一般人キョンの憂鬱


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1 名前: ◆wnqZL2EXE.[] 投稿日:2011/06/27(月) 00:21:33.62 ID:Y2fjuFXAO

※注意

・これは>>1が「驚愕」のあとにハルヒルート以外をいくならどうなるかなーと考えた妄想物語です

・展開的に嫌な気分になる人がいるかもしれません

・大体の出来事は原作から(ギリギリ)読みとれることに留めているつもりです

・あくまでSS、あくまでSSです


以上のことに注意して読んでください

2 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:22:47.15 ID:Y2fjuFXAO

【その1】

六月も終わりに近づき夏の匂いが一層強くなってきた頃のことである。


俺は駅に向かって急いでいた。理由は言うまでもなくSOS団の不思議探索だ。

先月にあったSOS団創立一周年記念イベントが終わってからのハルヒは一点に止まることを知らず、例えるならば上り坂でも加速、下り坂でも加速、平坦な道でも当然加速と言ったところで、なんだ、俺の手には負えないってことだ。

だが今のハルヒは一年前のハルヒとは違う。今のハルヒは人を気遣うことが出来るようになってきているし、比較的常識的な行動をとるようになった。一年前には考えられなかったことだろう。

そのおかげか古泉が陰であれこれ手を回したりと四苦八苦しているようなことはない、と思う。それに去年のように色々な人に迷惑をかけてはいない。多分。

まあ俺が困っているのは先月から週二ペースでやっている不思議探索だ。

相も変わらず俺が奢ることが続いている不思議探索は俺の財布を圧迫してやまない。

これからもこのペースでいくなら俺はわりかし近くに破産する。

定期預金も解約したし、俺にはあまり余裕がないんだ。

やれやれ、誰かハルヒを止めてくれないかな。

3 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:23:17.30 ID:Y2fjuFXAO

それにしても今更だが定期預金を解約したことについては親にバレないようにしなければいけない。

俺はバイトもしたことのない高校生なんだ。なぜ預金するほどの金があるのか。決まっている。親が俺のために貯めてくれていたんだ。

それをたった一年で使いきってしまった。親にバレたら申し開き……出来ないよな。

「はぁ」

思わず溜息がでてしまうのは自分で言うのもなんだがしょうがないことだろう。

今日の天気は晴れ。にも関わらず香ってくる雨の匂いは梅雨だからだろうか。最近は風も生ぬるくなってきて夏の訪れを感じさせる。

夏を愛している言っても過言ではない俺としては喜ばしいことなのだが、いかんせん今日の俺はどうも気分が良くない。そう、なんというか……憂鬱だ。

4 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:23:43.90 ID:Y2fjuFXAO

「遅いわよ、キョン」

駅前に行くともう全員集まっていた。いや、俺が先に来ていたことなんてハルヒ以外が休んだときの一回しかないわけだが。ああ、四月頃にも一回あったっけな?

まあそんなことはどうでもよく、なんとなしにSOS団の面子を見回す。

朝比奈さんはあいも変わらず美しいとも可愛らしいともとれる、そこにいるだけで素晴らしいと言われるほどの雰囲気を醸しだし微笑んでいる。

おそらく朝比奈さんほど完璧な容姿をしているなら少しくらい抜けている方がウケるんだろうな。

ドジッ娘属性までも完璧に物にしている朝比奈さん。いやはや、やはり素晴らしい。

対して長門はいつもと同じように北高の制服でぼうっとこちらを見ている。

こいつは本当に人間味が出てきたというか、変わったと思う。

以前の長門は本当に置物といった感じでまるで無機物のようであったのだが、今はだいぶ様々な表情をするようになった。

それは素直に喜ばしいことだと思う。

こいつもいつかは俺たちと笑いあえるようになるのだろうか。

古泉は、いつものような微笑を顔面に張り付けたまま「おやおや」といった感じでこちらを眺めている。
おい、こっち見んな。

5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:24:12.12 ID:Y2fjuFXAO

「キョン、聞いてんの?いい?時間は有限なのよ。あたし達が自由に使える時間なんてさらに少ないの。だから時間は最大限有効に使わないといけないのよ。
あんたももう一年たつんだからそろそろ学習しなさいよ」


SOS団団長こと涼宮ハルヒが俺に詰め寄ってくる。

朝比奈さんたちに気を取られてすっかり忘れていた。

言っていることは至極まともかつ納得出来ることなのだが毎回同じようなことを言って飽きんのかね。

「なによ、毎回同じこと言わせてんのはあんたのでしょ」

まあ確かにそうなのだがお前はいつも俺の来るほんの少し前に来てるじゃないか。大して待ってないだろ。後ろ姿を見たことも何回かあったぞ?

「何言ってんのよ。ビリとそれ以外にはとっっても大きな差があるの。まったく、一年も雑用係してんのに何であんたはそうなのかしら」

はぁ、とどっかで見たことのあるような呆れたっていうポーズを取りながらのたまうハルヒ。

俺は呆れられることを言った覚えはこれっぽっちもないのだが。

6 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:24:44.98 ID:Y2fjuFXAO

だいたい二十分前に来て遅いと言われる奴なんて俺くらいじゃないだろうか。

この一年で遅れてもないのに遅いと言われるのにもすっかり慣れてしまった。まあ特にこれといった害はないんだが。

まあそんなことより俺の財布の中も有限と言うことをそろそろ理解してくれ。

「遅れてくるあんたが悪いんじゃない。あんたが一回でもあたし達より先に来たことあるの?」

あるだろ。その時お前は俺にレシート押しつけて先に出てったり一円単位の割り勘したじゃないか。

俺の正当かつ当然の主張を黙殺していつもの喫茶店へとずんずん歩いていくハルヒ。

相変わらず都合の悪いことは聞こえん、いや聞かない奴だ。こいつは一回寺にでもぶち込んで礼儀や常識というやつを叩き込んでもらった方がいいのではないだろうか。

だが「新しい宗教を興すわよ」と満面の笑みでのたまうハルヒが脳裏に浮かぶのはどうしたことかね。
この案は却下だな。

「あなたがまた不用意なことを言うから」等と古泉にまた嫌みを言われちゃたまらんからな。

7 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:25:19.71 ID:Y2fjuFXAO

いや、というかそもそもだ、何故いつもこいつは俺に奢らせるのだろうか。

俺が今までいくら払ったのか少しでも考えたことはないのだろうか。

俺が先に来たとしても自分は払わない。俺が最後にきたときだけ払わせる。何だ?俺は財布扱いか?

クソ、何かいらつくな。いや待てハルヒが自分勝手なのはいつものことじゃないか。そうだ。そんなこと気にしていてはやってられないだろ。

「大丈夫?キョン君」

無駄とも言える思考活動にふけっていた俺は、朝比奈さんの呼びかけによって現実に戻された。

「ええ、大丈夫です。少しぼうっとしていただけですよ」

「そう、よかったぁ。具合が悪いのかと思っちゃいました」

何という優しいお言葉。朝比奈さんの天使のような微笑みを受けて笑顔にならない奴なんてこの世にはいないな。そんな奴がいたら俺の前に連れてきて欲しいもんだ。

「早く涼宮さんたちを追いかけないと怒られちゃうよ?」

ハルヒにどやされるくらいなれたもんだが、俺のせいで朝比奈さんまで因縁付けられたらたまったもんじゃないからな。

いつもの喫茶店に向かうハルヒたちを追いかけるとするか。

8 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:25:53.58 ID:Y2fjuFXAO

その後当然のように俺の奢りとなった喫茶店から出て、午前中の相方となった古泉と共にハルヒ達とは逆の道へと行く。

「少しよろしいですか」

俺がさらなるハルヒ更正計画をぼんやりと考えていると古泉が声をかけてきた。相変わらずのにやけ顔が今日はいやに鼻につく。なんだ?またなんかあったのか?

「いえ平和そのものですよ。閉鎖空間もほとんどでませんしね。ただ今日は涼宮さんにいやに噛みついていたのでどうしたのかと思いまして」

噛みついてたも何も俺は当たり前のことを言っただけだ。確かに今日は少し気分が悪いが、それだけだ。それとも何か?お前は俺が言ったことが間違えているとでも言うのか?

