キョン「やっちまった……」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:30:25.11 ID:yq7w93gu0 足元には朝比奈さんが横たわっている。 肩を揺すっても反応しない。 慌てて口元に手をかざす。 呼吸をしていない。 「なんてこった……」 俺と朝比奈さん以外には誰も居ない放課後の文芸部室。 その出入り口側で俺は頭を抱えてうずくまっていた。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:35:09.78 ID:yq7w93gu0 ――3分前。 ガチャリ キョン「あれ、朝比奈さんだけですか」 みくる「そうみたいです」 モグモグ キョン「……何を食べているんですか?」 みくる「ふぇ?」 キョン「いや、今食べているそれって」 みくる「これですか? プリンですけど?」 キョン「なん……だと……」 すぐさま冷蔵庫に駆け寄り、中を確認する。 キョン「無い……俺が一晩掛けて作り、朝早くに登校して冷やしておいたプリンが……」 みくる「なんのことですか?」 キョン「とぼけるんじゃねぇ!」 ガンッ ドサリ キョン「はぁはぁ……」 キョン「朝比奈……さん?」 みくる「……」 キョン「やっちまった……」 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:40:46.41 ID:yq7w93gu0 そして今へと至る。 「どうすりゃいい」 半分くらい残っていたプリンも床にぶちまけちまった。 それにこの年で前科持ちなんてお先真っ暗すぎだろ。 状況を整理しる俺。 俺は放課となってからすぐに早歩きでここまで来た。 つまりは、もうすぐハルヒ達が来ることになる。 ともなれば俺にやれるのはただ一つ。 1.一刻も早くこの場から逃げ出す。 2.隠蔽工作を施す。 3.自白する。 >>15 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:41:50.26 ID:DQO69wOM0 2 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:45:07.28 ID:yq7w93gu0 そうだ、隠蔽工作を施すのが唯一の未来! 室内を見回す。 テーブル、パソコン、冷蔵庫、ポット、黒板、ロッカー。 なるほど。 細切れにした後にそれぞれの内部へ一部分ずつ入れて行けば十分に隠蔽可能だ。 ならば早速切断に掛かれ…… 「しまった、ハサミが無い!」 俺は行き詰ってしまった。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:48:30.51 ID:yq7w93gu0 だがここで俺の頭の中に神の啓示が舞い降りたのだ。 『ロッカーに隠すってのが筋ってもんだろ』 そう聴こえた。 間違いない、これは使える。 倒れた朝比奈さんの体を目測で測っても十二分にあり余るロッカーの容量。 「いける!」 考えを纏めるよりも早く、朝比奈さんを担ぎ上げ…… ようとして止めた。 ガツン、と朝比奈さんの頭部が床にぶつかり音を立てている。 重い。 駄目だ、俺には無理だ。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:50:53.13 ID:yq7w93gu0 「どうすりゃいい」 またも頭を抱える。 もう時間が無い、だとしたらどうするのがベストか…… 1.一刻も早くこの場から逃げ出す。 2.自白する。 3.窓から飛び降りる。 >>28 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:51:20.90 ID:nQj4I6cw0 1 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:54:36.68 ID:yq7w93gu0 ここから逃げ出そう。 直感的に悟った。 これは夢だ、タチの悪い白昼夢だ。 ここから遠くへ逃げだせばきっと覚める。 明日になれば…… 何事も無かったかのように朝比奈さんは手を振ってくれる。 プリンも冷蔵庫の中でキンキンに冷えて俺を待っていてくれる。 俺は部室から飛び出すと、全速力で玄関へと向かった。 