かがみ「こなたなんて、私の思うが儘よ」


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1 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:27:21.27 ID:RwYbqIC60

☆0



柊かがみは夢を見た。

まるで予知夢のようなものだった。

彼女は自分の身の回りで起こりゆく全ての事象を知った気がした。

だけどそれは擦り硝子越しに数学の答えを見たような感じで、

手中に掴んだ答えは確かか不確かか何時までも判然としない。



だから柊かがみは迷った。

大切な親友の手を取るべきか取らぬべきか。

手に取った答えが正しければそれでよし。

手に取った答えが間違いならば、ああ、存外どうでもないな。

そんな感じで柊かがみは大切な人の手を握り締めた。





亀進行でマジキチオナニーします。

2 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:28:42.66 ID:RwYbqIC60

「痛っ!」


かがみはこなたの腕を後ろから強く引っ張った。

通りのカフェに入ろうとしていた彼女の足が止まる。

何をするのさという彼女の言葉にも構わず、ぐいと胸に抱き寄せた。


直後、一台のトラックが洒落たカフェを地獄に変える。


空気が割れるような激しい重低音と共に多くのものが飛散した。

外壁が、窓硝子が、人々が衝撃に悲鳴を上げる。破片が通行人を直撃する。

轟音を上げる2トントラックは勢いのままに車輪を回して外壁を突き破る。

かがみは店内正面にあるレジの店員が叫ぶの見たが、すぐに瓦礫とトラックの陰に隠れてしまった。

時間にして数秒。先程までカフェがあった場所には絶望が広がっていた。

3 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:29:34.48 ID:RwYbqIC60

「え……? 何?」

こなたの両目はかがみの手で覆われていた。

だから彼女はまだ状況を把握できていない。

だけど音で分かる。何か良く無い事があったのだと。

「かがみ? ねえ、これじゃ前が見えないよ」

「見ない方がいいわ。今日はもう帰りましょう」

「でも」

「人が死んでる」

彼女は力の無い声で「うそ」と言うが周囲の雑音がそれを肯定していた。

救急車を呼ぶ男性の声や、悲鳴を上げる少女の声が聞こえてくる。それもたくさん。

かがみが「後ろを向いて」と言うと彼女は素直に従った。

4 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:30:22.17 ID:RwYbqIC60

「絶対に後ろを向いちゃ駄目よ」

かがみはそう言い聞かせてから彼女の目を開放した。

緑の目に映るのはいつもの町並みと出来始めたばかりの人だかりだった。

「ありがとう。かがみ」

こなたがポツリと呟いたのはそんな純粋な感謝の言葉だった。

そしてかがみは愕然とする。

このような所まで夢で見たままなのかと。

ツインテールの少女がお洒落に履きこなす靴の裏。

そこから漂ううんこの匂いは夢のように臭かった。

5 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:31:23.85 ID:RwYbqIC60

☆1



柊かがみは考える。

私の知る世界が全て現実になるのなら、もはや私は神にも近しい存在なのではないかと。

自身が関わる世界の運命を知り、

身の回りに居る人の人生を左右することができるなら、

それはもはや神の所業に違いないのではないかと。

大切な人の命を守ったことと、悲劇の光景が夢で見たそれに相違なかったことが彼女にそう思わせる。



「犬の糞は踏んずけたけどね」

こなたはあの日のエピソードをつかさとみゆきに嬉しそうな顔で話した。

6 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:31:59.12 ID:RwYbqIC60

「すごいんだよかがみ」

「トラックが突っ込んでくる前に私の腕を引っ張っちゃうんだから」

「それから私の体をぎゅっと抱きしめてさ」

「かがみが男なら確実に惚れてるところだね」

つかさとみゆきもその話に強く関心をもったようで

相槌や質問を入れながらこなたの話を真剣に聞いている。

かがみも褒められて悪い気はしないのだが、

自分の事をあまり嬉しそうに話されると何だかむず痒い。

「お姉ちゃん格好良い〜」

「流石かがみさんですね」

「格好良いとか言われても嬉しくないわよ」

「最後のベタなオチは可愛かったよ」

「もうその話はやめてくれ」

7 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:32:30.37 ID:RwYbqIC60

季節は夏。

あの事件からはまだ三日しか経っていないが、

夏休みはもう後半に差し掛かっていた。

宿題が終わらないと言って泣きつくこなたの姿が目に浮かぶようだ。

(それに関しては予知夢も何もあったもんじゃないわね)