「どうやらそうとうご機嫌が悪いようで。いつものあなたらしくない。あまり涼宮さんを刺激して閉鎖空間を発生させないでくださいよ。久しぶりのバイトで大けがするのは嫌ですからね」

体が鈍っているもので、と古泉はさわやかに笑いながら付け加えた。俺の周りにこいつほどさわやかという言葉が似合う奴はいないね。谷口には十回生まれ変わっても無理だろう。別にうらやましくはないがこいつがモテるのも納得できる。

てか俺らしいってなんだよ一体。

9 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:26:19.86 ID:Y2fjuFXAO

「それと先ほどのあなたの問への答えですが、ノーコメントと言っておきましょうか。僕はこれでも機関の一員ですからね」

軽くウインクをする古泉は無視だ。野郎のウインクなんて見て喜ぶ男は同性愛者だけだが俺は違う。

俺のそんな様子を見て軽く肩をすくめる古泉。こいつとの付き合いも一年になるがどうもこの皮肉めいた感じはやはり気に食わない。

「はぁ」

あまり良いとはいえないだろう感情を頭の隅に追いやる。せっかくの休日にこんなイライラしててどうする。そう、せっかくの休日なんだ。楽しまなければ損に決まってる。

とはいっても俺には特に行きたい場所というのもないんでな。古泉に声をかける。

「古泉、どっか行きたいとこはないか?」

結局服をみたいという古泉と共に午前中は服屋周りをした。なかなかに楽しかったと言っておこう。

10 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:26:55.26 ID:Y2fjuFXAO

昼食後、午後も不思議探索をするかと思ったのだが、ハルヒの急用とやらによって中止になった。

どうやら例のハカセ君の家庭教師を親に頼まれたらしい。

「あたしの親も困ったもんだわ。勝手に人の予定を決めないで欲しいわよね」

とはハルヒの言。お前が言うな。


さて、まあそんなこと言いながらハルヒは帰っていってしまったので俺達は午後の予定がぽっかり空いてしまった。

正直暇なんだが、最近の忙しいスケジュールからいって俺は結構な疲れがたまっているのだ。

午後からハルヒが帰ったのはまさしく暁光。さっさと家に帰って惰眠をむさぼりたい。

そう考え、帰路につこうかとしたところで声がかかった。

「待って。話がある」

ん?何だよ長門。

「涼宮ハルヒのこと」

おいおい、また何かあったのか?古泉の奴も平和だとか言ってたぞ。

「今は言えない。私の家に」

一体何なんだ?ハルヒにも特に変わった様子は多分ないと思うし、古泉も変わったことはないという。訳が分からん。

だが、まあ長門の家に行くとしよう。これがSOS団に関わった俺の責任ってやつだ。

11 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:27:28.71 ID:Y2fjuFXAO

そして俺は古泉と長門と共に長門の家に向かった。

朝比奈さんに言わなくていいのかとは思ったのだが、長門は「必要ない」と言う。長門の一言は何にもまして信用できる。

すいません朝比奈さん。どうやらまた仲間外れにしてしまいそうです。


それと向かってる途中に古泉を問いつめてみたのだがやはり何も知らないらしい。

本当にいったい何なんだろう。思えば俺たちが本当に何も分からないのは今回が初めてではないだろうか。あの繰り返す八月の時も俺たちはある程度既視感という形で感じ取れた。

しかし今回はそれすらないのだ。

古泉のにやけ顔が若干強ばっているようにみえるのは気のせいではないのだろう。

胃を軋ませるような不安を背負いながら俺たちは長門の部屋に足を踏み入れた。


12 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:28:16.41 ID:Y2fjuFXAO

長門の部屋は相変わらず物が少ない。長門は俺と古泉を座らせてせっせと茶の準備をしているらしい。

律儀なのはいいが俺としてはさっさと話をして欲しいのだが……。古泉の方を見るとどうやら俺と同じ気持ちらしいな。さっきに増して表情が強ばってやがる。

長門が茶を持ってきたタイミングで古泉がさっそく切り出した。

「長門さん。そろそろ僕たちを連れてきた理由を教えていただけないでしょうか。正直なところ先ほどから何かあったのかと不安で不安で」

そうだぞ長門。今度は一体何があったんだ。俺はともかく古泉が分からないなんて余程のことじゃないか。実は俺たちと話したかっただけっていうのなら俺は泣いて喜ぶぜ。

古泉と俺の言葉を受けた長門は一瞬顔を伏せた、ように見えた、後俺たちにその宝石のような目を向けてこう言った。

「これから言うことは信じられないかもしれないがすべて真実。聞いて」

いつか聞いたような口上を述べて長門は話し始めた。

13 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:29:28.60 ID:Y2fjuFXAO

「本日午前零時、情報統合思念体は情報改竄の痕跡を発見した。情報統合思念体は涼宮ハルヒによる物と特定。
それは長期間に渡ってその対象に影響を及ぼし続けていたが、その対象はもちろん我々も気がつかなかった。
しかし本日午前零時、対象に対する情報操作が何らかの理由で打ち切られたことにより我々が感知できたものと思われる」

ずっと情報操作とやらをされていたのにお前の親玉でもきづかなかったってことか?

「そう」

「いやはや……それは驚きですね。してその対象とは一体なんなのですか?」

古泉は軽い口調だがかなり真剣な顔で長門に聞いた。そりゃ真剣にもなるわな。機関の誰も気づかなかったわけだし宇宙人でも今になるまで気がつかなかったんだ。よっぽどのことに決まっている。

長門は古泉の声を受けこう言った。

「あなた」

俺の方を向いてだ。

14 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:31:02.17 ID:Y2fjuFXAO

今長門はとんでもないことを言った気がする。えーと……何だって?

「涼宮ハルヒの能力の対象となっていたのは、あなた」

今度は聞き間違いようがない。一瞬頭が真っ白になる。長門は、俺がハルヒの能力に影響され続けていたと言った。訳が分からない。俺に異常なとこはない、と思うぞ。

古泉は一瞬俺の方を唖然とした顔をした後、長門に向き合い、聞いた。

「長門さん、涼宮さんの力によって彼はどのような影響を受けていたというのです?僕は昨日と今日の彼に大きな違いがあるとは思えませんが」

長門は古泉ではなく俺を見ながら答える。

「簡潔に述べるならば、」

長門は一端区切り、続けた。

「あなたは涼宮ハルヒおよびSOS団を裏切ることが出来ない」

15 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:32:12.60 ID:Y2fjuFXAO

は?そんなのハルヒの力を受けなくても当たり前じゃないか。

俺は訳が分からず、また大したことがないのではないかと思ったのだが古泉は血相を変えて長門を問いつめだした。

「待ってください。それは一体いつから、いえどれほど……どのようなものなんですか?」

「本格的な力の行使が行われたのは昨年七月七日。あなたが過去の涼宮ハルヒと会ったとき。
これより実際あなたは四年前の七月七日から涼宮ハルヒの影響を受けていたと考えられる」

ちょっと待ってくれ。四年前って言ったら俺はハルヒのことなんか知らねーし、SOS団は存在すらしてないぞ?

俺の問いを無視して古泉は続ける。

「長門さん、それは彼が北高に入学し涼宮さんと出会い、SOS団を作ったのは涼宮さんの力による物だと言うことですか?」

「そう。またそれは暗示に近い。無意識下への刷り込み。
あなたは表面上どのように涼宮ハルヒに反発したとしても決して涼宮ハルヒを裏切らず、決して見捨てようともしない。SOS団を辞めようとも思わない」


16 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:33:08.06 ID:Y2fjuFXAO

この辺になるとようやく俺の頭は正常に機能し始め、事態を飲み込み始めた。

つまりそれは、俺は今までずっとハルヒに操られていたということなのだろうか?

「つまりこういうことですか?例えば彼が涼宮さんへ対してどのような反感を抱いたとしても最終的には涼宮さんと和解するのは確定していた、と?」

「そう」

まるで俺がいないかのように会話する古泉と長門。

聞きたくないと拒否するも頭に浸透していくように聞こえてくる会話。

まるで一枚壁を挟んで会話を聞いているかのように聞こえる。

何だろう。こいつらの会話を聞いていると頭が……痛い。

「さらに涼宮ハルヒの力はある特定条件下でより強く彼に影響を及ぼしていたことを情報統合思念体は解析した。この時彼の思考の大半が涼宮ハルヒとSOS団のことに支配されていたと言える」

「その条件下とは?」

「簡潔に言うならばSOS団の危機。それは内部からの分裂にも外部からの被攻撃時の両方に言える」

「それは春の事件のような場合と考えてもよろしいのでしょうか」

「かまわない」

「なるほど……」

17 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:33:41.39 ID:Y2fjuFXAO

古泉が何か納得したように頷いてから沈黙が流れる。

一方長門は全て話したとでも言うように黙り込んでいる。

正直、訳が分からなかった。あなたは今まで操られていました、なんて言われて納得できる奴がいると思うか?

いるとしたらそいつはよっぽど頭のイカれた野郎に違いない。

俺は最初は無理矢理だったかもしれんが今では自分の意志でこいつらと付き合っている。

冬に長門が作った世界でそう決心したんだ。

そうだ、そうに決まっている。

しかし先ほどから感じる頭に響くような痛みはいったい何なんだろう。

「春に、僕があなたに長門さんのことを思い入れすぎだと言ったことを覚えてますか?」

いつもの信用ならない微笑を完全に抑えた真剣な顔つきで俺に問う古泉。

何だいきなり。ああ、覚えているさ。周りが見えていないとか未来人から見ると何ちゃらってやつだろ?

