ひろし「みさえが末期がん?」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 20:58:56.05 ID:Oi84vwXR0

そんな…嘘ですよね?先生!」
 山形県のような輪郭の男は、目の前の白衣を纏った人間に聞き返した。
その表情には言い間違いであって欲しいというわずかな希望と、受け入れの気持ち
が乱雑に交じり合って、まさしく弁舌しがたい物になっていた。
「野原さん、真に…残念ですが」
 医師の返答を全て聞き終えるより早く、「ひろし」の表情からは希望が消え、哀というに相応しい表情に変わった。
しかし、すぐに顔の筋肉は休まる間もなく反射的に変わっていく。
無理もない。自分の妻が死ぬだなんて簡単に受け入れられることではない。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:00:55.15 ID:Oi84vwXR0

「あなた、お医者様はなんですって?」
 怪訝そうな顔をしたみさえはひろしに訊ねた。
「あ、ああ。なんでもリンパ腺が腫れているらしくて少し検査入院する必要があるってよ」
「そうなの?でも、お家のことどうしようかしら」
「なーに、気にするな!俺がなんとかするさ」
「かーちゃんはどっちにしても家事なんて手抜きだからなー」
「なーに?しんちゃんきこえなーい?」
 みさえはまさに般若の如きの表情でしんのすけを見下した。
「な、なんでもないゾー…」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:01:57.32 ID:Oi84vwXR0

何気ない日常のやり取り、ひろしは何度もこんな光景を見つめてきた。しかし今日は愛すべき我が家での出来事ではなかった。
「じゃあ来週また来るから、しっかり寝てるんだぞ」
 ひろしはみさえからひまわりを抱き上げた。何を話すべきが分からなかったのだ。
下手に取り繕っても、妻の彗眼にはいつも見透かされていた。
おかげで、言い寄る女性はいても浮気など一切できなかった。
隠そうとしても、みさえにはすべてお見通しだった。
「しんのすけ、パパの言う事ちゃんときいてお利口さんでいるのよ」
「ブ・ラジャー!」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:03:20.41 ID:Oi84vwXR0

ひろしは早々と、駐車場までしんのすけを誘導し、年季の入った車の鍵穴にキーを掛けた。
エンジンの掛かりが悪い。しかしそれでも4,5度キーを回すと振動を伴い、走り出した。

 春日部病院は、市のはずれ、東側に位置する。
普段あまり使わない国道を法廷速度ギリギリの速度でゆっくり自宅までの帰路をなぞった。
風景は行きの道とまるで違って見える。これが絶望の色なのか。
助手席に腰掛けた息子は、見慣れない道を眺めることが楽しいのか
終始、目を輝かせながら風景を楽しんでいた。
 こんな風景日本全国どこにでもあるよ。そう思いつつ、新しい発見を逐一報告する息子に
ひろしはある質問をしてみた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:05:45.94 ID:Oi84vwXR0

ひろし「なあ、しんのすけ。もしも、もしもだぞ。みさえがいなくなったらどうする?」
 しんのすけは一瞬不思議そうな顔、即座に何か思いついたような表情で答えた。口元はにやけている。
 しんのすけ「んーそしたら父ちゃんがもっと綺麗なオネ−さんをお嫁さんにしたいってことか?」
 相変わらずの調子である。これで5歳児っていうのだから、世も末か。
ひろしは、自分の育児の方向性を棚にあげ、足元を滑らせたような感覚に陥った。
しかし、今に始まったことではない。しんのすけはさらに続けた。
 しんのすけ「でも、とーちゃんだったらかーちゃんよりいい女の人選り取りみどりだゾ!身長180センチに
丸の内の商社勤務で、まだ若いのに係長、東京近郊にはローンだけど一軒屋持ち。コブつきとはいえ優良物件に違いは
ないゾ」
 嬉しいこといってくれる。さては帰りの道でお菓子でもねだろうって魂胆か。
 しんのすけ「でもね、父ちゃんは足臭いから、母ちゃんしか結婚してくれないと思うんだゾ!浮気はよせよな」
ひろし「そうだな…俺にはみさえしかいないよな…」
信号は赤だった。直視したためかやたら滲んで瞳に写った。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:07:29.87 ID:Oi84vwXR0

病院から、途中スーパーマーケットを経由し自宅に辿りついた。
普段、買い物などは妻にまかせっきりだった為、会計の金額が目に入ったときひろしはギョっとした。
日本社会はデフレだなんだというがにわかには信じられぬと思った。
口癖のように「お金がない」などと言っていたみさえに「そんなこともない」と心の中で悪態をついていた
自分を少し省みた気分だった。
 車から荷物を降ろし夕食の準備をしようとした時、ひまわりが目を覚まして泣き出した。
臭いはしなかったので、授乳だとすぐに分かった。
しかし、ひまわりは泣き続けた。粉ミルク缶の場所が分からないのだ。ひろしがあたふたしていると、しんのすけがやってきて
新築の時に搬入した食器棚の斜め上、一番左の戸棚を指差した。
戸を引くと、買い置きしてあったらしいミルク缶が整然と置かれていた。
ミルク缶に手を伸ばし、作り方の項目を眺めた。こうしている間にもひまわりはお腹をすかせて、泣いていた。
あたふたとしながらも、あまりの工程の多さに溜息がもれた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:08:20.29 ID:Oi84vwXR0

