ハルヒ「みんな、今年の体育祭は学年関係なしに出られるんだって!」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 14:38:53.85 ID:lsjaw+9T0  涼宮ハルヒ一人の退屈を紛らわせるためだけに古泉が計画したサプライズ合宿なるものが行われたのも、 灼熱の太陽が地面を焼きまくっていたのも思い起こせば既に過ぎ去りし夏の事であり、今ではそんな夏の太陽も休暇をとっているのか ときたま清々しい風が頬を掠めてゆくそんなこの日はいつの間にかもう九月である。  秋だろうがなんだろうがそんな事は全くと言っていいほど関係なく、どんな時でも意味の分からないことを日々考え続けているにも関わらず どうして退屈するのかは俺のこの平凡な頭をフル回転させて考えてみても結論にたどり着くことは到底不可能なのだが 何よりも「退屈」の二文字が嫌いな女、それが涼宮ハルヒだった。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 14:40:44.32 ID:lsjaw+9T0  その何よりも嫌いな退屈を持て余しちまったハルヒは無自覚にあの忌々しい灰色の異空間を生み出し その中でまたもや無自覚に創り上げた巨大な物体を暴れさせてストレスを解消する、などとまたもや訳のわからん事を自分でも分からないうちにしてしまうというのだから質が悪い。 もし異空間じゃなく現実世界で暴れさせられたらこの世界はどうなるか分かったもんじゃない。  そんな事態を防ぐためにハルヒの退屈を紛らわせる、そしてその退屈を紛らわせるために動くのがどういう訳か俺達なのである。 まったく、そんな役回りなら今すぐにでも御免被りたいものだ。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:42:47.12 ID:lsjaw+9T0  一度転べば一番下までまるでビー玉の様にノンストップで転がり続けてしまいそうなぐらいに急な坂を朝っぱらから登らなくてはいけないのは 俺たちが通っている北高が山の上に位置していることから山の下に家がある俺たちには必然といった訳のわからん定めじみたものを感じつつ、 そんなもんクソ喰らえと心の中で罵りながら山登りを続行している状態である。 一応夏ではなくなったので流石に前ほど暑くはなくなりだいぶ登校しやすくなっているのだがそれでもやはり疲れるものは疲れるし、たとえ暑くはなくとも汗はかく。 しかしこの山登りを始めてからもうすぐ半年になるのか。当初こんな道を毎日毎日歩き続けなきゃならんのかと暗澹たる気分になっていたのだが、そう考えると今になっては大分マシになってきたなと実感する。 やはり日頃の成果といったものだろうか。そんな事をぼんやりと考えている内にいつのまにやら学校の門を通り過ぎていた。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 14:45:19.27 ID:lsjaw+9T0  因みに今日は曇りということで気分も天気に共鳴するかのように何もやる気が起きない現象が俺の身に巻き起こっていた。 やる気が無いときにやりたくないことをするのはどう考えてたってやる気が出るはずも無く、普段の寝不足を解消するべく授業の大半を寝て過ごしたというのは言うまでもない。 この日は珍しく授業中にハルヒが話しかけてくることも無く、ましてや突然襟首を掴んで引きずり回され突然俺に無理難題を押し付けることもなかったので、安心して眠りに身を投じることが出来た。 どうやらハルヒが何かを調べていたようだが俺の知ったことではない。良くない予感がするのは否めないが。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 14:47:16.41 ID:lsjaw+9T0  ともかく時間を有意義に使いすっかり眠気を吹き飛ばし、吹き飛ばし終わった頃にはもう放課後になっていた。 そのまま帰っても良かったのだがここで帰ってしまうと、明日以降に襲い来る誰かさんの怒りを込めまくった視線が後方座席から飛んでくる。 そんな視線を丸一日浴び続ける羽目になるのも遠慮したいので結局は足を運ぶことになる。  まあ、あいつに見つかったら否応なしに強制連行されるんだろうがな 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:48:44.63 ID:lsjaw+9T0  通称「旧館」。ここが色々な部の部室がある校舎である。 もとは普通に教室として使っていたらしいがなにしろ創立から結構な年月が経っているので相当ガタがきている。 という訳かどうかは知った事ではないが新しく建てられたのが今俺達の使っている校舎。とするとこの旧館の役目は無くなったも同然なので空いた教室を部室にしているのだろう。多分。  で、俺は今その旧館の中にあるSOS団なる珍妙な団体の部室とされている部屋に入り、その開いた扉を閉めたところである。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:50:21.96 ID:lsjaw+9T0  我がSOS団なる軍団が寄生の如く棲み付いているこの場所の本来の姿は文芸部室である。 何故こんなわけの分からん軍団が文芸部室に居座っているのか、それは永遠の謎でもあるが こんな連中なんぞに居座られて文芸部員はさぞかし迷惑してるだろうと思いきや案外そうでも無かったりする。 何故なら文芸部の部員がたった一人だったからであって、そこへ狙ったかのようにハルヒが押しかけて行き、いきなり理不尽さ爆発の「部室貸して」の発言に対しての唯一の女子部員のリアクションはどういう訳か「どうぞ」の一言だった。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:52:19.67 ID:lsjaw+9T0  その唯一の部員というのがこの長門有希。 こいつは情報統合思念体によって造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだったか、要約すると宇宙人なのだそうだ。 長門はとにかく無口で会話が続く事が滅多に無い。 今も相変わらず部室の一角に佇む置物と化し、時折動く指とページのめくれる音で存在が確認出来るほどの状態になっている。 まあ、いつもの事だからそれでいいんだ。むしろ活発に動き回る長門は長門らしくないとも思うが、一度は見てみたい気もする。 頁の文をなぞる様に動く黒真珠のような瞳は、覗き込むと吸い込まれそうな感覚に陥る時がある。 その感覚も稀なわけだが。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:54:08.05 ID:lsjaw+9T0  その傍ら、部室にメイドという完全に場違いな衣装を身にまとっているこの麗しき方は朝比奈さんである。 パタパタと走り回る様子はまるで天使がふよふよと浮遊しているかのように思わせる。 しかし、そんな朝比奈さんにも妙なオプション項目がくっついている。 朝比奈さんはこの時間平面よりもっと先の時間から来た、即ち未来人である。 しかし彼女の可愛らしい行動を見ているとそんなものは信じようが信じまいがどうでもよくなってくる。んん……いい。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:55:48.00 ID:lsjaw+9T0 その朝比奈さんはどうすれば美味しくお茶を淹れられるか思考を巡らせていた。 何もそこまで真剣にならなくてもあなたが淹れてくれるものなら何であろうと喜んで飲み干せる自信がありますよ。 考えている様子もこれまた凄く可愛いので良しとしよう。