こなた「つかさっ!見るなっ!!」 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 14:05:29.78 ID:qH8bXjR70 また、この夢だ。 ここ最近何度も何度も繰り返し見続けている。 そしてその度に私は飛び起きてしまう。 夢の内容は総じて次の特徴を持っている。 私がつかさに酷く当たり散らし、彼女の怯えた表情を眺める。 次に彼女が抵抗を見せるので私が力尽くでそれを抑え込む。 最後に、抵抗が出来なくなった彼女は従順になる。 何度見ても、何度経験しても。 そしてそれが夢という嘘の世界だったと認識していても…… 私は未だにその光景に慣れる事が出来ない。 そもそも現実と空想の内容があまりに剥離している。 現実はそう、私がつかさを虐めているのではない。 つかさが私を虐めているのだから。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 14:16:14.85 ID:qH8bXjR70 登校準備を行う朝というにはまだ早い時間帯。 午前6時15分。 二度寝をしても良かったのだけれど、とてもそういう気分でもないし、 今日は私が食事当番だったのでこのまま起きているほうがいいかな。 そのように考えを纏めた私は、昨夜の残り物を温めつつも新たに味噌汁の調理に励んでいた。 なんとなく寂しさを感じて点けたテレビからは明るいジングルと共にニュースが流れ、 それが世の中の平和さを高らかに謳い上げている。 今の私にとってそれが癪に障るものだとはいえ、このまま鍋の煮立つ音を聴き続けるのもまた陰鬱だ。 早くゆーちゃんか、若しくはお父さんでも起きてこないかな。 家族と過ごす朝の穏やかなひと時を僅かな希望に見立てて、私は一人味噌汁の味を熱心に視続けていた。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 14:29:33.16 ID:qH8bXjR70 やがて時計は7時を回り、 目を擦りながら起きて来たゆーちゃんに父を叩き起こすように頼むと、 父は程無くしてだらしない格好のまま居間へと姿を現してきた。 とっくに配膳は済ませてあったので、すぐさま各々が指定席へと腰を落ち着けていた。 そうじろう「物騒な世の中になったもんだー」 茶碗片手と寝ぼけ眼でニュースを眺めながら呟いている。 ニュースの内容は何時の間にやら明るいものから犯罪を中心とした内容へと切り替わっていたようだ。 つい先日巻き起こった殺人事件についてアナウンサーが報道している。 ゆたか「怖いよね……」 ゆーちゃんが呟いているが、私には彼女の言葉の意味がよく理解できなかった。 そんなテレビの中での誰かなんて私達とは一切の接点すらないし、 そもそも全国に何億と居る人たちのなかでのほんの一握りがそれに当選してしまっただけだ。 運が悪かったのか日頃の行いが悪かったのか、私には知る由もないけどね。 「まぁ、気の毒だよね」 私は半笑い気味に当たり障りの無い相槌を打ち、そのまま団欒の中に身を置いていた。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 14:37:55.59 ID:qH8bXjR70 その後はいつも通りだった。 もうすぐ夏だというのにまだ涼しい朝の一時。 その登校路の中を一人歩いて行く。 かつては万年遅刻量産機と誰かさんに呼ばれていた私も、 今ではその妹さんのお陰で優等生並の無遅刻記録を誇っている。 自己ベスト更新だ。 とは言えせいぜい2カ月だか3カ月程度だから、 一般的な高校生からしてみると自堕落そのものだろうけど。 ふと、意味も無く辺りを見回す。 大丈夫、この時間帯なら出会うはずもない…… しかし解ってはいてもこの癖は抜けない。 そう、この時間帯なら出くわすとしても姉とセットだから決して手を出される事は無い。 それが解っていたとしても。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 14:52:27.63 ID:qH8bXjR70 私が教室へ来た時はまだクラスメイトの席のうち8割が空きだったものの、 読みかけの漫画に熱中していたうちにどうやら空きの方が少なくなっていたようだった。 何気なく教室入口のほうを確認してみると、 「お早うございます」 上品な笑顔と共に深々と頭を下げられた。 「おはよう、みゆきさん」 私も軽く笑い掛けてみる。 どうやったら彼女のように相手の敵意を完璧に削ぐ笑顔が作れるのだろうか? なんて考えた所で私には無理だよね。 そもそも作りが違うのだからさ。 なんて私の考えを余所にみゆきさんは、 「今日もいい日差しですね。そういえばジューンブライドという言葉がありますが……」 仕入れて来たばかりの知識を披露してくれるらしい。 