ハルヒ「鬱だ、死のう」


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1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:43:10.18 ID:pQ8U3muAO

サンタクロースを以下略
 うすらぼんやり――中途略――替わりに後ろの席の奴が立ち上がり――ああ、俺は生涯このことを忘れないだろうな――後々語り草になる言葉をのたまった。
「東中出身、涼宮ハルヒ」
 ここまでは普通だった。真後ろの席を身体をよじって見るのもおっくうなので俺は前を向いたまま、そのか細い声を聞いた。
「――の人間には――ありません。――中に―――、―――、――――、――――、が居た――あたしの――――来な――」
「ちょお前何を言って……「すまん、涼宮。声が小さくてよく聞こえなかった。もう一回良いかな?」」
 クラス内で唯一涼宮ハルヒの自己紹介が聞こえていたらしい俺の一言は岡島教諭の俺以外のクラス全員の当然の要望を代弁した声にかき消され……
「あ、はい。東中出身の涼宮ハルヒです。みなさん仲良くしてくださいね」
 俺が聞いたのとは全く別の『普通』の自己紹介をしていた……。

2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:45:39.72 ID:pQ8U3muAO

 そのままなんの滞りも無く自己紹介は終了したが、俺は涼宮ハルヒが言い放った最初の一言が頭から離れなかった……確かに彼女は言ったのだ俺にしか聞こえないようなか細い声で。
「ただの人間には興味ありません」ってな。
 ありえない。本音にしろ冗談にしろ新学年始まってすぐの自己紹介でそんな台詞を言う奴なんて存在するはずが無い。
 まして彼女……涼宮ハルヒはやや伏し目がちな点を除けば単なる一人の可憐な美少女なのだ。
 その彼女がなんであんな事を……
 しかも涼宮ハルヒはこう続けた「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が居たら……」これが涼宮の後ろの席の谷口とかいう男子ならくだらない冗談だと流せただろう。
 しかし彼女は何度も言うが黒髪長髪ストレートで黒い瞳が可憐な美少女なのだ。
 なにが悲しくてあんな電波発言を……つい気になってしげしげと観察してしまう。

3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:46:55.48 ID:pQ8U3muAO

 すると。
「あ、あの……」
 向こうから話かけてきた。
 変人疑惑がかかっている奴であろうと美人に声をかけられたら舞い上がるのが男の宿命だ。しかし労せずアチラから来てくれるとは、案外積極的なのか?
それにしても可愛い。
「すいません、あたしが悪かったです!」
 いきなり謝罪された。逆にこっちが戸惑う。
「どうした涼宮。お前、俺になんかしたか?」
「えっと、こっちをあんまり見つめてくるから……またあたしが何かしちゃったのかな?って……」
 とりあえず涼宮ハルヒは今時珍しい程の加害妄想の持ち主だという事がわかった。普通は「なにジロジロ見てるのよ!」とか怒るとこだろ。
「いや……気にしないでくれ」
 予想外の反応に驚いて俺が返答につまると。
「じゃあ、あたしの顔になにか付いてたりする?」
 少し照れたように笑いながら訊いてくる涼宮があまりにも愛らしく。

 ――俺は訊きたかったことが全てどうでも良くなった。

5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:50:40.41 ID:pQ8U3muAO

 このように一瞬にして俺のハートをいろんな意味でキャッチした涼宮ハルヒだが、翌日以降しばらくは割りとおとなしく一見無害な女子高生を演じていた。否、どこかの誰かが勝手に眠れる獅子を起こさなければハルヒは永遠に無害な女子高生のままだっただろう、だけどハルヒと関わった後の俺なら自信を持って言える。
「だってそっちのほうが面白いじゃないか」ってな。 で、俺は今日も世界の神秘涼宮ハルヒにまた話しかけていた。もちろん話題はあのことしかあるまい。


6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:52:06.49 ID:pQ8U3muAO

「なあ」
 と、俺はさりげなく振り返りながらさりげない笑みを満面に浮かべて言った。
「しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」
「最初のって皆と仲良くしたいっていうのは全部本気で……」
 伏し目がちに席に座っていた涼宮ハルヒはそのままの姿勢でこちらを見上げてきた。
「違う。そんな人畜無害な全年齢対象の自己紹介じゃない」
「え?」
 心底不思議そうな涼宮ハルヒ。
「いや、だから宇宙人がどうとか」
 たちまち涼宮ハルヒの顔が青ざめて行く。
「き、聞こえてたの!?」
 凄まじい勢いでハルヒが食い付いてくる。
 そのひょうしに目が合う……綺麗だ。
「まあな」
「……そう、どうせ変な女だとでも思ったんでしょうね……」
 先ほど以上に目線を落とし何やらブツブツ言い出すハルヒ、下手したら泣き出しそうだ。
 ――クラス中の視線が痛い、朝倉委員長に見つかったら死刑だろう。
「落ち着け。確かに驚きはしたが変だなんて思わない。寧ろ羨ましいぐらいだ」
「どうせあたしみたいな奇人は誰にも相手にされず寂しく生涯を終えて閻魔翌様にも相手にされず地獄にすら行けないで永遠に現世で独りぼっちで……え?う、羨ましい?」
「ああ、宇宙人やら未来人やら異世界人やら超能力やらが居たら楽しいに決まってるだろ?だけど皆諦めてる、居るわけねーだけど居たら良いな。みたいに最大公約数みたいな考えで納得してる。なのにお前は夢をおいかけてる。偉いと思うし……」
「思うし?」
「いや……なんでもない」
 さすがに言える訳がない。
 出来るのなら俺も一緒にその夢を追いかけたいなんて恥ずかし過ぎる台詞はな。

7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:54:18.12 ID:pQ8U3muAO

 別段一人で飯食うのは苦ではないがやはりみんながわやわや言いながらテーブルをくっつけて食事するなかで一人きりなのもなんなので俺は同じ中学で比較的仲がよかった国木田とたまたま席が近かった谷口と食事を供にしていた。
 涼宮ハルヒの話題が出たのはその時である。
「貴様、この前涼宮に話しかけておったな」
 何気にそんな事を言い出す谷口。まあ、うなずいとこう。
「わけの解らんことを言って口もきいてもらえんかっただろう?」
 そんな事はなかったがな。
「もしアヤツに気があるのならば、悪いことは言わぬ、やめておくがよい。涼宮が常軌を逸しておるのは明白であろう」
 中学で三年間同じクラスだったからよく知っておるのだがな、と前置きし、
「高等学校に進学すれば多少は落ち着くかとも思ったがな」
「そうかな?涼宮さんって少しばかり内向的だけど、そんなに変わっているとは思えないんだけど」
 焼魚から骨を細心の注意で取り除いていた国木田が口を挟んだ。
「ふん、それこそがアヤツのやり口よ。無害で気弱な子猫を装いながらも裏では妙なことばかりしておったのだ。有名所で言えばあれか……校庭落書き事件」

8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:56:16.05 ID:pQ8U3muAO

「何だそりゃ?」
「ふむ、聞きたいか、ならば話そう石灰を使い白線を引く道具があるであろう。それを使い校庭にこれ見よがしに巨大な絵文字を書きおったのよ。しかも夜中に校舎に侵入してな」
 その時のことを思い出したのか谷口は愉快そうに笑った。
「まったく驚いたわ。朝登校してみればグラウンドに丸やら三角やらで奇っ怪な模様が描かれいてな。近くからでは全貌が把握できんので校舎の四階から見てみたがやはり解らんかった」
「あ、それ見た覚えがあるな。確か新聞の地方欄に乗ってなかった?航空写真でさ。出来そこないのナスカの地上絵みたいなの」
 と国木田が言う。俺には覚えがない。
「その犯人が涼宮だと?」
「本人が言ったのだ間違いあるまい。他にも色々やっておったぞ、朝教室行ってみれば机が全て教室から出されていたこと、校舎の屋上にペンキで星マーク、学校中にお札を貼っていたこともあったか……」
「他にも何かあるの?」
 興味を持ったのか国木田がせっつく。
「ウム、キョンにはショックがデかいかもしれんが伝えおくぞ。アヤツはクラス中の男子と付き合ったのだ」

9 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:57:56.05 ID:pQ8U3muAO

「でも、それって全然涼宮さんのイメージに合わないよね。まさか彼女がネガティブなのを利用して谷口達……」
「馬鹿を言うな!この我を見損なうな!アヤツは何故か告白を断ろうとせんのだ、まったく何人の男がキャツに煮え湯を飲まされたことか!」
「なんだ、涼宮に散々なにか奢らさせた後に捨てられたのか?」
「違う、断らんくせに何もせずに別れる。男には理由がさっぱり解らん、だから奴は変人なのだ」
「しかし信じられないな、あの涼宮さんがね……」
「ハッ、女なぞ得てしてその様な物だ。それに涼宮とて昔から今の様だった訳ではない」
「でも、それって全然涼宮さんのイメージに合わないよね。まさか彼女がネガティブなのを利用して谷口達……」
「馬鹿を言うな!この我を見損なうな!アヤツは何故か告白を断ろうとせんのだ、まったく何人の男がキャツに煮え湯を飲まされたことか!」
「なんだ、涼宮に散々なにか奢らさせた後に捨てられたのか?」
「違う、断らんくせに何もせずに別れる。男には理由がさっぱり解らん、だから奴は変人なのだ」
「しかし信じられないな、あの涼宮さんがね……」
「ハッ、女なぞ得てしてその様な物だ。それに涼宮とて昔から今の様だった訳ではない」

10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 19:59:16.56 ID:pQ8U3muAO

 ――その時、涼宮ハルヒの過去を思わぬ形で突きつけられた俺は……
ただ――嬉しかった。
 自分の知らない涼宮ハルヒを知っている人間が居る、東中の奴はクラス中に結構な数が居て俺が知らない涼宮ハルヒを見て、涼宮ハルヒと話していた。
 それが悔しくないと言えば嘘になる。しかし谷口は知らない、いや谷口以外の奴も俺以外は知る筈がないのだ、涼宮ハルヒがまだ諦めてはいないことを。
 俺は知っている俺だけが知っている涼宮ハルヒの『今』それは俺が知らず谷口達が知る『過去』に比べ何千倍の意義があるものだ。
 涼宮ハルヒはそのポジティブだった自分を失っても『非日常』を捨ててはいなくて……一緒に探せるのは俺一人だという事実が――俺にはたまらなく嬉しい。胸が高鳴る、そうコレこそがハルヒと俺が共有した一番最初の二人だけの秘密だったのだ。

「キョン、キョン!貴様戻ってこんか!」
「ぬわ!なんだ谷口どうした?」
「貴様、人が話しているにも関わらず……まあ良い我が言いたいことは一つだ涼宮に関わるな。以上だ」
 谷口悪い、多分それ無理だわ。
 かくして俺は今日も涼宮ハルヒに話しかけている。

11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:01:34.98 ID:pQ8U3muAO

「ちょいと小耳にはさんだんだけどな」
「なに?……ああ、うんどうせ悪口でしょ?」
「いや別にそういう訳じゃないんだが。付き合う男を全部振ったって本当か?」
「――っ!な、なんで知ってるの!」
 心底驚いた顔の涼宮ハルヒ。
「出どころは谷口?ああ高校まで来てアイツと同じクラスだなんて。せっかく友達が出来そうだったのに……もう駄目だこんな尻軽女となんて誰も口もきいてくれないんだ……」
 まったく、そこまで傷付くぐらいならなんでそんな事したんだ?ともあれ今の発言で二つだけ猛烈に気にくわない部分があった。
「涼宮。色々言いたいことは有るがまずは一つ言わせてくれ」
「へ?」
「『出来そうだった友達』という表現は適切じゃない」
「……うん」
 まただ、また俺の前でそんな辛く淋しそうな顔をする。
 ――それが俺は嫌なんだよ。
「なあ、涼宮。出来そうだったなんかじゃない。俺達はもう友達だろうが」
「――キョン君」
「次にそれだ。アダ名で呼ぶのはまだ良い。でも『君』はやめろ、俺も今後はお前を『ハルヒ』と呼ぶ」
「キョンく、キョン……本当に良いの?」
「良いも悪いも無いだろう――ハルヒ」
 うん、意外と恥ずかしいな。

12 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:02:57.62 ID:pQ8U3muAO

「……」
「……」
 お互いに黙り込む。
 ガタン!
 するとハルヒは沈黙に堪えかねたのかアイツにしては乱暴な動作で椅子から立ち上がり何処かに立ち去ってしまった。まあ、泣かせてしまったわけでも怒らせたわけでもないからおとなしく帰りを待つことにする。
「おめでとう。心の底から祝福するよ」
 国木田がいきなり現れて俺に何故か祝福の言葉を投げ掛ける。
「国木田。盗み聞きとは良い趣味じゃないな」
「盗み聞きとは心外だな。教室の真ん中でラブコメしてる方にも責任はあるとおもうけど?」
 純朴そうな顔して言うときは言う男、それが国木田だ、みんな大人しそうな容姿に騙されるなよ。
「まったく、見せ物じゃないんだ。ほっといてくれ」
「見てたのは僕だけじゃないけどね」
 その言葉にふと周りを見渡すとクラスメートの数人が妙に生暖かい視線でこちらを見ていた。後で知った所によるとそいつら全員東中出身だった、この場にまだ谷口が登校していないのが唯一の救いだ。

13 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:04:33.47 ID:pQ8U3muAO

「でもよかったよ、涼宮さんもいつまでもクラスの中で遠慮ばかりされるとこっちも気をつかうからね。涼宮さんに呼び捨てで呼び合う友人が出来たのは幸いだよ」
「私も同感だ。国木田君」
 その声の主は、突然その場に現れた第三の人物。谷口の美人番付によるとAAランク+の美少女朝倉涼子だった。
「私も涼宮さんがクラスに馴染めきれていない現状を憂慮していた。君のようなものが彼女とクラスの架け橋になってくれるのなら嬉しい」
 谷口曰く「容姿端麗、文武両道な上に性格もよろしい最上級の女」らしいがその口調は軍隊の上官そのものだ。ちなみになぜ彼女がこんな委員長みたいな心配をしていたのかというと委員長だからだ、この前のホームルームで反対票0であっさり認証されている。
「あのな、国木田も朝倉も少し大袈裟だぞ?単にこれは俺とハルヒがだな……」
「ハルヒか、いいね名前で呼び捨てかい?」
 ちゃかすな国木田。
「ともかく、彼女は君の言うことなら耳を貸すようだ。私や他の者ががいくら話しかけても謝られてばかりで話が進まないのだからな」

14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:05:40.34 ID:pQ8U3muAO

 ……それは貴女様の口調が怖いからではないのでしょうか?
とヤバいことはモノローグで言っておく。
「しかし、この前の髪型の一件もある。彼女は感じやすい娘だ大事にしてやれ」
 髪型の一件とはハルヒは一時期毎日髪型と髪をしばるリボンの色を変えて登校していたのだ。
 具体例に言えば月曜日はストレート火曜日はポニーテール、水曜はツイン……と週が進むごとに髪を束ねる本数を増やしていき月曜日にはまたストレートに戻るといった感じだ。
 当然、なんでそんな髪型にするのか理由を気にするお節介な女子が現れて本人に理由を尋ねるが謝るばかりで会話がいまいち成立しない。
 しかし何故かは知らんが俺が理由を訊くと、あっさりと教えてくれた。
 なんでもハルヒには曜日によって感じる色と数字のイメージがあるらしい、月曜は黄色。火曜が赤で水曜が青で木曜が緑、金曜が金色で土曜は茶色、日曜は白、数字にすると月曜がゼロで日曜が六といった感じらしい。
 ――で俺が軽い気持ちで「俺は月曜は一って気がするけどな」と告げたらハルヒはあっさりと次の日にあの長かった髪をばっさりと切って登校してきた。

16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:07:32.40 ID:pQ8U3muAO

 腰にまで届こうと伸ばしていた髪を肩あたりで切り揃えた新しい髪型も確実に似合ってはいたが俺はかなり動揺し、当然ハルヒに理由を訊いた。
 すると「月曜がゼロなんて変な奴だと思われたかと思ったから」等と言い出した、そりゃないだろ?
 確かに俺はハルヒの意見に異論を唱えたが月曜が一かゼロかなんて個人の感性だろうが。
 と俺はハルヒ指摘しようして気付いたのだ、コイツは徹底的に自分に自信を持てず他人の目を気にして生きているのだ、俺が説教なんてしようものならまた塞ぎ込んでしまうだろうとな。
 ちなみにその後俺は朝倉達女子軍団に散々責められた「まったく涼宮さんにそんな酷いこと言って!」「女の子があそこまで伸ばした髪を切るっどういうことか分かるの?」「君も涼宮さんに最も近い人間としての自覚を持ってもらわんとな……」てな具合だ。
 以来俺はハルヒの意見には全肯定だ異論など表情にもださない。

17 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:09:38.09 ID:pQ8U3muAO

 ――五月、大型連休も無事に明け俺も親戚の家から無事帰還し北高に向かう、ハルヒに会うために……後、まあ勉学にも勤しむ為にな。
 この頃になるとハルヒも俺に大分馴れてくれたのか毎朝のように話しかけてきてくれる。
 これまでの一ヶ月の間にハルヒはハルヒなりに髪型を毎日変えたりと努力はしていたらしいのだが未だに不思議な出来事は俺達の前に姿を現していなかった。
「部活の仮入部はどうだった?」
「うーん、いまいちかな。不思議な部なんて中々無いだろうな、とは思ってたけど」
 まあ、そうだろうな。
 そもそもこんなに常識的な県立高校にコイツが求める『非日常』が存在する筈ないのだ。
 それでも『非日常』を求めるのなら手段は一つ。
 自分が『非日常』になるか『非日常』を探しに行くしかない。
 そして俺は痛切に感じているのだハルヒと一緒に『非日常』を探しに行きたい、と。
「どうしたの?」
 会話の最中に上の空だったからだろうハルヒが俺の顔を覗き込むようにして訊いてきた。

18 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:11:04.90 ID:pQ8U3muAO

「いや、なんでもない。それより結局部活はどうするんだ?」
「このままだと帰宅部かな?気に入った部活動も見つからなかったし……」
 と言って視線を下げる。コイツのことだ入部できなかった部活関係者各位に申し訳なく思っているのだろうが……気にするな、お前を満足させられなかった向こうが悪い。
「じゃあやっぱり作るしかないか……」
「作るって何を?」
「何って、部活だよ部活」
 ハルヒは何のことを言っているのか分からないといった表情で何回か目を瞬かせ……
「ええ!」
 珍しく大声をだした。
「部活を作るって……あなたが?」
「違う。俺とお前で、だ。まあ、今の所それ以外はノープランだが」
「ふ、二人で作る……」
 何故ここで赤くなる。俺の計画性の無さに呆れるとこだぞ、ここは。

22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:15:36.78 ID:pQ8U3muAO

「そうと決まれば善は急げだ。早速昼休み辺りに部室を探しに行ってくるから、ハルヒは提出用の書類とかを準備してくれ」
 柄にもなくテキパキ仕切る俺。
「書類って……でも具体例になんて書けば良いのかな?」
「不思議探しで良いじゃないか」
「駄目だって!そんなんで許可される訳ないよ!」
 そういや初期の頃に比べればハルヒの口調もくだけてきたな、嬉しい限りだ。
「ボランティア活動に従事するとか、生徒の悩み相談とか適当で良いだろう?今日中にに書いといてくれ」
 多少強引だがこうでもしなければコイツは一日中後ろ向きな思考で自分を苛めているだろうから仕方ない。
「きょ、今日中!?」
「ああ、俺の方も部室と部員のことは今日中になんとかする。時にハルヒ。現在文化系の部活で一番部員数が少ないのはどこだ?」
 全ての部活に仮入部した涼宮殿にお伺いをたてる。
「えっと……文芸部かな?確か新入部員が一人居たきりだったと思うけど」
ふむ、乗っとるならそこだな。
「……」
 何かを確かめるような目でハルヒがこちらを見てくる。
「なんだ?」
「何か悪いこと考えてない?」

23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 20:16:55.50 ID:pQ8U3muAO

 なんと失礼な俺は基本的に後ろの席に座る少女のこと以外は全く考えていないというのに。
「いや、別に」
「言っておくけど、長門さんに迷惑かけたらダメだよ。女の子一人で文芸部の為に頑張ってるんだから」
 どうやらその部員は長門さんという名前の女生徒らしい。
「安心してくれ。迷惑をかけるつもりはない」
 こちらが執念深く交渉すればアチラも折れて部室の端をぐらいなら使わせてくれるだろう。
 うまくいけば長門さんとやらをなし崩しに部員にしてしまう手もある、一人で文芸部を続けているぐらいだ、ハルヒ程でなくとも変わり者である公算は高い。
「とりあえず昼休みは涼宮が書類作成で俺が部室と部員探しだな」
「部員かぁ……あ、あたしは別に二人きりでもへい……「やはり、最低五人はいないと部活動にならないからな、かといって谷口や国木田じゃあ数合わせみたいだし……」
「やっぱり。本気で作るつもりなんだ……」
「何を今更」
 なぜ今更当たり前のことを訊いてくるのか、いやそれとも、もしかして。
「嫌なのか?」
「ぜ、全然嫌じゃないよ?嫌じゃないけど……」
「じゃあ決まりだな」
 しっかし我ながら強引なやり方だな。

26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:29:30.11 ID:pQ8U3muAO

 ――昼休み、早めに弁当を片付けた俺は文芸部部長(部員が一名なら当然だが)との交渉をするべくまだ見ぬ長門さんの姿を探していた。
 長門さんの所属するクラスの奴が言うには彼女は昼休みはいつも一人きりで文芸部室にて食事しているらしい……うん、やはり変わり者なのは間違いない。
 しかし俺は今からその変わり者にすら変人呼ばわりされかねない用件で彼女の元へ向かっているのだ、まったく初対面の女子に「不思議なことを探す部活を作るからに部室貸せ」と要求に行くなんて数ヶ月前の俺なら考えもしない奇行だ。
 人間なにが転機となり道を踏み外すのか分かったもんじゃない。
 なんて考えている内に文芸部室に到着してしまった。
 ごちゃごちゃ考える俺はここで終わり。これからはハルヒの協力者としてアホみたいに前向きで身勝手なキョンにならなくてはならない。
 とりあえず、まずはノックだ、人間第一印象が大切だからな。
「――どうぞ」
 澄んだ声。その声に導かれるかのように俺は部室に足を踏み入れた。
「いや、珍しいね、こんな時間に客人とは。ともあれ歓迎するよ。僕もこの部屋も常に時間を持て余しているからね、ようこそ我が城へ」

27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:30:22.66 ID:pQ8U3muAO

文芸部部長、長門有希が長台詞をつっかえもせずに一息で言い切る。
「…………」
 俺はというと絶句していた、あまりの衝撃に息もできない。
「なんだい自分からノックをしておきながらダンマリかい?あまり感心はしないな、第一人の顔を見るなり絶句なんて無礼千万じゃないか」
 違う、見た目じゃない。いや、確かに長門有希の見た目も俺の予想外だった。髪型はボブより更に短く刈り揃えられていて全身スラリとした起伏の少ないスタイルはドチラかと言えば体育会系をイメージさせる。
 眼鏡をかけた顔もそれなりに整っていて是非とも眼鏡を外した姿を拝見したいものだ……って違う!
 その見た目以上に俺を驚かせ絶句させたのはその喋り方だ……その昔、いや数ヶ月前まではとても馴染み深かったその口調……
「佐々木?」
 間抜けにも俺は自分が何を言っているのかも判らずに、かつての友の名を口に出していた。

28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:31:57.59 ID:pQ8U3muAO

「佐々木?よくある姓ではあるが僕の知り合いには今のところ佐々木に該当する存在は居ないな。そもそも君はこの部屋を文芸部室と知って訪れたのだろう?ならば君が捜しているのはこの長門有希ただ一人の筈だが」
 うん、やっと落ち着いてきた。
 確かに佐々木も変わった奴だったが今見た限りは長門もかなりの変わり者だそれならば喋り方の一つや二つが被っていても仕方がない。
「ああ、俺はだな……」
 そこで少しだけ悩む、いったいなんと説明すべきなのか?軽い自己紹介から入るべきか?それともいきなり本題からいくか?
 自分でも呆れる、見事になにも考えていなかった。
「ふむ、日本語は操れるらしいね、よもや外国人ではないかと緊張したよ。あるいは耳や口に障害を抱えていて僕は凄く無神経なことを言ってしまっているのかと思い悩みもした。しかしそれでは何故君はまたも黙っているんだい?新入部員になりたくて緊張しているのかな?だったら安心してくれて良いよ。僕も部長といえば部長だが同じ一年生だ、君のような人が入部してくれるなら僕も嬉しい、歓迎するよ」
 それにしても本当によく喋る奴だ。
「長門。悪いが俺は新入部員じゃないんだ」

29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:33:57.88 ID:pQ8U3muAO

 初対面の相手を呼び捨てにするのは些か気が引けたがしゃべり方のせいか不思議と長門有希は話しやすい女だった。
「それは大変興味深いね。それでは入部希望者でもなく僕個人の友人でもない君はいったい如何なる用件でこの部室にやってきたのかな?」
 どうでもいいが長い、もっと意訳して喋ったらどうだ?
「近々俺達は新しい部活もしくは同好会を立ち上げたいと思っているんだが。部室がない、更に言えば部員と顧問もいない」
「なるほど。つまりそれで部室、部室、全てがあり尚且つ乗っ取りやすい部として我が文芸部に白羽の矢が立った。という事かな?」
 話が早くて助かるよ。『乗っ取りやすい』という部分はどうやら俺の見込み違いだったらしいがな。
「しかしながら簡単には了承出来かねるな。何せ君達の部活動は今のところ存在もしていないわけだろう?マズは生徒会室か職員室に行くべきではないだろうか」
 確かにそれが正論だな、だが長門よ世界は正論だけでは回らないんだよ。

30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:35:28.70 ID:pQ8U3muAO

「今日中に作りたい」
「はい?」
「今作ると言った部活だ。今日中に作りたい」
 それにハルヒにも今日中に部室はなんとかすると言ってしまった。男が一度口に出した事を曲げるわけにはいかん。
「――中々に無茶苦茶な男だね、君は」
 長門が絶句と言った感じで言葉を絞り出す。お褒めにあずかり光栄だよ。
「差し支えがなかっら聞かせてくれないか。今、部員候補は何名ぐらいあがっているんだい?」
「部長と俺、後はお前で三人目だ長門」
「…………」
 遂にあの饒舌な長門が口を閉ざしてしまった。そんな部員になれるのが嬉しいのか……
「……君は同好会を結成するのに最低何人必要なのかご存知なのかな?知らないなら教えてあげよう五人だ。僕を抜いて五人の部員を集めた後に然るべき書類を然るべき機関に提出し学校側から認定が下ったなら部室の使用交渉に応じようじゃないか」
 どうやら違ったらしい。
「五人いなきゃ同好会も作れないというが実際問題として一人で文芸部をやってる奴もいるしな」

31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:36:25.56 ID:pQ8U3muAO

「……痛い所を突くね」
「だいたい、ハルヒに聞いた所によると、この部には顧問らしい教師すらいないらしいじゃないか。そんな部活が許されるなら俺達の部活も……」
 俺が熱く語っていると。
「少し、待ってくれ」
 珍しく(恐らくだが)長門が大きな声を出した。
「ハルヒ……それは涼宮ハルヒのことかい?」
「そうだが?」
 他にいるのか?
「――っ、バカな」
 馬鹿ではない。
「ファーストコンタクト?まだ早すぎる……だいたいこれは予定されていた既定事項と著しく食い違って……いや、だからこそ長門有希のインターフェイスが改編されたのか?朝倉涼子・喜緑江美里の改編も同様に……同期で知った時間平面がこうまで書き換えられるとは……これが涼宮ハルヒの」
 なにやら長門はお取り込み中らしい。何回か聞き覚えのある単語が飛び出した気がする。
「で、部室の話なんだが」
 興味もないので話を元に戻そう。

32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:37:47.76 ID:pQ8U3muAO

「……ああ、部室かい?それならば好きに使ってくれて構わないよ、むしろこちらからお願いしたいぐらいだ」
 先程までとはうって変わって好意的な長門。まあ、そういう変化ならば歓迎しよう。
「ところで部長の涼宮さんはどこに?少しばかり彼女と話してみたいのだが?」
 そういえばハルヒと長門は仮入部の際に面識があるのか……
「俺は構わんぞ。部室を提供してくれるのならハルヒも喜ぶだろうしな」
「ならば行こう、この時間なら彼女は教室かな?」
「ハルヒは学食派だからな……ひょっとしたらまだ食事中かもしれん」
「そうか。だがさきに教室に着いても問題はあるまい」
それもそうだな。
「よし、じゃあとりあえず俺達のクラスまで来てくれるか?」
「心得た」
 そんなこんなで俺と長門は教室に戻ったがそこからが一騒動だった。
 教室に戻ってもハルヒは教室には居らず仕方がないから席に付いて待っていようかと思ったが……クラスメート達の視線が痛い。改めて長門の容姿を観察してみればやはりかなりの美人だ。こんな奴をいきなり教室に連れてくれば好奇の視線を集めてしまうのも当然と言えば当然か。

33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:38:48.06 ID:pQ8U3muAO

 仕方なく俺は長門を連れて学生食堂に移動したがそこにもハルヒは居ない。
 ヘタに探し回るよりも時間を置いてまた教室に戻った方が効率的だと判断した俺と長門は食堂の外部テーブルに腰掛けて時間を潰すことにした。
 部室の礼と連れ回した詫びにとコーヒーをおごってやると長門は案外嬉しそうに感謝の言葉を述べてコーヒーの紙コップを口に運んだ。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………」
 お互いに物を口に物を含んでいるのだから自然に無口にもなるものだ。

34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:40:06.81 ID:pQ8U3muAO

「ではもう昼休みも終了する時間だそろそろおいとまさせて頂くよ」
 俺が新部活動について熱く語っていると長門が急にそう切り出してきた。
「そうか、もうそんな時間か……ってちょっと待て長門、まだハルヒとお前の顔会わせが済んでないじゃない」
「そんな事はない。ほらそこを見てみたまえ」
 長門が何気なく指をさした草むらの中に……涼宮ハルヒは確かに存在した。
「――何をしてるんだ?」
 真っ先に俺の口から出たのは至って当然の疑問だった。
「え、えーと。べ、べ、べに悪気は無かったんだよ? でもキョンが女の子と仲良くしてたから邪魔しちゃ悪いかな〜って」
「邪魔も何もこいつは文芸部の長門だぞ?」
 俺が昼休みは長門との部室の使用交渉に赴いていることは当然ハルヒも知っていた筈だが。
「あう、……その、あたし学校中の部活に仮入部して色々な人と会ったから……」
 長門の顔を覚えていなかったのか……しかし長門有希なんていう平凡な名前の方は覚えていたじゃないか?
「ううう……それは、その」
「ククク……」
 突然。長門が気味の悪い笑い声をあげる。

