涼宮ハルヒのなく頃に


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:21:35.51 ID:hLKMGPPZ0

世界がこむらがえりを起こしたような事件から約一年。
未来人、宇宙人、超能力者などなどが集うこの妙な集団も何の代わりもなく行動力抜群の女団長に従って過ごす日々を送っていた。
まぁ、冬の雪山で新・宇宙人に監禁されたり、いけすかないキザな未来人と遭遇したり、
中学の時の同級生を神だと崇拝する超能力者に我が団のマスコットを誘拐されたりなど、イベントには事欠かない年だったがな。
そうこうしながらも、わりと気の緩みがちな二年目の高校生活はある圧倒的な存在によってハラハラの連続であっという間だった。
ようやく落ち着いたかと思えば、北風が勢いよく吹く、寒々しい季節になり、100Wの笑みで「今年もやるわよ!鍋パーティー」などと発言するやつがいるのだから事件が起きないはずもない。
しかしだ、今年起こった事件の原因は、団長でもなければ、未来人、宇宙人、超能力者のいずれでもない、これまでで最も悪質な事件であった。


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:22:25.31 ID:hLKMGPPZ0

12月17日(THU)
どんよりとした曇り空が冬の寒さをより強いものにしていた。
放射冷却なんていう言葉はおよそ1月の中頃までは縁のない話だろうし、そもそもこの中途半端な寒さで雨でも降れば誰かさんの機嫌がマイナスのメーターを振り切りそうだ。
どうせ降るなら雪が降ってくれ。
早朝の強制ハイキングコースを歩きながら俺はそんなことを思った。
「おっす、キョン。今年も涼宮たちと何かするんだろ?」
挨拶代りに、おそらくクリスマスの予定を聞いてきたのは谷口だった。
何かするのか?さぁな、ハルヒに直接聞いてくれ。
「とぼけんなって、あの一年中何かしら事件を起こす女がクリスマスに何もしないわけがないだろう」
やれやれ、全くその通りだろう。
「今年も鍋パーティーをやるとか言ってたな」
俺はそれをいかにしてごく普通の鍋物にするかで頭がいっぱいだ。今年もあの陽気な上級生を頼るべきだろうか。
「なぁ、それに参加させてくれよ。涼宮はどうでもいいんだがな」
「言っておくが、朝比奈さんに何かしたらすぐに追い出すからな」
俺がそう忠告すると、分かってないな、といった風に首を動かす。
「あの人には強力なボディーガードがついてるだろ、あの」
なるほど、鶴屋さんのことか。あの人はいよいよそういう役回りらしい。
「だが、長門、だったか?あいつはどうだ」
谷口は自慢げに人差し指を立てて説教を始めた。
「あんまりしゃべらねぇし、何考えてるかわかんねぇけど、顔は他の女子に比べていいからな・・・オぶッ」
「お前の気持ちはよく分かった。今年は出禁にしてやるからな」
カバンを顔面にクリーンヒットさせて俺はレッドカードを谷口に叩きつけた。
「くそ、お前だけであのハーレムを独占するつもりか」
残念ながら男は古泉もいるんだよ。
「さてはお前涼宮だけでは飽き足らず他の女も・・・おい、待てよ」
俺は谷口の言葉を無視して、慣れた坂道を登って行った。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:24:16.70 ID:hLKMGPPZ0

「うーん、クリスマスに鍋パーティーか」
国木田と抱き合わせで潜りこもうという作戦か、谷口は国木田にそんな話をしていた。
「今年はもう予定があるんだけどな」
指をあごにあてて、考えるように空を見ていた国木田はのんびりとそんなことを言った。
「なんだ?彼女か」
「うん」
谷口の問いにあっさりと頷く国木田。谷口はわなわなと震え
「キョンに続いてお前まで俺を裏切ったのか!」
「あ、じゃあ今年は出来なかったのか」
国木田は少し驚いたようにそう言った。流石に少しイラッと来たぞ、俺も
「でも、キョンには涼宮さんがいるじゃないか」
だからハルヒはそんな関係じゃない。どちらかというと加害者と被害者だ。
「ふーん」
国木田は納得したように首を縦に動かすと
「でも、彼女クリスマスはバイトだって言ってたから良ければ参加したいな」
余裕たっぷりに笑顔で俺にそう言う国木田の横で恨めしそうに谷口が呟いた。
「もう死んじまえよ、お前ら」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:25:14.85 ID:hLKMGPPZ0

