艦隊これくしょん ~艦これ~  Bright:金剛


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1 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:20:11.33 ID:uAkK07/C0
最初に


以下の7つの縛りを設けます。


1.無駄に長い長編です。(全7~12話完結を予定)
7割シリアス、3割日常です(たぶん)
アニメ版艦これ(特に脚本)に対し、不満のあった方向けです


2.特撮っぽい暑苦しい(?)ノリで行きます。そっちが苦手な方ご注意


3.間隔としては、数週間に1話の割合で投稿の予定です。


4.キャラ設定などはアニメではなく原作ゲーム等に沿った形式です。
(ちなみに筆者はゲーム版はちょこっとプレイ済。コミック・ラノベなどは一通り読破)


5.支援イラスト、宣伝等戴ければ歓迎です。イラストは絵の優劣などは問いません。
イラストを戴けた場合、このスレおよび渋の方で御礼を述べさせていただきます。
※このお話と同一の内容の文章をpixivにも投稿いたします。渋にアカウントをお持ちの方はそちらが便利です


6.制作にあたって、以下の縛りを設けます。
「なるべく原作のキャラに準拠(※例外有り)」
「(実装済の)艦娘は一人も死亡させない」
「ゲームのセリフを入れる」
「如月と祥鳳をできる限り活躍させる」←ここ重要


7.史実準拠? 何それ美味しい中国の料理?

3 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:21:11.77 ID:uAkK07/C0

海。地球の七割の面積を占める未知のフロンティア。

そこには人知れぬ生命体が無数に存在する。今日も続々と深海から新種が発見される。不気味な深海魚に目のない蟹。あの巨大な体躯を持つダイオウイ

カですら、生態の映像が撮影されたのは近年のことであった。海の底には、まだまだ未知の生命体が無数に潜んでいるであろう。深海の研究に携わる科

学者達はそう口にする。

そう。存在したのだ、深海の未知なる生命体は。

全ては10年前に始まった。

あの日、輝かしい21世紀の第一歩を歩もうとしていた人類の歴史は突如恐怖に包まれた。

人類を襲ったのは神を騙る狂信者などではなかった。それは、人間の形を取りながら人間でない、未だ誰も経験したことのない恐ろしい怪物達であった。


4 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:22:23.63 ID:uAkK07/C0


10年前のその日、ある少女達は英国にいた。紳士の国と呼ばれるその国は寒かった。街には既に雪が積もり、人々の吐く息は白くなっていた。

とある大きな港。二人の少女が暑いコートを羽織り、誰かを待っていた。その顔つきはどことなく似ており、二人は姉妹であることが伺えた。

「よーやく日本に帰れるわね!」

ある少女が言った。イギリスの冬は寒く、日本の暖かな環境が恋しかったのだ。

「そうですね! あの子達に会うのが楽しみです、お姉様!」

姉に抱きついて暖を取りながら、その少女の妹が返事をした。

「・・・その『お姉さま』って呼び方、やめない? 時代劇じゃないんだから・・・」

「お姉さまこそ淑女の心得が足りません! ヴィッカース家の長女たるもの、常に品性のある話し方を致しませんと!」

少女は妹のいつもの様子に頭を抱えた。恐らく英国で放送していた日本の番組が時代劇やお姫様の出てくる少女アニメばかりだったため、思いっきり影

響されてしまったのだろう。妹にはもっと別の番組を見せるべきだったと少女が頭を抱えていると、見覚えのある人物が船から降りてきた。


その人物を見た姉妹は、顔を輝かせた。

「あっ、お父様とお母様だ! おーい!!」

「お父様!お母様!」

姉妹は迎えに来た両親に手を振る。

慎ましく清潔感のあるスーツを着た、いかにも裕福そうな父。その広い肩の上に何度乗せてもらったことだろうか。

白いドレスと毛皮のコートを羽織った美しい母。日本に帰ったらカレーを作ってくれる約束だ。

5 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:27:03.57 ID:uxiL7peg0

この姉妹はイギリスに留学しており、この日一通りの課程を終了して豪華客船で日本に帰る予定だった。

客船の乗り口で待つ両親のもとへ、姉妹は元気よく走り出した。

だが、彼女たちの幸せは突然終焉を迎えた。

突如、爆音が海から鳴り響く。少女達は突然の出来事が信じられず、呆然としていた。

「えっ・・・?」

少女達が状況を把握できた時、街にはあちこちで赤い火の絨毯が敷かれ、周囲の建物は全てが瓦礫になっていた。

海から突如放たれた砲弾は次々に港を破壊してゆく。船が砕け、建物が崩れ、人が燃える。

砲撃音とパニックに陥る人々の叫び声。容赦なく襲い来る恐怖が二人の少女に重圧をかける。

やがて、その戦火は金剛たちをも襲った。

「きゃあぁぁっ!!」

砲弾はすぐ近くにいた客船にも襲いかかる。爆音が鳴り響き、客船が崩れ落ちる。その下には愛する娘達を待つ両親もいた。

爆音に驚いて目を背けた少女。二人が再び両親の方へ目を向けると、客船は崩れ落ち、鉄屑の山と化していた。

そして、つい数分前まで笑顔を見せてくれた両親は、他の旅客ともども瓦礫に埋もれて血溜りの中に沈んでいた。

「お父様、お母様!」

姉妹は叫ぶ。だが、両親が呼びかけてくれることはない。瓦礫の中から母の美しいドレスがはみ出るのが見えた。

だが、そのドレスはみるみるうちに赤く染まってゆく。

幼い姉妹にもその意味はすぐに分かった。二人の命は既に失われた。

なんで・・・? 少女たちは思った。理不尽な暴力が、彼女たちから愛する人を奪った。その事実を受け入れられず二人は困惑する。


6 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:27:46.66 ID:uxiL7peg0

死の恐怖に震える二人の前に、怪物がゆっくりと近づいてくる。海水に濡れた怪物は人間の美女の姿をしていたが、血の気のないその顔に人間らしい暖

かな感情は伺えない。ただ冷たい蒼眼で少女達を見つめるだけだった。

「い、いや・・・!」

怪物は二人の姿を目にした。顔を歪め、青い目を細めて笑う。やがて、ゆっくりとその巨体を動かし、幼い二つの命を奪おうと牙を剥く。

少女達は逃げたかった。だが、突然の出来事にショックを受けた身体は動かない。

逃げたい、逃げたい。そう何度思っても、身体が脳の指令を聞いてくれない。

もうだめだ。二人がそう思った時だった。

「やめろ!!」

ふたりの前にひとりの男が立ちはだかった。肩幅の広い、顔に深い彫りの刻まれた逞しい男だった。男の呼び声に反応し、怪物は一度動きを止める。

彼は手にしていた機銃を撃ちまくる。全弾命中。だが、なんの効果もない。怪物は平然としていた。

後になって人類は知ることとなる。後に深海棲艦と呼ばれるこの怪物には、人類の兵器は何一つ通用しないのだ。

機銃も、ミサイルも、核兵器さえも。寧ろそうした兵器で攻撃すればするほど焼け石に水で、深海棲艦の猛攻は激しさを増すばかりであった。

人の撃った弾は全てすり抜けてしまい、核の放射能さえも吸収してしまう。まさに人智の及ばぬ存在であった。

勿論、この怪物に銃が通用しないことは男にも分かっていた。他の襲撃地点から得られた情報は軍部に行き渡っており、既にこの男にも伝わっていた。

それでも彼は逃げない。背中の後ろで震える少女達を守りぬくためだった。

だが、怪物は容赦なく男に襲いかかる。そして、男の脚を持ち上げおもちゃの人形のように弄び・・・!


7 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:29:53.76 ID:uxiL7peg0


第一回 私の実力、見せてあげるネー!


「っ・・・!」

声にならない悲鳴をあげ、少女はそこで目が覚めた。またあの夢か・・・。汗だくな自分に気づき、びしょ濡れの小鳥のように身震いする。

「Endless nightmare・・・」

少女は呟いた。あの日の悪夢はまだ消えない。未だ、夢の神は自分を苦しめて弄ぶ。

いつになったら、あの悪夢から解放されるの・・・?彼女は静かに自身の忌まわしき記憶を呪った。

暫く震える腕を抑えていると、ようやく震えと冷や汗が収まり、頭の中が冷静になった。

ふと、同じベッドで眠っている隣の妹を見る。短髪の少女は悪夢を見ることもなく、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。その無邪気な表情を見て

、彼女はホッとした。

あんな悪夢を見るのは、もう自分だけでいい。もうあんな悪夢は、誰にも見せたくない。

「はぁ・・・」

少女は、隣で眠る妹を起こさないよう静かに寝室のベットを抜け出し、彼女は窓から外を眺め始めた。

この日、姉妹はとある街のホテルに宿泊していた。明日、ある場所で、ある人物と出会う約束があったからである。天を見上げると、満天の星空が広がっていた。雲ひとつない夜のカーテン。その下には静かな黒い海が広がっていた。あの怪物たちがあの静かな海にまだ潜んでいるなんて信じられない。少女は思った。

いつの間にか少女は自分を襲った海の怪物達について思いを巡らせていた。


8 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:31:15.26 ID:uxiL7peg0

深海棲艦と呼ばれた海の怪物達。この脅威をどのように扱うかは各国で意見が分かれた。

人間やクジラそっくりな見た目、そしてわずかながら人語を話すなどの特徴から知的生命体なのではないか、と考える一派もあった。無論、だからと言

って愛する人々を奪われた多くの遺族が納得するはずもない。世論の大半は『深海棲艦殲滅論』に染まっていった。

だが、そんな中でもとある過激派動物愛護団体はこれが海の生き物たちの化身であると主張し、各国海軍を妨害しつつ独自に和平交渉を試みた。幸いにも、その試みは実を結んだ。交渉に赴いた船が沈み、全てが血に染まるという結末で。皮肉にも、彼等の犠牲によって世論は完全に深海棲艦殲滅論に固まった。

共存できない、あまりに被害が大きすぎるこの怪物を叩くべく、各国の軍隊が対策に当たった。

だが、深海棲艦を人間の兵器で倒すことはできなかった。彼等の攻撃は全て無駄に終わった。どんな爆撃も、どんな兵器も、何一つ深海棲艦には通じな

かったのだ。

加えて、その神出鬼没な攻撃が人類を苦しめた。人工衛星やソナーである程度の居場所や大集団の存在などは認知可能ではあった。だが、深海から現れるこの怪物達は予測できない地点や場所に現れては街や人を無差別に殺戮していった。その神出鬼没ぶりは多くの人々を恐怖に陥れた。

人類にとって不幸中の幸いであったのは、この怪物達は一定時間海域を離れると身体が罅割れる性質を持っていたことだ。その性質のせいか、海から

10km以上離れた地点には襲撃ができなかった。

ならば海から離れれば問題ない。確かに自分の命だけを守るならば、それでも問題はないだろう。だが、国家という単位の問題となると話は別だ。交易

や物資運搬は、どうしても空路――その空路でさえ、時たま深海棲艦の対空砲火によって破壊されることもあった――と陸路のみでは限界がある。まし

てや資源に乏しい島国では尚更のことであった。

だが、いかなる手段を用いても深海棲艦には全く対処できない。

封じられた交易。国と国との交流は絶たれかけ、交易は徐々に衰えていった。

誰もが人類の終焉を予感した。

ある者は深海棲艦の殺戮を恐れて内陸へ移り、またある者は諦観して死を待つことにした。暴徒と化して略奪に走る者もいれば、またある者は終末を謳

う教祖を気取った。

世界は、緩やかに絶望に包まれつつあった。


9 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:33:25.27 ID:uxiL7peg0


少女も、10年前のあの時はそうだった。

震える妹を抱きしめつつも、自身も恐怖に怯え、両親を失った絶望と悲しみ、そして無力感に包まれた。

だが、そこに救世主が現れた。

突然、謎の少女達――その多くは日本人だった――が現れ、深海棲艦と交戦し、怪物達を打ち払ったのだ。彼女達の装備は弓矢や人間サイズの機銃など

貧弱な装備に過ぎない。にも関わらず、何故か彼女達の攻撃のみが唯一深海棲艦には通用した。

神話の戦乙女にも似たその華麗な奮戦は、世界を覆う闇に一筋の光を照らし、人類最後の希望と称えられた。

彼女達はこう呼ばれた。KANMUSU、日本での通称は艦娘と言う。

KANMUSUとは、


"Keymember
Anti
Numerous
Misterious
Underseacreatures
Special
United team"
(対未確認深海棲艦撃退集団・主要隊員)の略称である。


その時自分たちを救ってくれた艦娘について少女は詳しく覚えてはいない。長い砲塔を装備した黒髪の美女だったことだけは覚えているが、今はどんな顔の人だったか思い出せなかった。だが、その艦娘が砲塔に身を包んだ美しく華麗な女性であったことだけは覚えている。

そして、自分もこう在りたいと思った。

彼女のように妹を、全ての人をあの海の悪魔から守りたいと。

10 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:36:29.99 ID:CYvm8SPd0
深海棲艦が艦娘の活躍によって撃退された後、各国家や軍需産業はこぞって彼女達を手にしようと働きかけた。

これほど美味しい逸材を是非とも我が手に収めたいと思うのが人の性というものであろう。何より、彼女達の武装は軍需産業にとって喉から手が出るほど素晴らしいものであった。海を自在に歩くという人類の長年の夢を実現できるのだ。誰がこれを欲しがらずにいるだろうか。

しかし、彼女達の装備、通称『艤装』は再現不能であった。ある程度ならば人の技術によって整備や修理、形の再現こそ可能ではあったが、人類の技術によって、一から艤装を新造することはできなかった。構造が全く分からないのだ。

軍事産業的に艤装は利用価値が薄いいことは判明した。だが、彼女や妖精達の存在は深海棲艦殲滅には不可欠であった。そこで、各政府は艦娘達を取り込み、彼女達を統括するための上官として「提督」となる人物を派遣した。

嘗ての日本海軍に倣って、艦娘達を統括・保護するための「鎮守府」という組織が日本各地、および海外に設立された。艦娘達を国家の末端として位置づけるために鎮守府は国家の運営する組織となり、艦娘にはある一定の権限と生活の保証が約束された。

事実上、鎮守府は艦娘と提督達(およびその世話人達)による独立した組織となり、一定の権利と自由が保たれていた。

無論、国家の要請に従わずに静かに暮らすことを望む艦娘や、傭兵のごとく各地を放浪する艦娘も存在した。彼女達の意思は鎮守府に残った艦娘によってできる限り尊重された。

だが、艦娘達の必死の努力にも関わらず、深海棲艦の脅威が絶えることはなかった。

確かに10年前のような世界規模の脅威はなくなった。だが、それでも日本周辺の海域には未だ深海棲艦が残存し、度々襲撃事件が発生していた。

なんとか艦娘達が防衛線を展開し、貿易の船もギリギリ守られ、被害は最小限に収まっていたが、尚も戦いは続いていた・・・。


11 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:37:38.30 ID:CYvm8SPd0


と、少女がそれまでの深海棲艦と艦娘の戦史を振り返っていると、後ろから誰かが彼女を呼んだ。

「お姉さま・・・」

妹の呼び声だ。姉は静かに振り返る。

「『金剛』お姉さま、起きていられたのですね・・・」

「叡子・・・」

金剛と呼ばれた短髪の少女は、妹の嘗ての『名』を呼ぶ。

「久しぶりですね、『比叡』じゃなくて、昔の名前で呼んでくださるのは・・・」

「そうデスネ・・・」

姉は静かに微笑んだ。だが、姉のその微笑みが偽りであることを妹の比叡は見抜いていた。

「・・・また、あの悪夢を?」

そう問いかけた。その言葉に、姉は黙って頷く。

「そうですか・・・」

叡子と呼ばれた少女・比叡はそっと最愛の姉、金剛に手を伸ばし、静かに背中に抱きつく。

「大丈夫です。比叡は、私は、絶対にお姉さまのおそばから離れませんから・・・!」

「ありがとう、比叡・・・」

金剛は振り返り、そっと比叡の頭を撫でた。



12 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:38:30.49 ID:CYvm8SPd0

二人はこの10年の間に、厳しい訓練を経て艦娘となった。

あの惨劇の後、二人の前に突然軍艦の形状をした艤装が現れた。そして、二人はその艤装の適合者だと判明したたのだ。艦娘は艤装に選ばれた者しかなれない。艤装はどんな少女でも装備できるものではなく、艤装自身が選んだ特定の少女のみしか装備できないことも判明した。その選定基準も未だに確立したものがなく、各国政府は艦娘の探索に苦労していた。

もちろん、艦娘達自身も新たな仲間を探そうとそれぞれ独自の方法を取ろうとしていたが、数は一向に増えなかった。

対して敵は圧倒的に数が多い。更に近年、日本近海に深海棲艦が多く出現することが判明した。

四年前の第二次深海棲艦襲撃事件も、被害の大半は日本に集中していた。なぜ彼等が日本ばかり執拗に狙うかは不明だった。

艦娘となった少女達の多くが日本出身だったためその復讐ではないかとする声もあったが、根拠のない俗説として片付けられた。

この二人が英国から呼ばれたのもそれが理由である。再び、日本が深海棲艦の脅威に晒されないよう防衛するため。



13 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:40:30.45 ID:CYvm8SPd0

翌朝、金剛と比叡は巫女服のような上着とスカートを身に纏い、ホテルを後にした。彼女たちの装備は別ルートで送られる。

艤装はある一定の形状をした服装を着用していないと装着できない。その代償として、彼女達は艤装を装備している間は透明の防御壁によって一定のレベルであらゆる攻撃から守られる。

なぜ艤装が装着者の服装まで制限するのか、その理由は未だ分かっていない。艤装整備を担当する一部の技術者からは「エロ艤装」と揶揄されることさえあった。

金剛達は自身の制服にこそ不満はなかった。一部の艦娘にはもはや痴女にしか見えないような服装をした人物もいると聞いている。それに比べればまだ自分達はマシだった。

二人は狭苦しいバスに揺られ、同乗者の注目を集めながら、鎌倉から横浜へと移動し、横須賀鎮守府へと到着した。

もっとも、嘗て横浜に存在した鎮守府と同一のものではないため、軍事史的な観点から言えば、厳密には(新)を付けるべきではあるのだが。

この街も嘗ては深海棲艦の被害を受けて焦土と化していた。だが、今では復興が進み、以前のような工業都市の風格を取り戻そうとしていた。

街には未だ更地や壊れた建物の残骸などもちらほら見えたが、商店街の人々には活気が戻り、笑顔や談笑も見えた。

横須賀鎮守府は小さな港の隣に建造されていたが、設備は重厚であった。大きな門をくぐり敷地内へ入ると、至るところに軍用車両やトラックなどが見られた。

港には遠征用に用いられる大きな船もあった。吹く風が潮の匂いを運んでくる。

まずは約束していた人物との挨拶からだ。金剛と比叡は案内板を見て、鎮守府の執務室に向かった。

14 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:41:37.04 ID:CYvm8SPd0

「英国生まれの艦娘、金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」

「同じく比叡です! これからよろしくお願いします!」

二人は勢いよく扉を開け、部屋に入った。

執務室には質素な机とパソコン、それに幾つかの植木とソファが置かれるだけだった。壁には簡素な掛け軸が飾られているだけで、派手な装飾は一切なかった。

まるで持ち主の謙虚さと厳格さを示すような部屋であった。

その部屋の主を見て、金剛の目の色が変わった。机の前に背を伸ばし立っていた中年の厳つい男。彼こそ金剛が再会を切望していた人だった。

「提督・・・!」

金剛は獲物を見つけた猟犬のようにその男へ飛びつく。机の隣にいた女性にも気づかずに。

「提督ッ、会いたかったデース!!」

英国淑女と言うよりカエルのような様子で金剛は提督に抱きついた。手足でしっかりと提督を掴み、離そうとしない。

提督の方も彼女が抱きつこうと微動だにすることもなく、その直立姿勢を崩すことはなかった。

「こ、こら・・・離れろ・・・!」

「提督~、再会のKissをお願いしマース・・・!」

唇をタコの字にし、金剛は横須賀鎮守府の提督にくちづけを迫る。

「馬鹿者! そういうはしたない行動は慎めと何回言ったら分かるんだ!?」

提督は力の限り怒鳴る。幼子どころか大人ですら確実に泣き出しそうな叱責だったが、金剛は動じない。

「もう~!提督ったらそんなSadなこと言わないでくだサ~イ! 私のLove、受け取ってくだサ~イ!」

「お、お姉さま・・・。とりあえず今はやめましょう・・・? ねっ?」

見かねた比叡に制止され、渋々金剛は提督から離れた。


15 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:42:47.42 ID:CYvm8SPd0

ようやく彼から離れ、改めて敬礼の姿勢を示した金剛達を見て、提督も満足げに頷く。

「改めて挨拶させて頂こう。私がこの横須賀鎮守府の総司令、伊吹龍だ。今後は私の指揮下に入り、関東付近の海を防衛してもらう。宜しく頼む」

「Yes,sir!」

「はい!」

二人は先程の醜態とは打って変わって、非常に綺麗なポーズの敬礼を見せた。その二人を見た伊吹はようやく厳しい顔を緩ませた。

そしてこの時金剛は、初めて伊吹の隣に長身の美女が立っていることに気付いた。目線が合い、美女は微笑みながらこちらを向いた。

「はじめまして、元気な戦艦さん方。この鎮守府の秘書官、正規空母の赤城と申します。

秘書官としての業務の他、この鎮守府での戦闘指揮を勤めています。戦闘の助言が必要でしたら、いつでも伺ってくださいね」

穏やかな表情で、背の高い長髪の美女が二人に頭を下げ挨拶をする。

女性としては高めの身長を持つ金剛達でさえ、赤城に頭が並ばない。恐らく170cm以上はあるだろう。街を歩けばモデルのスカウトが彼女に声を掛けないはずがない。そんな美人だった。

長く艶やかな黒髪がその美しさを更に際立たせており、まさに大和撫子といった風貌であった。

「今、この鎮守府には貴方達以外の戦艦がいません。私も四年前の戦いで負傷して艤装が装備できなくなり、前線には出れない身です。貴方達のご活躍、期待しています」

「All right!! 私達に任せてくだサーイ!」

「気合!入れて!行きます!」

二人は自信満々で答えた。

「その調子で頼むぞ。とりあえず各部屋の案内をしてもらった後、出撃命令が出るまで待機していてくれ」

「はい!」


16 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:44:58.58 ID:CYvm8SPd0

挨拶を終えると、金剛はチラリと伊吹を見た後、赤城を見た。

そして再び伊吹を見た後、また赤城を見つめる。その繰り返しだ。

「Excuse me? 赤城さんは、提督とはどういったゴカンケイで?」

「はい?」

赤城は不思議そうな顔をした。

「私と提督は、ただの部下と上司ですが・・・?」

「Oh!それは失礼しまシタ! Sorry!」

金剛は提督と赤城に丁寧に頭を下げ、退出しようとした。比叡もそれに倣う。

だが、金剛は思い出したかのように赤城へ向き直った。

「However、赤城さんにひとつだけ言っておきマース・・・!」

「なんでしょう?」

「提督のハートを掴むのは、この私デース!」

金剛は親指で自身を指差し、高らかに宣言した。その直後、豪快な音を立てて、扉が閉じられた。次いで、比叡が困った顔をしつつ丁寧にお辞儀して去って行った。

騒がしかった部屋に、再び静寂が訪れた。

「すまんな。あの娘は昔から少し無礼な振る舞いが多くてな・・・」

頭を抱えて、伊吹は嘆いた。

「いえいえ。あのくらい元気があったほうが、戦場の士気は上がりますな」

赤城は微笑みながら、胸中で新たにできた後輩のことを考えていた。

戦艦の艦娘は強力な砲撃力を備えている。さらにあの二人は戦艦の中でも例外的な存在である。

あの二人が来たことで、この鎮守府の戦力は大いに増すだろう。

17 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:46:59.75 ID:8CTu9WN70

執務室から出た後、少し離れた廊下で金剛は比叡に叱られていた。

「お姉さま!いくらなんでもアレはやりすぎです! いくら司令に久々にお会いできたからといって・・・」

「Sorry...。私提督に会えてHappyだったからつい・・・!」

妹に叱られ、金剛はいつになくへこむ。

「もう・・・。たまには私のこと見てくれたっていいのに・・・」

比叡は静かに呟いた。もっとも、へこんでいる姉にそのつぶやきが聞こえたかどうかは微妙なところであるが。

「およ?」

「あらあら、新人の艦娘さん?」

そこに、長髪の美少女と、その美少女と似た顔付きの短髪の少女が現れた。二人ともお揃いの緑のセーラー服と上履きだった。

二人とも女子高生くらいの風貌に見える。

「貴方達は?」
「Who are you?」

金剛と比叡が尋ねた。

「よくぞ聞いてくださいました! 駆逐艦、睦月型一番艦の睦月なのです!」

短髪の少女が自分を指差し名乗る。

「同じく睦月型二番艦、如月と申します」


18 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:47:53.58 ID:8CTu9WN70

長髪の少女も自己紹介をした。

「Oh, Destroyerですね!」

駆逐艦は英語で言えばDestroyerである。

この単語を聞いた若い日本人男性は、その多くが赤い悪魔のような怪獣やサイボーグ恐竜型電脳生命体の必殺技を連想するであろう。

だが、金剛達の目の前にいる少女達は物騒な怪物にも勇猛な駆逐艦にもまるで似つかない。いかにもその辺りの街にいそうな、ごく普通の女子高生の風貌であった。

「道案内が必要にゃし? ならばベテラン艦娘の、睦月たちに任せるがいいのです!」

睦月が小さな胸をポンと叩いた。

「それじゃ、睦月ちゃんと如月先生が、お・し・え・て・あ・げ・る♪」

如月が長い髪をかきあげ、人差し指を唇につけ、セクシーな女教師を気取った。

「い、今のは・・・?」

比叡と金剛は奇妙な言動の二人に少々戸惑った。もっとも、客観的に見れば金剛もまた変わり者の一人であろう。

「にゃはは! 気にしない気にしなーい!」

睦月は唖然とする比叡達の手を引っ張り、共に鎮守府旅行を開始した。


19 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:50:35.93 ID:8CTu9WN70


如月達はその小柄な身体に見合わぬ力で金剛達を引っ張り、鎮守府を回ってゆく。

金剛達は建物の壁を見つめた。よく見るとあちらこちらの壁や扉に改修したような痕跡が見られた。漆喰が塗り直された跡が見える。

さらに、チラリと見えた一部の部屋からは黒板が確認できる。その部屋の中では小さな少女達が勉学に励んでいた。

「横須賀の鎮守府は、以前使われてた学校を改修して作ったの。もっとも、設備は充実してるし、それなりに綺麗にされてるんだけどね。ちょっと古めかしいけど、我慢してね」

「ふにゃ~、どこもかしこも厳しいお財布事情なのです! 分かってあげてほしいのです~!」

睦月がポケットから財布を取り出し、「空っぽだよ」という仕草を取った。ユーモアあふれる彼女の動作に金剛達は思わず吹き出してしまった。

やがて、如月達は執務室のある本棟を出て、その隣に建てられた工場のような建物へと金剛達を案内する。

「こちらが横須賀鎮守府の工廠です。ちょっと小さいけど、設備は万全ですよ」

小さめの体育館ほどの大きさの工廠の中には、軍艦の形状をした数多くの艤装が並んでいた。空母や巡洋艦、駆逐艦など、その種類は多岐に渡る。

その中で、小さな人の形をした生物が懸命に動き回り、艤装の調整を行なっていた。あちこちで火花が飛び散り、鉄を打ち付ける音も聞こえる。

艦娘が世界各地で認知された頃、艤装とその周りにいる生命体についても同時に認知された。

艤装およびそれに用いる弾薬等は小さな人間型生命体、通称『妖精』のみしか建造できないことが判明した。更に政治家にとっては不運なことに、その『妖精』達は艦娘にしか従わず、艦娘以外との意思疎通はできないことまで判明したのだ。

よって、人の手で艤装を直接我がものとすることは不可能であった。

さらに艤装とそれに用いる弾薬、艤装の修理に用いる特殊な修復液――艤装をバケツに入れて用いるため、艦娘たちからは通称「バケツ」と呼ばれる――などは、妖精が選ぶ特定の資材でしか作れないことも判明した。

妖精自身が何処からか持ってくることもあったが数は少なく、激しい戦闘にはとても耐えられない。そこで、艦娘達が妖精の指示に従って資材や修復液の原料を探さざるを得なかった。

如月は工廠に設けられた『開発室』にノックをして入る。そこでは、一人の少女がテレビの画面を注視していた。

「夕張さん、失礼しますね」

「おぉ!如月ちゃん、ちょーどイイところに来てくれた!」

ポニーテールの若い少女――如月達よりやや年上に見える――が、涙目で如月の手を取り話し始める。彼女もセーラー服だが、上着の丈はやや短かった。

「聞いて聞いて! 今見てた特撮の最終回なんだけどチョー泣けたのよ! 友情のために自分を犠牲にしてどこかへ去って行くラストなんかもう・・・!」

突然泣きながら、テレビ番組のことを語りだす。金剛と比叡は突然のできごとに言葉を失う。

ゆ、夕張さん・・・。新人さんです・・・」
「うぅ・・・、それでね・・・。って、すみませんすみません! 私がこの工廠で修理や装備開発、戦闘時の通信を担当してる夕張です!

腕は確かですので、よろしくお願いします!」

明るい笑顔を見せ、夕張は頭を下げた。

「戦艦の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

「同じく、金剛お姉さまの妹分、比叡です!」

夕張に倣い、金剛達も頭を下げた。

「さて、堅苦しい挨拶はこの辺にして・・・」

「始まったのです・・・」

睦月が静かに呟く。

「でね、その主人公がチョーカッコいいのよー! ちょっと短気だけど根は素直で優しくて友達思いでね!!」

夕張は誰が望んだわけでもないのに、勝手にテレビの話を始め出す。

「・・・こうなると止まらないから、そろそろ行こうかしら」

如月は静かに「失礼しました」と言い、三人を誘導して部屋を出た。

夕張は如月達がいなくなったことにも気がつかず、暫くの間自分の世界に浸って喋り続けていた。


20 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:51:53.89 ID:8CTu9WN70

工廠を見学した後、如月達は再び本棟へと向かう。執務室は本棟二階にあり、一階は食堂や浴室、艦娘が一般教養を学ぶ学習室などが設けられていた。学習室では幼い容貌の艦娘達が仲良く授業を受けていた。

彼女達の様子を窓越しに見ながら、如月達は食堂へと金剛達を案内した。

「ここが食堂よ。みんなで交代制でごはんを作ってるから、そのうち比叡さん達にも作ってもらうわね」

「はい! 気合!入れて!作ります!」

「Well...比叡のCookingは・・・」

金剛が躊躇いがちに口を開いた。その表情を見て比叡は憤慨する。

「失礼な! 私だってアレから上手くなったんですよ!今度はあっと言わせてあげますから!」

「そ、そうデスネ・・・、楽しみにしてマース・・・」

比叡に対し、げっそりとした表情で金剛は返答した。

如月と睦月は二人の会話の意味が分からず、きょとんとした表情を浮かべた。

金剛や伊吹以外は比叡の料理の危うさを知らない。確かに何を作っても黒焦げにする状況から改善はされたし、きちんと人間が食べられるものには仕上がっている。

だが比叡は、なぜか料理にやたらと辛い味付けをしたがる悪癖があった。そのせいで自分を含む何人もの罪なき者が犠牲になったことだろうか。

なんとしても比叡に当番を担当させてはならない。金剛は密かに決意した。

その後、調理室の現れた皿を片付けながら如月は説明を続けた。

「いつもは祥鳳さんや私達、第六駆逐艦隊の子や大鯨さん達が交代でごはんを作ってるわ」

「祥鳳? Who?」

「この鎮守府で唯一艦載機を運用できる、軽空母の子。とっても優しくてかわいい子よ。訳あって、今はちょっと大鯨さんという子と出かけてるけど・・・」

「Where?」

金剛に問いただされ、如月は一瞬しまったというような暗い表情を見せた。だが、すぐに明るい笑顔を取り戻し、「ひ・み・つ!」と、人差し指を口に当てて言った。

「如月、どういうことかExplainしてクダサ~イ!」

「まっ、まぁまぁ! 乙女に秘密はいっぱいあったほうが魅力的なのですよ!にゃはっ!」

金剛を睦月がやや焦って制した。納得がいかない表情のまま、彼女は睦月達に再び引っ張られた。


21 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:53:53.90 ID:8CTu9WN70

次に如月達は二人を浴室へと案内した。

風呂は銭湯のような構造で、複数人が入れるものだった。湯船には少なくとも6人以上入れそうだ。

「お風呂は交代制よ。結構ひろ~いから、そのうち一緒に入りましょ」

ここを含め、艦娘の入る鎮守府の浴室には、妖精により製造された特殊な溶液、通称「修復材」が混ぜられている。

この修復材は生物の傷の回復を早める効果があり、艦娘はその修復材が浸かった風呂に入浴することで負傷回復を促進できる。もっとも、その方法を好まない艦娘もいた。

風呂場を案内した後、如月達は三階へと上がる。三階は艦娘達の居住区だった。睦月曰く、客人用には別の階に部屋があるという。

「個室は畳と煎餅布団になってるわ。ベッドを使ってる娘もいるけど、基本みんなお布団かな」

「Oh! タタミですネ!懐かしい肌触りデース!!」

金剛は久々に触れる畳の肌触りに感激した。

「あと、金剛さん達は相部屋ね」

「えっ、お姉さまと相部屋ですか!?嬉しいです!」

比叡は大喜びで姉に飛びつき、金剛に頬ずりする。金剛は驚いたが、いつものことなので気にはしない。

「よしよし・・・」

金剛は人目を憚らず自身に抱きつく比叡を優しくなでる。まるで人懐っこい子犬とその飼い主のようであった。


22 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:55:08.96 ID:8CTu9WN70

「クマー?だれクマ~?」

その時、彼女達の騒ぎを聞きつけ、金剛と比叡に宛てがわれた部屋の隣から二人の少女が出て来た。

「新人さんみたいだニャ」

「Oh!貴方達は?」

金剛達よりやや小柄な長い茶髪を備えた少女と、短髪のほっそり手足のほっそりした少女が現れた。

「軽巡洋艦の球磨型一番艦、球磨だクマ。よろしくクマ~。ちなみに長崎出身だクマ」

茶髪の少女は左手で敬礼し、挨拶する。

「同じく多摩だニャ。猫じゃないからそこんとこよろしくニャ」

球磨に倣い、短髪の少女も挨拶した。

「英国で産まれた帰国子女の金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」

「同じく比叡です!よろしくお願いします!」

二人は手を差し出す。球磨と多摩も手を差し出し、握手を交わした。

「さて、それぞれのお部屋はこんなとこかしら。あと、医務室はお風呂場の隣で、資料室は二階ね。詳しい設備については、また追々教えていくわね」

「それでは睦月達は夕飯の準備があるから、これで失礼するにゃしぃ! 睦月達の手料理、楽しみにするがいいぞ!」

睦月は笑い、如月とともにその場を後にした。

「まぁ分からないことがあったら球磨達に聞いてくれクマ」

「今後ともよろしくだニャ」

球磨と多摩は挨拶を終えると、再び自室に戻ってしまった。まるで気まぐれな猫のようだった。

その後二人は睦月と如月の手料理を堪能したあと、煎餅布団で隣り合って眠りにつき、懐かしい畳の香りを楽しんだ。

畳に触れたのも実に10年ぶりだった。

23 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:55:59.64 ID:CIJA8RGZ0


如月達に一通り鎮守府内を案内してもらった翌日、金剛と比叡はある場所へと出かけた。

横浜市のとある墓地だった。十字架が立ち並ぶ静かな小山。風が小枝を揺らし、静かな鎮魂歌を奏でる。

二人の艦娘は、とある墓へ立ち寄った。そこには、二人の嘗ての苗字が記されていた。

ヴィッカース。それが二人の苗字だった。もっとも、艦娘になった時点で嘗ての人としての名は捨て去り、代わりに艤装の名を持つのが慣例である。

今の二人の名は、それぞれ金剛と比叡であった。

「お父様、お母様。日本に帰ってきたヨ・・・」

「お父さん、お母さん、ただいま戻りました・・・」

二人は墓を掃除し、花を供えて両親の眠る場所を綺麗にした。もっとも、墓は誰かの手で定期的に掃除されていたようで、大して汚れてはいなかった。

二人は線香に火を灯し、手を組み合わせて静かに座り、両親の冥福を祈った。

長い長い沈黙が流れた。静かな風が優しく二人に吹きかかる。一分ほど沈黙した後、二人は墓を後にしようと立ち上がる。



24 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:57:25.07 ID:CIJA8RGZ0

ふと周りを見渡すと、墓を訪れていた人を見つけた。小さな少女だ。背丈からして14歳くらいだろうか。

「こんにちは・・・」

比叡が優しく声をかける。そして、少女も花束を手にしていることに気づいた。

「貴方も、お墓参りに?」

「そう。四年前の深海棲艦に、お父さん・・・、が・・・!」

少女の突然の告白に二人は黙り込む。よく見ると少女は目に涙を貯めていた。まだその悲しみは癒えてないのだろう。二人には少女の悲しみが痛いほど伝わってきた。

「ねぇ!なんで!? アイツ等あんな酷いことするの!? なんで?なんでなのよ!!」

二人は何も答えられなかった。深海棲艦が何故人類を殺戮しようとするのか、何が目的なのか。それは誰にも分からない。

少女は堰が切れたかのように泣き出す。その悲しみの涙は誰にも止められない。

二人は何も答えられず、ただ黙って少女の肩を叩くだけしかできなかった。


25 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:58:50.26 ID:CIJA8RGZ0


その泣き声は金剛の脳裏にあの日の光景を思い出させた。


10年前の惨劇を。


血だらけの腕。


瓦礫となった船。


燃える港。


怯える妹。


助けてくれたあの人。


そして、何もできなかった自分。


金剛の手が震え、自然と拳を形作る。


あのとき何もできなかったことへの悔しさと、深海棲艦への怒り。


そして、無力だった自分への怒りで。


26 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 14:59:36.40 ID:CIJA8RGZ0

