キョンの奔走


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2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:41:07.45 ID:j2BojWxD0

1日目

「不幸だぁ・・・ねえ・・・」

ポツリと涼宮ハルヒが呟いたのは師走も折り返しを迎えた寒い日の事だった。

「それがどうかしたのか?」

そんな事をなぜ突然口にしたのかは分かっている。
何故なら他ならぬ俺がハルヒに貸したライトノベルの主人公の口癖だからだ。

「どう・・・って事はないんだけどさー・・・アタシから言わせたら相当幸せモンよ?」
「というと?」
「だって」

まぁ例に漏れずその主人公も様々なジャンルの可愛い女性キャラから好かれており
世の男性からすれば何をほざきやがってるんだとの苦情も然るべきだ。
と心の中で頷いていたのだが・・・

「こんなに不思議な世界で、超能力者たちと遊んでるんですもの!」

前言撤回。コイツはやっぱりどこまで行っても涼宮ハルヒだったのだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:44:08.71 ID:j2BojWxD0

「なんでこう、現実には超能力者がいないのかしら?」
「そりゃお前・・・彼らだってプライベートが欲しいんだろうよ」
「それにしたってよ。こうやってホームページも作って、メールアドレスも設置したんだから
 こっそり連絡くれたって良いじゃない!別に24時間365日遊べとは言わないわよ?」

相変わらず良識があるんだか常識が抜けているんだか分からないヤツである。

「ねぇ、有希」

今日も今日とていつものポジションで黙々と、凶器になりそうなハードカバーの書籍に
耽っているのは我が高唯一の文芸部員こと長門有希だ。

「有希はさぁ、今幸せ?」
「・・・?」

さしもの長門も顔をわずかに傾けてクエスチョンマークを飛ばしている。
そして俺は突拍子もなくハルヒがそんな抽象的な質問をした事に、些か驚いていた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:46:27.57 ID:j2BojWxD0

「とりたてて現状に不満はない。だから、幸せと言えるかもしれない」
「うーん、有希らしいっちゃらしいわねぇ。でもそんな消極的な幸せってのも何か寂しいわよ」

そもそも長門に「幸せ」という感情はあるのだろうか。
今度是非とも情報統合思念体とやらに問い合わせてやりたいね。

さて問題はハルヒだ。長門にどこぞの宗教の勧誘かと思わせるような質問をしたかと思えば
今度は何やら思案顔である。しかも思いっきり目が輝き始めている。

「遅くなりました」
「遅れましたぁ」

ハルヒの口角が不審な角度に上がりつつあった時に古泉と朝比奈さんの2人が部室へと入ってきた。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:48:44.20 ID:j2BojWxD0

「朝比奈さん、こんにちは」
「はい、キョンくんこんにちわぁ」

嗚呼、今日も笑顔がお美しい。まさしく心のオアシス。
朝比奈さんが来たとなればいつものメイド服に着替えるのは日常の流れであるからして
俺は部室の扉の前に立っている0円スマイルを湛えた超能力者と一緒に廊下へ出ようとした。

「待ちなさい、2人とも。みくるちゃんもまだ着替えなくて良いわ」
「ふぇ?」

古泉が何か訊ねるような目線をこちらに向けてくる。
当然俺は心当たりがない、と言えばないが、あると言えばあるのだ。

「今日はSOS団の緊急臨時会議を行います!」

いつだって緊急で、定例の会議もないくせにとは思っても口にしてはならんのだ。経験的に考えて。
そして何をどう言ったって聞きやしないのさ。

涼宮ハルヒがとっておきの笑顔で輝いてる時はな。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:53:16.15 ID:j2BojWxD0

「みくるちゃん!」
「へっ?は、はい。なんでしょうかぁ?」
「今は何月でしょうか?」

おいおい。いくら朝比奈さんが天然で少しおっとりされた方であるとは言え
その質問はさすがに失礼すぎるんじゃないのか?

「えっとぉ・・・12月・・・だと思うんですけど・・・」
「そう、12月よ。12月と言えばとっておきのイベントがあるわよね?」
「んー・・・クリスマスですかぁ?」
「当たりよ!みくるちゃん!今日は冴えてるじゃない!ご褒美にいい子いい子してあげる!」

いやそこまで難しい質問でもなかったと思うんだが・・・まぁいい。そんな事は今は良いんだよ。
ハルヒよ。なんでお前はいい子いい子と称して胸を揉むんだ。けしからん。眼福モノだ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 20:58:41.68 ID:j2BojWxD0

「それで?」
「ん?」

クリスマスが目前に迫っている。
確かに毎年こういったイベントを大事にしてきたSOS団、いやもとい涼宮ハルヒなのだ。
今年も何かしらの形で盛り上がろうと企んでいるのではないかという考えに至るのは自然と言える。

「今年のクリスマスはどうするんだ?そう言えばパーティーの計画もまだだったよな」
「クリパもちょっとは考えたんだけどねー。毎年同じってのも面白くないじゃない?」

お前は今、全国全世界の毎年恒例行事に喧嘩を売ったぞ。

「うっさいわねぇ」
「まぁまぁ。それで我らが団長には何か一計がおありなんですか?」

ふふん。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにハルヒが得意満面の顔で髪を払う。
そしてご丁寧にキーボードを除け、机の上でふんぞり返って高らかにこう宣言した。

「今年のクリスマスは、みんなを幸福にします!」

ここ、笑うとこ?