その日の放課後、俺はいつものように部室へと向かい、鍋パーティーへの参加希望があったことをハルヒに告げた。
「ふーん、まぁいいわ。鍋運んだりとか、男手はあったほうがいいものね」
と少し不満そうに了承した。
メイド服でせっせと問題集を解く朝比奈さんもそれを聞いて顔を上げ
「あ、鶴屋さんも参加したいって言ってました」
と、愛らしい笑顔で友人の参加を希望する。今日も素敵です、朝比奈さん
「鶴屋さんは名誉団員だもの。でも、受験とか大丈夫なわけ?」
ハルヒの心配ももっともで、そもそも朝比奈さんがこんなところに今メイドルックでいることこそが不安でしょうがない。
「あ、それは大丈夫だって言ってました」
まぁ、あの先輩は受験がどうこうであわてるような人ではないだろう。どんな一流大学にもあっさりと受かってしまうに違いない。
「それなら今年もにぎやかになりそうね」
満足げに笑うハルヒに一抹の不安を覚える。
くれぐれも普通に、だ。頼むから
奥で古泉が「善処します」とアイコンタクトを送って来た。
やれやれ。やつにできるのはせいぜい今年は夜に部室で鍋パーティーを開く許可をあの生徒会長から持ってきてもらうくらいだろう。

そして、その日は何事もなく解散し、何事もなく家に帰りついた。
いや、実際にはすでに事件は起こっていて、全てが始まり始めていたのだ。
そんなことには気づけないまま、俺は夕方には降りだしていた雨が軒を打つ音を聞きながら眠りについてしまった。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:26:15.30 ID:hLKMGPPZ0

12月18日(FRI)
目が覚めると雨は降り続いていた。
憂鬱な気分に目をこすりながら俺は顔を洗い、いつものように支度を済ませて出かける。
傘をさしていても、着ているコートに風で飛ばされた雨粒が斑点を作っていた。
「おっす、おはようさん」
嫌にさわやかな笑みを浮かべて、足元を濡らした谷口が話しかけてきた。
「どうだった?参加出来るのか?」
こいつはそんなことを楽しみに、そんなさわせそうな顔をしているのか。
「ちゃんと働くこと、だとさ」
ため息交じりにそう言ってやると谷口は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌だった。
「それで、教えろよ」
声をひそめて谷口が俺に囁く。一体何をだよ
「何を、って。きまってるだろ?」
一体なんだって言うんだ
「長門だよ。あの無口な美少女の好きなものを教えろって」
さあな、意外と奇妙な生命体に興味を持つかも知れんぞ
「なるほど、そんな趣味もあったのか」
俺はそんな話聞いたこともないがな
「じゃぁ、一体何がいいんだよ」
しつこいクラスメートの顔が近くなる。やめろ、俺にそっちの趣味はない。
「本じゃないのか?あいついつも何か読んでるからな」
顔を払いのけるようにして俺がそう教えるとあっさりと身を引いて
「よし、それなら後は買うだけだな。国木田にでも聞いてみるか」
と言って、クラスを見渡す。
「ん?なんだ、国木田のやつ遅いな」
朝のHRまであと2分を切っていた。いつもならもうとっくに着いている時間だ。何かあったのか?
国木田不在のまま担任は教室に現れ、さらに不思議なことに担任はそのことには一切触れなかった。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:27:14.90 ID:hLKMGPPZ0

結局放課後になっても国木田は現れず、その理由は帰り際に重々しく、担任の口から発表された。
「突然で悪いが、実は昨日国木田が事故にあって亡くなった」
しん、と一瞬の静寂の後、クラスにいた全員が思い思いの疑問を担任にぶつける。
俺は、担任の言ったことの意味に気付くのに、皆より5秒ほど遅れ、それでも一体何が起こったのか正確に理解できなかった。
俺はとっさに後ろを見た。
ハルヒも俺同様、担任の言った言葉の意味が理解できていないらしく、眼を大きく見開いていた。
「昨日の帰りに、車にはねられたらしい。天気も悪かったからな、各自気をつけるようにな」
質問の波にのまれながら担任はそれだけを言うと教室を出た。
後に残されたのは、ざわめきの集まりだった。