その時だった。突如、二人に通信が届いた。

「緊急通報、東京湾沖に深海棲艦が出現。戦艦ル級2体と空母ヲ級1体だ。直ちに出動せよ」
提督からだった。

「了解! 比叡、行きマス・・・!」

「はい・・・!」

金剛は泣いている少女に向き直る。そして、その肩を優しく叩いた。

「安心して。深海棲艦は私が止めてみせマス・・・!」

少女に、力強く宣言した。

そして二人は走り出した。輸送班が艤装を運んでくれる最寄りの海まで一直線に。

未だ涙の乾かぬ少女はしばらく二人を見ていたが、あっという間に金剛達は遠い影となって見えなくなった。


27 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:01:35.22 ID:CIJA8RGZ0


「比叡!」

「は、はい!」

走りながら、金剛は比叡に叫ぶ。

「これ以上、あんな奴等のために、誰かの涙を増やすのはNoデス!」

「はい!」

「私はみんなにSmileでいてほしいデス!」

比叡は金剛を見た。その横顔には彼女の決意が見て取れた。二度とこんな悲劇を繰り返してはならない。そんな強い思いが。

「比叡、貴方もOkay!?」

比叡に向き直り、金剛は言う。

比叡の意思もまた、金剛と同じだった。彼女もまた、誰かの涙は見たくなかった。隣を走る、最愛の姉の涙も。

「はい! お姉さまとなら! どこまでも!!」

二人は最寄りの港へと到着した。そこには輸送班が待機し、既に艤装を港へとおろしていた。

「Come here, 『金剛』!」

「来てください、『比叡』!」

二人は自分の艤装を呼び出す。その召喚に応じて、軍艦の形状をした艤装が二人の元へと飛び出す。

艤装は軍艦の形状から一瞬で変形し、金剛と比叡の身体に装着されてゆく。腰に砲塔が装備され、足に艤装が変形した浮上装置が装着される。

「金剛、出撃しマース! 」

「同じく比叡! 気合!入れて!行きます!」


28 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:04:21.04 ID:CIJA8RGZ0

鋼鉄の装備を得た二人は海へと進撃していった。艦娘達は艤装を装着することで、自身の周りに透明の防御壁を形成するのだが、この防御壁は海上に浮上する役割も担っていた。

浮遊の役割は足底に形成された防御壁が担っている。いわば、艦娘は大きなお皿の上に乗って水上を移動していると言ってもいいだろう。

東京湾沖に出現したのは空母ヲ級と戦艦であった。

前者は不気味な魚のような艦載機を操る、被り物をした海の魔女。後者はフジツボのような砲塔を肥大化した両腕に備えた怪物だった。

先に哨戒任務で出撃していた軽巡洋艦の艦娘である球磨と多摩がなんとか応戦していたが、いかんせん戦力に差が出ている。軽巡洋艦で戦艦を撃破するには火力不足であり、いくら歴戦の艦娘である二人でもこの戦況差を覆すのは難しかった。

何とか戦艦1体は大破炎上させて動きを止めたものの、艦載機を自在に操るヲ級と戦艦の連携攻撃には大いに苦戦させられていた。

かと言ってここで撤退はできない。殆ど傷もないこの戦艦と空母を放っておけば、東京湾の港は蹂躙され、10年前のように再び死の海と化すであろう。

だが激戦で既に二人は傷を負っていた。いずれも既に片手を負傷し、傷ついた体は動きも鈍くなりかけていた。

「多摩ー、援軍はまだかクマー!?」

「今提督が呼んでくれたニャ!もう少し持ちこたえるニャ!」

二人が敵の砲撃をマトモに受け、中破したその時だった。

「夕張より球磨へ。8時方向より、援軍が高速で接近中!!」

夕張から通信が届いた。


29 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:05:15.09 ID:CIJA8RGZ0

「お待たせしまシター!」

波を切り、金剛と比叡が高速でその場に駆けつけた。

「助かったニャ・・・」

ほっとした表情を浮かべ、多摩が胸をなでおろす。

「高速戦艦なのに遅いクマ!もう少しで死ぬところだったクマー!」

悪態を付きながらも球磨はどこか嬉しそうな表情をしていた。

「後は、私たちにお任せくだサーイ・・・!」

金剛と比叡は球磨達を下がらせ、2体の深海棲艦へと向かった。

艦娘達は艤装の種類によってその戦闘スタイルは大きく異なる。

例えば、射程が短く耐久力が低い反面で速力に優れる駆逐艦の場合、スピードを生かした接近戦が主な戦闘スタイルとなる。対して、戦艦は重装備と圧倒的なパワーの代償として、速度がやや遅いのが特徴である。

よって、遠距離からの砲撃戦と他の艦娘への援護砲撃が主体となる――もっとも、動きの鈍さを承知の上で敢えて殴り合いに挑もうとする戦艦の艦娘もいるのだが。

しかし、金剛と比叡は違う。彼女達の艤装は、戦艦としては例外的に高速移動が可能だった。このふたりの性格もあってか、彼女たちは接近戦を好んで用いた。

二人は縦横無尽に海を動き回り、主砲を次々と撃ちながら戦艦に近づく。水柱が深海棲艦の周りに立ち、行き先を阻む。

あっという間に金剛と比叡は戦艦ル級を挟み撃ちにし、左右から砲弾を撃ち込んで爆破した。

30 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:06:07.67 ID:VvkQmCnT0

空母ヲ級の表情に驚愕が浮かぶ。砲撃の威力から、この怪物にも金剛達が戦艦級の戦闘力を持つ敵であることを理解していた。それがこんなにも速く移動できるなど、予想できなかった。

だが、ヲ級も黙ってはいない。艦載機を全機発艦させ、金剛達を爆撃しようと動いた。

それでも金剛は敵艦載機の爆撃などお構いなしである。機銃に傷つきながらも自ら突撃し、ヲ級の腕を掴んだ。

途中で何体か艦載機を殴り飛ばし、幾つかは海へと撃ち落とした。

「I got you!!」
金剛は笑みを浮かべ、掴んだヲ級をはるか上空へと投げ飛ばす。

「Fly away!!」

比叡はその隙を逃さない。すかさず、彼女は砲塔を落下するヲ級へ向けて照準を合わせる。

「主砲、斉射!!」

金剛もまた、主砲をヲ級に向け、直ぐ様砲撃する。

「Burning Love!!!」

金剛が天に向かって叫び、炎の裁きをヲ級に与える。比叡と金剛、二人の一斉射撃がヲ級の身体を撃ち抜いた。

その衝撃に耐え切れず、ヲ級は空中で派手に爆散した。


31 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:08:28.85 ID:VvkQmCnT0

大破したまま動かず戦況を見守っていた戦艦タ級も、仲間達が全滅したことを悟った。傷ついた身体のまま海の底へと潜り、去って行った。

「Yes, Congratulation!」

「お姉さま、やりました!」

勝利を確信し、二人は抱き合い、その輝かしい栄光を味わった。

互の健闘を称えるため。そして、お互いに生きているという実感を肌で味わうため。

離れた距離から戦いを見守っていた球磨と多摩は頼もしい仲間が増えたことを確信し、顔を見合わせて静かに微笑んだ。

こうして、金剛と比叡の日本での初陣は輝かしい勝利に終わった。

だが、それは彼女達艦娘と深海棲艦との激しい戦いの幕開けに過ぎなかった。

勝利に喜ぶ彼女達を、丸い鋼鉄の球体状の何かが深淵から見つめていた・・・



32 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:09:27.01 ID:VvkQmCnT0


次回

攻撃隊、発艦始めてください!

次回は6月14日頃投稿予定です。遅くなったらごめんなさい

33 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/05/30(土) 15:15:17.95 ID:VvkQmCnT0
ちなみにライダーコラボなど前作のSSも誘導出しときます


・オンドゥルこれくしょん四部作

祥鳳「私が轟沈・・・?」 剣崎「ウゾダドンドコドーン!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425207826/

弦太朗「俺は全ての艦娘と友達になる男、如月弦太朗だ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425986661/

比叡「カレーができました!」橘さん「これ食ってもいいかな?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427537012/

睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428572159/


上とは無関係のライダー×艦これSS
響「・・・強くなりたい」 響鬼「よろしくっ、シュッ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430222562/


その他
那智「艦これ2周年だ!」 那珂ちゃん「センターは那珂ちゃんでけってーい!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430276986/

68 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/26(金) 23:59:45.49 ID:0phyMnM50
予定よりも大幅に投稿が遅れて申し訳ありませんでした




第二話 攻撃隊、発艦始めてください!


「クマ~! 楽チンだクマ~♪」

「ご迷惑をおかけします、ニャ・・・」

球磨と多摩は戦艦の艦娘達におぶられ、病院まで運ばれていた。

彼女達は気丈にも大丈夫だと主張したが、だらりとぶら下がった腕と血だらけの二人を見た金剛と比叡が放っておくはずもなかった。

「それじゃあ、球磨達は入院するクマ。あと宜しくクマ~」

「All right!! 私たちにお任せくだサーイ!」

金剛はドンと胸を叩いた。

「あ、祥鳳のことを宜しく頼むクマ」

「祥鳳?」

「あの子は気負いすぎて倒れるタイプだニャ。できれば気にかけてやってほしいニャ」

比叡の背中の上で、多摩が言った。

「わかりました、気合!入れて!気にかけます!」

「訳わからんクマ・・・」

69 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:00:39.58 ID:qAe6cnL50


その後、球磨達は長期入院が決まった。幸い、二人の怪我も全快まで3週間あれば十分だという。

今は金剛達もいるし、あれ以降深海棲艦の動きもない。万一何かあっても替りの軽巡洋艦もいる。

二人はしばらくのんびりと傷を治すことにした。

ある日、腕に包帯を巻いた球磨は部屋から抜け出し、別の病室の前に立っていた。その病室から、看護婦が扉を開けて出て来た。

「看護婦さん、何かは変化はあったクマ?」

看護婦は黙って首を振った。その回答は球磨を気落ちさせるには十分なものだった。

その病室には、「鳳翔」という名札がぶら下げられていた。



70 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:01:33.82 ID:qAe6cnL50

球磨たちを救出してから2週間が過ぎたが、金剛は祥鳳という名の艦娘に会えなかった。

大鯨という艦娘から、金剛と比叡が横須賀で初出撃する直前に祥鳳は睦月と如月を連れて長期間の遠征に出たと聞かされた。

大鯨は潜水母艦という特殊なカテゴリーの艤装を装備できる艦娘で、いつもクジラの描かれた白いエプロンを着ている朗らかな少女だった。

彼女の艤装は戦闘には不向きであり、専ら仲間達の艤装のエネルギー補給や潜水艦の艦娘との共同任務が主な役割であるが、潜水艦の艦娘自体が少ないため任務は少なく、普段は横須賀鎮守府で艦娘達の家事を手伝っているという。

彼女に祥鳳について尋ねてみるとこう答えた。

「祥鳳お姉ちゃんですか? すごく綺麗で、すっごく優しい、私達のお姉ちゃんです!」


どんな艦娘なのだろう。金剛と比叡は思った。


71 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:03:41.37 ID:qAe6cnL50


ある夜、金剛は港の周りを散歩していた。英国とは違い、横須賀の夜風は暖かく、金剛はそんな横須賀を散歩するのが好きだった。

船着場の近くを歩いていると、彼女は大きな船が到着しようとしているのを発見した。

眺めていると、三人の艦娘がボロボロになって船から降りてきた。

そのうちの二人は金剛もよく見知っている。如月と睦月だ。二人は服こそやや傷んでいるものの、大きな傷はなさそうだ。

その二人が自分よりも背丈の大きな、胸にサラシのようなチューブトップを巻き、左肩を露出させた黒髪の少女に肩を貸して降りてきた。

いつの間にか伊吹提督が船の前に仁王立ちして厳しい目つきで戻って来た艦娘達を見つめた。その隣には夕張も落ち着き無い様子で立っていた。

「軽空母・祥鳳、および駆逐艦如月、睦月。総員ただいま遠征より帰還しました。私の艤装のみ大破、如月と睦月は無傷です」

彼女が祥鳳か。金剛はようやく探していた人物を見ることができた。もっとも、話しかける暇はなさそうだった。

「ご苦労。夕張、急いで艤装の修理を頼む」

「はい!」

夕張は祥鳳の艤装を外しながら、身体のあちこちが傷だらけの彼女を目にした。特に右脚は重傷のようで、艤装が黒く焦げ、崩壊した部分から大量の血が流れ出ていた。

「大丈夫ですか祥鳳さん!?」

「えぇ。私は大丈夫・・・。ちょっと脚を痛めただけだから・・・」


72 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:04:41.55 ID:qAe6cnL50


艤装を外す作業を終え心配そうに祥鳳を見つめる夕張をよそに、三人はゆっくりと本棟医務室へ歩こうとする。

「祥鳳、高速修復材は使用するか?」

伊吹が言った。

「もちろんです」

「そうか」

一言だけ提督は答えた。

彼は高速修復材の使用を極力好まない。確かに艦娘達に高速修復材を使用すれば傷の回復は早まるし、全治半年レベルの怪我も数日程度で回復する。

だが、それは少女達を再び辛い戦場に送り出すことと同義である。故に、伊吹はできる限り艦娘達が高速修復材を使用せずに傷を治せればと願っていた。

もっとも、艦娘達の考えは正反対であり、少しでも戦場に赴いて自分も役に立ちたいと考える者が多い。

そして伊吹もそれを理解してるがゆえ、自身の統括する横須賀鎮守府では修復材の使用を艦娘の任意制にしていた。球磨や多摩を入院させたのも、彼女たちの意思を尊重してのことだった。

金剛は少し離れた場所から、去って行く少女達を静かに見つめた。


73 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:06:44.46 ID:qAe6cnL50


光も届かぬ深淵の中、海の悪魔は球状の使い魔から報告を受け取っていた。

深海棲艦のコミュニケーションは人間には探知できない音波で行われる。

球体の飼い主は艦娘に関するある情報を受け取っていた。その脳裏には、傷ついた仲間を背負う金剛達の姿が映し出された。

(コレダ・・・)

海魔は静かに唇を歪めた。



74 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:10:20.15 ID:qAe6cnL50


翌朝、金剛と比叡は日課のランニングを行なっていた。横須賀鎮守府は学校を改装したため、グラウンドが広い運動場に改装されていた。その運動場を二人は走り回っていた。

その最中、二人は運動場の端で弓の鍛錬を行う赤城と祥鳳を見かけた。赤城は秘書官の衣装から弓道着へと着替え、対して祥鳳は左肩を半分露出させた涼しげな格好だった。

「はっ!」

祥鳳が矢を放つと、衝撃が巻き起こり、リボンで結ばれた後ろ髪と前髪が風になびいた。

矢は一瞬のうちに艦載機へと変わって天空を飛び回り、グラウンドに立てられた丸い的に銃撃を放った。

だが、的の真ん中に命中したのは10発中5発のみだった。それを見て、赤城はため息をついた。

「祥鳳さん、右脚に力が入ってません。まだ無理しなくていいんですよ?」

「だっ、大丈夫です! 私だって軽空母とは言え空母の艦娘です!このくらいでは・・・」

「私が艤装を装備できない今、この鎮守府で艦載機を運用できるのは貴方しかいないのよ。それを忘れないでくださいね」

「はい・・・」

「今日はこのくらいにしましょう」

「はい・・・」

75 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:11:03.74 ID:qAe6cnL50


「Hey,Good Morning! 朝から練習デスか!」

ようやく祥鳳を見つけた。金剛は勢いよく挨拶を交わした。

「あ、貴方は・・・?」

戸惑いながら祥鳳は遠征前に伊吹提督が言ってたことを思い出した。

そう言えば南方に出向となった伊勢さんと日向さんに替わって、高速戦艦の艦娘が来るって言ってたっけ。

「金剛型一番艦、高速戦艦の金剛デース!」

「同じく金剛型二番艦、金剛お姉さまの妹分、比叡です!」

「け、軽空母、祥鳳です。よろしくお願いしますね」

なんなのだろう、この人達は。

祥鳳はやや引きながらも静かにお辞儀した。

特に金剛という方の艦娘。高速戦艦だとは聞いていたけど、妙にテンションが高くてしゃべり方も変な子だ。

ちょっと苦手かな・・・。

祥鳳はこれからこの二人とうまくやっていけるか、心配になった。


76 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:11:56.32 ID:qAe6cnL50


訓練が終了した後、祥鳳は休息を取ろうと自分の部屋へと戻った。

彼女の部屋は布団と着替えのほかは、机と時計ぐらいしかない質素な部屋だった。

机には写真立てといくつかの本のみが置かれているだけで、ほかにはほとんど何もない。クローゼットの中も持っている服の数は少ない。

女の子らしくないよね。布団を敷きながら祥鳳は自嘲した。

もっとかわいいクマのぬいぐるみとかお花でも飾ればいいのに。球磨からそう言われたこともある。

でも私は艦娘。もう普通の女の子として生きることはできないし、幸せな道はもう選べない。

だからこれでいいよね。

ふと彼女は写真立てを手にした。その写真の中で、和服を着た穏やかな表情の女性と祥鳳が隣り合って笑っていた。

「鳳翔さん・・・」

祥鳳は写真を抱きしめながら布団に倒れこんだ。写真の中の女性をじっと見つめながら、彼女は静かに枕を濡らした。



77 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:13:35.35 ID:qAe6cnL50


気がつくと、私は砂浜にいた。


蒼い透き通った海。眩しい太陽。雲一つない空。


「お姉ちゃん、すごいよ! サンゴがいっぱい!」


海から私を呼ぶ幼い声が聞こえた。


私の妹、みずほ。


かわいい、かわいい、私の大切な妹。


「こら。沖まで行っちゃ危ないわよ!」


沖合まで走ろうとした妹を追いかけようとしたその時だった。


突然、砲弾が砂浜に雨となって降り注いだ。


気がつくと、両親のいた木陰は既に爆風で吹き飛ばされ、ちぎれた手足と血が吹き飛んでいた。


「あ、あぁ・・・!」


海から得体の知れない怪物が現れ、今にもみずほに襲いかかろうとしていた。


「お姉ちゃん!」


みずほが私に助けを求めた。


ダメだ。怖くて足がすくみ、動けない。


怪物は怯えるみずほにその牙を剥いて襲い掛かった。


悲鳴が聞こえた。


「いや・・・、いや・・・!」


私は最悪の事態を予感し、目を閉じてしまった。


しばらくして目を開くと、怪物とみずほはそこにいなかった。


「みずほ、みずほ・・・!」


私のせいだ


お姉ちゃんなのに、私は妹を守れなかった・・・




78 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:14:49.72 ID:qAe6cnL50


「みずほっ!」

冷や汗と空気の感触が祥鳳を現実へと引き戻した。

「またか・・・」

額の汗を袖で拭い、窓に目を向けると、既に日は落ちて赤い光が差し込んでいた。

もう夕方だ。いけない、早く夕飯の準備をしないと。

祥鳳は気持ちを無理やり切り替え、服を着直して部屋を飛び出し階段を駆け下りた。

痛む脚を引きずりながら一階にたどり着くと、駆逐艦の艦娘・電が廊下を歩いていた。

「あっ、祥鳳お姉ちゃんなのです!」

後ろ髪を小さく結んだ背の低い少女は、祥鳳に気付くと嬉しそうに駆け寄った。だが、ちょっと勢いが突きすぎていた。

「はにゃあーっ!?」

彼女は思いっきり廊下で滑って転んでしまった。慌てて祥鳳が駆け寄り彼女に手を貸した。

「電、ちゃんと前を見て歩かないとダメでしょ? これでもう何回目?」

「はう・・・。ごめんなさいです・・・」

祥鳳はうっかりした少女に注意しつつも、その顔は緩んでいた。


79 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:16:35.79 ID:qAe6cnL50


「あっ、祥鳳お姉ちゃんだ!」

「おかえりなさい」

「おかえりー! お土産はー?」

三人の小さな少女達、雷、響、暁が学習室から出てきて、祥鳳を取り囲んだ。浴場から出てきた大鯨も加わり、一斉に彼女の帰りを歓迎した。

「祥鳳お姉ちゃん、おかえりなさい! 脚は大丈夫? 無理しなくても私が作るよ」

大鯨は祥鳳にぎゅっと抱きつきながらその体調を案じた。

「えぇ、とりあえずはね。ごはんならちゃんと作れるから、心配しないで」

祥鳳は妹分の頭をやさしく撫でながら言った。

艦娘は艤装を装着することで身体能力が強化され、肉体の負傷もある程度ならばすぐに回復してしまう。だが、それでも祥鳳は脚を引きずっていた。

それだけ先の遠征で受けた傷が重いのであろう。

「祥鳳お姉ちゃん、今日の晩ごはんは何なのです?」

電が問いかけた。艦娘の食事は基本的に当番制になっており、時には提督自ら料理を振舞うことさえもあった。

青葉や衣笠など夜間の哨戒任務がある艦娘を除けば横須賀鎮守府の食事当番は基本的に電達と遠征に出かけてない艦娘で回していた。

「そうね・・・。ほうれん草のおひたしに、アジの塩焼きかな?」

「えーっ! 私オムライスがいい!」

黒い長髪の少女、暁が口を尖らせた。


80 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:17:34.70 ID:qAe6cnL50

「だーめ。どうせあなた達、大鯨にわがまま言って好きなモノばっかり食べさせてもらってたんでしょ? 成長期なんだから、好き嫌いしないの」

「そんなことないもん! ちゃんと野菜も魚もたくさん食べてたよ! ねぇ、大鯨お姉ちゃん?」

暁は大鯨に同意を求めたが、当の本人は笑顔のまま黙って目を逸らしてしまった。

「まったく・・・。大鯨を困らせちゃダメでしょ?」

「それより祥鳳お姉ちゃんお腹空いた! 早くごはん作って!」

短髪の少女・雷が急かす。

「雷ちゃん、急かしちゃダメです。祥鳳お姉ちゃんは怪我してるのです」

「あっ、そうだ、ごめんねお姉ちゃん。じゃあ私達も手伝うね!」

「はいはい。それじゃ、みんなで夕飯作りましょうね」

「はーい!」

年下の少女達に囲まれ、祥鳳は二人に挨拶をしてその場を後にした。

「なかよしデスネ・・・」

「えぇ・・・」

その様子をたまたま散歩していた金剛と比叡も目にしていた。

少女達に優しい笑顔を向けて食堂へ向かう祥鳳達を、二人は微笑みながら見送った。

81 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:18:23.34 ID:qAe6cnL50


「金剛さん達は、夕飯は和食で大丈夫でしたか?」

「No problem! 問題ありまセーン!」

「そう、なら良かったです」

その日の夕飯はほうれん草のおひたしにアジの塩焼きと野菜の煮物だった。魚の塩加減は控えめだったが、それが却って旨味を際立たせていた。

「やっぱり祥鳳お姉ちゃんのごはんはおいしいのです!」

無邪気な笑顔を見せ、電が言った。が、大鯨に向けて慌てて付け加えた。

「あ、えっと・・・。大鯨お姉ちゃんの作るごはんがおいしくないってわけじゃなくて、久しぶりに祥鳳おねえちゃんのごはんを食べるのが嬉しかったのです・・・」

「そんな風に思ってないから気にしなくていいよ」と、大鯨。

「ふふ。ありがとね、電」

祥鳳は隣に座っていた少女の頭を優しく撫でた。人前で撫でられるのが恥ずかしいのか、電は少し俯いて顔を赤くし黙ってしまった。

「Oh! やさしいお姉さんネ。祥鳳」

「そっ、そんなことないです」

祥鳳はたちまち頬を染めた。その隙を雷たちは逃がさない。

「あー! 祥鳳お姉ちゃん赤くなってる!かわいい!」

「ハラショー、かわいいよ・・・」

今度は祥鳳が俯く番だった。金剛と比叡は夕飯をつつきながら、少女たちのやり取りを見守っていた。


82 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:20:18.74 ID:qAe6cnL50


その翌日の午後、金剛は親交を深めようとティータイムに祥鳳を誘おうとした。だが、彼女の姿はどこにも見られなかった。

鎮守府中を回って探そうと考えていると、執務室から祥鳳の声が聞こえた。

「この子達はまだ子供なんですよ? 実戦なんて早すぎます!」

声は会議室から発せられたようだった。どうやら、何かしらの話題で揉めているようだった。

「しかし、現在の戦力不足は目に見えている。伊勢や日向も当分東南アジアからは帰ってこれない。少しでも今は戦える人材を増やさねば・・・」

「大丈夫です、その分私が戦います!」

「祥鳳さん、貴方も分かってるはずですよね? ひとりでも多くの艦娘が欲しい今の状況を。貴方一人がいくら頑張ったところで、絶対的に数が不足してます」

赤城の口調はいつも通り穏やかだが、どこか重苦しい響きがあった。

「Hey!皆さん、私達抜きで何を話してるんデス? What happen、祥鳳?」

深刻そうな空気を感じた金剛は、それを打開しようと勢いよく扉を開けた。

「提督が、あの子達を出撃させると・・・!」

「勿論、十分な訓練はした上での話だ。出撃は何も明日明後日の話じゃない」

伊吹が静かに言う。

「大丈夫よ!私達だって訓練すればちゃんとできるもん!」

「そうよ! もっと私達を頼っていいのよ?」

暁と雷がそれぞれ自信有りげに胸を叩いた。彼女達も軍艦の名を持つ艦娘だけあって、既に艤装をすることだけはできていた。

もっとも、四人とも武器をろくに扱ったこともない素人同然の身であったが。


83 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:21:59.89 ID:qAe6cnL50

だが、彼女達の自信はすぐさま祥鳳の怒鳴り声にかき消されてしまった。

「あなた達は何もわかってない! どれだけ深海棲艦との戦いが怖くて危険なのか・・・!」

穏やかな祥鳳が怒鳴ることは滅多になく、驚いた雷達は黙り込んでしまった。

「とにかく、私は絶対に賛成できません!」

それだけ言い残すと、祥鳳は黙って去って行った。

部屋に暫し沈黙が流れた。

「祥鳳お姉ちゃん、あんなに怒ったの初めてなのです・・・」

電はすっかり怯えてしまい、か細い声で言った。

「もっと私達を頼ってくれてもいいのに」

「そうよ! 私たちだって立派なレディーなんだから!」

「どうだろうか」

「え? 何か言った響?」

「・・・なんでもない」


84 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:23:59.05 ID:qAe6cnL50


執務室を出た後、祥鳳は屋上の窓で佇んでいた。

気分が沈んだ時いつもここで佇むのが彼女の癖だった。いつもならばここから見える静かな海や山が疲れた彼女の心を癒すのだが、今回はいくら景色を見ても気は晴れなかった。

なんで、あの子達は分かってくれないの?

そう考えていると、後ろの扉が開く音が聞こえた。振り向くと金剛と比叡が立っていた。

「Hey 祥鳳、どうしてそこまであの子達を戦いにだしたくないんデス?」

金剛は祥鳳に近づき、顔を覗き込みながら尋ねた。

なんだろう、この人は?
祥鳳は腹立たしかった。なんでこの人は、人の触れられたくないところにズカズカと土足で入ってこようとするの?

やや間が空いたあと、祥鳳が口を開いた。

「さっきも言いましたよね? 子どもが戦う必要なんかないって」

「訓練ぐらいさせてあげれば良いと思いマース・・・」

金剛にも確かに幼子を戦場に連れ出したくないという考え自体は理解できる。だが、戦闘演習にすら参加させようとしないのはさすがに過保護に思えた。

「現状は私や金剛さん達だけで問題ないはずです」

「But,深海棲艦と戦えるのは私達だけデース・・・」

「訓練が終わったら、いつかはあの子達も戦場に駆り出されるんですよ! そもそも女の子がこんな戦いする必要なんてないじゃない!」

金剛は驚いた。

女である自分が戦場を駆けることに何ら疑問を持たず、他の艦娘もそう割り切っていると考えていた。

だが、祥鳳は自分と違う考えを持つことに初めて気付いた。


85 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:25:33.17 ID:qAe6cnL50

「祥鳳。Worryな気持ちはわかりますけど、少しはThunder girlsのこと、Beleiveしても良いと思いマース・・・」

「いい加減にして!」

祥鳳は怒鳴った。

「あなたは何も分かってない! あの子達まで、みずほや鳳翔さんのようになったら・・・!」

「鳳翔? みずほ? Who?」

しまった。なんでこう余計なことを口にしちゃうんだろう。

「祥鳳、その人たちは誰デス?」

「あなたに言う必要なんかありません!」

だが、金剛はじっと祥鳳を見つめ続けた。その眼差しに耐えられず、祥鳳は口を開き始めた。

「私は昔、剣埼祥子って名前でした。昔は妹と暮らしてたんですけど、両親が離婚して・・・。妹は高崎って苗字になりました・・・。その妹の名前がみずほです」

胸の中のつかえを吐き出すように、祥鳳は声を紡いでいった。

「でも10年前に沖縄に行って、もう一度再婚してやり直そうって言ってくれたんです。

私もみずほも、また一緒に暮らせるって喜びました。なのに、深海棲艦のせいで、両親も、みずほも・・・!」

震える声で祥鳳は声を絞り出した。

「それから、私や電達は鳳翔さんに引き取られました。でも、鳳翔さんも4年前の戦いで意識不明になって目を覚まさないまま・・・。

これ以上、あの子達が辛い目に逢うなら、私がその分がんばればいいんです!」


86 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:27:48.57 ID:qAe6cnL50

「祥鳳が心配する気持ちも分かるけど、私達が守ってあげればNo problemね!」

「それでも、万が一のことがあったらどうするんです? 轟沈したら、死んだら始末書なんかじゃ解決しないんですよ!」

「No problem! 私がみんな守りマース! 貴方も、あの子達も・・・!」

金剛は自信を持って言う。だが、その言葉は祥鳳には届かない。

「そんな出来もしないこと・・・、簡単に言わないでよ!」

「Wait! 話はまだ終わってないデース!! You大事なことを一つForgotしてマスネ!」

金剛の止める声も聞かず、彼女は自室へと走り出した。

彼女はすぐに追いかけようとしたが、その右腕を比叡に掴まれた。

「お姉様。ここは比叡にお任せください・・・」

「However!」

「大丈夫です、私が説得してみせますから!」

「All right.そこまで言うなら任せマース・・・」



87 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:28:26.49 ID:qAe6cnL50


祥鳳は部屋で体育座りをして、扉に背をくっつけ一人で沈んでいた。

「なんでみんなわかってくれないの・・・?」

浮かぶのはその言葉ばかりだった。

みんなが危ない目に遭う必要なんてない。

私がみんなの分まで頑張ればみんな普通に過ごせるし、みずほや鳳翔さんのようにならないのに。

そのまま膝に顔を埋め、泣き出しそうになった時だった。

「祥鳳さん・・・?」

部屋をノックする音が聞こえたが、祥鳳は返事をしなかった。

「あ、私比叡です。ちょっとお話宜しいですか?」

「金剛さんじゃ、ないの・・・?」

「アハハ・・・。声似てるから、時々間違われるんですよね・・・」

戸惑う祥鳳に比叡は苦笑し、とりあえず扉に背中をもたれさせて話し始めた。


88 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:30:13.96 ID:qAe6cnL50

「祥鳳さん。お姉様の言うこと、簡単に受け入れられないのも分かります。ちょっと変なところもありますからね」

祥鳳は何も答えなかった。

結局、この子だって同じ。姉と同じように理想論を並べ立てるだけ。

「でもお姉様って、ああ見えてホントはすごく無理してるんです」

「そ、そうなの・・・? とてもそうは見えないけど・・・」

「元々あんなふうな喋り方はしなかったんです。それが、10年前のあの日から・・・」

10年前。深海棲艦大規模襲撃の日。多くの艦娘にとって悪夢が始まった瞬間だった。

「お姉様、私やみんなを勇気付けるためにあんな風に明るく振舞ってますけど、時折倒れそうに見えるんです。

だから、そんなお姉様をひとりぼっちにしないために・・・。私も艦娘になったんです」

「そうだったんですか」

祥鳳はいつの間にか比叡の言葉に耳を傾けていた。金剛にただ付き従うだけの妹だと思っていたが、その中にはきちんとした芯があったことにはじめて気付いた。

「祥鳳さん、こないだボロボロになって帰って来ましたよね? あの子達も、私と、ううん、祥鳳さんと同じなんですよ。きっと貴方が心配だから、自分たちも戦いたいんです」

「あの子達が・・・。私なんかを・・・?」

祥鳳は目を丸くした。そんな風に思われているとは微塵も思っていなかった。

「来たばかりの私にだって分かりますよ。あなたはみんなのことを大事に想う優しい人だって。

だから、あの子達も力になりたいんですよ。あなたにこれ以上、傷ついてほしくないから」

「そっ、そんなことはないです・・・」

赤面しながら祥鳳は返答した。

「そんなことあります」

「ないです」

「あります」

「ないです」

「あります」

やりとりを続けてたら漫才のようになってしまった。おかしくなって、二人は同時に吹き出してしまう。

「祥鳳さん。とりあえず、電ちゃん達の気持ちだけは、きちんと分かってあげてください・・・」

「比叡さん・・・」

そして、再び二人の間に沈黙が流れた。

比叡の言葉は、やや離れた場所にいた金剛にも届いていた。

「比叡・・・」

金剛の目もまた潤んでいた。

いつも着いて来てくれたあの子が、そんな風に思っていてくれたなんて・・・。

「やだ、泣きそうダヨ・・・!」

こんな恥ずかしい場面は比叡には見せられない。洗面所に行って顔を洗ってこよう。



89 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:31:10.25 ID:qAe6cnL50


その頃、雷と電は二人揃って夕方の港を散歩していた。夕陽は既に水平線の彼方へと沈もうとしていた。

「祥鳳お姉ちゃん、何もあんなに怒ったの初めて見たのです」

「もー! 私達だってちゃんとやればできるのに。なんでわかってくれないのよ!」

「あっ・・・!」

電は港に取り付けられた双眼鏡で水平線の彼方を見つめ、何かを発見した。

沖合の遠い場所で、一匹の男が浮き輪に掴まりながら苦しそうに蠢いていた。

血を流しながらフラフラと海面を漂う男を、サメのような姿をした駆逐ロ級が咥えて沖合にまで連れ去って行った。

その窮状をこの心優しい少女が見過ごせるはずがなかった。

「はわわ! 早く助けに行くのです!」

「ちょっと待って! さすがに私達だけじゃ危ないわよ」

「でも、あのまま放っておくんですか!? 早くしないと死んじゃうのです!」

必死で男を案ずる電を見て、雷はため息をついた。

この心優しい妹はいつもそうだ。いつも自分のことより誰かのことばかり心配してる。

まるで祥鳳お姉ちゃんのように。

だからこそ雷は電のことも祥鳳のことも放ってはおけず、少しでも力になりたいと思っていた。

「よし! じゃあ私と一緒に行こっ! 大丈夫、私が付いているわ!」

「はい!」

二人は静かに艤装を呼び出し、男の元へと向かった。


90 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:32:32.62 ID:qAe6cnL50

ロ級を追いかけて二人は覚束無い足取りで沖合まで進んで行った。

男は海の真ん中にぽつんと浮かんでいた。

ロ級は男を弄ぶのに飽きて去ったのか、どこかへ消えてしまっていた。

「おにいさん、もう大丈夫なのです・・・!」

電が心配そうに男に手を差し伸べたその時だった。

「あれ・・・。なんかくっ、臭いよこの人・・・」

雷は男から発せられた腐った牛乳のような臭いに違和感を感じるが、もう手遅れだった。

「えっ・・・?」

男の身体は突如海へと沈み、海の底から大量のロ級の群れが出現した。

「ヒッカカッタ・・・!」

邪悪な海魔は大きな口を歪め、哂った。


91 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:34:38.18 ID:qAe6cnL50

「祥鳳お姉ちゃん、助けて! 深海棲艦が!!」

突如通信機から鳴り響いた少女たちの声を聞いた祥鳳は、慌てて部屋から飛び出し、自室のソファに寝っ転がって昼寝をしていた睦月と如月を叩き起こした。

自室を出る時に扉の前にいた比叡を突き飛ばした気がするが、そんなことを気にしてる場合ではなかった。

「如月ちゃん、睦月ちゃん! 急いで!! 雷達が深海棲艦に・・・」

「ふにゃあ・・・、睦月眠いですぅ・・・」

「お肌が荒れちゃうわ・・・」

「ふざけてる場合じゃないでしょ!? 急いで!!」

二人を叱咤し、祥鳳は港へと駆け出した。

艦娘用の出動口まで向かうと赤城が立っていた。艦娘の通信は基本的に全員に届く仕様となっており、赤城もまた電達の窮地を知っていた。

彼女は進もうとする祥鳳のたちの前に立ちはだかる。

「赤城さん?」

彼女はその長身で港入口を塞いでいた。出撃しようにも、彼女が壁となって祥鳳を妨げていた。

「よしなさい、祥鳳さん。秘書官として貴方の出撃は許可できません」

「にゃしぃ・・・!?」

「多少治ったといえど、右脚をひきずってる今の貴方がどうなるかぐらい分かってますよね? 許可できません」


92 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:38:46.09 ID:qAe6cnL50


「いやです・・・」

赤城は祥鳳を戦わせたくはなかった。

航空機の使える空母や軽空母の艦娘は数が限られている。ここで不測の事態が発生して祥鳳が轟沈すれば、ただでさえ戦力不足に喘いでいた横須賀鎮守府は大幅な戦力低下を余儀なくされるだろう。ましてや、大きな士気低下に繋がることも明白だった。

