涼宮ハルヒの誘惑 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 19:19:07.51 ID:1XjFREWR0 片手にに得物を携えた睡魔が、疲弊感倦怠感その他諸々の甘い言葉に篭絡された意識を「ブスリ」と一突き。 一見グロテスクな描写ではあるが、生物学的な見地から解説すれば、 脳が昼間活動した代償として支払わなければならない休息をイメージ的に捉えやすくしただけであり、 ――要はただの睡眠のことである。 しかしながら、睡眠を軽視すると痛い目にあう。 何故かというと、それは一部の特殊な生命体を除く動物の活動において睡眠は切ってもも切れぬ密接な関係にあるからで、 もし仮に睡眠をろくにとらずに行動すれば平常時の思考力や判断力は望めず、酷けりゃまともに動けないこともあるからだ。 従って成長期の子供なら尚のこと、人間は娯楽や雑務に溺れずできる限り多くの睡眠時間を確保して、 次回の覚醒に向け備えるべきなのである。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 19:26:06.12 ID:1XjFREWR0 さて、話を目の前の状況描写に戻すとしよう。 何故俺が先程のような長ったらしい前置きをしていたかといえば、 今現在この文章に視線を走らせているであろう方々に睡眠をとることによって得られる恩恵と、 それを妨害する存在がいかに凶悪であるかを理解してもらいたかったが故である。 記憶は定かではないが、俺の安眠は数分前から左即頭部付近で呻いている携帯によって完膚なきまでに妨害されていた。 なんとか聴覚神経を遮断しようと懸命に明鏡止水心頭滅却等の四字熟語を頭に思い浮かべるのだが、 しかしそんな器用な真似が生まれてこの方十数年の未熟者にできるはずもなく、仕方なく寝返りをうって携帯に手を伸ばすことになる。 点滅を繰り返すサブディスプレイには丑三つ時を半刻ほどまわった時間が表示されていた。 その合間にも単調な震動は止まる気配を一向に見せない。 ついつい携帯の逆パカという暴力的な衝動にかられるのは、熟睡中に無理矢理起こされた者としての当然の反応といえるだろう。 ま、不快震動を停止するためにそんな安直な方法を採用するほど俺は寝ぼけちゃいないわけだが。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 19:32:33.16 ID:1XjFREWR0 不必要だとは思うが、一応言っておこう。……俺の気分は最低最悪のどん底であった。 もちろんその矛先はこんな深夜に連絡を取りたがっている電話の主に向けるべきであるのだが、 それには電話に出ることが最低条件なわけで。ああ忌々しい。 徐々に靄が晴れてきた脳内で本能と理性が鬩ぎあう。電話に出てしまった瞬間に俺の睡眠不足は疑いようも無く確定するだろう。 が、ここで出なければ震動地獄により浅い眠りのまま朝を迎えるだけであることは容易に予想できる。 それから数秒思考を廻らせた挙句、結局俺は携帯の通話ボタンをプッシュすることにした。 非常に残念だが、これが最善策だ。眠気の所為で性能が30%ダウンした右耳に携帯を軽くあてる。 数刹那後に飛び込んでくるであろう過剰音量を考慮すれば、これくらいが丁度いいのではなかろうか。 「もしも――」 「なんでさっさとでないのよ馬鹿キョン!  あんた起きてたんでしょ? ねえ、起きてたわよね?  絶対起きてたに決まってるわ! その上であたしの電話を5分間無視し続けるとはいい度胸じゃない!」 思い描いていた未来は現実となり、俺はやはり深い深い溜息をついて瞳を閉じる運びとなった。やれやれ、この展開は規定事項なのかね。 なあハルヒよ。少なくとも朝日を拝むまでにはお前の相談事が終わっているとありがたいんだが――まあ、それも無理な話なんだろうな。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 19:54:30.39 ID:1XjFREWR0 「それで、今日はどういった御用向きなんだ?」 深夜に起こされたことに対する不平不満を抑えて、フツーに問いかけてみる。 文句を言っても一刀両断され、更に1.5倍増しとなって投げ返されるのは、これまでの経験から良く分かっているからだ。 触らぬ神に祟りなし、昔の人はよくいったものである。まあ実際に神と深く関わっている俺にその格言が適用されるのかは甚だ疑問ではあるが。 「別に用事なんてないの。  ただあんたが何してるのかなーって思っただけ」 何ってお前、寝てるに決まってるだろう? なーんてありきたりな突っ込みは非常識の権化ともいえるこいつにとっては無意味に等しい。 「別に。お前は何してんだよ?  今は世間一般の高校生なら暖かく布団に包まって夢見てる時間帯だと思うぜ」 遠まわしに皮肉ってみるものの 「世間一般の常識があたしに当てはまるわけがないでしょ?  なんかね、目が冴えて眠れないの。だからなんか話しなさいよ。  あ! ちゃーんとあたしを楽しませる機知に富んだ面白くて先の読めない話じゃないとダメよ?」 と俺の言葉を全く意に介さず、恒例の”お話”を要求されてしまった。 寝れないから何か話してほしい、なんておねだりはせいぜい小学校低学年までのみが使用を許されていると 俺は確信しているのだが、当のハルヒは一片も気にしていないようで 「なに黙り込んでるのよ? 早くしないさいよ早くぅー」 と急かしたててくる始末だ。可愛く言ったら語る意欲が沸くとでも思っているのだろうか、この我侭お姫様は。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 20:16:27.25 ID:1XjFREWR0 とはいうもの、何時までもだんまりを決め込むわけにもいかないし、刻一刻とハルヒの機嫌が悪化していくのを見過ごすわけにもいかない。 「眠いから明日な」と捨て台詞を吐くとと共に携帯電話の電源を落とすこともできるにはできるが、 そんなことをしてしまった日には閉鎖空間が大量発生、悪くて世界が消滅の危機に陥るか良くて翌日に満身創痍の古泉を拝むことになるだろう。 「これは昨日の帰り道、お前らと別れてからの話なんだけどな――」 結局、俺は後戻りできないと知りつつも口火を切ることにした。 話の内容なんてのは谷口のナンパ自慢と肩を並べるほどに価値がなく、聞いても数分後には忘れてしまうほど他愛のない、 まあ一言で言うならば「どーでもいい」話なのだが、不可解なことにハルヒは 「それでそれで、その後はどうなったの?」 と俺の話に興味津々のご様子である。あの意思の強そうな大きな瞳を輝かせている様子が容易に脳裏に浮かぶね。 別段俺の語りが冴えているわけでも俺にストーリーテラーとしての才能があるわけでもないのに、何故ハルヒは飽きもせず リクエストの”機知に富んだ面白くて先の読めない話”という最低条件を満たしていない話を聞けるのだろう。 以前にも何度か聞いてみたが、決まってはっきりとした回答が返ってくることはなかった。 「それで俺は言ってやったのさ、お前みたいなやつに―― 「ふぁ、あ」 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 20:47:17.38 ID:1XjFREWR0 俺が話し始めてから40分ほど経ったころだろうか。待望の御声が形態の通話部分から聞こえてきたのは。 「どうしたんだ、眠いのか?」 「へ? そ、そんなこと……ないわよ」 数秒と待たずに反論を返してくるハルヒ。 呂律が回っていない口で反論しても説得力皆無だってことを分かっていないないのかね、こいつは。 「眠いんなら無理しなくてもいいんだぞ」 「あたしは…全然眠くなんて、ないんだから……」 ハルヒの言葉を信じて、このまま話を続けるべきか、それともハルヒの、いや俺の体調を慮って話を切り上げるべきか思索する。 だがいつ答えが出るのか分からない脳内会議も、ハルヒの穏やかな寝言によって強制終了という運びになった。 「ん……むにゃ……キョン…」 まだ携帯を口に当てたままなのだろう、寝言は全部こちらに筒抜け状態だ。 ハルヒの寝言がどういったものなのかもっと聞いてみたい気もするが、 寝言を聞かれたと知ったハルヒがどのような暴挙にでるやも知れず、俺は未来の自身のために好奇心を殺すことにした。 ヘタレというレッテルを貼られてもかまわないさ。それに俺の意識も度重なる睡魔の侵攻によってかなり朦朧としてきていたからな。 俺は四半秒迷ってから、できるだけ小さな声で就寝前に交わすであろう挨拶を口にした。 「……おやすみ、ハルヒ」 果たしてその言葉がハルヒの耳に届いたのかは分からない。 もしかしたら半分意識が残っている寝ぼけた頭で聞いているかもしれないし、 夢の世界にどっぷり沈み込んでいて現実世界のことなんざ忘却の彼方へ押しやっている頃かもしれない。 でも――それでも俺は思ったのさ。 恐らくは眠気たっぷりの状態で俺に電話してきた団長様には、例え届いてなくとも優しい言葉をかけてやろう、ってな。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 21:21:25.93 ID:1XjFREWR0 次の日。 俺は予想と寸分違わぬ凄惨なステータスで、北高への登校という危険任務を遂行した。 遂行、というと違和感を感じられる方もいるだろうが、得てしてこの表記はミスではない。 全身を蝕む倦怠感、フラつく足、自動的に降りる瞼、0.5ほど低下した視力、使い物にならない思考。 驚くこと無かれ、これらのバッドステータスでの行動は、全ての日常的行動を難易度A+程度の任務へと昇華させるのだ。 道中でぶっ倒れてそのまま熟睡という、相当酒の入った中年サラリーマンがやらかしてしまいそうな失態は犯さずにすんだものの、 俺の体力は長い一日の始まりにしてすでにその大半を失っていた。 今が四季の中で最も過ごしやすい気候である秋であるから良かったが、これが夏や冬ならばどうなっていたことか。 想像するだけでも悪寒が背中を走るね。 と、俺が秋特有の涼風を浴びていると聞き覚えのある無駄に快活な声が飛んできた。 「おはよ、キョン! あんた今日は早かったのね」 ガタガタという机と椅子を動かすやかましい音。振り向いてみる。相変わらずの眩しい笑みを浮かべたハルヒがそこいいた。 それにしても、俺の知的好奇心を刺激してやまないのがこいつの元気たる所以である。 こいつも深夜の2時半という時間帯まで起きてたにもかかわらず、何故眠気を微塵も感じさせないのか。 危ない覚醒作用のある薬でもやってるんじゃないかと疑いをかけながら、 「ああ、おはよう。お前は眠くないのか?」 と聞いてみた。するとハルヒはまるで今が平成、昭和のどっちか尋ねられたようなポカンとした顔つきになり、 「あたしが眠いわけがないでしょ。  いーい?  あんな程度の時間まで起きてたくらいじゃ、眠気なんてこれっぽっちも感じないわ。  さすがに二日連続で徹夜したらキツいけどね!」 さも当たり前のようにそう言い放って、親指と人差し指で不完全な輪を作った。 どうやら輪の欠けた部分が眠気を指し示しているようである。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 21:41:09.08 ID:1XjFREWR0 「にしてもあんた、ホントに眠たそうな顔してるわねー」 「そうかい」 誰のせいでこんな風になったと思ってんだ! という言葉を寸でのところで飲み込んで、わざと素気のない返事をする。 ニヤニヤするな気持ち悪い。俺が寝不足なのはそんなに心躍ることなのか? 「まだちゃんと起きてないんじゃないの?  SOS団の団員としての自覚が足りないわね。  ここは団長としてあたしがあんたの眠気を――」 と、ここでハルヒは口を閉じた。ハルヒの視線を辿って前方に目を向けると、 担任岡部が珍しくぼんやりした顔で教室に入ってきていた。 その見るからに眠そうなオーラに、つい声をかけたくなってしまう。分かります、分かりますよ先生の気持ちが。 「きりーつ」 眠気覚ましと言う名を借りた酷い仕打ちを受けずに済み、俺は安堵感と共に委員長の声に従った。 どことなく不満そうなハルヒの顔を視界の端に捉えて、思う。残念だったな、お前の眠気覚ましはまた今度頂くとするぜ。 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 22:00:07.26 ID:1XjFREWR0 さて、時は変わって昼休み。 授業中の描写をごっそり割愛した理由はシンプルだ。 何の面白味も無く差し当って特筆すべき点が見当たらない情景は語るに値しないと判断したからである。 あえて簡潔に語るならば……そうだな、俺はほぼ全ての授業を机に顔をつっぷして過ごした。 背後から鋭利な得物――シャープペンシルによる攻撃は何度も受けたが、圧倒的な眠気によって完全無視。以上。 弁当を取り出しながらぶつぶつと文句を垂れるハルヒを宥める。 「ちょっとくらい振り向くとかしてもいいんじゃないの?」 「悪いな、気付かなくて」 「全然感情篭ってない!」 自分で俺の睡眠不足の原因作っといて、翌日ちゃんと反応しなさいとは、いささか矛盾している気がせんでもない。 また授業中にシャーペンで突かれたからと言って、俺が振り返らなければいけない理由は何処にも見当たらず、 よって授業風景を乱さず静逸を保ちながら足りない眠りを貪っていた俺に非があるわけ―― 「うるさいわね。さっさと食べるわよ」 いつにも増して棘のある言葉に、俺は古泉ばりのオーバーリアクションをとってから弁当を開けた。 お前は俺と授業中にコミュニケーションを取れなかったことがそんなに悔しいのか? と突っ込みたくなるが自重する。 これ以上機嫌を損ねる真似は自殺行為だからな。俺も死刑は怖いんだよ。 「おっ、今日は豪華じゃねえか」 軽くハルヒの弁当の感想を述べてみる。別にハルヒのご機嫌取りってわけじゃあない。 ただ単純にそう思ったのさ。色とりどりに彩色された、栄養バランス、外見ともに秀逸なハルヒの弁当は、 十人が十人「旨そう」と感想を漏らすと断言できるほど食欲をそそるものだった。 それに比べたら俺の弁当なんぞ霞んでしまう。母さんには悪いが、事実なのだから仕方が無い。 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 22:27:22.15 ID:1XjFREWR0 「あんたのも美味しそうじゃない」 「本気で言ってるのか?」 と、ここで俺は完全なる不意打ちを食らった。 苦笑を浮かべつつも箸を動かしていた俺は、ハルヒの素早い動作によって箸を押しのけられ、おかずの一つ、卵焼きを奪われてしまったのである。 だがすでに時遅し、俺がそれに気付いたときには、ハルヒの2本の端は綺麗な唇によって挟まれていた。 ハルヒはもぐもぐとしっかり味わうように咀嚼し、ごっくんという擬音がぴったりに喉を鳴らして 「ほら、やっぱり美味しかったわよ?」 満足げな笑みを浮かべた。なんてやつだ。人のおかずを盗み、あまつさえ平然と笑ってのけたのである。 今頃ハルヒのお腹の中で悲鳴を上げているであろう卵焼きに、俺は心中で黙祷した。 「やれやれ」 「どうしたのよ?  あ! あたしが勝手に取ったから怒ってるの?」 いいや、お前の行動力の高さに今更ながら嘆息していたところだ。 「いいわよ、あたしのおかず食べても。  今日は多めに作ってきたんだし、ちょっとくらいなら上げる」 しかしハルヒは勝手に自己完結したようで、俺の科白が空耳だったかのように弁当箱を差し出した。 俺は別におかずの一つや二つ消えたところで対価を求めるほど腐った根性をしていないつもりなので、 いかにハルヒの弁当が美味しそうとはいえ奪おうなんて感情は芽生えないのだが、やはり食べたいという気持ちはある。 それに加えてこの絶妙なシチュエーションだ。うん、ここは純粋にハルヒの好意に甘えるとしよう。 「どれが自信作なんだ?」 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/18(土) 22:51:40.10 ID:1XjFREWR0 「うーんとね、これと、これと、……これかな」 「ほう。どれにしようか迷うな」 ハルヒがチョイスしたのはどれもこれも俺が口にするには勿体無いと憚れるほどに美味しそうな三品だった。 さすがに全部、ってわけにもいかないし、どれか一品に絞らないとな。 一品目、ハンバーグ。つい数分前に焼いたとしか思えないほどにふっくらとしていて、箸で割れば肉汁が溢れ出す事請け合いだ。 二品目、ミニグラタン。冷凍食品とは雲泥の差を感じさせる薄い小麦色の焦げ目が、なんとも言えぬ食欲をそそる。 三品目、ポテトオムレツ。小さいながらにもしっかりと厚みのある卵で包まれたそれは、表に見せぬボリュームを秘めていることを窺わせた。 ぐう、吟味すればするほど、どれにしようか迷ってしまう。どうしたものか。 十数秒悩んだ末、俺は結論を導き出した。 「やっぱいいよ。卵焼きくらいならやるからさ」 ハルヒは元々大きな瞳をさらに大きくして、 「え、なんで!? あたしの料理が食べられないっていうの?」 「いや、そういう訳じゃなくてだな……」 正直、俺にはやはり勿体なすぎるのさ。ハルヒが自信作と称するならば猶更自分で食べるべきだし どれも単品で食べてしまえばそれで終わりだ。だから遠慮するって言ってるんだよ。 「むー……」 ハルヒはそれから呻りはじめた。時折、 「なんでこんなに鈍いのかしら」 「あったまおかしいんじゃないの」 「一度徹底的にそれを分からせる必要がありそうね」 などと物騒なことを口にしている。俺はしばらくハルヒの顔を見つめていたが、箸を進める作業を再開した。 こういう理解不能な状況に陥ったハルヒは放っておくに限る。 ああ、きんぴらの歯ごたえがいいね。ご飯がすすむ。次はこっちのほうれん草を―― 「むぐっ」 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/19(日) 00:02:59.86 ID:iFBzWMV70 瞬間的に視界が暗転し呼吸困難に陥った俺は、状況の把握を試みた。 まず眩みつつある視界の端に、そっぽを向いたハルヒが見える。 してやったり顔だが、喜色満面というわけではなさそうだ。不安と期待を入り混じらせた、なんとも複雑な顔をしている。 口の中にある何かを上手に噛みながら呼吸を整え、だいぶ落ち着いたところでハルヒの腕に視点を移してみる。 左手は頬杖をついている。控えめにも行儀がいいとはいえないね。右手はといえば――箸を持っている。ま、当然か。 妹に見本として見せてやりたいくらいに綺麗な持ち方だな、と感心しつつ、俺は箸の先を注視した。 ここである違和感に気付く。あるはずのものがない。そう、例えるならば間違い探しのイラストで間違いを発見したような。 数秒後、俺は違和感の正体を暴くことに成功した。ああ、なんということだ。先程まであったはずのハンバーグが消失しているのである。 「さっきから何あっけにとられたようなマヌケ面してんのよ。  どう、味は? 美味しい?」 「え、ああ、旨いが……って何してんだよ!」 俺はハルヒの指摘でようやく、口の中に広がる豊潤な肉汁と、絶妙な柔らかさを以って味蕾を刺激するそれを知覚した。 なるほど、俺はハルヒによってハンバーグを食べさせてもらっていたようだ。 ハルヒの動きが神速すぎて捉えきれなかったものの、こうして口の中で存分に威力を発揮しているハンバーグが何よりの証拠だろう。 がしかし、美味しかったというだけで全てを流してしまうほど俺は単純ではない。 「おいおい、どうしたってんだよ。  いきなり俺にあーんするなんてお前らしくもない。  それにあのハンバーグは自信作だったんだろ? 俺なんかに食わしてよかったのか?」 「そ、それは……」 俺の「旨い」という賞賛の言葉を聞いてからずっとニコニコしていたハルヒが、急に言葉を詰まらせた。 次いで顔を赤く染めていき、ぷいっと窓の方を睨み始める。何か失言しちまったのかね、俺は。 183 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 00:30:00.21 ID:iFBzWMV70 窓の外に向かって未だ 「……のために……作って…たんでしょうが…」 「……なんであたしが……赤くならなきゃ……」 などと聞き取りにくい念仏のように何かを呟き続けるハルヒを先程と同様見やりつつも、俺は箸を進める作業を再開した。 何かと様子がヘンなハルヒを質問責めすることは十分すぎるほど可能なのだが、俺にはそんな嗜虐的な性癖はないし、何より後が怖い。 結局それからはハルヒが俺に再度強襲を仕掛けることもなく、俺は部分部分崩壊しつつもそれなりに平和だった食事を終えた。 弁当を適当に片して、あれから一言もまともに言葉を交わしていないハルヒに視線を送る。 「…………」 完全無視ときた。不味いな、俺は本格的にハルヒの機嫌を損ねてしまったらしい。 この危機的状況をどう打破しようかと思惑を廻らせていると、教室の端で国木田とだべっている谷口が声を掛けてきた。 「おーい、キョン。食い終わったんならこっちこいよ」 まったくもって空気の読めない奴である。しかしながらその言葉に反する要因は見当たらない。俺はしばしの間葛藤した。 と、その時である。ハルヒがじろり、と若干怒気を込めたアイコンタクトを送ってきた。 ”勝手に行きなさいよ!” 翻訳が正しいのかどうかは定かではないが、「どっかにいっちゃえ」といった感じの意味であることは確かなようだ。 小さく溜息をつきつつ、 「ハンバーグ、旨かったぞ。よかったらまた食わせてくれよ」 と礼とも次回への布石ともとれぬ微妙な言葉を残して席を立つ。 それに対するハルヒの反応は背を向けているので分からないものの、どうせ鼻を鳴らして一蹴、といった感じだろう。 俺は余計なこと言っちまったという一抹の後悔を胸に、やけにニヤついている谷口と国木田の元へ向かった。 204 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 00:55:29.06 ID:iFBzWMV70 「昼間っから熱いねぇ二人とも。教室の室温が2℃ほど上がったよ」 「見せ付けてくれるじゃねーか。俺への当て付けか? コノヤロー」 頭を振ってこれ見よがしに「はふぅ」と溜息をつく国木田に困惑し、当て付けなどなんだのと叫びながらヘッドロックをしようと襲い来る谷口を軽く往なして 「熱いだの見せつけだの……何言ってんだ?」 俺は当然の疑問を口にした。こいつらも春の、いや秋の陽気にあてられたクチだろうか。 いきなり崩壊した日本語を浴びせかけられても、理解しようとすること自体が間違っているだろう。 「ねぇ、キョン。それ本気で言ってるの?」 だというのに国木田は、心底呆れたような口調で俺に問いかけてきやがる。一向に国木田の言葉の真意を汲み取れずにいると、 今度は谷口がむっくりと起き上がり(先程俺に飛び掛り、そのままの勢いで何の罪も無い席に激突した)好奇心丸出しのアホ面で尋ねてきた。 「なぁ、キョン。お前最近涼宮とよく飯食ってるよな」 「まあそうだが」 一応同意しておく。否定しようと肯定しようとこれは事実だからな。 だがしかしその回答の何がおかしいのか、谷口はアホ面の色を一層濃くして、 「いつからお互いの弁当を食べさせあう仲になったんだ?」 とまるで自分のナンパ自慢をする時のようなニヤニヤ顔で質問を重ねてきた。 まるでどこぞのくどいマスコミのような口調にイライラが募るものの、ここで怒れば俺の負けだ。俺は冷静沈着を心がけ、なるべく落ち着いて 「ハルヒと俺は弁当の中身を交換したりしてねえよ。  ただあいつが俺のおかずとって、俺がその代わりにハルヒのおかずをもらっただけだ」 219 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 01:17:06.27 ID:iFBzWMV70 瞬間、教室の空気が絶対零度にまで下がり、教室内にいる全ての人間が凍結した――ような気がした。 完全なる沈黙。呼吸音さえも響かなかった。この空間内で、動けるのは俺だけなのか? そんな錯覚に襲われるほど、誰も微動だにしない。 だがそんな異常事態の中で一つだけ共通していることがあった。全員の視線が、なんと俺に集中しているのである。 いや、そういった比喩でも俺が自意識過剰でもなんでもなくて、本当に全員が俺を見つめているのだ。 やがて、俺が気恥ずかしさを覚える一歩手前で、クスリ、という笑い声がどこかで響いた。 それは感染能力が高い新種のウィルスのように人から人へ伝わっていく。 くすくす笑いが、ただの笑いに。ただの笑いが、爆笑に。 いつしか爆笑の渦に巻き込まれている中で、俺だけが、いや俺とハルヒだけが取り残されていた。 そのきっかけを作った谷口はというと、涙を浮かべながら腹を抱え、時折笑いすぎて咳き込みながら 「はははははっ、それを、ごほっごほっ、食べさせあうって言うんだよ!あっははは、やべえキョン、お前面白すぎるぜ、はは」 とまたしてもよく分からないことを口走っている。 常日頃から谷口の暴走を止める役割の国木田さえもが、口も聞けないほどに笑っているのだ。 これはちょっとした恐怖である。俺は唯一まともであるハルヒにアイコンタクトを送った。 ”これは一体どーゆーことなんだ?” ”自分で考えなさいよ、もう!” 俺にアイコンタクトを返し、遠目でも分かるほどに顔を真っ赤にして机に顔を埋めるハルヒ。 途端、笑いの中に生暖かい視線が飛んできて、俺は更に苦悩した。くそ、この際俺も自嘲じみた笑みを浮かべてやろうか。 結局、この騒ぎが一先ず終結したのは、昼休みが終わる少し前のことだった。 234 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 01:46:03.66 ID:iFBzWMV70 午前中の授業と同じく午後の授業も端折ってやりたいところだが、今回はそういうわけにもいかないだろう。 それは暗に少なくとも今から描写する午後の授業風景平凡な日常と違っていることを表しているのだが、今この文章を目で辿っている人たちには重ねていいたい。 俺は悪くない。断じて悪くない。そう、周りがおかしくて俺だけが正しかったのである。これだけだとまるで俺がどこぞの独裁者みたいだが―― とにかくその時の状況を語るとしよう。話はそれからだ。 授業が始まってから数分経った頃のことだろうか。 朝に比べれば随分と控えめな威力で、シャープペンシルが俺の背中を突いた。 すでに朝の居眠りで睡魔は完全に撃退していたので、振り向いてみることにする。 昼休みの一件でハルヒが怒っていないかそれなりに心配だったからな。 「どうしたんだ?」 なるべくつっけんどんにならないように、でもフラットにならないように気をつけて聞いてみる。 「あのね、その……」 俺を呼んでおいて、中々その小さな口を割ろうとしないハルヒに釈然としないものを感じるものの、俺は辛抱強く待つことにした。 昼休みに無粋な(多分)振る舞いでハルヒの機嫌を損ねてしまったから、という負い目を感じてのこともある。 「さっき言ったこと、ほんとう?」 だが、やがてぽつりハルヒが漏らした言葉に、俺は今日何度目か分からない溜息をつくことになった。 なぜこうも俺が親しくする人間は、修飾語を使うことを忌み嫌うのだろうか。 鬱陶しい爽やかスマイルの超能力者など例外もいるが、あれは一先ず置いといて。 「さっき言ったことって、どんなことだ?」 「ほら、ハンバーグ食べたい、っていう……」 ああ、なるほどあの時の科白か。記憶を手繰りよせて得心する。 247 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 02:06:17.78 ID:iFBzWMV70 「本当だ。お前の作ったハンバーグは非の打ち所がないほど旨かったからな」 「ほんと? 嘘じゃない?」 窓の外を睨みつけていたハルヒが、急に向き直って俺を問い詰める。 まったく、この雰囲気の落差は一体なんなんだろうね。まるで尋問されているような気分だよ。 「あぁ、嘘じゃねえ。俺は確かにもう一度食べたいって思った」 疑り深い団長様のために、はっきりと念を押すように言い切ってみせる。 どうだ、これで信じてくれるか? その前になんでこんなことを聞かれているのか説明が欲しいところだが―― 「……なら、作ってきてあげてもいいわよ」 ハルヒの声は時たま、普段の快活さからは到底想像もできないほどにトーンダウンすることがある。 そして俺はその度にこう言うわけだ。その後の展開がある程度予想できていてもな。 「すまん、もう一度言ってくれないか、聞き取れなかった」 ハルヒが俯きがちになっていた顔を上げて、口をがぁっと開いた。どう見ても咆哮の前兆である。 ……どうやら俺の楽観的思考はしばらく封印せねばならないようだ。 こいつ、今授業中ってこと完璧に忘れてやがる。 「だからあんたがどうしてもハンバーグ食べたいって言うなら、作ってきてあげてもいいって言ってるのよバカキョン!!」 ダラける生徒が数名見られながらも、それなりの均衡と秩序を保っていた教室の風景は 昼休み同様、見事に砕けちることとなった。耳に残響するハルヒの声。 やれやれ。しかし嘆息したときにはもう遅い。 それから俺とハルヒがクラスメイト達からどのような視線を受け、また数学教師からどのように指導されたかは割愛しておく。 そこらへんは察してくれ。できれば思い出したくないんでな。 394 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 10:35:09.54 ID:iFBzWMV70 時間的には数分なのだろうが、しかし精神的には一時間にも二時間にも感じられる時を経て、俺は這這の体で着席した。 騒動が収まってからも四方八方から浴びせかける生暖かく絡め取れれるような視線に対抗して 鋭い視線を向けてみるものの、「やべ、キョンが怒ったぞ」などという逆に不快感を煽られる言葉が耳に障るので諦める。 まあ普段から何事にも無気力な俺が慣れない事をしたところで大した効力があるとも思っていなかったが。 プス だがクラスメイトからの視線も然る事ながら、俺は重大な懸案事項をもう一つ抱えていた。隠す必要もないので言うが、ハルヒである。 プスプス ハルヒは咆哮を教室中に轟かせたあと、自分が何をしてしまったのか自覚したのであろう、顔を羞恥に染めて机に顔を埋めた。 まああれだけクラス中に聞こえるようなデカい声で叫んでしまったのだ、ハルヒの恥ずかしいという気持ちも分からないではないのだが、 プスプスプスプス この上着に穴を開けることを目的とした、執拗なシャーペン攻撃は一体なんなんだろうね。 マイブームか? 新しい遊びか? 少なくともこの行為が世界の不思議探索に関連しているとは考え難いんだがな。 「何なんだよ、さっきから」 たまらず振り返って尋ねてみる。これで通算後五度目の質問だ。 だが、ハルヒはその度にまるで愛玩動物のようにビクッとして(本人は認めないだろうが)突き放したようにこう言うのである。 「べ、別に何もしてないけど。ちゃんと授業聞きなさいよね!」 お前なあ、目が泳ぎっぱなしのままついた嘘や言い訳が通用しないってことくらい中学生でもわかりそうなもんだぞ。 それに授業が終わってからでも上着の背中部分を確認すれば、すぐにバレるだろ? 「………バカ」 402 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 11:01:35.97 ID:iFBzWMV70 ここで俺のささやかながらにも小中高の間に養った脳内辞書を紐解いてみよう。 【バカ】 @おろそかなこと。社会的常識に欠けていること。また、その人。愚。愚人。 A取るに足らないつまらないこと。無益なこと。また、とんでもないこと。 B役に立たないこと―― 自分でやって哀しくなってきたので、脳内辞書を閉じて放り投げる。 やれやれ、俺が何をしたというのだ。ハルヒの機嫌が悪くなったのも自爆行為が直接的な原因だし、 クラスメイトの視線、および言動に至っては理解に苦しむのを飛び越えて理解することを諦めなければならないだろう。 ここで先程の俺の言葉を思い返していただきたい。俺は何もしてない。そう、悪くないのである。 きっと常識人である皆様方も俺に共感していることだろう。 首を正面に捻る直前、相変わらずぶすっとした顔のハルヒを見やって、俺は諦観した苦笑を浮かべた。 どうやらハルヒのメランコリー状態はしばらく継続するようである。 今更授業を拝聴する気にもなれないので、窓の外を眺めてみる。 