「まったく、信じられない!死んだのよ!人が!」
ハルヒハその日一日中ご立腹だった。何に対してかと言えば、帰り際のあの担任岡部のそっけない態度であり、
もう一つは、少なからずハルヒには親しい部類の人間に入るだろう国木田の死が納得いかないらしい。
「残念ですが、亡くなってしまった以上、生き返ることはありません。彼女もそのことを一番よく理解しているのでしょう」
古泉が、神妙な面持ちで俺に耳打ちをしてきた。
あぁ、分かってるさ。あいつが死人を蘇らせちまうような奴じゃない事くらいな
「しかし、雨が降っていたとはいえ非常に残念です。彼は僕の数少ない友人でもありましたので」
笑っていない古泉の顔が、心に妙なもやもやを起こした。
俺自身、国木田が事故で死ぬなんて夢にも思っていなかったせいもあるだろう。
なんでこんなことに
俺がどうにかできたことではないのだろうが、悔しくて仕方がない。そんな気分だ。
「こんなときになんですが、このことで僕はバイトにかなければならなくなりました」
古泉は囁くようにこう言い残した
「彼女のフォロー、よろしくお願いします」
ハルヒは、団長席にあぐらをかいて、文句を怒鳴り散らしながら窓の外を見ている。
まだ灰色の雲が分厚く残っている。それが一体誰の何を隠しているのか。
俺は一度、古泉と一緒に部室を出ることにした。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:28:14.96 ID:hLKMGPPZ0

バイトへ向かう古泉を見送り、部室に戻るとハルヒは帰り支度を始めていた。
朝比奈さんも長門も先に帰ってしまったらしい。
「ほら、何ぼさっとしてるの!帰って用意するわよ」
ハルヒは不機嫌そうに俺に向かって、カバンを投げつける。
「多分、お通夜は今晩でしょ」
元気なく、少しうつむいてハルヒが言った。
なるほど、そういうことか
思わず、笑みがこぼれた
「何笑ってるのよ」
悪いなハルヒ。今俺はお前のおかげで少し気が楽になっちまった。

その晩、国木田宅に向かうと、SOS団のメンツを始め、谷口、鶴屋さんとも顔を合わせることになった。
「なんていうか、こういう湿っぽい雰囲気は苦手なんっさ」
困ったような笑顔を俺たちに見せる上級生はそれだけで頼もしく
「う、うっく」
我慢しきれず、涙をこぼし始めた上級生を優しくなだめるハルヒを見て、あぁ、国木田お前は幸せ者だよ、などと言ってやりたい気分になった。
「ったく、なんで死んじまったんだか」
谷口も普段は見せないような真剣な表情だった。
「たかが、たかが車にひかれたくらいで、死ぬのかよ」
ドン、ブロックの壁を叩いて谷口はどこかへ歩いて行った。
そういえば、あいつはいつも国木田と居たな。その分、いなくなったのが信じられないのだろう。
こんな光景を見てようやく、夕方には他人ごとだった現実が色をつけ始めた。
「ほらっ、キョンくんも元気出してっ!そんなんじゃ彼も安心できないよっ」
鶴屋さんは笑顔だったが、表情は硬い。こういうときにどうすべきかを知っているから、進んで笑っているのだ。
俺は、真似して笑顔を作ってそれに答えた。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:29:14.01 ID:hLKMGPPZ0

