キョン「…」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:12:05.96 ID:4bQkrGOI0

みんな!日の目を見なかったSSをもう一度だけ投下させてくれ!
たったらひたすら投下する。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:13:04.55 ID:4bQkrGOI0

これは夢だ。夢に違いない。
見慣れた天井、見慣れたベッドの中。
うん、間違いない。ここは俺の部屋だ。
だが俺は今、極めて困った状況にある。

キョン「…」

俺の隣で誰かが眠っている。
いや、そいつが誰か、俺は良く知っている。よく知っているんだが…。
問題はどうしてそいつが俺の横で眠っているかだ。
…うん。もう一度眠ればきっと目が覚めたときにはシャミセンが足元に丸まっているいつもの部屋に戻るはずだ。
そう考えた俺は、隣で眠る奴に背を向けて目を閉じた。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:14:17.22 ID:4bQkrGOI0

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。

キョン「…ん?」
身体が揺さぶられる。
妹が起こしに来たか?それにしては優しい起こし方だな。
ゆっくりと目を開ける。
目の前に、あいつがいた。

キョン「…!!」
ハルヒ「おはよう。あなた」
キョン「…!?」

あなた?
おいハルヒ、いったい何を言っている?
そんな俺の困惑をよそに、ハルヒはかわいらしい微笑みを浮かべた後、何の前触れもなしに俺にキスをした。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:16:24.55 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「うふふ。おはよう」
キョン「…」
ハルヒ「もう。まだ寝ぼけてるの?顔洗っていらっしゃい。朝ごはんできてるから」
キョン「ああ」

どういうことだ?いったい何なんだ?
クエスチョンマークを飛ばしながら俺は階段を下りる。
ハムの焼けたいい香りがする。きっとハムエッグだ。
いや、そうじゃなくて、なぜこんなことになっている?
ここは確かに俺の家だ。
妹は?親父は?母親は?シャミセンは?
俺の家族の姿はない。

洗面所に行き顔を洗ってからリビングへ向かう。
テーブルに座る小学生の姿が見えたので俺は胸を撫で下ろし、声をかけた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:18:27.63 ID:4bQkrGOI0

キョン「おい、なんでハルヒがいるんだ?」
妹?「ふええ?」

ん?なんか変だぞ。

キョン「とぼけるな。お前もグルだろ」
妹?「ひゃっ!」

俺は妹?の頭を掴んで顔をこっちに向けさせ、絶句した。
なんだ?これは?

みくる「ふぇぇぇっ…痛いですぅ。パパ」
キョン「…」

潤んだ瞳で俺を見上げる小学生バージョンの朝比奈さんはとんでもないことを口走った。
パパ?俺が?いつ?どこで?

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:20:05.11 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「あら、どうしたの?」
みくる「ママぁ。パパが怖いのぉ…ぐすぐす」
ハルヒ「あなた、みくるに何をしたの?」
キョン「あ…その」

ハルヒがママで俺がパパ…。
いったい何のジョークだ?これ。

キョン「すまん…」ナデナデ
みくる「ふにゅ〜。…えへへ」

おおっ、頭を撫でただけで満面の笑顔に。さすがです。朝比奈さん。

ハルヒ「朝っぱらからなにやってるのかしら。さ、はやくご飯食べちゃいましょう」
みくる「はぁ〜い。いただきます」
キョン「…いただきます」
ハルヒ「いただきます」

うん。普通に美味い。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:22:00.91 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「あなた、今日はお休みよね?」
キョン「あー…何曜日だっけ」
ハルヒ「土曜日よ。もう、仕事のしすぎ」
キョン「…すまん。ちょっと行くところがある」

土曜日と聞いて駅前を思い出し、俺は無口な宇宙人のことを思い出す。

ハルヒ「えー。先週もそうだったじゃない。みくるがかわいそう」
みくる「ふぇ?なーに?ママ」
ハルヒ「なんでもないわよ〜。今日はママとお散歩行きましょうね」
みくる「えへへ。嬉しいな〜」

ニコニコと笑う朝比奈さん(子供バージョン:以下(子))と微笑みかけるハルヒ。
実に心が和む光景ではあるが、実に落ち着かない光景でもある。
食事を終えてから部屋に戻り、ハンガーにかけられていた制服ではなく、背広に袖を通す。
見た目が違うだけで、着用方法は制服とほとんど変わらない。
鞄を手に取り、玄関へ向かう。玄関先にはハルヒと、朝比奈さん(子)が並んで立ち俺に微笑んでいた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:24:16.01 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「いってらっしゃい」
みくる「いってらっしゃーい」
キョン「…いってきます」

軽く笑みを返しながら靴を履いて立ち上がると、背広の裾を控えめに引っ張られる。
振り返ると、朝比奈さん(子)が俺を見上げてモジモジとしていた。

キョン「どうした?」
みくる「…」
キョン「?」
みくる「行ってらっしゃいの、ちゅー、する」
キョン「!?」

何を言っているのですか?朝比奈さん。
だが、思わずのけぞった俺を見て、ハルヒが怪訝そうに言った。

ハルヒ「あなた、いつものことなのになんでそんなに驚くのよ」
キョン「あ、え、そうか」
ハルヒ「ほらほら、はやくかがんであげて」
キョン「あ、ああ」

言われるままにかがみ込むと、朝比奈さん(子)は小さく笑い、それから俺の頬にキスをした。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:26:45.83 ID:4bQkrGOI0

みくる「えへへ。行ってらっしゃい」

真正面から俺を見つめて満面の笑み。うーん。可愛いなあ。

キョン「じゃあ、行ってくる」
ハルヒ「あ、あなた」
キョン「ん…うわっ」
ハルヒ「ネクタイが曲がってるわ。動かないで」
キョン「…あ、ああ。でもいきなり引っ張ることはないだろ」
ハルヒ「ごめんなさい」
キョン「あ、いや、謝るほどのことでは…!!」

ない、と言いかけた俺の唇をハルヒの唇が塞ぐ。
柔らかい。

ハルヒ「…行ってらっしゃい」

満面の笑みで言うハルヒ。ちょっと頬が桜色に染まっている。可愛いじゃないか。おい。

キョン「…行ってきます」

自分の顔が赤くなっているだろうことを自覚しながら扉を開けて外に出る。
やれやれ、なんてことだ。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:28:52.45 ID:4bQkrGOI0

非現実的な日常空間から解放された俺は、慣れない格好で駅前へと向かう。
いつもの集合場所。
誰もいない。

キョン「…」

予想していたとはいえ、一抹の不安が俺を急かす。
早足で駅前のマンションへ。
長門の部屋の番号を入力し、インターホンに繋ぐ。

???「はい?」

少しして男の声。どういうことだ?

???「どなたですか?」
キョン「あ、あの、長門有希さんのお宅では?」
???「そうですが、どなたですか?」

どういうことだ?何かがおかしい。
しかし長門に話を聞かないことには何も始まらない。
俺はなるべく不信感を持たれないように祈りながらインターホンに向かって名前を告げた。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:30:36.77 ID:4bQkrGOI0

???「ああ、みくるちゃんのお父さんですね。お待ちください。今開けます」

エントランスの扉が開く。
とりあえず長門の部屋に行ってみよう。どのみち俺にはその選択肢しか残されていなかった。
エレベータが長門の部屋がある5階に到着する。
扉が開くとそこに長門はいた。

キョン「…」

目の前にいるのは間違いなく長門だ。うん。それは間違いない。
だが、問題は、目の前にいる長門がまるで朝比奈さんと同じように小学生くらいの子供になってしまっていることだった。
目の前が暗くなる。

キョン「…長…門?」

かすれた声が俺の口から漏れる。小さく首を傾げた目の前の長門(子)はまっすぐに俺を見て、口を開いた。

ゆき「この世界は涼宮ハルヒの願望が具現化したもの。私のこの姿もその一端に過ぎない。同じように周囲の人間にも様々な変化が見られる」

淡々とした長門の言葉に、俺はほっと胸を撫で下ろした。どうやら姿は違っても、記憶は持っているらしい。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:32:25.42 ID:4bQkrGOI0

ゆき「古泉一樹、朝比奈みくる、涼宮ハルヒには平常時の記憶はなく、朝比奈みくる及び私の肉体は7歳児程度への若返りが見られる」
キョン「…」
ゆき「涼宮ハルヒ、朝比奈みくるはあなたの家族として構成され、苗字もあなたのものになっている。そして古泉一樹、朝倉涼子、私がひとつの家族として、長門家が構成されている」
キョン「…は?」
ゆき「涼宮ハルヒ、朝比奈みくるは…」
キョン「それじゃなくて、次だ。古泉と朝倉がなんだって?」
ゆき「古泉一樹、朝倉涼子、私がひとつの家族として、長門家が構成されている」
キョン「…」

いったい何の冗談だ。古泉と朝倉が長門の両親?

キョン「とりあえずお前の部屋に行ってもいいか?」
ゆき「推奨しない」
キョン「なぜ?」
ゆき「あなたと対等に話すことが不可能になる」
キョン「どういうことだ?わかるように説明してくれ」
ゆき「家族の前では私は年相応の話し方しかできない」
キョン「は?」
ゆき「古泉一樹を「パパ」、朝倉涼子を「ママ」と呼び笑顔を浮かべていなければいけない」

古泉をパパ、朝倉をママと呼んでニコニコ笑っている小さい長門…か。
正直言うとかなり見てみたい。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:34:03.36 ID:4bQkrGOI0

キョン「…あのな、長門」
ゆき「拒否する」
キョン「はやっ。てか何も言ってないだろうが」
ゆき「…!しまった」

小さく長門(子)がつぶやく。

一樹「あ、[キョンの苗字]さん、いつもお世話になってます。ゆき、忘れ物だ。ほら」
キョン「…どうも」

小さな手提げ袋をぶら下げ、ピンクのポロシャツにジーンズといったラフな格好の古泉が俺たちの前に現れた。
そのマイホームパパぶりに俺は笑いそうになるのを懸命に抑えて挨拶をする。
頼む、はやくどこか行ってくれ!

ゆき「…ありがとう。パパ」(にこり)
一樹「うんうん。気をつけて行っておいで」(にこり)

…堪えろ、堪えるんだ俺。ここにいるのは、仲のいい家族だ。
古泉に背中を向け、俺はエレベーターのボタンを押す。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:35:53.67 ID:4bQkrGOI0

一樹「おや、[キョンの苗字]さん。どうしましたか?」
キョン「な、なんでもないですよ。ははは」
一樹「そうですか」
キョン「では、失礼」
一樹「お世話をおかけします」(ぺこり)
キョン「…」

エレベーターの扉が閉まるのと同時に長門(子)を見る。
長門(子)は相変わらず無表情だったが、古泉への対応を思い出して俺は笑いを噛み殺すのに必死だった。

長門「…あなたのその反応は予想済み」
キョン「いや、その、スマン」
長門「いい。あれは私のミス」

エレベーターを降りてエントランスを出る。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:37:03.67 ID:4bQkrGOI0

それから俺はふと気がついた。

キョン「おい、長門」
長門「なに?」
キョン「俺、ハルヒたちに仕事に行く、見たいなことを言って出てきちまったから、家には戻れないぞ」
長門「問題ない」
キョン「どういうことだ?」
長門「想定済み。だから私は朝比奈みくる…『みくるちゃん』を驚かせるためにあなたに一芝居うってもらったことにしてあなたと共にあなたの家に行く」
キョン「そんなうまくいくか?」
長門「涼宮ハルヒも朝比奈みくるも喜ぶ確率は92.3%。だから大丈夫」
キョン「そうか」

すたすたと前を歩く長門(子)の背中についていくサラリーマン。
傍から見れば、変質者に見えなくもない。

キョン「長門」
長門「なに?」
キョン「お前の後ろを俺がついていく姿は、社会的に見てまずいんじゃないかと思うんだが」
長門「幼児に性的興奮を感じる大人と見られる可能性は高い」
キョン「それはまずいだろ」
長門「…」

長門(子)は立ち止まって、それから少し躊躇いがちに右手を差し出した。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:38:42.68 ID:4bQkrGOI0

長門「…手を繋げば怪しまれないと判断」
キョン「お、おう」
長門「構わない。どのみちあなたの家に行けば子供の役割を演じなくてはいけなくなるから」
キョン「どういうことだ?」
長門「涼宮ハルヒを[みくるちゃんのママ]、あなたを[みくるちゃんのパパ]、朝比奈みくるを[みくるちゃん]と呼ぶことになる」
キョン「…そうか」
長門「そう」

