キョン「ハルヒが死んだ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:02:07.71 ID:pgcmocu3O 彼はたった一言それだけを言い残し、今し方開いたばかりの扉を静かに閉めた。 その向こうに彼の去る足音が響いている。 みくる「……え?」 古泉「……彼は、何と言いましたか?」 あまりと言えばあまりにも急すぎる事態に二人はついて行けていないようで、一度互いを見つめ合った後に困惑した眼差しを私に向けた。 長門「涼宮ハルヒが死んだ、と」 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:07:27.80 ID:pgcmocu3O 二人もそうだがもちろん私も困惑していた。 なぜ彼がそんな嘘をつくのか。 今日は四月一日でもなければお菓子の代わりにイタズラをする日でもない。 涼宮ハルヒになんらかの異常があれば私達が気づかないわけがないし、仮に私達より先に彼がその事態を知ったのだとしてもあれほど冷静でいるはずがない。 彼の目的が、動機がわからない。 だから今、この部室にいる三人は困惑している。 彼がそっと閉めた扉を六つの瞳で凝視したまま。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:14:25.76 ID:pgcmocu3O みくる「……帰りましょうか」 朝比奈みくるが唐突にそう言った。 手に持っていたメイド服をかけ直し、鞄を掴んでそそくさと部室を出て行ってしまった。古泉一樹が制止する間もなく。 古泉「いったいなんなんでしょうか」 古泉「あなたは何かわかりますか?」 長門「涼宮ハルヒも彼も何も異常はない。朝比奈みくるには多少の変化はあった物のそれはあなたと同じ」 古泉「……」 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:24:01.20 ID:pgcmocu3O とにかく本部に連絡してみます、今日はもう帰りましょう、もしかしたら明日は、涼宮さんも彼も何ともない顔でいるかもしれませんよ。 矢継ぎ早にそう言うと彼もまた朝比奈みくると同じように鞄を掴みスタスタと部室から出て行った。 私は私で一人残された責任として戸締まりと電気の確認をしなくては、と鍵を探した。 鍵はなぜかパソコンのキーボードの上にあり、訝しく思いながらもそれに手を伸ばした。 その時、なぜそのキーボードの異変に気づかなかったのか今でも不思議で仕方がない。 いや、もしかしたらそういう風になっていたのか、あるいは異変は後から訪れていたのかもしれない。 いずれにせよ、その日私の頭の中は彼の奇妙な言動のことでいっぱいで、家に帰ってからももんもんとそのことばかりを考えていたのだった。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:34:38.49 ID:pgcmocu3O 翌日 いつもと同じ場所で本を読みながら団員が来るのを待っていると、ガチャリと少々派手な音を立てて扉が開いた。 彼だった。 キョン「……古泉と朝比奈さんは?」 長門「まだ来ていない」 キョン「そうか」 彼はそのままいつもの定位置に着く、のかと思いきや歩みを進めまっすぐ私の隣まで来た。 壁にもたれそのままズルズルとしゃがみ込み、完全に床に座り込んで頭を垂れた。 そしてそのまま、何も言葉を発さない。 キョン「……」 精神は安定していた。とてもとても深く暗いところで。 微動だにしていない様に見えた彼の背は、よくよく見れば僅かに振動しているようだった。 そして微かに、横隔膜を痙攣させたような声をあげている。 泣いている。 そう気づいたのは、彼の嗚咽が徐々に大きくなってきた頃だった。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:43:11.32 ID:pgcmocu3O キョン「長門」 長門「なに」 キョン「長門」 長門「なに」 キョン「……長門」 しゃくりあげながら彼は何度も私の名前を呼んだ。 