「それじゃっ、皆気をつけてっ!」
鶴屋さんは朝比奈さんと一緒に、残りは途中まで一緒に、文字どうりいつも以上に周りを気にかけながら帰宅をする。
「なんで死んじまったんだよ」
目を真っ赤にはらして、まるで酔ってでもいるかのように谷口はそれだけを繰り返す。
ハルヒは、誰も近づくな、というオーラを出しながら先頭を歩き、その後ろを長門と古泉のペアが何やらこそこそと話しながら歩いている。
「谷口、元気出せ。その、なんだ」
慰めの言葉というのはこういうときのためにあらかじめ用意しておいたほうがいいのかもしれない。
とにかく、俺以上に、いや、俺たちのクラスで一番落ち込んでいるであろう谷口になんと言えばいいのか皆目見当もつかなかった。
「元気出せ?どうやって」
悔しそうに、そんな表情で谷口は俺をにらむ
「死んだんだぞ、国木田は」
分かってる、分かってるんだ。そんなことはわかってるんだよ、谷口
「それなのに、あの上級生は・・・あの……」
何かを言いたそうにもぞもぞと口を動かして、俯く。
「」
「谷口!」
直感的に、谷口が何か言おうとするのを止めた。
「あの人はあの人で、俺たちを元気づけようとだな」
「分かってるよ、それくらい」
そう返事をした谷口は反省するように視線を落とし、
「悪かった」
と、呟いた。
もしかしたら谷口は、俺が感じたような悔しさを誰よりも感じているのかもしれない。
やがて、通夜帰りの一行は、俺とハルヒだけになり、そのハルヒもずっと押し黙ったままだった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:30:31.56 ID:hLKMGPPZ0

12月19日(SAT)

翌日、クラス内を気まずさと、暗い沈黙が支配していた。
国木田の使っていた机は、花が置かれることもなく撤去されていて
「誰だよ!国木田の机を勝手にどかしたやつは誰だよ!」
と、登校してすぐにカバンを落とした谷口が大暴れしたのがそれを手伝っていた。
机を撤去したのは担任の岡部で、ぽっかりと何もない机があるよりも、花瓶の置かれた机を見るよりも、それがいいと判断したかららしかった。
どうやら寝不足気味の担任は、殴りかかろうとした谷口を怒ろうともせず
「スマン」
と、頭を下げるだけだった。
ぽっかりと空いた空間を眺め、あぁ、まるで学園ドラマみたいだ、とのんきなことを考えたのは、今起きていることがやっぱり夢ではないかと思うからだった。
そうだ、このことも、この後のことも夢だったらどれだけ良かったのか
校庭に砂埃が舞うほどの強い風が吹き、物悲しげな蝉の鳴き声の代わりに何かの始まりを告げようとしていた。
そう、全ては始まりだったのである



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:31:14.61 ID:hLKMGPPZ0

放課後になって確かに鳴き声を上げている腹には何かが詰め込まれているように飯を食う気になれなかった。
谷口は俺以上にそうなのか、それとも食欲には正直なのか、授業終了とともに教室を出た。
ハルヒはずっと外を眺めたままで、細めた眼をどこか遠くへ向けている。
「ハルヒ・・・」
俺も鶴屋さんのようにこいつを元気づける方法はないだろうか
そう思った矢先だった
「っ、何、今の」
急にハルヒが俺の方を向いて、襟をつかみ乱暴に訊ねた。
「どうした、何かいたのか?」
ハルヒのただならぬ様子に俺はしどろもどろに答える。
「違う、何か聞こえたのよ、悲鳴みたいな」
そのやりとりの最中に、廊下が急に騒がしくなった。
「おい、救急車」
「先生呼べ!後担架だっ」
「三年生だ。先輩、大丈夫ですか」
「大丈夫だから、落ち着いて、ね」
俺とハルヒは顔を見合わせてすぐに廊下に出た。
「あ、キョン。あれお前の知り合いだろ」
「どこに行ってたんだよ、一人お前探しにいったぞ」
野次馬の中を突き進む間に見知った顔からそんな声をかけられた。
そして、ようやくその人だかりの先頭に辿りついて絶句する。
そこには、泣きじゃくり、パニックを起こす朝比奈さんと、

ぐったりとして動かない、上級生の、鶴屋さんの体が転がっていた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:32:14.47 ID:hLKMGPPZ0