長門(子)とぎこちなく手を繋いで歩く。なんか子守をしているような気分だ。いや、実際そうなんだろう。傍から見れば。

キョン「なあ、長門。なぜ俺やハルヒ、古泉、そしておそらく朝倉は高校生の姿なんだ?」
長門「社会的にはあなたたちは社会人」
キョン「ああ、そうじゃなくて、見た目が若いっていうかなんていうかだな」
長門「外見は世界の改変前の年齢が反映している。というか、未来の姿を想像するほど涼宮ハルヒは深く考えていなかったと考察する。私と朝比奈みくるは例外。涼宮ハルヒがそう望んだから幼い姿になった」
キョン「この世界はハルヒが望んだからこうなったんだよな?」
長門「そう」
キョン「そんなような話、したか?」
長門「古泉一樹の彼女になるなら朝倉涼子のような女性でなければ釣り合わない。私と朝比奈みくるは子供の頃も可愛かっただろう。そのような会話がなされたと記憶している」
キョン「…あー、そういえば…」

そんなこともあった。
あれは確か木曜日の部室でのことだ。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:40:40.64 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「古泉君は恋人とかいるの?」
古泉「おやおや、いきなりなにを聞いてくるんですか。まあ、残念なことにそういった関係の女性はいませんけど」
ハルヒ「ふーん。古泉君なら結構もてると思うんだけどね。…そうかあ、ねえキョン!古泉君くらいになると朝倉さんくらいの子じゃないと釣り合わないわよね!」
キョン「おいおい、なんでそこで朝倉が出てくるんだ?だいいち、朝倉のことなんて古泉は知らないだろ?」
ハルヒ「謎の転校生効果よ!」
キョン「やれやれ…」
古泉「転校生ですか。ちょっと興味を惹かれますね」
ハルヒ「ざんねーん。朝倉さんは古泉君と入れ違いでカナダに転校しちゃったのよね」
古泉「おやおや、それは残念です」
ハルヒ「結構お似合いだと思うんだけどね!」
古泉「機会があればお会いしたいものです」

悪いな古泉、それは敵わない。
朝倉はこの世界にはもういないからな。

ハルヒ「みくるちゃんはいるの?恋人!」
朝比奈「ふぇぇっ!こ、恋人ですかぁ!?」

真っ赤になって焦りまくる朝比奈さん。眼福眼福。
ちらりと俺の方を見たと思うのは自意識過剰だな。うん。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:42:09.10 ID:4bQkrGOI0

朝比奈「い、いませんよぉ〜」
ハルヒ「私が男だったら放っておかないけどなあ。ロリで巨乳だし」
朝比奈「ひぇぇっ!その手はなんですかぁ〜」
ハルヒ「みくるちゃん可愛いっ!」
朝比奈「や、やめてくださいぃぃっ!」
ハルヒ「ん〜っ!きっと子供の頃のみくるちゃんも可愛かったんだろうなあ」
朝比奈「ふぇぇっ!」
ハルヒ「有希もそう思うでしょ?あ、もちろん有希も可愛かったんだろうけど」
長門「…」ペラリ
朝比奈「ふぇぇっ。キョン君〜助けてください〜」

朝比奈さんが涙目で俺に助けを求めている。そんな目で見られたら助け舟を出さないわけにはいかないです。男として。

キョン「おい、ハルヒ」
ハルヒ「なによキョン?私は今忙しいの!」
キョン「ああ、お前が忙しいのは見ていてわかる。が、ひとつ教えてくれないか?」
ハルヒ「なによ?」
キョン「あー、その、なんだ、俺はどんなイメージだ?」
ハルヒ「…はい?」
キョン「古泉は転校生繋がりで朝倉とカップル、長門と朝比奈さんは子供のときから可愛い(ここ重要)としてだな、俺は?」
ハルヒ「そうね…」

ハルヒは朝比奈さんから離れて俺の前で立ち止まると、暫くまじまじと俺を眺めてから、お得意のアヒル口でにやっと笑った。
どうせ、ろくなことは言わないだろう。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:44:01.78 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「キョンは、ペットね!」
キョン「犬かよっ!」
ハルヒ「あら、別に犬なんて言ってないわよ。ただペットって言っただけでしょ」
キョン「同じようなものだろうが」
ハルヒ「甘いわねキョン!ペットといえば愛玩用よ!だから思いっきり可愛がってあげるわ!」
キョン「…は?」
ハルヒ「だから思いっきり可愛がってあげる…って、もおおおおおっ!何言わせるのよ!馬鹿キョン!エロキョン!!」
キョン「お前が勝手に言ったんだろうが!いてっ、こらっ、やめろ!」

真っ赤になりながら、ハルヒは両手で俺に攻撃を開始する。やれやれ、いったい何なんだこいつは。
…おい古泉、なんだその微笑みは。朝比奈さんまで、何でそんな笑顔で俺とハルヒを見ているんですか。

キョン「だあああ!もう、やめろって」
ハルヒ「うるさい!馬鹿キョン!エロキョン!」
キョン「おい古泉、助けてくれ」
古泉「申し訳ありませんが、下手に手を出すと涼宮さんからお叱りを受けそうですので」
キョン「長門!助けてくれ」
長門「私には無理」
キョン「朝比奈さん…」

朝比奈さんに視線を向けると、潤んだ瞳でふるふると首を左右に振っているのが見えた。うん。予想通り。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:45:56.65 ID:4bQkrGOI0

キョン「わかった、俺が悪かった!だからやめてくれ」

仕方なく俺がギブアップすると、ハルヒはやっと攻撃を止めた。
いててて。結構本気で叩きやがったな。

ハルヒ「わかればいいのよ!」
キョン「はいはい。すみませんでした。ハルヒ様」
ハルヒ「ふふん」
キョン「…」

やれやれ。なにはともあれ一段落だな。

ハルヒ「あーあ。馬鹿キョンを相手にしていたら喉が渇いたわ。みくるちゃん、お茶。急いで!」
朝比奈「はぁい」

ぱたぱたとメイド服のスカートを靡かせながら、朝比奈さんが簡易コンロに火を点ける。水はもう汲んできたらしい。
特にやることもなく、一人チェスに興じる古泉、相変わらず本を読んでいる長門、楽しそうにお湯が沸くのを待っている朝比奈さんを順に眺め、それから後ろに身体を反らして天地が逆の状態に見えるハルヒを見た。
ハルヒも俺と同じで、特にやることが思いつかないのか、いつものように適当にネットサーフィンをしているように見える。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:47:32.06 ID:4bQkrGOI0

朝比奈「お待たせしましたぁ」
ハルヒ「みくるちゃん、ありがと…ぷはー。美味しい」

ものの数秒でお茶を飲み干す。
おいハルヒ、お前の口はどうなってるんだ?火傷しないのか?

朝比奈「キョン君。どうぞ」
キョン「ありがとうございます」
朝比奈「古泉君。どうぞ」
古泉「いつもありがとうございます」(にこり)
朝比奈「長門さんの分、ここに置いておきますね」
長門「…」(こくり)

古泉は相変わらずキザな奴だ。
おい、長門。ちゃんと礼を言え。
他の団員に心の中で突っ込みながら、俺は朝比奈さんの入れてくれたお茶を一口啜る。

キョン「美味い。朝比奈さんはいいお嫁さんになれますよ」
朝比奈「キョン君…ありがとう」

お礼を言うのはむしろ俺のほうなんですけどね。そんな風に慎ましいところがまた、朝比奈さんの魅力です。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:49:31.22 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…」
古泉「おや、涼宮さんどうかしましたか?」
ハルヒ「別に、どうもしないわよ古泉君」
古泉「これは失礼」
ハルヒ「…か」ボソ

ん?ハルヒの奴、なにか言ったか?
ま、どうせろくなことじゃないだろうから、放っておこう。触らぬ神に祟りなし、だ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:51:19.17 ID:4bQkrGOI0

キョン「おい待て、長門。あのときの俺は『ペット』扱いだっただろう?それがなぜハルヒの…、その、配偶者になってるんだ」
ゆき「あれは涼宮ハルヒの虚言。本当は今のような状態こそが理想」
キョン「は?」
ゆき「つまり、涼宮ハルヒはあなたを愛している」
キョン「待て待て待て!なぜそうなる?」
ゆき「思い出して欲しい。あの時、涼宮ハルヒは『愛玩用よ!だから思いっきり可愛がってあげるわ!』と言った。そしてその後、心拍の急激な上昇と極度の興奮状態になり、あなたに責任転嫁をしてその場の雰囲気の収束を図った。
   その後、古泉一樹が声をかけるまでにあなたに視線を送ること8回、古泉一樹の問いに『お嫁さんか』とつぶやくのも確認した。その後は部室を出るまでにあなたを後ろからずっと見ていた。
   そのことから推測するに涼宮ハルヒはあなたの配偶者になりたいと考えている可能性が97.3%の確率で推測され、実際、現在のような状態に至っている」
キョン「いや、長門。あいつは、ハルヒは『恋愛感情は精神病の一種だ』と言い切るような奴だぞ」
ゆき「人は、変わるもの。特に思春期の女性の感情は至極不安定」
キョン「いや、でも、ハルヒだぞ?」
ゆき「涼宮ハルヒが世界を改変する力を持っているのは確定事項。だが同時に、涼宮ハルヒが思春期の女性であるということも事実。あなたが否定すること、その方が謎」
キョン「…」

なんてことだ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:53:31.12 ID:4bQkrGOI0

キョン「つまりだ、ハルヒは俺が好きで、今のこの状態はハルヒの願望が現実化したものってことか?」
ゆき「簡単に言うと、そう」
キョン「そうか。なら、元に戻るにはどうすればいい?」
ゆき「戻れるかどうかはあなた次第」
キョン「またそれか」
ゆき「あなたが鍵。あなただけが涼宮ハルヒに影響を与えることができる存在」
キョン「なあ、長門。なぜ、俺なんだ?」
ゆき「あなたは涼宮ハルヒに選ばれた」
キョン「そう、だったな」
ゆき「…ごめんなさい」
キョン「いや、お前が謝ることじゃない」

思わず大きなため息が漏れる。まったく、厄介なことだ。
そう思っていると左手が後ろに引っ張られた。俺は立ち止まり、振り返って長門を見た。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:55:11.07 ID:4bQkrGOI0

キョン「ため息ぐらい大目に見てくれよ」
ゆき「違う。…寄っていく」
キョン「は?コンビニにか」
ゆき「そう。あなたがこれから家に戻っても怪しまれないよう、プリンとジュースを買っていくのが最適」
キョン「…」
ゆき「ゆきぷれぜんつ、『みくるちゃんとみくるちゃんのママをびっくりさせよう作戦』のためには必要なこと」
キョン「ぶっ!!」
ゆき「汚い」
キョン「いや、ゴメン」

だがな、長門。いきなり淡々と可愛い作戦名を告げられれば、誰だって噴出したくなるだろ?
コンビニに入り、かごを持って長門の後についていく。長門はまっすぐにスイーツのコーナーへと向かい、商品棚を眺めると振り返った。

ゆき「くまさんプリンがいい」
キョン「!?」
ゆき「いい?」(小首傾げ)
キョン「に、人数分ある…かな?」
ゆき「うん」(にこっ)
キョン「じゃあ、それで」
ゆき「わーい」

…ああ、人前だし子供を演じているのか。
しかし、あれだ。不意打ちは汚いぞ長門。可愛いじゃないか。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:57:25.59 ID:4bQkrGOI0

ゆき「ジュースはみくるちゃんのパパが選んで」
キョン「はいはい」

ドリンク棚に移動し、俺は1.5Lのオレンジジュースとリンゴジュースをかごに入れ、お菓子コーナーの間を歩いてレジへと向かう。
そこで俺は長門に声をかけた。

キョン「ねえ、ゆきちゃん。お菓子はいらないのかい?」
ゆき「!!」

一瞬だけ長門の目が丸くなる。

ゆき「じゃあ、クッキー…」
キョン「これでいいかな?」
ゆき「…」(にこっ)

棚からポピュラーな動物を象ったクッキーの袋を取る。子供の頃よく食べたなあ。二袋くらいでいいか。
その笑顔はやめなさい。いや、可愛いんだけど反則だ。長門。

ゆき「…それ、好き」
キョン「それは良かった」

レジで会計を済ませると、再び長門(子)と手を繋いでコンビニを後にする。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 19:59:14.98 ID:4bQkrGOI0

キョン「なあ、長門」
長門「なに?」
キョン「俺たち、周りからは知り合いのお父さんと子供に見えているのか?」
長門「問題ない…はず」
キョン「なんか引っかかる言い方だな。お前らしくない」
長門「さすがに不特定多数の他人の感情まではモニターしていない」
キョン「そうか」

まあ、コンビニのレジのお姉さんの対応を見る限り大丈夫だと思うが。俺がお父さんに見られるってのはちょっと微妙だけどな。
さて、そろそろ我が家だ。

キョン「なあ、長門。『みくるちゃんとみくるちゃんのママをびっくりさせよう作戦』では誰が俺の家のインターホンを鳴らすんだ?」
長門「私。あなたは後ろに立っていて」
キョン「了解」
長門「…では作戦を開始」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:01:03.64 ID:4bQkrGOI0