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[今日も人いないなぁ] 投稿日:2009/12/25(金) 21:01:18.51 ID:j2BojWxD0

視線を返せば微笑を貼り付けたままフリーズした古泉が目に映った。
コイツ、意外とアドリブ利かせるまでに時間が必要になるよな。

朝比奈さんに至っては何を言ってるのか分からないというのがありありと見える。
長門ですら、ややどうしたものか、という感じだ。
もしかしたら情報統合思念体との通信にラグが発生しているのかもしれん。

「なんだって?」

自分の役目くらい分かってるさ。こういう時に先陣を切ってハルヒから事情聴取するのは俺だってな。

「だから、みんなを幸せにするのよ」
「それ情報増えてねぇだろうが。もっと具体的に説明しろ。簡潔に、明示的にだ」

ハルヒはムッとしたように口を尖らせてこちらを睨んだ。
なんだよ。今の言葉だけでお前の草案を把握できる人間は恐らくこの世にいないぞ。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:03:07.68 ID:j2BojWxD0

「ホントにキョンはバカキョンね。少しは頭使ったらどうなの?」
「そういうレベルの問題でもねぇよ」
「つまり!」

ハルヒの言い分とはこのような物だった。

SOS団の創設より時間こそかなり経過したものの、本来の目的であるところの
宇宙人、未来人、異世界人、超能力者や、この世の不思議には現状遭遇できていない。
(いや、遭遇どころか日常生活に溶け込んでいるくらいなのだが本人の自覚がないだけだ)

しかしながら約一名を除き、みんな日頃からよくSOS団のために働いてくれており
それに報いないというのは団長として甚だ遺憾極まりない。
みんなと過ごす時間はいかにも楽しいが、このクリスマス、慰労も兼ねて
SOS団が総力を挙げて各団員を幸せにしよう。という事らしい。

なんだかハルヒじゃないような物言いだが、ある意味ハルヒらしい。
特に団員を幸せにするのに、結局SOS団総出って自分でも努力させるところとか。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:05:30.35 ID:j2BojWxD0

「なるほど。非常に素晴らしいかと。正直涼宮さんのそのお気持ちだけでも幸福です」
「古泉くんは分かってるわねぇ。どこかの誰かさんとは大違いだわ!」

うるへー。

「しかし、幸せというものは非常に抽象的でもありますし、人の力だけでは掴めない事も多々あります」
「古泉くんの言うとおりね。でも、ううん、だからこそSOS団で協力するのよ。
 1人より2人、2人より3人でしょ?まぁ1匹、人として戦力に数えて良いか分からないのもいるけど」

やけに冷たいヤツだな。まぁ今に始まった事じゃないが。

「なるほど。深謀遠慮。さすがです」
「でっしょー?」

そしてイエスマンとは言えいつになく古泉もハルヒを持ち上げるな。どうでも良いが。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるペース?] 投稿日:2009/12/25(金) 21:10:09.52 ID:j2BojWxD0

「え、えっと・・・誰から幸せにするんですかぁ?」
「そうねぇ。順番はまだ考えてなかったわ」
「そもそも誰が何を幸せと考えているのか分かっとらんだろう?」
「うっさいわねぇ、これから聞こうと思ってたのよ!」

ああ、そうかい。なら大人しくしてるさ。ちなみに今のは植物の名前だ。亜阿相界。

「みくるちゃんの幸せってどんな感じ?」
「ふぇぇ・・・い、いきなり言われてもすぐには・・・」
「やっぱりいろんなコスチュームを着てみたいとかそういうのかしら!?」

それはないだろう。

「じゃあじゃあ、古泉くんは?」
「そうですね・・・やはりすぐにと言われると難しいものがありますが・・・世界平和とか・・・」

古泉よ・・・それは機関としての願いじゃないのか・・・。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[最初からです] 投稿日:2009/12/25(金) 21:13:37.37 ID:j2BojWxD0

「う〜ん。みんな意外とないのねぇ」
「お前は?」
「えっ?」
「だからハルヒ、お前の幸せはなんだ?」

面食らったような顔をしている。なんだ?俺はそんなにおかしな質問をしたか?

「それは興味ありますね」
「そうです〜。涼宮さんにも幸せになってもらわないとですよぉ」

なんだか結婚とか家庭とかそういう雰囲気の言葉に聞こえるな、幸せになれよって。

「確かに言われてみるとなるほど難しいわね。仕方ないわ、これは宿題にします」
「しゅ、宿題ですかぁ?」
「そっ。みんな明日の放課後までにそれぞれ自分の幸せを1つ決めてきなさい!」


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:16:24.93 ID:j2BojWxD0

臨時緊急会議とやらが終わった後はいつも通りの時間を過ごした。

古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんが手ずから淹れてくださったお茶を飲み
ハルヒがわめいたり朝比奈さんに悪戯したりした後、長門が本を閉じて本日の団活は終了。

つつがなく、遅滞なく、滞りない、なんてことのない日常だ。

「心配ですか?」
「ん?ああ・・・どうかな。若干の不安がないとは言えねぇよ」

ハルヒたち女子3人が前で、俺たち男は後ろ。これまたお馴染みの下校風景だ。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:22:47.43 ID:j2BojWxD0

「そうですね。どのような形で涼宮さんが我々の幸せを実らせるのか・・・」

古泉も俺も同じ事を気にかけている。
言うまでもないがハルヒがトンデモパワーを使って何かしでかさないか、という事に尽きる。

「もっとも、今回に関しては世界を消滅させたり、改悪される、という心配はなさそうですが」
「その点ではお前たち機関は安心して見ていられるって感じか」
「ええ。不安視しているのは純粋に僕個人としての見解ですよ」

コイツは超能力者である。しかし閉鎖空間にいない限りは一般人と同じだ。
しかし下手に事情に詳しい一般人ほど大変なことはないという事をご存知だろうか?