「ええ。はっきりといいますがあの時のあなたは注意力が散漫という程度ではありませんでした。
盲目的とでも言うのでしょうか。
我々を雪山に閉じこめたと思われる宇宙人に一人で会いに行こうとしたり、佐々木さんが一緒とはいえ明らかにこちらを敵視している集団との会合に行ったりとね」

18 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:34:22.51 ID:Y2fjuFXAO

「正直僕には信じがたい行動ですよ。思うに、あの時のあなたは自分の安全というものが度外視されていたのではないでしょうか。
長門さんの言う涼宮さんの能力による支配によって、あなた自身の安全の確保という生物として当然の最優先事項の順位が下がってしまったのではないか、と」

そんなことはない、と思う。あの時俺は自分で出来ることを探して行動していたはずだ。

そうだ、俺は自分で考えて行動したんだ。

「私も古泉一樹と同じ意見。あの時のあなたの行動は曖昧な言葉ではあるがあなたらしいとは思えない。
古泉一樹のいうように涼宮ハルヒの影響を強く受けていたと考えるのが妥当」

だが俺の必死の抵抗は長門によって両断される。
俺は……ハルヒに操られていたのか?

「このような可能性はもっと早く考えるべきでしたね。最近は落ち着いたとは言え今までの涼宮さんの彼に対する行動は」

古泉が何かを言い終わる前にふっと俺の意識は落ちた。

暗転する世界。

消えていく意識の中であの頭痛は俺の頭がこの話を聞くのを必死に拒否していたものだったんだなと理解した。


この日、俺の日常どころか非日常までも、一変した。

19 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:35:12.78 ID:Y2fjuFXAO

【その2】

目が覚めるといつぞやの和室であった。

あのときと寸分違わない畳しか見当たらない部屋を見てこういうとこは相変わらずだなとか何とか思っていると、不意に頭に痛みが走る。

……そうだ。俺は長門の部屋で気を失って……。

あれは夢だと思いたくても今の状況がそれを許してはくれない。

俺は……どうすればいいのだろうか。

「起きた?」

不意に声がかかった。声の主はいつの間にか開いている襖からこちらを覗いている長門であった。

「古泉一樹からの伝言。あなたは今日不思議探索に来なくてもいい。涼宮ハルヒから電話などのアプローチがあったとしても無視しても構わない」

長門の話によるとどうやら俺は朝まで意識がなかったらしい。

返事はできなかった。

だが正直その申し出はかなりありがたい。古泉に純粋に感謝するのは何度めだろうか。

今の俺はハルヒに会って自分がなにをするか分からない。

「今日は休むといい」

そんな俺の心情を理解しているのかいないのか長門は俺を見てそう言い、長門は電気を消し、襖を閉めた。

瞬間。

浮翌遊感と体の下に感じる柔らかい感触。

気づいたら俺は自分の部屋にいた。ご丁寧にベッドの上寝たかたちでだ。慣れ親しんだ部屋の様子と匂い。間違いなく俺の部屋だった。

唖然とするのも一瞬。長門ならこれくらいやってのけるだろうと無理矢理納得することにする。

せっかくのあいつらの気遣いだ。無駄にしないように今日はのんびりすることにしよう。

俺は寝ようと布団にくるまった。

20 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:35:47.33 ID:Y2fjuFXAO

だが、寝られるわけがなかったんだ。

眠ろうと固く目を閉じてもSOS団での思い出が浮かんでくる。

あのときの行動が自分の意志によるものだったのか。そんな何も知らない人から見たら馬鹿のような疑念が浮かんでは消えてゆく。

俺がハルヒに部活を作るようにいったのも仕組まれていたのだろうか?

後頭部を机に打ちつけられてもあいつに協力したのは何でだ?

そもそも、最初にあいつに話しかけたのも俺の意志だったのか?

一方的な電話での召集を受けてまじめに集まったのは何故だ?あんな一方的なもの無視しても構わなかっただろうに。

夏のバイトでハルヒにキレなかったのは何故だろう?あれは胸ぐらを掴み上げる位してもおかしくなかった。

映画撮影の時あんな無茶苦茶な雑用を受け入れたのは何故だ?人にやらせるばかりのハルヒに何故従ってたんだ?

それより俺のSOS団での扱いの酷さを受け入れてたのは何でだ?勝手に雑用扱いされて受け入れてたのは何でだ?

ハルヒに殴りかかろうとしてしまったときに俺から歩み寄ったのは何でだ?古泉に唆されたからか?
あの後結局ハルヒは朝比奈さんにも謝らず反省も何もなかったじゃないか。

21 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:36:15.17 ID:Y2fjuFXAO

ストーブを受け取りに行ったときもそうだ。あのクソみたいな坂を一人でストーブを持って登るなんて馬鹿げてる。
何故俺はそれを受け入れてたんだ?

クリスマスの時も雪山に行ったときも俺は三日間意識がなかったことになっていたのに平然と連れ回されていたのは何でだ?
そんな無茶苦茶を何故親が許すかをおかしいとは思わなかったのか?

何かあると馬鹿だ変態だと俺のせいにしていたあいつに怒らなかったのは何故だ?あんな風に馬鹿にされたら怒らない方がおかしいじゃないか。

定期預金を解約するまであいつらに奢り続けたのは何でだ?普通の奴ならそんなことになる前に辞めてただろう。

古泉の言う通りにご機嫌取りをしてたのは何故か。小学生染みた自分理論を展開するハルヒが明らかに悪いのにだ。


なんだ、俺は結局ハルヒに都合がいいように動いてただけじゃないか。

こんなことに全く気がつかなかったのか。こんなあからさまなことに。

全く、笑わせる。

22 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:36:43.87 ID:Y2fjuFXAO

そう、古泉……。
古泉も古泉だ。

今まであいつは俺に本当のことを話してくれていたのだろうか。

あいつは自分のことを末端だ何だと言っていたが橘京子は古泉が機関の創立者だとか言っていた。

古泉に聞くと同列だとか何だとか言いやがる。それは末端とか言ってたのは嘘だったってことじゃないのか?結局あいつが機関を作ったのかも誤魔化されたしな。

それに当たり前のようにハルヒの機嫌を取れと言いやがる。おまけに少し逆らっただけで嫌みを言われる。

古泉が今までハルヒに巻き込まれた俺を気遣ってくれたことがあったか?俺が機関とやらに協力するのが当然だと思ってるんじゃないか?

鶴屋さんの家で俺がハルヒにぶちキレた時、古泉は何て言った?

もっと冷静な人だと思ってた?

頭が冷えてる頃だと思った?

見込み違いだ?

何だそれは。結局、それがあいつの本音なんじゃないのか?

裏で朝比奈みくるだの涼宮ハルヒだの呼び捨てにしていたあいつが、古泉の本当の顔何じゃないか?

SOS団は団結してるとか愛着を持ってるとか言ってたのも俺を唆すための出任せじゃないのか?

古泉も、俺のことをただ利用してきただけじゃないのか?

23 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:37:34.86 ID:Y2fjuFXAO

それに特に深く考えなかったが朝比奈さんなんて明らかに俺を利用してるじゃないか。

そもそも俺がハルヒに関わるようになったのは朝比奈さんが俺に中学生のハルヒを手伝わせたからじゃないのか?

時間移動の矛盾などは俺の知ったことじゃないが、昨日の長門の話が本当だとするとそうなるんじゃないか?

朝比奈さんの規定事項とやらを手伝って俺は何をしてきた?

車にひかれそうにもなったし、SOS団との活動に振り回されながらも手伝ったことがあった。未来から来た朝比奈さんをハルヒ達から隠すために長門や鶴屋さんにも助けてもらった。

山に登って岩を動かし、何の意味があるか分からんお使いをさせられた。

俺が朝倉に刺され苦しんだのも規定事項らしいがそれだって朝比奈さん(大)なら簡単に回避できただろう。

あれに何の意味があったのか、俺には何も分からない。

そして結局は禁則事項で済まされるんだ。

それが本当かなんて全く分からないことで適当に誤魔化されたりな。

つまりは俺がSOS団でヘコヘコハルヒに従ってるのも朝比奈さんの予定通りか。いや、朝比奈さんじゃなくて未来人達かな。

24 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/06/27(月) 00:38:16.87 ID:Y2fjuFXAO

今まですっかり忘れていた。SOS団連中は宇宙人に未来人に超能力者。そしてとどめとばかりに神様と来た。

対して俺はただ巻き込まれただけの一般人。いきなり『鍵』だか何だか言われて訳も分からず担ぎ上げられている、何の力もない高校生なんだ。

結局古泉も朝比奈さんも、そして長門も自分達の目的のためにSOS団にいるんだ。

俺とは、根本的に違うんだよな……。

しかし何故だろうか。

俺にはあいつ等を恨むことが出来ない、嫌いになることが出来ないんだ。今まで散々利用されてきたのに、だ。

おそらく俺は期待しているのだと思う。あいつ等が俺と同じようにSOS団を大切に思っていて欲しいと。

古泉のあの言葉だけは本当であって欲しいってな。

そして、俺はハルヒが……。

32 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:39:17.81 ID:Xe1H9gTAO

その時部屋のドアがノックされた。

思わず飛び上がってしまう俺。

飛び上がってまず驚いたことは今の時間が明らかに夕方だと言うことだ。

部屋にはいってくる西日がそれを思い知らせる。

俺はどうやらアホみたいな時間を回想に費やしていたらしい。

それはSOS団での活動がそれだけ充実していたということか。

それとも俺があいつ等を大切だと思っていたということか。

……今の俺には判断しかねる。

「キョン、いるかい?」

そう言って入ってきたのは俺の中学生時代の親友である佐々木であった。

いや、ノックする時点で妹じゃないだろうとは思っていた訳だがまさか佐々木だとは思わなかったな。

「おや、いるんじゃないか。ノックに応じてくれなかったのは何故だい?」

佐々木は微笑みをたたえながら俺の勉強机の椅子に座る。

「悪いな。この格好を見て分からないか?今まで寝てたんだよ」

俺が軽い皮肉に答えると佐々木はくくっと笑う。

「長門さんに聞いているよ。今君は大変なことになっているみたいだね」

33 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:39:49.02 ID:Xe1H9gTAO

何だって?長門に?

