ハルヒ「手作り弁当か…」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/08(火) 18:43:24.07 ID:5sWIOb070


キョン「ハルヒ、相談があるんだが…」

ハルヒ「なに?どうせろくでもないことなんでしょうけど」

キョン「長門の手作り弁当が食べたいんだが……」

ハルヒ「……あたしに言わないでよ」

キョン「いや……直接は言いにくいしな……」

ハルヒ「で、なに?あたしが有希に伝えればいいの?」

キョン「……そうしてもらえると助かる」

ハルヒ「しょうがない男ね……」

キョン「なんとでも言ってくれ」


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 18:48:01.34 ID:5sWIOb070


ハルヒ「…というわけなんだけど」

長門「……」

ハルヒ「まぁダメよね、大体あんたなんかに弁当を作ってあげたいと思うような物好きは……」

長門「いい」

ハルヒ「え?」

長門「明日持ってくる」

ハルヒ「そ、そう」

長門「心を込めて作るから」

キョン「ありがとう長門!」 グッ

ハルヒ「そ、そう…」


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 18:51:10.57 ID:5sWIOb070


キョン「ハルヒもありがとな!お前のおかげだ」

ハルヒ「ええ…」

キョン「今度飯でも奢るよ!」

ハルヒ「ええ…」

キョン「うぅうぅ…楽しみだ……死んでもいい…」

ハルヒ「ええ…」

キョン「長門……ホントにありがとな……!」

ハルヒ「ええ…」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 19:01:26.52 ID:5sWIOb070


キョン「あーしかし家の手伝いがあるから今日はこの辺で」

ハルヒ「ええ…」

キョン「悪い。じゃぁな、長門!」

長門「……」

ハルヒ「ええ…」


バタン


ハルヒ「ええ…」

古泉「涼宮さん」

ハルヒ「ええ…」

古泉「お気持ちは察しますが、気を確かに」

ハルヒ「ええ…」

古泉「涼宮さん本当は彼に作ってあげたかったんでしょう」

ハルヒ「ええ!?」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 19:53:46.82 ID:5sWIOb070

――――――――――
――――


キョン「おぃっす」

古泉「どうも…」

キョン「どうした古泉?顔に痣があるぞ?」

古泉「ええとですね…」

ハルヒ「……」 ギロッ

古泉「……昨日家で転びましてね」

キョン「そうなのか?」

古泉「えぇまぁ……気にしないでくださぃ」

キョン「そうか、まぁ余計な詮索はするまい」

ハルヒ「……」


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:04:35.57 ID:5sWIOb070


キョン「長門、今日はありがとよ」

長門「いい」

ハルヒ「……」 カチカチ

キョン「たまごやき美味しかったな、これは卵焼きに
     対する考えを大幅に改めなければならないかもしれん」

長門「そう」

キョン「唐揚げも、天国に行けば食えると思ってたぐらいの美味さだったぞ」

長門「……これから毎日作るから」

キョン「毎日は悪いな…」

ハルヒ「そうよ……」 カチカチ

キョン「え?」

ハルヒ「やっぱりこれは陰謀だったのよ…」 カチ

キョン「……また変なサイト見てるのか」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:14:44.45 ID:5sWIOb070


長門「いい、私が作りたいから作る」

キョン「そうなのか?…そりゃ嬉しいな」

ハルヒ「……」 カチ


キョン「長門?」

長門「なに」

キョン「明日から一緒に食おうな」

ハルヒ「……」 ガキッ


長門「そう」

キョン「それがいい」

長門「嬉しい」

キョン「!……俺もだぞ」

ハルヒ「……」 バキッ


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:23:42.53 ID:5sWIOb070


キョン「ん?お前そのマウスどうした?」

ハルヒ「割れちゃったみたい……不良品ね。古泉君、新しいの買っといて」


キョン「長門……これから有希って呼んでいいか」

ハルヒ「ダメ!!」

キョン「…っ!?」

ハルヒ「あぁ……負けちゃった……」

キョン「…5目並べ?」


長門「そう呼んでもいい」

キョン「そうか?有希……はは…実はずっとそう呼びたくて仕方なかった」

長門「そう」

キョン「有希」

ハルヒ「……」 ガキガキッ


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:35:25.83 ID:5sWIOb070


キョン「ん?お前そのキーボードどうした?」

ハルヒ「キーが外れちゃった……これも不良品。古泉君、新しいの買っといて」


キョン「有希、」

ハルヒ「ひいぃいぃ!!!」

キョン「なんだ!?」

ハルヒ「この動画ドッキリだった……もう…」 カチカチ


キョン「有希、本だけじゃなくて、たまには映画でもどうだ?」

長門「わかった」

キョン「…あー、そういう時は『行く行く』とか、せめて『うん』って言うんだ」

長門「行く行く」

キョン「ん……まぁいい、今度また連絡するからさ」

長門「うん」

キョン「おう」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:45:23.16 ID:5sWIOb070


キョン「昨日は先帰って悪かったな、有希、今日は一緒に帰ろうな」

長門「うん」

ハルヒ「……」

キョン「なぁ、やることないなら、俺と長門で先に帰っていいか?」

ハルヒ「んん……」

キョン「有希、帰ろう」

長門「うん」


ガチャッ

キョン「じゃぁな、お疲れ」

朝比奈「お疲れ〜・・・」


バタン


ハルヒ「……」 カチカチ


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:55:14.16 ID:5sWIOb070


古泉「…涼宮さん」

ハルヒ「……」


古泉「涼宮さん?」

ハルヒ「……」 バキッ

古泉「ひぃ!すみません!なんでもないえす!」


ハルヒ「古泉君?」

古泉「な、なんでしょうかねぇ!?」


ハルヒ「……」

古泉「……」


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 20:56:39.81 ID:5sWIOb070


ハルヒ「古泉君……」

古泉「はぃ」

ハルヒ「ちょっと『ハルヒ』って言ってみてくれる?」

古泉「はっ…?」

ハルヒ「いいから」

古泉「…ハ、ハルヒ」

ハルヒ「わかった…もういい……」

古泉「は、はぁ……」


ハルヒ (キョンに最後に『ハルヒ』って呼んでもらえたの、いつだったかな……)


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:10:03.28 ID:5sWIOb070

――――――――――
――――


キョン「よう、元気か?」

ハルヒ「……」

キョン「なんだ、今日は具合でも悪いのか」

ハルヒ「別に…」

キョン「お前、最近元気ないよな」

ハルヒ「……」

キョン「おい」

ハルヒ「……」


キョン「…ハルヒ?」

ハルヒ「え?何?」

キョン「いや…なんでも…」

ハルヒ「……」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:23:13.57 ID:5sWIOb070

――――――――――
――――


キョン「さて!やっと昼休みか!」

ハルヒ「……」


キョン「よし!」

タッタッタ




ハルヒ「……マヌケ面」


トボトボ



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:26:09.93 ID:5sWIOb070


ハルヒ (古泉君のクラスは……ここね……)

ガラガラッ

古泉『はは、いえいえそんなことは…』

ハルヒ「古泉君!」

古泉「ブホッ」

(あれ誰…?) ザワザワ

(5組の涼宮でしょ……)

(あぁアレが……いっちゃんも大変ね……)

古泉「…ちょっと失礼」

スタスタ

ハルヒ「……」

古泉「なんでしょうか」

ハルヒ「ちょっと屋上に来なさい!」

古泉「えぇ!?」

ハルヒ「いいから」 グッ

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:39:49.40 ID:5sWIOb070


ハルヒ「……」

古泉「あ、あの…す、すみませんでした!」

ハルヒ「えっ?なんのこと?」

古泉「い、いえ、とりあえず謝っておこうと…」

ハルヒ「このあいだはゴメンね」

古泉「な、なんのことでしょう」

ハルヒ「殴りつけたりなんかして」

古泉「いえ…気にしてませんから」


ハルヒ「……図星だったのよ」

古泉「……」

ハルヒ「それで……」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:44:50.15 ID:5sWIOb070


ハルヒ「それで……その御詫びって言っちゃ…なんだけど…」

古泉「いえいえお気になさらず、僕も無遠慮な事を…」


ハルヒ「お弁当作ってきたの、食べて」

古泉「えっ……?」

ハルヒ「ううん、一緒に食べて欲しい……かな…」

古泉「……」

ハルヒ「ちゃんとシートも持って来たから、ここで…」

古泉「……」

ハルヒ「あの……」


古泉「……いいですよ、ぜひ」

ハルヒ「うん」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:54:25.83 ID:5sWIOb070


ハルヒ「……おいしい?」

古泉「……ええ」

ハルヒ「そう……よかった」

古泉「あの…」

ハルヒ「なに?」

古泉「余計なこととは思いますが…」

ハルヒ「うん」

古泉「これは彼のために…」

ハルヒ「……」

古泉「い、いえ!御気になさらず!独り言ですから!」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 21:59:58.90 ID:5sWIOb070


ハルヒ「……」

古泉「…あの?」

ハルヒ「ねぇ…あの木陰に居るの……」

古泉「……」

ハルヒ「……」

古泉「彼と長門さんですね」

ハルヒ「楽しそうね」

古泉「いえ、いつもの二人ですよ」

ハルヒ「そうかな…」

古泉「ええ、はい」


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:04:39.56 ID:5sWIOb070


古泉「やはり…これは彼を思って……」

ハルヒ「彼って?」

古泉「長門さんと一緒にご飯を食べている彼ですよ」

ハルヒ「彼?」

古泉「えぇ……あぁ……ええ…キョン君ですよ」

ハルヒ「…あっはは、”キョン君”だって、おっかしいわよ」

古泉「すみませんね!」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:11:39.23 ID:5sWIOb070


ハルヒ「クス……」

古泉「……」

ハルヒ「バカよねあたし…いつかは……渡そうって思って…毎日練習して……」

古泉「そうでしたか…」


ハルヒ「実は二人分作ったのは今日が初めてなのよ…」

古泉「……」

ハルヒ「作ろうとして、自分でなんか恥ずかしくなっちゃうから…」

古泉「……」


ハルヒ「でも今日はなんで作る気になったかというと……」

古泉「……」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:19:32.34 ID:5sWIOb070


ハルヒ「…幸せそうね…あの二人…」

古泉「そんなこと……涼宮さんは…」

ハルヒ「ううん、いいのよ……二人が幸せならそれで……」

古泉「しかし…」


ハルヒ「こんなの一時の気の迷いなのよ……ほんとにそう……」

古泉「……」

ハルヒ「だから…」

古泉「……」

ハルヒ「だから……よかったのよ、これでね!」


威勢の良い言葉とは裏腹に、涼宮さんの顔はどこか曇っている。


彼らがキスを交わしていた。



ハルヒ「さ、食べて食べて!」


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:30:14.61 ID:5sWIOb070

――――――――――
――――


バン!