風鈴の音と蝉の鳴き声がいかにも夏らしい。

口に含んだ麦茶は少しだけ温くなっていた。

「氷を入れてくるね」




8 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:33:11.72 ID:RwYbqIC60

つかさが四人分のコップをお盆に載せてふらふらと立ち上がる。

こなたとみゆきが危なかしく思いながらその様子を眺めている横で、

かがみは既に動いていた。


お盆に乗ったコップの一つがゆっくりと倒れる。


こなたが「あっ」と口を開く。

みゆきが零れ落ちてくる麦茶から頭を庇おうとする。

そしてその麦茶の落下経路に差し込まれたのがボン太くん人形だった。

「……」

「……」

「……」

「……」




9 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:33:39.07 ID:RwYbqIC60

麦茶の滴るボン太くん。

ボン太くんの吸水力は抜群だ。

ただの一滴たりともみゆきを汚すことは敵わない。

すべての麦茶は悉くボン太くんの中に吸い込まれていった。

「……」

「……」

「……」

「……」

奇跡のようだった。

あとに残ったのは汚れて薄汚くなった人形だけ。

不思議と誰の心も痛まなかった。




10 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:34:47.42 ID:RwYbqIC60

ちょっと。気を付けなさいよ」

「はわわ。ごめんなさい。ゆきちゃん大丈夫?」

「ええ。すべてかがみさんが受け止めてくれました」

「かがみんすごい! 行動も滅茶苦茶早かったじゃん!」

「つかさの事だから嫌な予感がしてね」

「巫女さんだから予知ができるとかそういうのじゃなくて?」

「何であんたは直ぐに漫画みたいな展開を期待するかな」

あながち間違いでもなくて、

ちょっとドキッとしたのはかがみの秘密。

つかさはお盆をテーブルに放置したまま人形を洗面所に持っていってしまった。

代わりに氷を用意することとなったかがみはお盆を水で漱ぎながら考える。




11 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:36:42.73 ID:RwYbqIC60

一度目。

こなたを助けた時は無我夢中だった。

夢で見た光景が現実と重なった時、

刹那の間だけ戸惑ってから大慌てでこなたの華奢な腕を引っ張った。

直後に己が選択の正しさを知り、予知夢の背筋が凍りつくような正しさも知った。

この時点で彼女はこれを偶然の奇跡だと考えたし、

夢で見たから夢で見た通りに動いたのだと考えた。



二度目。

かがみが見た夢で麦茶を防いだのは人形ではなくクッションだった。

ツヤツヤとした生地で吸水性に欠けるそれが

麦茶を四方八方に拡散させるだけの結果を招くはずだったのだ。

ところが現実としてかがみは自分の意思で夢とは違う未来を選択した。

夢の中で失敗を学習したからだ。

夢の中で見たから夢とは違うように動いたのだ。

「……それでもオカルトなんて信じないけどさ」




12 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:37:37.19 ID:RwYbqIC60

一度目。

こなたを助けた時は無我夢中だった。

夢で見た光景が現実と重なった時、

刹那の間だけ戸惑ってから大慌てでこなたの華奢な腕を引っ張った。

直後に己が選択の正しさを知り、予知夢の背筋が凍りつくような正しさも知った。

この時点で彼女はこれを偶然の奇跡だと考えたし、

夢で見たから夢で見た通りに動いたのだと考えた。



二度目。

かがみが見た夢で麦茶を防いだのは人形ではなくクッションだった。

ツヤツヤとした生地で吸水性に欠けるそれが

麦茶を四方八方に拡散させるだけの結果を招くはずだったのだ。

ところが現実としてかがみは自分の意思で夢とは違う未来を選択した。

夢の中で失敗を学習したからだ。

夢の中で見たから夢とは違うように動いたのだ。

「……それでもオカルトなんて信じないけどさ」




13 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:42:15.58 ID:RwYbqIC60

☆2



柊かがみはまだまだ夢を見る。

明日の朝食の献立に関する予知夢。柊つかさが11時になるまで起きない予知夢。

柊まつりが夏風邪を引く予知夢。DVDの内容の不満を垂れる自分の予知夢。