冴えない瞳に映る町の景色は、日に日にその艶やかな色合いを増し、秋が深まりつつあることを教えてくれた。 「もう10月も終わり、か」 柄にもなく、独り言を呟いてみる。断っておくがこれは自分に酔ってるわけではなく、 ついつい口から零れ落ちてしまったのだ。そんな経験がある人は多いのではなかろうか。 そうこうしている内に、俺は全身にゆったりと確実に忍び寄る魔手に気がついた。 もう午前中いっぱい寝たと言うのに、まだ眠り足りないのかこの頭は。性能が芳しくない割りにはなんとも燃費の悪い頭である。 がしかし、俺が連日のようにハルヒに夜更かしにつき合わされているのは確かだ。ここらで寝溜めするのもいいだろう。 俺は瞼の上に現れた睡魔に体を委ねることにして、目を閉じた。 412 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 11:33:31.56 ID:iFBzWMV70 「――ョン、キョンったら! 起きなさいよ!」 頭部に激しい衝撃を受けて慌てて目を覚ませば、目と鼻の先10cmの距離にハルヒの顔が確認できた。 まだ覚醒しきっていない頭を働かせて、辺りに視線を走らせてみる。 すると俺の視界が捉えたのは、各々荷物を鞄に詰めて、教室を出て行くクラスメイトたちだった。 思わず戦慄したね。だって今は授業中のはずだ、普段と違うこいつらの様子に焦りを覚えるのは、当然の心理であろう。 地震、火事、校内に侵入した精神異常者――脳内に醜悪な予感が広がっていく。 俺は深刻な事態に陥っているのかと焦燥にかられながら、しかし逸る気持ちを押さえ込んで尋ねた。 「どうしたんだ、何かヤバいことでも起こったのか!?」 「……あれ、見えるわよね?」 だがそんな俺とは対照的にやけに冷たいハルヒの声。 その白磁で細い指の先を見てみれば、終業時から半刻ほど回った時計が確認できる。 ああ、なるほど。俺は午後の授業、更にはHRもずっと夢の中だったというわけか。 「ああ、なるほど、じゃないわよ!  あんたは一体どれだけ寝たら気が済むわけ?」 呆れ返ったように言って、はぁ、と溜息をつくハルヒ。 まさかこいつに溜息をつかれる日がこようとはな。 しかし俺は自分の不覚としかいいようのない失態に落胆しながらも、無視できない疑問が浮かび上がるのを感じていた。 別に俺が有名探偵の如くの推理力を保持しているかというわけでもなく、また先程の寝起きのようなくだらない勘違いでもない。 少し考えてみれば誰でも思い至るはずだ。”何故俺はこんなにも長い間眠ることができたのか”という疑問に。 授業中ならまだしも(一、二回注意して無駄なら教師は諦める)、 HRとなれば如何に今日の岡部がぼんやりしてるといはいえ、居眠りしている生徒を見逃すはずがないのである。 「なあ、ハルヒ。先生とかは気付かなかったのか、俺が寝てたこと」 俺が眠っている間もずっと後方から攻撃をしかけていたに違いないハルヒなら、 俺がたたき起こされなかった理由も知っているに違いない。 427 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 12:04:49.18 ID:iFBzWMV70 しかしそんな期待とは裏腹にハルヒは知らん振りを決め込んでいるようで、 「さ、さあ、特に何も言ってなかったけど」 「そうか、珍しいこともあるもんだな」 俺は気にせずこの話を流すことにした。 本当に先生が俺に同情して見て見ぬフリをしてくれたのかもしれないし、 奇跡的に厳しい視線から逃れられたのかもしれない。どっちにしろ、ムキになることでもないだろう。 今日はほとんど使用されなかった教科書たちを鞄に大雑把に詰め込んで立ち上がる。 背骨がいい具合に鳴るね。まあこれだけ寝たらそりゃ体も軋むだろうが。 が、足を止めたままのハルヒに気付き、俺も同じく足を止めた。 「どうしたんだ、今日は休むのか?」 「ううん、あたしはちょっと生徒会室に呼び出されてるから少し遅れるだけ。  先に行ってて頂戴」 一体何の呼び出しだろう、と考えを廻らせるものの、 あの鋭い眼光を放つ機関の回し者、生徒会長の顔を思い出してやめた。 どうせまたSOS団の活動にいちゃもんつけてとかそんなんだろう。 「じゃあまた後でな」 「うん」 俺の言葉に屈託の無い笑顔で軽く手を振りかえしたハルヒを見届けて俺は教室を後にした。 どうやらハルヒは俺が寝ている間にメランコリー状態を脱したようである。これは掛け値なしに喜ぶべきことだ。 別にハルヒの心理状態を四六時中気にしてるわけじゃないが、やっぱり身近な人間が元気だとこっちまで元気になる。 テンション最高潮のときの、まるで体内で核反応を起こしているのではないかと心配になるほど元気いっぱいのハルヒは逆に扱いに困るけどな。 463 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 13:22:32.23 ID:iFBzWMV70 放課後になって浮き足立っている生徒の集団をかきわけて文芸部室、いやSOS団本拠地に向かう。 にしても、この喧騒は何とかならないものなのだろうか。 もちろん放課後になればこうなるのは当たり前のことなのだが、 高校生活に慣れ始めた一年生がそれにさらに拍車をかけつつあるように感じるね。 活発なのは北高の空気作りにも良いことだろうが、限度というものは何事にもあって、さすがにあまり煩いのはよろしくない。 まあそれを注意するほど俺は風紀を守ることに情熱を注いでいないので、結局は何も変わらないんだけどな。 だが、時折廊下の端から 「でさー、今日そこの店行くんだけどぉ〜」 「マジ? 俺もいくいく!」 などの放課後の暇つぶしと言う名の異性間交友の約束事の取り付けなどが耳に飛び込むと、言葉にし難い切ない情動に襲われる。 毎日うはうはの遊び三昧とは言わないが、フツーに青春してえなー、と思ってしまうのだ。 俺だって健全な男子高校生だからな。残念ながらいつになってもその機会が訪れることはなさそうだが。 ここでSOS団の女性メンバーを思い浮かべてみるとしよう。 朝比奈さん。上級生で、あちらこちらからアプローチを掛けられるほどのロリ巨乳美少女だが、彼女は未来人であり、いつかは必ず未来に帰還せねばならない。 だが、もし彼女がトンデモ設定のない普通の一美少女だったとしても、俺は彼女に特別な感情を抱くことは無いと思う。 抜群の愛らしさと、庇護欲をそそる朝比奈さんに目を奪われることはあっても、それはまた恋愛感情は別なモノだ。 長門。無口、表情情だが冷徹といわけではなく、稀に仕草の中から温かみを見出すことができる静謐な美少女である。 だが朝比奈さんと同じく宇宙人というトンデモ設定を備えていて、恋愛感情とは無縁といった感じである。 いや俺との関係は一年前と比べりゃ雲泥の差があるものだが、この調子で温めていってもそんな関係に発展するまでには100年ではとても足りないだろう。 そして最後にハルヒ。セミロングの麗髪に、端整な顔立ち、ナイスバディの文句なしの完璧美少女だ。 が、玉に瑕なのが自分本位で傍若無人、天上天下唯我独尊といった言葉が似合うその性格である。 最近はそれも大分収まってきて、ハルヒに振り回されつつもその状況を楽しんでいる自分がいるのだが―― って俺は何を言っているんだろうね。ハルヒは断言していたではないか、恋愛なんてのは精神病の一種だ、と。 そうこうしている内に文芸部室のプレートが見えてくる。 俺は先程の自分に突っ込みたくなるようなメモリーを消去して、軽くノックした。 「はぁ〜い」 472 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 13:50:58.38 ID:iFBzWMV70 軽やかに耳朶を擽るメゾソプラノ。その声を聞くだけで、俺の心身に蓄積されてきた疲労は音もなく崩れ去る。 お着替えタイムでないことに安堵とも落胆ともいえぬ微妙な心情になりながら、ドアを開ける。 見た者全てが頬を緩めずにはいられなくなるほどに柔らかく温かな微笑を浮かべた朝比奈さんがそこにいた。 「キョンくん、わたしもついさっききたところなんです  今からお茶淹れますね」 直後、その無償の奉仕精神に俺が感涙したことは言うまでもないだろう。 まったく、メイドの鏡のような人ですね、あなたは。 「ありがとうございます」 と先に礼を述べてから、適当なパイプ椅子に腰掛ける。 今のところはできるだけ視線を真正面に向けたくないので、俺は首を左に捻った。 窓際で秋風に髪を撫でられながら、しかし体で動かしているのは頁を繰る右手のみという 本を読む姿勢ランキングで堂々の第一位を獲得すること間違いなしの宇宙人を見ていると、 感情表現に疎い娘を見ているような気分になるね。なんか、こう、落ち着くんだよ。 「………」 と、俺の視線に気付いたのだろうか。長門が顔を上げてこちらを見つめ、ミリ単位で首を傾げる。 しかしその漆黒とも琥珀色とも判断しかねる瞳の奥を覗き見る前に、 「おや、今日はお一人でしたか。  てっきりあなたも涼宮さんの付き添いとして生徒会室に顔を出すものかと思っていたのですが」 敬語口調がいやに似合う、ハンサムな青年が俺の視線を正面へと引き戻した。 せっかく長門の一挙一動に注目していたと言うのに、迷惑なやつである。 こいつと言葉を交わしたが最後、長広舌地獄に堕ちるか、結果の見えているテーブルゲームを延々やらされることは 確定しているので意図的に視線を外していたのだが――もう無駄なあがきはやめたほうがいいみたいだな。 483 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 14:16:02.62 ID:iFBzWMV70 「あいつは後から来るらしいぜ」 「そうですか」 短い返事にホッとしてはいけない。ほらみろ、爽やかな微笑浮かべながら両手は機械的にチェスの駒を動かしてやがる。 「また懐かしいものを持ち出してきたな」 「また新しい面白味を発見できるかと愚考したのですが、お気に召しませんでしたか?」 「別にいいぜ。でもその通常時と比べて20%増しの気色悪い言葉遣いはやめろ」 すみません、と含みのない笑みを浮かべる古泉。 思えば、こいつもいつの間にか自然とジョークを飛ばしたり、笑うようになったな。 認めるにはいささか不可視抵抗があるものの、こいつと俺の間に 世間一般では友情と呼ばれる絆が存在しているのは間違いないようである。 俺は緩慢な動きで、自陣の駒を並べる作業を開始した。 ――20分後。 戦局は完全に俺に傾いていた。 まあここで俺が負けるほうがおかしいのだが、あまりにも今日のゲームは一方的すぎる。 朝比奈さんが運んできてくれたお茶を啜りつつ、訝しげな目で古泉を観察していると、 「そういえば、最近不可解な事象の発生を確認しているのですが、  それに関してあなたの意見を聞かせてはもらえないでしょうか」 駒を動かしながら、何気なさを装って古泉が問いかけてきた。 だが長門の無表情フェイスから微細な変化を読み取れる俺だ、その笑顔に隠された真意を見逃すはずもない。 俺は幾許かの緊張感を持って、承諾の意を示した。 「実は最近、小規模の閉鎖空間が発生しては消えるといった報告が機関の観測員から多く寄せられているんですよ」 498 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 14:48:36.61 ID:iFBzWMV70 「発生しては消えるって、それはハルヒが勝手に機嫌悪くして、勝手に機嫌直してるってことか?」 閉鎖空間の非定期的発生と自動消滅か。 あのハルヒが感情制御などという高等テクを擁するようになったとはにわかに信じがたいんだが。 しかし古泉は口元に手をあて、空いたほうの手に空中にある不可視の物体を乗せるような仕草を見せて、 「いえ、あなたは何か勘違いをなさっているようですね。  彼女の理性は無差別に機嫌を害する思春期のそれからすでに成長していますよ。  しかし、一度悪化した感情を瞬時に自己修復するほど成熟してもいない」 「てことはつまり、ハルヒの心情を揺らしたり得る心的要因があって、尚且つそれを宥める何かがあるということか?」 ご名答です、と満足げな古泉。なんだよ、俺はお前に意見とやらを求められていたんじゃなかったのか? 「そう急かさないでください。話はこれからですよ。  機関は、この事態を重く見て調査を行ったんです。何せ小さな綻びから世界が危機に曝されるかもしれないのですからね。  ですが、結果は見るも無残なものでした。  何一つ、涼宮さんの不定期な閉鎖空間――ここでは特殊閉鎖空間と称しましょうか――の発生法則は発見できなかったんですよ」 結果が芳しくなかったという割には、全く焦りを感じさせない古泉の語りに違和感を覚える。 「簡単にまとめてみると、ここ一週間の特殊閉鎖空間の発生時間はこのようなものです」 古泉はおもむろに鞄から一枚のレポート用紙を取り出した。 指先でそれをトントン、と叩くあたり、これがその報告書のようである。 「俺が見ても問題ないのか? 機関の資料なんだろ?」 「ええ、おかまいなく。機密事項は一切記していませんから」 529 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 15:23:11.82 ID:iFBzWMV70 軽く目を通してみる。ざっと見た感じ、記載されている時間は古泉の話どおり完全にバラバラだ。 が、その中に気になる時間を見つけて俺はしばしの間その数字を見つめた。 毎日のように特殊閉鎖空間を発生させているハルヒなのだが、 それは主に学校にいる時間帯、つまり朝方から夕刻までに集中している。 それと対照的に、帰宅してからはほとんど発生させることはなく(例外もあるが)平和なものなのだが、 不可解なことに夜中の2時過ぎや3時近くになっていきなり特殊閉鎖空間を発生させているのである。 「これを見てあなたはどう思いましたか?」 「どうって、お前らと同じだよ。わけがわからん」 表情を引きつったものに変貌させた古泉は、一瞬何か言いたそうにしてからその言葉を飲み込んだように見えた。 俺が何か建設的な意見を述べるとでも期待していたのだろうか。 「そ、それではあなたはこの時間帯に何をされていたんです?」 古泉の指先は、まさに俺がさっき見ていた深夜に発生したことを表す数値を指していた。 何って……いつもどおりハルヒが迷惑を顧みずに電話をよこしてきて、俺がいつものようにくだらない話をしてやっただけだが? 「涼宮さんはこの時間に、閉鎖空間を発生させていた。しかし、それは数分と持たずに自然消滅した。  そしてこの間、現実世界で涼宮さんに電話という形で干渉することができたのはあなたのみです。  これが何を暗示しているか、懸命なあなたならわかりますよね?」 確かにお前の言わんとしようとしていることは分かった。 でもな、古泉。お前の推論を信じるならば、ハルヒは俺に電話をすることによって荒んだ心を癒したということになるんだが。 「だからそうなんですよ!」 途端、柔和な表情を崩して俺に詰め寄る古泉。いやいや待て待て、んなことがありえるはずがない。 そんな妄言を機関の上層部に進言してみろ、鼻で笑い飛ばされるぞ? 565 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 16:45:57.41 ID:iFBzWMV70 「質問が悪かったようですね……」 片手で頭を抱えつつ、そんなことをぶつぶつと呟く古泉から一旦視線を外し、 先程から冬に向けてだろうか、俺の横のパイプ椅子で編み物をしている朝比奈さんに目を向ける。 すると朝比奈さんは元々俺に目を向けていたようで、自然、視線は交錯した。 ぱっと顔を赤らめ、編み物を再開する朝比奈さん。 そのいつまでたっても初心な様子が愛らしい――のだが、 「いくらなんでも鈍感すぎますぅ」 とよく分からないことを呟くあたり、相当照れているようだ。 いやあ朝比奈さん、そんな反応されたらこっちまで照れますよ。 「では、話は変わりますが、今日あなたから見た涼宮さんの行動を  簡潔にお聞かせ願えないでしょうか?」 が、古泉はそんな自己満足に浸る時も与えてくれないようで、俺の耳は落ち着きを取り戻した声を拾った。 まだ少し顔が引きつってはいるものの、どうやら勝手に錯迷していた古泉は通常状態に回復したようである。 「今日のハルヒの行動ね……いろんなことがあったからどれから話せばいいんだか」 実際、今日は就寝中の長電話といい(これはここんとこ毎日だが)、昼休み、午後の授業の初めの一騒動といい、 その後シャーペン攻撃といい、ハルヒに関係する不可解なことが多すぎた。 しかもどれにもこれにも共通しているのは、俺の意思が届かないところで勝手に起きては、 とばっちりを俺が食らうという理不尽極まりないイベントだった、という点である。 俺は愚痴を聞いてもらう意味合いも兼ねて、古泉にかいつまんで話してみることにした。 第三者的に物事を考察できるこいつなら、全うな助言が得られるかもしれない、と思ったのだ。 571 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 16:50:11.79 ID:iFBzWMV70 指が……動かないだと? 俺は自分が自分でなくなっていく様を、まるで第三者の視点で見ているかのように傍観していた。 すでに役立たずとなった思考は事態を諦観しており、打開策を打ち出そうともせずに時の流れに身をまかせようとしている。 まだ自由の利く目で壁時計に視線を走らせる。 「迂闊だったようだな」 嗜虐的な、それでいて自嘲じみた笑みとともに俺はテキストエディタを終了させた。 もう魔の手はそこまで迫っている。俺の意識が落ちるのも時間の問題だろう。 限界が訪れようとしている指を必死に動かして、タイピングする。  昨日から起きてる時間はほとんど書いてたので超絶に眠たいです  仮眠とるね 「ふ、終わりか」 丁度その文字をタイピングし終わった頃だろうか。背後から忍び寄る気配を感じて、俺は極自然な動作で振り返った。 いやそれでは語弊がある。体の自由が利かないが、まるで引き寄せられるかのように振り向かされたのだ。 眼前に踊るは、冥界からの使者――睡魔。 「う……あ……」 抵抗する気力は、残されていはいなかった。否、残されていたとしても俺は抵抗していなかったに違いない。 睡魔の片手に握られた鎌の挙動に目を奪われているうちに、俺の意識は混濁していった。 ふざけるのはたいがいにして、マジで眠いから遅めの昼寝してくる 620 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 18:19:31.52 ID:iFBzWMV70 「――それで、あなたはどうしたのですか?」 「いい加減酷く勘違いしているクラスのやつらが可哀想になってきてな。はっきり言ってやったのさ。  ”俺とハルヒはただ二人で飯を食っていただけで、それ以上でもそれ以下でもない”ってな」 「はぁ。それで涼宮さんはその間、如何なされていたのですか?」 「ハルヒなら、ずっと顔伏せてたな。伏せる前に一瞬顔が見えたが、すっごい勢いで睨まれたぜ。  蛇に睨まれた蛙の気分を味わったよ。気になる点といえば……ハルヒの顔は終始赤かったな」 話が進むにつれて、古泉の表情が面白いように曇っていく。と言っても俺からすればこれは結構真面目な話で、 古泉が共感し大きく相槌を打つのを少なからずとも期待していた分にとっては、この反応は全然面白くない。 「次は午後の授業中の話なんだが、またハルヒが暴走しだして――」 それに加え、何時しか俺の話に興味津々になっている朝比奈さんと、ハードカバーに飽きたのか、こちらに首を捻った長門の、 まるで脳に相当深刻な疾患をもった病人を見るような視線が、俺の暗澹たる気分をさらに倍加させていく。 「――というわけで俺とハルヒはまたしても大衆の前で大恥をかいてしまったというわけさ」 「「「…………」」」 先程までそれなりに合いの手を入れていた三人は、すでに緘黙の姿勢(長門には変化がないが)をとっていた。 特に脚色なくありのままの事実を話しているだが、どこかで失言してしまったのかね。 朝比奈さんはまだしも、長門までが瞳の中にこんな哀れみの色を浮かべるのは極めて稀である。 頭の中を疑問符が席巻しくのを傍観しながら、俺は話を続けた。 「すると、そいつらはまた喚きだすんだよ。仲睦まじいだの新婚だの、どいつもこいつも谷口みたいだったぜ。  脳に変革をきたす新手のウイルスに集団感染したんじゃないかと心配になったね、あの時は。  そりゃあ確かにハルヒは一年前に比べりゃ驚くほどに丸くなったと思う。  どういう風の吹き回しかは知らないが、昼休みはずっとくっついてくるようになったし、  授業中にやたらと後ろからかまってくるようになった。そういや部室で理不尽で面倒な雑務を言いつけられることも減ったな。  だが、これが果たして仲睦まじいといえるかというと――」 625 名前:ミス多かったので丸ごと修正ver[] 投稿日:2007/08/19(日) 18:23:57.67 ID:iFBzWMV70 「――それで、あなたはどうしたのですか?」 「いい加減酷く勘違いしているクラスのやつらが可哀想になってきてな。はっきり言ってやったのさ。  ”俺とハルヒはただ二人で飯を食っていただけで、それ以上でもそれ以下でもない”ってな」 「はぁ。それで涼宮さんはその間、如何なされていたのですか?」 「ハルヒなら、ずっと顔伏せてたな。伏せる前に一瞬顔が見えたが、すっごい勢いで睨まれたぜ。  蛇に睨まれた蛙の気分ってやつを味わったよ。気になる点といえば……そういやハルヒの顔は終始赤かったな」 話が進むにつれて、古泉の表情が面白いように曇っていく。と言っても俺からすればこれは結構真面目な話で、 古泉が共感し大きく相槌を打つのを少なからずとも期待していた分にとっては、この反応は全然面白くない。 「次は午後の授業中の話なんだが、またハルヒが暴走しだして――」 それに加え、何時しか俺の話に興味津々になっている朝比奈さんと、ハードカバーに飽きたのだろう、こちらに首を捻った長門の、 まるで脳に相当深刻な疾患をもった病人を見るような視線が、俺の暗澹たる気分をさらに倍加させていく。 「――というわけで俺とハルヒはまたしても大衆の前で大恥をかいてしまったというわけさ」 「「「…………」」」 先程までそれなりに合いの手を入れていた三人は、話の件の中盤あたりですでに緘黙の姿勢(長門には変化がないが)をとっていた。 特に脚色なくありのままの事実を話しているだが、どこかで失言してしまったのかね。 朝比奈さんはまだしも、長門までが瞳の中にこんな哀れみの色を浮かべるのは極めて稀である。 俺は頭の中を疑問符が席巻していくのを傍観しながらも、話を続けることにした。 「すると、そいつらはまた喚きだすんだよ。仲睦まじいだの新婚だの、どいつもこいつも谷口みたいだったぜ。  脳に変革をきたす新手のウイルスに集団感染したんじゃないかと流石に心配になったね、あの時は。  そりゃあ確かにハルヒは一年前に比べりゃ驚くほどに丸くなったと思う。  どういう風の吹き回しかは知らないが、昼休みはずっとくっついてくるようになったし、  授業中にやたらと後ろからかまってくるようになった。そういや部室で理不尽で面倒な雑務を言いつけられることも減ったな。  だが、これが果たして仲睦まじいといえるかというと――」 641 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 18:40:47.45 ID:iFBzWMV70 ――十数分後。 「ざっとこんな感じだな。どうだ?  機関の調査とやらにこの話は役立つのか?」 古泉に負けず劣らずの弁舌を振るってしまったことに後悔の念を抱きつつ、俺は感想を聞いてみた。 尤も、その頃には古泉は両手をテーブルに立てて互いの指を重ねてそこで頭を支えるような姿勢になっており、 とてもまともな回答を得られそうにはなかったのだが。 「……ええ、今後の僕の行動方針において、非常に役に立つ情報でしたよ……」 三日間水分を摂取していない喉から搾り出すような、苦渋に満ちた擦れ声。 おい、どうしたんだ。別にお前の行動方針にさして関心はないが、俺の行動方針について何か助言を―― 「キョンくん、きっと疲れてるんです。お茶淹れてきますね」 俺の声は朝比奈さんの、ふんわりした声によってかき消された。 肩に温かい温もりを感じて横を見れば、そこにはメイド姿が。 小動物のようにくりっとした瞳にたゆたう、慈愛の光。 ああ、やはりSOS団において最大の理解者はMy sweet angelである朝比奈さんだ。 ほら、俺の苦悩を理解し、それを和らげようと努力を惜しまないでいてくれる。 「大丈夫、きっと治りますから」 治るって何がですか? しかしそれを尋ねる間もなく、俺の視界を占領する重厚感たっぷりの本、本、本。 俺の処理能力が追いつく前に、長門が矢継ぎ早に本の解説を始めた。 何時の間に窓際から本棚から数冊の本をとりつつここに来たのか、という 物理的矛盾の指摘は当然のことながら差し控えておく。 675 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 19:28:17.24 ID:iFBzWMV70 「――男女間の感情伝達に齟齬が発生し――」 「―――理想と現実との乖離が顕著に―――」 「――逆境において発生する心理効果は――」 それから長門はTFEIであることを如実に実感させる一つの要素、高速詠唱に匹敵するほどの速さで 本の解説を始めたが、聞いていると酔いそうなのでとりあえずこの三冊の表題と特徴を確認してみよう。 まず一冊目。恋のギャンブルというポップな書体がデカデカと踊っている。多分フィクションだな。 続いて二冊目。あなたと私。頁をパラパラとめくってみる。あらすじを読む限り実話の感動ストーリーといったところか。 そして最後に三冊目。奥手なあたなは損してる。表紙にはサブタイトルとして「素敵な恋のルール」となんとも胡散臭い言葉が書かれていた。 「なあ、長門」 俺はこのまま放置しておけば、本の解説どころか全て朗読してしまいそうな勢いの長門に声をかけた。 忙しなく動かしていた小さな口が閉じられる。 「これってもしかしてもしなくても、恋愛本なんじゃ……」 「……読んで」 「なんで俺がこんなものを……」 「……読んで」 ただただリピートする長門。しかしその小さな声の裏に潜む有無をいわさぬ強い意志に、俺は反論する気を削がれていた。 しかし文句がないわけではない。何故俺がこのような本をわざわざ読まなければならないんだろうね。 いつぞやのときのように栞が封入されているといったこともなさそうだし、何しろジャンルがジャンルだ。 俺は恋愛本なんてのは手に取ったためしがなく、最後まで読み終える自信がほとんどなかった。それが三冊ともなれば猶更である。 しかし謎の行動をとる宇宙人と、憔悴しきった超能力者は 「ああ、この手がありましたか! 徐々に彼の意識改革を進めることによって――」 などと意気投合しており、俺の思考は更なる混迷の渦に巻き込まれていく。どうにでもなれよ、もう。 690 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 19:49:32.20 ID:iFBzWMV70 さて、いつもの如く耐久性はそう高くないであろうと推測される ドアをぶちやぶるかの如くの勢いで飛び込んできたハルヒが最初にあげた一声がこれだ。 「もっと早く出たかったんだけど、あの会長うっさくてつい口論になっちゃったのよねー。  あ! キョン何読んでるの?」 こいつが好奇心の塊であり、そしてその欲求が俺に対してのみ以上に跳ね上がることは熟知しているので ここは一刻も早く恋愛小説を鞄に突っ込み永久密封したいところなのだが、 「あ、ああちょっと読み物をだな」 俺は三人による無言の圧力を一身に受けているので、曖昧な返事を返すことしかできない。 そして当然、ハルヒが暈した返事に満足するはずもなく、 「聞こえなかったの?  あたしは何読んでるかって聞いてるの!」 俺の手から本を奪い取ろうと鞄を朝比奈さんに預けて飛び掛ってきた。 くそ、いきなり実力行使は反則だろ! 「見せなさいよー」 「ちょ、やめろってハルヒ」 それから俺とハルヒはお互い必死になって本を奪い合った。 その間手に力を加えながらも、ハルヒを傷つけないようにセーブしたり 表題がハルヒの目にとまらないようにしたりとまあ色々大変だったのだが…… 結論から言おう。息を切らした俺の手から、本は奪い取られていた。 嬉々として本を吟味しようと団長席に持っていくハルヒ。ああ、終わった。 「あんたが読書なんて珍しいじゃない。どれどれ〜……」 719 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 20:15:15.37 ID:iFBzWMV70 「………こ、これって」 「恋愛小説ですよ。恋愛本の代名詞ともいえるあなたと私という本です。  どうやら彼も恋愛事に興味を持ち始めたようでして」 口から出任せ言うなと殴ってやりたい衝動に駆られるが自制した。 後で覚えてろよ、古泉の野郎め。 「あんた、それホントなの?」 「ああ、本当だよ。最近ハマってな」 感情の読み取れない声に、せめてもの反抗と諦めた風に答える。 「………そうなんだ」 しかし、待てど暮らせどいつまでたってもハルヒの俺を責め立てる声は聞こえてこなかった。 てっきり「あんたも精神病の疑いが出始めたわね」とか「恋愛?バッカじゃないの?」とか 嘲笑されるのだろうと身構えていた分、拍子抜けするね。一体どういう心境の変化だろう。 「はいこれ、返すわよ」 「あ、ああ」 本を返すときのハルヒは、部室に飛び込んできたときの勢いが失せてしまったかのように もじもじとしていて、俺はその様子に既視感を覚えずにはいられなかった。 そう、午後の授業で、俺にハンバーグを作ってくるとかどうとか言ってきたときのハルヒと同じ感じだ。 789 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 22:04:33.81 ID:iFBzWMV70 が、ここでまた余計なことを言えばハルヒが何かしらの暴挙にでることは自明である。 俺は受け取った本を片手に大人しくパイプ椅子に戻り、一息つくことにした。 先刻適当なことをハルヒに言い含めた古泉に、非難を籠めた視線を投げかける。 だが俺の微弱な視線攻撃は、目標地点に到達する前に消滅した。俺が途中で攻撃意思を失ったからである。 何ということだろう。古泉は朝比奈さんとアイコンタクトを交わし、小さくガッツポーズをしているではないか。 朝比奈さんと秘密のメッセージをやり取りしているだけでもイライラが鬱積するのだが、現時点での問題点はそこじゃない。 ハルヒに俺が恋愛ごとに興味を持っていると思わせたことが、そんなに喜ぶべきことなのか? たまらず窓際に視線をやれば、今度は長門までもが満足げな表情を浮かべている幻視をみてしまった。 俺は激しい眩暈に襲われた。おかしい。何かがおかしい。俺の知らないところで世界が勝手に回ってやがる。 「やれやれ」 思わず溜息が出るね。これで通算――もう考えるのはよそう。憂鬱になるだけだ。 俺は別に読みたくも無いが、気を紛らわせる一環として真面目に恋愛本を読むことにした。 だが、俺が妥協の末に得た平穏もSOS団に蔓延りつつある異変は許してくれないようで、 俺は三頁にまで突入しないうちにハルヒから呼び出された。 「ちょっとこっち来なさい」 棘のない命令口調。俺が愚痴一つ零さずにハルヒの元へ向かうと、 どうやらハルヒはホームページのレイアウトを弄りたいようで「やり方を教えてほしい」とのこと。 俺はそんなのヘルプ見りゃ小学生でも分かる、ってかお前この前自分でやってただろ、とも言わず、 根気良く説明してやった。まあここまでは普通だな。 が、俺は次に飛び込んできた音声情報に耳を疑うことになる。 「わかんない。もう一回教えなさい。  あとあんたの説明分かりにくいのよね。  だから……その、もっと近くで教えなさい。拒否権はないんだから」 808 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 22:31:04.48 ID:iFBzWMV70 驚天動地だ。ハルヒは元々頭がいい。成績は常にトップクラス、何事も飲み込みが早く、要は秀才だ。 そんな奴が、俺の詳しすぎるといっても過言ではない説明を聞いて「もう一度」などということはありえないのである また最後はあまりよく聞き取れなかったが、「近くで教えなさい」と言っていたようにも聞こえた。 