その度に彼の震えは大きくなって、息が荒くなっていった。 本を膝に置いて彼の髪に触れる。 短くて硬い髪はゴワゴワしていたけれど構わず撫でた。 彼は顔を手で覆ったまま上体を起こし、私の座っている椅子にもたれかかった。 キョン「……長門」 長門「……」 キョン「……ハルヒが死んだ」 長門「昨日も聞いた」 キョン「あぁ、昨日も言った」 徐々に徐々に彼の呼吸は整いだし、徐々に徐々に震えは収まっていった。 キョン「ハルヒが死んだんだ、長門」 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 01:54:22.42 ID:pgcmocu3O 長門「涼宮ハルヒには何ら異常は見られない。古泉一樹、朝比奈みくるも同意見」 キョン「長門」 彼は自分の目を覆っていた両手をそっと離し、赤くなった目で涼宮ハルヒの定位置を見つめた。 キョン「ならなぜあいつはここに来ない。なぜ昨日も今日もここに来ていないんだ」 長門「わからない、けれど彼女は安定していて」 キョン「長門」 彼の頭を撫で続けていた私の手を彼の手が制止した、温かくて大きな掌が私の手の甲を覆い隠している。 キョン「それをハルヒが望んだのだとしたら?」 長門「何を?」 キョン「お前らがハルヒの死に気づかないでいることが、ハルヒの望んだことだとしたら?」 虚ろで光のない瞳が、キーボードを見つめている。 キョン「ハルヒは気づいたんだ、自分のことに」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 02:11:45.08 ID:pgcmocu3O まさか支援されるとは 初SSですが頑張ります でも今日はもう寝ますごめんなさい 続きは残ってたら股明日 49 名前:保守感激です[] 投稿日:2008/11/04(火) 08:40:34.73 ID:pgcmocu3O キョン「先週の、不思議探索」 彼がまっすぐ見つめるキーボードが、どことなく異質な存在感を醸し出し始めた。 彼の言葉、呼吸の音意外なにも聞こえない。 異常な静寂。 古泉一樹、朝比奈みくる なぜ来ない? キョン「おまえと古泉、俺とハルヒと朝比奈さん。ちょっと珍しかったよな」 ぽつりと語る、まるで思い出話のように。 故人を偲ぶかのような。 キョン「ハルヒが言ったんだ。世の中はおかしい」 112 名前:ごめんなさいごめんなさい保守ありがとうございます[] 投稿日:2008/11/04(火) 20:53:14.70 ID:pgcmocu3O 世の中はおかしい。 ねぇ、私の思い通りになりすぎだと思わない? 今だってそうよ、私とキョンとみくるちゃんで不思議探索しつつ新しいコスチュームを探したいなって思ったの。そしたら本当にこの三人でしょ? ねぇみくるちゃん、みくるちゃんってもしかして超能力者? え!?……い、いいえ!何言ってるんですかぁ? じゃあ宇宙人。 違いますよぅ、もうどうしちゃったんですかぁ涼宮さん。 わかった未来人だ。 おいハルヒ。 そうねー、みくるちゃんが未来人なら…宇宙人は有希ね。古泉君は超能力者っぽいし。 ハルヒ!馬鹿なことを 三人で私のこと見張ってるんだったりして。 ハルヒ「みくるちゃん」 朝比奈「……はい?」 ハルヒ「閉鎖空間って何?」 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:01:08.44 ID:pgcmocu3O 長門「なぜ涼宮ハルヒが閉鎖空間のことを」 キョン「古泉が機関と連絡を取っているのを聞いたらしい」 長門「古泉一樹がそんな失態をするわけ」 キョン「ハルヒが知りたいと願った。たぶん意識していないところでな」 古泉一樹、朝比奈みくる なぜ来ない。 長門「話したの?」 キョン「あぁ、話した」 長門「なぜ」 私が死んだら世界はなくなってしまうのね。 あぁ、そうだ。 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:05:37.43 ID:pgcmocu3O 私が暴走しないように見張ってたのね。 そうです。 そう。 今までごめんね。 