古泉「みんな死ねばいいのに」長門「落ち着いて」 374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 13:41:25.72 ID:xGqHBjTw0 俺はごぞんじ谷口、失恋率100パーセントの肩書きを持つ男さ。 4月になってすっかり春を感じる季節だ、この学校にも新入生が来て顔ぶれが変わった。 他には…あーちくしょう、仲が良さそうに手をつないでいるカップルがあっちにもこっちにもいやがる。 うらやまs…妬ましいぜ。あーあ、俺の恋に桜は咲くのかねぇ… ―やけに話の分かる不自然な谷口― 新学期、そう。学年が変わり、担任が変わり、クラスメイトが変わる。つまり、勉強の環境ががらりと変わるわけだ。 むろん自分のクラスや担任も気にはなるが、一番大事なのはなんと言ってもクラスメイト。そう、どんな女子と新しい出会いがあるかということだ。 ふふふ…去年は惜しくも恵まれなかったが、今年はその分だけよりどりみどりの美女が俺のもとにどーんと… どーん!! 谷口「な、なにごとっ?」 期待を膨らませていた俺の胸を弾くように現実に引き戻したのは、鈍い音だった。 ぬおっ、下を見ると人が倒れている、なんてこった! いや待てよ、これこそ新たな出会いではないのか。きたか、俺のサクセスストーリー。 谷口「だいじょうぶか、しっかりしろ!」 「あ、すいません。」 なんだ男子か、残念。しかしこのキザそうな顔とさらりとした髪の毛は… 375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 13:53:33.13 ID:xGqHBjTw0 谷口「お前、キョンや涼宮とつるんでいる…」 古泉「古泉です。あなたは…谷口くんでしたっけ。」 谷口「おうよ、どんな女子もいちころのナイスガイだぜ。」 古泉「ははは…」 言ってはみたものの、こいつには釈迦に説法のような気がして悔しい。 谷口「それより大丈夫かお前?いきなり倒れたりして…」 古泉「…か、軽い貧血のようです。少し休めば…」 谷口「そうか、とりあえず横になったほうがいい。保健室へ行くか。」 古泉「いえ、SOS団の部室へ行こうと思っていました。保健室は今日は閉まっていまして…」 谷口「分かった。ほら、つかまんな。」 俺は古泉の腕をひっぱって腰を抱える、体が冷たく感じる。しっかしこいつ、見た目の割りに重いしがっしりした体してんな。 ほどなくして、元文芸部室・現SOS団室へ着いた。俺が代わりにノックをしてドアを開けてやる。 谷口「うぃ〜っす。」 377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 14:04:39.79 ID:xGqHBjTw0 古泉「助かりました谷口くん、このお礼は必ず…」 谷口「ははは、だったらいい女の子紹介してくれよ。」 俺は古泉と共に部室に足を踏み入れる。明かりが点いてないので留守かと思ったが人影がある、中に誰かいるようだ。 谷口「電気も点けないでなにやってんだ?ったく…」 俺は部屋のスイッチに手を伸ばし明かりを点ける。すると、椅子にちょこんと座っている女の子の姿が映った。 谷口「あっ、お前は。」 「………」 女の子は机に分厚い文芸書を積み重ね、そのうちの一冊を黙々と読んでいる。 古泉「こんにちは、長門さん。」 長門「………」コクリ 女の子は無言でうなづく。そうか、長門有希!あいつもSOS団だったっけ。 くはー、俺の目でAマイナーの美少女がこんなところにたたずんでいたとは!眼福、眼福。 谷口「よ、よう。」 長門「……あなたは。」 谷口「谷口だよ、廊下でぶっ倒れた古泉を運んで来たんだ。」 380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 14:12:41.06 ID:xGqHBjTw0 長門「…そう。」 長門は本を閉じ、こちらへ歩いてくる。小柄でなきゃしゃな体、そして無表情にアンバランスなつぶらな瞳。 うーむ、涼宮といい朝比奈さんといいこの部はレベルが高い。 長門「…倒れた?」 長門は古泉を指差してたずねる。 古泉「ええ、お恥ずかしながら。」 谷口「横になるか?」 古泉「すいません…」 谷口「ちょっと椅子借りるぜ。」 長門「………」コクリ 俺は部屋の中にある椅子をかき集めて一列に並べる。 谷口「こんなもんだろ、ほら。」 俺は古泉に横になるように指差す。 長門「ユニーク。」 古泉「恐れ入ります。」 古泉は上履きを脱ぎ、並べた椅子の上に寝転ぶ。引きつっていた顔が緩んでいく。 381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 14:21:05.52 ID:xGqHBjTw0 古泉「ありがとうございました谷口くん、あなたがいなかったら…」 谷口「いいって。それより、体は大事にしろよ。」 古泉「はい、気をつけます。」 古泉はいつものようにつくり笑いを浮かべる、まったくどんな顔をしても魅力あるからむかつくぜ。 長門「私からも…感謝する。」 谷口「へへっ、どういたしまして。」 女の子から面と向かって感謝されるとさすがの俺も照れる、表情が変わらないのが残念だが。 