幻聴だと信じたいのだが、もしこれが事実であった場合、どのような対応をとればいいのか非常に悩むところである。 そもそも詳しく説明するのに近くによる必要性は皆無だし、なんなら俺が代わりにハルヒの望むレイアウトにすれば―― 「ごちゃごちゃうるさいわね! こっちくるの!」 分かったからそう引っ張るな、上着が破れるだろうが。 「それで、俺の説明のどこが分からなかったんだよ?」 「全部」 全部ときた。どこまで俺に渋面を作らせたら気が済むんだろうね、この団長様は。 にしても、やけに部室内の空気が生暖かい。 もちろんれは温度計が示す温度的な意味ではなく、感覚的にという意味だ。 嫌な予感が脳裏をよぎり、ディスプレイを覗き込んでいるフリをしながら三人の様子を窺ってみる。 果たして予感は寸分の違いもなく的中した。 古泉、朝比奈さんはにこやかな笑みを浮かべ、長門は(錯視だと信じたい)瞳に温かい光を浮かべて、こちらを凝視しているのである。 俺はその様子に愚かなるクラスメイト達を思い出し、陰鬱な気分にならざるをえない。 なあお前ら、そこらへんにしておかないか。俺はお前らをあの奇妙な集団と同類視したくないんだよ。 「まずポインタをここにもってきてだな」 「うんうんそれでそれで?」 本当のところは今すぐに三人を更正させてあげたいのだが、それはどう考えてもハルヒが横にいる限り不可能なわけで、 俺はやはりPCの前から、いやハルヒの傍から離れることができなかった。 それにしても顔と顔が近いな。思わずハルヒの肌理細やかな白い肌に目を奪われるものの、なんとか講義を続行する。 もしハルヒにそんなことを考えていたと気付かれれば、エロキョンだのなんだの言われてぶっ飛ばされるのがオチだからな。 852 名前:丸ごと修正[] 投稿日:2007/08/19(日) 23:11:38.61 ID:iFBzWMV70 「――どうだ、これで満足したか?」 「まあいいわ。大体分かったし」 二回説明しなくとも最初ので十二分に分かりきっていたはずだが、ハルヒがそう言うからにはそうなんだろう。うん。 説明によって枯れた喉を潤すのに何かないものかと探していると、すかさず眼前に湯のみが現れた。 「飲んでいいわよ」 おお、ありがたい。ごくごく、旨かったありがとう。って何なんだこの滑らかな流れは。色々と疑問点ありまくりだぞ。 「お前、本物のハルヒか?」 「はぁ、あんた何言ってんの?」 本日二度目の驚愕に、俺はついそんな思慮に欠けた質問をしてしまった。 ちょっと逸らしていた顔をこっちに戻して、あっけにとられたような表情のハルヒ。いやだって常識的に考えておかしいだろ。 貶しているわけじゃないが、ハルヒは俺の私物を掻っ攫うことはあっても、ハルヒの私物を俺に分け与えるということは滅多にない。 俺は当然の疑問を口にした。 「いや、今日のお前はやけに優しいな、と思ってよ」 誤解を招かないように釘を刺しておけば、この言葉にはハルヒを篭絡しようとか ハルヒを煽てようなどという邪念は一切含まれていない。一連の行動から感じたことを、ただ純粋に述べただけである。 しかしハルヒはその言葉をどう受け取り違えたのか知らないが、 「なっ、なななな何いきなり訳わかんないこと言ってんの?  あたしがあんたなんかに優しくするわけないじゃない。勘違いも甚だしいわ」 やれやれ、お前は十数秒前の所為も反芻できないのか。 じゃあ聞くが今俺の手に握られているこの湯呑みは誰のものなんだ? 888 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/19(日) 23:37:24.84 ID:iFBzWMV70 「…………」 塞ぎこんで喋ろうとしないハルヒ。ははあ、どうやら俺はまたしても機嫌を損ねてしまったようである。 今日は厄日だな。すること成すこと全てが裏目にでる。が、取り繕う努力は惜しまないでおくか。 俺は空っぽになったハルヒの湯呑みに自分でお茶を注ぎ(朝比奈さんが代わる言ったが丁重に断った)団長席にコトリ、と置いた。 一応礼も述べておく。 「お茶、ありがとな」 再度補充したのだから必要ないかもしれないが、俺の生理的欲求を瞬時に満たしてくれたのは事実だからな 「……お礼なんていいのに」 消え入りそうなほど小さな声が耳に届いた気がしないでもないが、俺は敢えて反応せずにパイプ椅子に戻った。 口は災いのもとである。なんだかこの一日の間に随分と多くのことを学んだ気がするね。 と、ずっと立ちっぱなしだったのでゆっくりとしたい俺を妨害するかのように、その視線は絡み付いてきた。 ”やればできるんじゃないですか。  彼女が部室に来るまでは失念していましたが、なかなかどうして、あなたも謙虚なんでしたね” アイコンタクトを翻訳後、その発進元を辿っていく。 まるで初めてガールフレンドができた息子を見守る父親のような微笑を浮かべた古泉がそこにいた。 ”ちょっと心配だったけど、やっぱりキョンくんはすごいです” 古泉のそれに比べるとやけにふわふわした視線感じて元を辿る。 まるで初めてガールフレンドができた息子を見守る母親のような微笑を浮かべた朝比奈さんがそこにいた。 比喩が完璧に一致しているのはそうとしか表現できなかったらで、決してこれが俺の本意というわけではない。 911 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 00:14:51.90 ID:RSqoHx440 俺は古泉には刺すような視線を、朝比奈さんには苦笑を返して、再び本の世界に飛び込むことにした。 重ねて言うが、今日は厄日である。人との関わりを最小限に抑え、明日の朝を迎える。そう、これが一番なのだ。 だが勢い込んで本を開いた割には、俺の手は中々頁を繰ろうとしなかった。 陳腐な描写に、フィクションの世界でしかありえないようなプラトニックな恋愛観。 ダメだ、俺がこんな本を読むこと自体間違っている。 長門ももう少しまともな本を薦めてくれてもよかったんじゃないかと思うね。 当の長門はというと俺が今広げている本に比べて一頁に印刷された文字が遥かに多い本を すいすい読み進めている。俺とは根本的に文章把握能力が異なっているのだろう。きっと。 パタン と、そうこうしている内に長門が本を閉じて、その日の活動の終わりを告げた。 珍しくメイド服を着用していたなかった朝比奈さんと古泉と長門が、身支度をし始める。 さてと、俺も準備するとしようかね。 つい しっかし、特に充実していたわけでもないのに、今日はやけに一日が長く感じられたな。 ついつい こういうのが平々凡々な日々との相対性の成す業なのだろうか。 ぎゅ たまらず振り向く。あのだな、ハルヒ。 俺の記憶が正しければ、おまえは間違っても弱気で内気な女の子みたく袖をひっぱるようなヤツじゃなかったはずだ。 言いたいことがあれば例え俺が耳を塞いでいても無理矢理伝えようとする強気なお前は、一体何処にいっちまったんだ? 250 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 16:00:02.71 ID:RSqoHx440 「ちょっと話があるの」 長門とタメをはれるくらいにか細い声。 ハルヒの特徴を再度頭の中に列挙する。するとますます目の前の大人しい少女が誰だか分からなくなるのだが、 しかし外見的にはどう見てもハルヒなので、俺はそれに関する疑惑を一時忘却の彼方へ追いやることにして至極合理的な返答をした。 「話って……今此処でしかできないのか。帰り道で歩きながらでも」 それが今度の不思議探索に関するものであろうと、前々から言っていた 俺の赤点ギリギリの成績を向上させるための成績up計画に関することであろうと、道中で話せばいいことだと思ったからである。 時間の節約にもなるし、何より「下校しながらという気楽な状況下なので自然と会話も弾むだろう。 だがハルヒの話とやらは話せる場所が部室に限定されているようで、 「ダメ。二人っきりじゃないとだめなの」 しかも他人に傍聴されてはいけない、機密事項に類されるようである。。 「二人っきり」という部分にたっぷりと感情を込めたところからみるに、そこはよほど重要な条件みたいだな。 「皆、あたしたちちょっと残るから先に帰っててくれる?」 途端声色をいつもの調子に戻して、他メンバーの下校を促すハルヒ。なんというか……都合がいいね、まったく。 「え、何でですk……は、はぁ〜い。じゃあ先に帰ってますね」 「おや、どうしたんでs……それでは一足先に帰るとしましょう」 「……………」 259 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 16:31:59.19 ID:RSqoHx440 都合がいいといえば、こいつらもそうだ。 朝比奈さんのぽっと染めた頬と、古泉の驚いたような顔、そしてナノ単位で首を傾げた長門の 三者三様の反応からして、俺達のこれからの予定に興味をもっていることは疑いようもないのだが、 「じゃ、じゃあまた明日ね」 「鍵はここに置いておきますので」 「………」 その内容に触れようともせずに帰宅準備を完了させ、 「おいおい、そんなに急ぐことねえだろ」 と俺が突っ込みを入れるよりも先に、一目散にドアへと向かっていく。 あっけにとられている内にドアがパタンと音を奏で、部室内に残留しているのは俺とハルヒだけになった。 部室を出る際、霊や怨霊の類に憑かれたのかのように、狂喜の笑みを口元に浮かべていた古泉。 思い返して、俺の脳は更なる混迷を極めた。 「お前らハルヒの観測員じゃなかったのかよ……」 恐らくは今頃校門を潜っているであろう三人に向かって、届かないと知りつつも呟く。 それから俺は、先程から一言も言葉を発していないハルヒに視線を戻した。 「あのね、キョン。話っていうのは、その」 またこの庇護欲をそそる弱気モードである。お前は性格をスイッチみたく切り替えられるのか、と 聞いてみたくなるのだが、この雰囲気も悪くはないので話を促すことに専念する。 この調子でハルヒが話していったら、帰宅できるのは明日の朝になりそうだ。 274 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 17:09:09.53 ID:RSqoHx440 「で、下校時間過ぎた学校の文芸部室で、二人っきりで話したいことって何なんだ?」 単刀直入に聞いてみる。一つの事象、もしくは一つの事柄に対する過剰描写は得意だが、 一対一の会話において遠まわしな表現は苦手なんだよ、俺は。 「………えっと……」 だが俺の意向に反し、ハルヒは未だに本題に入ろうとしない。 もし目の前で手をこねくり回し俯いている相手がただのクラスメイトの女子ならば 色々と話の内容に想像の輪を広げることも可能なのだが、実際はハルヒである。 凡人に神の頭脳を理解できるわけがない。そんなことが可能なのは、自他共に認めるハルヒの精神分析のスペシャリスト、小泉のみであろう。 三人が退室してから丁度15分が経過したころだろうか。ハルヒは、ようやくまともな文章を紡ぎ始めた。 「……あんた、恋愛ごとに興味あるって言ってたわよね」 いや、先程の表現では俺の伝達意思と読者の方々の理解に齟齬が発生する可能性があるな。 「まともな文章」とは「えっと」だの「その」だのという場繋ぎとしての役割を果たす言葉以外の連続した言葉が ハルヒの口から発せられたことを意味しており、その言葉の内容が「まとも」であるという意味ではない。 「ああ、確かにそうだが」 足りない頭をそれなりに活用して想定していたものと、全く違う切り出しに面食らいつつも同意する。 俺の眼窩に、ハルヒが生徒会室にいる間に古泉を筆頭とする三人に「俺は恋愛ごとに興味がある」と洗脳されたときの情景が再生された。 いや、俺は別に青春を人並みに謳歌できたらいいと思っているだけで、必ずしもそれは女に飢えているなどという 邪な考えと直結するわけではないのだが、しかし恋愛ごとに興味があるかと聞かれたらあると答える他なく、 結果俺は「恋愛ごとに興味がある」というステータスを組み入れられてしまったのだ。 「な、なんでまた急にそんなことを考えるようになったの?」 300 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 18:05:56.08 ID:RSqoHx440 しかし、俺にはそんなことを思い出している暇などなかった。今度は俺がその場繋ぎの言葉を吐く番だ。 「それはだな……まあ……」 皆がいる前では恋愛=精神病という素敵すぎる持論を展開できず、 二人きりになってから恋愛という人間の心理が如何に愚かしいか説教するつもりなのだったのだろうか。 そんなことを思わせるほどに、ハルヒは思いつめた顔をして俺を見つめている。 「はは、なんでだろうなあ」 迷った末、俺は曖昧な返事をした。 本音を言えば、恋愛願望なんてものは思春期に突入した頃から持っているし、急に湧き上がるなどということはありえないのだが。 「そうなの。でも恋愛ごとが経験したくなったっていうのは事実なのよね?」 「ああ」 同意するしかないので同意する。俺の微々たる努力は無駄に終わった。 無言のまま俯き、ぎゅっとこぶしを握るハルヒ。それを見て、俺は思った。 この後はどうせ、ハルヒから「恋愛なんてのは愚か者が考えることよ!」などという理不尽な説教をくらう展開になるんだろう。 古泉も馬鹿なことを考えたものである。閉鎖空間の発生を助長させてどうするつもりなんだろうね。 まあ反抗すれば説教が切諫へとグレードアップすることは間違いないので、 俺は黙って嵐をやりすごすだけなんだが……数秒後に耳をつんざくであろう怒号に身構える。 「じゃ、じゃあ……あたしが手伝ってあげてもいいわよ?」 俺は構えを解いて、ハルヒの顔をまじまじと見つめた。はて、今こいつは何と言ったのだろう。 夕陽の斜光で文芸部室は何もかもが赤く染め上げられており、ハルヒの元の顔色は分からない。 324 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 18:46:50.46 ID:RSqoHx440 「そりゃあ、あたしは恋愛なんて精神病だと思ってたわ――」 ポカンとした俺を一人置いてきぼりにして、ハルヒは先刻までのもどかしさが嘘だったかのように矢継ぎ早に言葉を連ねていく。 だが今はそれに耳を傾けている場合ではない。微妙な沈黙を経て、ハルヒが最初に呟いた言葉。 長門の声を拾うことも可能なハイスペックな俺の耳でも聞き取ることが難しかったのだが、確か「手伝う」とか言っていた気がするね。 「でっ、でも最近はそうでもないかなー、なんて――」 今までの会話をざっと反芻してみる。俺はハルヒに手伝ってくれるようにと頼んだか? いや、頼んでいない。そもそも会話らしい会話してないし、こいつに俺から頼みごとなんて滅多にしないしな。 「だから、もしどうしてもあんたが――」 では、ハルヒが「手伝う」と言った以前のの文脈を辿ってみるとしよう。 俺が身構える直前、ハルヒは何と言っていた? 確か…… 「恋愛ごとを体験してみたいっていうんなら――」 ああ、そうだ。俺が恋愛ごとを体験したいかどうかの事実確認をしてきたんだったな。 じゃあもしかすると手伝うってのは、恋愛ごとを手伝うという意味なのだろうか? だがそれでは国語的にも若干違和感があるし、加えてどう手伝うのかが不明である。 「あ、あたしが――」 と、ここで恋愛の定義について再確認してみることにする。恋愛とは読んで字の如く互いに恋をして愛し合うことなのだが、それにはもちろんのこと相手が必要不可欠だ。 今のところ俺には相手がいない。この時点で俺は恋愛にかなりの距離を置くことになってしまうのだが、 それは裏を返せば相手さえいれば、いくらでも恋愛することができるということである。 もしこの果てしなく都合のいい解釈をハルヒの「手伝う」という言葉と連結させて再考察するならば、 368 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 19:52:24.97 ID:RSqoHx440 「――お前が俺と付き合ってくれるということか」 「――あたしがあんたと付き合ってあげてもいいわ」 俺が長考の末導き出した信頼性において不安定な結論は、しかし俺がそれを口から零してしまうと同時に 発せられたハルヒの話の終結部とぴったり重なり、その正確さを裏付けられることになった。ああ、良かった良かった。 「「………」」 って、全然良くない。まったくもって良くない。どう考えても良くない。付き合ってもいい? ハルヒが俺と? 何故? どうして? Why? 簡単に組み立てることができたはずの論理的思考はもはや意味を成さず、組み立てようとした瞬間にまるで乾いた砂のように脆く崩れ落ちていく。 しかしハルヒは、鏡がないので確かなことはいえないものの、恐らくは激しく取り乱しているであろう俺に 一時たりとも気持ちを静める時間を与えてくれないようで、追い討ちをかけるようにこんなことを尋ねてきやがった。 「あんたはどうなのよ。あたしじゃ……イヤなの?」 「い、イヤというわけではないんだが」 しどろもどろになりつつ言葉を返す。俺は今までに無いほど混乱していた。 閉鎖空間、時間遡行、敵対的情報生命体との対峙、etc...この状況に比べれば、そんな非常識的事象に何ら特異性はない。断言できるね。 ハルヒは可愛い。飛び切りに可愛い。しかも最近ではあどけなかった子供のような仕草に、淡い艶やかさ纏わせるようになった。 その証拠に、今も上目遣いで俺の返事を待つこいつは俺の本能的な情動を刺激してやまず、 結果俺の心はまるで震度7の大地震に曝された築60年の木造建築物のように倒壊寸前である。 「ハルヒ、まず落ち着こう」 まず落ち着くべきは俺だと自覚しながらも言葉を続ける。 「その、なんだ。俺とお前は、団長と平団員、いや雑用係という微妙な関係だったはずだ」 何か喋っていなければ精神がもたない。今なら突然矢継ぎ早に話し始めたハルヒの心境が理解できる。 415 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 20:47:50.25 ID:RSqoHx440 「その微妙ながらも安定していた距離感を――」 入学当初から今までずっと、俺はハルヒに無理難題な命令を受けて、しかしなんだかんだいっても結局はその願いを叶えてやってきた。 土曜日は不思議探索につき合わされ、たまに日曜日も買い物等の雑用にと連れ出されたりと、随分こいつには尽くしてきた。 「今になって、しかもそんな思い付きみたいな理由で――」 しかし、時間が経つにつれて人間同士の関係は個別差はあれど変質していく。俺とハルヒのそれも例外ではない。 ハルヒと関わりを持って、もう一年と六ヶ月が経つ。その長いようで短い時間の間に、ハルヒは俺に優しくなった。 もっとも、ハルヒが元から優しくなかったというわけではない。それを行動で示すようになったということだ。 「壊しちまうのは良くないと思う――」 でも俺は思うのだ。この歪な信頼関係に、果たして恋愛感情もしくはそれに属する感情が芽生えていたのだろうか、と。 俺からハルヒに向けて何か想うところがあっても、ハルヒがこの冴えなく何の取り得もない俺に想うところはなかったはずだ。 ハルヒが求めているのは、非日常的で刺激的な存在だ。俺みたいなどこにでもいるような凡人じゃあない。 「だから――」 いつの間にか言葉がハルヒではなく、自分に言い聞かせるように形を変えているのに気付く。 同時に、ハルヒが瞳が潤ませて、唇を引き結んでいることにも。 ハルヒの申し出は嬉しかった。モテない俺に夢を見させてくれようとしたんだろう。 でも、俺がお前を大切に想っているからこそ、誰よりも傷つけたくないからこそ、俺ははっきりと答えなければならない。 「俺は、お前とは――」 463 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/20(月) 21:30:09.57 ID:RSqoHx440 「付き合えな――」 「…………!!」 俺の脇を走り抜ける、一陣の風。それは俺が言い終えるのを待たずに文芸部室から飛び出していってしまった。 通り過ぎざまに見たハルヒの顔が、何度も何度もフラッシュバックする。俺はパイプ椅子に体を預けた。 大きく見開かれた瞳に浮かんでいたのは、水平線に融けてかけている夕陽の赤光とは違う色。 その瞳の端で小さく光を放つ雫は、今にも零れ落ちそうだった。開け放たれたドアが、きぃ、と耳障りな音を立てている。 「さて、どうしたもんかね」 何故ハルヒが飛び出したのか。何故ハルヒが――泣いていたのか。 その理由をとっくに見つけているはずなのに、目を背けている自分を殴りたくなる衝動にかられる。 ふと鞄の中に入っている恋愛本を思い出して、俺は嘲笑の笑みを浮かべた。 あんなものが何の役に立つ? 今の俺にとっては昨日の夕刊よりも価値がない。 ポケットの中で唸りを上げるバイブレーションに気付いて、俺は携帯を取り出した。 着信――古泉、か。通話ボタンを押す気にもなれないね。 と、俺は携帯を仕舞いかけて、メールが届いていることに気がつく。 なんとなく気になって、俺はメールの中身を確認することにした。 from:谷口 15:48 まったくさっきは驚いたぜ、キョン 多分涼宮は何も言ってねーだろうから教えてやるけどよ お前今日朝からずっと寝てただろ? なんで一度も起こされずにHR終わるまでぐーすか寝れたか分かるか? お前の愛しの涼宮が、滅茶苦茶怖ぇ目で教師共睨みつけてたからだよ しかも極めつけはこのセリフだ。 あの岡部に「疲れてるから起こさないであげてください」だぜ? ははっ、どこまで見せ付けてくれるんだお前らはよ ---END--- 4 名前:修正ver[] 投稿日:2007/08/23(木) 21:00:06.96 ID:UM0fLUPC0 「遅ぇんだよ、谷口」 実際は俺がメールに気付かなかっただけなのだが、谷口のせいにしておく。 ディスプレイが一瞬ぼやけた気がして、俺は眼をしばたたかせた。 もう一度文面に目を通してから、今度こそ携帯をポケットに仕舞う。 誰もいなくなった部室を見渡して、俺は胸を鷲掴みにするような寂寥感に襲われた。 ハルヒがいない。ただそれだけで、俺はこんなにもダメになっちまう。 「なあ、ハルヒ。俺はお前のことが……」 呟いた言葉は、静かな部室に一度だけ響いて消えていく。 もう遅いのかもしれない。俺の拒絶ともとれぬ言葉に、ハルヒは少なからず傷ついたはずだ。 本末転倒だな、と自嘲しつつ、俺は鞄はそのままにしてゆっくり立ち上がった。 今あいつが何処にいるかは分からない。何しろ運動神経が段違いに良いあいつのことだ、行きたい所ならどこでもいけるだろう。 あいつの鞄が文芸部室にある以上、校内の何処かにいると思うのだが、抜け出して家に帰っている可能性は否めない。 でも、一つだけ確かなことがある。あいつはきっと、俺が一番見たくない表情を浮かべているんだろう。 部室を出る前、窓の外に目をやってみる。薄暗い空、灰色の景色。ハルヒの機嫌は、最悪という一言じゃ済まないほど悪化しているみたいだな。 「やれやれ」 俺はわざと溜息をついてから、無機質さを増した廊下に足を踏み出した。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 21:04:43.80 ID:UM0fLUPC0 電灯が不気味にチラつく校内で、ハルヒが隠れることができそうなポイントを一箇所一箇所隈なく探索していく。 走って目的地に辿りついては落胆し、さらに速力を上げて目的地については落胆しを繰り返す内に、 まさかハルヒが周辺の環境情報を操作して見つからないように細工しているのではないかという不安に囚われるが、 しかし直後に自分がどれだけ都合のいい考えを抱いたのかと、自己嫌悪に陥る。俺は自分を心中で詰った。 俺は馬鹿だ。どうしようもない、救いようのない馬鹿だ。 ハルヒを見つけたら、何と声をかければいいのか。そんな簡単な問いにさえ答えることができないんだからな。 何時しか全力疾走となり、その代償として朦朧とする意識をなんとか保ちながら、俺は今日一日のハルヒの行動を思い起こしていた。 『なんかね、目が冴えて眠れないの。だからなんか話しなさいよ』 深夜二時半。俺がしぶしぶとった携帯電話から届いた声に覇気はなかった。 ハルヒが目が冴えて眠れないのではなくて、別の理由で眠れずに、我慢の末に携帯を手にとったことは ある仮定論を付加することが可能となった今とならば容易に想像できる。 『あんたがどうしてもハンバーグ食べたいって言うなら、作ってきてあげてもいいって言ってるのよ』 昼飯の騒動を経て、その後急に大人しくなったハルヒが俺に向かっていきなり叫んだこの言葉。 「どうしても〜なら」 このハルヒらしい強気な口癖を排除すれば、自然とハルヒの優しさが姿を露にする。 ふっくらしたハンバーグ。料理の上手いハルヒの彼氏は、きっと毎日が幸せに違いないね。 『さ、さあ、特に何も言ってなかったけど』 なぜ一度も起こされることなくゆったりと午睡をとることができたのか。 先生が何も言っていなかったのかという質問に対し、ハルヒは慌てつつも否定したが、その実、俺の安眠を守っていてくれたのはハルヒである。 「疲れてるから起こさないであげてください」か。敬語なんてお前らしくも無い。 俺が睡魔を呼び寄せる体質にしたのは他でもないハルヒなので、この所為で±0と言うこともできるが、 ハルヒの心遣いを数値化するほど俺は無粋で捻くれた概念は持ち合わせていない。その心遣いの所以に想像をできる今なら猶更だ。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 21:09:09.21 ID:UM0fLUPC0 『………そうなんだ』 俺が恋愛小説を読み、恋愛ごとに興味を抱いている(古泉による吹き込みだが)と知ったときの反応。 普段からぼーっとしている俺がそんなジャンルの本に手を出しているのを知れば嘲笑うとばかり思っていたから、あまりに素朴な感想に拍子抜けしたっけな。 もっとも、前述のようにある仮定論を付加する今となってはその反応も、その後のやけに積極的な言動及び行動も当然だったと考えることができるのだが。 『ダメ。二人っきりじゃないとだめなの』 そして極めつけがこの科白の後から始まった、ハルヒの独白である。 恋愛=精神病という等式を見直し、かつ俺が恋愛ごとに関心があり、 相手がいないのであれば代役を務めるという、なんとも滅茶苦茶な提案をしてきたハルヒを 俺はろくにその言葉を吟味しようとも、裏に隠された真意を捉えようともせずに諌めた。もちろんそこには一片の悪意もない。 だが結果として、俺はハルヒを傷つけてしまった。だから今、俺はこうして終わりの見えない奔走を続けているわけだが。 何故俺はあんな曲解をしてしまったのだろう。悔やんでも悔やみきれん。今の霧が晴れたようなクリアな思考なら分かる。 そう、ハルヒのあれは団長としての提案ではなくて、一人の少女としての回りくどい告白だったのではなかったか。 全てが繋がったとき、俺は同時にクラスメイトやSOS団メンバーの不可解な行動の理由に思い当たった。 全力疾走とは別の、心理的要因で顔が上気していく。ああ、病気にかかっていたのはお前らじゃなくて俺だったというわけか。 「ハルヒ!」 屋上に通じるドアを開ける。ここが最後のポイントだ。 晩秋の夜風は肌寒く俺の火照った体を急速に冷ましてくれるものの、こんなところに長時間居れば体に異常をきたす事はまず間違いない。 俺はハルヒが居ますようにと切望しながらも、しかしこの寒空の下で震えていたらと焦燥感にかられて必死にハルヒの姿を探す。 何故だろう。いつの間にか、ハルヒを見つけて最初にすることは決まっていた。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/23(木) 21:34:34.34 ID:UM0fLUPC0 暗闇に目を慣れさせながら、死角という死角を見回っていく。 だが人どころか猫一匹の気配さえも察することができず、俺の胸中に焦燥感だけが蔓延っていく。 しかもずっと走り通しだったツケが、今になって回ってきやがった。圧し掛かるような眩暈と吐き気に、たまらず屋上の手すりに手を掛けた。 見渡す限りの灰色の世界。眼窩に広がっているのは間違いなく確かな質量を持って存在している建物なのに、 目を凝らせば凝らすほど、それらの存在感が希薄になっていくような錯覚に陥ってしまう。 青白く発光してこの置換世界で破壊の限りを尽くすはずの神人が現れない。 当然、倒すべき対象がいないのだから対神人部隊である赤球群、超能力者も侵入してきていない。 いや、超能力者不在の件については、古泉からの連絡が途絶えていることを考慮すれば この閉鎖空間に”侵入していない”のではなく”侵入できない”のだろうが。 しかし――何にせよ俺にはもう、気力という気力が残されていなかった。 唇を噛み締める。すまん、皆。俺があまりにも、あまりにも鈍感だったせいで世界は終わる。 呼吸が落ち着いてきたのを見計らって、俺は立ち上がった。いつまでもここにいるわけにはいかない。 届かないとは知りつつも、許容量を超過した感情が俺の気持ちを言葉にした。 「ごめんな、ハルヒ」 「――ひくっ」 が、しかし神様というのは実に己の本能に忠実なようである。 屋上の給水タンクの裏から漏れ出した、迷い猫の一鳴きともとれる声に、俺の足は止まった。 ここは何処だ? 閉鎖空間だ。この場に存在を許されているのは、その創造主とそいつが選んだ人間のみ。 「ひぐっ、えぐ」 俺が屋上に入ってからずっと堪えていたのだろう、一度静寂を壊した嗚咽は断続的に響いていた。 31 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/23(木) 22:10:32.64 ID:UM0fLUPC0 段差に足を掛けて、給水タンク裏へと向かう。体力の大半を使い果たした俺にとってはちょっとした重労働だが、 捜し求めてきた対象がもうすぐそこにあるとなれば、そんな苦痛は靴の裏についたガム程度にしか俺の行動を制限しないね。 果たして俺の視界に飛び込んできたのは、給水タンクの影からちょこんとはみ出している黄色いカチューシャだった。 夜闇によく映えるそれは、この嘘のような世界で唯一確かな存在感をもっているように思えた。 歩を進める毎に、そのカチューシャの持ち主の姿が鮮明になっていく。まったく……何処までも手間かけさせやがって。 足を抱えて三角座りをし、顔を膝に埋めたハルヒが、そこにいた。 ついさっきまで耳朶に触れるか触れないかの狭間を漂っていた嗚咽も、何時しかはっきりと聞こえるようになっている。 「………」 「…何で……ひくっ……来たのよ……」 想像と一言一句違わぬ拒絶の言葉に溜息を押し留めつつも、しかし俺はハルヒに接近していった。 「こないで」「あっちいってなさいよ」等の言葉をまるで壊れたラジオのように呟き続けるハルヒの後ろに回りこむ。 そしてハルヒが大きく息を吸い込み、俺に対する罵声を浴びせかけようとした頃を見計らい、 「ひゃんっ」 俺はハルヒを抱きすくめた。不意打ちに上手く発生できなかったのか、驚いたような声を上げるハルヒ。 両腕から伝わるハルヒの冷たい体温に申し訳なさが募り、更に強く抱きしめてはその冷たさを実感して、 俺は気付けば、これほどにないまでにハルヒと体を密着させていた。 このとてもじゃないが理性的とは言えない突発的かつ感情的な行動の理由を語らせてもらえるならば、こうである。 今までの俺は、ハルヒが機嫌を損ねて部室を飛び出していったときの対応として、 「ごめん」だの「俺が悪かった」だのといったテンプレートな慰めの言葉を掛けて閉鎖空間が消滅といった流れに満足していた。 もちろん俺自身反省はしていたし、心無い言葉ではなかったからこそハルヒは機嫌を直してくれたのだろうが、 そこにある意味毎回お馴染みといった停滞感があったことは否めない。 42 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/23(木) 22:38:58.13 ID:UM0fLUPC0 ところで部室でハルヒの状態を慮っていたときのことを思い出していただきたい。 あの時俺は、ハルヒが俺が一番見たくない表情を浮かべていると予想した。 そしてそれは見事に的中、いや正確に言えばまだ顔を見たわけではないのだが、それは俺の腕の中で 「バカ……バカバカ」 などと意味不明の言動をしているこいつの様子を見ていれば自明であろう。 尤も、抱きしめるという行為をとってしまった今の状況下で、ハルヒがどのような表情を浮かべているかは俺の知ったところではないが。 