涼宮ハルヒの依存。 1 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:10:36.45 ID:sqJxJ5+T0 ここ最近、ずっと気にしていることがある。 周りから見ればそれはひとつの風物詩的なものに見えるかもしれない。 というか、俺も気にするまではそれを当たり前のことと思っていて 周りに疑問を抱かれていようがいまいが、特に疑問に思うことなく日々を過ごしていた。 「ちょっとキョン。そっち詰めなさいよ」 そう、ハルヒだ。 もう今まで何度こいつに理不尽な命令を突きつけられ、それを実行してきたか。 俺にも拒否権はある。だがそれを拒否しつづけると、至極迷惑な話だが世界がぷちっと変わってしまうかもしれない。 いや本当に迷惑だな。どう考えても、俺は良き被害者ってヤツじゃないか? 「? なによ、なにジトジト見てんのよ?」 ジトジトってなんだ。俺は日陰か。 そうするとお前は太陽だとでも? いやいや、そんなことはどうでもいいな。 事実を踏まえた上であえて俺の悩みを聞いて欲しい。誰に? って誰でもいい。 ここ最近……いつからはわからないけど、いつも右を向けばそこに涼宮ハルヒが存在する。 丁度今のように。 この広い広い体育館の中で、ハルヒはわざわざ俺の隣に座ってきた。 どこにだって座れる。わざわざ俺の隣じゃなくとも、どこにだってな。 12 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:22:02.89 ID:sqJxJ5+T0 「うーん。くやしいわねぇ、ちょっと上手いじゃない」 演奏のことを言ってるのだろうか。 どうでもいいが、ハルヒが妙にぎゅうぎゅうに詰めてくる所為で 顔にカーテンが当たってほとんど見えない。 「ねぇキョン? アレ、なんて曲かしら?」 「え? なんだって?」 「あーれーなーんてーきょーく?」 響き渡るベース音となんだかよくわからないシンバルっぽいやつに声を遮られた。 耳に唇が触れるほどの距離でハルヒが囁く。 そうだよ。叫ぶじゃなくて囁いてる。これはハルヒの良心か。なんでもいいが近い。 「近いって」 「なに?」 「離れろよ。カーテンが邪魔で見えないんだ」 「聞えないー」 都合のいい耳だな。 常識的に考えて聞こえないわけがない。これで聞こえないなら、あとはなにも聞こえないと思う。 それぐらいの零距離で話してる。 誰だかよくわからない上級生達のコピーバンドがステージから降りるまで ハルヒは俺の視界をカーテンで遮り続けた。体育座りで、俺をずっと壁に押し付けながら。 16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:11:02.69 ID:sqJxJ5+T0 「さぁ! 次はどこに行こうかしら?」 「どこでもいいじゃないか。好きにしろ、じゃあな」 「そうね! それじゃあっち!」 意見はいつも通り無視。 俺だって色々と廻りたいし、谷口や国木田なんかと合流するのもいい。 だけどそんな俺の願いは通るわけもなく。痛いほどに握られた右手に引っ張られていく。 「あれ食べたい」 「勝手に食えよ」 「買ってよ! 買いなさい!」 「嫌だ。俺は俺の分だけ買う」 たっぷりとケチャップを付けて、マスタードは付けない。苦手だ。 明らかに作り置きだろうとは思うが、量産された薄いトレーに載せたそれを受け取る。 「よっと!」 「あ、こら」 「あむ……ん!」 「…」 ハルヒはフランクフルトを素早く奪うと、一口で三分の一ほどを頬張った。 得意げに俺に向けて微笑みを放ってくる。唇に少量のケチャップを残したまま。 誰がどう見ても、俺とハルヒは一般的な高校生に見えるだろう。 ただそれは……誰よりも仲がいい男子と女子って感じのニュアンスで。 俺はそれに参っている。なにかっていうと、常にこいつは俺の傍に居やがるんだ。 17 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:21:49.33 ID:sqJxJ5+T0 カキ氷、ジュース、可愛い女の子達が作った手作りクッキー。 俺が買った全ての食べ物は、全部ハルヒが毒見しやがった。 「はー。もうお腹いっぱいよ!」 「お前、全部人の金で……」 「なによ。全部一口貰っただけじゃないの」 「そういう問題じゃなくてな」 「細かいことなんてどうでもいいじゃない! ちっさいわねー、キョン」 お前がでっかすぎるんだよそれは。 スピーカーから流れる生徒リクエストの洋楽をBGMに 腹休みも含めて、中庭のベンチで休憩。 「…」 「なによ?」 相変わらずこいつは右に座る。座る、座る。 ずっとハルヒのペースだ。俺がどこに行くにも着いて来るし、着いて行かされる。 誰がどう見ていようがハルヒには関係ない。眼中にない。 俺の意見は無視。俺が気にしていようが、どうやらそんなのには興味ないらしく… 二階の窓に映る朝比奈さんを見つけて、無邪気に手を振っている。 なんでずっと俺の右に居るんだお前は。 聞きたいけど……聞いたらそれはそれでうるさいんだろうな。 21 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:44:14.65 ID:sqJxJ5+T0 「次はドコ行こうかしら?」 「どこでも行けばいいだろ」 「ドコがいい?」 膝の上でピラピラと小さな地図を広げ、足を前に伸ばしている。 綺麗に折り後が付いたそれには、廻った所に赤いが付けられていた。 ハルヒの右手に、赤いペンが握られている。俺の胸ポケットに入れておいたペン。 「あ、焼きそば食べたい」 「まだ食うのか」 「文化祭って言えば焼きそばでしょ?」 知らない。そうだとして、それは……俺が買わされるのか。 「あ!」 「なんだよ」 「もうすぐ、鶴屋さん達のダンスが始まるわ」 「ダンス? どれ……ほんとだ、鶴屋さんの名前がある」 「言ってたわね、観にきてって」 「そうなのか」 鶴屋さん以外は知らない名前だ。どうやら、何人かの友人と一緒にするんだろう。 あの長く綺麗な髪が舞うのは俺も観たいな。どういうのかは、知らないが。 そこに朝比奈さんの名前がないのは……まあ、あの人は一人でなにかさせたほうが絵になる気がする。 22 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:51:24.06 ID:sqJxJ5+T0 「じゃああたし先に体育館行ってるから、焼きそば買ってきて」 「お前な」 「それじゃ!」 「あっ、こら」 地図を俺に渡すと、元気に走っていった。