対して駆逐艦の艦娘はまだ替えが効く。舞鶴鎮守府には駆逐艦の艦娘が何十人も在籍しているし、やろうと思えば何人か横須賀に回すことも可能であろう――舞鶴の子供好きの秘書官を説得する手間を考えなければの話だが。

無論、赤城とて睦月や如月、電や雷を犠牲にしたいとは考えてはいない。ましてや大切な後輩である祥鳳を犠牲にするつもりもなかった。

「今戦える空母の艦娘はあなたしかいない。ここは睦月さんたちにまかせて・・・」

「いやです!」

だが、赤城の目の前の少女には理屈など通じなかった。

「私はもう誰も・・・!失いたくない! 如月ちゃん達も、電と雷も! 誰も!」

祥鳳の頭の中には危機に瀕する電達のことしかなかった。

確かにロ級とは言え、数が多くては武装が貧弱な駆逐艦にとって強敵である。

いくら睦月たちがベテランの艦娘と言えど容易に倒せる存在ではなく、寧ろヘタをすれば彼女達が倒される公算の方が大きいことも赤城は分かっていた。

高速戦艦の二人とは連絡が取れず、哨戒中の青葉達も間に合うかは分からない、高速で移動できる軽巡洋艦の艦娘達も今は遠征で不在か、球磨たちのように艤装や自身の負傷などで出撃できないかのどちらだ。

夕張も出撃自体はできるが、その速度では到底間に合わないだろう。

今危機の迫る雷と電、そして救援に向かう如月達の身を確実に守るためならば確かに祥鳳が行くしかない。だが、予想されうる結末は・・・

暫し、二人の間に沈黙が流れた。


93 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:40:47.99 ID:qAe6cnL50

「・・・これを持って行きなさい」

赤城は自身の矢を手渡した。それは一瞬で変形し、零式艦戦となる。

「ただし、必ず返してくださいね。私の貴重な艦載機ですから」

「赤城さん・・・」

祥鳳は赤城に一礼すると、直ぐ様その艦爆を背中に載せた。

祥鳳は赤城のように矢筒を持たない代わりに艦載機を背中や衣服にくっつけて戦い、攻撃する際には艦載機達を一度矢の姿に変えて放つスタイルを取っていた。

「来て、『祥鳳』!」

祥鳳の叫びとともに、嘗ての軽空母を象った艤装が格納庫から出現し、彼女の弓矢と胸、そして脚を覆う鎧となった。

「『睦月』、抜錨するのです!」

「おねがい、『如月』・・・!」

如月と睦月の召喚に応じ、2体の駆逐艦の艤装も出現し、背中に煙突を、手に単装砲を装備した。

「祥鳳、睦月、如月、出撃します!」

三人は海原を切り裂き高速で駆け出した。その先に待つ電と雷のもとへ。


94 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:41:30.81 ID:qAe6cnL50


「くっ・・・!」

赤城は出発した後輩達の背中を見送りながら、悔しげに顔を歪め、拳を握り締めた。

私さえ戦えれば・・・。

彼女は自らの無力を静かに憎んだ。

私が艤装を装備できれば、あの心優しい少女に何もかも押し付けて負担を強いることはなかった。

だが今は悔やんでいる時ではない。赤城は直ちに思い直して通信機を操作し、仲間達に連絡を取った。

「提督、深海棲艦が発生しました。直ちに司令室までお願いします。

青葉さん、衣笠さん。東京湾沖の哨戒中に申し訳ありませんが、大至急指定のポイントまで駆けつけてください。場所は・・・」



95 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:41:59.03 ID:qAe6cnL50


赤城の通信は病院で眠っていた球磨達の元にも届いていた。

「球磨、どこへ行くニャ」

「決まってるクマ。電達を助けに行くクマ」

「そして轟沈するニャ? 祥鳳の気持ちを無駄にして?」

球磨の歩みが進むことはなかった。扉の前で拳を握り押し黙ってしまう。

「あの高速戦艦を信じるニャ。アイツ等ならきっとなんとかなるはずニャ」

球磨は返事することなく、未だ治らぬ自身の腕を見つめ続けた。



96 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:43:42.96 ID:qAe6cnL50



「お願い、艦載機の子達!」

背中にくっついていた艦載機達が弓に変わり、海へと散らばり索敵を開始した。

やがて、すぐにその中の一機から電波で連絡が届き、11時方向に必死で逃げる二人の少女を発見した。

「攻撃隊、発艦始めてください!」

九九艦爆と九七式艦攻の大群が発艦を開始した。



電達はロ級の群れと命懸けの追いかけっこを続けていたが、電達のスピードは徐々に遅くなりロ級との距離は縮むばかりだった。

そして、ロ級の一匹がとうとう飛び掛かり、雷達に食らいつこうとしたその瞬間だった。

「その子に、近づくなぁぁぁっ!!」

祥鳳の怒号が海原に響いた。爆撃音に驚いて二人がしゃがみこんだ直後、電達の瞳には半身の吹き飛んだ怪物が映った。

「大丈夫? 怪我はない電!?」

「だっ、大丈夫なのです!」

言い終わらないうちに残りのロ級達が進撃してきた。祥鳳は電達の手を引きながら走り出し、艦載機達を動かし爆撃させながら進んだ。

「バカ! なんでこんなことしたの!」

「ご、ごめんなさいなのです・・・! でも男の人が・・・!」

言い終わらないうちに、駆逐ロ級が数匹突進してきたが、祥鳳は艦載機達を操り、あっという間にすべて爆破した。

撃ち洩らした敵は如月と睦月が機銃で打ち払い、なんとか全滅させた。

怪物達は砕け散り、血を吹き散らして破裂した。


97 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:45:44.02 ID:qAe6cnL50


「ふぇぇ・・・」

潰れた空き缶のようなグロテスクな残骸を見て、雷と電は目を逸らした。

「分かった? 深海棲艦と戦うっていうのは、こういうことなのよ」

祥鳳は厳しい目で二人を見つめた。

いかに同情の余地のない凶悪な怪物と言えど、いかに人類のためだと正義を謳えども、艦娘の戦いが生命を殺すだけの行為に変わりはない。

そういう意味では自分達艦娘も深海棲艦と変わりのない怪物だ、時々祥鳳はそう考えていた。

だからこそ、電達には戦いの道を歩んでほしくはなかった。心優しい電や雷のことだ。きっと心を痛めるに違いない。

「だから、あなた達を戦わせたくなかったの。それなのに・・・」

「分かってるよ! 戦いが辛いことぐらい!!」

雷が叫んだ。

「なんでもっと私達を頼ってくれないのよ!? 私だって、祥鳳お姉ちゃん達にボロボロになってほしくないのに!」

「そうなのです! 電も雷ちゃんたちも、みんな祥鳳お姉ちゃんのことが心配だったのです!」

「雷、電・・・」

比叡さんが言っていたことは本当だった。なんにもわかってなかったのは、私だったんだ。

「二人とも、ごめんね・・・」

自然と、祥鳳は電と雷を抱きしめていた。その目には静かに潤んでいた。



98 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:46:53.79 ID:qAe6cnL50

だが、その余韻はすぐに吹き飛ばされた。

海の底から泡を巻き上げ、更なる深海棲艦が出現した。

「にゃしぃ!?」

今度は戦艦ル級が1体、そして空母ヲ級が2体だった。戦艦のみならばまだしも、ヲ級がいては制空権は取れない。

ましてやこちらは軽空母と駆逐艦のみ。例え今いる全員で総力戦を挑んだところで勝ち目は薄い。

ましてや戦闘経験のない電達が参戦したところで、焼け石に水であろう。艦載機も艤装も先程の戦闘で、もはや燃料が尽きかけていた。

対してまだ敵は健在。

仲間を守るため祥鳳が思いついた手段はただ一つだった。


99 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:49:03.20 ID:qAe6cnL50

「如月ちゃん、睦月ちゃん。ここは私に任せて」

「えっ?」

「ここは私が食い止めるから、早く!」

如月達は暫く黙っていたが、すぐに先輩の意図を理解した。

「・・・祥鳳さん、ご武運を!」

如月と睦月は敬礼すると、無理やり電と雷の手を引き、

「如月ちゃん!? 何するのです?」

「やめて!離して祥鳳お姉ちゃんが・・!」

「いいから。行くわよ・・・!」

暴れる年下の少女達を連れて睦月と如月は無理やり駆け出した。

「祥鳳さん、ごめんなさい・・・!」

睦月が目を潤ませながら、祥鳳に詫びた。



100 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:50:04.37 ID:qAe6cnL50


その後睦月と如月、そして電と雷はなんとか鎮守府の港へと到着した。

港には雷達の姉である暁と響、そして高速戦艦の二人も駆けつけていた。

「雷、電! 怪我はなかった!?」

暁が妹達を案じた。

「私達より祥鳳お姉ちゃんが! 早くしないと沈んじゃうのです!」

「一人で戦艦と空母を相手にしてるの!早くしないと大変なの!!」

彼女の妹はぽろぽろと涙を流し喚き始めた。

「お願いします金剛さん、比叡さん! 祥鳳お姉ちゃんが危ないのです・・・!」

「お願い金剛さん! 祥鳳お姉ちゃんを助けて・・・!」

「お願いします・・・」

「お願い、おねえちゃんを助けてあげて!」

四人の少女達は口々に金剛たちに懇願した。無論、金剛達の答えは一つだった。

「Okay! ここで待っててくだサイ!」

金剛は親指を立て、サムズアップを見せた。

「比叡! Are you ready?」

「はい! 気合!入れて!行きます!!!」

高速戦艦二隻は猛進し、仲間のいる海へと走り出した。

「誘導します。道案内は任せてください!」

如月と睦月が先導し、金剛達を祥鳳の元へと送る手助けをした。



101 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:52:16.39 ID:qAe6cnL50


仲間達を逃がした祥鳳は、一人猛攻に耐えていた。

艦娘達はそれぞれ艤装に適合軍艦が存在する。その適合した軍艦によって、装備や肉体強化のシステムは必然的にその軍艦の特徴と似通ってしまう。

例えば戦艦ならば肉体は鋼の如く強化されるがその分スピードはやや遅くなる、駆逐艦はスピード重視の代わり装甲は薄い、と言った具合だ。

祥鳳の場合、適合した艤装はその名のとおり軽空母だった。

航空機の召喚による支援攻撃が主戦法であり、スピードを上げるために装甲が犠牲になっている。また、その装備は赤城たち正規空母に比べれば軽装であり、装備できる航空機の数も限られていた。

そんな彼女が戦艦と空母に同時攻撃されては、すぐに防御壁が崩壊してしまう。そのこと自体は祥鳳自身も理解していた。それでも、仲間を助けらればそれでよかった。

なんとか数十もの艦載機を動かして応戦し、必死で攻撃を仕掛けた。空母を1体小破させることには成功したものの、艦載機の数では劣ってしまい、次々と艦載機達が物量に押されて落ちていった。

祥鳳は痛みに耐えながら、ふと自身の艤装である『祥鳳』の戦史を思い出した。

軽空母『祥鳳』もまた、味方を護るためその身体を盾にして奮闘し、珊瑚海に散っていたと言う。

私も同じ運命を辿るのか・・・。彼女にはそれがどこか皮肉に思えた。

以前ふと調べたが、『祥』とは『幸せ』を意味する漢字らしい。鳳凰はめでたい鳥。よって、『祥鳳』とは幸運を意味する言葉だという。


「何が幸せよ」


祥鳳は小さく毒づいた。


102 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:55:30.11 ID:qAe6cnL50



20年以上生きたけど、何一つ幸せだった時なんてなかった。いや、そんな時は尽く潰された。



愛してくれるはずの両親は離婚し、親の愛情なんて信じられなくなった。



何より大好きだった妹とも引き裂かれた。


それでも数年後に両親が仲直りして、やっと妹と暮らせるかと思ったら、深海棲艦に襲われて、みんなみんないなくなった。



私の心にぽっかり穴があいた。最愛の人を失った私は、抜け殻になった。




そして孤児になった私は鳳翔さんや龍驤さんに引き取られ、艦娘達と一緒に暮らすことになった。



最初は戸惑ったけど、二人の優しさに、年下の艦娘達の純粋さに、みんなの暖かさに触れて、みんなが新しい家族になった。



大鯨や電達、如月ちゃんや睦月ちゃん、みんながこんな私を姉として慕ってくれた。



私がそれまで貰えなかった愛情をいっぱい与えてくれた鳳翔さん。



私に新たな「家族」をくれた女性だった。




鳳翔さんみたいなステキな人になりたい。新しい『妹』達を守りたい。



そう思って、必死に努力して、艦娘になった。ようやく恩返しができると思った。



でも、4年前の戦いで負傷して以来ずっと眠り続けてしまった。



ずっと『お母さん』と呼びたかった人なのに、結局一度もそう呼べなかった。




みんなみんな、いなくなった。




全部失ってしまった。家族も、妹も、大切な人も、みんなみんな。




それでも、あの子たちさえ守れるのならばそれでもいい。




これでやっと、みずほのもとに行ける。もうこんな人生とも別れを告げられる。



103 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:56:42.92 ID:qAe6cnL50

祥鳳を覆っていた防御壁はヒビ割れて崩壊した。防御壁が破壊された以上、後は直に攻撃を受けるしかない。

「きゃあぁぁっ!」

敵艦載機の機銃が身体を貫き、鋭い痛みが身体を襲った。急所こそ外れていたものの、弓矢はボロボロになり、胸を覆うチューブトップも千切れていた。

戦艦が祥鳳の脚に狙いを定めた。脚を痛めていることを戦いの中で察したのだろう。あと一発弾を喰らえば、脚ごと吹き飛ばあれ、浮遊装置も破損し轟沈してしまう。

「・・・くっ」

衝撃が防御癖を通じて襲ってくる。服にも飛び火し、チューブトップが千切れかけた。

「ダメか・・・。みんな、ごめんね・・・!」

祥鳳は目を閉じて呟き、運命に身を任せようとした。


104 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 00:58:51.10 ID:qAe6cnL50

だが、その運命を強引に殴り飛ばす者がいた。

「祥鳳は沈ませないNe!」

甲高い女の叫びが海原に木霊し、祥鳳に放たれた砲弾を力強く弾き飛ばしてしまった。

「え・・・?」
祥鳳は驚いて目を見開いた。金剛が目の前に仁王立ちしてた。比叡もその隣に駆けつけていた。

「Hey祥鳳! ムチャするのもイイけど、時間と場所をわきまえなYo!」

「お待たせしました、祥鳳さん!」

如月と睦月も一緒だった。二人はすぐさま倒れかけた祥鳳に肩を貸し、戦場から連れ出した。

「Oh,言い忘れたことがありマース!」

「え?」

「アナタが無茶してSeaにドボンしたら、あのLittle girlsが悲しむだけデース! 自分もちゃんとSurviveしなきゃだめネ!」

「金剛さん・・・」

「それにFortune Phoenixが沈むなんて、縁起が悪いデス!」

金剛はニヤリと笑った。

「Hey, Sea monsters!!」

そして金剛は深海棲艦達に高らかに宣言する。

「私の仲間に、これ以上手は出させないNe!」

こんな私を『仲間』と呼んでくれるなんて・・・

「金剛さん、比叡さん、ありがとう・・・」

祥鳳の目が潤み、戦場の風景が霞んだ。


105 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:00:21.81 ID:qAe6cnL50

ヲ級は思うようにいかない戦況に憤り、唸り声を上げた。

その鳴き声に呼ばれ、海の彼方から軽巡ホ級や重巡リ級の部隊が迫ってきた。恐らく確実に金剛達を仕留める為に駆り出されたのだろう。

だがこの部隊も、突如どこからか奇襲を受けて爆発した。

攻撃を仕掛けたのは重巡洋艦の青葉と衣笠だった。

「青葉みちゃいましたぁ! にひひ・・・。泣き顔も可愛いですね、祥鳳さん!」

「はーいっ! 衣笠さんの登場よ! 砲雷撃戦開始しちゃいます!」

衣笠と青葉は連想砲を構え、軽巡ホ級達との交戦を開始した。


106 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:02:17.38 ID:qAe6cnL50


軽巡ホ級達を青葉達に任せ、金剛と比叡は空母ヲ級と戦艦ル級に目を向けた。

動揺している今がチャンスだ。

砲撃戦で一気に倒す。

「比叡、Rock&Fire! Ready?」

「Yes! お姉様!」

「Okay, Now!!」

二人は全砲塔の照準を怪物に向けた。

右手と左手を繋ぎ合わせ、二人は大きく叫んだ。

「ダブル・バーニング・ラァァァブッッ!!」

二人の砲撃が雨あられとなって、一斉にヲ級とル級を襲った。

二体の深海棲艦は防御の体制を取ったが、あまりにも速く打ち込まれた何十発もの砲弾を防ぎきることはできず、あっという間に爆発四散した。

「す、すごい・・・」

祥鳳は思わず声をあげた。だが、残っていたヲ級の敵艦載機が比叡の背後から奇襲を掛けようとしているのに気づき、最後に残った艦載機を矢に変え、左脚のストッキングのライン部分に装填した。

その部分は艤装の飛行甲板が変形した装備だった。

「はぁっ!」

勢いよく脚を振り、片腕でそれを払うと、矢は零戦の姿となって機銃を放ち、敵艦載機に止めを刺した。

「赤城さん、助かりました・・・」

比叡は背後の爆音に驚いて振り向いた。

「ありがとうございます、祥鳳さん。足からも艦載機出せるんですね・・・」

軽巡ホ級達も青葉たちが全て仕留めたようで、煙の隙間からふたりがこちらに向かって手を振る姿が見えた。


107 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:03:44.22 ID:qAe6cnL50


傷ついた祥鳳を連れ、艦娘達は揃って鎮守府港へと戻った。

大鯨や先に戻っていた電達が涙目で彼女達を迎えてくれた。

「祥鳳お姉ちゃん!」

大鯨はほげぇと泣き声を上げながら祥鳳に抱きつく。

「良かった・・・。無事で良かったよ・・・!」

「えぇ・・・。なんとかね・・・」

大鯨は『姉』の帰りを心から祝福した。その帰りを喜ぶものは彼女だけではなかった。

「クマー!! 祥鳳、無事かクマー!?」

「見れば分かるニャ。無事で何よりだニャ」

「祥鳳さん、無事で良かったです・・・!」

球磨、多摩、夕張であった。艤装が未だ回復せず出撃不能だった彼女達もまた、祥鳳の身を案じていたのだ。

「この無茶軽空母!もう少しでお前死ぬところだったクマ!」

球磨が涙目で抱きついてきた。出撃できなかった彼女もいてもたってもいられず、病院を抜け出してきたのだろう。

「少しは、残される方のことも考えろクマ・・・!」

「ご、ごめんなさい球磨さん・・・」

球磨は泣きながら片手で祥鳳をポカポカと叩いた。だが、その拳に全く力はこめられておらず、どこか優しさが感じられた。


108 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:05:01.52 ID:qAe6cnL50

「バカ!謝るなら、電達に謝れクマ!」

球磨は、如月と睦月に背中を押されおずおずと前に出た電たちの方を指差した。

「ごめんなさいなのです・・・」

「ごめんなさい・・・。でも、電のことは怒らないであげて! 私が気をつけなかったのが悪いんだから!」

「いいえ、二人とも悪くないの! 怒るなら暁を怒って!」

「祥鳳お姉ちゃん、電たちを許してあげて・・・」

お互いをかばい合いながら、四人は必死で祥鳳に頭を下げた。

そんな彼女達を祥鳳が叱るはずもなかった。

「もういいよ。みんな無事だったんだから・・・」

「・・・祥鳳お姉ちゃん!」

「うわーん!」

四人は線が切れたかのように年上の姉貴分に抱きつき泣き出した。

109 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:05:45.05 ID:qAe6cnL50

「祥鳳、そのくらいでいいだろう」

伊吹提督だった。赤城は黙ってタオルを祥鳳に手渡した。年上の男性の存在に気付き、慌てて彼女はタオルを羽織り恥ずかしそうに俯いた。

提督も彼女から目を逸らし、金剛に向き直った。

「金剛、報告を頼む」

「戦艦金剛と比叡! 軽空母祥鳳! および雷、電、如月、睦月の駆逐艦四名! 全員帰投いたしマシター! みんな無事デス!」

「よく戻って来たな、みんな」

伊吹の表情はどこか暖かかった。

「まったく・・・。ホントに無茶苦茶な人ですね、貴方達は・・・」

祥鳳は毒づいた。だが、もう彼女にも金剛達へのわだかまりはなかった。

「Hahaha! お互い様デース・・・!」

「ふふっ、確かにそうね」

二人は静かに笑った。

「Tomorrowも、Dayaftertomorrowも、頑張りまショウ、祥鳳・・・!」

「はい・・・!」

金剛は黙って右手を祥鳳に差し出した。祥鳳もその手を重ねた。

「あっ!祥鳳さんだけずるいです!私も・・・!」

金剛、比叡、祥鳳の三人の艦娘の手が重なった。

この鎮守府に新たなチームが誕生した瞬間だった。


110 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:06:29.66 ID:qAe6cnL50


佐世保鎮守府。北九州を守護する要所。

その鎮守府の港で、海の彼方を何かを求めるかのように静かに眺めるポニーテールの少女がいた。

そんな少女に、彼女より年上の長身の女性とツインテールの少女が声をかけた。

「瑞鳳、また海を見てたの・・・?」

「先輩、暇さえあればいつも海ばっか見てますね・・・」

ツインテールの少女が言った。彼女のほうがポニーテールの少女よりも背が高かった。

「はい。あの海のどこかに、お姉ちゃんが、姉がいたらなって・・・」

「大丈夫。きっといつか会えるわ」

その女性は、優しく少女の手に肩をかけた。

「はっ、はい! ありがとうございます、加賀さん!」

「さっ。風邪をひくわよ瑞鳳。瑞鶴、貴方もさっさと来なさい」

「は~い・・・」

少女達は海に背を向け、建物に向かって歩き始めた。


111 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/06/27(土) 01:09:10.37 ID:qAe6cnL50


次回

那珂ちゃんスマイルー!


今回の投稿が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。

次回の投稿は来月中を予定しております。

118 名前: ◆li7/Wegg1c[sage saga] 投稿日:2015/07/30(木) 12:10:41.28 ID:aM3Lg54u0
2話おまけ(という名の後日談)




「腕、上げてくださいね。脱がしちゃいますから」

「ありがと、如月ちゃん・・・」

祥鳳は彼女に服を脱がしてもらい、一糸まとわぬ姿となった。その身体には、電達を救出に向かった際の戦闘による傷跡がいくつも見られた。

共に浴室まで入り、祥鳳は高速修復剤入りの少し温めの湯船に浸かった。この湯船に浸かれば、やや長時間の入浴の代償として、傷の治りは早くなり疲労も癒される。まるで身体が軽くなったように感じられた。

「あら。祥鳳さん、髪がちょっと痛んでるわよ」

祥鳳の長い黒髪を濡らしながら、服を着たままの如月が言った。既にその服は湯気と飛び散ったお湯でぐっしょりと濡れていたが、彼女は意に介さなかった。

「そう言えば、最近は適当に洗ってたかも」

「ダメよ、ちゃんと髪のお手入れしないと。乙女なんだから・・・」

「別にそんなこと・・・」

「めっ。ウェディングドレス着る時に、傷んだ髪じゃ台無しじゃない」

「・・・そんな未来なんか、ないわよ」

祥鳳は静かに呟いた。同時に、如月の手がピタリと止まった。

「私には、もう普通の幸せなんか手に入らないから・・・」

「んもう、そんな暗いこと言っちゃダメじゃない」

「・・・そうかしら」

そんな未来があるとは思えない。深海棲艦がいる限り、人類に平穏は訪れない。

仮にこの世界から深海棲艦の脅威がなくなったとしても、艦娘がその後も無事社会の中で受け入れられるのだろうか。



119 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/07/30(木) 12:11:42.01 ID:aM3Lg54u0

「大丈夫。きっといつか、祥鳳さんにも幸せな未来が来るわよ」

「だといいけどね・・・」

しばらく二人は黙っていた。如月は口を噤んだまま、洗髪を再開した。

祥鳳は目を閉じ、じっとしていた。流れるお湯の音と、如月が髪を洗う静かな音。それだけが祥鳳の耳に響いた。

不意に、祥鳳が再び口を開いた。

「如月ちゃん。私ね、怖いの。また、大切な人ができたら、みずほや鳳翔さんみたいになるのが・・・。それに、私が両親のように離婚して子供に迷惑かけたら・・・」

「大丈夫、もうそんなことないわ。如月が保証するわよ。ねっ?」

如月は慈しむように髪にリンスを付け、優しく撫でた。

「なんで、そう言えるの?」

「だってね、祥鳳さんはこの鎮守府で一番優しい艦娘だもの。絶対に誰かを不幸になんかしないわ」

「そっ、そんなことないわよ」

「あらあら、照れちゃって」

ツンと頬をつつき、如月は微笑む。たちまち祥鳳の頬が赤く染まった。

「んもう、ホントにかわいいんだから」

「か、からかわないでよ・・・」

祥鳳は恥ずかしくなって黙り込み、髪のお手入れを如月に任せて顔まで湯船に浸かった。

この子は自分よりも年下なのに、どうしてこうも頼りがいがあるのだろう。彼女と話すだけで、なぜか安心できる。

「ふふ。祥鳳さんのウェディングドレス、楽しみねぇ・・・」

如月が静かにつぶやくのが聞こえた。

やがて、心地よい眠気が彼女をゆっくり包んでいった。祥鳳は静かに目を閉じ、湯船の中でうたた寝を始めた。

123 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:47:33.89 ID:iPmZJDwT0


第三話 那珂ちゃんスマイルー!



春が過ぎ、季節は夏へと移り変わろうとしていた。まだ早朝にも関わらず、気温は高く空気はジメジメし、空気が蒸し暑かった。

「日差しがキツいわね・・・」

海に艦載機を飛ばしながら、祥鳳は額の汗を拭った。今日は舞鶴鎮守府との合同演習の日。演習には参加しないがその間の海上哨戒、とりわけ潜水艦の監視を担当している。張り切ってやらねば。

が、同じく警備を委任された隣の仲間は、どうもそんな気になれないらしい。

「祥鳳さ~ん・・・。私もうダメです・・・」

「夕張ちゃん、ちゃんと気張って見なさい。今、潜水艦が出たら一大事なんだから」

衛星で出現の予測がある程度可能な他の深海棲艦に対し、潜水艦型の深海棲艦は突如出現することがある。さらに悪いことに潜水艦型の深海棲艦の強みは海中に避難することで攻撃を回避できる点にある。戦艦や重巡洋艦、空母などは水中の敵に対応できる武装がなく、伊勢や日向などの一部の戦艦や軽空母のような対潜装備を使える艦娘を除けば、潜水艦に対抗できるのは軽巡洋艦と駆逐艦タイプの者達しかいない。

ましてや、合同演習では多くの艦娘が海に集まるのだ。気を張らなければならない。にも関わらず、夕張は死んだ目をしており、心ここにあらずといった状態だった。

「ちょっと夕張ちゃん。お仕事はちゃんとやりましょう、ねっ?」

「だって! 昨日の深夜アニメが酷すぎたんですもん! あんな雑な死亡フラグ立てて、私の嫁をあんな雑に死なせるとか最悪です!! あーもー! 思い出しただけでムカムカしてきます!!」

どうやら、お気に入りのアニメキャラが劇中でひどい扱いを受けて退場したことに怒っているらしい。

祥鳳は呆れた。命懸けの戦いばかりしてるというのに、この子にはあまりにも緊張感がなさすぎる。

「まったく・・・。そんなに嫌なら見なきゃいいでしょ?」

「ちょっと! 見なきゃ批判だってできないじゃないですか、祥鳳さんはわかってないんですよそこんとこ!」

夕張は噛み付き始めた。こうなるともう止められない。

「はいはい。聴音機と探知機はちゃんと見てなきゃダメよ」

まだ何か言いたそうだったが、夕張は素直に祥鳳に従ってレーダーに目を向けた。一応レーダーは見てるようなので、とりあえずそれ以上は言及しなかった。


124 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:48:47.01 ID:iPmZJDwT0


もっとも、こんな戦いの中での悩み事が死の恐怖や終わらない戦いへの苦しみとかではなく、深夜アニメの出来と言うのはある意味幸せなのかもしれない。

それに夕張は艤装や兵装の整備はきちんとやるし、何より素直で明るい女の子でもある。このぐらいは大目に見ないとね。祥鳳はレーダーを睨む後輩を見てこっそり微笑んだ。

ふと、彼女はある海域に目をやった。ちょうどそこは二週間前に彼女が深海棲艦と戦い、金剛達に助けられた地点だった。

あの後に睦月が艦載機の捜索、所謂「トンボ釣り」をしてくれたが、それによって救出できた祥鳳の艦載機は三分の二程度だった。それ以外の艦載機達は海へと沈んでしまった。

祥鳳に限らず、空母の艦娘は艦載機達を消耗品と考えることはない。

艦載機もまた艤装の一部であり、共に戦い続けたかけがえのない戦友であった。確かに妖精が新たな艦載機を創りだすことで戦力の補充はできるが、同じ艦載機が帰ってくるわけではない。それだけに祥鳳の悲しみは大きかった。

「みんな、ごめんね・・・」

祥鳳は海に眠る仲間達に対し手を合わせ、静かに詫びた。共に仲間を悼むかのように、彼女の九九艦爆や九七式艦攻が飛び上がり、海上をゆっくりと周回した。



125 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:49:41.25 ID:iPmZJDwT0

同じ頃、赤城は独り運動場で艤装の装着訓練を行なっていた。秘書官の仕事の合間にリハビリをするのが最近の彼女の日課だった。

「来てください、『赤城』!」

その呼び声に応じ、空母の形状をした艤装が現れ、空中で分解して各パーツが彼女の鎧となって身体に装着された。飛行甲板が右腕に、嘗ての凛々しい正規空母の姿が蘇った。

「くぅ・・・!」

だが、艤装から発せられる原因不明の痛みに耐えられず、立ち続けることはできなかった。艤装はすぐに体から離れ、バラバラになって地面に崩れ落ちた。

「くっ・・・!」

何度やってもこうだった。四年前の戦いで負った怪我は既にほぼ完治していたが、何故か艤装との適合係数がどうしても上がらず、何度も拒絶されてしまう。その理由は不明だった。

『赤城』の艤装を装着できるのは自分しかいない。グズグズしてるわけにはいかない。

誇りある一航戦の艦娘である私が、いつまでも戦いを未熟な若者達に、祥鳳や金剛に任せておくわけにはいかないのに。赤城は無力な自分が腹立たしかった。

彼女は憤り、陽光で熱くなった地面に拳を叩きつけた。

126 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:51:48.49 ID:iPmZJDwT0

電、雷、暁、響の四人は来客の受付係を任されていた。

合同演習は三日間開催され、そのうちの一日目は一般人の見学も許されていた。

ちょうど一日目は戦艦など重火力で派手な攻撃をする艦娘の演習に調整されており、この合同演習は鎮守府の理解を深めるパフォーマンスの一つでもあった。

「はい、受付はこっちなのです! お名前と、住所と、お電話番号と、ご所属をお願いするのです!」

暁達は自ら受付係を志願した。地味ながらも仕事を手伝いたいと言う申し出を多忙な伊吹達は歓迎した。

対潜水艦の偵察には夕張と祥鳳、そして大鯨・睦月・如月が出向いており、球磨や多摩、金剛に比叡は演習会場の設営や自身の準備に忙しい。青葉や衣笠など重巡の艦娘は夜間警備後のため、自室で静かに眠っていた。

その時「猫の手一つでも借りたい状況だったニャ。助かるニャ」と多摩は微笑んで少女達の頭を撫でたが、「子どもじゃないもん!」と暁に怒られてしまった。

「すみませーん、こっちに並んでください!」

だが、艤装を装着した暁達を見て、一斉に興奮した一般客が押し寄せてきた。

「おっ、横須賀の艦娘だ!」

「すげぇ、サインしてけろ!」

「こんな可愛い子もおったんだな。オラさ感激だば!」

どうやら艦娘の熱狂的なファンのようで、一斉に囲まれて電達は困惑した。押し寄せてきた者達には男性が多く、これまで成人男性と関わる機会が少なかった電たちは怯えてしまい、冷静な対応ができなかった。

「どけ、オラが先だべや!」

「アンタ駆逐艦?軽巡?」

「はわわ! ちゃ、ちゃんと並んでほしいのです!」

「んもう!話を聞いてくださーい!」

暁達が大衆に押しつぶされそうになったその時だった。

127 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:52:26.45 ID:iPmZJDwT0

「およしなさい!」

群衆を一喝する女性の声が轟いた。

「あっ、あなたは・・・!?」

振り向いた男達の後ろには、ウェーブがかった長髪長身の紺色のスーツに身を包んだ精悍なスタイルの美女が立っていた。その肩と腕には艦娘の証たる艤装が装着されていた。

「その子達はまだ訓練生でしょ!? 困らせるのもいい加減になさいな!」

「おぉ、足柄さんだべ! サインくだせ~」

「飢えた狼キタコレ!」

「お黙りなさい!」

狼の咆哮に男達はひとり残らず口を噤んだ。

「いい? 確かに今日は一般人と艦娘との交流会の日でもあるわ。でも、礼節を弁えない豚に参加する資格はないの。よろしくって?」

「は、はい・・・」

「わかったら、さっさとこの子達に非礼を詫びなさいな」

男達は勢いを削がれて、渋々列に並んだ。

「お嬢ちゃん達、どうもすんませんでした・・・」

「いっ、いえ!気にしないでください!」

慌てて電が頭を下げた。

「では、私はここで失礼するわね」

足柄は髪を払い、静かに立ち去って行った。長いウェーブがかった髪が風に揺れ、その優雅な振る舞いは小さな駆逐艦の少女達に憧憬の念を抱かせるに十分であった。

「カッコいいわね・・・。あれこそ、真のレディーよね!」

「なのです!」

暁達は瞳を輝かせ、美しき狼の背中を見送った。

128 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:52:54.86 ID:iPmZJDwT0

数時間後、受付も終了し、開会式が始まった。既に太陽は頭上に昇り、雲一つない青空の上でギラギラと輝き始めていた。

「暑いにゃ」

設営準備を終えて会場に戻って来た多摩がぼやいた。彼女は暑さに弱く、濡れタオルを首に巻いて暑さを凌いでいた。

グラウンドの中央には多数の艦娘達が並び、その両脇に来客達がそれを見守っていた。ちなみに写真撮影はプライバシーや訓練妨害の問題もあって、申請を通した一部団体以外は禁止されている。