曖昧な自分からの脱却。言葉にしてみるとなんとも気障な文章だが、思えばこれこそが俺に最も必要なモノだったのかもしれない。 ハルヒの嗚咽が聞こえた時点で、俺の決心は固まっていた。もしこの行為をしてしまった場合、俺は自分の気持ちに嘘がつけなくなる。 でもこの不思議と、後戻りができない安全地帯から飛び出した俺に不確定な未来への不安はなかった。 もう元の関係に戻れないなら、突き進めばいいだけだ。幸い、今の俺には鈍感属性が付随していないのでね。 かくして俺は、ハルヒを抱きすくめるという、一見フラストレーションが爆発したかのように思えた行動を取ったのである。 あんなチープな慰めなど、もう馬鹿馬鹿しくてやってられん。もしハルヒが不愉快な顔をしていたならば、一瞬で愉快な顔にしてやればいいだけのことだ。 「ハルヒ」 できるだけ柔らかく、刺激しないように名前を呼ぶ。これだけ口をハルヒの耳に近づけているんだ、聞こえないはずがないだろう。 「うるさいバカキョン……ひっく、えぐ……離しなさいよ」 意外と強固な心の壁に若干心がたじろぐものの、俺は言葉を繋げていった。 「そういや、お前の提案に返事してなかったよな」 「えっ……」 途端腕から伝わる震えが止まり、同時にハルヒの嗚咽も止まる。腕に入れていた力を緩め、俺はハルヒをこちらに向き直らせた。 涙で汚れた頬を指で拭い、充血した双眸をしっかりと見据える。はは、お前はホント、どんな表情でも俺の心を捕まえて離さないな。 79 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/23(木) 23:49:54.72 ID:UM0fLUPC0 ハルヒは俺に想いを伝えた。それはとても回りくどい言い方で、つい数時間前までの俺なら 尚のことその言葉の裏に隠された真意に気付き難いものだった。しかし結果として俺は今、その想いに気付くことができた。 さすれば、俺が取るべき返事は二つだ。yesかno。この上なくシンプルでしかも単純明快な問題だな。 どれくらい簡単かというと中学生の二次方程式よりも回答に時間を要しない。 何故かって? その理由もまたシンプルだ。答えはすでに出ているのだから、そもそも思考する必要性がない。 思えば、俺がハルヒを追って部室を飛び出した時に自覚すべきだった。いや、自覚していたのかもしれない。ただ、それから目を背けていただけで。 自問する。人様のことを迷惑も考えずに振り回し、挙句の果て気まぐれにこき使う奴に一年半も構い続けていられるか? 自答する。俺は無理だね。そんなのそいつに特別な感情でも抱いていない限り不可能だ。つまり何が言いたいのかといえば、それは―― 「好きだ。俺の恋愛ごとを手伝うとか、彼女の代わりになるとかそんな建前どうでもいい。  俺の彼女になってくれ。お前をもう、二度と泣かせたりしないから」 一瞬の間。このポカンとした表情を見るに、今しがた何を言われたのか把握していないようなので 五感を持って実感してもらうことにする。ハルヒの肩に手を置いて、ゆっくりと距離を詰めていく。 ああ、こればっかりは説明のしようがないね。まあこの状況を見て何故こんな展開になっているんだと戯言を吐く奴がいれば、 そいつは病的なまでに鈍いんだろうが、って俺もつい最近まではそうだったんだな。 と、ハルヒが口を開く。今更何を言っても遅いぞ。経験したことのない高揚感に操られた俺を止める術はない。 だがしかし、俺の心中の言い訳も虚しく、その形の整った薄桃色の唇から零れたのは 「キョン……」 という甘い一言のみだった。懸案事項ってわけでもなかったが、本人が承諾済みとあらば何らこの行為に違法性はないな。 にしても、なんだか一年前のあの日を思い出すね。sleeping beautyか。まあ今回はそういった込み入った事情は一切関係ないんだが。 唇に触れる、湿った温かい感触。遅れて侵入してくる舌に対抗するかのように、俺も舌を絡ませる。 全身を揺さぶるかのような感覚に、興奮が加速度的に上昇していく。さて、昔の俺並に状況把握能力が低い奴のために一応言っておくか。 ここまで直接的な描写なら十分だろう。俺は、ハルヒとキスをした。 107 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 00:19:25.03 ID:MVoGQbhm0 唇の形をなぞる様に舌を這わせ、歯茎の側面や舌の裏に伸びるハルヒのそれを、阻止するかのように絡め取る。 唾液の水音が絶え間なく響き渡り、俺はいつしか、ハルヒの唇を味わい尽くすかの如く貪っていた。 「んむ……あん……」 しかし俺の舌技も然る事ながら、ハルヒの積極さも通常時に比べ四割増しで、その勢いについつい身を任せてしまいそうになる。 止むことのない猛攻を必死に受け止めつつも、俺はたっぷりと時間をかけて唇を離した。糸を引く唾液が、例えようもなく淫らだ。 「大丈夫か、ハルヒ?」 荒い呼吸音が、夜闇に広がっては浸透していく。その度にこの場が淫らな空気へと変異していくように感じられるのだが、 俺は先程から呼吸も忘れて俺を求めてきたハルヒの状態が気になって、自身の本能を抑えた。 先の激戦ではなんとか理性が僅差で勝利したものの、次の勝負がどうなるかはもう予想するまでもないだろう。 「あ……えっと、あたし……」 あんな行為に及んでしまったからには矜持も何もないと俺は思っているのだが、 ハルヒは普段から見せる大雑把な性格とは裏腹に初心な乙女心を保持しているようで、 「…………ば、バカバカバカ!」 などと顔をこれまでに無いほど羞恥に染めながら俺の胸をボコスカと叩くハルヒ。 だがその攻撃はRPG的に言えばダメージ1といった風で、俺の肉体には微塵も損傷を与えていない。 むしろそのあまりに、えーと、まあこんなことを言えば頬を膨らませることは必死であるが、 ハルヒらしからぬ可愛い仕草に、俺の心は幸福感と達成感でいっぱいになっていく。彼女……なんだよな、俺の。 「あ、当たり前でしょ。そんなこと一々聞くなんて団員、ううん、彼氏失格ね」 俺の胸から顔を上げて、上目遣いで答えてきやがる。俺がこれに弱いことを知っているのだろうか。 にしても器用な奴だ。嬉し泣きだろうか、目の端に涙を浮かべながら、口元はあの殊勝な笑みを取り戻している。 143 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 01:02:23.10 ID:MVoGQbhm0 「ここは冷えるから、部室戻らないか」 いつの間にか涼風がハルヒの髪を撫でていることに気付いて、俺はそう提案した。 告白直後のディープキス、そして恥じらいを見せるハルヒを抱擁しながらいじらしい会話を紡いでいる内に、 ハルヒの体は本来以上の熱を帯びていたのだが、流石に屋上という野外では体に堪える。 「ええ、そうしましょ。そ、そうよね、部室での方がキョンも……」 語尾がトーンダウンして聞き取り辛かったものの、承諾の意を示したハルヒの手を引き上げる。 キスしてからずっとへたり込んでいたハルヒが立ち上がると、暗闇に隠蔽されていた着衣の乱れが目立った。 月明かりに照らされた、ハルヒの透き通るように白い項と、上気した頬、そしてトロンとした瞳に目を奪われていることを 自覚した俺は、視覚情報を遮断することによって欲求を一時抑制することにする。我慢だ、頑張れ俺。 ま、それでも風によって運ばれる鼻腔を擽るハルヒの香りと、手の平から伝わるぬくもりによって、俺はどう多めに見ても平静を失っているわけだが。 「ねえキョンはあたしのこと、好き?」 空いたほうの片手を胸元で握り締め、瞳に不安の色を浮かべて尋ねるハルヒ。 冷静になればハルヒが纏っていた悪戯っぽいオーラみたいなものを検知できたはずなんだが、 悲しいかな、平静を失っていた俺は、大真面目に「好きだ」と返した。 「ふふっ、じゃああたしも好き」 「じゃあ」とはなんだ、「じゃあ」とは。どちらが先に想いを伝えたかなんて事は小学生の喧嘩並にどうでもよくて、 別段俺が気にすることもないのだが、イニシアチブを握られっぱなしってのは不愉快だ。 先刻ハルヒは俺を団員ではなく彼氏と認めたようでもあるし、ここらでその昇格によって得た権利を乱用してみるとしよう。 耳元で息を吹きかけるようにして囁く。 「キスしてたときのハルヒ、可愛かったぞ」 ぼんっと擬音が聞こえてきそうなほど顔を真っ赤にするハルヒ。ううむ、不味い、少しやりすぎた感が否めないね。これからは調節しなければ。 160 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 01:26:19.25 ID:MVoGQbhm0 がしかし、この倒錯した精神的な加虐行為に俺が満足感を得ていることは事実だった。 鏡でもあれば分かるだろうが、恐らく俺は口端を歪めてニヤついているに違いない。 すまん、と謝罪しながらも、まだぽーっとしたハルヒの手に指を絡めなおし、俗に言う――恋人繋ぎ――にしてみる。 何かしらの反応を見せるかと踏んでいたのだが、面白味のないことにハルヒは緘黙の姿勢をとったままだった。 しっかりと握り返してくる辺り拗ねているといった具合ではなさそうだが、一体どうしたんだろうね。 来たときと比べ段違いに軽い足取りで屋上出口に向かう。 「やれやれ」 不甲斐なかった自分自身に対して、ハルヒのいじらしいアプローチに対して、 そして何より、ここまで到達するのに1年半も要するほどに遅々たる歩みを進めてきた俺達二人に対して、特大の溜息をついてみる。 傍目から見れば、これは溜息というよりも深呼吸に近いかもしれない。屋上の扉を閉める際、俺は心底どうでもいい事実を発見した。 屋上からの眺めはすでに鮮やかな色彩に戻っていて、雲の切れ間からはスポットライトを俺達二人に当てるかのように月光が差し込んできている。 そう、本当に何時の間にか閉鎖空間は現実世界へと回帰していた。でも繰り返し言うが、俺にはそんな事実、もうどうでも良かったのだ。 俺の手を握るハルヒが、この世界を構築した神だろうと何だろうと、俺に取っちゃ一人の女で、彼女だ。 その事実を揺るがすには、神なんて設定じゃまだまだ甘いんだよ。 343 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 18:04:02.10 ID:MVoGQbhm0 窓越しの所為で淡い月光と、ぼんやりと浮かぶ非常灯のみという光源がほとんどないといっても過言ではない廊下を、 ハルヒと二人で歩いていく。現実世界へと回帰した今では、スイッチさえ押せば簡単に明かりを得ることができるだろうが、俺達は敢えてそうしなかった。 夜の校舎に侵入したことがある人ならば、昼間と夜でガラリと趣を変えた校内風景に対する興奮を共感できるはずだ。 ま、現実的なことを言えば、用務員とかの色々と面倒な方々に気配を察知されたくなかっただけなのだが。 「「…………」」 二人の間に揺蕩う沈黙。不思議とそれは温かくて、不快とは縁遠いものだった。 軽く手に力を加えてみれば、数秒と待たずにハルヒの小さな手が俺の手をぎゅっと握り返してくる。 夜の校舎を彼女と二人、手を繋ぎながら散策か。いいね、実にいい。 だがアインシュタイン先生の相対性理論は幸せな俺達にもおかまいなしにその正当性を突きつけてくるようで、 精神的には数分と経っていないうちに視界には文芸部室のドアが浮かび上がった。 もう少しこの穏やかな空気を味わいたかった気もするが、冷気もいよいよ鋭くなってきたことだし ここは当初の目的どおり部室で暖を取ることにしよう。部室のドアを開ける。 ハルヒが飛び出し、次いで俺が追いかけるべく部室を出る際に眺めたときと、何一つ変わっちゃいない部室の風景がそこにあって、 意味もなく安堵する。無論、それはハルヒも同じなようで、部室に入るや否やパイプ椅子にちょこんと座り込んだ。 何故団長席に座らないのかと懐疑の念が芽生えるものの、大した訳でもなさそうなので意識外に追いやることにする。 「何か欲しいもんあるか?」 冷蔵庫の中を漁りつつ、俺はまず間違いなくお腹をすかせているであろうハルヒに質問した。 「別にないけど……そうね、お茶が呑みたいわ」 予想を上手くかわした返答に戸惑いつつも、 「俺のお茶は朝比奈さんが淹れたのみたいに上手くないぞ」 と念を押してから準備に取り掛かる。 よくよく考えれば冷蔵庫にあるのは冷たいものばかりだし、ハルヒからすれば熱いお茶の方が良かったのかもしれないね。 360 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 18:38:01.94 ID:MVoGQbhm0 慣れた手つきでお茶を淹れ、ハルヒと俺、二つの湯呑みに注ぐ。 仄かに漂う芳ばしい香りと、それと対比するかのように白浪から立ち上る湯気。うむ、俺にしちゃ上出来だ。 「ほら、できたぞ」 コトリ、とハルヒの前にお茶を置いて、俺はその対面に回りこんだ。いや、回り込もうとした。 何故このような中途半端な表現になってしまったかといえば、急激に加えられた力によって俺の身体が静止を余儀なくされたからで、 しかし俺のお茶は慣性の法則に忠実に従って、おぼんの上を滑走していく。 だが幾度となく朝比奈さんが躓いてお茶を零すのを未然に防止している俺だ、宙を舞うお茶を掴むことなど造作もない。 鮮やかな動きでお茶をキャッチし、こんな曲芸師みたいな真似をさせた犯人に向き直る。 告白の言葉を伝えるために俺を部室内に留めるべく袖を摘んだときのように、ハルヒの手は俺の上着の裾を掴んでいた。 ただし今度は控えめといった感じではなく、ちょっとやそっとの力じゃ振りほどけそうにもない。 「あんたはココ!」 片方の手で隣のパイプ椅子をボスボスと叩く辺り、 これは俺が座るのはハルヒの隣じゃなきゃダメと解釈していいのだろうか。 「わかったから離せって」 俺が苦笑を浮かべながらそういうと、意外にもすんなりとハルヒは手を離した。そして満足そうなニコニコ顔になってから、似合わないシリアス顔を作る。 なあ、さっきから思っていたんだが、お前無理にその性格作ってないか?ペルソナ被るのは古泉と生徒会長で十分だと思うぜ。 380 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 19:20:19.29 ID:MVoGQbhm0 パイプ椅子に体重を預け視線を時計に転じさせてから、俺は自分の湯呑みに口をつけた。 自画自賛しているわけではないが、中々に旨い。室温の低さも相俟ってか、喉を潤す熱さが心地よかった。 スピード重視で淹れた上、いくら俺が旨いと思っていてもそれは自分可愛さ故の味覚障害かと心配だったので、 ハルヒの様子を窺ってみた。仏頂面ながらにも喉がごくごくと鳴っている辺り、お気に召してくれたようである。 再び俺達二人の間に舞い降りる沈黙。でもやっぱりそれは温かくて、俺はそれを破る気にも、 その性質を変化させる気にもなれず、ただただ緘黙の姿勢をとるのみであった。 それから幾許かした頃だろうか。空になった湯呑みを見つめて、俺はハルヒに帰宅を提案しようと思い至った。 時計の短針と長針は現在時刻が午後9時半であることを指し示しており、 流石にこの時間帯にまで校内に滞在していては、滞在理由を問い詰められても言い訳できない。 「彼女と楽しく過ごしていました」なんて惚気話は口が裂けてもいえないしな。 それに――倫理観念においてもこの状況には色々と問題がありすぎる。 ハルヒは年頃の女の子だ。そして俺は男である。「夜中に男女が二人きり」なんとも卑猥な響きがする言葉である。 実際のところ、俺にはこの安寧状態を長時間維持する自信はなかった。尤も、俺に夜になると性格が豹変するとかいった特殊設定とかは存在せず、 目の前にこんなに可愛い彼女がいて手を出すなと言うほうが可笑しいだろう。まあディープキスは経験済みなわけだが、 流石に付き合い始めたその日に情事にことが及ぶというのは俺のささやかながらに構築された恋愛観に反するわけで。 かくして俺は、勢力を拡大させつつある本能を危惧しながらも、すらすらと帰宅を促す言葉をハルヒに掛けた。 「なあハルヒ、そろそろ――」 いや、掛けようとした。 「ふぇ……ん……」 慌てて首を捻れば、ハルヒは目を手でぐしぐしと擦り、屋上で俺が見つけたときのように嗚咽を漏らしている。 つい先刻まで美味しそうにお茶を呑んでいたハルヒが、なぜ突然泣き出したのか理解できないままに、俺はハルヒの手を握り締めた。 399 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 19:51:42.83 ID:MVoGQbhm0 何時しか嗚咽から慟哭へと状態をシフトしたハルヒを抱きしめて、背中を摩ってやる。 「どうしたんだ」「大丈夫か?」などの慰めに意味はなく、一度遣ってから俺は言葉による宥めを諦めた。 堰を切ったかのように止め処なく溢れ出す涙で俺のシャツはもうぐちゃぐちゃだが、服なんてもう、どうでもよかった。 ハルヒが泣いている理由。それを聞かないことにはハルヒを宥めるための最善策も思い浮かばないわけなのだが、 押し殺したような泣き声とは違い、わんわんと声を上げて泣くハルヒからそれを聞き出す術はない。 だが、俺がどうしたものかと抱擁を続けている内に、波が過ぎ去ったかのようにハルヒは落ち着きを取り戻しつつあった。 しゃくりあげの回数も徐々に減ってきて、この分ならなんとか俺の質問にも答えてくれそうである。 が、ハルヒは俺に不甲斐なさを挽回する機会を与えてくれないようで、 「ひぐっ、こっち見ないで」 と俺の胸の中にいるんだからそんなことは不可能だろうという突っ込みをする間もなく、 「あたしね、嬉しいの。本当に……ひっく、あんたと付き合えたんだなって思うと……ふぇ、ん」 しゃくりあげながらも、とつとつと独白を始めた。 このままじゃ話しにくいと思い、ハルヒから身体を離そうとするが、しかしハルヒの両手は俺のシャツを握り締めており、 結局このままハルヒの独白に耳を傾けることになる。俺は激しく動揺しながらも、努めて平静を装い促した。 419 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 20:37:39.67 ID:MVoGQbhm0 そらから約30分に及んだハルヒの話を要約すると、こうである。 何故ハルヒの言葉をそのまま引用しないのかといえば、それはその言葉に 多種多様な嗚咽が混じっているからであり、全てを書き著すには膨大な時間を要するからである。 「入学式の日にあんたと初めて会ったとき――」 ハルヒの独白は、この一言から幕を開けた。 全ての始まり、入学式。そこで俺と運命的な邂逅を果たしたとき、ハルヒは感じたそうだ。 どこかで会ったことのあるような既視感と、ハルヒを異端視しかしなかった他人とは違う、内包的な対等意識。 簡単に言えば、ハルヒと同じ時間を共有する度に惹かれていった俺とは違い、ハルヒは俺と出会った瞬間に意識し始めた、ってことだな。 だがハルヒはそれを深刻な気の迷いと判断し、俺を巻き込みつつもあえてつっけんどんな対応を取ることによって距離を置いていたのだという。 がしかし、学校生活とプライベートの両面で、お互いの家族に引けを取らないほどにくっついていれば、 その気持ちが際限なくヘリウムを詰め込まれた風船のように膨れ上がり、やがて胸中に収まりきらなくなるのは道理である。 あまりにも優柔不断かつ朴念仁だった俺に、ハルヒは想いを伝えるべきか否か迷った。 その情動は俺に対する気遣い等で現実世界に具現化するのだが、如何せん地球上のどの生物よりも鈍い俺は、それに気付かない。 ハルヒはそれが、非常にもどかしかったらしい。それを幾度となく繰り返した挙句、ハルヒはこの調子では埒が明かないと判断、俺に告白することにした。 今までは団長と団員という微妙な関係をどういったきっかけで崩してよいのか分からず、現状に甘んじていたのだそうだが、 しかし絶好の転機は訪れた。突然の朗報。俺が恋愛ごとに興味を示していると聞きつけたハルヒは、この機会を逃すわけにはいかないと踏んだ。 そして意を決して俺を部室に残留させ、頭をフルに回転させて作り出した、一見関係は壊れずに付き合える提案をしたわけなのだが、 結果として俺は己の想いを自覚し、想定以上の成果――俺とハルヒの両思いを実現させることができたわけで。 その事実を今になって再び思い返し、ハルヒはこれが果たして現実世界なのか夢物語なのか分からなくなってしまったのだそうだ。 ま、要約の要約と言っちゃなんだが――俺が告白時の約束を1時間もしない内に反故にしてしまった理由は、 結局は過去の俺の悔やんでも悔やみきれない鈍感さにあったわけで。俺がもっと早くにハルヒの気持ちに気付いていれば、こんなことにはならなかったんだよな。 「あんたを何度も何度も振り向かせようと頑張ったのに、ぐすっ、あんたはいっつも違うとこ見てて……」 独白を終えても、言葉を紡ぎ続けるハルヒ。もう何度もループしたはずの俺の鈍さを指摘する言葉に心臓を針で刺されたような痛みを感じる。 その間にも俺は相槌代わりに「ごめんな」と謝ることしかできず、俺は今ほど自分の語彙のなさを嘆いたことはない。 常套句である「すまん」が「ごめん」になっているのは、俺の謝意が本物であることの表れである。 439 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 21:16:01.27 ID:MVoGQbhm0 「ど、どれだけ、ひくっ、あたしが苦悩したか分かってるの?」 返事の代わりに、ハルヒの手入れを怠っていない秀麗な黒髪を梳く。 すぅ、という心地良さそうな息遣いが聞こえる度、ハルヒにキスしたくなる衝動に駆られるのだが、 「だ、ダメ。あんたはもっと反省しないと付け上がるわ。  それにきっとあたしの顔、酷いことになってると思うし……そんな時にあんたにキスされたら……」 とキスして欲しいのかキスして欲しくないのかどっちつかずの窘めが返ってきて、俺の理性はますます混迷を極めた。 ここで前述にあった理性と本能の激戦について思い返していただきたい。 魅力的というならこれ以上にないほどに魅力的なシチュエーションを体験している俺の本能は、先例がないほどに急速拡大を遂げていた。 そんな時に理性がグラついたらどうなるのか。答えは火を見るよりも明らかだ。拮抗状態は何の兆しも見せずに崩壊する。 理性を順調に飲み込んでいった本能は俺の行動制御権を一時的にではあるが掌握、記念すべき最初の命令を下した。 「今日のお昼だってそうよ、あたしはあんたのために料理を――むぐ」 小うるさい唇を黙らせるには、どうすりゃいいかって? 塞いでやればいいのさ。ただしハルヒの唇に触れていいいのは俺だけだから、必然的に俺の唇が用いられることになるわけだが。 突然顎に手を添えられ、状況把握もできないままに唇を奪われた所為かハルヒは目を丸くしていたが、 やがてぷはあっと大きく一息をついて俺の胸に手をついた。そして上気した涙の筋をいっぱいにつけた頬を隠そうともせずに 「い、いきなり何するのよ! キスしたら許すとでも思ってるわけ?」 抗議の言葉を述べてくる。だがお前の拒絶的な建前なんぞ、今の俺にとっちゃ砂場の城よりも脆く見えるね。 疑り深い人がいるかもしれないので、それを証明してみせるとしよう。百聞は一見に如かずとも言うしな。 「じゃあお前は嫌だったのか?」 目の端に涙を浮かべながらも瞳の奥に歓喜の色を滲ませているなんとも矛盾したハルヒの双眸をしっかり見据え、 わざと強気な口調で問いかける。ほらみろ、まるで文芸部室内の空気から酸素だけが取り除かれてしまったかのように、口をパクパクさせてやがる。 465 名前:入浴前に修正ver[] 投稿日:2007/08/24(金) 22:08:41.96 ID:MVoGQbhm0 「い、嫌じゃないけど、だからって……もう、バカキョンのくせに生意気なのよ!」 ハルヒはふにゃっとした顔になり、俺の胸にもう一度顔を埋めてきた。 バカキョンなどと俺を詰る割には、あれ程酷かった嗚咽は止まり、震えていた肩も落ち着いていて、 俺の本能に身を委ねた行動は功を奏したと認めているも同じなのだが、ここで追い討ちをかけるほど俺は本能に身を委ねきっていない。 だが俺は思うのだ。ここでの俺の自制行為は、この後の展開をより意外性のあるものにするための布石だったのではないかと。 そしてもちろん、この時の俺はそんなことを知る由もなかったというお決まりの科白も言っておく。 「バカ、バカバカ」 ハルヒの髪の匂いを堪能しながら、俺はなんともマヌケな感想を抱いていた。 バカ。口癖にしてはあまり行儀がいいとは言えないね。 だがしかし、俺に向けられたあまり効果のないように思える罵倒の連発はその実、 最大の破壊力を発揮するための土台作り的役割を担っていたようで、 「バカ。ほんとにあんたはバカだわ……でも、好き」 バカと言う連呼に慣れきってしまった俺への突然の不意打ちは、本日最高の威力を持って俺の情動の奔流を加速させた。 ヤバい。あらゆる意味でヤバい。俺の心臓が早鐘のようにビートを刻んでいるのが分かる。 そして俺は致命的なことに、本能が突然俺の意識を乗っ取っていった時と同様に、突然身を潜めた真の理由に気付けてはいなかった。 もちろんそれはハルヒの不用意な罵倒からの甘言という見事としか言いようのない連鎖攻撃が俺の意識を別方向に向けたのが所以なのだが、 ハルヒは自分の危機的状況を知ってか知らずか、たたみ掛けるようにセンセーショナルな言動を継続した。 「あんたの今までの鈍感さは許してあげる」 ハルヒは俺にその勝ち誇ったような100万Wの笑みを見せて、 「ただし、一つだけ条件があるわ。あたしが、あんたの彼女であるという確固たる証拠を見せなさい」 515 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/24(金) 23:31:06.19 ID:MVoGQbhm0 目を爛々と輝かせているちょっとどころでは済まされないテンションを帯びつつあるハルヒを見やり、 返答までの時間が残されていないと知りつつも、俺は閉口したまま思惑を廻らせる。 さて、ここで毎度お馴染みのハルヒ語分析コーナーを設けるとしよう。 ハルヒが俺の彼女であるという確固たる証拠。はてさて、これは一体何を暗示しているのだろうか。 即物的な思考に頼るならば、それは例えば名前を刻んだリングなどのアクセサリー関係のモノが想定できる。 が、距離的にもとアクセサリーショップの開店時間的にもそれらを今すぐに用意するのは不可能で、 しかもハルヒがそんな”ありきたり”なプレゼントに喜びを体現するかといえば、答えは疑いようもなくNoである。 よってハルヒの言う確固たる証拠がモノであるという可能性は潰えた。では、それが何かしらの行為であるとしたらどうだろう。 俺の身体一つで足りる証明ならば、何も用意する必要はないしすぐに実行できるからな。 ここで普遍的な異性間交友の一線を越えた行動を列挙していくとしよう。 まず最初に抱擁。これはまずありえないね。ついさっきまでしていたことを証明と見做す訳がない。 次にキス。これもありえないだろう。フレンチキスに留まらず、屋上では大人のキスも経験してしまったわけだし。 となると最終的に残るのは―――っとこれにてコーナーを強制終了するとしよう。危ない危ない、またしても自分を見失うところだった。 「ハ、ハルヒはどんな証拠がいいんだ?」 うるさいほどに頭中で響く鼓動を無視して、俺はなるべく自然に問いかけた。 だがハルヒはそんな俺の受動的な意思がお気に召さないようで、 「そんなの自分で考えないと意味ないでしょー」 と頬を膨らませながらパイプ椅子から立ち上がる。 そしてその後、何を思ったのか団長席に向かって俺に背を向けるように足をブラつかせて座った。 俺を隣に座らせていた割に自分から席を替えるとは、身勝手なヤツである。 だがしかし、そのおかげと言っちゃあなんだが、俺は今しがた脳裏をよぎっていた最悪最低に醜悪な妄想を苦心しながらも振り払うことができた。 ここはハルヒが普段通りの調子を取り戻しつつあることに感謝しなければならないだろう――と、思っていた矢先、俺は眼前に映し出された光景に釘付けになることになる。 いよいよ窓外の漆黒の闇が濃くなり始めたとき、雲の切れ間から、まるで仕組まれたように月がその柔らかい光をハルヒに纏わせたのだ。 コントラストによって浮かび上がる、スレンダーながらも出るべきところは出ている完璧すぎる身体のライン。 短いスカートから伸びる、健康そうに色づいた太もも。そして、まるで俺を誘うかのように蕩けた大きな瞳。俺の理性は、再び潜伏していた本能の突然の奇襲によって陥落した。 596 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/25(土) 00:28:43.40 ID:1uOGO/jh0 まるで魔法をかけられた人形のように、俺の足は機械的に、しかし夢遊病患者のように覚束無い歩調でハルヒの許へと向かっていく。 やめろ、こんなことをしちまったが最後、もう二度とハルヒに顔向けできねえぞ! 頭の何処かでそんな叫び声が聞こえたような気もするが、関心を向けるには至らない。 俺は未だ背を向けたままのハルヒに、後ろからゆったりと間隔を持たせるようにして手を回した。 「ふふっ、もう分かったの?」 俺の心境の劇的な変化に気付いていない、危機感の欠片も感じさせないような嘲弄。 その言葉は俺の心の激情をコレでもかというほどに煽りたて、結果、俺の嗜虐欲は天井知らずに蓄積されていく。 「ああ、分かったぜ。お前が俺の彼女だってこと、証明してやるよ」 「随分と自信あるのね」 俺の息が耳にかかってくすぐったいのか、軽く頬を赤く染めるハルヒ。 しかしまだ俺のしようとしていることに想像の輪を広げてはいないようで、されるがままになっている。 抵抗ナシ、か。さて、何時までその余裕を保っていられるんだろうね? 俺は軽くハルヒの耳たぶを甘噛してから、ゆとりをもたせていた手でハルヒのお腹を弄った。 途端、「ひゃんっ」と素っ頓狂な声を上げて身体を跳ねさせるハルヒ。しかし俺の手がハルヒを逃がすわけもなく、 俺は耳たぶから唇を離し耳穴を舌で犯しつつ、片手でハルヒを固定しながら、もう片方の手をハルヒの胸に手を伸ばした。 「やっ、やめな……さいよ、いきなり、こんなの……は、んんっ」 時折耳朶を触れる拒絶とも取れる意味の言葉。だがこいつは分かっていない。 お前が切なげな声を上げるほど、俺の性的興奮が高まるって事をな。 いつしか余裕が欠落し、代わりに紅潮しながらも俺の手中に落ちまいとする表情を浮かべているハルヒに、 俺はこれがハルヒの提案の揚げ足をとった、精神的な加虐と分かっていてもその言葉を口にした。 「俺がお前と繋がれば――それが何よりの証明だろ?」 635 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/25(土) 01:03:04.87 ID:1uOGO/jh0 ハルヒは特殊な設定さえ除去すれば、ただの普遍的な女子高生である。 如何に非常識の権化といえど、どのジャンルに対しても博識なこいつのことだ、性知識に関しても一通りのことは知っているに違いない。 つまり「繋がる」といった言葉がどのような行動を意味しているのかはとっくに気付いているはずなのだが、 ハルヒは本気で抵抗する素振りを見せず、 「いくらあんたでも……無理矢理は、ゆ、許さないんだから……あふ、ん」 などと言いながらも、いつまでたっても弱々しい威力の手のひらでペシペシと俺の腕を叩くばかりである。 しかも耳を丹念に嘗め回し、触れるか触れないかの境目で胸を弄っているうちに、ハルヒの棘のある声はは尻すぼみになっていき、 俺はいよいよ、ハルヒを正面に向きなおらせた。団長と書かれた三角コーンが床に落ちるが、今はそんなことに気を掛けている状況じゃない。 これまでになく赤みが差した頬、陶酔しきった目、汗ばんだ肌。俺の感覚がより一層研ぎ澄まされていく。 「はぁっ、はぁ……キョン」 喘ぎとも呼吸の乱れともとれぬ息遣いがたまらなく厭らしいね。 「なんだ?」 「あたしのこと、はぁ……はぁ……本当に、好き?」 焦点の定まっていなかった視点が、はっきりと俺を捉える。すでに俺は理性と呼ぶべきものを遠いところに置き去りにしてきていたが、 ハルヒと会話をするくらいの余裕はあった。一体何度こいつは俺に同じ科白を言わせれば気が済むんだろう。 呆れつつも返答する。もう二度とそんな無粋な質問しないように、ちょっと睦言をレベルアップさせてみるとしよう。 「この世界で、俺が愛しているのはお前だけだぞ、ハルヒ」 するとどうだろう、ハルヒはまるで意中の男性からプロポーズされた女性のように恥じらって、 しかし衒いのない微笑を浮かべて、一言、小さく呟いた。