走り方は女の子だ。ペンは奪われたまま。 ご丁寧に既に焼きそばを売っている所には赤い印が。もちろん駄賃なんて洒落たものは渡されていない。 ……ということはこれ、俺は自由になったんじゃないか? ペンなんて明日にでも返してもらえばいいし……探したけどドコに居るかわからなかったって言えばいいだろ? そりゃちょっとは不機嫌になるだろうけど、そんなので世界が変えられそうにはならないだろ。 … ……ま、俺も焼きそばは食べたいし……それだけは買いに行こう。 あとは知らない。俺だって、色々と観て廻りたいんだ。 「あれ、一人ですか」 って言ってるのにお前か。 「なんだよ、悪いか」 「いえ、てっきり涼宮さんとうろついているのかと」 「そっちはどうなんだよ。古泉、お前も一人じゃないか」 「やっと解放されましたよ。……まぁ、女の子に囲まれるってのは嫌いではないですけどね」 むかつくなコイツ。そりゃいい顔立ちをしてるのかもしれないけど、いやむかつく。 ってそうじゃない。やっと一人になれたってのに、何故お前に出会わないといけない。 ハルヒの変わりに、古泉が左側に来た。 23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:04:25.67 ID:sqJxJ5+T0 「長門さんの所、行きましたか?」 「まだ廻ってないな」 「面白かったですよ。なんか、占い師が様になってますね」 「そうだろうな」 買いに行くまでの距離で、古泉は三度女子から声を掛けられた。 それをあいつは断って、俺についてくる。なんでだよ。 これなら全然ハルヒの方がマシだ。 「で、なんの用だよ」 「いえ。特にそういうのはないですね」 「あのな、こういうときは男じゃなく女と行動してりゃいいんじゃないか?」 「怒りが見えますねそれ」 「嫉妬だよ。わかってるならどっか行け」 「あなただって、涼宮さんと一緒に行動してたじゃないですか。嫉妬される側ですよ」 この野郎、さりげなく自分の位置を決定付けやがった。 ……まあそれはいい。「いえいえ、全然モテてなんかいないですよ」とか言われるぐらいならな。 24 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:12:23.72 ID:sqJxJ5+T0 「俺は好きでハルヒと一緒に居るんじゃない」 「そうなんですか?」 「わかってて聞いてるだろソレ」 「涼宮さんはどこへ?」 「体育館だよ。鶴屋さんを観に行くって」 「行かないんですか?」 行かない。焼きそば買って、教室に戻る。 隣のクラスと共同でやってる喫茶の手伝いでもするさ。昨日で当番は終わってるけどな。 「可哀想ですよ」 「俺がか?」 「なんでですか。涼宮さん、待ってるんじゃないですか?」 「だから知らないって。俺はあいつの彼……付き人でもなんでもない」 「こういうときは女の子と行動するべきでは?」 俺に選べる権利があるのならな。あれば勿論、朝比奈さんを誘うさ。 だけどあの人は友人に囲まれていて、もし俺が誘ったとしても、ハルヒの顔色を伺うだろ? ……それ以外に選択肢は残っていない。お前と違ってな。 「だから、涼宮さんと行動すればいいじゃないですか」 「それもお得意の『機関』からの伝達か?」 「いいえ、一個人としての、些細なアドバイスです」 爽やかだなこいつは。 ってうるせぇ。ほっとけ。 26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:22:45.62 ID:sqJxJ5+T0 運よく出来立ての焼きそばを買えた。 今度は毒見役もいない。独り占めだ。……よくわからないのは隣に居るが。 「で、なにがしたいんだお前は」 「わかりませんね」 「……自分を探したいなら一人で探してくれ」 「なんですかそれは」 「なんでもない」 鰹節が踊る。絡まったソースが、旨そうな匂いをさせている。 フタが閉まらないほど、ぎゅうっと詰めてくれた。一人で食べきれる量じゃない気がする。 「それ、涼宮さんに頼まれたんですよね」 「……さぁ。関係ない。俺が食いたかっただけだ」 「早くしないと、始まっちゃいますよ」 「うるさいな」 「はは、それはすいません」 熱い。出来立てはいいんだが、熱すぎるこれ。 これこそあいつに先に食わせて、熱がってるのを見て喜んでやるべきだったのかもな。 ……あぁもう。だから、あいつは、関係ないんだって。これは、俺のモノだ。 31 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:47:26.50 ID:sqJxJ5+T0 「……っと、ほら。来ましたよ」 「?」 なにが? と、思った頃には既に遅かった。 何故かわからない。だけど、ざわつく廊下でそれだけが確実に俺に近づいているのがわかった。 「……お前、まさか俺が逃げないように見張ってたんじゃないだろうな?」 「まさかそんな。現に、彼女が現れるとは思っていませんでしたし」 近づく足跡に背を向けたまま、古泉に文句を垂れる。 おかしいだろ? 何故か、あの足音だけが聞こえるんだよ。冷や汗とともにな。 「それじゃ、邪魔者はこれで」 「…」 「……誰も強制はしていませんよ? 選ばれたのがあなたでも、あなたの行動は……あなたのものです」 わかってるよそんなことは。だけど俺がそれを拒否し続けると…… どういうわけかこの世界の運命が関わってくるんだろ? それは強制じゃなくとも、俺には強制に思えるんだよ。……まったく。迷惑な話だ。 「…」 足音は背後で止まった。 蹴りでも飛んでくるかと思って、背中に神経を集中させたが……無音。 そうだよ。こいつ、俺が振り向くのを待ってやがる。 無視して歩き出すと……見事な蹴りをお見舞いされるんだろ? 36 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:05:34.25 ID:sqJxJ5+T0 「悪かったな。古泉に捕まってたんだよ」 「そんなのほっときなさいよ」 「そんなのってお前」 「あー! ちょっと、なんで先に食べてるのよ!」 「俺のだ」 「バカ!」 無理矢理俺の手から割り箸を奪うと、さりげなく残しておいた肉ごと頬張る。 小さく『熱っ』って言った後に、もぐもぐしながら一言。 「ふぁやふいふふぁよ!」 食べてから喋れ。そしてケチャップの次は青海苔か。 ……まったく……なんでお前はそうやって俺のばっかり。そんでまた定位置。右側。 今度は腕を組んで。逃げないように、俺を連行する。 これが他の生徒には、羨ましく見えるのか? わかあってほしいのは、俺は一切意見してないからな。