35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:40:51.89 ID:pQ8U3muAO

「長門?」
「それぐらいにしておいてあげたまえよキョン。彼女は冷静な判断力を失ってしまう程に心配だったのさ。愛しの王子様が悪い魔法使いに食べられてはしまわないかとね」
「お、王子様ってキョンとあたしは別に……「? よく分からんがお前は魔法使いだったのか?」
 ハルヒが何か言っていたが同じタイミングでされた俺の質問に被せられて尻すぼみに消えていった。
「なるほど。これは重症だ……涼宮さんの苦労が分かるよ」

36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:43:37.62 ID:pQ8U3muAO

 何故か全てを悟ったような面をする長門。
「待てよ。一人で納得されても俺にはさっぱり解らん」
「もう、キョンは解らなくていいの!」
「どうしたんだハルヒ?いきなりそんな大声だして」
「ククク……。いや、すまない。しかしここで腹を抱えて爆笑なんてした日には僕のキャラクターが崩壊してしまう。どうかこれぐらいで勘弁してくれないかな」
 別に俺もハルヒも可笑しい事は言っていない筈だが、確かに話題が横に逸れたようだ。
「と、話題が逸れてたな。ハルヒ、長門が部室を提供してくれる代わりに新部活動のメンバーに加えてやることになったが特に異議はないか?」
「部室の提供の『代わり』に部活動に参加させてやる?失礼だが君は一体何様のつも……」
 長門が何か言っているが無視してハルヒに尋ねる。
「え……う、うん」
 何やら歯切れの悪すぎる返事。
「なんだ。長門が部員に加わるのが不安か?安心しろ、口調は変だし、愛想のない面だし、眼鏡が少し恐い感じがするかもしれんが話してみれば悪人じゃない。お前に乱暴したりはしないと思うぞ」

37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:44:41.72 ID:pQ8U3muAO

「……先程知り合ったばかり女子生徒相手に随分な言い草だね」
 長門がまた何やらごちゃごちゃ言い出したがそこは華麗にスルー。
「別に、長門さんに問題が有るわけじゃ……」
「……ふむ、ならば文芸部室か。確かにボロいし、ロクな備品も無いが、いた仕方なかろう部員は無節操に増やす気はないし、備品も追い追い買い揃えていけば良いさ」
「……ボ、ボロい。どうやら君は……」
 額に青筋を浮かべた長門が拳をプルプル震わせながら睨みつけてくる。
「キョン?長門さん怒ってるみたいだけど……」
「む……悪かった、文芸部室をボロいってのは言い過ぎた」
「『他』に謝罪すべき点は思い浮かばないのかな君は」
……浮かびませんね。
「そもそも君が最初に僕に部活に参加してくれと頼んだにも関わらず……」
 長門が延々と文句を垂れ流す。

38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:45:49.01 ID:pQ8U3muAO

 さっきからグチグチ煩い奴だな。
 案外これで執念深いのかもしれんな……その色気のない体を見習って少しはさっぱりした性格になったらどうだ?
 さすがにこれは口に出さなかったが。
「まあ、聞いた通りだハルヒ。文芸部室はボロくないし、長門もいい奴だ。事実口数の多くない俺がここまで単時間で気を許してるんだ、お前もスグに慣れるさ」
「まったく。君の言う『気を許す』というのは無礼な口をきくという意味なのかい?」
「ああ、なんか初めて会った気がしなくてな……嫌か?」
 これは本当だ。長門はしゃべり方のせいか、つい昔からの知り合いのような気分で話してしまう。
「フッ、構わないよ。多分それが君の味わいなんだろう」
「二人の――――――――なのよ。まったく」
 軽口をたたき合う俺と長門を見てハルヒが何やら呟いた。
「すまん、聞こえなかった」
「長門さん――――。人前で――――――――」
 ハルヒは完璧にネガティブモードだ言葉が通じない。
 「二人の仲が良すぎるのが問題」とか「長門さんばっかりにかまって」とか「人前でイチャつきやがって」とか言った気もするが多分気のせいだろう。

39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:46:59.88 ID:pQ8U3muAO

 部員同士の仲が良くても部長たるハルヒには何の害も無いどころか逆にありがたい事の筈だし、長門と俺の間は別にイチャついてはいないしな。
 ……だが、だとしたらハルヒは何故ネガティブモードに?
「…………」
 これまた理由は謎だが一人悩む俺を長門がこれ以上はない冷ややかな視線で見つめていた。

40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 21:48:32.31 ID:pQ8U3muAO

 始業の五分前ベルが鳴り響く、どうやら話こんでいる内に本当に時間がなくなっていたらしい。
「第二次世界大恐慌により日本経済は――。朝倉は勝手にヤンデレに――。メインヒロインなのに出番が長門有希に負ける――。ハルキョンより古キョンが人気――。今こうしてる間発展途上国では幼い子供達が尊い命を――」
「何意味の分からんこと言ってんだ!遅刻するぞ!」
 ハルヒの手をつかんで走り出す。
「っ〜〜〜、キョン手、手!」
手は両方とも無事だ!
「長門、また放課後部室でな!」
「ああ、楽しみにしている」
「手、手を〜〜」
 見送る長門の視線は生暖かった。
 その日の五時間目、手を繋いで教室に走り込んできた俺とハルヒはクラスメート達に散々冷やかされたが……不思議と俺はまったく不快ではなかった。

47 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:44:54.19 ID:pQ8U3muAO

 その日、一緒に帰ろうぜと言う谷口と国木田に断りをいれた俺はハルヒと供に勇んで部室に足を運んだ。

 部室には既に長門有希がいて昼休みとまったく同じ姿勢で読者に勤しんでいた。

「やあ」

 あまりにも昼休みと変わらない為に軽いデジャブを覚える。

「よ、何を読んでるんだ?」

 長門は返事の代わりにハードカバーをひょいと持ち上げて背表紙を俺に見せる。睡眠薬みたいな名前のカタカナがゴシック体で躍っていた。SFかなにかの小説らしい。

「……」

 当然知っているだろう? とでも言いたげな長門の顔。ごめん、見たことも聞いたこともない。

「さてと、早速だが俺は部員の勧誘に行ってくる」

 長門が何やら語りたそうな顔をしているが、ここは我慢してもらう。

「じゃあ、あたしも……」

「いや」

 俺についてこようとするハルヒの言葉を遮り口を挟む。

「こんな勧誘ごときに部長たるお前が動くことはない。俺がパパッと済ましてくるから長門と留守番でもしててくれ」

「え? でも……」

 長門の方を見て何か言いたげなハルヒ。

「僕は構わないよ。無論涼宮さんが嫌でないのなら、だけどね」

 からかうような視線でハルヒを見返した長門がこれまたからかうような声色でハルヒに問い返す。

48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:46:52.76 ID:pQ8U3muAO

 その長門を前にして「嫌です」と言い切る力はハルヒには当然なかった。

 かくして俺は長門とハルヒに部室の留守を頼み部員探しの旅に出発した。さりとて俺は本気で部員探しをしているわけではない。

 要はいまいち馴染んでいない長門とハルヒの二人が仲良くなってくれれば良いのだ、さっきの様子なら長門は俺の狙いを察してくれたみたいだから後は適当に時間を潰して部室に戻ればいい。

「む」

 少しばかり考えごとに没頭し過ぎたようだ。知らず知らずの内に俺は一年生なら中々踏み込めない領域。すなわち二年生のホームルームが並んでいる廊下に足を踏み入れてしまっていた。

 大抵の人は解ると思うが他学年、こと上級生が管理する廊下というものには独特な圧迫感がある、既にこの時間は各部活も活動を始め人影はまばらだが、それでも教室に残り雑談に興じる先輩方の姿もちらほら見える。君主危うきに近寄らず。いきなり二年生にいちゃもんをつけられるとも思わなかったが、居心地が悪い点は否定できない。さっさと退散するとしよう。

49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:48:36.98 ID:pQ8U3muAO

「あら、あなた一年生よね?」

 くるりと踵を返した俺に後ろから誰かが声をかけきた、もう戻ろうかと思っていたが声をかけられたのに無視するわけにもいかない。

「はい、……!!」

 俺は出来る限り冷静に声の主へと向き直り……絶句した。

 すんげー美少女だ。

 小柄である。ついでに童顔である。下手すれば小学生と間違ってしまいそうでもあるが……制服の下からでも堂々とその存在を主張する二つの、そのなんだあからさまに言ってしまえば『胸』が彼女が立派に成長した高校二年生だと教えてくれる。

 微妙にウェーブした栗色の髪が柔らかく襟元を隠し、うっすらと微笑みを浮かべた唇から覗く白く清潔な歯が小ぶりな顔にいやらしい程にマッチしている。そのクセ、開かれた二つ瞳には全くこちらに媚びた色が無い。自分が可愛らしいこともこの世の大半の男性にとって魅力的に見えることも承知した上で。「どう? あたし可愛いでしょ?」的な光で輝いている。

 一言で言い表すのならロリで巨乳なお姉さんとでも言うのか、とにかく漫画なら学園のアイドルとかミス北高とか呼ばれているに違いない。

「どうしたのよ? 人のことジロジロ見つめちゃって」

50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:49:45.95 ID:pQ8U3muAO

 ハルヒと初めて話した日のことを思い出すが決定的に違う点が一つ、おそらく彼女は相手が自分に見とれていると確信した上で訊いてきているのだ。しかし何故人には目が二つしか無いのか、俺は渦巻く煩悩にギリギリのところで打ち勝って視線を先輩の胸元辺りに固定する。これは女性の顔をジロジロ見るのは失礼だからだ、断じて俺が煩悩に敗北したわけではない。

「部活のお使いか何か?」

 俺の視線にはとっくに気づいている筈だが寧ろ胸を張って更に声をかけてくる。

「いや、その部活の勧誘に……」

「勧誘? 何部の?」

 一瞬何と答えるか躊躇したがここで嘘をついても仕方ない。俺は正直に新しい部を同級生二人と立ち上げるに至って経緯を簡略して話した。正直、この人ともう少し話したいという下心もあったしな。

51 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:52:04.89 ID:pQ8U3muAO

 俺は彼女にハルヒとの出会いから長門と知り合い部室を借りうけるまでの経緯、そして現在の部員探しまでを伝え、あまり言いたくはなかったが部の目的が宇宙人や未来人、超能力者を探すことだと伝えた。健全な高校生なら確実に引いちまうだろう。

 しかし朝比奈さんは。

「なるほどね、経緯は変わっても長門さんが加入する事実は決して動かないわけか……」

 などと一人で納得して。

「わかったわ。あたし朝比奈みくるもその部活動に参加します」

 と言い切った。すいませんが俺はさっぱりわかりません。

「ちょと朝比奈先輩! 失礼だけど話聞いてましたか?」

「あら、先輩なんて他人行儀はやめてちょうだい。みくるちゃんと呼んで」

 無理です。

「じゃあ朝比奈ちゃんで」

「朝比奈さん、俺の話をちゃんと聞いてましたか?俺達は宇宙人やら未来人やら超能力者を探す得体の知れない集団なんですよ?」

「あら、それはアナタだって同じよ?あたしはみくるちゃんって呼んでほしいのに……」

 甘えるような視線を俺に向けてくる。

「ごまかさないでください」

「失礼ね。ごまかしてなんてないわよ。あたしは本心からみくるちゃんって……」

 頭が痛くなってきた。

52 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:53:51.34 ID:pQ8U3muAO

「……貴女は何か部活動にてないんですか?」

 正面突破を放棄した俺は側面からの攻撃を試みる。

「ああ、書道部にね」

「じゃあ無理で……」

「今日辞めるわ」

「……なぜですか?」

 聞きたくない、だが訊いてしまう。

「いや〜、友達に薦められて入るには入ったんだけどね。墨でお洋服は汚れるし、指導は厳しいし、帰るのは遅くなるしで、もう面倒で」

 だったらなぜ入部したのか。

「じゃあ……」

 俺が他に断る理由を探していると。

「うう……あたしがこんなに仲間に入れてってお願いしてるのに……なんで邪険に扱うんですかぁ?」

 さっきまで色っぽく余裕をみせて迫っていた朝比奈さんはいきなり幼い声で涙を浮かべてすがりついてきた。

「なっ、と、突然なにを!」

 動揺しまくる俺を尻目に朝比奈さんは真顔に戻り「あら、こっちのキャラの方がタイプ?」などと言うと。

「ひ〜ん、酷いです〜あたしがこんなに一生懸命お願いしてるのに。グスン、グスン」

 と言って大声で泣いたフリ(フリだとは思うが確証はない、それぐらいに見事な泣き真似だった)を始めた、突き刺さる上級生の視線、……マズイこのままでは確実に殺される。

53 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:55:30.87 ID:pQ8U3muAO

 どうやら朝比奈さん加入は我々の部活動にとっての強制イベントだったようだ、結局のところ俺には朝比奈さんのお願いという名の脅迫を受け入れる以外の道は残されていなかったんだからな。

 あのまま朝比奈さんを泣かせ続けたら全世界の男共と一人で戦争するか速やかに自害するしか選択肢はないかったのだ、まあ仕方ないこととハルヒも認めてくれるだろう。

「いいですか、朝比奈さん。ハルヒはデリケートな奴ですから脅かすようなマネをしちゃダメですよ?」

「は〜い」

「貴女は確かに二年生ですけど部長はハルヒが務めます。このことに異論は?」

「ありませ〜ん」

「さっきから適当に返事してません?」

「してま〜す」

 ……なんというか、前途は多難だ。

 その気のなかった勧誘活動で思わぬ獲物(朝比奈さん)を得た俺はその獲物に無理矢理猟銃を奪われ突き付けられたハンターのような気分で文芸部室の扉を開いた。

54 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:57:05.50 ID:pQ8U3muAO

「つまり1950年代の作品と比較すると1960年代のSF作品は必ずしも近代科学に対して好意的ではなく……」

「しかもただの科学への賞賛や批判だけでは終わらずにSFを人間の抱えるあらゆる問題に対する文学的思索の手段としたことがこの時代の作品の特徴なんだね?」

「いかにも。しかしこうして外宇宙的な作品から内宇宙的、内省的になった作品に大衆はついてこれずSFというジャンルそのものが衰退していったわけさ」

「なるほど……奥が深いね……」

 ハルヒと長門は俺には全く理解出来ない話題で随分と打ち解けたらしい……しかしうら若い女子高生が二人で話すにふさわしい話題か?

まあこの二人が変わっているのは今に始まった事じゃないけどな。

「あー、話の腰を折るようで悪いが二人に聞いてほしいことがある」

55 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 23:58:38.53 ID:pQ8U3muAO

「あ、お帰りキョン」

「随分と早いおかえりで」

 出掛ける前まではあんなになついていたハルヒが帰ってきてみればああ居たの? 的な扱い。長門までも「今は話が盛り上がってるから後にしてくれない」と言いたげな視線を向けてくる。少し、いやかなり傷付いたぞ。もしかしたら一日働いて家に帰ってきた父親の気分とはこういうものかもしれないな。俺は全国の働くお父さん達に感謝の気持ちを込めながら

「いいから注目! この度、私の勧誘活動の成果として、こちらの朝比奈みくるさんがあたらしく我々の部活動に参加される運びとなりました」

 ややヤケになって発表した。

「「「「……」」」」」

 気まず〜い沈黙が部室を支配する。最初に沈黙を破ったのは意外にもハルヒだった。

「えっとキョン?」

「なんだハルヒ、質問か?」

「その……今後は朝比奈さんが部活に加わるっていうのは解ったけど……なんで?」

 まあ、当然その疑問にたどり着くわな。なにせ自分からこんな得体の知れない部活に入部する変わり者なんてそうはいないだろう。

56 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 00:00:19.09 ID:nzZf+iKAO

「ああ、それはこの人が勝手に……」

「な、なんですかー? なんであたしをこんな所に連れてきたんですかー?」

……はい?

「あ、朝比奈さん。貴女……キョンに無理矢理連れてこられたの?」

「えっぐえっぐ、あ、あたしが一人で帰りの支度をしてたらいきなり彼が……」

 あの……朝比奈さん? なんでここで猫被ってんですか? ハルヒ? あの……顔が恐いんだけど?

「……少し強引でも心根はいい人だと思ってたのに」

「…………」

 長門さん? 黙ってないで昼間みたいに喋ってくださいよ。

「ハ、ハルヒ誤解だ。これは朝比奈さんなりの冗談でだな……」

「冗談!? 冗談でこんな涙が出るって言うの!?」

 実際に出してる人がいるんだから出るんだろうな。

「見た目に騙されるな。俺も知り合ったばかりだが、確信をもって言えるその人は大嘘つきだ」

「ひ、酷いです。こんなに可愛いあたしを嘘つき呼ばわりなんて……」

 そういうことは自分で言わないで下さい。

「あたしの為の部活だって言うから信じてついて来たけど、今回の事でアナタの魂胆がわかりました。実家に帰らせていただきます!」

57 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 00:02:28.22 ID:nzZf+iKAO

 結局俺は朝比奈さんが素に戻って「冗談よ、じょうだん」とカミングアウトしてくれるまでハルヒの攻撃と口撃にさらされ続けるハメになった。

 その後朝比奈は唖然としたままの俺とハルヒに、

「なにはともあれ、これからよろしくね」

 と、これ以上はないであろう笑顔で入部を宣言した。

「「「 …………」」」

 三者三様の沈黙の後。

(ねえ、キョン)

 ハルヒが囁くような声と視線でこの人本当に入部させるの?と訊いてくる。連れて来ちまったのは俺だが部長はお前だろう、嫌なら直接言ったらどうだ?

「……」

 普通なら到底認められないだろうが朝比奈さんには不思議な魅力があるらしく「キョンがいいならいいけど……」となんとなく入部を認めてしまっていた。

 実際のところ俺は朝比奈さんに悪意は持っていないし、寧ろ感謝すらしている。朝比奈さんの冗談を真に受けたハルヒは怒った。塞ぎ込むのでも後ろ向きになるわけでもなく、俺にストレートに怒りをぶつけてきた。「あたしの為の部活だって言うから信じてついて来たけど…」「少し強引でも心根はいい人だと…」人間不意に出た本音っていうのは大事だよな。

61 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 22:14:26.10 ID:nzZf+iKAO

部活の名前を決めましょう。

 入部前から散々部内の人間関係(主に俺とハルヒの)をかき回してくれた朝比奈さんが入部して一発目に提案したのはハルヒの部活に名前をつけることだった。確かにいつまでも新部活動や我々の部活では呼びにくいことこの上ない、朝比奈さんの提案にしてはかなりまともな部類に入ることは間違いない。

「えっと、誰かアイデアがある人いますか?」

 一応自分が部長だということを思い出したのか朝比奈さんから主導権を奪い取ろうとするハルヒ、意外にも朝比奈さんは司会の地位に固執するかとはなくあっさりハルヒに進行係を譲った。

「朝比奈さんは何か希望する名前とかありますか?」
 年長者を立てたのか朝比奈さんから個別に意見を訊いていく。

「そんな、朝比奈さんなんて、淋しいからみくるちゃんと呼んで」

「じゃあ、みくるちゃんは候補にしたい名前はありますか?」

「ありませ〜ん」

 自分から言い出しておいて何も考えてない朝比奈さんは元より、あっさり上級生をちゃん付けで呼ぶハルヒも大人物だと今更ながらに思う。

62 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 22:16:35.73 ID:nzZf+iKAO

「じゃあ長門さんは何か?」

「いや、元々僕はひきずりかこまれた側だからね。部活動の名前は創設者の君達二人で決めてくれたまえ」

 今日の昼休みに知り合ったばかりだが朝比奈さんが来てからの長門は少しばかり口数が少ない気がする。あくまでもなんとなくだが。

「キョンは?」

 まあ朝比奈さん長門とくれば当然俺だろうが生憎と特に優れた案は持ち合わせていない。

「皆がとくにないなら、あたしに一個だけ候補があるんだけど……」

「あら、あたしはそれで構わないわよ?もちろんキョン君と長門さんに異論がなければ、だけど」

 ふむ、ハルヒが自分から名前の候補を提案してくれるとは、何事にも前向きに挑んでくれるのは歓迎すべき事態だ。俺が反対する理由があるはずもない。

「異議なし、言ってみろ。ハルヒ」

「右に同じ」

 やっぱり口数が少ない長門。

63 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 22:18:08.05 ID:nzZf+iKAO

 お知らせしよう。何の紆余曲折もなく単なるハルヒの思いつきにより、新しく発足する部活の名は今ここに決定した。

 発表する前に言っておく。

笑わないでやってくれ。

 いや別に俺の前で俺に対してならどんなにケチョンケチョンに言ってくれても構わん。だから我らのナイーブ過ぎる部長いや団長か、の前では黙ってやってくれ。

 それじゃあ発表するぞ。

 SOS団

 意味は

 S…世界を

 O… 大いに盛り上げる

 S…涼宮ハルヒの団

 本来ならば世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの部とかにすべきなんだろうが俺達はまだ部と呼ぶには些か心もとない人数しかいない、ならば団でいいというのがハルヒ団長の意見なのだが……。

 どうかな?と言いたげな瞳でハルヒがコチラを見つめてくる。しかし俺にはそんなぶっ飛んだネーミングセンスにスグにリアクションがとれる能力などない。

64 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 22:20:07.59 ID:nzZf+iKAO

 誰かが助け船を出してはくれないかと周囲を見回すと長門は昼間の饒舌さを無くしてしまったかのような無口無表情ぶりで視線を逸らし、朝比奈さんは……ダメだこの人が自分の意見を封印してくれる筈がない確実に言いたいことをハッキリと言ってしまうだろう。

「あの……すいません、すいませんセンスが無くてすいません。もう死にます……」

 クソッタレ、もうこの際自分の意見なんかどうでもいい。嘘は神の禁じた罪悪だが場合によってならば神様もお許し下さるだろう。

「うおぉぉぉ! スゲーぜハルヒ。こんな名前はお前しか考えつかん! やっぱりお前天才だわ!」

「……そ、そうかな?」

 ハルヒのネガティブモードが弱まった瞬間にここぞとばかり畳み掛ける。

「長門! 長門もそう思うよな!」

「あ……ああ、団とは本来は大まかに分けて三つの意味に分類される。軍隊の編成における単位の一つとしての団。集合体の総称の団。人の集まりとしての団。この場合の団とは三つ目の意味に該当するわけだが……」

 よくは解らんがお前は大賛成だってことだよな、多分。

65 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/07(月) 22:21:35.32 ID:nzZf+iKAO

「朝比奈さん!」

 余分な言葉は使わずに呼びかける名前にのみ力と意思を込めて朝比奈さんにぶつける。

「へ? え、え〜と、いいじゃないかしら?多分……正直に言ったらなんか後が怖いし」

 後半は聞こえません。

 良かったなハルヒ、賛成四、反対、棄権零でめでたく可決だ。

「なんか強引なものを感じるんだけど……」

 気のせいだ気のせい。ネガティブな思考に走るのは良くないぞ。


 毎日放課後はこの教室に集合ね、と俺がハルヒに宣言させ、この日はそのまま流れ解散となった。

 ハルヒは解散を宣言するとなぜか一目散に部室から出ていってしまった、一緒に帰りたかったのに残念だ。

 長門と朝比奈さんもそのまま一言も喋らぬままに部室を後にした、ひょっとしてまだ一言も口をきいてないんじゃないか?この二人。

 この問題はいつか団長と話し合う必要があるかもしれないし。まだ生徒会になんの届け出もしていないことも気がかりだし。他にも今だに団の目的がハッキリとしていない件や顧問の教師がいないという事実。

 問題は笑いたくなるほどに山住だが気分は晴れやかだ。理由はハッキリしている、ハルヒとSOS団を立ち上げたこの日から俺は明日を心から楽しみ思うことが出来るようになったんだからな。

70 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:14:35.66 ID:F8iEhw/AO

 朝比奈さんの加入から数日たったある日のハルヒと俺の会話。

「長門に朝比奈さんに…あと一人で一応は同好会の形は整うな」

「そのことだけど、三人目はあたしが連れてきたいんだけど……」

「誰か部員に加えたい奴でもいるのか?」

「そういうわけでもないんだけど……」

「だったらやっぱり俺が適当なところから引っ張って来てだな……」

「それはもういいの! これ以上キョンに任せてたら団員が可愛い女の子ばっかりになっちゃうし」

「不服か? 女子の方がお前も話やすいと思ったんだが」

「ズルいよね……こうやってあたしの為とか言ってさ……」

「わ、わかった五人目はお前に任せる。任せるからネガティブモードに入らないでくれ!」

「ふふ、ありがと」

「…お前少し朝比奈さんに似てきたな」

「そう? でも五人目の部員か、どんな人が良い?」

「ただの男じゃつまらないからな。謎の転校生とか外宇宙からの使者とか面白い奴にしようぜ」

「本気で言って……るんだよね、やっぱり」

「俺はハルヒに関する事ならいつも本気だ。そうだ、忘れてたけどこれやるよ」

「なにこれ、赤い腕章に…団長って書いてあるけど?」

「俺の手作りの団長腕章だ、大事にしてくれよ」

「……やっぱりキョンはズルいよ」
「この腕章は嫌か?」

「ううん! 命より大事にする」

「やめてくれ」

71 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:17:54.07 ID:F8iEhw/AO

 そんな会話をハルヒと交わして国木田達に散々からかわれ谷口にギャンギャン噛みつかれた日の放課後、俺は朝比奈さんと供に校内を散策していた。部室のグレードアップの為である。

 朝比奈さんの物資補給の実力は折り紙つきで人数分の机と椅子を目がハートマークになった生徒会担当者から。

 一昔前の旧型CDラジカセを純粋そうな一年生女子の世界観を思いっきり逆転させてしまうような色仕掛けで。

 大量の湯飲み茶碗と茶葉更には電気ポッドまでを見ていて気味が悪くなる程の猫かぶりで「先生?あたし達これから放課後は文学部室でお勉強しようと思ったんですけど…その湯飲み茶碗とポッドを頂けたら凄〜く励みになるんだけどな〜」驚くべきことに職員室から『同意』の上で譲りうけていた。

「それで朝比奈さん、本日の獲物は?」

「これからの情報化時代にパソコンの一台もないなんて許せないないって思わない?」

「別に思いません。第一ポッドとパソコンじゃ値段が違いすぎますよ」

「涼宮さんもパソコン欲しいって」

「命に替えても手にいれましょう。なんなら定期預金を解約してもいい」

「そんなことしなくても大丈夫よ。ここにいる彼らが『自分から』譲ってくれる筈だから」 そう言って朝比奈さんが指し示したのは部室棟内では文芸部室のご近所パソコン室、『コンピュータ研究部』通称コンピ研のアジトだ。

 哀れなるコンピ研部員達よ、ハルヒの為、大人しく朝比奈さんの毒牙にかかって成仏してくれよ。

72 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:20:29.48 ID:F8iEhw/AO

 その後コンピ研に降りかかった出来事は到底俺の口からは語ることが出来ない、朝比奈さんはアイツらが愚かだったから悪いと言い切ったが朝比奈さんにあんなことをされて平常心を保てる高校生が果たして世界に何人いるだろうか。コンピ研部長の冥福を祈る。


 死んだような表情で配線作業に従事させられるコンピ研部員達を眺めながら俺は朝比奈さんにかねてから訊きたかったことを改めて尋ねた。

「朝比奈さんと長門って仲が悪いんですか?」

「あら、そう見える?」

 見えるもなにもこの数日間で一回も会話すらしていないのだ、俺でなくとも気になるだろう。

「意外ね、涼宮さん以外の人は眼中にないと思ってたのに」

 失礼な、ハルヒとそれ以外の人間を見ている割合は6:4ぐらいだ。他の人間、特に朝比奈さんのような方ならしっかりチェックしている。

 ちなみそのハルヒは俺が朝比奈さんと備品の調達に行くと伝えた所機嫌が悪くなり長門を連れて何処かに消えてしまった。帰ってきたらパソコンを見せて驚かせてやろう。

「仲が悪いって言うよりはあたしが苦手なのよ、長門さんのこと。長門さんはそれに気を使ってあたしと話さないだけだと思うな」

「甚だしく意外ですね、天上天下唯我独尊の朝比奈さんに苦手な人間が存在する上にそれがあの長門だなんて」

 俺の無礼と言えば無礼過ぎる言葉に朝比奈さんは随分とハッキリ言うわねと苦笑した後、サバサバした口調で長門が苦手な理由を語たってくれた。

73 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:23:19.99 ID:F8iEhw/AO

「キョン君、人はね二種類に分けることが出来るの、未知の存在を恐れることしかできない人と恐れながらも惹き付けられる人。貴方は後者であたしは前者、長門さんを苦手なのはそういう理由よ」

 えらく難解な事を言いますね。

「よく解りませんが、貴女にとって長門は理解出来ない未知の存在ってことですか?」

「まあね、ただ長門さんだけってわけじゃないわよ。涼宮さんもキョン君も自分から見たら他の人なんてしょせん全員理解出来ない他人なんだから」

 なにか結構重大なことを、はぐらかされた気がする。

「失礼かもしれませんが、貴女が俺やハルヒを怖がってるとは思えないんですが」

「アナタや涼宮さんは解らないながらも解る気がするからね。貴方はあたしのこと好きでしょ?」

「本当に朝比奈さんはいい性格してると思いますよ」

「自分でもそう思うわ」

 二人で顔を見合わせて苦笑しているとコンピ研部員その一がオズオズと声をかけてきた。

「あの配線終わりましたけど」

「ありがとう。それじゃあ帰って」

 語尾にハートをつけて酷すぎることを平然と言いきる悪魔。つくづく味方で良かった。

74 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:25:48.51 ID:F8iEhw/AO

「それでは皆様の健康と更にご活躍をお祈りして私の終了の挨拶とさせていただきます。あ、キョンは話があるから残って」

 団長閣下が団活中に俺に話しかけて下さるとは珍しい。いつもなら俺が一緒に下校しようと声をかけようとする前に逃げるように帰ってしまうというのに。

「キョン、少しばかり残念だが良かったじゃないか。15年間鞘に収めていた刀を抜き放つ時がきたぞ」

 いくらなんでもそんな急展開はありえん。つかもう少しオブラートに包んだ物言いにしろ、仮にも女子なんだから。

「その言い様は心外だな、アチラの彼女に比べたら直接的すぎない抑えた表現にしたつもりなのだが」

「涼宮さん、覚悟を決めたのね。もしよかったら元書道部のあたしが筆の扱い方を教えてあげましょうか?」

「結構です!」

「そう? でも新品の筆をおろすときはね……」

「聞きたくありません! もう、みくるちゃんはさっさと帰って下さい!」

 聞かなかったことにしよう。

「今のは冗談にせよ。ちゃんと手順は守りたまえよ。あまりに強引だと彼女が今後男性不信に陥るかもしれない」

「いらん心配だ。さっさと帰れ」

75 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 00:29:32.61 ID:F8iEhw/AO

 俺が長門を強引に部室から締め出すのとほぼ同時に

「あんまり力を入れると逆に痛いから注意して……」

「…………」

 怒りのためか真っ赤になったハルヒが無言のまま朝比奈さんを部室から追放した。

 てかあの馬鹿二人のせいで少し、本当に少しだが……なんか意識してしまうじゃないか。

「で、わざわざ残ってもらって悪いんだけど。話っていうのはね」

 ひょっとしたらハルヒもそんな気分になったりしてはいないかと思ったが全然そんな事はないらしい。少し残念だ。

「みくるちゃんと有希の事なんだけど」

 ちなみにハルヒは朝比奈さんの言葉を律義に守り上級生の彼女をちゃん付けで呼んでいる。しかし長門のことは姓名にさん付けで呼んでいたと記憶していたのだが。

「ああ、さっきキョンとみくるちゃんがいなかった間に有希と少し校内を回ってたんだけど、その時に『君がよかったら、名前のほうで呼び捨てにしてくれたまえ』って」

 そんな俺の疑問を視線で察してくれたのかハルヒが口にする前に教えてくれた。

79 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 23:52:33.52 ID:F8iEhw/AO

「なるほどな。で用件はなんだ?」

 用件がなきゃ呼んじゃいけない? とか言ってくんないもんかな。

「うん、キョンも気が付いてると思うけど有希とみくるちゃんのこと」

 やっぱり言ってはくれなかった。別に良いけどな俺は強い子だから。

「まあな」

「それで今日いい機会だったから有希に訊いてみたの」

「なんと、お前もか」

「もってことはキョンも?」

「ああ、朝比奈さんに長門との関係について訊いてみた」

「うわっ! なんか偶然だね」

 その時俺の脳に過去に見たとある光景が浮かびあがってきた。

 ちょっと前の話だが別々に出かけていた親父とお袋がなんとく食べたくなったからという理由で偶然にも同じ店の同じ菓子を買って帰ってきた事があった。

 以前からしばしばそんな事はあったのだが「やっぱり夫婦ね、変な所で気が合うわ」とかお袋が言って親父も照れた様に笑っていた、そんな光景だ。

 いや、本当に深い意味はない。って俺は誰に言い訳しているんだ?

