キョン「ッ……仕方がない、変身ッ!」 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 20:56:31.83 ID:6gByBr2m0 「ば、化け物……!」  ───ああ、やっぱりね。  お前ならそう言うだろうと思ったよ、ハルヒ。  なんだかんだで常識人なお前は、  こんな姿の生き物が存在することを認めるはずがないってわかってた。 「……はは、ひどいな」  おっと、思わず声が漏れちまった。  多分、この声を聞いてさらに怯えてるんだろうな、お前は。  俺に振り返るなんてことをする勇気があるはずもなく。  ただその場から逃げ出した。  どこをだって?  そりゃもちろん屋根の上さ。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:02:54.19 ID:6gByBr2m0  prrrr!prrrr!  電話。  多分、そろそろかかってくるだろうと思ってたよ。  着信画面を見ると、予想通りの人物の名前が表示されていた。  ……もしもし。 「あの姿について説明を」  おいおい、ちょっとはこんばんは〜、とか、元気〜とか言えないのか? 「…………」  やれやれ。  まあ、お前にそういった事は元からあまりしてないから気にするな。  電話の先で相手が、長門が珍しく緊張しているのがわかる。  これも最初の頃に比べれば大きな進歩なんだろうな。 「あの姿は……何?」  何と言われても、俺は明確な答えを持っていないんだがね。  まあ、強いて名付けるとするならば───。  仮面ライダー、かな。 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:08:31.97 ID:6gByBr2m0 「仮面ライダーとは? こちらの情報には無い単語」  ああ、そりゃ当然だ。生まれてこのかた隠し続けてきたんだからな。  お前も聞いただろう? ハルヒの化け物って怯えた声を。 「…………」  まあ、いきなりあんな姿を見たら流石のお前でも戸惑うか。  朝倉や、黄緑さんだったらどんな反応をしたんだろうな? 「……わからない」  長門が、ゆっくりと慎重に言葉を選んでいるのがわかった。  嫌だね、こういう感覚はどうも。だから内緒にしてったってのに。 「……今から会える?」  ああ、勿論。俺は夏休みを満喫する、普通の高校生なんでね。  嬉しいことに暇なら持て余してるんだ。 「…………そう」  ああ、もうお前からしたら普通の高校生じゃないんだよな、俺は。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:15:02.94 ID:6gByBr2m0 「よう、お待たせ」  片手を上げて挨拶をする。  こんな時間に女子が一人で公園にいるってのは危ないと思うぞ。 「平気」  そうは言うがな、人間は危険なものに対しては慎重じゃなけりゃ駄目だ。  でないと、昼間のハルヒみたいにトラックにひかれそうな目に会う。 「…………」  長門の沈黙は、いつものものとは違う意味を持っているんだろうな。  私は人間ではなく、対有機生命なんちゃら?  それとも、案外貴方に言われたくは無い?  俺は後者だと嬉しいね。 「貴方は……人間?」  長門の返しは、俺にとって予想出来るものだった。  可能なら来て欲しくなかったものだったんだけどな。 「さあね」  はは、おかげで間抜けな返ししか出来ないじゃないか。  どうしてくれるんだ、長門。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:24:27.49 ID:6gByBr2m0 「あなたの反応速度、移動速度、膂力は人間のそれを遥かに上回っていた」  だろうな。  じゃなけりゃ屋根の上を飛びながら移動するなんて不可能だ。 「…………」  睨むなって。 「睨んでいない」  いや、それは睨むっていうのが正しいと思うぞ。  あれだ。朝倉に襲われた時にどうして変身しなかったかを聞かないのか? 「予想はついている」  ほう。そりゃ是非聞きたいもんだ。 「あなたは、あの時生命の危機を感じていなかった」  ……長門、お前は探偵にでもなったらどうだ?  きっと商売繁盛間違いなしだと思うぞ。 「…………そう」  そう、俺はあの時は命の危険なんてこれっぽっちも感じちゃいなかった。  ……って言ったら嘘になるが、まあなんとかなるだろうなとは思っていた。 