全部全部、ハルヒの強制なんだ。 34 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:03:59.93 ID:afIJH/W90 「…」 「…」 無言。 ……無言。 なんか言えよ。お前はそういうキャラだろ? 『遅い!』『なにしてるの!』とか。無言の圧力はやめてくれ。これじゃ……だよな。振り向くの、待ってるんだよな。 「……はぁ」 「こら」 「なんだよ。体育館で待ってるんじゃなかったのか」 「遅い。もう始まるわよ!」 例えるとそうだな、むーっとした顔。 振り向くとハルヒはそんな顔をしていた。腕を腰に当てて、不満げに。 43 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:33:15.22 ID:afIJH/W90 さすがに最前列ってのは無理だった。 それじゃなくとも、一番前は勘弁だ。ハルヒは喜びそうだが。 「凄いわね鶴屋さん」 「あぁ、綺麗だな」 「ねー」 相変わらず隣に座る。 館内飲食禁止って書いてたから、焼きそばはフタを閉めてハルヒが持ってる。 出来立てを全部食べるつもりだったのに……また奪われた。 ステージの上では、鶴屋さんと他数人の女の子が踊っていた。 可愛いメイド服に包まれて、それに似合わぬ曲だけど、とても楽しそうに。 くるっと回転すると、後を着いて髪が舞う。アレがポニーテールなら……たまらん。 「いいわよね。鶴屋さんの髪、長くて綺麗」 「お前だって最初は長かったじゃないか」 「だって鬱陶しかったもん」 「……切らなきゃよかったのに」 「じゃあ伸ばす」 ……聞いてないよ。なんにも聞いてない。 ハルヒが髪を伸ばそうがどうしようが、俺には関係ない。 だけど鶴屋さんぐらい髪を伸ばしたハルヒを想像すると……そりゃ、素直に可愛いんじゃないかとは思うけどな。 46 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:48:02.41 ID:afIJH/W90 「面白かったわね」 「あぁそうだな」 目的もなく廊下を歩く。 俺の半歩前をハルヒが歩いて、ハルヒの半歩後を俺が。 ときどき振り向いて、俺がちゃんと着いてきているのかを確認している。……ような気がする。 「有希の所、行ってみようか?」 「うん」 「あれ、文句言わなくなったわね」 なんだよそれ。やっぱお前、自覚あったのか。 文句言ったって無視だろ?そのまま連れて行かれるのが確定してるなら、もう諦めるさ。 「いいじゃない。あんたヒマでしょ?」 「なんでわかるんだよ」 「あたし以外の女の子と、話してるの見たことないもん」 「……男とうろつくって場合もあるだろ」 「楽しいそれ?」 「…」 見透かしたような言い方しやがって。 お前だってそうだろ。俺以外の誰とウロウロするんだよ。 「沢山居るわよ? あんた、あたしが今までどれだけの人に告白されたと思ってるの?」 「自分で言うなバカ」 「ほら、早く早く!」 「あぁもう、引っ張るなよ!」 49 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:53:43.13 ID:afIJH/W90 「…」 「似合ってるわよ、有希」 「そう」 「ね、キョン」 「……そうだな」 「そう」 確かにハルヒは、可愛い。 それは個人的でもなく一般的に。事実こいつは、大人しければ女版古泉、ミニ朝比奈さんって感じだ。 大人しければってわけだがな。台風のような今のハルヒじゃ、着いて行ける男も少ないさ。 「吉」 「……なにが?」 「あなた達の、今後」 「ほんとに?」 「割と」 だからそんなハルヒが俺の周りをチョロチョロしてるのは、他人からすれば十分に羨ましいんだろう。 俺だって……少しは嬉しいさ。だけど、この所気がつけばずっとハルヒは傍に居るんだ。 言ってしまえば四六時中。そうしてるのが、当たり前のように。 「ほら、キョンもなにか聞いてみなさいよ」 「……っと、え? なに、何だって?」 「なにぼーっとしてるのよ」 54 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:03:36.27 ID:afIJH/W90 「なにか聞けって言われてもなぁ」 「よく当たるって話よ。有希の占い」 「…」 「……だろうな」 占いってのは先を予想するとか、そういうのだと思う。 だがこの長門有希はそういう感覚じゃあない気がする。なんていうか、見えてる? 「……それじゃあな」 「…」 「長門、俺がこの先自由になれるかどうかを教えてくれ」 「? なに言ってるの?」 「わかった」 この先ずっと、俺の傍にハルヒが居るのか。 それが知りたい。……わかってるよ。どうせ、答えは一つなんだろ? 「見えた」 「何? キョンはなにから自由になれるの?」 「あなたは初めから、なににも縛られていない」 だよな。 そう言われると思ったよ。 「それ以前に、あなたはその状況を望んでいる」 「……ウソばっかり言うなって」 「??? なに、なによ! なにが見えたの!?」 57 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:15:48.84 ID:afIJH/W90 「ちょっとキョン」 「なんだよ」 「さっきの、どういうこと?」 「さぁね。俺もよくわからないよ」 今日だけ特別に屋上が解放されていた。 フェンスに手を掛け、さっきの焼きそばドコにやったんだっけと考える。 「あんた、なにかに弱み握られてる?」 「……そういうのなら苦労しないさ」 「わけわかんない」 「わからなくていい」 周りを見ると、どうやら数組のカップルが居るみたいだ。 ……俺とハルヒもそう見えてるのかな。 この状況を……俺が望んでいる? そうじゃないとは言わないけど、ただ……自由意志の元で行われていることじゃない。 それだけは譲れないからな。 62 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:36:05.25 ID:afIJH/W90 「ねぇキョン、部室行くわよ」 「え? なんでだよ?」 「なんとなく」 段々と日が沈んできて、楽しかった二日間も終わりになる。 最後に買ったのは、冷たいコーヒー。これはいつでも買える自販機で、珍しくハルヒが買った。 「あー、つかれた」 「俺の方が疲れてる」 「なにそれ」 「この二日間、ずっとお前に振り回されてるんだぞ」 「誰も強制って言ってないわよ?」 