 なんか今日の俺は妄想力逞しいな。

「ねえ? キョン聞いてる?」

「――悪いちょっと考え事してた」

「あ、ごめん。キョンが重大かつ深淵な思索に耽っているのをあたしごときが……」

「いやいや、本当にどうでもいい事だから話を先に進めてくれ」

「そうなの? とにかくあたしは有希にみくるちゃんと何かあるの?って訊いてみたんだけど」

 俺が朝比奈さんにした質問と同じだな、それに長門がなんと答えたのかには興味がある。

「有希が言うには『僕自身は彼女が決して嫌いではないし彼女もそれは同様だろう。しかしながら彼女に対して僕が若干の苦手意識を抱いているのは確かだ、おそらく彼女は僕が自身を苦手に感じている事に気付いて気を使っているのだろうね』だって」

 なんですと?

 それじゃあ朝比奈さんと言ってる事が正反対じゃないか。
「そうなの?」

「ああ、朝比奈さんが言うには苦手意識を相手に感じているのは自分で長門は気を使っているだけだって」

 一体全体長門はどういう理屈で朝比奈さんに苦手意識を持っているってんだ?

 俺が率直な疑問をぶつけるとハルヒは巧みに自分と長門の声色を分けて説明してくれた。

80 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 23:55:30.36 ID:F8iEhw/AO

「ねえ? 有希に一つ訊いていい?」

「ああ、起伏の乏し過ぎる僕のスリーサイズから面白味のない男性遍歴までなんでも答えよう」

「……最近、下ネタ自重出来てないよね」

「冗談だよ、キョンのことかい?」

「え? う……それも聞きたい気もする」

 と、ここまで上手に一人芝居を続けていたハルヒはそこで一旦会話を止めて「やっぱり、これは関係ないから省略するね」と言って再開した。

「――二人の間に何もないのはわかったけど」

「納得してくれたかい?」

「まてよ、二人の間がわかったって一体お前は何を納得したんだよ」

 気になってしまい、つい口を挟む。

「そ、それはいいの、本題からずれちゃうでしょう!」

「うーん、俺は納得出来ないが続けてくれ」

……そんなに怒らなくてもいいのに。

「もうSOS団を作って結構経つのに二人とも全く話さないでしょ?だから心配になっちゃって……迷惑かな?」

「いや、別に迷惑なわけではないが……」

「だったら…!」

「やれやれ、本気なった君にはかなわないな……」

 確認しておくが長門のセリフはハルヒの一人芝居である、スポーツはクラスどころか全校の女子屈指で勉強も授業風景を見る限りは完璧なくせに、こんな余分な才能まであったとは。

81 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/09(水) 23:58:31.34 ID:F8iEhw/AO

「僕自身は彼女が決して嫌いではないし彼女もそれは同様だろう。しかしながら彼女に対して僕が若干の苦手意識を抱いているのは確かだ、おそらく彼女は僕が自身を苦手に感じている事に気付いて気を使っているのだろうね」
「苦手意識?」

「意外かな?」

「うん、有希ってそういうの無さそうな気がしてたから」

「まあ確かにね、僕は饒舌ではあるが決して多弁ではないし本来ならさほど人と関わる方でもない、僕自身も苦手と感じる相手がいるという事実に些か戸惑っているよ」

「でもなんでみくるちゃんなの?」

「ふむ、彼女は素なんだよ」

「素?」

「自分を作っていない、というよりも自身を偽る意味を感じていないと言った方がいいか。彼女の立場を考えれば信じがたい事だよ、選択肢は既に決まっていて、自由意思なんて欠片もない、そんな中でどうして自分であり続けられる?」

「それって有希は自分を作っているってこと?」

「それは一人称が僕でこんな喋りだ、自然に振る舞ってこうなる訳ないだろう?」

「自覚あったのかアイツ……」

「ねー、あんまりはっきり言うからあたしも驚いちゃった」

 今のは間に挟まれた俺とハルヒの会話ね。

「僕がなぜこのような喋り方しているのか?その理由は僕には解らない。それは僕には解る筈もないところで決められた事だからだ」

「あの、有希?」

「そのことに不満はないよ、与えられた立場で役目をまっとうするだけさ。しかしなぜ彼女はこんな場所に送り出されて、なお意思のまま自由に振る舞える?そして僕はなぜそれを羨ましいとすら……」

「ちょっと、有希落ち着いて!」

「あ、ああ、すまない君に言うような事ではなかったな」
今更どうでもいいがハルヒはこれを一人でやってる、声優か顔もいいから俳優にでもなったらどうだ?

「ねえ、有希がSOS団にいるのが嫌なのなら、残念だけどあたしからキョンに言って……」

「気にしなくていいよ、今のは単に少し……そう感情が爆発しただけだ」

「そうだよね、有希だって人間だもんね、そういう時もあるよ」

「――人間だもん、か」

82 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/10(木) 00:03:59.05 ID:avtM4CGAO

「でも、あの二人は本当は惹かれあってると思う」

「あの二人って朝比奈さんと長門がか?」

 今度はハルヒがさっぱり意味の解らないことを言い出した。

「うん、こう人間って本当に好きな物や憧れてる存在だと思わない? 惹かれるからこそ手をだしづらかったり、関わるのが怖かったり……」

「よくわからん、俺なら気になる奴や物があったら積極的に関わるけどな。女子ならそういうもんなのか?」

「キョンはそういうことないの?」

「ないな、俺は例えばクラスに気になる奴がいたらそいつのタメに部活を作ったりして必死に関わるけどな」

「キョ、キョン……!」

 ………………。

 もしかしなくても俺、地雷踏んだ?

「あ、その……家の門限五時だから、あたし……帰るね!」

「待て、ハルヒ!」

「な、なに?」

「五時はとうに過ぎてる」

「あ、朝の五時なの!」

「じゃ、」

 じゃあ急ぐ必要がないじゃないかと言う前にそのままハルヒは俺の横を走り抜けて、逃げ去ってしまった。

 まあ、あんな事を言われたら逃げもするか、俺としたことがとんだ失言だった、明日なんて言って謝るべきだろうか?

 ――後になって初めて言えることだがこの時俺がハルヒに向かって言ったのは失言ではなく暴言だった。

 あの一言で世界があんなことになるんだと知ってさえいれば確実にあんなふざけた事なんて言わなかったのに。

 ただ俺は少し舞い上がっていたんだと思う。

 SOS団を結成し長門も朝比奈さんもいい人で俺とハルヒの関係もより親密になった――気がしていたしそのときの俺は自分でも順風満帆思えた。

 さてと続きはどの辺りから話そうか、そうだな本当に現れた謎の転校生をハルヒが部室に連れてきた辺りからにするか。

この後に長門と朝比奈さんら衝撃のカミングアウトをうけたり、委員長が乱心したりして俺の人生観は一変しちまった……やれやれだ。

85 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/10(木) 23:52:23.49 ID:avtM4CGAO

 待望の転校生がやってきた。

 ハルヒに話した時は冗談のつもりだったが本当にやってきたのならまたもや強引にメンバーに加えてしまおう。

 なに今度は男だというから朝比奈さんを見ればホイホイ着いてくるだろう、それでダメなら長門が眼鏡端を指でクイッとなおしながら声をかければいい、SOS団は総員四人のくせに妙に人材は豊富だ。
 だというのに。

「ねえキョン、何度も言うけどやっぱり転校生の勧誘はあたしがやるわ」

 この団長閣下は自分でやると言ってきかないのか。

「キョンこそ、なんでそんなにあたしが勧誘に行くのに反対するの?」

 知るか、強いて言うのなら俺のワガママだがそんなの理由にならない事ぐらいは俺にでもわかる。

「……わかったよ、もともとそういう約束だったからな」

「ありがとう、キョンにばかり勧誘させるのが少し負い目だったから」

 そう言って俺の方を見るハルヒの目はなぜか少しだけ俺を批難するようだった。

86 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/10(木) 23:55:06.13 ID:avtM4CGAO

 ――昼休みだ。

 ハルヒは宣言した通り9組に転校生の勧誘に行ってしまった。

 今日は昨日あんな事があったからハルヒと相当気まずくなる気がしていたが転校生騒ぎのお陰で普通に話す事が出来た。

 そこんとこは転校生に感謝。

 ちなみに9組は特進クラスで教室の位置が他のクラスと離れている、授業内容もレベルが高いせいか通常学級に対して妙な優越感を持ってる奴もいて五組との関係は微妙だ。

「ところでキョン、訊いていいかな?」

 一緒に弁当を食っていた国木田が思いだしたように話しかけてきた。

「なんだ国木田、金と勉強と女の相談以外だったら聞いてやる」


「たわけが国木田が勉強や金に関する事で貴様や我に教わることがあるか」

 と谷口の当たり前過ぎてつまらないツッコミ。

「男子高校生の悩みの九割その三つが基点になってると思うけど。それじゃあ訊かない方がいいかな」

 国木田には珍しく少し遠慮するような調子だ。

「なんだ珍しい、谷口ならともかくお前が女の話か?」

「まあそうなるかな、佐々木さんのことなんだけど」

「佐々木? 何者だそやつは?」

「キョンの中学の時の……」

 国木田、何故そこで言っていいの? みたいな目で俺を見た後に意味ありげに止める。

87 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/10(木) 23:57:26.63 ID:avtM4CGAO

「それは聞き捨てならんなぁ? 国木田よ大人しく吐くがよい」

 ホレ見ろ、こういうゲスの勘繰りしかできないアホが調子に乗っちまう。

「勘違いするなよ谷口、別に佐々木と俺の間には何もないんだ。最近は全く連絡とってないしな」

「連絡はとってないんだ、まあでなきゃここまで涼宮さんにベッタリもできないか」

 まったく国木田も他の旧クラスメート達も何を勘違いしてるんだ? ところで佐々木は俺の中学時代の友人だ。

 偶然同じ塾に通った縁で親しくなり、毎日一緒に下校したり塾に通ったりしていたし、多分学校でも一番話す事が多かったし、何回か家に寄っていったことすらある。

 ただ本当にそれだけだ、友人の誰も信じない所か母親すら「勉強頑張らないと佐々木さんと同じ大学にいけないわよ」とか言って焚き付けてくる、まったく皆大人になろうぜ。

「御託はよい、で国木田そいつのランクはなんだ? キョンのコレならばCかBマイナーぐらいか?」
貴様の美的感覚なぞ知るか。

「谷口の美的感覚はわからないけどね」

88 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/10(木) 23:58:51.58 ID:avtM4CGAO

 国木田とのコンビネーション口撃で谷口を沈黙させた俺は改めて国木田に会話を再開させる。

「それにしてもどうして急に佐々木のことを思い出したんだ?」

「急にじゃないんだ。この前予備校の統一テストで総合順位を上から見ていたら僕よりかなり早く佐々木さんの名前をみつけたんだ、流石にあの名門高校に通うだけのことはあるよ大部分の教科で僕より優れた成績を残していたよ、そこで少し彼女の進路希望とかが気になったわけさ」

 そう統一テストで自分を探す際には上から探す国木田が告げた。前から疑問だったがお前はなんでこの学校にいるんだ?

 お前なら特進の9組どころか佐々木の通う名門高校とやらにも受かったと思うんだが。

 その俺の問いに国木田は笑っただけで答えず。

「そこでキョンなら佐々木さんと連絡がつくんじゃないかと思ったわけさ。まあキョンがダメなら中学時代の佐々木さんの友達の女の子達に訊いてみるだけさ」

 そこで佐々木の話題は終わり、その後は谷口が振ってきた別のクラスにいる美人だが変な口調で喋る怪しいランクAマイナーの女子について談義する羽目になった。

89 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:01:09.68 ID:wis7kfEAO

 昼休みは終わりハルヒは席に戻ってきた。

 成果を聞くまでもなくその表情を見れば結果は歴然、うまくいったようだ。

 ハルヒが自分からSOS団のために活動して、それが成功したのだ大変結構なことじゃないか。そう思っても俺は自分のどこかにあるそれが気に入らないという気持ちを否定できないでいた。

「じゃああたしは部室に彼を案内するから、キョンは先に行ってて」

 俺もハルヒに付き添っていたかったがハルヒがそう言うのなら仕方ない嫌々先に部室に向かうとしよう。

「今日の涼宮さんはどこか少し変だな。君が何かしたのか?」

「まさか、それにハルヒはお待ちかねの転校生が来たってんで機嫌よさそうじゃないか」

「それこそ、まさかだ、君が気付いていないわけあるまい。彼女に感じる違和感を自分の感情で覆い隠して気付かぬフリをしているだけだ」

「うるさいな、お前に一体何がわかるんだ……って朝倉!?」

 俺も余程どうかしているな、クラス一の人気者であると同時に支配者であるこのお方に話かけてられているのに気付かないで普通に対処してしまうとは。

 男子生徒が朝倉委員長と個人的に一対一で話すなんざ谷口辺りなら百万円払った所であずかれない栄誉だというのに。

90 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:02:43.36 ID:wis7kfEAO

「どうしたのだ呆気にとられた顔などして。私が涼宮さんの異常に気付いたのがそんなに意外か?」

 そういやそれも意外と言えば意外か、朝倉はクラスメートの中ではわりとハルヒと親しい方だがそれは朝倉が誰とでも話して親しくするタイプだからややクラスで孤立しているハルヒと話す回数が他の人間に比べて多いだけの話だ。格別にハルヒと親しいわけではない。

「なに、わかりやすい話だ。今日の彼女は元気過ぎる。自分から転校生の勧誘に向かい、授業中に手を上げて発表し、君が気付いているかは知らんが普段よりも遥かに積極的に女子グループとも関わっていた」

 最後のは初耳だが、なぜそれが俺のせいだと思うんだよ。

「知れたこと、彼女の内面にそこまで強く干渉できるのは君だけだからだよ」

「俺だけ、だと?」

「イカにもタコにも」

「…………」

「ちなみに今のは私なりの冗談だ、面白くなかったか?」

「……話を続けてくれ」

 ハルヒにしろ国木田にしろ朝倉にせよ成績優秀過ぎる奴が考えることはイマイチわからん。

91 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:05:12.92 ID:wis7kfEAO

「前回の髪型事件然り、今回の一件もまた然り。君にとっての何気ない一言が彼女を掻き乱す。しかしそれでも世界に大きな異変がないことからも彼女が如何に自らを抑圧しているのかがうかがえる。やはり消してみるしかないものなのか?」

「なんの話だよ」

「君が解る必要はない、が。どうしても知りたければ長門さんにでも訊いてみろ。そろそろ彼女もその時だと感じているだろう」

 初耳だが朝倉の口ぶりからすると朝倉と長門は知り合いらしい。

「たく、なんなんだよ一体。ハルヒも朝比奈さんも長門もお前もわかりにくすぎる」

 本音だ。みんなもっとシンプルに成るべきだ。

「国木田。今日は時間も余ったし供にナンパに行かぬか?」

「遠慮しとくよ。じゃあねキョン、朝倉さん

「じゃあな」

「うむ、また明日会おう」

「待てい、ナンパにはお前のようなショタキャラもいた方が成功率が……待て、待たぬか国木田!」

「いい加減にしないと置いてくよ?」

「くっ、しかし今のを見たか国木田? キョンの奴は一体いつの間にAAランク+の朝倉涼子と親しくなったのだ?」

 いや、あそこまで解りやすくアホでも問題があるが。

92 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:06:37.27 ID:wis7kfEAO

 朝倉と別れた俺はハルヒの先に部室に行っててという言葉を思い出し、そのまま部室へと向かった。

 教室で色々やっていたせいでひょっとしてハルヒより後になってしまったかとも思ったが杞憂だったようで、部室にはいつも通り読者中の長門となにやら大荷物を抱えた朝比奈さんの二人がこれまたいつも通りに一言も口をきかずに待機していた。

「あらキョン君、良いところに来たわね。お茶淹れてちょうだい」

「偶然だ、僕も君が淹れたお茶が飲みたくなってきた」

 こいつら……良いさ淹れてやるよこの二人じゃなくてハルヒと新入団員のためにな。

「どうしんだい? そんな不機嫌な顔をして」

 俺の顔が不機嫌に見えるのなら確実に犯人の一人はお前だよ長門。

「あら? なんで湯飲みを五つも用意したの?」

「謎の転校生がやってきたんで今日から部員が増えるんですよ。今ハルヒが呼びに行ってます」

93 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:08:21.00 ID:wis7kfEAO

 ――その瞬間、部室の空気が一瞬で変わってしまった気がした。

「ふーん、やっぱりこうなるんだ。色々いじってみても結局大きな道筋は変えられない。だとすると、果たしてこの歪な世界の結末には何があるのかしらね? 長門さん」

「さてね、それを僕に訊くのかい? 全てを見続けるだけの僕に。」

 SOS団団員その三とその四の記念すべき会話はたったそれだけで終了した。

 今のは朝比奈さんなりに友好的に話かけたつもりなのか、悪意があったのかすらさっぱりわからない。

 長門がそれに返した台詞の意味も真意もわからん。

 俺にわかるのは朝比奈さんも長門も前にもまして黙りこんで視線も合わせないという事実だけだ。

 早くきてくれハルヒ、空気が重いんだ。

94 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:09:50.88 ID:wis7kfEAO

 堪えがたき沈黙に堪えること五分。

 待ち望んだ女神が余分なオマケと一緒にやってきた。

「大変長らくお待たせして申し訳ありませんこれも単にあたしの不徳といたすところで……」

 一人の男子生徒と供に現れたハルヒがまたもや気を遣い過ぎた挨拶。

「一年九組に本日やってきた即戦力になってくださる転校生で名前は」

 言葉を区切り、後は自分で言う? と後ろの男子生徒に目で尋ねる。……なんか気にくわないな。

 今まで後ろに控えていた少年はその問いに軽く頷くと俺たち三人のほうを向き、

「古泉一樹だ。……よろしく」

 スポーツ少年のような雰囲気を持つ細身の男だった。しかし頭痛でもあるのか額にこれでもかと皺がよってるのはマイナス点か? まあそういうのが良いって女性もいるかもしれんからわからんが。

 性格はわからないが良さそうには見えないな。若干ひがみも入った主観だが。

95 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:11:30.85 ID:wis7kfEAO

「ここはSOS団よ。あたしが団員その四の朝比奈みくる。涼宮さんはもう知ってるわね? あの眼鏡娘はその三で彼がその二。仲良くしましょうね」

 異常な食いつきのよさで転校生……古泉一樹に話しかける朝比奈さん。

「あ、お茶飲む?」

「……ありがとうございます」

 お前は知るわけないが、礼なら俺に言ってほしいな。

「ところで、入るとは言ったが結局何をする団なんだ? 昼間の説明ではイマイチ理解できなかったんだが?」

 ハルヒが昼休みにわざわざ会いに行って説明した筈だが、九組にしては理解力が足りないのか?

 ……いやいきなり「不思議なことを探す団です入ってください」なんて言われたら普通は当惑して相手にもしないだろう。

 そう考えればそんな説明でも一応入団を了承しただけ古泉一樹は(一般的な意味ではどうか知らないが)SOS団的な意味では団員にふさわしい人間だろう。

 いかんな、なぜかこいつに対してはまず悪意のある考えが浮かんでしまう。今後は同じ団で活動する以上は抑えなければ。

96 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:13:38.44 ID:wis7kfEAO

「あー、……なにをする団なんだっけ?」

 朝比奈さんが俺に訊く。

「さあ? 長門、お前はわかるか?」

 そんな難問を振られても俺では即応できない、長門にまる投げしてみよう。

「こちらが訊きたいぐらいだよ。……まあ、ここは団長殿に訊いてみるのが良いだろう」

 博識な長門もフェルマーの最終定理を超える究極の命題にはお手上げのようだ。

「え、キョ、キョン?」

「いや部室借りてきたり部員を引っ張ってきたのは俺だけど団長はお前だろ」

 ハルヒよ、わかってくれこの試練を乗り越えて初めてお前は真の団長になるんだ。

 ……団の概要を説明するってだけで団員総崩れってのにも問題ある気がするが。

「どうでもいいが、早く説明してくれないか?」

「うー、SOS団の活動内容はあの、その」

「その?」

 こんにゃろハルヒを困らせやがって。

 ……いや原因は俺たち団員三名なんだがね、ムカつくのは仕方ないだろ。

 窮鼠猫を噛む。

 追い詰められたハルヒは自棄っぱちに無茶苦茶なことを叫んだ。

「えーい、宇宙人や未来人や超能力者を探しだして一緒に遊ぶことです!」

 全世界が停止したかと思われた。

97 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:16:37.88 ID:wis7kfEAO

 てのは流石に嘘だが俺以外の全員は完全に動きが停止していた。

 朝比奈さんはいつもの余裕も色気もない顔で口を開けたままポカンとし(そんな表情でもかわいらしく見えるんだから元がいいと特だよな)

 長門は長門でいつもと同じポーカーフェイスかと思いきや、目を思いきり見開いて長門なりに驚いているようだ。

 古泉も額によせた皺がなくなり一見するとハンサムな好青年だ。やっぱりそっちの方が人気がでる気がする、まあこいつの人気なんざどうでもいいが。

「なるほど、ね」

 誰よりも先に我に帰った古泉は額に皺を戻しつつ、
「流石は涼宮さんと言ったところか。わかった入るとしよう」

 意味不明な感想を言った後に入団を了承した。

 あれで納得したのか? やっぱりこいつも変人なのかもな。

「古泉だ。転校したてわからないことばかりだが、よろしく頼む」

 ありふれた定型句を口にした古泉はそういって俺の方に視線を向けてきた。

「ああ、俺は……」

 そういや朝比奈さんのお陰で俺と長門の紹介はまだ済んでいなかったな。本名を紹介するいい機会とばかりに自己紹介しようとする俺を、

「ああ、彼はキョンで、女の子の方は長門有希」

 善意から口を挟んだハルヒが阻んだ。

98 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:18:47.43 ID:wis7kfEAO

 いいさ、俺はSOS団団員その一キョンだよ。本名なんかどうだっていいさ。

「どうかしたの?」

 いやなんでもない、気にしないでくれハルヒ。

 学校を案内してあげるとハルヒが古泉を連れて行ってしまったのでまた部室には俺たち旧団員三人が残された。別にそこまで世話を焼かんでもいいだろう。

「ほら、また不機嫌な顔だ」

 これは……そうお茶汲みのことをまだ根にもってんだよ、俺は執念深いからな。

「君がそう言うのなら構わないがね、彼女はカゴの中の鳥ではない。自由に羽ばたかせてやってもいずれは巣に戻ってくるさ」

「まあ、これで少しは懲りたでしょう。キョン君があたしや長門さんを連れてきた時も涼宮さんはそんな気分だったわけ、わかる?」

 朝比奈さんが不思議なことを言った。

「俺がハルヒが他人と親しくしてて嫌になる理由は何となくわかります、けどなんでハルヒは俺が朝比奈さんたちを連れて来るだけでハルヒが不機嫌になるんですか?」

「もう! それはね……っていいわ、もう。あたしそんなに良いお姉さんじゃないし」

 何やら軽く癇癪を爆発させた朝比奈さんはカッコいい子も居なくなっちゃったしもう帰ると言い残して部室から去っていった。

99 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:20:23.19 ID:wis7kfEAO

 あれ、朝比奈さん持っていた謎の大荷物を置いていっちまったぞ?

「ああそれは何やら使う予定があるから置いていくそうだ」

「そうか……ってお前朝比奈さんと話したのか?」

「ああ、君や涼宮さんがあまりにも心配するのでね、僕と彼女もそれなりに努力して距離を縮めているわけさ」

 そうかそれは喜ばしいが……となると朝比奈さんは俺が居ない内に長門との距離を縮め、のこのこやってきた俺にお茶を注がせ、長門に対して皮肉や嫌味なのかもわからない謎の言葉をかけ、連れられてきた古泉にゴマをすって、最終的にはよくわからない理由で俺に説教したあげくに癇癪を起こして帰っちまったのか?

 なんという複雑怪奇さ、俺には到底理解できん。

「まったく女ってのは解らんな長門」

「君が何をもって女と定義付けているかは知らんが僕も女だ、知らなかったのなら憶えてくれたまえ」

 しゃべり方も胸囲もおよそ女とは思えないクセによく言うわ。

「バカ、皮肉で言ったんだよ」

「知ってるよ。それを僕は知った上でまともに返したわけだが?」

 たく、口じゃ、お前に敵わないな。

100 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:21:41.58 ID:wis7kfEAO

「ところでキョン、君はなにかしらの告白をされる際には電話か手紙ならどっちがいいかな?」

「なんだよ藪から棒に。……その二つなら手紙かな?」

「ふむ、そうか……ならばこれをくれてやろう」

 そう言って長門は鞄の中をごそごそ漁ると色気も何もない茶封筒を取り出した。

「……なんだこれは?」

「君への手紙だ」

 なんの飾り気もなく宛名すら書かれていないのに可愛らしいピンクのシールで封をされている辺りは長門なりの気遣いなのか。

「なに大したことを書いてはいない。家に帰ってから時間に余裕あるときにでも読んでくれ」

 それで伝えたいことは全て伝えたのか長門はすたすたと部室を出ていってしまった。

 こっちの動揺なんて知らん顔で。

101 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/11(金) 00:25:32.96 ID:wis7kfEAO

ちょうど100いったし区切りもいいので切ります。

次回更新は明日の同じ時間に
「長門有希の告白」
をお届けします。
キャラクターも出揃ってきたのでキャラクター設定みたいのも需要があったら上げます。
書いたのが五年ぐらい前なので大分設定からはズレてますが。

109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:00:39.02 ID:tKFe3RyAO

 長門と別れて自宅に戻った俺は飯を食ったりしてダラダラした後に長門から押し付けられた茶封筒を開いた。

 本当はもっと早く開くつもりだったんだ。でも、同級生の女子からもらった手紙だぜ?

 たとえそれが長門でも大事件だ、脳内を整理し心を落ち着かせる時間も必要だったし、長門も暇なときに読めって言ってたしな、と自分に都合のいい言い訳。


 ビリビリ!
 ここまで乱暴に開ける気はなかったんだ許せ長門。特に俺の予想した通りの内容だった場合は本当に申し訳な……うん?

 中に入っていたのはなぜか一枚の栞。

 花のイラストがプリントしてあるファンシーな栞だ。それだけってこともないだろうと裏返してみて俺の思考は一瞬停止した。

『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』

 このワープロで打ったようなそっけない筆跡。間違いなく長門だ。

 七時? 咄嗟に時計を見る、現在六時四十五分、ここから駅前公園まではチャリで二十分。

 迷ったのは十秒足らずの筈だ、俺はそのまま部屋を飛び出し階段を駆け降りる。

「あれ、兄貴どこいくの?」

 途中ですれ違った妹に一言駅前と答え、玄関先繋いであったママチャリに跨がった俺は全速力で駅前公園に向かって走りだした。

110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:02:18.64 ID:tKFe3RyAO

 もしかして長門なりのジョークなのかもと少しばかり疑っていたが、長門は本当に駅前公園のベンチに座っていた。

「只今七時十分、十分の遅刻だなキョン」

 長門よ、愛用のママチャリの寿命を二ヶ月は縮めて目的地の光陽園駅前公園に着いた俺に対してその言葉は些か冷た過ぎるんじゃないか?

「お前な、待ち合わせの呼び出しなら暇なときに開けとか言うなよ。言ってくれてればもっと早くこれたんだ」

 俺の当然の抗議を長門はクククと笑っただけであしらい。

「そこは微妙な乙女心という奴さ、君はもう手紙を見ただろうか? それともまだ開いてもいないだろうか? 開いたとしても栞に気づかないのではないか? いや栞に気付いても彼は来てくれないかもしれない。………と、まあこんな風に揺れる自分自身の内心を楽しんでいたわけだよ」

 それのどこが楽しいのか俺には理解できん。

「そうかな? 自分で言うのもあれだが、アレコレ思い描きながら一人ベンチに座り君を待ち続ける僕はかなり可愛らしく見えたのではないかと思うよ?」

 悪いな長門、俺は過去の教訓から自分で自分を可愛いって言う女性は信用しないことにしてるんだ。

111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:04:21.06 ID:tKFe3RyAO

「賢明だよ、そういう女は人格に重大な欠陥がある場合が多い」

 ……もう何も言わないよ、どうせサラッと流されちまうだろうからな。

「ふむ、では話もまとまったし行くとしようか」

 どうも長門の中ではこれで話がまとまったらしい、朝比奈さんの次ぐらいにどんな神経しているのか気になる奴だ。

「行くってどこへだよ」

「なに、ついてくればわかるさ」

 そりゃその通りだが、出来るのなら俺は今知りたいわけだ。

「それは着いてのお楽しみだ。明日学校でマラソン大会がある小学生の気分で待ちわびていてくれ」

 口に出すのも面倒だが長門、その例えじゃ全然わくわく出来ない。

 結局そのまま何も言わずに歩き出した長門の後に続いて歩くこと数分。俺たちは駅からほど近い分譲マンションに辿りついた。中々立派なマンションだし駅から近い立地条件を思えば結構な値段になるんじゃないだろうか?