長門は俺の家の玄関前に立つと、少し伸びをしながらインターホンのボタンを押す。

ピンポーン

ハルヒ「はい」
ゆき「みくるちゃん。あーそーぼー」
キョン「…」
ハルヒ「あら、ゆきちゃん?ちょっと待ってね、今、開けるわ」

玄関の鍵が外され、エプロン姿のハルヒがサンダルを履いて外に出てくる。なんていうか、実に新鮮な光景だ。

ハルヒ「ゆきちゃん、どうやってきたの…、え?あなた?」
キョン「よう」
ゆき「みくるちゃんのパパに協力してもらったの。みくるちゃんとみくるちゃんのママをびっくりさせたくて。みくるちゃんのパパに連れてきてもらったから安全だったの」
ハルヒ「もう!ゆきちゃんの意地悪!」
ゆき「えへへ」
みくる「あーっ!ゆきちゃんだぁ!…あああああっ!!パパーおかえりなさいー」

靴を履いて玄関から出てきた朝比奈さん(子)は、まず長門に気付いて、それから俺に気付くと、一直線に俺に向かって駆け寄ってきて、俺めがけてジャンブ。

キョン「うおっ!?びっくりするじゃないか」
みくる「えへへー。おかえりー」
キョン「ただいま」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:03:02.44 ID:4bQkrGOI0

ぎゅーっとしがみついてくる朝比奈さん(子)をおっかなびっくり抱きとめながら、視線をハルヒに向ける。
ハルヒは優しい眼差しで朝比奈さんと俺を見ていた。

ハルヒ「びっくりしたのはこっちよね、みくる」
みくる「うん。すっごくびっくりしたよー」
キョン「はは。ゴメンゴメン」
ゆき「わーい。びっくり作戦大成功」
ハルヒ「ゆきちゃんってば」
キョン「まあ、なんだ。とりあえず家に入らないか?」
ハルヒ「あ、そうね。いらっしゃいゆきちゃん」
ゆき「はーい。おじゃまします」
ハルヒ「うふふ。いい子ね」
キョン「あ、ハルヒ」
ハルヒ「なあに?」
キョン「その、みくるを抱っこしてるから、悪いんだけど荷物を持ってくれるか?落としそうだ」
ハルヒ「荷物?いったい何かしら?」
ゆき「みくるちゃんのパパがおやつを買ってくれたの」(にこっ)
みくる「おやつー?なになに?何を買ってくれたの?パパ」
キョン「くまさんプリンとジュースとクッキーだ」
みくる「パパ大好き〜」

天使の微笑で俺を見上げてから再び抱きついてきた朝比奈さん(子)の頭を、俺は無意識のうちに撫でていた。
なんていうか、こういうのもいいな。うん。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:05:09.89 ID:4bQkrGOI0

みくる「くすぐったいよーパパ」
キョン「まあいいじゃないか、さ、家に入るぞ」
みくる「うん」

玄関をくぐり、上がり框に腰を下ろして朝比奈さん(子)を立たせる。

キョン「ちゃんと靴をそろえるんだぞ」
みくる「当然だよー」
キョン「よし、いい子だ」

再び頭を撫でながら、靴を脱いで家に上がる。

みくる「ゆきちゃーん。お人形さん遊びしよー」
ゆき「やるー」

朝比奈さん(子)ぬいぐるみとか人形を手にして長門(子)と床に向かい合って座って遊んでいる。
ほのぼのした光景だ。

ハルヒ「ふふふ。可愛いわね」
キョン「女の子同士って、なんかいいなあ」
ハルヒ「そうね」

自然と優しい気持ちになって。俺はハルヒと二人、子供たちを見守っていた。
うーん。親の気持ちってこんな感じなのか?

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:07:03.24 ID:4bQkrGOI0

…おっと、いかんいかん。この世界に順応してしまうのも問題だ。
長門が朝倉さんを引き受けてくれている間に、俺はハルヒを何とかしないと。

キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「…高校時代は楽しかったよな?」
ハルヒ「え?」
キョン「高校のときさ、部活とか楽しかっただろ?」
ハルヒ「…部活よりもあなたと同じクラスになれたことが嬉しかったわ」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「ふふ。でも文芸部であなたや長門さんと一緒に色々やったのもいい思い出ね」
キョン「…」

朝比奈さんや古泉の名前は出てこない。SOS団じゃなくて文芸部になってるし。
ん、でも長門?

キョン「長門…さんってゆきちゃん?」
ハルヒ「ゆきちゃんのお母さんよ。長門涼子さん」
キョン「…」

なるほど、この世界では朝倉の苗字が長門になってるのか。
ん?では古泉は?婿養子?

ハルヒ「長門さんには優しそうな旦那さんがお婿さんに来てくれてよかったなって思ってるの」

やっぱり、古泉は婿養子って設定か。まあどうでもいいことだが。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:09:11.77 ID:4bQkrGOI0

キョン「そうだなあ」
ハルヒ「てっきり、あなたは長門さんが好きだと思ってたから、私、やきもきしてたのよ」
キョン「なぜそうなる?」
ハルヒ「だって、長門さんは明るくて、優しくて、成績も良くて、人気者だったじゃない」
キョン「お前だって明るくて、運動神経抜群で、かわいい子(少なくとも見た目は)だったじゃないか」
ハルヒ「えっ!」(かぁっ)
キョン「…照れるなよ」
ハルヒ「だ、だって、あなたそんなこと言ってくれなかったじゃない」
キョン「学生って普通、面と向かっては言わないだろ」
ハルヒ「う〜。なんか損した気分」
キョン「なんだそれは?」
ハルヒ「だって、告白も私、手を繋いだのだってキスしたのだって私から。…その、アレだって私がお願いしてからだったし」
キョン「…その、スマン」
ハルヒ「…」(かぁっ)

俺ってどれだけ奥手なんだよ。アレって、その、アレだろ?性の営み。
じゃなきゃ、朝比奈さん(子)は生まれてこないわけで…。
…いやいや、今はそんなことを考えている時じゃない。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:11:12.81 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…でも、プロポーズはあなたからだった」

いや、そううっとりされても、俺には何のことかわからないんだけどな。
いったい俺は何をやったんだ?なあ、ハルヒ。

キョン「俺はまあ、清い交際ってのに憧れてたからなあ。なんていうか、結婚までは手を出さないってやつ」
ハルヒ「そう言われると私が汚れてるように聞こえるわ」
キョン「いや、そういうわけじゃないんだ」
ハルヒ「わかってるわよ。でもね、あなた気付いてなかったと思うけど、女子に人気あったのよ」
キョン「そうなのか」
ハルヒ「そうよ。だから他の子に抜け駆けされる前に、私からお願いしたの」
キョン「でも、付き合ってたんだからそんな心配しなくてもよかったんじゃないか?」
ハルヒ「え?だって言わなきゃ恋人にもなれないじゃない」
キョン「え?」

なんか話がかみ合わない。アレのことじゃないのか?

ハルヒ「!!もうっ、違うわよ!告白の話!」
キョン「そ、そうか。スマン」

紛らわしいぞ。ハルヒ。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:13:02.11 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「アレは…その、不安だったのよ…いろいろ。大学に入っても全然変わらなかったし」
キョン「…」
ハルヒ「女の子って結構そういう話するから、いつまでも処女っていうのも…」
キョン「…あー、そろそろ、おやつの時間じゃないか?」

このままハルヒに喋らせているととんでもないことを口にしそうだったので、俺は言葉を遮った。

ハルヒ「…そうね。みくる、ゆきちゃん、おやつにしましょう。お手手洗ってきなさい」
みくる・ゆき「はーい」
ハルヒ「あなたも、手を洗ってきて」
キョン「はいはい」
ハルヒ「…もう。いい雰囲気にできると思ったのに」
キョン「なにか言ったか?」
ハルヒ「なんでもない」

ハルヒが台所に消える。心なしか不機嫌そうだ。よくわからないやつだな。まあ、いつものことだ。
洗面所では長門(子)と朝比奈さん(子)が二人仲良く手を洗っていた。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:14:56.54 ID:4bQkrGOI0

みくる「くまさんプリン、楽しみだね」
ゆき「好き」
みくる「私も〜」
ゆき「ふわふわで美味しいの」
みくる「ふわふわ〜。早く行かないとなくなっちゃう?」
ゆき「みんなの分買ってくれたから大丈夫〜」
みくる「わーい。あ、パパ〜」
キョン「ちゃんときれいきれいしたか?」
みくる「うん!見て見て」(にこっ)

そう言って両手を広げて上に上げる朝比奈さん(子)。水に濡れた小さな手がとても可愛らしい。もちろん、その笑顔は子供の姿とはいえ超弩級の輝きだ。

キョン「うん。きれいだな。いい子いい子」(なでなで)
みくる「わーい」
キョン「パパもきれいきれいするから、先に行ってな」
みくる「うん。行こう、ゆきちゃん」
ゆき「…おしっこ」
みくる「ん、わかったー。先行ってる」
ゆき「…」(こくり)

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:16:29.38 ID:4bQkrGOI0

朝比奈さん(子)がリビングへ消えたのを確認して、長門が俺を見た。

長門「…予想以上にこの世界への適応が進んでいる」
キョン「どういうことだ?」
長門「涼宮ハルヒの中で、この世界の過去が具体的に構築されてきている」
キョン「つまり?」
長門「今夜が世界を戻す最後のチャンス」
キョン「なんだって!?」
長門「明日になると世界はこのまま確定する。涼宮ハルヒの能力はほぼ消えかけている」

それってかなりまずい状態じゃないか?一体どうしたらいいんだ?

長門「涼宮ハルヒの関心を高校に向けて」
キョン「やってはみる」
長門「お願い」
キョン「ああ」
長門「…くまさんプリン。楽しみ」
キョン「そうか」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:18:55.61 ID:4bQkrGOI0

…長門の奴、くまさんプリンが好物だったりするのか?それはそれで、意外な一面を発見した気がする。
しかし、今日中に何とかしなきゃいけないのか。ハルヒの気持ちを高校に向ける…。しかしどうやって?
幸い、北高の記憶はハルヒも持っているようだ。SOS団じゃなくて文芸部の記憶だが。とりあえずはその辺から攻めるしかないだろう。

みくる「パパー、遅いよー」
キョン「悪い悪い」
ハルヒ「はい、じゃあ、いただきます」
みくる・ゆき「いただきまーす」(パクッ)
みくる・ゆき「ふわふわ〜♪」(にこっ)
ハルヒ「ふふふ」
キョン「…」

子供は可愛いなあ。なんか和む。

キョン「あ、美味いな」
ハルヒ「そうね。久しぶりだけど美味しいわ」
キョン「ハルヒも子供のころ良く食べたのか?」
ハルヒ「そうね。定番のおやつだったわ」
キョン「俺はプリンって言うとプッチンってやつだったなあ」
ハルヒ「それはそれで美味しかったけどね。このふわふわした食感がいいのよ。くまさんプリンは」

そう言って笑うハルヒは、困ったことにとても可愛らしく、まさに女の子しているわけで。いや、正直に言うと、グッときた。
でもな、やっぱりハルヒは唯我独尊な方がそれっぽい。しっくり来るとでも言うのか?よくわからんが。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:21:31.74 ID:4bQkrGOI0

みくる・ゆき「ごちそうさまー!」
ハルヒ「はい。お粗末様」
みくる「ゆきちゃん、続きする〜」
ゆき「する〜」

おやつを食べ終わると、子供たちは再び人形遊びをするため、窓の側へと走っていった。
それを優しい微笑を浮かべて見守るハルヒの横顔を暫く眺めてから、声をかける。

キョン「あー…、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「カチューシャとか、今は付けないのか?」
ハルヒ「え?」
キョン「高校のときは付けてただろ?黄色いやつ」
ハルヒ「ええ」
キョン「すごく、似合ってたし…可愛かった」
ハルヒ「あ、ありがとう」(かぁっ)
キョン「また、見たいな」
ハルヒ「…今は、持ってないの」
キョン「そうか。残念」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:23:03.96 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…」
キョン「あー、そんな顔するな。なんて言うか…俺の中じゃさ、ハルヒ=カチューシャみたいなのがあってな」
ハルヒ「初耳」
キョン「だろうな。言ってないし」
ハルヒ「でも、なんでまた急にそんなことを?」
キョン「あー、その、なんだ。…そう、夢。夢を見たんだ。高校のときの夢を」
ハルヒ「高校のときの?」
キョン「ああ。ハルヒと出会って、クラスも同じ、部活も同じで、毎日が楽しかった」
ハルヒ「そうなんだ」
キョン「ああ。あのときはただ漠然と時間を過ごしていたように見えたかもしれないけど、楽しかったんだぜ」
ハルヒ「…わたしも、楽しかったよ」
キョン「そうか」