谷口「長門もいるし、もう平気だろ。じゃあ俺はそろそろ…」 長門「待って…」 用が済んで立ち去ろうとする俺を長門が呼び止める。 谷口「ん、なんだ?」 長門「これを…」 長門は手に持っているのを俺に差し出す。 長門「食べて。」 長門がくれたのはおにぎりだった。 384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 14:33:41.18 ID:xGqHBjTw0 谷口「おっサンキュー、腹減ってたんだ。」 古泉「ふふっ、長門さんの手作りですよ。」 谷口「えっ?」 俺が長門に目を向けると、彼女はぷいと顔をそむけてしまった。なんだ、恥ずかしいのか? 意外と家庭的なのもあるが、やっぱり恥じらいもあるというのに俺のハートはくすぐられた。 俺はもう一つ椅子を借りて、古泉と長門の近くに座る。 谷口「じゃ、いただきます。」 俺は包みを開き、白いごはんのかたまりにかぶりつく。ふわりとした感触で、適度に塩もちゃんと効いている。 一言でいうと、うまいぞーーー!! 長門「……どう?」 谷口「おう、グレイトだぜ。」 長門「そう…」 俺がむしゃぶりついている横で長門はじっと見ている、そのさなか古泉がつぶやく。 古泉「長門さんの愛情が詰まってますからね。」 長門「!!」 386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 14:43:13.59 ID:xGqHBjTw0 谷口「ぶほっ!」 俺はおにぎりを噴き出しそうになったが、意地で耐える。横を見ると長門が眉をひくひくさせている。 やっぱり恥ずかしいのだろうか? 谷口「お、おどかすなよ。」 古泉「おや、これは失敬。」 こいつ、できる…! 谷口「病人はおとなしくしてろってんだ!なあ、長門。」 長門「それは…私の非常食。」 谷口「ですよねー」 俺と古泉の笑い声が部室を包む。 長門がつくってくれたおにぎりもどんどん小さくなり、俺の空きっ腹も満足し始めた頃だ。 谷口「あれ、そういえば今日はお前ら二人しかいないのか?」 古泉「さあ…新学期なのでみなさんいろいろあるのではないでしょうか。」 谷口「そっか。」 俺は何気なくこうつぶやいた。 谷口「それにしても。こんなに楽しいやつらがいて、キョンと涼宮は幸せ者だな。」 古泉「…!」 長門「………」 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 15:04:03.52 ID:xGqHBjTw0 急に二人の表情が固まる。 谷口「あれ…?」 古泉「ああ、いいえ。そうですね、僕もここにいて楽しいですし。」 長門「涼宮ハルヒは、独りだった私を迎え入れてくれた。」 二人とも繕って肯定しているが、自然には見えない。 やはり、なにか抱えているものがあるのだろうか。 谷口「古泉、お前が倒れた理由ってもしかして…」 古泉「う…」 古泉はあおむけになったまま目を泳がせている。こいつら表情は隠しているが、意外とあせりを隠すのは下手かもしれない。 393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 15:09:37.73 ID:xGqHBjTw0 谷口「正直に言ってみろよ、あんな無神経なやつらといっしょじゃ気苦労も絶えないだろ。」 長門「彼らはそんな人間ではない。」 谷口「いいや、少なくとも涼宮はそうだ。同じ中学だった俺が言うんだから間違いない。」 古泉「ははは、そうでしたね。」 谷口「キョンだって涼宮に従ってる、そのせいか最近は俺の言うことに耳を貸さないぜ。あいつ物好きだからな、どうしたもんかね。」 長門「あの二人は互いに信頼しあっている、我々が口を挟むべきではない。」 谷口「そのために、お前らは苦労してもいいっていうのか?」 俺の言葉一つ一つに対して反論はするものの、怒りや軽蔑の念は感じられない。俺が二人の心中を代弁している形になっているんだろうか? 古泉「…谷口くん。」 古泉は体を起こし、意を決したように俺に語りかける。 古泉「食べながらでいいので、聞いていただけますか。」 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 15:19:54.51 ID:xGqHBjTw0 谷口「おうよ。」 長門のおにぎりをもしゃもしゃしながら、俺は答える。 長門「古泉一樹。いたずらに話を漏らすことは推奨できない。」 谷口「いいんだよ長門、部外者の俺の方が役に立つこともある。」 長門は釘を刺すが、俺にはどうも放っておくことはできない。涼宮やキョンの友達なら、俺の友達も同然。 なんてことは口が裂けても言わないが。 谷口「もちろんあいつらに告げ口なんてしねえ。な、言える範囲でいいからさ。」 古泉「すいません…では。」 古泉は軽く息を吸い込み、切り出した。 古泉「あなたは先ほど、僕を病人と言った。」 谷口「あ、悪い。気に障ったか?」 古泉「いえ、それどころかその通りなんです。」 長門「………」 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 15:35:50.56 ID:xGqHBjTw0 古泉「今日は貧血でしたが、1週間ほど前は筋肉痛、2週間前にも頭痛がしました。」 