「変、絶対変よ」
ハルヒは、興奮しているようだった。
あの後、すぐに鶴屋さんは救急隊に運ばれ、そばにいた朝比奈さんも、抱えられる様にして連れて行かれていた。
鶴屋さんは階段から落ちたらしく、朝比奈さんはそこに偶然居合わせ、動かない鶴屋さんを見てパニックを起こし、自身も気を失ったらしい。
俺も、あまりの衝撃と、国木田の一件を思い出して吐きそうになるほどショックだった。
血は流れていない。流れていないからこそ、逆にそれが恐ろしい。
鶴屋さん、一体なんであなたが階段から落ちるようなことに。
「誰かいるのよ!あの二人を殺そうとして・・・」
「ハルヒ、落ち着け」
この様子だから当然古泉はバイトで、長門は何故か部室に姿を現さない。
朝比奈さんは病院に行っている。
つまり、今ハルヒを落ち着かせられるのは、俺しかいないのだ。
「そんなはずないだろ、その、不幸な偶然が重なっただけだ」
「偶然でこんなこと」
ハルヒがそこでしゃべるのをやめたのは俺がハルヒを抱きしめたからだった。
なんというか、その場の勢いだ。
ハルヒは少し暴れて、そして大人しくなり
「苦しい」
と、一言だけ行って俺の腕をつかんだ。
「っと、悪い」
俺はすぐにハルヒを胸元から離す。
「あたしのほうこそ、ゴメン」
弱々しく、あのハルヒが弱々しくそう言った。
それだけ参っているのだろう。親しい人間が立て続けに二人だ。仕方あるまい。
「まだ、鶴屋さんは死んだって決まったわけじゃない。と、言うよりあの先輩がそう簡単に死ぬとは思えん」
「そうよね、そうに決まってるわ」
ハルヒの言葉に気の強さが混じる。
どうか無事であってくれ。
俺は天にそう願った。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:33:16.16 ID:hLKMGPPZ0

12月20日(SUN)
そういえば、24日は鍋パーティーだったな。
俺はすっかり忘れていた楽しみにしていたはずの予定を思い出す。
こんな状況だが、少しは慰めになるかもしれない。
まぁ、アイツは怒るかもしれないが……。
それにしても、国木田とあの上級生の事故は本当に偶然だろうか
とにかく明日、話してみよう
俺は考えをまとめるため、散歩に出かけた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:34:15.20 ID:hLKMGPPZ0

12月21日(MON)
朝から嫌な胸騒ぎしかしない。谷口が姿を現さないのだ。
「昨日から谷口がどこかへ出掛けたまま帰ってきていないそうだ。何か知っている者はいないか?」
やがて現れた担任がクラス全員にそう質問した。
ざわざわと周囲と相談する声は、「知らない」「分からない」という回答で埋め尽くされる。
「アンタ何か聞いた?」
ハルヒが後ろから不安そうに俺にそうたずねてきた。
「俺は何も聞いてない」
嫌な予感がする。喉が鳴り、全身から冷や汗のようなものが噴き出す。
「それから、キョン。お前は放課後職員室に来い」
俺は担任にそう告げられて少し動揺した。
いや、俺は何もやましいことはしていないじゃないか。
多分、国木田、鶴屋さん、谷口と立て続けにおかしなことが起きたから、一番つながりのある俺に話を聞きたいだけなのだろう。
俺は、ハルヒに団活には遅れるぞ、と告げた。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:35:15.77 ID:hLKMGPPZ0

そして放課後、俺は職員室に立ち寄った。
「谷口からの連絡は一切ないんだな」
岡部はまるで刑事にでもなったように俺にそんな事を訊ねた。
「全く。何なら携帯を見てもらってもいいですし、俺自身あいつが何してるのか気になります」
「だろうな、すまなかった」
岡部は頭を抱えて、悩むしぐさをする。
「それからな、鶴屋はお前の知り合いだったな」」
重々しいため息
「ぶ、無事でしたか」
無言で首を振る担任のジェスチャーが示す意味を俺は即座に理解した。
あの、鶴屋先輩が
「病院で息を引き取ったそうだ。その、涼宮とその仲間にもお前から伝えてくれ」
そして、手で顔を覆って付け加えた。
「あと、朝比奈だが、今回のことでかなり落ち込んで今日は学校を休んでいる。見舞いに行ってやれ」
「はい」
当然だ、あの先輩が一番親しくしていたのはおそらく彼女だろう。大いに落ち込んでいるに違いない。
俺は、このことを伝えてハルヒがどんな反応をするかが不安だった。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:36:35.20 ID:hLKMGPPZ0