窓から反対側の校舎を見ると、片付けに廻っているクラスもある。 そういえば、俺も自分のクラスを手伝ったほうがいいんだよな。 63 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:37:35.97 ID:afIJH/W90 「ハルヒ、教室戻るぞ」 「なんで? 部室、」 「なんでって、片付け」 「……めんどくさい」 「こら。だめだろそれは」 こいつこんなときだけ動かなくなりやがる。 呼んでも嫌だって言って歩いていく。ああいうのは、ちゃんと参加しないと後が怖いんだよ 「じゃあキョンだけで行けばいいじゃない」 「……そうかよ。じゃあそうするよ」 「…」 ……あれ、なんだ。意外とあっさり。 これはアレか。ようやく俺も解放されたってことか。 まあいい。ハルヒは片づけをサボるって言ってたって報告しといてやる。 今更といえばそうだけど……俺の、俺だけの自由行動を満喫してみるか。 ハルヒと逆側に歩いていく。 振り向くと、SOS団の部屋に向かう階段を上がっていったのだけが見えた。 ……ようやく一人になれた。……コーヒーはあいつが持ったまま。 71 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:11:50.58 ID:afIJH/W90 「あれ、涼宮は一緒じゃないのか」 「ほんとだ。キョン一人?」 教室に戻るなり、谷口と国木田にこう聞かれた。 一人じゃ悪いか。ハルヒはサボるってさ。今頃部室でコーヒー飲みながらぼーっとしてるだろう。 「いいよなぁ、お前ら」 「なにがだよ」 「この二日間、ずっと一緒に居たんでしょ? っていうか、最近いつも二人で居るよね」 「知らん。あいつが勝手についてきてるだけだ」 「なんだその小学生みたいないいわけ」 「うるさいな」 机と椅子を並べて、形だけの集合。 ハルヒだけじゃなく、他に数人の生徒も居なかった。 それどころか担任は教室にくるなり『それじゃ解散。いつまでも学校に残ってるなよ?』とだけ言って消えていく。 疲れているのか、今日だけはまだ自由にしててもいいってことなのか。 ハルヒが居ない教室は、居なくてもなんの違和感もなかった。 72 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:12:10.16 ID:afIJH/W90 「なに観て廻ったの?」 「んー、適当に」 「俺は観たぜ、お前と涼宮が手ぇ繋いで体育館向かってたのを」 「……連れて行かれたんだ仕方ないだろ」 「あはは。ほんとに仲いいなぁ。涼宮さんとキョンは」 な、こんな感じ。 俺とハルヒは、二人で一つみたいな扱いになってるんだ。 茶化されるわけでもなく、バカにされるわけでもなく。 そりゃ初めは色々と聞かれもした。何故ハルヒが俺にだけ懐いてくるのか SOS団って何? とか、どういう関係? とか。 俺もわからないよ。ただ、ハルヒは気がつけば俺の右側に居るんだ。 もうずっと、あいつは俺の隣に。居ない今が珍しいぐらいにな。 74 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:17:12.44 ID:afIJH/W90 「俺も朝倉が居ればなー。お前らみたいにカップルでウロウロしてたけどなぁ」 「え? 谷口、朝倉さんとそんな関係だったっけ?」 「……こ、これからそんな関係になる予定だったんだよ」 「失礼だなお前は」 すぐに帰るのはなにか勿体無いと思って、少し談笑の時間。 どうやらこの二人は、これもまた同じような境遇の友人数名と文化祭を楽しんだらしい。 それはそれで、楽しいと思う。そういうときの為の友人だろ? 「まあ結局キョンは友人よりも恋人を選んだってわけだな」 「ふざけるなよ。俺とハルヒはそういうのじゃない」 「え? まだそんなこと言ってるの?」 「まだもなにも、最初からそうだ」 「お前な! 世界のドコに文化祭を二人っきりで廻ったのに恋人じゃない! って言うバカが居るんだよ!?」 「ここにいるだろうが。うるさいな、とにかく……俺はハルヒと付き合ってなんかいない」 「…」 だってそうなんだ。事実、俺はハルヒに連れられているだけ。 俺の役割は、あいつを不機嫌にさせないこと。 それを説明しても、こいつらは誰も信じないと思うけど……同じ境遇にあったとすれば、誰だってこうするはずだ。 75 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:20:58.91 ID:afIJH/W90 「なんでそんなに拒否するのさ」 「なんでって……」 「そうだ! もういいじゃないか涼宮でさ。似合ってるってお前ら」 「…」 勝手なこと言いやがって。 なんで俺が、まだこの先どんな人と出会うかもわからないのに俺が、あいつを選ばないといけないんだ。 選んでしまったら最後。恐らく、俺はハルヒと別れるって言う選択肢が出てこないと思う。 なぜなら、あいつは普通の女の子じゃない。 思うが侭に世界を操れる、神でもあり魔王でもあるわけだ。極論な。 ……そんなやつと付き合ってみろ。 ただでさえこっちは、妙なことに巻き込まれて無理矢理にあいつの傍に居てやらないといけないんだ。 俺だって、自由に誰かを好きになる権利があるだろ? そりゃハルヒは可愛いし、他から観れば幸せそうに見えるかも知れないけど…… あいつだけは、選んじゃだめなんだ。 俺の本当の役目は……ハルヒに俺を選ばせないことだと、思ってる。 77 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:25:10.03 ID:afIJH/W90 「贅沢すぎるぞ、キョン」 「知らないって。なんなら、お前がアイツの彼氏になればいいだろ?」 「いや、だって俺相手にされないし……」 「そうだよ。涼宮さんって、やっぱり少し近寄りがたいっていうか……」 そうだろ? それは、俺も同じなんだよ。 何言ってるかわからないときもある。マジで勘弁してくれってことを要求されることも。 でもそれも全て俺は飲み込まないといけないんだ。 無視すると、世界が終わる。そういう運命なんだよ。 「とにかく、俺とハルヒはそういう関係じゃない」 「遊んでるのか?」 「ふざけるなよ」 「んー、なんていうか……それじゃ、涼宮さんが可哀想じゃない?」 「なんでだよ。そんなの、無理に付き合わされてる俺の方が可哀想だろ」 そう言うと、少し国木田の表情が変わった。 いつもみたいにベビーフェイスっぽい笑い顔じゃなく、少しだけ真剣な顔に。 