「ここだよ」

 俺に一言かけた長門は慣れた手つきでパスワードを入力して正門のロックを解除して中に入っていってしまった。

 仕方なく俺も自転車をそこらに立てかけて長門の後を追う。

112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:06:36.73 ID:tKFe3RyAO

 そのまま長門は一言も口をきかないままエレベーターに乗り込み、行き先のフロアを指定する。七階に参りまーす。

「あのさ、俺たちはどこに行こうとしてるんだ?」

 相も変わらず無表情で数字盤を凝視する長門に沈黙に堪えられなくなり声をかこてみる。

「ああ、そういえば言っていなかったね、僕の家だ」
 ……ちょっと待て。

「安心したまえ、僕以外は誰もいない」

 ますますちょっと待て。

「えと……ご家族はお出かけ中か?」

「いや、最初から僕一人だ、複雑な事情があってね」

 そりゃ高校に上がったばかりの女の子がこんな高そうな分譲マンションに一人暮らしなんて、複雑な事情もあるんだろうが、……ここは長門の家族といきなり顔合わせするハメにならなかったことに胸をなでおろすべきか長門と二人きりという状況に更に緊張すべきか悩むところだ。

113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:08:22.76 ID:tKFe3RyAO

 エレベーターが目的地である七階に到着。長門は俺がついてこない可能性なんて考慮していないであろう足取りでどんどん先に行ってしまう。

「到着だ」

 708号室。どうやらここが長門の根城らしい。

「さあ、入りたまえ」

 「さあ」って言われてもなぁ……長門よ、これは色々問題あるだろう。

「問題? 解らないな、この部屋は法的に完全に僕の所有物だ。その僕が鍵を解除し扉を開き手招きしているのだから何の問題もないだろう」

 いや一人ぐらしの健全な女子高生が部屋にこれまた健全な若い男を部屋に呼ぶという行為そのものがだな……

「安心したまえ、間違いなんておきる筈もないし……」

「ないし、なんだよ?」

「――間違いが起きても別に僕は気にしない」

 マジかよ。

「まあ、僕の話を聞いたらそんな気もおきないだろうがね、いや君なら最初からそんな心配は不要かな? ともかく入りたまえ」

 長門は片手で708号室の扉を開けたまま俺をじっと見つめてくる。

「………」

 狼狽えながらも、その狼狽を顔にださないように注意しながら恐る恐る上がらせていただく。

114 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:09:56.12 ID:tKFe3RyAO

 バタン、と背後で長門が扉を閉める音に自分が長門有希の家に踏み込んじまったことを嫌でも自覚させられる。靴を揃えて脱いだ俺に、

「そのまま奥に、リビングでくつろいでいてくれ」

 と声をかけた長門は俺を追い越してどんどん奥に進んで行く。

 長門の後ろ姿を追いリビングに辿り着いた俺は辺りを見回し状況把握に努める、3LDKぐらいでおそろしく生活感のない部屋だ。

「ほら、お茶だ、君を今日こきつかった詫びだ、飲んでくれ」

 キッチンへと姿を消していた長門は手にお盆にのせた急須と湯飲みを持って戻ってきた。

「……ありがたくいただこう」

 忘れていたが公園まで割りと急いで自転車を走らせてきたせいか喉は渇いている。長門に一言礼を言って湯飲みに口をつける、……渇いた喉に温めのお茶が染み渡る。

115 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/13(日) 03:11:45.43 ID:tKFe3RyAO

「で、」

 飲み干したお茶のおかわりをれようとする長門を片手で制して声をかける。

「わざわざ俺を呼び出した理由ってのは何だ、学校じゃ言えないような事なのか?」

「当然だろう? 僕は無駄が嫌いな性分でね、学校で言って済むような話題ならば学校で言っている。あんな回りくどい手段を使って君を呼び出した以上は学校で話せない話題であることは自明の理だと思うがね」

 ここは無駄が嫌いなら直接俺に家に来るように言えばいいじゃないか、というツッコミは封印することにする。

「そうだな、お前相手に無駄な事を訊いた俺がアホだった。短刀直入に用件を聞こうか」

 そこで長門は微かに悩むような表情をしたが。

「よかろう。あまり長くなりすぎるのは僕も望むところではない。……君が信じなくてもいい、上手く伝わらずに齟齬が生まれるかもしれない、しかし聞いてほしい。それが僕がここに存在する理由だ」

 なんだかまた小難しい話になりそうだが仕方がない。

 そんな深刻な面をした奴を無視して帰れるか。

「聞いてやる、ただし手短にな」

 俺がそう言うと長門は安心したのか軽く微笑んだ。

 なぜだろう? 心拍数が上がった。

129 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/21(月) 00:03:10.63 ID:g7gDfreAO

 そして長門は話し出した。

「涼宮さんと僕は普通の人間ではない」

 んなこと、一目で解るハルヒの可愛さは異常。

「そういった容姿の問題ではないよ。だからといって内面に普遍的な性質をもっていないといった話しでもない。読んで字の如く、彼女と僕……まあ朝比奈さんと古泉君を含めた僕らは君のような大多数の人間と同じとは言えないわけだ」

 なんだSOS団は普通の人間より普通じゃない人間の方が多いわけか? 深刻な逆転現象だな。

「元々普通じゃないクラブだし当然と言えば当然とも言える。ただ異常というものは周りが正常で初めて浮かび上がる、そう考えれば異常な人間しかいないSOS団においては君こそが異常で僕たちは正常であるともとれる。異常者というマイノリティは常に通常者というマジョリティの中に存在するのだからね」

「……よくわからんがこれがお前の話しなのか?」

「すまない、話がやや斜め上にずれた」
 やれやれ、長くなりそうだな。

130 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/21(月) 00:06:38.02 ID:g7gDfreAO

で、この後の長門の話は都合により省略させていただく。だって長いし、難しいし、ハルヒに直接関係ないしで俺はぜんぜん興味が持てないわけだ。

 まあ勝手に総括するのなら長門は宇宙人らしい。以上。

 たったこれだけのカミングアウトだった筈なのに長門が話題を四方八方好き勝手に話題を飛び散らかすもんだから一時間近くかかってしまった。そろそろおふくろから電話がかかってくるだろう。

 すると突然無機質な着信音が響いた。

 寸前まで自分の電話について考えていたせいか一瞬自分の携帯かと思い違いをしてしまいそうになったが、この色気のない着信音は長門宅の備え付け電話だ。

「失礼」

 と俺に断って電話に出た長門は、

「涼宮さんか、こんな時間にどうしたんだい? 部室の施錠について? 僕は別に盗られる物もないし構わないと思うが」

 どうやら相手はハルヒらしいななどと思いながらボンヤリ聞いている俺に対して、

「……そうか今は最新型のパソコンが有ったんだね。ふむ、確かにそうした方が確実か……朝比奈さんと古泉君には既に連絡を? なるほど。後はキョンだけか、ならば代わろう丁度今、この部屋にいる」

 とんでもない不意打ちを仕掛けてきやがった。

131 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/21(月) 00:08:31.02 ID:g7gDfreAO

「ほら」

 ほら、じゃない一体俺にどうしろっていうんだ。

「あ、もしもしお電話代わりました」

「あ、私、涼宮と申します」

 俺には知ってますよとツッコミを入れる余裕もない。俺の声をした俺以外の誰かがハルヒと会話している。

「あ、ご用件の方はなんでしょうか?」

 誰だ、この俺の声をした奴は。

「えーと、部室の施錠についてなんですけど……」

 ハルヒの声がなにか言っている。

「それでは用件はこれだけですので、ご ゆっ く りど う ぞ」

 最後のごゆっくりどうぞに妙に力を込めてハルヒが一方的に電話をきった。

「どうしたんだキョン、全身に冷や汗なんてをかいて」

 ……いや、こいつは自称なんたらかんとかなんだか体に作られたよく思い出せないフェースなんだ、そんな奴に怒っても仕方ないか。

「帰る」

「顔色が悪いぞ、送っていこうか?」

「いい」

 いや会話をぶつ切りにしてしまっては、俺が怒っているみたいに聞こえてしまうだろうが自分から長門の家に来た俺が長門に対して何か言うのはお門違いだから怒ってるわけじゃない……そうだな、眠いんだ。俺はいい年して眠くてイラついてるガキなんだよ。

132 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/02/21(月) 00:09:51.82 ID:g7gDfreAO

 あー眠い眠い、もう帰るぞ。

「そうか残念だよ、最後に一つだけいいかな?」

「ダメと言っても無駄なんだろ? 本当に一言だけで済ませろよ」

 もうどうでもいいやという気分で答える。

「朝倉涼子に気をつ
けたまえ」

 一瞬思考が止まる。

「朝倉にだと? お前何を……」

「さて、一言で済ませろと言われてしまったからね」

 何やら煙にまこうとする態度だが、今の俺には追求する余力はなかった。

「――帰る」

「さらばだ」

 なんか今生の別れみたいだなと突っ込む気力は当然あるわけない。ハルヒが一方的に電話をきった。

「どうしたんだキョン、全身に冷や汗なんてをかいて」

 ……いや、こいつは自称なんたらかんとかなんだか体に作られたよく思い出せないフェースなんだ、そんな奴に怒っても仕方ないか。

「帰る」

「顔色が悪いぞ、送っていこうか?」

「いい」

 いや会話をぶつ切りにしてしまっては、俺が怒っているみたいに聞こえてしまうだろうが自分から長門の家に来た俺が長門に対して何か言うのはお門違いだから怒ってるわけじゃない……そうだな、眠いんだ。俺はいい年して眠くてイラついてるガキなんだよ。

140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:09:55.00 ID:+052ZmUAO

 そのまま無事家についた俺は何も言わずに夜出歩いた罪で母親に小言をくらい、妹に嘲笑された。いつもなら反撃の一つや二つ食らわせてやるところだが今日はそんな気力も湧いてこない。
 ……風呂に入って寝るか。



 翌朝、いつもより大分早く登校した俺が教室を恐る恐る覗いてみるとハルヒはもう席についていた、一目でわかるネガティブモードで漫画なら目の上に黒い線が何本も入っているだろう。

「よ、よう」

 なるべく普段通りに声をかける。別に俺とハルヒはどんな関係でもありえないのだし、長門と何をした訳でもないから後ろめたくなる理由もないわけだが……それでも声が震えてしまうのは俺がチキンだからなんだろうな。

「うん、おはよう」

 わりと普通の挨拶が帰ってきたが少しばかり声に張りに欠ける気がする。

「ど、どうかしのか? 元気なさそうだが」

 理由なんてわかっている筈の俺が訊くのもアホらしいが万が一違った場合恥ずかしいから訊いておく。

 自分が原因だと思って申し開きしようとして

 「あたしは転校生の古泉君がカッコ良すぎて困ってるの……」

 とか言われたら二度と立ち直れない。

141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:12:11.01 ID:+052ZmUAO

「……私は全然大丈夫、むしろあたしはキョンの睡眠時間とか腰痛にならないかとかの方が心配です」

 中々強烈な一撃だ、かなり傷ついたが同時に俺が長門と一緒にいたことによってハルヒも傷ついてくれたことを喜ぶ歪んだ自分もどこかに存在していた。

 昨日は古泉にかかりきりで相手してくれなかったからな……しかしここで反論しなければ誤解はとけない。

「なあハルヒ、昨日の夜のことなら……」

「中国でのデモ弾圧に端を発し中国に対する国際的な批判や北京五輪に対する妨害活動は激化。これに便乗した北の金さんが気まぐれでミサイル発射スイッチを押してしまい……」

 ダメだ、取りつく島もない、この状況一体どうしたもんか。

「キョン、お客さんだよ」

 ハルヒにシカトを決めこまれ途方にくれる俺にいきなり国木田が話しかけてきた。

「長門さん!?」

 何故かいきなり食い付くハルヒ。

「さあ? 名前は知らないけど男の人だよ、見かけない顔だけど中々カッコよかったと思う」

 はて、他のクラスにも中学時代にそれなりに親しくしていた奴等もいるがソイツらなら国木田は名前で呼ぶだろうし、そんな奴には心当たりがないんだがな。

142 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:14:20.30 ID:+052ZmUAO

「お前か……」

 教室の外で俺を待っていたのは昨日知り合ったばかりのしかめっ面の持ち主――古泉一樹だった。

 当然と言えば当然か、国木田が知らなくて俺が知っている他クラスの男子生徒はよく考えりゃこいつ一人だからな。

 それでも咄嗟に顔が思い浮かばなかったのは、昨日知り合って軽〜く顔合わせしただけのこいつがわざわざ俺を訪ねてくる理由が思いつかなかったからだ。

「朝早くから一体何の用だ?」

 昨日こいつにハルヒを独占されたことを思いだし少しだけ嫌な気分になる。

 ……自分はその何倍もハルヒをイラつかせておいて勝手なもんだが、これは半ば男の本能みたいなもんだから仕方ない。

「貴様にとっても私にとっても愉快な話しにはまずならないだろうが、お前にここでは少しばかりここでは話しにくい件で話しがある。まだ始業まで大分時間もあることだし、五分程私に付き合ってもらおうか」

「やれやれ、またこのパターンか。俺に拒否権はあるのかね?」

 細やかに抵抗を試みる俺に、

「なくはない、が。その場合彼女の機嫌はあのままだぞ?」

 片手で朝っぱらから窓の外を見つめて盛大に溜め息をつくハルヒを示して古泉がとどめをさした。

143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:16:18.74 ID:+052ZmUAO

 ハルヒの名前を出されてしまっては俺にはどうしようもない。

 いけすかない奴でもこいつ話しとやらでハルヒの機嫌がなおるのなら……って、なんで古泉がハルヒがネガティブモードに突入していることを知っているんだ!?

 ハルヒが古泉を案内して校舎を回っている間に俺は長門から手紙をもらってそのまま帰宅。

 その後長門の部屋で既に古泉と朝比奈さんに連絡したハルヒから電話をうけた長門があんな暴挙にでたためにハルヒだけでなく俺までネガティブモードに突入しかかっているわけだが……なんでその事をハルヒが長門に電話した時点で既にハルヒから連絡をもらっていた筈の古泉が知っている?

「実は自分もハルヒの部屋にいたんだ」

 なんて言ったら怒るぞ、いや俺に怒る権利なんてないが、それでもやっぱり怒る。

「ふう、解らないか? それも含めて話したい事なのだ。理解したか? 理解したのならついてこい」

 そう言って俺の返事も聞かずに歩きだす古泉。こいつといい長門といい、いつか絶対にギャフンと言わせてやる。

144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:18:44.72 ID:+052ZmUAO

 会話を交わしていてもニコリともせず、ずっとしかめっ面を続ける古泉の後をついていくのはさすがの俺でも少し苦痛だった。

 ところでどんどん人気のない方に向かっているのはどういうわけだ?

「この辺りでいいか……あまりコソコソし過ぎても不自然だからな」

 そう言って古泉が足を止めたのは常時施錠された屋上への扉に向かう階段の踊り場だった。

 屋上へのドアが常に施錠されている関係上、四階より上の階段はほとんど物置と化している。

 でかいカンバスやら壊れかけたイーゼルやら鼻のかけた不細工なマルス像やらが積み上げられていて、狭くて薄暗い。

 こんなところに呼び出してどうするつもりだ?

 まさかカツアゲか?

「何をした?」

「したって何を?」

 ほとんどおうむ返しになってしまったがそれぐらい古泉の言葉は唐突で理解し難いものだった。

「お前が首ったけな涼宮さんだ。最近は安定してきたというのに昨日の夜から急にこの有り様だ。私が推察するに部室の施錠について電話した際になにかあったようだな」

145 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/03/15(火) 02:20:19.42 ID:+052ZmUAO

時事ネタが古くてスイマセン
書いた時はタイムリーだったんです

149 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/27(日) 23:58:49.49 ID:5fjBeUAAO

 どうやら古泉の用件はハルヒのネガティブモードについてらしい。

 まあ、あんだけあからさまに後ろ向きな思考に没頭しているところを見たら誰だって心配になるか。

 とはいえ昨日知り合ったばかりのコイツに事情を話して助力を願うのも俺のプライドが……と俺がたわけた事を考えていると、

「まさかとは思うが、自分の体面を保つためだけに情報を隠蔽しようなどとは考えてはいないだろうな? 最重要なのは涼宮さんに機嫌をなおしてもらうことだ、ゆめゆめお前にとっての優先順位を間違えるなよ」

 ――そうだな、確かにそうだ。俺の体面が傷付くだけでハルヒの機嫌が戻るのなら安いもんだ。

それを古泉に指摘されるのは癪に触るがそれすらも俺の未熟が招いたことなのだから受け入れなければならない。――だから俺は!

「だったら さっさと話せ」

 俺がせっかくカッコつけてるのにこの男は……

 しかし事態は急を要するのも事実だ、俺は手短に古泉に事情を説明した。

「なるほど、大体の事情は理解した。恐らくは観測目的なのだろうが人型インターフェースが、やってくれるな」

150 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:00:40.58 ID:KBUqWITAO

 その古泉の台詞に俺は強い違和感を覚えた、いや会話の最初からうっすらと覚えていた違和感をはっきりと認識したと言うべきか。

 さっきも考えたことだが古泉はハルヒが不機嫌だったから理由を知ろうと俺に声をかけた、それだけ聞けばまっとうな理由に思えるがこれには重大な矛盾がある。古泉は一体「いつ」ハルヒの異常に気付いたのか?

 昨日ハルヒは古泉と朝比奈さんに電話した後に長門に電話をかけた。

 つまり古泉は昨日の夜の内にはハルヒの不機嫌を知ることは不可能だった、これは間違いない。

 それならば次に浮かぶ可能性は朝ハルヒに会って直接見るなり話すなりして気付いた、という線もあるがこれも可能性は低い。

 なんとなくだが古泉の性格なら朝ハルヒの様子がおかしかったら直接理由を訊くような気がするし、ハルヒにも古泉にも今朝二人が話したような雰囲気を感じられなかった。

 それならばいっそのこと長門から聞いたとも考えられるがそれならばハルヒが不機嫌な理由をわざわざ俺に訊かずともわかる筈で、俺を呼び出す理由がない。

151 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:01:33.81 ID:KBUqWITAO

「…………」

 古泉は俺の不信感を顕にした態度に気付いたのか少しだけ声の調子を変えて話を続けてきた。

「今のお前が私を理解できないのは当然だ。信じろとは言わん。だが、とりあえずこの場は私に任せてくれ、確実に悪い方にはいかない筈だ」

 気にくわないしかめっ面をやめて、そんな真剣な顔をされたら首を横に振れるはずもない。俺はとりあえず古泉に任せてみることにした。

152 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:03:22.13 ID:KBUqWITAO

「で、あれだけ自信満々に言い切ったんだ、当然なにか策があるんだろうな」

 言われるままハルヒの待ち受ける教室に向かう道すがらに俺は古泉に話しかけた。

「まあ、タイタニック号に乗った乗客の気分で見ていろ。朝のショートホームルームの頃には万事解決だ。」

 うろ覚えな知識だが確かタイタニック号には人数分の救命ボートがなかったんじゃなかったか?

 そんな俺の素朴な疑問に古泉は軽く顔をしかめて見せるだけで答えず、

「安心しろ、恐らく長門有希も今回の一件について本気ではあるまい、これ以上の干渉はしてこないだろう。したがって私が貴様が長門有希の自宅にいても不自然でない理由を作ってやれば、朝比奈みくるが何かしない限りは天下大平ということだ」

 よく分からない台詞を返してきた。

「――よく分からんがお前と朝比奈さんと長門……と言うより俺とハルヒ以外のSOS団メンバーは仲が悪いのか?」

 あまりもの古泉の他メンバーに対する態度の悪さに自然と疑問が口をついて出る。

153 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:04:55.90 ID:KBUqWITAO

「……仲が悪いというのとは少し違うな、お互いに必要以上の干渉をしていないだけだろう。そもそも私はまだ転校二日目だ、仲たがいをするほどの時間もないだろう」

 必要以上の干渉はしない。恐らくこれ以上はない程に俺とハルヒ以外のSOS団メンバーの関係を言い表した言葉だろう。

 自称宇宙人の貧乳めがね饒舌野郎(性別上は女だが)に極悪ロリ巨乳美少女、しかめっ面のハンサム君。

 どいつもこいつも何故SOS団に入団したのか不思議になるぐらい個性の強い奴等で無理に仲良くする必要も意味もないのかもしれない、何せ入団理由すらも明確ではない奴ばかりなのだから。

 それでも、

「他のメンバーもお互いに仲良くやった方が良いと思うぞ。その方がハルヒも喜ぶと思うし、……俺も嬉しい」

 言わなくてもよかったことを言ってしまっていた。古泉も長門も朝比奈さんも、SOS団入団にはそれぞれの思惑があったのかもしれない、他の団員と仲良くやる気なんてないのかもしれない。それでも仲良くやってほしいと、言ってしまっていた。

154 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:07:07.98 ID:KBUqWITAO

「…………まったく、お前も涼宮さんも好き勝手に言ってくれるな」

 暫しの沈黙の後、そう返してきた古泉はあのしかめっ面をやめ、なんとも言えない哀しみと諦めと怒りと憧憬をごちゃ混ぜしたような微妙な表情をしていた。

「ハルヒも、てことはハルヒにも似たようなことを言われたのか?」

 古泉はそのなんとも言えない表情を消すと、いつもと同じしかめっ面をその顔に貼り付け話を続けた。

「ああ言われたとも、SOS団の皆は少し個性的だけどいい人達だから仲良くしてあげてね。とな」

 個性的か……便利な言葉だよな、変人も超人も美人も不美人もみんなひとくくりにして呼べる上に具体的にドコが個性的なのかは口を閉ざせる。

 ところでハルヒ、その個性的なメンバーとやらに俺は入っていないよな?

「つくづくお前も涼宮さんもお節介だな。私と他の団員の関係が良好だろうがなかろうが関係ないだろうに」

 だが、とそこで一旦言葉を区切り、僅かに言うか言うまいか迷うような表情を見せた古泉は結局。

「だが、もし出来るのなら、そう願い続けてくれ。涼宮さんとお前が願い続けてくれればそんな日もくるかもしれん」

 と続けた。

155 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:08:57.28 ID:KBUqWITAO

「ハルヒと俺が願い続ければ、てのは何だ? お前と長門や朝比奈さんの関係になんで俺やハルヒが出てくる」

「なに昔から願い続けた夢は本当なると言うではないか。それが涼宮さんなら尚更だ」

 そういえばハルヒなら何が尚更なのかはわからないが、そう言う古泉は妙に自信に溢れたな顔をしていた。

「そうかよ、だったら俺もハルヒもせいぜい祈らせて貰うぜ。その変わりハルヒの機嫌を元に戻すのはよろしく頼む」

 ハルヒの夢は宇宙人やら未来人やら超能力者と会うことらしいが自称宇宙人は既に現れている、案外本当に夢は叶うのかもしれない。

「フッ、任せろ。女の機嫌取りは数多い得意技能の一つだ」

「大した自信だな、期待しといてやろう」

「期待など要らん。確信して見ていろ」

 昨日転校してきたばかりのしかめっ面の転校生とそいつ笑顔で話しながら、小突きあっていた俺は間違いなく朝の廊下で少し浮いていた。

156 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:10:41.99 ID:KBUqWITAO

 その後、古泉は約束通りアッサリとハルヒの機嫌を上方修正してくれた。

 古泉のとった手段は単純で、

「いいか、涼宮さんにとって一番気に入らなかったのは長門有希の自宅にお前が『一人』で居たことだ。従ってその場にお前以外の人間が居たことにすれば話は簡単だ」

 とのことで、古泉はその場で凄まじい嘘話をぶち上げた。

「SOS団の部室に入って稲妻に撃たれた気分だった……そこには私の全ての願望を具現化したかのような女性がパイプ椅子に腰掛けて読書していた……」

 要は古泉は長門に一目惚れした(ということにした)のだ。

「涼宮さんに長門さんの連絡先を訊ねようかとも思ったのだが異性相手では些か気恥ずかしい……そうして一人下校した後になんとなく外を歩いていると、偶然にも彼と出会ったのだ」

 古泉は堂々と(嘘100%の)赤裸々トークを続ける。

「そこで私は迷うのをやめた。強引に彼を説き伏せ、長門さんのマンションに向かったのだ」

 ……なんか俺まで本当はそうだった気がしてきた。

157 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:12:45.07 ID:KBUqWITAO

 「涼宮さんから電話が掛かってきた時は咄嗟に今自宅にいると言ってしまったが、本当は私も長門さんの家にいたのだ」

 古泉は更に雄弁になり、感情を込めて言葉を繋げる。

「そこで長門さんは少し悪戯心を起こしてしまった。彼が自分の家に一人で来ているかのように語り、涼宮さんの動揺を誘ったのだ。――まあ、あまり趣味のいい遊びではないがな。ともかく涼宮さんはアッサリ長門さんの罠にかかって……」

 ハルヒは古泉の話を赤くなったり青くなったりしながら聞いていたが、話がここに到り自分が少し早計だったと俺に頭を下げてきた。

「本来ならすぐさま疑惑を解くべきだったのだが彼は些か口下手でな、仕方なく私が出てきたわけだ」

 古泉が何か気にくわないことを言っているが、疑惑が晴れればそんなのはどうでもいい。

「あたし、よく確めもせずにキョンを疑って」

 そうなると落ち着かないのは俺だ、なにせ古泉が言ったことは半分が完全な嘘で、もう半分の二割が真実を交えた微妙な嘘、残った八割は創り話というデタラメさ。ぶっちゃけて言えば本当なのは俺と長門の間になにもないという部分だけ、こんな話で恐縮されてはこっちも寝覚めが悪い。

158 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:13:46.43 ID:KBUqWITAO

 で、まあ色々とハルヒに言ったわけだ、「スグに事情を説明できなかった俺が悪い」とか「古泉が居たにしても一言かけるべきだった」とかな。

 そんなこんなでハルヒと二人で後ろ向き謝罪大会をしている間に古泉は何処かに消え、教室は平和な顔をしたクラスメート達で溢れかえっていた。

 ……朝倉と国木田のニヤケ面が腹立たしいが今日は許してやることにした。……まあ朝倉には訊かなきゃならないこともあったしな。

159 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/28(月) 00:15:39.06 ID:KBUqWITAO

長門有希『独白』

 長門有希はとても饒舌で時として毒舌ですらある。

 観察対象の涼宮ハルヒのみならず他の人間もそう認識しているはずだ。

 だが、それは必ずしも真実ではない。なぜならばこの口調も皮肉っぽい笑みも全て涼宮ハルヒへに対する『鍵』と友好関係を築くための偽りの仮面なのだから。

 浮かべる表情が偽りで、放つ言葉の九割がまた偽りなのなら。結局のところ自分自身の感情を表情に出せず、言葉を上手く並べられない人形と大差ない。

 願わくば、我らインターフェースにも自立進化の光を、

 ――今度こそ。

169 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/03/31(木) 19:45:06.13 ID:1yaqJG+AO

 昼休み。すっかり機嫌を直したハルヒが学食に向かった直後、俺は朝倉から呼び出されて、今朝古泉にと話たばかりの屋上に向かう階段の踊り場に向かっていた。

 朝倉涼子に呼び出される、なんて北高一年男子なら涎を垂らして喜ぶようなイベントだが、その用件を思えば浮かれた気分にはなれない、やれやれだな。

 待ち合わせ場所に当然のように待ち受けていた朝倉は、

「待ったか?」

「ううん、わたしも今来たとこ(はーとまーく)」

 みたいな阿呆な会話をしてみたくなるほどの極上の笑顔を浮かべ。

「来たか、用件は大体わかってはいると思うが長門有希と私、朝倉涼子についてだ」

 色気の欠片もない台詞を言い放った。

175 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/03/31(木) 19:57:01.12 ID:1yaqJG+AO

「あの自分達は宇宙人だ。とかいうアホ話のことか?」

「宇宙人か、正確な呼称ではないが、中々わかり易い表現だな。話の大筋は君が長門有希から聞いた通りだ」

 古泉といい、朝倉といい、なぜあの場には居なかった連中が俺と長門の会話の内容を知っているのかね? 長門は盗聴機でもないか部屋を一回調べてもらうべきだ。

「で? お前はわざわざこんな場所で一体どんな面白い話を聞かせてくれるんだ?」

「ああ、実に単純な話だ。君、死ぬ気はないか?」

 この朝倉涼子って女、委員長とかやってまともな人間みたいに見せているが実は長門をも凌駕する電波野郎なんじゃないだろうか。それにしても一体全体、何が悲しくてそれほど親しくもないクラスメートの女子に死ぬ気はないか、なんて訊かれにゃなれんのだ。

「答えるまでもないと思うが、嫌だ」

「だろうな、いやすまない、つまらない事を訊いた。有機生命体が安々と死を選ぶ筈がないのだったな」

「当たり前だ、まだまだこの世には未練があるんだ」

 まったく笑えないが今のは朝倉流のジョークだったのだろうか。もしそうなら電波呼ばわりして悪かったかもしれない。

「では、私が殺すしかないな」

 訂正、やっぱ電波だコイツ。

176 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/03/31(木) 19:58:35.67 ID:1yaqJG+AO

「――安心してくれ、今は殺しはしない」

「今は、っていつかは殺すのかよ」

 我ながらつまらない事を訊いたな、朝倉が今はと言ったのならいつか必ずやるのだ。短く浅い付き合いしかないがそれはよくわかっているつもりだ。

「ああ、再来週の今日だ。放課後、君を手紙で呼び出して殺す」

「そこまで言っちまっていいのか? 手紙の用件が分かってたら、多分俺は行かないと思うんだが」

「それはそれで構わない。確実なのは地球時間で14日後、私が統合情報思念体のコントロールから離反し、君の殺害を試みる。その一点だ」

「その思念体とやらは、お前の親玉だろ? お前が離反することまでわかってるのに、放置されてるのか?」

「それは起きると決まっている事柄だからな。統合情報思念体は私の離反についてそこまで懸念していない。」

 要は全てをお見通しみたい顔をした朝倉すらナンタラ思念体の手のひらの上で踊っているだけなのか……って、こんな話を真に受けるなんて俺もどうかしてるな。

177 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/03/31(木) 19:59:08.29 ID:1yaqJG+AO

「つまるところ、俺の余命は後14日ってことか?」

 そう問いかける俺の声はどこか茶化すような響きがあった。こうやってふざけながら問いかければ朝倉もふざけて「今のは冗談だよ」とか言ってくれないかと願って、しかし現実も朝倉も無情なもので。