ハルヒ「みんなおまたせー!」

古泉「どうも」

ハルヒ「あれ?古泉君だけ?」

古泉「ええ、まぁ」

ハルヒ「そう……最近みんなだらしないわね……」

古泉「そのうち来ますよ」


ハルヒ「そうかな……」

古泉「はい?」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:32:09.35 ID:5sWIOb070


ハルヒ「なんか……このまま誰も来なくなるような…そんな気がする」

古泉「そんなわけないですよ、大丈夫です」

ハルヒ「ふふ…」

古泉「はい?」

ハルヒ「古泉君っていつもあたしの機嫌うかがってるわよね」

古泉「い、いえ……まぁそれは……つまり……」


ハルヒ「クスッ…」

古泉「…そんなつもりは無いというか……ええ…まぁ……」


ハルヒ「あたしのこと好きなの?」

古泉「それはどうでしょう……ね…」

ハルヒ「ふーん……」

スタスタ

ハルヒ「……」
古泉「……あの」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:38:00.18 ID:5sWIOb070


ハルヒ「あたしは嫌いじゃないかな…」 スッ…


そういって僕に抱きついた涼宮さんは、とても小さく思えた

僕との身長差を考えれば、至極当然の高さ関係なのだけれど


前までは意気揚々とした涼宮さんの意欲と気力オーラが

僕との身長差を感じさせないほどの存在感を生んでいただけ


ハルヒ「ごめん……なんか…あたしダメになっちゃったみたい…」

古泉「今日はお休みになった方が」

ハルヒ「それは……」


ハルヒ「……そうね、誰も来ないし」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:45:34.96 ID:5sWIOb070


ハルヒ「ペン貸してくれる?」

古泉「はい」

サラサラ

『今日は休み!』


ハルヒ「んじゃこれドアに貼り付けとくから」

スタスタ…

古泉「あの、鞄」

ハルヒ「……」

ガチャン

バタン


スリガラス越しに涼宮さんが貼り付けているのが見える

僕は窓が閉まっているのを確認し、電気を消して、
鍵掛けから部屋の鍵を取った


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:49:15.45 ID:5sWIOb070


ガチャ

古泉「あぁ涼宮さん、これを」

ハルヒ「……」

バタン……カチャン


古泉「えぇ?」

ハルヒ「……」

古泉「あの…帰るのでは…」

ハルヒ「……」 ギュウ

古泉「涼宮さ――」

ハルヒ「んっ」

古泉「!……」

ドサッ


鞄が床に落ちた音がした


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 22:58:06.94 ID:5sWIOb070


ハルヒ「んん……」

古泉「ふ……」


ハルヒ「お願い……古泉君……」

古泉「何を……」


ハルヒ「そこの机でいいから……」

古泉「いえ…それは…」


ドサッ!

古泉「っ……」

ハルヒ「ごめん…」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 23:06:55.44 ID:5sWIOb070


古泉「涼宮さん……」

ハルヒ「ハルヒって呼んで……あたしもイツキって呼ぶ……呼ぶから……お願い…」

古泉「僕には……」

ハルヒ「……」


古泉「僕には彼の代わりは無理ですよ…」

ハルヒ「代わりじゃない!」

古泉「……」


ハルヒ「代わりじゃ………ない………」


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 23:10:06.30 ID:5sWIOb070


僕らは体を交わした

涼宮さんはずっと泣いていて

後ろめたさと罪悪感を伴ったが


涼宮さんの綺麗な身体と、美しい顔立ちに

僕はそれらの感情から目を背けることができた


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 23:24:52.61 ID:5sWIOb070


ハルヒ「今日はあたしに付き合ってくれてありがと」

古泉「ええ……」

ハルヒ「今日はこれで」

古泉「ええ……」

ハルヒ「先に帰ってていいわよ?」


古泉「え?いや、一緒に」

ハルヒ「いいの……先に帰ってて」

古泉「はぁ」

ハルヒ「一人になりたい時もあるのよ」

古泉「それはそうですけど」


ハルヒ「ほら、行った行った!」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 23:33:20.69 ID:5sWIOb070


ガチャ

古泉「では、お先に」

ハルヒ「うん」

古泉「……」

ハルヒ「ありがと……みんなにもそう言っといて」

古泉「え、はい……?」


ハルヒ「じゃあね………古泉君。」


古泉「えっ……?」

バタン

古泉「な……」


カチャン


鍵の閉まる音がした


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/08(火) 23:45:45.03 ID:5sWIOb070


古泉「っ……開けてください!!!」

ドンドン!!

古泉「開け――」


嫌な感じがした僕は、とっさにハサミを取り出し、気づいたときには
ハサミの先をドアの窓ガラスに、殴りつけるように叩きつけていた

パン!!

割れたガラスの向こうに、団長机に座った、涼宮さんの驚いた表情が見えた

僕は手を突っ込み、急いで鍵を開ける


古泉「何やってるんですか!」

涼宮さんの手首から血が流れていた


ハルヒ「もう…いいのよ……」

古泉「……」

ハルヒ「もう……いい……」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 00:01:22.42 ID:5sWIOb070


ハルヒ「何やってんだろあたし……」

古泉「涼宮さん…」


ハルヒ「やっぱりあなたは……ハルヒって呼んでくれないのね」

古泉「あ…いえ…しかし…そんなことより……いくらなんでもこんな……」


ハルヒ「いいの、どうせ人はいつか死ぬのよ……それなら……ここでいい……」

古泉「……」

ハルヒ「生まれて初めて……心の底から楽しいって思えたSOS団……その部室で…」


古泉「駄目です!なんで…こんな所で……ひとり死ななきゃいけないんですか!」

ハルヒ「ありがと……でもね…」


ハルヒ「……ここで止めたとしても……自分の部屋で、死ぬだけよ」

古泉「……」

ハルヒ「それならここで………ここで死なせて……お願い…
     これがあたしの………最後のわがまま……………」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 00:10:24.91 ID:TE3yIvzN0


手首の切り傷が固まり始めていた

人は自分ではなかなか死ねない


ハルヒ「じゃあね……もう出てって。見せたくない……見たくないでしょ…?」

古泉「……」


でも僕は動かない


古泉「こんなところで人知れず死ぬなんて寂しすぎます……」

ハルヒ「いいのよ……人は…みんな死ぬときはひとりなんだから……」


古泉「そんなわけない…そんなことはない……!」


ハルヒ「それなら……」




ハルヒ「あなたが殺してくれるの……?」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 00:13:34.49 ID:TE3yIvzN0


その現実感の無い言葉に、僕は押し黙った

涼宮さんは諦めたように、憂いの表情を浮かべ
顎を上へ向け、ナイフを自分の首元に当てた

涙がこぼれて頬を伝った
口は開いていて、笑っているようにも見えた

古泉「っ……」


僕は走り寄ってナイフを取り上げ

涼宮さんの背中に回り

首にナイフを当てて………構えた


ハルヒ「うぅ……ありがとう…古泉くん……」

そういって振り向いた彼女

僕は体を乗り出し、彼女に口付けをして

それから


僕は一気にナイフをひいた


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 00:14:51.32 ID:TE3yIvzN0


僕のナイフを持つ腕を

震える手がそっと握りしめていた



ナイフを引き抜く

優しく握っていた手が

床に向かってすべり落ちていった


僕はナイフを床に放り捨て

彼女の体をしっかりと抱き寄せた


暖かく、柔らかい彼女の体



せめて僕だけは

こうして見守っているから

孤独に死ぬことはないのだと


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 00:16:31.40 ID:TE3yIvzN0


でも彼女は死なない
そんな気がする

これは超能力者としてではなく
人間として

まるで休んでいるかのように
目を閉じて座っている彼女を見て

きっとどこか新しい世界で
僕の思う彼女がそこに居て
安息の日々を送っていくのだと


そう願わずに居られない
ただそれだけだ


世界の終わりを感じた僕は

そっと目を閉じた



おわり


79 名前: ◆MrVMitHawk [] 投稿日:2010/06/09(水) 00:18:30.25 ID:TE3yIvzN0


バッドエンドも書いてみようかなと
次は似たようなノリでハッピーエンドにするよ

本当にありがとう
次回作にご期待くださいw

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 01:54:06.27 ID:TE3yIvzN0

と言われても…
夢落ちにでもするのか

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 03:51:56.30 ID:TE3yIvzN0


俺は図書室に居た

勉強熱心だろ?流石の俺も、このままじゃ留年しかねないからな


…なんてな

本当のところは有希、がどうしても行きたいと言って聞かなかったからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――