うん。結構いい感じに高校のことを思い起こさせることができたかな。
まあなんだ、振り回されてばかりだったけど、楽しかったってのは本当だ。なんだかんだ言っても結局俺はあの状況を気にいっていたらしい。思い起こしてみると。


キョン「そう言えば、折角の休みなのに背広着たままってのも変だよな」
ハルヒ「ふふ。そうね」
キョン「ちょっと着替えてくる」
ハルヒ「行ってらっしゃい、私はその間にお皿を片付けておくわ」

廊下に出て、階段を上り、部屋に入る。
基本的なレイアウトは変わってないけど、良く見ればベッドがダブルベッドになっていたり、勉強机が鏡台になっていたり、本棚の一部がたんすになっていたりと細かな部分での変更が目立つ。
ほんの少し、甘い匂いがするような気もする。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:24:35.97 ID:4bQkrGOI0

キョン「こっちはハルヒのたんす、だよな」

通常の俺の部屋には無かったたんすを見ながら、スーツをハンガーにかける。
健全な男子ならつい考えてしまう、女の子のたんすの中身に思いを馳せて、俺は大きく頭を振る。
馬鹿!何を考えているんだ。俺は。
慌ててたんすから視線を逸らし、自分のたんすを開け、シャツとチノパンを取り出す。普段の俺が休日に着ているのと変わらない服だ。
まあ体が高校生のままなのだから、たんすの中身も変わっていないのだろう。家の構造も基本は変わっていないし。

キョン「やれやれ…」

ベッドに仰向けに倒れこんで天井を見上げる。この景色は変わりないんだけどな。
なあ、ハルヒ。これがお前の望みなのか?俺と結婚して家庭を作って日常を静かに暮らす。
…悪くは無いけど、なんか物足りなくないか?もう少し、なんていうか、刺激が欲しい。
まあ、大人になっちまえばそんなこと考えないのかもしれないけどさ。俺はまだ学生のままで馬鹿やっている方が性に合ってるみたいだ。
SOS団のみんなとその他サブキャストの面々でな。

キョン「…」

目を閉じると、今、この世界にいるのは自分ひとりだけになったような薄闇と静寂の世界に入り込んだような感覚を覚える。
それでいて、なんとなく心地よい。世間一般でまどろみと呼ばれる感覚に体を預けて、俺はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:25:40.84 ID:4bQkrGOI0

ゆさゆさ、ゆさゆさ。
…誰かが俺を揺さぶっている。

キョン「ん…なんだ?」
???「やっと起きた!早く起きないと遅刻だよ!キョン君!」

キョン君…、それに、その声…。

キョン「妹!」(がばっ!)
妹「な、なによ、いきなり!」
キョン「シャミセンはどこだ?」
妹「キョン君の頭の上〜」
シャミセン「…にゃあ」
キョン「相変わらずだな」
妹「そうだねー。って、早く起きないと遅刻だよ!」
キョン「わかった、すぐ着替えて降りる!」
妹「うん。先に食べてるね!」

ハンガーにかかっているのは…北高の制服。鏡台もたんすも無い…。妹もシャミセンもいる。戻ったのか?
制服に着替え、鞄を持って階段を降りる。
鞄を玄関に置き、リビングに向かうと妹が大きな口でトーストを頬張っていた。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:27:34.10 ID:4bQkrGOI0

妹「きょほふんほ、ほへ!」
キョン「口に物を入れて喋るな」
妹「…」(ぶーぶー)
キョン「いただきます」

時間が無いので急いで朝飯を食べてから洗面所へ。必要最小限のことを済ませ、身支度を整えて家を出る。
良く晴れた空。いい天気だ。風が気持ちいい。これで学校前の坂が無ければ言うこと無いんだが。
もちろん、坂が無くなるなどという天変地異が訪れた形跡などなく、朝から大汗をかいてえっちらおっちら坂を登る。
できることならこの坂を無くしてくれないか?ハルヒよ。
いつもどおり、始業ぎりぎりで教室に到着すると、俺の席の後ろに鎮座していた我らがSOS団団長の涼宮ハルヒが立ち上がって両手を腰に当てた。

ハルヒ「遅い!」
キョン「スマン」
ハルヒ「でも、間に合ったから許す!」
キョン「そりゃどうも」
ハルヒ「おはよう。あなた」
キョン「…は?」

あなた?
どういうことだ?
ここは学校で、俺たちは生徒で、そう言われる原因が思い当たらないんだが?

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:29:09.30 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「お・は・よ・う」
キョン「あ、ああ、おはよう…ハルヒ」
ハルヒ「ふふっ。まだ寝ぼけてるの?」(にこっ)
キョン「どうもそうみたいだ…な」
???「朝から夫婦喧嘩かと思えばあっという間に惚気に入るとは、さすがね」
キョン「!!」
ハルヒ「いいじゃない。そういう朝倉さんだって、古泉君と散々惚気るくせに」
朝倉「あら。薮蛇だったわ」
ハルヒ「ふふふ」

朝倉がいて、古泉の名が出て、ハルヒは俺の配偶者的なポジションにいて…。
でも、ここは北高。間違いなく学校だよな?
なんだ?いったい何が起きている?
混乱しているのは俺だけで、クラスメイトも教師も別に何もおかしなことは無いといった感じでHRをこなし、普通に授業も進んでいく。
特に何の変哲も無い授業風景。休み時間にハルヒが俺を『あなた』呼ぶ以外には。
昼休みの開始を告げるチャイムが鳴ると同時に、俺は教室を飛び出し部室へと向かった。
『文芸部室』そう書かれた看板を確認する。その扉を隅々まで調べたが『SOS団』の文字が書かれた紙切れはおろか、画鋲で止めた痕も無い。
扉を開けて中に入る。毎回頼ってしまうのは本当に心苦しいのだが、そうせざるをえない状況が続いているのだから仕方が無い。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:30:32.77 ID:4bQkrGOI0

キョン「長門?いるか?」
???「あ、ペール」
キョン「!?」
長門「なに?」
キョン「あ、ああ」

結論から言うと長門はいた。ちゃんとした高校生の姿で。その隣には見目麗しい姿の朝比奈さんも。
ただ、俺の聞き間違いでなければ、朝比奈さんは何か変なことを口にしたような気がする。

キョン「あの…朝比奈…さん?」
朝比奈「ふぇぇ?ペール。どうしたの?」
キョン「…」

どうやら聞き間違いではないらしい。朝比奈さんは俺を『ペール』と呼んでいる。…ペールって何だ?

キョン「ああ、ゴメンみくる。ちょっと、な…有希ちゃんと話をしたいんだ」
朝比奈「うん。わかった〜。あっちでご本読んでるね」(にこっ)
キョン「あ、ああ」

朝比奈さんが窓際に移動したのをぎこちない笑顔で見送る。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:32:06.38 ID:4bQkrGOI0

長門「…とりあえず、学校に生活の場が移動したのはあなたのおかげ。感謝する」
キョン「しかし、変なことになっているな」
長門「家族[ファミィユ]制度と言うものがこの世界の北高で確立している。不純異性交遊の抑制と情操教育の一環としてらしいが、かなり歪な制度」
キョン「なんだそりゃ」
長門「男子と女子で夫婦[クゥプル]を作り、男子は父親[ペール]、女子は母親[メール]となる。クゥプル同士の呼び方は特に規定は無い。そのクゥプルがある程度校内で認知されると、子供[アンファン]を一人持つことができる。
   アンファンは学年が同じかもしくは下の者だけという限定があり、アンファンは男子をペール、女子をメールと呼び、もし自分のクゥプルが誰かのアンファンだった場合、クゥプルのペールを祖父[グランペール]、メールを
   祖母[グランメール]と呼ぶことになる。また、クゥプルの二人がアンファンをどう呼ぶかも自由」
キョン「…」
長門「従って朝比奈みくるは私のクラスメイトになっている」
キョン「そうか…。ところで、朝比奈さんのあの喋り方はデフォルトか?」
長門「もともと、変わらない」
キョン「いや、もう少しちゃんとしてた…気が…」

メイド服姿の朝比奈さんを思い起こす。
『キョン君。お茶が入りました〜』
『ふぇぇっ!?駄目ですぅ!』
『涼宮さん!駄目ぇぇっ!』
『キョン君〜。助けてください〜』
『[禁則事項]で[禁則事項]なんですぅ〜。ごめんなさい』
…。
あ、思い出してみると敬語を除けば喋り方は子供っぽいのか。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:33:20.63 ID:4bQkrGOI0

キョン「スマン長門。確かにその通りだ」
長門「謝罪の必要は無い」
キョン「なあ長門。お前、古泉と朝倉の前ではあの喋り方になるのか?」
長門「基本的会話は今と変わらない」
キョン「そうだな、古泉をペール、朝倉をメールと呼ぶのか?」
長門「少なくとも、第三者がいる場合はそうするのが得策」
キョン「そうか」
長門「時間が無い、あと1分24秒で涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝倉涼子が部室に到着する。それまでに要点を言う」
キョン「ああ」
長門「古泉一樹は我々と同じ、SOS団の記憶を持つ。そのため、今回は状況によって閉鎖空間が発生する恐れがある。従って超能力者グループは存在しているとみていい。
   朝比奈みくるは今回も記憶を持っていない。従って未来人グループの存在は無いと思われる」
キョン「…」
長門「あなた、私、古泉一樹の三名で後ほど話し合いをしたい。古泉一樹への連絡をお願いしたい」
キョン「わかった」
長門「では、あとはその時に。あなたは涼宮ハルヒが来る前に朝比奈みくると一緒にいた方がいい」
キョン「じゃあまた後で」
長門「…」(こくり)

今回は古泉も記憶を持っているのか。それだけでも結構な進歩だ。
さて、と。ハルヒが来る前に朝比奈さんとの家族ごっこを開始するか。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:34:49.07 ID:4bQkrGOI0

キョン「みくる。いい子にしてたか?」
朝比奈「うんっ。ご本読んでた」(にこっ)
キョン「偉いな〜。って、ずいぶん難しい本読んでるな」
朝比奈「高校生だもん。普通だよ?ペール」
キョン「そ、そうだな。ははは…」
朝比奈「変なペール」
キョン「スマン」
朝比奈「どうして謝るの?」
キョン「今日の俺はちょっと変みたいだ」
朝比奈「風邪でもひいた?大丈夫?ペール」
キョン「!!」

朝比奈さんは右手を自分のおでこに当て、左手を俺のおでこにそっと伸ばして押し付ける。

朝比奈「うーん。熱は無いみたい」(にこっ)
キョン「そ、そうか。ありがとう」

相変わらず超弩級の微笑みを至近距離で受け、顔が熱くなるのを感じたとき、部室のドアが開かれ、ハルヒと朝倉、そして古泉が入ってくる。
タイミングとしては上出来だ。朝比奈さんに気付かれずに済む。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:36:25.37 ID:4bQkrGOI0

朝倉「有希。いい子にしてた?」
長門「うん」
古泉「いい子ですね」
長門「…」(にこ)

古泉・朝倉・長門のファミィユを眺めていると、我がファミィユのメール、ハルヒがにこやかに近づいてくるのが目に入った。

ハルヒ「みくる〜。いい子だった?」
朝比奈「うん。メール」
ハルヒ「ふふっ。いい子ね」
朝比奈「ペールにも褒められたの」
ハルヒ「もう、あなたってば。そんなにみくるに会いたかったの?授業が終わるなり飛び出して行っちゃったからびっくりしたわ」
キョン「あー、スマン」
ハルヒ「いいわよ。さ、それよりも、ご飯にしましょ」
みくる「はーい」
ハルヒ「はい、あなたの分」
キョン「あ、ありがとう。ハルヒ」
ハルヒ「どういたしまして」(にこっ)

ハルヒの手作り弁当か。蓋を開けると予想以上にしっかりとした弁当が姿を現して思わず拝んでしまいそうになった。
文句なしに美味そうだ。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:37:38.94 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ・朝比奈・キョン「いただきます」

うん。美味い。普通に美味い。めがっさ美味い。

キョン「美味いぞ。ハルヒ」
ハルヒ「…ありがとう」
キョン「うん。美味い美味い」
ハルヒ「…よかった」

朝の仁王立ちを見たときは、SOS団を結成したハルヒを彷彿とさせたが、今ここにいるハルヒは、やけにしおらしいな。

キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なあに?」
キョン「朝の『遅い!』は怖かったぞ」
ハルヒ「あ、あれは、その!」(かぁっ)