「今日は舞鶴鎮守府から来て戴きました。まずは、舞鶴鎮守府秘書官の長門さんにご挨拶をお願いします」

司会・進行担当の赤城からマイクを手渡され、長身の逞しい体躯の女性が台上へと上がった。鍛え上げられたその肉体は戦乙女という言葉が相応しく、芸術的な美しさすら感じさせるものだった。

「舞鶴秘書官の長門です。この度、舞鶴の水本提督並びに横須賀の伊吹提督のご助力によって、貴重な機会を戴いたことに感謝の言葉を申し上げます。艦娘の諸君! 今回の合同演習は、互いの長所を伸ばし、欠点を克服できるまたとない機会である!この演習が実戦で生きるよう、心して訓練に励むように! 以上だ!」

「長門秘書官、ありがとうございます。本演習には、横須賀鎮守府の出身で、尚且つ水雷戦隊旗艦として名高い川内型三姉妹に来ていただきました。それでは、川内さん、ご挨拶をお願いします」

「Hey,祥鳳? Who is 川内 sisters?」

金剛が隣にいた祥鳳に耳打ちした。

「川内型三姉妹は、川内さん、神通さん、那珂さ・・・那珂ちゃんの三人。一応みんな横須賀鎮守府の所属なんですけど、普段は日本各地を回って遠征や哨戒を兼ねた地方巡業をしているんです」

同じく小声で祥鳳が説明した。

「川内さん? 神通さん? 那珂さん? どちらにいらっしゃるんです?」

赤城は通信機を回したが、通信に出なかった。

「川内さん達?どちらにいるんですか? まさか敵襲ですか?」

その時だった。


129 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:54:22.01 ID:iPmZJDwT0
「うわっはっはっは!」

突如、艦娘達の椅子の後ろから、甲高い笑い声が聞こえた。


「夜に隠れて悪を斬る! 戦場の闇夜に咲く、一輪の花・・・! 川内型1番艦、川内!」

ツインテールの少女が木の上から飛び降りて参上し、忍者のようなポーズを取った。鋭いその瞳は勝気な印象を与える。


「て、天下御免の軽巡魂! 静かなる川に佇む、い、一輪の花! せ、川内型2番艦、神通・・・」

彼女に続き、ロングヘアの大人しそうな少女・神通が恥ずかしげに右腕のクレーンを縦に構えた。


「波が舞い、水が踊る! 海風に舞う一輪の花! 川内型3番艦、みんなのアイドル那珂ちゃんでーす!」

お団子ヘアの少女がマイクを手に取り、右腕を上げて「キャハッ☆彡」とポーズをとった。


「三人揃って! 我ら、水雷戦隊!!!」


三人が名乗りを終えると同時に、背後で派手な色の爆風が飛び散った。おそらく誰にも気づかれないよう、事前にわざわざ仕掛けておいたのだろう。

「うぉぉぉっ!」

「那珂ちゃんキタ━(゚∀゚)━!」

「那珂ちゃん! 那珂ちゃん! 那珂ちゃん!」

「神通ちゃんこっち向いてー!」

突如、来客から一斉に那珂ちゃんコールが湧きおこり、熱狂的な那珂ちゃんのファンが騒ぎ始めた。

「きゃー!那珂さーん!今日も素敵です!」

気がつけば舞鶴の駆逐艦達までもが、那珂ちゃんコールに参加している有様だ。

とりわけ銀髪のボーイッシュな少女と金髪の少女が熱狂的なファンのようで、ペンライト代わりに旗を振り回して歓喜していた。

「みんなありがとー!那珂ちゃん達、これからも頑張りまーす!」

「Oh,Excellent な Performanceでした!」

「すごいのです!」

金剛や電が感激していた一方で、祥鳳や赤城が頭を抱えていたのは言うまでもない。


130 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:56:40.89 ID:iPmZJDwT0

開会式の後、川内達は祥鳳と赤城に鎮守府裏に呼び出されてお説教を受けていた。

「川内さん? こんなことに貴重な弾薬を使うとはどういうつもりですか?」

「いいじゃん! せっかく、私らの晴れ舞台なんだし、お客さんや舞鶴のみんなも喜んでくれたんだからさ。素敵なサプライズも必要でしょ、ねっ?」

「ねっ? じゃないでしょ!」

「那珂ちゃんはアイドルなんだから、ファンのみんなのためにもこれくらい目立っていいと思いまーす!」

「よくないわよ! まったく・・・・」

「すみません。那珂ちゃんと姉さんがどうしてもというのでつい・・・」

神通がしょんぼりした表情で謝ってきたため、空母の二人は黙り込んでしまった。

「二人とももう良かろう。来客にも好評だったんだ、そう怒ることはあるまい」

どこからか伊吹提督が現れて二人を宥めた。上司にまで言われてはさすがに赤城と祥鳳も矛を収めざるを得なかった。

「はぁ・・・。あとで夕飯の片付け、手伝ってもらいますからね?」

「えー!?」

「ウソー!?」

「那珂ちゃん、姉さん。私達も勝手なことしたんですから、文句言わないで。ねっ?」

神通に宥められ、那珂と川内は口を3の字にしながらも渋々頷いた。

とりあえず説教を終えた祥鳳と赤城はそれぞれの仕事へと戻っていった。


131 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:57:13.15 ID:iPmZJDwT0


彼女達と入れ替わりに、電達四人が現れた。自分達の教官となる川内たちに挨拶に来たのだ。

「私達も訓練に参加させてくれて、ありがとうございます司令官!」

暁が姉妹を代表して感謝の言葉を述べた。

「がんばるのです!」

「うむ。この三人はちょっと変わってるが実戦経験も豊富で教え方も上手い。しっかり言うことを聞くように」

「はい!」

小さな艦娘四人は素直に返事をした。

「三日間よろしくお願いします!」

朱色の服を着た三人の先輩に、四人はかわいらしいお辞儀をした。


132 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:58:27.02 ID:iPmZJDwT0


戦艦の演習における審判役は長門だ。彼女は控え室で待機している艦娘に呼びかけた。

「大和、準備はできたか」

「は、はい」

「演習だからと言って手を抜いてはいかんぞ。横須賀の艦娘に遅れを取らぬようにな」

「はい!」

部屋の中から、ゆっくりと巨大な艤装を装備した長身の美女が現れた。紅白のセーラー服と長いポニーテールが目立つ、凛とした艦娘・大和である。

その名に相応しく、まさに大和撫子といった風貌であったが、その表情には緊張が見られた。

強く言いすぎたか・・・。長門は少し悔やんだ。

大和は令嬢として育てられていたが、艤装に適合すると判明して以降は長門が訓練を担当してきた。だが、箱入り娘であったためか、最強の戦艦の艤装を持つにも関わらず、やや人見知りだった。

長門はその欠点を治そうとしたが、どうもこういうところが上手くいかない。

陸奥だったら、もっと上手くやれただろうな。長門は静かに自嘲した。


133 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 13:59:08.41 ID:iPmZJDwT0

そんな大和の緊張を解したのが比叡だった。彼女は既に艤装の装着を終え、対戦相手に挨拶に来たところだった。

「大和さん、今日はよろしくお願いしますねっ!」

子犬のように無邪気な笑顔を向けてくる比叡に、大和の心は解れた。

「えぇ。大和、推してまいります!」

大和はにっこり笑った。

比叡が対戦相手に挨拶に行っている一方で、金剛は艤装を装着して準備運動を開始していた。

そんな彼女の前に、とある艦娘が声をかけた。

「高速戦艦の金剛!」

「Youは?」

「私は妙高型三番艦、重巡洋艦の足柄よ。英国では『飢えた狼』とも呼ばれたわ」

「Wonderful!! YouもBritishの艦娘デスカー!」

金剛の顔が輝いた。英国で戦っていた艦娘が自分と比叡以外にもいたことが嬉しかったのだ。

一方、足柄の方は金剛に対して獲物を見据えた獣の目付きをしていた。

「いい? 高速戦艦だかなんだか知らないけど、今回も私が勝つんだからね!」

「What!?」

「私は、今まで一度も演習でも実戦でも負けたことはないの!あんたが戦艦だからって、負けはしないんだから!」

足柄はビシッと高速戦艦を指差した。それを受け、金剛も不敵に笑った。

「・・・All right.YouのChallenge, 受けて立ちマース!」

二人の鋭い視線がぶつかりあった。



134 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:01:43.79 ID:iPmZJDwT0


こうして、四人の艦娘が演習場に揃った。港では来賓達や艦娘がその様子を見守っていた。

金剛と比叡、足柄と大和。

「では、演習を開始する。模擬戦は三本試合。防御壁は解除し、模擬弾としてペイント弾を使い、これが顔・胴体に命中した場合は大破とみなす。

腕、脚への命中は小破と見なし、それらが四つ重なった場合は大破。先に相手を大破以上に追い込んだら一戦終了。試合を2戦先勝したものを勝ちとする」

「では、演習開始! 暁の水平線に勝利を刻め!」

長門の号令が海原に轟いた。



開始の合図と共に、飢えた狼が真っ先に駆け出した。

金剛は威嚇のため、砲塔から砲撃を放った。何本もの大きな水柱が立ったが、足柄はまったく速度を緩めることはなかった。どんな砲撃にも全く歩みを止めようとはしない。

金剛は驚愕した。確かに重巡洋艦は装甲が硬い艤装ではあるが、だからと言って戦艦の砲撃を受ければ最低でも中破は免れない。にも関わらず、足柄は全く怯まなかった。それほど戦いに自信があるのか、勝利に執着しているのか。

「突撃っー!!」

足柄の腕に備わった20.3cm連装砲が火を噴いた(放たれたのは模擬弾だが)。

「Shit...!」

金剛の顔を狙ったが、彼女が腕で防御したため小破に抑えられた。金剛も35.6cm連装砲で反撃するが、全て躱されてしまった。やがて、彼女の両腕と右脚が黒く染まっていった。

「どう? 十門の主砲は伊達じゃないのよ!」

金剛はどうするべきかと逡巡した。相手はまさしく狼のように素早く鋭い。その間にも、足柄が目の前に迫ってきた。

「トドメよ!」


135 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:02:16.27 ID:iPmZJDwT0

足柄は勝利を確信し、接近して雷撃を放とうとした瞬間だった。咄嗟に金剛は解決策を閃いた。

「なっ・・・!?」

金剛は自ら足柄に向かって突撃を始めた。

「Fire!!」

そして、腕がぶつかるほどの至近距離まで近づいた瞬間に接射を放ち、雷撃が放たれる直前になんとか顔に模擬弾を当てた。

「え・・・?」

「勝者、横須賀の金剛!」

足柄は目の前で起きたことが信じられなかった。顔は模擬弾で真っ黒けになってしまい、否応なしに長門から敗北が言い渡された。

「Finishデース・・・」

息を荒げ、金剛は呟いた。

金剛にとっては正直ギリギリの戦いだった。かろうじて奇策で勝利したものの、下手をすれば彼女の方が負けていた。

重巡洋艦でありながら、足柄は戦艦にも劣らない。金剛の中で足柄への勇猛さと強さに対する敬意が生まれていた。


136 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:03:22.72 ID:iPmZJDwT0

「くぅ・・・、負けた・・・!」

一方、演習であるにも関わらず足柄は悔し涙に塗れていた。

彼女にとって、敗北とは絶対に許されないものだった。今は東南アジアで戦友と共に戦う尊敬すべき姉のためにも。自分の背中にいる守るべき市民のためにも。

「うぅ・・・。くぅ・・・!」

「Hey.いいFightでしたヨ、足柄・・・」

金剛は微笑みながら手を差し出したが、その手は振り払われてしまう。

「な、なによ! 勝ったくせに情けなんかかけないでよ!」

「情けじゃないデス・・・。相手へのRespect,Friendshipデース!」

「私は負けられない!負けられないの! よくもこの私に泥を塗ったわね!」

「Honestly、私もギリギリでWinしまシタ。足柄がWeakというわけではありまセーン」

金剛は必死でフォローするが足柄は聞く耳を持たない。

「う、うるさい! よくも私の無敗伝説に泥を塗ってくれたわね! アタシが勝つまでやるんだから! 見てなさい、次はこの私が勝利をつかむんだから!」

黒く染まった顔と涙を袖で拭い、足柄は長門に鋭い目線を向けた。

「長門秘書官、再戦を要求するわ!」

「あ、ああ・・・。金剛、足柄、二戦目開始!!」

冷や汗を流し、長門は部下の要請に応じた。

その後、二戦目で足柄が一本取ったが、結局金剛が三戦目で一本取り、試合は金剛の勝利で終わった。



137 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:04:01.32 ID:iPmZJDwT0


同じ頃、大和と比叡の勝負にも決着がついていた。

「ひえぇぇぇぇっ!?」

比叡は砲弾に数メートルも吹き飛ばされながら悲鳴をあげて倒れた。

「まっ、負けちゃいました・・・」

結果は大和の二本先取で彼女の勝利に終わった。

大和の艤装は艦娘の中でも一際巨大であり、その砲撃の威力も最強と名高い。しかし、その分遅いのが欠点である。

比叡はそこに弱点があると予想し、高速機動からの砲撃戦で勝利を掴もうとしたが、彼女の見通しは甘かった。

まさか、砲撃が全て傘で弾かれてしまうとは思わなかった。

それだけではない。大和はその重装備にも関わらず機敏な動きを見せ、全ての砲撃を交わし一切寄せ付けなかったのだ。

自らが勝利したにもかかわらず、大和の方は信じられない様子だった。

「や、大和が勝ったんですか・・・?」

「そうですよ。やっぱり、強いですね大和さん!」

比叡は背の高い艦娘に向けて笑顔で右手を差し出した。

「試合、受けていただき、ありがとうございました!」

「比叡さん・・・、こちらこそありがとうございます」

二人は笑い合い、静かに握手を交わした。


138 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:05:38.16 ID:iPmZJDwT0


一日目の合同演習は、これにて終了した。

その晩の夕食は、祥鳳と大鯨が作った横須賀ディナースペシャルだった。フーカデンビーフと肉じゃががメインメニューで、大和を始めとする艦娘達にも好評だった。

なお、夕飯の後で那珂・川内・神通が数十名以上の食器の片付けをさせられたのは言うまでもない。

とは言え、さすがに三人だけにやらせるほど祥鳳も非情ではなく、自ら手伝いを申し出てくれた舞鶴の艦娘達と共に片付けを手伝った。

「ごめんなさいね、待機中なのに」

「いえいえ、これくらいお安い御用です!」

祥鳳は皿とコップを拭きながら、純朴な顔をしたセーラー服の少女を見つめた。彼女は吹雪と名乗った。他にも磯波や白雪という艦娘達が片付けに参加してくれた。

「あの・・・、赤城さんについてお聞きしたいんですが・・・」

「赤城さんについて?」

「私、赤城さんに憧れていて、いつか一緒に戦いたいんです!」

「う~ん。私もあんまり会話しないから詳しくは知らないんだけど、穏やかで礼儀正しくて任務に厳しい人かな。でもどうして?」

「昔、赤城さんが戦場で私達を助けてくれたことがあるんです。だから、今度は私が赤城さんのお役に立てればって!」

「そっか・・・。そうね、まずは目の前のやるべきことをきちんとやっていきましょう。

それを積み重ねてゆけば、いつかは赤城さんの護衛艦になれると思うわ」

「はい!」

まるで昔の自分を見てるようで祥鳳は微笑ましかった。私も、こんなふうに鳳翔さんに憧れて、艦娘になろうって思ったんだったっけ。

そして、同時に暗い事実にも気付いた。こんな素直で頑張り屋な子達も、いつ死ぬかもわからないような戦場に赴いているんだ。

お皿を片付ける吹雪たちを見て彼女は静かに胸の中で誓った。

彼女達と共に戦う時があったら、絶対に守ってあげよう。



139 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:07:15.18 ID:iPmZJDwT0


二日目は軽巡洋艦と駆逐艦の合同演習だった。軽巡洋艦と駆逐艦の場合はルールが異なり、一本先取により勝敗が決まる。

舞鶴からは吹雪、島風、夕立の三人だった。舞鶴には駆逐艦の艦娘が多く、その中から選ばれた代表選手が彼女達なのだ。

この日は祥鳳と大鯨が審判役に任じられていた。その間の潜水艦哨戒は舞鶴の駆逐艦や軽巡洋艦の艦娘達が担当していた。

舞鶴には潜水艦との戦いを得意とする由良という艦娘がいるらしく、祥鳳は安心していた。

大鯨と共に軽巡洋艦と駆逐艦の演習場を視察していると、とある軽巡洋艦の艦娘が球磨と多摩に声をかけているのを見かけた。

「よう! 久しぶり、球磨姉に多摩姉!」

「木曾かニャ!?」

「久しぶりクマー!」

球磨と多摩は嬉しそうに右目に眼帯を付けた白い帽子の艦娘に抱きついた。二人の挙動を見て祥鳳はその娘のことを思い出した。

その艦娘の名は木曾。現在は舞鶴に派遣されている、球磨と多摩の実の妹だ。球磨に似てやんちゃな面があった子だったが、随分大きくなったなと感心した。

同型の艤装に選ばれる艦娘達はお互いに血縁関係にある者が殆どである。金剛や比叡がそうであり、球磨達もまたその一例だった。

球磨、多摩、木曾の三人は実の姉妹で、現在別件の任務で横須賀に不在の北上と大井も、三人の従妹にあたる。


140 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:08:01.07 ID:iPmZJDwT0

ふと、彼女の後ろを見ると、小柄な少女が後ろで小さく震えていた。

「その子は誰クマ?」

「コイツか?コイツはまるゆ。一応潜水艦なんだが・・・」

「は、はじめまして! ま・・・、まるゆと申します・・・!」

白いスクール水着を纏った少女は、ぺこりと頭を下げて挨拶した。どうやらかなりの人見知りらしい。

そしてその服装が水着であることから、彼女は潜水艦の艦娘であると祥鳳は気付いた。

潜水艦の艦娘は艤装の自体の数が少なく、海底から浮上する深海棲艦と誤解されることも多く「深海棲艦のスパイかもしれない」と、謂れのない差別を受けつこともあった。

また、艤装による服装の制約のため、常にスクール水着を着ている彼女達は好奇の視線で見られることも多い。そのため、ストレスで精神的に病む子もいた。

そんな潜水艦の艦娘達を祥鳳と大鯨は放っておけず、よく面倒を見ることがあった。

しかし、このまるゆという子は臆病ではあるが、ストレスを溜めているようには見えない。木曾がこれまで丁寧に接してきたのだろう。

「コイツはまだ魚雷が上手く使えねぇ。しかも潜るのが下手でな・・・。演習で慣れさせようと思って連れてきたんだ」

「そんなんで球磨姉と多摩相手に勝てる気かニャ?」

「へっ。舞鶴で鍛えた俺の力、見せてやんよ」

木曾はニヤリと笑った。

「行くぞまるゆ! 相手はあの球磨姉と多摩姉だ、遠慮無くぶつかってけ!!」

「はっ、はい!」

まるゆは潜ろうとしたが、頭だけ隠れて尻が浮いてしまい、上手く潜れなかった。



141 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:10:46.02 ID:iPmZJDwT0

軽巡洋艦の合同演習の審判を大鯨に任せ、祥鳳は駆逐艦の演習場に向かった。

舞鶴の駆逐艦の娘の中に、昨晩手伝ってくれた吹雪を見つけた。

彼女の隣には夕立と島風がいた。この二人の噂は祥鳳も何度か耳にしており、舞鶴でも群を抜く性能の艤装を使っているという。

夕立は白いリボンを頭に付けた金髪の長い髪のほっそりとした容貌の美少女だった。その華奢な姿はフランス人形のようにも見える。

島風は非常に丈の短いスカートとセーラー服を着た少女だった。

ウサギのような長いリボンを頭に付け、その周りには可愛らしい表情が描かれた連装砲ちゃんなるかわいらしい表情付きの移動砲台が付いて回っていた。

その二人に比べると吹雪はやや地味なように見えた。だが、その艤装はやや傷だらけで、彼女も如月や睦月同様、長年戦い抜いた少女であることが伺えた。

「ふふ~ん。島風の性能、見せてあげるわ!」

如月と睦月を前に、島風が自信満々で二人を指差して宣言した。

「性能、ね・・・」

如月がくすくすと笑った。

「ならば、ベテランの差というものを見せてあげるのです!」

睦月と如月はベテランということで、敢えて3対2の演習を主張した。

この二人は容姿こそやや幼く見えるが、実際はこれまで幾度となく死闘を繰り広げてきたのだ。

腕試しということで、二人は敢えてハンデ付きの勝負を望んだのだ。

祥鳳は大鯨の方をチラリと見た。彼女の方も準備が完了したと、手を振って合図を送ってきた。

「演習、始めてください!」

演習場に祥鳳の掛け声が轟いた。



142 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:12:11.06 ID:iPmZJDwT0

「さぁ、素敵なパーティ始めましょ!」

駆逐艦の演習で最初に踊り立ったのは夕立だった。その華奢な風貌とは正反対の好戦的な性格に如月達は驚いた。次々と12.7cm連装砲を撃ち出し、攻撃を仕掛けてきた。

「ふわぁぁぁ!」

先制攻撃に不意を突かれ、如月が被弾した。幸い左脚なので小破だったが、それでも動きは少し鈍くなってしまう。

「やってくれるわね・・・!」

如月も反撃に島風に向けて銃撃を放った。だが、島風は尽くその攻撃をかわしてしまう。

「にひひ・・・。あなた達って、本当に遅いのね!」

確かに性能上は彼女達の方が上のようだ。水柱の高さから、火力も睦月型の艤装より上なのだろう。

そして、異様なまでに素早い島風の機動力。海原を自由自在に動き回り、華麗に睦月と如月を翻弄していた。

さらにその後ろについて回る連装砲ちゃん達が厄介だった。この三体の移動式砲台も攻撃を仕掛けてくるため、実質六対二の戦いでもあった。

「さすがは・・・特型駆逐艦と、最速の駆逐艦ね」

だが、如月と睦月は吹雪達の弱点を既に見出していた。

「ちょっと、一人で行き過ぎたら危ないよ!」

「島風ちゃん張り切りすぎっぽい!」

「もー!二人ともおっそーい!」

舞鶴の三人の連携にはどこか隙が見られた。恐らくチームを組んでまだ日が浅いのであろう。その証拠に、吹雪の警告を島風は全く聞かず、ひとり前に出てしまっていた。

「よ~し。連装砲ちゃん、囲んじゃって!」

三体の連装砲ちゃん達が睦月達を取り囲もうと動き出し、砲塔を睦月達に向けた。

これが島風の戦法だった。自身の高速機動で相手を翻弄し、魚雷と連装砲ちゃん達の攻撃で相手を仕留める。

これで幾多の敵を沈めてきたのだ。そして彼女の放った網にかかった以上、もはや絶体絶命かと思われた。


143 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:13:42.06 ID:iPmZJDwT0


否、睦月達の反撃の開始だった。

「睦月ちゃん!」

「いくのです!」

島風が如月に向けてトドメの演習用魚雷を発射しようとした瞬間、二人は頷きあって手をつなぎ合わせた。

そして睦月を軸にして如月がメリーゴーランドのように回転し始め、その体勢のまま単装砲を放ち、連装砲ちゃん達へ素早く銃撃を浴びせた。

連装砲ちゃん達も迎撃の弾を放つも、突然動かれてしまっては狙いが剃れてしまった。次々と黒い模擬弾を浴びせられ、バランスを崩して倒れていった。

「えっ・・・?」

連装砲ちゃん達が倒されてしまい―と言っても演習用の模擬弾が当たっただけだが―、島風は一瞬頭がこんがらがった。

いつもの戦法が効かないことに動揺し、動きに乱れが生じた。

すかさず、睦月と如月は手を離して二つの方向へ分かれた。

「えっ、えっ・・・!?」

混乱した隙を突いて、睦月と如月は一気に弾幕を張って夕立と島風を真っ黒にした。

「やられたっぽい・・・!」

「はう・・・この私がやられるなんて・・・!」

呆然として夕立と島風はその場に座り込んでしまった。そして、残るは吹雪だけだった。

「まっ、負けません・・・!」

吹雪は直ぐ様回避行動を取り、二人から逃げ出した。だが、睦月と如月にはまだ魚雷が残っていた。二人の放った魚雷が容赦なく吹雪に命中し、彼女を吹き飛ばした。

「きゃあっ!」

この場は横須賀のベテラン組の勝利だった。


144 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:17:11.85 ID:iPmZJDwT0

「うぅ・・・、こんな遅い子達に負けるなんて・・・」

港に戻った島風は悔しげに呟いた。その瞳は敗北の悔しさで、少し潤んでいた。

彼女達のもとへ、如月と睦月がやって来た。

「う~ん、ちょっと連携がイマイチね。特に島風ちゃん、艤装と連装砲ちゃんに頼りすぎね。ちゃんと吹雪ちゃん達と足並みを揃えなきゃダメでしょ?」

「はぅぅ・・・。ごめんね吹雪・・・」

島風は返す言葉もなく、俯いた。吹雪も

「覚えておくといいぞよ。どんなに優れた艤装があっても、そこに心がなければ意味がないのです!」

睦月が上から目線で胸を張って言ったが、如月以外は誰も聞いていなかった。

「そうね、睦月ちゃんの言うとおりね。大切な人への大切な気持ち。それが私達の力になるの」

「た、大切な人への大切な気持ち・・・?それがあればもっと速くなれるの?」

「それって友達とかのことっぽい?」

如月は微笑んで頷いた。

「私達は、大切な仲間がいて、守るべき人達がいる。みんなを守りたい。その心が、艦娘にとって一番大事なことなの。覚えておいてね」

舞鶴の三人は先輩の言葉に静かに頷いた。

「まぁ、これって」

「鳳翔さんの受け売りなんだけどね。にゃしし・・・」

いたずらっぽく睦月と如月は笑った。二人の笑顔を見て、吹雪たちも笑った。


145 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:17:53.34 ID:iPmZJDwT0

軽巡洋艦の訓練場では審判役の大鯨が目を丸くしており、勝敗の宣言を忘れていた。

「クマッ!?」

「ニャッ!!」

球磨と多摩は手脚を全て黒く染め、木曾に敗北した。以前の怪我が完治してからまだ間もないとは言え、この二人は戦艦を大破させられるだけの強さがあるのだ。ましてやまるゆがいるとは言え、事実上ほぼ二対一である。それをあっさりいなすとは。

「すっ、すごいです木曾さん・・・!勝者、舞鶴の木曾とまるゆ!」

大鯨が驚愕しながら慌てて赤旗を木曾達に向けた。

「まさか、球磨が妹に負けるとは・・・不覚クマ」

「木曾、本当に強くなったニャ・・・」

木曾は隣で俯いている背の低い少女に目を向けた。

「ふぇぇ・・・、木曾さぁん・・・」

「まるゆ、お前全部外したろ。魚雷、一発も当たってなかったぞ」

「すっ、すびばせぇん・・・!」

まるゆは鼻水と涙に塗れていた。何もできない弱い自分が情けなかったし、それ以上にいつも世話になっている木曾の役に立てなかったのが申し訳なかった。

「バカ、泣くな。そんな暇があったら、今度はどうやれば当たるか考えようぜ。なっ?」

「は、はひ・・・!」

「まっ、あの球磨姉と多摩姉の対潜攻撃をかわせただけでも上出来さ」

木曾は子分の頭をそっと撫でた。まるゆも涙を拭って、静かに頷いた。

「木曾、カッコいいクマ・・・!」

「ちょっと見ないうちにいいお姉さんになったニャ」

「へへっ、まぁな」

木曾は照れ臭そうに頬を指で擦った。

この時、木曾や睦月たちを、鋼鉄の球体が波の狭間からじっと見つめていた。だが、気づく者は誰ひとりとしていなかった。


146 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:20:55.19 ID:iPmZJDwT0


その頃、横須賀鎮守府から少し離れた三浦半島南東の海岸。そこで那珂が暁たちの訓練に従事していた。

一日目の川内主導の訓練は暁たちが思っていたよりもあっけないものだった。

川内は基礎的な訓練と夜戦についての担当で、反航戦の方法や、夜間の索敵方法や探照灯の点けすぎは危険であるなど、基礎的な知識を教わった。

そして、この日の那珂の訓練は、重い艤装を着けながら干潟の掃除をすることであった。

横須賀のすぐ近くには、干潟があり、泥の那珂や岸辺に深海棲艦の襲撃で生じた残骸が大量に蓄積しており、ゴミ溜まりと化していた。

「私達は海を守るんだから、海のステキな生きものさん達も守らないとねー!」

泥だらけになりながら、ジャージ姿の那珂は干潟の泥に埋もれたゴミや自転車を引き上げ、片付けた。アイドルらしからぬ仕事だが、彼女は泥だらけになることを全く気にしていなかった。

暁たちは驚いた。真面目で綺麗好きそうに見える神通はともかく、アイドルを自称する彼女がこういった泥仕事をするとは。眠そうな顔をしながらも、川内も掃除を手伝っていた。

「那珂ちゃん先輩、こんなのレディーのやることじゃないですか!」

暁の文句を那珂は聞き入れなかった。

「う~ん、那珂ちゃんのファンやめたくなった~? でも、今更やめられませ~ん! 残念でした~♪」

「うわ~ん!那珂ちゃん先輩の馬鹿~!」

仕方なく、四人の幼い艦娘は泥だらけになりながらゴミを拾い続けた。



147 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:21:50.36 ID:iPmZJDwT0

「だいたい、こんなとこに生き物なんかいないじゃないですか!」

「う~ん、それは違うかな~。ちょ~っと3分間、そこの穴ぼこだらけのところでじぃ~っとしててごらん!」

暁達は渋々その言葉に従い、じっと泥の上に静かに座った。

暫くすると、小さなカニが泥の巣穴から現れ、ハサミを上下に振るい、ダンスを始めた。

「かわいいのです!」

「ハラショー・・・」

響はそのダンスに見惚れてしまった。それは、彼女の姉妹もまた同様だった。

「このカニさんはチゴガニって言ってね、みんなでダンスをするカニさんなんだよ!」

しばらく待つと、他にも様々な生きもの達が泥の中から現れ、動き始めた。小さなトビハゼが泥の上を跳ね、水鳥が餌を探しに静かに舞い降りた。

「かわいいでしょ?」

那珂は生き物を驚かさないよう小声で言った。

「ここは那珂ちゃんや神通ちゃん達がちっちゃい頃、よく遊びに来てた所なんだ。だから、少しでも綺麗にしてあげたくて」

「那珂先輩・・・」

「響ちゃん、電ちゃん、雷ちゃん、暁ちゃん。艦娘は深海棲艦と戦うだけじゃダメなの。みんなを笑顔にしてあげること、ふるさとを愛する気持ちも同じくらい大事なんだよ」

四人は小さく頷いた。那珂は満足そうに微笑み、突然立ち上がって右手を上げ、叫んだ。

「那珂ちゃん親衛隊のみなさんも、海の生きものさんを大事にしてあげてねー!」

「はーい!」

「那珂ちゃんのお手伝いできて、オラたち感激でっさ・・・」

同じく海の片付けをしていた那珂ちゃん親衛隊のボランティアの皆さんが泥まみれになりながら元気よく返事した。

「そしてこの活動も、那珂ちゃんアイドル伝説カッコカリの大きな一ページになり・・・。ぬふふ・・・」

「こら、せっかくいいこと言ってたのに、余計なこと言わないの」

川内は泥だらけの手で那珂の額を小突いた。

「いったーい! 那珂ちゃんアイドルなのに!? っていうか顔はやめてよ~!」

おでこが黒く染まったアイドルを見て、親衛隊の皆さんがほっこりした笑顔になったのは言うまでもない。



148 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:23:33.12 ID:iPmZJDwT0

合同演習三日目。

昨晩は足柄特製のカツカレーと大和のフルコースが好評だった。「夜戦演習したい!」と川内が騒いで夕張と一悶着起こすというハプニングがあったものの、如月と睦月によって止められたため、大した騒ぎにはならなかった。

合同演習の三日目は天候不順などがあった場合の予備日であり、実質的に訓練はお休みだった。一般の来客は通常通り立ち入り禁止に戻り、それまで騒がしかった鎮守府は一気に静かになった。

その間は自由時間であり、緊急の出動がない限り各自が自由に過ごすことを許されていた。

球磨と多摩はその日の朝には既に横須賀鎮守府にはいなかった。木曾とまるゆと共に、伊豆諸島付近まで哨戒や輸送船の護衛を兼ねて遠征に出かけたのだ。

睦月と夕張は工廠で仲良く作業を行なっており、金剛は祥鳳と如月と共に鎮守府付近の散歩をしていた。

長門は比叡など希望者を連れてグラウンドでトレーニングを始め、大和は大鯨と料理の勉強をしていた。

一方、川内達は暁達の訓練を続けており、最終日は神通の担当だった。

「もう・・・、いやだ・・・」

だが、暁は早くも根を上げる寸前であった。


149 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:33:33.08 ID:iPmZJDwT0

神通さんはおとなしくて優しいから特訓も那珂ちゃんほど厳しくないものに決まってるわ。 そう暁はたかを括っていたが、それはあまりにも甘い見通しだった。

まさか、いきなり艤装を装備したまま反復横跳びを300回もさせられるとは思わなかった。

艤装を装備すれば身体的には強化されるが、陸上では動きが不自由になってしまい、反復横跳びも難しかった。

しかし何があろうと、神通は止まることだけは許さなかった。

「痛ッ・・・!」

足を少しでも止めた瞬間、容赦なくお仕置きとしてコルク栓の弾を撃たれた。勿論模擬弾なので実害はないが、それでも当たれば少し痛いし服も汚れる。

さらに、きちんと線を踏まなければカウントされず、四人は実質的にかなりの距離を往復していた。

「響さんあと100回、電さんあと130回、雷さんあと120回、暁さんあと120回です! 頑張ってください!」

四人とも荒い息を吐き、汗だくになりながら反復横跳びを続けていたが、もう暁は限界だった。

「もーヤダ! 私こんな訓練やめる!!」

「暁さん!」

隙を見て、暁は神通の制止も聞かず、脱兎のごとく逃げ出してしまった。

「あー!暁だけ逃げるなんてずるーい!」

「ちゃんと訓練しなきゃダメなのです!」

雷たちの制止も振り切り、暁は何処かへと走り出した。

「神通、ちょっと厳しすぎじゃない・・・?」

「いいえ。むしろ姉さんや那珂ちゃんは甘すぎです。少しでも訓練を重ねて、生き残る確率を上げないと」

神通は残った三人に向き直った。三人ともペースが遅くなっており、訓練に対するモチベーションが明らかに下がっていた。

「暁さんには後で残りを続けてもらうことにしましょう。みなさんはこのまま続けてください」

はい続けて。神通が手を叩き、三人は渋々反復横跳びを再開した。

「神通ちゃん、結婚したら教育ママになりそうだよね」

那珂は神通に軽く頭を叩かれた。

「だから顔はやめてってばー!」


150 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:35:37.23 ID:iPmZJDwT0

艤装を途中で放り投げて逃走していた暁は、祥鳳たちと散歩をしていた金剛にぶつかった。

汗まみれの彼女のジャージと荒い吐息から、三人はすぐに事情を察した。

「あらあら、訓練から逃げてきちゃったのね?」

「Oh...」

「ダメじゃない暁。訓練から逃げ出すなんて」

三人は口々に暁を叱ったが、彼女の不満が収まることはない。

「だって! あんなの厳しすぎるだもん! もっとレディーらしい優雅な特訓がしたかったのにー!」

「はぁ・・・」

「わかってないデース・・・。神通が厳しいのは、暁達に少しでもSurviveしてほしいからデース」

「本当のレディーなら、それくらい分かってるものよね~」

金剛の正論に如月も便乗した。普段は優しい駆逐艦の先輩にまで言われ、暁は涙目になった。

「う・・・。で、でも・・・」

「でももヘチマもないわ。私達駆逐艦や軽巡洋艦は、速い代わりに防御壁が薄いの。だから、少しでも生き延びるためには回避力を上げるしかないのよ」

暁は反論しようとしたが、如月の正論に口を噤まざるを得なかった。

「私なんかGeepに追いかけられたデース」

「私はそれほどじゃなかったですね。龍驤さんの訓練は割と甘めでした。

餅つきとか、野菜を塩漬けにするとか、豆まきの特訓とか、お料理とか裁縫とか、ほとんど家庭科の授業ばっかりでしたよ」

「私もそっちが良かったー!」

暁がぼやいた。

「まぁ、私の場合はたい焼き名人養成ギブスを付けての特訓だったけど、それでもよければ・・・」

その続きを聞き、暁は首を横に振った。


151 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:36:20.57 ID:iPmZJDwT0

「ほぅ。思い出話かね?」

伊吹がどこからともなく現れた。この人は忍者か何かなんだろうかと暁は思った。

「提督、Britishにいた時のこと、覚えてマス?」

「忘れられるわけがない」

伊吹は苦笑しながら天を仰いだ。

「どんな特訓だったんですか?」

興味を惹かれ、暁は尋ねた。如月と祥鳳も興味深そうに二人を見つめた。

「ソレは・・・」

金剛もまた伊吹と同じように青空を見上げた。


152 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:38:06.43 ID:iPmZJDwT0


英国にいた頃、金剛は数々の特訓に勤しんでいた。

その時命じられた訓練は、基礎体力を養うものから淑女としての品格を養うものまで多岐に渡るものだった。

辛い特訓だったが、それでも金剛はそれに耐え続けた。

もうあんな悲劇は繰り返したくない。その思いが彼女を支え続けていた。

だが、そんな彼女ですら折れた特訓があった。

ある極寒の冬の日、「艤装を装着したまま噴水の水を斬れ」と命じられた。

その噴水は訓練用に整備された特別な噴水で、滝を逆さにしたような激流が吹き出す仕様だった。

あまりに理不尽な特訓を言い渡され、金剛は泣いた。

何度やっても切れない。そもそも水を斬るなどできやしない。

「無理です・・・、私には無理です・・・!」

膝をつき、びしょ濡れになって泣いた。

だが、そんな金剛を伊吹は許さなかった。

「甘ったれるな!」

彼は足を引きずりながらプールへと入り、俯いた彼女の頬を力強く張り倒した。

金剛はバランスを崩し、水しぶきを上げて水底に倒れた。


153 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:38:53.16 ID:iPmZJDwT0

「い、伊吹司令! やめてください・・・!」

さすがに見かねた比叡が止めに入る。だが一瞬自分の方を向いた伊吹の横顔を、瞳を見て黙りこくってしまう。その瞳には涙こそないものの、深い哀しみが見られたからだ。

「その涙はなんだ、その目はなんだ!?」

金剛は顔を上げ、伊吹の瞳を見た。

「全ての深海棲艦からみんなを守りたいと言ったお前の誓いはどうした!? どんな訓練にも耐えてみせると誓ったはずだ!? 立ちあがれ!立って戦え!」

彼はあらん限りの力で叫んだ。彼自身、自分が戦えればと何度も無念を感じていた。ゆえに、彼は金剛のため鬼羅刹となり、艦娘として戦う力と心を必死で叩き込もうとしていた。