「もう一度聞く。仮面ライダーとは何?」 「さてね。俺にもよくわからん」  正直に答えたぞ。  だから睨むのをやめてくれ。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:33:32.92 ID:6gByBr2m0  ちなみに、仮面ライダーってのは俺が適当に名前を付けただけだ。 「…………そう」  ほら、あの恰好って仮面を被ってるみたいだろう?  ライダーってのはまあ、中学時代よく自転車に乗ってたからだ。  確かに、このネーミングセンスはどうかと思んだよ、俺も。  だが、名前ってのは存在を表わすものがどうたらと、以前佐々木に聞いた事がある。  まあ、ガキの頃に適当につけた名前だ。  そこらへんは勘弁してもらいたい。 「ちなみに、必殺技もあるんだぞ」  子供の頃に考えたもんだけどな。  威力に関しては中々のものだと思うし、 長門達宇宙人や、古泉達の閉鎖空間での戦闘力にも引けをとらないと思う。  恰好にかんしては、朝比奈さんの愛らしさに敵うわけもないがな。 「…………」  必死に話を引き伸ばそうとしているが、ここいらが限界のようだ。  どうやらこの宇宙人は、何故おれが仮面ライダーに変身出来るかを知りたいらしい。 「……憂鬱だね、全く」 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 21:51:56.22 ID:6gByBr2m0 「……ふぅ」  家に帰ってベッドに横になると、疲れが一気に襲ってきた。  久々の変身で疲れたのか、 長門に全てを話した心労なのかはわからない。  まあ、あいつの驚く顔が見れただけでもよしとするか。  ……そうでも思わないとやってられないしな。 「…………」  無言で自分の掌を見つめた。  なんの変哲もない、普通の男子高校生の手だ。  この手は変身すると肌色ではなくなり、超人的な力を発揮する。  寝転がりながら足を組んだ。脛毛は濃くはないと思う。  まあ、走っても遅くも速くも無い平凡な足だ。  この足は、変身すると圧倒的な脚力を得、とんでもない破壊力を得る。 「明日、朝比奈さんや古泉とどんな顔をして会えばいいのかね」  幸い、ハルヒの記憶は長門が操作してくれていたようだ。  瞬間的にだが、記録的な大きさの閉鎖空間が発生したことを古泉に聞いたのは、 かなり後の事になる。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 22:03:15.05 ID:6gByBr2m0 「ちょっとキョン。もっとちゃっちゃか歩きなさいよ」  悪いな。俺の足はそこまで丈夫じゃし、体力もそこまで無いんだ。  それに加えてこの暑さ、倒れちまうよ。 「言い訳なんか聞いてないわ。ほら、急ぐわよ!」  ハルヒに腕を掴まれ、強引に歩かされる。  俺としては朝比奈さんに優しく手を引かれたいものなのだが、 文句を言っても仕方がないし、クジ分けで別の班になってしまっていた。  やれやれ、どうしてお前はそんなに元気なのかね。 「いい? キョン。もしもあたし達が何も見つけられずに、 あの三人が不思議を見つけたとするわ」  それは、お前にとっては喜ばしい事なんじゃないのか? 「キョン。そんな考えだからあんたは平団員なのよ」  そうかい。  そりゃあ光栄だね。 「こっちは二人とは言え、団長のあたしがいるのよ?」  なるほど。  確かに向こうが収穫あり、 こちらがボウズだったらお前の面目が丸潰れだな。 「あんたも同じよ。何人事みたいに言ってるの」  とまあ、いつものようにくだらなくも、 他人から見たらまるでコントのような会話をしていたら、すぐに集合時間となった。  ハルヒも暑い中歩き回るのは疲れたようで、汗をかいている。  俺も、“暑いから”汗をかいていた。 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 22:11:35.32 ID:6gByBr2m0  集合場所には、すでに三人は先に来ていた。  大方そこらの喫茶店で時間でも潰していたんだろう。  もしくは、朝比奈さんと古泉が図書館に付き合ったとかな。  ……どちらにせよ、古泉が美味しい思いをした事に変わりは無い。  今度、オセロで大差を付けて勝ってやろうと、 少し暗い決意をしながら横断歩道を歩き出した。 「ねえ、もうみくるちゃん達先に着いてると思う?」  どうだろうな。  ……よし、賭けてみるか。 「面白いじゃない。