それは今こうしてハルヒに触れていなければ、 その声が耳元で聞こえてこなければ誰が発したのか分からないほどに艶やかで湿っており、俺はゾクゾクとした悪寒にも似た興奮に襲われた。 そしてその言葉がこれだ。 「来て」 たった二文字のこの動詞に、どれだけ深い意味が籠められているのか。ここまでこの文章を辿ってきた方々には容易に読解できるはずだ。 673 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/25(土) 01:44:11.68 ID:1uOGO/jh0 ハルヒにこんな言葉を吐露させたのは他でもない俺なのだが、本人からお許しが出たのであればペッティング紛いの過程は必要ない。 だが俺は性交渉において前戯は必要不可欠であるという信念を持っているので、まず手始めにディープキスをすることにした。 どちらかともなく唇を重ね合わせる。今度は屋上の時のような躊躇いはなく、直後に舌と舌がお互いを探し当てた。 舌の生暖かい感触を自身のそれで確認しながら、ハルヒの口内を犯していく。 歯茎、歯と歯の隙間、舌の裏から頬肉に至るまで、全てに味蕾を押し当てる。 唾液を溜めてハルヒの口内に送り込んでは、数秒後に送り返されるハルヒの唾液を嚥下する。 子供の遊びのように単純な、しかし意識が飛びそうになるほど気持ちいい行為に、俺達はしばし没頭した。 「あむ、はぁ、ん、キョン……」 「はぁ、ハル……ヒ……」 一段落して、俺は漸く絡み合わせていた舌を解き、唇を離した。名残惜しげに糸を引く唾液は、屋上でのそれよりもずっと淫らで、 俺はその光景に中てられたのか、ハルヒの口周りに付着した唾液を全て舐め取った。 その後、ハルヒが同じことを俺にも施してくれたのは言うまでもないだろう。 次いで俺は軽めのキスを浴びせかけながら、ハルヒの胸に手を掛ける。といっても先刻のような焦らすような触り方ではなく、 揉むといった表現が最も適当だと思われる触り方だ。朝比奈さんのそれには及ばないものの、制服の上からでも自在に形を変える胸に、 数十秒と待たずに俺の裸体欲は限界点に達する。ハルヒも苦しくなってきたのだろう、キスに応じながらも、器用に制服のボタンを外し、 俺が介添えするまでもなくフロントホック式の淡いピンクのブラを淡々と外す。その馴れた手つきに一抹の不安を感じた俺は、 白い双丘に手を添えて、直に胸の弾力を愉しみながらハルヒに問いかけた。 「もしかしてお前、初めてじゃないのか?」 「ふあっ、そんなこと、ないわよ……酷いわ…あんたが初めてに決まってるじゃない……あ、ん」 喘ぎ声と共に帰ってきたしおらしい声に、失礼極まりない質問をしてしまったことを自責しながらも、 やはりハルヒが処女であったということに対する純粋な喜びに打ち震えている自分を、俺は認めざるをえなかった。 中学時代はとっかえひっかえといった噂を谷口から聞いていたので危惧していたが、どうやら杞憂だったようである。 俺の手は、ただ揉みしだくといった反復から自然と、緩急を織り交ぜた変則的な動きに変わっていた。 自分でも何故こんなにテクニックを知っているのかは分からないが、嬌声の割合が高くなりつつあるハルヒの声を聞いている限り、 この異常は非常に都合よく俺達に作用しているみたいだな。 17 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/25(土) 18:32:54.67 ID:g9q8f6Ud0 五指を余すところなく使用して、手のひらに丁度収まる乳房を、搾るように圧迫しながら擦り上げる。 が、徐々にその大きさを増す尖端にはあと数ミリといったところで触れない。押し上げていた手から力を抜く。 重力に任せてたぷたぷと揺籃しては元の形状を取り戻す乳房を、下で受け止め再び揉みしだく。 それを繰り返すうちに、いつしか双頭は己の存在を誇示するかのように色づき、硬質化していた。 本音を言えば今すぐにそれを弄んでやりたいのだが、まだ不十分と判断し反復を続行する。 しかし、指先が尖端に辿りつきそうになる度に目を閉じ、ループの開始地点に戻ったことに気付くと 非難とも安堵とも取れぬ視線を向けてくるハルヒに、俺の意思が挫かれるのも時間の問題だろう。 「はぁっ……はぁ……んむ」 熱を帯びた吐息を唇に感じた瞬間には、それよりももっと熱い唇を押し当てられていた。 それはまるで俺が何時までたっても局部を責めない事に対する抗議のようで、俺の嗜虐欲は一時的にではあるが満たされる。 あんまり虐めても逆効果だし、元はといえばこれはこの後の刺激により快感を伴ってもらうための工作だったしな。 ここらでハルヒの我慢強さを賞賛すると共に、甘い束縛から解き放ってやるとしよう。 俺は手を脱力させると見せかけて、指先を肌伝いに滑らせて赤粒に押し当てた。 「あっ、んんっ」 途端、ハルヒの蕩けていた瞳の瞳孔が見開かれ、快感の色が滲んでいく。 やはり焦らした効果は絶大だったようである。俺とハルヒは性の相性がいいのかもしれないね。 指の腹で両側から挟み込み、抓るように軽く引いてから押し潰す。 恐らくは強烈な快感に襲われているのだろう、キスもままならぬハルヒは身体を捩らせて 俺の猛攻を退けようとするのだが、その抵抗はあまりにも微弱すぎた。 むしろその動きによって快感の波が増長されているようで、ハルヒの喘ぎ声はどんどん熱を帯びていく。 唇と唇の間から零れ落ち、顎を伝って滴り落ちた唾液と、ハルヒの肌からうっすらと滲み出た汗とが混じりあい、 潤滑油となって俺の手先の動きを加速させていく。 「やっ、はぁん、ダメ、キョン……なんかおかしいの、身体が、んっ」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/25(土) 19:15:05.18 ID:g9q8f6Ud0 快楽の波に溺れそうになりならがも、身体の異常を訴えてくるハルヒ。 オーガズムが近づきつつあることを知った俺は手の動きはそのままに、 流れに任せるべきか、それとも後の本番のことも考えて快楽の波を引かせるべきかを天秤に掛けた。 結果から言おう。俺は何ら冷静に天秤の挙動を観察することなく、錘を前者の方に積載した。 眼前で切なげに、しかし激しく嬌声を上げるハルヒは普段の性を意識させない団長の面影を微塵も感じさせず、 ただの淫乱な女子高生へと成り下がっている。いや、そういうと語弊があるな。成り上がっているというべきか。 兎に角、この淫景を目の前に静止できる男がいるならば是非ともつれて来て頂きたい。ただし特殊な性癖をもつヤツを除いて、だけどな。 「いや……あっ、はぁ、んっ」 呼吸もままならず喉を震わせるハルヒ。 ラストスパートを掛けるべく、少し乱暴になりながらも大きく力を加えて胸を揉みしだきながら 乳首をコリコリと刺激する。すでにその行為にテクニックと呼べるようなアクセントはなかった。 「あふっ、くる、くるのぉ、キョン……やめ、てっ、はぁん」 何時しか焦点の定まっていないハルヒを見つめて、俺は一層強く乳首を抓り上げた。 痛みを感じるだろうが、今の状態のハルヒにとってはそれさえもが快楽への追い風となるに違いない。 そして事実、ハルヒは背中を逸らせて、 「だ、ダメっ、ああん、んんんんんっ!!!」 と唇を噛み締めて、声を押し殺しながらも絶頂を迎えた。倒れこみそうになる身体を両手で支え、楽な姿勢になるように調節する。 想像していた程に声が出なかったことに安心しつつも、刺激が不十分ではなかったのか不安になって俺は渋面を浮かべた。 が、絶頂の余韻に浸っているハルヒの表情を見て、俺は不安材料の選択ミスを知ることになる。 そう、声の大きさなど関係なかった。ハルヒは多分、校舎内に響き渡ることを懸念して必死に声を押し殺したに違いない。 恍惚としながら未だに焦点の定まらぬ瞳と痙攣を続ける身体は、快楽の波が未だ引いていないことを如実に物語っていた。 66 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/25(土) 20:03:45.30 ID:g9q8f6Ud0 「強引…はぁ……なんだから……はぁ」 俺のハルヒの要望を完全に無視した一連の責めに、ハルヒが息も絶え絶えに文句を投げかける。 「すまん、つい我慢できなくてな」 我慢も何も、あの状況下で己をコントロールする術などなかったのだが、 敢えてここは自制しきれなかったということにしておこう。何の前触れもなく、呼吸と共に上下するピンクの突起を弾いてみる。 「やんっ、いきなりなにするのよぉ……」 普段の俺を服従させるときと対極に位置するような、弱々しい声。 どうやら感度は申し分ないようである。やはり一度絶頂を迎えさせたのは好判断だったみたいだな。 胸を小さな手で押さえるだけというなんとも心許ないベールを纏い、ハルヒが上体を起こす。 俺は力を加えすぎて破らないよう、慎重にブラウスを脱がしてやった。これから更に激化する行為に着衣は無用だからな。 改めてまじまじと観察されることに恥じらいを覚えているのか、ハルヒは終始俯いたままだった。 今更矜持など気にしていても仕方がないと思うが、緊張を解きほぐすためにも俺も上半身裸になる。 さあて、これから何処を責めるとしようかね。ま、口内と胸は十二分に責めたし、残りは乱れたスカートの奥にある秘所しかないわけだが。 「ねえ……キョン?」 だが俺の淫欲のままに廻らせていた想像も、ハルヒによって中断される運びとなった。 先程よりも呼吸は落ち着いているものの、相変わらずぼんやりした顔に緊張感を取り戻す。 確かに俺はハルヒの身体が欲しい。だがそれはあくまでもハルヒが健康体であるのが前提の話で、 ハルヒの体調が優れていなければ、一筋縄ではいかないだろうが、本能を物理的手段を用いても沈める気であった。 しかし、そんな配慮も漫ろに続きを待っていた俺は、ハルヒの申し出に耳を疑うことになる。 「不本意だったけど、あたしはキョンに気持ちよくしてもらったわけだし、その……今度は、あ、あたしが気持ちよくしてあげる」 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/25(土) 20:36:58.38 ID:g9q8f6Ud0 こいつは自分の言っていることの意味を理解しているのだろうか。 男が女に性的快感を与える手法は多岐に渡る。だが女が男に性的快感を与えるとならば、その対象は一つしかない。 いやこれがSMプレイならば物理的な痛みや言葉責めによって、っていかんいかん、アブノーマルなケースは置いといて。 ハルヒが俺を気持ちよくしてくれるということ、それは口内粘膜による性器への刺激、つまりフェラに限られるのである。 「無理にしなくてもいいんだぞ? 別に俺はかまわないし」 俺はハルヒが快感を与えられる側であることに気を負っているのかと慮ってそう告げたのだが、 当のハルヒは自主的かつ意欲的にその提案をしたようで、 「キョンはあたしにされるのが嫌なのね……」 などと見るからに肩を落としている。俺は慌てて否定した。 俺からすれば愚息を口に含むだなんて正気の沙汰とは思えないのだが、まあハルヒがこう言っているんだし甘えるとしよう。 それにしてもハルヒに性知識があることはもう疑いようもないが、フェラは初めてなんだよな。 何でも器用なこいつのことだから加減を間違って歯を立てるなんてことはなさそうだが、大丈夫なのだろうか。 一抹の不安を覚えながらも、俺はハルヒに指示を仰いだ。しばし主導権はハルヒに譲渡することになりそうだ。 「うーんと、そうねぇ。じゃあキョンは団長席に凭れてて」 言われたとおりに団長席に腰掛けずに凭れかかる。少し高さが足りないが、不具合はない。 俺は初体験と自称するハルヒがどのように仕掛けてくるのか期待しながらも、再び心臓が早鐘を打ち始めていることを知覚した。 いつも散々俺に命令を下しているハルヒが、俺に口を使って奉仕する。くそ、なんて風情だ。劣情を持て余すじゃねえか。 と、そこでハルヒが視界から消失していることに気がつく。まさかさっきの絶頂で腰砕けたんじゃないだろうなと ハルヒのカチューシャを探すが、1秒もしない内にそれを発見した。俺の鳩尾の下、つまるところ股間部分に。 「脱がすわよ?」 「あ、ああ」 躊躇のない迅速な行動に面食らっている俺を放置して、ハルヒは俺のベルトを外しはじめた。 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/25(土) 21:08:14.08 ID:g9q8f6Ud0 てきぱきとベルトをテーブルの上に巻いて置き、次いでジッパーを下げていく。 ズボンも剥かれるものだと思っていたら、それはそのままのようで、自然、ハルヒの白磁の白い指は 俺の下着部分へと伸びていく。浮かび上がっている輪郭は、もうすでにバレバレ愉快に違いない。 また性行為に定番の事前シャワーもしていないので、汚臭とまではいかないものの(と信じたい) 快い香りがする訳でもなく、どちらかといえば不快な匂いを吸い込むことになるのではなかろうか。 「なあハルヒ、嫌なら嫌と正直に……いやなんでもない」 キッと睨み返される。途中で頓挫などこいつのプライドが許さないのだろうか。 無理矢理俺がやらせているわけでもないんだし、そこまで意地になることでもないと思うんだが。 いよいよ下着がずらされる。抵抗を感じたのか、ハルヒは強めに引っ張った。 下着の拘束から介抱され、どうだと言わんばかりに己を誇張する愚息。やれやれ、無様すぎる描写だな。 ハルヒといえば、男性器を初めて間近に見たことによる衝撃の所為か、 まるで地球に襲来した小型宇宙人を見るかのように目を見開いて凝視している。 おい、あんまり見るなよ。いくらお前が彼女だからって、俺だってそれなりに恥ずかしいんだ。 「キョンの、すごく大きいわね」 だが俺の羞恥心を知ってか知らずか、ハルヒは容赦なく感想を述べてきやがる。確信犯か? 「で、どうすればいいの?」 あどけない笑みで問いかけてくるハルヒ。思考が停止する。こいつ……何も知らずに準備を進めてきたのか。とりあえず段取りは完璧だが、 フェラの仕方を指導してやれるほど俺はAVを、げふんげふん、性知識には精通していない。 と、ここでハルヒは俺の困惑顔に気付いたのか、 「じゃああんたの言うとおりにするわ。それならあんたも満足でしょ?」 とあっさりと主導権を返還してきた。俺が指示するといってもなあ。 齟齬が発生するかもしれんし、男性器の各部の詳細名称を一々説明してやるのも面倒だ。 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/25(土) 21:31:36.94 ID:g9q8f6Ud0 が、しかしこのまま硬直状態が保たれるのは非常に好ましくない。 起立した愚息を目の前に、跪いたまま男の返事を待つ少女。なんともシュールな絵である。 「とりあえず、握ってみてくれるか?」 俺は記念すべき第一号の指示を下した。 先程の言動からするにハルヒが処女であることはまず間違いなく、男性器に触れる機会もなかったであろうと予測されたので まず抵抗をなくしてもらおうと考えたのである。だがしかしそれは無用の気遣いだったようで、ハルヒは 「そんなまどろっこしいことやってられないわ」 と言い放ち、少々乱暴に俺の愚息を握り締め、舌先をチロリと亀頭の先に這わしてきた。 「こうやって舐めたほうがずっと気持ちいいんでしょ?」 自信満々な笑み。唇から覗かせた赤い舌が、俺を嘲笑うかのように煽動する。 くそ、前言撤回だ。現時点で圧倒的優位に立っているのは指示を下していた俺じゃない、行為を及ぼす側のハルヒだったのである。 背筋を通り抜けた痺れに俺が言葉を発せぬ合間に、ハルヒは握った手から伝わる感想を淡々と述べていた。 「ビクついてる」「ふふっ、可愛い」などなど。舐めてるのかと一喝したくなるものの、どうせ「舐めてるわよ、当たり前じゃない」といった 小学生じみた悪戯っぽい反論が返ってくると予想されるのでやめておく。 「次はどうすればいい?」 目に輝きを取り戻したハルヒが、再度指示を仰いでくる。 予想以上にこの状況を愉しんでいるようなので、俺は少々過激なリクエストをすることにした。 ふふん、これならハルヒの笑顔も液体窒素を散布されたかの如く凍結するに違いない。 「じゃあ……口に含んで舐め回してくれ。どうだ、できるか?」 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/25(土) 22:14:06.34 ID:g9q8f6Ud0 正直なところ、俺は別にハルヒが嫌悪感を示してもかまわないと思っていた。 これは俺にとってもハルヒにとっても初めての性交になるわけだし、完璧を求めるつもりなど更々なかったのである。 だがその時の俺は完全に失念していたのだ。ハルヒがついさっき絶頂を迎えたばかりであり、 その厭らしい一面を普段の調子をトレースすることによって覆い隠していたことに。 思えば舌を這わしてきた次点で気付くべきだった。そう、今のこいつはとんでもなく淫乱で積極的なのだ。 「はむ」 一切の戸惑いも躊躇もなく、まるで極太のウインナーを食べるかのような擬音を奏でて、ハルヒの温かい唇が俺のペニスを咥え込む。 さっきのような痺れと違う、電流のような刺激が背筋を走りぬけ、俺は思わず息を漏らした。 俺に吐いた分の息を取り戻す間も与えずに、ハルヒの舌が裏筋から鈴口にかけて駆け上り、先端に達したところで 亀頭全体を包み込むように舐めまわす。唾液腺から止め処なく溢れ出す蜜は潤滑油として申し分なく、俺は不覚にも一瞬で絶頂に達しそうになっていた。 このままでは醜態を曝してしまうと危惧し、咄嗟にハルヒの頭を股間から離す。 「お前、本当に初めてなのか?」 これだけ上手けりゃ疑うなと言うほうが無茶だ。 「だからそう言ってるじゃない……気持ちいいところがあったら言ってね」 が、そんな質問には目も暮れず、ハルヒは再び俺のペニスに顔を近づける。 そして上目遣いで俺を眺めた後、今度は一歩手前に引いてカリまでの部分に口をつけ、 残りの肉棒を片手でしごいてくるといった始末だ。まったく、どこでこんな技巧を習得したんだろうね。 あまりの快楽の波に声を上げそうになるが、歯を食いしばって堪える。 「どほひゃひほひぃいいほ?」 口に棒を突っ込まれた状態を仮定して脳内再生するならば、今のは何時までたってもされるがままの俺に痺れを切らしたハルヒが 「どこが気持ちいいの?」と聞いてきのだろう。うっかり忘れていた。大分意識が危うくなっているが、ここは嘘偽りなく正直に弱点を教えてやるか。 242 名前:色々とgdgdだったので丸ごと修正[] 投稿日:2007/08/25(土) 23:42:20.24 ID:g9q8f6Ud0 「ん、そうだな、カリ首の辺りを集中的にしてもらえると嬉しいね」 恍惚とした表情で目を伏せて、素直に承諾の意を示したハルヒに言い表しようのない独占欲が芽生える。 俺は瞬時に攻撃目標を変更、広範囲からピンポイント収束された舌動を始めたハルヒの頭を撫でてやることにした。 尤も、刻一刻と削り取られていくコンセントレーションの回復がままならないまま撫でたので、上手くできたかどうかは定かではない。 と、ここで空いていたハルヒの左手が、添えられていた俺の左足を上って玉袋を掴む。 弱点を告げてからと言うものの、急成長を遂げるハルヒの絶妙な舌技の愉悦に浸っていた俺は、その意識外からの 攻撃に完全に不意を突かれた。不味い、コレは気持ちよすぎる。 「ふぉう?」 眉をピクリと動かして「どう?」と俺の感想を求めるハルヒに、俺は返事をすることができなかった。 何故かって? 尿道を駆け上がりつつある奔流を抑えるので、俺の思考はすでに手一杯だったからさ。 俺の堪えている様子から察したのだろうか、ハルヒは頬のみならず、新絹のように染み一つない上半身の素肌を紅潮させて、 ペニスにきつく舌を絡ませてこれでもかとしゃぶりついてきた。自分で言うのもなんだが、実に美味しそうにフェラをしている。 またしごく手もスピードを上げ、玉袋を圧迫する力も強まってきており、痛みと言うには語弊がある重い感覚に顔を顰めるものの、 しかしこの痛みがカリを中心とした波状攻撃を援護する形となって、結局は快楽の波が俺を飲み込んでいく。 俺はハルヒの綺麗な手と純潔な口を汚したという事実も忘れ、ただハルヒに全てを任せる限りであった。 「ぐ、ハルヒ、もうそろそろ……」 しかし俺にも限界点と言うものがある。一時でも長くフェラを続行してもらいたいがために 十数年で養った精神力をフルに使用して射精を堪えていたが、そろそろそれも無理なようだ。 呂律の回らない口で、ハルヒにフラストレーションの爆発が近いことを伝える。 すると、さっき俺が胸を責めていたときとはまた違った融け方をした瞳から”分かったわ”といったアイコンタクトが送られてきた。 どうやらハルヒも俺と同じくらいにこの行為を愉しんでいたようである。フェラで感じてるとは……とんだ変態だな、お前は。 306 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/26(日) 00:27:06.03 ID:sitpGuTe0 混濁した意識の中で、ハルヒの口内に射してしまってもよいのだろうかと懸念するが、 高速化する舌先とじゅぶじゅぶといったわざと立てているとしか思えない水音、そしてその一見卑しい行為を、 悦びを以って行っているハルヒが醸し出す背徳感が、射精の遷延を許さない。 「ぐ……あ……行くぞ、ハルヒ!」 俺はハルヒの頭を両手で掴み、最大限に膨張したペニスを喉奥に突き入れた。 意識が飛びそうになるほど白く染まり、乱暴に扱ってしまったハルヒに気をかける余裕もなく、 俺は自慰とは比べ物にならないほどの快感とともに己の数億のカタルシスを吐き出した。 十数分前から一歩も移動していないのに、まるでフルマラソンを全力疾走したかのような疲弊感と高揚感。 そして腰が抜け落ちそうになるほどの快感が、足先から全身へと駆け巡った。 「は、ぁあ……すまん、大丈夫かハルヒ?」 言葉を紡ぐだけの余裕を取り戻してから、萎縮した愚息をハルヒから引き抜く。 俺は今になってハルヒの奇妙な様子に気がついた。ケホケホと咳き込み、目のふちに涙を浮かべながらも、 恍惚とした笑みはそのままに、俺の精液を嚥下しようと努力している。その健気な仕草に愛しさが募り、 「無理して飲み込まなくていいんだ。不味かったら吐き出せばいい」 と言ってやるのだが、しかしハルヒはふるふると首を振って、結局時間を掛けて全部飲み込んでしまった。 しかも口端から零れ落ちた白濁液や、首を伝って鎖骨に溜まった白濁液さえも指で掬い取りその指を咥えるいった念の入れようである。 俺はこの時再認識した。ハルヒがフェラの提案をしたのは、何も俺を悦ばせたかったからだけではない。 こいつは心の底から己のフェラに陶酔し、また心の底から俺の精液を欲していたのだ、と。 「んふ、美味しい……不味くなんてないんだから」 あくまでも強気の姿勢を貫くつもりなのだろうが、テラテラと光る俺の愚息からツーっと落ちる液体さえも舐め取るハルヒの視覚情報は、 俺の脳に一人の、いや一匹の雌として改竄されて送られてきていた。そんなに精液が欲しいなら、いくらでもくれてやるさ。 萎えていた俺の分身に血液が収縮し、自分でも信じれない回復力で硬質化していく。 6 名前:とりあえず修正版[] 投稿日:2007/08/27(月) 18:03:13.34 ID:m4Wuv3io0 またしても大好物を目の前にした子供のように目を輝かせ始めたハルヒを今度ばかりは無視して、背後に回りこむ。 そして口内射精してからずっとへたり込んだままのハルヒに合わせる様に座り込み、屋上のときのように両腕を回した。 「背中に固いものが当たってるんだけど?」 それが何か分かっているのに尋ねてくる辺り、まだイニシアチブを掌握していると勘違いしているみたいだが、 攻勢は俺がこの体勢になった時点で決定的に逆転している。ま、そのことは今から身をもって思い知ってもらうことになるんだが。 俺が黙ったままなのが不満だったのか、葦乱の表情を浮かべて振り向いたハルヒの唇を何の前触れもなしに奪う。 間髪入れずに右手で胸をまさぐり、左手でハルヒのスカートを捲り上げる。 唇と胸と言う性感帯を同時に責めれられたからだろう、「んっ」と甘い声を漏れるが、俺にはそれに応じる余裕がない。俺の視線は、ハルヒの下半身へと向けられていた。 肉付きの良い脹脛と太股、そして上半身と同じくしっとりと汗ばみながらも、弾力に富んでいるであろう肌理細やかな肌。 黒いソックスがその脚線を演出し、また肌とのコントラストが眩しい。だが、やはり一番俺の眼を惹いたのは二本の美脚の接合部だ。 「今日はやけに露出度高めなんだな」 ハルヒのパンツなんてものは、妹の下着姿と同じくらい見ていて別段何の貴重性はなかったのだが、改めて凝視すると、秘所を外部の視線から薄布一枚で死守している様がなんともエロシチズムをそそるね。 しかもハルヒが今日履いているのはショーツと言うよりはTバックに近い作りの下着で、なんというかその、軽く食い込ませれば秘肉が見えそうで俺の視線は自然と鋭くなる。そこ、変態とか言うな。 「ん、ぷはぁ……別に今日だけじゃないわ。あ、あんたに見せるために最近はずっと……んむ」 突然着衣を乱したことには触れず、説明を始めたハルヒの口を再度塞ぐ。そんなこと言われなくても知ってるんだよ。 俺はキスを続行したまま胸から離した右手でハルヒの足を僅かに開脚させて、左手で愛撫を開始した。 予想通りの手触りに、俺の心拍が跳ね上がる。質量を持った摩擦に両足が反射的に閉じられるが、、 俺の右手がそれを許可するわけもなく、結局ハルヒは無理矢理閉口させられたまま、俺に身体の自由を奪われていた。 自由な両手を使えば抵抗はできるだろうが、だらりと垂れ差がった両腕に力はなく、その意思はないようだ。 手のひらと指を使い、緩急自在に舐め回す様に撫でる。ふくよかな弾力性は俺の力をしっかりと受け止めて、 確かな反動を返してきた。俺は乳首を責めたとき同様に、足の愛撫でもハルヒを焦らすことにした。だが、今回も前回と同じ程度と思ったら大間違いだ。 言い訳をするならばフェラと言う形で俺を気持ちよくしてくれたハルヒに対するお礼なのだが、実際はただ俺の枯渇した嗜虐欲を潤すためだけである。 月光に照らし出される、人形のように弄ばれるハルヒの痴態。さて、今度はどんなおねだりを見せてくれるんだろうね。 22 名前:焦りすぎた[] 投稿日:2007/08/27(月) 18:37:31.52 ID:m4Wuv3io0 膝裏から内腿へ、下着のラインをなぞりながら再び膝裏へ。爪先を使い、時折薄くひっかくように白肌に赤みを残留させていく。 それはさながら白いスポンジにデコレーションする真紅のストロベリーソースのようで、俺の”食欲”を刺激する。 もちろんカニバリズムなんてブラックな境地を開拓したわけではなく、性的にハルヒを食べたくなったってことだ。性的にな。 愛撫が始まって数分後、ハルヒは、下半身を縦横無尽に駆け巡る蟻走感に耐え切れなくなったのだろう、 唇を半ば強引に離して、喜悦とも誹謗ともとれるアンビヴァレンスな視線を送ってきた。 「……はぁ、っはぁ」 無言のアイコンタクト。でも俺はわざとそれに対応せず、飄々と”言葉”で問いかける。 「どうしたんだ?」 「い、意地悪……」 はて、一体俺の行動の何処に加虐があったのだろうか。愛撫は円滑な事の運びに必要不可欠な前戯のはずなのだが。 「もう、いいのぉ…」 どうやら、お前には徹底的に国語を教育してやらなければならんようだな。 母国語なんだ、こんな基層部分を未学習なわけがないはずないだろう。「目的語」が抜けてるぜ? 「何がもういいんだ? ちゃんと言ってくれなきゃわからない」 なあハルヒ、この瞬間だけ過去の鈍感属性が付随したペルソナを被るのを赦してくれないか。 そう優しく心中で嘆願して、しかし現実世界ではあまりに残虐な言葉を投げかける。ハルヒは、今にも泣きそうなほどに瞳を熱く潤ませていた。 「下も……触ってもいい、から」 42 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/27(月) 19:20:19.53 ID:m4Wuv3io0 本来なら「下」とは何を指しているのかも問い詰めたいところだが、この後のお楽しみのためにも、 マジ泣きしそうなハルヒの溜飲を下げるためにも嗜虐心を抑えることにする。 俺はデコレーションが何処にあるか判別できないほどハルヒの肌が紅潮したのを確認してから、いよいよ下着に手をかけることにした。 サイドの結び目を慎重に、緩慢な動きで紐解いていく。その様子をハルヒはじっと見つめていたが、 やはり秘所を彼氏とはいえ初めて自分以外の人の目に曝すことのに羞恥を覚えたのか、きゅっと足を閉じた。 やれやれ、お前は大事なところを弄んでほしいのか、弄んで欲しくないのかどっちなんだ? 「や、やっぱダメ」 俺が愛撫をやめたとたんにこうである。もう一度最初から焦らしてやってもいいのだが、時間的にも俺の制欲期限的にも限界なのでその案は却下だ。 ハルヒは先刻、情動に任せて口にするにはあまりにも重大な自白を犯した。――下も触ってもいいから。 これはもう疑いようもなく「手が届きそうで届かない快楽に溺れさせてください」と切望したのと同義である。 俺は飄々とした優顔を、小さなミスを犯した子供を粘っこくしかりつけるような教師のそれに変貌させて、再び下着をずらしはじめた。 足を閉じられる力が強まるが、所詮、男と女である。またハルヒは胸で絶頂を迎えたこともあってか、ほぼ全身の筋力が弱体化していた。 今更恥らったって、淫乱なお前に執り行われる淫刑は確定しているのさ。残念だったな、既定囚さん。 「あ、ん……」 俺が下着を取り払った瞬間に、抱きすくめていたハルヒの身体が震える。 終に男の視線に触れることに対する緊張と、以遠に嬲られるであろう快楽を想像したが故だろうか。 だが俺の意識はもう、ハルヒを言葉責めするとか焦らすとかいった以前に、ハルヒの雌を象徴する女性器に完全に奪われていた。 俺の眼下に広がる森林と呼称するにはまだ幼すぎる茂み。それはまるで、局地的な集中豪雨を受けたかのようにびしょびしょだった。 薄布一枚によって閉塞されていた匂いが辺りに広がり、それを吸い込む度に俺の脳はまるでドラッグをキメたかのように溶けていく。 エロいなんてレベルじゃねえ。今すぐ触りたい。蹂躙したい。そんな本能の更に奥に潜む原始的な欲望に操られて、俺は未知なる茂みを開拓する。 「あっ、ふ、んんっ」 指先に温かい粘着質を感じたのと、ハルヒがその細い喉を戦慄かせたのは同時だった。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/27(月) 20:11:19.91 ID:m4Wuv3io0 「あ、ぁ……みないで……」 写真や映像などの媒体物によって存在を知らされていた、積年捜し求めていたものがあったとする。 さて、皆さんはそれを目の前にしたとき、舌なめずりしながら御預けを食らうことに良しとできるだろうか。 いや、できないであろう。っと、別に小難しい例えしなくても、女性器が眼前にあったらどうするかって問題提起すりゃ良かったんだな。 まあ詰まらない閑話は置いといて、俺が何を言いたいかといえば、 「すまんが、それは無理な相談だ」 指の腹で茂みの感触を味わいつつ、徐々に圧力を増大させて秘肉と秘肉の割れ目を探索する。 時折親指の付け根で、存在感を主張する肉豆をノックしてやれば、 「ひ、んんっ! そこは、ダメ…ぇ…」 とハルヒは音が響くのも構わずに嬌声を漏らす。歯を食いしばりながら身体をよじらせるハルヒに支配欲を満たすのもいいね。 だが、この他の性感帯とは反応が別格の性感部は、後の焦らしプレイのためにとっておくとしよう。 まずは頑なに閉じられているであろう割れ目の開発だ。後に思う存分発掘するための前準備というわけさ。 俺の淫謀に気付いたのか、はたまた敏感な傷口に衣が擦れるかのような間隔に痺れを切らしたのか、 ハルヒは俺が這わせていた視線に対する抗議をやめて聖域の位置を息も絶え絶えに教えてくれた。 「違うわ、もっと、んんっ、下の、方」 コロコロと服従心が移り変わるヤツである。恥らうなら恥らうで、最後の最後まで純粋な乙女を演じて欲しいもんだ。擬似陵辱も満足に楽しめない。 ハルヒの変心に心中で溜息をつきながらも、自ら助力してくれたハルヒに感謝の意を籠めて耳を甘噛してやる。 俺は指示されたとおりに手を動かし、そこで確かなを手触りを得た。秘密の秘蜜が溢れ出すオアシスに指を浸す。 いや浸すという表現では語弊があるね。飲み込まれるといったほうが適当だろう。 