78 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:32:23.53 ID:afIJH/W90 「それ、本気で言ってる?」 「あぁ本気だとも。冗談で言ってるとでも?」 「冗談にしか聞こえないよ」 教室には、俺と国木田と谷口しか残っていない。 俺の後ろに国木田が座っている。ハルヒの席。隣に、谷口が立っていて。 国木田は真剣な目で俺を見る。谷口は、なにかしまったような顔をしていた。 「涼宮さん……キョンのこと、好きなんだよ」 「……だからなんだよ」 「そのぐらいわかるでしょ? キョンまだ中学生気分なの?」 いつになく絡んでくるな。 こいつはこの手の離しになると、やけに真剣な顔になったりする。 お前は関係ないだろ。そう言うと少し険悪な空気になる。だから、それは言わない。 79 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:37:09.81 ID:afIJH/W90 「あぁ、わかってるよ。だから俺も認めていないだろ」 「認めているとかそうじゃなくてさ」 「あ、あのなお前ら」 「俺だって、確かにハルヒは可愛いとは思うさ。だけど、それまでだ」 「ならちゃんと、涼宮さんに言わないと」 何をだよ。 これ以上、俺がアイツになにをすればいい? ずっとアイツに合わせてるんだ。あぁ正直、めんどくさいし勘弁してほしい。 だけどそれはな、世界の為なんだよ。お前達にはわからないかも知れないけど……そういうもんなんだ。 「それじゃ、キョンはずっとこのままで居るつもり?」 「なんだ? どうにかしてくれるのか?」 「ちゃんと涼宮さんに、好きじゃないって言ってあげなよ」 「……お前な」 「どういう理由かは知らないけど、今のままじゃキョンは最悪だと思う」 「なんでそんなこと言われないといけないんだよ」 「だって……遊んでるだけじゃん。涼宮さんがキョンに依存してるって、そう思ってるんでしょ?」 「…」 82 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:42:13.21 ID:afIJH/W90 依存。 どんな言い回しだよ。ひどくないか? そう切り替えそうと思ったけど……正直、そう思ってる。 ハルヒは同世代の友達ってのが居ない。 嫌われているわけじゃない。ただ、本人がそれを認めない性格なんだ。 あいつは「普通」に興味がない。だからSOS団なんてわけのわからんものを作っている。 未来人、宇宙人、異世界人、超能力者。 そういうのを本気で信じているぐらい純粋な子なんだ。 そんなハルヒが……唯一、俺には懐いてくる。 それをどう言えばいいのかがわからない。甘えている? 少し違う。 極論を言うと、俺が居なくなるとハルヒはダメになる。 俺が押さえてやらないと、ハルヒは暴走しっぱなしなんだ。それが俺の使命だから。 ハルヒは俺が居ないと……ダメなんだよ。 わかってるんだよそれは。だから、俺はそれに抗いたい。 俺なんかに依存してほしくない。俺を、自由にしてほしい。 選ばれたから俺もハルヒを選ぶなんて……そんな簡単な選択肢は選びたくないんだ。 83 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:46:24.26 ID:afIJH/W90 「懐かれてるからって、そのままにしていいの?」 「いいんじゃないか? あいつがそれで満足なら」 「言いわけないよ。涼宮さん、多分キョンも涼宮さんのこと好きだって思ってる」 「……なんでそうなるんだよ」 「キョンが拒否しないから。好きでもないのに、そんなずっと付き合ってる人なんて居るわけないじゃん」 だから、それが俺―― 「そんなに嫌なら、言えばいいのに」 「言えないから困ってるんだろうが!」 「おっ、おいキョン!」 ――感情的になってしまった。 わかってる、俺が悪いな。周りから見れば……俺は最悪の男に見えるかもしれない。 だけどな、仕方ないんだ。何度も言う。仕方ない。 お前らがそうやって平和に暮らしてるのもな、俺のおかげ―― 「……子供だね」 89 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:55:43.01 ID:afIJH/W90 机は倒れ、俺の右手は国木田の襟を掴んでいた。 谷口がその右手を掴んでいる。国木田は人形のように脱力したまま、俺の目を見ている。 「キョン! おまっ、なにキレてんだよ!?」 「…」 「子供だよキョンは。佐々木さんのときもそうだった」 「いい加減にしろ」 「周りから色々と言われてるのが楽しい? 女の子に言い寄られるのが気持ちいいの?」 「黙れ」 「拒否する悠貴もないくせに、興味ないフリなんてするなよ」 「国木田!」 左手が拳を握った。 国木田とは長い付き合いだけど、ここまで殴ってやりたいって思ったのは初めてだ。 俺が子供? ふざけるなよ、お前らだってそうするんだよ。俺と同じ状況ならな。 なにも知らないクセに、知った風な顔しやがって。 「どうしたのその左手」 「…」 「いいよ。殴ればいいじゃん。でも事実だ」 「ふざけてんのか」 「それはキョンだよ。佐々木さんも涼宮さんも……誰にもなにも言えないくせに」 「お、おい! やめろって二人とも」 「自分だけ被害者面。本当は、なんにも言えないのに……言わないフリだけしてるんだよね?」 97 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:08:09.15 ID:afIJH/W90 「殴ってやりたいのは、僕も一緒だ」 「…」 「ふざけるなよ。本当に依存してるのは、キョンじゃないか」 「キョンは、好きになってくれる人に……自分を頼りにしてくれる、涼宮さんに依存してるんだよ」 右手を離した。軽く国木田を押す。 左手も空気を掴み、谷口を見る。慌てているのか、怯えているのか……怒っているのか、よくわからない顔をしている。 「お、落ち着けよ二人とも」 「……ごめんキョン。言い過ぎた」 「…」 「だけど、本当に……こういうのはよくない。はっきりしてあげるべきだよ」 「……わかってるよ」 俺だって、このままじゃいけないってわかってる。 正直、ハルヒに好かれてるのも知ってる。そこまでバカじゃない。 だけど……俺はそれに答えられないんだ。俺はハルヒのこと、好きじゃない。 100 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:10:05.93 ID:afIJH/W90 嫌いってわけじゃない。