それにしても綺麗で優しい声だ。 母性を感じさせるっていうのかな? いや、私に母親はもう居ないけど。 特にやる事も無かった私は、黙って彼女の知識の披露に耳を傾けていた。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 15:01:11.87 ID:qH8bXjR70 その和やかな時間は唐突にして終わる事となった。 ガラッと音を立てて開く扉に続いて、 「おーっす、こなたー!」 聴き慣れた元気な声。 その後ろからは…… 「おはよぉー」 やや間延びしたような声。 その声を耳にするだけで、私の体が意思とは反対に震え出してしまう。 落ち着け。 大丈夫、今は大丈夫。 皆が居るから。 みゆきさんとかがみ、それにクラスメイトのみんなも居るから。 だから余計な心配を掛けちゃいけない。 いや、それよりも私が虐められているなんて事実を露呈させちゃいけない。 「こなた……?」 私の席のすぐ隣まで迫っていたかがみが、私の様子を怪訝な顔で探っていた。 大丈夫、なんともないから。 だから…… 「おはよっ、かがみん! つかさ!」 私は満面の笑みで答えていた。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 15:19:14.73 ID:qH8bXjR70 つかさは、可愛い。 これは客観的に彼女を評価した場合の意見だ。 おっとりしていて、ちょっと抜けていて、だけど持前の明るさと健気さで周囲を和ませてくれる。 あくまで”客観的”に彼女を見た場合の話だけど。 すくなくともほんの数か月前まではこれが私の主観的な印象でもあった。 けれども実際は違った。 何が原因だったのか、どこがターニングポイントだったのかは分からない。 ある日を境に彼女が180度変わってしまったのだ。 その日の放課後、つかさに呼び出された私がトイレへと向かうと、そのまま有無を言わさず殴られた。 ただ無言で、蹴られた。 私は何も出来なかった。 彼女が何故そういう事を私にするのか、彼女が何故普段からは想像も出来ないような冷たい表情を浮かべているのか…… それが私にはわからなかったから。 ただ、今は…… 彼女が、怖い。 皆の前では普段の可愛らしい笑顔を浮かべたままでいられる、 つかさが、怖い。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 15:34:34.12 ID:qH8bXjR70 昼休み。 何時も通り私の席を中心として、かがみ、みゆきさん、そしてつかさが集まっている。 私はというと適当に詰めて来た自作の弁当を拡げ、彼女達の談笑を眺める事に徹していた。 以前ならば私が率先してかがみを茶化していたのだろうけど、 最近はそんな気は毛ほども起こらない。 「味噌汁は煮立たせると風味が落ちてしまうそうですよ」 みゆきさんが相変わらず笑顔で語り出すと、 「なんで突然そんな話をしてんのよ?」 かがみがすかさずツッコミを入れていた。 『料理が苦手なくせに話に首を突っ込んでくるかがみ萌え』 とでも言おうかと考えて、やっぱりやめた。 下手に刺激しない方がいいだろう、という勘が働いたからだ。 かがみを、ではなく、今現在和やかに微笑んでいるつかさを、だ。 その後は私が一人無言で弁当箱を突いていると、 「あんた、なんか元気ないわね? 大丈夫?」 かがみが私の瞳を覗き込んで来ていた。 「大丈夫だよ、ちょっと寝不足なだけだから」 半分だけの嘘に留め、みゆきさんとつかさを見回した。 友達を騙すというのは些か心が痛むものだけど、仕方無いよね。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 15:47:27.14 ID:qH8bXjR70 いつ猛獣に襲われるとも知れないというプレッシャーを終始感じつつも、 ようやくして放課が近づいてくる。 そのざわめくホームルームという時間の中で、 つかさがチラリとこちらを覗いているのに気付いた。 わかってるよ、今日は25日の後の26日だもんね。 軽く左手を振ってその意を伝える。 彼女は薄く笑うとまたも前へと向き直っていた。 このままホームルームが終わらなければいいのに。 そんな願いなど叶うはずも無く、白石によって放課を告げる号令が掛けられることとなった。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 16:27:24.80 ID:qH8bXjR70 自由な時間が訪れと共に、喧噪に包まれた室内。 「お姉ちゃーん! わたし、こなちゃんに用事があるから先に帰ってて」 つかさは教室へとやって来た姉に手を振っていた。 「なら、あたしも付き合うわ」 当然引き下がらないかがみに私は、 「かがみはいいよ、つかさは私に用があるんだから」 それとなく断りを入れておく。 