何しろ俺が茂みを蹂躙してからと言うもの、粘り気を増した透明色の液体はまるで自分の意思をもつかのように俺の指に絡み付いて離れようとしないんだからな。 「とんでもない痴女だな、ハルヒは。こんなに濡らしてはしたないと思わないのか?」 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/27(月) 20:54:21.19 ID:m4Wuv3io0 普段のハルヒなら俺の口から「痴女」などという淫語がまろび出た刹那に、エロキョン!という罵倒と共に死刑にされているだろうが、 今俺の腕に抱かれているのは、不完全ながらも俺の手淫に屈しつつある一人の女子高生である。威厳も尊厳もあったもんじゃないね。 また先程の「触って」発言による淫罪は、まだ断罪されてはいない。執行人は俺で、罪人はハルヒ。 手足を拘束されたハルヒに刑の執行を妨げられるはずもなく、もしそんな暴挙に出れば執行が激化することは言わずと知れているだろう。 「違う、わ……あたしは、そんな……」 快楽の波に大部分を流されながらも、まだ砂粒ほどには矜持を保てていたようだ。しかし、所詮は砂粒。 それらを必死にかき集めて放たれた否定の言葉は石つぶてにも満たぬ効力で、俺が提示した”生暖かい”証拠の前に崩壊する。 「ほう。じゃあコレはいったいなんなんだろうね?」 俺は頑なな守りを崩し始めた篭城壁から手を引いて、その成果を月光に残照させた。 人差し指と中指の第一関節と第二間接を交差させては限界まで引き離し、伝い、糸を引き、卑猥な音を立てる愛液を見せ付ける。 ひくっという息を呑む音がして首を捻ると、これまでにないほど頬を朱に染めて目を背けるハルヒがそこにいた。 「これからどうしてほしい?  特に指定がないんなら、ずっとこのままでもいいんだが」 騎面を浮かべながらも、篭城壁への侵攻を再開する。一度亀裂が入った壁は脆い。些細な拍子で指がのめり込んでしまわないよう、 力を調節しながら指を上下にスライドさせる。コレを突き破るという大役は刻一刻と血液が収束している愚息に一任されているからな。 「上の、ほう、ふぁんっ、さっきみたいに、叩くんじゃなくて……あ、はぁ」 やや時間を掛けて耳を擽ったハルヒの悩ましげなおねだりに、俺の突発的情動が暴走しそうになる。 俺は緩やかにスライドを遅滞させ、秘肉が肉棒をねだるように戦慄くのを愉しみながら徒然と言った。 「だから上の方じゃわからねえよ。何処をどう触って欲しいのか明晰に伝達してくれ」 「んっ、だからぁ、はあっ、分かってるのになんで一々言わせるのよっ、っん……」 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/27(月) 21:40:28.28 ID:m4Wuv3io0 先の初顔合わせでは目先の欲望に捕われて手淫を抑えることができなかったが、今度はハルヒの口から淫語を聞くまで完全におあずけだ。 さて、ハルヒが堕ちるまでの時間を予想してみるよしようか。幾らここまで痴態を曝しているといっても、ハルヒが崖っぷちでどこまで奮闘するかは未知数だ。 だが絶頂を向かえ秘所を弄られて、矜持はすでに陥落したも同然。俺が高校数学の応用問題を解き終わる頃には屈服しているだろう。 「ぁ…はやく…んむ……して?」 蟲惑的な笑みで唇を押し付けてくるハルヒ。飽く迄誘い受けを狙っているみたいだが、無駄だ。寧ろ俺の嗜虐欲の炎に油に注ぐことになっている。 俺の鉄壁の意思を惑わせようと躍起になっている、焦燥感が蔓延しながらも普段どおりの表情で対等を暗示するハルヒが、たまらなく愛おしい。 だが―― 「んむ……ちゃんと正式名称でいってくれなきゃダメだ。間違って変なトコ触ったら怒るだろ?」 変なトコといえば、俺はもう俺たちの仲を知らない世間の人々に弁明できないほどハルヒの変なトコを犯しているのだが、 これはハルヒの逆鱗を一撫でするためのアクセントである。ま、今現在ハルヒという名の竜の逆鱗は、冒険者の畏怖の対象からただの性感帯に成り果てているわけだが。 「く、クリ……やっぱ言えないわ、だってだって、ああもう! いい加減に、あ、はんっ」 辟易しながら指先で肉豆を一撫で。憮然とした表情に一瞬恍惚の笑みを浮かべたハルヒは、 クリトリスによって得られる快楽の一潮にオルタナティブが存在し得ないことをを再実感したのか、 プライドをかなぐり捨てるように深呼吸しながら、静逸の部室の空気に、震えた声色で淫語を溶け込ませた。 「ぁ…あたしの……クリトリスを弄ってください……」 静謐な瞳に浮かぶ涙が、一筋の軌跡を描かないうちに、と俺はハルヒの身体をゆっくりと倒した。 髪を愛液に塗れていないほうの手で優しく撫でて、「よく言えたな」と褒めてからキスをする。 ハルヒの双眸から憤慨と哀愁の色が消え、代わりに再び安堵と喜悦の色が浮かんだ。 127 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/27(月) 22:31:01.39 ID:m4Wuv3io0 両手を胸元で重ね、責めを待つかのように瞳を閉じるハルヒは反則的に可愛らしく、ついつい緻密に計算した愉悦連鎖を無視して"普通"に情事を進めてしまいそうになる。 こうも服従されると逆に困るね。今度は矜持を取り払う加減に留意して焦らすとしよう。 先程秘所を摩擦しつつ太股にも手を這わしていた所為で、テラつく女性器とその周辺に顔を近づける。 確かにハルヒは淫核を弄るようにと嘆願してきたが……手法については指定していなかった。 それが指先だろうと舌先だろうと、目的達成には何ら問題はない。快楽の種類や波の間隔こそ違えど、絶頂に帰結するのだから。 両手でハルヒの足を胴体部に引き寄せつつ押し開く。俗にいわれるM字開脚だ。 そこでハルヒは己の想定している手法と俺が今まさに行おうとしている手法の相違に気がついたらしい。両手で足を固定すれば、指で弄ることはできないからな。 「ちょ、ちょっとキョン、やめてってば、洗ってないのに汚いわ、はあ、ぁんんんんんっ!」 だが顔を上げたときにはもう遅い。俺の蛇のような舌先は、豊潤な露に塗れてこれ以上にないほど勃起している淫核を舐め上げた。 途端、ハルヒの特大の嬌声が部室内に残響する。乾いた摩擦を予想していた分、ざらついた湿り気のある嬲りには対処しきれなかったのだろう。 俺はハルヒが悶絶しながら愉悦を味わうのを見届けてから、身体をハルヒと逆方向にして重ね合わせた。 そして一瞬の躊躇もなく、今度はしゃぶり付く様に舌を這わせていく。愛液と唾液が混じりあい、俺の口腔内は行為を開始してから数秒ですに凄惨な様相を呈していた。 芳醇な香りにクラクラとしつつ、止め処なく溢れ出す甘蜜を啜る。ハルヒは最初こそ俺が性器に口をつけるのを咎めていたが、今では呼吸をするのがやっとだ。 第一、この行為を汚いというのならば、先のハルヒのフェラはどう説明するのだろう。恋人の身体に汚いところなんてないんだよ。それはお前が一番良く知っているだろう? 言葉を紡ぐこともままならないハルヒに追撃をかけるように、舌先を慎重に動かして薄皮を捲り上げる。 「ふあ、ああぁあぁぁ」 その後の執拗なピンポイント攻撃に、ハルヒは絶叫に近い声で歓喜を表した。 表皮を捲ってからの刺激はダイレクトに淫核に伝わり、そして官能を煽り立てる。だがあと一歩でオルガスムスに達するといったところで、 俺はペルソナを被りなおして非情なる命令を下すことにした。奉仕者として、対等となるように。 「ハルヒ、俺のもしゃぶってくれないか。お前が放ってばかりだから萎えちまったんだよ」 どう見ても限界まで反り立っているソレを、ハルヒは矛盾点も指摘せずに手にとった。直後感じる、口内粘膜の湿潤な温かみ。 どうやら「不服従=快楽への迂遠」という恒等式は、ハルヒの脳にしっかりと刻み込まれたようである。 185 名前:またしてもgdgdだったので丸ごと修正[] 投稿日:2007/08/28(火) 00:04:34.37 ID:wU++vi0q0 だがしかし、逆転した視界に映る口端から自身の涎を垂らしつつ一心不乱に奉仕を続けるハルヒに、焦らしプレイのイデアを幻視した俺は、 直後陰茎から伝わる有り得ない奔流の渦に飲み込まれそうになっていた。我を失っているも同然のハルヒがテクニックを満足に扱えるはずもないと踏んでいた分、 急激にフェラ技巧の極地へと到達しようとしている柔舌に、思わぬ反撃を受けたのである。驚嘆に値するね、何処まで成長する気だこいつは。 ハルヒは俺の愚息を自ら喉奥にまで導き、口腔全体で締め付けてから、カリを残したまま肉棒に万遍なく唾液を塗して舐めまわす。 そして放置されていたカリ首を裏筋から這い上がってきた舌でつつきまわしつつ、最後に鈴口を割るように舌裏の筋を押し当てる。 「おい、ハルヒ、ちょっと待って――」 「あむ、んむ……あ、んむう」 言葉による制止が無意味と判断した俺は、如何なる術を以ってこの危機的状況を回避しようかと思索し、唯一の、しかし最高の即効性を持つ妙案を思いついた。 快楽の奈落へと突き落とされそうになっているのならば、その下手人を先に引きずり落としてやればよいだけのこと。実に単純明快である。 俺のバカな妹でも一瞬で思いつくに違いない、ってあいつはまだ小学生で性知識はないから仮定条件として間違っているな。 閑話休題。俺は目の前でひくひくと戦慄く秘核を、どう料理してやろうかと画策した。唇による挟み込みや舌腹や舌先による責めはマンネリ化している。 停滞を打破するのは前例を凌ぐ刺激なのだが、如何せんこの試みはハルヒのキャパシティを超越しているのではなかろうかと不安になる。 が――じゅぶじゅぶとわざとらしく音を立て、俺の肉棒を頬張っているハルヒをこれ以上野放しにするわけにもいかず、 結局俺は、ハルヒが瞬間的に絶頂を迎えることを覚悟して肉豆に慎重に歯を立てた。 「ん、む、んんんんっ!!」 邪魔な棒があるせいで綺麗に発声できないのか、くぐもった嬌声がハルヒの口から漏れ出でる。効果は覿面を遥か眼下に、抜群みたいだな。 また懸念されていた絶頂を、ギリギリのところで迎えていないのも好都合だ。これでいよいよ69らしくなってきたね。 舌先で不定期にトントンとつつきつつ、弧を描くように周囲を舐めて、油断させたところを歯で甘噛する。 たったこの繰り返しだけでハルヒは筆舌に尽くしがたい悦楽に溺れてしまうようで、舌動はガクンとそのスピードとキレを落とした。 「どうしたんだ、止まってるぞ?」 俺がやれやれといった風に行為を中断すると、 「あふ、ご、ごめんなさい……んっ、ふぁぁああぁ」 253 名前:ああもうめんどくさいから全部修正![] 投稿日:2007/08/28(火) 01:12:40.32 ID:wU++vi0q0 宛ら新規配属されて早々にミスを犯した女性社員のように慌てふためいて謝辞を述べる。 だがそんな低姿勢と反省の色とは裏腹に、ハルヒの口内は愚息が一瞬で達しそうになった時の動きを再現せず、退化する一方である。 その不安定さが初々しくぎこちないフェラを演出しているものの、あの絶世の妙技を体感した俺にはどうも物足りない。 「はぁ、んむ、ぷはぁ」 しかも終に無限に押し寄せ始めた快楽の波に飲まれ始めたハルヒは、俺の愚息を口外に吐き出してしまっていた。 躾を為直すべくもう一度焦らしてやろうかと思ったが、ハルヒの瞳に浮かんだ恍惚の先にある光を見て嘆息した。くそ、半分意識が飛んでやがる。 これ以上焦らして咥えなおさせるという行為が無意味であると思い知った俺は、そのループの輪を断ち切って69という名の歪な喜劇を終幕させることにした。 「ハルヒ、イきたいか?」 虚ろな目のままにこくりと頷いたハルヒに、ペニスを握って鈴口を顔に向けているようにと指示する。何をするつもりかって? カーテンコール後の舞台に、ちょっとした色をつけるんだよ。白濁の着色料は、艶やかな黒髪と絹肌を鮮やかに彩るに違いないからな。 足を押し開いていた手を片手にして、片手で淫核を乱暴に爪弾き、嬲り、弄り倒しながら、 自由になった口先で秘蜜を啜りつつ割れ目に舌を這わせる。ハルヒがそうしたように、じゅるじゅると音を立てることも忘れない。 発狂したかのように絶え間なく上がる嬌声に、これまでにない背徳感をと高揚感を得た俺は、ハルヒの先刻までのフェラも手伝ってか射精感を催した。 「はぁ、あん、あああっ、ああんっ、ふあぁぁああぁ」 最早それは言葉でなく、ただの歓喜の呻き声。だがそれが何処から発せられているのか目で辿る前に、俺のフラストレーションは二回目の爆発を迎えようとしていた。 ハルヒの小さく秀麗な指に支えられて、奔流が尿道を駆け抜ける。俺はその刹那、 「もう我慢できない、出すぞ!」 とハルヒに宣言してから、真っ赤に充血した淫核に強めに歯を立てて直角に鋭く捻った。本日二回目のカタルシスが、陰茎の方向に従って射出されていく。 耳の奥でハルヒの絶頂時の絶叫が残響して意識が白ばみ、全身に最初の射精とは比べものにならないほどの脱力感と倦怠感が拡がる。 ハルヒの身体にそのまま倒れこんでしまいそうになったが、なんとか両腕をつっかえにすることで体勢を維持した。 と、この時俺は、射精によって上気した顔に降りかかる、透明色の生暖かい液体を識覚した。見た目からしても尿ではないようだが……っておいおい、冗談だろ? もしかするとしなくても、アダルトビdごほんごほん、性知識に関する資料によって得た知識から考察するに、これが潮吹きという生理反応なのだろうか。 530 名前:涼宮ハルヒの誘惑◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/28(火) 18:25:28.22 ID:wU++vi0q0 陰毛の奥の尿道口付近から不定期に噴出すそれは、床に小さな水溜りを作っていく。 液体が飛散しなくなり、やがて肌を伝うほどに勢いを失った頃には、表面張力の限界を突破した水溜りはハルヒのスカートのお尻部分を完全に濡らしていた。 また液体が飽和しているところに、さらに液体が降りかかったことによる水飛沫で ハルヒの内腿から尻肉にかけてはまるでローションを塗りたくったかのように光沢を放っていた。肌に張り付いた水滴の一つに指を這わせてみる。 さらさらとした粘り気が指腹を濡らした。 「おいおい、ハルヒ、どうするんだよ。誰が後でハルヒのいやらしい汁を片付けると思ってるんだ?」 射精直後の高揚を押さえ込んで侮蔑と倦怠の声色で問いかける。しかし俺の期待していた羞恥の反応はなく、 耳に届いたのは未だ快感に身を委ねたままのハルヒの荒い呼吸音のみであった。よほど最後の淫核責めが効いたようである。 「どうしたんだ、口も聞けないのか?」 「あ、ふぁあん、ん」 こんな風に周囲に気を配れないほど溺れたハルヒも可愛いが、性行為における意思伝達は重要であって このまま事を運べばそれはただの強姦である。かくして俺はハルヒを淫夢の深淵から引きずり出すべく、ハルヒの肌を腹から顔に向けて逆上っていくことにした。 視軸は常に下に向けたまま。白濁を浴びたハルヒの顔面を拝むのは到達後のお楽しみだからな。脱力させた舌を引きずるように、緩慢に蛇行しながら腹を蹂躙する。 綺麗に縁取られた小さな臍に舌を突き入れながら、時折平坦な白肌に唇で赤の捺印を押す。それは例えるなら雪原に落とされた幾つもの野苺。 俺は満遍なくハルヒに”印”を遺したことを確認してから、今度は腹から舌を肋骨にシフトさせ、急な起伏の差を更に大きくした双丘を再び訪れることにした。 尤も前回訪れたのは舌ではなく、ハルヒの両手に絡み合わせている指先なんだがな。つまり舌で果実を味わうのはこれが初めてってことになる。 さあて、完熟したハルヒの双実と桜桃はどんな甘味を俺の味蕾に齎してくれるんだろうね。唾液が出るぜ。 「最初に揉んだときよりも大きくなってるんじゃねえか? 錯覚とは思えないんだが」 緩急強弱をつけながら、弧を描くように舌を移動させて胸の粘弾性を堪能する。 俺が言ったことは、ハルヒの羞恥心を煽るためのものではなく(もう羞恥心なんて欠片ほどにしか残っていないだろうが)ただの純粋な感想だった。 たぷたぷという擬態語を適用するには、ハルヒの乳房は余りに柔らかすぎた。しかしそれは決して垂れているというマイナス要素ではなく、 塑性を増大させながらも弾性を残しているといった、最高の弾力を生み出すプラス要素になっている。 596 名前:またしてもgdgdなので修正 [] 投稿日:2007/08/28(火) 20:39:50.70 ID:wU++vi0q0 しっとりと汗ばんだまるで朝露を纏った桃のようなそれを、舌で突き、形を変えて弄ぶ。 同時進行でハルヒの左手に絡ませていた手を、空いているほうの胸に押し当てて手平に感じる尖突ごと押しつぶし そのまま上下に手をスライドさせることによって摩擦する。びくんっ、と絶頂直後のハルヒの身体が跳ねるが、 俺の手も舌も癒着しているかのようにハルヒの乳房から離れなかった。大きさを再確認させるように、たわわに揺れただけだ。 「うん、美味しそうな桜桃だな。一つ貰うぜ?」 左手は飽く迄も、俺が桜桃のある山頂に辿りつくまでにハルヒの興奮が冷め遣らぬようにするための補助。 ま、イッたばかりのハルヒには補助的役割の刺激さえもが官能を弄られたように感じられたみたいだが。余計な世話だったのかもしれないね。 俺はメインディッシュの桜桃――充血した突起を唇で挟み込んだ。密閉した口内でまず唾液を塗布し、下準備ができたところで コリコリとした食感を味わう。固さを最大限に増した乳首は、淫核には及ばないものの淫猥な感覚を俺に与え、 結果、俺の萎縮していたペニスは二回射精しているにも関わらず屹立していく。ハルヒはそれを腿に感じたのか、 「やだ……また大きくなってる」 などと感想を漏らしたが、誰の所為で俺の海綿体に血液が流れ込んでると思っているんだろうね、こいつは。 どうやらこの小粒は性欲を増大させる危険な実だったようである。 俺が性欲に操られる前に、こんな媚薬を胸にくっつけたいけないハルヒを御仕置きしてやれねばなるまい。摘み取ってやるよ。 「や、ダメ、さっきみたいに歯を立てたら――あんんんっ!!」 絶頂を迎えさせたときのように歯を乳首に立てて、強めに顎に力を入れる。 若干言葉を取り戻してきていたハルヒは、再び嬌声を上げて肩を震わせた。これでしばらくは静かになるだろう。 あ。ハルヒが何時までも喘いだままだったからこうして覚醒を促していたのに、また振り出しに戻ってしまったではないか。何をやってるんだ俺は。 自分の突発的な加虐に嘆息しながらも、荒くなった呼吸と連動して振幅広めた双丘に別れを告げる。 そして鎖骨の縁を沿うように迂回して、俺の舌は漸く、瀕死の白雉の首のように震えている白磁の喉に到達した。顔を上げる。 「綺麗だ、ハルヒ」 頭に思い描いていた情景を遥かに上回る妖艶な光景に、俺の喉は一つの形容詞を搾り出すのでやっとだった。 633 名前:修正なんどもごめんね[] 投稿日:2007/08/28(火) 22:07:54.66 ID:wU++vi0q0 ハルヒの整った顔立ちは、貶す点が一つも見当たらないほどに秀麗だった。だが、完璧な造形美をまた違った趣向で彩り、昇華させる手法がある。 それは緻密さや精密さとは対極に位置する、暴力的な、乱雑な手法。適量取った白い絵の具を、後先考えずにぱたた、と絵画に振りかけた様な、 蒼穹の澄み切った青空に、飛行機が地上で空を見上げている人を気にも留めず白い筋を描いていく様な、 美しく麗しいモノが壊れてしまうといった儚さの、更に先にある崩壊美、破壊美。 「どうしたの?」 ハルヒの不思議そうな声に反応できずに、眼前の光景にただ目を奪われる。 目端、鼻腔の脇、顎、右頬――所々に飛散した白濁液は、ハルヒの顔を穢し、そして同時に美しく引き立たせていた。 ハルヒが手をつきつつ上体を起こしたことによりツー、と重力に従って流動するそれは、美貌に歪んだ幾何学模様を残していく。 語彙を詮索しようともせず思う。綺麗だ。それ以外の言葉が見当たらない。 「あ……あたし、かけられたんだっけ」 と、今になって漸く顔者されたことに気がついたのか、驚愕に口を押さえたハルヒは、手に付着したそれを、一瞬の迷いもなく舐め取った。 折角の彩りを拭い取られてしまうのは残念だが、一旦この行為に耽り始めたハルヒを止めるのは不可能である。 俺は、舌で絡め取れる部分は舌で、届かない部分は指で掬い取っては口に運び入れるハルヒをしばらく眺めていたが、 その瞳に口内射精時と同様、恍惚とした光を浮かべはじめたのに気付いて、いよいよ最後の責めに移行することにした。何時までも感慨に浸るのも良くないからな。 「なあ、この白濁液だが」 俺は機械的に動いていた手を無理矢理に掴み、口をハルヒの耳元に近づけた。途端、精液を掬い取れなくなった不満なのかハルヒの顔が歪む。 随分お気に召したみたいだな、俺の精液は。だが忘れてもらっちゃ困るね――これは俺の分身で、つまりは俺の所有物なんだよ。 「次は何処に欲しい? 指定したところに射精してやるから」 俺の言葉はハルヒの自由意志を尊重しているように見えて、その実、ハルヒの自由は完全に俺が掌握していた。 何故かって? 言葉通りの意味さ。俺は掌は、問いかけたときに、すでにハルヒの股間にあてがわれていたのだから。 時折淫核を擦りながら、変則的に、しかし軽めのタッチで秘肉と割れ目を刺激する。 緘された唇と、それと対照的に戦慄く”下”の唇からするに、どうやら精液のことを考える余裕は跡形もなく消え去ったみたいだね。 735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/28(火) 23:53:48.60 ID:wU++vi0q0 跳ねる肩に顎を乗せてハルヒに身体を密着させて弄る手はそのままに、 空いているほうの手でハルヒのぎゅっと握り締められている拳を解いて、愚息に押し当てる。 ハルヒが反射的に指を絡ませてくるのを見て、俺はニヤリと唇を歪めた。我ながら思う。 俺のサディズムという名の性的倒錯は、何処までいけば正常に回復するんだろうっ、てな。 「もう一度聞く。何処に欲しいんだ?」 二回目のオルガスムスに達して間もない敏感な局部を弄ばれている状態のハルヒに、こんな質問は無意味に等しい。 どんなに心に防衛線を張ったところで、その奥に潜む本能的欲求が溢流すれば、最後の障壁に蹈鞴を踏んでいた行動理念も自ずと方向性を変える。 「は、あぁん、あぁ……キョンの……キョンのを下さ、い」 精液が欲しいか、と聞けば既に矜持を失ったこいつなら間髪入れずに頷くだろう。何せ零れ落ちたのまで掬い取るほどだからな。 だが、それを何処に欲しいかと聞かれればどうだろう。ハルヒはしばし緘黙するはずだ。 何故なら割れ目を執拗に責められている今、嘘偽りなく告白するならば、それは口内でも顔面でもなく―― 「お前は本当に日本語がなってないな。”何処”に欲しいか俺は聞いているんだぞ?」 「いやぁ、あん、っそんなこと、恥ずかしくてぇ、言えな、んんんっ!」 割れ目を僅かに押し開き、指を埋没させるフリをして茂みを一撫でする。それだけでハルヒは苦しげに、甘い息を漏らし、 潤んだ目で俺を直視する。だがそんな誘惑に俺が篭絡されるかといえば、それは前回の恥辱プレイと同様有り得るはずもなく、 結果、ハルヒは「何処」に精液が欲しいのか答えるまでおあずけを食らうことになるのである。 俺が残酷に見えるか? もしそう見える奴がいるとすれば、そいつの頭脳は燃犀とは程遠いところに位置し、 また情事に関する先見の明が皆無であることはまず間違いないね。この恥辱を乗り越えられたとき、ハルヒは初めて俺の夜の奴隷になることができるのさ。 「キョン、の、コレを……」 一層強く握り締められた愚息が、歓喜の悲鳴を上げんばかりに脈打つ。 俺は初めて立ち上がるような赤子を見守るような心持で、ハルヒが羞恥に真っ赤に顔を染めて言葉を紡ぐ様子を見ていた。 尤も心持の比喩と違って、俺の視線は純朴な愛情とはかけ離れた、R18指定のいやらしくねっとりとしたそれだったが。 8 名前:取り合えず繋ぎに前回の最後のレスの微調整verを[] 投稿日:2007/08/30(木) 20:49:20.62 ID:It/eROJC0 ハルヒはそれから数十秒間、喘ぎ以外の声を発することはなかった。 その先を口走ってしまえば、ハルヒは自分で自分が厭らしい雌であることを認め、また性のパートナーとして対等ではない 与えられる側に墜落し、永遠に元のポジションに復帰することができないと知っているが故の緘黙だろう。 だが、俺はそんな葛藤を一片も意に介する訳もなく淡々と手淫を継続する。そして俺の人差し指の爪が、割れ目をなぞる様に動いた刹那、 「はぁ、んんっ、あ、あたしの――中に挿れてくださいっ!!」 自暴自棄に語尾を跳ねさせて、ハルヒは絶叫を文芸部室に木霊させた。 どうやら未知なる快楽に対する期待値が、終に限界を迎えたようだ。良くここまでもったもんだよ、まったく。 わなわなと唇を震わせ、熱く双眸を潤ませるハルヒ。つい抱き締めたくなる衝動に駆られるが、俺はなんとか堪えた。 そして聞き分けのない我侭娘に向けるような倦疲の溜息をつき、手の施しようがないほどに壊れきった廃人に向けるような憐憫の視線を向けて、 「つまり、だ。ハルヒは俺の肉棒が欲しくて欲しくてたまらないってわけだな?」 溢流する劣情のままに俺を求めるハルヒの顎を、嗜めるように持ち上げる。自分で自分に嘆息を禁じえないね。 ハルヒと性行為を始めてから間もない頃は、ちょっとした焦らしで満たされていた嗜虐欲が、今ではどんなに加虐しても枯渇したままだ。 だがしかし、ハルヒもハルヒである。これまでの過程において涙を一筋でも流していたならば、俺の虐げがここまでエスカレートすることもなかったというのに。 常日頃からの強気な姿勢は、今では見る影もなく、俺の視界に映るのは傲慢な団長様ではなく盛りのついた一匹の雌。 この仮説はハルヒの胸を責めた時から頭の端にあったんだが――これはもう、ハルヒがマゾヒズムに開眼したと考えざるを得ないね。 「あ、あたしは……キョンの肉棒が欲しくて、欲しくて、んむっ!?」 服従の色を滲ませた、熱っぽい口調で反唱し始めたハルヒがたまらなく愛しくなって唇を奪う。 慌てたように唾液を送り込み舌を絡ませてくるハルヒがさらに愛しくなるが、舌で押しやって口を離した。 俺は突然の拒絶に戸惑いの色を浮かべるハルヒ――いや奴隷と言うべきか――を冷笑と共に一瞥して立ち上がる。 「立てよ。お前のお望みどおり、コレを今からたっぷり味あわせてやるからさ」 ハルヒが性的服従を見せたことにより、膨張比の限界にまで差し迫ったそれを見せ付ける。ほうら、お前の大好物だぜ? 羞恥、憤慨、躊躇、その他の、俺の絶対的支配に不必要な感情を全て捨てたハルヒは、ぼうっとした光を瞳に浮かべて俺に縋るように立ち上がった。 26 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/30(木) 21:38:28.40 ID:It/eROJC0 「そこに手をついて尻をこっちに向けてみろ――ああ、そうだ」 団長席に手を着かせて、尻を突き出すような体勢を取らせる。俗にいうバックの体勢だ。 撓ったハルヒの肉付きの良い肢体は、まるで芸術品のようだった。男の挿入を待つような卑猥なポーズでなかったならば、 間違いなく有名博物館にこれと体勢が酷似した彫像が展示されるに違いない。どれほどの価値が付加されるのかは予測し得ないが、 ヴィーナスやウェヌスの像のそれを軽く超えることは確実だろう。手を小刻みに震える双肩にそっと置く。 すると俺の腕の尺の関係から、必然的に下半身の愚息がハルヒの股に差し込まれる具合になるのだが、それは挿入されることなく空を貫いた。 まあ処女のこいつの割れ目が大口を開けるはずもなく、「弾みで入っちまった」などという拍子抜けするようなことが起こりうるわけがないんだが、 当のハルヒはそれを処女貫通と勘違いしたようで「ひくっ」と喉を鳴らした。おいおい、幾らなんでも俺の気は処女相手に事前の打ち合わせもなく突貫工事するほど早くないぞ。 それに――今の反応でちょっとした遊戯も思いついたことだしな。 「ハルヒ、怖くないか?」 処女喪失に伴う痛みを慮った俺は、一瞬だけ仮面を外して問いかけた。破瓜の激痛を共感することができないのが悔やまれるね。 なんで俺だけがのうのうと快感を貪れて、ハルヒが一時的にとはいえ苦悶しなければならないんだ。 そりゃあ女は男に比べて性的感覚が数段上だと小耳に挟んだことはあるが、だからと言ってこの試練はあまりに不公平だと思う。 皮肉なものである。人類を創造したかもしれねえ神が――いや女神様か――自分の所為で理不尽な痛みを経験することになるんだからな。 だが俺は、その心遣いが如何に無駄で無意味だったかを刹那後に思い知ることになった。 「あたしは、あぁ、はぁ、だ、大丈夫だから、」 艶やかな声に溜息が出るね。ペルソナを拾い上げ、今度は出来心で外さないように接着剤で顔の表皮としっかりと接着する。 どうやら俺はハルヒの変態っぷりを過小評価していたようだ。目下、こいつの関心は破瓜という過程ではなくその先の至悦のみに向けられているようである。 肩を小刻みに震えさせていたのも、それに対する期待の所為だろう。折角ハルヒを宥めるための優しい言葉を模索していたというのに、全部脳内ゴミ箱行きじゃねえか。 「そうか、女の子特有のアレがあるから心配していたんだが――安心したよ、配慮なんて元より必要なかったみたいだな」 温和な口調を、語尾を至るまでに冷徹なモノに変質させていく。そして俺はしゃがみ込んで、ハルヒの尻肉を両手を押し当てるようにして開いた。 細かく皺が寄った排泄物を垂れ流すとは思えないほどに清潔な菊門と、濡れそぼった花弁が姿を露にする。俺が手をかけた瞬間に内腿を伝った液体が、 先程の潮吹きによる体液なのか、それとも新たに分泌された愛液なのか。それらの液体は、溢流元が判別不可能なほどに混濁していた。 55 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/30(木) 22:33:52.70 ID:It/eROJC0 肌に張り付いた水滴――愛液――を一滴たりとも零さないように啜る。女の子の尤も恥ずかしい部分を、真下からのアングルで舐めまわし、 それによって溢れ出した蜜をさらに舌で転がすという行為は、先の床でのクンニとはまた違った淫猥さを醸し出す。 猥褻の究境ともいうべき視姦と口淫に、俺はこの上なく酔っていた。時折、弛緩したのだろう、ハルヒはガクリとへたり込みそうになるが、 その度に俺の鼻先が陰部にめり込み、甘えを許さない。何時しか分泌量を増した愛液はまるでハルヒが失禁したかのように錯覚させ、 俺の性的興奮は想定ラインを易々と突破し限界値の中間辺りまでに肉薄する。近代心理学の父とされるフロイトは排泄行為と性欲の密接な関係性を 提唱していたが、俺はその説の正当性を実を持って体感している。フロイト先生、以遠、人生の師匠としてあなたを敬うことにします。どうかこれまでの軽々しい引用をお許しください。 「ぷはぁ……これくらいでいいだろ」 月光がテラテラと反射するほど内腿に潤滑油が拡がったのを確認して、俺は口を拭った。花弁は最早朝露ではなく、白雨に曝されたが如く水浸しだ。 これなら高速な抽出にも丁度良い摩擦を提供してくれるのではなかろうか。満足しつつ、先程思惑を廻らせていた排泄と性というテーマについて考えてみる。 今のハルヒなら俺の命令一つで場所問わずに失禁でもなんでもするだろうが、しかし後始末が非常に面倒である。情事の後に床の雑巾がけ及び徹底消臭なんてやってられん。 そういうのは今度、一緒に風呂に入ったときにでも実践してみるとしよう。俺は今しがたの立案が、常識的性癖から逸脱していることに自己嫌悪することもなく、立ち上がった。ハルヒの耳元で覚悟の是非を問う。 「挿れるぞ。本当に大丈夫なんだな?」 するとハルヒは俺に挿入される覚悟など数ヶ月前からの既定事項だとでも言わんばかりに、 「ふぁ……うん……キョンなら、どんなに乱暴でも構わないから……」 どんなに乱暴でも、か。自身の勝手など埒外だといわんばかりの、献身的というには自虐的という形容が似合う科白だね。 俺にはハルヒの情事中の心情を蔑ろにする思惑なんて存在し得ないのだが、此処まで言われると虐めたくなるのが道理だ。 寧ろハルヒが望んでいることなのだから、叶えてやるほうがいいに決まっている。俺はさっき偶発的に思い出した手法を徹底的に実践することにした。 それは本来妊娠を避けたりそれだけで快感を得るために行われる性戯なのだが――肉棒の確かな内部圧迫を欲しているハルヒには、最強の焦らしとなるのではないだろうか。 入りそうで入らない。求めている熱さが、身を焦がすことなくすぐ傍を掠めていくという恐怖と快楽のアンビヴァレンス。我ながら思う。