俺には、ハルヒを選ばないといけないこの状況が嫌なんだ。 弱いとか、卑怯とか……そういう言われ方をしても仕方ないと思う。 終わりなんだ。ハルヒを振れば、世界が終わる。 納得させないといけない。俺がハルヒを好きじゃないって。 いつかは言わないといけないんだろうけど、言えないんだ。 子供って言われようが……無理なんだよ。 「……帰ろう。谷口」 「え? あ、ちょっ、国木田」 「涼宮さんのカバン、届けてあげなよ」 ハルヒの机に、通学用バッグが吊るされてあった。 国木田と谷口が居なくなった教室は静かで、俺一人だって理解するのに工程を必要とさせない。 倒れた椅子を戻して、座る。後ろを振り向く。ハルヒの席を。 そこにハルヒは、いない。 俺が望む世界は……こういう世界なんだ。 わかったよ。あいつの言うとおりだ。 このままずっとハルヒを弄んでるぐらいなら……こんな世界、消してやるよ。 俺がハルヒを拒否すれば、それがどれだけ重要なことだったか。 どうせわからないだろうけど、国木田達に思い知らせてやる。 107 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:16:52.17 ID:afIJH/W90 「おい、国木田」 「なに?」 「なに? じゃなくて……あれ?」 「ん?」 「いや、お前……怒ってたんじゃ?」 「うん。怒ってたよ」 「??」 「そうでもしないと、キョンなんにもできないからさ」 「な、なんだって?」 「昔からそうなんだ。キョンはいつも大人びた顔をしたがってさ」 「はぁ?」 「ウジウジしてるくせに、いいわけしてそれを認めようとしないんだ」 「…」 「だからこうでもしないと……涼宮さんのこと、ちゃんとしてあげないんだろうなって」 「ちゃんとって、でもあいつ……嫌いだって」 「うん。まあそれも……キョンのウソだよ。強がってる」 「え?」 「大丈夫さ。まあちょっと怖かったけど。キョンは……キョンは涼宮さんのこと――」 114 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:25:01.24 ID:afIJH/W90 電灯が消えかけている。 点いていなくても、まだ明るい。だけど点いていないと見え難くはなる。 教室を出て、一度外に行く。 まだグラウンドには数人の生徒が残っていて、その仲には楽しそうなカップルが。 帰るでもなく、ただ喋る。二人で自転車に乗る。今まさに、そうやって特別な関係を目指す奴もいる。 俺とハルヒは……そういう特別な類に見えていた。 俺の目を通してじゃなく、他人の目を通して。いや……俺もそう写っていたのかもしれない。 見えない鎖ってのに縛られたまま、いつのまにかそれを当たり前に思ってしまった。 今まさに太陽が沈んでいくように、明日それが昇ってくるように。 古くなった階段を上がると、帰りはそれを下らないといけないように。 当たり前に。 拒否権なんて、ない。そうやって……逃げていた。 違う。俺は、世界を救っていた。 涼宮ハルヒという、無限の暗闇から。このドアの向こうにいる、理不尽な神様から。 もうどうだっていい。 世界が終わるなら、それだって。俺は俺の人生を歩みたい。 宇宙人、未来人、超能力者、異世界人。 俺は違う。俺は……俺は、普通の人間なんだ。 115 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:28:38.27 ID:afIJH/W90 「ハルヒ」 開ける前に呼んでみた。 何故そうしたのか? わからない。多分、呼んでみたかった。 返答はない。 居ないのか? と思ったが、ドアノブは廻った。 軋む様な音と共に、視界が少しだけ広がる。 長い机の上には、一つの缶コーヒー。 長門が置いていった本と、朝比奈さんの衣装。オセロ、将棋。 団長の席に、伏せて眠るハルヒの姿があった。 沈みかけの夕日が、ハルヒの背中を取り囲んで……まさにそう、気持ち良さそうに。 「ハルヒ」 「……ん」 「…」 触れない。呼ぶだけ。 それだけで起きてくれれば、苦労しない。 125 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:42:44.52 ID:afIJH/W90 顔が少し、横を向いている。 椅子に座ってそれを覗き込むと、唇にクッキーかなにかの食べかすが。 机には包装紙と、食べかけのそれがあった。 気持ち良さそうに眠っている。その表情は…… 「おい、起きろ。ハルヒ」 「んn……ふぁ?」 頭を軽く叩くと、まだ眠っているような顔で俺を見た。 右手で目を擦り、時計を見て、外を見て。 「……よく寝た」 「…」 「んー。もう皆帰った?」 「とっくにな」 「……あ、カバン」 「持ってきた。ほら」 「ん」 カバンを渡すと、それを膝に乗せてジッパーを開けた。 「ちょっと美味しかったこのクッキー。帰って食べる」 「…」 129 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 03:48:06.52 ID:afIJH/W90 「なんか今日は色々食べたわね」 「俺の金でな」 「うるさいなぁ……ほら」 「?」 カバンにクッキーを入れて、抜き出した手には小さな袋があった。 それを俺に渡す。顔も見ずに、手だけが伸びてきた。 渡されたときに、少しだけ指が触れた。 「……なんだよこれ」 「あげる」 「中身は?」 「開ければいいじゃない」 「…」 綺麗に包まれた袋。新聞紙を模したような、だけどカラフルな色。 破るのもなにかと思い、綺麗に開ける。 小さいビニールの袋が。その中には……携帯のストラップが入っていた。 「……なんだよ」 「あげる。今日のお礼。あ、昨日もか」 「お礼って……いいよ別に」 「貰っときなさいよ。あんた、すぐ携帯どこだっけって言うじゃない」 「別に……」 「いいから。……ほら、あたしも付けてるの。それ」 138 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:18:03.92 ID:afIJH/W90 嬉しそうに見せるハルヒの携帯には、色違いのそれが付いていた。 少しだけ、ハルヒも女の子らしいところがあるんだって思って…… この状況を打破するために、ここに来たんだって思い出した。 「なぁハルヒ」 「なに?」 「…」 だけどそれを、どう切り出していいものか。 俺はお前が嫌いだ。だからこれ以上俺に付きまとわないでくれ。 そう言えばいいのか? 事実、そういうことだ。 