俺も一般人ではあるが、古泉のように機関に属したり、そこでなんらかの任務や責任を
負ったりしてはいない。だがコイツは違う。俺と同学年でありながらそれなりに
気を遣ってハルヒに接しているし、ハルヒの情緒を案じてご機嫌取りに奔走しなければならない。

「しかし・・・今回はと言うか、今回もと言うべきか。涼宮さんには驚かされてばかりです」
「そうだな」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:26:30.21 ID:j2BojWxD0

俺より深く首を突っ込まねばならぬ立場にいながら、長門のようなチカラはない。
あくまで一般人として右往左往せねばならんのだ。森さんも、新川さんも、多丸兄弟も。

長門がかつてその心労から暴走した事がある。
古泉にはそれができない。せいぜい自棄酒を呷るくらいのものだろう。

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※未成年の飲酒は法律で固く禁止されています。
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「まぁ、なんだ」
「?」
「今回くらいは、ハルヒのご厚意に甘えておけば良いんじゃないか?」

古泉は鳩が豆鉄砲をくらったような顔を一瞬見せると

「ふふっ、貴方からそのように言われるとは。日頃の疲れも吹き飛ぶというものです」

破顔してそう言った。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:28:59.61 ID:j2BojWxD0

2日目

「みんな決めてきたわね!?」

団員が全員揃って開口一番でそれか。
黒板に団長自らチョークを持って団員を睥睨した。

「じゃあ、有希から!」
「・・・美味しいカレーを、食べたい」
「カレー?」

長門は小さく、しかし確実にコクリと頷いた。
ハルヒはハルヒで唸りながら黒板に「有希 美味しいカレー」と書いていた。

「次っ!みくるちゃんは?」
「え、えっと、その・・・わ、わたしは皆さんが笑顔でいてくだされば・・・その・・・」
「そんなのダメよ!ちゃんと決めてこなかったの?」

そう言うとハルヒはチョークを置いて手をわきわきさせながら朝比奈さんににじり寄った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:32:26.28 ID:j2BojWxD0

「ぴぎぃっ!違うんです!えっと、その・・・ホントはホントはぁ・・・」
「ん?なんかあるの?」
「は、はい。その・・・つ、鶴屋さんと・・・美味しいご飯食べて・・・私の淹れたお茶を飲んでもらって・・・」
「ふんふん」

と、そこまで言って朝比奈さんはなにやらモジモジごにょごにょしてしまった。

「どしたの?それで終わり?」

明らかに続きがありそうだが当の朝比奈さんはまだしどろもどろといった感じだ。

「朝比奈さん?どうかしたんですか?」
「い、いえ・・・違うんです・・・その・・・変な意味じゃなくてあの、その・・・」

謎はますます深まるばかりである。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:35:03.61 ID:j2BojWxD0

「みくるちゃん。もしちょっと言いづらいならアタシに耳打ちしてみなさい?」

そういうとハルヒは朝比奈さんの手を掴んで隅のほうに連行していった。
言いづらいなら聞かないぐらいの度量はないもんかねぇ。団長様よ。
人には誰しも言いたくないことの1つや2つ・・・。

「なぁ〜んだ!そんなこと!みくるちゃんってば恥ずかしがる事ないのに〜!」
「ふぇっ・・・で、でもその・・・やっぱり恥ずかしいと言うか・・・」

耳まで真っ赤になった朝比奈さんを尻目に黒板の前まで戻ったハルヒは勢いよく

「みくるちゃん 鶴屋さんとディナーしてお茶してお泊り」

と書きなぐった。

「す、すすす涼宮さぁん!内緒って言ったじゃないですかぁ!」
「そうだっけ?」

悪魔か、お前は。いや、お前は悪魔だ。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:37:02.23 ID:j2BojWxD0

「良いじゃない。可愛らしいお願いなんだもの。恥ずかしがる事なんてないわよ!」
「そ、そうですかぁ・・・?」
「ええ。大変微笑ましい願い事かと」
「古泉くんまでそう仰るなら・・・」

鶴屋さんと、か。全くもって問題ないはずなのに何故あそこまで照れておられたのか。
逆に勘繰ってしまいたくもなるのだが、ここは朝比奈さんを想えばこそ、自重しておこう。
男女の事、いやこの場合は女女の事、になるのか?ともかく野暮ってもんだからな。

そうこう無駄な思考を巡らせていると勢いよく部室の扉が開けられた。

「やっほー!みっくるー、いるかーい!?」
「つ、鶴屋さん!?」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:39:38.59 ID:j2BojWxD0

噂をすればなんとやらだ。聞き耳でも立てていたんじゃないかと思うくらいのタイミングで
お出ましになられたのはSOS団の名誉顧問こと鶴屋さん。
そして朝比奈さんは止せば良いのにわたわたと手を振って黒板を隠している。

「ん?なんだいなんだい、みくる?そんなに慌ててどうしたのさっ?」
「ちちち違うんです、あのその・・・これは・・・っ」
「んー?」

ここに何かありますとしっぽを振っている子犬とその飼い主を見ているかのようだ。

「なぁーんだ、みくる〜。ウチに泊まりに来たかったのかい?水臭いにょろ!」
「そうよね。友達同士なのに変に恥ずかしがるんだもの」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:43:36.62 ID:j2BojWxD0