大変だったでしょ、私に振り回されて。 ごめんね。 もういいわよ。 ハルヒ? 涼宮さん? さぁ、じゃー今日の不思議探索は終わり! じゃあね二人とも! あ、おい! 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:10:41.33 ID:pgcmocu3O 長門「それから」 キョン「それから、日曜になってメールが届いた」 長門「なんて」 彼は制服のポケットから携帯電話を取り出し、少し操作してから私に差し出した。 彼の頭に乗せていた手を離し、代わりに携帯を受け取る。 キョン、昨日はいきなり帰って悪かったわね。 それから今までごめんね。昨日も言ったけど。 ねぇキョン。私あんた達とSOS団やれて楽しかった。なんでも全部私の思い通り。欲しい物はなんでも手に入って何でも出来た。 その代わり、あんたや有希やみくるちゃん古泉君が大変だったのよね。 ごめんね。 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:15:41.16 ID:pgcmocu3O しみったれたようなこと書いてるけど心配すんじゃないわよ、死ぬわけじゃないから。 でも、もうあんた達に迷惑はかけない。 明日から私、消えるわ。世の中から。 涼宮ハルヒという存在を消すの。 あんた達は全部忘れて、元の生活に戻って。 私に振り回されたことなんか全部忘れて。 大丈夫よ。 私が消えても、世界は消えない。 私が願えば叶うんでしょ? だから願うわ。 私が消えた後、世界は平和で あんた達は全部忘れて幸せで こんな異常でおかしな毎日から脱却するように。 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:19:15.81 ID:pgcmocu3O 少しずつ忘れていくわ。 クラスメイトも担任も私の親も、少しずつ私を忘れていくわ。 でもねキョン、あんただけは一番最後。 世界中のみんなが私を忘れるまで、あんたは私を忘れないで。 忘れないでね。 好きよ。キョン。 じゃあね、さよなら。 キョン「すぐに電話した。でも、かからなかった。月曜学校に行くと、ハルヒの席はなくて、谷口も国木田もみんなハルヒのことを忘れてた、そんな奴知らないと言っていた」 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:24:54.03 ID:pgcmocu3O キョン「死ぬわけじゃない、ハルヒはそう書いた。でも全ての人に存在を忘れられてしまうということは、つまり死ぬと一緒じゃないのか?なぁ長門、ハルヒは死んだ。ハルヒが死んだんだ」 世界がかすんでいく。慣れ親しんだ文芸部の部室、初めはなかったはずのパソコンが一台。 古泉一樹、朝比奈みくる 長門「二人は、忘れてしまったの」 キョン「そうだ、だから来ない」 長門「機関は」 キョン「わからない、全部忘れた。そんな事実、なかったんだ」 彼が再び頭を垂れた。外はいつの間にか茜色に染まって、窓ガラス越しにその鮮やかな暖色を部室に映し込んでいる。 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:33:25.13 ID:pgcmocu3O 私は立ち上がり、彼女の定位置に近づいた。彼女のパソコン。そのキーボードに、昨日には気づかなかったある異変が見て取れた。 アルファベットのSが割れて、Oが陥没している。 いつから壊れていたのだろう。昨日だろうか。それよりもっと前からだろうか。 もう誰も触れないであろうそのキーボードが、今はなきSOS団の最後の砦に思えた。 長門「涼宮ハルヒが死んだ」 キョン「あぁ」 長門「死んだのね」 キョン「あぁ」 長門「そう」 書き換えられていく情報。フラッシュバックする記憶。茜色の部室、パソコン。 長門「きっと、平和な世の中が訪れる。誰もが幸せになる。」 忘れていくのだろうか。これが、忘れてしまうということなのか。 長門「彼女が願った。私は信じる」 背後で一人の男子高校生が、再び涙を流し始めた。 