あたしは、そうね、もう着いてる方に賭けるわ!」  そうか。なら俺は……。 「“着いてない方に”賭けるよ」 「それじゃあ、負けたほうはジュースを奢りね!」  おいおいハルヒ。  お前はまだ俺に奢らせる気か? 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 22:20:42.88 ID:6gByBr2m0 「それにしても、今日は歩いてる人が少ないわね」  この日は記録的な暑さで、探索中にもほとんど人の姿が見られなかった。  そんな日でも、この毎週末の恒例行事を欠かさないのだから恐れ入るよ。  俺もハルヒも、暑さで少しボンヤリしていたんだろう。  でなけりゃ、右折してくるトラックに気付かないなんて事は無かったに違いない。  プップーッ!  けたたましいクラクションの音。 「っ!?」  ハルヒは体をこわばらせることが精一杯のようだった。  ……どうする?  このまま何もしなけりゃ、二人共美味しそうなミンチになっちまう。 「ッ……」  ───仕方が無い。これは……もう仕方が無い。 「変身ッ!」 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/16(土) 22:29:55.66 ID:6gByBr2m0  軽い衝撃。 「おはよ〜、キョンくん」 「……おはよう」  頼むからもう少し優しく起こしてくれないか?  今日は特に……心臓に悪かった。 「えっ、キョンくん病気なの?」  ああ、心配そうな顔をするな。  例えだよ、例え。それ位ビックリしたってことだ。 「そっか〜」  いつもの朝の会話をしながら、右手で頬をさすった。  うん、寝ぼけて変身はしてみたいだな。  昨日トラックを止めた左手は何故か使う気になれなかった。  只単に、利き手じゃないからかもしれないが。 「ゴハン、もうすぐだって〜」  ああ、わかった。  妹には、俺が仮面ライダーに変身出来る事を話していない。  そして、これからも話すことはないだろう。  ハルヒに言われただけでも、夢で見ちまったんだ。  あの言葉を妹から言われるのは、正直辛い。 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:17:40.34 ID:MkRuutuA0 >>73  ハルヒが帰った部室は重苦しい雰囲気に包まれていた。  正直勘弁してくれと叫びだしたい所なのだが、そういう訳にもいかない。  何故なら、この三人は俺のためにここに残っているのだから。 「本当、なんですか?」  今まで沈黙していた古泉が半信半疑の様子で聞いてきた。  お前、長門から説明を受けたんだろう?  なら、それが答えだ。 「ねえキョンくん。長門さんと二人で私達をからかってるんでしょ?」  それはありえませんよ朝比奈さん。  ハルヒならともかく、俺と長門がそんな真似をすると思いますか? 「ほら長門。お前からも何か言ってやれ」  そうは言ったものの、出来れば二人には黙っていてほしいというのが 本音だったりするのだが、既にトラックの件で二人の手伝いも受けているので、 何も説明しないわけにはいかない。  いずれは話さなきゃあならない事だった。  ただ、それが今なだけだ。  出来れば、そんな機会は一生来ないで欲しかったというのも本音だが。 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:28:18.36 ID:MkRuutuA0  俺と長門の言葉を聞き、 どうやら二人は全てとはいかないまでも信じる気になったようだ。  別に信じてくれなくても良かったんだがね。 「……ねえ、ちょっと変身してみせてくれない?」  そう言われるとは思っていましたよ朝比奈さん。  ですが、それはちょっと勘弁してもらえますか。すみません。  あの姿になると、自分が人間ではないという感覚に襲われる。  それは、日常を愛する俺にとっては最も不快なものだ。  ……不快、いや、恐怖と言っても良い。 「ご、ごめんなさい」  俺の表情から何かを感じ取ったのか、朝比奈さんは恐縮しているようだった。  いえ、気にしないでください。  実際に変身している所を見ずに信じろというのが無理な話ですし。 「そうですかね」  突然何を言い出すんだ古泉。  それに、いつもの無駄に爽やかな笑顔はどうした? 「僕は、今のあなたの表情を見て確信しましたよ。 あなたは、確かに、ええと……仮面ライダーに変身出来るようですね」  そんなに俺は顔に出やすい性格だとは思ってなかったんだがな。 