当の朝比奈さんは真っ赤になったりおろおろしたり忙しそうだ。
鶴屋さんはと言うと顎に手を当てて何やら考えている。

「よしっ、みくる!今週の土曜の夜、開いてるかい?」
「え?えぇっとぉ・・・?」

そこでハルヒに視線を移したのはSOS団の活動があるのかどうかという確認だろう。

「大丈夫よ。元よりそれもSOS団の立派な活動なんだから!」
「じゃ、じゃあ大丈夫そうですぅ・・・」
「分かったにょろ!いつ来ても大丈夫なように家の人間に言っておくさ!」
「わぁ・・・ありがとうございます」

なんと心温まる情景だ。天使が涙を湛えて喜んでおられる。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:46:02.92 ID:j2BojWxD0

「朝比奈さん、嬉しそうですねぇ」
「だな。それにしてもなんであそこまで恥ずかしがってたんだ?」
「・・・そうですね」

と古泉は小さくため息を挟み、小声で言った。

「・・・現代で、特別な思い出を望んではいけないと、そう思っていたのではないでしょうか」

ありうる話だ。朝比奈さんはいつか必ず未来に帰らねばならない。
だからこちらの世界では男と付き合わないとか、そういう事を昔言っていたからな。
しかしそういう意味ではコイツも同じのはずだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:49:44.35 ID:j2BojWxD0

「なにか?」
「いや・・・なんでもねーよ」

俺と古泉がそうこう話をしてるうちに鶴屋さんは
朝比奈さんへの伝言を終え疾風の如くお帰りになられた。
そして何やらハルヒはどうにかこうにか朝比奈さんを特別仕様にしたいらしい。

なぜかって?決まってる。

今週の土曜。それは世間に言うクリスマスイブってやつだからな。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:53:32.32 ID:j2BojWxD0

3日目

さて、昨夜はハルヒがインターネットで様々な意匠の衣装を朝比奈さんに見せては勧めていた。
何点か気にはなっているようだったが、結局その顔を縦に振る事はなかった。
朝比奈さんとしてはあまり肩肘張らずにあくまで「普通の友達同士として」時間を過ごしたいようだ。

「ねぇ、キョン」
「あん?」
「昨日はみくるちゃんのことで盛り上がっちゃったけど
 有希の幸せのこともちゃんと考えておかなくちゃね」
「ほう、忘れてなかったのか」
「殴るわよ」

まあ、冗談はさておき。美味いカレー、か。簡単なようで難問じゃないか?

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:55:47.86 ID:j2BojWxD0

「でも有希って普段、レトルトのカレーとか食べてるんでしょ?
 なら簡単よ!アタシたちが行って、作ってあげれば良いんじゃないかしら!」
「お前にしてはまともな考えだ。それなら長門も喜びそうだしな」
「アンタはいつも一言よけーなの。材料とか有希の家にあるかしら」
「その辺は放課後にでも長門に聞いたら良いさ」

それもそうね。とハルヒが相槌をうつと担任が教室に入ってきた。
やれやれ。今日も楽しい昼寝の始まりだ。

古文も数学も化学もある程度のレベルまで学ぶとあとは専門課程にでも
進まない限りは日常生活で死ぬまで使う事はないだろうなどと考えるのは浅はかであろうか。

仮に文部科学省のお偉いさん方が若者が日本の未来を切り拓くために云々などと
言われても所詮は夢も希望も特に持たない一学生には関係があるとは思えない。

何が言いたいかというと、よく寝た。という事だ。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 21:59:18.14 ID:j2BojWxD0

本日の議題は昨日に引き続き朝比奈さんのコーディネートについてだった。

とは言うものの、さすがのハルヒも朝比奈さんの頑ななまでの拒否反応に考えを改めたらしく、
普段着でも小物や靴、髪型を少しいじると言う妥協案に出た。

癪にさわるがハルヒのそういったセンスや見る目が確かであることは
これまでの経験からして間違いない。

ということで、もはや朝比奈さんの幸せに関してはハルヒに任せておく事にする。
こういう時は素人が下手に口を出すと痛い目にあうだけと相場が決まっているからな。

「涼宮さん、楽しそうですねえ」
「あぁ、コーディネートし甲斐もあるだろうしな」
「そうですね。僕としては非常に心休まる光景ですよ」

かみ殺しきれない苦笑が口をついて漏れた。が、それを誤魔化すように俺は話題を変えた。

「長門」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:02:20.04 ID:j2BojWxD0

「なに」
「お前ん家にカレーの材料ってあるのか?」

1秒ほど思案を巡らせた長門は簡潔に教えてくれた。

「ない」

・・・やっぱりな。

「ちょっとキョン!何を勝手にアタシ抜きで話を進めようとしてんのよ!」
「別に進めちゃいねーよ。長門家の冷蔵庫状況について質問しただけだ」
「ふん!まぁ良いわ。それで?材料はあるの?」

ないそうだ。長門が無駄な買い物をするとは考えづらかったし予想通りだな。

ふむ・・とハルヒはまたもや思案顔だ。
いかにも小難しそうな事を考えてますって顔してるがきっと大した事はなかろう。

たちの悪いことを考えてないと良いのだがという俺の期待もむなしく、
そして実にマズい事に、ハルヒはまさしく閃いたような顔で俺を見るのだった。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:04:24.04 ID:j2BojWxD0

「なあ古泉」
「なんでしょうか?」
「今回の件、機関はなんと言ってるんだ」
「変わらず静観ですよ。あまりに涼宮さんがおとなしくしてくださっているため、
 有給休暇を取っている者までいる始末です」

有給休暇なんて機関にあったのか・・・と言うか給料出てるのか?

