毎日。 この堕落した自分を嫌い、自分の頭は正常なのだと言い聞かせた。 来る日も来る日も自分を嫌い、自らを汚していく。 このサイクルに深々とはまった時には、すでに俺は他人と会う形を失っていた。 だが次第にそのサイクルは様子を変えた。 汚れた自分を言い訳で固め、肯定し、好きになっていく。 変質した心にブレーキはついていなかった。 勝手に作られる料理。 勝手に洗われる洋服。 勝手に話し合われる将来。 俺はどこかの王でもないし、貴族でもない。 こんなに尽くされる道理はない。 しかしこの状況に甘んじている自分。 俺にはすでに自分がはまった沼の深さを把握するすべはなかった。 3 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:01:10.12 ID:kg/iL/6M0 今日も深夜のコンビニへ向かう。 俺の唯一の外出と言っていいだろう。 黒く染まった俺自身が太陽の下を歩けるはずもない。 俺は何も通らない道の真ん中を歩いた。 黒と静に支配された深夜の道が俺は好きだった。 暗闇の中で一際光を放つコンビニに着いた。 俺からすればこれが太陽代わりの様なものだ。 自動ドアが機械音を立てて開く。 レジにいた店員は何も口に出さず、俺を横目で見た。 俺はその視線から逃れるように、雑誌を手に取る。 今日発売の雑誌。 このコンビニは他のコンビニよりも陳列するのが早い。 俺は他の人よりも早くこの雑誌を読んでいる。 そんなちっぽけな優越感に浸れるほど俺の心は小さくなっていた。 5 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:05:30.71 ID:kg/iL/6M0 「いらっしゃいませー」 バイトの声。 俺にはなかったのに。 怒りを覚える自分がいた。 俺の自尊心は反比例するかの様に肥大していた。 俺は顔を少し横に向け、入ってきた客を見た。 そこに立っていたのは紛れもなく彼女だった。 「お久しぶり。」 彼女は小さく会釈をした。 懐かしの再会。 整った顔。懐かしい眼鏡もかけている。 三年ぶりか。少し大人びて見えるが、形はほとんど変わっていない。 6 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:05:47.18 ID:kg/iL/6M0 「おう、久しぶり。」 俺は雑誌を置き、少し手を挙げ返事をした。 その後、訪れる沈黙。 三年という時間は俺達の間にかなり深い溝を掘っていた。 「少し話せる?」 彼女は俺の顔を伺うように言った。 彼女の瞳は俺の心の奥を探っているようで俺は目を逸らした。 俺は少し考え込み、昔の彼女のように極僅かに首を縦に振った。 7 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:06:07.38 ID:kg/iL/6M0 懐かしの公園。そしてベンチ。 俺達を照らす街灯。 まるで初めて待ち合わせした時の様だ。 懐かしの光景が昨日の出来事の様に鮮明に浮かび上がる。 俺達は何を話すわけでもなく、無言でベンチへと腰掛けた。 「まるで昔の私の様。」 彼女はボソリといった。 俺は突然突拍子な声に驚いた。 言葉の意味も分からない。 だが、少し考えてみて思った。 まさにその通りだ。 俺はただ周りの様子を観察し、成されるがまま。 まるで自分では行動を起こそうとしない。 そんなところを言っているのだろうか。 しかし、まさか彼女に言われるとはな。 俺は少しプッと吹き出し、そして笑った。 小さな公園には俺の滑稽な笑い声だけが響き渡った。 8 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:06:23.87 ID:kg/iL/6M0 笑い終えると俺は彼女に自分の事を話した。 あの事件から三年間。まるで内容のない物語をできるだけ鮮明に。 考え、感想、様子。詰めれる物は全部詰め込んだ。 時間を忘れるほどに話し続けた。 彼女はただ俺の目を見つめながら、その話を聞き続けた。 俺がすべてを吐き出したとき、辺りは少し明るくなっていた。 俺のすべての汚れを聞き終えた彼女は言った。 「私の家に来るといい。」 彼女の口から出たのは同棲の誘いだった。 普通の人間なら即刻断るだろう。 働いていない俺は完全に邪魔者。お荷物だ。 自分を嫌っているのならなお更その重圧に押し殺されるだろう。 だが、俺はその誘いを承諾した。 何を思ったのか知らない。本当におかしくなってしまったのかもしれない。 それでも俺は何か変えたかったんだと思う。 また一歩踏み出せるような、そんな起爆剤になればいいと願った。 9 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:06:40.01 ID:kg/iL/6M0 俺は埃の被った旅行用の鞄を納戸から取り出した。 久しく使っていないその鞄からは楽しい思い出だけが滲み出る。 しかし過去は過去。 俺が求めるのは今日。そして未来だ。 俺は机の上に書きとめを置いてまだ明るい空の下へと一歩踏み出した。 今の俺ならこっちの太陽にも見つけてもらえる気がした。 