長門「……」 クイクイ

キョン「おっ?珍しいな、部室に行く途中でお前に会うなんて」

長門「図書室」

キョン「行きたいのか?」

長門「……」 コク


こいつから何か頼むことなんて滅多に無いからな
快く、いや、本当に喜ばしいことと言えよう。


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 04:12:41.87 ID:TE3yIvzN0


キョン「よし、いいぞ、すぐにでもレッツゴーだ」


キョン「…っと、一旦部室に寄ったほうがいいか」

長門「……」

キョン「あいつうるさいしな」 カキカキ

長門「……」 ジッ…


しかし部室に行ってまた図書室に向かうのも馬鹿らしい


キョン「まあでも、いつ来るかもわからんやつだ」


キョン「どうせすることもないだろうしな」

長門「……」

キョン「あとでメールでもすりゃいいか」


キョン「よしよし有希……いくぞ?」 タッタッ

長門「……」 トテトテ


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 04:27:33.89 ID:TE3yIvzN0


図書館に着くと、夢遊病のように徘徊する有希を見て、本当に好きなんだなと思う。
いま俺が誰かに襲われても、頼りになりそうもない。

まぁそんなことで死ぬのなら、俺は快く受け入れよう。
なに?……馬鹿とでも何とでも言ってくれればいいさ。


さて、俺はというと、さして読みたい本があるわけでもなく、
手にとるものと言えば、昔読んだ記憶が有るような無いような、懐かしい絵本だったり、
学習漫画とは名ばかりの本を、俺でも間違いだと指摘できる個所を探しては
一人で悦に入ってるぐらいだ。

かといって勉強しなくてもいいほど成績が良いわけではないのだが、

「よくわかる」とか、「図解なんとか」などという本を手にとっては、





いつの間にか寝てしまっていた。



……何かを忘れて。


それは俺にとって本当に大切だった――――


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 04:38:47.90 ID:TE3yIvzN0

―――――――――
―――

今日は長門…いや、有希と昼飯を食べる約束をしている。俺は高ぶる胸を抑えつつ、
…というより平常心が保てず、トイレに行ったりしてしまった。何やってんだ…

急いで有希の教室へ向かう

キョン「ええと…?」

長門「……」 クイ

キョン「おぅ、有希、すまん、待たせちまって」

長門「待っていた」

キョン「そうか、今日はありがとよ」

長門「うん」

キョン「教室はあれだし、中庭にでも行くか」

長門「行く行く」

キョン「あーそういう時は『えぇ、そうしましょ』かな」

長門「ええ そうしましょ」

キョン「あと『待っていた』じゃなくて、遅いなら『遅い』って正直に言っても――――


99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 04:45:18.48 ID:TE3yIvzN0


キョン「おっ、今日は凝ってるな」

長門「うん」

キョン「じゃ、いただきます!」

長門「……」 ジッ…


キョン「んん、おいしぃ」

長門「良かった」

キョン「ふっ…そんな心配しなくても、美味しいに決まってるって」 ポンポン

長門「そう」



(……大切な、何か)


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 04:59:23.95 ID:TE3yIvzN0


キョン「そういう時はな、『そんなことないよ』とか言って謙遜するとかさ」

長門「そう」

キョン「まぁ…言い過ぎると逆にくどくなるからな…」

長門「そう」

キョン「嫌味になったりすることもあるし、難しいよな」

長門「難しい」

キョン「ん、なんか実体験でもあるのか」

長門「結構」

キョン「そうか、有希にも――――」




(……人には何かしら大切なもんがある、と思う)


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 05:08:58.11 ID:TE3yIvzN0



長門「本は色々なことを教えてくれる」

キョン「そうか、あんまり字ばっかりのは読む気しないんだ」


長門「私には経験情報が、余りにも少ない」

キョン「そういや、お前がここに来たのって3年……いや、4年前か…」

長門「例えるなら、本はゲームの攻略本のようなもの」

キョン「ゲーム?」

長門「それが人生に値する」

キョン「よくわからんな」


長門「著者は自分の人生を通して感じたり思ったことを書いている」

キョン「まぁ、経験してないことは書けないだろうしな」



(……大切なもの…俺にも少なからずある)


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 05:15:22.79 ID:TE3yIvzN0


長門「あの時ああしてればよかった、こうすればうまくいったのに、
    そういうことも著者によって込められている」

キョン「ん?つまり、ゲームの攻略本を読めば、ゲームがスムーズに進行するのと…」

有希は本を持ち上げて

長門「それと同じ。本を読むことで、生きる上で重要な事前情報を得ることができる」

キョン「俺はゲームで余計な回り道はしない派だけどな」

長門「回り道もいい」

キョン「……」


長門「回り道をするにも…先人の知恵が役に立つことがある」


キョン「確かにな、昔の人間が一度失敗したことをまた何度も俺らが失敗することはないよな」

長門「そう」


(……大切なものは人それぞれ違う)

(金だったり物だったり………人だったり)


106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 05:29:00.96 ID:TE3yIvzN0


長門「知識だけでは、わからないこともある」

キョン「なんだ、俺にわかることなら」

長門「キスをしてみたい」

キョン「ッ!…ゲホッ…ゲホッ」

長門「そう」

キョン「そう、じゃなくて『大丈夫?』だ!」

長門「大丈夫」

キョン「あぁ……しかしな、まぁ…したいっていうならしてもいい…というかだな…」

長門「……」

キョン「どうせ頼むのなら『キス…して?』ぐらい恥ずかしがるように言って欲しいぜ…」

長門「キス、して」

……弁当を作ってもらうという行為は……少し強引だったが
コイツをより人として、何より”一人の女の子”としての魅力をアップさせたように思う。

親馬鹿?言ってろ……

(……大切なものって)


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 05:44:44.30 ID:TE3yIvzN0

――――――――――
―――


(起きて……)

(起き……)

キョン「んん…」


キョン「あぁ……?」

長門「……」

キョン「あぁ…有希か…たまには本でもと、読んでたら眠くなっちまった」

長門「そう」

キョン「はは…そういう時は『珍しいね、本なんて』…っとまぁ
            嫌味の一つを言っても、ばちはあたらんぞ?」

長門「部室」

キョン「えぇ?もういいのか?」

長門「戻った方がいい」

キョン「?」


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 06:17:07.68 ID:TE3yIvzN0


キョン「あぁ…まいったな……あいつにメールしとくのスッカリ忘れてた……」

キョン「こりゃ大量の着信記録が……」


長門「……」

キョン「……来て…ない…」


キョン「まさかマジで怒ってカンカンとか……まさか…な…」

長門「戻った方がいい」

キョン「え?あぁ、それ借りるんだろ?受付で……」

長門「いいから」


キョン「なんだよ……あいつに電話ぐらいするしさ」

長門「早く」


有希に急かされる俺は、部室に向かいながら電話をかける


キョン「呼び出し音鳴ってんのにな…こりゃ…マズい…な……」


111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 06:42:59.66 ID:TE3yIvzN0


キョン「有希……急ぐぞ」

長門「……」


猛然とダッシュした。今さら慌てたってどうにもならんと思うが。

しかし、尋常じゃない状況であることは確かだ。

ハルヒのことを一番よく知っているのは……


……俺だ。何だかんだ言って、古泉の野郎がどんな精神分析をしたところで、

俺には単なる戯言にしか聞こえない。専門家って奴が一番信用ならないのさ。



などとボヤきつつ、何とか平静を保ちながら


部室のドアに差し掛かったところで俺は、




愕然となった

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 18:28:47.99 ID:TE3yIvzN0


部室のドア窓が割られているのが目に入った。

ちょっとぶつかってしまったとか、そんな程度じゃない。
もっと意図的な、人為的なもんを感じた。

何より、俺が愕然と立ちすくんだ理由は、
ムッとした異様な空気を感じた気がしたからに他ならない。


キョン「ぃ……なんだ……これ………」

長門「……」 ガチャ

キョン「お、おい……」

戸惑う俺を無視するかのように、
長門が滑り込むように部室の中に入る

俺も長門に続いて中に入ったところで


無残な光景が俺の目に叩き付けられた。


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 18:35:58.29 ID:TE3yIvzN0


言葉にするのも躊躇われた


俺の血の気はとうに引いていて、呼吸は荒く

目の前はチカチカと緑っぽくなって


それと思しき臭いを感じるや

強烈な吐き気が襲ってきて


意識は朦朧としはじめた


148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 18:37:05.14 ID:TE3yIvzN0


キョン「ハ……ハル………」

ハルヒは……団長机……の椅子…に座ったまま……俯いていて

腕は生命感なく……だらりと垂れ下がって……

制服が…血まみ…れ……で………


キョン「……ハルヒ…?」


微動だにしない



長門がハルヒの首を押さえ込んでいた


長門「あなたは救急車を呼んで」

キョン「ぁ…ぁぁ…」

長門「急いで」


150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 19:04:41.45 ID:TE3yIvzN0

―――――――――
―――


結果から言って


長門の懸命な止血と心肺蘇生で、奇跡的にハルヒは一命を取り止めた。

今日ほど医者に、長門に感謝することも無いだろ。


病院に運ばれたとき、とっくに致死量を越える出血をしていたらしい。

そのことで長門に聞いても、何も特別なことはしていない、としか答えなかった。


出血の殆どは首からで、腕に切り傷、

体液が付着していたとかで、膣内洗浄……


あの部室で何があったのか、俺は考えたくも無かった。

何があったか知りたかったとしても、

当のハルヒ本人の意識が、まだ戻っていないのだ。


154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 19:25:47.98 ID:TE3yIvzN0