一瞬で赤くなったハルヒは上目遣いで俺を見て、小さく呟いた。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:39:01.31 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…と、…から」
キョン「?聞こえないぞ」
ハルヒ「…朝倉さんと勝負してたから…その、あなたが遅れたら危なかったのよ」
キョン「朝倉と、勝負?何を賭けた?」
ハルヒ「…キス」
キョン「は?」
ハルヒ「あなたとのキス」
キョン「はい?」
ハルヒ「あなたが遅れたら、教室であなたにキスしないといけなかったの」
キョン「あのな、なんでそういうもの賭けるんだよ。見世物じゃないだろ」
ハルヒ「あなたを信じてたもの!遅刻はしてこないって」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「実際、遅刻しなかったからいいじゃない」
キョン「まあそうだけど…」

キスとかって、そう簡単に賭けの対称にするものじゃないと思うんだがな。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:40:31.47 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…こうでもしないと、いつまでもできないかもって思っちゃうし」
キョン「へ?」

ハルヒは朝倉たちの方を見て、朝比奈さんを見て、それから俺の耳元で言った。

ハルヒ「…キョン君、ファミィユなのにキスしてくれないじゃない」
キョン「…いや、それはだな」
ハルヒ「わかってるわよ。そういう人だってことは。告白したのも私からだし」
キョン「…」
ハルヒ「その、もう少し、ファミィユっぽいことして欲しいかなって」
キョン「ど、努力する」
ハルヒ「…」(かぁっ)

ハルヒよ。なぜそこで赤くなる?長門の説明では『不純異性交遊の抑制』とあったはずだが?
…それとも、説明されていないだけでなにか恥ずかしいことをしないといけないのか?それはそれで、困るんだが。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 20:41:33.97 ID:4bQkrGOI0

キョン「ごちそうさま」
ハルヒ「ふふ。お粗末さまでした」
キョン「いや、そんな風に言われたらお前の料理以外食えなくなる」
ハルヒ「え?」
キョン「それだけ美味かったってこと!『お粗末』なんていわれたら困る」
ハルヒ「…そ、そっか」
キョン「そうだ。もっと自信を持っていいぞ。ハルヒ」
ハルヒ「う、うん。じゃあ、どういたしまして」
キョン「うん。それでいい。じゃあ俺はちょっと古泉と話があるから」
ハルヒ「うん。いってらっしゃい」(にこっ)

…困った。ハルヒの奴がすごく可愛く見える。慎ましいし、仕草が可愛い。もともと素材はいいから、やっかいだよな。
さて、古泉と屋上でも行くか。

古泉「涼子さんは本当にお料理が上手ですね。このから揚げといったらもう、プロ顔負けですよ。ついつい一番最後のお楽しみに取っておいてしましました」(にこっ)
朝倉「あ、ありがとう。一樹さん」
長門「…」モグモグ
古泉「ふふふ。照れた顔も相変わらず可愛いですよ。僕は幸せ者です」(にこっ)
朝倉「や、やだな、もう」(かぁっ)
長門「…」モグモグ
キョン「…」

なんだこの桃色空間は。というか古泉の奴がプレイボーイにしか見えん。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:12:20.09 ID:4bQkrGOI0

さるさん喰らったorz 少し間隔をあけよう…

朝倉「…じゃあ、最後のから揚げ、食べさせてあげる」
古泉「おやおや、恐縮です」
長門「…」モグモグ
朝倉「はい、あーん」
古泉「あーん」モグモグ
長門「…」
キョン「…」
長門「ペール、キョンさんがお見えです」
キョン「!!あ、すまんな古泉。ちょっと教えて欲しいことがあって…今いいか?」
古泉「ええ、構いませんよ。じゃあちょっと行ってきます」
朝倉「はい、行ってらっしゃい」(にこっ)
古泉「…」(にこっ)
キョン「!?」

ごく自然に古泉は朝倉の頬に手を当てて、軽く撫でると極上の笑みを浮かべてから席を立つ。
朝倉も嫌がる様子も無く真っ直ぐに古泉を見て微笑み返していた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:15:13.98 ID:4bQkrGOI0

古泉「お待たせしました。では屋上にでも行きましょうか?」
キョン「あ、ああ」

部室の扉を開け部屋を出る。それから無言のまま足早に階段を上り、屋上の扉を開けて屋上へ。
フェンス際まで歩いていってから俺は古泉の方に顔を向けた。

古泉「どうしました?」
キョン「いや、お前の朝倉に対しての態度が、恐ろしいぐらい様になっているからさ」
古泉「恐れ入ります。でも、涼宮さんの仰っていた通りの方ですね、朝倉さんは」
キョン「ハルヒが言っていたとおり?」
古泉「人気者で優しくて面倒見がいい優等生タイプ、だったかな?実際そんな感じですし、とても魅力的な女性ですよ。彼女は」
キョン「まあ、そうだな」
古泉「ところで、何の御用ですか?」

長門の話では古泉は記憶を持った側ということだったが、今のところはそれに関係した話が出てこない。
念のため探りを入れてみることにした。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:17:34.07 ID:4bQkrGOI0

キョン「…バイトの方はどんな具合だ?」
古泉「最近は安定しています。おかげで朝倉さんと夫婦ごっこができて楽しいですよ」
キョン「夫婦ごっこって…」
古泉「おや、違いますかね?」
キョン「まあ、言われてみればそんな感じだけど…」
古泉「失礼、からかいすぎましたか。先ほども言いましたが、このところ閉鎖空間は発生していません。涼宮さんの精神状態も安定しているようです」
キョン「そうか。うん。ならいいんだ」

古泉の口から聞きなれた『閉鎖空間』という言葉が出てきてほっとする。言葉をオブラートで包むような言い方も相変わらずだ。

キョン「とりあえず、長門と俺、古泉の三人で放課後にでも話をしたいと長門からの伝言だ」
古泉「了解しました。となると、やはり一旦帰ったふりをして部室に集まるのが無難ですかね?」
キョン「そうだな、そうなるか」
古泉「さて、では、あなたがなぜ僕を呼び出したか、その理由を決めておかないといけませんね」
キョン「長門の言葉を伝えるためだろ?」
古泉「本当の理由ではなく、対外的な理由ですよ」
キョン「ああ、そうか」
古泉「まあ、僕にはそれもちゃんと思い浮かんだんですけどね」
キョン「なんだ、もったいぶるなよ」
古泉「ちょっと難しいかもしれませんが、あなたならできると信じてますよ」(にこっ)

意味深なことを口にすると、古泉は『ちょっと失礼』などと言って俺の耳元で思い浮かんだ理由を呟いた。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:22:03.46 ID:4bQkrGOI0

キョン「おい、そんなのが理由になるのか?」
古泉「もちろんです。むしろこれが一番自然な理由と言えるかもしれません」
キョン「…そうか」
古泉「がんばってください」

爽やかに微笑む古泉。こいつ、絶対楽しんでやがる。
俺は深いため息を一つ漏らすと、他にこれといった案をプレゼンすることができない自分を呪いながら扉を開け、文芸部部室に向けて歩き始めた。

キョン「…ただいま」
みくる「おかえりなさい〜」(にこっ)
ハルヒ「おかえりなさい」(にこっ)

部室に戻り、二人の極上の笑顔に迎えられた俺は、疑われない程度に顔の表面に貼り付けた笑顔を返してちらりと後ろの古泉たちに視線を送った。
古泉がなにやら朝倉にささやき、それから朝倉が興味深そうにこちらを見るのが目に入る。長門は…相変わらず本を読んでいた。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:25:04.77 ID:4bQkrGOI0

天を仰ぎながら古泉と交わした会話を思い出す。

古泉「簡単なことですよ。クゥプルとしての悩みを僕に相談したってことにしておけばいいんです」
キョン「クゥプルとしての悩み?」
古泉「スキンシップの仕方とでも言いますか、そういったことです。先ほど僕が朝倉さんにしたみたいにすればいいんですよ」
キョン「え?」
古泉「あなたは涼宮さんを見つめて、掌で優しく頬を撫でればいいんです」
キョン「なんでそんなことを?」
古泉「とりあえず、クゥプルの基本的なスキンシップですよ」
キョン「…」

やれやれ、とんだ茶番だ。古泉と朝倉に見られているとわかっていても行動を起こさなくてはいけないのはな。

キョン「ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「あー、その、なんだ」
ハルヒ「…?」
キョン「その、嫌だったら言えよ」
ハルヒ「…うん」
キョン「…」

一応ハルヒに断ってから、俺はズボンで右手を軽く拭い、それからそっとハルヒの頬に触れた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:28:27.73 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…!」
キョン「…」
ハルヒ「…」(にこっ)
キョン「…はは」
ハルヒ「ふふっ」

俺が頬に触れた瞬間、小さくハルヒの体が震えたのがわかった。だけどすぐにハルヒは小さく微笑んで頬を預けてくる。
そうされると俺も笑うしかなくて、そんな俺の顔を見たハルヒも笑顔を返してくれて。
屋上へ行く前に古泉と朝倉が作り出した桃色空間を俺とハルヒで発生させているのを自覚する。誰か早くこの空気をなんとかしてくれ。

朝比奈「はぁあ、素敵…。素敵なクゥプルを持って私は幸せですぅ」

そういうものなのですか朝比奈さん?俺にはよくわかりません。

ハルヒ「…嬉しい」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「うん。ありがとう、あなた」

頬に触れている俺の手の上から自分の手を重ねて、ハルヒは優しく微笑んだ。
これって、すごく恥ずかしいんだが。しかも、ハルヒが手をどけない限りずっとこのままだ。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:32:00.62 ID:4bQkrGOI0

キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なあに?」
キョン「お前の頬がとってもすべすべということは良く解った」
ハルヒ「ふふ。ありがとう」
キョン「いつまで、こうしていればいい?その、離したくなくなってもヤバイだろ」

ハルヒの頬はなんて言えばいいのか、しっくりとなじむというかなんというか…、ずっと飽きないというかなんというか…、むしろこのまま触っていたいと思わせる。

ハルヒ「あなたとなら、いつまででも…」
キョン「馬鹿。恥ずかしいこと言うなよ」
ハルヒ「だって本当のことだもん」
キョン「…」

よりによってハルヒ、お前の口からそんな言葉が出るとは思わなかったぞ。
流されてしまいそうになる自分に気が付いて、俺は右手に力を入れた。
ふにふにとハルヒの頬を揉む。

ハルヒ「きゃっ…もう、なによ?」
キョン「いや、なかなかいい弾力だ」ふにふに
ハルヒ「もう、くすぐったいよ」

ハルヒの手が俺の手の上から離れたのを感じて、ハルヒの頬からすばやく手を離した。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:34:09.23 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「あ…」
キョン「ゴメンな」
ハルヒ「…うん」(かぁっ)

ハルヒがあまりにも淋しそうな目をしたので、俺は思わず離した右手でハルヒの頭を撫でて謝った。
全く、調子を狂わされっぱなしだ。

キョン「もう少し、我儘でもいいんだぞ」
ハルヒ「きゃっ…」

照れ隠し半分でそう言うと、俺はハルヒのおでこをつついた。
それにしても、『きゃっ』って。なんてベタなんだ。まあ、可愛いけどな。

ハルヒ「…キョン君、我儘な方がいいの?」
キョン「場合にもよるけどな。ハルヒはもう少し我儘言ってもいいと思う」
ハルヒ「うーん。よくわからない」
キョン「キョン君じゃなくてキョンって呼ぶとか」
ハルヒ「ええっ!?呼び捨てなの!?」
キョン「呼び捨ても何も、あだ名なんだが」
ハルヒ「あ、そうか」

本名がキョンって、いったいどこの国の人間なんだ?教えてくれ、ハルヒ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:36:22.98 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…えー、じゃあ、…キョン」
キョン「うん」
ハルヒ「キョン、キョン、キョン」
キョン「…」
ハルヒ「…そのうち慣れるかなあ?…もっとも、普通は『あなた』って呼んじゃうし」
キョン「そうか。俺としてはなるべく『キョン』って呼んで欲しいんだけどな」

その方がハルヒらしいってことだが。もし恋人から呼ばれるならこんなふざけたあだ名じゃなく、名前で呼んで欲しいしな。
ハルヒが俺を名前で呼ぶのを想像して、少しだけそれも悪くないと思ってしまったのは内緒だ。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 21:39:34.58 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「そうして欲しいのなら…そうするわ。キョン」
キョン「ありがとう」
ハルヒ「でも、急には無理だけど」
キョン「ああ」

予鈴が鳴る。昼休みもそろそろ終わりだ。

キョン「よし、戻るかハルヒ」
ハルヒ「うん」

頷くハルヒの向こう側でこっちを見ている朝比奈さんと目が合う。ハルヒとの会話に気をとられてあまり相手をしていなかったことに気が付いた。

キョン「あー、みくる。スマン。ハルヒと話してて相手をしていなかった」
朝比奈「ふぇ!?ペールとメールが仲良くするのは当たり前のことだよ」
キョン「でも、一人だけぼーっとしててもつまらなくないか?」
朝比奈「うーん。ペールとマールと一緒にいるだけでも楽しいから」
ハルヒ「まあ。みくるは本当にいい子ね」
朝比奈「えへへ。褒められちゃった」
ハルヒ「ふふ。よしよし」
朝比奈「ふふっ」