「ああそうさ。くつくつ、彼女たち宇宙人っていうのはいきなり現れるのが趣味なのかな。
町を歩いているときにいきなり目の前に現れるんだよ?それは驚いたなんてものじゃないさ。
いやあ、けどやっぱり長門さんは思ったとおりとても魅力的な人だね。確かに寡黙だし話し方も淡々としているね。けどそこからは知性と、そして人間特有の感情を僕は確かに感じ取れたんだよ。
九曜さんとはあれ以来会っていないけど彼女もいつかああなるのかな。
ねぇキョン、キミはどう思う?長門さんと一年以上付き合ってきた君の意見が聞きたいね」

待て待て佐々木。確かに長門や宇宙人の変化とかいうものには興味が無い訳じゃないが長門がお前にどうしたって?

「ああそうだったね。いけないな、長門さんとの会話があまりに刺激的なものだったからついね。
そう、長門さんがね、簡単に言うとキミが落ち込んでいると思うから会いに行ってくれだってさ。本当は自分達で来たかったらしいんだけど、多分キミは拒絶するだろうって。
だけど事情が事情みたいだしやはりキミが心配らしくてさ。だから適度にキミ達の事情を知っていてキミと親しい僕に白羽の矢がたったらしい」

34 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:40:18.95 ID:Xe1H9gTAO

確かに長門や古泉が来たとしたら俺は追い返していたかもしれない。

いや、長門はともかくとして古泉や朝比奈さんは確実に追い返していただろう。

じゃあ佐々木、お前は俺の今の状況を知っているのか?

「ああ、涼宮さんの力の影響を受け続けていたんだろ?けど……、キミは何だか思ったより落ち着いているね」

佐々木は訝しげに俺を見る。

確かに、そうかもしれない。自分で言うのもなんだが先ほどから頭の中はぐちゃぐちゃなのに嫌に冷静にものを考えている気がするんだ。

それは多分……実感がわかないからなんだろうな。

「実感?ああ成る程ね。昨日までの自分の行動は自分の意志に依るものではありませんでしたなどと言われて簡単に受け入れられる人はいないか。
恐らく僕がキミの立場だとしてもキミと同じことを言うんだろうな。
それは一種の自我の喪失といえるのかな?不謹慎かもしれないが非常に興味深い」

佐々木は納得したように、そして本当に興味深そうに頷く。佐々木の知性的な趣に非常に合った仕草だと思う。

「うん、それなら僕がここに来たのは意味があるかもしれないな。
キョン、僕にキミがこの一年間体験してきたことを話してみてくれないかな」

35 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:40:45.02 ID:Xe1H9gTAO

ん?何でだよ。

「僕がSOS団外の人間だからさ。
キミは自分が本当に涼宮さんの力の影響を受けていたか確信が持てないんだろ?
SOS団にずっと所属していたキミや長門さん達よりも部外者の僕の方がまさしく客観的に判断できると思わないかい?」

佐々木はまたくくっと笑って続ける。

「それにね、僕もいつかは聞いてみたいと思っていたんだよ。キミのこの一年の体験を、キミの口からね。
キミほどの経験をした人は世界で何人もいるか分からない。いや、皆無と言っていいかもね。橘さんたちに少し聞いたけどやっぱり体験したキミの口から語ってもらいたかったのさ。
まさかこんな形で切り出すことになるとは思っていなかったけどね」

全くその通りだな佐々木よ。俺も思い出話は出来れば同窓会ででもしたかったよ。
だがお前の言うことはもっともだな。
さて、長くなると思うがハルヒと会ったあたりからでいいのか?

「ああ。それとそのときキミがどう感じたのかも出来るだけ詳しく聞きたいな。判断する上で重要なことだからね」

やれやれ、俺はあんまり話し上手じゃないから期待すんなよ。

36 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:41:30.71 ID:Xe1H9gTAO



そんなこんなでハルヒと出会ってから、佐々木と会った春の事件までをあらかた話し終わった。

予想通りと言うべきか、大分時間がかかったな。日はもう完全に沈んでいる。

俺の話を聞き始めたときの佐々木はまさに興味津々といったふうだったのだが、話すにつれて難しい顔になっていき今は神妙な顔で黙ってしまっている。

おい、佐々木どうしたんだよ。

「ああ、キョン。正直ここまでとは思わなかったよ。
僕がキミと再会してSOS団と会ったときの仲良さそうな雰囲気が嘘のように思えるよ」

ベッドに腰掛けた俺を見つめるじっと佐々木。佐々木は俺の目から目を離さない。俺も、離せないでいた。

それは、つまり……。

「うん。僕もキミが涼宮さんの力の影響を受け続けてきたというのは非常に納得できるよ。
僕だったら宇宙人に殺しかけられた後に彼らと付き合っていくことなんて出来ないよ。実際に刺された後なら言わずもがなだね。
それに、そうだね、長門さんたちは仕事で涼宮さんを観察し、機嫌を取ってきたわけだ。それに対してキミはどうだい?まさに巻き込まれたとしか言えない状況で、聞いたところ大分冷遇、と言ったらおかしいかな、かなり涼宮さんに振り回されたそうじゃないか。
いや、例の力とは関係ない彼女の意識下での話だよ。
例えるなら……そうだね、長門さんたちは仕事で接待していたとするなら、キミはお金を払ってまで涼宮さんの接待をしていたことになる。どう考えてもおかしいのは分かるだろ?」

37 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:42:01.50 ID:Xe1H9gTAO

「金を払って接待」。成る程、言い得て妙だ。

俺たちが今までどれだけハルヒに尽くしたか、折れてやったか、フォローしたか。端から見たら接待にしか見えないだろう。実際接待みたいなもんだったが。

「キミがやってきたことがどれだけおかしいことか分かるだろ?
特に使命といった物もなく、ただSOS団や涼宮さんのために働いてきたこと。これがキミと涼宮さん以外の三人との大きな違いだね。
さらに驚くべきことは、それにSOS団の誰も気づかなかったことさ。キミが涼宮さんどれだけこき使われようとそれが当然のように扱われてきたという矛盾。
古泉君や朝比奈さんはキミにへそを曲げられたりしたら困るわけだ。なら何故もっとキミに気を使わなかったのか。
例えばキミが我慢ならなくなって橘さんや藤原君みたいな人たちの誘いに乗るようなことがあっては大変なんだからね。
聞くところによると古泉君は大変聡明な人物のようだしそんな当たり前のことに気づかないとは考えにくい。
これもおそらくは涼宮さんの力の影響なのだろうと思うよ。彼女はそこまでしてキミを手中に収めていったわけだ」

38 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:42:28.98 ID:Xe1H9gTAO

脱力してベッド横の壁によりかかってしまう。

佐々木の言うとおりだ。いや、誤魔化すのはよそう。俺は薄々気づいていたんだ。佐々木が言ったことに俺は気づいていた。ただ考えないようにしていただけなんだ。それを認めてしまうともう二度とあのSOS団には戻れないような気がしたんだ。

「なあ佐々木」

「なんだいキョン」

いつもの柔らかい微笑みが戻った佐々木は俺の呼びかけに応える。

「佐々木。正直に言うとな、俺はハルヒのことが好きなんじゃないかと思っていたんだ。
でも、今はあいつが怖いんだ。ただ怖いんだよ、佐々木」

そう、俺はハルヒが怖かった。当然だがそれはハルヒの力を指してのことだ。まああいつの突拍子のない性格も怖いといったら怖いがな。

39 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:42:56.93 ID:Xe1H9gTAO

あいつの力に恐怖を覚えたのはいつだっただろう。

考えてみてほしい。あいつは適当に選んだ団員が宇宙人と未来人や超能力者で、適当に書いた落書きが宇宙文字や未来の重要理論になったり、宇宙製コンピューターウイルス的な何かを呼び寄せてしまうような奴なんだ。

鳩を白く染める程度は当たり前。秋に桜を咲かせたり夏休みを二万回近く繰り返したこともあった。

そしてあいつはこの春何をした?俺や長門を助けるためとかいって無意識に世界を分裂させやがったんだぞ?

それで俺たちは助けられた、らしいが何という滅茶苦茶。俺や長門を助けるために世界を分裂?俺たちに危険が迫ることを察知して?

滅茶苦茶だ。滅茶苦茶すぎる。ハルヒの力は古泉でも推測できないような領域にいってしまったらしいしな。

俺が怖いのは……今までの、そしてこれからの出来事が全部あいつの思い通りなのではないかということだ。

ハルヒは世界を簡単に改変しない。俺はそう思っていた。俺は二日前の自分に聞きたい。

何故そう思っていたんだ?