「お姉さま・・・!」

「大丈夫デス比叡・・・! 私は・・・負けまセン!」

案ずる妹をよそに、金剛は痛む脚を無理やり引っ張ってまっすぐ背を伸ばし立ち上がった。

伊吹の言うとおりだった。こんなところで膝をついていては、深海棲艦に勝つことなどできない。金剛はふらつきながら立ち上がった。

とめどなく溢れ出す噴水。その流れは力強く、深海棲艦を想起させる。

速い、怖い。あの日の悪夢が蘇るようだった。


154 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:39:56.78 ID:iPmZJDwT0

この恐るべき水の怪物をどう斬ればいい? ふと、水流に混じって小さな木の破片が流れるのを目にした。

それを注視していると、僅かだが滝の幅が小さくなる瞬間があった。

これだ! 金剛は閃いた。彼女は木の破片を目印に、その僅かに勢いが小さくなった瞬間を手刀で切り裂いた。

「はぁっ!!」

手刀に水の重圧が掛かるが、確実に噴水の流れを一瞬断ち、激しい水飛沫が飛び散った。

「やったぁぁぁっ!!!」

「お姉さまぁぁぁ!!」

比叡が大喜びして姉に飛びついた。特訓を完了させた金剛を見て、伊吹も満足げに微笑んだ。





155 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:40:45.47 ID:iPmZJDwT0




金剛の特訓の話を聞き、暁は絶句していた。隣で話を聞いていた祥鳳や如月さえも、あまりの壮絶さに言葉を失った。

「懐かしいな・・・」

伊吹は静かに言う。もう10年も前の話だった。

「暁。私や祥鳳も、如月も、艦娘達はみんな最初から強かったわけじゃないデース。みんな、Hard trainingを乗り越えマシタ・・・!Sea monstersからみんなをProtectするために」

「ありがとう。大好き。素敵。嬉しい。大切な人への大切な気持ち。それが私達の力になり、私たちを支え、辛い戦いや訓練を乗り越えさせてくれたのよ」

如月は暁の目をじっと見て言った。いつもの彼女らしからぬ真面目な言葉だったが、暁は素直に頷いた。

「わかったら訓練に戻りなさい。ねっ? ちゃんと神通さんに謝ってくるのよ」

「う、うん・・・。暁、レディーだもん。ちゃんと謝ってくるもん!」

祥鳳に肩を叩かれ、暁は訓練場へと戻っていった。去って行く彼女を、如月と祥鳳は小さく手を振り、目を細めて見守った。

一方、金剛の目線は提督の厳つい顔へと向いていた。

「提督・・・」

「なんだ?」

「私、あの時貴方に、FightingSpiritをもらったんデスよ・・・」

彼女は祥鳳達に聞こえないよう、こっそりと囁いた。

「金剛、俺は・・・」

「提督。私、あの時からずっと・・・!」

156 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:41:30.65 ID:iPmZJDwT0


『緊急連絡! 川崎市工業地帯沖合に深海棲艦の反応探知! 戦艦級6体!』

だが金剛の言葉は夕張の代わりに通信を担当していた赤城の声で遮られてしまった。

『同じく、潜水艦を含んだ別の軍勢が発生、幕張沖合に接近中!』



赤城の通信を受け、鎮守府にとどまっていた全艦娘が港に集合した。

「大和、聞いたな?」

「はい」

「川崎市工業地帯は私が行こう。大和、比叡。お前たちも行けるか!?」

「はい!」

「Of course!!」

「私も行きます! 今度こそ、この手に勝利を掴むわよ!」

「よし。工業地帯沖には大和、金剛、比叡、足柄、そして私が行こう。幕張はどうする?」

「幕張付近の深海棲艦には私が対処します」

祥鳳が前に躍り出た。距離からしても、高速機動のできる彼女が適任であろう。

「よし、ならば舞鶴の三人を連れて行くといい。昨日は横須賀の二人に敗北したが、きっと頼りになるはずだ」

「わかりました」

祥鳳は前に出た三人の駆逐艦の少女に向き直った。

「吹雪ちゃん、夕立ちゃん、島風ちゃん。よろしくね?」

「は~い」

「ぽ~い」

「はっ、はい! 吹雪、がんばります!」


157 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:42:05.40 ID:iPmZJDwT0

祥鳳は微笑み、吹雪達と共に艤装を呼び出し、装着した。

「来て、『祥鳳』!」

祥鳳は上着を勢いよくはだけ、左肩を露出した。直後、艤装が身体を覆い、飛行甲板が脚部装甲と弓矢に変わった。

「『島風』、走るよ!」

超高速で召喚された艤装が変形し、島風の背中に魚雷が積まれ、大中小の連装砲ちゃん達もいそいそと駆けつけた。

「『夕立』、出撃ぽ~い!」

「『吹雪』、行きます!」

夕立と吹雪も背中に煙突のような艤装を背負い、出撃準備を整えた。

「艦隊、出撃しますね!」

祥鳳を旗艦とした小隊が幕張の沖合へと勢いよく白い飛沫を上げて走り出した。

「我々も行くぞ。戦艦長門、出撃する!」

長門を旗艦とした艦隊も、それに遅れて出撃した。戦艦と重巡洋艦が勇壮に海を進み、大きな波しぶきが上がった。その波は港の波消ブロックにぶつかり、飛沫となって飛び散った。

モニター越しに彼女達の出撃を見つめる赤城の手は、固く握られていた。



158 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:45:39.97 ID:iPmZJDwT0


まず祥鳳は偵察として九七式艦攻を放った。艦載機から祥鳳に電波で情報が送られ、敵の編成が判明した。

単眼の醜い魚のような駆逐ハ級が6体、三ツ頭の軽巡ト級が3体、両腕に口を持つ重巡リ級が3体だった。

「みんな、いい? まず、私が先制攻撃を仕掛けるね。島風と夕立ちゃんは、混乱した敵陣を切り崩して。私が援護するから」

祥鳳には島風も素直に従っていた。昨日の教訓もあってか、彼女も独りで突っ走らずに三人と歩調を合わせて進んでいた。

「吹雪ちゃんは私の護衛をお願いね」

「はっ、はい!」

吹雪は緊張した面持ちで頷き、単装砲を構えた。やがて、12体の深海棲艦の群れが近づいてきた。

「艦載機のみんな、お願い!」

彼女の叫びと共に、20機以上の艦載機が出撃した。

九七式艦攻の雷撃が軽巡ト級を3体とも撃ち抜き、九九艦爆がほぼ一方的にハ級達を吹き飛ばした。

リ級は致命傷に至った個体はいなかったが、多少は手傷を負わせることに成功したようで、動きが鈍っていた。

「夕立、行くよ!」

「ぽ~い!」

夕立と島風、そして連装砲ちゃん達がロ級の群れをすり抜け、リ級に向かった。リ級が怒りの咆哮を上げて砲弾を放とうとしたが、九九艦爆がそれを妨害した。

手負いのリ級では、島風のスピードに付いていくことはできない。

島風は砲撃を華麗に回避し、自らの弾を的確に打ち込んでゆく。まさに速きこと島風の如しであった。

3体の連装砲ちゃん達も縦横無尽に動いて援護射撃を行い、リ級を苦戦させた。

そして、リ級の動きが鈍くなったことを悟った夕立と島風は魚雷の発射準備を整えた。

「酸素魚雷、いっちゃってー!」

連装砲ちゃん達がリ級を包囲し、二人が無数の魚雷を放った。全弾が見事命中し、重巡3体は派手な爆風を上げて吹き飛んだ。

「す、すごい・・・!」

「吹雪ちゃん、油断してちゃダメっぽい!」

通信機から夕立の声が聞こえた。吹雪と祥鳳の周りには、既に爆撃をまぬがれたハ級の生き残りが群がりつつあった。

「わ、私がやっつけちゃうんだからー!」

吹雪は弾幕を張り、祥鳳に噛み付こうとしたロ級達を吹き飛ばした。

「ありがとう、吹雪ちゃん」

「は、はい!」

祥鳳も九九艦爆達を戻し、ハ級を爆撃した。祥鳳と吹雪のコンビネーションで、ハ級の群れは一人残らず全滅してしまった。


159 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:48:08.43 ID:iPmZJDwT0

だが、軽巡がまだ残っていた。海魔は震える右腕で吹雪に狙いを定め、魚雷を放った。

「きゃっ・・・!」

しまった。演習で魚雷に狙われたのに、魚雷の対策を忘れるなんて・・・。吹雪は自身の詰めの甘さを呪った。

「んっ・・・」

だが、彼女が吹き飛ばされることはなかった。祥鳳が吹雪の盾になっていた。軽空母の防御壁は駆逐艦よりやや高いとは言え、決して鉄壁の壁などではない。

事実、防御壁は既にヒビだらけになり、今にも割れそうだった。弓矢は折れ曲がり、胸部を覆っていたチューブトップも衝撃で千切れ、祥鳳の胸が今にも露わになりそうだった。

「こんのぁぁぁぁ!!」

駆けつけた島風が激昂し、連装砲ちゃん達に砲撃を命じた。最後の軽巡は一瞬で蜂の巣にされて爆散した。

「祥鳳さん、なんでっ!?」

吹雪は傷ついた祥鳳に駆け寄り、今にも倒れそうな彼女を支えた。

「旗艦は最期まで・・・、みんなを守らなくっちゃね」

「だからって、祥鳳さん無茶が過ぎるっぽい~」

夕立が涙目で寄ってきた。

「ごめんなさい、私なんかのためにこんな・・・!」

「大丈夫、ちょっと怪我しただけだから。すぐに治るわよ」

「で、でも・・・!私、護衛艦だったのに・・・!盾にもなれなくて・・・!」

吹雪は護衛の任務を果たせなかったことが申し訳なく思い、先輩に何度も何度も頭を下げた。無数の涙が海に零れ落ち、祥鳳の足元に波紋を作った。

だが、彼女とは対照的に祥鳳は微笑んでいた。

「いい? あなた達駆逐艦は使い捨ての盾なんかじゃない、大事な仲間よ。私達はみんなで支え合い、進んでゆくの。ねっ?」

「・・・はい」

「さっ、帰りましょう」

祥鳳は静かに駆逐艦達の頭を撫でた。

「・・・はいっ!」

瞳に溜まった雫を袖で拭い、吹雪は頷いた。



160 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:49:16.22 ID:iPmZJDwT0

祥鳳達の次に出撃した長門達は、工業地帯沖で待ち構えていた。

「敵機発見! 二時方向からです!」

戦艦が6体出現した。そのうちの5体は艦娘にとって馴染み深い戦艦ル級であった。この5体は、先頭の一体に付き従うように進んできた。

リーダーと思しき個体は、小柄で色白の少女の身体に竜の頭が腰から生えた怪物、戦艦レ級だった。

長門はそのタイプの深海棲艦を見るのが初めてだった。それもそのはず、レ級は姿形が目撃されたのみで、どのような攻撃を仕掛けるかは不明だったのだ。

「ヒハハハ・・・」

動き出したのはレ級からだった。白い少女の顔がニヤリと歪むと、竜の口が牙を剥き、魚雷が何本も発射された。

「くっ・・・」

金剛と足柄は回避し、長門と大和は艤装の堅牢な鎧で魚雷を弾いた。だが、比叡は不運であった。

「きゃぁぁぁぁっ!?」

「比叡!?」

比叡は魚雷の直撃を受けてしまった。防御壁により無事ではあったが、連装砲が幾つか破損し、まともな攻撃ができなくなっていた。服も破け、サラシが露出してしまった。


161 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:49:45.71 ID:iPmZJDwT0

「むぅ・・・」

長門はト級とそれを護衛するかのように囲う5体の深海棲艦を見つめ、対策を検討し始めた。

戦艦の艦娘と同様、これまで交戦記録の存在する深海棲艦の戦艦型も魚雷が撃てないはずだった。だが、このレ級にはそれができる。加えて、頭部には砲塔も備わっており、通常の砲撃も可能と見て間違いないだろう。

ならば・・・!

「長門秘書官、いかがいたしますか?」

「要するに、あの口を塞げばいいのだろう? 敵との殴り合いなら任せておけ!」

答えは一つ。長門が不敵に笑った。

「まず私がレ級を仕留め、それから残りを討ち果たす。他の皆は砲撃で援護を頼む。大和、援護射撃と比叡の護衛を任せたぞ」

大和は黙って首を縦に振った。

「さて、行くぞ!」

敵味方の放つ砲撃の雨あられの中、長門は悠然と、しかし確実に進んだ。だが、低速戦艦ゆえにその速度は遅く、レ級にとってみれば絶好の標的であった。

「ヒハハハハ・・・」

ト級はふたたび魚雷を発射し、五本を一気に撃ち込んだ。しかし、長門は避けようとも逃げようともしない。

「艦娘に同じ手が二度通ずると思ったか!」

一瞬のみ防御壁を解除し、直後すべての魚雷を拳で殴り飛ばし弾道を逸らした。

「!?」

レ級は困惑した表情を浮かべた。長門のすぐ後ろで魚雷が爆発したが、長門は平然としていた。慌てて艦載機を放ったが、長門は爆撃など意に介さない。その堅い鎧が付け焼刃にも等しい爆撃で貫けるはずがないのだ。

もっとも、例えその身が爆撃で貫かれようとも、長門は突き進んだであろう。その背の後ろにいる仲間達を守るため。

「でぇぇぇい!!」

長門はその豪腕を振るい、竜の頭を殴り飛ばした。その拳は見事に竜の顎を砕いてしまった。

「ピギィィ・・・!!」

竜の頭と痛覚を共有してるのか、レ級は頭を押さえて苦しみだした。長門はその隙を逃さず、レ級の尾を掴み、自らを軸にして鉄球投げの要領で振り回し、戦艦ル級へと投げ飛ばした。

「てえぇぇぇ!!!」

レ級は2体のル級と衝突し、水柱を上げて倒れてしまった。鬱陶しそうにル級を踏みつけ立ち上がったが、レ級を待っていたのは火を噴いた長門の41cm連装砲だった。

「全主砲、斉射ァァ!!!」

業火が三匹の怪物を襲い、一瞬にしてレ級達の身体は只の破片と化した。


162 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:50:24.44 ID:iPmZJDwT0

「金剛、足柄! 残りの敵を殲滅せよ!」

これで残りは3体。長門は動揺しているル級のうちの1体を追撃に向かった。

「All right ! Hey, starved Wolf!」

「なによ!?」

「一緒にFightネ、Okay!?」

「当たり前じゃない!にっくきライバルを私以外に倒されて堪るもんですか!!」

二人はニヤリと笑い、それぞれ別方向から2体目のル級へ接近を開始した。

先に動いたのは金剛だった。高速機動を駆使し、ル級を翻弄しながら徐々に接近しつつ、砲撃で道を狭めていった。水柱が立ち、ル級の動きが徐々に束縛されてゆく。

ル級も反撃のため、金剛に接近した。

だが、それがそのル級にとって命取りだった。金剛の放った弾幕を潜り抜け、背後に足柄が迫っていたのだ。

「十問の主砲に撃ち抜かれる覚悟はよろしくて?」

足柄の肩と腕の砲門が一斉に火を噴き、ル級の砲門を、鎧を、一気に貫き通した。青い血が飛び散り、ル級は呻き声をあげた。

「まだこれで終わりじゃないわよ!」

足柄はとっさに太股に備えられた魚雷をル級めがけて放った。度重なる攻撃に堅い装甲を持つル級もようやく動きが鈍ろうとしていた。

「今よ、金剛!」

「Okay!」

金剛はすぐに砲塔をル級に向け、発射した。

「Burning Love!!」

一斉砲撃が炸裂し、ル級は大爆発した。

「いやったー! 大勝利ぃーッ!!」

「Thank you! Starved Wolf!」

「ふん、私の足は引っ張らなかったようね! それでこそ私のライバルに相応しいわ!」

二人はニヤリと笑い、ハイタッチを交わした。

長門の方を見ると、長門との戦闘で大破し、ボロボロになったル級が撤退を始めていた。


163 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:50:53.43 ID:iPmZJDwT0
だが、最後に残った無傷のル級は闘志を失ってはおらず、手負いの比叡だけでも倒そうと砲撃を放った。

「はっ!」

だが、迫り来る砲弾はすべて大和の傘で弾かれた。

「比叡さんは、私がお守りします!」

大和は比叡を守り立ちはだかった。その赤い艤装が太陽光を反射して輝き、凛とした姿を照らした。まさに大和撫子という言葉が相応しい。比叡は思った。

負けてられない。比叡も傷ついた身体で立ち上がり、彼女の隣に並んだ。

「大和さん! 一緒に、やりましょう!」

「えぇ!」

二人は手を繋ぎ、砲塔を前方のル級に向けた。

「敵艦捕捉! 全主砲薙ぎ払え!」

「主砲、斉射、始め!」

大和の46cm三連装砲と15.5cm三連装副砲が、比叡の35.6cm連装砲が、一斉に放たれ、ル級は爆散した。

「大和さん、ありがとうございます!」

「えぇ、こちらこそ。比叡さん・・・」

比叡と大和は顔を見合わせ、互いに微笑んだ。


164 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:51:20.46 ID:iPmZJDwT0

執務室に戻った伊吹提督は、長門と夕立から連絡を受け取っていた。

「長門だ。敵艦は殲滅した、比叡が中破したが無事だ。これより帰投する」

「駆逐艦夕立より旗艦代理として報告です。旗艦祥鳳さんが中破。でもちゃんと敵は全滅したっぽ~い」

長門と祥鳳から殲滅の連絡を聞き、横須賀の艦娘達は胸をなで下ろしていた。だが、それも一瞬に過ぎなかった。

通信室のレーダーが突如唸り、モニター上に赤いランプが輝いた。

「相模湾沖に、深海棲艦の軍勢が発生! 戦艦1体と、重巡洋艦2体、駆逐艦10体以上!」

赤城は気づいた。長門達に向かったのは戦力分散のための囮。本体はその隙を狙って神奈川県沖への侵攻を・・・!

「よぉぉしっ!! 那珂ちゃん達の出番だね♪」

通信機から元気なアイドルの声が響いた。

「よし。現在残っている横須賀の面々で出動せよ。

神通は暁達に向き直った。その表情は普段の気弱なものから凛々しい女武者の顔へと変わっていた。

「暁さん、みなさん、見ててください。実戦の厳しさを。なぜ厳しい特訓がこんなに重要なのかを」

四人の少女は黙って頷いた。そして、暁がおずおずと前に出た。

「あ、あの・・・。神通さん・・・。さっきは逃げ出しちゃって、ごめんなさい!」

神通は何も言わず、後輩の頭を静かに撫でて呟いた。

「あとで、たっぷりしごいであげますから、待っててくださいね」

暁は静かに頷き、神通は微笑んだ。

「よっしゃあ! 水雷戦隊、出動だ!」

川内を旗艦とした水雷戦隊が出撃を開始し、相模湾沖へと向かった。





それから3分後のことだった。

「・・・アレ? みんなは?」

夕張だった。重い艤装を装着した彼女が海に目をやると、既に全員が出発していた。

「もー! みんな置いてかないでー!」

夕張は半泣きになりながら、慌てて海へと駆け出した。


165 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:51:52.01 ID:iPmZJDwT0



「あらあら、夕張さんったら・・・。また深夜アニメの見過ぎでお寝坊かしら?」

遅れて合流した夕張と顔を合わせ、如月はクスッと微笑んだ。

「ちっ、違うってばー! 昨日はちゃんと夜通し頑張ってたんだよー!」

「にゃしし・・・!」

「やれやれ、どっちが年上なんだか」

川内が笑った。

「う、うっさいわよ夜戦バカ!昨日だってうるさかったくせに!」

「アニヲタ軽巡に言われたくないなー」

「なんですってー?」

「やーるかい?」

「はいはい。二人とも今は敵に集中しましょう。ねっ?」

如月に口喧嘩を止められ、二人はぷいと横を向いた。その間にも、川内は偵察機を前方に放ち、夕張は弾丸の装填をして戦闘準備を整えた。

一方、睦月は夕張の装備に興味津々だった。彼女の腰部には奇妙な筒が取り付けられていた。

「夕張さん、その装備はなんですかなんですか~!?」

「ふふ~ん、これはね~? 私が特別に作った・・・」

夕張が言いかけた直後だった。

「敵艦隊、発見! 距離前方400m先! 戦艦ル級が1体、重巡リ級2体に駆逐ロ級が10体!潜水カ級も2体確認!」

偵察機を出していた川内が叫んだ。

166 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:52:46.60 ID:iPmZJDwT0


「よし! 戦艦は私達でやる。3人は夕張を中心にリ級と雑魚達を!」

「了解!」

「まかせて!」

「張り切ってまいりましょー!」

まずはリ級に向かって、夕張が砲撃を開始した。

夕張の艤装は他の艦娘よりも多くの武装を搭載できる。そのため彼女は大量の武装を積み、戦闘に臨むことが多い。

特に彼女は火力に拘っていた。兵装とその実験データをこよなく愛する彼女にとって、自らの調整した兵装と重火力で敵を圧倒するのは最高の快感を得られる瞬間でもあった。

「うおりゃぁぁぁぁ!!!」

夕張はトリガーを握り、次々と砲弾を撃ちだしてはリ級を吹き飛ばし、駆逐ロ級を駆逐していった。

だが、深海棲艦達もやられるだけではなかった。残ったロ級達夕張を排除しようと突撃した。

「来たわね・・・。さぁっ、行くわよ睦月ちゃん!」

「了解にゃしぃ!」

睦月と如月が夕張を囲うように立ちはだかり、主砲と機銃で弾幕を張った。ロ級達は次々と煙を上げて吹き飛び、その進撃を止められてしまった。

夕張は重武装の代償として機動性や移動速度が遅くなっているが、こうしてスピードに優れる睦月と如月のサポートを受けることでその欠点を補っていたのだ。

「さぁ、今如月が楽にしてあ・げ・る♪」

「てぇえええ~い!!」

三人の連携により、あれだけ大量にいたロ級とリ級は、あっという間に全滅してしまった。


167 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:53:51.83 ID:iPmZJDwT0


「よし、行くよ!神通、那珂!」

夕張達の砲撃で相手の陣形が崩れたのを見計らい、川内達はル級に向かって突撃を開始した。

川内、神通、那珂は三位一体のチームプレーを好んで用いる。駆逐艦とチームを組むことも少なくないが、やはり気心知れた姉妹との連携が戦いやすいのだろう。

まず、切り込み隊長として先陣を切ったのが神通だった。

「神通、行きます・・・!」

彼女はル級めがけて速度を上げ、川内と那珂に援護されながら接近開始した。ル級が何発も砲撃を浴びせるが神通は意に介さない。全て、最小限の動きで回避し、徐々に距離を縮めていった。

「撃ちます!」

彼女は戦艦の懐まで一気に突撃し、衝突ギリギリの距離で単装砲の引き金を放ち、ル級の腹部を撃ち抜き、後ろへすり抜けた。

「行っけぇっ!!!」

続いて川内と那珂がル級に向かった。しかし、横から長い黒髪の潜水カ級2体が奇襲をかけようとしていた。

だが、それも那珂にはお見通しだった。

彼女は軽巡洋艦の中でも五指に入るほど潜水艦への攻撃が上手い艦娘の一人で、僅かな波の揺れや波紋、潜水カ級の戦い方などから、潜水カ級が現れる位置をある程度正確に予測できる才を持っているのだ。

「どっか~ん!」

カ級が雷撃の体制を取ろうとした瞬間、那珂は振り向き、一斉に魚雷を全射し、二体とも爆破した。

「那珂、サンキュー!」

「えへへ、お仕事ですから!」

そして、最後に控えし長女が一気に近付き、動きの鈍ったル級の心臓に砲撃を撃ち込んで止めを刺した。

その動きはまるで暗殺を生業とする忍者のようだった。

こうして、三人の連携で、ル級は静かに煙を上げて海底へと沈んでいった。

168 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:54:24.55 ID:iPmZJDwT0

「夕張さん、川内さん達と合流しましょう」

「えぇ」

夕張を先頭に、睦月と如月は速度を合わせ、単縦陣を組んで川内達のもとへ進んだ。ふと、如月は立ち止まり髪を撫でた。

彼女はべとべとする潮水の感触が気に入らず、ちょっとだけ不機嫌になった。

「やだ、髪が傷んじゃう・・・」

そう呟いた彼女の背後に、はぐれた敵艦載機が音も立てずに迫っていた。

「如月ちゃん、危ない!」

「ふふ。な~んてね!」

いち早く気配を察した睦月が警告するが、如月も奇襲はお見通しだった。彼女は瞬時に振り返り、飛び込んできた艦載機を撃ち落とした。

「ふぅ・・・」

バカね。駆逐艦の『如月』が同じ方法でやられたからって、艦娘にまで同じ手が通用するわけないじゃない。如月は敵の浅はかさを嘲笑った。

だが、突如、彼女の足元に衝撃が走った。

「えっ・・・!?」


169 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:56:14.82 ID:iPmZJDwT0

しまった。やられた。

魚雷の主は、傷つき沈もうとしていたロ級のだった。鼬の最後っ屁と言わんばかりに、如月の脚部を狙い撃ちしたのだろう。

スタビライザーが破損し、如月の脚部に形成されていた浮遊フィールドが粉々に砕けて消失した。

「如月ちゃん!?」

睦月と夕張は如月の元に戻ろうとしたが、慣性によってすぐさま方向転換ができないでいた。

同じく合流しようとしていた那珂はいち早く異常事態に気付き、直ぐ様如月の元へと全速力で走り出した。

一方、如月はバランスを崩して倒れ、ゆっくりと沈もうとしていた。

「もう終わりなのね・・・」

あっさりしてたけど、これはこれでいいかな。今まで、それなりにがんばれたし。

どんどん身体が水に浸かってゆく。冷たい感触が身体を包む。

でもなぜか恐怖はなかった。それよりも、これまで戦ってこれた満足感の方が大きかった。

同時に、走馬灯のように仲間や姉妹の笑顔が浮かんだ。

睦月や祥鳳、金剛に比叡、鳳翔や響達。そして今は離れた場所で戦っている弥生や卯月の顔も浮かんだ。

(みんな・・・。如月のこと、忘れないでね・・・!)



170 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:57:05.97 ID:iPmZJDwT0

だが、誰かが彼女の腕を掴んだ。

「・・・えっ?」

「死なせないよ、如月ちゃん・・・!」

ギリギリのところで那珂が到着し、彼女の腕を掴んだ。しかし、如月の重みに引っ張られ、那珂もまたバランスを崩しかけていた。

「那珂さん、もういいわ。このままじゃ一緒に沈んじゃう・・・!」

「絶対はなさないもん! それに那珂『さん』じゃなくて那珂『ちゃん』だから!」

那珂は如月の懇願を聞き入れようとも、手を離そうともしなかった。

「那珂先輩・・・」

「那珂ちゃんはアイドルだから!

アイドルは・・・! 那珂ちゃんは! 応援してくれるファンのみんなを、決して見捨てたりしないんだからぁっ!」

那珂は両手を掴み、強引に如月を海から引っ張り出そうとする。だが、深淵は容赦なく二人を引きずり込もうとしていた。

「ふんぬ~!」

それでも那珂は最後まで諦めず、アイドルらしからぬ顔をして引きずりあげようとしたが、バランスを崩してしまった。

「那珂ちゃん!」

「如月ちゃん!」

睦月と神通が悲鳴をあげた。そして二人の身体が海水に浸かったその瞬間だった。

「てえいっ!」

夕張が懐から筒状の道具を取り出してスイッチを押した。直後、筒の先端から網が発射され、漁網のように広がって二人を包み込んだ。


171 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:57:58.45 ID:iPmZJDwT0

「皆さん、今です!!」

夕張は叫んだ。川内達もすぐに彼女の意図を理解し、縄を掴んだ。

「よっしゃあ!」

「水雷魂の踏ん張りどころです!」

「如月ちゃん、今助けるからね・・・!」

三人は夕張から手渡された紐を受け取り、綱引きの要領で仲間達を暗い水底から引き上げた。

「せぇーのっ!!」

四人の力で、如月と那珂は無事引っ張り上げられた。その後、急遽夕張が携帯用浮き輪を膨らませ、如月に手渡した。

彼女は海に浮かぶラッコのような格好になった。

「夕張。あんた、たまにはイイもん造るじゃん」

「『たまには』余計よ。この夜戦バカ」

二人は悪態を吐きながらも、互いに親指を上に立て、賞賛の意を伝えた。

「如月ちゃん、死んじゃうかと思ったよ・・・!」

「ごめん、心配かけたわ」

睦月は鼻水と涙を垂らしながら笑った。そして、姉妹を心配していたのは神通と川内も同様だった。

「那珂ちゃん、大丈夫だった!?」

「えへへ・・・、ちょっと頑張りすぎちゃった・・・!」

「ったく・・・。アンタ無茶しすぎ」

ずぶ濡れになった那珂に、神通がハンカチを手渡し、川内が優しく末妹の頭を撫でた。

だが、ずぶ濡れになっても那珂はいつもの笑顔を絶やすことはなかった。

「那珂ちゃんはアイドルなんだから、水落ちくらいへっちゃらでーすぅ!」

「ばか・・・」

その厳しい口調とは裏腹に、川内は微笑んでいた。


172 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 14:59:28.66 ID:iPmZJDwT0

「それにしても那珂ちゃんの衣装が潮水でべとべとだよー!クリーニング代がかかっちゃう!」

「こら那珂ちゃん。不謹慎よ」

神通は妹の頭を小突いた。

「いったーい! 神通ちゃんちょっと酷くない? 那珂ちゃん命懸けで頑張ったのにー?」

「それとこれとは別です」

その後、如月は那珂達に曳行されて港に戻った。ちょうど、それぞれの戦いを終えて戻ってきた長門や祥鳳達とも合流した。

港では、舞鶴の駆逐艦の艦娘や大鯨達の拍手が出迎えてくれた。

「みんなー! 那珂ちゃん、ちょーっと濡れちゃったけど、みんなと一緒に無事帰ってきましたー!キャハッ☆」

那珂はいつも通りの輝かしい笑顔を見せた。

「すごい・・・! 那珂さんや神通さん達って・・・、本当にすごいレディーなんだね!!」

「ハラショー・・・」

通信機越しに彼女たちの戦いを見守っていた暁達は感動していた。

神通さんたちって、艦娘ってかっこいい・・・!

173 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 15:00:31.37 ID:iPmZJDwT0



その日の夕方、舞鶴の面々は予定通り新幹線で鎮守府へ戻ることになった。

「やれやれ。まさか演習最後の日に実戦とは思いもしなかったな」

長門は肩を回し、苦笑した。

「比叡さん。あの・・・」

「なんですか?」

首をかしげる子犬のような表情をして、比叡が問い返した。

「私と・・・、お友達になってくださいませんか・・・?」

「えぇ! よろこんで!」

比叡は遠慮なく手を差し出す。大和は少し躊躇いながらも、恐る恐る差し出された手を握り返した。

「でも、今度は私、負けませんからね!」

「えぇ! いつでもお相手いたします!」

「あとこちら。よろしかったら召し上がってください。大和のお手製です・・・!」

大和はケース一杯のラムネを差し出した。中にビー玉が入った、昔懐かしのデザインだった。

「はい! 気合!入れて!いただきます!」

「ふふ。全部お一人で召し上がるおつもりですか」

「わっ! ちっ、違いますってばぁ!」

笑い合う比叡と大和を見て、長門はどこか安心したかのように微笑んだ。


174 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 15:01:36.47 ID:iPmZJDwT0


浴室から出て服を着替えた祥鳳と如月は、吹雪達と挨拶を交わしていた。

「吹雪ちゃん。立派な赤城さんの護衛になれるよう、これからもがんばってね」

「はい! 祥鳳さんに教えていただいたこと、忘れずにがんばります! 今度一緒に戦うときがあったら、よろしくお願いします!」

「えぇ。こちらこそ、よろしくね」

吹雪は顔を赤くし、祥鳳に何度も何度も「ありがとうございました!」と言いながら頭を下げた。

「睦月先輩、夕立は今度は絶対負けないっぽい!」

「ほほぅ・・・。再びこの睦月に挑んでくるとは素晴らしい心がけぞよ! 喜んで受けて立つにゃしぃ!」

おちゃらけた口調で睦月は言った。

「島風ちゃんも元気でね」

「今度は一緒にかけっこしよー!」

「いいわよ、如月が相手になってあ・げ・る」

「やったー! じゃあ、約束だからねー!」

如月は喜んで抱きついてきた島風の頭を優しく撫でた。

その隣では、飢えた狼が金剛に向けて指を指してこう宣言していた。

「見てなさい金剛! 今度は絶対に負けないんだからね!それまで沈むんじゃないわよ!」

「・・・Okay! Starved WolfとのRevenge Match、楽しみにしてマース・・・!」

金剛はにんまりと笑い、拳を構えて受けて立つ意思を示した。

「では、この辺で失礼する。またどこかの戦場で、共に戦おう!」

横須賀の艦娘達は、新幹線が見えなくなるまで手を振り続けた。




175 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 15:02:23.19 ID:iPmZJDwT0




翌日の朝は曇り気味で、陽差しが弱くやや涼しかった。

既に那珂達は貿易船護衛任務のため横須賀を去って行った。

あの後、神通は疲れきっていたにも関わらず、最後まで暁達の訓練に付き添った。

彼女達四人もその気持ちに応えて全員最後までやりこなし、神通の特訓をなんとか完了させた。


金剛、祥鳳、比叡が朝の訓練に出かけると、グラウンドでは暁達が反復横跳びの自主練習をしていた。

「ほらっ! みんなあと200回!がんばるよ!」

「はにゃぁ・・・、電疲れたのです」

「んもう!気合入りすぎよ、暁!」

「でも悪くないな・・・」

汗だくになりながら訓練を続ける四人を見て、三人は微笑んだ。

「熱中症にだけは気をつけなさいね。ちゃんと水分と塩分も忘れずにね!」

祥鳳はそう言い残し、金剛達と共に朝の訓練に出かけた。



176 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/08/04(火) 15:04:51.31 ID:iPmZJDwT0
次回、

さぁ、砲撃戦、開始するわよー!