「残念ながらそうはならないだろう。長門さんが私の計画と私自身を打倒し、君を助けるはずだ。つまりは14日は私の余命だ」

 こいつ……この上、更に俺を混乱させやがるつもりか?。

「待て。お前が俺を殺そうとするってのは長門も承知の上なのか?」

「ああ、さっきも言った通りだが、私が暴走し思念体の管理下から離脱するのは確定事項だからな。方法は秘密だが我々にとって時間とは流れる川ではなく完成された大樹のようなものだ、未来も過去も全ては俯瞰するものにすぎん」

「待て待て待て! とするとだな、お前は自分自身が最終的に長門にやられるのも承知して俺を殺そうってのか? それって凄い馬鹿げてると思わないのか?」

 ワケがわからん、俺を殺す理由も真意もわからないが、成功確率0の上に失敗すれば長門に消されるとわかっているにも関わらずやるっていうコイツの気持ちがさっぱりわからん。

180 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/03/31(木) 20:01:55.61 ID:1yaqJG+AO

 悪いがはっきり言って正気じゃない。

仮にこの話が手の込んだ冗談であっても、まして本気ならば尚更だ。

「正気じゃない、か。そうだな、君たち有機生命体ならそう思うのも無理からぬことか……」

 朝倉はそんな俺の心情を見透かし、自嘲するような笑みを浮かべどこか哀しげに言葉を続ける。

「だが、君たちはどうだ? 人間とはどう考えても突破出来ない壁にぶつかった時、その場で諦めてしまうような種族なのか? 違うはずだ、たとえ不可能に思えようとも、たとえ無駄であっても、自らの道を切り開くからこそ人間なのではないのか?」

 それは……その通りなのかもしれない。もし俺の目の前に俺では到底どうにもできない残酷な現実があったとして、俺は何もしないだろうか? いや、多分何かしようとするはずだ、無駄に思えるようなくだらない事でも、事実無駄であっても。何かをしようとはするはずだ。

「そうだろう、『やらないで後悔するより、やって後悔する方がいい』私が人間達と暮らした数ヶ月で学んだ最大の成果だ。私は100%失敗する等という、つまらない現実ごときに敗北し自分の意思を曲げることなどできん」

181 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/03/31(木) 20:04:20.21 ID:1yaqJG+AO

14日後にお前と長門有希に挑み――死ぬ。だからこそ出来れば正面から自分に会いにきてくれ。

 そう決意した瞳が雄弁に語っていた。

「わかったよ」

 一体他になんと言えばいいのか。「馬鹿なマネはよせ」や「考えなおせ」なんて定形文は最早こいつに対する侮辱でしかない。

「……ありがとう。少し時間を取らせすぎたな。君は君の姫君の元に戻りたまえ」

「……」

 いつもなら照れ隠しの台詞の一つも吐くところだが昨晩の長門、今朝の古泉、そして今の朝倉。あり得ない話を立て続けに聞かされて俺は少し疲れていた。

 なんだかむしょうにハルヒに会いたくなった。……帰るか、俺の場所に。朝倉と俺とハルヒのホームルームに。

188 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:18:54.57 ID:ZbWFhxQAO

 朝倉と別れ教室に戻った俺は谷口や国木田とくだらない話をしたり授業中にハルヒにちょっかいを出したりしながら放課後を待った。

 SOS団が何をする団体なのかは未だに謎に包まれてはいるが既に俺にとって放課後に旧文芸部室にいき悪の大魔王である朝比奈さんや宇宙人(まだ長門と朝倉にそうだと聞かされただけだが、俺は不思議なことに当たり前のようにその話を信じていた)とグダグタと一緒に時間を送るのは俺にとって完全に恒例行事となっていた。

 ……そうか今日からは古泉も居るのか、下手するとまたもや俺の団内オセロランキングが下がってしまう。あいつがオセロ下手なことを祈るとしよう。

 ちなみに団内オセロランキングは長門とハルヒの実力が伯仲しておりその遥か下を朝比奈さん、俺と続く。朝比奈さんと俺は実力的には大差がないが朝比奈さんは俺が盤上から目を離すとすぐに不正を働くので油断できない。

(俺は朝比奈さんの胸の内を探ろうと視線を向けているだけなのに朝比奈さんはその僅かな隙に不正を働き、それを見たハルヒ達は俺に冷ややかな視線を向けてくる、まったく酷い話だよな)

189 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:19:44.48 ID:ZbWFhxQAO

 ――そして放課後。

 俺がSOS団に所属し放課後を浪費しているのは最早周知の事実となっているため一緒に帰ろうと声をかけてくる奴も一人もいない。谷口と国木田に一言別れを告げ、最近頻繁している地震と自分は何らかの因果関係があるのかと考えて鬱々としていた加害妄想少女を引っ張り部室に向かうことにした。

 部室にはパイプ椅子と一体化したかのかと思う程に毎回同じ姿勢で待機している長門が一人いるだけだった。

「なんだ長門だけか? 新人は早速遅刻か……」

「そんな意地の悪い先輩みたいなこと言わないで……あ、でもみくるちゃんと古泉君の鞄はあるみたいだよ。まさか事件かなにか巻き込まれたのかも!」

「単に二人で校内を回っているだけなんじゃないか? 古泉はまだ転校二日目だしな」

「そ、そうだね。でも三人じゃ特にすることもないよ」

「確かにそうだな、じゃあとりあえず……」

「服を脱いでくれ」


「え!? キョ、キョン!?」

「ち、違う」

 断じて今の台詞は俺じゃない! 声は俺だったが俺じゃない! 当然ハルヒでもないし長門は本に夢中だ。

190 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:21:06.55 ID:ZbWFhxQAO

 恐る恐る声のした方向に顔を向けるとそこには掃除用具の入ったロッカーがあるだけ。

「ロッカーが喋った?」

「そんな、いきなり脱げだなんて……でも……キョンなら……やっぱりダメだよ! 部室には有希もいるんだよ!」

「落ち着けハルヒ。今の声は俺じゃない」

 ――長門がいなけりゃ別によかったのだろうか?

「落ち着けハルヒ。確かに少し唐突だったかもしれないが、俺の気持ちに偽りはない」

 今の声は確実にロッカーからしたぞ。……誰か中にいるな?

「わ、わかったよ。ちょっとあっちの方向いてて……」

そして脱ぐなハルヒ。

 素直に服を脱ごうとするハルヒを片手で制しながら思いっきりロッカーに蹴りをかます。――すると。

「きゃ!?」

「ぬお!」

 派手な音を立ててぶっ倒れたロッカーから古泉と朝比奈さんが履い出してきた。

「ひっどーい! 普通いきなり蹴る? 信じらんなーい!」

 そう抗弁する朝比奈さんはなぜか

 ――バニー姿だった。

191 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:24:13.34 ID:ZbWFhxQAO

 その朝比奈さんの着たバニースーツは凄まじく似合っていた。

 なにせ素体が素晴らしい、愛らしい顔の上にチョコンと載せられたうさ耳、そのたわわな胸を見せつけつつも一番大切な部分は見事にガードされた胸元、赤いスーツと統合性を保ちながらもきっちりワンポイントとして存在を主張している蝶ネクタイ、決して小ぶりではないがしっかりとしたラインを保ったヒップ、そこにアクセサリーのように控え目に装着されたしっぽ、その全てが見るものの視覚を刺激する。

「あの、みくるちゃんはなんで?」

「ああ、このバニースーツのこと? 似合ってるでしょ?」

 ハルヒの当然の疑問に朝比奈さんは胸を張って応える。

「人間、外見が良ければ中身が良いというわけじゃないんだとしみじみ分かりました」

「それって褒めてくれてるの?」

「少なくとも外見に関してはね」

 しかしこの朝比奈さんは少しばかり目の毒だな。そう思い目を逸らした先にはこれまた何故か朝比奈さんと一緒にロッカーから現れた古泉がいた。

「で、お前はなぜロッカーの中に居たんだ?」

「いや朝比奈さんがバニー姿でお前たちを驚かせたいと言うのでな、暑苦しい上に息苦しかったが中々に悪くなかった」

192 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:25:39.57 ID:ZbWFhxQAO

 確かにバニースーツの朝比奈さんと狭いロッカーの中に二人きりになれるなんて全北高男子垂涎の超ラッキーイベントだろう。正直古泉が羨ましくてたまらない。

 だが、ここで羨ましいなんて言ってしまっては朝比奈さんと古泉をますます調子に乗らせてしまうだけだ。

「……そんなことはどうでもいい。それよりあの声、確かにアレは俺の声だった、アレはどうやったんだ?」

「どうでもいいとはな、お前が訊いたから答えたのではないか……」

「あれはあたしがやったの! 見て見て!」

 朝比奈さんにとって今の俺の質問は待ち望んでいたものだったらしい。余程嬉しかったのかその豊かな胸を俺の目の前に突き出してきた。

193 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:27:37.41 ID:ZbWFhxQAO

「み、みくるちゃん! それはまだキョンには早すぎ……」

 ハルヒが何か口を挟もうとしたが朝比奈さんはその隙を与えず畳み掛ける。

「凄いでしょ! ちょっと触ってみる?」

 朝比奈さん、ちょっとそれは洒落になりません。ハルヒがこの場にいなかったら俺の気持ちが揺らいだかもしれないじゃないですか。

「ダメダメダメ! SOS団内でそんな○○みたいなこと! PTAから苦情がきちゃう!」

 ハルヒが必死に朝比奈さんを諌めるがハルヒ自身もかなりヤバいことを口走っている。

「○、○○なんて、なんてこと言ってるの涼宮さん! そんなこと流石のあたしもこんな場所じゃ無理よ!」

 珍しく顔を赤くして叫ぶ朝比奈さん。本当に珍しいことだがハルヒの爆弾発言に本気で照れているらしい。

「え、でもみくるちゃんが今……」

「なに勘違いしてるのよ? あたしが見せたかったのはコレよ、コレ」

 そう言って朝比奈さんが指し示したのは自身の胸元に付けられた蝶ネクタイだった。

「そうだったんですか……」

 ハルヒの発言について謝罪すべきだったのかもしれないが俺もとんだ勘違いをしていた以上恥ずかしくただ恐縮するしかない。

 ハルヒに至っては耳まで真っ赤だ。

195 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:29:35.66 ID:ZbWFhxQAO

「この状況でコレと言ったら蝶ネクタイしかないでしょ。一体何と勘違いしたのよ?」

 そう尋ねる朝比奈さんはどうやら本心から俺たちに質問しているらしい。

 まったくこの人は普段あれだけ自分の色気を武器にして好き勝手にやってるくせに一番肝心な部分で天然とはね……本当に始末におえないお人だ。

「と、とにかくその蝶ネクタイは何なんですか?」

「よくぞ訊いてくれました! これこそ未来の最新玩具『蝶ネクタイ型変声機』よ!」

 ……………………また厄介なことを言い出したぞ。

「蝶ネクタイ型、なんですって?」

「蝶ネクタイ型変声機よ!」

 そう元気よく応える朝比奈さんはその童顔気味なお顔と相まって本当に無邪気な子供のようだ。

「また色々な意味で危険な代物を……」

「あら、これは好みじゃない? だったら時計型麻酔銃やキック力増強シューズとかもあるわよ。……マニアックな所で伸縮自在サスペンダーとかイヤリング型携帯電話なんて色物も……」

「もう結構です。ただでさえ危険な作品なんですから、これ以上そんなギリギリアウトな危険物は必要ありません。ハルヒ、古泉取り抑えろ」

 危機感を募らせ冷酷に命令を下す俺。

197 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:32:19.16 ID:ZbWFhxQAO

「あらあら、あたしにそんな態度をとっ
ていいのかな?」

 突如として、やけに自信たっぷりの口調になり話始める朝比奈さん。いや自信たっぷりなのはいつものことか。

「あたし、キョン君にとっても素敵なお話があるんだけなぁ〜」

 耳を貸してはいけない、後悔するのは俺だ。

 そう思って拒否しようとするのに朝比奈さんのバニー姿を見せつけられて麻痺した俺の脳みそと本能が良心に反して朝比奈さんに話の続きを促してしまう。

「このバニースーツ。実は色違いでもう一着あるの」

「? もう一着あるってそれが一体」

「ま、待ってください朝比奈さん! も、も、もしかしてそれは……?」

 いまいち事情を飲み込めていないハルヒが話しているのにほとんど割り込む形で朝比奈さんに問いかける。

「そう、キョン君……これを着た涼宮さんを見てみたくはない?」

 な……なんて奥の手を隠し持っているんだ、恐るべし朝比奈みくる。

198 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:34:20.77 ID:ZbWFhxQAO

「あ、あたしはそんな恰好する気は……第一きっと似合わないよ!」

 口ぶりからするとハルヒはあまりバニーにはなりたくないみたいだ。まあ、当然と言えば当然ではある、いかに美人でスタイルが良くても学校でこんな際どすぎる衣装を着るのは羞恥心をまったく持ち合わせていないのか、生半可ではない自己顕示欲を持ち合わせていなければ出来ないことだろう。

「そんなこと言わないで、ほら! 着ちゃったら案外楽しいわよ」

 まあ、その生半可ではない人物がこの部室には一人居るわけだが。

「で、でも……」

「ほらほらほら、その悩ましい肢体でキョン君たちの視線をくぎ付けにしてみない?」

「く、くぎ付けは嫌かも……」

「そんな堅いこと言わないで、そんないやらしい体を悪用しないのは罰当たりよ。キョン君もがっかりしちゃうわよ?」

「キョンが? ……でもバニーのみくるちゃんがいればあたしなんかがいなくても……」

「それは違うわ、涼宮さん。確かにあたしのバニーガールは完璧にして最高、究極にして至高の存在だけど、涼宮さんのバニーがいらないってわけじゃない。バニーガールだって一人より二人の方がいいに決まってるじゃない」

199 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:37:56.83 ID:ZbWFhxQAO

「……キョ、キョンはどう思う? あたしのバニーガール、見たい?」

 見たいか見たくないかで言えば答えは決まっている、見たい、見たい、見たい、見たくないわけがない! しかしそれを素直に口に出したせいで。

「キョンって本当にムッツリスケベのゴミムシね。さっさと死んだら?」

 とか言われてしまったら俺はショックで心臓が停止する自信がある。

 まあ、ここまで酷くなくともハルヒの心証を損ねる可能性があるのは確かだ。

「あの、キョン?」

 かと言っていきなり見たくないと断言してしまうのもどうだろうか? そんなことを言ってしまえばハルヒは
「そうだよね、あたしのバニーガールなんて誰も見たくないよね。あたしなんかが調子に乗ってすいません、もうあたしのバニーは公害です」

 とか言い出しかねん。

「キョン? 聞こえてる?」

 じゃあ、ここは敢えて本人の意思に任せるというのは?

  ……って俺は馬鹿か! ハルヒはその自らの意思で俺に意見を求めているんじゃないか。危うくハルヒの気持ちを裏切る所だった。

「ほら、キョン君も見たいって」

「ちょっと心配なぐらい顔色が悪いんだけど、保険室に行かないと病状が悪化して……」

200 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:39:51.47 ID:ZbWFhxQAO

 しかし見たいと言ったらダメ、見たくないと言ったらなおダメ、本人の意思に委ねるのもアウトとくれば一体どうすればいいのか、まさかどう足掻いてもハルヒに嫌われるしかないってのか? そんなの世界の終わりじゃないか。

「赤くなったと思ったら今度は青くなった……やっぱり命にかかわる病気とかじゃ……」

「まあ、涼宮さんのバニーガールなんてキョン君にとっては致命傷かもね、出血多量とかで死んじゃうかも」

「それは一体どういう意味で……ってみくるちゃん!? まだあたしは着替えるとは一言も……」

「まあまあ、減るもんじゃあるまいし」

 ほら見ろ、俺がモタモタしている間に朝比奈さんの魔の手がハルヒに伸びちまった。

 早くなんとかしなきゃならんが迂濶に制止してハルヒのコンプレックスを刺激しても不味いし……、

「止める気がないならさっさと部室から出ていけ、まさかとは思うが着替えを覗くつもりか?」

 そこで今まで黙っていた古泉が俺を部室の外まで引っ張っていった、確かに覗きはまずいよな。

「じゃあ着替えが終わったら入ってこい」

「わかった」

 そう言ってバタンと扉を閉めて部室に戻る古泉。……なにかおかしくないか?

201 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:42:11.02 ID:ZbWFhxQAO

 仕方ない、古泉が着替えが終わったのを教えてくれるのを待つか……………………。

「さあ、観念しなさい涼宮さん!」

「み、みくるちゃん……」

 部室の中からハルヒの悩ましげな声が聞こえる。見たいが見てはいけない今だけ部室は男子禁制だ……あれ?

「抵抗なんて無駄よー!」

 今は女性だけの部室の中では麗しい女性たちの宴が……あれ、女性だけ?

「きゃっ!?」

「……い、痛い」

「ご、ごめんなさいみくるちゃん! ちょっと振り払っただけのつもりが……」

「忘れてたけど涼宮さんって運動神経抜群だったのよね……、もうダメ」

 バタリと朝比奈さんが倒れる音がして、それに続いてパタパタとハルヒが朝比奈さんに駆け寄る音。

「油断したわね甘いわぁあぁぁあぁー!!!」

「きゃ!?」

「グハァッ! ……痛過ぎる……」

「ご、ごめんなさいみくるちゃん! 今度は手加減したつもりだったんだけど」

「ま、まだまだまだぁあぁぁ!!!!!!」

「あ、そんな……」

「ふふ、力はあってもこっちの方はさっぱりってわけ? でも凄いわよ涼宮さん、これなんかノーマルなあたしでも少しクラッときちゃうもん」

「ん、んん……」

 最早女だけじゃなきゃ犯罪だな。

202 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:43:30.40 ID:ZbWFhxQAO

ん? ん? ん? お ん な だ け だ と ?

お も い だ せ !

 な に か 大 切 な こ と を わす れ て な イ カ ?

「あれ? 古泉君?」

「どうした? 私に構わないで続けてくれ」

「え、う、うん……なんか違和感があるんだけど……」

 こ い ず み ? こ い ず み !! こ い ず み ダ ト !!! コ イズ ミ ハ オ ン ナ ジャ ナ イ ぞ?

「古泉みぃぃいいぃいぃいぃぃぃい!!!!!!!!!!!!」

 極めて冷静に俺は部室のドアを蹴破った。

203 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/04/30(土) 00:45:02.54 ID:ZbWFhxQAO

今回はここまで

ハルヒとみくるの基本パラメータは変わらないので、みくるがどんなにいきがってハルヒに挑んでも指先一つでダウンです。

209 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 21:51:54.21 ID:7XQVoJuAO

 冷静に考えればわかることだった。

 だってハルヒは着替え中だったのだから、だからその場に居たハルヒが上半身裸だったのも古泉が掃除ロッカーに身を潜めていたためハルヒや朝比奈さんには俺が一人で覗き……いやこれは覗きじゃないな、どちらかと言えば痴漢やレイピストに近い。

 その時のハルヒは残念……じゃなくて幸いなことに朝比奈さんと何やらじゃれ合っていたためにその体の大半が朝比奈さんの後ろ姿で隠されていた。

「うおっ!?」

 ――そこで一旦俺の意識は途切れた。

210 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 21:53:32.36 ID:7XQVoJuAO

「――全く要領の悪い男だ、覗くのならもっと巧くやらねば――」

「君がそれを言ってしまうのかい? 結局君の行為も涼宮さんに発覚してしまったではないか」

「あれは想定外だった、存外に彼女は鋭いな、しかも気がついたら照れたり動揺する前に即反撃だ。朝比奈みくるの方が無防備な上にウブで扱いやすそうだ、次回からはもっと注意するとしよう」

「……そんな注意をするぐらいなら覗き自体を慎めばいいと僕は思うんだがね」

「それは不可能だ、なぜなら私は男だからな」

「待ちたまえ、そもそもそういった性犯罪が根源的な性的欲求から生じる動物的に正しい欲求だという考えは現在においては通用しない、なぜなら自然界に置いて生物同士の性的交渉をもつ際には基本的に雌側に選択権があり……」

「そんな理屈は聞きたくないな、つまらない理屈を何時間も聞かされたところでこの燃え上がる魂は止められん」

「恰好つける前にその腫れあがった頬をどうにかしたまえ、せっかくの色男が台無しだ」

 やっと意識を取り戻した俺をまず迎えたのはくだらない話に精をだしている、いつも通りの長門有希と真っ赤に腫れた頬の古泉一樹だった。

211 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 21:55:15.31 ID:7XQVoJuAO

 古泉の腫れた顔を笑ってやろうかと思ったが自分もそうなっている可能性が高いので止めておくことにする。

「……一体俺はどうなったんだ」

 朝比奈さんがバニー姿で現れた辺りまでは憶えているのだがその後の記憶がいまいちハッキリしない。

「机だ」

「机?」

「お前の乱入に驚いた涼宮さんが机を投げつけたのだ、いやはや驚嘆に値する一撃だった、なにせ軽々と片手でやってのけたのだからな」

 覗きをした時に飛んでくるアイテムとしては風呂桶なんかが一般的だが……手近にあるからと言って片手で机を投げつけてくるとは恐るべしSOS団団長。

「で、ハルヒと朝比奈さんはどこだ?」

 この状況でハルヒと鉢合わせになっても気まずいが居なければ居ないでもっと気になってしまう。

「朝比奈さんたちは二人して不思議なことを探しに行ったよ。なんでも全校生徒にチラシを配って不思議を探すらしい、無駄だとは思うがね」

 そう言って肩を竦めてみせる長門。まあ、学校最大の不思議は多分この部室にいるしな。

「そうとばかりも言い切れないよ、涼宮さんや朝比奈さんもかなり一般の枠からはみ出している人たちだからね、十二分に不思議と呼ぶに値するよ」

212 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 21:56:56.84 ID:7XQVoJuAO

「いずれにせよ北高でおよそ不思議と呼べる人間はSOS団に集中してるんだ、外部に不思議を募集しても意味がないというのは俺も長門と同意見だな」

「まあ涼宮さんも朝比奈さんも本気で不思議が向こうからやってくるとは思ってはいまい。あのバニーの恰好で楽しむのが第一なのだろうな」

 長門の言葉に俺と古泉も賛成の意を示す。

「まあ確かに煽情的な服を着て異性の視線を集めるというのは楽しくもあるのだろうが……」

 俺達の賛同に気をよくした長門が言葉を繋げようとしたちょうどその時、ドカーンという音供にドアを蹴破らんばかりの勢いでバニー姿のハルヒが部室に飛び込んできた。

 俺がその衝撃から立ち直らない内にやや遅れて朝比奈さんも続いて飛び込んでくる。

「何事だい? 騒々しい」

 落ち着きはらった長門に対してハルヒたちは大いに焦った様子でしかし簡潔に俺たちに自分たちが置かれた現状を説明してくれた。

213 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 21:59:03.10 ID:7XQVoJuAO

「追われてるのよ、あたしたち!」

「追われてるって……誰に何故?」

「知らないわよ! あたしと涼宮さんは正門のところでチラシを配ってただけなのに! 本当にこっちが訊きたいぐらいだわ!」

「そりゃ良かった、まだこの学校にも正義があったってことですからね」

 もし北高が学校の正門でバニーガールが二人も怪しげなチラシを配っているのに教師が駆けつけてこない高校だったらそれこそ入学したことを心底後悔していたところだ。

「ひっどーい! 今の聞いた涼宮さん?」

「あの、みくるちゃんキョンは間違ったことは言ってないと思……」

「涼宮さんまでそんなこと言うのね……もういい不良になってやる! お酒の入ったチョコレート食べて炭酸一気飲みしてやる!」

「そ、そんな恐ろしいことを……ダ、ダメ! キョン、みくるちゃんを止めてー!」

「……もう放っておいてあげたらどうだ」

 俺たちがそんな平和なことをやってる間に文芸部室まで追手が追いついたらしい、部室の外ではいつの間にか外にいた長門古泉ペアと追手が激しい舌戦を繰り広げていた。

214 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 22:01:28.23 ID:7XQVoJuAO

「文芸部室……ここに逃げ込んだのか、おい君たちそこをどきなさい!」

「涼宮さんたちはまだバニースーツのままだろう、古泉君時間を稼げるか?」

「時間を稼ぐのは構わないが、――別にアレを倒してしまってもかまわんのだろう?」

「おい、さっさとそこを……」

「すまないが先生方、ここはどけません」

「なんだと……君は確か9組に来た転校生の古泉君だったね? 私達を通せないとはどういうことかな?」

 最初は頭に血が上っていたらしい教諭も古泉と長門の手強さを悟ったのか自身をクールダウンさせ冷静に古泉に問い掛け始めた。

 敢えて古泉の名前を確認することで自分の教師としての立場を見せつけ、名前はわかっているのだからいつでも処罰出来るということをこちらに示す周到な手口だ。

「先生方は先程正門にいた二人の女生徒を追いかけてきたのだと思いますが、二人は現在部室内で着替え中です。いくら教師でも更衣の最中に部屋に入れるわけにはいきませんな」

 口から出任せばかりよく言うもんだ、朝比奈さんは今ここでチョコレートボンボンを食べてるしハルヒはそれを止めるので手一杯だ、第一着替えをするのなら俺が中にいるのがおかしい。

215 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 22:03:22.41 ID:7XQVoJuAO

 しかしまあ、表の教師たちも運がなかったな、俺やハルヒならまだしも長門と古泉のチームが相手とは……哀れみすら感じるぜ。

「む、自分たちから着替えるという姿勢は評価してもいいが……なら後で職員室にくるように伝えておきなさい」

「しょ、職員室!!」

 職員室と聞いた瞬間ハルヒが死にそうな悲鳴をあげた、ハルヒの脳内では職員室とはアウシュビッツ収容所なみに恐ろしい場所らしい。

「ふん、なんれもいいからかかってきなしゃいよ!」

 朝比奈さん……チョコレートでそこまで酔っぱらえるのは貴女ぐらいです。

「待ってください、先生。そもそも彼女たちはなぜ職員室に呼び出されなければならないのですか?」

「な、なぜもなにもないだろう! 校内であんな恰好をすれば当然だな……」

 そりゃそうだ、さっきも言ったが寧ろ呼ばれない学校の方がヤバいと俺なんかは思ってしまったが、長門はなおも食い下がった。

216 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 22:05:35.09 ID:7XQVoJuAO

「あんな恰好とは?」

「そりゃあ、アレだよ」

「アレではわかりません」

 分かりきったことを繰り返し尋ねる長門、これは相当頭にくるはず……。俺ならもうキレてるね。

「バニーガールと言うのかね? あの煽情的なやつのことだよ!」

「煽情的と言いますと具体的どのような?」

「その様なことをここで議論するつもりはない!」

 長門のネチッコさを悟ったのか教師権力で押しきろうとする先生。

 シャクだが正しい戦術だろう、長門と議論するのは得策じゃない。

「わかりました、では先生はあのバニーガールが男子生徒に劣情を抱かせるから止めろと言うのですね?」

 これまたスッパリといったな、てかやっぱり意味わかって訊いてやがったなコイツ。

「劣情とは……少し言い方を考えたまえ!」

「ではここで男子生徒の古泉君に意見を訊いてみよう」

 教師の言葉を華麗にスルーし、長門は話を古泉に繋ぐ。

「朝比奈みくる及び涼宮ハルヒのバニーガール姿に劣情をもよおしましたか?」

「もよおした」

 潔すぎる古泉、ある種男の完成形態とも呼べるかもしれん、……絶対に憧れはしないが。

217 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 22:07:27.94 ID:7XQVoJuAO

「なぜもよおしたのか?」

「彼女たちが魅力的だったからだ、それ以上の理由はないな」

「では何故魅力的だと感じたのかな? 彼女たちがバニーガールの姿をしていたからだろうか?」

「そういうワケではないな、確かにあのコスチュームも魅力はあったが、最大の理由は着ていたのがあの二人だったからだろう」

「仮に、の話だが着ていたのが9組の女生徒Kさんであったとしても劣情をもよおしたと思うかな?」

「それはない、むしろ不快だとすら思うだろう。まあコスチュームそのものにはなんの罪もないのだがな」

 まさかそのコスチュームに興奮するかは着る人次第だから関係ないとでも言うつもりなのか? そりゃいくらなんでも無茶苦茶だ。俺でもそう思うぐらいだから先生の反応も同じだ。

「無茶苦茶なことを言うな! なんにせよ彼女たちのあの服装に君や他の男子生徒が興奮した事実は変わらないだろう!」

「先生……わかっていませんね、なら今からこの古泉君が教えてくれますよ」

「ふん、まあ任せておけ」

 なんか楽しそうだなアイツら。

218 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/03(火) 22:09:34.35 ID:7XQVoJuAO

「いいかよく聞け三流教師、エロスとはッ! ただ単に露出過多のコスチュームに宿るのではない! 例えば我が校の制服であるセーラー服、これに欲情する人間も当然存在する! 私はまだ学生の身の上故にセーラー服に対して特別な感情を抱くことはないが、何十年先の未来にあなたのように汚らしい中年になった際にセーラー服に欲情し痴漢になる可能性だって否定できないッ!」

 否定しろよ。

「更にスクール水着に体操着!デザインを変えたりブルマをやめたぐらいで我らを止められると思うな! スパッツだろうと短パンだろうと我らはそこにエロスを見出す! ジャージを着ようが無駄だ! 否! カッパだろうが作業着だろうと、あまつさえ防寒着であろうともッ! そこにエロスは存在するのだ! バニーガールは煽情的? 片腹痛いわ! 貴様らはジャージの持つエロスを充分に研究したことはあるか!? チャックを一番上まで上げれば一見完璧な防御、しかしこちらがたったの一回チャックを思いきり下ろすだけで全てが晒されてしまう無防備さ!」

 結論から言えばハルヒと朝比奈さんが連行されることはなかった。

 なぜなら古泉が連行されたからだ。

 古泉一樹の冥福を祈る。

227 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:09:43.10 ID:vHz/Y5MAO

 それから何日かが経過し朝倉に宣告された俺の余命が一桁を切った頃のある日、古泉と大富豪に興じていた俺とハルヒに朝比奈さんがまたまたまたまたぐらいに妙なことを言い出した。

 「不思議探索、ですか?」

「そ、本来この団は不思議なことを探すってのが結成理由でしょ? だったら探しに行かないと! はい、これ三人ともお茶ね」

 ちなみに団員に対するお茶くみ係は特に定められたわけでもないが朝比奈さんが就任していた。

 ハルヒや俺は先輩に申し訳ないと言って断ろうとしたが誰かが部室に来たりノドが渇いたりしたときに真っ先に気付くのが何故か常に朝比奈さんの為に結局お茶くみ率は圧倒的に朝比奈さんが多くなってしまっていた。

 しかもこれが美味いんだ、同じ茶葉から注がれるお茶なのになんで自分で汲むとあんなに不味いのかね?