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:57:36.42 ID:lsjaw+9T0  んで、部室に設置されている椅子に腰掛け、長机の上に大量に置いてあるボードゲームを多分いつまでも絶えないスマイル顔でがさがさと漁っている男は古泉である。 二度あることは三度あるもんだ。この古泉にもやはり不思議的パーツがついている。 なんというか、こいつの説明が一番めんどくさい気がするのは俺だけだろうか。 古泉は自称超能力者で、似たような奴が集まった「機関」なる団体に所属している。 この機関、ハルヒの事を神と定義している、なんとも言い難い連中である。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 14:59:12.18 ID:lsjaw+9T0  その古泉は何故かなんてのは分かりはしないが、すこぶる弱いくせに大のボードゲーム好きで、次から次へと色んなゲームを持ってきやがる。 こいつとの試合では負けた記憶は今の所ではない。たまの辛勝も全く無い、完全に圧勝だ。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:00:43.38 ID:lsjaw+9T0 それぞれの団員がそれぞれの事をしている。 そして俺はいつの間にか義務付けられてしまった、ハルヒが造った更新の頻度が極端に少ないサイトの更新を不承不承ながらに任されていた。  しかし、ハルヒ一人が居ないとどうしてこうも静かになるんだろうな。 ハルヒが居ない場所はここまで落ち着けるのかといつも感じてしまう。静かってのはいいもんだ。 さて、そろそろ始めようかとパソコンの電源を入れ、俺は静かに作業に入った。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:02:13.73 ID:lsjaw+9T0  そんななか、その静けさをぶち破るように廊下のほうでどたどたという音が凄い勢いで部室前に近づいてきた。 それは、今日のような蒸し暑い日にはその笑顔を見た人全てが一瞬にして脱水症状を起こしてしまいそうなくらいに眩しい笑顔で部室に飛び込んできた。 その正体は今この部室に居ない唯一の部員、涼宮ハルヒだ。 とりあえずその笑顔をどうにかしてくれ、暑苦しい。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 15:04:08.08 ID:lsjaw+9T0  いつもの事だがハルヒがこんな笑顔で部室に入ってくる時は、九割九分九厘で嫌な方向に猛進するのはほぼ確定。 迷惑するのは俺たちなんだという事はハルヒにとっては、休み時間に飛び交う昨日のテレビ番組の感想ぐらいにどうでもいいことだった。 つまり、気にもしないって事さ。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:06:13.95 ID:lsjaw+9T0 「みんな、ニュースよ! 今年の体育祭は学年関係なしに出られるんだって!」  だから何だ。お前のニュースはいつも突然すぎて訳が分からんことが多い。どうせ今回もSOS団総員で何かしようとかいう腹だろう。 「ちゃんと分かってるじゃない。学年関係なしで出られるんだから、みんなで出場するのよ!SOS団全員で!」  ほら来た。予想通りだ。一体何を言い出すんだろうね、この女は。 最近になってようやく何を言い出すかは予想できるようになった。まあ、予想出来たところで何も変わる事は無いんだが。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:07:34.49 ID:lsjaw+9T0 「少し落ち着け、ハルヒ。何も今から騒ぐ必要もないだろう。まだ体育祭まで一週間以上もあるんだぞ」 「善は急げよ。みくるちゃんは何に出場したいとかある?」  ちなみにみくるちゃんとは朝比奈さんの事である。何故みくるちゃんなのかというと単純に朝比奈さんの名前がみくるだからである。 「えっ? あっ、私は特にありませんけど……。」 「そうねえ、リレーなんかどうかしら? 団結力も試せるしいい機会ね。うん、決定!」  毎度の事だが人の話を聞かん奴だ。どうすればこいつに話を聞かせることが出来るんだろう。誰か教えてくれ。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:10:00.20 ID:lsjaw+9T0 しかし俺達は一言も出るとは言ってないぞ。 「何よ、団長の命令が聞けないっての? 団員兼雑用にはあたしに反論する権利は無いわ」  恐らくその権利は一生待っても俺には与えられないんだろうな。まずお前に対して反論する権利を持ってる奴が居るのかどうかも疑わしい。 「ああそうかい。だが、お前だけの意見で決める訳にはいかんだろう」 「いちいちうるさいわね、わかったわよ。じゃあ…古泉君なんか意見ある?」  恐らく古泉は、ボードゲームの相手が居ないと一人でもボードゲームを開始する法則があるのだろう。 最近は暑さのせいか、相手をしてやる気も起きない。俺という相手が居なくなることによって、先程の法則に則っている最中である。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:12:07.88 ID:lsjaw+9T0  いつもやっているくせに飽きないのか、いつもの本を片手に詰めチェスを満喫してやがる。 唐突に話を振られたにも関わらず、予測していたかの様な反応速度で返答した。 「滅相もございません。僕もちょうど運動をしたいと思っていたところなので、全面的に賛成させていただきますよ」  この猛暑の中、いつもの爽快スマイルを浮かべながら、不可思議な発言をした。 おいおい、賛成だと?いままでの経験からすると今回もロクな事にはならん気がする。 お前もわかってる筈だろうが。  そんな事を視線にのせ、古泉に訴えてる俺に、何か意味ありげな視線を返してきやがった。 解らない。解りたくもない。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:13:36.29 ID:lsjaw+9T0 「じゃあ、有希は?」 「………」  長門は、分厚い本のページから顔を上げようともしない。 これをハルヒは異議無しととったようで、 「じゃあ、決まりね」  ハルヒはこのあと用事があるからといってすたこらと走り去っていった。勝手に決めて勝手に消えていく奴だな。はた迷惑な。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:15:29.47 ID:lsjaw+9T0  深い溜息が一つ、俺の口から落ちた。また一つ悩みが増えちまった。別に悩む必要も無いのだが。 しかし、悩む必要が無いからといって悩むことを止めてしまうとハルヒをどうやったら制御できるできるかがわからなくなる。 因みに悩んで解った試しはない。  そんなことはどうでもいいんだ。 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:17:03.82 ID:lsjaw+9T0 まず、誰が考えたのか、生徒を走り回らせて何の得があるのかが疑問に思われるこのイベントの参加種目をできるだけを削減して参加することを考えるのが先決だ。  誰かこのイベントを辞めさせないか?(前にも言ったと思うが投げやりに言うのがコツだ) 「その必要はないでしょう。たかがリレーですし、そんなに深刻になりますとストレスがたまる一方ですよ」  そのストレスの根源がハルヒなんだけどな。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:18:50.02 ID:lsjaw+9T0 そしてハルヒの事だ、相手走者の全員に足を引っ掛けて独走してもおかしくは無い。 なんにせよ、とんでもないことになりそうな予感がする。 「大丈夫でしょう。