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:40:41.77 ID:pgcmocu3O 割れたS、押せないO。 いつも力強くキーを叩いていた。 力強く団を率いて 力強く生きていた。 このSOSの意味を 今はもう、思い出せない。 壁の時計は五時半を指していた。 もう帰ろう、鞄はどこに置いたっけ。 振り返ると見知らぬ男子生徒が、今し方私が座っていた椅子の隣でしゃがみ込んで泣いていた。 長門「……誰?」 男子生徒「……俺か?俺は」 彼は涙の溢れる両目を押さえながら顔を上げて、無理矢理作ったような笑顔を私に向けた。 男子生徒「ただの一般人さ」 涼宮ハルヒの死亡 完 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/04(火) 21:42:59.69 ID:pgcmocu3O というわけで終わりです。 間あきすぎなうえグダングダンで本当にすいませんでした。 こんな自分の初SSを読んでくれた方がいること、スレ保守してくれた方がいることがすごく嬉しかったです。 またいつか機会があったらよろしくお願いします、その時はどうかお手柔らかに。 では、ありがとうございました。 148 名前:完結させておいてあれだけど[] 投稿日:2008/11/04(火) 22:56:17.66 ID:pgcmocu3O 最近、奇妙だ。 特に生活に変わったことはない。私は変わらず一人で過ごし、ほとんど誰とも口をきかず暮らしている。 そう、私はずいぶん前から一人でいたはず。 けれど何かおかしい。 何かあったはずなのだ。 こんな私にも、何かあった気がする。誰かと話した気がする。 考え事をしながら廊下を歩いていると、以前文芸部の部室に突然現れた一人の男子生徒と擦れ違った。 一瞬合った目はあの日のような涙は溢れておらず、隣を歩き友人との談笑に細められていた。 その笑顔が懐かしい。 長門「キョン」 口が勝手に動いた。男子生徒は目を丸くして立ち止まり、私を凝視した。 はっと我に返り、私は走り出した。後ろで彼が呼び止めようとしたのが聞こえたが構わない。 今のはなんだったのか。キョン?彼のこと?私は彼の名前なんか知らない。 にも関わらず、私の脳内には茜色の世界が溢れ出し、手の甲には誰かの温もりがよみがえり、瞼の裏に謎のアルファベットが浮かぶ。 最近、奇妙だ。 (もしかしたら続くかも) 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 10:05:59.19 ID:72KQqVdfO 放課後の日課として、誰もいない文芸部の部室へ行く。 いつもここで本を読んで、夕方になったら帰る。 どうしてそういう習慣が身についたのかはわからない。 今日も変わらず私の定位置に座る。 ここが私の定位置。 ガチャリ 男子生徒「おや」 突然扉が開いた。私は鞄から本を取りだそうとした姿勢のまま視線だけをあげ、予期せぬ来客の存在を確認する。 長門「誰」 男子生徒「あ、いえすいません。足が勝手にというか、気づいたらこの部屋に」 長門「誰と聞いてる」 男子生徒「……古泉一樹です、長門有希さん」 とっさに立ち上がった。長門有希さん、なぜ私の名前を? 古泉「あ……あれ?いえ、その」 明るい廊下に立ちすくんでたった今自分の口をついて出た言葉に混乱している。 彼は私だ、さっきの私。 古泉「……すいません、失礼します」 長門「!待……っ」 女子生徒「!きゃっ」 古泉「わっ!」 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 10:18:07.62 ID:72KQqVdfO 女子生徒「いたたた……」 後ろ足に去ろうとした古泉一樹の背中に何者かが衝突した。 そっと近づいて伺い見ると、髪の長い女子生徒がいた。 古泉「すみません!お怪我はありませんか?」 女子生徒「大丈夫ですぅ…、文芸部の方々ですかぁ?」 古泉「いえ、僕はたまたま……」 長門「あなたも足が勝手に?」 女子生徒「ふぇ?なんのことですかぁ? 私は団活に来たんですよ」 団活。 バチンと頭の中で何か弾かれた。