柊かがみはうんざりし始めていた。それでも柊かがみは夢を見る。



今日のかがみは寝起きからひどく不機嫌だった。

昨日買ってきたライトノベルの内容を、夢の中で殆ど読んでしまったからだ。

「まさか活字の一字一句まで合致する筈がない」と自身なさげな声で言う。

内容を確かめる為にライトノベルを開封しようとするが、

手が震えてしまいなかなか思うようにいかない。




14 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:43:10.08 ID:RwYbqIC60

かがみは予知夢の正確さに恐怖すらし始めていた。

手に持ったライトノベルのページを開くのが躊躇われる。

心を落ち着けるためにたっぷりと時間を置いた後、

まず夢で見た本文の内容を声に出してから冊子を開いた。

「あはは」




15 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/07(金) 22:44:11.95 ID:RwYbqIC60

彼女は笑うが、そこにはなんの感動もなかった。

冊子をゴミ箱に放り捨ててベッドにばたりと倒れこむ。

紫色の瞳は焦点を中空を彷徨わせる。何を見ても見慣れたものばかり。

「夏休み後のテスト対策は完璧ね。解答も知ってるし」

「今持ってるゲームのエンディングは全部見ちゃったな」

「シューティングの弾幕パターンも完全に覚えちゃった」

「……」

「そういえば勢いで捨てちゃったけど、さっきの本まだラストシーンだけは読んでなかったかな」

「ゴミ箱から拾って残り18ページを読んだら朝ごはんにしよう」

「こなたは今日はオールでバイトだから遊べないよね」

「……」

「ゲーセンの夢ならまだ見たこと無いかも」

「たまには自分からああいうところに出向いてみよっかな」

「なんだったらロトシックスの当選番号が分かる夢でも見せてくれればいいのにね」

少女は四肢をだらりとさせたまま、天井の染みの総数を丁寧に数え始めた。

21 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/08(土) 22:37:10.92 ID:a9+G2CyJ0

☆3



柊かがみが予知夢を見るようになって三週間が経とうとしていた。

この頃にもなると反オカルトな彼女とて、予知無との付き合い方を考えるようになっていた。

ただ漠然と無闇に振り回されていたのでは、得る物よりも失う物の方が大きかったのだ。

もちろん総合的考えた場合、

最初に助けた親友の命の重さに比べれば、

それ以降の損失なんて微々足るものなのだが、

別にだからと言って残りの部分で負け越したような気持ちになる必要もない。

どうせならば夢を最大限に利用してより楽しく生きようとするのが普通だろう。

22 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/08(土) 22:38:10.95 ID:a9+G2CyJ0

「おお! かがみすごいじゃん!」

「おねえちゃんコレってもしかしてゆきちゃんより成績いいんじゃない?」

「いくらなんでもそれはないわよ」

「いえ。見せていただいた感じですと、恐らく私より合計得点で10点ほど、かがみさんの方が高いかと思います」

かがみには見せびらかすつもりなど一切無かったのだが、

こなたがテストの点数を教えろ教えろと五月蝿いので渋々見せたところ、

どうやら先の実力テストでの合計得点がみゆきのそれを上回っているらしかった。

こんなことは高校生活を通して初めての経験だったから、誰もが彼女のことを褒めた。

23 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/08(土) 22:39:41.24 ID:a9+G2CyJ0

「全然嬉しくない」

ぼそりと、誰にも聞こえないほど小さな声でかがみは呟いた。

実はこのテスト、もしもその気になれば全科目で満点を取ることも難しくはなかった。

夏休みが空ける前には彼女はテストの出題とその解答を全て記憶してしまっていたのだ。

だからといって本当にそれをやってしまうほど彼女は馬鹿ではないし、

そんなことをして喜ぶほど安い自尊心を持っている訳でもなかった。

夢に現実が食い潰されるような事例は後を絶たない。

24 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/08(土) 22:42:03.54 ID:a9+G2CyJ0