今の涼宮さんなら問題ないと思いますよ」  俺からすると今も昔もあまり変わりはないような気がするがな。 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:20:41.27 ID:lsjaw+9T0 「でもぅ……涼宮さん、何か企んでるみたいな気がしましたよ……?」  確かに、このままだとハルヒが朝比奈さんに何かさせようとしてるみたいだな。 ハルヒの事だ。どうせ朝比奈さんにコスプレ衣装か何かを着せて走らせようって事だろう。 「私、また何かしないといけないんでしょうか……」 「その時は俺が何とかしてハルヒを止めてみますよ」  今まで一度もハルヒの毒牙から朝比奈さんを守れてないからな。こんどこそ嘘にならないように心がけよう。 まあ、若干の楽しみもあるのは否定しないが。 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 15:22:06.19 ID:lsjaw+9T0  そうこうしている内に、無言で読書を続けていた長門がポンと本を閉じた。もうそんな時間か。 長門が本を閉じることは活動の終了の合図となっており、その合図を過ぎてまでも学校に居るつもりも無い。 さっさと帰り支度を済ませ、俺は部室を後にした。  しかし今日は何かと疲れた。家に帰ってもう一眠りしよう。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:24:47.47 ID:lsjaw+9T0 皆真剣に読んでるんだろ? 俺は信じてる  とまあ、そんなことがあった。なんの他愛も無い、日常さ。 帰り道、辺りを見渡すと今日一日の太陽の仕事も終わったらしく、昼頃の日差しはおぼろげに残り、空は赤と青の見事なグラデーションに彩られていた。  そして翌日。 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:26:47.57 ID:lsjaw+9T0  物凄いほどの催眠音波と化した教師の話が頭に入る筈も無く、授業が終わる頃にはすっかり睡魔に理性の砦を陥落されていた。 白旗を振って降参の意を示した後、心地よい眠りに身を委ねようとした瞬間、ハルヒが丸めた教科書で俺の頭を必要以上の力で叩き起こしてきやがった。  何しやがる。休み時間くらい寝かせてくれよ。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:28:40.10 ID:lsjaw+9T0 「キョン、喜びなさい。SOS団特製タスキが完成したわよ!」  そうか、そりゃよかったな。 しかしそんな事を言うために俺を起こしたのか。本当にそれだけなら何て奴だ、俺の至福の一時を返せ。 「いつもながら反応が薄いわねえ。ま、別にあんたのリアクションになんか大した期待なんてしてないけど」 「で、他になんか用か」  不意に大欠伸がでた。やはり睡眠時間が足りなかったか。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:30:36.17 ID:lsjaw+9T0 「せめて口ぐらい手で隠しなさいよ、みっともないわね」  珍しい。ハルヒにそんな事を注意されるなんて夢にも思ってなかったぜ。 古泉の言葉が俺の脳裏を掠めていった。こいつもこいつなりに成長してるということだろうか。 「それよりリレーの順番の事なんだけど、あんた一番に走りなさいよね」  別に俺じゃなくてもいいんじゃないか。古泉や長門の方が断然速いと思うが。 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:32:18.19 ID:lsjaw+9T0 「ごちゃごちゃ言ってないであんたが一番に走りなさい」 「わかったよ、順番なんざ好きにすればいいじゃねえか。俺はもう眠いんだ。 お前も聞いてたろ、あの教師達の睡魔を活性化させる呪文を長々と聞いていたせいで俺はほぼ完全に侵食され尽くしちまってる。 という訳だ。俺はもう寝かせてもらう」  俺は、今応戦している睡魔にこれ以上の抵抗は無駄だと悟り、少々強引だが話を打ち切り眠りにつかせてもらうことにした。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:34:02.97 ID:lsjaw+9T0 その言葉を聞いたハルヒは何か妙に冷めた表情になった。 「…何それ、あんたはSOS団の事なんかどうだっていいっていうの? あたしがせっかくあんたのために一番に…。 いいわ、なら勝手にすればいいじゃない」  ハルヒはそう言い捨てて教室を出て行った。一瞬後を追おうかと思ったがハルヒの背中を見ているとどうやら着いていくのは止めたほうがよさそうだった。 ……何か引っかかる。俺のため?俺を一番にする事で何がどう俺のためになるってんだ。 眠い頭を緩やかに回転させ、そんな事を考えていた。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:35:57.95 ID:lsjaw+9T0 「よう、愉快な涼宮ハルヒの仲間たちの中の一人!」  最近は人の安眠妨害が流行っているのか。今度は谷口と国木田がやってきた。 この暑いのに無駄に元気なのが谷口だ。 こいつはたまたま席が近かったという理由から友達になったという、学校生活ではありがちなパターンで出来た友人だ。 いつもはこいつの話も適当に聞き流すくらいはしてやれるのだが、今はそんな余裕など無に等しい。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 15:38:00.50 ID:lsjaw+9T0 「キョン、最近すごく疲れてるね」  一応は心配している様な事を言ってきたのが国木田である。 こいつとは何というか、中学時代からつるんでる、いわば腐れ縁という奴だ。 そりゃそうだろう。あのハルヒと一緒にいるんだぜ。 まともに接していられるのは、古泉と長門くらいしか思いつかん。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:39:44.38 ID:lsjaw+9T0 「そこにお前は含まれねえのかよ、まあどうでもいいけどな。それより、お前にいい知らせがあるんだ」  ほう、いい知らせね。それが本当にいい知らせであってほしいもんだ。 「僕達と一緒に女子と玉入れやらないかい? もうアテはあるんだ」  国木田が指を指した方向には、数人で構成されていた女子のグループがあった。谷口が言うには、ランクBプラス辺りの女子らしい。 こいつらめ、いつの間にそんな誘いが出来るように成長したんだ? 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:41:42.63 ID:lsjaw+9T0 「残念だが、既にハルヒに手によって強制で決められちまったんだ、リレーに出場することにな」 「リレー? ただ走って疲れるだけの面白くもねえ競技じゃねえか、んなのより絶対にこっちのほうがいいと思うぜ、女子と仲良くなる絶好のチャンスでもある」  断る。今更ハルヒに言ったって何も変わりはしないだろうな。 それに、ハルヒにそんなこと言ったら俺が何されるかわかったもんじゃない。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:43:51.82 ID:lsjaw+9T0 「そうかい、ほんっとに変な女が好きなんだな、ほとほと呆れるぜ。ま、気が変われば言えよ、人数が余ってんだ。いつでも入れてやるからな」 「じゃあね。キョン」  いうなり二人は女子の方へ歩み去っていった。 俺の休息の場はないのか。 しかし、ハルヒと関わるとどうしてもこういう変な眼で見られるのか、避けられる道なら避けて通りたい限りだな。  気が付くとすっかり眠気も覚めちまっていた。