谷口「マジかよ…」 古泉の体つきを見ているととても病気に見舞われるようには見えないが、実際このようなことになっているのだからそうなのだろう。 谷口「そんなになるまで、もしかして資金稼ぎのためにバイトか?」 長門「詳しくは言えないが、彼はSOS団のために日夜奔走している。」 古泉「長門さん…」 彼の頬が少し緩んだ、今度はつくりじゃなさそうだ。 古泉「彼女の言うとおり、少々無理をしてしまいましてね。時には生傷も負うようなことに…」 谷口「そんなに大変な仕事なのか?」 古泉「残念ながら、この部には他に適任者がいないもので。」 そりゃそうだ。怪我を負うような仕事を、女子3人やめんどくさがりやのキョンがやるわけがない。 408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 15:56:50.99 ID:xGqHBjTw0 谷口「長門たちはともかく、キョンのやつ…仲間をこんなになるまで放っておくなんて、さすがの俺もむかっ腹だぜ!」 古泉「いいんですよ、彼は彼で涼宮さんに振り回されて大変なのですから。それに…」 谷口「それに…」 古泉は長門のほうに目をやる。 古泉「本当に忙しく気疲れなさっているのは長門さんの方ですよ、それも顔色一つ変えずに。見習いたいくらいです。」 長門「………」 長門はまばたきもせずに静止している、本当に普段は木のように静かなやつだ。 谷口「お前もなのか、長門。」 長門「…私は疲れてなどいない。」 その言葉通り、疲れやいらいらなど臆面も出さないといった感じだが、その奥底には抱えきれない鬱憤がたまっている気がした。 古泉「最近では、僕の愚痴を聞いてくれたり看護をしてくれたりして…」 谷口「へぇ、母性的な面もあるんだな。」 長門「……そうでもない。」 あ、目をそむけた。…彼女はほめられるのが苦手なんだろうか? 古泉「今では彼女無しで戦っていけな…おっと、比喩ですよ。」 409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 16:02:29.49 ID:xGqHBjTw0 古泉は慌てて言葉を正す。 谷口「それくらい分かってるって。逃げ出したくはならないのか?」 古泉「ありますよ。僕のためになg…SOS団の活動に支障があったときなどはね。」 緩んでいた古泉の頬が再び強張っていく。 古泉「いっそ、消えてしまいたいと…!」 その憤りは誰に向けたものなのだろう。俺はおにぎりの最後の一口を口に入れた。 谷口「そっか、二人とも大変な苦労してんだな。」 長門「これは私自身が望んだこと。後悔などない…」 古泉「僕も同じく。」 二人は俺の目を見てはっきりと語りかける。こいつら、本当にいいやつだな。 見た目だけで判断していた自分自身を少し疎ましく思った。 410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 16:03:25.28 ID:xGqHBjTw0 谷口「俺、そろそろ帰るよ。」 長門「そう……」 谷口「悪いな、大して力になれなくて。」 古泉「今日はあなたに迷惑をかけっぱなしでしたね。」 谷口「困ったときはお互い様だろ?」 長門「……ありがとう。」 谷口「ごちそうさま。」 俺は席を立ち、部屋の出口へ向かう。 谷口「まあキョンにはそれとなく言っておくよ、こんないいお仲間がいるんだからな。」 古泉「谷口くん、あなたがSOS団に居てくれたら心強いのですけど。」 古泉は冗談めかして言う。 谷口「遠慮しとくよ、俺じゃ涼宮についていけそうにない。」 古泉「ははっ。」 俺は手をかけ、がらりとドアを開ける。 長門「……あの。」 412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/02(水) 16:12:33.64 ID:xGqHBjTw0 今度は長門が俺を呼び止める。 長門「また、来てほしい…」 谷口「…そうだな。」 俺は背中を向けたまま、一息おいて言う。 谷口「今度は長門に倒れていてほしいな。」 長門「……そう。」 谷口「じゃ、ごゆっくり。」 俺はドアを閉めて、立ち去った。 古泉「長門さん、彼が言っていたように倒れてみては?」 長門「残念ながら、私には疲労の感覚はない。」 古泉「そうでしたね。ふふっ、キョンくんはいいお友達をお持ちだ。」 長門「ユニークな人。」 谷口「キョンのやつ、いい仲間ができたみたいじゃないか。」 今日は柄にもないことをしたな。あの二人の苦労が報われる日がくるといいな。 古泉に長門か…俺にもほしいね、打算も理屈も超えた親友ってやつ。ま、それよりも早く出会いだよ出会い! 求む、トリプルエーの美少女! 俺に、春来たれ! おわりだわよ 414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 16:17:17.88 ID:xGqHBjTw0 ひたすら人間臭い谷口でがんばってみました あまり反抗期古泉と女神長門な感じがでなかった気が…