SOS団は皆バラバラになっていた。


朝比奈さんはドアの前に張られていた休部の文字を見て、すぐ帰ったそうだ。

今は自宅で寝込んでいるらしい。自分の責任だと、思っているのかもしれない。


古泉はあの時……呆然と座り込んでいて、抜け殻のようになっていた。

何か知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。

意識はあるみたいだが、重度の急性ストレス障害と診断され、今も治療中だ。



長門とは……

なぜか距離を置いている。置かれていると言った方が良いかもしれん。

俺が話し掛けても殆ど返事をしないからな。俺を避けているような気もする。

やはりあいつも、ショックを受けたりしたのだろうか。


そんなわけで1週間、ハルヒの傍に俺はずっと一人で居た。


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 19:40:08.72 ID:TE3yIvzN0


しかしいつまでも学校を休んでいられるはずもなかった。

俺はまた、延々と続く坂道を登り続けている。


以前の俺なら、例え山頂まで苦労して上げた岩が

底にめがけて転がってしまうような事があったとしても、

また何かに押されるようにして、登り続ける自信があった。


……


今日は学校へと続くいつもの坂道が、

とてもくだらないもののように感じた。



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 19:51:06.12 ID:TE3yIvzN0


友人やクラスメイトは、驚くほど自然に接してくれた。

事情を良く知らないだけなのかもしれないが。


だが……それが俺をどこか虚しい気分にさせる。


俺が悲しいと感じたり、辛いと感じることは、

所詮人にとっては文字通り他人事で、

どうでもいいことなんだと。


そんなこと、当り前なのかもしれないが。






俺は孤独を感じていた。死にたいとさえ思った。

その原因は考えるまでも無かった。


考えるまでも無いと、その時はそう思っていた。


158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 19:58:52.55 ID:TE3yIvzN0




雨の日も、風の日も、

俺はハルヒの病室を訪れた。


ハルヒが目を覚ますのを

ずっと待ち続けた。


もう二度と目を覚まさないかもしれない

そう思うと、声を上げて泣いたこともあった。


ずっと前に、俺はハルヒと立場が逆だったことがある。

あの時ハルヒは……



どんな気持ちで……


俺のそばに……居たのかな……



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 20:22:27.61 ID:TE3yIvzN0

―――――――――
―――


1ヶ月も過ぎただろうか、未だ相変わらずSOS団はバラバラだ
俺は1人、本を読んでいる

ハルヒの居る、病室で


急に本なんて読む気になったのは、暇だったから
今のところそれが一番しっくりくる理由だ


キョン「面会時間もそろそろ終わりか……」



俺はいつものようにハルヒの手に触れ、声をかけた


キョン「じゃあな、ハルヒ…また明日……」




……


160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 20:33:37.11 ID:TE3yIvzN0


っ……


何かが手を引っ張ったような気がして一瞬ぞっとする。



ふと手元を見ると



ハルヒが俺の腕を


しっかりと握りしめていた


164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 21:00:03.18 ID:TE3yIvzN0


キョン「っ…ハルヒ!」

キョン「……?」


キョン「おい!ハルヒ!」


ゆっくりと目が開いた


ハルヒ「……ここどこ?……あの世にしては…やけに無粋ね…」

キョン「ハルヒ……!ハルヒ……!」


ハルヒ「キ、キョン……!」

キョン「ハルヒ……俺は……」


ハルヒ「……」


ハルヒ「………お母さんは?」

キョン「えぇ…あぁ…なんか手続き…とかで…すぐ戻ってくると思うが……」


165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 21:00:40.14 ID:TE3yIvzN0


噂をすればなんとやらで、すぐにハルヒの母が登場し、

泣きながらの対面。


それを見て俺は急に冷静になってしまった。

喉元過ぎればなんとやら……か



いいや、違う……

ハルヒが………どこか素っ気無い反応だったことに

俺は困惑していたんだ。



面会時間はとっくに過ぎてしまっていたので、

ハルヒが安静であることを十分に得心したあと、

別れの挨拶もそこそこに、俺は帰宅することにした。


167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 21:15:28.56 ID:TE3yIvzN0


釈然としなかった。


ハルヒの意識が戻れば、それで俺の心は安息で満たされるはずで、

こちらが何をせずとも、心も体も、転がり続けるはずだった。


俺がたとえ無気力、無感情、無関心だったとしても、あいつに対して口を開けば、

いつの間にか、心地いいとも呼べる言葉のやり取りをせざるを得なくなる。


どんな障害や妨害にぶち当たっても苦にもせず、平然とそこに居て、

何十億年も休み無く、ありとあらゆるものにエネルギーを注ぎ続ける太陽のように、

あいつと一緒に居るだけで、運命まで自分の道に転がり込ませるような奴


……だった。



ハルヒとの会話は

どこかぎこちなかった。


169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 21:33:59.01 ID:TE3yIvzN0


俺はため息をついた。
病院の外に出ると、なぜか長門が突っ立っていた


キョン「有希か?何をこんなとこで……っそれよりハルヒの意識が……!」

長門「知っている」

キョン「有希、今からでもあいつに会いに行くぞ、……なんか俺じゃ駄目みたいで」

長門「呼ばないで」

キョン「え?」

長門「私のことを有希と……もう呼ばないほうがいい」

キョン「別に名前で呼ぶくらい……」

長門「そうではない」


171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 21:49:54.57 ID:TE3yIvzN0


長門「あなたにはもっと大切なものがあるはず」

キョン「……?」

長門「そう、感じた」

キョン「お前はそれでいいのかよ……!」

長門「優先順位」

キョン「なに……」

長門「守った方がいい」

キョン「……」


長門「あなたと仲良くするのは」

キョン「……」

長門「それからでも……遅くないから…」

キョン「それは……」


俺の言葉も半ば、
長門は俺に背を向け、去っていった。


174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 22:05:04.45 ID:TE3yIvzN0


その夜、俺は少しも寝付けなかった。

ハルヒの態度。

長門の言葉。



もうSOS団は前のようには戻れないような気がした。


ハルヒが起きさえすれば、SOS団はまた元通りになり、

面倒でもあり楽しかった日々がまた始まるのだと、勝手にそう期待していた。

だが、実際には、俺の孤独感はいっそう大きいものになっていた。




ずっとこのままなら

もういっそ



死んだ方がいい―――――


175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 22:18:08.67 ID:TE3yIvzN0




……ああ、そうか

あの時、不意に疑問に思って、

考えていてもわからなかった、俺にとって一番大切なもの、


いや


人にとって最も大切なのは、金でも、物でも……人でもない、

例えそれが物や人であったとしても、それは大切なものの、本質じゃない。


一番大切なものとは、つまり……それを失ったら、

こうして……生きている意味さえ……失ってしまうような物。

それは


177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 22:29:03.14 ID:TE3yIvzN0


本当は…ハルヒの目覚めを待ち続けている時から……答えは出ていた。


あの日の朝、ハルヒに元気がなかったのも、

今日、目を覚ましたハルヒが俺を見て、どこか寂しげだったのも


『居場所』を失っていたから


ハルヒにとっての"それ"は、俺にとっての"それ"と多分同じで、

俺にとってそれは、ハルヒが居ないと意味をなさない。それなら逆に、

ハルヒにとってそれは……………



ハルヒの目覚めを待ち続けた時の俺の思いを、

ずっと以前にハルヒはしていた。


その後ハルヒがどんな気持ちで毎日俺と過ごしていたのかを想像し、

俺は言葉を失った


179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 22:46:08.80 ID:TE3yIvzN0


あの部室で一体何があったのか、今まで考えることすら避けていた。

避けていたのは、考えてもわからない事だからじゃない。


人が避けようとするのは、危険だとわかっているから、

受け入れられないこと、嫌なことから目をつぶりたいから。逃げ出したいから。


だが鬼ごっこはもうやめだ。ハルヒが起きたのだから。

ハルヒから逃げ続けるのは無理だ。


受け入れるということは、胸をえぐるような苦しみと

胸が締め付けられるような悲しみを伴うが


このまま逃げ続けたらどうなるのか……それこそ考えたくない。

逃げれば逃げるほど、時間が経てば経つほど、壁を乗り越えるのは困難になる。

そしていつか乗り越えられなくなる。


ハルヒより恐い鬼なんか、居るんだろうか。


182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 23:15:38.76 ID:TE3yIvzN0

―――――――――
―――


キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「んぅ……」

キョン「起きろ」

ハルヒ「ぅ……」


目覚めたハルヒと目が合った


ハルヒ「!……あんた……」


キョン「夜分にすまんな」

ハルヒ「何考えてんのよ……」


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 23:39:10.19 ID:TE3yIvzN0


ハルヒ「どうやって入ったのよ……」

キョン「まぁ……色々とな……」


ハルヒ「……からかいにでも来たの」

キョン「何を」

ハルヒ「目の前の不運な女を」

キョン「……」


ハルヒ「あんた…もう知ってるんでしょ?……あたしが倒れていた理由」

キョン「どうだかな……」

ハルヒ「ぇ…?…え……あ、あぇ……」

キョン「いやいや、今話す事でもないさ」

ハルヒ「……」


187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/09(水) 23:53:30.58 ID:TE3yIvzN0


ハルヒ「古泉君は……」

キョン「古泉なら入院してる」

ハルヒ「入…院…?」

キョン「精神的なことでな、まだ一言も話せない状態らしくて。
意識はあるみたいだし、まぁ……とりあえず無事って事で……」

ハルヒ「……」

ハルヒの顔色から、俺の推測は正しいのだと確信した。
古泉は最初から最後まで居たんだ、それで……

パサッ


キョン「お、おい、何してる」

ハルヒ「行くのよ!」

キョン「どこに?」

ハルヒ「古泉君のとこ!」

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 00:12:36.60 ID:jPrkT7IS0


キョン「今から?」

ハルヒ「そう、今から!」

キョン「別に明日でも……こんな時間に会わせてくれるとは思えんぞ…」

ハルヒ「あたし……古泉君に謝らなきゃ……!」

キョン「謝るって…」

ハルヒ「………」


キョン「まあ、落ち着けよハルヒ、いま会っても、余計に混乱するだけだと思うぞ」

ハルヒ「やっぱり知ってるんだ」

キョン「なにがだ」

ハルヒ「あたしが……あたし達が何をしていたのか……」

キョン「さあな、お前にも古泉にも、何も聞けなかったしな」

ハルヒ「……」


189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 00:29:14.37 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「あんなことしなきゃ良かった……」