「ふふっ。いわゆる禁則事項、というやつですよ」
「うるへー。お前がやっても可愛くもなんともない」
「残念です」

確かに今回は他人様に迷惑をかけている訳でもなく、
よって俺たちは世界の破滅を憂う事はない。それは間違いなく良い状況だ。

しかし俺は明日土曜、つまり12月24日の事を考えるとかなりブルーにならざるを得なかった。
それが長門の幸せのためと分かってはいるのだが・・・。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:07:35.26 ID:j2BojWxD0

4日目

美味しいカレーとは一体どのようなものだろうか?

今や日本の国民食として不動の地位を勝ち得て久しいこの料理は
全体的に見ると非常にシンプルながらそのバリエーションはまたに細緻に渡る事は
誰しも知るところだろう。

にんじんを飴色になるまで炒める。シーフードは認めない。
りんごやハチミツを入れる。隠し味に醤油。そもそも市販のルウを使わない、などなど・・・。
言い出せばキリがない。
そして我らがSOS団の団長たる涼宮ハルヒが美味しいカレーと言われて思い至ったのは
なぜか「朝取り野菜を使う」であった。


そこかよ!

もちろんそれを受け取りに行くのが俺なのはもはやデフォルトであった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:09:21.52 ID:j2BojWxD0

朝日も眩しい朝6時。
そもそもカレーに使う野菜として代表的なニンジン、ジャガイモ、玉ねぎがこの季節に採れると思ってい

るのか、ハルヒよ?

案の定、どこの畑を見渡しても茶色茶色で新鮮な野菜の気配すらしない。

24日とは言えまだ夜ではない。つまり聖夜ではない。
だがそれを差し引いても俺はこの農村地帯で完全に浮いていた。

時折すれ違うご老人に取れたて野菜があるかどうかを聞くのは大変勇気がいるものだったし、
ご老人の何を言っとるんだ的な冷ややかな視線に耐えるのもなかなか堪えるものがあった。

それでも人の良さそうな老夫婦が直近の野菜直売所まで軽トラの荷台に載っけて
連れていって下さったのには涙が出そうな程嬉しかった。
心身ともに寒さで凍えきっていたからな。

バスに揺られ電車を乗り継ぎ自分の街に帰ってくる頃には正午に差し掛かっていた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:11:23.70 ID:j2BojWxD0

「あ、キョンさんですよ。佐々木さん」

とどこかで聞いた事がある声がした。

「キョン?」
「佐々木。それに橘じゃないか。奇遇だな」
「そうだね。僕としては悪い気分ではないよ」
「キョンさん、その両手の荷物はどうしたんですか?」

ホントにな・・・。俺は佐々木と橘にハルヒの思い付きと今日、俺に課せられた任務を説明してやった。

「へぇ、あの涼宮さんがかい?意外だね」
「涼宮さんにしては建設的ですね・・・でもそのためにキョンさんが
 野菜を買い付けにまで行くのはどうかと思いますが」

珍しいな、お前と同じ意見だよ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:13:35.34 ID:j2BojWxD0

それで、お前たちは?女子2人でクリスマスイブにデートか?
それとも佐々木団で集まるのか?

「佐々木団ってなんですか・・・」
「そりゃ決まってるさ。佐々木、橘、周防、それとガラの悪い未来人の4人を
 ひとまとめに呼ぶための呼称だ」
「キョン、4人ひと山いくらみたいな言い方は止してくれたまえ」

そうだな。確かに友人をあの未来人と一緒くたにするのは悪かった。謝る。スマン。

「まぁ僕たちはキョン、君の察しの通りだ。橘さんとデートだね」
「さ、佐々木さん・・・恥ずかしいですよ!」

なんだか鶴屋さんと朝比奈さんのようなやり取りだな・・・。

「そういう事なら邪魔したな。またな」
「あ、・・・キョン!」
「・・・行っちゃいましたね」
「そんなに急がなくても良いのに・・・」
「ふふー、佐々木さん?」
「な、なに?」
「ふふふ、可愛いですね、乙女です!」
「もう、た・・・橘さんてば・・・」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:16:51.01 ID:j2BojWxD0

どこもかしこも、視線の先にはクリスマスのなんちゃらだ。
緑や赤、金に白。それに真っ昼間から意味があるのか分からないイルミネーション。
疲れた身体でも自然と足が速くなるのだからこれかこれで良しとするか。

「キョン、遅い!」

なんで右肩上がりのテンションに冷や水をぶっかけるような事を言うかね、コイツは。
というか待ち合わせで俺に対してこれ以外の言葉をかけたことがないんじゃないか?