今回も投稿が遅くなりましてご迷惑をおかけしました

次回は九月中旬までに投稿をいたします予定です

180 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:22:19.43 ID:5Nylxhsj0
4話 さぁ。砲撃戦、開始するわよー!



合同演習から一ヶ月後のある夜。金剛は自室のベッドに座り、電話をしていた。だが、受話器越しから放たれる暑苦しい叫びにうんざりした表情をしていた。

『ちょっと金剛! いつになったらこの私との再戦を受けてくれるのよ!?』

「Well…もう勘弁してほしいくだサイ…!だいたい、次のLessonは半年後デース!」

その電話は舞鶴の足柄からだった。金剛は渋い顔をして、妹の比叡に向き直った。お風呂上がりにサイダーを飲んでくつろいでいた彼女もまた、何かを悟ったような表情のまま、かぶりを振るしかなかった。

「これで今週になって12回目の催促デース! いい加減にしてくださーい!」

『そう言って勝ち逃げするつもりでしょ!? そうはいかないわよ!』

「もうイイでしょ? Stopしマース…」

『あっ…、ちょっと待ちなさい!?』

「What?」

『いいこと? あんたの妹二人が研修に来るって大淀から聞いたわよ。二人とも変ちくりんなあんたと違って、とっても素直でいい子だから、可愛がってやんなさいよ! じゃあね! 再戦の約束、忘れるんじゃないわよ!』

そう言い残すと、足柄はさっさと電話を切ってしまった。


181 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:23:43.62 ID:5Nylxhsj0

電話を切った金剛の顔に笑顔が浮かび、比叡は首をかしげた。

「お姉さま? どうされたのですか?」

「比叡、私達の妹が横須賀に来るそうデス…」

「えっ! 春奈と霧子ですか!?」

比叡も顔を輝かせた。10年前以来ずうっと会ってない妹達が、まさか艦娘になって会えるなんて!

「それで、ふたりはいつ来るんですか!?」

「あ…」

肝心なことを聞き忘れたことに気づき、慌てて電話をかけ直したが手遅れだった。

既に足柄は夜間哨戒に出発しており、情報を聞き出すことはできなかった。


182 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:25:09.47 ID:5Nylxhsj0


暗い暗い光の届かぬ深淵の奥底。その更に奥底には、熱水噴出孔と呼ばれる熱水が噴煙のように噴出する地帯が存在する。そこから無数に吹き出す黒い煙を隠れ蓑にして、不気味な魚のような怪物や人の姿をした深海棲艦が無数に潜んでいた。

そしてその中心には、四体の人間に似た姿の深海棲艦が立っていた。

浮遊する球状の怪物を周りに従えた装甲空母姫、両腕に砲塔を備えた南方棲姫、両脇に飛行甲板を装備した飛行場姫、そして巨大な龍のような怪物を侍らせた戦艦棲姫である。

四体の人ならざる怪物達は円を囲み、コミュニケーションを行なっていた。水中では地上の人類のように会話ができず、深海棲艦は専ら超音波を発して情報を伝え合う。

今、この四体の怪物は球体の怪物―飛行場姫の偵察機―に手を当て、その情報を受け取っている最中だった。

(カンムス…ツヨイ…トクニアノハヤイセンカン…)

巨大な怪物の頭を右肩に備えた戦艦棲姫が思念を伝えた。

(アノセンカンヲ…ハヤクタオサネバ…)

飛行場姫が焦りを見せていた。

(ワタシニ…イイカンガエガ…アル…)

暗い海の中で、装甲空母姫は顔を歪めて笑った。



183 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:25:53.40 ID:5Nylxhsj0



8月下旬、未だ暑さの残る横須賀鎮守府。正午過ぎ頃に、小型トラックが鎮守府の駐車場に止まり、運転席から最近この地区の担当になった若い男が飛び出て、積荷を降ろし始めた。

横須賀鎮守府には艦娘達や職員の食材が定期的に業者によって運搬されており、その荷物を受け取るのもこの鎮守府の艦娘達の仕事の一つだ。この男は何度かこの地区に配達に来ており、密かにこの地区への配達を楽しみにしていた。

熱い日差しに打たれながら若い男が胸を弾ませて門の呼び鈴を鳴って待っていると、青いスカートを履いた二人の少女が現れた。

「宅急便でーす。お荷物のお届けに伺いましたー」

「あっ、橋本さんですね! いつも美味しい食材を届けてくださって、ありがとうございます!」

穏やかな表情をした茶髪の少女が丁寧に頭を下げた。彼女の目は左右が異なる色をしていたが、男はその美しさに心を奪われており、意に介することはなかった。

「へへ、名前覚えててくれたんだ古鷹さん…」

橋本と呼ばれた男は頬を赤く染め、野菜などの入った積荷を古鷹に手渡した。

古鷹は誰にでも優しく朗らかな女性だった。その優しさは艦娘達は勿論のこと、鎮守府に関わる人々や動物達にまで及んだ。故に、彼女を知る一部の者から密かに「天使」と呼ばれていた。

一方、古鷹によく似た顔つきの黒髪の少女は、その隣で立ったまま半開きの目をしていた。

「ふぁぁ…、眠…だるい…」

「もう、加古ったら。せっかくここまで来てくださったんだから、ちゃんと挨拶しなきゃダメよ」

「いや、いえいえ。お構いなく」

「ふぁぁい…いつもありがとうござい…ま…す…」

挨拶をした直後、加古は目を閉じ、立ったまま眠りに就いた。

「もう! 加古ってば…。すみません、橋本さん…」

「あ、いや…!俺ェぜんっぜん気にしてねぇっすから! んじゃ、俺はこれで! 毎度あざーっす!」

橋本は伝票を古鷹に手渡すと、足早にトラックに乗って去って行った。

古鷹はトラックの運転手を手を振って見送ると、うたた寝しかけてる妹の額を軽く突いた。

「う~ん? もう夜なの~? まだ寝かせて…」

「加古。眠そうなところ悪いけど、手伝ってくれる? 終わったら、今日はいっぱい寝ていいからね」

「うん。ふぁぁい…」

加古は気だるそうに身体を動かし、ゆっくりと積荷を持ち上げた。古鷹も微笑み、荷物を持ち上げた。

古鷹と加古は共に重巡洋艦の艦娘で、夜間における東京湾周辺の哨戒任務が主な仕事だった。重巡洋艦は夜間において力を発揮する艤装であり、そのため古鷹・加古・青葉・衣笠の四人が交代で夜間哨戒にあたっていた。

だが、川内の夜戦に一晩中付き合える古鷹とは異なり、加古は昼型で夜間哨戒の翌日には死んだように眠るのが常であった。故に、古鷹もあまり彼女に厳しい態度を取ることはなく、寧ろ引っ張り出してしまったことを申し訳なく思っていた。

気がつけば居眠りばかりの彼女を怠け者のように見る者も少なくなかったが、実際は面倒見の良い少女であることを古鷹はよく理解していた。でなければ、こうして休日に古鷹を手伝うはずもないだろう。

「もっと加古のいいとこ、みんなに知ってほしいな…」

重い積み荷を食堂まで運ぶ途中、古鷹はそっと呟いた。

184 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:27:54.74 ID:z8p1FI7k0


橋本の乗ったトラックが門を出た直後、巫女服のような上着とスカートを身に纏った二人の少女がバスから降り立ち、門の前に立っていた。

一人は赤いスカートを履いた穏やかな目つきの長髪の少女、もう一人は黒いスカートを履いたしっかりした目つきの眼鏡をかけた少女だった。二人とも金剛や比叡のものと同一の形状である金色のカチューシャを頭に着けていた。

「霧島。私、緊張してきました…」

長髪の少女・榛名が眼鏡の少女に向かって言った。

「そうね、榛名。私も緊張してきたわ…」

「ようやく、会えるんですね。お姉さま達に…」

霧島は期待に胸を膨らませていた。嘗ての姉二人は、金剛と比叡と名を変えたと言う。霧島と榛名も、嘗ては霧子と春菜という名を持っていたが、今は名を変えて、

霧島は二人が強く逞しい、嘗て二人を指導した長門のような、男勝りの凛とした軍人になっているだろうと考えていた。そして、部下を統率し、隙のない戦闘で深海棲艦を制圧するのだ。


185 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:28:32.52 ID:z8p1FI7k0


榛名と霧島、二人の少女は胸に期待を膨らませ、ゆっくりと鎮守府の門を開いた。だが、人の声が響くグラウンドへと向かった瞬間、二人は己の目を疑うことになった。

霧島は姉達がほぼ毎日厳しい訓練に明け暮れていると思っていた。運動場が騒がしいのも演習が行われているからだと予測していた。

だが、彼女達の目には真逆の光景が映った。

「にゃー、おまえたちかくごしろにゃー」

「Oh! 出ましたネ、深海棲艦!」

「この比叡が! 気合! 入れて! 捕まえます!」

その憧れの姉達は、グランドに設置されたステージの上で、へんてこりんな猫の着ぐるみを身に纏った少女を相手に、派手なBGMを背景にして演劇に興じていた。

さらにステージの周りには園児達が集まり、目を輝かせて金剛と比叡を見つめていた。

「よーし! みんな夕張お姉さんといっしょに、艦娘のおねーさん達に大きなパワーを送るよーっ! せーのっ!」

司会役のポニーテールの少女が叫んだ。それに合わせて子供たちも一斉に騒ぎ立てる。

「がんばれこんごーおねえさーん! ひえーおねえさーん!」

「Thank you!!  いきますよ、比叡!」

「えぇ、お姉さま! 悪い深海棲艦をやっつけちゃいましょう!」

「必殺! バーニング・ラァァァブ!!」

二人の声が重なり、必殺技が放たれた。

「うわー、やられたにゃー」

少女が金剛の放った砲撃(の演技)を受けてバタンと倒れ、同時に子ども達から歓声が上がった。


186 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:30:25.37 ID:z8p1FI7k0

「な、なにこれ…」

榛名と霧島は呆然としていた。工廠裏に目を移すと、ファンシーな絵柄のビニールシートが日陰に敷かれ、別の少女が子ども達とままごとに興じていた。

「めー! くまちゃんはわたしとあそぶの!」

「ちがうもん、くまちゃんはぼくのもんだい!」

「うぅ…球磨はぬいぐるみじゃないクマ…」

変な語尾を付けた茶髪の少女が、まさに熊の人形の如く弄ばれていた。

「まてまてー!」

「にひひ…。睦月はそう簡単に捕まらないにゃしぃ!」

「鬼さんこちら、手のなる方へ♪」

グラウンドの別の場所では、セーラー服の小さな少女二人がやんちゃ盛りの少年達相手に追いかけっこをしていた。

人類の救世主たる艦娘が住まう鎮守府。今そこは、幼児の無法地帯と化していた。

「あ、あはは…」

「なに…、これ…」

何もかも霧島の予想とは大幅に異なっていた。

特に自分達の姉、金剛があまりにも想像とはかけ離れていた。霧島は自分達の姉が、強さと凛々しさと美しさを兼ね備えた長門のような立派な軍人になっていると思い込んでいた。だが、今目の前で幼児と戯れている自分の姉はまるで正反対だった。まるでどこかの漫画に出てくる、ふざけた語尾で話すエセ外人のようにも見えた。

「こんなの…私の計算外だわ…」

自分の姉が、信じられない姿になっていた。さらに夏の暑さが重なり、霧島の意識は途絶えた。

「霧島!?」

彼女が最後に感じたのは、自分を抱きとめた榛名の体温と柔肌の感触だった。



187 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:31:16.16 ID:z8p1FI7k0


その後、霧島は医務室のベッドの上で目を覚ました。気がつくと眼鏡も取り外されており、枕元に置かれていた。

霧島はゆっくりと手を伸ばして眼鏡を手に取り、基の位置へかけ直した。

そして、自分をじっと見つめて座っていた榛名に気づいた。

「霧島、目が覚めたのね。大丈夫?」

「えぇ…」

そして、霧島はなぜ自分が倒れたのかを思い出し、頭を抱えながら顔を歪めた。

「正直、ショックだわ。自分の姉が…あんな…」

「わ、私はあれでもいいと思うけど」

榛名と霧島が話していると、医務室の扉を開く音が響いた。

「春奈、霧子!」

霧島は嘗ての名を呼ばれ、視線を扉に向けた。

そこにはもう一人の姉、嘗て叡子という名を持っていた比叡が立っていた。

「霧子、目は覚めましたか!?」

比叡は半身を起こした霧島の手を取り、左手で脈を測った。同時に、右手を額に当てて熱を測った。姉の温かい手の感触に霧島は頬を染めた。

「大丈夫そうですね。もう身体に異常はありませんか?」

「え、えぇ…」

この姉は金剛のように変な口調ではない。それに常識的だった。この人なら上手くやっていける。霧島は一瞬そう思ったが、その淡い想いは一瞬で見事に打ち砕かれた。


188 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:32:02.57 ID:z8p1FI7k0


「霧子、春奈! 会いたかったですよ!」

比叡は嬉しそうに二人の肩を掴み、ぎゅっと抱き寄せて頬ずりしてきた。

容貌は既に成人女性のそれであるにも関わらず、まるで人懐っこい大型犬のようだった。

「ちょ、ちょっと…苦しいですお姉さま…」

「あっ…ごっ、ごめんね霧子! 私、霧子に会えたのが嬉しくてつい…。って、今は霧島だったっけ?」

「はっ、はい…」

「榛名、霧島! これからよろしくね! ちょっと今忙しいから、また後で来るね!」

比叡はそう言い残すと、足早に去って行った。扉が閉められた後、霧島は大きな溜息を吐いた。

「榛名。私、ここで上手くやっていける自信がないわ…」

どうして姉達はこうなってしまったのだろうと霧島は胸の内で嘆いた。長い年月が二人を変えてしまったのだろうか。

10年前、ヴィッカース家を放り出して出て行った姉二人は、どうしてこんな変人に成り下がってしまったのだろう。

「は、榛名は大丈夫です!」

「いや、私が大丈夫じゃないから」

霧島は再び溜息を吐いた。この様子じゃ榛名も頼りにならないかもしれない。


189 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:32:52.68 ID:z8p1FI7k0


翌日、霧島と榛名は執務室にて横須賀鎮守府の面々と挨拶を行なった。執務室の壁沿いには、金剛を始めとした横須賀鎮守府の艦娘達が勢ぞろいしていた。

「横須賀鎮守府の皆様、初めまして。私、金剛型四番艦の霧島です」

「同じく、金剛型三番艦の榛名です! 短い間ですが、今後ともよろしくお願いしますね!」

「Oh! そんなにカチコチにならなくてもNo problemネ! Take it easy!」

金剛が横から言ったが霧島は無視した。この姉のペースに振り回されていては、どうにもならない。乱されないようにしなくては。

「それでは、横須賀の諸君。名前と艦種を簡単に紹介してもらおう」

「はわわ! く、駆逐艦の電と申します。よろしくお願いします!」

「同じく駆逐艦の雷よ! なにか困ったときは私を頼ってくださいね!」

「同じく駆逐艦の暁です! 一人前のレディー…じゃなかった、淑女として扱ってください!」

「同じく響です。よろしくお願いします」

「同じく、如月よ。ふふ、よろしくお願いしますね♪」

「同じく、睦月です! 張り切ってまいりましょー!」

「軽巡、球磨だクマ。よろしくクマー」

「同じく軽巡、多摩です。ネコじゃないから、そこんとこよろしくにゃ」

霧島は笑顔を保ちつつも、内心彼女たちに呆れていた。

駆逐艦と言っても子どもばかりじゃない。戦えそうな子達は変な語尾で話す人ばかりで、てんで戦力になるとは思いづらかった。

所詮は火力と耐久力に欠ける駆逐艦と軽巡洋艦。頼りにはならないわね。


190 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:34:42.80 ID:z8p1FI7k0



その後、重巡洋艦達の自己紹介が始まった。最初は古鷹からだった。

「重巡洋艦の古鷹です。よろしくお願いします」

「同じく重巡の、加古ってんだー。よっろしくぅー!」

「軽空母、祥鳳です。ちょっと小柄ですけど、航空戦力としてお力になれるよう頑張りますね」

「潜水母艦、大鯨です。この鎮守府の台所係です!」

「航空母艦、赤城です。この鎮守府で秘書官を務めております。二人とも、よろしくお願いしますね」

良かった、この人達はまともそうだ。しかも、軽空母とはいえ、航空母艦の艦娘がいるなら『あの戦法』も使える。

特にこの赤城さんがいるなら心配はない。彼女は伝説の一航戦だと聞いている。四年前の大規模戦闘での負傷以来、前線に出れないままだと聞いていたが見たところ元気そうだった。恐らく直ぐにでも回復し、戦列に加わってくれるはず。

航空戦力も戦艦も十分。火力に長ける重巡洋艦もいるし、戦力は申し分ない。

最後に伊吹が立ち上がった。

「この鎮守府の提督、伊吹と言う。及ばずながら宜しく頼む。ところで君達、実戦経験はあるのかね?」

「えぇ。既に長門秘書官の指揮下で、何体もの深海棲艦を撃沈してまいりました」

「ふむ、それは頼もしい限りだな」

伊吹は口ではそう言いつつも、その考えは正反対だった。確かに榛名と霧島の見かけは成人女性だが、この二人には未だあどけない少女の雰囲気があり、とりわけ霧島にはどこか危うさがあるようにも見受けられた。

「早速ですが司令。私から作戦のご提案があります」

「なんだね?」

霧島は得意げに額に指を当てた。



191 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:35:41.65 ID:z8p1FI7k0


突然始まったプレゼンテーションに金剛たちは呆気に取られていた。榛名と霧島はあっという間にプロジェクターとバックスクリーンを設置し、砲弾を放つ戦艦の画像が映し出されたのだ。横須賀鎮守府の艦娘達が折りたたみ式の机と椅子をコの字状に並べて座った後、横須賀の艦娘達の目線はスクリーンの説明図へと向けられていた。

「今後は、弾着観測射撃を主要戦術として取り入れるべきかと提案いたします」

「弾着観測射撃? ってなんなのですか?」

電が挙手して尋ねた。

「いい質問ですね。弾着観測射撃とは、通信ができる艦載機や偵察機を使い、相手の位置を捕捉。軌道を修正しつつ、戦艦の長距離射撃によって、より正確な砲撃を行う戦術です」

「つまり、艦載機で相手の位置を調べて、狙い撃ちするってことですか?」

響が言った。

「よくできましたっ、その通りですっ!」

「すごいじゃない、響」

暁と霧島の両方に褒められて、響は黙って俯いた。

「その実例がこちらです」

霧島がノートパソコンのマウスをクリックすると、スクリーンに霧島達が戦闘している様子を捉えた動画が映し出された。動画には空母の艦娘が艦載機を放ち、直後に霧島と榛名が徐々に敵の位置を捕捉して相手を殲滅させる一部始終が記録されていた。

「す、すごいのです…!」

「戦艦と砲撃と空母の爆撃の連携で完璧に敵を殲滅する。これが弾着観測射撃です。この鎮守府にあった戦闘記録のデータを拝見したところ、金剛お姉さまと比叡のお姉さまは、接近戦にこだわりすぎです。そこで、この霧島、弾着観測射撃を取り入れることを提案いたします。祥鳳さんの艦載機を用いて敵の精密な位置情報を捕捉し、長距離から砲撃戦ならびに航空戦で深海棲艦を叩き伏せましょう!」

192 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:36:56.02 ID:RZ1f3eoQ0


「なるほど、非常に興味深い提案だ」

伊吹は静かに画面を見つめた。

「なるほど、これはいい作戦ですね!」

古鷹が手を合わせながら発言した。なお、加古は隣で居眠りをしており、まるで話を聞いていなかった。

が、その時、意外な人物から反対意見が放たれた。

「Sorry、霧島。残念ながら私は反対デース」

「えっ…?」

金剛が冷ややかに言い放った。比叡や祥鳳たちには、彼女の口調が普段とは打って変わって、異様に冷たいように聞こえた。

「あなたの作戦はAttackのことしか考えてないデス。確かに、EnemyをDestoryするだけならこれで問題Nothingデース。But、Youの編成では、確実に潜水艦に撃ち抜かれマス」

「そっ、それは……。軽巡洋艦の方々を部隊に加えれば十分対処可能なことです……!」

確かに潜水艦への対処を見過ごしていたのは失敗だった。だが、霧島には金剛の言葉が作戦のみならず彼女自身をも批判するように聞こえた。

「それに霧島は一番ImportantなことをForgetしてマース!」

「な、何でしょう?」

戸惑いながら霧島は姉の返答を待った。

「艦娘は強いだけじゃダメです。Powerだけで押し勝つのは、深海棲艦となんら変わりありまセン。私達はHunterではなく、Guardianデス。Powerに頼るHunterの気分でいれば必ずしっぺ返しを喰らいマス!」

「しっ、しかし! これが最も確実かつ安全に敵を殲滅できる方法です!」

「No! 私達のBattleはHunting Gameじゃありまセーン! ProtectするためのBattleデス!」

二人の間を沈黙が流れた。

「き、霧島…」

「お、お姉さま。少し落ち着いてください…」

気まずい空気が執務室に流れ始めた。

これでは士気に関わると見かねた伊吹は静寂を破り、ひとつの決断を下した。

「ふむ。良い議論の機会だが、少々突然すぎたな。じっくり考える機会を持とう。本日は一旦解散し、明日午後一時より会議を再開する。以上!」

霧島は誰とも目を合わせず、ノートパソコンを抱えて一目散に部屋を飛び出した。


193 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:38:49.64 ID:RZ1f3eoQ0


会議が終わり、次々と艦娘達は部屋を退席していった。

執務室には金剛と祥鳳、そして伊吹と赤城が残された。祥鳳は部屋の片付けを手伝いながら金剛に話しかけた。

「金剛さん。気持ちはわからなくもないですけど、さっきのはちょっと言いすぎですよ…」

「祥鳳は桶狭間のBattleを知ってますか?」

「え、えぇ…」

桶狭間の戦いくらいならば名前くらいは知っている。彼女の師である龍驤は、いつか平和になった時のために備えてと、料理裁縫の他にも一般常識についても祥鳳に教え込んだからだ。だが、なぜ金剛が唐突に歴史の話をしたのか彼女には分からなかった。

「あのBattleで義元は勝てるはずの戦いを、数で劣る信長にAssaultされて負けたのデース。どんなにTacticsやPowerで勝っていても、そこには必ずWeak pointがありマース」

「つまり、霧島さんの作戦にも?」

確かに金剛の言う通り潜水艦への対策が甘いのは事実だ。それでも霧島の戦術は積極的に取り入れるべきだと祥鳳は考えていた。仲間が傷つかないで済むならそれに越したことはない。

「あの子にはExperimenceが不足してマース。故に、強いPowerに頼りすぎてマース。それを彼女は分かっていまセン」

「でも、霧島さん。傷ついてますよ…」

金剛と霧島が10年も会ってなかった姉妹だとは祥鳳も聞いていた。彼女には、金剛の態度があまりに冷たく見えた。

金剛は祥鳳に言葉を返さず、黙って部屋を出て行った。


194 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:39:23.82 ID:RZ1f3eoQ0


「そう言えば彼女、私の戦力も計算に含めているようですね」

ふと、赤城が呟き、祥鳳は彼女の横顔に目線を向けた。いつものように穏やかな表情だったが、その目には静かな激情が浮かんでいた。

「そのようだな」

伊吹も秘書官の言葉を受け、静かに頭を振った。

祥鳳は正規空母の先輩が拳を握るさまを見た。一刻も早く、一航戦の力と誇りを取り戻したいのに上手くいかない、艤装が答えてくれない。その悔しさが祥鳳にも痛いほど伝わってきた。

既に一部の週刊誌やネット上では、未だ前線に復帰する様子を見せない赤城に対して中傷的な記事も出始めている。

金剛と赤城。この二人に対してどう言葉をかければ良いのか分からず、祥鳳は黙って立ち尽くすしかなかった。


195 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:40:42.01 ID:RZ1f3eoQ0


「金剛お姉さま、少しお時間宜しいでしょうか?」

自室の椅子に座り、一人寂しく紅茶を飲んでいた金剛に、来客が訪れた。榛名だった。

部屋に入った瞬間、榛名は金剛の前で頭を下げた。

「霧島のこと、許してあげてください! 作戦を考えたのも霧島なりにお姉さまのお役に立とうと思ってたからで、昨日も一生懸命遅くまで調べ物をしてたんです!」

「榛名、What happened?」

金剛は部屋に入ってくるなり、突然の榛名の態度に驚いた。

「霧島は悪気はないんです! これまでも、私を一生懸命支えてくれて……!」

「榛名を?」

「お姉さま達が艦娘として訓練を始めた後、三女である私がヴィッカース社総裁として選ばれました。でも操り人形にされかけた私を、霧島が支えてくれて…。

だから、霧島はホントはとってもいい子なんです! ただ今は、お姉さま達との距離に戸惑ってるだけで…」

金剛は忘れていた。自分がヴィッカース社の長女であったことも、ヴィッカース社の存在そのものも。

家出同然に艦娘としての訓練を始めて以来、金剛は会社の近況を調べようとすらしなかった。

ならば、自分が艦娘になったことが、結果的に榛名と霧島を苦しめることになってしまったのではないのか?


196 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:41:10.42 ID:RZ1f3eoQ0


「その後、私達も艦娘として適合することが判明し、現在ヴィッカース社は信頼できる役員に運営を委任しています。その役員も、霧島が目をかけて選んでくださった方で…!」

話の途中、金剛は突如立ち上がり、榛名を抱きしめた。

「おっ、お姉さま!?」

「ごめんなさい…。あなた達に……、ずっと寂しい想いをさせて…!」

震える声で金剛は言葉を紡いだ。

「あっ、いえ! 榛名は大丈夫です! ぜんぜん寂しくなんか…!」

「ごめんね…! ごめんね…!」

やがて金剛の声は言葉にならず、嗚咽へと変わっていった。

「お、お、お姉さま! どうか落ち着いてください…!」

「私、私…!」

榛名はどうにか姉を泣き止ませようとしたが止まらなかった。

「おねえ…さま…!」

それどころか、姉に釣られて榛名も涙を零し始めた。


197 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:42:59.82 ID:RZ1f3eoQ0



同じ頃、霧島は工廠の隅に体育座りをしていた。夕張も彼女が工廠に入ったのには気付いていたが、どう声をかけていいものか迷っていた。

夕張の嘗ての名は綾瀬という。金剛や祥鳳など数多くの艦娘が家族を失っているのに対し、彼女の両親はいずれも健在だった。

生まれも育ちも内陸の夕張市であり、深海棲艦の被害を受けずに済んだのだ。

故に、夕張の心には暗い影がなかった。艦娘になったのも、地元の博物館の映画館で見た無敵の特撮ヒーローのように人々を守りたいという、艦娘としてはやや特異な理由からだった。

「あの…。霧島さん…?」

とりあえずこの空気を打ち壊そうと、試しに声をかけてみたが、霧島からの返事はない。

夕張には共に育った兄弟姉妹がおらず、姉妹艦も存在しない一人っ子だった。故に、こんな時どう声を掛ければ良いものかさっぱり分からない。

昨晩見た深夜アニメについてならば、いくらでも愚痴や文句が思いつくのに、こんな時何て言えば言いんだろう。

どうにかして霧島さんを元気づけたいのに、さっぱり良い言葉が思い浮かばない。

妖精達に助けを求めようと目を向けたが、彼女達も困惑した表情で首を振るばかりだった。

夕張がどうしたものかと頭を抱えていると、工廠入口の扉が開けられた。

「霧島さん」

「あら、ここにいたのね」

睦月と如月だった。

「霧島さん。さては金剛さんに言われたこと、気にしてるんですね?」

霧島は黙って頷いた。

「ふむ、この睦月様が一つ教えてしんぜよう!」

睦月は胸を叩き、師匠のごとく言い放った。

霧島は顔を曇らせた。睦月様って威張ってるけど、どう見てもこの子、私より年下じゃない。

「金剛さんは、とってもとってもいいお姉さんにゃしぃ!」

「なぜそう言い切れるんですか…?」

「睦月も、12人姉妹のいっちばん上のお姉さんだから分かるんです。

長女というのは、と~っても、とっても、責任が重いのです! だから、作戦だってすっごく慎重になっちゃうのです!」

「ふふ、でも如月の方がお姉さんっぽいけどね」

「にゃしぃ…。睦月、せっかくめずらしく良い事言ったのにぃ!」

霧島は二人の言葉を半分聞き流していた。所詮この二人はただの駆逐艦。戦艦の事情なんて、ましてや私の気持ちなんて分かるわけがないのよ。

「金剛さんを、お姉さんを信じてあげてほしいのです。今は難しくても、時間をかけてゆけばきっと分かり合えるはずなのです!」


198 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:44:35.02 ID:RZ1f3eoQ0


「その通りです!」

突如、工廠の扉が開かれた。比叡だった。

「比叡お姉さま」

「霧子…じゃなかった、霧島。金剛お姉さまも、私も、榛名と霧島のことを嫌ったりなんかしてませんよ」

霧島は返事をしなかった。そんなこと、今更言われたって信じられるはずがない。

「確かに10年間、何にも連絡しなかったのは私達の落ち度です。でも、私やお姉さまだって、ずっと榛名や霧島に会いたかったんですよ」

霧島には姉の言葉が都合のいい出まかせに聞こえた。比叡はそんな妹の様子に気づいたが、構わずに続けた。

「昨日のあれ、もしかしたら霧島には不真面目に見えたかもしれませんけど、孤児院の子ども達を励ますための大事な行事だったんです」

その孤児院には深海棲艦によって両親を奪われた幼子が多数引き取られていた。彼等にとって艦娘は紛れもなくヒーローであり、力強い希望でもあった。

故に、伊吹は彼等を励ますため、金剛達に頼んで交流の機会を設けたのだ。

「そうだったんですか…」

「お姉さまは、みんなの笑顔を守りたいという想いで必死に戦ってきたんです。金剛お姉さまは、昔のままの優しいお姉さまです。信じてあげてください」

「そうにゃしぃ! 何事も信じる気持ちが大切なのです!」

だが、霧島は何も答えられず、そっぽを向いたままだった。

結局その日、金剛と霧島が言葉を交わすことはなかった。

前者は今まで彼女を放っておいた罪悪感から、後者は未だに姉を信じられない気持ちから、それぞれ姉妹に向き合うことができなかった。



199 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:46:25.69 ID:RZ1f3eoQ0



その夜、金剛は一人港に座り込み溜息を吐いていた。

「お前らしくもないな、金剛」

「てっ、提督ゥ!?」

突如、伊吹に声をかけられ、金剛はぴくりと背筋を伸ばした。

その手に懐中電灯が握られていることから、恐らく夜間の敷地内警備のため歩いていたのだろう。

「霧島のことか?」

「私、どうやってあの子に、霧島に向き合えばいいのか…分かりません…」

「ふむ…」

暫く伊吹は押し黙った後、静かに口を開いた。

「お前はどんな敵にも、どんな相手にも正面からぶつかっていった。

どんな時でも、逃げることなく全力でな。霧島にも、同じようにすれば良いのではないかな?」

「…霧島にTackleすればいいということですか?」

「馬鹿なことを言うな。霧島に、お前が大事に思っている気持ちを真正面からぶつければ良い。そういうことだ」

中年の男は静かに微笑んだ。

「私も若い頃はよく兄弟喧嘩をしたものだが、すぐに仲直りしたよ。君達もそうだろう」

「提督……!」

金剛の顔が明るくなった。

「くれぐれも作戦に支障を来さないようにな。頼んだぞ、金剛」

「Yes! Thank youネ、提督!」

金剛は伊吹の頬に軽く口づけし、足早に去っていった。

伊吹は眉一つ動かさずに黙って彼女を見送り、見回りへと戻った。

200 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:47:53.71 ID:DNrbEFRp0


翌日の昼下がりに緊急招集がかけられた。

「東京湾に深海棲艦、戦艦ル級が6体発生、進路は川崎工業地帯方面! 現在千葉県沖に漁船の集団がいますが、此方に向かう可能性もあります!」

通信担当の夕張から敵部隊の情報が送られた。

「よし、霧島。君の作戦を採用する。君を旗艦に、金剛、比叡、榛名、祥鳳の五人。支援艦隊として、加古と古鷹にも共に出撃を頼む」

「了解! 加古、出撃よ!」

「よっしゃあ! あたしの出番だね!」

昨日とは打って変わって、加古は目に光を灯らせて背筋をぴんと伸ばしていた。いつものお寝坊さんではない、歴戦の重巡洋艦としての風格が見られた。

「はい! 皆さん、宜しくお願いします!」

「霧島、宜しく頼みマース!」

金剛は明るい笑顔で彼女の肩を叩いた。

「はっ、はい…!」

昨日とは正反対の金剛の態度に霧島は戸惑ったが、すぐにその気持ちを振り払い、作戦に集中した。

「霧島、実戦では予想外の出来事が起こりうるものだ。くれぐれも油断をしないように頼むぞ」

「はい! 霧島! 出撃します!」

七人の艦娘は艤装を身に纏い、戦艦ル級の集団の元へと進んだ。



201 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:49:00.66 ID:DNrbEFRp0



港から霧島達を見送った後、伊吹は直ぐ様鎮守府に残っていた艦娘達を執務室へと呼び出した。睦月、如月、夕張、大鯨、球磨、多摩の六人である。

「なんですかなんですかー!?」

「睦月、如月、夕張。念の為、君達も支援部隊として出撃してくれ。なにか嫌な予感がする」

「嫌な予感ってなんですか?」

夕張が尋ねた。

「いくら戦力が整った大部隊とは言え、あそこまで大胆な攻撃を仕掛けてきたことは滅多にない。目立ち過ぎる」

「まさか…。奇襲を目的とした囮ですか?」

夕張の脳裏には不気味な潜水カ級の姿が浮かんだ。潜水艦が出現した場合、祥鳳以外ではそうそう対応できない。

その祥鳳でさえ対潜攻撃は限定的なものに過ぎないのだ。下手をすれば全滅も免れない。

「鎮守府での通信は私と赤城と大鯨が代理を務める。球磨と多摩は念の為、いつでも出撃できるように待機していてくれ」

「了解だクマ!」

「了解にゃ」


202 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:51:46.31 ID:DNrbEFRp0



艦隊は霧島を先頭にして、敵に気づかれない程度の速度で進んだ。その間に霧島は祥鳳に指示を出し、敵部隊の偵察を任せた。

「祥鳳さん、お願いします」

「はい! 九七式艦攻! 発進してください!」

祥鳳は弓状に変形させた艦載機を番え、宙へと放った。矢は空中で姿を変え、九七式艦上攻撃機となって、大空高くに舞い上がった。

少し時間が経った後、九七式艦攻は備え付けられた機器から、電波でル級の位置情報を霧島や祥鳳達に伝えた。

霧島は艤装に内蔵していた電探付演算機によって情報を受け取り、敵の精密な位置を把握した。その情報は彼女の耳に音声として送られた。

「敵は距離1700m先、北西です。我々の主砲の有効射程距離は300m。このまま行けばぶつかるはずです!

直ぐ様接近して、弾着観測射撃を撃ち込みましょう! 私が合図しますので、皆さんは砲撃の準備を。祥鳳さんはトドメの空爆をお願いします!」

「えぇ。九九艦爆たち、発進してください!」

彼女の掛け声と共に、九九艦爆10機が放たれた。

七人が有効射程距離まで進撃すると、戦艦ル級の部隊が見えてきた。

幸い、敵はまだ此方には気付いていないようだった。やや緩やかな速度で、まっすぐに市街地へと向かっていた。


203 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:52:34.93 ID:DNrbEFRp0



「さぁ、砲撃戦、開始するわよ!」

霧島は砲塔を動かし、最適な距離まで砲撃が飛ぶよう角度を調整した。金剛達もそれに倣い、砲塔の位置と弾道調整を行なった。

「全門斉射ーッ!!」

砲撃は見事命中し、ル級達は次々と吹き飛ばされていった。

金剛達の弾着観測射撃により3体が撃沈したが、残る3体は多少の手傷こそ浴びせたものの、まだ戦闘可能な状態だった。

だが、九九艦爆達はそれを逃さない。

「みんな、お願い!」

艦爆から放たれた爆撃が次々とル級の周囲を火の海へと変えてゆく。たちまち、1体を残してル級は大破してしまった。

だが、手傷を負ったル級は反撃もせずに直ぐ様海底へと潜り、撤退して行った。

「やけに早いわね」

九九艦爆達を手元に戻した祥鳳は疑問を口にした。

3体撃沈したとはいえ、まだ戦えるだけの戦力が残っているのに足早に退くとは。

204 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:57:13.63 ID:feYf0OAP0


それと時を同じくして、それまで快晴だったにも関わらず、突然濃霧霧が発生した。

霧はたちまち辺り一帯を覆い尽くし、徐々に視界が遮られていった。

「まさか…!?」

霧島の脳裏にある仮説が過ぎった。

あの戦艦の部隊はまさか、こちらの戦力を引き離すための囮ではないのか。真の狙いは、漁船団…!?