「顔に出てしまうほど、あなたにとっては重要な事だったんでしょう」  ……まあ、な。 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:37:24.55 ID:MkRuutuA0 「それで、これからどうするつもりだ?」  平静を装って三人に問いかける。  今まで、超能力者にも未来人にも宇宙人にもバレなかった俺、仮面ライダーという存在。  それまでの俺の扱いも考えると、 この三つの組織にとっては見過ごせない程の不確定要素だろう。  ハルヒに関わっていなければこんな厄介な事にはならなかった。  ───なんて事は微塵も考えちゃいなかった。  むしろ、あいつに関わったからこそ、何故俺が変身出来るのかがわかるかもしれない。  そのことだけでも大きな収穫だ。  それに、まあ、楽しかったしな。 「……どうするんだ?」  沈黙する三人に、再度問いかけた。  まあ、俺を消そうとするなら、全力で抵抗するだけだ。  ……この三人と戦うなんて、絶対にごめんだがね。 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:47:20.13 ID:MkRuutuA0  まず、最初に口を開いたのは長門だった。 「情報統合思念体の方針は、観察」  観察? 「そう」  つまりどういう事だ? 「現状では、あなたには涼宮ハルヒへの敵意はみられない」  当たり前だ。  そりゃ、確かにちょっとイラっとする時はあるが、 敵意なんて大げさな感情を持った事は無いぞ。  俺の言葉を聞き、長門は頷いた。  ……なるほどね。とりあえずは様子見、って事か。 「そう」  そいつはありがたい。  正直、お前んとこに命を狙われるのが一番厄介だからな。  厄介どころか、三日ともたないね。体も、心も。  どうやら、長門の親分は俺も含めてハルヒの観察を続ける方針みたいだ。  急進派の奴らが、また朝倉みたいなのを送り込んでくるかも知れないが、何、 なんとかなるさ。  長門は話は終わったと言わんばかりに、また読書に没頭し始めた。  お前、俺がどんなに助かった気持ちになったかわかってるか? 「それじゃあ、次は僕の番ですね」  ああ、次に厄介なのはお前の所だからな。 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:59:10.35 ID:MkRuutuA0 「現在、上の方でも情報の真偽を確かめている段階です」  ふむ。  つまり、まだわからないってことか。 「考えてもみてください。僕達が以前あなたの調査をした時には、 完全にただの人間、一般人だという結論が出ていたんですよ?」  らしいな。  お前の組織の調査力どうこうに関しては、詳しいことはわからんが。 「これはですね。とても異常なことなんです」  ただ、俺を調べた奴がちょっとばかし抜けてたってだけの話じゃないのか? 「いいえ。それはあり得ません。絶対に」  古泉にしては珍しい断定。 「あなたは涼宮さんにとっては鍵になる人物だ」  おいおい、よしてくれ。 「その人物に対する調査は徹底的に行いますよ」  ああ、そうかい。  つまり、もう一度調べなおして、改めて俺の処遇を決めるってことだな? 「……はい。申し訳ありませんが、 僕だけの一存では決められないだけの出来事なので」  だろうな。  古泉の組織は保留、か。  すぐにでも敵対して来ないだけましと考えるか、 いつ敵になるかわからないと考えるか微妙なところだ。  だが、もし家族に手を出すような事になったら、ゲームのように遠慮はしないぜ? 「肝に銘じておきます」  全く、苦笑いまで様になる奴だ。 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:10:58.95 ID:MkRuutuA0 「朝比奈さんは……朝比奈さん?」 「…………」  声をかけても、朝比奈さんは下を向きうつむいているだけだった。  このまま彼女の天使のような横顔を眺めていてもいいのだが、 そういうわけにもいかない。  その理由は一つ。  朝比奈さん、どうして悲しそうな顔をしてるんですか。  いつもの笑顔を見せてくださいよ。 「……ごめんなさい」  え? 俺、何か朝比奈さんに謝られるような事をされましたっけ? 「ごめんなさい、キョンくん……!」  