「これはこれは・・・まさしく豊作、というところでしょうか?」
「へぇー、キョンにしちゃなかなかやるじゃない。珍しくSOS団の役に立ったわね!」
「そうかい」
「よし、じゃあまずは有希の家に行くわよ!」

今日の目的その1。いや、もう俺的にはミッションコンプリートって感じなのだが。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:19:34.45 ID:j2BojWxD0

長門宅

「やっほー!来たわよー!って相変わらず寂しい部屋ねぇ」

余計なお世話だと言いたいところだが、確かに物が少ないのは変わりないな。

「それじゃあ、有希は包丁使うの得意そうだから野菜切ってもらえる?」
「了解」

「古泉くんは玉ねぎ半分くらい弱火で炒めてくれる?焦がさないようにね」
「かしこまりました」

「みくるちゃん、お肉炒めてちょうだい」
「はぁーい」

「キョンはーお米でも研いでおいてくれる?」
「あいよ。で、お前は何するんだ?」
「アタシは司令塔よ。みんなのバランスを取るのが団長の務めなんだから!」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[2時間で40レスとかね] 投稿日:2009/12/25(金) 22:22:07.16 ID:j2BojWxD0

なんだかんだと言いながらハルヒのいう事は理に敵っている。
全員が個別に動いて1つの料理を作るというのはなかなかに困難だからな。
現に肉を見ては胡椒が足りないと調整したりしている。

「えぐっ・・・ふえぇ・・・涙が止まらないでしゅ・・・」
「玉ねぎ切ってる有希は泣いてないのになんで一番遠いみくるちゃんが泣くのよ!」
「しょ・・・しょんな事言われてもぉ〜」

最早お約束とも言えるな、この展開。さすが朝比奈さんだ。

ハルヒの采配がピシャリと当たり、調理は至ってスムーズに進んだ。

俺としては朝比奈さんに炒めを任せるのは正直心許なかったのだが
その辺はハルヒも心得ていたようで重点的に朝比奈さんを見ていた。
意外とこういうところで卒がないヤツである。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[支援ありがたい] 投稿日:2009/12/25(金) 22:25:42.28 ID:j2BojWxD0

「わぁ、いい香りですね〜」
「これでアタシ特製のカレー粉を入れたら完成よ!」
「涼宮さんのオリジナルなんですか?」
「ふっふーん、まぁね!市販のとは香りもコクも大違いなんだから!」

長門も心なしかそわそわしているように見える。
理論的にはレトルトで十分とか言っているが、
やはりこうして自分たちで作ったものは格別だろう。

「じゃあこれで夜まで寝かせて、食べる前にもう1回温めて食べるのよ、良い、有希?」
「・・・・・・・・・・・・わかった」

その間はなんだ、長門。

「よし、それじゃ今度はみくるちゃんよ!」
「ひゃいっ!?」


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:30:01.58 ID:j2BojWxD0

おいおい、少しくらい休む時間があっても良いだろう?

「甘いわよ、キョン!時間は有限なんだからね!ましてや今日はクリスマスイヴなんだから!」
「そうだが・・・俺は朝から走り回ってなかなかにクタクタだぞ」
「男がだらしない事言うんじゃないの!ほらほら、行くわよ!」

カレーの準備が終わるやいなや、街に繰り出し朝比奈さんに合う小物を探し始めた。
時間は午後3時。鶴屋さんとの約束の時間は7時だから残り4時間という事になる。
ハルヒの言うとおり、時間は有限だった。

「わぁ、可愛いですね〜」
「うん思ってた通り。みくるちゃんは大きめのアクセサリーでも映えるわ。これとかどう?」
「よくお似合いですよ。さすがは涼宮さんですね」

悔しいがさすがハルヒ。だがそもそも素材が良いのだという事を忘れてはならんのだ。
結局あれこれと見て総合的に本日のコーディネートを決定した頃には
時計は6時50分を回っていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:33:03.30 ID:j2BojWxD0

「キョン、急ぎなさい!間に合わないわよ!」
「うるせぇ!言われなくても全力でこいでる!」

俺と古泉の2人は揃って自転車タクシーになっていた。
無論、朝比奈さんを鶴屋邸に連れて行くためである。
俺の後ろにはハルヒ。そして古泉の自転車の後ろにめかしこんだ朝比奈さんだ。

「はぁ、はぁ・・・古泉よ、今何時だ?」
「・・・はぁ・・・ふう・・・18時57分、ですね」
「これは・・・最短記録更新だろう」
「違いないです」

息も絶え絶えに、しかしそれでも笑顔を絶やさない古泉の気概には感心を通り越して尊敬に値する。
まぁ絶対、口にしては言わないんだが。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:36:23.18 ID:j2BojWxD0

「これでみくるちゃんの幸せも叶えてあげられそうね」
「そうですね。後は朝比奈さん次第、という事でしょうか」
「結局は後押ししかしてあげられないのって傲慢なんだけど歯がゆいわね」
「いえ、その後押しが必要な人もいるのですから。特に朝比奈さんのような人は」

後押し、か。ひとまずこれで朝比奈さんの件は終わった、と。やれやれだ。
そういえばハルヒは俺はともかくとして古泉に聞いていない。
男は最初から数に入ってなかったのかね。まぁ、疲れたからもう良いんだが。
今頃長門も―――

カレー。

何か引っかかる。腑に落ちない。

カレー。美味しいカレー。長門の願った幸せ。

・・・・・・!