まさかこれから後の出来事にかがみを立ち合わせる訳にもいかないし。 「あたしだけ仲間外れかよ」 ただでさえ目付きの悪い彼女が悪態を吐く姿には威厳すら感じられる。 少し気の毒だったかなと次の手を考えていると、 「わたくしが居ますから気を落とさないで下さい」 やんわりと微笑むみゆきさんがフォローしていた。 「はいはい、あまり遅くならないようにね。みゆき、行こう」 「それではまた明日」 軽い会釈を残してみゆきさんはかがみを追いかけて行った。 やっぱりあの二人は仲が良いな。 ちょっとだけ嫉妬しちゃうよ。 消えてしまった二人の後ろ姿を眺めていた私に、 「それじゃ、行こっか」 まだクラスメイト達が残る室内で、つかさが私に笑い掛けていた。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 16:49:13.54 ID:qH8bXjR70 遮るものが何も無い屋上を鋭い風が吹き抜けていた。 緑色の高いフェンスに囲まれてはいても、その傍らに近寄れば身震いしてしまいそうだ。 そんな考えを巡らせつつ見回すと、その一角に”危険”のプレートが掛けられているのが目に付いた。 どうやら腐食によって繋ぎが折れたフェンスを針金のようなもので仮止めしているらしい。 管理が杜撰なんてもんじゃあないよ。 「いい景色だよね、ここ。こなちゃん、ちょっと飛び降りてみない?」 つかさが遠くを見つめながら、平然した態度でさらりと口にしていた。 「物騒な冗談はやめてよ」 「冗談でも本気でもどっちでもいいんだけどね。それより……」 こちらへ向き直り、 「今日、26日だよね」 冷笑しつつ首を傾げている。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 16:50:13.38 ID:qH8bXjR70 26日。 つまり昨日は25日。 25日と言えば私が働いているコスプレ喫茶の給料日だ。 予め分かっていたので鞄の取り易い位置に挟んでおいた封筒を取り出し、 「はい」 差し出す。 未開封の上、ご丁寧にも給与明細も同封してある。 つかさは私の手から素早く奪い取ると、慣れた手付きで中身を確認していた。 「いち……に……さん……」 そして、 「6万と2250円か。もっと頑張ってよ」 明細書と照らし合わせながら呟く。 私はその嘲笑にも似た笑顔を無の感情で眺めていた。 コアなお客さんから頂いたチップは含めていないのはせめてもの抵抗だ。 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:04:22.62 ID:qH8bXjR70 「まあ、今日はこれでいいや。なんかやる気でないし」 つかさは軽い口調で呟くと身を翻し、昇降口へと歩き出していた。 その後ろ姿を眺めつつ私は考える。 本当に、どうしてつかさはつかさじゃなくなってしまったのだろうか。 以前の邪気が無く明るく振る舞い、人懐っこく慕ってくれたその姿を思い浮かべてみる。 あれはもしかするとつかさではなく、彼女と良く似た双子だったんじゃないのか。 かがみという姉が居るけれど、実は何らかの拍子に二卵生と一卵性を伴った三つ子だったとか…… そんな訳ないか。 彼女の姿が昇降口へ消えようとした時、瞬時の妄想的な思考を打ち切った。 そして―― A.原因は私にあるのかもしれない。   咄嗟につかさを呼び止め、和解を求めようと試みた。 B.原因は何一つわからない。   そのまま見送り、怨みを込めてただその後ろ姿を睨み付けていた。 >>50 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:07:19.75 ID:HEhquIEr0 まさか安価とは A 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:22:32.26 ID:qH8bXjR70 「つかさ!」 咄嗟に大声で呼びかける。 原因は私にあるのかもしれない。 あの優しいつかさがこんな事をするくらいだ、何か私に過ちがあったに違いない。 だったら、だったら謝るべきだ。 思わぬ声に驚いたのだろうか、つかさがスカートをはためかせるほどの勢いで振り返った。 若干驚いたような表情が離れたこの位置からでも見てとれる。 すぐさま昇降口まで駆け寄り、 「今更かもしれないけど、私が悪かったのなら謝るから」 日差しを遮る暗がりの中で、つかさの手を握って想いを伝える。 「さ、触らないでよ!」 温厚な彼女からすると意外なほどの見幕で即座に振り払われた。 私は―― A.「お願い、理由を話して!」   引き下がらずにそのまま原因の追及を求めるべきた。 B.「ごめん……」   その様子を見て、何も言い返せなくなってしまった。 C.