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 12:59:22.50 ID:yq7w93gu0 しかし世の中というものは得てして上手くいかないというのが筋というものである。 現実からの逃避行を測り毎秒6.5mの速度でコンクリ製の床の上を直走っていた俺の目の前に、 SOS団最悪にして最高の死角、涼宮ハルヒ様が立ちふさがっちまったって訳さ。 俺は言ってやったね。 「俺は知らない、何もしらない!」 ってな。 ……ちょっと待て、これじゃあ俺が犯人みたいじゃないか。 どうやら落ち着いていたはずの心と体の温度差は剥離の一途を辿っていたらしい。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:01:53.79 ID:yq7w93gu0 ――5分後 古泉「ここが現場です」 探偵「なるほど……これは……」 ハルヒ「みくるちゃん、どうしちゃったの!?」 刑事「待て! 現場を荒らすな!」 ハルヒ「離してよ!」 長門「……ユニーク」 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:06:38.91 ID:yq7w93gu0 なんてこったなんてこったぱんなこったなんてこった! 探偵と刑事まで来やがったぞおい!? 将棋に例えるならば角交換作戦を仕掛けたのに気付けば自分だけ取られていた的なくらいやばい。 スペランカーで言えばエレベーターの降り方に二度も失敗して早くも残機0状態に近い。 「くっ……」 俺は思わず声を漏らしてしまった。 それを目聡く、いや耳ざとく聞き付けた古泉が笑いながら言った。 「どうやら、涼宮さんの力で探偵を呼び寄せた模様です」 ふざけるな。 ふざける……な……ちくしょう…… こうなったら残る手段は…… 1.「僕がやりました」 2.「プリンを食べられたのが悔しくて……」 3.「仕方が無かったんです」 >>52 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/10(日) 13:08:41.44 ID:+vioMMvr0 1 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:11:50.09 ID:yq7w93gu0 キョン「僕がやりました」 ハルヒ「何ですって!?」 古泉「そんなまさか!?」 長門「……どうしてー」 刑事「なに、君が犯人か! ならば早速……」 刑事が銀色の輪を取り出した。 刑事「さぁ、観念するん――」 探偵「待ってください!」 妙な抑揚で探偵が声をあげた。 そして、 探偵「この事件、まだ終わらせる訳にはいきませんよ」 堂々と告げた。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:14:02.56 ID:yq7w93gu0 探偵「この事件、俺が33レス持たせてやる」 一同「えっ……」 そして今、事件の真相を目指して物語が歩を刻み始めた。 73 名前:残り33レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:18:49.72 ID:yq7w93gu0 キョン「あの、俺が朝比奈さんを殴りつけ――」 探偵「良く見てください皆さん!」 探偵が床に落ちたプリンを指している。 探偵「まだ半分残っています。つまり、彼女はこれを食べている時に倒れた。     これはつまり……」 古泉「毒……」 探偵「そうです、つまりは誰にでも犯行は可能だった」 ハルヒ「ええ!? でも、一体誰が……」 探偵「なんやかんやのトリックで、朝比奈さんを殺害したんです」 キョン「なんやかんやって何だよ」 探偵「なんやかんやは……なんやかんやです!」 長門「……一理ある」 91 名前:残り32レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:26:56.21 ID:yq7w93gu0 「おい、ちょっと俺の話を聞いてくれよ」 流石にイラっときて探偵の肩を掴む。 「ちょ、ちょっとやめてください。今、鑑識にプリンを回してるんですから」 探偵がやはり妙な抑揚で俺の手を払いにかかる。 「別にそんなトリックじみたものは使ってないぞ」 「そうとは限りません」 「いや、しかし――」 俺の言葉を手で遮り、探偵は遠くを見ながら語り始めた。 「事件の真相、殺人事件。  人が人を殺してしまうというのは尋常ではないことなんです。  