「!」

「あんた何やってんのよ」

「なんで分かったの?」

「気配よ。気配」

「……まじスか」

コンビニでお菓子を買い足したかがみは、

自室に戻ると何をするよりも先に不審者を制裁した。

「おかしいな。ちゃんと隠れたつもりだったのに」

「ご丁寧に靴まで隠してあったわね」

「ちぇー。驚かせようと思ったのにさ」

「生憎ね。何時頃ウチに来たの?」

「5分くらい前」

「靴はまつり姉さんの入れ知恵ね」

「正解。よく分かるね」

「あんたとかまつり姉さんみたいなタイプって分かりやすいのよね」

「どうせ今頃ドアの向こうで聞き耳でも立ててるんじゃないの?」

ごとん。

「ほらね」

「つまんないの」

「私だってつまらないわよ」そういってやりたい気分だった。

こなたふざけて、かがみが笑って、こなたがおどけて、かがみが顔を赤くする。

そんな馬鹿みたいで微笑ましい二人のやりとりは、鳴りを潜めてしまったようだった。

25 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/08(土) 22:51:51.57 ID:a9+G2CyJ0

このままでは本当に人生が駄目になってしまうような気がした。

どうすればこの忌々しい予知夢と上手く付き合っていけるだろうか。

予知夢の正しい使い方。

予知夢の暴走の食い止め方。

予知夢に振り回されない生き方。

予知夢に左右されない楽しみ方。

かがみは寝ても覚めてもその事ばかり考えて、考えて、考えて、

彼女の目に写る景色は日に日に色を失っていった。

彼女がどれだけ現実を楽しめるよう努めても、夢が先回りしてしまうのだ。

何時まで経っても答えは出ないままだった。

対策を立てられないまま、彼女の心は消耗していく。

26 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 01:41:36.30 ID:uC4TLNDp0

「つかさ、つかさ」

「どうしたのこなちゃん」

「最近のかがみん変じゃない?」

「やっぱりこなちゃんもそう思うんだ」

「っていう事はつかさから見ても変なんだ」

「うん。あんなお姉ちゃん初めて」

「家の中で変わった事とかある?」

「ううん。具体的には何にも。でも雰囲気が違うって言うか」

「分かる分かる。元気がないっていうよりは……」

「無気力?」

27 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 01:42:24.93 ID:uC4TLNDp0

「そう、そっちのほうがしっくりくる」

「でも勉強は前みたいにやってるよ」

「それ以外は? 勉強は嫌でもやるからさ」

「うーん……休日にお昼まで寝てるって訳でもないし。やることはいつも通りにやってると思うよ」

「そうなんだよね。やっぱりどうあってもしっかりしてるんだよね」

「じゃあなんだろう」

「今年の夏も暑かったしバテたのかも」

「本当にそれが原因だと思う?」

「いや。たぶん違うと思う」

「だよね。しんどいって感じはしないもん」

「わかんないや……」

「うん。なんともなければいいんだけど……」

28 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 02:43:40.20 ID:uC4TLNDp0

☆5



「かーがみん」

「こなた? あんたもう帰ったんじゃなかったの?」

委員の仕事を終わらせて帰宅しようとしたところ、

既に帰宅したはずのこなたに校門前で声を掛けられた。

委員会がある日は先に帰っているのが常だから、何か用事があるのだろう。

「ちょっとね」

「?」

「寄り道していかない? たまにはカフェとか」

「あんたカフェで死にかけたくせに」

「あはは。かがみのおかげだね」

29 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 02:44:58.06 ID:uC4TLNDp0

「どういたしまし……て」

「ん? どったの?」

「いや別に」

驚いた。

何か胸がもやもやすると思ったら、

何か違和感がると思ったら、私はこの先に何があるのかを知らない。

これはまだ夢で見ていない世界だ。

何時もの事ならことならともかく、

普段とは違う出来事で先が読めないのは、夢を見始めて以来初めてだ。

淀んだ波ひとつ無い湖にこなたが石を投じた気がした。

「かがみ。どう、時間ある?」

「そうね。寄り道して帰ろうかしら」

31 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 14:24:15.74 ID:uC4TLNDp0