なんの根拠があってそう思ったんだ?

そう思わされていただけじゃないのか?俺だけじゃなく、古泉や朝比奈さん、そして長門までも。

40 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:43:22.96 ID:Xe1H9gTAO

ハルヒは簡単に人を傷つけることはしない。どうしてそう思っていたんだ?

後頭部を机に打ちつけたりいきなりドロップキックをお見舞いするような奴をだ。

それも、全部ハルヒにそう思わされていただけじゃないのか?

俺にはそれを否定する材料は持っていない。だが、肯定する材料は持っているのだ。

他ならぬこの俺だ。

SOS団を辞めないようにずっと操られていたという事実。

あいつが無意識に、自分のために俺以外の人間をいじっていたとしても全くおかしいことはないのだ。

佐々木が言うには古泉達も俺が操られていたと気づかないようにされていたという可能性もあるという。

確かにそうだ。もしかしたら俺以外のSOS団の団員はその「肩書き」を与えられた瞬間からハルヒの思い通りに動かされているのかもしれない。

朝比奈さんは未来のために、古泉は世界のために、長門は観測のために。

それぞれ自分の目的のために動いていると思っていても、実はそれは全てハルヒのための行動となる。

あり得ないことではない。むしろ十分にあり得ることなんだ。

41 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/02(土) 14:44:21.97 ID:Xe1H9gTAO

以前ハルヒに恐怖を感じた時、適当な理由で自分を騙した気がするが今回はもう騙しきれない。

俺はハルヒが怖い。

俺たちは皆ハルヒの作ったシナリオ通りに生きている。動かされている。操られている。

否定できないことが怖い。

もしかしたら今俺が悩んでいることさえもハルヒの思い通りの展開に持っていくためにそうさせられているのかもしれない。

今なら「機関」の奴らの気持ちが分かる。

ハルヒは「神」だ。

俺たちには想像できないことを平然とやってのける存在。俺たちを自分の都合のいいように動かしているかもしれない存在。

なにがハルヒはSOS団団長の肩書きをもつだけの女子高生だ。

なにがハルヒのことを分かっているだ。

俺は今まで、まともにハルヒと向き合ってこなかったのではないだろうか。

それはハルヒの力によるものかもしれないし、俺自身の怠けによるものかもしれない。

だが、これだけは言える。

俺はSOS団が仲間だと、絆で繋がっているのだと断言出来ない。

SOS団はただ神様と宇宙人、未来人、超能力者、そして一般人がいるだけの寄せ集めなのかもしれない。

この状況で見えない絆だとか何とか言える奴はただ傲慢なだけだろう。

あの居心地の良かったSOS団は、そしてSOS団を大切だと俺が感じていることは……幻想にすぎなかったのか?

51 名前: ◆wnqZL2EXE.[] 投稿日:2011/07/16(土) 17:17:52.77 ID:+FkWuHHAO

不意に柔らかい感触を感じた。

「大丈夫だよ、キョン」

いつの間にか佐々木が俺の目の前に来ており、俺の頭を抱きしめているのだった。何というか、自分の胸に俺の頭をくっつける感じで。

「今まで色々なことを乗り越えてきたんだろ?なら今回だってきっと乗り越えられるよ。
親友の僕が言うんだ。キミは大丈夫さ」

……佐々木。だがな、今回は乗り越える乗り越えない以前に俺はどうするべきか、全く分からないんだよ。

「キミが思うようにやればいいんだよ。
思うに、キミは戸惑っているんだろ?涼宮さん達SOS団がキミにとって余りに大きなものになってしまったから。
もしくは涼宮さんを嫌いになりきれないのかな?話を聞くと入学時に比べると大分落ち着いたようだしね」

それもある。もしハルヒが去年から全く変わらず傍若無人のままだったのなら俺は迷わずSOS団を辞める決意をしただろうな。

だが、確かにハルヒは成長した。高校生が今更かといったものかもしれないが確かにハルヒは成長しているんだ。だからSOS団は問題なく活動でき、俺はSOS団を心地よく感じていたんだ。

もしハルヒが傍若無人のままだったのなら朝比奈さんが精神的に限界がくるか、古泉が過労でぶっ倒れるか、もしくは長門が度々エラーを起こすかしていただろう。

そして俺もハルヒの力を全く受けていなかったとしたらおそらく辞めたり行かなくなったりしていただろうなと思う。そんなピリピリした、いつ爆発するか分からない爆弾の近くにいるほどお人好しじゃない、と思う。

だが、繰り返すがハルヒは成長している。依然無茶苦茶なとこはあるがSOS団をしっかり引っ張っているといってもいいだろう。だからこそSOS団は依然存在しているのだろう。

ただ、それも全てハルヒの力により俺たちの認識さえもいじられているだけかもしれないが。

52 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:18:25.67 ID:+FkWuHHAO

「ねぇキョン。僕はキミが望むならば神様の真似事でもしてみせる。勉強などよりキミの方がずっと大事だからね。
キミがキミを疑おうとも僕はキミを信じ、絶対に裏切らない。約束するよ」

佐々木の腕の力が増す。自然と柔らかい匂いも強くなった気がする。……今気づいたがこの体勢やばくないか?

「キョン?どうしたんだい?」

反応しない俺を気遣ってか佐々木は声をかけてくる。さらに佐々木の腕の力が増す。

ちょ、ちょっと待て佐々木。もう大丈夫だからいい加減にはなしてくれ!

「そうかい?くつくつ。まあキミが言うならそうしようか」

そういって佐々木は俺に回していた腕をほどき、俺の勉強机にもど……らずに俺のベッドの縁に腰掛けた。

はあ、佐々木よ。俺もお前のことは確かに親友だと思ってるさ。だがそれ以前にお前は生物学的には女なんだぜ?それもとびきり上等なだ。お前は俺が思春期真っ盛りの高校生だってことを忘れてるんじゃねぇか?今の状況じゃ押し倒されてたっておかしくなかったんだぜ?まあそれを言うなら健康な男女が男の部屋にふたりっきりってのもすでにおかしいが。

おい、何でそんな驚いたような顔するんだ。

53 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:19:10.25 ID:+FkWuHHAO

「いやはや、これは驚いた。まさかキョンがこうも僕を女性として認識するとは。まさか今までのは涼宮さんの……、いや、考え過ぎか」

佐々木はなにやら小声でボソボソと呟いてやがる。俺は何かおかしいことを言っただろうか。

「いや、何でもないさ。さてキョン。これからどうするか、少しは思いついたかい?」

さっきも言ったがさっぱりだ。

「ふむ。じゃあもう少し話そうか。キミに聞いた話は非常に興味深かったからね、まだキミと話したいことがたくさんある。それは涼宮さん関係の話に限ったことではないけどさ」

いいんじゃないか?俺もお前とはもっと話したいと思ってるぜ。こんな時にあれだがせっかくの機会だし、お前の話してれば気も紛れるだろうしな。

では、といいながら佐々木は俺の隣に移動し俺と隣あってベッドに座り、壁に背を預ける形となった。だからこの状況は少しヤバくないか?佐々木も心なしか顔が赤らんでいる気がするぜ。

「コホン。えーとだね、キョン。君の話を聞いていて面白いと感じたのは涼宮さんの変化についてさ。キミもそれについては思うところはあるだろ?」



54 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:19:57.11 ID:+FkWuHHAO

まあな。さっきまで色々考えていたしな。あいつの変化は俺だけじゃなくSOS団、いや学校中の常識だろうぜ。

「くつくつ、そこまでなのか。全く驚かされるね。
それでだ、僕が思うにキミと出会った頃の涼宮さんはまさしく神だったのさ」

言ってることがよく分からないな。あいつは今も神様みたいなもんだろうが。

「それは彼女の能力のことだろう?僕が言っているのは彼女の性格、人柄についてのことだ。
今年と去年の涼宮さん、全然違うだろ?」

そりゃあな。あの頃のハルヒとは別人みたいなもんだろうよ。自己中心唯我独尊傍若無人。この言葉があいつ以上に似合う奴はいなかったと思うぜ。

「さて、ものの例えだがねキョン、キミが女子を殴ってしまったとしよう。家に帰り頭が冷えた時キミはどう思う?」

ん?何だいきなり。そりゃやっちまったとかやり過ぎたとかそんな感じで後悔したりするんじゃねぇか?

「うん、そうだろうね。じゃあキミの友人が財布を落としたと嘆いていたらどうする?」

まあ可哀想だなとは思うが。


55 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:20:24.65 ID:+FkWuHHAO

「うん、それが普通の反応だろう。その後の対応は人によって様々だろうけど。
いいかいキョン。今の質問を踏まえて、キミには自分を律する良心と他人に同情する心があるということだ。大半の人間も同様だろう。
じゃあ去年の涼宮さんはどうだったか。残念ながら僕には彼女にそのような心はあったとは思えないね」

まあな。出会い頭にドロップキックをかまして冤罪を擦り付けパソコンを強奪する奴にそんなのがあったら逆に問題だろう。

「そう、キミの話を聞く限り彼女には良心や同情心のない利己心のみの存在であったと推測できる。それゆえに自分のためなら他人の損害を省みない、自分の幸福のために他者を貶めることを厭わなかった訳だ。良心による内的制裁とは無縁なんだからね。
加えてだ、キョン、もしキミが涼宮さんと同じ行動を取っていたらどうなったと思う?」

どうなったと言われてもだな……。教師連中にハルヒ並に目を付けられるんじゃないか?