途端に今まで感じたことがないくらいの安堵感に包まれた。 古泉一樹、朝比奈みくる やっと来た。 長門「朝比奈みくる」 朝比奈「ふぇ!?なんで私の名前を知ってるんですかぁ?」 初めて会ったはずなのに、懐かしくて苦しい。 あともう一人、いいや二人。二人くれば、きっとよみがえる。 古泉「団活、とはなんですか?」 朝比奈「え?えーっと……なんなんだろう」 足りないのは誰? 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 13:30:40.67 ID:72KQqVdfO 長門「彼は」 思い浮かぶのは一人の男子生徒。 茜色に染まった壁と、淡い逆光を背負った姿。 無理矢理に作った笑顔。ぐしゃぐしゃの表情。 長門「彼は今も、泣いているかしら」 一人で泣いているかしら。 それとも忘れてしまったかしら。 辛すぎる役目を終えて。 全て見届けて。 今は幸せなのかしら。 それならば 長門「あなたはここに来ては駄目」 古泉一樹、朝比奈みくる その後ろにもう一人懐かしい影。 キョン「なんだよ、俺だけ仲間外れかよ」 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 13:40:44.73 ID:72KQqVdfO 私達はなぜここにいるのだろう。彼女が望んだ?……彼女?彼女とは? 朝比奈「団活っていうのはぁ……SOS団の活動のことです!」 SOS団 バチン 割られたS押せないO。 いつも力強くキーを叩いていた。 力強く団を率いて 力強く生きていた。 そのSOSの意味を 長門「世界を」 今は 古泉「大いに盛り上げるための」 朝比奈「涼宮ハルヒの」 キョン「団」 思い出せる。 その日の記憶は鮮明で色鮮やか、私の隣で泣いていた彼。その前日、彼の突然の発言に反応できない私達。それより以前のこと。不思議探索団活文化祭映画。 私のこと。 長門「……記憶情報復元完了」 朝比奈「ふわぁ〜っ、私未来から来たんでしたねぇ〜!」 古泉「機関!そうか携帯の謎の着信履歴は機関からだったんですね!」 キョン「おいおい騒ぐな騒ぐな、とりあえず入りましょう朝比奈さん」 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 22:51:06.54 ID:72KQqVdfO 彼に背を押され、朝比奈みくるが部室という空間に踏み込む。古泉一樹もそれに続く。 同じように一歩入りかけた彼の前に私は立ちふさがった。 長門「忘れていた方が」 キョン「ん?」 長門「幸せだったのでは」 キョン「……」 長門「特にあなたは」 彼はしばらく揺れる瞳で私の目を見つめ、ふっと微笑を取り繕うと私の頭を一瞬撫で横をすり抜けていった。 振り返った先には、先ほどとは打って変わって賑やかになった部室。 朝比奈みくるは床に落ちていたメイド服を抱えあげはしゃいでいる。 古泉一樹は仕舞われていたボードゲームを発見したようだった。 ほんの数週間、いや数日かもしれない。いずれにせよ忘れていた期間はそれほど長くはなかったはずなのに、酷く懐かしい。 私も彼らにならい、懐かしい情景を作り出すべく 定位置に着いた。 視線をあげると、それぞれがそれぞれの定位置に着いていた。 ここが私の居場所。 250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 22:58:30.87 ID:72KQqVdfO そんなほぼ完璧な状態に戻った空間にも たった一つ欠落があった。 パソコンが置かれたデスク。 本から視線をあげれば必ず目に映ったはずの彼女は、欠席だ。 古泉「……涼宮さんは、どうなったんでしょうか」 朝比奈「キョン君……」 二人の声に、彼は私に話したのと同じように全てを彼らに告げた。 けれどあの日のように、泣いてはいなかった。 涼宮ハルヒ。 今、どうしているのだろうか。 長門「―――……っ!?」 朝比奈「……涼宮さん……」 古泉「しかし、僕達がこうしてSOS団のことや涼宮さんのことを思い出せたという事は、もしかしたら」 キョン「帰ってくるかもって?