☆6



「で? 話でもあるんでしょ?」

「うん」

全体的に落ち着いた色で構成されたカフェ。

暖かな黄色の蛍光灯がその店内を照らす。

ここはこなたのオススメらしく、コーヒーの味も良い。

「かがみさ、なんか悩んでるでしょ」

「ふふ。よく分かるわね」

「? 隠さないんだ」

「隠す理由が無いわ」

「それならそっちから相談してくれてもよかったのに」

「わざわざ人に言うような事でもないからねえ」

32 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 14:25:43.91 ID:uC4TLNDp0

不思議な気分だ。

先が分からない展開が楽しい

内心を的確に見抜いてくれる事がすごく嬉しい。

「訳が分からないよ」

「何が?」

「最近のかがみ。夏休みぐらいからずっとかな」

「へぇ。やるじゃん。どんな風に?」

「……」

「どうした?」

「かがみん楽しそうに話すね」

「こうやってあんたと話すの嫌いじゃないわよ」

「普段から何でも色々喋ってるじゃん」

「そうね。それで? どんな風に私の事が分からないの?」

33 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 14:31:41.81 ID:uC4TLNDp0

「はあ」と指先でこめかみを押さえながらこなたは溜息をついた。

溜息というよりはそれに半笑いの成分が混ざったたような感じか。

こなたの口からどんな言葉が吐き出されるのか。それが楽しみで楽しみで仕方がない。

「なんか掴み所が無いっていうか、そう、暖簾に腕押し」

「そんなにふらふらした人間じゃないつもりだけど」

「そうじゃなくて、何をしても卒が無さ過ぎて、私が何を言ってもかがみはその影響を受けないんだ」

「なるほどね。じゃあ今はどういうつもりで私と話してるのかしら」

「かがみと話す前の段階でちょっと変わった事をしてみたんだ。おまじないをかけるつもりでさ」

34 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 14:32:08.19 ID:uC4TLNDp0

「おまじない?」

「約束もせず、思いつきに任せて、何時もと違うタイミングでかがみに声を掛けてみた」

「そんなのおまじないって言わないと思うけど。それだけのことでねえ……」

「それだけのことで、何なのかな?」

こなたが目を光らせた。

見たことが無いくらい真剣な眼差しで私の中を覗こうとする。

風邪とインフルエンザの区別が付かない馬鹿だから、

そのまま普通に馬鹿なのかと思っていたが、

こういう面では意外にそうでもないらしい。

35 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 14:33:23.50 ID:uC4TLNDp0

「別に。ただそんなことをしたくらいで何が変わるのかなって。思うのよ」

「惰性や日常から抜け出したいとき、人は何時もと違った事をやるべきなのだよ、かがみん」

「こなたにしてはごもっともなお説じゃない」

「かがみが今の言葉に説得力を感じたっていう事は、今日は何かが違うと思ったんだろうね」

「あんた思ったより鋭いわね。これじゃ普段の会話でも殆ど一方的にイジられてた訳だわ」

「あっはは。私こういうのは得意だよ。それで悩みって何?」

36 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 18:37:59.32 ID:uC4TLNDp0

「こっちから話すつもりはないわよ? わざわざ人に言うような事じゃないってさっきも言ったじゃない」

「ええ〜? 人が相談に乗りたいって言ってるのにそういうこと言っちゃう?」

「気持ちはありがたいんだけどね。こっちも色々あるのよ」

「ちぇっ。じゃあもう私から何も言える事なんて無いじゃん」

「でも結構いい線いってたわよ」

「何がだよ……」

こなたは意図的に予知夢が見せた未来を回避した訳では無いだろう。

そもそもあれは私が見た夢なのだから、こなたはそれを知る由もない。

だから今日のことは偶然だと思う。

だが、それでも、私はこれからこなたに期待してしまうのだろう。

37 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 18:47:45.91 ID:uC4TLNDp0

「はあ……じゃあもう今日は帰るかな」

「お代は私が持つわ。折角話し相手になって貰ったんだしね」

「え? 誘ったの私なんだしそれはおかしいでしょ」

「いいからいいから。その代わりにこれから楽しみにしてるわ」

「えっ。私に謎解きでもさせてるつもり? 私で遊んでない?」

「遊んでるわよ。珍しいものが見られるし」

「面白くないなあ。本当に悩んでるんだよね? 困ってるんだよね?」

「それはもう。悩んでるし困ってるわ。ただ自力ではどうしようもなくて殆ど諦めてる」

「……それで私にどうにかしろと? 条件悪すぎるでしょ」

38 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 19:49:53.76 ID:uC4TLNDp0