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:45:35.44 ID:lsjaw+9T0  慣れというか習性というか、いつもやってきたことを突然変えることは難しいらしく、行くアテの無い俺はSOS団部室なる場所へ足を運んでしまう。 平気だとは思うが念のためにドアをノックする。これも習慣だ。 「遅いわよ! さっさと入りなさい!」  中から聞こえてきたのは不機嫌さ全開のハルヒの声だった。 ドアを開けると、まあ見事と言うべきか、団員達は綺麗に指定位置に座っていた。 はっはっは、皆さんお揃いで。まるで今日は何かあると分かってたみたいだな。 ハルヒの席の目の前に位置している俺が何も知らないのはどういう訳だ。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:47:37.93 ID:lsjaw+9T0 「どうして遅れたのか説明しなさい」 「俺はいつも通りに来たんだが」 「言い訳は聞きたくないわ、大事な会議に遅れてきたんだからね。いずれこの埋め合わせはしてもらうわ」  ならばせめて事前に伝えておいてほしいものだ。今日が会議だなんて初耳だ。 「とにかく、今から体育祭のリレーに向けて会議を行うわよ!」  ハルヒは既にやる気満々だ。これはもう止めても無駄だな。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:49:34.55 ID:lsjaw+9T0  この会議で分かったハルヒの考えはこうだ。 このリレーで功績を残し、SOS団の存在を皆に知らしめて団員を増やすためにリレーをするらしい。 現状となるとSOS団の存在をを知らない輩の方が少ない気もするが。 話し合いの結果、というかハルヒが勝手に決めた順番は、一番が俺、二番が朝比奈さん、三番が長門、四番が古泉、そしてアンカーがハルヒ。 たぶん、ハルヒは目立ちたいだけなんだろう。何が理由で俺を一番にしたのか分かりはしない。 この際、余計なことは考えないでおこう。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:51:53.36 ID:lsjaw+9T0 考えると疲れるだけだからな。頭を使うのは授業だけで充分だ。 何にしたって、たかがリレーだ。大した練習もなしでいいだろう。適当に走って体力を付ければいいか。いい機会だしな。  そして、何事もないままこの一週間を過ごした訳ではないのだが、大した事でもないので割愛させていただく。 別に考えるのが面倒とか、そういうわけではない。断じてだ。 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:54:45.60 ID:lsjaw+9T0 ……―――体育祭、当日。 秋とは思えないぐらいの、果てしなく青々しい青空。まさに快晴。 地面を灼くような太陽光を遮断するための雲も、運悪く全て消え去っていた。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 15:56:17.01 ID:lsjaw+9T0 「えー、今日行われる皆さんの体育祭を応援するかのような快晴ですが…―――――…出来る限りの力を出し、正々堂々頑張ってください」  ………どうでもいい校長の話が少し長すぎやしないか。これじゃあ競技が始まる前に暑さでやられちまうぜ。 まず、体育祭の話に自分の孫の話をする必要は無い気がするのは俺だけじゃないはずだ。 それを聞いた俺たちはどうすればいいんだ。  と、暑さ故に出てしまう愚痴はここまでにしよう、そろそろ始まるみたいだ。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:00:11.22 ID:lsjaw+9T0  この体育祭はどこにでもありそうな色分け。つまり、赤と白、それにプラスで青に分けられている。 場所はこの炎天下の最中、お馴染みの北高、校庭で行われる。 勝利条件は対立するチームより多くの得点を取り、最終的に一番多く得点を持っているチームの勝利となる。 何の変哲も無いただの体育祭だ。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:01:47.68 ID:lsjaw+9T0  体育祭の第一種目をアナウンスが告げる。 『第一種目、クラス対抗百メートル走』  しょっぱなからこれかよ。俺が思うにクラス対抗ってのは後のほうへ持っていき、最後で盛り上がるのが普通だろう。 クラス対抗なので俺のクラスも当然参加だが、俺は出場しない。 何故かって? 単純だ、俺は単に疲れないようにしたいからさ。 わざわざ疲れるようなことを好き好んでやるような奴の気が知れん。 谷口たちも走るらしいし、話す相手も居ない。よってすることは限られてくる。因みに言っておくが友達が居ないわけじゃねえぜ。 ……しゃあない、観るか。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:03:23.32 ID:lsjaw+9T0  競技が始まって少ししたころ、次の走者の中に見慣れた顔があった。 あれは……長門か。確かあいつは以前に驚異的なスピードを出したような気がするんだが。 と、始まりの合図とされている銃声がグラウンドに鳴り響いたと同時に走者が一斉に走り出す。 観るまでも無い、どうせ長門が一番だ……等と思っていたがそうでも無いようだ。 さすがに宇宙的パワーを出すのは控えるようになったのか。それはそれでいいのか悪いのかわからんような気もする。  長門の思惑云々は知らんが、隣の――恐らく陸上部だろう――早い奴と接戦になり、惜しくも二位。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:05:24.73 ID:lsjaw+9T0  次の走者にはハルヒも混ざっているらしい。 ハルヒは確かに足は早いのだが何か素っ頓狂な事をしないかが心配だ。 どうやらハルヒは瞬発力も人並み以上に発達しているらしく、銃声と殆ど同じタイミングでスタートした。 何の間違いか、ハルヒは周りと一馬身程差をつけてゴールイン。 何だこいつは。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:07:50.13 ID:lsjaw+9T0  古泉も走るみたいだが相変わらずの暑さを感じさせない爽やかスマイル。観る必要もない。 おっと、朝比奈さんも一緒に走るのか、朝比奈さんも走るならこれは観るしかない。周りを気にせず走ってくれるといいんだが。  朝比奈さんは、さすがに痩けはしなかったものの、やはりというかやっぱり遅い。 しかし観ているだけで頑張っている事が分かる。分かるくらいに真剣だった。 その姿は何とも微笑ましい光景だ、思わず顔が緩んでしまう。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:09:10.88 ID:lsjaw+9T0  いやあ、いいね。と、和んでいたら、走り終わった古泉が呼んでも居ないのにわざわざこっちへ来やがった。 「どうです、僕の走りは」  今日は厄日か。 残念だがお前の走りなんぞ真面目に観ても何にもならんからな。適当に話を合わせておこう。 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:10:45.56 ID:lsjaw+9T0 「別に普通なんじゃないか」 「そうですか? 僕自身では結構良かったほうと思うんですけどね」  知らん。 「それにしても暇そうですね。あなたは、クラス対抗には出場しないんですか?」  いちいちうるさい奴だ、何故こう話を疑問形で訊いてきやがる。 谷口の様に勝手に話してくれれば聞き流せるので助かるんだが。