「ちっ、相変わらず俺は鈍くて仕方ねぇな」
「どう、なさったんです?」
「くそっ」

俺は自分の迂闊さを呪いながら携帯に手をかけた。
2回の呼び出し音で長門が出た。いつも通り無言だ。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:40:04.95 ID:j2BojWxD0

「長門か?俺だ」
『・・・』

「今、そこに誰かいるか?」
『いない。私1人』

「カレーは?」
『まだ』

「・・・この後、喜緑さんが来たりとかは・・・」
『そのような予定はない』

「わかった。今からそっちに行く。それまでカレーは食うなよ」
『・・・了解した』

最後の長門の応答には疑問の意思が見え隠れしていたがそんな事は気にしてはいられない。

「ちょっとキョン!どこ行くのよ!」
「もう朝比奈さんのも終わったし、活動はここまでだろ?お先に失礼するぞ!」
「あ、こら!待ちなさい!キョン!・・・もう、なんだってのよ」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:43:27.90 ID:j2BojWxD0

「随分とお急ぎでいらっしゃいましたね。もしかして約束でもあったんでしょうか?」
「んー・・・まぁ、良いわ。確かにキョンの言うとおりみくるちゃんの件も終わったしね。」

「そう言えば古泉くんの幸せって何かある?これからで良ければできるだけの事はするわよ!」
「本当ですか?」

「もちろんよ!なになに?」
「僕の幸せは、涼宮さんがずっと笑顔でいてくださる事です」
「えっ・・・」

「そして・・・出来ることならこれからもずっと、涼宮さんの笑顔をお守りしたいと、心から思っています」
「古泉、くん・・・」
「僕では力が足りませんか?」
「そ、そんなんじゃ・・・なくて・・・その・・・えっと・・・」

「ずっと、涼宮さんのことをお慕いしておりました」
「・・・!!」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:45:27.66 ID:j2BojWxD0

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ちょっと疲れていたからってなんの言い訳にもならんぞ。
少しでも頭と気を回せば気づくだろうが、こんなもん!

今日1日で一体俺は何キロ移動してるんだろうねえ。
万歩計でもつけてくるんだったぜ。それかGPSによる追跡とかな。

コートの中は汗ばんで気持ち悪い事になっていた。
それでもこの時間で移動しきれた今は、自分で自分を褒めてやりたいね。

2,3回深呼吸して息を整えてインターホン。
相変わらず無言で応じるのが今、この瞬間だけは少し申し訳なく思った。

「俺だ」
『入って』

カレーを作り終えてから5時間強。俺は再び長門の部屋にいた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:47:45.23 ID:j2BojWxD0

「よし、そんじゃカレー食うか」
「了解した。でも聞かせてほしい」
「ん?」
「・・・なぜ?」

そりゃなぁ、長門。決まってる。

「1人で食べるカレーほど不味いものはねーからな」
「・・・」
「非科学的でおかしいと思うか?」
「情報統合思念体の回答としてはそう。でも」

そう言って少しはにかみながら嬉しそうに俺を見てこう続けた。

「私個人としては誰かと食べた方が、美味しいと感じられると思う」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:50:32.30 ID:j2BojWxD0

もうコイツはデジタルで無機質な対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースじゃない。
長門有希っていう1人の立派な「人間」なんだ。

「よし、じゃあ早速カレー食おうぜ。俺もう腹ペコだ」
「私も」

ハルヒの特製カレー粉のおかげか、はたまた俺が買ってきた野菜のせいか。
それとも肉体労働による空腹のせいか、長門と2人で食べるカレーだったからか。

とにかくカレーは人生で一番と断言できるほど美味かった。
長門の顔も満足しているように見えたのが今日一番の収穫かもしれん。

「じゃあ帰るな、長門。またな」
「また」

そう言って俺は長門のマンションを後にし、家路に着いた。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:53:08.03 ID:j2BojWxD0

長門の願った美味しいカレーが、「味覚的な美味しさ」なのか
「それ以外の意味を持つ美味しさ」だったのか。それは俺には分からん。

だがたまには、他人と一緒の食卓を囲むってのは良いもんだって事を
長門に伝えられる事ができていたのならそれ以上の事は良いのさ。

そして今日一番の驚き、衝撃を受けたのはその後だった。

「おや」
「古泉、とハルヒ?」

いい加減自転車をこぎ疲れ、カップルに溢れかえる駅前の繁華街を俺は自転車を押して
進んでいたのだが、なんとそこには初々しくも手を繋ぎ、顔を赤らめながら人ごみを泳ぐ2人がいた。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:55:02.63 ID:j2BojWxD0

「珍しい組み合わせ、と思ったがそうでもないか」
「な、なによ、それ・・・」

しおらしいハルヒというのはなかなか新鮮味があるが、なかなかどうして。
ハルヒは黙って座っていれば文句の付けようのない美人だし、
古泉も(俺からすれば胡散臭いが)笑顔の似合う爽やか二枚目なのだ。
まさに絵になる美男美女カップルというヤツである。

「ふむ、そうか。まぁなんだ。月並みだがお幸せにな」
「え、あぁ、うん。あり、がとう」

古泉の方は相変わらず微笑を貼り付けているが心持ち複雑そうだ。
そりゃそうだろう。今までの事を考えればな。
だがこいつはハルヒの事をよく理解している、というかプロフェッショナルなのだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 22:57:52.10 ID:j2BojWxD0

「あのな、ハルヒ」
「な、なに?」
「古泉はお前が思う3倍良いヤツだぞ。あんまり困らせるなよ」

驚いて目を大きく開いた2人を横目にじゃあなと俺は肩越しに手を振って別れた。
しかしまぁ意外も意外。狐につままれたような気分だな。

「ん・・・あれ?これってつまり、SOS団の中で・・・・・・俺だけ何もなかった?」

長門のために早朝農地へ赴き野菜を入手し、朝比奈さんのために猛然とチャリをこいだ。
そして終わってみたらハルヒと古泉は2人仲良く夜の街に消えていった、と・・・。

「なんか・・・冷えてきたな・・・帰ろうか・・・」

心身ともに血も涙も凍りそうになるほど寒くなってきたので俺は1人寂しく家路についた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:00:47.84 ID:j2BojWxD0