そこには必ずと言っていいほど、悲しい運命と、何らかの心の解れが絡みあっています。  僕達探偵は事件を解き明かすだけではない。  何故、事件は起こってしまったのか……それを解き明かし犠牲者を弔うのが仕事なんです。  それが僕達探偵に与えられた使命なんです」 「探偵さん……お願いします……」 俺は涙を拭いながら答えた。 105 名前:残り31レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:32:37.37 ID:yq7w93gu0 探偵「では、まずは各々の事情聴取から行いましょう」 ハルヒ「ちょっと待ってよ、あたしも疑われてんの?」 探偵「勿論です、文芸部員である朝比奈さんが殺されたのなら――」 長門「文芸部やない、SOS団や」 探偵「SOS団員である朝比奈さんが殺されたのならば、    同じくSOS団に所属しているメンバーが怪しいというのは世の常です」 古泉「確かに、プリンがトリックならば毒を仕込めたのは僕達団員だけになりますね」 キョン「おい待てよ、勝手に話を――」 探偵「いえ、もしかするとあの窓……」 ハルヒ「窓? そういえば夏の間は熱気が籠るから開けっ放しだけど……」 その言葉を聞いた直後、探偵が眼鏡に手を当て、 探偵「角砂糖トリック」 静かに見回した。 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:38:44.87 ID:yq7w93gu0 探偵「その前に皆さんに謝っておかなければならない事があります」 一同「えっ……?」 探偵「先ほどの俺の発言で、誤解を招いてしまった折についてです」 刑事「何を言っているんだね君は」 探偵「加速、アスキーアート。それらを張り支援をしてくれるのは有り難い。    けれども流石に33レス間では時間を潰す暇さえもない」 長門「そう、書き溜めでないのが痛い」 探偵「あと、スレが終わると放送時間終了ということにもなる」 長門「……補足すると、これにも1レス分の時間が掛かっている」 探偵「そういうことです。では続けましょう、推理を」 131 名前:残り29レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:46:38.43 ID:yq7w93gu0 探偵「これで5分か……」 刑事「あと29分もあるぞ……?」 探偵「大丈夫、いけます」 探偵がポットを使いコーヒを入れた。 探偵「では説明しましょう、その窓から痕跡も残さずに侵入してきたトリックを!」 そして角砂糖を取り出す。 探偵「これは御存知ですね、角砂糖です」 古泉「確かに、この部屋には朝比奈さんが常備している角砂糖がありますが……」 探偵「これを沢山組み合わせて巨大な足場を作り、それに乗り上げて窓から侵入してきたとしたら?」 ハルヒ「……!」 探偵「誰でも犯行が可能という事になる」 キョン「それなら、窓の外に砂糖が残ってる筈だろ」 古泉「た、確かに……」 ハルヒ「キョンの言う通りだわ」 探偵「考えても見てください、今の季節は夏。    つまり外にはお腹を空かせたアリさんが大量に働いています」 長門「この付近では約1万と2312匹確認されている」 探偵「そう、つまり時間が経てば働き者のアリさん達が綺麗さっぱりと……証拠を隠滅してくれる」 刑事「そういう事か」 147 名前:残り28レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:50:30.14 ID:yq7w93gu0 探偵「不味い、少しスペースを無駄にあけて稼ぎましょう」 刑事「これでいいか?」 探偵「結構です」 長門「しかしそのトリック、実際に隠滅にまで掛かる時間は1年と235日。     そても短時間では行えない」 探偵「その通り」 古泉「という事は……?」 探偵「そう、犯人はこの中に居る!」 ハルヒ「ごくり……」 171 名前:残り27レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 13:55:43.29 ID:yq7w93gu0 探偵「という事で、当初の予定通り事情聴取を行いましょう」 刑事「大分稼いだな」 探偵「はい」 古泉「えっと、それでは誰から始めましょうか?」 ハルヒ「さっさとしてよ、疑われたままなんて真っ平御免なんだからね!」 探偵「ん? 貴方は……団長さんですか?」 