「どうも、しかし不思議探索と言っても一体何をやるんですか?」

「詳しいことは涼宮さんに決めてもらうとして、なんでもいいんじゃない? ただ街を買い物とかしながらぶらぶら歩き回るだけでも」

「なるほどね……」

 要は不思議探索をダシにして皆で遊びに行かないかということだろう、少なくとも俺はそう判断した。

228 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:11:09.36 ID:vHz/Y5MAO

 無論俺に異存がある筈もない、もろ手を挙げて大賛成だ。……もっとも本気で不思議を探すのなら街より校内の方が確率高そうだが。

「じゃあ詳しい活動内容は涼宮さんが決めてちょうだい」

「うーん、ゴミ拾いとか?」

「ゴ、ゴミ拾い!?」

「そう、あたしたち人類は生存し呼吸しているだけで地球の環境を悪化させている害悪のようなもの。今更ゴミを何万、何億拾ったところでなんの償いにもならないけど来るべき滅亡の時にせめて自分たちは環境保護に尽力したという自負を持つために……」

「す、涼宮さん、地球の未来はあたしが保証するから。第一回目の活動はもっと楽しいことにしましょう?」

 しかしハルヒは常にこんなこと考えて生きてるのか? まあゴミ拾い自体は良いことで是非ともやるべきなんだがな……。

「じゃあ土曜日の朝九時に……北口駅前のあそこわかる? そう、あの喫茶店のあるとこ、あそこに集合ね! なに涼宮さん? 着てくれたら団長として皆に奢る? いいのよ男連中に奢らせれとけば、いいのいいの男なんてそうしとけば自分が優位立てると思ってるボンクラ揃いなんだから」

 せめて俺と古泉に聞こえないよう言ってください。

229 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:12:44.83 ID:vHz/Y5MAO

 で、待ちに待ったと言う程ではないが土曜日だ。

 早く着こうと思って自宅を出たつもりはなかったが、俺が駅前に辿りついたのは約束の九時より三十分以上前のことだった。

 まだ誰も来ていないと思い、いかにして時間を潰すか思案にくれながら辺りを見回すと意外なことに知り合いの姿を見つけた。誰あろう我らが団長涼宮ハルヒだ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 なんと許し難いことに大柄で荒っぽい男に……ハルヒが絡んでいる。

「本当申しわけありません、いきなりぶつかって御召し物を汚してしまったばからか体制をよろけさせてお命を危険に曝させてしまい……どうお詫びしてよいか見当もつきませんがどうか、どうか命だけは……」

「止してくれよ嬢ちゃん! ちょっと肩がぶつかっただけじゃないか、いやいや、これは俺が絡んでるわけじゃ……本当に誤解だって! もう勘弁してくれ! なんか知らんが俺が悪かった!」

 見てられんので介入しチンピラ(風の男性)をハルヒから助けだしてやることにする。

230 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:14:15.72 ID:vHz/Y5MAO

「すいませんね、コイツ悪い奴じゃないんですが少し加害妄想癖がありまして……ほら頭を上げないと逆に迷惑だぞ?」

 男性は俺の乱入に明らかにホッとした様子を見せた、まあ彼からしたら周りから何もしてないのにいちゃもんをつけたチンピラの様に見られるという災難に見舞われたのだから同情するしかない。

「キョン!? 今来たらキョンまで巻き添えで命の危機に……」

「んなワケないだろが、人を疑うのも大概にしておけよ」

「そんな……じゃああたしはなんて失礼なことを……もうお詫びの言葉も思いつきません一体なんと……」

 懲りずに再びネガティブモードに入るハルヒ。

「だから止めろって! すいませんもう行ってください、すいませんすいません本当にすいません」

「いやもうこちらこそ無駄にデかい図体で生まれてきてすいません、趣味の悪い恰好でチンピラみたいですいません」

 遂にはペコペコ頭を下げながら去っていく男性。

 俺も初めて知ったんだがネガティブ病はどうも伝染するらしい。

231 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:15:53.22 ID:vHz/Y5MAO

 不毛過ぎる謝罪合戦を終え、やっと俺とハルヒがチンピラ(風の男性)から解放された(解放してやった)頃には既に待ち合わせの時間となっており朝比奈さん、長門、古泉の三人が示し合わせてきたかのように同時に姿を表した。

 道端での立ち話もなんだったので手近な喫茶店に入り今後の方針を練ることにする、なんせ表向きの主催者であるハルヒに任せたら今日一日奉仕活動になりかねんし、言い出しっぺの朝比奈さんはまったくのノープランで本日の活動内容すら決まっていないんだからな。……ところで何故長門は制服のままなのか。

 自分が奢ると言ってきかないハルヒになんとか代金を俺が払うことを了承させた後に全員でお茶でも飲みながら今後の予定を決めていくことにする。

 こんななんでもない土曜日でも喫茶店の内外は暇そうな学生で山ほどいて、この全員が俺と似たような人生を辿り今日たまたまここにいるのかと考えると感慨深いものがある。

 ……ところで長門、お茶は奢ると言ったがお前の朝食代まで俺がもつとは言ってないぞ、なにこれぐらいなら朝食とは呼べない?

 ……どっちにしろ払わんからな、なんだその不満気な顔は。

232 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:17:56.38 ID:vHz/Y5MAO

 その後意外にも探索方法を考えてきたハルヒの提案で、

「グループと探索地域を二つに分け不思議を探す」

「そのグループはくじ引きで決める」

「お昼にまた集合し、昼食後またグループ決めをし、探索。夕暮れに再三集合し解散」

 という三点が決定された。

 朝比奈さんが言うにはこのプランのミソは、くじ引きで二人の班が生まれる所らしい、ハルヒはなぜか真っ赤になって否定していたが。

 肝心の不思議を見つけた後のことがまったく考慮されていないのはハルヒも本気不思議が見つかるとは思っていないからだろうか……ところで俺が古泉の分までここの代金払うんだよな、なんか不快だ。

「じゃ、じゃあくじ引きにしましょう」

 ハルヒはそう言うと卓上の容器から爪楊枝を五本取り出し内二本にボールペンで印を付け握り込んだ。

「で、では引いてください」

 たかがグループ決めのくじ引きでそこまで気を張らなくていいと思うがな……って、なんですか朝比奈さんそのニヤニヤ笑いは。

 俺たちが頭を飛び出させた爪楊枝を各々一本づつ引きハルヒの手元には一本が残る。

233 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:19:33.23 ID:vHz/Y5MAO

 結果印ありが俺と朝比奈さんで印なしがハルヒ、長門、古泉となった。

「こ、この組み合わせか……」

 ハルヒは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、急に真面目な顔になり、

「いいキョン、これは遊びじゃなくて団の活動だからね! デートやコンパなんかと勘違いしないように!」

「わかった真面目にやろう」

 意外なことにハルヒは本気で活動をしたいらしい、釘を刺された。……なんで古泉、お前に呆れた顔をされにゃいかんのだ、お代わりを頼むなおい。

 一足先に街に繰り出したハルヒたちを見送り俺と朝比奈さんもそこらを彷徨くことにする。

「ねえ、せっかくあたしと組んだのにそんな苦い表情しないでくれる?」

「別に朝比奈さんと組んだからじゃありませんよ」

 と言うよりは端から見たら今の俺はそんなに嫌そうな顔をしているのか?

 朝比奈さんと街を散策できるなんてかなり美味しい体験だと思うんだが。

「わかってるわよ、涼宮さんと組めなかったから。でしょ?」

 違うと言っても聞いてくれないんだろうな、この人は……。

「やれやれ」

234 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:21:28.74 ID:vHz/Y5MAO

 自分でも正直どうかと思っている四文字の口癖で始まってしまった不思議探訪だがはっきり言って楽しい、朝比奈さんは一緒にいて単純に楽しめる人で年長者(もっともそんな風に呼んだら烈火のごとくお怒りになるだろうが)であることを俺にしばしば忘れさせる程に元気に動き回っていた。

 この探索時間を俺たちはもっぱら小洒落たブティックをウィンドーショッピングしたり、アイスを買ってくいながら歩いたり、バッタもんのアクセサリーを二足三文で売ってる露店商を冷やかしたりして過ごした。

 この時間は思いの他楽しく、俺はアイスやチープ過ぎて逆にある種の味わいを醸しだしていりアクセサリーぐらい頼まれたらポンポン買ってしまうような心理状態だったが朝比奈さんは固辞した。

「いくらあたしでもそれぐらいは気をつかうわよ」

 らしい、よくわかんないがな。

 まあデートじゃないって釘を刺されはしたが端から見たらデートだよなコレ。

235 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:23:20.91 ID:vHz/Y5MAO

 ――その時にふと思った。

 俺はこういう人を口でなんと言おうと心底嫌いにはなれないと、いや更に正直に言うならば好きだ。仮に朝比奈さんが今みたいに一応先輩としての威厳や見えない壁のようなものを一切作らずに…………そうだな、いっそのこと俺の首根っこ掴んで引きずり回す人だったら?

 更に更に突っ込んで、高校生活が始まったあの日、俺の後ろの席に座っている奴がそんな奴だったら?

 んでソイツが宇宙人やら未来人に超能力者、果ては異世界人を探したいなんてのたまいやがったら?

 俺はソイツについていっただろうか?

 ついていっただろな、ごちゃごちゃと分別臭いことを言って水をさすかもしれんが最終的にはついていっただろう。

 そうだったなら俺とハルヒはどうなっていただろうか?

 そうだったのなら俺は自分に合わない集団の先頭ランナーなんぞにならないで――

 ――これはちょっとした妄想、いや空想にすぎない筈だ、身近な人間の性格が逆だったらというくだらない、けどだからこそちょっぴり惹かれもする空想遊び。

 にも関わらずその空想は俺の心を強く捉えて離さなかった。

236 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:24:51.00 ID:vHz/Y5MAO

 ――俺たちは近くの川の河川敷沿いを南下しながら歩いていた。遊ぶだけ遊んだ後にお昼に再び駅前で集合する予定なのを思いだして来た道を戻っているわけだ。実際このまま駅に戻ったら結構時間が余ってしまうのだが、

「どうしても話しておきたいことがあるの」と朝比奈さんがヤケに色っぽい声をだして頼むので丁度帰り道でありあまり人気もなく、あっても散歩の老人かデート中のカップルばかりでスグに通り過ぎていく、(ちなみに朝比奈さんはお年よりには必ず挨拶していた)この河川敷に少し早目にやって来たのだ。

「…………」

 当の朝比奈さんはこの河川敷に入ってから一言も口を開かない。話やすかろうと、この河川敷に早目来たのは失敗だったろうかと俺が焦り始めたころになりやっと朝比奈さんが重い口を開いた。

「どうせ言うことになってるから言っちゃうね、――あたし未来人なの」


 ――喜べハルヒ、とりあえず不思議が一つ見つかったぞ。

237 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:26:40.97 ID:vHz/Y5MAO

 さて、その未来人である朝比奈さんが何故現代で暮らしているのか、まず普通に考えれば当然この疑問にぶち当たる。

 そしてなんと驚くなかれ、朝比奈さんの任務もまたハルヒの観察なのだと言う。

 時間振動の中心が云々とかいう話だが……まあ現代人である俺には関係ないと勝手に判断し聞き流すことにする。

「大体の話はわかりました」

「ほとんど真面目に聞いてなかったのに?」

「……わかっちゃいますか?」

「丸わかりよ」

 まいったな、もっと真面目に聞いとくべきだったか?

「……まあ、それはともかく一つ二つ質問していいですか?」

「どうぞどうぞ、なんでも答えさせてもらうわよ」

 朝比奈さんは聞こえよがしにため息ついてみせると明るく了承してくれた。

「貴女のお仕事はハルヒを観察することらしいですが……こうやって過去に人間を送りこんだりしたら歴史がおかしなことになったりしません?」

 そこで俺は自分が朝比奈さんの話を半分以上信じかけていることに気付く、長門の前例があるから耐性がついたのか、これが朝比奈みくるという女性の魅力なのか、とにかく我ながら大した順応性だ。

238 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:28:48.47 ID:vHz/Y5MAO

「それは簡単な理屈よ」

 朝比奈さんは人差し指をピンと立てると得意気に解説を始めた。

「時間の流れというのはね、今あたしたちの目の前を流れている川のようなものなの」

 そこまで説明すると朝比奈さんを落ちていたピンポン玉ぐらいのサイズの石を拾いあげた、

「あたしがこの石を……ていっ! こうやって川に投げこんだところで少し波紋がおきたり、微妙な変化が流れに生まれるかもしれない、だけどそれだけで最後に海にたどり着くことに変わりはないでしょ?」

 説明は大変わかりやすかったですが朝比奈さん、石は川にとどいてません、

 ――代わりに投げましょうか?

「うっさいわね……意味が通じればいいのよ」

 少し拗ねてみせる朝比奈さんも可愛かったが、まだ質問の完璧な答えはもらっていない。投げ込まれたのが小石ならいい、しかしそれが川を塞き止めて海への道を塞いでしまう大岩だったら?

239 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:30:37.16 ID:vHz/Y5MAO

 長門の言葉が真実ならハルヒは情報爆発とやらを起こすとんでもないヤツだし、朝比奈さんに言わせれば時間の歪みの中心だ。

 そのスグ近くに未来人を一人配置し観察する。この行為も未来からしたら小石にすぎないのだろうか、個人的に朝比奈さんはハルヒに少なくない影響を与えていると思うのだが。

 その疑問を朝比奈さんにぶつけてみる。

「ああ、それね。もう鶏か卵なのよ」

「鶏か卵、ですか?」

「そ、涼宮さんの観察を始めた時点で過去の涼宮さんの近くには観察者としてあたしが更に未来から派遣されていた。だからあたしみたいな若輩が選ばれたのよ、だからいつ最初にあたしの派遣が決定したのか? もはや誰にもわからないの」

 ……朝比奈さんはあっさり言っているがこれは凄いことじゃないか?

 つまり未来人ってのは時間を征服した人類じゃなくて……

「時間に支配された人類、そう呼んだ方が適切かもしれないわね。それに借りに大岩が投げ込まれても川は一本じゃない、本流から分かれた支流が海に達しさえすればあたしたちはいいの」

261 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/05(木) 17:03:44.05 ID:DL8cQLDAO

申し訳ない>>239>>240の間に一個抜けがあります

 ……今の朝比奈さんの発言はこういう意味か?

 つまり朝比奈さんたちから見たこの時代は一つじゃない、いくつかの平行世界やパラレルワールドみたいなものがあってその内一つが朝比奈さんたちの現代、即ち未来に通じればいい。そういうことなのか?

「結局はそういうことよ、自分が失敗したのか成功したのかすらわからない。そういうお仕事なのよ」

 そう言い切った朝比奈さんの言葉には反論も同情も許さない強い意思が込められていた。

「……じゃあ最後に一つだけ」

 これ以上訊くのもアレかと思ったが今の話を聞いてしまった以上最後に一つだけ訊かなくてはならなくなった。

「朝比奈さんたちから見たこの時代が複数ある以上は俺が朝比奈さんの話を信じない時間もあると思うんです……なのに朝比奈さんは俺に未来人だと告白するのに毛ほどの迷いも見せなかった、それは何故です?」

 いくらでも変わりの時代があるとか、やり直しがきくとか、そんな言葉を朝比奈さんが発するわけないと思いながらも訊かずにはいられなかった。

240 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:32:17.68 ID:vHz/Y5MAO

「……それは、あたしが朝比奈みくるだから、じゃ理由にならない?」

 ――そうだな、この人はそういう人だ。自分は自分だから、だからこそ自分の意思で生きる。そんな単純で何より大切なことを実践して生きている人なんだ。ならばこの人に限りそれは正当な理由となる。

「つまらないことを訊きました、そろそろ行きますか、結構時間をくっちゃいましたから」

「そうね、行きましょうか」

 そう言って朝比奈さんも黙って俺に着いてきてくれた。

「ねえ、キョン君」

「なんでしょうか」

 朝比奈さんが歩みを止めた気配はなかったので俺も歩きながら聞くことにする。

「ああは言ったけど、やっぱり告白する相手があたしが信用できない人だったり、逆に相手があたしを信じてくれそうもなかったらあたしでも緊張したと思う。キョン君だからあたしを信じてくれると信じられた、だからあたしがあたしだったのも、もちろん大きな理由だけど……相手がキョン君だったのが、その一番大きな理由、だったかも」

 俺に俺なんかに、最後にはほとんど囁くような声量になりながらそう言ってくれた。

241 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:33:22.69 ID:vHz/Y5MAO

 なんで朝比奈さんが知り合って間もない俺にそこまで言ってくれたのかはわからない。

 とても嬉しく、いや誇りにすら思うし、お返しになにかカッコいい台詞の一つ二つ言ってみたいとも思った。

 でも朝比奈さん、俺は貴女ほど経験豊富じゃありません(てか皆無です)そんな俺にほっぺたにはりついた微熱を冷ます以外に何をしろってんですか?

242 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:34:45.48 ID:vHz/Y5MAO

 集合地点に到着すると案の定ハルヒたちが待ち構えていた。

「なにか収穫はあった?」

 尋ねてくるハルヒの声を聞く限りはさほど収穫云々に関しては気にしているようには思えない、だから俺も軽くなにもなかったと伝え逆にハルヒたちに今日の収穫を尋ねる。

「特になし、あとは午後に回して昼食にしよ?」

 そこそこに腹は減っていたし誰もハルヒに異をとなえなかったので近くのハンバーガーショップで昼食をとることになった。

 出来るのなら払いは俺がまとめて済ませてカッコつけたいというささやかな野望があったのだがビッグバーガーを一人で5つ食った長門を見てその気はなくなった。

「有希は凄いね、そんなに食べてもスタイルいいし」

 ハルヒはそう言って長門を褒めるが……何気にお前もビッグバーガーに通常サイズのハンバーガーを食ってるよな?

「あなたたち、食べ過ぎよ大人なあたしを見習いなさい」

 お言葉ですが朝比奈さん、大人はオモチャ付きのセットは頼まない気がするんですが。

243 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:35:55.45 ID:vHz/Y5MAO

「じゃあ、もう一回くじ引きね」

 そう言ってハルヒは喫茶店から持ってきたであろうお手製のくじを取り出した、まったく用意のいいヤツだ。

 ――では、ドキドキの結果発表です。

A班 ハルヒ 朝比奈さん 古泉
B班 俺 長門

 まあ、こんな日もあるさ。

「おや相手が僕では不服かい?」

「まさか、朝倉と二人きりにされるのに比べれば嬉しいぐらいだ」

 どうやら、この冗談はハルヒ以外の人間には通じたらしい、小さい笑い声が三人からあがった、てことはやっぱり古泉もなんかの一味だよな、やれやれ。

244 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:37:14.08 ID:vHz/Y5MAO

「たしかに日本人が集団心理により誤った方向に進むことは多い。だがこれだけでは一概に日本人は意思が弱いと言い切ることはできない。なぜかわかるかい?」

「さあなぁ……わからんなぁ……」

「それはアメリカで行われた実験の結果で人間は単純な記憶ですらその場の雰囲気で改変してしまうことが確認されているからさ、つまり日本人が場の空気を壊すことを極端に忌避するのは意思の強さ云々ではなくもっと文化的な……」

「そりゃ凄い」

 長門の話がつまらないとは言わんが集合予定時刻の4時までこれを続けると思うとゾッとしない。早々に長門の退屈させなさそうな場所に向かうことにする。

「宇宙人を取り扱った作品としては映画化もされた『宇宙戦争』がもっとも古く有名だが……ん、ここは……?」

「そ、図書館だ」

 これだけ本があるスペースなら長門が退屈するってこともないだろうし、俺も午前中に朝比奈さんと話した内容を整理することができる。少しばかり疲れたから休憩といった意味合いもあるが。

245 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:38:49.04 ID:vHz/Y5MAO

「…………」

 読書を始めたら長門はさっきまでのコイツと同一人物とは思えない程に静かだ、長門を本棚の樹海に放置した俺は一人図書館のソファで思索に耽ることにする。

 しかし長門が宇宙人で朝比奈さんは未来人か……その方程式からいけばまだハルヒの望んだメンバーには二人足りない、古泉が超能力者だとしてもまだ異世界人がいる。やれやれまだ登場人物が増えるのか?

「……」

 やべ、

「…………」

 なんか眠くなって、

「………………」

 甘い眠りに堕ちる寸前に俺はハルヒと既に仲良くなった宇宙人と未来人、未だに正体不明の超能力者と異世界人と遊んでいる光景が見えた気がした。

「……………………」

 なんだ案外、悪くない絵じゃないか。

246 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:40:16.90 ID:vHz/Y5MAO

「……………………」

 ポケットの中で携帯がブルブルと震える感覚で目が醒めた、自分が知らぬ間に眠りに落ちていたことに驚きつつも咄嗟に通話ボタンを押し電話にでる。

「あっ、やっとでた!」

 一瞬ハルヒの声が聞こえた思うとその直後になにか怒声のようなものとハルヒの、

「きゃっ!」

と小さな悲鳴が聞こえ、次の瞬間には

「遅ーーーーーーーい!!!」

 ハルヒに代わり電話口にでた朝比奈さんの声が俺の鼓膜を震わせていた。

「今が何時なのかわかってる!? 後、集合時間が何時なのかもわかってる!? あまりにも遅いから涼宮さんなんて無事を祈って千羽鶴折りはじめちゃったわよ。 ……あと、あたしもちょっと心配したりなんかしちゃったし……」

 近くにあった時計で時間を確認、只今午後四時三十分。

「4時半ですね」

「で、集合時間は?」

 氷より冷たい朝比奈さんの声。

「……4時ジャストです」

 これは死んだかもしれないな、俺。

247 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:42:05.52 ID:vHz/Y5MAO

「一体なにをしてたらこんなに遅くなるのよ!?」

「みくるちゃん、携帯返してよ〜」

「涼宮さんは黙って! 今大人の話をしてるの!」

 携帯の向こう側で二人がなにやら揉み合う音がする。

「すいません、まだ状況が把握できてなくて……」

「はぁ? なんで自分がなにをしてたのかわからないの?」

「携帯〜」

「ちょっ、離しなさい! みくるビーム!」

「わ〜ん! ジュースかけられたー!」

「頼むから二人とも少し落ち着け……」

 古泉が二人をなだめる声が聞こえる、なんだかんだで結構楽しんでんじゃないのか? ……少なくとも一人は。

「今起きたばっかりで……」

「い、今起きた……?」

 間が悪いことに、いかなる手段でか朝比奈さんから携帯を奪い取ったらしいハルヒが電話口に出ていた。

「そ、そうなんだ……じゃあまだ時間がかかるね、先に帰ってようか? 有希も身支度を整えたりとか色々あるだろうし……」

 しかもまた素敵に勘違いしている、これは朝比奈さんとはまた別の意味でヤバい。

248 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:43:52.68 ID:vHz/Y5MAO

「違うぞハルヒ、わかってくれているとは思うが寝ていたっていうのはだな……」

「うん、わかってるよ。淫語的な意味でしょ? わかってる……じゃあ先にあたしたちは帰ってるから……」

「待てハルヒ、いや30分も待たせておいて待てと言う権利なんてないが待ってくれ。すぐに行くから」

 なんとかハルヒを説得し待っていてもらえることになった。悪かったと繰り返し平謝りした後にやっと電話を切る。

「図書館や図書室ではお静かに、学校で教わらなかったのかい?」

 どうやら長門は俺とハルヒのやりとりを全て聞いていたらしい、まったく意地の悪いことだ。

「長門、居たのになんで起こしてくれなかったんだ?」

 寝てしまっていた俺が文句を言えた義理ではないとわかっていてもつい口に出してしまう。

「小学生か君は、そもそもそうやって原因を常に他者に求める姿勢こそがだな……」

「あーあ、俺が悪かったよ。とにかく早くアイツ等のところに戻るぞ」

 今コイツの長話に付き合ってたら確実に朝比奈さんに殺される。

249 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:44:52.21 ID:vHz/Y5MAO

「それに君の寝顔があまりにも愛らしいものでね、つい起こすのが躊躇われてしまったのだよ」

 またコイツは唐突にエライことを……急がなければならないのだがついつい反応してしまう自分が哀れだ。

「愛らしいて、あんまり気色の悪いことを言うなよ……もしかしてお前俺が寝顔をずっと見てたのか?」

 だとしたら恥ずかしすぎてもうお嫁にいけない。

「決して気味悪がらせるために言ったわけではないのだがね、偽らざる本音だ」

 そんなこと急に言われたって……照れるじゃないか。

250 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:46:19.25 ID:vHz/Y5MAO

「随分久しぶりだったからね……こうやって君の寝顔を眺めるのは」

「久しぶり、だと?」

 長門と知り合ってから数週間、長門が俺の寝顔を見るような機会があっただろうかと思い返す。やっぱりない。

「久しぶり、てのはどういうわけだ?」

「さあ? 今の君に言っても言わなくてもその内わかるだろう、なにせ君からしたらそれは『未来』に起こることだからね」

 なんだ未来ってのは朝比奈さんの専売特許じゃないのか、コイツも延々と話を長くしやがって。

「頼むからもっとわかりやすく……」

「そんなことより急ぎたまえ、涼宮さんたちが待ちくたびれているぞ」

 そう言ってどんどん先に帰り始める長門、勘に触るが今はコイツの言うことが正論か、

「ほら、急ぎたまえ」

「わかったわかった、今いくよ」

 これ以上待たせて団長閣下の気分を損ねるわけにもいかんしな。

251 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:47:59.75 ID:vHz/Y5MAO

 とりあえず成果も収穫もなにもある筈もなく不思議探索は終了した。

 ま、本当に見つかるとは誰も思ってなかっただろうしな。

「なんか今日は疲れたわね、涼宮さんって悪気はないんだろうけど凄い歩くの早いのよ。その上誰かさんは待ち合わせに一時間も遅れてくるしね」

 朝比奈さんが容赦ない嫌味をぶつけてくるが非はコチラにあるので受け入れるしかない。毒を吐いてすっきりしたのか朝比奈さんは背伸びをし俺の耳元に口を近づけ、

「今日は話を聞いてくれてありがとう」

 そうした後にハルヒの方をみて不気味な笑みを浮かべる、未来人ってのは皆こんなに意地悪く笑うもんなのかね。

 じゃ、と豪快に手を振り朝比奈さんは去って行った。惚れちまいそうな後ろ姿。

「なかなかに楽しめたぞ、いや、期待にたがわず面白い人だな涼宮さんは。お互いにとって幸いなことに私とお前が被ることもなかったのも喜ばしい」

 後ろから軽く肩を叩いた古泉は好き勝手に言うだけ言って、その場を後にした。俺は一回ぐらいはお前と組んでみたい気もしているんだがな。

 長門は気付いたら消えていた。挨拶ぐらいしてけばいいのに、まったく饒舌なのか無口なのかわからん奴だ。

252 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:49:33.52 ID:vHz/Y5MAO

「あ、あのキョンは今日一体何をしてたの」

「さあ、なにをしてたんだろうな一体」

 それなりに密度があった一日のような気もするし、ただ二人の女に煙にまかれ続けた一日だったような気もする。どちらにせよハルヒに話せるようなことでもない。

「できたら、もうちょっと詳しく……」

 なぜだか知らんがハルヒは俺の一日に興味津々らしい、本当にたいしたことはないんだがな……と、ここまで考えたところで俺の頭の中にとてつもないアイデアが閃いた。これはヤバい、俺の今まで人生で一度も試したことのない試みだ、成功すればかなり嬉しいがもしも失敗した場合は……。

「……キョン?」

 ハルヒが小首をかしげながら覗き込むように俺の目を見つめてくる、その瞬間――俺の中で再びなにかが弾けた。

「ハルヒ、俺も確かに今日一日にあったことを全て伝えたい。伝えたいのはやまやまなんだが……」

「うん?」

「だがしかしこの場でそれをするには少しばかり時間が足りない」

「……うん、じゃあ仕方ないからまたの機会に……」

「だから、今から二人で飯でもどうだ」

 やば、考える前に言っちまった。

253 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/04(水) 23:50:08.05 ID:vHz/Y5MAO

 ――帰宅。帰宅してそうそう外で夕飯を済ませてくるのなら一言言えとお袋にエライ剣幕で怒鳴られたが……ま、顔のニヤニヤが取れないのはしょうがないよな? 許せお袋。
「あんだけ怒られたのにまだニヤついてる、いよいよ本当のバカになっちゃったの?」
 おお妹よ、確かに俺はバカかもしれん。だが、これだけは自信をもって断言できる、今日は最高に楽しかったよ。

265 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/08(日) 19:36:29.37 ID:tw85WgcAO

朝比奈みくる『独白』

無知な自分が嫌いだった

 自分が今している事の意味すらわからない自分が嫌いだった

 わからないことをやるしかない自分が嫌いだった


 だから、わたしは全てを知る道を選んだ

 望めば無知な雛鳥でいられた

 そうであったのなら、彼らと共に戸惑い、嘆き、怒り、そして……笑うことができただろう

 しかし、今のわたしにそれは許されない

 同じ時間軸に存在しながらも未来を知り

 結果も過程も知っているのに、その先にに待つ結果に彼らを進ませるしかないわたしにそんな権利があるはずもない

 いっそのこと糾弾してほしい、裏切り者だと罵ってほしい

 しかしその時が来たのなら……もうわたしは彼らに会うことすらできない





 許されるはずもないのに許されたいと願う

 そんなわたしを嫌いになった

266 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:19:42.53 ID:fBjePAhAO

 週明け、そろそろ梅雨の訪れを感じさせる湿気の中を登校すると以前にも増して汗だくになった。

 この坂をロードローラーで平らにしてくれる奴がドコからか現れてはくれないものか。

 下敷きを団扇がわりにして首元から風を送り込んでいたら、珍しいことに若干俺より遅れてハルヒが教室にやってきた。

 ……ところでこの下敷き、下敷きとしての使用している時間より団扇として活用している時間の方が長い気がする、これは由々しき問題だ。

「よう、日曜はどうだった?」

「うん、いつも通り。無駄に酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出して……地球環境を悪化させてたよ」

 相変わらず素晴らしいネガティブ思考だこと。

「ところでキョン、土曜に言ってたことなんだけど……」

「ああ、あれ考えといてくれたか?」

「あたしは別に問題ないけど……なんであんなことを?」

「いや、俺なりにちょっとした考えがあってな。朝倉たちには俺が話を通しておくから、ハルヒは来週の日曜、予定空けといてくれ」

「うん、楽しみにしてるよ」

 ああ、本当に楽しみにしといてくれよ……。

 でなきゃ俺の細やかな計画もパーだ。

「やっぱり土曜日に言ってた通り、これは他のSOS団メンバーには秘密なの?」

「ああ、特に長門には、な」

267 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:21:16.56 ID:fBjePAhAO

 ハルヒは無理に理由を聞こうとはしなかったが、なにかを探るような目付きだった。

 まあ、やましい所はないんだから堂々とその視線を受け止める。

「わかったよ、キョンがそう言うのなら、そうする」

 ありがとよ、ハルヒ。

 正直なところ、土曜にハルヒと飯を食ってる最中に俺が立てたちゃちな計画が宇宙人やその親玉に通じるとはとても思えない。

 しかし、自分は俺を殺そうとして長門に消される未来が決まっていると言った朝倉の表情や、教室で孤立しかけたハルヒに毎朝話かけていた朝倉の姿を思い出した時、なにやら得体の知れぬなにかが俺の中で暴れだしたのだ。