やっとのことでひまわりにミルクを与えた後は夕食作りを始めた。
しかし、悪戦苦闘。作り終えたのはいつもよりずっと遅くなってしまった。しんのすけもお腹を空かせていたに
違いないのだろうが、事態を察知していたのか文句は何一つ口にせず、黙々と平らげた。
そんなしんのすけとは対照的に、ひろしは少し残した。
その後になってから、風呂を炊くのを忘れたことに気付いた。
 こんな調子で、怒涛の一日を終えたひろしは寝かしつけた我が子を見つめながらみさえのことを思った。
これから、みさえのいない生活がはじまる。頭の中で分かっていたが、どうしても受け入れたくない自分の思考が
せめぎあいその日は中々寝付くことができなかった。
 そして、逆にこの1日こそが夢であってほしい。そう願いながら夢に堕ちた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:10:09.24 ID:Oi84vwXR0

太陽の光が黄ばんだカーテンを透過した。少しずつ強くなる光の束に、埃が反射して煌いた。
朝がやって来た。昨日の願いは叶ったのか、今に分かる。
 己の記憶を反芻させ、ひろしは気付いた。夢じゃない。みさえがいない。
時計の時間をみるとすでに6時半、いつもならみさえが台所でいそいそと朝食を並べ始める時間だ。
いつもなら味噌汁の酸味のような匂いがこの寝室にもふすまの隙間から漂ってくる。
今日はそんな匂いはない。みさえはいない。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:11:19.92 ID:Oi84vwXR0

 ひろしはすぐに布団を畳み、しんのすけを起こした。今日は平日だ。仕事も幼稚園もある。
本当は休んで今後の身の振り方を考えたいところだったが、世の中はひろしを中心には回らない。
今日も、満員電車に揺られ東京まで通勤しないといけない。
 本当は朝食を作る気でいたが、寝坊してしまった。不甲斐なさを感じながらも買い置きのシリアルに牛乳を掛け
しんのすけに出した。しかし自分が食べている時間はない。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:12:45.86 ID:Oi84vwXR0

しんのすけが食べている間に、ひまわりを抱きかかえ前日のうちに話を通しておいた隣のおばさんに預ける。
正直助かる。地域の共同体の精神の薄い首都圏でこんなことができるのも、みさえの日頃の人徳に依るものだと思った。
しかし所詮は他人。早めに保育所を探さねばならない。
 ひまわりを預け、玄関の戸を開けるとそこには、制服に身を包んだしんのすけが立っていた。
いつもならまだ寝ている時間だというのに。昨日の振る舞いといい、少しずつしっかりしようと奮い立たせているのだろう
そんな息子の成長を感動する間もなく、園のバスがディーゼル音を響かせやって来た。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:14:42.80 ID:Oi84vwXR0

申し訳ありません。我がままいって早めに着てくださいなんて言ってしまって」
「頭を上げてください野原さん。困ったときはお互い様ですよ」
吉永は、人懐っこそうな笑顔で返した。
「近い内に詳しい話、致しますので、それまでよろしくお願いします」
 ひろしは顔を上ると、なにやらただ事でない様子を感じ取ったのかあるいは勘違いか、組長もとい、園長先生
の心配そうな顔が目に写った。
 しんのすけを見送ると、いよいよ時間がない。自分も出発しなければ、そう思い鞄を取って家の鍵を施錠する。
いつもなら、いらん手間だがみさえはいない。違和感を覚えつつも駅へと向かって歩き出す。
しかしいよいよ違和感は抜けなかった。それどころか逆にひろしのなかで大きくなっているような。
その原因は何か?それはその日家に着きしんのすけに迎えられるまで結局分からずじまいだった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:16:45.58 ID:Oi84vwXR0

みさえが入院して、1週間が過ぎた。
ひろしは当初みさえには検査入院と欺いて、入院させたがこのあとはなんと言って誤魔化せばいいのか、毎晩布団の中で四苦八苦していた。
それでも、1週間振りに妻に会うということはひろしにとって嬉しいことでもあった。しかし
妻の病状は芳しくないというのが医者の所見であった。
「申し訳ありませんが、野原さん。奥さんの病状の進行速度は例をみない速度で進んでいます」
 淡々と医者は続けた。
「我々としましても全力を尽くしますが、覚悟はしてださい」
「覚悟、とは?」
「ええ、そうですね。もってあと2月と捉えてもらって構いません」
 これまでに、戦国時代にアラビア、タイムスリップとあらゆるものを体験してきたひろしではあったが、
これには肩を落とさずにはいられなかった。
ここはどこなのだ?と、現実と認めるにはとても勇気が要った。それでもおぼつかない足で診察室から、みさえの入院する
病室まであるいた。その道程はいままでで一番のSFであった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:18:06.08 ID:Oi84vwXR0