ハルヒ「……そうですけど」 探偵「貴方の噂は耳にしています、聞けば団員達を無理に引っ張り続ける方だとか……」 ハルヒ「そ、それはっ……」 探偵「朝比奈さんが貴方の思い通りに動かなかった、としたら?」 ハルヒ「なっ……」 探偵「では回想していきましょう」 188 名前:残り26レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:00:07.62 ID:yq7w93gu0 〜回想その1〜 −今日の朝の出来事− あたし、涼宮ハルヒ。 へへっ、みくるの野郎……今日も虐めてやるぜ。 あたしは滑るような足取りへ学校を目指していた。 その途中で見知った人影を見つける。 みくるちゃんか。 「よぉ、みくる! 今日もデカイ乳をしてるじゃ――」 「触らないで下さい!」 なっ……あたしの手を……! 困惑していると、 「涼宮さん、うざいです!」 そのまま走り去って行ってしまった。 くそっ……畜生……殺してやる…… あたしは殺意を抱いた。 193 名前:残り25レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:01:41.13 ID:yq7w93gu0 探偵「このようにして殺意を抱いた鈴宮さんは、次の段階へと移ります」 203 名前:残り24レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:05:40.45 ID:yq7w93gu0 〜回想その2〜 −今日の朝の出来事− あたし、涼宮ハルヒよ。 「へへっ、この時間帯なら誰もいねぇぜ」 呟きながら部室へと侵入する。 団長足るもの鍵を常備出来るのは強みだぜ。 時間は1時間目の授業中なので、部室棟内そのものがとても静かである。 あたしは一応、猫足立ちの忍び足で冷蔵庫を目指し…… 「……プリン?」 どういう事だ、なぜこんなに美味しそうなプリンが? いや、答えは簡単だ、こんな物を作れるのは朝比奈みくるしかいない。 ならばこれに毒を仕込めば……くくっ…… こうしてあたしは、なんやかんやの即効性の毒を仕込んだのだ。 216 名前:残り23レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:10:28.34 ID:yq7w93gu0 探偵「さぁ、これが考えられる可能性のうちの一つとトリックです」 キョン「そういえば、確かに1時間目の授業中にハルヒは居なかったが」 ハルヒ「だって、Lucky☆star見てたら遅くなっちゃったから遅刻して……」 古泉「つまり、アリバイが無い」 長門「……」 刑事「決まりだな」 刑事が銀の輪を取り出し、ハルヒの元へと歩みよる。 ハルヒ「ちょ、ちょっと――」 探偵「だが出来なかった!」 探偵がまたも声を荒げた。 ハルヒ「じゃ、じゃあ何なのよ……」 探偵「まぁ、焦っては駄目です」 探偵は言いつつ腕時計で時間を確認していた。 238 名前:残り22レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:15:53.02 ID:yq7w93gu0 俺は探偵が淹れてそのままだったコーヒーに口を付けていた。 そして思考を巡らせる。 トリックは一体なんなのだろうか……? これだ。 犯人はハルヒなのか、古泉なのか、それとも寡黙な長門なのか。 誰を疑えばいい……誰を信じればいい…… そして俺は、どう動けばいいんだ……! 「なんて言える訳ないだろうが!? 犯人は俺だっつってんだろうが!」 全ての想いを全力で吐きだす。 「まぁまぁ、落ち着いてください」 すぐさま探偵が窘めに掛かるがそんなもの俺には通用しないぜ。 「お前等真面目にやれよ! こんな馬鹿な――」 「はい黙ろうね」 ギリギリギリ…… 「か、肩が……!」 俺は今日三度目ともなる格好で、その場に蹲った。 256 名前:残り21レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:19:24.51 ID:yq7w93gu0 古泉「では、犯人は一体誰なんですか?」 探偵「古泉さん、やけに余裕の面持ちですね。     まるで自分だけは蚊帳の外とでも言いいたげなくらいにね」 古泉「えっ……!?」 探偵「ふむ、その左手の薬指にある跡、なんでしょうかね?」 