「まあそうなるかな。じゃあね、そこまで目を付けられている涼宮さんが一度でも停学にでもなったことがあるかい?」


56 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:21:19.98 ID:+FkWuHHAO

いや、俺の記憶にはない。

「それじゃあ彼女の家庭が不仲だと言うことは?よく小説やドラマであるだろう?非行に走った少女は大抵親との関係に溝がある。まあ必ずとは言えないけどさ」

それもないな。むしろあいつの話を聞く限り仲は良さそうだぞ。飯もあいつが作るみたいなことを言ってたしな。

「つまりそういうことさ。おそらくは彼女の両親の耳には彼女のエキセントリックとでも言うべき行動の数々がほとんど届いていないんだろうね。SOS団のことも単なる仲良しグループとしか思っていないんじゃないかい?
キョン、キミの周りにはこういうことが出来る人物がいるだろう?」

……古泉か。長門は、多分ないだろうな。

「その通り。SOS団の超能力者古泉君とそのお仲間によるものだろう。
学校側の対応や彼女の被害者達からの訴えが大々的にされないのもそのせいだろうね。
それに加えて彼女の非難されたくないといった願いによるものもあるのかもしれない。
ともかく、彼女はおそらく中学生の時から法律的制裁と無縁であり道徳的制裁も最小限に押されられていたのだろう。
それは利己心の塊にもなるだろうさ。それだけのことをして痛い目をみたことがなかったんだからね」

57 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:21:47.13 ID:+FkWuHHAO

否定できないな。古泉はともかく閉鎖空間を出さないように努めていやがるし、人は誰でも痛い目をみたくないって思っているからな。ハルヒの力ならそれは可能だろう。

「それだ。いいかい、古泉君達超能力者は閉鎖空間を出さないようにしてきた。それはつまり涼宮さんから出来るだけ不満を取り除こうとしてきたということだ。それはつまり彼女の希望は出来る限り叶えるようにしてきたということでもある。
色々と思うことはあるが、涼宮さんが好き勝手してこれたというこれ以上ない証拠だね。
このシステムを無意識に作ったのだとしたらやはり涼宮さんの力には恐怖を感じずにはいられないよ」

ああ、俺もだ。やはりハルヒの力は恐ろしい。今まで一番近くに入れたことが不思議に思えるよ。

「『満足した豚であるよりは、不満足な人間であるほうがよく、満足した愚者であるよりも、不満足なソクラテスであるほうがよい。そして豚もしくは愚者の意見がこれと違えば、それはそのものが自分の主張しか出来ないからである。』
ミルという哲学者の有名な言葉だ。他人のことを一切考えず自らの欲を満たすためだけに行動していた涼宮さんは、果たして彼女が望むようなソクラテスであれたのかな?」

58 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:22:22.36 ID:+FkWuHHAO

俺は何も言えなかった。操られていたとはいえハルヒをあまりに悪く言うのは何となくだが気がひける。だが佐々木の言っていることは正しいことなのだろうとも理解できるのだ。

「だがそれは僕たち人間の理屈だ」

足を伸ばし深く壁にもたれかけながら佐々木は続ける。

「他人の気持ちや事情などは分からない、関係ない。だから同情も出来ない。ただ涼宮さんにとって僕らは彼女の願望を叶えるかもしれない存在であったのかもしれないな。
例えば僕たちから見たら牛や豚の気持ちなんか分からないだろ?昔の涼宮さんにとっての僕らは牛や豚と変わらなかったのかもしれないね。
僕たちが牛や豚より上位の存在であるように涼宮さんが人類より完全優位な存在であったのだとしたら、その存在を僕たちは神と呼ぶのだろうさ。
事実彼女には僕たちをたやすく御する力があったのだから」

うーむ。佐々木にしてはなんだか話がぶっ飛んだ方向に行ってる気がするんだが。

59 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:22:54.88 ID:+FkWuHHAO

「くつくつ。まあ元の話自体がかなりの非常識だからね。そうもなるさ。
だがキョンはギリシャ神話を読んだことはあるかい?あれに描かれている神々は欲望に忠実に行動しているね。
有名どころではハデスはデメテルの娘であるペルセポネをさらっているし、ヘラは嫉妬により数々の人を不幸に陥れている。その被害者としてはヘラクレスなどが有名だね。そして主神であるゼウスなんてどうだい。動物に変身して美女をさらったり姦淫したりとやりたい放題だ。
僕には去年までの涼宮さんは人類よりはこちらに近い気がするよ。現人神とでも言うのかな?」

言わんとしていることは分からなくもないさ。昔のハルヒは俺たちのことを考えない理解できない奴だったってことだろ?

あとあんま姦淫とか使わないでくれ。困る。

「おや、キミがそういったことを気にするとはね。これはいよいよ……いや何でもないさ。
まあいい続けようか。話はここでは終わらない。涼宮さんはキミたちSOS団を通して人の心を理解したんだろうね。神的存在から人間への移行、これは果たして進化なのか退化なのか。くつくつ、これだけで本が一冊書けそうなくらいロマンチックだと思わないかい?」


60 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:24:47.47 ID:+FkWuHHAO

さあな。残念ながら生まれてこのかたロマンチックなどという言葉とは関わったことがないものでな。

「おや、今の僕たちを端から見てみればベッドに腰掛けて語り合う二人。なかなかロマンチックだと思わないかい?」

残念ながら話している内容がロマンチックとは正反対をいっているからな。俺から見たらそうとは言い難いぜ。

「くくっ、その通りだねキョン。
さて、彼女はめでたく、と言うかは分からないが僕たちと同じ目線を得たんだ。では僕たちが一番彼女にしてはいけないだろうことは分かるかい?」

佐々木は風を捉えた鳥のように流暢に語る。いわゆるのってきたというやつであろうな。

俺と話しているときの佐々木は本当に楽しそうである。内容を理解出来ないことが時々あるが俺にとってもこの時間はなかなか楽しいものなんだ。まあ気づくのがかなり遅くなってしまったかもしれないがな。

61 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:25:35.84 ID:+FkWuHHAO

「涼宮さんに彼女の力について話すことさ」

おいおい、そんなのあいつが昔、お前が言うように神様みたいなときに言っても駄目なことだろうが。

「確かにそうさ。しかしもし彼女が去年の彼女のままであったならばまだ対処できるだろう。可能かは分からないが宇宙人達が総力で記憶を消したりなどが考えられるね。
だがもし今の涼宮さんに打ち明けたとしたらほぼ確実に世界が崩壊するよ。運が良くても超大規模な世界改変が行われることになるだろうね」

佐々木よ、その考え方ならば昔のハルヒに打ち明けた場合は世界崩壊は起こらないということか?

「おそらくは。というかキミは一度打ち明けたんだろ?くく、打ち明けるならば古泉君か長門さんの協力が必要なようだ。
推論だがね、去年の涼宮さんにはその行動から他の人間は自分のために行動すべきだという考えが強くあったのだろう。そのような考えの人が自分にそのような力があったとしたらどうするか。まず当然だと考え自らの欲望を満たすために行動するだろうさ。その状況に何も違和感を覚えずにね。先ほどの例えを用いるならば人間が牛や豚を利用するのは当然だろ?それと同じさ」

62 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:26:07.88 ID:+FkWuHHAO

なら今のハルヒはそうは思わないってことか?

「今の彼女は一般人同様の幸せを掴んでるんだよ。好き勝手やっても自分についてきてくれる仲間。仲間たちと過ごす放課後、仲間たちと町へ繰り出す休日。実に充実した高校生の生活だ。
加えて彼女はその仲間を大切に思い気遣っているようだ。春の一件などは顕著な例だ。今まで自分のためにしか力を使ってこなかった涼宮さんがキミ達のために力を使ったんだったね。これはキミ達SOS団の重要度が彼女自身と同程度になったからだとも推察できる。
また……これは僕が言うべきかは分からないが、こんな状況だからね。涼宮さんはキミに対して好意を抱いているであろう。キョン、気づいていたかい?」

……ああ、何となくだがな。朝比奈さんや古泉にかなりあからさまに色々と言われてるんだ。そりゃまあ気がつくさ。

ハルヒの行動が俺の中の一般常識的な好意の示し方とは悉く異なっていたからうっすらとではあったが、ハルヒの力とやらが俺に作用していたことを知った今となってはやっぱりか位には思ってるよ。

63 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:26:46.35 ID:+FkWuHHAO

「なるほどね。まあつまりは涼宮さんは意中の相手にちゃんと好意を向けられていたことになる。それが彼女の力によるものかどうかはここでは置いておこうか。
つまり涼宮さんは僕ら一般人が望む生活を全て手に入れていたことになるんだ。楽しい高校生活、恋愛事情、仲のよい家族、学力運動神経は非の打ち所なし。まさしく全てだ。くつくつ、ここまで完璧だと本当に宇宙人たちを発見したいのか疑問になってくるけどね。
ではその生活が彼女の力によるものだと知ったらどう思うだろう」