 そのなにかがこう言っている。


「やれることは全てやれ」

268 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:22:31.11 ID:fBjePAhAO

 ハルヒからの事前承諾を受けた俺は、一時間目の休み時間中に国木田への根回しを済ませておくことにする。

「昨日キョンからメールが来た時も驚いたけど、その用件にもっと驚いたよ」

「そうか、で、やってくれるのか?」

「問題はないけど、今度のこれは一体どんな悪巧みなんだい?」

 たいしたことじゃない、ただ宇宙人どもの都合に口を挟みたくなった地球人の意地みたいなものさ。

「まあ、いいか。 後一人は谷口でいいかな?」

「……アイツはやめておこう、なんか女子受けが悪そうだ」

「了解、じゃあ適当な人を探しておくよ」

「そこは、任せた」

「じゃあ女子の後一人は阪中さんでいいかな? これは完全に僕の趣味だけど」

「……そうだな、これで行ってみるか」

269 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:23:36.56 ID:fBjePAhAO

 授業がすべて終了すればSOS団の部室に向かうというのは、もはや俺にとっては本能のようなもので、その部室で長門が読書にいそしんでいるのもデフォルトのようなものだ。

 だからハルヒより若干早く部室に到着した俺は、同じく一足先に部室に来ていた古泉一樹にこのように言った。

「お前も俺にハルヒのことでなにか話したいことがあるんじゃないのか?」

「その様子では他の二人からのアプローチもすでに受けているようだな、もっとも察しはついていたが」

 そういや長門の家にいてハルヒに誤解されたとき助けてくれたのはこいつだったな……。

270 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:24:36.93 ID:fBjePAhAO

「話をするのなら、場所を変えるぞ。涼宮さんに出くわすと色々とまずい」

 俺とて、こんな電波話にハルヒを巻き込むつもりはない。喜んで提案に乗ろうではないか。

古泉が俺を伴って向かった先は、食堂の野外テーブルだった。

 途中で自販機で缶コーヒーを二本購入し、片方を俺に手渡し、古泉は迷うことなく丸テーブルへと向かう、男二人で座るのもアレだがこの際仕方ない。

「単刀直入に訊く、お前の正体はなんだ」

「ふん、私の考えている以上にお前が愚かでなければ、察しているだろう。 超能力者だ」

271 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:26:01.58 ID:fBjePAhAO

 覚悟はあったとはいえ、やはりほどほどに驚いた。三回目といえどもこればっかりはな……。

「意外に反応が普通だな、もっと驚いて欲しいものだ」

 俺なりに驚いてはいるのだが、古泉からすると大分物足りないリアクションだったらしい。

「そんなことはない、割と驚いてるさ」


その後の古泉の話を要約してしまうと、古泉は限定的な状況でしか力を発揮できない超能力者で、ハルヒは願望を実現する力をもったこいつらの絶対神。というわけらしい。

 長門からすれば情報爆発の原因で観察対象。

 朝比奈さんからすると時空の歪みで同じく観察対象。

 古泉からすると、なんと神様でやっぱり観察対象。

 ハルヒ大人気だな。

 ただ、これで一つわかったことがある、――俺の計画はおそらく成功する……。

272 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:27:17.93 ID:fBjePAhAO

 そんなふうなことを考えながらコーヒーを口に運んだときに、ふとこれは古泉に奢ってもらったものだと思い出す。

「そういやコーヒーありがとな、今月小遣いがやばいからたすかった」

「それはそうだろう、あんな高い店でかっこつけるからだ」

 瞬間、コーヒーが一気に苦くなったような感覚を味わうはめになる。ミルクたっぷりカフェオレのはずだろコレ。

「なんで知ってやがる」

 どうやら今のは失言だったらしいとすぐに気づく、古泉がこいつには珍しい笑顔を浮かべたからだ。

「カマかけやがったのか……」

「今ので確信に変わったがな、下手な嘘ならつかないことだ」

 返す言葉もないが、まさかもう一つの計画までバレちゃいないだろうな。

273 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:29:00.15 ID:fBjePAhAO

「ところで、なにを企んでいる?」

 内心ドキッとしたが、表面上は平静を装うしかない。

「なんのことだ」

「自分では隠しているつもりかもしれんがな……丸分かり
だ」

 古泉は少し呆れたように、言い切った。

 できればSOS団メンバーには黙っておきたいが、朝比奈さんや長門じゃないだけマシか……それに計画を客観的に評価してみたい気もする。

 ――こうして俺は自分の計画を包み隠さず、話してみることにした。

「…………、よくもまあ、こんな計画を……」

 古泉がらしくもなく呆気にとられた声をだすものだから説明していたこっちが不安ななってきた。

「俺なりに考えたつもりだが、そんなに無理くさいか?」


「いや、私の個人的な考えだが成功率は高いと思う。私が驚いたのは、こんな計画を実行に移した貴様の度胸だよ」

 そんなに無謀なことを言ったつもりはないんだがな……。

「無知なる故の蛮勇ということか……それにしてもたいしたものだ」

274 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:30:42.70 ID:fBjePAhAO

 誉めているのか、あきれているのかはわからんが古泉が俺の計画にかなり驚いているのは確からしい。

「とにかく成功する可能性が高いってことで大丈夫か?」

「あくまでも私個人の考えだが、高いと思う。それに……」

「それに、なんだよ?」

「面白い計画だ」

 そう言った古泉は常時しかめたハンサムフェイス全体にニヤリッといやらしい笑いを浮かべた。いやはや、邪悪な笑顔が似合う男だ。

「私自信もあの宇宙人や未来人どもの、なんでも知っているという態度が気にくわなかった。この際だ、思いきり出し抜いてやろう」

 やろうって……まさかとは思うが、お前も一枚噛むつもりか?

「貴様の計画ではあと一人男手が必要だろう。私以上の適任者はいないと考えるが?」

 まったく、お前といい朝比奈さんといい、その自信はハルヒに見習わせたいぐらいだよ。

「わかった、たしかにお前みたいに事情を理解している上で機転のきく奴もいた方がいいかもしれん」

「まあ、まかせろ。昔からこういった類いのことは得意だ」

 昔から、ね。
こいつの少年時代を見てみたい気もする。

275 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:31:51.02 ID:fBjePAhAO

「そういや超能力者なんだろ? 証拠になんか見せてくれたりしてくれんのか?」

 思えば宇宙人も未来人も自分がそういう存在だと宣言するだけで証拠らしいものを見せてくれやしない。もっとも宇宙人の方は俺の殺害宣言で証明してくれる気らしいが。

「悪いが、無理だ。お前が一目でわかるように結果が出る類いの能力ではないし。先程言ったとおり、使用できる場所も時間も限定された能力だからな」

 まあ、そんなこったろうとは思ったがね。

「お前に私の能力を見せられる日を楽しみにしているよ」

 そうお世辞にも楽しみにしているような風には見えない顔で言った古泉は俺に背を向けると颯爽と立ち去った。

 野郎の後ろ姿に見惚れる趣味はない。俺もさっさと部室に戻るとしよう。

276 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:35:27.94 ID:fBjePAhAO

 部室のドアを開けるとハルヒと朝比奈さんが下着姿で立っていた。

 目と口を思いっきり開いたまま硬直したハルヒと、なんだろう悪巧みに成功した魔女のような笑みを浮かべた朝比奈さん。

「失礼」

 なにか言われる前に俺は踏み出しかけていた足を元の位置に戻しドアを閉めた。またハルヒに机を投げつけられるのも嫌だったしな。

 廊下でしばらく待った後に部室内から朝比奈さんの

「入ってもいいわよー!」

 という元気過ぎる声が聞こえてきた。

「いやーごめんねキョン君、キョン君も古泉君もこないから油断しててさ」

 そう笑いながら謝罪する朝比奈さんはなぜかメイド服着用だ。

「最近朝比奈さんにいちいちツッコミいれるのも面倒なんですが……」

「あん、そんな事言わないでキョン君のぶっといの突っ込んでよ」

「下品な言い回しはやめましょうよ……」

 美人って得だよな、どんなにくだらない下ネタも爽やかだ。

「あのねキョン、これにはとても深い理由が……」

「深い理由?」

「そうなの、みくるちゃんが『今日は退屈だからメイド服に着替えてみますょう!』って言って衣装を貸してくれたからつい……」

 無茶苦茶浅い理由じゃないか。

277 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:37:28.17 ID:fBjePAhAO

 しかし、そう言うハルヒは普段と同じ制服姿だ。

「バニーと違ってメイド服は一着しか買えなかったのよ。涼宮さんとは交互に着たってわけ」

 しくじった、せめて後五分早く古泉との話を切り上げておけば……。

「キョ、キョン? どうしたの? そんな目の前でエルメスを撃墜された赤い彗星みたいな顔しちゃって」

「我が人生、始まって以来最大の不覚! ハルヒよ俺を導いてくれ……」

「ちょ、ちょっとキョン!?」

「大丈夫よ、ちょっと精神が崩壊しただけだろうから」

「結構ヤバいんじゃないのそれ……」



 ――語り手の精神が崩壊しているので暫くお待ちください――

278 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:38:17.32 ID:fBjePAhAO

「心配かけたな、もう大丈夫だ」

 俺としたことが……アレ程度で理性が飛んじまうとは。

「ホント大丈夫……?」

 心配顔でハルヒが尋ねてくるが大丈夫だよ。今は第二次ネオ・ジオン抗争時のネオ・ジオン総帥ぐらい落ち着いているからな。

「取り返しがつかないことになってるよねそれ」

「あらキョン君が取り返しがつかないぐらいダメのはいつものことじゃない」

「あたしはダメなんて思ってな……なんでもないです」

「な〜に涼宮さん? 言いたいことは全部言っていいのよ?」

「な、なんでもないって!」

 そう言ってまたじゃれだす二人。

 ……心が洗われる光景だ。

279 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:40:12.94 ID:fBjePAhAO

 少し頭を冷やすために団長席に置かれたパソコンを起動させてみることにする。

 何も言わなくても朝比奈さんがお茶を運んできてくれる、いつも偉そうなのにこんな時には大して恩に着せる態度を見せない。

 きっと育ちが良いんだろうな、俺とは大違い。

 ……せっかくの新型パソコンも時々SOS団員が気まぐれに起動させて、いじくっているだけじゃ宝の持ち腐れだな、コンピ研にも悪いことをした。

 と、そこまで考えたところでパソコン内に見慣れないフォルダがあることに気付く。

「おいハルヒ、なんなんだ? このHaruhiフォルダってのは」

「え? あたしそんなの知らな……」

「ゲッ!」

 技を忘れたポケモンのごとくポカンとした顔のハルヒに明らかに狼狽した様子の朝比奈さん。

「訊きなおしますが……朝比奈さん、なんなんですか? このHaruhiフォルダってのは」

「いっイヤね〜、二人ともそんな恐い顔しちゃって。そんなのあたしは全然知らな……」

「ああ、つい先程、君がデジカメから移していた涼宮さんの写真データだね。ダメじゃないか、隠すのならちゃんとやらなければ」

「な、長門有希ぃいぃぃいぃぃい!!!」

 知っているのか長門!? てかお前居たのか。

280 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:41:37.62 ID:fBjePAhAO

「み、みくるちゃん? なんでそんなことを? ……ま、まさか個人情報を流出させて、あたしを社会的に破滅させる気じゃ……」

 破滅て……一体どんな写真が入っているんだ? 凄い見たい。

「い、いや、ちょっとおこづかいでも稼ごうかと……」

 ……素晴らしく正直なお人だな。

「ちょっと! あんな写真が出回ったら、学校に来れなくなるよ!」

 くそ、無茶苦茶見たいな。

「大丈夫、大丈夫。それに撮影してた時は案外ノリノリだったじゃない?」

「あ、あれは、みくるちゃんが上手だから、つい調子に乗っちゃって……」

「ふ〜ん、涼宮さんって調子に乗ると、あんな格好までしちゃうんだ〜。恥ずかしい〜」

「い、言わないで……」

 ちょっと、定期預金を解約してくる。

「どうしたの? キョン」

「いや、またもや理性が崩壊してただけだ、ベツニダイジョウブデスヨ?」

「……キョンが大丈夫じゃない」

281 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:52:34.95 ID:fBjePAhAO

ひとしきり四人でふざけあった後、思っていた以上に進んでいた時計の針に驚いた俺達は、もはや完全にSOS団の支配下におかれた文芸部室を出ることにした。

 こうやって皆でなにかくだらないことをやって、明日には昨日どんな楽しいことをしていたのかを忘れてしまったとしても、きっと今日が楽しかったことだけは忘れないだろう。

 ……いや、今日に限っては絶対に忘れないか、さっき極秘の内に俺のポケットの中のディスクに移されたharuhiフォルダが存在するからな。

 こいつは俺にとって生涯の宝になるであろう。

「わかっているとは思うが、後少しだぞ」

 そんな俺の上機嫌に水を差す野郎がいる(野郎ではないが)。

「わかってるよ、長門。朝倉の殺害予告だろ?」

 まあ、家に帰ればメイドハルヒが存分に堪能できるんだ、ここでは少しばかり長門にかまってやるか。その時の俺は呆れるぐらいにハイテンションだった。

「そのとおり、もっとも君は大して気にする必要はないがね」

「ああ、お前が守ってくれるんだろう? 期待してるよ」

 実のところ俺にもささやかな計画があるんだがな、それは長門には秘密だ。

「ああ、朝倉涼子とも短い付き合いだったということになるんだろうね……」

 そう言う長門の横顔はどこか寂しげだ。なんだ、結局長門も同族の仲間がいなくなるのは寂しいんじゃないか。

 だったら平気な面なんてせずに辛い表情をすればいいのに。

「まあ、君のことはしっかりと守るから。大船に乗ったつもりでいてくれよ」

 ああ、今日程お前が頼もしく見えた日はないよ。

「――ああ、それから君が隠し持っているディスク。面白いから特殊な情報操作でパスワードをかけておいた、せいぜい苦しみたまえ」

 今日程お前が憎たらしく見えた日もねぇよ。

282 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:55:00.59 ID:fBjePAhAO

古泉一樹『独白』

 俺が超能力者になったのは3年程前のことだ。

 当時の俺はいきなり背負わされた世界を守るという責務の重さと、その原因がたかだか自分と同い年の女の子のストレス解消でしかないと知って愕然としたものだ。

 その重圧を少なからず和らげてくれたのは「機関」の仲間達だ。

 なにせ、いきなり不条理な使命を背負わされた者同士だ、一癖も二癖もあるヤツラだがヤツラが居てくれたお陰でこの3年間をやり過ごせたのだろう。

 ――そして、今年になってやっと超能力者として生きる運命を受け入れ始めた俺の元に信じがたい命令が下った。

「涼宮ハルヒと同じ高校に通学し、その動向及び第三勢力の接近を監視。同時にイレギュラー要素である少年とコンタクトを取り、涼宮ハルヒの安定に努めよ」

 ――涼宮ハルヒ。

 我々にとっての世界の中心であり、宇宙の創造神かもしれぬ存在。

 ――そして、俺達にクソっ垂れな運命を押し付けた「元凶」だ。

 その「元凶」に対して俺がどのような感情を抱いているのかは俺にも解らない。

 どうしようもなく憎たらしい気もするし……同時になぜか解らない程に愛しい気もする。

283 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 02:57:48.60 ID:fBjePAhAO

 そんな存在に対する自分の態度は機関の仲間達からしたら失笑するしかないものだっただろう。

 初めて好きな女の子と話した小学生男子のように背伸びして見せたのだ。

 「私」なんて使ったこともない言葉を使い。

 自分でも意味のわからない理屈を振り回して賢い人間のように振る舞い。

 大した悩みも無いのに難しい顔をして、大人のように見られたかったのか。

 涼宮ハルヒを刺激しないようにしろと機関からは指令を受けた。

 知ったことかと高圧的なキャラを作り、涼宮ハルヒに接した。

 他勢力とは必要が無ければ接触するなと言われた。

 無視してまるで年来の友人のごとく彼女たちと交流した。

 挙げ句の果てには不確定要素である意味もっとも危険な筈のあの男が立てたくだらない計画にまで乗ってしまった。

 それはせめてもの意地だったのか。

 自分ではどうしようもない運命を押し付けて、その上憎むことすら許さない絶対的存在に対する、本当に細やかな。だが、それでも構わない。

 どうせ自由意思など尊重されない、最低最悪な運命だ。

 だったら好きなだけ威張り散らして、やりたい放題やってやる。

 宇宙人程には万能ではないし、未来人のように結末を知るが故の強さもない。

 だったらせいぜい無責任に楽しむさ、この世界を背負った超能力者という身分を精一杯に、な。

 ……まあ、それで女神の機嫌を損ねた時に大変なのは俺達なんだけどな。

263 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/05/07(土) 08:02:08.77 ID:CS9VgRmDO

>>88から話にすらあがっていない佐々木の登場を私は心待ちにしている

285 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 03:01:31.70 ID:fBjePAhAO

>>263


佐々木は物語のキーパーソンの一人です(予定)

ただ驚愕で新たな設定が発覚した場合は大がかりなストーリーの改変を迫られますね。

287 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[] 投稿日:2011/05/09(月) 03:06:06.37 ID:D5OJ5NES0

乙乙!!
立て続けに投下されて嬉しいぜ
それぞれの独白も気になるところだ


289 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 03:33:39.84 ID:fBjePAhAO

>>287

独白に関してはそれぞれのキャラクターが抱えた問題

長門の人間への憧れ

みくるの無知な自分への嫌悪

古泉の理不尽な境遇に対する思い

これらに対する彼等のアプローチこそは原作と違うけれど根っこの部分は同じというのを自分なりに書いたつもりです。

223 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 15:19:35.20 ID:WnNWwp9bo

古泉がみっちゃんぽいと思ったけどそんなことはなかったよ

290 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 03:39:31.86 ID:fBjePAhAO

>>223


古泉のモデルは一応アーチャーです

最早、圭一化している気もしますが

291 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:15:38.34 ID:fBjePAhAO

 さて、ついにXデーがやって来た。朝倉が俺を偽ラブレターで呼び出し殺害しようとして長門に返り討ちにあうという悪夢みたいな一日だ。

 できることならずっと来て欲しくなんかない。

 それでも向こうはお構いなく勝手に突っ込んできちまう、本当にやれやれだよな。

292 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:17:52.65 ID:fBjePAhAO

 その日は色々なものがちょっとばかりおかしかった、俺の下駄箱の中にラヴレターが入っていたり(朝倉の策略というのは承知していてもやはり緊張した)。

 いつも元気なハルヒが妙に元気がなかったり(誤解がないように補足するとハルヒは思想がネガティブなだけで体力も精神力も常識外れに高い)

 通常ならばそんなハルヒを俺が見過ごすはずもないが、さすがに俺も緊張しているのかそんなところにまで気をまわせなかった。

 焦る気持ちを落ち着けようと授業中に朝倉の様子を確認すると、憎たらしい程に普段通りで落ち着いている。

 長門や朝倉の未来予知(異時間同位体との同期とか言うらしいが俺にはさっぱりなんで理論は割愛させていただく)によれば今日は俺ではなく朝倉の命日になるらしいが、宇宙人ってのは死ぬ予定のある日にこんなにも落ち着いていられるもんなのだろうか?

 まったくもって地球人には理解できない。

293 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:19:00.84 ID:fBjePAhAO

 ハルヒはハルヒなりに色々と思うところがあったらしく、本日のSOS団活動は休止。

 ……本当ならこの時に俺が気づいてやれれば良かったんだが、放課後に宇宙人と対決が迫っている身にそこまで気を回す暇などなかった。

 朝倉の呼び出し時間まで適当に暇を潰した俺はノコノコと悪い宇宙人が待ち構える教室へと向かう。悪い宇宙人の運命を見届けるために。

 ――これで分かる。

未来は決まっているのか否か?

294 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:20:43.95 ID:fBjePAhAO

 ガラガラと教室のドアを開け侵入した先にいたのは人物は予定通り。

 俺を殺すために待ち受ける宇宙人『朝倉涼子』だ。

 殺意を隠すつもりかはないのか抜き身のナイフを堂々と右手に握ってはいるものの朝倉委員長にしては表情は穏やかで、ナイフを持った右手もダラリと下ろしたままだ。

「来てくれたか」

 得体の知れない力で未来予知してたクセによく言うぜ。

「予知ではないよ、異時間同位体との同期だ」

 ご丁寧に独り言にツッコミをいれてきた。律義なやつ、もっともそうでもなけりゃ委員長なんてダルいことやりゃしないか。

「本当に俺を殺すのか?」

「ああ」

「長門に返り討ちにあうのはわかってんだろ? ……あー同期だかなんとかいうヤツで」

「ああ」

「それでもやる、と」

「ああ」

「理由を聞きたいね」

「つまらない話だぞ?」

 ……つまらない筈がない。人が、宇宙人だろうがインターフェースだろうがとにかく「人」が死んでもいいと思えた理由だ。

295 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:22:08.01 ID:fBjePAhAO

「我等が創造主たる統合思念体の意思は一つではない。 私は急進派ということになってはいるが実際は更に複雑にいりまじった思念の元に我々、朝倉涼子や長門有希は創造された」

「君を殺害し情報爆発を起こそうなどという考えは急進派の中でも危険視されかねない考えだ。通常なら思いついても実行できない。涼宮ハルヒの出方がわからないのもそうだが、他の派閥に阻止され付け入る隙を与えかねないからだ」

 正直言うと話の半分も理解できない。だが、それでも一つだけ分かることがある。

「それでも――やるんだな」

「……周りが、理屈が、世界が無理だと言おうとも、私は私が信じた道を行く」

 その時朝倉が浮かべた笑みは、壮絶なまでに美しく、

「君たち人間と関わり学んだことだ、やらないで後悔するよりやって後悔する方がいい」

 獅子のように誇り高く、

「目的を果たしさえすれば思念体にとって端末一つなどどうでもいいものだ、廃棄するまでもなく地上に放置されるだろう。そうなればこそ私は私の生命を手にいれられる!」

 何者にも犯せはしない。

296 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:23:16.01 ID:fBjePAhAO

 それだけの覚悟、受け止められねば男じゃないな。

「わかった……人間皆死ぬときゃ一瞬。どっからでもいいぞ、こい」

 恰好つけてみたところで長門が助けにきてくれなきゃどうしようもないんだがな。

「ならば最早問答無用。これ以上話したら更に君を好きになってしまうな、そうなったら……!」

 そこまで口にしたところで出し抜けに朝倉はナイフを構え突っ込んできた、俺みたいな、か弱い男にも不意打ちとは容赦のないことだ。

「殺せなくなってしまうからな!」

 しかし凄まじい速度だ、走馬灯を見る暇もない、つか目にも写らないスピードだ……!

「そこまでだ朝倉涼子。ここからは僕がお相手しよう」

297 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:24:47.03 ID:fBjePAhAO

 そんなかっこいい台詞とともに颯爽と現れたのは無論SOS団団員兼文芸部部長長門有希だ、朝倉のナイフを素手で握って止めている痛くないのか……ところでSOS団団員兼文芸部部長長門有希って早口で三回言えるか?

 言えたら大したもんだ、そうだなんだったら言えた人から抽選で20名に長門の手作り栞をプレゼント! 宛先は……!

「何をぼんやりしている!」

 あらぬ方向に回転を始めた頭に長門の回転蹴りが華麗にヒットし俺の体は教室の隅っこに吹っ飛んだ。

「教室が!?」

 長門の突然の蹴りに苦言をていす前に教室のあまりもの変貌に驚かされる。

 教室はもはやまったくの異世界、俺が今まで見たことも……いや、考えたことすらない異様な姿へと変貌を遂げていた。

「驚いたか? なら死ね」

 俺を驚きに浸らせてくれる間もなく朝倉が殺意ととも俺に向かい「何か」を投げつけてくる。(後で聞いたところによる教室が変貌した異空間も朝倉が武器として行使している『何か』情報操作で発生したナンチャラをカンチャラしたもの、まあつまりは地球人には理解不能なものらしい)

298 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:26:24.90 ID:fBjePAhAO

 それを必要最小限の動きで処理していく長門を見て、さっきの長門の蹴りは俺をあれから守るためだったのだと遅まきながら理解する。

「戦術レベルの話だが、この空間では私の方が圧倒的に有利だ、どうする? 長門さん」

「朝倉涼子、この程度の自体はとうに予測されていた。つまり結果もまた……君の敗北、それ以外はあり得ない」

 まあ同期とやらで未来を知っているんだからな……しかし一つ疑問も残る、つまり長門の同期とやら前では俺の「アレ」も予定の一つなのか、それとも「アレ」は長門にとっても不確定要素なのか……普通に考えれば長門はとっくにお見通しなんだろうが、

 ことがハルヒ絡みなだけに……。

「ッ!……朝倉涼子、ここまでの攻撃翌力を……味わってみるとやはり強烈だな……」

 って、おい長門血出てるぞ!?

「ナイフを握れば血も出るさ、僕はあいにくとただの人形ではないのでね」

「何冷静に言ってんだ!」

「弱っているな、悪いが好機は逃がさん」

 そう言って高く掲げられた朝倉の手の上の空間には俺にすら視認できる質量を持った「槍」のような大量の「何か」。

「長門危ない!」

299 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:28:27.66 ID:fBjePAhAO

 一瞬後にでも長門に降り注ぎそうな槍の群れを見て思わず長門に飛び付き床に押し倒そうとする。

「な、キョン!? なにをバカな……」

 そう冷静に考えればこれは俺の失態だ、長門は朝倉より強いらしいし、長門にはどうやら朝倉には絶対に負けないという自信と根拠があるらしい、そんな状況では護衛対象が自ら朝倉の攻撃を受けようとしたりしなければ長門が負けることなどありはしない。

 だったら俺は長門の後ろで小さくなっているのが一番長門と俺自身のため……そんなことはわかっているが俺には長門の知らない(と思われる)ところでコソコソ裏工作をしていた負い目があったから、万が一にも長門が朝倉に敗北して串刺しになる場面を想像してしまったのだ。

「こ、こら、やめないかキョン! ほらそんなとこに手をおいちゃ……ッ〜〜〜〜!」

 長門は少し身を捩り抵抗していたが立ったままもみ合っているよりはおとなしく倒れた方が安全だと判断したらしく逆に俺に抱きつくと体重を後ろにかけ倒れこんだ。

「うわっ!?」

「まさかキョンの下敷きとはな、嫌ではないが同期で予測できていなかったのは不可解だ。予測していればもっとちゃんと……」

300 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:30:39.67 ID:fBjePAhAO

 自分の間抜けな悲鳴とこんな時まで無意味に饒舌な長門の長台詞を聞きながら地面……そういやこの空間は本当は教室だったんだっけ? なら地面じゃなくて床か……に倒れこむ。

「キョン、君は結構重いな。それとも男性は皆こんなものなのかな?」

 長門は俺の重さに驚いたらしいが俺は腕の中の長門の想像以上に華奢でか細い体に驚いていた。畜生、俺はこんな長門に守ってもらおうとか考えていたのか!? 情けなくて涙が出てくる。

 朝倉の槍の雨が俺たちに降り注ぐ寸前、俺はそんなことを考えていた。

301 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:32:04.39 ID:fBjePAhAO

 ――何か全てが止まったような気がした。否、その瞬間、確かに全てが静止している。

「……ここまで、だ。朝倉涼子、この空間に仕込んでいた崩壊因子が既に効力を発揮している。勝敗は決した」

 そう腕の中の長門が静かに告げた次の瞬間。めまぐるしい光の粒たちが空間を駆け巡り、俺たちを取り巻いていた異界はあっさりと消滅し、ふと気付くとそこは夕暮れの赤に支配された慣れ親しんだ教室だった。

「……」

「……」

「……」

 俺と長門……そして『朝倉』の三人はその夕暮れの中でしばらく口もきけずに黙りこんでいた。

302 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:34:49.90 ID:fBjePAhAO

「……すまない、気を悪くしないで聞いてほしい、朝倉涼子。君はなぜ生きている?」

「……私が知りたいぐらいだよ」

 朝倉はそう言ったきり絶句すると床にヘタリと座りこんだ。

 きっと自分の腰が抜けた事実にも気づいていないその様子を見る限りは朝倉が自力で窮地を脱したわけではなさそうだ。

「…………」

 普段の饒舌はどこへやら、すっかり黙りこんでしまっている長門が朝倉に手心を加えたというわけでもなさそうだ。

 するとやはり、俺のあの考えなしの行動がこの自体を生み出しているらしい。

「……ともかくお互いにこうして生き残ったのだ、第2ラウンドといくか?」

「いや、交戦許可が下りない。しかもそれは君も同じなのではないかな?」

「ああ、彼とパーソナルデータ長門有希に対する一切の敵対行動が禁止されている」

「しかしこうも急進派と主流派の利害が一致するとは……些か考えにくい事態ではあるな」

「そのあり得ない事態を引き起こせるものがあるとすると」

「やはり涼宮ハルヒか? しかし彼女が今回の事に関して勘づいているはずは……」

303 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:36:05.49 ID:fBjePAhAO

「まあいい」

 なおも議論を続けようとする長門の言葉を遮るようにして朝倉が言った。

「どうやら私は後一歩というところで命を拾ったらしい。これ以上の戦闘はお互いに不可能なようだし、ここは休戦といかないか。私もしばらく一人でこの命を噛み締めたい

 それだけ言った朝倉は言いたいことは全て言ったとでもいうような余裕綽々な様子で立ち上がり教室のドアを開けた。

 ――そこで思い出したような振り返って朝倉は振り向くなり一言

「それでは長門さんにキョン君。ごゆっくり」

 そう言い放った朝倉は今度こそ振り返ることなく教室から出ていってしまった。しかしごゆっくりってどういう意味だ?

「……キョン、少しばかり重いよ」

 ああ、そういや長門を押し倒したまんまだっけ?