ハルヒが頭を撫でると嬉しそうに微笑む朝比奈さん。
この二人のツーショットといえば、涙目になって逃げる朝比奈さんをハルヒが弄り倒すみたいな構図しか思い浮かばないので、これはこれで新鮮だった。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:11:02.50 ID:4bQkrGOI0

ハルヒと共に朝比奈さんを教室に送ってから自分たちの教室に戻る。
席に戻ると、谷口と国木田が二人して近づいてきた。

谷口「よう、キョン。相変わらずファミィユしてるのか?」
キョン「まあな」
谷口「へーへー。仲のよろしいことで」
国木田「ぼやかないぼやかない。でも、結構珍しいよね。同じ学年でファミィユって」
谷口「クゥプルだけなら珍しくも無いんだけどな。アンファンまで同じ学年ってのは確かに珍しいよな。それよりもまず、俺とクゥプルになってくれる子はいないものかー」
国木田「まあまあ、僕もなってくれる子いないから」
谷口「おまえはよく上級生のお姉さんに話しかけられているじゃないか」
国木田「ああ、あれはアンファンのお誘いだよ。困ったものさ」
谷口「まんざらでもないだろう?」
国木田「そういうことにしておくよ。ところでキョン。どうして涼宮さんとクゥプルになったか教えてくれないか?」
キョン「それはあいつに聞いてくれよ」

そういって俺は後ろの席にいるハルヒに親指を向ける。そもそも、俺はどうやってクゥプルになったのかなんて知らないから答えようが無いのだ。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:15:10.13 ID:4bQkrGOI0

国木田「相変わらずの秘密主義か?まったく」
キョン「別に隠してないだろう」
谷口「涼宮に聞いてもお前と同じことしか言わないんだよ『キョン君に聞いて』ってな」
キョン「そうか」
国木田「出身校も違うのに入学後すぐにクゥプルになった君たちに、僕はつくづく驚いているんだよ。あ、ひょっとして小学校時代の知り合いとか?」
谷口「それよりも俺が驚いたのは涼宮の変わりようだ。この俺が見抜けなかったのにどうしてキョンが見抜けたのか未だにわからん」
国木田「あの変わり方は衝撃的だったからねえ」
谷口「おう。しかもその理由が『キョン君のおかげ』だからな」
国木田「そうそう」

待て、お前らはいったい何を言っている?ハルヒが変わった?衝撃的に?しかもその理由が俺?
更なる質問攻めに会う前に始業を告げるチャイムが鳴り、国木田と谷口はそれぞれ自分の席に戻る。とりあえずは助かったみたいだ。
六限前の休み時間はトイレに行って時間を潰し、放課後はさっさと教室を出た。誰も何も言わなかったから掃除当番ではないはずだ。うん。
俺とハルヒがクゥプルになった経緯、それを良く知っているのは誰か…それはわかっている。一番知っているのはハルヒだ。
かといって、うまく聞きだせるかといえば、正直自身が無い。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:18:33.80 ID:4bQkrGOI0

キョン「…はぁ」
朝倉「大きなため息ね?キョン君」
キョン「朝倉」
朝倉「ふふ。お昼休みはごちそうさま。クゥプルらしくて安心したわ」
キョン「からかうなよ」
朝倉「あら、だってクラスメイトで同じ文芸部だもの、気になるじゃない」
キョン「そりゃ、どうも」
朝倉「つれないわね」
キョン「いつもこんなもんだろ?」
朝倉「そうね…」

ん?クラスメイトで同じ文芸部。それはハルヒにもいえることだな…。
よし、駄目元で国木田の言っていた変わり方っていうのに探りを入れてみるか。

キョン「なあ朝倉、ハルヒってそんなに変わったか?」
朝倉「いきなり何?クゥプルのことならあなたが一番良く知っているのではなくて?」
キョン「それはそうなんだが、昼休みに国木田に言われて、そんな変わったのかと思ってな」
朝倉「うーん。外見的にってことならすごく変わったと思うわ。内面的なことはわからないけど」
キョン「外見的?」
朝倉「入学式のクラスでの自己紹介のときは彼女、三つ編みのツインテールに大きなメガネをかけてすごく地味だったじゃない」

三つ編みにでメガネをかけたハルヒを想像してみる。福笑いみたいに平面的なパーツを頭の中でハルヒの顔にあてがうだけだが。
ああ、でもそれで谷口の『この俺に見抜けなかった』の意味がわかった気がした。地味なハルヒはきっと谷口チェックでB以下だったんだろう。
とりあえず疑われないように適当な相槌を打つ。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:23:26.40 ID:4bQkrGOI0

キョン「…ああ、言われてみれば」
朝倉「そんな子が、週明けにばっさりと髪を切ってメガネを外してくるだけでもかなりびっくりなのに、リボンの色が青くなってるんだもの」
キョン「…」
朝倉「良く見ればあなたのネクタイも青いし、涼宮さんに聞いたら『キョン君とクゥプルになった』って言うからまたびっくり」

そう言われてみれば、朝倉のリボンも青いし、俺のネクタイも青い。国木田たちのネクタイは赤かったからクゥプルになるとネクタイやリボンを変えるのか。
思わぬところでいい情報を貰えた。朝倉、感謝。

朝倉「いったい、ど・う・や・っ・て涼宮さんを落としたのかしら?」
キョン「落としたって、また人聞きの悪い」
朝倉「あら、事実でしょう?違うの?」
キョン「…それを言ったら朝倉はどうやって古泉を落としたんだよ」
朝倉「なっ、もうっ!いきなりそう来るのは反則よ!キョン君」(かぁっ)
キョン「ははは。古泉の奴、教えてくれないんだよな」

嘘は言ってない。まだそういった話をしていないだけなのだが。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:27:14.00 ID:4bQkrGOI0

朝倉「…私の場合はね…ひとめぼれよ。それだけ」
キョン「古泉に?」
朝倉「他に誰がいるの?」
キョン「いや、その…、意外な理由だな」
朝倉「そう?これでも私、積極的な人間って印象だと思ってるんだけどな」
キョン「行動派だとは思うけどな」
朝倉「なんだ、わかってるじゃない」

くすっと笑って俺の肩を叩くと、朝倉は小さく呟く。

朝倉「もし、一樹さんにちょっかい出す子がいたら、ナイフで刺しちゃうかも…。なんてね」

…朝倉、冗談のつもりだろうが、その言葉、洒落になってないぞ。少なくとも俺にとっては。
嫌な汗が背中に伝うのを感じながら、俺は朝倉の後に続いて文芸部の扉をくぐった。
部室に入ると、既にいつもの定位置には長門、窓際には朝比奈さんがいた。

朝倉「有希。いい子にしてた?」
長門「うん」ペラリ
朝倉「相変わらずおとなしいわね。でもそこがまたいいんだけど」
長門「…そう」ペラリ

本から視線を外そうとはせず、それでも朝倉の問いかけに一応は返事をしている長門。
長門的にはどうなんだ?消したはずの朝倉とファミィユしてるってのは。…後で聞いてみるか。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:29:55.26 ID:4bQkrGOI0

ゆっくりと部室を見回してみる。昼休みには気付かなかったが、こうしてみると、SOS団のときにはあったものが無い。
コンピ研から奪ったパソコン、朝比奈さんのコスプレ衣装、古泉のテーブルゲーム類…。
あれ、カセットコンロと薬缶、茶筒、それにマグカップはあるな。布巾が被せてあってよくはわからないが。
なんとなく気になってそちらへと近づき、薬缶を持ち上げてみる。軽い。空だ。

朝比奈「ペール、お茶?」
キョン「あ、ああ。ちょっと喉が渇いたから入れようかなって」
朝比奈「ええっ、駄目だよぉ。私が煎れるぅ」
キョン「そう?じゃあお願いしようかな」
朝比奈「はぁい」

朝比奈さんはにこにこと笑いながら歩いてくると、俺から薬缶を受け取ると外に出て行く。あ、水汲みくらいは俺が行ってもよかったのか。
天使の微笑みに思わず見入ってしまった。反省。
途中で薬缶をひっくり返してしまうこともなく無事帰ってきた朝比奈さんの頭を、ペールらしさを発揮して撫でてみる。

朝比奈「えへへ。褒められちゃいました」
キョン「いい子いい子」
朝比奈「嬉しいです。えへっ」

朝比奈さんの嬉しそうな微笑みは、相変わらず俺の心を癒してくれる。しかもそれが俺だけに向けられているなんて、なんという幸せ。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:32:58.13 ID:4bQkrGOI0

朝比奈「ペール、何かいいことあった?嬉しそう」
キョン「いいことはこれから起きるんだ」
朝比奈「これから?」
キョン「みくるがお茶を煎れてくれるからね。それが楽しみで楽しみで」
朝比奈「ふぇ!?そんな期待されても…」
キョン「いつもどおりでいいんだよ。みくるの煎れるお茶は絶品だからな」
朝比奈「ふぇぇ?褒めすぎですぅ。ペール」

朝比奈さん。あなたの煎れるお茶はお世辞でもなんでもなく、本当に美味しいんです。

ハルヒ「遅くなっちゃった」
朝比奈「あ、メール」
ハルヒ「みくる、いい子にしてた?」
朝比奈「うん」
ハルヒ「あら、お茶を沸かしてるの?」
朝比奈「うふふ。ペールが飲みたいっていうから」
キョン「みくるのお茶は美味しいから楽しみなんだ」
ハルヒ「ふふ。そうね。みくるが煎れてくれるお茶は美味しいわよね」
朝比奈「ふぇぇっ、メールまで。プレッシャーですぅ」
ハルヒ「ふふ。いつもどおりでいいのよ」
朝比奈「はぁい」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:35:34.25 ID:4bQkrGOI0

机の上に鞄を置き、椅子を引き出してそこに座るとハルヒは俺に向かって言った。

ハルヒ「あ、そうだ、キョン」
キョン「どうした?」
ハルヒ「ねえ、お昼休みのときのやつ、やって?」
キョン「は?」
ハルヒ「もう少し我儘でもいいって言ったじゃない。だから…」

昼休みのやつ…って、あれか!…我儘でもいいと言った以上は、ハルヒの声に応えねばなるまい。例えそれが俺の思っていた我儘とは違う部類のものだとしても。
昼休みのときのようにズボンで右手を拭ってから、ほんのりと赤くなっているハルヒの頬を撫でる。

ハルヒ「…ん」
キョン「…」

なあハルヒ、そういう声を出すのはやめてくれ。どうしていいかわからなくなる。

ハルヒ「…」
キョン「…」
ハルヒ「…」(にこっ)
キョン「…」(に、にこっ)

この空気、何とかならないか?

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:38:16.13 ID:4bQkrGOI0

…そうだ、今なら聞けるかもしれない。クゥプルの馴れ初めを。さりげなく、さりげなく…。

キョン「なあ、ハルヒ…覚えてるか?俺たちがクゥプルになったときのこと」
ハルヒ「当たり前じゃない。忘れるわけないわ」
キョン「ありがとう」
ハルヒ「私の方こそ、ありがとう。キョン」
キョン「ああ…」

しまった。会話が続かない。うまく聞きだす方法…何か無いか?…そうだ。

キョン「なあハルヒ。お前、今コンタクトなのか?」
ハルヒ「ううん」
キョン「何でメガネかけてたんだ?」
ハルヒ「…目立ちたくなかったから」
キョン「え?伊達メガネ?」
ハルヒ「…うん。メガネをかけて校則どおりの格好をしていれば目立たないでしょ?」
キョン「そりゃそうだけど、どうして?」
ハルヒ「…あまり人と関わりたくなかったのよ」
キョン「…」
ハルヒ「でも、あなたは私に声をかけてくれた。お話してくれた。…嬉しかった」
キョン「…」
ハルヒ「だから、私もあなたに思い切って声をかけたの。そうしたらあなたはちゃんと応えてくれた」
キョン「…」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 22:41:19.93 ID:4bQkrGOI0

高校に入学して最初のHR。私は憂鬱だった。最初のHRといえば、当然あるのが自己紹介だ。
出身校、名前、自己アピール。何が得意だとか、何をしたいだとか。そんなもの特に無い場合はどうしたらいいのか。簡単だ。趣味ということにして何かを言えばいい。
クラスメイトの気を惹くとか、そんなことに何の意味があるのか、私にはわからないし興味も無い。
だからというわけじゃないが、クラスメイトが何を言ったかなんて、いちいち覚えてはいなかったし、私の番になっても暫くの間、何をすべきなのか良く分かっていなかった。