そう言うと、朝比奈さんはポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。 「いや、その、泣かないでください」  未来人が俺を危険だと判断しても、それは朝比奈さんのせいじゃありませんよ。  強いて言うなら、変身出来る俺が悪いんですから。 「違うの。違うのよ」  えっ? 「ごめんなさい、ごめんねキョンくん。 あなたの苦しいって気持ちに今まで気付いてあげられなくて……!」  ───ああ。  やっぱり朝比奈さんは天使のような人だ。 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:25:34.21 ID:MkRuutuA0  あの部室での告白劇、といっても甘ったるいものではないのだが、 から一週間が経った。 「さあ、手加減無しでお願いしますよ」  変わったことといえば、古泉がゲームを始めるたびに 俺に本気を出せと求めてくるようになった事が一つ。  いいのか? 古泉。 「ええ。全力のあなたに勝ってこそ、真の勝利が掴めるというものです」  そうかい。  後悔だけはするなよ? 「ええ、もちろんですとも」  さて、どの程度の差で負かしてやろうか、なんて事を考えていると、 「はい、お茶が入りましたよ」  朝比奈さんがいつものように美味しいお茶を持ってきてくれた。 「ありがとうございます」  こらこら古泉、真剣になるのは良いが、お礼を言う時は顔をあげろ。 「うふふ、いいんですよ」  朝比奈さんの心の広さに感謝しろよ。 「それと、これ。クッキー焼いてきたの」  これがもう一つの変わったこと。  朝比奈さんが、ほぼ毎日お菓子を差し入れしてくれるようになった。  それも、手作りをだ。 「私には……これ位しか出来ませんから」  いえいえ、とんでもない。  あなたの笑顔で、本当に癒されるんですよ。  ……なんて恥ずかしいこと、言えるはずがないよな。 「いただきます」  うん。  美味い。 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:33:30.62 ID:MkRuutuA0 「ほんと、みくるちゃんがお菓子作りにハマってくれて大助かりね!」  こらこらハルヒ。  キーボードをいじりながらクッキーを頬張るな。 「ほら、有希も食べなさい。美味しいわよ」  なんだ、まだ長門は食べてなかったのか。 「…………」  言われて気付いたかのように、長門は机に置かれたクッキーをかじった。  まるで小動物みたいだな。 「そうね。しかもリスとか、ハムスターとかに似てるかも」  褒めているか微妙な言葉だったが、長門はいつものように、 「そう」  とだけ頷くと、これまたいつものように読書に没頭しだした。  結論を言おう。  俺と、それを取り巻く日常は、なんら変化することなく続いている。  それがいつまで続くのかは───。 「? 何よキョン。人の顔ジロジロ見て」  コイツ次第なんだろうな。 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:11:25.84 ID:MkRuutuA0  しかし、結局わからなかったことがある。  何故、俺は仮面ライダーに変身出来るのか。  何故、今まで俺が変身出来ることがわからなかったのか。  この二点だ。  これだけは情報統合思念体や、古泉の組織が調べてみても何もわからなかったらしい。  前者については強引に納得出来るが、後者に関しては明らかにおかしい。  俺の両親が知っているような事が、わからないなんて事があるか? 「ねえキョン。聞いてるの?」  ああ、すまん。何の話だったか? 「もう! ちゃんと聞いてなさいよね!」  今日は久々に帰り道でハルヒと一緒になった。  最近はハルヒが先に帰って、残った四人で俺にかんする話をしていたからだ。  まあ、多分原因はハルヒで間違いないだろう。  ……俺は、その時はそう思っていた。 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:24:16.66 ID:MkRuutuA0 「……ねえキョン」  ああ、俺も気付いてるさ。  さっきから、俺達の後をつけている人間がいる。  つけているとわかったのは、 その人物が俺達と一定の距離を保ちながら着いてくるからだ。  試しに無作為に道を曲がってみたりしたのだが、その気配が消えることは無かった。 「ハルヒ」 「な、何よ」  この先は一本道だ。  お前は先に行け。 