古泉「それは……」 探偵「そうです、指輪の跡ですよ」 刑事「なにっ!?」 267 名前:残り20レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:23:12.59 ID:yq7w93gu0 〜回想その1〜 −なんやかんやの日の出来事− 僕は古泉一樹、副団長さ。 実は僕、朝比奈さんと付き合ってるんだ。 ほら、僕の左手薬指には鈍く輝く指輪が嵌められているだろう? 朝比奈さんも僕と同じ物をつけている。 そうさ、僕達は未来を約束しあった仲なのだから。 だから今日もこうやって待ち合わせ場所へと…… 「よぉみくるぅ、待たせたなー」 「遅いよ、光一くんっ!」 なん……だと……? 275 名前:残り19レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:27:32.15 ID:yq7w93gu0 〜回想その2〜 −なんやかんやの日の出来事2− 僕は後を尾けました。 そうしているうちに、純真な僕の目の前で次々と悲劇が巻き起こっていったのです。 みくるが知らない男と手を繋いでいる。 みくるが知らない男とプリント倶楽部で写真を量産している。 みくるが知らない男と一つのパフェを貪っている。 みくるが知らない男とショッピングを楽しんでいる…… そして、そのままホテルへ…… 部屋番号は404でした。 その扉の前に両膝をつき、僕は誓ったのです。 「殺してやる……」 その一心だけを、強く、強くね。 285 名前:残り18レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:31:47.06 ID:yq7w93gu0 探偵「さあどうでしょう?」 キョン「お前、朝比奈さんと付き合っていたのか!?」 ハルヒ「まさか古泉くんがやったの!?」 刑事「決まりだな」 刑事が銀の輪を―― 古泉「いえ、僕は今のところガールフレンドなんか居ませんよ」 探偵「ほら見なさい、これでまた一つ可能性が消去出来ましたね」 長門「消去法は推理において非常に有用」 探偵「おっと長門さん、クールに解説をいれているようですが貴方も容疑者の内の一人なんですよ?」 長門「……そう」 探偵「トリックから入りましょう」 294 名前:残り17レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:35:41.70 ID:yq7w93gu0 探偵「実は長門さんはピッキングの達人でした。     彼女は一般団員の為に鍵を所持しては居ませんが、振れるだけで扉を開ける能力を持っています」 ハルヒ「そ、そうなの?」 長門「それは可能」 探偵「そして長門さんは、呪術だとかなんとかの使い手でもあります。    そう、食べるだけで人を殺害できる毒を色々やって作り出していたんです」 古泉「まさか……」 長門「それも可能」 探偵「後は簡単です、朝比奈さんがそれを口にして……」 長門「確かに、それも――」 キョン「ちょ、ちょっと待てよ、そのトリックには重大な見落としがあるぜ!」 探偵「……ほう、ではお聞かせ頂けますか?」 303 名前:残り16レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:40:26.40 ID:yq7w93gu0 キョン「長門が毒入りプリンを作り出したという部分までは解る。     しかし、それを朝比奈さんが口にするとは限らないじゃないか」 探偵「と、言いますと?」 キョン「あれは元々俺が作ったものだ、ならば俺が口にする可能性が一番高い。     それに朝比奈さんが食べてしまった様に、俺以外の誰かが食べる可能性も残っている」 ハルヒ「それもそうね……あたしが先に見ていたら間違いなく食していたわ」 古泉「僕も同感です、しかし彼の観察眼の鋭さには驚かされますね」 長門「……まるで犯人みたい」 探偵「そう、つまりそういう事で長門さんに犯行は不可能だったんです」 刑事「じゃ、じゃあ……!」 探偵は再び腕時計に目を落としていた。 313 名前:残り15レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:45:47.22 ID:yq7w93gu0 探偵「何か証拠が残っているかもしれない、皆で付近を捜索しましょう!」 