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:13:37.55 ID:lsjaw+9T0 「あなたの事です、恐らく、疲れたくないからとか、そういう類の理由でしょう」  当たっているのが余計に腹が立つ。 「用件はそれだけか」 「いえ、まだ本題があります。少しあなたに言っておかなくてはならないことがありまして」  何のことだ、俺がお前に言われなければいけない事なんて思いつきもしないぞ。 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:15:15.95 ID:lsjaw+9T0 「実はリレーの事なんですが」 「言っておくが、俺は必要以上の力を出す気はないからな」 「話が早くて助かります、本気を出してもらう必要性はあまりありません」  なんだなんだ、どういうことだ。 「それは僕の口からは言えません。言わずともそのうち分かりますよ」 「それはなんだ。俺に何かしろと言ってるようなもんか」 古泉は含み笑いを返答として、この場を去っていった。 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:17:16.89 ID:lsjaw+9T0  どうやらこの競技には鶴屋さんも出てるみたいだな。 俺は、鶴屋さんの足は早いと推測していたが、それ以上に早かった。流石鶴屋さん。運動神経も良い方なんだろうな。  この後もまだまだ走者は居るらしい。結構な列が並んでやがる。……俺が観ないといかん奴等はもう全員出揃ったかな。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:18:43.99 ID:lsjaw+9T0  次の競技は何かを確認するため事前に配布された体育祭プログラムを開こうと思ったが、よくよく考えるとそんなものを持ってきた覚えは無い。 いくら自分の体を叩いたりまさぐっても出てくる筈も無いので、さあどうしたもんかと考えていると谷口がプログラムを持ってのこのこと戻ってきやがった。 いいところに来たもんだ。 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:20:11.11 ID:lsjaw+9T0 『第四種目、学年別玉入れ競争』 これか、谷口が言ってた玉入れは。入場中の選手を見てる限りでは俺の好みやらタイプやら見てるだけで癒されるような奴は皆無。 観戦しても全く持って面白くは無さそうだったのだが、なにしろやることが無い。となるとやはり観戦するしか他に道はないらしい。  さっきも言ったが友達が居ない訳じゃないぞ。 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:22:01.29 ID:lsjaw+9T0  始まって数分経ったのだが一体どうしたことか。谷口チームは殆ど玉が入っていない。 原因は一目瞭然だ。あいつら、ロクに玉を投げちゃいねぇ。 奴等、特に谷口の目線を辿るとそれは籠でも玉でもなく、同じチームの女子だ。駄目だなこりゃ。 んで、結果報告で当然の如く谷口と国木田率いるうちのチームは敗北した。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:24:32.74 ID:lsjaw+9T0  どうせやるならせめてまともに競技に参加しろよと言いたくなる。 が、競技に一つしか参加していない俺からすれば二つ以上競技に参加しているあいつらの方が意欲は感じられる。 俺が言えた立場ではないので口には出さずに心中でそう思っていた。  さて、そろそろ観戦も随分飽きていて何をしようかとうんうん唸りつつ考えていると素晴らしい名案が浮かんだ。 どうせリレーは最後なんだ、やることが無いなら寝りゃいいじゃねぇか。 これなら時間つぶしになるし体力も温存できる。 我ながらいい考えだ。そこらへんをフラフラしている谷口辺りをとっ捕まえて出番が来たら起こすように頼んでおこう。 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:26:25.46 ID:lsjaw+9T0 「おいこら、キョン。さっさと起きろ、いつまで寝てやがる。お前は」  ……何だ?…谷口か。今は何時だ? 「いつまでも寝ぼけてんじゃねえよ。起こせって言ったのはお前だろ。ったく、なんでもかんでも俺に言いやがって。俺は雑用係かっつーの」 谷口は文句を垂れ流しながらこの場を後にした。  そういえばそうだったな。 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:28:38.52 ID:lsjaw+9T0  俺は、参加するリレーの召集場に移動中、またもやハルヒが予想も出来ない事をしでかしていた。 いや、予想が出来なかった訳ではないのだが寝ていたので予想すらしていなかった。 「あのう……この格好で走るんですか?」 「そうよ、みくるちゃんはSOS団のマスコットキャラなんだもの、これほどの宣伝価値はないわ!」  こういう時だけ物凄くいい笑顔をする奴である。 そんな笑顔のハルヒは確実に何かしでかそうとしているのは説明するまでも無く、今の朝比奈さんの格好を見てもハルヒの思考が解らない奴はよっぽどで無い限り居ない。 つまり誰でも解るというものだ。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:29:37.71 ID:lsjaw+9T0 「おい、待てよハルヒ。朝比奈さんが困ってるじゃないか」  ハルヒの思考が読めていながら放っておくほど俺は人間できていないわけではないので、静止の意味を込めてハルヒの首根っこを掴んだ。 それに今、朝比奈さんの着ている服はいつかの日に着たバニーガールの格好ではないか。 そういやこの格好を見るのも随分久方ぶりである。 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:31:07.95 ID:lsjaw+9T0  こんな格好で走らせるつもりか。 この姿で走ると観客やら走者やらから卒倒しそうになる生徒が続出するだろうな。 「いいじゃない、この姿のみくるちゃんを見てSOS団に入りたいって奴がいっぱいでてくるわよ」  もし出てきたとしてもそれは朝比奈さん目当てであり、このSOS団自体に入りたいって輩は万に一つも有り得ない。 しかし、朝比奈さんの扮装をよく見てみると、バニー以外にオプションがちょこちょことくっついている。 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:33:56.03 ID:lsjaw+9T0  まずは、手に持っている木製の宣伝看板。 その看板には、『SOS団をよろしく!興味を持った人は部室に来なさい!』などという宣伝には程遠い文字が書いてあった。 次に、肩にかかっている例の特製たすき。因みにこれにも『SOS団をよろしく!』と書かれていた。 何がしたいのだろうと、俺は頭を悩ませつつも頼りになりそうな奴を探して回りを見渡した。 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:37:02.04 ID:lsjaw+9T0 見渡した先には既に召集場所に来て、傍観状態の長門。誰かと何かを話している古泉がいた。 頼れそうなのは長門なのだが、恐らく無言を突き通すだろう。 古泉は……常時スマイルイエスマンと化するだろうから使えなさそうだ。  ここは俺一人で乗りきるしかないのか。朝比奈さんに言った言葉もできる限り嘘にしたくは無いしな。 ここで俺は朝比奈さんを華麗に救い出しハルヒの魔の手から守るのだ。 そう、それはまるで魔王にさらわれた姫を助ける勇者のようにだ。 