「どうしてそういう事をするの!?」   湧き上がってくる感情を押し殺せずに、怒りをぶつけた。 >>58 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:24:35.31 ID:rDJzjn830 D 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:40:24.69 ID:qH8bXjR70 あ、しまった 「Dだから一番下の回答だな」と思いこんで書いちゃったからそのまま進める 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:40:53.26 ID:qH8bXjR70 「どうしてそういう事をするの!?」 つかさの肩を掴み揺するように問い掛けると、 「……」 無言のまま見下ろされる。 どうして私が…… どうして私がこんな目に遭わなくちゃならないんだろう。 かがみが居て、みゆきさんが居て、ゆーちゃんや他の皆が居て…… 後はつかささえ元のままで居てくれれば普通に笑いあえるのに。 季節が一巡りするほど前の出来事が、頭の中をフラッシュバックするように巡っていく。 皮肉にもその当たり前だった日常が尊いものだと今になって気付けたんだ。 だからこそ、私はそれを取り戻したい。 「答えて、つかさ! 出来る事なら協力するからさ!」 懇願に近い意を込めて、その想いをつかさにぶつける。 しかし、つかさは未だ無言の姿勢を貫いていた。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 17:56:38.14 ID:qH8bXjR70 そして…… 『何も、知らないくせに』 注意していなければ声にすら気付けないほどの声量で彼女が呟いていた。 正確にはその形に唇が動いた、という方が正しいのかもしれない。 やはり何か理由があるんだ。 そう直感したのですぐさま、 「つかさ!」 その眼と、その光の奥にある何かをも見逃さないように直視する。 互いに無言。 やがてその時が過ぎると、つかさが逸らしていた目線のまま、 「こなちゃんは……」 言葉の語尾が聞き取れない。 「なに?」 当然、聞き返す。 すると今度は私にきっかりと視線を合わせてから―― ――こなちゃんは、うざいよ その言葉を別れの挨拶として、彼女は階段を一段一段降りて行った。 今度こそ私は、ただ見送ることしかできなかった。 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 18:12:50.23 ID:qH8bXjR70 帰宅した時、既に日は暮れて夕食の準備が整っていた。 あのまま家に帰ると家族に心配をかけそうだと自分でも思った為、 軽く顔を洗ったあとにゲマズで品定めをしていた。 と言っても、サイフの中にお金は無いんだけどね。 「どうだー! 俺特性チキンカレーうどんだぞー!」 私の心情など微塵も汲み取る気配が無いといった様子で、お父さんが器を頭上に掲げている。 さらには、テレテレテレテレー、なんてどっかの伝説的なBGMまでもを口ずさんでいるし。 まあ余計な心配が掛からないから、それはそれでいいんだけどさ。 心底、もう少しくらい空気を読んで欲しいよ。 ……別にいいんだけどね。 「どうしたこなたー?  お前の好きな鶏肉と、ゆーちゃんの好きなうどんの両立を目指した画期的なアイデアなんだぞー?  もっと褒め称えてくれてもいいと思うんだけどなー?」 「お父さんはカレーくらいしかマトモに作れないじゃん」 私の一声にゆーちゃんが、 「わ、わぁー、うどん大好きなんです」 大げさなリアクションを披露していた。健気だなぁ。 それからは、なんやかんやで新しく始まったドラマを肴に、 やたら味の薄いカレーうどんを各自口へと運び続けていた。 「正直、ミスった」 お父さんのその一言だけで、その様子を語るには十分すぎたと思う。 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 18:29:44.85 ID:qH8bXjR70 騒がしい時間はあっという間に終わりを告げ、私はお風呂を済ませた。 ベッドの頭元にある時計を覗くと、現在の時間は午後10時過ぎ。 静まりを見せつつある夜という世界の中で、私はテレビも点けずにベッドに身を預け、天井の片隅を眺めている。 考えているのは、当然昼間のこと。 つかさのこと。 半ば殴り合いでもするかのような勢いで掴みかかってしまったなと今になって反省する。 でも、つかさのあの表情。 あの普段皆といる時は見せない冷めたような眼の、さらにその奥にある表情。 それに違和感を覚えた。 なんなのだろうか、あれは。 もう一度、心の中であの情景を思い浮かべつつ探っていく…… それから暫くすると、一つの考えに辿り着いた。 