???「…おい、君の番」
ハルヒ「え?ああ、ありがとう」
???「どういたしまして」

前の席の男子−なんで男女が交互に並んでいるのかよくわからないけど−のおかげで当たり障りの無い自己紹介を済ませることができた。
彼はなんて名前だっただろう?全く聞いていなかったからわからない。お礼ぐらいはしておくべきだろうか?
そんなことを考えていたら、他のクラスメイトの自己紹介もほとんど耳に入らなかった。

???「涼宮さん」
ハルヒ「…なんですか?」
???「あのさ、趣味が読書って言ってたよね?どんな本が好きなの?」
ハルヒ「どうして?」
???「気にならない?同じ趣味だったらどんな本が好きなのかってさ」
ハルヒ「…」

どうやら前の席の彼の趣味も読書だったらしい。こんなことなら音楽鑑賞にでもしておけばよかった。
人の良さそうな男の子。少なくとも悪い人には見えない。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:12:09.14 ID:4bQkrGOI0

ハルヒ「…SFとか、ファンタジーとか、好きよ」
???「おお!?仲間」
ハルヒ「そ、そう」
???「じゃあさ、文芸部覗いてみないか?」(にこっ)
ハルヒ「え?」
???「興味あるんだけど、一人じゃさすがに…、その、良かったらだけど…」
ハルヒ「…いいわよ」

不思議だけど、このとき私は何のためらいもなくそう答えていた。もしかしたら自己紹介のときの借りを返したかっただけかもしれないし、何か運命的なものを感じていたのかもしれない。
私が返事をした後、彼は友人だろうかクラスメイトの男子から、『キョン』と呼ばれて『ちょっとゴメン』と言って席を離れた。
キョン君…か。うん…なんとなくその呼び方がしっくりくるような気がする。
そんな風に感じたから、彼が戻ってきて文芸部を見に行くとき、私は始めて彼を呼んだ。

キョン「あー…。やっぱそうなる?」
ハルヒ「え?」
キョン「呼び方。『キョン君』ってさ」
ハルヒ「あ、お友達がそう呼んでたからその方がいいのかなって…」
キョン「国木田め…」
ハルヒ「あ、駄目ならその…」

普通に苗字を呼ぼうと思ったところで気付いた。彼、なんて名前だっけ?

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:16:11.35 ID:4bQkrGOI0

キョン「別にいいさ、キョンで。もう慣れた」
ハルヒ「あ…うん」
キョン「なんかよくわからないけどさ、気が付くとそう呼ばれてるんだよな俺」
ハルヒ「そうなんだ」
キョン「なんでかね。それでいて結局自分でも受け入れちまうんだから、俺はそう呼ばれる運命にあるのかもしれないな」

彼はそう言うと恥ずかしそうに言ってから、屈託のない笑顔で言った。

キョン「じゃ、行ってみよう。涼宮さん」

約束してしまった以上は、断るという選択肢は私に残されてはいるはずもなく、言われるままに彼の後ろをついていく。
文科系の部は中庭で勧誘をしているはず、そう言って私たちは中庭に向かう。

キョン「…」
ハルヒ「…」

見るからに怪しいノートパソコンに何かの画面を映して流している文学系の男子生徒、中世の貴族みたいな衣装を着てたむろっている演劇部らしき集団、見るからに吹奏楽部な管楽器を手にした人たち、長机の前にただ座っているだけのいくつかのグループ。
そのグループの中でもとりわけこじんまりとした、端の方に追いやられた感のある『文芸部』と書かれたA4のコピー用紙が揺れている机。
ショートカットのメガネをかけた子が椅子に座った上級生と思しき女子生徒(なぜか私服)と二言三言会話をして、差し出された用紙に何かを書いたと思うと、椅子に座っていた女子生徒が立ち上がり、ショートカットの子の肩に手を置いて自分が座っていた椅子に座らせると、
『じゃあ、あとよろしくね』なんて声をかけてそそくさと帰っていく。それを無言で頷いて見送るショートカットの女の子は、まるで何事もなかったかのように制服のポケットから文庫本を取り出して読み始めた。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:19:41.52 ID:4bQkrGOI0

キョン「すみません。文芸部…ですよね?」
???「そう」
キョン「あの、お話聞きたいんですけど」
???「…」パタン

キョン君が声をかけるとショートカットの女の子は読んでいた文庫本を閉じ、顔を上げた。

???「文芸部は基本は読書や本の評論を行い、年1回会報を作成する」
キョン「それだけですか?」
???「先ほど受けた説明はそう」
キョン「え?先輩、ですよね?」
???「違う。私は1年6組長門有希。先ほど、入部と同時に部長を任された」
キョン「へ?」
長門「引継ぎをしてくれたのは先代部長。文芸部を存続させるため、来週から大学生なのに新入生の勧誘を行っていた。私はそれに感銘を受け入部を決めた」
キョン「そ、そうなんだ」
ハルヒ「…ねえ、長門さん」
長門「なに?」
ハルヒ「先輩に押し付けられたようにも見えたんだけど…、違うの?」
長門「違う。入部は私の意志」
ハルヒ「そう。がんばってね」
長門「…」

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:23:57.50 ID:4bQkrGOI0

長門さんに真っ直ぐに見つめられて、なんとなく嫌な感じがした私は、気が付くとキョン君の手を引いて歩き出していた。

キョン「お、おい?」
ハルヒ「行こう?キョン君」
キョン「あ、ああ」

中庭から校舎に入り、教室前まで歩いてからキョン君の手を離す。教室にはもう誰もいなかった。当たり前だけど。

ハルヒ「ごめんね。でも、あれじゃあ…」
キョン「そう…だな」
ハルヒ「あっ、キョン君は入りたかった?だとしたらごめんなさい。何も聞かないで引っ張ってきちゃって…」
キョン「い、いや」
ハルヒ「なんかね、嫌な感じだったの…。長門さんに見られたら…。その、長門さんが嫌だとかそういうわけじゃないんだけど…」

我ながら言い訳じみたことを話していると思うと、知らないうちに頭に血が上ってきて頬が熱くなるのがわかる。よりにもよってこんなときに赤くなったら勘違いされてもおかしくない。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:28:28.86 ID:4bQkrGOI0

キョン「涼宮さん?もしかして熱ある?」
ハルヒ「えっ、ちょっと…なにするの!?」
キョン「いや、熱があるかなって思って」
ハルヒ「だ、大丈夫…」
キョン「いや、顔赤いし、ちょっと測らせて」
ハルヒ「だいじょう…きゃっ!!」

彼の手がとっさに避けた私のメガネを引っ掛けて、メガネがカシャーンと派手な音を立てて床に落ちた。

キョン「ゴ、ゴメン!怪我してない?」

慌ててメガネを拾って私に差し出しながら心配そうに顔を覗き込まれる。熱を測ろうなんてしなければこんなことにならなかったのに。
ちょっとキョン君を睨んだままメガネを受け取ると、彼はばつが悪そうに項垂れて呟いた。

キョン「…ゴメン」
ハルヒ「…うん」
キョン「壊れなかった?」
ハルヒ「大丈夫」
キョン「本当にゴメン!つい妹にやるみたいに熱を測ろうとしちゃって…。良く考えれば他人の男にこんなことされたら避けるよな。ホント、反省」
ハルヒ「…以後気をつけるように」
キョン「ああ。悪かった」
ハルヒ「うん。じゃあ帰るわ」
キョン「そうだな。気をつけて」
ハルヒ「さようなら」
キョン「またね。…あ、涼宮さん!」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:33:10.08 ID:4bQkrGOI0

一度は別れの挨拶をしたにもかかわらず、キョン君は私を呼び止めた。

ハルヒ「どうしたの?」
キョン「あ、その…さ。涼宮さん、メガネ外すと可愛いね」
ハルヒ「は?」
キョン「髪も、おさげじゃなくてポニーテールみたいにアップにするとかすればよく似合うと…思う」
ハルヒ「…考えとく。じゃあね」

まったく、何を言うかと思えば。まあ、悪い気はしないけどね。でも、お生憎様。私は目立ちたくないからそんなことはしないのよ。

--木曜日。今日から普通の北高生としての生活が始まる。教室に入ると、同じ中学出身や席が隣で意気投合した人が小さなグループを作って話していた。
幸いなことに私の席は一番後ろだったので、静かに教室に入ってそっと自分の席に座れば誰にも干渉されずに静かな一日を送れるはず。

???「おはよう。涼宮さん」
ハルヒ「…おはよう…えーっと」
???「朝倉よ、朝倉涼子」
ハルヒ「…ごめんなさい。名前覚えるの苦手で…」
朝倉「あ、気にしないで。私が勝手に覚えただけだから」
ハルヒ「…」
朝倉「これからよろしくね。…あ、おはよう。国木田君」
ハルヒ「…」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:36:21.00 ID:4bQkrGOI0

積極的にクラスメイトに声をかける朝倉さん。学級委員でも狙ってるのかしら?それにしても、よくみんなの名前覚えてるなあ。
朝倉さん以外は私に声をかけてくることもなかったので、私は安心して時間割を確認したり、教科書を確認したりして時間を潰した。
予鈴が鳴ってみんなが自分の席に着こうと戻り始めたころ、廊下から一人の男子生徒が駆け込んできて私の前の席に座った。
肩で息をして机の上に突っ伏している。キョン君だ。

キョン「はあ、はあ、間に合った」
キョン君の友達(確か国木田君)「キョン、もう少し余裕を持って来いよ。まったく」
キョン「そのつもりだったんだけどな、あの坂は予想以上にきつかった」
国木田「昨日の時点でわかってただろう?」
朝倉「ぎりぎりセーフってところね…。おはよう。…キョン君」
キョン「…おはよう」
???「おお?朝倉さんにあだ名で呼ばれるなんて何者だ?」
朝倉「ただのクラスメイトよ。谷口君、あなたと同じ。そうね…彼を呼ぶにはなんとなくその方がしっくりくる気がするのよね」
谷口「ああ、いかにもキョンって顔してるもんな。あ、悪い」
キョン「やれやれ、勝手にしてくれ」

ふぅん。キョン君ってやっぱり他の人にもそう見られているのね。彼自身がそう言っていたようにそう呼ばれる運命にあるのかな。
ちょっとかわいそうな気もするけど。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:42:17.18 ID:4bQkrGOI0

HRが終わると、すぐにキョン君が振り向いて質問してくる。

キョン「なあ、学年によってリボンやネクタイの色が違うのか?」
ハルヒ「そんなことないと思うけど」
キョン「なんか、青いリボンやネクタイの人を見たんだ」
ハルヒ「ああ、クゥプルの人たちのこと?」
キョン「なんだそれ?」
ハルヒ「え?知らないの?」
キョン「初耳だ」

北高に入学する理由のTOP3にあるファミィユ制度を知らないなんて、キョン君って以外と世間知らずなのかしら?
仕方ないからファミィユ制度について簡単に説明する。

キョン「つまりクゥプルってのは学校公認カップルみたいなものか?」
ハルヒ「あ、言われてみればそんな感じかも」
キョン「やれやれ、何でそんな制度があるんだ?俺みたいにモテない奴にはキツいぞ」
ハルヒ「一度クゥプルになると別れるのも大変そうだけど」
キョン「あ、そういう見方もあるか」
ハルヒ「そう考えると、学校としては管理しやすくなるからいい制度なのかもね」

カップルと一目で分かるようにリボンやネクタイの色を変えさせて、なおかつアンファンやグランクゥプルなどのお目付け役も付けられる。
そう考えれば管理しやすいし、公認となっていることを考えても、生徒の過剰な不純異性交遊を抑制する制度として学校側が定着させた可能性が高いかも。
ちょっとロマンには欠けるけどね。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:47:56.39 ID:4bQkrGOI0

朝倉「ねえ、涼宮さんとキョン君。文芸部を見に行ったんですって?」

六限が始まる前の休み時間、いきなり朝倉さんがそんなことを聞いてきたので、思わずキョン君と顔を見合わせてしまった。

ハルヒ「ええ」
キョン「まあ」
ハルヒ・キョン「何で知ってるの?」

偶然なんだけど、ものすごく綺麗にハモってしまう。

朝倉「綺麗な和音ね」
キョン「そりゃどうも」
ハルヒ「…」
朝倉「ああ、文芸部の話ね。実は私、文芸部に入ったのよ」
キョン「…またどうして?」
朝倉「部長の長門さん、同じマンションに住んでてね。誘われたから入っちゃった」
キョン・ハルヒ「…」
朝倉「私以外には誰か来たのかって聞いたら『キョン君って呼ばれる男子生徒とおさげの女子生徒が説明だけ聞いてくれた』ってね」

世間って広いように見えてけっこう狭い。キョン君を見ると、彼もどうしていいかわからないといった表情で私を見て、小さく肩をすくめた。
そんな私たちを見て楽しそうに笑いながら、朝倉さんは何かの用紙を私たちに差し出した。

朝倉「ということで、入部届。よろしく」

結局、私とキョン君は文芸部に入部することになった。朝倉さんの勢いに押されたというのもあるけど、活動をするにしろしないにしろ何らかの部に所属していた方が面倒ではないというのがキョン君の意見だ。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/17(火) 23:52:29.80 ID:4bQkrGOI0

キョン「悪いな」
ハルヒ「え?」
キョン「見学につき合わせた挙句、入部させちまって」
ハルヒ「まあ、しょうがないよ。それに、何か部活動に入っていた方が色々有利なんでしょ?」
キョン「まあ、入っていないよりは」
ハルヒ「じゃあそれでいいじゃない」
キョン「そうか」
ハルヒ「うん」

そもそも強制ではないのだから合わないと思えば辞めればいいだけだ。
キョン君は深く考えすぎるところがあるみたい。まあ、いい人ってことなのかな?