「そう」
事を伝え終わった後のハルヒの反応はそっけなく、それでも落ち込んでいるのが嫌というほど分かった。
「古泉君も急用で休み、だって」
長門は黙々と何か分厚い本を読んでいる。
そうだ、長門なら・・・
そう思ったがそれはどうだろうか。いつか古泉も言った。
『残念ですが、亡くなってしまった以上、生き返ることはありません。彼女もそのことを一番よく理解しているのでしょう』
コイツがやらないのだから、俺が俺の方法でやるのは、なんというか間違っている。
「いつまでも落ち込んでられないし、落ち込んだ我が団のメンバーを元気づけるのも団長の仕事よね」
ハルヒはすくっと立ちあがって俺と長門を交互に見る。
「行くわよ」
もしかしたらこいつは今、誰よりも優しいのかもしれない。
俺はそんなことを思って一人救われた気分になった。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:38:14.15 ID:hLKMGPPZ0

朝比奈さんの家に行くのはこれが初めてかもしれない。
教師の話によれば、地方から親元を離れて一人暮らしをしている、というのが建前なのだそうだ。
未来はそんなに田舎なんですか?朝比奈さん
俺はそんなことを思いながら部屋のドアホンを押した。
ピンポーン
・・・
返事はない。
ピンポーン
・・・・・・
寝て、るのか?
「キョン、あたし管理人さん呼んでくる。嫌な予感がするのよ」
あぁ、俺もだハルヒ。なんだこの胸騒ぎは
「いや、待てハルヒ」
俺は走り出したハルヒを呼びとめる。
「長門、頼む」
俺は小さく長門にそう言ってドアノブを回した。
ガチャリ。
部屋のカギが開く音をきいてノブを引いた。
「開いてる」
実際には長門が開けたのだろうが。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:39:19.20 ID:hLKMGPPZ0

「朝比奈さん、大丈夫ですか?」
「みくるちゃん、いるなら返事して」
あのおっちょこちょいの先輩のことだから、ドアホンの音をきいてあわてて着替えていたらとも思ったが、部屋の中は電気すらついていない。
「朝比奈さん、入りますよ」
俺は一気に部屋の奥に進み、朝比奈さんの姿を見つけた。見つけたのだが
「ハルヒ!すぐに救急車だ」
部屋の隅に置かれたベットの上には変わり果てた朝比奈さんの姿があった。
枕元の元は愛らしかった口元には吐しゃ物が散り、こんな状況でなければ色っぽい胸元は開かれ、
その先に延びる手元には薬ビンの中身だろう白い錠剤が散乱していた。
ラベルにはおそらく、睡眠薬の文字
「長門!どうにかできないか?」
救急車を呼びにいったハルヒこんな光景はとても見せられない。
長門なら。そんな希望を長門に向けた
「……」
小さく首を振った、無表情で。
「完全に生命機能が停止している。蘇生しても再び同じ状態に陥る可能性が高い」
冗談だろう、いや、冗談であってくれ・・・
俺は悔しさのあまり思いきり白い部屋の壁を殴る。
そして、せめてハルヒには、と、朝比奈さんの上に白いシーツをかぶせて隠してしまうことにした。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:40:41.36 ID:hLKMGPPZ0

12月22日(TUE)
朝からSOS団にかかわる人間の不可解な連続死で校内の話題は持ちきりだった。
朝のニュースでは、トップニュースとして取り上げられている。
それを見るとどこか遠いところで似たような事件が起きているのかと錯覚してしまう。
「なお、行方不明の少年の行方も分かっておらず、警察は…」
谷口も相変わらず連絡もなく失踪中だ。
後ろに座る元気の塊も今は本当に何の気力もわかないようだ。
俺も同様で、一体どうしてこんなことになったのか、知りたくてたまらなかった。
それを周りのやつらが一番理解してくれているのか、誰も、何も聞いてくることはなかった。

「ハルヒ、部室に、行くのか」
長いと感じた一日は、放課後をむかえて、自然と席を立ったハルヒにそう聞いた。
「行きたくないけど、帰りたくもないし」
早くも一年半以上の時間を過ごしたあの部室が一番考えをまとめるのに最適なのかもしれない。
「俺も行く」
こうして、俺たちは部室へ向かう。
そして、俺はこの時、まず先に俺が部室へ向かって中の状態を確かめるべきだったと思った。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:41:21.90 ID:hLKMGPPZ0