キョン「……」

ハルヒ「馬鹿よねあたし……自分で…心も…体もズタズタにして…」

キョン「……」

ハルヒ「人として……どこか欠けてたのよ」

キョン「……」

ハルヒ「……中学の頃はずっと一人で居たから」

キョン「……」

ハルヒ「…あんたに出会ってから……急にあたしの中で何かが変わって…」


ハルヒ「それで突っ走って誤魔化して……」



ハルヒ「……」



ハルヒ「あんたなんかに……出会わなければ……良かった……」


193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 01:06:14.15 ID:jPrkT7IS0


キョン「俺は……!」

ハルヒ「……」

キョン「お前に出会えて良かったと……そう思ってるよ…」

ハルヒ「……」

キョン「俺はお前が人として欠けてる奴だとは思わん。
     むしろよくできた人間だと、人の2倍も3倍も持ち合わせてる奴だって」

キョン「お前が欠けてるというなら、俺なんてひび割れだらけだ、まあ実際そうだ」

ハルヒ「……」



キョン「お前はずっと突っ走り続けられる奴だ」

ハルヒ「どうせ猪突猛進するしか能の無い女よ」


キョン「何も気にしないし、何でもかんでも馬鹿正直に生きてるんだって」

ハルヒ「悪かったわね…」


194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 01:10:44.82 ID:jPrkT7IS0


キョン「…そんなことができる奴なんて……いやしない……!」

ハルヒ「え……」

キョン「…お前は苦しんでたのに……俺はただお前に甘えてただけだ…」

ハルヒ「そんなこと……」


キョン「人として欠けてんのは……俺のほうさ……今まで悪かった…」

ハルヒ「……」


キョン「俺が言いたかったのは……そんなとこさ……」 スック

ハルヒ「待って……!」


キョン「……また明日」




ハルヒ「ぁ……」


カチャン

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 01:50:14.05 ID:jPrkT7IS0


かといって何か具体的なことができる俺ではないのだが。

それからも俺はハルヒの病室に通い詰めた。
あの事件の事には一切触れず、とにかく他愛の無い話をした。


そして俺はついに………長門を連れて行くことに決めた。


キョン「よう」

ハルヒ「有希……」

長門「……」

ハルヒ「元気だった……?」

長門「……」

キョン「ほら長門、なんか言ったらどうだ」

長門「……」

キョン「ふぅ……まぁ元気だよ、いつも通りさ」

ハルヒ「……あんた達……何かあったの?」

キョン「なにがだ」


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 02:10:04.26 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「だってあんた名前で呼んでたじゃない…」

キョン「別に喧嘩したわけじゃない、友達で居ようってことになっただけさ」

ハルヒ「え……」

キョン「…なぁ長門」

長門「そう」


キョン「まぁなんだ、つまり……振られたって言うか」

ハルヒ「……」


キョン「お前が昏睡してるっていうのに、何やってんだろうな、」

ハルヒ「……」

キョン「ははは」


ハルヒ「……」


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 02:39:10.75 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「……」

キョン「ハルヒ?」

ハルヒ「……」

キョン「いや、お前が気にすることないんだ」

ハルヒ「……あたしもうすぐ退院できるみたいだから」

キョン「おお、そうか、おめでとう、かな」

ハルヒ「ありがと」

キョン「なんか昏睡してたのが嘘みたいだな」

ハルヒ「あたしには全然自覚が無いから本当に嘘みたいな話よ」

キョン「はは」


「嘘だったらいいのに……」

ハルヒがそう呟いたような気がしたが
俺は聞こえていないふりをした。

そして数日後、ハルヒは退院した。
……今日は、退院後初めての登校日。


204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 02:59:35.76 ID:jPrkT7IS0

―――――――――
―――


キョン「よう、元気か?」

ハルヒ「ん」


キョン「昨日は良く寝れたか?」

ハルヒ「なによそれ」

キョン「俺は寝れなかったけどな」

ハルヒ「ふーん……」


キョン「お前が学校に復帰するんだと思うと、楽しみでさ」

ハルヒ「えへぇ?」

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 18:10:20.20 ID:jPrkT7IS0


キョン「本心だぞ」

ハルヒはふんぞり返って腕を組み

ハルヒ「ふん。まぁ一応ありがとう、と言っておくわね。
     寝れなかったなんてのはさすがに気持ち悪いからアレだけど」

言ってろ、まあさすがに寝れなかったなんてのは少し脚色も含むが、
良く寝れなかったのは確かさ。


ハルヒ「有希とは仲良くやれてる?」

キョン「ああ、いつも通りさ」

ハルヒ「ふーん、でもあんたも変わった女が好きだったのね」

キョン「……」

ハルヒ「なによ?」

キョン「いいや」



ハルヒ「……振られて……ショックだった?」


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 18:33:20.89 ID:jPrkT7IS0


キョン「まぁな、だがあの時はお前のことの方が気になってたからな。
     死にたい気分にはなったが、それだけが要因ってわけじゃないし。
     冷静なのも、そんなこんなで未だに事実を実感できてないってのがあってだな」

ハルヒ「そっか、まぁあんたが失恋や恋わずらいで落ち込んでる姿ほど、見ていて
     間抜けな光景ったらないものね。そんな羽目にならなくて本当良かったわ」

キョン「失礼だな、俺だって影で落ち込むことぐらいするんだ」

ハルヒ「なっさけない」

キョン「男なんてみんなそうじゃないか、音楽でも聴いて、
     一人悲しみにふけったり、浸ったりしてるのさ」

ハルヒ「それってつまり、悲しんでる自分に酔ってるんでしょ」

キョン「……違いない」

ハルヒ「まぁあんたのそんな姿は見たくないけど、もしそうなることがあったら
     あたしも一晩くらいなら、ヤケ酒に付き合ってもいいわよ?」

キョン「おいおい、まだ高校生だ」


ホームルームが始まった。

2ヶ月ぶりとなるハルヒの登校に、担任教師も簡単な祝意の言葉を言わざるを得ず、
とはいえハルヒも最近は割りと常識的な行動を取るようにはなっていたので、
少なからずクラスメイトにも好意と祝福をもって迎えられていた。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 18:58:48.86 ID:jPrkT7IS0


授業中、俺は真後ろから感じる視線に、ある種の心地良さを感じていた。

今まで何か足りないと感じていたのはまさにこれだったのだと気づいた。

そんなこと、前には意識したことも無かったが、失って初めてわかる。


しかしだ、お前が休んでいるあいだ席替えの度に背後霊のように付いてくる

空席ったらこれほど不気味なものは無かったぞ、ハルヒ。


ハルヒ「やれやれね、現国の授業、相変わらず詰まんないじゃない。
     大体あいつには、向上心ってもんが足らなさ過ぎるのよ」

学校の教師をあいつ呼ばわりするのはともかくとして、お前の休んでいた

2ヶ月足らずで、見てわかるほど何かが変わるはずもないだろうに


241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 19:28:14.62 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「みくるちゃんはどうしてるの?学校に来てない?」

キョン「学校には来てるぞ、でもお前には合わせる顔が無いとかで」

ハルヒ「こっちから会いに行く必要がありそうね!」


キョン「お前のことで気に病んでたんだ、優しくしてやれよ」


ハルヒ「……え、えぇ……まぁ…そうよね」

キョン「……」


243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 19:47:13.71 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「そういや……みくるちゃんには、あたしのこと何て……」

キョン「事故にあっただけ、としか俺は言ってないが……まぁ無理があるよな
     どこかで事実に気づいたんだろ、それで……」


ハルヒ「……きっとみくるちゃん勘違いして、あたしが部室で襲われてたか
     倒れてて、それなのに自分はそうとも知らずに帰っちゃった、
     そんな余計なこと考えちゃいそうな子だもん……」

キョン「やっぱり……襲われたわけじゃなかったんだな……」


ハルヒ「――!」


ハルヒの顔色が一瞬にして変わった


245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 20:02:24.33 ID:jPrkT7IS0


キョン「ま、おかしな話だしな、明白とはいかなくても、言わずもがなだ」

ハルヒ「そう……あんた……今まで……」

キョン「そんな嫌なこと、わざわざ思いださせることも無かったし、それに事実が
     どうであったとしても、まずは元気になってくれることが俺にとっては……」

ハルヒ「あたし……あの……」

キョン「いや、今する話じゃない。それに、誰かに聞かれていい話じゃないからな」

ハルヒ「……」



黙り込んでしまったハルヒを見て、

これが長門だったら頭を撫でてあげられるのにと、一人落胆していた。


246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 20:28:10.36 ID:jPrkT7IS0


放課後、俺とハルヒは、朝比奈さんの教室に向かっていた。

ハルヒ「……」

キョン「まぁ朝比奈さんには俺から何度もいいきかせたし」

ハルヒ「……」

キョン「元気にしてるって。というか実際元気だからな」

ハルヒ「……」

キョン「お前が明るい姿を見せれば、誰でも納得するさ」

ハルヒ「……」 ピタッ

キョン「どうした」


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 20:50:32.25 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「……あんたどこでそんな覇気と甲斐性を身につけたの?」

キョン「俺は入学当初と何にも変わってないと思うぞ。ただお前の元気が無いからな。
     例えるなら、人が焦ってる姿を見ると自分は冷静になれることがあるだろ?」

ハルヒ「……なによそれ」


キョン「だてにSOS団の団員その一は務めてねえよ」

ハルヒ「……」

キョン「お前が元気の無い時は、俺が元気を出せばいい」

ハルヒ「……」

キョン「それだけさ」

ハルヒ「……」

キョン「いこうぜ」

ハルヒ「うん」


250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 21:17:56.26 ID:jPrkT7IS0