刑事「わ、分かった」 ハルヒ「じゃあ、あたしは新校舎方面を」 探偵「待ってください、貴方達容疑者はここに居るべきです」 刑事「そうだ、逃げられては困るからな」 古泉「承りました」 キョン「なら、俺がコーヒーでも淹れるわ」 長門「……」 探偵「文字媒体ではBGMが無いけど、高望はいけないな……」 刑事「では俺はあの陸上部の後を尾行する」 探偵「わかりました、こちらは近くの河原と……”彼”に情報を貰いに行きます」 327 名前:残り14レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:51:09.84 ID:yq7w93gu0 刑事パート 「いっちにっ……いっちにっ……!」 目の前には陸上部員達の背中が見える。 なんて速さだ……この俺でさえ追いつけないなんて…… ああ、しかし懐かしい。 思えば若いころはこうやって仲間達と共に煌めく汗を流したものだ。 そう、真夏の甲子園を目指して。 こうやって焼けるようなアスファルトの上を駆けているとそれが鮮やかに蘇ってくる。 この匂いも懐かしい…… 「いっちにぃっ! いっちにぃっ!」 自身で気付いた時には、口から掛け声が漏れていたのであった。 342 名前:残り13レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 14:57:13.80 ID:yq7w93gu0 探偵は河原に来ていた。 夕陽は既に景色の彼方へと埋もれつつあり、 辺りにはコントラストを引き立てる焼けた光が満ちていた。 緩やかな川の流れはそのエネルギーを乱反射し、 きらりきらりと美しい輝きを放っている。 「さて……どうしようかな……」 探偵は呟くと、出来るだけ平たい石を拾い水面へと向け放った。 ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり……どぼん。 勢い良く回転していたそれは、数回跳ねたのち、やがて力尽きて沈んでいった。 「そろそろ頃合いかな」 全てを見届けた探偵は重い腰を上げ、解決への布石を目指し歩きだした。 362 名前:残り12レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:02:02.44 ID:yq7w93gu0 男「いらっしゃいあっせぇー!」 探偵「SOS団についての情報が欲しい」 男「ただいまこちらのジャンボタコ焼き、10個で800円となっておりまぁーす!」 探偵が財布を出し、そっと1000円差し出す。 男「どうやらあいつ等は普通の人間じゃあないらしい」 探偵「それは一体どういう……?」 男「涼宮ハルヒ、彼女はこの世の神とも崇められる力を持っているらしい。   さらには古泉一樹は超能力者、死んだ朝比奈みくるは未来人という話だ」 探偵「そこに絡む内情は知らないか?」 男「こちらのビッグお好み焼きも御一緒にいかがっすかぁー!?」 探偵は再び1000円を取り出し、投げつけた。 402 名前:残り11レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:10:27.60 ID:yq7w93gu0 男「どうやら涼宮ハルヒを中心とした彼女らは、内部でいざこざが絶えなかったらしい」 探偵「具体的に」 男「涼宮ハルヒは様々なトラブルを招き入れる。   しかし彼女自身はそれを認識しておらず、その処理は専ら団員達に任されるらしい。   それは長門有希や古泉一樹、朝比奈みくる達にとってプラスでもありマイナスでもある。   問題は、彼女ら全ての方針が一致している訳では無く、場合に寄っては対立する可能性もあるという事だ」 探偵「つまり……何らかの内部抗争が勃発したと?」 男「ただいまぁー、こちらのー……コホン。ああ、最近の神人の出方は尋常じゃなかったからな。   さらには時空断裂やら情報操作遮蔽用スクリーンの観測も行われた」 探偵「そうか、わかった」 男「ありやとっしたぁー!」 探偵が席を立つと、入れ替わりに女子高生客が来た。 女子高生「あの、レーヴァティンが手に入らないんですが……」 男「レーヴァテインのドロップ率は0.03%だ。これを自力で手に入れるのは些か辛い。   それよりもネカマプレイでもやって貢がせ、それを元手に購入すればいい」 440 名前:残り10レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:15:41.27 ID:yq7w93gu0 探偵は走っていた。 夕陽が落ちゆく街の中を、キックボードでだ。 やけに立体感と臨場感が伝わらないが、速度的には車より速く駆け抜けていたりする。 