佐々木は長い溜息を一つつく。

「おそらく想像を絶する絶望だと思うよ。キョン、キミが今まで感じていたものとはそれこそ桁違いのね」

確かにそうだ。ハルヒの力はまさしく何でもあり。今の幸せな家族もハルヒのあまりにも高すぎるスペックも、そして俺たちSOS団も全部偽りの物だと知ったらどう思うだろか。

事実長門や古泉、朝比奈さんは元々は自分たちの目的でハルヒに近づいてきた。そして俺も含めてハルヒにあまりにも多すぎる隠し事をしてきた。

生まれてからの世界全てが否定されてきたようなものじゃないか。絶望などという言葉ではあまりにも軽すぎる。世界を崩壊させるのも当然だろう。

64 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:27:21.33 ID:+FkWuHHAO

佐々木はどこか疲れたような、何事かを憂いている様に笑った。

「涼宮さんには悪いけどね、僕は本当に願望実現能力など持っていなくてよかったと心から思うよ。その力を持ったことで彼女の人生はねじ曲げられたんだ。
小学生の頃の涼宮さんはね、明るくて気もきいて、確かに無理矢理なところもあったみたいだけどキミから聞いたようなひどい行動を取るような人ではなかったんだよ。
中学生の時期は大抵の人は突拍子のない行動を取ってみようと思うものだ。だが普通は社会によって矯正される。それが社会の仕組みだからだ。
だが涼宮さんはその力と、そして力によって生まれた『機関』によって社会から守られてきた。まるで母親の子宮に守られる赤ん坊のようにね。
そしてキミ達と出会い、彼女はまたSOS団という別の城にそうとは気づかずとも閉じこめられているのさ。欲しい物を与えられて満足しながらね。
城の中で成長した彼女が閉じこめられてきたことに気がついたとき、どう思うんだろう」


65 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:28:02.21 ID:+FkWuHHAO

佐々木……。

「僕に言わせてみれば、未だに彼女が自分の力に気づいていないだけで奇跡だよ。僕なら絶対に耐えられない。絶対だ。そして、おそらく今の涼宮さんにも耐えられないだろう。
もしだ。涼宮さんの力が消失したり僕に移したとしたら彼女を守っていた物がなくなってしまうんだ。そのときまた別の彼女を守る存在が必要になるだろう。もしかしたら、涼宮さんがキミを求めるのはそういった理由なのかもしれないね。
春の一件の時、僕はキミは何があっても涼宮さんの為に行動し決して側を離れないだろうと感じたのさ。たとえ、SOS団が無くなったとしてもね」

確かにあの時はSOS団は不滅だとか何よりも強い絆で結ばれてるだとか考えていたさ。現実から目を背け本質をよく見極めることすら怠っていたのにな。

お前の言うとおり、あの時の俺ならば何があってもハルヒのために働いただろうと思うぜ。多分、その結果俺が死のうともだ。

66 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:28:28.10 ID:+FkWuHHAO

「涼宮さんは普段、キミに涼宮さんにとって都合が悪いことを深く考えないようにさせていたのかもしれないな。
それならキミの考えを一から十までいじるよりずっと楽だろうしさ、僕があまり中学生の頃のキミと今のキミに差異を感じないのはそういった理由かもね」

ハルヒの悪いところはあまり気にならず、良いとこだけが俺の頭に残るって感じか?

「推論に過ぎないけど。この推論の上では長く一緒にいるだけ悪いところより良い部分の方が強く印象に残るだろうからね。涼宮さんの脱神的性格化を考慮すると尚更だ。
何よりキミは一応自分の意志により選ぶことになるからね。そちらの方が涼宮さんにとっては都合がよかったのかもしれない」

神的性格どうこうよりは納得のいく、受け入れやすい推論だと思うぜ。

だが他にも気になることがある。なあ、佐々木よ。そのハルヒの途方もない力を受け入れられるお前は一体何なんだ?放っておいても問題ないのか?


67 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:29:15.09 ID:+FkWuHHAO

「どうなんだろうね。橘さん達には何も言われなかったしあまり気にしてもしょうがないんじゃないかな。閉鎖空間を出していることで僕が困ったことはないしね」

長門にでも聞いてみるか?

「うーん。何か困ったことがあったらお願いするよ。
キョン、僕はね、本当にたまたまこんな力を持つだけだと思うんだよ。多分それは涼宮さんも同じなんだ」

どういうことだ?

「こうイメージしてみてくれ。人はコップを一つ持っていてその中に色水が入っている。色水は色も濃さも人それぞれで異なるんだ。それが社会という湖の中に浮かんでいる。コップの中の水が湖に入り湖の色を変えるかもしれないし、逆に湖の水がコップに入ってコップの色水の色を変化させることもある。普通は前者より後者の方が圧倒的に強いけど、同じような色が多く集まることで湖の色を大きく変えることが可能かもしれない。淀みを取り除くことは難しいが淀ませることはたやすく、しかし違う色が上手く調和すれば見事な色となる。これを世界の仕組みだと思ってくれ。
そして僕や涼宮さんはね、湖の水が入らない高い場所にもう一つコップを持っているんだ。涼宮さんの物には中身が入っていて僕の物は空だ。涼宮さんのコップの中身はものすごく濃い色水で簡単に湖や他のコップの色水の色を変えてしまう。これが涼宮さんの力の正体だ。
藤原君たちはその水を涼宮さんのコップから僕のコップに移そうとしただけなんだ。偶然余分なコップを持っていた僕のね」

68 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:30:55.03 ID:+FkWuHHAO

ハルヒの力は偶然持っていたコップに偶然色水が入っているだけだって言うのか?

「キョンは僕や涼宮さんが本当に神様に見えるかい?さっきまであれだけ言及したが結局去年までの涼宮さんの神的性格は周りの環境によって作られたものだ。僕や涼宮さんはどこまでいってもやはり人間なんだよ。
神だなんだと崇められるよりは偶然そんな力があるだけだと考えた方が僕の精神衛生上都合がいいのさ」

そうかい。いやしかしよくそんなに色々と考えつくな。俺には全く考えもつかんぜ、お前が今日話したことなんて。

「くつくつ。思考考察こそが人間の本分だと思わないかい?それにキミと話すのは僕にとってかけがえのない時間なのさ。そのためなら僕の頭をフル稼働させても十二分にお釣りがくるのだよ」

さらに佐々木はくつくつと喉を鳴らすように笑う。

いやいや楽しそうで結構なことだ。おかげで俺も大分気が楽になったよ。

69 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 17:31:21.32 ID:+FkWuHHAO

「それは良かった。親友としての役目は少しは果たせたかな。
ふふ、それじゃあこの辺で失礼するよ。大分遅くなってしまったしね。
キミがどうしたいか考えがまとまったら連絡してくれよ。キミのためなら、僕は神様にだってなれるんだから」

そういって立ち上がる佐々木。俺も佐々木に続いて立ち上がる。俺の部屋を出たあたりで再び佐々木が口を開いた。

「ああ、一つ言い忘れていた。キョン、『なぜ今になって涼宮さんの力が途絶えたか』。結構重要なことだと思うよ。考えておいてくれ」

ああ、分かったよ。

玄関に着いた。

送っていくぜ。佐々木。

「いやそれには及ばない。一日中ふさぎこむほど落ち込んでいたんだ。食事もとってないんだろ?逆に心配ごとが増えそうだから遠慮しておくよ」

そうか。今日は本当にサンキューな。助かったよ。

「礼には及ばないよ。キミは僕のたった一人の愛すべき親友だからね」

そう言い残して佐々木は帰っていった。そのときの佐々木の微笑みは女神もかくやといったもので何故かひどく心に残った。

80 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/05(金) 14:12:51.05 ID:lVTZ+M8AO

佐々木が家にきた次の日、学校を休んだ。

だってしょうがないだろ?ハルヒ達にどう顔あわすりゃいいか分からなかったんだからな。俺と同じ状況になったら誰だってこうなるさ。

そしてその次の日、つまりは今日なんだが、俺は登校している最中だ。

本当は今日も休もうかと思っていたんだがな。二日も休むんなら病院に行けというお袋のもっともなお言葉をもらい、しぶしぶと登校することになったわけだ。

結局丸一日考えてもハルヒに会って何を話せばいいか等微塵も思い浮かばなかった。定期テストに何の準備もせずに繰り出すような気分だぜ全く。

まあ懸かっているものは高校の成績なんてもんじゃなく世界の存亡って言うんだからふざけた話だ。

俺が今までこんなギリギリな生活をしていたと思うと数日前の俺は何てお気楽な脳みそしていたんだって自分のことながら呆れてくるね。

たった一言ハルヒの機嫌を著しく損ねることを言っただけで世界崩壊の秒読みが始まりかねない。俺はそんな状況に一年、それもハルヒのもっとも近くに身を置いていたことを考えると我ながら正気を疑う。


81 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/05(金) 14:14:36.85 ID:lVTZ+M8AO