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:38:29.41 ID:lsjaw+9T0 が、しかし、世界はそう甘くなかった。普通はそうそう上手くいかないもんだ。 時間という勝てない相手のせいで俺の言動は綺麗さっぱり見事になかったことになっていた。  そして、結局何の解決にもなっていないまま俺はスタート位置に着く。 もちろんハルヒ制作のたすきを肩にかけてな。 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:40:32.00 ID:lsjaw+9T0  当然このたすきにも『SOS団をよろしく!』という文字が印刷されている。 空気が張り詰める感じがする――気がする。以外に緊張するもんだな、こういうのって。 そういや俺が出る種目はこれが始めてなんだよな。 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:41:56.32 ID:lsjaw+9T0 ……そんなことを考えているのが悪かった。 周りが一斉に走り出している。くそっ、やっちまった。 俺はスタートに遅れながらも走った。 耐久力はそこまでだが、多少なり足には自信があるのでせめて三位までには入りたいもんだ。 隣の奴は恐らく陸上部だろう、他の奴等に比べて早いほうだ。 いかんせん相手が悪すぎる。必死で走っても抜くことは困難だ。 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:44:28.92 ID:lsjaw+9T0  努力の結果ニ位になり、朝比奈さんにバトンパス。 「頼みますっ!」 「ふぇっ?あ、はいっ!」  朝比奈さんは、いかにも頼りない返事を返してからぱたぱたと走り出した。 息を荒げながら、朝比奈さんの方を見た。 朝比奈さんがいつの間に体操着に戻っていた。教師達に見つかったんだろうな。 だがこのわずかな時間で着替えられたとは到底思えない。 もしかして、あの体操着の下はバニーのまま……。 ええい、何を考えているんだ俺は。 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:46:31.93 ID:lsjaw+9T0 それにしても、朝比奈さんの体操着ってのも新鮮な感じがしていいもんだな。  体操着になったのはいい。しかしまだ看板とたすきは外すわけにはいかないらしい。何故だろう。 とりあえず朝比奈さんは躓きはしなかったものの、手に看板を持っているせいだろうな、通常よりすごく遅い。 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:47:36.82 ID:lsjaw+9T0 「こらー!みくるちゃん遅いー!」  無茶言うなよ、あんなの持って早く走れるほうが凄いぞ。 案の定最下位になっちまったがそんなもんは後の三人でどうとでもしてくれるだろう。  そして、長門にバトンパス。 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:48:54.13 ID:lsjaw+9T0 「すっ、すいませ…」 「いい」  淡々とした口調でバトンを受け取る。 こいつはさっきの走りを見ている限りでは人並みの速さだったからいいとは思うのだが。 よくよく見てみると長門の走った後には砂煙が軽く舞っている。まるでアニメだな。 ……っておい、長門さん。その速さは明らかに高校生の速さを超えてます。 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:50:35.93 ID:lsjaw+9T0 「いいわよ有希ー! どんどん抜きなさい!」  何事にも不審がらずに受け止められるハルヒの性格が羨ましく思えた。 ハルヒ以外の群集は唖然呆然しており、それもまた仕方のないことだが、何はともあれ二位になった。 もう溜め息しか出ない。 そして、古泉にバトンパス。 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:51:48.07 ID:lsjaw+9T0 「………」 「まあ、任せてください」  お前に任せるとロクでもないことになりそうな気がするから正直のところ任せたくない。 だが今のところそんな文句を言っていられる余裕も無く、仕方がないので黙っていることにした。 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:54:54.77 ID:lsjaw+9T0 「古泉く〜ん、そんなやつ抜いちゃいなさ〜い!」  古泉は以外に足が早く相当な追い上げを見せた、だが前の走者の後ろに着いたぴったり付いていく感じで二位のままハルヒにバトンパス。 走り終わった古泉は口から覗く歯でも光そうな笑顔でこっちに歩み寄ってきた。 「すみません、相手との距離があまりにもあったもので、距離を縮めるのに精一杯でしたよ」 「そうか、そりゃよかった」 それを俺に言って何になる。俺への当て付けかこのやろう。 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:58:21.72 ID:lsjaw+9T0  結局ハルヒは、一位と終始激しい攻防戦を演じていたわけだが僅かに相手の方が早く、惜敗で二位。 最後のリレーの得点が決めてとなり、俺たちが所属する色チームは二位。 そして、北高の体育祭は白熱したリレーの余韻が消える間もなく終わりを迎えた。 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 16:59:52.38 ID:lsjaw+9T0  翌日、部室で反省会が行われた。なんの反省をするかなんてのは言うまでもない。 始まって早々にけたたましい音が部室に響いた。ハルヒが団長机を壊してしまわんばかりの勢いで机を殴った音だ。 「悔しいわ、何であそこで一位になれなかったのよ、SOS団に負けは有り得ないのに!」  ハルヒはかなりご立腹のようだ。別にただのお遊び企画なんだからそこまで怒る必要もないだろうに。 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:01:03.66 ID:lsjaw+9T0 「そんな甘い考えだから負けるのよ! どんな事でも真剣以上の心構えで取り組まないと勝てるもんも勝てないわよ!」  俺はいたって真剣だったつもりだが。 「みくるちゃんに看板を持たせたのが悪かったのかしら」  今更気付いたのか。あんなものを持たせて早く走れるとでも思ってたのかね、こいつは。 「確かに無いより遅くなるとは思ってたわよ。それでも一人一人よくやってくれたと思うわ、だけど納得がいかないのよ」  意味が分からん。 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:02:14.29 ID:lsjaw+9T0  どう説明してやれば気が済むんだか。 朝比奈さんはずっと俯いてるし長門はいつもの無表情。 古泉までが無言になっている、ただ表情はいつものまま。 たまに俺に向かって目配せをしているようだが、俺にアクションを起こせとでも訴えてるのか。 真似して目線で聞き返してみると古泉は笑顔のまま頷いた。 アイコンタクトが出来るのはいい事なんだろうが、これからはあまりやらない事にしておこう。 よりにもよって古泉とだと? 気色悪い。 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:03:31.89 ID:lsjaw+9T0 「もういいわ」  そうハルヒは言い放ち、おもむろに自分の鞄を引っつかみ、荒々しく部室を出て行った。  ハルヒが出ていった部室内には、しばしの沈黙が続いた。 朝比奈さんは何か言おうとしているのか、口をパクパクさせているがその内閉じて俯いてしまった。 