さあ、残り3分の1を切ったぞ。 そろそろ本腰をいれるべきだな。 そういう風に固く決心をしているようにも見えた。 そして存分に遠回りをして校舎に戻って来た時、既に日は落ちていたのだ。 465 名前:残り9レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:19:41.38 ID:yq7w93gu0 ドカンッ! と思わず書いてもいいくらいの勢いで部室の扉が開かれていた。 俺は古泉と交わしていたオセロの一局を中断し、そちらへ目を遣る。 探偵と、汗だくの刑事が立っていた。 「さて皆さん、お待たせしました」 そして不敵にもゆっくりと歩み寄ってくる。 俺は悟った。 この物語が佳境へと突入したという事を。 今、最大の山場へと向かっているのだと。 483 名前:残り8レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:24:31.31 ID:yq7w93gu0 探偵はコーヒーカップ片手に語り始めた。 「先ず始めに。  貴方がたSOS団は表の顔と裏の顔を持っています」 ゆっくりと見回される。 俺もそれに倣うと、ハルヒ、古泉の顔に焦りが浮かんでいるのが見て取れた。 長門はハードカバーのSF小説に目を落としているようだ。 その沈黙を破ったのは古泉だった。 「一体、何があったんですか?」 探偵はその言葉を受けて何度も頷いたり屈伸したりしたあと溜めに溜め…… 495 名前:残り7レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:26:56.66 ID:yq7w93gu0 「朝比奈さんは疲れていたんです、日々の活動にね。  そして彼女はつい、冷蔵庫の中にあった美味しそうなプリンを口にしてしまった」 探偵はそれだけを口にすると、確かめるように深く頷いていた。 513 名前:残り6レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:30:56.65 ID:yq7w93gu0 ハルヒ「その所為でみくるちゃんが毒で……!」 古泉「だとしたら、やはりプリンを作った人物が犯人ということに……!?」 長門「……そう」 探偵「そこで先程、鑑識から結果が来ました」 刑事「そ、それでどうだった!?」 探偵「毒物反応はありませんでした」 キョン「だろうな」 探偵「つまり、初めからプリンには毒など仕込まれて居なかったんです」 ハルヒ「……」 古泉「……」 長門「……そう」 556 名前:残り5レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:37:59.66 ID:yq7w93gu0 探偵「そうです、丹精込めて作ったプリンに毒なんて仕込めません。    あとで自分で食べようと思っていたのですからね。    しかし犯人の思惑は外れ、朝比奈さんにプリンを食べられてしまい激怒してしまった。    そしてついカッとなって……彼女を殴り付けた」 ハルヒ「それで打ち所が悪くて……」 探偵「その通りです。    殴られた勢いで地面に強く頭を打って気を失い、さらにその後もう一度打ち付けたのが致命傷となりました。    見てください、頭部に二つの傷痕がありますよね?」 古泉「確かにあります」 探偵「そうです、つまり犯人はこのプリンを作った人物ということになります。     そして鑑識から、このプリンの器に二つの指紋が発見されたという報告を受けました」 長門「……そう」 探偵「ひとつは被害者である朝比奈みくるさんのもの、そしてもう一つは――」 571 名前:残り4レス[雷の所為で回線が繋がらない] 投稿日:2008/08/10(日) 15:42:29.33 ID:yq7w93gu0 「犯人は、あんたや」 探偵が指を差していた。 真っ直ぐに、迷いなど無く。 その指差されている先に居るのは…… 「はぁー……」 深く溜息を吐いている俺だった。 探偵の声に続き、 「キョン……」 ハルヒの声。 「えっと、最初に言ってたましたよね?」 古泉が戸惑っている。 「……そう」 長門も戸惑っている。 「ようやくかよ」 さらに俺も戸惑っていた。 597 名前:残り3レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:49:26.98 ID:yq7w93gu0 カチャリ。 