「はあっ!? あんた何言ってるのよ!?」  大きな声を出すな。  何、この先に交番があるから、その近くで待ってろってだけの事だ。 「そこまであんたも一緒に行けばいいでしょう?」  おいおい、間違いかもしれないのに、高校生が二人して交番に逃げ込むのか?  そんな恥ずかしい真似、俺はごめんだね。 「何よ。あたしだけ恥ずかしい真似をしろってわけ?」  お前は女の子だからな。  この時間帯なら、用心のためで済むだろ。 「むう〜」  ハルヒは口をアヒルのように尖らせると、しぶしぶとだが歩く速度を速めた。  5メートル、10メートルとハルヒが離れていくにつれて、 背後の気配はどんどん近づいてくる。  こいつ、ハルヒのストーカーか何かか?  やれやれ、厄介事を呼び込む天才だな、お前は。 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:33:17.11 ID:MkRuutuA0 「よう」  その気配が俺の横を通り過ぎる瞬間、そいつに声をかけた。  そいつは特徴の無い男で、顔を覚えるのが難しい印象の奴だった。  お前、ハルヒに何の用だ?  ハルヒはもう視界から消えている。遠慮する必要は無い。 「…………」  だんまりか。  お前、どこの組織の奴だ? 超能力者か? 宇宙人か? 「……何を言っている」  男は、これまた覚えにくい、特徴の無い声で静かに言った。  何を言っているも何も、それしか思いあたりがない。  後は、本当にただのストーカーっていう可能性くらいだ。  どちらにせよ、ハルヒにストレスをかけないでもらいたいね。  とばっちりがくるのは俺なんだから。 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:43:52.04 ID:MkRuutuA0 「お前は、何を言っている?」  いやいや、お前こそ何が言いたいのかわからんぞ。  何が目的だ? 何故ハルヒを付回す? 「我々の目的はただ一つ」  なんだ、やけに素直に答えてくれるんだな。  無意識に頬を指でかいていた。  この男が、やけに素直な態度だったので拍子抜けしたからかもしれない。 「我々の目的は、涼宮ハルヒの殺害」  ……そうか、そういう事か。  お前があれか。ハルヒを殺そうっていう馬鹿な勢力の一員なんだな? 「……何を言っている」  何を言っているだって?  当たり前だろうが。  俺は───。 「お前も、涼宮ハルヒを殺すための存在だろうが」 「…………えっ?」 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:56:24.29 ID:MkRuutuA0  おい、ちょっと待て。  お前は何をトチ狂った事を言ってるんだ?  俺がハルヒを殺すための存在? 全くもって意味がわからんぞ。 「お前も姿を変えることが出来るのだろう?」  姿を変えるだって? 「まさか、変身の事か!?」  自然と語気が荒くなった。  今まで両親にしか話していなかったし、 俺に関しては観察するだけだと三つの組織で結論が出たはずだ。  なのに、変身の事を知りながら俺に接触してくるこいつは一体……。 「……ん? お前“も”……だって?」  こいつは言った。  ああ、確かに言ったぞ! 「当たり前だろう?」  男の口がゆっくりと裂けていき、肌の色も鉛色に変化していく。 「俺も、涼宮ハルヒを殺すための存在だからな」  ……ああ、この姿は見覚えがある。  いや、細部は違うが、俺の“深い部分”が告げている。 「お前も、仮面ライダーだったのか……!」 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 04:07:21.58 ID:MkRuutuA0 「仮面ライダー? なんだそれは」  男が発した声は、それまでのものとは違い地の底から響くような低音だった。  ああ、仮面ライダーっていうのは俺が勝手に付けた名前だったな。  通じないのも無理は無い。 「なるほど。お前は変化したこの姿の状態を仮面ライダーと呼んでいるのか」  中々にセンスのある名前だと思わないか?  俺がガキの頃に考えたんだ。 「そんな事はどうでも良い」  おいおい、もう少し話に乗ってくれよ。 「お前も姿を変えろ。二人がかりなら奴らに邪魔されようと関係ない」  ああ。  確かに俺とお前の二人がかりなら、今だったらハルヒを殺せるかもしれないな。 「そうだ。時間が無い。急げ」  わかったよ。  そう急がせるなって。  