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 18:31:49.45 ID:qH8bXjR70 そう、あの瞳の奥にあったのは―― A.憎悪の感情だ。 B.怯えの感情だ。 C.戸惑いの感情だ。 D.それら以外の感情だ。 >>79 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/05(火) 18:33:11.79 ID:fR5YM9/9O B 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 19:44:43.48 ID:qH8bXjR70 怯えている。 そう、あの瞳の奥にあったのは怯えの感情だ。 間違い無い。 そうなると新たな疑問が湧き上がってくる。 一体、何に怯えているのだろうか? 私に? いや、まさか圧倒的優位に立っている筈のつかさが私に怯えるなど到底考え難い。 ならばそれ以外の要因だろうか? ……その可能性が高い。 だったとしたら、どうして私に話してくれなかったんだ? そこまで考え付き、次にとるべき行動を思い浮かべた。 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 19:45:28.83 ID:qH8bXjR70 どうするべきか―― A.答えを本人に聞けばいい。   すぐさま自身の携帯電話を用いて、つかさの携帯電話へと繋げた。 B.いや、焦ってもしょうがない、ここは様子を見るべきだ。   原因はまた明日探ることにして、今は休息を取ろう。 >>96 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 19:46:41.10 ID:krB/kOoK0 B 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 19:57:40.66 ID:qH8bXjR70 いや、ここで焦ってもしょうがない。 ここは様子を見るべきだ。 屋上でのつかさの様子から察するに、今から電話を掛けたところで拒絶される可能性は非常に高い。 そうなると取り付く島すらも失われてしまう。 さらには私自身も正直疲れている。 だったら今はその事を考えず、クールダウンも兼ねて休息をとるべきだろう。 このまま目を閉じて眠ろう。 ……と考えては見たが、よくよく考えると時刻はまだ10時半を回ったばかり。 眠るにはまだ早いよね。 最近は殆どご無沙汰だったけど、気分転換の意味でネットゲームでもやってみようかな。 ゆっくりと身を起してパソコンの電源を入れた。 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:11:33.58 ID:qH8bXjR70 クライアントを立ち上げ画面に映し出されたログイン画面を眺めていると、 『城オンライン、懐かしいな』 なんてコアなネタの一つでも呟きたくなってしまう。 それは置いておき、即座にIDとパスを入力しログインする。 画面が暗転した後、自身が扱っていたキャラが表示されると”フレンド検索”を行った。 ”nanakon” うわ、この実名を捩ったセンスの欠片も無いネーミングは…… 『konakona:センセーお久しぶりーノシ』 まあ、私も人の事は言えないけどね。 『nanakon:久しぶりやないかい! 飽きて他のに移ったんかと思ってたわ^^;』 なんというレスポンス速度。 暇人すぎる。 『konakona:秋田訳じゃないんですけど、まあ色々諸事情があったもんで』 『nanakon:男か?』 『konakona:生徒にそんなこと聞いて悲しくないッスか?』 黒井先生は若干の沈黙のあと、 『nanakon:あ、急に用事を思い出したわ』 逃げ出そうとしていた。 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:26:36.61 ID:qH8bXjR70 しかし逃さない。 『konakona:まあまあ、折角だから狩りしませんか?』 『nanakon:おk、何処行く?』 『konakona:チョプロン村近くの洞窟にいるんですけど』 『nanakon:おっしゃ、行く行く!>w<b 御庭番の出番やな!』 『konakona:またネタキャラですか』 『nanakon:人生の5割はネタで、残り半分はツッコミや!』 『konakona:オチてばかりの人生ですね、分かります』 『nanakon:リアルにヘコんだわ・・・・』 十数分後。 『nanakon:うはwwwwwおkwwwwwww』 『nanakon:うめぇwwwww』 『nanakon:カオスwwwwwwww』 『nanakon:やばいwwww死ぬwwwwwwwww』 やたらログ流す先生を尻目に、私は一人”狩り”に勤しんでいた。 