俺の両手に冷たい銀の輪が掛けられる。 刑事は首を左右に振りながら、 「どうして君のような青春真っ只中の人間がこんな事を……」 目頭を拭っていた。 しかし俺は、その目から涙が一滴すらも零れていないのに気付いていた。 正直、とことんうざったい奴等だな全く。 そんな愚痴など口に出す気すら失せている間に、 「じゃあ、行こうか」 警察関係者に体を引き摺られていく。 「キョン、待ってよ! キョン!」 背後から団長さんの声が聞こえてくるが、今の俺には振り向く権利すらねぇよ。 ただの人殺し。 なんだからな…… 暗い景色、白い校舎を赤く染めているランプが印象的だった。 624 名前:残り2レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:54:14.96 ID:yq7w93gu0 ハルヒ「そんなっ……言ってたけど……最初から言ってたけどそんなっ……」 古泉「涼宮さん……」 長門「……そう」 探偵「事件は、解決しました」 刑事「ああ、終わったな」 探偵「なんとか、持ちましたね」 刑事「ああ、なんとか放送時間にも間に合ったようだ」 ハルヒ「キョンの馬鹿……」 古泉「何故こんな事に……」 長門「そう」 探偵「……では帰りましょう」 刑事「……ああ」 654 名前:残り1レス[] 投稿日:2008/08/10(日) 15:59:33.46 ID:yq7w93gu0 夜の校舎。 その食堂にて、刑事と探偵はコーヒーを口に運んでいた。 静けさだけが満ちているその中で、時計の針だけが音を立てている。 刑事「しかし、どうして君は犯人である彼の自白に耳を貸さなかったんだ?」 探偵「自白?」 刑事「最初に彼が言っていたじゃないか」 探偵「ああ、その事ですか。    ……だって、信じたくないじゃないですか」 刑事「……何をだ?」 探偵「仲が良かったはずの彼らが、互いに疑い憎み合う関係だったなんて……信じたくないじゃないですか」 刑事「……」 探偵「さぁ、今度こそ帰りましょう。二度と、こういう場所へ出向かないでいい事を祈りながら」 刑事「……悲しい、事件だったな」 二人は、その場を後にし…… ようとした中立ちの姿勢で止まっていた。 679 名前:CM[] 投稿日:2008/08/10(日) 16:08:12.38 ID:yq7w93gu0 男「あなたの心、渇いてはいませんか!?」 女「真夏の日差しで干からびてはいませんか!?」 男「そんな貴方にオススメなのがこれ!」 女「一滴垂らすだけで肌が潤い、じめっとした状態を一日キープ!」 男「わぁーお! すごーい!」 女「夏の焼けるような日差しにこの一本!」 男「モイスチャー・フォーユー!」 ナレーター「夏の湿気とカビには、姉妹品のカビ殺しをどうぞ!」 702 名前:予告[] 投稿日:2008/08/10(日) 16:11:51.91 ID:yq7w93gu0 探偵「また……事件ですか……」 舞台は高校。 刑事「飛び降り自殺!?」 屋上からの逃避行。 女子高生K「私は、何も知らないよ!」 無実か。 女子高生T「お姉ちゃん……どうして……」 事件か。 先生「私の責任や……私が悪いんや……」 揺れる真相。 探偵「この事件、まだ終わらせる訳にはいきません」 33レス探偵。 打ち切りか、存続か!? 探偵「なんやかんやは、なんやかんやです!」 710 名前:Cパート[] 投稿日:2008/08/10(日) 16:13:31.14 ID:yq7w93gu0 探偵「ちょ……いつまでこの姿勢なんですか……」 刑事「おい、俺の指カップの中に入ってんだぞ……」 二人は何時までも、小刻みに震えていた。                               終 724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/10(日) 16:24:07.97 ID:yq7w93gu0 という事で今度こそ本当に終わりです 正直、kskの流れは真面目に読んでくれる人が減りそうで止めて欲しかったんだけど、 まあこれはこれで楽しめたのかもしれん 最初はキョンが知らない所でプリンに本当に毒が盛ってあったり朝比奈さんが消えたりするような、 金田一ルートにしようかバーローにしようかとも迷ったけど、隠蔽工作で遊んでたら結果的にこうなってた という訳で長々と付き合ってくれて乙と言わざるを得ない 33分探偵に興味が沸いた人が居たら、一度は見てみるといいと思いますよ