まぁあいつのことだし、それもありえなくないかもな」 朝比奈「そ……そうですねぇ〜!」 キョン「なぁ、長門」 254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 23:07:17.47 ID:72KQqVdfO 長門「帰ってこない」 キョン「え?」 長門「涼宮ハルヒは死んだ」 古泉「それは……」 長門「違う」 長門「この世界の何処にも、涼宮ハルヒを感じない」 綿のように柔らかく作られていた空気が、凍ったガラスのように冷たく固まった。 小さな希望に細められていた六つの目が、大きく揺れ出した。 キョン「……今、か?」 長門「わからない」 なぜ、記憶が戻ったとき、すぐに彼女のことを考えなかったのだろう。 私はおそらく帰ってきた自分の居場所に浮かれていた。 もしそのせいで、彼女の最後を感じ取ることが出来なかったのだとしたら。 私は 古泉「……僕らが、SOS団や涼宮さんのことを思い出せたのは、彼女が死んでしまったからなのでしょうか」 キョン「古泉!」 古泉「死によって、涼宮さんの影響力が薄れ僕らの記憶が戻ったのだとしたら」 壁が少しずつ暖色に染まっていく。 古泉「魔法が、とけてしまったんですね」 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 23:14:45.94 ID:72KQqVdfO きっともう世界は平和にはならない。 私達は特別幸せになったりしない。 世界は消えてしまうかもしれない。 涼宮ハルヒの死亡とともに 彼女の魔法はとけてしまった。 涙のことも別れも忘れた、あの幸せじみた日々は とけてしまったのだ。 キョン「ハルヒが死んだ」 それはいつかも聞いたセリフで、最初に聞いたときは誰もが理解できなかった。 それが今では、否定することの出来ない状態にある。 彼はまた泣くだろうか。 いや、彼より先に朝比奈みくるが泣くだろう。 古泉一樹も泣くかもしれない。 けれど誰も泣き出したりはせず、ただ黙って俯いていた。 侵入してきた鮮やかな茜色が、彼らの肌を彩る。 白いパソコンのボディをも染め上げ、そのキーボードを際だたせた。 私は立ち上がり、いつかのようにそれに近づいた。相変わらずSは割れていてOは陥没している。 259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 23:23:19.07 ID:72KQqVdfO 朝比奈「……お茶、入れますね!」 最初に声を発したのは朝比奈みくるで、その声色には暗さなど微塵も含まれておらず明るさ一色だった。 その心は激しく揺らいでいるというのに。 古泉「さて、久々にどうですか?今日こそは負けませんよ」 古泉一樹も同様、いつものような笑顔を浮かべている。 キョン「……おまえ、どうするんだ。これから」 古泉「どうするって…どうもしませんよ。これまでどおりです」 朝比奈「私もですぅ」 キョン「でも朝比奈さん……」 朝比奈「卒業するまで、ここで皆さんにお茶を振る舞いたいんです」 彼は少しの間呆然とし、そして力なく笑ったあと私に視線を移した。 キョン「おまえはどうするんだ、長門」 指先だけで、キーボードの使い物にならなくなった部分に触れる。 いつも、力強く 長門「観測を続行する」 キョン「そうか」 茜色に染まった彼の笑顔。古泉一樹、朝比奈みくる。部室の壁もパソコンも全て同じ色。おそらく私自信も。 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 23:28:51.77 ID:72KQqVdfO いつも力強くキーを叩いていた。 力強く団を率いて 力強く生きていた。 そのSOSの意味を 二度と忘れることはない。 SOS団。 その名がこの世に残っている限り 涼宮ハルヒは存在し続けるだろう。 永遠に。 SOS団の生還 完 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/05(水) 23:33:27.32 ID:72KQqVdfO というわけで終わりです、ちょっと微妙だったかな。 