古泉は両手を広げお手上げのポーズ、長門は既に帰り支度を始めている。  まったく、どうしたものかな。 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:04:41.49 ID:lsjaw+9T0  今日は色々疲れたからとっとと帰ろうと早歩きで歩いていると、上の空状態のハルヒが道の真ん中で突っ立っていた。 何をしているんだ、こいつは。少し近づいてみても何も反応がない。 ただそのまま通り過ぎていくのも、なんかな。  このまま一緒に黙って突っ立ってても終わりもなければ始まりさえしないので行動に出る。 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:05:57.15 ID:lsjaw+9T0 「おいハルヒ、こんな道のど真ん中で何してんだ」  反応はない、よく見ると目の色彩が欠落している。おーい、聞こえてるのか。 「……あ、キョン……何よ」  次第にハルヒの目に色が戻っていく。ようやく俺の存在に気が付いたらしい。 「いや、何してたのか気になっただけだ」 「別に」  おいおい、別にってこたあないだろうよ。 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:07:13.97 ID:lsjaw+9T0 「……今日の敗因を考えてただけよ」 「まだ気にしてるのか、もういいじゃねえか、終わった事だ」  途端、ハルヒが一気に不機嫌顔になった。 「終わった事だから、何? 終わったからもうどうでもいいって訳?」 いや、そういう事じゃなくてだな。 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:09:11.11 ID:lsjaw+9T0 「こんなの絶対に許せないわ、SOS団は常に頂点に立ち続けなければならないのよ。それなのにこの結果。どういうことよ」  まずったな、地雷を踏んだか。ハルヒの不機嫌さが反省会並みに戻ってきた。 毎度の事だがそんなにキツい目で睨むなよ。 「ハルヒ」 「何よ」 「わかっているとは思うが、反省会のとき言ったよな? みんな一人一人頑張ってる。 お前も朝比奈さんの走りを見てたろ、朝比奈さんだけじゃない、俺もお前も、古泉も長門だって皆頑張ってんだ。 精一杯の努力をしたさ。それは相手にだって言えることだ。 相手チームにも反則的な速さの奴やびっくりするぐらい遅い奴もいただろう、それでも皆精一杯頑張ってる」 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:11:33.78 ID:lsjaw+9T0 「だからなんなのよ」  そのうち何が飛んでくるだろう。鉄拳か、豪速の蹴りか、はたまた転がってた石か。早めに切り上げたほうが無難に思えてきた。 「精一杯頑張った努力の結果がこれだ。 確かに一位の方が魅力的かもしれんが、俺はSOS団全員で頑張って勝ち取った二位で不満はない。 むしろ俺はこの二位に誇りを持てる。結局こんなもんは結果なんかじゃないんだ。 結果を出すために全員で頑張ってきて、更に団結力が深まったとは思わないか。 それが一番の結果じゃないか、順位なんか関係ないだろ?」  我ながら何が言いたいのか分からなくなってきた。  さぁ覚悟は出来た何でも来い。今ならどんなものでも甘んじて受け入れてやろうじゃねえか。 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:13:08.64 ID:lsjaw+9T0 「ん………」  言い終わったと同時にハルヒの顔が薄く曇った。何だ、俺はてっきり 「うっさいわよあんた何様?あんたの意見なんか聞いてないわよバカ」と言われ 更に蹴りやらなんやらが飛んできそうな気もしてたのだが。 「そう…だけど、あんたは…それでいいわけ?」  おっと、聞き返されるのは予想外だった。しかし何がだ。 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:15:55.97 ID:lsjaw+9T0 「精一杯努力したからこそよ、いままでの努力だけじゃ足りなかったっていうの?」  顔が、暗い。思いつめたというか。とにかく重い。 いや、そもそも俺たちが練習を始めたのが遅くてだな。 「どれだけ遅くたって私たちはその中でも最高の努力を積み重ねたはずよ。別にあたしだって努力が必ず報われるなんて思ってないわ。それでも……」  珍しくハルヒが言葉を詰まらせた。 しばらく考え込む風を見せている。言いたい事はわからんでもないが……。 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:18:38.96 ID:lsjaw+9T0 落胆している、と思いきや薄い笑いを浮かべた。忙しい奴だ。 ハルヒは夕方の空を仰いだ。 「難しく考えるの、やめるわ。考えてたって多分結論も出ないしね」  ハルヒは二、三歩歩いて振り向き、俺と向かい合った。 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:19:53.02 ID:lsjaw+9T0 「さっきあんた、言ったわよね」 「何のことだ」 「練習するのが遅すぎたって」  言った気がしないでもない。 「考え方をポジティブに切り変えることにしたわ。あれだけやって二位じゃなくて、あれだけしかやってないのに二位だって」 「という事は、よ」  顔がぶつかりそうなくらいに近づいてくる。こいつ、いつの間にか溌溂とした表情を取り戻してやがる。 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:22:14.59 ID:lsjaw+9T0 「もっと早くから練習を始めれば一位なんて目じゃ無かったって事じゃない」 さっきまでの様子が嘘みたいに消えている。ただ元気すぎず、見るものも自然に微笑んでしまうような表情。 「これは惜しい事をしたわね。これからはもう少し情報収集の時期を早めようかしら……」  ハルヒはもうすっかりいつもの調子に戻り、今後の方針などを一人ぶつぶつと呟いている。 そんなハルヒの明るい様子とは逆にもう辺りは薄暗くなってきていた。 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:23:47.70 ID:lsjaw+9T0 「あーあ、今日は何か疲れたわねえ。こんな時はキョンの奢りで、一杯やるわよ!」  ちょっと待て、何故そうなる。ここしばらくお前に振り回されてた上に奢れだと? 馬鹿も休み休みいえ。 「これはこの前会議に遅れた時の埋め合わせよ? 文句なんて言わせないわ」  前言撤回。やっぱりいつもと全く変わらない。 しかし残念だが、今は金にそこまで余裕がない。どうだ参ったか。 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:25:33.99 ID:lsjaw+9T0 「仕方ないわねえ、じゃあ割り勘ね? それじゃいつもの喫茶店にレッツゴー!」  ハルヒは嬉々とした表情で駆けていった。うむ、完全にいつものハルヒだ。 駆けていくハルヒの背中をぼんやりと眺める。 皮肉だが、やはりハルヒはこうでないと俺の調子まで狂っちまう。 「キョーン! 何してんの、早く来なさい!」 やれやれ。一時はどうなるもんかと思ったが、どうやら俺の財布が被害を受けた以外は全部丸く収まったらしいな。 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:26:34.85 ID:lsjaw+9T0 …そして、数日後のとある放課後。 ハルヒが情報収集だので早くに飛び出していき、残ったのは長門、古泉、そして俺。 朝比奈さんはハルヒに連行されているのでここには居ない。居ても変わらないけど。 