304 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:38:13.39 ID:fBjePAhAO

「悪い。すぐにどく」

「いや別に悪い心地はしないが……彼に見られるぞ」

「ん? 彼って一体誰……」

 そこまで口にしたところで俺の耳にセンスのないオリジナルソングが聞こえてきた。

「我・我・我・忘れもの〜。我の忘れもの〜あの日、あの時、置き去りにした記憶の〜カケラ〜 ……ぬおっ!?」

 突如として現れた谷口は重なりあって倒れた俺と長門を見るなり。

「すまぬ」

 今まで見たこともない真面目な顔で謝罪すると。

「では二人でゆるりとくつろぐがよい」

 朝倉と同じようなセリフを口にするとあっという間に姿を消してしまった。

「釈明の間もなかった……」

「そういえば彼と涼宮さんは同じ中学の出身生徒だったな、くっくっ……ひょっとするとこれは涼宮さんの耳に」

 少しばかり唖然としてしまっているらしい俺に追い討ちをかけるように長門の言葉が突き刺さる。

「ありえん」

 とも言い切れない、ハルヒと谷口が仲良く会話した姿を見たことはないが、中学三年間でまったく会話をしたことがないということはないだろう。

 そして谷口の方からハルヒに話かければ完全に無視するほどハルヒは谷口を嫌ってはいまい。

305 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/09(月) 22:40:39.79 ID:fBjePAhAO

 谷口が面白半分にハルヒに告げ口をするほどバカではないとは思うが……てか、別にやましいとこはないのだから別段恐れる必要はないのか?

「メガネがない」

 しかし堂々としていたら逆に問題ありな気も……。

「ん? メガネがなんだって」

「君に抱きつかれた拍子にメガネがどこかにいってしまったようだ。謝罪と賠償を要求したいね」

 安い買い物じゃないが命の恩人の要求では仕方ない、のか? まあ受けてやるほかないだろう。

「しかし俺はメガネない方が好きだけどなあ……」

「!!!」

 何気なく発した一言が想定外に長門を刺激したらしい。

「まあいいや長門、今は持ち合わせがないから悪いが弁償は明日にでも……」

「メガネなんかいらない」

「はい?」
 あの? 長門さん?

「たったいまレーシックによって視力が回復した。よってメガネは必要ないよ、キョン。 礼はまた別の形で示してくれ……とか……………程度でも構わないが」

「なんだ? よく聞こえん」

「なんでもない」

 意味がわからん、宇宙人も地球人もとかく女性は難しいものだ。

310 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:14:42.94 ID:7pzfuvQAO

「それでは説明してもらおうか? キョン」

 そう言って、俺を睨みつける長門は珍しく本気で感情を露にしている。

「せ、説明って、なんのだよ?」

 それに対して冷や汗をダラダラかきながら抗弁なんざしたところで、まったくの無駄なんてことは了解しているが……男には無駄とわかっていても言い訳するしかない時があるのだ!

「キョン、君もその面白くもない冗談を続けるのなら命が続かなくなると知れば態度を改めてくれるのかな?」

 わかりました、わかりましたから長門さん、お願いだから首を絞めるのは……。俺の首を絞めていいのはハルヒだけ……すいません、冗談です、お願いだから、て、手を、は、離して、く、くださ……い。

「では釈明を聞こうか?」

 くそ、一難去ってまた一難どころじゃねぇな。

311 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:18:11.76 ID:7pzfuvQAO

「遊びに誘ったんだよ……」

「誰を」

 そう睨むなよ、メガネがなくなって視線の鋭さも当社比で二割増だな。

「朝倉を」

「なぜ」

 長門よ、自分が饒舌キャラだって忘れてんじゃないか?

「いやまあ、朝倉にはクラスのヤツなら大抵世話になってるしな、国木田と阪中……ああ、こいつらただのクラスメートで怪しいバックボーンはないからな、と俺と古泉とハルヒ。まあ六人で遊びにでも行かないかと言ってみたわけだよ……」

 そう、本当にそれだけで。まさかこんな大事になるとは……少し思ってはいたが。

「読めたぞ、君らのくだらない策略が。涼宮さんは無論楽しみにしていただろうな?」

「ああ、くるメンバーの中の誰かが今日消えちまうなんて、まったく考えてないだろうな」

 宇宙人の未来予知すら覆しちまう程にってのがハルヒらしいがな。

「まったく、君は救いようのないバカだな。朝倉はその予定が終わればまた君を狙うぞ」

 そう言って、しかめっ面をしてみせてはいるが、どこか嬉しそうじゃないかよ長門。

 仲間が消えずに生きてるってのはこの宇宙人をしても、嬉しいもんなのかね。

 ま、なにはともあれ、こいつも笑ってた方が可愛いのは多分間違いない。

312 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:20:07.43 ID:7pzfuvQAO

 さて、そんなこんなで朝倉たちとの約束の日だ。

 あの後、長門がどれほど怒り狂うか心配していたが、結局死ぬほど冷たい目で俺を見て帰って行った。てかまだ口をきいてくれない。

 俺の心は大分傷ついてはいるが肉体は健康だ。

 思えば俺が今日という日を健康な体で迎えられるのも長門のお陰であり、その長門に嘘をついていたんだから長門の怒りも当然と言える。

「どうしたの、キョンらしくもなくボーとして?」

 と普段通りのクセのない面で尋ねてくる国木田。忘れてるかもしれんが今日の集まりに参加するメンバーは俺、国木田、古泉、ハルヒ、朝倉、阪中の六人だ。

 この阪中って女子は中々にズケズケもの言う女で、そこが逆にハルヒと合っているという変わり種だ。

 このメンバーなら内気なハルヒでも楽しめるはず、谷口は誘わなくて正解だったな。

313 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:22:14.80 ID:7pzfuvQAO

 待ち合わせ場所の喫茶店に着くとやはりと言えばやはりだが約束の一時間前に関わらずハルヒの姿があった。

 畜生、国木田がノロノロしてなきゃ俺も三時間前からハルヒと一緒に居たのに。

「今、午前10時だよ。三時間前に来たって喫茶店閉まってるって」

「うん、閉まってた」

 やっぱり三時間前から居たのか……。

「ここは待たせた詫びに俺が奢らないとな」

「いいよ、そんな悪いよ」

「気にすんな、でもなハルヒ。友達との約束なんだからそんなに急ぐ必要ないんだぞ? 少し待たせてやるぐらいで丁度いいんだ」

 まったくもってハルヒは気を遣い過ぎる。

「うん、それもあるけど……お休みの日にキョンに会えると思ったら待ちきれなくて」

 そう言ってはにかんだ笑顔を見せたハルヒは恥ずかしくなったのか顔を伏せてしまう……可愛いなーもう! こっちが恥ずかしいわ!

「一番恥ずかしいのは僕だよ」

「ああ、国木田いたのか」

「僕さ、たまにキョンを殺したくなる時があるよ」

「ダメー!」

「いや、冗談だよ?」

314 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:24:05.46 ID:7pzfuvQAO

 そんなやりとりで時間を潰していると古泉、朝倉、阪中も続々と姿を現し、時間三十分前にも関わらず全員集合とあいなった。つくづく谷口がいなくてよかった。

「ちょっとキョン君」

 唐突に話しかけてくる阪中

「あの男の子だれ?」

 そう言って阪中が熱い視線を注ぐのはもちろん我らSOS団団員古泉一樹だ。

「あー、うちの団員の古泉だよこの前9組に転校生来ただろ?」

「あのルックスにファッションセンス、しかも9組か……あんなのが身近にいるのに涼宮さんは……」

 なんだその失礼な視線は。

「ふ、二人で何を話てるの?」

「秘密。涼宮さんにはまだ早い」

「えー、そ、そんなアダルティーなのはキョンにはまだ早と思……」

「冗談だって、ジョーダン それより涼宮さんと学校外で絡むのは初めてだよねー、今日一日仲良くしよー!」

 そう言ってハルヒの頭をバンバン叩く阪中。

 ハルヒも困った顔をしつつも楽しそうではあり、そんなハルヒを見るためなら俺は長門にいくら迷惑をかけるのも躊躇わん。

316 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:26:29.41 ID:7pzfuvQAO

 今回の集まりは別にSOS団の集会というわけではないので、怪しい物を探す必要もくじ引きもなく適当に喫茶店でくつろいだ後にボーリングとカラオケという無難な形に落ち着いた。

 ボーリングは独走する朝倉とハルヒをその他が追走する目に見えていた展開だったが、それなりに楽しめた

 古泉が適当に手を抜いている気がしたが、結局俺や国木田では微妙に勝てないのはそういう仕様なのか。

 校内ではそこまで親しいわけではない6人での交流は阪中が若干古泉にひっつきすぎな気がしたが、そこまで露骨じゃないし空気が悪くなる程ではなく、特に問題なく進んだ。

 カラオケはやたら上手いクセに歌いたがらないハルヒを無理やり(おふざけレベルでな)歌わせる会になっていたが、笑えたからよしとしよう。

317 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/05/10(火) 23:28:08.82 ID:7pzfuvQAO

 大して広くもないカラオケルームに何人もいれば蒸れる上に熱唱により酸素が刻一刻と失われていくのは当然の結末だ。

 カラオケが長引くにつれ息抜きのため外に出ていくメンバーがではじめた。

 てか古泉と阪中が一緒に出ていったが……大丈夫なのだろうか?

 俺自身も例外ではなく、トイレにたったついでに外の空気を吸っていた時だ。

 朝倉が話かけてきたのは。

「流石の君もグロッキーか? 随分と気持ちよく歌っていたようだが」

「ハルヒにばかり歌わせるわけにもいかないからな。ちょっと、ムチャし過ぎた」

「ムチャと言えば……」

 そこまで言って朝倉の声質が同級生の雑談から補食者が獲物に向けるものに変わる。

「なぜこんなことをした? 下手すれば君は今私に殺されているぞ」

 やれやれ、まったくもって怖い委員長だ。

318 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage saga] 投稿日:2011/05/10(火) 23:30:28.34 ID:7pzfuvQAO

 だが朝倉としては当然の疑問なのかもしれない。

 自分が殺そうとした人間の裁量で生かされているというのは気持ちのわるい感覚だろう。

「なあ、朝倉」

「なんだ」

「そんなに理解できないか?」

「理解できないな、敵対因子を生かしておくことになんの意味がある?」

 慎重に、だが正直に言葉を選びながら朝倉に語りかける。宇宙人と人類が真の意味でのクラスメートになれるように。

「お前がさ、俺を殺そうとするんなら理由を知りたいよ。ハルヒになんかするってんならどんな理由があっても許さない。でも俺がお前を助けるのに理由がいるのか?」

「理由がないのなら助ける意味がないだろう」

「例えば宿題を忘れたクラスメートがいて、お前がノート写させてやるだけでそいつ助かるとしたら写させてやるだろう? 助ける理由とかいちいち考えるのかよ?」

「それは……そういう時、一般的な高校生は写させてやるものだと理解しているから行うだけだ」

「な、多分そんなのが俺の理由だ。人間ってきっとそんなもんなんだよ」

319 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:31:53.52 ID:7pzfuvQAO

 そんなことを語る朝倉の表情はまったくのポーカーフェイスで。

「――それにな、俺は逆にお前は必ず何かで困っている俺を助けてくれる。そんな気がしているんだ」

「情けは人の為ならず。か……」

 俺の言葉など届いていないように思えた。

 だが次の瞬間に俺は凄まじいものを目撃することになる。

「君はお人好しだな……まあ、そこが魅力なんだろうが、な」

 魂が抜けちまう程の笑顔って見たことあるか?

 俺はある。北高に入学して以来三回程出会った奇跡の笑顔たち。

 廊下で遭遇した朝比奈さん、不意打ちで微笑む長門、そしてハルヒ。

「そういった人間は嫌いじゃないよ」

 そう言って微笑む朝倉は彼女たちに勝るとも劣らない美の結晶だった。

320 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:33:09.97 ID:7pzfuvQAO

「こんなとこにいたの朝倉さんもキョン君も涼宮さんが心配してたよ……って、え!?」

 誤解の火種ってのは呼ばずとも向こうからやってくるものらしい、忘れている人間もいるかもしれないが阪中だ。

「ああ、わざわざ呼びに来てくれたのか。すまなかったな」

 そう言いながら阪中に微笑んでみせる朝倉。ただ先程までの奇跡の笑顔とはまったく質が異なるものだ。

「え、ああうん……それは別にいいんだけど……」

 元気印の阪中もたじたじだ。無理もないか、俺も朝倉が他人に対してあんな笑顔を見せていたらマジでビビる。

「私は先に戻る。キョン、君も彼女にあまり心配かけるなよ」

 彼女だなんて……照れるじゃないか。

321 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:35:41.33 ID:7pzfuvQAO

「どゆこと? なんで朝倉さん!? なんでキョン君!? 意味わかんないだけど!!!?」

 朝倉が立ち去るやいなやめちゃくちゃな勢いで阪中が突っ込んできた。こいつのこういうバイタリティはハルヒにも是非見習って欲しい。

「落ち着けよ、俺だってよくわからん」

「んなわけないでしょ!? 朝倉さんって普段ニヤッとかフフとかせいぜいニコッとぐらいしか笑わないのに、今のなんてニコーって感じじゃないニコーって!? どんな魔法使ったのよ!?」

 そう言われても、わからんものはわからんとしか言いようがない。あと、お前の朝倉のモノマネはビックリするぐらい似てないな。

「本当に意味わかんない! キョン君、涼宮さんを困らせるようなこと言ってないでしょうね!?」

「言ってない。だいたい俺が朝倉になにを言ったらハルヒが困るんだよ?」

「もう!? わかってるでしょ!」

 さっぱりわからん。

322 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:38:32.61 ID:7pzfuvQAO

「まあ、いいわ。涼宮さんもあたしにそこまで言われたって迷惑だろうし」

 もっと突っ込まれるかと思ったが阪中の追求は意外とあっさり終了したらしい。

「もう嫌疑は晴れたのか?」

「うん、だってなんにもしてないんでしょ? 友達の言うことは信じるよ」

 その一言にちょっとキュンとしてしまった俺は照れ隠しのつもりで阪中に質問してみることにした。

「そういやお前古泉と一緒に出てっただろ? 何してたんだよ?」

「あ……な、なにも、別に特に変なことっていうか普通って感じで別にあれ的なことは別に……」

 たちまちハルヒ並みに挙動不審になる阪中。ここまで露骨なら俺でも何かあったことは容易に想像できる。

「なんだ古泉になんかされたのか?」

 阪中のテンパりかたからは、そこまで深刻というか、暗い感じはしなかったので、真っ赤になっていく阪中に気楽に追撃をかけることができた。

「いや、変なコト言っちゃった、てかやっちゃったのはあたしで……でも古泉君は気にしてないよって……」

 真っ赤になりながら身悶える阪中を見て改めて古泉の口先の魔術師っぷりを思い知る。

 俺が朝倉相手に四苦八苦してる間に古泉は阪中相手になにをしてたんだか、やれやれ、まったく羨ましいことで。

323 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/10(火) 23:41:56.75 ID:7pzfuvQAO

 しかしこんな所で阪中といつまでも戯れているわけにもいくまい、帰って来ない俺と朝倉を呼びにきた阪中が俺と一緒にここに居れば状況はなにも変わらない。

 阪中とともに部屋に戻ってみると全員に程良くダレた雰囲気が漂っていたので、最後に全員でちょっと前の流行歌を合唱しおひらきとなった。

 バカにしていたポップスも歌ってみると悪くないもんだ、ましてや気の合う友人たちとなら。

 全員が適当に楽しんでいたことを確認し駅前で解散。

 おい古泉、お前の帰宅ルートはそっちじゃないだろうが、なんで阪中と帰ってんだよ。……国木田よ……ご愁傷様。

 また明日学校で。お決まりのフレーズが妙に耳に心地よく響いた。

327 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:26:07.49 ID:Yf07VeHAO

 まあ、こんな1日ってのは爽やかに終わりたいのが人情ではあるが、なかなかそうはいかないのが世界の常識。

 帰宅した俺を待ち構えていたのは最低のぶっちょう面をした妹だった。

「ただいま」

「友達、来てるよ」

「ただいま」

「友達来てるよ」

「ただいま」

「お・か・え・り・ 『友達』が部屋で待ってるよ」

 たく反抗期にも困ったもんだ。しかし『友達』の部分をやたら強調して聞こえたのが気になる。

「友達って誰だ?」

「知らない。女の子」

 そんなぶつ切りにしないで兄との会話を楽しんで欲しいが女の子というのが気になる。

「ちゃんと謝りなよ。何時間も待たせて」

 だったら携帯に連絡して欲しいんだが……ああそういやこいつは俺の携帯番号を覚えてくれないんだった。短縮に登録しておくべきだろうか?

 と、ここで思考が嫌な可能性に行き当たる。

 携帯を持っていない俺の知り合いの女子? 携帯を持っていない女子高生なんてのは今や絶滅危惧種だ。

 思いついた候補者は一人だけだった。

328 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:27:50.14 ID:Yf07VeHAO

 やはりというべきか自室で俺を待ち受けていたのは年中無休の制服宇宙人長門有希だった。

「長門、何しにきた?」

「連れないな、そんなにぶつ切りにしないで僕との会話を楽しんで欲しいものだ」

 確かに会話のぶつ切りはよくないな、しかし……。

「お前は俺にキレてたんじゃないのか?」

「キレてる、しかし仕方ないだろ? これも仕事だ」

「仕事だと?」

「君の蛮勇によって未来は書き換えられた。もはや結末を予測することは不可能に近い」

「朝倉がなにをするのかわからないってことか」

「要約してしまえばそうなるかな」

 だったら最初から要約しろよというツッコミは無粋なんだろうな。しかしこの長門不満そうである、そんなに長台詞を言いたいか。

「本来ならばそんなことは有り得ないが……なにしろ今回の件には涼宮さんの思惑が絡んでいる。そう簡単にはいかないだろうな、異時間同位体との同期。まあ君にわかりやすく説明するならば未来予知とでも言うべきか、それも完全に不可能となっている」

 結局長台詞かよ。で要件は?

「これからしばらくの間は君と寝食を共にする」

329 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:29:28.89 ID:Yf07VeHAO

「なんでそうなる」

「たった今簡潔に説明したばかりじゃないか? 朝倉の動向が読めない。以前の襲撃はいわば果たし合いのようなものだった、互いに日時を了解していたのだからね。しかし今回はそうもいかない1日24時間いつでも朝倉は仕掛けられる」

 さっきの説明のどこが簡潔だよ、って今ツッコミ入れるのはそこじゃないな。

「だからって……学校でだけじゃダメなのか?」

「朝倉が自宅に来ない保証はあるのかい?」

「今日だって朝倉と会ったがなにもなかったじゃないか」

「涼宮さんの望みは今回のイベントが達成されることだったのだろう。だからこそ彼女の神がかった力は本来彼女を動揺させるのが目的だった急進派の思惑すらねじ曲げた。しかしその休戦条約も今日で終わりだ。奇跡はいつまでも続かない」

「とにかく一回帰れ」

「嫌だ」

「帰れ」

「嫌だ」

 長門の言い分はよくわかる。

 確かに朝倉はまだ自分の目的を諦めたとは言っていないからな。

 だがここは俺も引かない、てか引けない。

330 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:31:16.07 ID:Yf07VeHAO

「朝倉のことを黙っていのたのは本当に悪かった。すまなかった謝る、だがそれは……」

「涼宮さんのことが気になるのかい? だったら安心したまえ朝倉涼子のことも僕のことも彼女には伝えない」

「いやしかしだな……そういう問題では」

「大丈夫だ、君は気にしなくていい。朝倉のことは僕が片付ける」

 なんかここの会話だけ聞いてるとマジで俺ダメ男だな。

「そういう言い方はするな、知らないやつ聞いたら誤解される」

「確かにね、事実扉越しに聞き耳を立てている君の妹さんは、なにやら誤解しているようだ」

「な!?」

 長門のその台詞と同時にドタバタと走り去る妹の足音が聞こえた。小5にもなれば話の雰囲気もつかめていただろうし、だからこそ興味を持ったのもわかる。しかしコイツは参った。

「安心してくれ、前半部分は聞かれていない」

「後半だけで大打撃だよ、てか知ってあんな会話にしたな?」

「さあ?」

 やれやれ、本当にやれやれだ。

331 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:32:56.73 ID:Yf07VeHAO

 とにかく俺にも出来ることとできないことがある、ゴネる長門を無理やり家から押し出し、風呂に入って晩飯と無理に普段と同じ生活を満喫する。

 玄関先やっていた帰れ帰らないの押し問答を見られたらせいか、母親と妹は俺と一切の会話をしてくれなかったが……妹とは一年ぐらい会話できないかもしれん。

 凄くなにかを言いたそうにしている母親を全力でスルーしベットに寝転がり、ふと気配を感じ窓の方見た時だった。

「やあ」

 長門がいた。

「なんでいる」

「君の言いつけは守ったよ。ちゃんと家の外にいる」

 そう長門は部屋の外にいた……正確には窓に張り付いていたというべきか。

「とにかく入れ」

「おや、入場を許可してくれるのかい?」

「いいからとりあえず入れ」

「お邪魔します」

 いくら暖かい季節とはいえ長門を外に出しっぱなしでは寝覚めが悪い。

「とにかく帰る気はないんだな?」

「ないな。というよりは帰れない。朝倉が君を殺そうとするように僕は君が殺されないようにする義務がある」

332 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:35:10.56 ID:Yf07VeHAO

「もういい疲れた。俺は床で寝るから毛布一枚よこせ」

「僕は別に一緒にベットでも一緒に床でも構わないよ? 前にも言ったが間違いがあっても僕は気にしない」

「俺が気にするから床で寝る。はい消灯しますよ」

 暗くなったところで自室に女子がいる緊張は消えないが毛布を頭まで被り雑念を払うことにする。
「キョン」

「なんだ」

「君はいい男だな」

 ほっとけ。

「朝倉のこと、礼を言わせてくれ」

「なんだよ、キレてたんじゃないのか?」

「怒っていたのは黙っていたことに対してさ。ただのバックアップと割り切っていたつもりだが、やはり情はわくものらしい」

 長門も朝倉も仕事でやりあってだけってわけなのか、本人同士には他人にはわからないなにかがあるらしい。ま、人間も宇宙人もその辺りは大変だよな。

「朝倉を助けたのは涼宮さんのためなのかい?」

「クラスメートが消えるっていうんなら助けられる範囲で助けるだろ、普通」

「そんなものか」

 長門といい朝倉といい、この辺りはまだ理解しきれてはいないらしい、時間をかけていくしかない問題だろうしグチグチ言うことでもないのだろう。

333 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:41:27.92 ID:Yf07VeHAO

「まあ、ハルヒが少しずつクラスに馴染んでるのは朝倉の力も大きいからな。多少他のやつよりは気合い入ったかもしれん」

「やはり彼女か、彼女のためならば君は本当になんでもするな、僕は少しばかり涼宮さんが羨ましいよ。君がそこまで全力になるのは彼女に関係することだけだから。くく、今のは失言だったな。忘れてくれ乙女の秘めたる思いというやつさ」

「…………」

 寝たふりをしている俺は卑怯だろうか。

「失言ついでにもう一つ聞かせてくれ」

「もしも僕が朝倉のように道を違えても、君は僕を助けてくれるかい?」

「つまんねぇこと聞くな、当たり前だろ」

「おや、寝ていたんじゃないのかい?」

「…………」

「冗談だよ」

 どっちが冗談なのかも訊けない俺は間違いなく卑怯者だろう。

「キョン、ありがと
う」

「礼ならさっき聞いたぞ」

「違うお礼さ、はっきりと僕を拒絶しなかったことに対する、ね」

 もう本当に寝ちまいたいぐらいだ。い長門に失礼過ぎんのはわかってるし、寝はしないが。

「……安心した。涼宮さんを泣かせるなよ?」

「ああ」


334 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/11(水) 23:46:41.22 ID:Yf07VeHAO

今日はここまで。

さて、あと2レスで書きためが尽きます。

3ヶ月もかかりましたが、実はスレ立ての時点でここまでは書きためがあったわけです。
それが尽きました。

高二の頃から、ここまで書きためるのに四年間……構想ではまだ全体の4分の1程度……。

今後は驚愕を待つ気分、あるいはハンター完結を待つ気持ちでお付き合いください。

344 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/14(土) 23:50:39.67 ID:fFIlwOZAO

 翌朝、家族の誰よりも早く起きるという快挙を成し遂げた俺は長門に無理やり朝食を食わせると早々と家を出た。

 家の連中に長門を見られるわけにはいかないからな、いつもは立ちこぎ全力疾走なママチャリも今日はゆっくりと引きながら登校できる。

 長門との2人のりは誰かに見られると致命傷になりかねないので自重することにした、2人で登校するのもどうかとは思うがまあ途中で会ったとか言えばごまかせるはずだ。

 意味もなく早く家を出た気がしていたが、チャリに乗らない通学路を意外と長く、嫌がらせのように長い北高前の坂にさしかかる頃にはいつもに比べたら早いぐらいの時間になってしまっていた。

 まあ長門がよく喋っていたので退屈はしなかった。

 で、その坂の中腹ぐらいで俺たちは大層奇妙なお方に遭遇した。

345 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/14(土) 23:51:54.07 ID:fFIlwOZAO

 何より目を惹くのはその服装だ、着物である。

 浴衣みたいな軽いものではなくかぐや姫とかが着てそうな完璧な着物。現代日本で日常的にこんな格好している人は携帯を持っていない女子高生以上に希少な存在だろう。

 腰より下まで伸ばした超長髪もあいまってその女性は本当にお姫さまなんじゃないかとすら錯覚してしまう。映画村から亡命でもしてきたのだろうか?

 しかも、だ。

「もし」

 あろうことかこちらに話しかけてきやがった。

「もし」

 気づかないフリでもしてみようかと思ったが生憎と俺たち以外に付近に人はおらず、本当に困っていた場合は彼女を置き去りにしてしまうことになるので、そうもいかない。

346 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/14(土) 23:53:02.42 ID:fFIlwOZAO

「なんですか?」

 この御伽噺からでてきたようなお方に現代の言葉が通じるのか不安はあったが、話してみなければ始まらない。

「この辺りにからおけぼっくすというものはございますでしょうか?」

 あまりにも意外な言葉に戸惑いを隠せないが、とりあえず頭をめぐらし、いくつか候補となる場所を考えてみる。

「カラオケって言っても結構ありますからね……他になんかありませんか?」

「ああ、申し遅れました。私、北高の鶴屋と申します」

 なんだか言葉が通じているのか若干不安になってきたな。

「これはどうも……って北高生なんですか!?」

 こんな特徴的な人、同級生ならば覚えていないはずはない。恐らくは上級生だろう。

「ええと……確かみくるは駅前のからおけぼっくすと言っていたような……」

「み、みくるって……もしかして朝比奈さんのお知り合いですか?」

「まあ、珍しい名前ではあるし。北高というのなら間違いないだろうね」

「ええ、確かに私北高にて勉学に励んでおりますの。そういえば貴方方の制服もなにやら見覚えがあるような……」

「なにかなキョン、少しばかり僕はイライラしてきたよ」

 長門よ、同意見だが一応先輩だぞ。

347 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/05/14(土) 23:54:07.78 ID:fFIlwOZAO

 確かに駅前のカラオケなら北高生御用達のたまり場になってはいるが……事実昨日は俺たちも使用している。

「というか駅前のカラオケって、方向真逆じゃ……しかも、月曜の朝からですか」

「まあ、みくるをご存知なのですか? 少し意地っ張りですが仲良くしてあげてくださいね?」

「キョン、もう僕は先に登校してしまっても構わないかな?」

 寝食をともにして護衛すんじゃなかったのか。

「私、からおけというものは初めてでして……わくわくして今日も約束の2時間も前に家を出て参りましたの、約束の時間は2時ですのに」

「まことに申し上げにくいんですが……2時間じゃ足りなかったみたいですね」

 朝の2時にしろ昼の2時にしろ大遅刻は確定的だろう。しかも恐ろしいことに昼の2時である可能性の方が非常に高い。

「ああ、そういえば貴方様のお名前を伺っておりませんでしたね」

 やれやれ、本当に勘弁してくれ。

357 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/06/15(水) 20:32:05.27 ID:bN9RDmUAO

「鶴屋さん、とりあえず今日は月曜日です。朝からカラオケも結構ですが、とりあえず登校しませんか?」

「まあまあまあ、もしかして今日は日曜日ではありませんの?」

 初めて話がかみ合った気がする。やはり人間同士のコミュニケーションは根気が肝心だ。

「キョン、どうやら彼女は僕らの手には余る人物のようだ。とりあえず朝比奈みくるに連絡をとるなり、学校に連行するなりしたらどうかな」

 確かに、妖怪長喋りである長門としては、いまいち話が通じない鶴屋さんは物足りないだろう。

 ただ、とりあえず朝比奈さんを呼ぶというのはいいアイディアだ。蛇の道は蛇、変じ……変わり者には変わり者だ。

359 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/06/15(水) 20:56:38.74 ID:bN9RDmUAO

 俺からの連絡を受けた朝比奈さんは既に登校していたらしく、すぐに駆けつけてきてくださった。

 この時間に学校にいるとは普段からかなり早く登校しているのだろう。ま、根が真面目な方だからな。

「鶴屋さん! なんで昨日の14時に駅前の約束なのに今ここにいるの!?」

 流石だな朝比奈さん、今の一言に俺が言いたかったことの全てが込められている。

「まあ、みくる。いったいどうしてここに……」

「あれだけお家の人に送ってもらいなさいって言っておいたでしょ! なんで言うとおりにしないの!」

 なるほど話を聞かない人の話は聞かなくていいのか、タメになるな。

「では早速からおけとやらに……」

「それは後! さっさと登校!……の前に着替え! そんな恰好でふらふらしてたらまた誘拐されるわよ!」

 誘拐されたことあんのか。

「みく……」

「ほら、キョン君と長門さんにお礼言って! 行くわよ!」

 しかし大したオカンっぷりだな……お姉さんキャラより似合ってんじゃないのか?

360 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/06/15(水) 21:40:29.02 ID:bN9RDmUAO

「まあまあ、貴方がキョン君ですの?」

「はあ、できれば本名の方も」

「お話はみくるから常々」

 なかなか朝比奈さんみたいにはいかないな……。

「この前に2人で遊びに行ったときの話なんて本当に嬉しそうに何度も何度も」

 2人で遊びに? 思い当たるのは不思議探索の一件か、しかしあれは別に2人で遊びに行ったわけでは……。

「本当にみくるに懐かれてますのね、少し妬けてしまいます」

 ほんわかした笑顔で言われても全然妬かれてる気がしないが。というより俺は朝比奈さんに懐かれていたのか。

「勿論ですわ、みくるったらいつもキョン君、キョン君……」

「世間話ストッープ!! 急がないと遅刻するわよ!」

 朝比奈さんが突如として話に割り込んできた、時間的にまだまだ余裕があるはずだが。

「いくわよ!」

「では、ごきんげんよう〜」

 朝比奈さんが鶴屋さんの首根っこを掴んで引きずって行ってしまった。もっとも朝比奈さんの小さな身体と非力な腕では鶴屋さんの協力抜きでは一歩も進むことはできないだろう。

376 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[] 投稿日:2011/09/07(水) 01:09:39.88 ID:1Sn1gfVAO

>>1です

申し訳ないですが更新は夜勤地獄終了しましたらになります



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