教室に着くと、朝比奈さんはもう居なかった。


鶴屋「お、ハルにゃん、久しぶりだねぇ…!」

ハルヒ「みくるちゃんは……」

鶴屋「あれ?今日は部室に行くって言ってたよ?」

ハルヒ「そ、そう……それならいいんだけど」


鶴屋「……ハルにゃん大丈夫かぃ」

ハルヒ「いえ……全然大した事じゃないの……」

鶴屋「ふーん、そうかい」

ハルヒ「心配してくれてありがとう………キョン、行きましょ」


タッタッタッ


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 21:40:21.52 ID:jPrkT7IS0


鶴屋「……キョン君」

キョン「はい」

鶴屋「みくるをよろしく頼んだよ」

キョン「それはもう、はい」

鶴屋「でもお姉さんに相談できることがあったら何でもいいなっ」 ポンポン

キョン「は、はあ……」

鶴屋「んじゃねっ!」

そうひるがえって去っていく鶴屋さんをなんとなく眺めていると、
後ろから襟首を引っ張られた

ハルヒ「行きましょう」


254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 22:02:04.92 ID:jPrkT7IS0


ハルヒ「……」

キョン「ちゃんと考えてるのか?」

ハルヒ「会ってから考えるわ」

キョン「おいおい」

ハルヒ「くよくよ考えたって、なるときはなるし、ならないときはならないのよ」

キョン「……あ、あぁ、どうしたんだ急に」




ハルヒ「わかってたのにね」






ハルヒ「急ぎましょう」

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 22:29:39.80 ID:EfkHOZ/l0 ?2BP(0)

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しかしハルヒは部室棟の渡り廊下まで来て、また立ち止まった。

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「………」


気が付かないうちにハルヒの顔は憔悴しきっていて、汗びっしょりだった
呼吸が荒く、目の焦点が定まっていない。

キョン「ハルヒ、こっちだ」

フラフラと歩くハルヒを抱きかかえるように何とか移動させ
近くのテーブルまで連れて行き座らせた。ハルヒの背中をさすってやる

キョン「ハルヒ、もう帰ろう、家でゆっくり休んで」

ハルヒ「……ダメよ……あれは……あそこは……あたしの……」


ハルヒ「あたしの……居場所………あのSOS団だったのにね……」



ハルヒ「自分で………ボロボロにして……」


258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 22:41:38.15 ID:EfkHOZ/l0


涙はなく、ただ浅い呼吸を繰り返して、

ハルヒの顔はどんどん青白くなっていき

異様な顔色になっていた。


キョン「俺がついてるから……」

安心させようと後ろから抱きしめようとしたが、払いのけられた。


ハルヒ「ごめん……今は……」

キョン「……」


260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 23:01:55.16 ID:EfkHOZ/l0


もう俺一人ではどうにもならないことを悟った。

キョン「いいか、すぐ戻ってくる」

俺は走って部室へと向かった。ハルヒにつられたのか、
本当は俺も結構動悸がして、息が荒くなっていた。

俺だってあの部室には嫌な記憶が伴う。俺はやせ我慢をしていたが
ハルヒはもっと我慢していた。


しかし中に入る必要はなかった。朝比奈さんが部室の前の廊下に立っていたから

朝比奈「キョンくん……その…涼宮さんが学校に来たって聞いて…あの…」

キョン「助けてください……」

朝比奈「はぃ?」

隣にいた長門にも言う

キョン「長門も一緒に来てくれ、ハルヒが……」


263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 23:25:58.90 ID:EfkHOZ/l0


朝比奈「涼宮さん……ごめんなさい……わたし……」

ハルヒ「はぁ……みくるちゃん……あなたは何も悪くないから…」

朝比奈「で、でも……」

ハルヒ「全部あたしの身勝手なせいなの…そう……
     嫌な思いをさせたかもしれないけど……ごめんね…」

朝比奈「涼宮さん……」

ハルヒ「……」

朝比奈「私は嫌な思いなんかしてないです……自分を責めないで…」

ハルヒ「ありがと……有希も……」

長門「これは私の責任」

ハルヒ「いえ……有希は……」

長門「……」

ハルヒ「はぁ……はぁ……キョン、飲み物買ってきて……なんでもいいから…」

キョン「……ああ」


264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/10(木) 23:36:35.63 ID:EfkHOZ/l0


教室でハルヒは元気だったから、俺もなんとなく安心していた。

しかし、俺は少しも学習していなかった。ハルヒはつい頑張りすぎてしまう。

今日だって虚勢を張っていたんだろう。俺を安心させたいがために。


まだあいつは病み上がりだったんだよな。

俺はハルヒにもっと自分に素直になって欲しい。

辛いなら辛いと、はっきり言えばいい。

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 00:33:15.70 ID:mV+4DZ/O0


ハルヒ「……有希?」

長門「なに」

ハルヒ「キョンのこと……好きなんでしょ……?」

長門「そう」

ハルヒ「……やっぱり…あたしに気を使ったのよね……そんな気がした」

長門「それは直接的な理由ではない」

ハルヒ「有希とキョンが幸せなら……なんて、今さら言えた口じゃないけどさ、
     でも、もう大丈夫だから。そう、あたしにはSOS団が平穏無事なことが……」


長門「私は彼を守りたいと思っているだけ」

ハルヒ「有希、それは十分恋愛感……」

長門「あなたは彼を不安にさせている」

ハルヒ「ええっ?」

長門「彼はその不安から私に惹かれてしまっている」

ハルヒ「不安……?」


271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 00:39:45.92 ID:mV+4DZ/O0


長門「そんな彼と居ても私は辛いだけ」

ハルヒ「……」

長門「彼が求めているのは私ではなく、あなた」

ハルヒ「そんなことわからないじゃない……!」

長門「そのうちわかる」

ハルヒ「……?」

長門「……」

ハルヒ「!……」

私はその時、彼女が笑ったような気がした。
無表情の中に潜む、純粋で素直な笑顔……

長門「私もSOS団が好きだから」





長門「期待している」

そう言って彼女は立ち去った。
私はある決意をした。

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 01:14:06.75 ID:mV+4DZ/O0

―――――――――
――――


私は今、暗澹とした面持ちで、精神科病院へ向かっている。

やっと面会許可が降りたのだ。そう、今日は



一番会うのが辛くて、一番会わなければならない人に、会いに行く。



キョンには、一人で行くからと、前もって告げておいた。

ものすごく不安そうな顔をされたけれど、私を信じてくれた。

前のようなことにはならないからと、そう付け加えた。


276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 01:27:19.94 ID:mV+4DZ/O0


目的の病院は二県隣で、新幹線も利用して2時間半もかかる場所にあった。

私は電車の中で一人、心細さと不安を抱えながら、窓の外を眺めていた。


一度も迷うことなく病院に到着。

流線型のある建物で、思ったよりも現代的で開放的だったので、私は少し安心した。

精神病院といえば、陰気なイメージがあったから。


受付では、診察を受けに来たのだと間違えられるほど、私はやつれた様相だった。

もしかしたら私はここに居るどの来診者よりも病んでいるのではないかと、

ちょっと思った。



面会場所となるデイルームに案内され、しばらく待たされた。

時間が経つにつれ、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 17:38:45.64 ID:KlfU38810


看護士に続いて、彼が現れた。

その時私がどんな顔をしていたのかは定かではないが、
彼の顔は、私のよく知っていた彼のイメージそのもので、

第一声を発したのは、意外にも彼だった。


古泉「ご無沙汰しております、涼宮さん」

余りにも予想外の出来事に、私は言葉に詰まってしまった。
どんな風に話を切り出すのか、やっぱり考えておくべきだった。

今まで成り行き任せ、出たとこ勝負が信条と言うか、そうやって生きてきたから、
段取りとか腹づもりとか、そういうのは苦手だ。
それでも何故かうまく行くことの方が多かったから。

ここ最近は狂いっぱなしだけれど。


でも、案外皆が助けてくれることを知った。

……頼りになってくれることを。


318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 17:55:45.30 ID:KlfU38810


古泉「ここの病院はなかなかいいでしょう、屋上は庭になってるんですよ、
    その奥の中庭には池もありますし、出入りは基本的に自由です」

ハルヒ「あたしはてっきり、狭くて薄暗い一畳半の部屋の中で、
     一人閉じ込められてるんじゃないかと、思ってたわよ」

古泉「はは」


ハルヒ「でも本当に安心した……古泉君が元気そうで」

古泉「涼宮さんも」

そう言うと、私も彼も、しばらく押し黙った。
でも次に口を開くのは私の役目。


ハルヒ「会うのが遅くなっちゃって、ごめんね」

古泉「僕は会わずに済むなら、もうずっと会わないでおこうと……そう考えていました」

ハルヒ「会わずに済む?」



古泉「生理、きてますか?」

私は飲んでいた紅茶をテーブルにぶちまけた


323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 18:30:41.42 ID:KlfU38810


古泉「すみません……」

ハルヒ「……いぇ…まぁ…そうね…」

古泉「……」

ハルヒ「一応ね、病院に運ばれたとき避妊治療されてて…まぁその時は意識は
     無かったんだけどね。それが功を奏したかどうかはわからないんだけど、
     あなたが心配するようなことは全然無いわよ、」


古泉「僕は軽率で恥ずべき行為をしてしまったと、ずっと悔やんでいます」

ハルヒ「いえ……そう…あなたは全然悪くないから、あたしが卑しい女だっただけ
     これであたしが、本当に下品で醜い女だってことが……わかったわよね。
     あたしが古泉君を一方的に傷つけて…………本当にごめんなさい……」


古泉「頭を上げてください、僕の責任もあります……執拗にあなたに気を掛けて……
    それと彼を炊き付けて反発心を招き、困惑させ続けていたのは、僕ですから。
    僕は勝手に焦っていたんです、ええ……良かれと思っていたんですが」