「…」 「?」 こうしてみると、目の前にいる子が……世界を変えられる力を持った人物だなんて思えない。 ただの人間にしか見えない。まさに、ハルヒが嫌いな……一般人に。 139 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:18:23.16 ID:afIJH/W90 「……文化祭、楽しかったか?」 「え? あーうん。割と楽しかったわね」 「そうか」 「アレ笑えたわよね。昨日のさ、谷口のコント」 「あぁ、いい感じに滑ってたよな」 「あいつ昔からあんなのなのよね」 「そうなのか?」 「うん」 なんでもない会話。 こうやって話しているだけなら、ハルヒとはいい関係で居られる。 … ……そうだよ。 ハルヒが、こんな存在じゃなければ。 そうじゃなければ、俺はハルヒとなにも気にせず……そういう関係になれていたかもしれない。 140 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:19:00.14 ID:afIJH/W90 「……文化祭、楽しかったか?」 「え? あーうん。割と楽しかったわね」 「そうか」 「アレ笑えたわよね。昨日のさ、谷口のコント」 「あぁ、いい感じに滑ってたよな」 「あいつ昔からあんなのなのよね」 「そうなのか?」 「うん」 なんでもない会話。 こうやって話しているだけなら、ハルヒとはいい関係で居られる。 … ……そうだよ。 ハルヒが、こんな存在じゃなければ。 そうじゃなければ、俺はハルヒとなにも気にせず……そういう関係になれていたかもしれない。 146 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:27:23.63 ID:afIJH/W90 「……そんなに美味かったのか、クッキー」 「え? なにが?」 「口んとこ、付いてるぞ」 「……き、気のせいよ」 恥ずかしそうに口を隠す仕草。 「明日休みね」 「おう」 「ヒマ?」 気軽に誘ってくれる、意識。 「……うん、あのなハルヒ」 「なに?」 なんの迷いもなく、返事をしてくれる……ハルヒ。 運命ってのがあるんだとすれば、俺はそれを呪いたい。 もっと違う形で、俺はハルヒに出会いたかった。 「……お前に、言わなきゃいけないことがある」 「ん? なになに?」 157 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:49:06.75 ID:afIJH/W90 できるだけ、ハルヒに近づきたくない。 懐かれても、それを拒否したい。 「……俺もさ、楽しかった。文化祭」 「そう? よかったわね」 「ハルヒがさ、一緒に廻ってくれたから……退屈しなかったよ」 「え……あ、うん。って、なに言ってんのよ! 恥ずかしいわね!」 正直、怖かった。 俺がなにかを間違えるだけで、世界が歪むとか。 ハルヒがその力を持ってるとしても、鍵を持ってるのは……俺なんだって。 「最近、ずっと俺の隣に居るよな」 「え? そうかしら?」 「そうだ。ずっと……ほら今だって、右側に居る」 「……そうかもね」 165 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 04:59:03.32 ID:afIJH/W90 「なんで俺なんだ?」 「え、あ、ん?」 「……ううん。なんでもない」 ……切り出せない。 もう俺に頼ってくれるな。俺は、お前のこと……嫌いなんだって。 言えば全部終わる。それに、後悔もなにもない。 目を逸らして、また戻すと ハルヒはちゃんと俺を見てくれている。 「……俺さ」 「うん」 「俺……ハルヒのことがさ」 「え? あ、ちょっと……う、うん」 「ハルヒのことが」 「…」 あと少し。 あと少しで言える。一言で、全部が終わりに出来る。 神の怒りを買って、何もなかったように世界を一変できる。 もうこれ以上、目の前の恐怖に振り回されないで済むんだ。 「……あたしのことが、なに?」 172 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:05:33.45 ID:afIJH/W90 「……好きだ」 「…」 口から出た答えは、偽りの答えだった。 だけどそれは、俺が思っていることをそのまま口にした……ただの本音だった。 「……俺、お前のこと……好きなんだよ」 「……キョン?」 「正直よくわかんないけど、お前がどんなやつだとか知らないけど、純粋に好きなんだ」 「…」 「言い寄られて、縋られて、頼りにされて……笑ってくれて」 「こんなの俺の人生じゃないって思っても、どんどんお前のこと好きになってさ」 「…」 「責任とかそういうのわかんなくて、怖くて……でも、俺もお前の傍に居たいんだよ」 「……うん」 あふれ出す感情を、止めることができない。 言えば楽になると思って、見上げたハルヒの顔が、びっくりするぐらい可愛かったんだ。 神様だってなんだっていい。定められた運命だとか、そういうのでも…… 俺は、ハルヒが好きだったんだ。 179 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:15:40.82 ID:afIJH/W90 「突然お前が現れて、長門、朝比奈さん、古泉が現れて」 「平凡に進んでいくって思ってた高校生活が、どんどん変えられていって」 「無茶なことを言われたり、へんなことさせられたり」 「だけどそれでも……たとえ俺がハルヒ以外選べないとしても、俺はハルヒが好きなんだ」 ハルヒが聞いているとか、わけがわからないとか もうそういうのはどうでもよかった。ただ単に、思っていることを聞いてほしかった。 国木田に言われなくても、本当は気がついていたんだ。 気がつけば傍に居てくれるハルヒに、一番頼ってるのは俺なんだって。 依存されてるんじゃなくて、依存してる。 ハルヒが俺を好きになったとしても、そんなの関係ない。 俺だって、ハルヒのことを好きになったんだ。 それが俺の選択。自由意志の決意。敷かれたレールを、俺は自分で歩いたんだ。 世界がどうなろうとしったこっちゃない。 俺がそう思うのは、特別だと勘違いしてた。そうじゃない。 誰だって自分の世界以外、どうでもいいんだよ。 人のことなんて気にしない。ハルヒみたいに、自由に生きてみたい。 そうやって憧れてたから……いつのまにか、ハルヒのことを好きになってたんだ。 全部言い終わった。 これ以上言葉を知らなかった。嗚咽が出て、目が熱くなって。 