「どうしたんだい、そんなこの世の終わりみたいな顔をして」
「佐々木・・・?」
「奇遇だね、とは言えないな。ここで君を待っていたから」

待ってた?ていうか良くここを通るって分かってたな。

「なんとなく、というやつだ。それとも橘さんが言うようなすごい力のおかげなのかな?」
「ふっ、お前がそんな冗談を言うなんてちょっと意外だな。聖夜に浮かされてるのか?」

いや、今日はそれくらいどうってことないほど意外な事続きだ。
佐々木のジョークなんて客観的に見てそんなに大変な事でもないかもしれん。

「それで、そのおめでたい聖夜に君は随分ひどい有様じゃないか」

喉をくつくつと鳴らしながら指摘された俺は、ふと自分を見てみた。

「・・・こりゃひどいな。我ながら」

佐々木はまだ笑っている。
デニムの裾は土で汚れたのか茶色くなっていたし、コートの中に着ているシャツは
自転車をこいだ時の向かい風でエリがひっくり返っていた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:03:30.02 ID:j2BojWxD0

「キョン、服装だけじゃなく髪の毛も少しおかしくなっているよ。どれ、直してあげよう」
「ん?いや別にそんな―――」

制止する間もなく佐々木はするりと俺のすぐ前に立ち、手を伸ばしてきて反射的に俺は目を瞑る。
こうなったらなされるがままだ。ハルヒと違って悪い事はすまいと変な腹をくくった。

などとしている内にふわりと良い香りが鼻孔をくすぐり、なにかが俺の両肩に乗った気がした。

「―――佐々木、これは?」
「ん?見て分かるとおり、マフラーだよ。なかなか似合っているじゃないか」

いやそれは分かる。だがどうしたんだ?
それにこれはお前のだろう。お前が寒くなったりしないのか?

「違うよ、キョン。昼間、橘さんと一緒にいただろう?あの後、君へのプレゼントとして探したんだ」
「・・・って事はこれは」
「くっくっ、そうだよ。泥だらけのサンタさんに、僕からの贈り物だ」
「佐々木・・・」

そこで俺の携帯のバイブが鳴った。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:05:51.79 ID:j2BojWxD0

「ん、長門からメールだ」

そこにはいかにも長門らしい明瞭簡潔な一文が記されていた。

『今日は、ありがとう』

さらには他に2通、気づかなかったがメールが届いていた。

『キョンくん、今日は本当にありがとうございました。メリークリスマス♪』
『今日もお疲れ様でした。良いクリスマスをお過ごし下さい。
 (涼宮さんは口にしませんが貴方に感謝しているようですよ)』

慰労と感謝のメール。手軽で簡単なコミュニケーションツール。
なのに何故だか今日一日の疲れが全て吹っ飛ぶような清々しさを、俺は感じていた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:08:02.31 ID:j2BojWxD0

「キョン、知っているかい?」

佐々木が覗き込むように言った。

「この世で一番素晴らしい贈り物はね、『感謝』なのだというよ」

俺の目を見て、疑問を読み取った佐々木は続けた。

「欲しい物はお金さえあればなんでも買える、そんな世の中だからね。
 でも人の心は買えない。だからこそ、人の感謝の気持ちはとても貴いものなのさ」
「・・・そうか。なら俺はもしかすると、世界で一番幸せかもしれんな。
 SOS団の皆に感謝されて、佐々木にはマフラーまでもらっちまったからな」
「そうかもしれないね」

くつくつと笑って俺から跳ねるように少し距離を取った佐々木は控えめな笑顔で
俺もつられて笑顔になって言った。

「「メリークリスマス」」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:09:14.84 ID:j2BojWxD0

    ._
     \ヽ, ,、
      `''|/ノ
       .|
   _   |
   \`ヽ、|
    \, V
       `L,,_
       |ヽ、)      ,、
      /        ヽYノ
     /        r''ヽ、.|
    |         `ー-ヽ|ヮ
    |           `|
    |.            |
    ヽ、          |
      ヽ -‐ '´ ̄ ̄`ヽ、ノ
    /´  _        ヽ\
   ./ / /仏∠! } }   トハ    う、うそ・・・
   /l lレィ┿!   j┿テトj/リ! ミ}
   |∧ |j-'==  =='イ  l   {   で・・・でばん・・・わたしのでばんは・・・
    |ヽ} | |、_,、_, | |│ ハ彡|
    | 八 | |. {  } | |_l /ノ  !
    | lr'⌒)、._ ̄_ (´ j //  i |     ┼ヽ  -|r‐、. レ |
    l/ヾ三} l___/{彡'´}  i |      d⌒) ./| _ノ  __ノ
    |l   ノl |二//|   l  ,イl|
    | ゝー' ∧! //∧__j / l |

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/25(金) 23:12:31.78 ID:j2BojWxD0

>>64
いま終わったぜ
俺のレスが52/65とかクソワロスwww

駄文だったが読んでくれた人、支援してくれた人サンクスな!
あと昨日、途中まで付き合ってくれた人はゴメンな!



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