「古泉、体育祭の件についてちょっと聞きたいことがある」 「伺いましょう」  いつもの笑顔で爽やかに返される。お前は早く高校を出て営業マンにでもなるといい。その笑顔は営業スマイルそのものだ。 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 17:28:51.85 ID:lsjaw+9T0 「あのリレーの時、お前は本気を出してなかったな」 「おや、何故そう思いますか?」 「お前は途中完全に失速した、しかもどうみても意図的にだ。ありゃなんでだ」 古泉は大袈裟に驚いて見せた。 「なるほど、あなたは僕の順など気にもしていないと踏んでいましたが。どうやらそれは間違いだったようですね」  古泉がにこやかにそう告げる。 仮にも自分が参加する競技だ、流石の俺でもそりゃ見るぞ。他意はない、何にだって誓ってやる。 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:12:54.95 ID:lsjaw+9T0 規制なんかくらった事無かったからちょっと焦ってた。これからは気をつけよう もう終わるけど再開しま 「そのことについては長門さんとの談議の結果、あえてそうさせてもらいました」  なんでそんなことを。そのままストレートに勝っちまった方がハルヒが不機嫌にならなくてすんだと思うんだが。 「色々な事情があるが、今回の目的の根底は涼宮ハルヒを成長させるため。そのためには必要な事だった」  一体なんだってんだ、俺だけ蚊帳の外だぜ。 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:15:45.70 ID:lsjaw+9T0 「要するに、涼宮さんを大人にさせる為ですよ。この先、彼女自身に大人になってもらわないとあらゆる場面で何かと困りますから」 先日のハルヒの表情が思い出される。あの吹っ切れた様な表情は成長した証ってことなのか。  そこで軽く疑念が首をもたげる。 「だとしたら反省会の時、ハルヒの機嫌が悪かったよな。そのあとの閉鎖空間やらなんやらの心配はなかったのか?」  普段なら長門はともかく、古泉は絶対にハルヒが不快になるような真似はしない。 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:17:17.49 ID:lsjaw+9T0 「あの時の涼宮さんは既に少し成長していた、という事ですね。 今までならば、小規模の閉鎖空間が二つ以上、あるいは中規模の閉鎖空間を一つは生み出していたと思われます。 ですが今回は何一つとして生み出さず、超常現象も起こしていません。これは涼宮さんがその結果を受け入れた、という事に繋がります。」  何も出さなければ受け入れた、何か出ればどこか不満がある。ハルヒ、お前の感情はどうやら大体の事は簡単に把握できるらしい。 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:19:16.63 ID:lsjaw+9T0 「僕も正直驚いているんですよ。 小規模な空間が一つくらいは出現すると思っていたのですが、たった一つも出ないものですから。 それは彼女が著しく成長したとも言えるでしょう。」  その計画というのか、それには俺がハルヒにアクションを起こす事も含まれていたっていうのか? 「その通りです。あなたにこの事を話さなかったのは、これがメインとなる行為だからです。 もし事前に手順を話していたとすれば、結果は少なからず左右されたはずです。話さなかった事は悪かったんですが、あなたが一番の大任だったので」 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:21:53.62 ID:lsjaw+9T0 利用された、とは思わんが計画の事くらいは教えて欲しかったぜ。 もし知っていたなら、あの反省会の時に息苦しくなくてよかったのに。 しかし大任だからこそ、か。そう思うと知らなくて良かったかも知れんな。 それにしても……あの長門の異常な走りはなんだ? 一般大衆が見たら愕然ものだぞ。 「あれは朝比奈みくるの走行時の速度が予想以上に深刻だったため、その場で計算を組み立て直したせい。どうしようもなかった」 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:23:38.26 ID:lsjaw+9T0 「そういうことです、朝比奈さんの遅さをカバーするための緊急の措置でした。 少しばかり不審がられても仕方ない事です。最悪、長門さんに頼めば不審がった人間の記憶を操作することも可能ですし」  こらこら、流石にそれはいかんだろう。 古泉は小気味良く笑い冗談ですよ、と断った。 当たり前だ、冗談じゃなかったら俺の怒りの鉄拳が炸裂するぜ。 「それでは僕達はこの辺で」  そういって古泉と長門は部室をあとにした。残ったのは俺一人。 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:25:14.69 ID:lsjaw+9T0 ここでまたもや疑問が頭をよぎる。 長門や朝比奈さん、古泉――古泉が言うには俺もらしいが――はハルヒに望まれたからこそここに居る。 世界はハルヒの望む通りに回ってる。あいつが持っている一般常識を加味しての望みだが。 だがもし、体育祭での事象までをも望む通りにしたというなら。 この体育祭の二位も反省会の帰りの出来事も、長門と古泉の計画でさえも。 ハルヒ、お前が望んだ事なのか。その意味するところは一体何なんだ。 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:29:49.43 ID:lsjaw+9T0 ……深く考えるのはよそう。 俺は俺、それ以外の何者でもない。 超人三人組が身近に居る事は普通ではないが、それを除けば俺は至って普通の高校生なんだ。 そんな事を考えている時でも暗い気分でも嫌な気持ちでもない。むしろすっきりと、心地いいくらいだ。 それはハルヒが望んだのか俺の意思なのか、どちらにしろ俺の言いたい事をちゃんと理解してもらえたからなのかもな。 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/31(日) 18:37:37.46 ID:lsjaw+9T0 後日。 本当に今は秋かと思うような暑さの中、部室でお茶をすすりながらぼんやりとしている。 体育祭も終わり、のんびりとした日常が戻ってきている。 部室の中もいつもの通り、団員がそれぞれの事をしている。  突然、パソコンに向かっていたハルヒがいきなり立ち上がって吠えた。 「そうだわ! ハロウィンよ!」  断っておくが今はまだもみじも色づく前の正真正銘の九月。 いくらなんでも早すぎるだろ。 「遅くて取り返しのつかなくなる事はあるけど逆は殆ど無いわ! だから今からハロウィンの準備をするわよ!」  前回のように遅すぎてバタバタすることは無くなっただろうが、変わりに俺たちが走り回る時期が早まることになったか。 なんというか、ハルヒらしいなとしみじみ思う。 団員も顔に苦笑を浮かべている。ただ一人、長門を除いては。 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/31(日) 18:45:38.61 ID:Nmu3ywPEO 「手始めにカボチャね。他にはロウソクとか要るかしら」  ハルヒはハロウィンに必要な道具を指折り数えていた。  古泉、これは成長しているのか? 「これでいいのでしょう。これも涼宮さんです」  確かにな、今までと殆ど変わりないだけだ。 冷たい風が顔を掠める。 秋は始まったばかり、まだまだこれからだ。 「ほら皆! ぼーっとしてないで材料を集めに行くわよ!」                                        尾張