まばら投下な上グダングダンSSなのに保守してくれたり期待してるとか言ってくれたり感動したとか言ってくれたり本当嬉しかったです、こっちが感動したわ。 本当は長門がハルヒは死んだって言った辺りで谷口から「そういえば涼宮ってどうしたっけ?転校?」みたいなメールをキョンが受信するはずだったんですがうっかりうっかり。 では、またいつか機会があったらよろしくお願いします。 好きよ。>>all >>1でした。 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[物足りない人へ>all] 投稿日:2008/11/05(水) 23:59:59.64 ID:tt+g1dm/O そうだ、ヤツは死んだのさ。 今まで散々俺らを振り回した揚げ句、自分だけサヨナラ。 なんだってんだ。 そうさ俺にヤツは必要ない。 むしろいなくなって清々した。 いつも思っていたじゃないか。 こんな迷惑なヤツ、いなければ良かった・・・と。 俺は平穏な日々を望んでいたじゃないか。 それが叶ったんだ、悲しむべきではない。 そうさ、俺の願いが叶ったんだ。 俺の願いが・・・叶ったんだ。 可愛い朝比奈さんがいて、無口だがそれなりに可愛い長門がいる。 いつもうすら笑いを浮かべて屁理屈を並び立てるが、一緒にいて楽しい・・・古泉。 「よし、古泉・・・勝負だ!」 「ふふ・・・いいでしょう、大富豪なんてどうです?」 「ああ、なら人数が必要だな。朝比奈さんもどうです?」 「え・・・わたしですかぁ?・・・わたしでよければ。」 ゲームに誘っただけなのに告白した気分だ。 「長門も・・・どうだ?」 「いい」 「そんなこといわずに・・・、4人がちょうどいいんだって」 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[物足りない人(だけ)] 投稿日:2008/11/06(木) 00:05:43.02 ID:eWEUk/edO 「・・・なら。」 「よし!全員揃ったな。」 「・・・そうですね。」 そう、全員・・・SOS団の全員。 「でははじめましょうか。」 古泉が手慣れた動作でカードをきり、配りはじめる。 「じゃあ朝比奈さんが先攻で。」 「えっ・・・いいんですか?」 「時計まわりでいいですよね。」 279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 00:17:14.43 ID:eWEUk/edO 「うわ、また最下位かよ!」 「あそこで3枚だすからですよ。」 「わー、2位になっちゃいました。」 「・・・おもしろい。」 何回も勝負しているうちに、本当にあいつを忘れていた。 だが・・・なんともない一瞬。 それこそ強カードを最後まで残していたのに朝比奈さんが革命したときや、長門が完璧に俺の手札を読んでいるとしか思えないあがり方をしたとき・・・。 あいつの顔が浮かんでくる。 涼宮・・・ハルヒ 驚いたハルヒ 笑ったハルヒ 怒ったハルヒ 泣いたハルヒ 照れたハルヒ あんなやつ、最初からいなかったんだ。 俺が望んだことじゃないか。 何が不満なんだ。 「・・・大丈夫ですか?」 「・・・キョンくん?」 俺の番だ。 だが頭がまわらない。 281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[改行多すぎ] 投稿日:2008/11/06(木) 00:30:38.34 ID:eWEUk/edO 手が動かない。 なぜ? 俺には悲しむ理由なんかない。 そうさ、最初からこの部活には4人しかいなかった。 ならなぜ俺は・・・。 あんなやつ、はじめっからいなかったんだ。 いなかった いなかった いなかった 好きよ。キョン 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 00:35:13.76 ID:eWEUk/edO ・・・。 好きよ・・・? なにが、好きよ・・・だ。 いいか・・・悪いが、言わせてもらうぞ。 言いたいこと言って人の話を聞かない。 他人の意見なんか無視・・・いつだってそう、お前は身勝手な人間だった。 