11 名前:>>10 ありです[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:12:15.46 ID:kg/iL/6M0 「・・・・・・。」 両者しばしの無言が続く。 俺は今女の家に上がりこみ、お茶を啜っているところだ。 図々しいのは百も承知。 せめて面白い話の一つや二つして、楽しませてやりたいのだが、 なんせ俺は三年もあんな生活をしている。 しかもその薄っぺらい生活の事も昨日すべて吐き出した。 俺の口から出てくるのは『えーっと』とか『んー』とかそんなのばかりだ。 「私の話をする。」 彼女は小さく口を開き、自分の三年間を語り始めた。 俺の知らない三年間を。 12 名前:>>10 ありです[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:12:32.16 ID:kg/iL/6M0 俺達5人は同じ大学へと進んだ。 当時は何をするにしても5人が絡んでいた。 この5人ならなんだってできる気がしていた。 俺は5人の"非日常的"を楽しんでいた。 しかし高校から続いたそんな日々もあっけなく終わりを告げる。 ある事件でピースが一つ欠けてしまったのだ。 欠けたピースの存在は大きく、俺達は簡単にバラバラになった。 そして俺達は永遠に完成することのできないパズルとなった。 「聞いてる・・・?」 彼女は不安そうな顔でこちらを見ている。 「聞いてるよ。」 俺は優しくそう返した。 彼女はほっとした顔をして、続きを話し始めた。 彼女の表情。 彼女の内面はこの三年でだいぶ変化があったようだ。 俺はその後も彼女の話を静かに聴き続けた。 13 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 01:12:58.36 ID:kg/iL/6M0 「おいしい?」 彼女は手を両方とも膝に置き、少し覗き込むようにして聞いた。 俺は手のスプーンで彼女の特製カレーを混ぜながら『おいしいよ。』と彼女に言った。 彼女の嬉しそうな顔を見れると俺も嬉しくなってくる。 俺達は少し作りすぎたカレーを時間をかけてすべてたいらげた。 会話も自然と増え、俺はこの三年間で口にしたした量以上の言葉を一日で口にした。 15 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:20:30.11 ID:kg/iL/6M0 翌日、彼女は会社へと向かった。 昨日は緊張と興奮でよく眠れなかったので瞼が重たい。 俺はリビングの床に寝転がり天井を見つめた。 何気なく手を伸ばす。 天井は俺の手の遥か高みにあり、いくら手を伸ばしても届きそうにない。 昨日まで、俺はずっと同じ壁を見続けていた。 壁は囲いと化し、俺はその中に捕まっていた。 しかし俺が自分を捕まえていた囲いに隠れ、身を守っていたのも事実。 今はその柵を抜け出し、簡単には届かない未来へと手を伸ばす。 一応進歩かな。 俺は誰もいないリビングで小さく呟いた。 16 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:20:46.97 ID:kg/iL/6M0 ふと視線を落とすと、襖が開いており、その奥に小さなタンスが置いてあった。 俺の心の真っ黒な何かがざわめき始める。 あの中に・・・。 いつしか俺の中に住み着いた真っ黒な何かは俺の中で大きくなっていた。 その真っ黒な何かは脳内麻薬のような物で、俺の頭から理性というブレーキを取り払う。 今までは壁という鎖で俺を繋いでいた。 だがその鎖を自ら解き放ってしまった今、そいつは俺を欲求へと駆り立てる。 一歩、二歩。俺は獲物を見つけた狼の様に歩み寄った。 そしてタンスに手をかける。 17 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:21:06.94 ID:kg/iL/6M0 俺の目から一滴の雫が零れ落ちた。 訳の分からない涙は俺を正気へと押し戻した。 何やってんだ・・・。 俺はまたも嫌悪感に襲われる。 俺は自らを呪った。自らの愚行を。 俺は包丁を持つと、その冷たく光る切っ先を指先に押し付けた。 流れ出す真っ赤な血。 自分を嫌う事で生きている事を実感する俺にもまだ赤い血は流れていたようだ。 俺は血で赤く染まった指を舐めた。 鉄の味。俺は一生この味を忘れないだろう。 18 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 01:21:24.72 ID:kg/iL/6M0 彼女との生活も少し落ち着いてきた。。 俺は少しずつ仕事を探し、どうにかいくつか候補を見つける事が出来た。 彼女はそれを自分の事のように喜んでくれた。 「明日はお出掛け。」 彼女は言った。二人きり。要するにデートだ。 少し早いお祝いだと思って精一杯楽しもうと思う。 20 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:25:27.69 ID:kg/iL/6M0 人ごみはかなり堪えた。 人が多いことがこんなに辛いなんて、昔の俺には想像もつかないだろう。 