だが古泉も古泉、朝比奈さんも朝比奈さんだ。

色々と話を聞いたあのとき、ハルヒについてもっと詳しく教えてくれればよかったんだ。そうすれば俺はハルヒの力の異様さに、ハルヒの影響を受けていたとしても気づいたかもしれないんだからな。

……ああ、分かっている。そんなことはあり得なかったってことにはな。もう分かりきったことではないか。どうやらハルヒは俺に好意を抱いているらしい。むずがゆくなる話だが恐らくは事実なんだろう。

ならば当然古泉や朝比奈さんはハルヒにとって都合の悪い、俺がハルヒやSOS団から離れてしまうことは間違いなく、口が裂けても言わなかっただろうよ。

ではハルヒを信仰している古泉たち『機関』や未来からきた朝比奈さんは俺をどうするのか。

決まっている。俺をハルヒに人身供養として差し出すんだ。古泉は世界のために、朝比奈さんは未来のためにという大義名分の上でな。

思い返せば古泉も朝比奈さんも俺にハルヒを選ばせようと様々なことを言ってきたような気がする。

82 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/05(金) 14:15:04.37 ID:lVTZ+M8AO

そう考えると朝比奈さんにつれられて何度か四年前の七夕へと行ったのは俺に、そしてハルヒに、よりお互いを意識、さらに言えば刷り込みのようなものをさせる為なのかもしれん。

そうすればハルヒが俺との再会や俺が話した宇宙人未来人超能力者の話を願えば簡単に未来人の望む展開になるというわけだ。北校でSOS団を作るっていう展開にな。

そうなったらハルヒの力、超能力者、未来人が力を合わせて俺がハルヒを意識するように仕向ければいいだけだ。

くそっ。自分で言っててここまでこっ恥ずかしくなるようなことなんて他にあるかよ。だが事実なんだからしょうがないだろ。

結局俺はその通り、自分でもあり得ないと思うほどハルヒやSOS団が大切になってしまったん訳だ。今は正直、あいつらをどう思っているかなんてよく分からないんだが。

ここで問題となってくるのは何故ここまで上手くいっていたのに俺に対するハルヒの力が無くなったかということだ。

奴らが目指すゴールまではあと少しだったはずだ。何故、よりにもよってこんなゴール直前で?

分からん。全くもって分からない。

この謎が解明すれば、俺は自分がどうすべきか分かるのか?

85 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:54:59.75 ID:ntz8/YlAO

まあ一日悩んで思いつかなかったことを家を出て学校に着くまでの間に閃くなんて都合の良いことを期待していた訳ではないんだがな。

気がついたら、入学して何回往復したか分からん例の坂の麓まで来ていた。

入学時はあれほどまで苦行に思えたこの坂もいまではただの日常の一部に組み込まれている。やれやれ、習慣ってのは恐ろしいな。

ただ今日はいつもと違い、道の脇に古泉が待機していたわけだ。

どうやら、というよりやはり俺を待っていたらしい。俺の姿を視界にいれたとたんに歩み寄ってきやがる。

……おい、何でそんなとこで待っていやがんだ。滅茶苦茶浮きまくってんだよ馬鹿野郎。浮きまくってるお前に近寄ってこられる俺のことをもっと考えろってんだ全く。

「どうも、おはようございます」

……よう、っておい。お前が待ってるって事は俺が今日登校するのを知っていたって事だよな。

「ええ、失礼ながらあなたが家を出たと連絡を受け、待ち伏せさせていただきました。
何せ、あなたの対応次第では世界が変わってしまうこともあり得るのですから。どうしても涼宮さんと出会う前に話しておきたかったのですよ。それとあなたが休んでいたときの情報も必要でしょう?」

86 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:55:29.36 ID:ntz8/YlAO

古泉はそう言いながら俺と並んで歩きだした。いや、訂正。登りだしたってのが正しいな、うん。

古泉には一応頷いておいた。確かに休んでた時の情報は欲しい。ハルヒ云々に関わらずな。

そういえば学校に休むって連絡いれてねーな。

「ご理解いただけたようで幸いです。
さて、ひとまず伝えておかなければならないことですがあなたは順当に風邪で休んでいたということになっています」

順当も順当だな。学校に連絡してないがそれでも問題なかったのはお前等の仕業か?

「ええ、数日休むことが予想されたため先に手を打たせてもらいました。
それとあなたのご両親から北校へは連絡はされましたよ?まあ全てこちらで対処させていただきましたが」

おお、それは助かった。いやいや岡部から色々と言われるのは勘弁だからな。

「あなたの場合教師よりも気をつける相手がいるでしょう?」

ああ、ハルヒか。この数日間全く連絡がこなかったが……それもお前等か?

「ええ。ただ長門さん達の力ですがね。どうやら彼女たちは今回の件で今まで以上に涼宮さんの力に対応できるようになったみたいですよ」

87 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:55:58.12 ID:ntz8/YlAO

どういうことだ?

「詳しくは分かりません。ただ長門さんは実際に涼宮さんからあなたへの連絡手段を完全に封じたのは確かです。
ふふ、それはもう凄かったですよ。恐らく涼宮さんからあなたへ電話をかけた回数は優に100を越えているはずです。
機関だけでは楽々突破されていたはずですが……長門さんは余さずシャットアウトしました。
さらに直接あなたの家に行くと言い出した涼宮さんが、僕や長門さんは止めましたよ?、絶対にあなたの家に辿り着けないように道路工事を配置したり交通機関をズラしたりと。
おかげで閉鎖空間の処理で大忙しでしたよ。僕たちとしては電話くらい……とは思ったのですが長門さんが絶対に駄目だと」

よくよく見てみれば古泉の顔にはうっすらと隈があり、最近ほとんど出なかった閉鎖空間の対処に大忙しだったことは確かなようだ。

古泉には同情するが、だがやはり長門には感謝だな。ハルヒから電話が掛かってきたとしても下手したら、いや十中八九閉鎖空間の乱立に一役買うことになっていただろうよ。

88 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:56:25.33 ID:ntz8/YlAO

今の俺の立場になって十分な心の準備なしにハルヒの訳分からん理論で喚かれてみろ。電話を壁に打ちつける羽目になってもおかしくないんじゃねぇか?そしてその後は恐らく全無視だな。

もしハルヒが直接家に来ていたら、最悪だ。下手したら感情のままに全部打ち明けてしまうかもな。さらには今度こそ本気で殴ってしまうかもしれん。

ああ、世界、終わるな。

「どうかしましたか?」

俺が黙っていたからか古泉が声をかけてきた。驚いたことに俺たちはすでに校門近くまで来ていた。いやいややはり習慣というのは恐ろしい。

「あ、言い忘れていましたがこの件は未来人の組織には伝えてありません。なので朝比奈さんには悟られないようお願いします」

は?何でだよ。

「あちらとしては自分達の世界が掛かっていますからね。何をしてくるか予想が出来ないのですよ。まあもうすでに知られている可能性も低くないですが。
それともし情報が漏れた場合、他の組織及び『機関』の過激派があなたに害を加えないように長門さんに頼んでいますから一応長門さんに話を聞いておいてください」

89 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:56:51.95 ID:ntz8/YlAO

いや、長門には元から話をしにいく予定で……っておい!他の組織に過激派だあ?何でそんな物騒なことになってやがんだ!

「あなたの存在がそれだけ重要と言うことですよ。春先の件で橘京子達があなたへと接触したことをお忘れですか?」

「確かにそうだが、だからってな」

そう文句を言おうとしたが昇降口についてしまった。

「とにかくですね、涼宮さんはかなり機嫌を損ねていると考えられます。
あなたも思うところがあるかもしれませんが気をつけて対応してください。あなたの対応次第で世界が崩壊しうるということをお忘れなく」

では、といって古泉は自分のクラスのげた箱の方へと歩いていった。

言いたいことだけ言って行きやがってだとか、何でまたそんな物騒なことになっているんだとか頭ん中で悪態を付きながら上履きを取り出し、履こうとして、気づいた。

古泉は、俺が今まで通りハルヒのご機嫌をとって当たり前だと思っているのか?

90 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 01:58:04.23 ID:ntz8/YlAO

今のあいつとの会話を思い出してみろ。

俺を気遣っているように見えたが結論までは迷いなしの一本道。

『俺が今まで通りハルヒと接する』

これだ。

結局のところ古泉は世界の危機とやらをちらつかせて俺にハルヒの機嫌をとるように要求してきた。今まで通りな。

そりゃ古泉達からしたら数日俺と連絡が絶たれただけで閉鎖空間大量発生と言うんだから是が非でも俺を利用したいんだろう。確かに納得できる理由だ。

だがそれはいつまでだ?高校を卒業するまでか?大学を卒業するまでか?十年?二十年?ハルヒの気持ちとやらを考えると一生か?

俺はいつまで、涼宮ハルヒの「わがまま」に付き合って振り回されなければならないんだ?俺に拒否権は存在すんのか?


結局俺は谷口の野郎に肩を叩かれるまでずっと答えの見えない問いについて考える羽目になった。

164 名前: ◆wnqZL2EXE.[sage] 投稿日:2012/02/12(日) 19:43:47.57 ID:9Zf7jk+AO

生きてます



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