ハルヒ「……」


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 18:43:12.56 ID:KlfU38810


古泉「あぁ、いえ、つまり、あなただけの責任では無いということです」

ハルヒ「なんであなたは、そんなに………もっと恨んでくれていいのに……」

古泉「恨んではいますよ」

ハルヒ「!……ごめんなさい……ごめんなさ…い…」

古泉「あぁ!いぇ、僕はこの通り、元気です」

ハルヒ「……」


古泉「あなたも辛かったのでしょうし」

ハルヒ「……」

古泉「……」

ハルヒ「……」


古泉「……彼とは……うまくやれてますか」

ハルヒ「………何も言わないけど、知ってると思うのよね」


ハルヒ「何があったのか」


326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 18:53:36.06 ID:KlfU38810


ハルヒ「状況から治療内容、それを知っちゃえば、何があったかなんて……」

古泉「……」

ハルヒ「でもキョンは……何も………」

古泉「そうでしたか、僕は悔やんでも悔やみきれません…彼とは仲たがいを……」


ハルヒ「いえ…それが……前よりずっと優しいの」

古泉「……」

ハルヒ「ううん、多分、今まであたしが気がつかなかっただけ」

古泉「……」

ハルヒ「キョンは何も変わってない、あたしが変わったの……良くも……悪くも…」


古泉「んっふ……」

ハルヒ「な、なに?」

古泉「失礼、いえ、安心しました、安堵と言ってもいいでしょう、あぁ、同じ事でしたか」


327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 19:02:10.53 ID:KlfU38810

私は笑って

ハルヒ「古泉君なんか変よ」

古泉「……どうも久しぶりなものでしてね、実はつい先ほどまで、
    殆ど誰とも話していませんでしたから、するのは返事ぐらいのもので」

ハルヒ「……そうなの?」

古泉「でも涼宮さんの顔を見ただけで、何もかもが吹っ切れたんです」

ハルヒ「……」


古泉「そう、思い出したんです、あなたのSOS団を」

ハルヒ「……」

古泉「なにかこう、とても懐かしいような気がします……」

ハルヒ「……?」

古泉「どうもご迷惑をおかけしました、今まで、本当に、お世話になりました」

ハルヒ「な、なにを……」

古泉「もう僕は皆さんに合わせる顔がありませんから、特に、彼には」

ハルヒ「そんなこと……」


328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 19:08:34.77 ID:KlfU38810


彼はまた笑って言う

古泉「あなたが元気そうなので、僕の懸案事項はこれで全て無くなりました」

ハルヒ「……」


古泉「これは……僕の勝手な憶測による、ぶしつけな質問かとは思いますが……」

ハルヒ「……」

古泉「彼と長門さんは、もう付き合っては居ないのでしょう?」

ハルヒ「!…どうして……」

古泉「わかりますよ……あなたが彼の話をするときの顔を見れば」

ハルヒ「!……」


古泉「いえ、最初から、なんとなくそうじゃないかと思ってました」

ハルヒ「……」


329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 19:22:43.14 ID:KlfU38810


古泉「そうですね……こんなことを言うのも何ですが、僕が最初に明るく振舞ったのも、
    実のところ、涼宮さんの反応を確かめたくてです。それで思わしくなければ、
    僕はまた態度を改めるつもりでした……いえ……少しわざとらしすぎましたか」


私なんて、会うだけで精一杯だったのに、
自分の弱さを本当に思い知らされた。急になんだか、自分が恥ずかしくなった。


古泉「彼とはうまくやってください。それが今となっては、僕のせめてもの願いです」

ハルヒ「……」

古泉「それでは……さよなら」


ハルヒ「……」





ハルヒ「待ちなさいよ!」

古泉「……」


ハルヒ「あたしは覚悟を決めて……ここに来たの……」


330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 19:35:24.62 ID:KlfU38810


古泉「覚悟……ですか」

ハルヒ「SOS団を……また元通りにするって……」

古泉「僕の代わりなら、配り歩くほど居ると思います」


ハルヒ「元通りにするために、あなたを……古泉くんをまた連れ戻して……」

古泉「あなたさえ居れば、いくらでも再編できますよ、自信を持ってください」


ハルヒ「もし古泉くんがふさぎ込んでいてどうにもならない状態だったら…
     あたしは……生涯をかけてでも…看病するって……そう決めて……」

古泉「……」


ハルヒ「みんなでまた……一緒に……」

古泉「……」


ハルヒ「……みんなに会いに……来て欲しい……」


333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 19:53:27.92 ID:KlfU38810


古泉「涼宮さん……」

ハルヒ「……古泉君は……SOS団……嫌いだったの…?」



古泉「そう……見えますか」


ハルヒ「……」

古泉「……」


ハルヒ「ごめん……元はと言えばあたしのせいなのに……
     でもだからこそ……あたしは…あなたに戻ってきて欲しいって……」



私は思わず泣き出してしまった。

泣いて訴える事しかできない自分が情けなく、腹立たしかった。


335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 20:07:24.27 ID:KlfU38810


古泉「それは……団長命令というやつですか?」

ハルヒ「いえ……あたしの個人的な頼み………友人として…いえ…それ以上……」

古泉「……」

ハルヒ「……」


古泉「フッ…えぇ、そうですね。僕らしく、ありませんでした。けじめというのもありますし、
    彼に、いえ、皆に会いに行きましょう、それでおのずと結論は出るでしょうから」

ハルヒ「その時は…あたしも……一緒にだから……」


日程が決まりましたらご連絡ください、そう言い残し、彼は病室に戻っていった。

私は急に不安になった。



……でも、私はもう逃げない。

傷つけてしまった

私の何よりも大切な、

仲間のために


336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 20:18:28.23 ID:KlfU38810

――――――――――――

はてさて、新しい週の始まり、月曜日。
例によって俺はまた、坂を登り続けている。

また今日から5日間、この山を登り続けるのかと思うと、ちょっと憂鬱だ。


もしあの日、ハルヒがそのまま冷たくなっていった……なんてことになっていたら、
……まぁそんなこと考えたくも無いが、俺はこの坂を登る元気など、無かっただろう。

それこそ俺は今ごろ精神病院で入院しているかもしれない。


昨日ハルヒは、精神病院に入院している古泉に会いに行くとかで、
まあ正直内心かなり不安だった。あいつと古泉の間でどのような話をするのか、と。

いや、ありていに言えば、ハルヒと古泉の関係についてだ。
しかしそこに果たしてどういう関係があったとして、
俺がとやかく考えたり、口を出したりする権利はあるのだろうか……


いいや、ごまかしだな、本当は気になって仕方が無いのだ。


337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 20:24:31.84 ID:KlfU38810


ハルヒ「キョン、おはよ」

お前が挨拶なんて、らしくないよな


ハルヒ「…今週の土曜、空いてる?」

予定が空いているかどうか聞くような奴でもない



ハルヒ「…付いて来て欲しいところがあるのよね」

キョン「わかった、行き先は―――」



まぁ何となくわかるな、

その週は、あっという間に土曜日になった


338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 20:41:54.96 ID:KlfU38810


ハルヒに連れられた先は、電車で20分ほど行った市外にある、
少しこじゃれた感じのレストランだった。中に入る前に、ハルヒが言った。

ハルヒ「こんなとこだし、落ち着いてね」

……それが目的でこんな場所を選んだのだと、気が付いた。
何か不穏なものを感じる。

店の奥、右から二つ目の4人掛けの席に、古泉が座っていた。
背中だけでもすぐにわかった。俺達は、その席へと向かった。


キョン「久しぶりだな!古泉、」

古泉「ええ、本当に」

俺は席に座る。ハルヒは、古泉の隣に座った。


注文を済ませ、一息つく。

その間、やけによそよそしかったので何も話さなかった。


340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 20:51:47.69 ID:KlfU38810


キョン「どうせなら、SOS団全員呼べば良かったんじゃないのか?」

古泉「僕はあなたに謝りに来たんです」

キョン「……」

古泉「あなたに嫌な思いをさせてしまってと」

ハルヒ「……」



キョン「謝るって……?」


その瞬間古泉が席から立ち上がり、俺の横で床に膝をついたかと思うと、

土下座し始めた


古泉「すみませんでした!涼宮さんを手にかけたのは僕です、全て僕のせいです」


343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:04:16.61 ID:KlfU38810


キョン「な、なにを……」


慌ててハルヒが古泉の元に駆け寄り、しゃがみ込んで、

古泉の体を起こそうと必死に抱え込んだ

ハルヒ「古泉君のせいじゃないのに!……あたしが…あたしが勝手に……」


古泉「いえ……僕は涼宮さんを……」


ハルヒ「古泉君は……悪く……悪くない……のに………」



古泉を必死になだめながら、ハルヒが顔を上げて俺を見つめた



ハルヒ「……あたし…」



345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:14:42.49 ID:KlfU38810


キョン「いや、まず席に座ってくれないか?」


いい加減、客の目が熱い。いや、こちらを見ているのは店員だけだったが、

なにかこう………周りに気を使われている感じをひしひしと感じる。


キョン「まぁ、座れよ、どうしたんだよ本当に」

古泉「……」



キョン「座らないなら、帰っていいか?」



古泉がゆっくりと席に座る。ハルヒもそれに続いた。



347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:25:11.36 ID:KlfU38810


キョン「何があったか知らないが……いや、もう何もかも知ってるよ」

ハルヒ「……」

キョン「だが、俺に謝るなんざ、筋違いもいいとこだ。意味がわからん」

古泉「ですが……」


キョン「お前に謝る相手が居るとするなら、ハルヒだが、
     それでハルヒがお前に責任は無いって言ってるんなら、そうなんだろ」

古泉「……」


キョン「あの時はまず驚いたってのが本音だ。そのあと、真相を知れば知るほど
     なぜそんなことをしたんだと、そう怒りを感じたこともある。どうしてハルヒを…」

古泉「……」

キョン「止めてくれなかったのか、ってな」


ハルヒ「でもそれは……あたしのせい……」


348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:31:38.00 ID:KlfU38810


キョン「でも今から考えれば、その方が結果的にお前は助かったのかもしれん」

ハルヒ「それは……」


キョン「古泉がこいつの傍に居てくれたからこそ、逆に大事にならなくてすんだ。
     結果論だがな。一人で死んでたら、どうなってたかわからん」

ハルヒ「ごめんなさい……」




キョン「……と、俺に言って……欲しいのか」

ハルヒ「えっ……?」



350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:37:40.03 ID:KlfU38810


キョン「一番不甲斐なさを感じてるのは俺さ……だから本当によしてくれ。
     俺が居たたまれなくなる。俺が怒っているのは自分自身なんだ。
     いや、つまり……なんというか…そもそも、あんなことになったのはだな……」