それでも、病室にはいるとそこには懐かしい光景があった。
しんのすけはみさえと会話をし、ひまわりはみさえに抱かれていた。今までならば当たり前だった光景だ。
「お医者さまはなんですって?」
「ああ、リンパ線に少し異常があるらしくって、もう少し入院が必要みたいだ」
「ついでだからオケツの脂肪吸引もやってもらえよ、みさえ」
相変わらずの、悪態をつくしんのすけ。ひろしは分かっていた。しんのすけはもっとみさえに構って欲しくてこんな事いうのだ。
しかし、みさえはしんのすけを小突くことなく
「そうね。それもいいわね!しんちゃんナイスアイデア!」
と、帰すだけだった。少し見ただけではわからないが、相当苦しいのかもしれない。
そんな元気ないのかもしれない。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:21:03.61 ID:Oi84vwXR0

 2ヶ月…なんて短い時間なのか。
どうしても医者の発言が頭を過ぎる。今日もこの車にみさえを乗せて帰ることは出来なかった。
帰る事を子供達に促すと、しんのすけは名残惜しそうな目をしていた。ひまわりにいたっては泣き出してしまった。
子供達にとって母と離れることは、これ以上ないほどの喪失感を与えるだろう。しかし伝えなければならない。
みさえにも、伝えなくてはならない。その時、みさえはどんな顔をするだろうか?考えただけいたたまれない。
しかし残り時間がない以上、問題の先送りはできない。なにより、残りの人生くらい彼女の希望通りに生かしてやりたい。
 赤信号に捕まり、ブレーキを掛けたとき、助手席のしんのすけは目を覚ました。
「とおちゃん、なんで泣いてるの?花粉症?」
 いつの間にかひろしの目からは涙が溢れていたのだ。しんのすけに指摘され気付き急いで袖で拭ってみたが、その度に溢れる。
それだけじゃなく、この鋭い我が子に言い訳を考えなくてはならないのに。
「父ちゃん、なんか今日母ちゃんおかしかったんだゾ。いつもならグリグリってくるのに1回もされなかったゾ」

子供なりの違和感を感じているのだろう。ひろしはどう答えるべきか迷っていた。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:24:03.84 ID:Oi84vwXR0

子供達を家に送ると、ひろしはまたエンジンのかかりっぱなしだった車に乗り込む。
行き先は病院である。この短い期間に何度も往復するものだから、ひろしはすっかりこの道の風景を覚えてしまった。
思い返せばこの道は初めて生まれた我が子を迎えに行った道だった。そんな中を一人で、妻を迎えにいく。
つらい告白をせねばならない。永遠の別れは迫っていた。
みさえはなんという反応をするだろうか?隠していたことを怒るだろうか?
それとも、死への恐怖に打ちひしがれ涙を流すだろうか?ならばハンカチくらい用意せねば。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:26:58.17 ID:Oi84vwXR0

今日2度目の訪問にみさえは驚きを見せなかった。顔にはうっすらと笑みを浮かべまるでひろしが来ることを予感していたよう
に思うた。
「みさえ、お前にどうしても話しておかなければならないことがある」
ひろしは声がうわづりそうになるのを必死でこらえ、やっとの思いで声をだした。
「みさえ、信じられないかもしれないがお前はガンだ。そして、残された時間もわずかしかない」
 いい終わったひろしにはみさえを見つめることが適わなかった。
沈黙だけが、廊下から聞こえる雑音のなかこだましていた。
「あなた、顔を上げて」
ついにみさえが沈黙を破った。
「…なんとなくだけどわかっていたわ。ただの病気じゃないことくらい。あなた嘘をつくときは私をまっすぐみないんだもの
だから、あなたが私に隠し事している事くらいすぐにわかった」
「みさえ…すまん、すぐにでもお前に話しておくべきだった」
「ううん。いいのそれより…しんちゃん達のことよろしく頼むわね」
 気丈な女だと思った。涙ひとつ流さない凛とした姿だった。
ひろしは泣きそうになったのを最期まで堪えた。せっかくみさえが踏ん張っているのに
自分がそれを台無しにすることはなんとも情けないと思ったからだ。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/08/15(水) 21:31:30.18 ID:Oi84vwXR0

終わりです。
中学生っていわれけど読み返すとかなり稚拙な文章だと自分でもわかります。
この文章は構成などは一切考えず作ったものです。
僕はラノベを書こうと思い立ったのですが、構成を抜きにして文章力はもっと
高い次元のものが必要になるでしょうか?
辛口コメントいっぱいください。僕Mなので。



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