俺は何処まで鬼畜なのだ、と。 「痛いかもしれないが、一瞬だけだからな」 俺は二度の射精を経ても尚、今までのそれを悠に越すほどに巨大化した男根を、ハルヒの割れ目にあてがった。ハルヒの双肩が、最初のスカしの時のように小刻みに震える。 69 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/30(木) 23:05:31.38 ID:It/eROJC0 俺は腰に手を回し、たっぷりと腰を引いてから、照準を定めて腰を突き出した。俺の亀頭が、脳に秘肉の微弾力と陰毛を擦る感触を伝える。 反射的にハルヒの両足が閉じられたが、男根が挿入されていないことに気付いたのだろう、ハルヒは「どうしたの?」といった困惑の面持ちでこちらに振り向いた。 俺はあたかも挿入に失敗してあたふたとする様を演じてそれに相対する。 「すまん、場所が分からなかったんだ。今度は上手くいくと思う」 これまでの手淫やクンニ、そしてその間一時たりとも中断されることのなかった執拗な視姦からして、俺が肉壷の入り口を把握していないことなど有り得ないのだが、 洞察力を含む全ての思考力が低下しているこいつがそれに思い当たるわけもなく、結果辺りを包む雰囲気は、初挿入の緊張感漂うものへと回帰する。 だがしかし―― 「あぁ、すまん」 俺の男根は何度突入を匂わせても、 「やけに滑るんだ」 実際にハルヒの処女膜を貫通することはなく、 「おかしいな、ちゃんと狙っているんだが」 ハルヒは次第に、焦燥感を感じ始めたのかこの極限の緊張感の味を占めたのか、甘い喘ぎ声を発するようになっていく。 かれこれ8回目の挿入失敗をカウントした時、俺は腰の引きを止めてハルヒに囁いた。 「どうだ、入りそうで入らないってのは?」 流石にここまでわざとらしく避ければ、こいつも俺の淫謀に気付いているに違いないからな。 「ん、はぁ……もっと、焦らして、下さい……」 「上出来だ。でもハルヒが自分で両足で俺のコレを誘導しつつ腰を動かせば或いは――入っちまうかもなあ」 137 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/31(金) 00:44:17.21 ID:NtCixdt90 多岐に渡る調教がハルヒの性的快楽の引き金を、無償の直接的刺激から、焦燥という代償を支払った後に得られる高密度の刺激にシフトさせたことを確信しつつ、 俺はハルヒに、禁断の希望的観測を抱かせることにした。幾らこのプレイの意義を理解していても、本能的な欲求を長時間抑えることは困難だ。 果たしてハルヒは、破瓜の痛みに対する恐怖心に打ち勝ち、己から腰を動かすことにより肉棒を誘導できるのか。実にいいね、これほど人間心理を逆手にとった興もないだろう。 「は、入らないわね、んっ、ふぅ、なん……で……」 直後、俺の肉棒の動きに合わせて微調整を試みてくるハルヒの腰。俺は腰をグラインドを続けながらも辟易した。まさかここまでとはね。堕ちたこいつにとっては、破瓜の痛覚さえもが快楽の増幅薬になるんだろう。 興冷めだな、と意気消沈しつつ、緻巧なハルヒの誘導を躱して絶妙の位置に愚息を捻じ込む。ハルヒの濡れた内腿に圧迫された俺のソレは、 ぬるりとした感触を両側に、柔らかな花弁の形を上部に感じながらそれらに摩擦を与え、与えられた。フェラとは違う確かな肉感に思わず喘ぎそうになる。 その時の俺は大層苦しげな表情を浮かべていたに違いない。俺とは違った趣向の苦悶に喘ぐハルヒは首を捻って振り向くと、 「挿れたかったら、あぁん、んふ、ぁ、挿れても、ふぁ、いいの、よ?」 多分こいつにとっては、俺が挿入欲を無理無理抑えて焦らしているように見えたのだろう。 確かにハルヒに突き入れたい衝動には先程から幾度となく襲われている。それにあと少し待ってくれと説得するのは、 延滞した借金を取り立てにきた強面の方々にお引取り願うほどに困難かつ危険な試みだったが、 こんな所で一時的な欲求に負けては、この先襲い繰る上位の荒淫欲に抗えるわけがない。俺はハルヒの申し出を断って、素股を続行した。 ただし、今までのように大げさな振幅はもうしない。これでハルヒに肉棒を膣内に誘導できる可能性は断たれたわけだが、 元より俺には現時点で挿れる気はなかったわけだしノープロブレムだ。万が一弾みで入ってしまったら、という危機感が消えたことにより、 素股はより大胆に、かつ高速になっていく。ハルヒは俺の意向を感じ取ったのか、挿入されるチャンスが失われたことに対して不平不満は言わなかった。 ま、少しでも反抗を見せればどうなるのか分かっていたからでもあるだろうし、そもそも荒くなる喘ぎがまともな発声を許してくれなかったからという理由もあるだろう。 俺は太股の締め付けによって摩擦力が上昇したことを感じて、それに応じるべく愚息を花弁に押し付けるような角度に微調整した。 たったこれけでも得られる快感はレベルアップするだろう。若干実挿入の危険性が高まるが、俺の動きには数ミリの誤差もない。 「んんんっ、そこっ、だめぇえぇぇ!!」 的確なコントロールでハルヒの淫核を、カリ首でもぎ取るように引く。通常状態ならば一瞬で外れてしまうその引っ掛けも、 ハルヒの太股によって固定化された愚息はズレることなくカリと淫核の塑性が限界に至るまで鋭い摩擦を与え合った。 そして淫核と壮絶な引き合いを愉しんだ後、カリ首でひくついた”下”の唇とキスをする。触れ合うだけの、奥を犯さないキス。 それを繰り返すたびに、ハルヒは”下”でのディープキスがしたくてたまらなくなってきたようである。喘ぎ声を押し殺してのおねだりが始まった。 152 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/31(金) 01:25:51.35 ID:NtCixdt90 「んっ、ん、ふぁぁあ、キョン、もう、あた、し……ぁあぁぁ!!」 ハルヒの告白が核心部分に触れる直前に、緩めていた素股の速度を一気に上げる。それによって湧き上がる嬌声は、紡がれるはずだった言葉をかき消した。 真の快楽を得たいのならば、素股と言うなの擬似挿入をやめて本番に移行したいのならば、ハルヒは完全な形でおねだりをしなければならない。 それが、俺とハルヒとの間に横たわる暗黙のルールだった。 「……はぁっ、あ、我慢、できないのぉ、んんっ」 途切れ途切れに耳朶を触れるおねだりの声はどれもこれも不完全だ。 何故 何を 何処で どうして欲しいのか 時勢を除いた4W1Hが成立していないものは、おねだりとは見做されないのである。 つまり模範解答は「我慢できなくなったので肉棒をあたしの膣内に挿入してください」なのだが、果たしてハルヒに全て言い終えることはできるのだろうか。 スパンキングの緩急強弱の転換をフラットにする気は毛頭ないものの、ハルヒに羞恥の障害が消えているとはいえ少しばかり心配になってきた。 あとどれくらい俺は素股を続けりゃいいんだ? 「やぁあっ、もう、ダメ……イっちゃ、う、ぁあんんんっ」 この調子ではハルヒが絶頂を迎えてしまうまで素股を続けなければならないと危惧した俺の脳内で、緊急会議が設置された。 議長はいない。時に相反し、時に同調する複数の意思が平等に発言権を持っているのだ。 「さっさと突き入れるべきだろう。限界は近いんだし」 急進派(なんだか情報統合思念体みたいだ)が挿入案を推す。 「だが今までの調教はどうなる? ここで舐められては今までの苦労が水の泡だぞ」 鬼畜派が反論する。確かにそれはこれまでの過程を反芻するに合理的な意見だった。 不完全なおねだりで易々と報奨を与えては、ハルヒに植えつけた献身欲が損なわれてしまいかねない。喧々囂々となった議論は、収集がつかなくなるかに思えた。 しかし第三派の一人が、相反する二派が思わず首肯してしまうような妙案を出したことにより、議会は突如静寂を取り戻す。 「挿入時に別種の責めをすればOKだ。一つ提案なんだが、挿入時にだな――」 294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/31(金) 18:44:19.18 ID:NtCixdt90 各意思が満足げに頷き議会が閉会と相成ったのを見届けて、俺は腰を静止させた。 ハルヒが身を捩じらせながら此方を窺う。双眸に潤ませる熱い雫と半開きになった口から零れる涎が、素股による不完全な快感に辛抱の限界が来ていることを教えてくれた。 「次は本当に挿れる。嘘じゃねえ」 俺は真剣な眼差しで言い切った。挿れる挿れると宣言してはのらりくらりと膣口を躱し、果ては挿入を匂わせることなく素股にシフトチェンジしていたが、 一年半俺と共に時を過ごしてきたハルヒなら、今の言葉が固い決意とともに発せられたと察しているはずである。 ゆっくりと腰を引く。動揺から不安へ、不安から期待へと目まぐるしく表情を変転させたハルヒは、団長席にしがみ付き直し、 艶腰を差し出すように、まるで自分の女性器が俺の所有物であると明言するかのように突き出した。 いざ処女膜貫通を執り行うに至って俺の脳裏に過ったのは、処女を奪うにはどういった体位が最適なのかという中庸を保つ性格故の疑問だった。 成り行きで、つーか俺の独断でバックで初挿入ということになってしまったが、正上位がポピュラーが最も一般的という考えは振り払えず、自分達の状況が極めてマイノリティな部類に属すことは否めない。 素股でたっぷり焦らした後におねだりをさせて挿入する男と、激痛の痛みに微塵に恐怖することなく催促の仕草を見せる女。そしてその肉体干渉に、避妊具は存在しない。 前言撤回だ。極めて稀な状況どころではない、こんな初夜を過ごす高校生は全国広しといえども俺たちだけだろう。 「行くぞ……?」 「ぁ……うん」 過剰にモノローグを挟んで果てしなく高揚した気持ちを落ち着かせた俺は、先程議会で満場一致の内に決定された”案件”を反芻した。 大丈夫だ。ハルヒに挿入後、忘我のままに荒淫に耽ったりすることはねえ。にしても、さっきの「うん」という歓喜に震えた声を聞いたか? 十中八九、こいつは俺が自信の性欲に敗北したとでも希望的観測をしているに違いない。はは、失笑を禁じえないね。 完璧なおねだりもなしにお前に御褒美が貰えると思ったら大間違いだ。俺がこれからお前に与えるのは――一時の快楽とそれと得たことを後悔するくらいの責め苦なんだよ。 俺は快楽の波に飲み込まれないようにと歯をくいしばって、渾身の力で腰を突き出した。ヌル、という秘肉の感触、そして―― 「はあ、ん、あぁぁぁぁあぁっ!!!!!」 317 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/31(金) 19:49:00.26 ID:NtCixdt90 苦悶の叫喚と言うよりは、嬌声をそのまま拡大させたような絶叫が文芸部室に反響する。 校舎全体にまでとはいかぬものの、部室棟の二階の廊下とフロア全てに響き渡ったことはまず間違いないだろう。 がしかし、それによる弊害――用務員等に感づかれる――を案じている精神的余裕はなかった。 ハルヒの花弁を押し開き、到底異物の侵入を許すとは思えぬ膣口を突き破っていくごとに強くなる締め付けが 俺の愚息を四方八方から圧迫し摩擦し、強烈な快感をダイレクトに伝えてくる。 フェラと比較不可なほどの快楽に、俺の脳は物理的に殴られたかのような衝撃を受けてフリーズ寸前だった。 しかしそんな這這の意識に追い打ちをかけるように、ねっとりとした朱の液体が愚息の付け根と腿を伝い俺の視神経を刺激する。 素股によって泡立っていた白濁の愛液と血液は、まるで絵の具を混ぜ合わせるような、初めから混ぜ合わせると想定されていたかのような親和性で 融け合い、一つの色を作り出した。ポタリ、と床に飛沫したそれは、鮮やかな赤味の強いピンク。 此処まで官能を揺さぶる色彩があっただろうか。いや、ない。そんな慣れぬ反語を使うくらいに、俺の意識は葦乱していた。 恥ずかしながら声高に「ハルヒに最高の責め苦を与えてやる」と豪語していた割には、自制心を辛うじて保つのがやっとだ。 「はあぁ、あぅ、んっ!!」 どんなに処女を失うことに怖れがなくとも、神経系は独立し忠実に外部からの刺激を感受する。 息も絶え絶えに背中を反らせるハルヒを見るに、屹立怒張した肉棒という異物を一息に捻じ込まれ、破瓜された膣内は悲鳴を上げているようである。 尤も、それが歓喜による悲鳴なのか、或いは許容限界を超えた激痛による悲鳴なのかを判別することはできなかったが。 「大丈夫……か?」 ぎゅっと手を握り締め、肩をわなわなと震わせて上半身を反り上げたハルヒは遠目に見ても大丈夫そうではなかったが、聞いてみる。 弁明したところで信憑性は毛ほどにもないかもしれないが、俺が如何にサドスティックに目覚めていようと、悶絶するハルヒを尻目にピストン運動を開始するほど鬼畜ではないのだ。 「ああぁ、ふ、ぁ……キョン……」 痛みに慣れてきたのか、膣内の急激で執拗な締め付けが解かれていく。良くこの圧迫に耐え切れたなと己の強靭な精神力を激励していると、 ハルヒは漸く先の質問に答える素振りを見せた。ゆっくりと首を捻り、ハルヒの顔が露になる。……思わず絶句したね。やれやれといった常套句を吐く気にもなれない。 双眸から頬を伝う幾粒もの雫や戦慄いた唇。これらは想像に難くなかった。むしろ瞬間的な破瓜を経験すれば当然の反応だろう。 俺が驚愕のあまり愚息を引き抜いてしまいそうになった理由、それは――ハルヒの表情が苦悶と対極に位置する悦楽の先、絶頂時のそれであったからである。 331 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/31(金) 20:38:53.62 ID:NtCixdt90 ああ、認めるぜ。俺は完璧に誤算していた。しかもそれは演算以前の基層部分、式の組み立てで行われたケアレスミスだ。 片手で数えられるほどに脳にインプットされている性交例データを取り上げてみるに、挿入以前の快感は通常、破瓜の絶対的な痛覚によって身を潜める。 そして痛覚が収まり、摩擦運動に膣内が堪えられるようになって、再び真の快楽という形となって痛覚を圧倒するのである。 だが、それは飽く迄常識的思考、常識的肉体を持つ人間のケースでしかない。それがハルヒと言う常識の型がもっとも当てはまらない、 というより全てのベクトルがそれと逆向きな非常識人間で、初夜とは思えぬほど多彩なプレイで焦らされているとなっては、 それらのデータを検証し現例と符合させるといったプロセスは最早無意味である。まったく、何故こんな初歩的なことを失念してしまっていたんだろうね。 まあ、責め苦の直前に与えるはずの一時的快楽と激痛が、よもやハルヒの絶頂ボルテージの上昇に止めを差すことになろうとは誰にも予想できなかったに違いないのだが。 「そろそろ動かすぞ。いいな?」 抑揚をつけずにそう言い放って、俺は愚息を、痙攣する膣内から鈴口の手前辺りまで出した。 挿入前よりも赤黒くなった生々しいそれは急激な締め付けを受けて尚屹立して頼もしかったが、俺の頭の中に蔓延る陰鬱は中々消えちゃくれなかった。 後悔先に立たず、か。古人もよくいったもんだ。思えばハルヒの強すぎる締め付けで気付くべきだった。確かに初挿入でキツイのは当たり前だが、 あの絡みつくような圧迫感は絶頂による膣壁の煽動でしかありえない。もし相当な覚悟を決めて突き入れていなかったら、俺は初挿入と共に射精という醜態を曝していたのではないだろうか。 「はぁ、んっ、気持ちいい、キョン、もっと、頂戴、んんっ」 催促の言葉に我に返る。さて、痛みを物ともせずに快楽を強請る、「歓楽きわまりて愛情多し」といった慣用句が適用外のこいつを、どう虐めようかね。 不本意ながらも絶頂を迎えさせるという最高の御褒美を与えてしまったわけだが――愚息を制止させたまま思惑を廻らせる。 結論から言おう。俺は溜息を一つ吐いて先の失敗を忘却することにした。まだ議会で採用された策は実用可能なわけだし、ここからどう事を運ぶかが俺の腕の見せ所である。 「ひあっ、あんっ」 俺の微細な動きにも反応するハルヒを見やりながら、俺は極めて遅々とした速度で愚息を突き入れた。 しかし亀頭が埋まりきったところで、その挿入を中断し、また元の地点まで引き返す。要するに手前で愚図っている状態だ。 鑑みるにハルヒは数秒もしない内に―― 「キョン、んっあたしはっはぁ大丈夫、だから……」 353 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/08/31(金) 21:29:11.63 ID:NtCixdt90 ほうら、俺が描写しないうちに科白を言ってきやがった。恐らくハルヒは、俺が破瓜直後といった理由で躊躇っていると思っているのだろう。 だがそんな躊躇など俺にはもう聊かも残留していない。俺は緩急強弱をつけることなく小刻みな往復を続けた。 「なんか、っん、キョンらしく、ないっ、」 蹂躙されたことのない敏感な粘膜は、単調な刺激にさえも過剰に反応する。だがそれは人によって齎される変則的なモノではなく、 自慰行為のそれに近い。ハルヒは今でこそこの感覚に満足しているだろうが、徐々に上位の悦楽に手を伸ばしたがるようになるだろう。 肉壷の奥を掻き回すような、乱暴なピストンを欲するようになるはずだ。 「巧遅は拙速に如かず、っていうだろう? 何事も初めはゆっくりが肝心なんだよ――」 白々しくならないよう俺の演技力を最大限に活用して「行為の円滑性のためだ」と主張する。喘ぎとともに投げかけられていたおねだりは鳴りを潜めた。 ハルヒと俺、二人が気持ちよくなれるようにこの行為を続けているという建前を、ハルヒは自分勝手な意思のみで崩すことができないからだ。 幾ら待てども切望している深さに到達しない肉棒。しかし前回の時の様におねだりをすることはできない、否、許されていない。 焦らされた挙句、おねだりをしても一見合理的な詭弁で反論されて行動を起こしてもらえない。ハルヒは、更に深淵となった奈落の底で悶えていた。 「はぁっ、ねぇ、もう、そろそろ……んんっ、」 「まだダメだ、もっと潤滑に動けるようにならないとな」 ぷるぷると震える尻肉を掴み、形を変えて弄ぶ。傷一つ、染み一つないそれは、豊胸とはまた違った弾力を手平に伝えてきた。 時折無意識下でだろうか、ハルヒの艶腰が俺の肉棒を包み込もうとせんばかりに突き出されるのだが、それを押しやって行為を続行する。 考案当初は砂上の楼閣にも思えたそれは、しかし意外にも長時間ハルヒを苦しませる結果となった 「キョン……お願いだから、はぁ、んんっ!!」 俺の高度化している挿入テクが主な要因である。ハルヒが本気で懇願しそうになったところで、俺は絶妙の匙加減で埋没度合いを上げる。 すると一度無理矢理開門された後閉じられていた膣壁に再び亀裂が入り、俺の完全挿入を予感させるのだ。たったこれだけで、ハルヒは嬌声を上げた。 そして次からの小刻みな往復は、度合いを上げたままで再開する。これによって俺は、ハルヒを焦らすという目的を達成しながらも、 愚息を中間地点まで飲み込ませていった。ハルヒの嬌声と呼応するかのように煽動する膣壁は、例えるなら千万無量の魔手だ。 もちろんのことその魔手の持ち主は、黄色いカチューシャをつけた俺の完全挿入を誘う淫魔である。 400 名前:アナル描写 不十分かな…?[] 投稿日:2007/08/31(金) 23:10:09.75 ID:NtCixdt90 吸い付くように肉棒を嬲る淫魔たちは、挿入よりも射精を促すように俺の鉄壁の意思を剥がしにかかった。だが、俺がフェラ以上の快楽を想定していないと楽観的思考をした睡魔たちは後悔することになる。 俺は至極冷静に、その淫魔たちの動きを止めた。といっても、直接的に嗜めたわけではなく、すっかり何処かに置き去りにされていたハルヒの羞恥心を、 一時的に復帰させることで間接的に意識を其方にむけたのである。ま、俺の制欲限界時間は延滞の努力をしなくともそれなりに残されていたわけだが。 「お前、綺麗な肛門してるよな」 ハルヒの菊門の皺を一筋一筋数えるように指を這わす。愛液で濡れていたそこには、軽く指圧を加えるだけで 指一本ならすんなり入り込んでしまいそうだった。途端、焦らしに悶える喘ぎに羞恥の色が混じる。 「そ、そこはぁっ、だ、だめぇ……んっ汚い、から、あぁんっ」 流石に菊門を嬲られることには抵抗があるか。身体を清めていないので清潔でないことは確かだが、 ハルヒの菊門はそれを忘れてしまいそうなほど艶やかな桃色に色づいていた。腰を動かしながらアナルセックスについて思案する。 性的快楽は粘膜があれば何処でもOKだという話を聞いたことがある。ふむ、次回の調教ではアナルを拡張してみるとしよう ――っていかんいかん、俺はそこまで変態属性を極めたわけじゃないぞ! 出来心だ、出来心。 俺は名残惜しそうに指で菊門を一撫でし、 「ひあぁあっ、んんっ」 きゅむむと締まる様子を見て満足することにした。 同時に二つの淫部を刺激するほど俺のスキルは熟練されていないし、目下の目標は達成されたわけだしな。 菊門を撫でたときには愚息をきゅっと締め付けたものの、ハルヒはその後ずっと俺に菊門を曝していることに羞恥を感じるようになったのか、 中途半端に煽動する肉壁は、圧迫を若干弱め、俺の愚息の侵入を容易にした。淫魔も攻撃の手を休め、休憩タイムを取ることにしたようである。 朱が差した項を見つめて、俺は何の前触れもなく愚息を今までの深さの1.25倍くらいまで突き入れた。 突然の侵入に面食らったのだろう、膣内は反射的に激しく煽動する。そしてハルヒはというと、 「はぁあぁっ、ダメぇえぇっ」 お前に羞恥を感じて安息する暇なんてないんだよ。そんな感情は捨てたはずだろう? 俺は自分で羞恥心を引っ張り出して恥ずかしがるなとは矛盾しているな、と自嘲しつつも、嗜虐的な笑みを浮かべた。 437 名前:ふんもっふ[] 投稿日:2007/09/01(土) 00:08:23.81 ID:Ee826xGK0 だがその時の俺は気付いていなかったのだ。嗜虐欲を満たすことに気を取られているうちに、 何時しか亀頭分の挿入幅が、ハルヒの子宮をノックするまでに拡がっていたことに。コツン、とした軟質の感触。 それが触覚が鈴口から脳に「子宮」だと伝達するよりも早く、ハルヒの肉壁は本領発揮といわんばかりに俺の愚息をぎゅうぎゅうと締め上げた。 「やっ、はぁぁああぁぁんっ!!」 間違いなく子宮に肉棒が衝突したのが原因だろう、一瞬遅れてハルヒの歓喜の絶叫が耳に届く。俺は本能的に危機を感じて、 必死の覚悟で愚息を引きずり出そうとしたが、淫魔はまるで肉棒の動きを、いやその持ち主の身体を掌握する煉薬を膣内でぶちまけた様で、 「うあっ、くっ、ハルヒ、待て――!」 俺の身体はピクリとも動かず、やがて抵抗する俺の意志の真逆を反映した。単調な反復が変則的に、フラットだった勢いがが緩急強弱という技巧を得て、挿入を再び開始する。 そして愚息は、今までの交わりがお遊びだったとでもいうように膣内を手当たり次第に荒らし始めた。 「んっ、んっ、んふっ、んんんっ!!」 徐々にスパンキングが強くなる腰動に比例するかのように、ハルヒの嬌声は激しさを増す。 そしてそれは俺も例外ではなく、先程までのハルヒを弄ぶ余裕が嘘のように霧散し、今では喘ぎを抑えるのがやっとである。 俺は痛いほどに充血した愚息から伝わる快感を堪えながら、頭の端で思い知っていた。 ハルヒを虐げたときに湧き上がった精神的悦楽や、フェラや素股などでの物理的快感。それらは、ハルヒの持つ性的魅力の氷山の一角でしかなかったのだと。 まるで俺のペニスと合致するように創られたとしか思えないほどに隙間のない膣内は、俺が愚息を出す度にまるで男根から亀頭の先端までを搾るように煽動し、 引く度にまるで一時たりとも離さないとでも言うかのようにカリに肉襞を絡みつかせ摩擦させた。 ぎこちなかった歯車が噛みあったかのように、俺の肉棒の大きさを測り終え最適の膣運動を解析したとで言わんばかりに、数倍に増幅された快感が無防備な俺を強襲する。 「くっ、不味いな、うぁっ……このまま、じゃ……」 秋の早朝に立ち込める濃霧のように、白い靄は俺の思考を席巻していった。そしてそんな切迫した俺の意思をよそに、 本能よりもさらに深い深層意識に眠る原始的欲求が、ぼんやりと、しかし確実に輪郭を伴って浮上を開始する。 一度でも制欲心を原始的欲求――膣内射精をしたいという欲求だ――が凌駕すれば、それはもう閉鎖空間で暴れまわる神人の如く手がつけられないに違いない。 荒淫の限りを尽くし、ハルヒと共に底知れぬ快楽に溺れてしまうのではないだろうか。俺にはそんな確信めいた予感があった。 467 名前:修正ver[] 投稿日:2007/09/01(土) 01:17:49.76 ID:Ee826xGK0 肉と肉がぶつかり合う音が、耳の奥で弾けては消える。ぐちゅぐちゅといった水音は、すでに形容しがたいほどの淫猥さを帯びていた。 俺の語彙力の限界だ。強いて言うなら、発酵物質を掻き混ぜて二つに分けたものを、擦りあわせて発生する音と言ったところだろうか。 ハルヒの奥に到達し、子宮口に衝突する度にハルヒの身体は揺籃する。それによって辺りに飛び散る汗や愛液もさることながら、 ぶるんぶるんと前後に揺れる乳房はまるでハルヒから独立した生き物のようで、俺の雲煙過眼を決め込んだ視軸を問答無用で引き寄せた。 微妙な位置で浮き上がったそれに付属した赤粒は、机から完全に距離を置くことなく、時に押し付けられ、時に擦られている。 ハルヒの容態の判断材料は、ハルヒが顔をこちらに向けていない(というより向けられない)今、嬌声で推し量るしかないのだが、乳首への刺激は至極順調に快感を相乗させているみたいだね。 「キョン、んっ、あたし、もうっ――!!」 だが、ハルヒが悦楽に浸れば浸るほど膣圧は増大し、俺の肉棒に更なる快感を与えてくるわけで。冷静な体面を取り繕えなくなるのはもう時間の問題だろう。 俺は風前の灯的様相を呈している思考を繋ぎとめながら、最後にハルヒに味あわせる責め苦を何にしようかと思索した。こんな状況でそんな愚考はやめろ見苦しい、と軽蔑の眼差しで俺を見る方もいるだろうが、 ずっと顔面に張り付かせていたペルソナを終に引き剥がすのだから、素面の俺が到底真似できない加虐を最後にしたところで誰からも文句は言われないはずである。 「ん、ハル……ヒ……はぁ、何処に精液欲しいか……もう一度、言ってくれないか……」 都合の良いことに自動的に激化していたスパンキングが緩和される。ハルヒはほぼ意識を保てて居ない状態なのだろう、抑揚のない声で、しかし感情を籠めた声ではっきりと断言した。 「はぁああっ、あたしの、んっ、ふぁあ、あたしの中に、下さいっ!!!」 男として、膣内射精を容認してもらえるほど名誉なことはない。俺はハルヒの返事を一言一句完璧に予想していたが、 やはり実際に言の葉が耳朶に触れると異様なほどに気分が高揚し、興奮した。堪らないね、最高だ。だが―― 「断る。もし妊娠したらどうするんだ? お前は責任持てるのか?」 俺が精一杯の演技で搾り出した残酷で冷酷無比な一言は、至高の喜悦を待ち望んでいたハルヒを瞬間的に奈落の底へ突き落とす。俺はビクッと跳梁したハルヒの姿を見て罪悪感を覚えた。 う、ちょっと度が過ぎたかもな。ハルヒが慟哭しない内にと、俺はハルヒを覆いかぶさるように抱きすくめて懺悔の科白を囁いた。これで帳消しになるとありがたいんだが……ハルヒは赦してくれるだろうか。 「嘘だよ。お望みどおり中に出してやる。もし子どもができたら――その時は俺とお前で大切に育てよう。俺は絶対に逃げたりしないから」 ハルヒが歓喜に震えながらコクリ頷いたのを見届けて、俺はサディストのペルソナを粉々に砕いた。刹那、先刻からひっきりなしに交代を迫っていた原始的欲求が、俺の意識を覆い尽くした。  670 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/01(土) 20:31:03.42 ID:Ee826xGK0 「―――ッ」 曇りの取れた硝子のようにクリアな瞳で、俺は眼下のハルヒを見つめた。腰が衝突するたびに、肉棒が埋没するたびに呻くハルヒは、ただ綺麗だった。 純粋に溢れたその感情には、一滴も余計な感情は含まれていない。深い後悔の念が、俺を只管に責めていた。 俺は何故、この衝動を遠ざけ、またそこに至ることを迂遠させていたんだろうね。あんな仮面、もっと早く廃棄処分しておけば良かったのさ。 腰のペニスの向きを鋭角的にして、膣壁の手前部分から奥までの肉襞を根こそぎこそぎ落とすかの勢いで突き入れる。 緩急強弱、挿入間隔といった微調整はすでに意味を成していなかった。疾く、強く。それだけを念頭に置いてグラインドを続ける。 「んっ、んっ、ふぁ、ぁぁあぁぁっ」 俺の摩擦熱とハルヒの上昇する体温で加熱された溶解炉は、まるで何もかも溶かしてしまわんばかりの快感の炎で愚息を舐めた。 鈴口、亀頭、カリ首、裏筋――それら全てを同時に責められ、強烈な電流が背筋を駆け抜ける。だが俺の意識は依然クリアなままだった。 射精を許可されペルソナを剥がした瞬間に、俺の心にストッパーが掛かったかのように、興奮のボルテージが上昇を急停止したからである。 が、それは俺の精神的負荷の軽減によるもので、ハルヒの膣内の快感が飽和状態に達したからではない。 俺が子宮をノックすればするほど、ハルヒの肉壁は煽動を多彩に、強烈にしていった。際限なく高まる収縮率よって 与えられる結合感に、俺は感涙してしまいそうなほどの幸福感と快感を覚えた。そして俺の情動はハルヒと密接にリンクしているようで、 「んっ、あぁぁ、はぁっ、キョ、ンっ、んんっ、キョン――!!」 俺の渾名――こんな時でも本名を呼ばないのは、それほどこの響きに親しみを持っているのだろう――が、ハルヒの喘ぎ声に乗せられて俺の耳朶を擽った。 情事の最中に俺の名を、切なげに、愛しげに呼ばれるというのは、是ほどまでに心地よいものだったのか。 熱いキスをしてやりたくなるが、バックではそれが不可能であり、また今更体位を変更できないことを知って、 俺は数刻前の俺自身に殺意が芽生えた。焦らし? 羞恥プレイ? そんなもん糞くらえだ。普遍的だろうが、一般的だろうがどうでもいい。 例えハルヒがバックといった初夜にしては特別な体位を切望しようとも、俺は正上位でハルヒを抱いてやるべきだったのさ。 多重人格を保持しているのかと疑いを掛けられても反論できないほどの自論の変転ぶりに、困惑される方も少なくないだろうが、 この時の俺には、ハルヒを大切にしたいという思いが加速度的に膨れ上がっていた。早い話が錯迷に近い独占欲である。 悦楽に浸りたいなら俺が何時までも浸らせてやるし、無我夢中で快感を貪りたいのなら無限に提供してやる。 俺は、そんな自分が絶倫でもない限りできない荒唐無稽なことを、本気で実現させてやろうと思っていたのだ。 712 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/01(土) 21:41:29.33 ID:Ee826xGK0 だが現実ってのはTPO問わず平等に厳しい。刻々と耐久ゲージを減らされている愚息は、俺が僅かに気を逸らせただけでスペルマを吐き出してしてしまいそうだ。 幾ら過大評価しようとも、俺が持っているのは何十という射精に堪えうる逸品ではなく、精々後一発で萎えきってしまいそうな巨大な木偶の坊であった。 この役立たずめ、と詰ってみるものの、 「ん、キョン、っあふぁ、ひぅんっ、キョン、ぁ、んん!!」 ハルヒを悦ばせるには十分な長さと太さを持っていたようなので、一重に卑下するすることもないだろう。寧ろ此処まで良く頑張ったと褒めるべきなのかもしれない。 それに――目下、俺が集中すべきは自虐ではなかった。最後のラストスパートをかけるかのように、ハルヒの肉襞の淫魔たちが搾取の手を強めてきたからである。 まるで無数の羽虫のように纏わりつき、射精を遷延させまいとする千万の魔手を、愚息を半ば強制的に躍動さえて振りほどく。 それから、オルガスムスにまであと一歩のハルヒと精神力が枯渇寸前の俺は、一進一退の攻防を続けた。信じられないことに、絶頂間際での膠着状態が生まれたのである。 「はぁっ、あぁっ、キョン――ふぁぁぁあぁ、んっ!!」 「うぁ、ハル……ヒ……ぐ、ぁっ」 文芸部室に響く嬌声と喘ぎ、肉と肉の衝突音、水音――。 独立しているかのように思えるそれらは、やがて一つに交じり合い、融けあっていく。 それはまるで、エンドレスリピートされているというよりは、終止線が描かれていない未完の喜遊曲。 混濁した意識とは無関係に、腰が突き出されハルヒを貫く。そこから沸き上がる快楽に、さらに強烈な一撃を捻じ込む。 幼児の遊戯と思えるほどにシンプルな動きは、しかしその比喩を根底から覆す複雑な情動で俺とハルヒを包み込む。 果てしなく気持ちいい。