「霧島さん、聞こえますか?」

突如、夕張から通信が届いた。

「夕張です。ソナーに反応ありました。深海棲艦の部隊を二つ確認! 一つは漁船団へ、もう一つは…」

彼女から連絡を受けた瞬間、霧島の脳裏にある考えが浮かんだ。

まさかこの霧も、こちらを攪乱するために深海棲艦が起こしたのだとすれば…?

「きゃぁっ!」

「うわぁぁっ!」

次の瞬間、潜水カ級が突如出現して雷撃を放ち、古鷹と加古に命中した。直ぐ様祥鳳が残りの艦載機を放って迎撃するも、カ級はすぐに海中へと潜り撤退していった。


205 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:57:45.37 ID:feYf0OAP0


「どうして…私の戦況分析が…?」

呆然として、霧島は二人を振り返った。

魚雷以外が壊れた艤装と焼けた服装を見るに、二人が戦闘可能でないことは見るからに明らかだった。既に防御壁にもヒビが入り、中破していた。

「古鷹…、大丈夫か!?」

「えぇ…やっちゃった…。加古は大丈夫?」

加古は黙って頷いた。加古は左脚をやられ、古鷹も右足に重傷を負ったようだった。どちらも、とても戦闘できる状態には見えなかった。

傷ついた二人の姿を見て、霧島は焦った。自分の作戦が完璧な成功どころか、仲間を傷つける結果になってしまった。

「私の、責任です…!」

霧島は耐え切れず、輸送船団の元へと駆け出してしまった。榛名もその後を追った。

「霧島、待って! 一人じゃ危ないわ!」

まずい。比叡と金剛は顔を見合わせ、頷きあった。潜水艦が奇襲してきた

「お姉さま…!」

「祥鳳! Sorry、二人をお任せしてもいいデスカ!?」

祥鳳は黙って頷いた。

「余裕があれば、Backupをお願いしマス!」

「分かりました。二人とも、気をつけて!」

金剛と比叡も榛名を追いかけた。祥鳳は古鷹と加古を近くに寄せつつ、潜水艦の再出現に備えて目を凝らした。



206 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 12:59:04.25 ID:feYf0OAP0



同刻、伊吹の命を受け、夕張を旗艦とした支援部隊は霧の中を進んでいた。

「霧が濃いわね」

「にゃしぃ…前が見えないですぅ…」

「やだ…これじゃ上手く狙いが付けられないわ…」

夕張は手元の聴音機とレーダーを頼りに、慎重に進んでいった。最後に受けた連絡では古鷹達が潜水艦の奇襲を受けたと聞いている。

全員対潜用の三式爆雷と爆雷投射機を装備してはいるが、自分たちもいつ同じ目に遭うか分からない。

「とにかく、焦らずに行きましょう。ミイラ取りがミイラになっちゃいけないわ」

如月と睦月は静かに頷いた。


207 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:00:31.57 ID:feYf0OAP0



榛名は一心不乱に走り続ける霧島にようやく追いつき、彼女の腕を掴んだ。

「霧島! 一人で行っちゃ危ないわ!」

「榛名は下がってて! これは私の後始末だから!」

榛名はすかさず、霧島の頬を叩いた。

「は、榛名…!」

「霧島、落ち着いてください! いつもの冷静なあなたはどうしたの?」

「榛名に何がわかるって言うのよ!」

「そっちこそ作戦がちょっと失敗したくらいで何を焦ってるの!? みんなを守るのが艦娘の戦いでしょ?」

榛名の言葉に、霧島は我に帰り、口を噤んだ。そして、ようやく自分の頭に血が昇っていたことに気づいた。

「ご、ごめん…」

「とにかく、落ち着いて戦いましょう? まずは船を守ることが先決よ」

霧島も黙って頷き、二人は並んで進んだ。


208 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:01:15.05 ID:feYf0OAP0

レーダーを頼りに霧の中を全速力で進むと、深海棲艦の集団を発見した。幸いなことに漁船団は襲われる寸前であり、どの船も未だ沈んだ様子はなかった。

何とか間に合った。霧島は内心ホッとした。だが、安心してる暇はない。

「深海棲艦! 榛名達が、お相手いたします!」

凶暴なサメの如き駆逐ハ級を榛名が撃ち抜いた。イ級達も霧島に気付き、全ての深海棲艦達が漁船への攻撃を止めて此方に向かってきた。

しかも、船に噛み付き揺さぶっていた個体までもが船への攻撃を停止し、霧島と榛名めがけて突撃してきた。

「どういうことなの…?」

霧島は戸惑ったが、今は船を守るのが先決だ。

「行くわよ、霧島!」

「えぇ!」

敵の砲撃を躱し、徐々に距離を縮めてゆく。そして、砲塔を構えた。

「距離、速度、良し! 全門斉射ーッ!」

35.6cm連装砲、15.2cm単装砲、7.7mm機銃が一斉に火を噴いた。

目の前の深海棲艦達はすべて撃ち抜かれ、海上で燃え尽きて次々と沈んでいった。

漁船団もこの隙に方向転換し、なんとか逃げのびようとしていた。

「間に合ったわね…!」

「えぇ…」


209 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:02:10.22 ID:feYf0OAP0

だが、二人が安堵していたのもそれまでだった。海中が不気味に泡立ち、二人が気づいた時には次々と深海棲艦が浮上してきた。

女幽霊のような潜水ソ級6体に空母ヲ級が1体、戦艦ル級が1体。そして、白いマントとセーラー服を身に纏った女学生のような姿をしたタ級が1体。

いつの間にか、榛名と霧島は深海棲艦に囲まれていた。

「まさか…!」

霧島は青ざめた。あのル級の群れも、漁船を襲おうとした深海棲艦の部隊も、全てはここに戦艦を呼び寄せるための囮だったのではないか。

真の狙いは、おびき寄せた艦娘を此処で確実に仕留めることだったとしたら…?

「ミーツケタ…!」

「しまった…!」

ヲ級が艦載機を放ち、爆撃を開始した。霧島と榛名は退避しようとしたが、ル級とタ級の砲撃によって退路を塞がれてしまった。

霧島は、内心相手の戦略に舌を巻いていた。空爆と砲撃で動きを封じ、潜水艦の魚雷で確実に仕留める。まさに戦艦を狩るための最高の布陣であった。

「きゃぁぁぁっ!!」

敵艦載機の容赦ない爆撃と戦艦タ級の砲撃を受け、榛名と霧島は中破した。防御壁は破れ、服が焼け焦げ、豊満な胸が露わになった。

単装砲と機銃は破損し、唯一無事だった連装砲も既に残弾は数発しかない。仮に反撃を行なったとしても、この数では焼け石に水でしかないだろう。


210 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:03:28.78 ID:feYf0OAP0

「くっ…」

霧島は目を瞑り、これから訪れるであろう死を待った。6体のソ級が魚雷を放つ音が聞こえてくる。

「お姉さま…!」

霧島は自分が思わず姉達に助けを求めていたことに気付き、自嘲した。

バカだな、私…。未熟者のクセに、お姉さま達の前で調子に乗るなんて…

ごめん、榛名…。私のせいでこんな負け戦に巻き込んじゃって…

そして、魚雷が衝突したと思った瞬間、霧島は目を閉じた。


しかし、しばらくして目を開けると、二人は自分たちが無事だったことに気づいた。



211 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:05:44.38 ID:feYf0OAP0

「え…?」

駆けつけた金剛と比叡が、仁王立ちになり、すべての攻撃を受け止めていたのだ。

「お姉さま!」

二人は艤装も服もボロボロになり大破していた。それでも、金剛と比叡は後ろを振り返り微笑んでいた。

その笑顔は、霧島の脳裏にある記憶を蘇らせた。





榛名と霧島が、まだ春奈と霧子だった時のことである。


近所の林へ四人で栗拾いに行ったことがあった。姉二人が木の枝でイガを割り、妹二人が手渡された栗の実を袋に詰める係だった。


だが突如強い風が吹き、毬栗が落ちてきた。二人は針の雨に怯え、思わず身をすくめた。


その時だった。


春奈と霧子を二人の姉が自分の背中と頭を盾にして庇ってくれたのだった。


「春奈、霧子、けがはない?」


二人の姉は口ではそう言いながらも涙目で、腕も傷だらけだった。


傍から見れば二人の姉たちは、かっこ悪いやんちゃな少女だっただろう。


それでも、春奈と霧子にとって、二人の姉は最高に素敵な女性に映った。


そんな二人の姉を、霧子は尊敬し、憧れた。


いつか、二人のような素敵な女性になりたいと思った。





あれから十年以上経った今もそうだった。金剛と比叡は身を挺して二人を雷撃から守ってくれた。

「Hey! My sisters!! Are you OK !?」

「榛名、霧島、怪我はないですか?」

「お姉さま…!」

霧島は思わず涙ぐんだ。



ばかだな、私。頭脳派を気取っておきながら、こんなこともわからないなんて。


やっぱりお姉さまはお姉さまだった。


金剛お姉さまも比叡お姉さまも昔のまま。


ずっと変わらない、強くて優しい、私の憧れの姉達だった。



212 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:06:30.71 ID:feYf0OAP0

「榛名、行きますよ!」

「えぇ!」

霧島は榛名に向き直った。彼女もまた、同じ気持ちだった。

でも、私達だってあの頃の弱く小さい妹のままじゃない。今こそそれを見せる時だ。

「お姉さま方、ここは榛名達にお任せ下さい!」

「…Okay、お願いしマース!」

榛名と霧島は二人の姉の前に出て、まだ辛うじて機動する主砲をタ級に向けた。

「戦艦タ級!」

タ級に向け、霧島と榛名は叫んだ。

「勝手は!」

「榛名と、霧島が!」

「許しません!!」



213 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:07:37.80 ID:feYf0OAP0


「サセヌ…!」

霧島達に止めを刺そうと、再び潜水ソ級が現れた。

だが、狙いを定めようと水面に浮上した瞬間、何処からか爆雷が放たれて吹き飛ばされてしまった。

「ふふ~ん、睦月を忘れてもらっては困るのです!」

「遅れてすみません! 潜水艦達は任せてください!」

「さぁ潜水艦さん! 如月がいま、楽にしてあげる♪」

睦月と夕張、そして如月だった。三人はタ級の砲撃を回避しつつ、爆雷を次々と海へ投下し、潜水艦を撃沈した。

だが、タ級達は再び霧に隠れ、姿を消した。

まずい、これじゃ見えない。霧島が焦りかけた時だった。その時、小さな光が一瞬だけル級とヲ級を照らした。

「加古、見つけたよ…!」

「おぅ! 加古スペシャルをくらいやがれー!」

叫びと共に魚雷が放たれ、ル級とヲ級が吹き飛ばされた。

「加古さん、古鷹さん!」

霧に阻まれてはっきりは見えなかったが、祥鳳に肩を支えられて魚雷を放った加古と古鷹がいた。

中破しても、辛うじてお互いに支え合うことで、なんとか魚雷を一発だけは放つことができたのだろう。


214 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:08:08.59 ID:feYf0OAP0


そして、魚雷だけじゃなかった。

祥鳳の九九艦爆と九七式艦攻も白壁を切り裂いて現れ、タ級の対空砲火を掻い潜り、攻撃を開始した。

その時放たれた強い光が霧の中で目印となった。

今だ、ここしかない。もはや距離や速度を測るまでもなかった。

「榛名、行くわよ!」

「はいっ!」

一昨日見た姉の必殺技の掛け声。ちょっとだけ、カッコいいと思っていた。

霧島は、そして榛名は、心のままをさらけ出し、残る全てを解き放った。

「ダブル・バーニング・ラァァァブ!!」

二人の叫びと共に、35cm連装砲の最後の砲撃が放たれ、タ級の白い身体に無数の穴が開いた。

断末魔の悲鳴をあげてタ級は倒れ、海に大きな水柱が立った。

残ったヲ級とル級は大破していたが、これ以上は勝機なしと判断したのか海底へと撤退を開始した。

中破・大破した艦娘こそ多いものの、なんとか艦娘側の勝利に終わったのだった。




215 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:08:46.13 ID:feYf0OAP0


金剛達の帰還を港で待っていた伊吹は、水平線の彼方から漁船団が近づくのに気付いた。

その船の隣には傷ついた金剛達が随伴していた。念の為、護衛として共に港まで同行したのだ。

艦娘達と共に無事港に到着すると、去り際に船に乗っていた漁師達が手を振り、感謝と敬意を示して去って行った。

上陸した霧島達のもとに伊吹が駆け寄った。

「金剛、霧島。戦果の報告を」

「はい、古鷹さんと加古さん、私と榛名が中破。金剛お姉さまと比叡お姉さまが大破しました…。申し訳ありません…」

「But! Enemyは全部Destroyし、漁船団も護衛成功デース!」

「うむ、みんなよくやってくれたな」

伊吹は黙って頷いた。てっきり叱責されるとばかり思っていた霧島は彼の意外な発言に目を丸くした。

「睦月、夕張、如月。君達の働きも見事だった」

「えへへ…。睦月をもっと褒めるが良いぞ、褒めて伸びるタイプにゃしぃ!」

睦月はえっへんと言わんばかりに胸を張った。如月と夕張も微笑み、少しだけ頬を染めた。

その一方で、霧島は気まずそうな表情をしていた。

「夕張さん、睦月さん、如月さん。ご迷惑をおかけしました…」

霧島は感謝と申し訳なさで胸がいっぱいだった。

内心、歳が幼い上に戦力外だと考えていた駆逐艦や軽巡洋艦の艦娘たちが、こんなに強く優しい存在だったことを、彼女はこの作戦で痛いほど思い知らされていた。

「あっ、頭を上げてください! みんな怪我はしたけど無事だったんですから!」

「そうよ。艦娘は助け合いでしょ? 貴方達じゃなきゃ、タ級は倒せなかったんですもん」

「おっしゃるとおりにゃしぃ!」

霧島は三人の優しい言葉に目を潤ませた。そして、文字通りボロボロになった姉二人と古鷹達に向き直った。


216 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:09:15.53 ID:feYf0OAP0


「お姉さま方…。申し訳ございません、この度は私が未熟だったせいで…。古鷹さんと加古さんも危ない目に…」

「気にすんなって、この程度じゃあたしは死なないよっと!」

「霧島さん気に病まないで。このくらい、私達は大丈夫ですから!」

金剛と比叡も二人に倣い、黙って頷いた。

「はい…。みなさん、ありがとうございます…!」

霧島の視界が曇り、何も映らなくなった。金剛と比叡は、黙って妹の頭を静かに撫でた。



いつの間にか、海を覆っていた霧も晴れていた。



217 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:10:37.65 ID:feYf0OAP0


数日後、霧島と榛名に大本営より辞令が降りた。

今回の戦果を省みた結果、二人の横須賀鎮守府への正式な配属は延期と判断され、再び舞鶴鎮守府において研修が施されることが決定した。

念の為、十日間の検査入院を命じられた金剛と比叡の元に、榛名と霧島が別れの挨拶に訪れた。

「お姉さま。いつか、私も経験を積んで、きっとお姉さまを超えられるような艦娘になってみせます!」

「榛名も、お姉さま達を超えられるよう、がんばります」

金剛と比叡は微笑んで頷いた。

「霧島、ちょっとこっちに来てくだサイ…!」

「な、なんでしょう?」

金剛に手招きされ、霧島は素直に姉のベッドに近づいた。そして、突如彼女は末妹を抱きしめた。

「霧島…!」

姉の突然の行動に、霧島は顔を赤くした。

「あ、あの。お姉さま…。は、恥ずかしいですから…!」

「えへへ…霧島が素直になってくれて嬉しいデース!」

頭まで撫でられ、霧島の顔がさらに紅潮してゆく。

「あ、霧島ばっかりずるいです! 私にもお願いします!」

「は、榛名にもお願いします!」

金剛達は久々に幼い頃に戻り、仲良く笑いあった。



218 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/09/22(火) 13:11:30.11 ID:feYf0OAP0


次回、なめるなクマー!



以上、4回目でした。

予告通り、次は大井っちを出します。
次回の投稿は10月中旬過ぎを予定しております。

223 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 投稿日:2015/10/08(木) 00:31:39.75 ID:7D5qY37i0
楽しく拝見させていただいております。
作者様に質問ですが、伊吹提督は誰かイメージモデルなど存在しますでしょうか?

私は勝手ながら、幼少の頃に見た「電撃戦隊チェンジマン」で
藤巻潤さんが演じておられたイブキ長官のイメージで読ませてもらってます。
偶然名前も同じですしねww



224 名前: ◆li7/Wegg1c[sage] 投稿日:2015/10/08(木) 22:48:00.93 ID:q/EDZAcg0
>>223
こんな拙文ですが楽しんでいただけて嬉しく思います。
ありがとうございます!


伊吹提督は帰ってきたウルトラマンの伊吹隊長をイメージして書いてます
どちらかといえば同作の加藤隊長とレオのダン隊長を足して2で割ったような感じになりつつありますが…

226 名前: ◆li7/Wegg1c[sage saga] 投稿日:2015/11/02(月) 11:58:07.08 ID:vj21y8ll0
4話おまけ


金剛と比叡が入院した翌日の昼下がり、古鷹と加古は鎮守府の中庭にあるベンチで静かに座っていた。

このところ二人は激務や負傷が多く、休養を命じられていた。

その代理として舞鶴鎮守府のベテラン軽巡洋艦の艦娘・由良と五十鈴が派遣されており、二人は気兼ねなく昼寝していた。

「うぅ、だるい…。眠い…」

「はいはい。膝枕してあげますから。ゆっくり休んでね?」

「うん。おやすみ…」

加古が古鷹の太腿の上に頭を乗せてゆっくりと目を閉じ、いびきをかき始めた。

ちょうどそこに冷凍食品入りのダンボールを運んでいた祥鳳と大鯨が通りかかった。

「あら、こんにちは。祥鳳さん、大鯨さん」

古鷹は天使のような笑顔を見せ、二人に挨拶した。

「こんにちは、古鷹さん。今日はお休みですか?」

「えぇ、今日は加古とお休みを頂いています」

加古は口を大きく開き、静かに眠っていた。古鷹は微笑み、その額に優しく触れていた。

その時、祥鳳が一瞬だけ少し寂しそうな表情をしたのを大鯨は見逃さなかった。


227 名前: ◆li7/Wegg1c[sage saga] 投稿日:2015/11/02(月) 12:00:32.27 ID:vj21y8ll0
食堂に着いた二人は、ダンボールから取り出した食料を冷凍庫やストック用の籠に積んだ。

作業があらかた終わりそうになった頃、大鯨は静かに口を開いた。

「…祥鳳お姉ちゃん、さっきちょっと寂しそうな顔してたけど、どうしたの?」

「ふたりが、うらやましいなぁって…」

祥鳳は寂しげに微笑んで答えた。

金剛や比叡や霧島たち、加古と古鷹。睦月や如月、暁たち。

それぞれの艦娘達が、それぞれの形で実の姉妹との交流をしている。それが祥鳳には少しだけうらやましかった。

「私には、もう…」

みずほはもういない。

もう妹と喧嘩することも、戯れることも、触れることさえもできない。幼い妹の笑顔が脳裏に浮かび、祥鳳の表情に暗い影が浮かんだ。

大鯨はそんな姉を一瞬悲しげに見つめたが、すぐに祥鳳の頬を右手の指で軽くつついた。

「大鯨…?」

「んもう、私がいるじゃない!」

祥鳳は左手で自分を指差す大鯨を見た。

「私だって祥鳳お姉ちゃんの妹だよ! 確かに血は繋がってないけど、祥鳳お姉ちゃんのこと本当のお姉ちゃんだと思ってるんだからね!」

大鯨はわざとらしく頬を膨らませて言った。

「…ふふっ。ごめんね大鯨。あなたも、大事な妹だよね」

「えへへ…」

久々に姉に撫でられ、大鯨は子どものように微笑んだ。

「あーっ! 大鯨お姉ちゃんばっかりズルい!」

「い、電も…なでなでしてほしいのです!」

そこに何処からか雷と電が現れた。響と暁もその後ろにいた。

「暁は一人前のレディーだからそんなことしなくてもいいけど、お、お姉ちゃんが私を撫でたいって言うなら、別にいいわよ!」

「いいじゃないか、たまには甘えたって」

響は頬を赤くした暁の背をそっと押した。

突然幼い『妹』達に囲まれてしまい、祥鳳は困ったように微笑んだ。

「ふふ、仲良し姉妹ね」

「仲良きことはいいことなのです!」

昼食を作りに来た如月と睦月は、食堂で戯れる『姉妹』を微笑みながら見守った。




4話おまけ 完 

229 名前: ◆li7/Wegg1c[sage saga] 投稿日:2015/11/04(水) 23:58:53.51 ID:vZ5Y1QKc0

第五話 なめるなクマー!




9月中旬。病室の外は寒風が吹き始めたものの暑さは和らぎ、過ごしやすい気温になっていた。

金剛と比叡は窓の日差しを浴びながら読書に興じ、病室で静かに過ごしていた。

と言っても怪我は既に高速修復剤で完治している。
今回の入院はこれまでの戦闘で身体に異常は存在しないかどうかの確認のための長期検査入院である(深海棲艦が出現すれば即時出動する取り決めになっていたが)。

その時、病室の扉を叩く音が聞こえた。

「比叡さん、金剛さん。失礼します」

林檎と花とサイダーの入った籠を右手に握り締めた背の高い女性が入室してきた。大和だった。

「お身体の具合はいかがですか」

「あっ、大和さん! お久しぶりです!」

久々の友人が現れ、比叡の顔がぱぁっと明るくなった。大和に続き、ウェーブがかった長髪の美女も病室に入ってきた。

「何よ、元気そうじゃない」

「大和さん、足柄さん! ありがとうございます!」

「足柄は優しいFriendですネ…」

比叡は嬉しそうに笑い、大和もまた微笑みで返した。その一方で、足柄は顔を真っ赤にして喚き始めた。

「ちっ、違うわよ! アンタじゃなくて比叡ちゃんを見舞いに来たのよ! かっ、勘違いしないでよねっ! だっ、だっ、誰がアンタなんか心配するもんですかっ!」

「ふふ...Thank you, Starved Wolf」

動揺する足柄を見て、金剛はにっこりと笑った。勇猛な狼と評される足柄だが、今の彼女にその面影はなかった。

「だ、だまらっしゃい! たまたま遠征任務でこっちに寄っただけよ! わ、私はアンタなんか、これっぽっちも心配してないんだから!」

「えっ? 確か、長門秘書官に休暇を申請なされたも、ヘリを出す大和に頼まれたのも足柄さんでは…?」

「うがーっ! ちがうったらー!!」

足柄は大声で吠えまわったが、その意図は大和にもバレていた。

その後騒ぎを聞きつけてやって来た看護師から窘められてしまい、彼女は顔を赤くしたまま林檎の皮を剥き始めたのだった。

230 名前: ◆li7/Wegg1c[sage saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:00:33.60 ID:qVzFEpzu0


同刻、横須賀鎮守府近辺の港。白い雲がいくつか浮かぶがよく晴れた日の午前。海の上にぽっかり五つの影が浮かんでいた。

一つは小さな四つの影、もう一つはそれよりふたまわりも大きい影。四つの影は暁、響、雷、電だった。彼女達は艤装を装着し、おぼつかない足取りで海の上に浮かんでいた。

もう一つの大きな影の主は、抹茶色の服を着た茶髪の少女・軽巡洋艦の大井だった。

大井は軽巡洋艦でありながら練習艦として後輩や同輩を指導する立場にもあった。

普段は呉鎮守府で相棒で北上ともども練習艦として駆逐艦の指導を担当しているが、今回電達の訓練のため、古巣である横須賀鎮守府に伊吹提督に呼ばれてやって来たのだ。

「魚雷演習、始め! 撃てぇーっ!」

電達は腰を震わせながら、腰の艤装に備え付けられた模擬魚雷を構えた。

「やぁ!」

「ウラー!」

「ってー!」

「なのです!」

四人の艤装に火花が飛び散って雷撃が放たれ、標的のブイめがけて魚雷が勢いよく飛び出し、鋼鉄の雷魚は獲物をめがけて波間を切り裂き突進した。

が、まともに的に命中したのは響のみだった。暁は尻もちをついてスカートを濡らし、雷と電の放った魚雷はでたらめな方向へと飛び去ってしまった。

「響さん四発中二発命中! 他は…。暁さん、電さん、雷さんが一発ずつしか当たってないわね」

「あうぅ…」

四人は項垂れてしまった。とりわけ、暁は長女であるにも関わらず響に負けたことに内心屈辱を感じ、顔を真っ赤にした。

231 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:05:02.02 ID:g6rQ0YjM0

「いい? 駆逐艦にとって、魚雷は最大にして最後の武器よ。これだけはちゃんと撃てるようにしなさい」

「は、はい!」

四人は返事をした。

「ほらやり直し! さっさと次発装填なさい! 戦場の敵は一秒も待ってくれないわよ!」

「は、はい!」

四人は直ぐ様魚雷の次発装填を開始した。

「電さん、腰が曲がってる! もっとシャキっとしなさい!」

「は、はわわ…」

電は大井の指示通り背筋を伸ばそうとしたが、艤装の重さに慣れていないのか、バランスを崩して倒れてしまった。

大井は目もくれず、雷と響に指示を出す。

「雷さんと響さんはもっとちゃんと狙いを付けて!」

「は、はい!」

「りょ、了解です…」

二人は素直に従い、狙いを定めて魚雷を発射した。水しぶきが飛び、三発が命中し、的を粉々に吹き飛ばした。

「やったーっ!」

「ハラショー、やったね」

二人は手を叩き合い喜んだ。一方、妹たちが成功したことで暁はますます苛立ったように見えた。大井はそんな彼女の焦りを見抜きこう言った。

「暁さんはもっと落ち着いてゆっくりやりなさい! ほかの子に負けてるからって焦る必要はないわ!」

「あ、暁は別に気にしてないもん!」

「減らず口はいいから、言う通りになさい! そうすればちゃんとできるから!」

「は、はい!」

暁は渋々先輩の命令に従い、深呼吸をして慎重に狙いを定め、魚雷を放った。今度は二発命中してブイを沈めた。

「やったぁ! 当たったっ!」

「いいわよ、その調子」

暁は胸を張り、自分の戦果を誇った。

「ほら! 浮かれてないで、みんなさっさと次発装填なさい! 電さんも、さっさと起き上がりなさいな!」

「はっ、はいなのです!」

転んでいた電もすぐに起き上がり、魚雷を放った。その結果は芳しいものとは言えなかった。


232 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:09:05.05 ID:g6rQ0YjM0
魚雷訓練に続いて砲撃の回避訓練を実施した後、大井は港に戻り電達と共に昼休憩を取っていた。

真夏ではないので陽射しもそこまで強くはなく、太陽光で熱せられたアスファルトも座れないほどではなかった。

だが彼女達の間に会話はなかった。それも当然である。電達はこの日初めて大井と出会ったのだ。お互いの情報はほとんど知らないし、球磨や多摩のようにとりわけ親しいわけでもない。

やや気まずい沈黙が流れたが大井は気にせず睦月達が作った弁当のおにぎりを口にしていた。

暁と響はひそひそと小声で話し合い、雷はどうしたものかとちらちら大井を見ていた。

そんな状況を打ち破ったのが、たまたま大井の隣に座っていた電だった。

「あの、あの、大井さん…」

「電さん、何かしら?」

おずおずと電は続けた。

「大井さん、電はできれば…。敵さんもお助けできればと思うのです…。でも、戦わないとみんながやられちゃうって…。どうすれば、どっちも助けられると思いますか?」

「沈んだ敵も助けたいですって?」

電は黙って頷いた。

大井はどう答えたものかと暫く熟考した後、こう返した。

「似たようなことを言う子がいたわね。確か敷波さんの妹の、潮さんだったかしら…。敵も同じ命、かわいそうって、戯言をね」

「は、はう…」

容赦なく戯言と切り捨てられしまい、電は俯いてしまった。


233 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:13:22.13 ID:g6rQ0YjM0

「ちょ、ちょっと! 戯言って何よ! 電に謝んなさいよ!」

「そうよそうよ! いくら先輩だからってひどいわ!」

暁と雷が抗議した。響は口を噤んだままだったが、目を細めて静かに大井を睨みつけていた。

だが大井は意に介さず続けた。

「電さん。その甘っちょろい理想を貫き通したいなら、どんなことがあっても生き抜きなさい」

「は、はい…」

「いい? 死んでしまったら、その甘っちょろい理想も現実の苦みも味わえないわ。それだけは覚えておきなさい」

「わ、わかりました…」

静かに電の肩を叩き、大井は言った。電達は呆気に取られて立ち尽くしたが、指導教官は容赦なかった。

「さぁ、訓練再開よ! 私は神通や川内のようには優しくないからね!」

「はっ、はい!」

「なのです!」

訓練は夕陽が沈むまで続き、四人は汗と潮水だらけになって鎮守府へと戻ったのだった。



235 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:24:40.38 ID:g6rQ0YjM0

「大鯨、ちょっとはっちゃんの様子を見てくるわね」

「うん」

祥鳳はその場を大鯨に任せ、観測船の休憩室にいるもう一人の潜水艦の艦娘の様子を見に行った。

休憩室のベッドでは、金髪の眼鏡をかけた少女が仰向けに寝転がりながら静かに読書をしていた。

「はっちゃん、疲れは取れた? 何か飲みたい?」

「はっちゃん」と呼ばれた少女、伊8は本を折りたたみ、頬を膨らませながら部屋に入ってきた祥鳳をじと見た。

「祥鳳さん。まだハチのこと、はっちゃんって呼ぶんですか…」

「いいじゃない。そっちのほうが呼びやすいんだし」

「んもう…。まぁ…、祥鳳さんがそう呼びたいのなら、別にいいですけど…」

伊8は不満を口にしたが、どことなく嬉しそうに微笑んだ。

彼女を含めた潜水艦の艦娘はそのほとんどが祥鳳や大鯨と非常に仲が良かった。

潜水艦の艦娘は常にスクール水着を纏うその奇異な服装のせいか、世間から謂れのない誤解を受けることが多かった。

同時に、輸送や偵察などの地味な任務が多いことなどからメディアへの露出度も高くはなく、マイナスのイメージを払拭することもできなかった。

伊8もまたそうした世間の好奇の目による被害者の一人だった。彼女の場合はドイツ人とのハーフでもあったことから余計に世間の好奇の視線を浴びてしまい、そのストレスで一時的に精神を病んだこともあった。

そんな時に、潜水艦の艦娘達を優しく励まし立ち直らせたのが祥鳳と大鯨、そして伊吹提督だった。

伊吹は傷ついた伊8達を横須賀鎮守府に招き、祥鳳と大鯨に世話役を命じた。

そして彼女達の暖かさに癒された伊8をはじめとする潜水艦の少女たちはようやく立ち直ることができたのだ。同時期に祥鳳達も鳳翔を失って塞ぎ込んでおり、彼女達もまた潜水艦の艦娘によって救われたのだった。

その時とりわけ二人に可愛がられていたのが伊8であり、祥鳳たちによって「はっちゃん」というあだ名を付けられていた。

子どもっぽいとは思っていたが、同時に伊8は今でも祥鳳たちがその名で呼んでくれることを内心嬉しがっていた。

「あの…。紅茶、お願いします」

「アールグレイでいいかしら?」

「…はい」

祥鳳は備え付けのポッドのボタンを押し、ティーパックが入ったマグカップの中へとお湯を注ぎ、ベッドに座る少女へ手渡した。

「ダンケシェーン」

伊8はふぅと湯気の漂う紅茶に息を何度か吹きかけた後、静かにお茶を飲み始めた。

「それじゃあね、また行ってくるわ。何かあったら、外にいるから呼んでね?」

「はい…」

伊8は部屋を出る祥鳳に手を振って見送った。



236 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:28:33.67 ID:g6rQ0YjM0


祥鳳が部屋を出てブリッジに戻ろうとしたところ、お揃いの赤いスカートを履いたふたりの艦娘とすれ違った。

「お疲れ様です、千歳さん、千代田さん」

「そちらもお疲れ様、祥鳳さん」

祥鳳は静かに微笑み千歳と千代田に挨拶した。

白みがかった長髪をリボンで結んだ方が千歳、彼女よりやや短い茶髪の少女が千代田である。

二人は瑞雲などの水上機を操る水上機母艦と呼ばれる艦娘であり、彼女達二人を除くと水上機母艦に該当する艦娘は未だ二人しかいないと夕食の酒宴で聞いた。

しかもそのうちの一人は別鎮守府で訓練中で、未だ実戦配備できない状態らしい。

千歳達は艤装の改装によって軽空母として戦うことが可能らしいが、彼女曰く「それでは瑞雲たちがかわいそう」とのことで、改装の誘いが来ても頑なに拒んでいるのだという。

出会ってから間もないが、祥鳳は経験豊かで凛々しく水上機を飛ばすこの艦娘達が好きになっていた。

「祥鳳さんも休憩できる時には、ちゃんと休憩してくださいね?」

「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、千代田さん」

「昨日だって、千歳お姉のお酒のお相手、大変だったでしょう?」

「えっ、そんなことないわよ…。ねぇ、祥鳳さん?」

「あ、あはは…」

千歳は温厚で世話焼きな艦娘だが同時に少々酒癖が悪く、昨晩の顔合わせ会でも千代田が酔っ払って豊満なバストをさらけ出そうとした姉を制止していた。

それでも不愉快に思えないのは、普段の暖かな人格あってのことであろう。


237 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:30:21.29 ID:g6rQ0YjM0

「もう! 千歳お姉、迷惑かけちゃダメでしょ?」

「えへへ・・・。ごめんね」

妹に平謝りする千歳を見て祥鳳は微笑んだ。

(仲の良い姉妹か・・・)

彼女は二人を少し羨ましく思っている自分に気付き、慌ててその気持ちを振り払った。

もう自分にはいないからって、仲良くしてる他の姉妹を羨んじゃいけない。

そう戒めても、時々この気持ちがふっと湧き出てしまう。そんな未練がましい自分が嫌だった。なにより自分を姉と慕ってくれている大鯨や電達にも失礼だ。

一方、千歳と千代田はそんな祥鳳の胸の内など知る由もなく、水上機について話し始めた。

「でもやっぱり千歳お姉は瑞雲捌きがカッコいいよね!」

「いえいえ、私もまだまだよ。瑞穂さんには敵わないもん」

「みずほですって!?」

寝耳に水をかけられた祥鳳は思わず叫んでしまった。

「今どこにいるんですか、私の妹は…? みずほは今!?」

「え、えっと…。そちらで水上機を飛ばしてますけど、さすがに妹では…?」

驚いた千歳が指を指す方向へ祥鳳は駆け寄った。そこでは和服を着た長身長髪の女性が水上観測機の整備をしているところだった。

「みずほ! みずほよね!?」

『みずほ』は静かに後ろを振り向いた。

「あの…。瑞穂に何か御用ですか?」

その瞬間、祥鳳も悟った。どう見てもこの女性は私の妹ではない。目の前の清楚な美女はどう考えても生き別れた妹どころか、祥鳳よりも年上だった。

それでも祥鳳は希望を捨てきれず、ひとつだけ尋ねた。

「あ、あの…。もしかして、貴方に姉妹はいらっしゃいませんか…。生き別れの姉とかは…」

「いいえ、私は一人っ子ですよ」

「そうですか…」

祥鳳はがっくりと肩を落とした。

「ごめんなさい、騒いでしまって…。人違いでした」

「いえいえ、誰にでも間違いはございます。お気になさらないでくださいね」

「はい、哨戒任務中に失礼しました」

「いえいえ。では、瑞穂も失礼いたします」

瑞穂はおおらかな表情を崩さぬまま一礼し、観測機達を再び海へと解き放った。

うぐいす色の和服を着た彼女は、まるで竹取物語のかぐや姫のような高貴さを放っていた。

祥鳳はその美しい姿に見とれたが、それ以上に落胆の方が大きかった。


238 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:31:37.28 ID:g6rQ0YjM0

「そうよね…」

祥鳳は肩を落とし、大鯨のいるブリッジへと戻り始めた。

なんでみずほが生きているなんて思ってしまったんだろう。

あの瑞穂さんはたまたま同名だっただけ。艦娘どころか日本中に同じ名前の人がいる。

それなのに、同じ艦娘の中に実は生きていた妹がいたなんて、そんな都合のいいことなんてあるわけないじゃない…!