顔を上に上げることも億劫になって……だけどそんな俺を、暖かい腕が包んでくれた。 「……キョン? ……うん。好き。あたし、キョンのこと好きよ?」 184 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:25:57.74 ID:afIJH/W90 ぐっと抱き寄せてくれた。違う、俺がハルヒに近寄った。 いい匂いがする。ハルヒの匂い。柔らかくて、優しい香り。 「……なんかよくわかんないけど……ありがとう、キョン」 「…」 頬を伝うそれが、ハルヒの頬にも流れているのがわかった。 初めて聞く、ハルヒの弱弱しい声。 俺の告白に共感してくれたのか、つられたのか……ハルヒの感情の開花なのか。 わからないけど、これは俺の為に流してくれている。 俺がそうであろように。ハルヒが好きな俺が、ハルヒを好きであるように。 「ずっとずっと、こうしたかった」 「だけど、あたしそういうの……よくわかんなくて」 「恋愛なんて、心がおかしくなってる証拠だって思ってたから……」 「だけど、キョンが好きって言ってくれるから」 すうっと息を吸って、俺の顔に触れた。 満面の笑みと、夕日の反射する透明な道筋を示して、俺に言ってくれた。 「キョンのこと、愛してるよ」 「」 185 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:26:31.14 ID:afIJH/W90 ぐっと抱き寄せてくれた。違う、俺がハルヒに近寄った。 いい匂いがする。ハルヒの匂い。柔らかくて、優しい香り。 「……なんかよくわかんないけど……ありがとう、キョン」 「…」 頬を伝うそれが、ハルヒの頬にも流れているのがわかった。 初めて聞く、ハルヒの弱弱しい声。 俺の告白に共感してくれたのか、つられたのか……ハルヒの感情の開花なのか。 わからないけど、これは俺の為に流してくれている。 俺がそうであろように。ハルヒが好きな俺が、ハルヒを好きであるように。 「ずっとずっと、こうしたかった」 「だけど、あたしそういうの……よくわかんなくて」 「恋愛なんて、心がおかしくなってる証拠だって思ってたから……」 「だけど、キョンが好きって言ってくれるから」 すうっと息を吸って、俺の顔に触れた。 満面の笑みと、夕日の反射する透明な道筋を示して、俺に言ってくれた。 「キョンのこと、愛してるよ」 192 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:35:01.39 ID:afIJH/W90 それから、少しの間だけ記憶がない。 笑ってくれたハルヒ。その顔だけ焼きついてて…… 気がついたときには、床に座って、肩を抱いて、右手と左手をしっかりと繋いでいた。 「……泣き虫」 「ハルヒが?」 「違うわよ。あんたが」 「……ごめんな」 「…」 これはハルヒが思い描いていた世界? いいように改変させられた、作り変えられた時間軸? なんだっていい。これは……俺が望んでいた、現実。 「今まで言えなかった分、沢山言うから」 「……なにを?」 「愛してるって。だからキョン、あんたも言いなさいよ?」 「……言うよ。ちゃんと言う」 好きと愛してるの違いが、よくわからない。 そこにはちゃんとした意味があって、全然違う言葉なのかもしれない。 だけど俺は、ハルヒのことを愛していると思う。 ハルヒは俺のことを愛してくれている。 言葉を使わなくても、伝わる想い。 共に依存して、共存して、必要として……俺とハルヒは存在しているんだ。 198 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:40:57.28 ID:afIJH/W90 「キョンって、普通の人間?」 「多分そうだよ」 「違うと思うわ」 「なんでさ?」 「だって……あたしが好きになったんだもの」 「なんだよ、それ」 「普通の人なんて、好きにならない」 「……お前が好きになったのは、誰?」 「……キョン。宇宙人でも未来人でも、超能力者でも異世界人でもなくて……キョンが、好き」 「…」 ハルヒは人間じゃないのかもしれない。 だけど、それはハルヒに言えた事じゃない。長門だって、朝比奈さんだって、古泉だって。 もっと言ってしまえば、国木田だって谷口だって……誰だって、人じゃないかもしれない。 何を以って人だという? 存在? 思考? 物質? そんなの、わからないじゃないか。あいつが俺と同じかどうかなんて、確かめられるわけがない。 絶対に違うのだから、同じってのは、ありえない。 それぞれが違うなにかだから……誰かを好きになるんだ。 俺のそれが、ハルヒだった。 ハルヒのそれが、俺だった。 このまま時が止まればいい。 それぐらい、繋いだ手は暖かくて……ずっと俺の右側に、ハルヒが居てくれることを祈った。 200 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:44:38.87 ID:afIJH/W90 ―――― 「おはよう。キョン」 「……おう」 「よぉキョン! 元気だったか!」 「当たり前だろ。そうでなくちゃ、ここに居ないさ」 どうやって話しかけようか、休日の間少しだけ考えてた。 国木田が俺と話してくれるのか、不安がなかったわけじゃない。 「……涼宮さんは?」 「ん? あぁ……遅れるってさ」 「……どうだった?」 「気になるか?」 「はは、うん。気になるよ」 「? なんだなんだ、なんかあったのか、キョン!?」 ポケットから携帯を出す。 ……間違えた、カバンに入ってたんだ。 「ほら」 「? ストラップ? どうしたの、これ」 「これな」 201 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 05:45:29.28 ID:afIJH/W90 「ハルヒに、貰ったんだよ。ハルヒと俺の……お揃いのストラップさ」                                終。 207 名前:ハルヒはキョンの嫁 ◆1MI4v.6Sm2 [] 投稿日:2008/06/15(日) 05:48:58.42 ID:afIJH/W90 ぷはー!やっと喋れる!なにこれ!長っ!!! いやぁ、レスするのが遅いのはね、書きながら考えながらですよ。 書き溜めなんて頭のいいことはできないぜウヒヒー。 中二病だかスイーツ(笑い)だか知らないけど まあハルヒとキョンは可愛いってこと。特にキョンは、ハルヒが居ないとなんにもできないと思います。 はい!もう寝る!解散!! おやすみー。