ハルヒ「……」


キョン「……お前がなぜ俺に謝る必要があるのかわからん……
     それに、古泉、お前とは対等だと……親友だと思ってたが、違うのか?」

古泉「いえ……」

キョン「……わからん………わからんが………とにかく、俺からも言わせてくれ」



キョン「すまなかった」









キョン「……せっかくの再会だ、今日は祝ってもバチは当たらん」



353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 21:55:16.00 ID:KlfU38810


頭を下げたキョンを見て、


それは大切な仲間だから、大切な人だから、それを裏切ることになったから、


私はそう言おうとしたが、

そんなことは彼もわかっている。恥ずかしいから誤魔化しているけど、

だから、彼も謝ったんだと思う。



私は確信した

また、SOS団はやり直せるって



私の居場所

また

彼と一緒に

……

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 22:14:13.45 ID:KlfU38810

―――――――――――
――――


ハルヒと古泉との講和条約の締結から

……別に喧嘩をしていたわけでも、そんなつもりもなかったわけだが……


でもまあ、

それから数週間が経過した。



SOS団が無事に動き始めたのだと言うことは、もう火を見るより明らかだった。

俺もハルヒも、古泉も長門も朝比奈さんも、放課後に皆集まれるようになっていたし、

皆笑顔を見せるようになっていた。



やれやれ、そろそろ俺にも休暇が欲しい。



一般人たる俺には、もう限界もいいところだ。


361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 22:32:39.56 ID:KlfU38810


しかしまあ、本意か不本意かはさて置き、

古泉とはむしろ前よりも親密になれた気がするし、

長門とも朝比奈さんとも、以前のように仲良くやれている。




俺は……満を持して、というか意を決して、またあの台詞を言うことにした。


いや、俺は疲れきっていたんだろう。

後から考えればそうとしか考えられない。



確か俺はこんなことを言ったと思う。

朝ギリギリに到着する俺に見向きもしない、

いつも当然のように俺の席の後ろに座っている、ハルヒに。


363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 22:44:44.15 ID:KlfU38810


キョン「ハルヒ、相談があるんだがな」

ハルヒ「なにかしら……」

キョン「まぁこれは独り言だから流してくれても構わん」

ハルヒ「そう…」


キョン「いや…流されると落ち込むが…」

ハルヒ「なに…?」


キョン「お前の手作り弁当が食べたいんだが……」

ハルヒ「ええ…」








ハルヒ「ええ?」



367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:01:12.53 ID:KlfU38810

――――――――――

次の日の昼休みは、体育の授業の後だった。俺は急いで制服に着替える。

ハルヒはまだ大事を取って見学だったので、既に廊下で待っているだろうからな。


一呼吸置いてから廊下に出た。

ガラガラッ



ハルヒ『遅いわよ!』



……

ハルヒのセリフにデジャヴを感じる。

まぁ……こんな台詞、コイツの口癖みたいなもんだからな。
何もかもが懐かしい。涙が出そうなほどにな。


そういうことにしておく。




370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:29:40.54 ID:KlfU38810


ハルヒ「ったくこっちはわざわざ朝早く起きて作ってあげたっていうのに……」

キョン「……」



ハルヒ「こ、これをね……」 スイッ

キョン「…ああ」





ハルヒ「なに?なんか不満あんの?」


キョン「……いいや、ありがとな」

ハルヒ「はじめからそう言いなさいよ……」


371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:30:58.78 ID:KlfU38810


キョン「教室は…なんだし……かといって外で食うには日差しが強いな…」

ハルヒ「……」

キョン「そうだ、屋上に行く階段の辺りはどうだ?」



ハルヒ『えぇ、そうしましょ』




……

またデジャヴだ……

というより、俺がその台詞を言うようにと、誘導してしまったような、そんな感覚


375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:39:41.93 ID:KlfU38810


キョン「入学し始めの頃、ここに連れてこさせられたよな、お前に」

ハルヒ「そうだったかしら?」

キョン「覚えてないのかよ……」

ハルヒ「うーん……」


キョン「んじゃ、いただきます」

ハルヒ「ん……おあがりなさい」


ハルヒ「どうかしら」

キョン「……ハルヒは何やらしてもあれだな………マジで美味いよ……」



ハルヒ『そんなことないけど』



……誘導?そうじゃない

俺が知らず知らずのうちに長門に求めていたのって……


379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:45:47.09 ID:KlfU38810


ハルヒ「ちょっとブランクがあったから、自信なかったんだけど」

キョン「ブランク?」

ハルヒ「入院する前には、ちょくちょくお弁当作ってたのよね」


キョン「意外にマメだったんだな」

ハルヒ「だって……」





ハルヒ「だってあんたに……」







ハルヒ「あんたに食べてもらおうと思って!」




382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:51:48.20 ID:KlfU38810


俺は思わず箸を口にさし入れたところで固まってしまった。

キョン「……」

ハルヒ「っ……っ……」

キョン「……」

ハルヒ「うぅ……うぅ……」

キョン「ハルヒ」

俺は箸を置いた


ハルヒ「馬鹿…ヒック……」


キョン「馬鹿だったな……俺は……あの時……」


ハルヒ「ううん……馬鹿なのはあたしで……あたし素直じゃ………ないから……」


384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:55:45.67 ID:KlfU38810


キョン「泣くなって……悪いのは俺だ」

ハルヒ「でもあたし結局…昨日も………あんたに言われるのを待ってた……」

ハルヒ「あんたに言われなきゃ……またずっと言えてない……」

キョン「そりゃ……まぁ…俺が軽薄すぎるっつーか…まだアレから半年経ってないのに
     懲りずに同じ台詞を不用意に言っちまう俺が無神経すぎるっていうか……」

ハルヒ「ううん…全然気にしてない……だってあたしは……」

キョン「……」

ハルヒ「…お願い……これだけは……あたしから…言わせて……」

キョン「ああ……」



ハルヒ『キス……して……』



そう……

知らず知らずのうちに俺が長門に求めていたのは

それはまるっきり、少しだけ素直な、ハルヒそのものだった


386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/11(金) 23:59:59.58 ID:KlfU38810


以前、俺が長門にせっせと吹き込んでいた数々の台詞は、

ハルヒを思い重ねたものに他ならなかった


長門にそんなものを求めたところで

どこかぎこちなかったし、違和感だけが目立った

それでも慣れればなんとかなると、思っていた。


だが長門はそんなことは望んじゃいなかった

ただ純粋に素直で、興味のあることに迂闊にも顔を突っ込むだけ


俺は長門の、素直で無垢な態度に甘えていただけ



俺が長門に求めてしまったもの、

それは、俺にはなかなか見せなかった本当のハルヒの顔そのもので

今から思えばサインは何度も合ったのに、俺はそれを気づいてやれなかった。

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 00:07:51.19 ID:vl8+dibr0


キョン「……」

ハルヒ「ええ……あ、あの……嫌…だよね……だってあたし……」

キョン「ごめんな……」

俺は何のためらいなく、うつむいているハルヒの頭をくしゃくしゃと撫でてやった

ハルヒ「!……」


俺は顔を近づけ、それから、唇を重ねた

ハルヒ「んん………うぅ…うぅ………」



顔を離すと、ハルヒの泣き顔。


キョン「……ハルヒ」


ハルヒ「キョン……キョン……」

そう言って泣きじゃくるハルヒを、しっかりと抱き寄せて

もう二度と……お前を一人にはしないからと、そう思いを込めた。


395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 00:13:34.92 ID:vl8+dibr0


それからハルヒが本調子を取り戻すにはさらに1ヶ月を要した。
俺にとっては、傍若無人で天真爛漫な姿が"普通のハルヒ"だからな。

1人分だけ作るなんて逆に難しいんだから、とハルヒは言って
今もハルヒの手作り弁当は継続中だ。


あの事件は……身体的にも、精神的にも大きな爪あとを残した。
あんなことがあって、良かったとは全然思わない。


だが俺は、前よりもずっと幸せを噛み締めるような毎日を
送れているような気がする。

そう感じている。




ハルヒ「さ!部室に行きましょう」



今日も放課後、俺とハルヒは二人仲良く、部室に向かっている。


397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 00:15:25.91 ID:vl8+dibr0


意気揚々とハルヒが言う

ハルヒ「今日はいい知らせがあるわ!」

キョン「いい知らせ?」

ハルヒ「ふん……まぁ部室についてからのお楽しみだけどね」


またどうせろくでもない事なんだろう、でも俺は楽しい。なぜなら


バン!



ハルヒ「おまたせー!」




ハルヒが勢い良く開けたドアの向こうに、

俺の大切なものが、今日もここにしっかりと存在しているから。



おわり


398 名前: ◆MrVMitHawk [] 投稿日:2010/06/12(土) 00:16:30.88 ID:vl8+dibr0

無茶しやがって
長期に渡るご支援、心からありがとうございました

次回作にご期待ください、嘘だ、疲れた



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