部室のドアは何故か開いていた。
「有希が開けたままにしてるのかしら」
そんなことをつぶやくハルヒだったが、長門がそんなことをするとは思えなかった。
「おい、長門、一体なんで…」
そこから先は、声が出なかった。
とっさにハルヒの視界をふさいだが、間に合わなかったらしい
「い、いや」
ハルヒは小さく、怯えてそう呟いて
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
鼓膜を破りそうなくらい甲高い声でそう叫んだ。
部室には、首をつった古泉の体が、あけっぱなしの窓から吹き込む風で揺れていた。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:42:15.75 ID:hLKMGPPZ0

12月23日(WED)
今日から冬休みだ。しかし一体どうなってやがる
まず、国木田、それから鶴屋さん、まだはっきりとは分からないがおそらく谷口、朝比奈さん、そして、古泉。
『変、絶対変よ』
『誰かいるのよ!あの二人を殺そうとして・・・』
『いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ』
ハルヒの叫びが耳から離れない。あんなハルヒを見るのは初めてだ。
良く世界が終らなかったと思う。
そしてこの状況。偶然にしては出来すぎだ。誰かがSOS団関係者を殺している?
真っ先に佐々木の取り巻きの顔が浮かんだが、そんなはずはないと自分に言い聞かせる。
やつらの犯行なら、古泉の『機関』が何かしらの動きを見せるはずだ。
いや、もしかしたら
そう思ったが古泉はもういない。確認のしようがない
そうだ、長門なら
そう思って電話を鳴らしたが繋がらなかった。
珍しいな、と一瞬でも思った自分の頭の悪さが恨めしい。
すぐに、胸騒ぎがする。いや、長門に限ってそんな…
俺は長門のマンションへ向かう準備をしてふとリビングのTVを見た。
相変わらず、北高で起きる不可思議な生徒怪死事件を扱っていて、今日は古泉のことを報じている
はずだった。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:43:50.21 ID:hLKMGPPZ0

『速報です。同校に通う生徒にまたしても被害です』

映し出された顔写真は、無表情で、下に刻まれた名前は『長門 有希』で間違いなかった。

『被害にあった女生徒は、通り魔にあったものとみられ、体にはナイフで刺した後が数か所と暴行を受けた形跡があり』
淡々とそんなこと言われて信じられるものか、あいつはなんたら体なんて大層なものが作った宇宙人製アンドロイドだぞ。
いや、あいつはSOS団で最も頼りになる文芸部部長なんだ。
それがそんなに簡単に・・・
俺はその場に崩れ落ちる。何で?一体何が…
もう何もする気力もなかった。
俺は力なく部屋に戻り布団をかぶった。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:45:57.78 ID:hLKMGPPZ0

12月24日(TUE) X'mas eve
冬休みか。俺に何をしろって言うんだ。
三回目のメール着信をきいてようやく頭をその方向に向けた。
『Eメール;涼宮ハルヒ』
その名前を見て思う。
そうだ、あいつは俺以上にショックを受けているんじゃないだろうか。
もしかしたら、ハルヒも俺同様、長門のことをきいて、俺にメールしてきたのかもしれない
重たい腕を、ゆっくりと、精いっぱいの早さで伸ばして画面を開く。
『今夜9時に部室に来なさい。これは団長命令よ』
三通とも同じ内容だった。
何で部室に?
いや、もう考えるのはやめよう。
もしかしたらハルヒは何かを知っていて、俺にそれを伝えたいのかもしれない。
今夜9時。そうだ、今日はクリスマスじゃないか。
もう、考えるのはやめよう。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/17(木) 20:49:24.45 ID:hLKMGPPZ0


閉ざされた校門によじ登り、校舎内への侵入に成功すると、俺はまっすぐに部室棟を目指した。
この学校の警備はずさんじゃないのか?
敷地内にある明りは俺の持つ懐中電灯だけのような気がする。
何の苦もなく部室にたどり着くと、弱々しい明りが外に漏れていた。
「ハルヒ、いるのか?何だ?用事って・・・」
俺は出来るだけ静かにドアを開けて、中に入る。
そして
「ダメっ!ダメよジョン!ジョン逃げて、早く」
「え?」
どこかでハルヒがそう叫んだ声が聞こえて
俺は去年味わったのと同じ痛みにのたうち回り、あ、誰かに刺されたのかと気づく前に二撃目をくらって何も分からなくなった。



―柊―



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