単純作業の中に身を置いておくとそれなりに落ち着きを取り戻せる気がする。 そしてモニター越しにはやたらハイテンションの先生が居るのだ。 ネット上では駄目っぽい感じに見えるが、実際には結構頼りになりそうでもある。 ……相談とか、してみるべきだろうか。 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:29:00.95 ID:qH8bXjR70 A.相談する。 B.相談しない。 >>104 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:30:01.16 ID:/4Nb3z1B0 A 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:40:46.35 ID:qH8bXjR70 『konakona:あのさ、先生』 『nanakon:うはwwwwwトレインwwwwwwwwww』 『konakona:ちょっと聞いて欲しいんだけど』 『nanakon:ヤバスwwwwwwwww』 『konakona:oi』 『konakona:ミス』 『konakona:おい、紀伊店のか』 『nanakon:なんや?えらいテンション低いな?』 この人に話して本当に大丈夫だろうかという不安が脳裏を過ぎったが今更後には引けない。 『konakona:実は学校で色々あってさ』 『nanakon:どしたん?wイジメられたとかか?www』 『konakona:うん』 『nanakon:うはwwwwwwwww』 またも微妙な間が空いたあと、 『nanakon:え、マジ?』 草無しで一文字だけ帰って来た。 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:54:05.24 ID:qH8bXjR70 先生の顔を思い浮かべつつ、文字を言葉へと変えていく。 『いや、別にそんな大した事じゃないですよ。  ちょっとしたいざこざというか縺れというか、まあそんなとこでさ。  それで、その原因を探って謝ろうと思ったんだけど理由を話して貰えなくて』 『相手は?』 『つかさ』 つかさが私に行った仕打ち、などはボカして現在の方針だけ伝えていく。 『仲良しグループの中でケンカなんて珍しいな』 客観的に見れば私にだって信じられないよ。 『どうやったらいいと思います?』 『うーん、こういうのは難しいからなー』 『亀の甲より年の功って言いますし』 『余計な事を言わんといてくれ』 それからも先生は無駄にログを流し続けた後、 『わかった、自力で内情の縺れを色々とやるのは難しいやろ。先生に任しとき』 力強い一言を授けてくれた。 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 20:59:56.58 ID:qH8bXjR70 時計が1時を指し示す頃、私は眠る事にした。 先生に相談したことで、いや、誰かに相談したことで気持ちが軽くなったような気がする。 思えば、始めからこうすれば良かったのかもしれない。 私が一人でずっと事実を露呈させないように耐えて来た日々。 もしかするとそれは、ただ悪戯に自身で自身の首を絞めていたに過ぎなかったのだ。 明日になればきっとうまくいく。 今日は、嫌な夢を見なければいいな。 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 21:12:54.51 ID:qH8bXjR70 翌日は頗る快調だった。 久しぶりに悪夢から飛び起きる日から解放されたからだ。 カーテンを開け放ってから外の様子を窺う余裕すら持てていた私は、 ゆっくり伸びを行ってから階下を目指した。 私が居間に降りると辺りからいい匂いが漂っている。 どうやら朝食当番のゆーちゃんがエプロン姿でテーブル上に盛り付けた品物を並べている最中のようだ。 「おはよー」 その姿に声を掛けると、 「おはようございます」 慌てながらも明るい顔で返してくれた。 それだけで嬉しかった。 何気ない癖でテレビを点けると、またも暗いニュースが流れ出して来る。 それに対し、私は誰に向けてでもなく心の中で呟く。 皮肉なものだね。 ニュースというものはいつも私の心中とは逆の情報を伝えてくれる。 そんなに私の神経を逆なでしたいのかな? 何かの陰謀…… なんてね。 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 21:19:53.70 ID:qH8bXjR70 駆け足気味に学校へと辿り着いた。 悪い癖なのだろう、油断するとすぐ遅刻しそうになってしまう。 何とか裏口から校内へと進入し教室へ入ると、 既にホームルームに備えて黒井先生が教壇に立っていた。 