「バカだな、私…」

祥鳳は静かに呟いた。

みずほはあの日死んだ。私はあの子を守れなかった。

あの子だけじゃない。鳳翔さんも、両親も、私は誰ひとりとして守れなかった。

私にはもう守るべきものは大鯨や電達しかいない。

「お姉ちゃん、どうしたの? 何か慌ててたようだけど…」

「大鯨…」

不思議そうな表情をする『妹』を見て、祥鳳は急に胸にこみ上げるものが溢れそうになり、たまらず彼女を抱きしめてしまった。

「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

「大鯨。あなたは…。ううん、あなただけじゃない。みんな、私が必ず守るからね…」

大鯨は突然の祥鳳の行動が理解できなかったが、静かに震える『姉』に身を任せた。

きっと辛いことを思い出したんだろう。彼女は何も言わず『姉』をぎゅっと抱きしめ返した。

祥鳳の頬に一筋の雫が落ちた。


239 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:32:50.18 ID:g6rQ0YjM0



その後、くたくたになった暁達は、球磨と多摩に迎えられた。今夜の夕食は二人が当番で、メニューは猫飯と鯖の味噌煮と大根入りの味噌汁だった。

ほかほかの夕食を元気よく食べる暁達を見て、球磨と多摩はふっと微笑んだ。なお、睦月と如月は哨戒任務中でこの場にはいなかった。

「みんな、お疲れだにゃ」

「ちび達にしてはよくがんばったクマ」

二人は暁達を労ったが、暁達はある程度夕飯を食べ終えると、口々に今日の訓練の感想を言い始めた。

「なんか大井さんって、きっつい人ですよね・・・」

「ねー。訓練はいいけど、結構ビシバシキツいことも言ってくるし・・・。暁もちょっと頭にきたわ」

言いたい放題言う雷と暁を見かねてか、響が口を尖らせた。

「二人とも、先輩の悪口は良くない」

「でも、ちょっと腹立つじゃない!」

「そうよ! 暁はレディーなんだから、あんなに言わなくたってちゃんとできるもん!」

二人が愚痴るなか、電は何か言いたげにもじもじしていた。

「ね、電も頭にきたよね? 戯言とか言ってきてさ・・・」

だが、電は頭を横に振った。

「い、電・・・。大井先輩は本当は優しい人なんだと思うのです・・・」

「えぇっ!?」

「なんでっ!?」

暁と雷は驚いた。

「電もわかってるのです…。敵さんも助けたいっていうのが危なくて変てこなことぐらい…。

だから、ちゃんと生き残りなさいって大井さんは言ってくれたのです…」

「電の言うとおりだクマ。大井はちょっとキツいところがあるけど、本当は優しい子なんだクマ」

234 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:21:13.98 ID:WeVl606f0



電たちが午後の訓練を始めた頃、祥鳳と大鯨は伊豆諸島のとある島において、水上機基地を建設するための警備要員として遠征任務を遂行していた。

深海棲艦を対人兵器で倒すことは不可能だが、艦娘達にとって中継基地は急を要するものであった。

艦娘は深海棲艦と戦うことはできても、単体での移動は食糧や艤装に搭載できる燃料の関係上、戦艦クラスの艦娘と言えど東京湾から伊豆大島くらいまでの距離が限界であり、長距離航続は不可能だった。

そこで、艤装の補給物資や非常食などを設置した水上機基地建設の需要が高まり、伊豆の島々に基地が建設されることになったのだ。

観測船上で祥鳳と大鯨が待機していると通信機に連絡が届いた。

「大鯨さん、そろそろお願いしますね!」

「はいはい、イムヤちゃん。今、燃料と酸素を送るわ」

それは海底に潜っていた潜水艦の艦娘からだった。大鯨は艤装を稼働させ、酸素ボンベや飲料水などを搭載したゆっくり海中へと沈めた。暗い暗い海の底へとワイヤーが動き、海中で哨戒していたポニーテールの少女・イムヤこと伊168の手に渡った。

「ありがとう!」

伊168は微笑み、大鯨に通信を送り返して酸素ボンベを艤装に取り付けた。

潜水母艦大鯨は、艤装のクレーンを降ろすことで海中の潜水艦達に燃料や酸素ボンベや食糧などを供給することが可能である。

潜水艦は会中を潜行できる代わりに艤装に搭載できる荷物が限られるが、れにより潜水艦の艦娘達は長時間の潜行が可能となる。そのため、長期潜行には大鯨のサポートが欠かせなかった。

このように大鯨の助けを借りながら潜水艦の艦娘達が海中から偵察し、敵に浮上の傾向があれば海上の艦娘達に直ぐ様警告を発する。

そして、海上の哨戒を担当している水上機母艦の千歳や千代田、潜水艦退治のプロフェッショナルとも言われる軽巡洋艦の五十鈴が潜水艦を叩くという算段だ。

今回、水上機基地建設のため潜水艦の艦娘が見張り要員として招集された。

だが、その艤装は絶対数が少ないため戦闘任務には駆り出されることは少なく、もっぱら偵察や輸送任務などがほとんどであった。



255 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:04:44.04 ID:WeVl606f0

「漣ちゃんと曙ちゃんはどうしてここに?」

「休暇に秋刀魚を取りに行こうって、曙ちゃんに誘われたので。

ま~ちょっと行ってもいいかなーって、望月さんの手伝いをする代わりにいい釣り場を教えてもらっていたのです」

ふと、漣は祥鳳の耳に手をやり、ひそひそ声で話し始めた。

「実はですねー、曙ちゃんは大好きなご主人様においしい秋刀魚を食べてほしくて、わざわざここまで来たんですよー♪」

「なっ!? だっ、誰があんなクソ提督のためになんか!」

「おやおや~♪ わざわざ外出許可までもらって釣具の買い物に行ってたのは誰でしたっけ~?」

にやにやと笑いながら、漣は顔を赤くした曙を指差した。

「知らないわよ! 単に釣りに挑戦してみたかっただけよ! クソ提督のことなんかどうでもいいんだからねっ!」

「ほほぅ~? 釣りスポットのガイド本やら魚料理のレシピ本を買いあさり、

ブラウザの履歴に『ダーリンも大喜び☆秋刀魚レシピ♥』とかあったのはどなたでしたかな~?」

「う…、うるさいうるさいうるさい! クソ提督もアンタのことも、もう知らないっ!」

真っ赤になった曙は猛スピードでその場を後にし、走り去ってしまった。

「ふふっ…」

懐かしいな。祥鳳は安心した。

一見冷たいようで心優しい曙ちゃん。ふざけてるようで誰よりも仲間思いな漣ちゃん。二人とも何も変わってない。


256 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:06:20.81 ID:WeVl606f0
「ありゃ~。もうあんな遠くに行っちゃいましたね~。

では、お姉さま。漣はここで。困ったことがあったら、漣は地球の反対側からだって、キタ━(゚∀゚)━!って言いながら駆けつけますから」

「ふふ。ありがとう、漣ちゃん」

「それでは、失礼いたします。望月さんのお宿のお手伝いもございますので」

二人はしばらく手を取り合い、じっと見つめあった。漣はくるりと180度回転してその場を去ろうとしたが、もう一度180度回転して大鯨の方を見つめた。

「そういえば、そちらの艦娘の方。お名前は?」

「た、大鯨です…。潜水母艦の艦娘です。普段は横須賀鎮守府にいます…」

緊張しながら大鯨は言葉を紡いだ。漣は小さいながらも貫禄があり、既に実戦経験のある駆逐艦の子のように思えたからだ。

「そうですか…。大鯨さん、祥鳳お姉さまのこと宜しくお願いしますね」

「はっ、はい…!」

漣に頭を下げられ、大鯨もまた慌てて頭を下げた。

「では、お姉さま、大鯨さん。失礼しますね」

「うん、ばいばい。漣ちゃん」

「アデューです、お姉さま」

祥鳳と大鯨は曙のもとへ走り出した漣を手を振って見送った。やがて、去って行った漣は点のように小さくなっていった。

「それじゃ行こっか、大鯨」

「そうだね。早くしないと秋刀魚も傷んじゃうからね」

二人は望月氏に改めて連泊のお礼を述べ、船室に備え付けられた冷凍庫に秋刀魚を積み、島を後にした。



257 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:06:47.74 ID:WeVl606f0


祥鳳と大鯨が乗船した船が港を出発した頃、横須賀鎮守府は朝食の時間だった。その朝食の場で大井は開口一番に仲間達に頭を下げた。

「皆さん、これまでご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでしたっ!」

だが、誰も大井を責める者はいなかった。自分達が同じ立場ならばどうなっていたかわからないのだ。

「もういい、大井。頭を上げなさい」

珍しく食堂で共に食事を取っていた伊吹が優しく声をかけた。

彼の一言で大井の胸のつかえは取れ、暖かな空気が鎮守府に戻ろうとしていた。

だが、その暖かな空気はある一声で粉々に打ち砕かれた。

「あー、ただいまぁー」

妙に間延びした能天気な声が食堂に広がった。声の主は北上だった。

伊吹や大井も含めて、全員唖然とした。行方不明になっていた人物がこうもあっさりと帰ってきたのだ。無理もない。

提督は鋭い目で北上を睨みつけた。




258 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:07:48.36 ID:WeVl606f0


朝食の後、大井と北上は伊吹に招集された。

「この馬鹿もんが!」

珍しく執務室に怒号が鳴り響いた。

伊吹は厳つい表情をした男で屈強な大男ですらその顔を見れば怯えるほどだが、その容姿に反して必要のない限り滅多に艦娘達を怒鳴りつけることはない。

命懸けで戦う少女達に無闇にストレスを与えてはならないという配慮からだった。

だが今回の北上の件に関しては話が別だ。伊吹の怒りは頂点に達していた。

「北上、貴様何処で何をやっていた!!」

「えーとね。渦潮で宮城県の北の方にに流されちゃってー。そんとき帰ろうと思ったんですけどー。

途中に寄ったスーパーで腰が痛くて動けなくなってたおばあちゃんを助けたらー、成り行きでそのおばあちゃんの住んでる漁港の復旧工事をしばらく手伝うことになっちゃってー。

遅れちゃいました。すみませんー」

「…なぜ連絡を絶っていた?」

「通信装備壊れちゃったし、スマホ海に落としちゃったんです。

鎮守府の番号も忘れちゃったしー。んで、終わって元の場所に戻ったらみんないなかったから、昨晩新幹線で帰ってきましたー」

「よし、一週間不在だった理由はよく理解できた」

「でしょ? 褒めて褒めて~」


259 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:09:22.27 ID:WeVl606f0

だが伊吹はそんな甘い男ではなかった。

「北上、お前は一週間の謹慎だ」

「そんな~。今のは全部本当です! 信じてください!」

「いい加減にしろ! 貴様どれだけ大井に心配をかけたか、分かっているのか!?」

伊吹は大声で叱責した。大井の名を出され、へらっとしていた北上の顔もさすがに曇った。

「提督の仰る通りです。大井さん、すごく心配なさってたんですよ? だいたい、電話帳で調べれば鎮守府の番号なんてすぐわかったじゃないですか?」

普段は艦娘達にあまり小言を言わない赤城も珍しく口を挟んだ。

「うぅ…。それもそうですよね…」

北上は大井に向き直り、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんね大井っち。確かに電話帳使って横須賀鎮守府の番号調べりゃ良かったもんね」

「北上さん…」

「大井、君も情状酌量の余地こそあれど、電達の訓練を怠って無断欠勤を繰り返した。よって君にも罰則を執行する」

「はい、謹んでお受けします…」

どんな罰を言い渡されるのだろう。大井は震えた。

「君には北上が脱走しないか監視を命ずる。

それから、二人には電達の演習の指導に加えて、一週間鎮守府内全域の掃除をやってもらおう。

横須賀鎮守府を隅から隅まで綺麗にするんだ。後で赤城や私がチェックするから、抜けは許さんぞ」

「提督…!」

大井はホッと胸を撫で下ろした。同時に、提督の優しさが身に染み、瞳が潤んだ。

「わかったらさっさと下がり、罰則を実施しろ」

「はいっ!」

「は~い」

二人は返事をし、すぐに部屋を出た。

「提督。さすがにあの二人へのご処置が甘すぎたのでは…?」

「ふふ…。なぁに、あの二人も分かってるさ。さて、仕事に戻ろうか」

伊吹は書類仕事へと戻り、北上と大井の始末書の準備を始めた。




260 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:10:00.50 ID:WeVl606f0



部屋を出た北上と大井は待ち構えていた暁や雷達駆逐艦の少女に囲まれた。

「北上さーん、お土産ちょーだい!」

暁がお土産をねだった。

「はぁ…。あのねぇ、帰ってきた人にはまず『おかえりなさい』でしょ?」

「おかえりなさい北上さん! お土産ちょーだい!」

暁はすぐさま言い直した。そうすればお土産(のお菓子)がもらえると思い込んでいたからだ。

「はいはい…。ったく、駆逐艦は相変わらずウザいなぁ」

その言葉とは裏腹に、北上はくっついてくる年下の少女たちを振り払おうとはせず、寧ろ優しく頭を撫でていた。

「ほら大井っち。あたし疲れてんだから、駆逐艦たちの相手してあげてよ?」

「えぇ、喜んで…!」

駆逐艦の艦娘達を大井に任せ、北上は自分の部屋に置いたお土産用のずんだ饅頭を取りに戻った。

240 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:33:58.69 ID:Sa6I0Dlz0

「あの子も神通と同じにゃ。暁達に生き残ってほしいから、厳しく教えるのにゃ。

大井がちゃんと教えたから、みんな魚雷の命中率も上がったんじゃないのかにゃ?」

よき姉貴分であり遊び相手でもある球磨と多摩まで大井の肩を持ち、暁と雷は黙り込んでしまった。

言われてみれば、大井の指導は的確で、前より自分達は強くなった気がする。それでもここで大井を認めてしまうと恥をかくと思った暁は尚も食い下がった。

「でも…、なんで球磨お姉ちゃんがそんなことわかるのよ?」

「なぜなら球磨は大井のお姉ちゃんなのだクマ」

まさかの事実に四人は驚愕した。

「えぇーっ!? 球磨お姉ちゃんと多摩お姉ちゃんって、大井さんのお姉ちゃんだったの!?」

「ふっふーん。こう見えても球磨は五人姉妹の長女なんだクマ!」

球磨は胸を張って言った。

「でも身長は負けてるよね」

「うっ・・・」

「あと大井さんの方がナイスバディなレディーだし」

「クマァ・・・」

「く、球磨姉しっかりするにゃ・・・。雷と暁に悪気はないにゃ・・・」

その後、多摩はいじけた姉を宥めるのに一苦労したのだった。



241 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:35:51.65 ID:Sa6I0Dlz0

電達が夕飯を食べていた頃、大井は風呂から上がり自室へと戻っていた。

彼女(と北上)の部屋には、各所に教育論についての本や、訓練についての本、雑学本などが至るところに積まれていた。

もっとも最近は舞鶴にいることのほうが多く、その本はどれも埃を被っていた。

それとは対称的に、壁のあちこちに掛けられた、額に入れられた北上と大井のツーショット写真だけは綺麗に掃除されており、塵一つ見られなかった。

「北上さん…」

髪を乾かしながら、大井はうっとりした表情で、自身の隣に写るおさげの少女・北上の笑顔を見つめた。

「北上さん、早く会いたいなぁ…」

北上は大井と同じく球磨型軽巡洋艦の艦娘で、『親友であり姉妹でもある』大井と並んで魚雷のエキスパートとして知られていた。

「気まぐれな性格だが根本的にはいいヤツだクマ」とは姉の球磨の評。

現在は大井と離れ、東北地方に新たに建設される基地の警護のために深海棲艦の哨戒任務にあたっていた。

彼女が恍惚とした表情で北上の写真を見ていると、机の上に部屋にあった携帯電話が鳴った。

北上さんとの楽しい時間を邪魔するなんて…。大井は舌打ちしたがすぐに思い直して電話を手に取った。

受話器から少女の声が聞こえた。北上と一緒に出撃した艦娘からだった。

「はい、こちら大井です。あら、お疲れ様。北上さんに意地悪されてない?」

だが、直後受話器から放たれた言葉が一瞬で彼女を凍りつかせた。




「…え、北上さんが…?」




242 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:37:50.95 ID:Sa6I0Dlz0



北上が行方不明になったという情報はたちまち各地の鎮守府に伝わった。

同行していた艦娘によると、海上で突如発生した渦潮に巻き込まれて行方不明になったという。

その付近で深海棲艦が目撃されたことから、深海棲艦の新たな攻撃手段ではないか、北上は既に沈んだのではないか、といった噂まで出始めた。

なにより北上の報せを聞いて一番ショックを受けたのは当然大井だった。

報せを聞いて以来、大井は塞ぎ込んでしまい、暁達の訓練も三日以上中止されていた。

時刻は夕暮れ時だったが、大井は朝から一向に部屋から出ようとしなかった。まともな食事さえも取ることはなく、ひたすら水しか飲まなかった。

「北上さん・・・」

虚ろな目で大井は何度も何度も北上の名を呼び続けた。



「なんでよ、北上さん…!」


243 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:39:41.28 ID:Sa6I0Dlz0




私の嘗ての名前は志摩。10年前、深海棲艦の襲撃で両親を失った私達姉妹は親戚の家に引き取られた。



だけど、叔母達は私達に冷たく、最低限の住まいだけは貸してくれてもそれ以外は何一つ与えてくれなかった。



愛情も、まともな食事も、誕生日プレゼントも。



それでも私は良かった。私には一歳年上の姉がいたからだ。



ふたりの姉は末妹の世話やアルバイトで私に構ってくれず、親戚の住んでいた土地ではよそ者扱いされて友達もできず、私はすごく寂しかった。



でも、幼い頃の私の姉、のちの北上さんは違った。



「どうしたの志摩っち?」



ある日、泣きながら帰ってきた私に幼い頃の北上さんは尋ねた。



「みんなひどいの…。あんたみたいな茶髪の変ちくりんはなかまに入れてあげないって・・・」



「じゃあ、あたしが志摩っちの親友になってあげるよ?」



「えっ?」



「あたしがいつもそばにいてあげる。ずっと志摩っちのこと守ってあげる」



あの日北上さんはそう言ってくれた。すごく嬉しかった。



大好きな姉がずっと守ってくれる。それはどれだけ私の中で力強い支えとなっただろう。



あの人が、北上さんがいてくれたから、私はひとりじゃないって思えた。



私の姉妹であり親友でもあった北上さん。艦娘になってからもずっと一緒に戦ってくれた。



一番大切な人だった。



それなのに、なんで、なんで・・・?




244 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:41:51.70 ID:Sa6I0Dlz0


一方、執務室では青葉と衣笠が伊吹提督と秘書官の赤城に定時報告を行なっていた。

「青葉、例の調査は上手くいっているか?」

「はい司令官! 青葉、とっておきのスクープを掴んじゃいましたー! 大本営のとっておきのニュースです!」

青葉は厚みのあるレポートを赤城に手渡した。表紙には「大スクープ☆ 大本営のヒ・ミ・ツ?」という青葉のイラストが描かれていた。

「ほう、それは楽しみだな。ご苦労。しばらく二人とも休暇を与える。後は下がっていいぞ」

「はーい!」

そのまま二人は去ろうとしたが、突然「青葉、衣笠」と伊吹に呼び止められてその場に停止した。

「あれ、司令官? まだ御用でしたか?」

「すまないな、君達にこんな汚れ仕事をさせてしまって...」

顔を曇らせた伊吹を見て、青葉と衣笠は表情を少し堅くした。

「司令官。青葉、密偵を汚れ仕事なんて思ってませんよ。これだって大事なお仕事です!」

「そうそう、衣笠さんも同感です! 変装とかスパイとか、結構楽しいんですよ!」

「そうか・・・。二人とも、ゆっくり休んでくれ」

二人は黙って頷き、部屋を出た。

執務室を出た二人は階段を昇り自室へと向かった。そこで、お手洗いから出てきた大井と鉢合わせた。

「おっ、大井だ!おーい!!」

衣笠が冗談めかして大井の名を呼んだ。彼女なりのジョークのつもりだったのだろう。

だが、大井は黙って衣笠を睨みつけ、足早に立ち去ってしまった。

「に、睨まれた…」

「まぁまぁ。大井さんも疲れてるんですから」

「でも、睨むことないじゃない…」

衣笠は苦々しい表情をしながら青葉と共に部屋へと入った。そんな彼女達の様子を、小柄な少女が柱の影から心配そうに覗いていた。

245 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:43:30.71 ID:Sa6I0Dlz0


「あ、あの…。赤城さん…。大井さんは大丈夫なのですか?」

大井を心配した電は秘書官の赤城に相談することにした。

彼女が一番に慕う祥鳳や大鯨、そして金剛や睦月達がいない今、一番頼りになるのは年上であり秘書官でもある赤城だと考えたからだ。

「大丈夫よ、心配しなくていいわ」

「でも…。電は大井さんに何もしてあげられなくて…」

項垂れる電の肩を赤城は優しく叩いた。

「大丈夫よ、こういう時はお姉さん達に任せなさい」

「でっ、でも…」

「そうね…。電さんはちゃんとごはんを食べて健康に過ごしてちょうだい。いつでも大井さんの訓練を受けられるように。ねっ?」

「はい…」

「さっ、古鷹さんや暁さん達が待ってるわ。ごはんの準備に行ってらっしゃい」

宥めるように赤城は言った。電は黙って頷き、やや重い足取りで食堂へと駆けていった。

北上行方不明の報以来、横須賀鎮守府の雰囲気はみるみるうちに重くどんよりとしたものになりつつあった。

それもそのはず、北上の事故は我が身に起きかねない事態なのだ。艦娘達が心穏やかでいられるはずなどなかった。

これでは士気に関わる事態に繋がりかねない。事態を重く見た赤城と伊吹は、どうにかして空気を重くしてる要因の一つである大井を説得せねばと対策を考えていた。

ちょうどその時、執務室の扉を叩く音が聞こえた。

「失礼します」

「どうぞ」

入ってきた球磨と多摩だった。

「提督、赤城。大井のことはこの球磨と多摩に任せてほしいクマ」

246 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:44:10.62 ID:uemN18r20

伊吹から大井の部屋の鍵を借り、球磨達は四階の北上と大井の部屋の前へと来た。

「大井、電達の練習はどうしたにゃ?」

多摩は優しく呼びかけたが返事はない。

「大井、入るクマ」

業を煮やした球磨は、鍵を開けて無理やり部屋へと入った。部屋の中では大井が枕を抱えたまま虚ろな目で体育座りをして北上の写真をじっと見つめていた。

「なんで球磨が来たか、分かるクマ?」

大井は黙ったままだった。顔さえ向けようともしなかった。

「確かに北上のことは辛いかもしれないけど、だからってみんなに八つ当たりするのはやめるクマ」

「…」

「大井。辛いのはわかるけど、ちゃんと電たちを鍛えてあげないとだめにゃ」


247 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:46:37.70 ID:uemN18r20

チッ。

大井は舌打ちをした。だが、すぐにやらかしたと気づき、顔をあげて作り笑いを見せた。

「あっ、はい、すみませんでしたー」

明らかに反省していない声色だった。その態度にとうとう球磨の堪忍袋の緒が切れた。

「いい加減にしろクマ…!」

球磨は小さな身体にも関わらず、大井の襟を掴み、自分より大きいはずの妹を持ち上げた。

その顔はいつもの愛らしい姿とは正反対の怒れる熊そのものだった。慌てて多摩が手を離すよう肩に手をやるが球磨は聞く耳を持たなかった。

「くっ、球磨姉落ち着くにゃ…!」

「なっ、なによ…!?」

「なめるなクマ! お姉ちゃんは大井をそんな子に育てた覚えはねぇクマ…!」

「何よ、年上だからって偉そうに!」

「聞き分けがないなら身体で分からせてやるクマ…!」

「だいたい育てられた覚えもないわよ、このチビ熊!」

その言葉が導火線に火を点けた。球磨は怒りのまま大井の頬を張り倒してしまった。

「くっ…」

吹き飛ばされた大井はきっと球磨を睨みつけた後、黙って飛び出してしまった。

部屋の中に暗い沈黙が流れた。

球磨は崩れ落ちるかのように膝と手をつき、四つん這いになって項垂れた。

「球磨姉…。正論だけどやりすぎだニャ…」

やがて多摩が静かに呟いた。球磨は、何も言わなかった。

大井は無我夢中で走り、階段を勢いよく駆け下りた。速すぎたせいか、哨戒任務から帰投した睦月と如月とすれ違ったことにも気づかなかった。

「およ? 今のって…」

「大井さん、よね…?」

二人は顔を見合わせた。


248 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:49:00.52 ID:uemN18r20


冷たい潮風が吹く夜の波止場に大井はじっと座っていた。

今の横須賀鎮守府はいても辛いだけだった。誰も味方のいない所なんかにいるよりは、寒いこの場にいたほうがまだマシだった。

「大井さん、その格好だと風邪ひいちゃいますよ」

その時、誰かが声をかけてきた。如月と睦月だった。

大井は返事をしなかった。こんな何考えてるのかわかんない小娘達の話なんか聞きたくない。

「元気を出してください、北上さんならだいじょうぶです!」

「そうですよ。北上さん、きっと帰って来ますよ」

大井は苛立ってきた。

「貴方達に、北上さんの何が分かるって言うのよ…?」

無責任なこと言わないで、と大井は冷たく返した。

「いいえ、無責任に言ってるわけじゃないですよ」

「私達も姉妹がいなくなったことがあるんです」

「…貴方達も?」

大井はようやく顔をあげた。睦月は黙って頷いた。

「実は、睦月には如月ちゃん以外にも妹が10人もいるんです。

弥生に卯月に望月、水無月に夕月、皐月に三日月と文月、菊月に長月…。みんな個性豊かなんですよ。

甘えん坊な子、いたずら好きな子、いつも眠そうな子に明るい子、生真面目すぎる子もいればクールな子…」

大井は一瞬目眩がした。こんなにゃしぃとかいうへんてこりんな子が、他に10人以上もいるですって…?

「昔、私と睦月ちゃんがみんなを連れて遠征に出かけたことがあったんです。

その時、急な雨で視界が効かなくなって、弥生っていう妹がはぐれてしまって…。

みんなで必死で探しても見つからなくて…。もうだめだ、そう思いました…」

如月は辛そうに言葉を紡いだ。

249 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:49:26.51 ID:uemN18r20


「でも、あの子は無人島に流れ着いて、一人で一週間持ち堪えていたんです。ずっと、私達が助けてくれると信じて…」

「だからなんだって言うのよ!」

大井は声を荒げた。

「信じてあげてください。離れていても姉妹は信じあえば必ずまた会えるって」

「…知らないわよ。だいたい、それはたまたまその子が運が良かっただけに過ぎないでしょ?」

如月はゆっくりと頭を振った。

「だって艦娘は、北上さんは、強いですもん。だからきっと生きてます。大井さんと再会するために。だから今は、信じて待ちましょう? 今の大井さんを見たら、きっと北上さんも悲しむわ」

「っ…」

確かにこの子の言う通り、今の私を北上さんが見たらきっと笑われる。だけど…

「でも、今更私が戻るなんて無理よ…。私、みんなに…」

「ううん、大丈夫。私達も、球磨さん達も…。みんな大井さんのこと、大事な仲間だと思ってますよ」

「その通りクマ」

球磨と多摩だった。

「球磨姉さん、多摩姉さん」

「ほら、球磨姉。さっさと謝るにゃ」

妹に促され、球磨はもじもじしながら前に出た。

「大井、さっきはちょっと球磨もやりすぎたクマ。ごめんクマ…」

「いえ…。私の方こそ、球磨姉さんの言うことを聞かず身勝手なことばかりして…」

二人が共に頭を下げたその時だった。


250 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:51:26.63 ID:uemN18r20

「あ…、あの…。あの…」

「あら? 電ちゃん? どうしたの?」

如月が後ろから自分たちをじっと見てる少女に声をかけた。

「あの…、大井さん…!」

恐る恐るといった足取りで電がやって来た。その手には小さな布袋が掲げられていた。

「電さん…」

「大井さん、あの…。これ、どうぞなのです!」

布袋を開けると、その中にはおにぎりが入っていた。だが睦月達が作ったものとは異なり、形はぼろぼろで拙いものだった。

「全然ごはん食べてないと聞いたので、お腹空いてると思って作ったのです…」

「電さん…」

ようやくわかった。

みんな私を心配してくれてたんだ。

「あの…。迷惑でしたか?」

北上さんだけじゃない、球磨姉も多摩姉も、こんな小さな子でさえも、私の仲間なんだ。

「は、はわわ…」

大井はたまらず電を抱きしめた。

「ありがとう、ありがとう、電さん…」

大井の目から涙が溢れ続けた。

251 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:55:05.76 ID:4oWYloGL0


大井が泣きながらおにぎりを食べ終えた直後、突如鎮守府全体に警報が鳴り響いた。

「深海棲艦発生! 場所は鎮守府のすぐ傍です!」

夕張からの通信だった。このところ深海棲艦は全くと言っていいほど発生してなかったが、どうやら艦娘側を油断させて奇襲の機会を伺っていたようだ。

「食後の運動にはちょうど良さそうね。球磨姉さん、多摩姉さん。ここは任せていただいてよろしいですか?」

「いいけど、無理はするなクマ」

「えぇ」

大井は不敵に笑い、電の頭をポンと叩いた。

「電さん、下がってて…」

「は、はいなのです…」

「来なさい、『大井』!」

大井は自らの艤装を呼び出した。背中に船が変形した艤装が、腕に主砲と魚雷が装着された。

魚雷と主砲がきちんとフィットしてるか確認した後、大井は直ぐ様ル級のもとへ突撃した。

252 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 00:57:37.26 ID:4oWYloGL0


「深海棲艦…。私の仲間達に、教え子に、後輩に…。指一本たりとも触れさせないわ!」

高速で突進した大井は、ル級に対してありったけの砲撃を放った。

だが軽巡洋艦の砲撃では火力が足りず、ル級に大した傷は見られなかった。

それでも大井は焦ることなく魚雷発射管を構えた。

「さぁ、海の藻屑となりなさいな!」

叫ぶや否や、大井は直ぐに全魚雷を放った。2体のル級は直ぐ様防御の体勢を取ろうとしたが手遅れだった。

砲撃は動きを止めるための囮に過ぎなかった。その一瞬の隙に大井は軌道を正確に計算し魚雷を放ったのだ。

2体のル級は大井の魚雷によって下半身から吹き飛ばされ、あっけなく爆散した。

「ふぅ…」

戦いはあっけなく決着した。

なにより、全く食事を摂っていなかったにも関わらず普段より調子が良いことに大井本人が驚いていた。


253 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:00:21.46 ID:4oWYloGL0


大井が横須賀鎮守府近海でル級を撃破した翌朝、大鯨と祥鳳は遠征先から帰る支度を始めていた。

島の基地建設も無事完了し、もう潜水艦や軽空母の艦娘が滞在する必要はなくなったのだ。

二人が朝日に赤く染められた移動船に荷物を積めようとしていた時、ひとりの男が声をかけてきた。

「やぁ、お嬢さん! 今日で帰るのかい?」

宿泊に利用していた民宿の管理人・望月氏だった。人の良さそうな顔つきをした、ややふっくらした体つきの初老の男性である。

彼は以前深海棲艦の襲撃から艦娘に救われ、それ以来感謝の印として水上機基地建設の際に彼女達を住まわせていた。

同時に、彼は漁師でもあり、祥鳳や千歳達は毎晩美味しい魚料理を振舞って貰っていた。

「はい、短いあいだでしたがお世話になりました」

「ありがとうございました」

祥鳳と大鯨は丁寧にお辞儀した。

「そうか。じゃあ、お土産だ。持って行ってくれ」

望月氏は大きな発泡スチロールの箱を持ち出し、二人に手渡した。蓋を開けるとその中には秋刀魚が大量に詰められていた。

「で、でも…。悪いですよ…」

「いいんだよ、君たちには命を助けてもらったんだからな! せめてもの感謝の気持ちさ。それに、艦娘さん達に釣りも手伝って貰ったからね!」

「えっ?」


254 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:02:28.65 ID:4oWYloGL0

一瞬、千歳さん達のことかと思ったが彼女は酒を飲んだ後いつも朝まで寝ていたから違うはずだ。

潜水艦の艦娘達も交替で哨戒任務にあたっており、彼女たちにもそんな暇はないだろう。

では誰が? と思っていると、「感動の再会キタコレッ!」と後ろから大声が聞こえた。

その声の先に振り向いた祥鳳は目を見開いた。

船着場にはクーラーボックスを抱えたツインテールの小柄なセーラー服の少女が立っていた。

「さ、漣ちゃん! ひさしぶりね!」

「お姉さま~! こんなところで会えるなんて! 漣、感激ですっ!」

二人は手を取り合い、はしゃぎ合って再会を喜んだ。

「お、お姉ちゃんのお知り合いですか?」

戸惑いながら大鯨が尋ねた。

「うん! 呉で訓練していた時、一番仲良しだった漣ちゃんよ!」

祥鳳と漣は抱きついたり頬をつつきあったりしてじゃれあった。

そんな二人を、花の髪飾りを着けた少女が隣で静かに見つめていた。

再会の興奮が落ち着いた祥鳳は、ようやく自分の隣にもうひとり顔見知りがいることに気付いた。

「曙ちゃん、久しぶり! 元気だった?」

「ふん! 元気そうじゃない、このドジっ子軽空母」

「またまた~。ホントは嬉しいくせに~」

「なっ! べっ、別に私は嬉しくもなんともないわよ! 祥鳳は空母のくせにちょっと頼りないから心配になっただけよ!」

曙はふんとそっぽを向いた。

261 名前: ◆li7/Wegg1c[saga] 投稿日:2015/11/05(木) 01:14:37.10 ID:140hjPes0


その日の夕方、金剛と比叡が退院して鎮守府に戻り、祥鳳と大鯨もその手に大量の秋刀魚を抱えて戻って来た。

当然、その日のメニューは秋刀魚となった。食堂全域に焼き秋刀魚の香りが充満し、窓をすべて開けないと匂いが篭るくらいだった。

食卓に並べられた数々の秋刀魚料理を見て、金剛は目を輝かせた。

「Oh! 比叡、サンマデース! Deliciousな秋刀魚デース! 10年ぶりネ! Long time no seeデース!」

「お、お姉さま。食べ方汚いですよ…」

夢中で秋刀魚をつつく金剛に比叡は苦笑した。

金剛は秋刀魚は好きだがその性格のためか骨取りなどの細かい作業はやや苦手で、皿には骨が散逸していた。

逆に比叡は長年両親や伊吹に叩き込まれた食事マナーが身体に染み渡っているためなのか、彼女の皿には鮮やかなほど綺麗に取り除かれた骨が並んでいた。

「金剛さん、本当に秋刀魚がお好きなんですね。ほら。暁も、ちゃんと好き嫌いしないで食べなさいね?」

「うぅ…」

「あらあら。好き嫌いしてちゃ、立派なレディーにはなれないわよ?」

「だ、大丈夫だもん! 暁はちゃんと食べれるもん!」

「がんばるのです!」

暁は魚が少し苦手だったが、祥鳳と如月にそう言われ、末っ子の電にまで応援されては引き下がるわけにはいかなかった。

なんとか頑張って骨を取り秋刀魚を食べたのだった。

北上と大井も秋刀魚に目を輝かせていた。北上は和食や伝統ある歴史的建造物などが好きだった。本人曰く、「侘び寂びがあっていいよねー」とのことだ。

「サンマかー。うまそうだねー」

「やっぱり秋刀魚は塩焼きが一番ですね、北上さんっ!」

「あー大井っち。あたし秋刀魚の骨取り苦手だからおねがいねー」

「えぇ、喜んで!」

大井は嬉々として秋刀魚の骨を取り除き、箸で北上の口に秋刀魚の肉を持っていった。まるで新婚夫婦のようだった。


横須賀鎮守府に平和な時間が流れた。

262 名前: ◆li7/Wegg1c[sage] 投稿日:2015/11/05(木) 01:15:36.92 ID:140hjPes0
次回

平和になれば、いつか、きっと…



次回の投稿は11月下旬以降の予定です



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