それでも俺はこうしてどうにか歩いている。 隣に彼女がいるから。 彼女と歩くのは大学の時以来か。なんかこれも懐かしいな。 自然と笑みがこぼれた。 「あれ。」 彼女は白くて綺麗な指を突き出した。 指の先には『宇宙決戦』といういかにも三流なSF映画の看板。 えっと、なになに。宇宙人vs人間。地球の本当の支配者はどちらだ、っと。 俺は無言で彼女に視線を送った。 「何。」 彼女は少し照れながら顔を背けた。 いやはや、この地球も侵略されなくてよかったよ。 俺達はゆっくりと映画館へ姿を消した。 21 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:25:58.09 ID:kg/iL/6M0 映画を見ている途中、幾度となく俺は彼女の顔を眺めた。 真剣な顔つきで映画を見る彼女。 どんなシーンでもその表情を変える事はない。 そんな俺に気づいたのか、 「どうしたの?」 と彼女は言った。 俺は少し微笑み、何でもないと顔を横に振った。 22 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:26:14.28 ID:kg/iL/6M0 『変なの。』彼女は小さくつぶやき、また顔をスクリーンへと向けた。 映画の内容は予想通りの三流映画で、主人公とヒロインが結ばれるHappy Endのオチがみえみえだった。 主人公とヒロインのキスシーン。 彼女はこのシーンをどのような顔で見るのだろう。 気になった俺はまた彼女の顔を覗く。 彼女はこちらを見ていた。 表情を変えずじっと俺の顔を見つめていた。 俺は彼女の顔が、髪が、唇が。 何もかもが愛しく思えた。 彼女は不意に目を閉じた。 これは彼女の無言の要求だ。 ただ俺は彼女の無言の要求に答えるられる程の男なのか。 頭の中で自問自答を繰り返す。 俺の心の問いの答え、すべてNOだ。 その時、静まりかえった映画館に俺の携帯のバイブ音が響き渡った。 俺は急いで携帯の電源を切る。 彼女は目を開け、また俺の方を見つめた。 俺はただただ一枚の紙に映し出される映像を見ることしかできなかった。 23 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 01:26:32.52 ID:kg/iL/6M0 映画館を出た俺達は人で埋め尽くされた町を並んで歩いた。 目の前から歩いてくるやつらは皆楽しそうで、俺は心の隅の嫉妬をどうにか押さえつけた。 時間はあっというまに過ぎ、空はまた黒い色を取り戻す。 俺はマンション付近まで帰ってきた時、彼女を目の前の公園のベンチへと誘った。 満天の星空が俺達を迎え入れた。 暗闇を好んだ俺からすれば、この明かりもだいぶ眩しい。 彼女は少し目にかかった前髪を横へ流す。 今もこうして彼女と二人、またこのベンチで肩を並べている。 会話は途切れたままで、お互い相手の出方を探っているようだ。 「彼女の事・・・」 この言葉が俺を意識の海へと放り投げた。 25 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:31:21.66 ID:kg/iL/6M0 三年前、俺達は5人で大学に通っていた。 何の変哲もない日々に陰りが刺し始めたのは俺達が三年生になった時。 信じられないかもしれないが、俺達は全員何かしら特別な存在だった。 その中にいた一人。 彼女は宇宙人だった。 しかしその宇宙人は俺達と過ごす事で自らの意思を持ち、彼女は彼女の親玉の考えに背いた。 怒り狂った彼女の親玉は、幾度となく彼女を消そうと色々と策を講じてきた。 それを一つ残らず蹴散らしてきた俺達だったが、その時ばかりは駄目だった。 彼女の親玉を消す事に成功した俺達だが、その代償はあまりに大きかった。 涼宮ハルヒの消滅。 防ぐ事はできなかった。 ハルヒの存在は完全にこの世から消され、ハルヒに関する記憶は俺達以外の人間から抹消された。 俺達は世界の中心を失い、各々目的を失い、そして姿を消していった。 俺はその日から大学に行かなくなった。 部屋から出ることを避け、世間に交わる事を避け、現実を見ることを避けた。 俺達の失ったものの大きさに何度も足が竦んだ。 何度も自殺を考えた俺だが、そんな勇気はなく。 俺の心の臓は止まることなく、何度も何度も打ち続けた。 俺は自分の意思の一つも貫く事ができなかった。 26 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:31:37.50 ID:kg/iL/6M0 ただ彼女だけは大学に通い続けている事を聞いていた。 親玉の消滅で彼女は普通の人間となり、立派に卒業したらしい。 それを聞いたときは少し嬉しかった。純粋に。 しかし彼女は自らに責任を感じているのだろう。 彼女の言葉の意味は、こういうことだ。 「気にしてないよ。」 俺の口は大事な人にも簡単に嘘をつけるようになった。 彼女はどこか申し訳なさそうな顔で誰もいない暗がりを見つめた。 27 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:32:02.23 ID:kg/iL/6M0 「えっと・・・。」 