ずっとこうしていたい。快楽に浸りすぎてふやけた思考は、そんな我侭を口にして溺死した。 このまま決定打がなければ、終焉は永遠に訪れないのではないか。 「っあぁ、ふぁあ、ん、……キョン?」 ハルヒの呼ぶ渾名に控えめの疑問符がつけられたのは、俺がそんな儚い幻想を抱いた、その時だった。 「っく、なんだ、ハルヒ?」 食いしばった歯の隙間から声を絞り出すようにして応える。リクエストか? いいぜ、お前が所望することならば、何だって叶えてやるよ。腰の前後運動は緩めずに、俺はハルヒの言葉を待った。 728 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/01(土) 22:36:16.48 ID:Ee826xGK0 「んんっ、んっ、あ、あたしね、あたしっ、」 断続的な快感に語尾が跳ねる。静止する事は無理だろうが、せめて快楽の波を穏やかにさせてやることならできるのではないだろうか。 と、俺がそんな到底不可能なことを考えた刹那、ハルヒは必死にその言葉を紡ぎだした。 「すごく、んっ、はぁあ、ぁあっ、幸せ、なの……っ!」 瞬間、全身の血液が沸騰する。ハルヒが紡いだ「幸せ」という言葉に筋肉が弛緩し、直後一気に引き締まる。 するとどうだろう、すでに限界を彷徨っていたペニスの出入速度が、これまでの疲弊が吹き飛んだかのように加速した。 ハルヒの波打つ尻肉が、スパンキングが強化されたことを物語っている。もし血液検査をすれば、俺の血中から大量のアドレナリンが検出されるに違いない。 「ぁっ、んぁ、ハルヒ――」 無意識下で口が開かれる。腰より下の感覚がほとんどなくなっている状態で、快楽のみがパンク寸前の脳に送られてくるが、 死んだも同然の俺の意識はそれに応えることができなかった。射精したい。ただそれだけを考えて、獣のようにハルヒを犯す。 「――俺もだ、俺も、ぁ、お前を、――」 俺は、交際し始めて24時間経っていない内に使用される睦言にしては、かなり上位に位置する言葉を口にした。 尤もそれは、性交の果てに妊娠許容宣言までした俺たちにとっては矮小すぎる愛の言葉であったが。 「――愛してる」 がしかし、俺の今更ながらの言葉に、ハルヒが深く感動しているのは間違いない。俺を抱きしめる代わりに、ぎゅっと肉棒を締め付けた肉壁と、 嗚咽の混じったような嬌声がそれを証明しているからだ。分かるぜ、お前に幸せと言われたときに俺が感じた温かい気持ちが、今、お前に流れているんだろう? 「はぁっ、キョン、あたし、もう、っぁ、もう、我慢、できないっ、んぁああっ、んんっ」 とっくに使い物にならなくなっていた意識が、純粋な白に染まっていく。前回、前々回の時の貧弱な愚息ではとっくに射精している快楽の渦の中で、 一心不乱にハルヒを犯すことによって長時間堪えていた愚息だったが――どうやらもう、淫魔との絡み合いにも終止符が打たれる時が近いようだ。 795 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 00:18:53.20 ID:dYEFn7zp0 俺は渾身の力を振り絞り、ハルヒの両胸を下から抱え上げる。突然の浮遊感の所為だろう、「ひゃぁんっ」と驚いた声を上がったが、 それを無視して俺の肩の高さ辺りにまで持ち上げ、腕を交差させて固定する。俺はペニスの向きが、淫核の丁度下の部分――Gスポットに向いたのを確認して、 最後の高速ピストン運動を開始させた。膣内を掻きまわすのではなく、その一点のみを集中的に擦り、突き上げる。 「あ、んっ、あんっ、あはぁ、んんっ!!」 両腕から伝わる柔らかな感触、眼前で踊る白い項、絶叫に近いハルヒの嬌声、鼻腔を擽るハルヒの汗の匂い。 味覚を除く五感を煽るはずの要素は、しかし俺の脳に届くことはない。ハルヒの体を持ち上げることによって 包み込みから、挟撃に重点を置いた煽動に嬲られる愚息から伝わる触角だけが、俺とハルヒを結ぶ全てだった。 そして――待ち望んだ、ある意味では何時までも訪れて欲しくなかった瞬間は訪れた。不可視だったはずの喜遊曲の終止線が、輪郭をつけて具現化する。 「あぁっ、んんっ、キョンっ、はぁ、んっ、やぁああぁあぁぁぁあああっぁぁぁ!!!!」 押し寄せる快楽の津波に先に飲み込まれたのは、ハルヒの方だった。しかしそれを傍観する間もなく、波は俺を飲み込んでいく。 オルガスムスに達したハルヒの膣内は膨張比の限界に達したペニスに最後通告を突きつけた。そしてペニスが首肯する間もなく、まるで原型を留めぬほどに押し潰すと 言わんばかりに、淫魔が得物――肉襞――でしゃぶりつく。その激痛と紙一重の至悦の快感は、瞬時に脳髄をショートさせて五臓六腑に染み渡った。 「あ、はぁ、ハルヒ、うあぁああぁぁぁぁああぁあっ!!!」 その刹那、俺の精嚢は何処に溜め込んでいたんだと四次元的何かを予感させる量のスペルマを吐き出し、それらは射精官を駆け抜けて、 ハルヒの膣内に迸る。まるで十数年の密室監禁から解き放たれたような開放感と、爽快感。 結合部が癒着し、融合してしまったかのような一体感に、言葉はおろか、呼吸することさえままならない。 ぴったりと重なった鼓動と連動して痙攣を繰り返す俺の愚息は、絶頂を迎えて尚魔手を緩めようとしない淫魔へのせめてもの抵抗のようでもあった。 それが原因なのか、長時間射精感を抑圧していたのが原因なのか定かではないが、俺の射精は俺が経験したどの射精よりも長かった。 「あぁぁ、あ、はぁあぁっ、」 下半身の神経系は脳の命令を悉く無視し、俺はハルヒと繋がったままくずおれた。なんとか足を柔らかく折り曲げて衝撃を殺す。 依然身を逸らせたまま、絶頂の余韻に熱いと息を漏らすハルヒは、自他共に完全に見失っているようである。 俺がハルヒを背後から抱きすくめ吐息同様に熱い体温を感じていても、ハルヒは些細な反応も見せずに、ただ肩を上下させるのみ。 818 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 01:04:21.66 ID:dYEFn7zp0 どれくらいそうしていたのだろう。俺は腕を解いてハルヒを床に降ろし、一滴残らず精液を吐き出し、萎縮しきった愚息を引きずり出した。 「ん、ふぁっ、はぁ」 抽出時に擦れた所為だろう、ハルヒが先の絶叫に比べれば囁きに聞こえるほどの声で喘ぐ。 赤黒く脈打った全盛期が、まるで幻だったかのように情けない姿となったそれに視線を向けないようにして、俺は深呼吸した。 「っはぁ、はぁ、はぁ――」 ある程度呼吸が整ってきたところで、周囲を見渡してみる。 そして俺は、あらゆる物体が静逸を取り戻したはずの文芸部室内で、唯一その法則に従っていない異端を発見した。 ハルヒの破瓜の血液と愛液に塗れた秘肉を伝う白濁。それはハルヒが膣壁が痙攣させるたびにとぷとぷと溢れ出し、紅潮した腿に白い道を作っていた。 加わって、紅潮した腿に白い道を作っていた。軽めに指圧するととぷっと溢流する白濁液は、まだ膣内に大量の精液が残っていることを教えてくれた。 中出し、したんだよな。当たり前の事実が、どうにも現実味を伴わない。俺は這うようにしてハルヒの横に回りこんだ。弛緩しきった筋肉は、普段の力の半分も出せていないだろう。 腰を立て、上体は床に腹ばいになったままという淫猥な姿勢に、気をとられないよう注意してハルヒの顔を覗きこむ。 「すぅ……すぅ……」 果たして、ハルヒは心地良さそうな寝息を立てて眠っていた。閉じられた瞼はピクリとも動かず、熟睡していることを容易に窺わせる。 なんというか、絶頂を迎えて余韻に浸り、そのまま夢の世界に旅立つとは、なんとも自由気儘なお姫様である。 でもまあ、これだけ激しい運動をして、精神的にも肉体的にも疲れたことは確かだし、何より時間が時間だ。 俺と言葉を交わすよりも早く睡魔がハルヒを襲ったのも、無理はないのかもしれない。 が、寝るにしたってこのまま寝るわけにもいかないだろう。ここはベッドやソファではなく硬質な床なわけだし。 俺はどこか柔らかい枕的なモノを探すべく視線を走らせて、自分の腕に思い至った。腕枕か。いいね、悪くない。 ハルヒの裸体を横たえて、ぷにぷにとした頬を腕に乗せる。ハルヒの寝息がくすぐったかったが、俺はすぐにそれを知覚できなくなった。 今まで蓄積された疲弊が、感覚を塗り潰すようにどっと押し寄せてきたからである。俺はハルヒの肢体を一瞥してから、少しだけ身を寄せて瞳を閉じた。 まどろんだ俺の頭の中に、メールと電話でパンク寸前の携帯や、俺の両親とハルヒの両親がどれだけご立腹であるかということ、 そして明日が平日で、幸福感に包まれた俺たちに関係なく学校で授業が行われるといった懸案事項が数cmも浮上しなかったということは、言うまでもない。 3 名前:とりあえず前スレのラストレスを[] 投稿日:2007/09/02(日) 18:58:05.57 ID:dYEFn7zp0 瞼越しに眼窩に届く薄明かりに、睡魔が足音を潜めて撤退する。そのいやに楚々とした立ち去り具合に訝しがりながらも、俺は瞼を開けた。 寝起き特有のぼんやりとした視界が、視覚情報を捉えては同じくぼんやりと濃霧の立ち込めた脳に伝える。 無機質な天井、机と思われる木質の長方形、ハードカバーが緻密に並べられた重厚な本棚、そして―― 視界の右半分を死角化して、”まるで”重石が乗っているかのようにだるい右腕を引き抜く。と、そこで俺は自分が衣類と呼べるものを 何も着用していないことに気がついた。床に脱ぎ散らかされた下着と制服を拾い上げ、ベルトをテーブルからとって制服姿になる。 鏡はないものの、多分可笑しな点はないだろう。それにしても、何故俺は真っ裸になって眠っていたんだろうね。俺に露出癖がないことは確かなんだが。 「もう朝、か」 時計に視軸を転じさせると、短針と長針は現在時刻がAM6:00であることを指し示していた。 目覚めが良かった割りに、俺の体は疲弊感と倦怠感がたっぷりと残っていた。それはまるで就寝前に激しい運動をしたかのような―― さて、やけに喉が乾いているのでお茶を淹れることにしよう。疲れているときには熱いお茶に限るのさ。 俺は半ば強制的に思考プロセスを中断し、お茶淹れの地点で再開させた。習慣というものは便利なモノで、 眠気でぼんやりした頭でも自動的にお茶を淹れることができた。白浪から立ち上る湯気と、馨しい芳香が絶妙だ。 「うん、上手くできたな。飲むか」 独りごちつつ急須をおぼんでテーブルに運び、自分専用の湯呑みにお茶を注ぎ、両手で丁寧に持って啜る。 熱すぎもせず、温過ぎもしない丁度良い温度の熱いお茶は、俺の眠気を溶かしつつ、乾いた舌と喉をさらりと潤していった。 ああ、旨いね、これでこそ朝比奈さんに何度もお茶淹れ指導を享受した甲斐があるってもんだ。 とここで、何かとても大事な、そう、忘れては命に関わるほど重要な懸案事項が脳裏をチラついたような気がして、 俺は伏せていた視線を上げた。淡い朝陽に残照する埃群に、絶え間なく焦点が移り変わる。はて、この得体の知れぬ予感めいた焦燥感と絶望感は一体何なんだろうね。 俺は何時まで経ってもモザイク処理されたままのそれを取り合えず今は脇に置いて、何故文芸部室で一夜を明かすという失態を犯してしまったのかについて 思惑を廻らせることにした。凝り固まった首を鳴らしつつ、もう一度お茶を啜る。 えーっと、昨日は確かハルヒが俺に告白して、俺が曲解して傷つけちまってハルヒが飛び出して屋上で見つけて告白の返事して文芸部室に戻って、その後―― 「ぶーっ!!!!!」 胃に滑り落ちるはずの液体は気管支に特攻し、反射で咳き込んだことによって、まだ口内に含まれていたお茶と共に盛大に噴出された。霧状になって飛び散ったそれは テーブルの半面をびしょ濡れにしたが、そんな瑣末なことはどうだっていい。寝起き故の投げやりな回想は、しかし俺の眼窩に昨夜の情景を再生させるには十分であった。 20 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 19:42:12.91 ID:dYEFn7zp0 椅子を蹴飛ばしてハルヒに駆け寄る。一糸纏わぬ姿のハルヒに触れるのを一瞬逡巡したものの、しかし昨夜あれだけやったのだから 何を躊躇うことがあると都合よく自身を叱責して、俺はハルヒを抱き上げた。 「すぅ……すぅ……むにゃ、キョ……ン……?」 温かい。どうやら晩秋の夜気にあてられて、風邪を引いたということではなさそうである。 しかし俺が最も心配しているのはそういった外面的なことではなく内面的な、そう、文字通りハルヒの内面部分を酷使したことによる―― 「……キョン!!」 どんっという衝撃に視界が揺れ動き、後ろに押し倒されそうになる。俺はなんとか踏みとどまった。 視軸を胸の辺りに移せば、そこには絹のように美しい黒髪と対象的な黄色のカチューシャが踊っていた。 ぐしぐしといった摩擦感と「キョン大好きー」などというノーマルな睦言からするに、どうやらハルヒは頬擦りをしているようだ。 それだけなら良かった。俺自身気分は悪くないし、寧ろ前日までのハルヒとの激しいギャップに愛しさが募る。 でも、腹の辺りでたっぷんたっぷんと揺籃する房は一体何なんだろうね。しかもこの果実、包装されていないので剥き出しのままである。 「な、なあハルヒ。きっとお前は寝ぼけているんだと思う」 俺は、破かんばかりの万力でシャツを握りしめていたハルヒの指を、一本一本外してやった。トロンとした瞳で、赤子のように俺の方を見ているハルヒは 庇護欲をそそるとかいうレベルではなく、そりゃもう、何処かに閉じ込めておきたいくらいに可愛らしい。 俺は苦渋の決断を下すことにした。きっとこいつも、俺の寝起き同様、記憶が混乱しているんだろう。 俺が教えてやらないと、この生まれたままの姿で文芸部室から出て行ってしまいそうだ。 「……お前、昨日のこと覚えてるか」 眠そうな細い眼をしっかりと見据えて、尋ねてみる。それから十数秒間、ハルヒにはこれといった変化はなかった。 脳内で「昨夜のことを忘れているんじゃないか」「思い出しても恥じらいの微笑を浮かべて抱きついてくるさ」などの超希望的観測が飛び交うが、それらは刹那後には砂塵となって掻き消えた。 俺が固唾を飲んで見守る中、ハルヒの瞳に光が灯り、俺を見て、己の体裁を見て、周囲の情事後特有の惨状を確認し、顔を伏せる。すぅ、と空気を吸い込む音。ああ、終わった。 「こ、ここっここの、エ、エ、エエエエロキョン!!!!!!」 42 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 20:29:43.67 ID:dYEFn7zp0 空気を震わす罵倒が文芸部室に反響し、そのまま甘い雰囲気を流し去ってゆく。顔面に飛散した唾を拭っていると、 ハルヒは脱兎の如く俺の腕から逃げ出して、部屋の隅に縮こまった。おいおい、何も逃げることないだろ。 「と、取り合えず落ち着かないか。お前は、その、裸なわけだし服も着ないと……」 俺は成る丈視線を逸らしながら(実際は泳がせているだけだったが)ハルヒに慎重に近寄った。 だが、思いやり故の其の行動さえもがハルヒには「エロキョン」に分類されてしまうようで、 「へ、変態、強姦魔……」 なんとも酷い言われようである。ぐっと射抜くような視線と、首筋まで羞恥に赤く染まった表情に俺はたじろいだ。ここまで拒絶反応示されると流石に傷つくね。 にしてもハルヒは体の局所を両手で押さえているが、こういった見えそうで見えないのもエロシチズムをそそる――って、愚考してる場合じゃない。こんなことじゃハルヒの謂れのない誹謗中傷が言い得て妙に妙になっちまう。 しかし、互いの合意の上での淫行は犯罪にならないんだぞ、無実を証明をしたところで、どんな正論も今のハルヒにとっては場繋ぎの言葉以上に効果がないことは自明であり、結局俺は辟易するのみだった。 「……服とって」 散らかった下着と制服を拾い上げて、軽く放り投げる。それらに手が触れた瞬間、卑猥な妄想、というか回想をしてしまいそうになったが、これはもう男の性である。不可抗力なのさ。 ハルヒの「あっち向いてなさい!」という、逆らえば比喩ではない死刑が確定しそうな響きに、黙って従う。 昨夜は行為中に脱いでいったので聞くことのできなかった衣擦れの音に、ああ、ハルヒは今まで裸だったんだなあと今更ながらに納得した。 「も、もういいわよ」 おずおずと振り向く。昨日の制服姿と処処の違いがあるものの、一応衣類を身に纏ったハルヒがそこにいた。 処処の違いというのは、固まった愛液で部分部分固まったスカートや、服越しに揉みしだいたせいで皺がよったブラウスなどのことだ。そこら辺は察してくれ。 にしても、破瓜時の出血や、中に出した精液の処理はどうしたんだろうね。そんな無粋極まる疑問が浮上したが、 口にした瞬間斬首刑になりそうなので自粛する。こちらの出方を窺うようにチラチラと視線を送ってくるハルヒに、俺は着席を促した。 「お茶、呑むか?」 「………うん」 87 名前:修正ver[] 投稿日:2007/09/02(日) 21:23:59.64 ID:dYEFn7zp0 音を立てないようにして手前に滑らせた湯呑みは一口つけられたのみで、ハルヒの神経が逆立っていることを物語っている。 横たわる沈黙。それは昨夜の校内散策時のような温かみを秘めておらず、凍てついているのか煮えたぎっているのかわからない、なんとも微妙な温度だった。 煙草が欲しくなるね。といっても俺が喫煙者で禁断症状を発症したわけでは断じてなく、この気まずい空気をやり過ごすためのアイテムが欲しいだけだ。 時計に視線をやるフリをして、ハルヒの様子を窺う。揺蕩う白浪を見つめる双眸の奥は覗き込めなかったものの、頬の紅潮具合は依然尋常ではなく、 地肌の色を取り戻すまではまだかなりの時間がかかることを教えてくれた。ま、そんな情報はこれから取るべき行動を選びあぐねていた俺の思考をなんら補助することなく 寧ろ混乱させるだけだったんだが。俺は行き場のない視線をハルヒに倣って湯飲みの底に放り込んだ。 「「…………」」 カチコチという時を刻む音が、文芸部室を支配していた。この重苦しい雰囲気をTVで見たことがある気がして、記憶の糸を辿る。 そうそう、刑事でドラマでよくある事情聴取だ。テーブルを挟んで向かい合って話し合うやつお決まりのシーンである。尤もこの沈黙下では、どちらが尋問される側なのか定かではないんだが。 「なあ――」 「ねぇ――」 沈黙を経て漸く開いた口は、ハルヒと完全にリンクしていて。どうしろってんだよ、もう。 次第に自暴自棄になりつつ頭に、昨夜の情事が鮮明にフラッシュバックし始めたのを止める術はなかった。 夜闇に照らし出されたハルヒの肢体、湿った手平から伝わる肉感、部屋中に蔓延した淫匂、口内に広がる愛液、絶えることのない嬌声。 矜持を手放した従順なハルヒを焦らし、快楽を強請らせて、淫語で詰り、犯した。そして最後にハルヒの中で果てた。 冷静になった頭で指摘できる矛盾点は、山のようにあった。だが、俺は瞬時にそれらを一蹴する理論(というより暴論)に思い至り、嘆息する。 何故童貞の俺が、処女を一夜の内にマゾヒズムに開眼させるほどの超絶テクニックを持っていたのか? 確かに俺はAVなどのR-18指定を受けたメディアによる性教育を施されていた。だが、実践で行き成りその性技を使用できるかといえば到底不可能である。 何故処女のハルヒが、破瓜の痛みをものともせず快楽に溺れることができたのか? 体質などによって破瓜の痛みを全く感じない特殊例もあるにはあるらしいが、ハルヒがそれに該当していたかといえば、あの涙を考えるに違うだろう。 何故情事の最中にあれほど大きな物音や嬌声があったというのに、用務員等の人間が俺たちに気付かなかったのか? いくら密室だったとはいえ、絶頂を迎えたときのハルヒの一際大きな嬌声が誰にも聞かれなかったということはあるまい。 これらの某有名探偵でも解き明かせなさそうな矛盾を、一言で合理的に解決する魔法の言葉が、あるのだ。俺自身認めたくはないが――行使されたのだろう。あの力が。 何処の誰かがそう願って、それが一片も遠慮されることなく、現実のものとなった。この能力の利便性は天井知らずだね、まったく。 103 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 22:06:29.32 ID:dYEFn7zp0 粉々に砕いたはずが、すっかり元通りになったサディストのペルソナと、素人は言わずもがな、玄人でも驚嘆するほどのプレイスキルが転がった頭を抱える。 何時何処でこれらを手に入れたのか、さっぱり思い出せない。ふと古泉の理解者を得たような笑みが脳裏をよぎって、俺は背中がむず痒くなった。 忌々しいが認めざるをえない。ある日突然焦らしプレイ等の知識が備わり、脱着可能の仮面が与えられた。その用途は勿論、頼んでもいないのに与えてきたそいつを、悦ばせること。 「ねぇキョン」 俺が話しかけるのも忘れて心中でモノローグを垂れ流していた所為だろうか、ハルヒがジンクスから抜け出して語り始める。 果たして緘されていた唇から零れ落ちたのは、俺の性的嗜好に関する質問だった。 「――あんたは、その、ああいう、ら、乱暴なのが好きなの?」 「お前がそれを願ったんだろうが」という的確な反論もせずに、溜息をつきつつ首肯する。少し自棄になっていた俺は、 この質問が孕む重要性に思い至ることもなく、モノローグを再開させた。そりゃ、確かに仮面を被っていたときの俺は、 まるで自分が自分じゃなくなってしまうような恐怖以上に、強烈な快感を味わっていた。普段から虐げられている分、責められて身を捩っているハルヒは新鮮だった。 「もし、もしあんたがどうしてもって言うんなら、夜はあんな風になっても――」 だが一度仮面をとってみるとどうだろう。そこで喘ぐのは、いくら快楽が所以とはいえ息も絶え絶えに喘ぐハルヒだ。 罪悪感が生まれるし、何よりその苦しそうな様子に例えようのない後悔が湧き上がる。俺は思うのだ。 最初から焦らすことなく、淫行を愉しめば良いのではなかったのかと。こんな仮面は、二度と着けないほうがよいのではないかと。 「――あ、でも昼はあたしが絶対なんだからね。もしあんたが逆らったら、即刻死刑よ」 そう、それが例えハルヒが望んでいることでも。愛の形は様々だが、何も最初からこんなハードなプレイをする必要はない。 俺は取り合えず、昨夜欲望に身を任せてハルヒを犯してしまったことを詫びようと顔を上げた。さっきから何か口舌を振るっていた気もするが、どうせエロキョンなどといった侮蔑の言葉だろう。 そっぽを向いていたはずの真っ赤なハルヒは何時の間にかこちらを凝視しており、自然、視線は交錯した。次いで開かれる口は、俺が開くタイミングとぴったりで―― 「すまん、昨日の夜はお前の気持ちも考えずに、好き勝手やっちまって」 「ちゃんと聞いてたの? 簡単に言えば、昼はいつもどおりだけど、夜はその、えっと、あんたが色んな意味で上になるっていうか――」 155 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/02(日) 23:40:04.52 ID:dYEFn7zp0 俺の行為を許容し、かつその行為を恒久的に認めるという破格の提案を持ちかけたハルヒを、俺は茫然自失と言った表情で見つめていたと思う。 だって、そりゃそうだろう。あんな強姦に近い激しいプレイに堪え、その先にある快楽に浸れるのは、余程のマゾヒストのみである。 「そ、それは主従関係が逆転するって意味であってるのか」 「端的に言えばそうなるわね。あと勘違いしてそうだから言っておくけど、あたしはホントはあんな恥ずかしいことしたくないの。  焦らされるなんてまっぴらごめんだわ。あ、ああ、あんたがそうしなきゃダメって言うから仕方なくそうしてあげるの」 お前にそんな強要をしたことは、俺の曖昧ながらも一応会話部分を記録している記憶を閲覧するに、一度もないんだけどな。 俺はそう言いかけて口を緘した。そして昨夜ハルヒを抱いた時のことを想起して、先程の仮説と照らし合わせて再構成する。 どうやら俺はまたしても要らぬ心配をしていたようである。簡単なことだったのさ。こいつは隠れMで、俺に乱暴に抱かれることを心から望んでいたのだ。 本人が切望しているとなれば、俺に躊躇う理由などない。このペルソナと大量の性知識は、毎晩のように有効活用してやるよ。 「でも代償は高くつくわよ。表向きはいつもどおりだけど、昼間のあたしの命令はもっと厳しくなるわ」 目覚め直後の恥じらいは何処へやら、嬉々とした瞳を浮かべて言い放つハルヒ。 昼間はお前がご主人様で俺が僕、夜は二人とも対極属性の仮面をつけてマスカレイドか。今まで以上に愉快な毎日になりそうだ。 団長と平団員からカップルになったにしては歪すぎる関係だな、と苦笑を浮かべつつ、俺はハルヒの命令を待った。 「じゃあまずは――キスしなさい」 一抹の恥じらいを秘めた衒いのない100万Wの笑み。おいおい、それは命令じゃないだろう? 俺はハルヒの提案が、昼間のハルヒの嗜虐性をパワーアップさせずに、寧ろ俺の望んだ素直なハルヒにしていることを実感した。 一夜を共にして尚、乙女心全開の初心なお願いをしてくるハルヒに、愛しさが募る。まったく、これ以上お前が好きになったらどうすりゃいいんだ? 「わかりましたよ、ご主人様」 身を乗り出してハルヒの唇を奪う。啄ばむ様なキスは、昨夜の荒々しいキスとは違い、穏やかな幸福感を俺たちに齎した。 いやはや、第三者的位置からこの情景を観察すれば、俺たちの周囲には桃色のオーラみたいなものが浮かび上がっているのではなかろうか。 175 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/03(月) 00:13:28.97 ID:TMhD5ppB0 だがしかし、忘れてはならないのがラブコメディやシリアスなどのジャンルを問わず、付き合いたてのカップルにありがちな 「周りが見えていない」という要らぬ嫉妬や羨望を誘う状態である。俺とハルヒは、まさにその典型的、いや、究極的なカップルと化していた。 「んむ、ん……」 平和、安寧といった言葉が似合う、朝の穏やかな文芸部室に、幸せの音が響く。俺が唇を離そうとするたびに、ハルヒのそれは キスの終わりを迂遠させるかのように突き出され、結果、俺の瞳はずっとハルヒの美しい顔立ちを眺めているままであった。 それから数分したときのことだろうか、茫洋と薄まった意識で俺は懐かしい、しかし今の状況では決して耳にしたいとは思えない声を耳にした。 「――ったくよぉ、なんで俺が昨夜から行方不明のあいつらを探さなきゃならねえんだ――」 悪友谷口の汚い日本語である。その声は耳の中で残響し、ハルヒを味わっていた俺の幸福感を僅かに乱した。 錯覚だとしても迷惑なヤツだ。この甘い雰囲気を何処まで邪魔すれば気が済むんだろうね。なんとか聴覚を遮断しようと試みるのだが、 「――へへっ、まさかここで一夜共にした、なんてことはねえよな――」 まるで谷口本人が文芸部室前にいるような大きさの声が、またしても耳に飛来する。俺は憤りを覚えつつも、コツコツとした足音が止まったのを知って眉を顰めた。 ハルヒも聞こえているのだろうかと視線をドアからハルヒに戻すと、ハルヒは俺がそんな幻聴に悩まされていることなど露知らず、 双眸を閉じたまま甘い声を漏らすのみである。昨夜の疲労と眠気のせいだろう。俺はそう高をくくり、ハルヒと同じく瞳を閉じた――そのときだった。 「WAWAWA若さ故――」 ――の過ちが語尾につけられる前に、その言葉の主は発音を頓挫させていた。唇を強引に離して、首を右にゆっくりと捻る。 控えめながらも全開に明けられた文芸部室のドアの向こうで、顎が外れたのではないかと危ぶまれるほどに口を開いた谷口が、諸手を挙げて爪先立ちしていた。 時間が停止したかに思われたが、物理法則は健在のようでドアが虚しくキィ、と音を立てる。この部屋に充満した淫靡な香りと俺たちの乱れた服装、 そして熱っぽく甘いキスを目撃した谷口は、ここで行われた全てを悟ったに違いない、 「っご、ごご、ごごごごごごゆっくりぃ!!!!!!!!!!」 200 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/03(月) 00:57:44.15 ID:TMhD5ppB0 弾かれたように飛び上がり、陽炎稲妻水の月の如く、四角枠から姿を消した。 絶叫がドップラー効果を出しているところをみるに、死に物狂いで走っているのだろう。甘い空気が霧散しキスどころではなくなった状況に、さてどうしたものかと物思いに耽っていると、ハルヒが椅子を弾き飛ばして立ち上がった。 「……あたし、追いかけてくる」 顔面蒼白の鬼気迫る顔に恐怖を感じた俺は、その理由を問いかけた。あいつに知られたくらいでどうってこともないだろう。 俺たちが付き合い始めたことがこんなに速くバレちまうとは思ってなかったけどな。 「あんたは何も分かってないわ」 わなわなと震えた唇で、ハルヒが言葉を紡ぎはじめる。その内容を聞いていくうちに、俺は体中から血の気が引いていくのを感じていた。 よくよく考えれば、俺とハルヒは学校で一夜を共に過ごしていた。それは即ち、両親に無断での男女同室の外泊である。 もし谷口が何も言わなければ、お互いに友達の家に泊まっていたという適当な言い訳で済む話だが――もし噂が広がり、教師サイドにまで 「文芸部室で淫行に及んだ」という情報が伝わればどうなるのか。結果は、火を見るよりも明らかである。不純異性間交友の究境を成しえた俺たちを見逃してくれる確立は零に等しい。 また瞬間記憶力の乏しい谷口のことだ、このゴシップが全校に蔓延するまでにどういった脚色が成されるのかは考えたくもないね。 少なくとも、プラトニックと対極に位置する猥談のタネに多用されるようになるのは間違いないだろう。 「あんたはここで待ってて。不用意に姿を見せちゃダメだからね」 瞳に殺意を浮かべたハルヒは、先程までの可愛らしく甘える女の子といった理想像からかけ離れていた。 身を翻してドアの向こうに消えたハルヒを、俺は茫然と見送った。あれは暗殺者の眼だった。もちろん、こちらが殺らなければ社会的に俺たちが死ぬことになるのだから、そうならざるを得ないのだろう。 時計に眼をやると、時刻は既に気の早い生徒なら登校を始める時刻だった。運動神経抜群のハルヒなら、きっと谷口に追いつけるだろう。 忍び寄る不安に、堪らず床に視点を移す。と、ここで俺は、床に付着したどちらともつかぬ液体痕を発見して、現況を更に悪化させる致命的な失念に気がついた。 処女を失い、俺にこれでもかと虐げられたハルヒは、まだ急激な運動ができる状態ではない。長時間の疾走はできず、逃げ足の速い谷口なら逃げ切れることは十分に可能だろう。 しかも荒淫によって着色された事後を如実に物語る服装は、ハルヒが走れば走るほど、生徒の目に触れるほど、後の谷口の戯言に信憑性が帯びさせるに違いない。 「やれやれ………」 天井を仰いで、史上最高に重たい溜息を吐き出す。俺は思った。 もし、今日を平穏無事に終えることができるのなら、また明日から普通で退屈な学校生活を送ることができるのなら――今度ハルヒを抱くときは、もう少し優しくしてやろう、と。 201 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/03(月) 00:59:10.78 ID:TMhD5ppB0 ―――end 俺の文章作成能力が尽きたんだぜ 二週間近くの間見てくれた人や、途中から見てくれた人、本当にありがとう 228 名前:涼宮ハルヒの誘惑 ◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/09/03(月) 01:12:31.90 ID:TMhD5ppB0 クラスメイトやらSOS団の反応は、書こうとも思ったんだがgdgdになりそうだったんで省きました 各自脳内補完をお願いします あとまとめサイトの管理人さんにお礼を ずっとまとめてくださってありがとうございました、これからもお世話になると思いますが、よろしくお願いします ――――――― やっと終わった……長かったね、ホント パート嫌いのVIPPERや、即興投下の形式が嫌いなVIPPERには本当に申し訳ない また即興ゆえの変換ミスや稚拙な表現、的確な比喩不足など、満足してもらえない部分は多々あったと思う それはこれからの投下で直せるよう改善していくので、ご容赦ください さて、エロ描写の練習も兼ねて書いた誘惑だけど、妊娠のクォリティを超えれていたかな? まさかここまで長くなるとは思ってなかったんで、自分でも驚いてるんだが……全部書き終えれたのも皆のおかげです 次はとりあえず途中放棄した谷口を書き終えようと思う たまにプリンにも1レスお題で顔を出すけどね それでは、また