最初っから・・・最後の最後まで。 そんなお前を止めなかった俺も悪かったさ。 なんで引き止めなかったんだろうな? いつでも一緒にいた、俺になら止めることはできたんじゃないか? ・・・もしかしたら。 ・・・もしかしたら、・・・だったのかもな。 だから止めないで、お前の言うことに従ったんだろうな。 あぁ、そうさ俺はハルヒが好きだ! 俺は自分勝手で人の言うことをきかなかったハルヒが大好きだったさ! 泣きじゃくりながらも俺にあたるお前が好きだった。 ポニーテールの似合うお前が好きだった。 照れ隠しに怒るお前が好きだった。 お前がいなくなった途端、頭が真っ白になってお前のことでいっぱいになって・・・何もできなくなるくらい・・・お前のことが・・・ 284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 00:48:01.04 ID:eWEUk/edO 「なにやってんのよ」 ついに幻聴まできこえはじめた。 もうダメかもな・・・ははは。 気付くと俺の顔はびしょびしょだった。 多分とんでもない顔してるんだろうな・・・俺。 ・・・こんなとこハルヒに見られたら笑われるな。 ・・・ 「もう見たわよ。」 ? 「え・・・?」 「涼宮・・・さん?」 「涼宮・・・ハルヒ」 「涼宮さん!」 ・・・ハルヒ・・・だと・・・? 意味がわからなかった。 「まったく、あんたが泣いて同情するヤツなんていないわよ?」 「・・・ハルヒ?」 「キョン、あんたついにボケた?」 「な・・・なんだとっ・・・っ!?」 「ほらハンカチ」 ハンカチなんてどうだっていい。 「お前・・・どこ行ってたんだよ!?」 「は?どこって、家よ。まったく風邪ひいて休んだだけでこのザマだなんて。」 SOS団の名が泣くわ・・・やっぱりわたしがいないと駄目ね、なんてブツブツ呟いている奴は間違いなく・・・ハルヒだ。 288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 01:04:41.82 ID:eWEUk/edO 「風邪・・・?」 「そうよ、あんたみたいに馬鹿じゃないからね。」 風邪・・・ではない、まわりをみわたすと 今にも泣き出してハルヒに飛び付きそうな朝比奈さん。 ウィンクをしてなにかのサインを送る古泉。気持ち悪い。 平然な顔をして散らばったトランプを見つめる長門。 「いやぁ・・・お久しぶりね、心配していたんですよ・・・特に彼は。」 話をあわせろということだろうか。 なにごともなかったように。 なにもなかった。 289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 01:08:46.51 ID:eWEUk/edO 「ハルヒ・・・。」 「なによ。」 いつもの不機嫌な顔。 「もう時間も時間だし、帰っていいか?」 「・・・いいわよ。まったく・・・あいつ何考えてるのかしら・・・連絡しないで休んだだけでこんな時間まで残すなんて。相当暇なのね、教師って。」 ブツブツと愚痴を呟いているハルヒを残し、俺はカバンを回収する。 「あ・・・私もそろそろ・・・。」 カードをきれいに片付けた朝比奈さんが部室を出ていく。。 「僕も久しぶりにバイトがあるので・・・。」 ハルヒが帰ってきたことで再開しなければならないバイトとやらをするために、部室を出ていく古泉。 「・・・。」 長門も何も言わずに部室をでていく。 二人っきりの部室でハルヒは呟いた。 「あんたの願い・・・また叶ったわね」 「・・・ん?なんだって?」 「なんでもないわよ。はやく帰りなさい。」 「・・・あぁ、じゃな。」無言で睨みつけるハルヒ。 すっとハルヒの横を通りすぎる俺。 きっと、俺が願ったからハルヒは・・・もどってきたんだろうな。「この幸せを続けさせてくれ 」 俺は願った。 終わり たてよみとかしない 290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/06(木) 01:13:36.12 ID:eWEUk/edO すまん眠気に勝てなかった