鞄を置き、呼吸を整える。  変身をする前の高揚感と緊張感は、慣れるようなものじゃない。 「……変身」  そう、小さくつぶやいた。 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 04:20:39.16 ID:MkRuutuA0  体が熱い。  細胞の一つ一つが、別のものに書き換えられていくのがわかる。 「おお……!」  男はえらく感動しているようで、俺の姿が変わっていく過程に眼が釘付けになっている。  何が良いのかね、全く。  こんなの、ただの化け物になるだけだろうが。 「…………」  多分、今のこの俺の姿を見て、いつもの俺を連想出来る人間はいないだろう。  それほどまでに仮面ライダーとなった俺は異形の存在だった。  むしろ、今の俺を人間と認識できる奴が世界にどれだけいるってんだ?  まあ、この姿を人間と思うような奴がいたら、そいつはハルヒ異常に頭がぶっとんでるだろうよ。 「それがお前の本当の姿か!」  本当の姿っていうには、ちょっと化け物じみてるけどな。 「いや、お前のその姿は、我々の中でも素晴らしいものだ!」  そうかい。ありがとよ。 「……さあ、共に涼宮ハルヒを殺しに行こう!」  ははっ、ハルヒを殺すだって? 「? 何がおかしい」 「……嫌なこったね!」  男、いや、化け物の顔を全力で殴りつけた。 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 04:33:06.37 ID:MkRuutuA0 「ぐうううっ!」  化け物は、仮面ライダーに変身した俺のパンチに耐えていた。  全力で殴ったつもりだったんだがな。 「何をする!?」  お前を倒そうと思ったんだよ。  ハルヒを殺させるわけにはいかないんでね。 「何故だ!? お前は涼宮ハルヒを殺すための存在だぞ!?」  何故だ? おいおい、ちょっと調べが足りないんじゃないか? 「……俺は、SOS団の団員だからな」  右手の親指で自分の心臓を指し示す。  結構決まってると思うぞ、このポーズは。 「ちっ!」  化け物は舌打ちすると、先日の俺の様に民家の屋根へ飛び乗った。  それにしても、舌打ちが出来る口の構造をしてるんだな。驚きだ。 「こうなれば、一人だけでも涼宮ハルヒを……!」  おいおい、人の話は聞けよ。  ハルヒを殺させるわけにはいかないって言っただろう? 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 04:45:10.66 ID:MkRuutuA0 「いいか、涼宮ハルヒを殺した後は、お前の番だ!」  ゆっくりと腰を落とし、下半身に力を溜める。  ガキの頃に考えたもんだ。  今でも出来るといいがね。 「宇宙人に助けを求めても無駄だ。同じ道を辿るだけのこと」  そうかい。 「ふん、時間がないのでおしゃべりはここまでだ」  化け物はくるりときびすを返し、俺に背を向けた。  いいのかい? 余所見をして。 「ライダー……」  踏みしめた足に力を込める。  そして、一気にその力を───。 「キック!」  ───爆発させた。 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 05:00:02.25 ID:MkRuutuA0  ……あの後に起こった出来事をお話しよう。  あの後ハルヒに合流した俺は、こっぴどくハルヒによって絞られ、 後日何かを奢るという約束をさせられた。  なんでも、 『あたしを不安がらせた罰よ!』  とのこと。  やれやれ、理不尽っていうのはこういう事を言うのかね。  ちなみに、奴を倒した後すぐに長門と古泉に連絡をとったのだが、 奴の残した形跡は、少しばかり割れた民家の瓦だけだった。  そう、奴は死体を残さず、綺麗さっぱり消え失せたのだ。  だが、奴は消える前になんとも迷惑な言葉を残していきやがった。 『お前は涼宮ハルヒを殺す存在だ。それだけは変えることの無いじじ……つ……』  だとさ。  あの言葉に、俺が仮面ライダーに変身できる謎が隠されているのだとしたら……。 「キョン! 早く部室に行くわよ!」  まあ、今はその事を考えるのはよそう。  そう、今だけは……。 「おう。今行く」 おわり 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 05:02:35.56 ID:MkRuutuA0 OPっぽいの終わり 小説形式は疲れるな