バッチリと目が合ったので小言でも聞かされるのかと思わず身を竦めたが、 意味深に目配せを送られただけでその場は凌げたようだ。 なるほど、既に何らかの手を打ってくれたのだろうか? 大きな期待と、僅かな不安。 その両方を抱えつつホームルームは終わりを告げた。 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 21:28:37.15 ID:qH8bXjR70 その直後のこと。 教室を後にする黒井先生の後を、つかさがゆっくりと追い掛けて行ったのだ。 一体、何故? 私がつかさの様子を目で追っているのに気付いたのか、 「つかささんには、黒井先生から職員室まで来るようお達しが届いたみたいです」 頬に手を当てつつみゆきさんが説明してくれた。 「え、そんなのいつの間に?」 私の問いに、 「あんたが来るのが遅いからよ、ホームルーム前だったからあたしでさえ知ってるわよ?」 隣のクラスやって来ていたかがみが胸を張りつつの補足。 「一体なんなのでしょうか……?」 みゆきさんが呟き、かがみは首を傾げている。 「そう、なんだ……」 私は曖昧な返事をしつつ、居心地の悪い空気を感じていた。 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 21:42:58.42 ID:qH8bXjR70 それから時間が流れて昼休み、放課後、そして…… 黒井先生が何をしたのかは解らないけれど、 実に数か月ぶりに何の被害も被らず、今私はこうやって帰路に着いている。 朝の一件以来すっかり元気を失くしていたつかさが気には掛かったのだけれど、 わざわざ皆の前で問い詰める訳にも行かず、 さらには放課ともなれば姉と共に足早に去ってしまったので内容を訊ねる事など出来なかった。 みゆきさんやかがみも重い空気を読んでいたのか、学校ではその話題に触れようともしなかったしね。 私も始めは黒井先生の強引すぎる”策”に動揺していたものの、 どうやら案外いい方向に事態が向かっているような現状を見て、思わず安堵の溜息を漏らしてしまったくらいだ。 大丈夫。 明日になれば、きっとつかさも落ち着くだろう。 その時に改めて原因を探ればいい。 私が悪かったのならば謝ればいいし、他の何かが要因ならば共に解決へ向けて頑張ればいい。 それだけだ。 今夜は昨日夜更かしした分、早く寝る事にしよう。 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 22:02:59.05 ID:qH8bXjR70 翌日。 いつも通りの朝を迎え、いつも通りに暗いニュースに耳を傾け、 遅刻をしない程度にいつも通りの登校路を歩き、 そしていつも通り教室の扉を開け放った瞬間―― つかさの机上に、花が備えられていた。 え? 何かの冗談? しかしそれが何の冗談でもない事を、みゆきさんの表情と説明で報せられた。 つかささんが、命を落としました。 学校の屋上、脆くなっていたフェンスを乗り越え……飛び降りられたそうです。 自殺、らしいです。 あまりにも唐突すぎる内容だった。 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 22:04:26.65 ID:qH8bXjR70 皮肉にも、その日を境に私の生活は以前の平和なものへと戻っていった。 アルバイトで貯めたお金を奪われる事も無いし、 つかさの顔色を窺う必要も無いし、 必ず来るであろう放課後の時間に怯える必要も無い。 そんなごく普通の生活。 けれども、一人足りない三人での学校生活。 そのことについて寂しさも感じた。 だけど、それもすぐに感じなくなった。 これで良かったのだ。 毎晩、夢の中へ出て来ては恨めしそうに睨みつけてくるつかさ。 何時だって私は彼女に会えるのだから。 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 22:05:21.86 ID:qH8bXjR70              −BAD END−                『怨霊』 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/05(火) 22:10:42.86 ID:qH8bXjR70 役に立たないようなヒント集1 >>93 >‎一体、何に怯えているのだろうか? >‎私に? >‎いや、まさか圧倒的優位に立っている筈のつかさが私に怯えるなど到底考え難い。 >‎ならばそれ以外の要因だろうか? >‎……その可能性が高い。 >‎だったとしたら、どうして私に話してくれなかったんだ? だったとしたら、どうして私に話してくれなかったんだ? いや、”話さなかった”のではなく――