「嫌なら何もしなくていいのよ。無理にお願いして困らせたくないし」

「どうしたものか」と言わんばかりの様子で、頬杖を付くこなた。

こなたを困らせたくないのは本当だが、

反面こいつに期待してしまっているところもある。

だからといって予知夢の事については易々と話すわけにはいかない

親友にサイコな電波野郎のレッテルを貼られたら立ち直れない自身がある。

「分かった」

39 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/09(日) 19:50:53.26 ID:uC4TLNDp0

こなたはそう短く言い切った。

私の助けになってくれるというのか、無理に関与しないというのか。

前者を選べば、こなたは必要のない苦労をすることになる。

悩んでいる本人が積極的に助けを求めてこないなら、普通は誰だって後者を選ぶだろう。

そんな中で私に向けられた、こなたの自身ありげな笑みは、全てを物語っているようだった。

「じゃあ、私がかがみんを助ける勇者になってあげようかな」

「勇者とは大きく出たわねえ。どうするつもり?」

「洗いざらい吐かせてやる」

私を指差しながらこなたがニッと笑ったから私もニッと笑った。

46 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:25:42.31 ID:7V9Q4INn0

☆7



あの日以来、私の生活は変わった。

夢を見始めて以来、忘れかけていた生きることの心地良さを、思い出していた。

まだ夢を見る以前のような生活をすることは出来ない。

それでも私の見る世界は色を着実に取り戻していった。

「やふー。かがみん遊びに来たよー」

「おーっす。上がって上がって」

「あれ? つかさは居ないの?」

「つかさは今日は峰岸の家でお菓子作ってる」

「なるほどね。かがみんはつかさのお土産待ちってとこか」

「うるさいな。あの子の作るお菓子美味しいのよ」

47 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:26:32.55 ID:7V9Q4INn0

料理の腕に関してはこなたも負けず劣らずなのだが、

ことお菓子作りに関してはつかさ方が一枚も二枚も上手だという。

私には分からない世界の話ね。

情けなくて涙が出そうだけど。

「最近かがみ調子どう?」

「調子って? 模試の話なら偏差値68.8で第一志望B判定だったけど」

「かがみってなんか前よりも、ざっくばらんになったよね」

「あんたに対してはそうかもね」

「私が聞きたいのは勉強の話じゃなくてさ」

48 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:27:35.03 ID:7V9Q4INn0

「ほら、分かるでしょ」とこなたは言う。

私は分かってて模試の話題を振ったのだが。

どうせ今回も全部E判定だったのだろう。

いくら文型だとはいってもそろそろ本格的に勉強を始めなくては追い付けなくなる頃合だ。

「私の悩みの件もありがたいけれど、自分のこと疎かにするんじゃないわよ」

「うっ……。私の事は今はまだいいんだよ」

「全然いいようには見えないわ。まあ最悪は名前さえ書けば入れるような大学でもいいんでしょうけど」

「出来ればそれは避けたいかな」

「じゃあ勉強しないとね」

「はいはい。そうですね。それでかがみはどうなの?」

「あんたのおかげで概ね良好よ」

49 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:28:42.38 ID:7V9Q4INn0

私の言葉を受けてこなたはキョトンとする。

なんだこいつ。自分で自分のやってることの凄さに気づいていないのだろうか。

予知夢が示した未来を私以外の人間が自力で回避するだなんて、私は暴挙だとすら思ったのだが。

「私、何かした?」

「自覚がないのか。じゃあなんで『調子どう?』なんて訊いたんだ」

「いや別に。ただ、かがみが最近すごく楽しそうにしてるから。もしかして解決しちゃったのかと思って」

「……。本当に何もしてないの?」

「あんまり。時々あの日みたいな突拍子もないことをしてるくらいだよ」

「ふうん。不思議ね」

50 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:30:39.07 ID:7V9Q4INn0

不思議というよりも不可解といった方がより適切だ。

こなたが珍しいことをしたからといって、それだけのことで予知が出来なくなる意味がわからない。

カフェにトラックが激突することすらを予見してみせた夢が、その程度で予知の精度を落とすとは考えられないのだ。