彼女がそう口にした時、俺は彼女の肩を抱き寄せた。 彼女の小さい肩を包むだけの物を俺が持っているとは思わないが、 今の彼女がそれを喜んでくれるなら、なんだってしようと思った。 彼女は肩に入った力を抜き、静かに俺の方へと傾いた。 俺は彼女の頭に手を置き、赤子を撫でるように彼女の頭を撫でた。 俺達はただ真っ直ぐ、俺達の先にあるとても長い道のりを眺め続けた。 時間は待ってはくれない。 すでに日は昇り始め、何人かが俺達の前を通り過ぎていった。 しかし俺達は気にすることなく、互いの体に寄り添い続けた。 彼女が何かを決意した表情でこちらを見た。 「あの―――」 「俺さ。」 俺は彼女の言葉をさえぎった。 次に出る言葉がなんとなく分かってしまったから。 俺はこれから彼女を傷つけるかもしれない。でも言わなきゃ駄目なんだ。 俺は今日まで彼女に甘え続けた。 何も変わっていないじゃないか。 俺は自分で一歩踏み出さなければならない、そんな場所にもう来ているんだ。 俺はもうあの味を味わうのはごめんだ。 彼女に・・・伝えるんだ。 28 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:32:20.26 ID:kg/iL/6M0 「俺さ、決まったよ。仕事。さっき電話あった。」 彼女は一瞬驚いた顔をしたが、その顔はすぐに喜びに満ちた表情となった。 「よかった。本当に。」 彼女は少し涙ぐんでいる。 本当に俺の事を心配してくれている。 「それでさ。明日、俺はお前の家を出るよ。」 彼女は目を大きく広げ、時を止められたように動かなくなった。 「住み込みでさ。だから・・・。」 彼女の頬を大粒の涙が伝う。 喜びの涙なのか、悲しみの涙なのか。 そんなことはどうだっていい。俺は恐らく・・・彼女を傷つけた。 整った顔をくしゃくしゃにし、彼女は泣いた。 俺はただ見ていることしかできなかった。 何人もの人達が俺達を見ながら歩いていく。 泣いている女、それをただ見ているだけの男。 そうだ、俺は最悪だ。いっその事、誰かそう言ってくれ。 彼女は少し落ち着き、少し咳き込みながら言った。 「おかしいよね。喜ぶ事だもんね。」 俺はこの状況の最善の返事を捜した。だが見つかりっこなかった。 「ああ、笑って送り出してくれ。」 汚れた俺の両目からも涙は静かに流れ落ちた。 29 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:32:36.90 ID:kg/iL/6M0 荷物を鞄に詰め込んだ。 少しの間だが、お世話になった部屋に別れを告げる。 今はこの壁も俺を後押ししてくれているような気がする。 最後に彼女に別れを告げた。 「待ってる。」 彼女は少し微笑んだ。目にたくさんの涙を溜めながら。 俺は小さくうなずいた。 俺が次にこのドアを潜るのはもう少し光を浴びてから。 彼女を真っ直ぐ受け止められる、そんな男になってから。 俺は最後に彼女に微笑み返すと、ドアを開け太陽の光を浴びた。 時間、信頼、そして未来。 すべて返ってくるとは思わない。 でも少しだけ現状に抗ってみようと思う。 「さて、行くか。」 俺は大きく一歩踏み出した。 あの時から止まっていた時間が少しずつ進み始めたような気がした。 30 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[sage] 投稿日:2008/12/08(月) 01:32:54.85 ID:kg/iL/6M0          /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\          /::::::::::::::::::::::::::::::\::::::::::::::::::::\::::\         /::::::/:!:::::::::、:::::::::\:::::ヽ:::::::::::ヽ:::::::\_::ヽ       /:::::::/:::l:::::::::::ヽ、:::::::::\:::ヽ::::::::::::ヽ::::::::\゙` .     /:::::::::l:::::lヽ:::::、:::\`ーニ _=ヽVl:::::::::::l:::::::::::::ト._     /::::::::::::lヘ::l 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んーでもデート行かせる予定だったので見つかるのはちょっとまずいかなあとw でも見つかると言うのも全然ありですし、 もう少し長いのを書くのならむしろ見つかって話を深くするのがいいですね。 本当にためになりました。 こんなにアドバイスしてくれる人もいないんで。 ありがとうございます。 そろそろ寝させていただきます。 本当にありがとうございましたー 47 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票[] 投稿日:2008/12/08(月) 02:50:14.71 ID:kg/iL/6M0 本当にありがとうございましたー おやすみなさいー