偶然の連発だということはないだろう。

私が見る予知夢はそんなにいい加減なものではない。

私は予知夢の存在を忌々しく思いながらも、その絶対的な精度には信頼にも似た感情を抱いていた。

「で。私が何をしたのさ?」

「私の中では絶対にありえないと思っていたこと」

「あの。ちょっとよく分からないんで、具体例でお願いします」

「具体例は無理だから比喩でもいい?」

「比喩って……それでいいです……」



「じゃあ、そうね『こなただけが予知夢とは違ったように私と接してくれる』みたいな、なんか、そんな感じ」

51 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/10(月) 22:31:09.26 ID:7V9Q4INn0

これが私の精一杯だった。

私の方からこれ以上こなたに向かって手を伸ばすことは出来ない。

五里霧中の迷宮の中で、私がここにいる事にこなたはまだ気がつかない。

私は鉄格子の隙間から両手を突き出して、救いの手が差し伸べるのを待ち続ける。

しっかりしなさいよ。お姫様の居場所すら突き止められないようじゃ、勇者失格なんだから。

57 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/26(水) 02:18:04.50 ID:X8LnGZ7p0

☆8


近頃のかがみは本当に機嫌が良い。
その原因はどうやら私にあるらしいが、それより具体的なことは分からない。
私が何かをしているから、いや、継続してし続けているからこそかがみは機嫌が良いのだという。
私はかがみに何をしただろうか。心当たりは無い。

休日の朝。
すっかり日が昇りきった頃に私は目を覚ました。

「またか」

私は最近になってよく夢をみるようになった。
夢といっても突拍子も無いようなものではなく、過去の出来事を思い出すだけの夢だ。
自分がとっくに忘れたつもりだったことも、この夢のせいで鮮明に思い出してしまう。

58 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/26(水) 02:18:42.80 ID:X8LnGZ7p0

一番嬉しかった夢は母が私に微笑みかけてくれたときの夢だ。
なぜそんな時のことを綺麗に思い出せるのかは私にも分からない。
もしかしたら妄想でしかないのかもしれない。
だけどそれは過去に確かにあった事実だという確信が何故かあった。

「まあこれで私の妄想だったら心療内科行きだから口には出来ないね」

客観的に見て、夢なのにそれが現実であったと確信してしまっているのはマズい。
自分でも分かっている。だからその気持ちは心の片隅に留めておく程度にしている。


59 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/26(水) 02:20:51.50 ID:X8LnGZ7p0

「どうせ見るなら予知夢とかのほうが便利でいいのになあ」

漫画の中でしかありえない話だけどさ。
もちろん過去の夢が役に立ったことは当然ある。
一番恩恵が顕著だったのは勉強だ。
私が以前にチラとでも視野にいれた情報であれば、夢を見さえすれば鮮明に記憶することができるのだ。
これのおかげで暗記科目の成績が底上げされた。
実は前日のテストでも志望校の判定がCにまで上がっていた。

あとは、自分の立ち振る舞いを見直すようになったことだろうか。
当時の自分は他の事に夢中で気がついていなかったが、
改めて夢の中で自分の行いを見てみれば、これは酷いというものが多々あった。
特に会話だ。自分がオタク的な話を友人の前でするのはよくある話で、
これをやめる気は無いし、こういう話を聞いてくれる友人がいるのは単純に嬉しいのだが、
たまに限度を超えていることがあった。その時は気付かないものだが思い返せば穴に入りたい気分にすらなる。

60 名前:^^ ◆HR2brQyc6A[saga] 投稿日:2011/10/26(水) 02:21:47.81 ID:X8LnGZ7p0

もっともオタク話に限った話ではなくその他細かなところでも、
過去の夢は自分を見直すチャンスになっている。
だから最近は以前よりも人として少しぐらい進歩しただろうと思っているし、
もっと人の様子を注意深く観察するようになった。相手の反応を確かめるのが本当に上手くなったように思う。
このスキルには悪いところもあるのだが、まあ、概ね便利だし損まですることはまずない。

「ああ、でも今日見た夢は最悪だったな」

母が死んで父が泣き続ける日の夢を見た。
夢の内容を思い返して、私は殆ど当事者ですらないのに、両親の事を思って涙を流した。



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