長門「…ありがとう」
ハルヒ「え?」
長門「文芸部」
ハルヒ「あ、うん」
長門「…放課後、待ってる。良かったら…来て」
ハルヒ「…考えとく」
長門「…」(にこっ)

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:13:42.18 ID:tGFhftI20

休み時間に廊下で長門さんに会った。初対面の時に感じた嫌な感じはしない。ただ単にちょっと無口なだけな人なのかもしれない。
放課後、文芸部に行ってみようかな。
放課後、文芸部は初顔合わせと言うことで長門さん、朝倉さん、キョン君、私の順番で簡単な自己紹介をして、それからは適当な雑談をすることになったのだが、それぞれ相手のことを
知っているわけではないので会話は途切れがちになる。

朝倉「ふふ。長門さん以外5組って言うのも面白いわね」
長門「…」シュン
朝倉「あら?別に長門さんが悪いとは言ってないわよ。ああ、ごめんなさい。そんな寂しそうな顔しないで」
長門「普段どおり。心配要らない」
朝倉「いつもさっきみたいにしょんぼりしてないでしょ?5組の人間が多いのはたまたまなんだから、長門さんは気にしないでいいの」
長門「…了解した」
朝倉「ふふふ」

なんか、朝倉さんって長門さんの保護者みたい。長門さんが子供っぽいってわけじゃないから、朝倉さんが大人びてるってことなのかな。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:16:17.73 ID:tGFhftI20

--金曜日 放課後
今日はデパートに予備の制服を取りに行くように親に頼まれたので、学校が終わってから駅前へ行くことになった。
六限が終わると、キョン君が鞄を手にとって『今日は用事があるから』と言ってさっさと教室を出て行く。わざわざ私に断るってことは今日も部室に行くと思われたのかもしれない。
ごめんねキョン君。今日は部室に行かない。
朝倉さんに用事がある旨を伝え、キョン君も用事があるから帰ると言っていたと伝えると教室を出た。

朝倉「キョン君とデート?」
ハルヒ「ちがいます!」
朝倉「そうなの?あはは、冗談。ゴメンネ」
ハルヒ「…さようなら」

朝倉さんのこういうところ、好きじゃないな。

デパートにある、学校の制服を扱っているお店。北高だけではなく周辺の学校の制服も扱っているから、この地区にある学校の制服がショーケースに並んでいる。
北高の制服の側には小物も置いてあり、リボンとネクタイの前で私は思わず足を止めた。
青いリボンと青いネクタイ。
クゥプルの証であるそれは、こうして見ているだけでもなんとなく幸せな気分にさせてくれる、そんな不思議な魔力を持ったアイテムだ。
私が北高に入った理由。その第一の理由が、クゥプル。
人と関わりたくないなんて言っていて、実は特定の人との関わりを持つための制度に憧れている。
運命の人。
チープな言い方だけど、そんな人と出会いたい。そう私は思っている。

ハルヒ「…」(かぁっ)

頬が熱くなる。少しぐらい夢見たって罰は当たらないはず。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:20:21.02 ID:tGFhftI20

女1「あ?涼宮さんじゃーん」
女2「久しぶりー。相変わらずだねー」
女3「元気してたー?」
ハルヒ「う、うん…」

訂正。夢を見る場合も時と場所を考えないと痛い目をみる。
中学時代のクラスメイトの3人組。彼女たちは3人揃って制服の無い私立の高校へ行ったはずだ。

女1「てか、涼宮さん何してるの?」
女2「これって、あれだよね?クゥプルとか言うやつ」
女3「あー、ラブラブリボンとラブラブネクタイってやつ?」
女1「ええ?涼宮さん彼できたのぉ?」
女2「ええ?そうなの?だからこんなところにいるの?」
女3「ねね、彼優しい?」
ハルヒ「…」

彼女たちはわかっていて質問を浴びせてきているのだ。こんな時は何か言ったら私の負け。

女2「ねえ?どうなのよ?」ニヤニヤ
女3「ラブってるんでしょ?いいなあ」ニヤニヤ
女1「羨ましいなあ涼宮さん」ニヤニヤ
ハルヒ「…」
女3「ねえ、もったぶらないで教えてよ」クスクス
女1「そうそう。ねえ?」クスクス
女2「意地悪しないでよ?」クスクス

何か言ったら私の負け、何か言ったら私の負け…。目の前がうっすらとぼやけてくる。最悪だ。涙なんて。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:25:56.42 ID:tGFhftI20

女1「あれぇ?どうしたの?涼宮さん」クスクス
女2「具合でも悪い?ねえ?」クスクス
女3「あれあれ?ひょっとして泣いてる?」クスクス
ハルヒ「…」
???「ハルヒ!!」
女1・女2・女3「!?」

誰?私を名前で呼ぶのは?ぼやけてて良く見えない。

女1「ちょっと、アンタ誰よ?」
女2「そうよそうよ」
女3「邪魔しないでくれる?」
???「邪魔なのはお前らだろ!俺はここで待ち合わせてたんだ」
女1・女2・女3「!?」
???「そうだろ?ハルヒ」(にこっ)

ああ、この声。

ハルヒ「…キョン君」
キョン「待たせてゴメン」
ハルヒ「うん…」
女1「話が見えないんですけどぉ」
女2「ていうか、何なの?」
女3「説明してよ」
キョン「北高生じゃないお前らにわかるかどうか疑問だが、俺たちはネクタイとリボンを買いに来たんだ」
女1・女2・女3「!?」
ハルヒ「…」(かぁっ)

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:30:06.48 ID:tGFhftI20

再び頬が熱くなる。夢を見ているわけでもないのに心臓も痛いくらいに高鳴っている。
キョン君は青いネクタイと青いリボンを手に取り、少しぎこちない感じで青いネクタイを私に差し出す。その頬はちょっとだけ赤かった。
青いネクタイを受け取ると、私はレジに向かう。すぐ後ろから青いリボンを手にしたキョン君が付いてくるがわかった。3人が私たちを追い越して逃げるように制服売り場から去っていく。
その後姿を見送ってから、私はキョン君を振り返った。

ハルヒ「あ…」(かぁっ)
キョン「な、なんだよ」
ハルヒ「ありがとう」
キョン「…ああ、いや、気にしないで、涼宮さん」
ハルヒ「あ…」シュン

キョン君には『涼宮さん』と呼ばれるのが普通だったのに、そう呼ばれるととても淋しい気分になる。
彼の顔を見て、名前を呼ぶ声を思い浮かべると、さっきのように心がじわっと温かくなってくる。
ああ、そうか。これがきっかけなんだ。
迷惑かもしれないけど、断られるかもしれないけど、助けてくれた優しさを信じて聞いてみよう。

ハルヒ「…名前で呼んで」
キョン「え?」
ハルヒ「ハルヒって呼んで」
キョン「…いいの?」
ハルヒ「…」コクリ
キョン「じゃあ、ハルヒ」
ハルヒ「ありがとう」(にこっ)

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:35:14.96 ID:tGFhftI20

レジに行き、引換券と青いネクタイを渡してお会計を済ませる。青いネクタイは別の袋に入れて貰った。キョン君が持っていた青いリボンは、予備の制服のリボンと変えてもらい、それも別の袋に入れてもらう。
キョン君に青いリボンの入った袋を渡して、それから大きく深呼吸。そして青いネクタイの入った袋を差し出す。
女子からは男子にネクタイを贈り、男子から女子にリボンを贈るのがクゥプルの儀式なのだ。

ハルヒ「クゥプルになってください!」
キョン「…俺でいいのか?」
ハルヒ「はい」
キョン「その、ありがとう」
ハルヒ「こちらこそ…ありがとう」

キョン君は私の申し出を受けて青いネクタイを受け取り、少し照れくさそうに私に青いリボンを渡してくれた。クゥプル成立。
正直、自分でも驚いている。恋するのに時間は要らないって本当なんだなあ。

キョン「しかし、驚いた」
ハルヒ「うん」
キョン「まあ、君が苛められているのを見たら、その、ほっとけなくてな」
ハルヒ「キョン君が来てくれて嬉しかった。そうしたら大切な気持ちに気付いちゃった」
キョン「んー。なんだ、その、ありがとう」
ハルヒ「うん…」
キョン「!!」
ハルヒ「あれ?おかしいな。何で涙が…」ポロポロ
キョン「あー…。よしよし」ナデナデ
ハルヒ「…あ」
キョン「安心したんだろ?なんなら胸、貸してやる。…その、クゥプルだしな」
ハルヒ「…」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:40:21.89 ID:tGFhftI20

キョン君、優しいよ。ありがとう。
お言葉に甘えて、胸はちょっと恥ずかしかったので肩を借りた。制服、ちょっと濡らしちゃったかな。

ハルヒ「ありがとう」
キョン「どういたしまして。…あー、その、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「…やっぱり、メガネかけない方が可愛いぞ」
ハルヒ「…そ、そう…かな」(かぁっ)
キョン「ああ」(かぁっ)
ハルヒ「…そ、そう言えば、なんでキョン君はここに?」
キョン「え?ああ、そう言えば制服のシャツを受け取りに来たんだった。さっきレジまで行ったのにまた行くのはちょっと恥ずかしいな」
ハルヒ「ふふ」
キョン「行ってくるよ」
ハルヒ「あ、キョン君…じゃあ、私、帰るね」
キョン「え?その、送ってくぞ」
ハルヒ「ありがとう。でも、今日は一人で帰るわ。また学校でね」
キョン「ああ。わかった。じゃあなハルヒ」
ハルヒ「…またね」

本当は送ってもらいたかったけど、寄るところがあったので断った。明日の予約を入れてこないとね。
キョン君、どう思うかな?

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:43:49.01 ID:tGFhftI20

うーん。困った。
学校内で起こったことは朝比奈さんや長門、古泉、朝倉、谷口、国木田に聞いて何となくわかったのだが、肝心のクゥプルにどうやってなったのかがわからん。
入学式の週の金曜日の放課後以降から日曜日の間にいったい何があったんだ?

ハルヒ「ねえ、キョン」
キョン「ん?なんだ?」
ハルヒ「もう一つ、リボン欲しいな」
キョン「…買ってくるか?」
ハルヒ「…ん。またあのお店で、一緒に買おう?」
キョン「…あー、これを買ってくれた店か?」

クゥプルになる儀式の一つにお互いのタイ(ネクタイとリボンのこと)を贈り合うって言うのがあると聞いたので、なるべく自然にそう答える。

ハルヒ「…うん。私が、あなたへの気持ちに気が付いた…大切な場所」
キョン「…」
ハルヒ「あのできごとが、気付かせてくれた…大切な気持ち」
キョン「…」

すまんハルヒ。なんのことだかよくわからない。
『あのできごと』が『大切な気持ち』に気付かせてくれたってことはわかるんだが。

朝比奈「…メール」
ハルヒ「なぁに?」
朝比奈「…よかったら、教えてください…何があったのか」

ああ、朝比奈さん。あなたは何て良い質問をしてくれるのですか。さあ、ハルヒ。教えてくれ。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 00:50:03.39 ID:tGFhftI20

ハルヒ「あのね…」
朝比奈「…」キラキラ
キョン「…」

少し頬を染めながらハルヒが話し出す。
あー、その、なんだ。
ハルヒの話はあくまでハルヒが感じたままの言葉で語られるから、ハルヒのフィルターで美化された状態の自分のことを聞かされる。
何があったのかは良くわかったが、暫くの間はハルヒの目を正面からは見れそうにない。
俺はそんなにキザじゃないぞ。

朝比奈「ふわぁ。素敵ぃ…」
ハルヒ「ふふ」
キョン「…あー、ハルヒ。その、美化しすぎだ」
ハルヒ「そんなことない!キョンは…私の王子様だもの」
キョン「!!」
朝比奈「ふわぁぁ。素敵ぃ…」

朝比奈さんはうっとりとした眼差しでハルヒの話を聞いていた。

古泉「おやおや、それではさしずめ、涼子さんは僕のお姫様ですね」
朝倉「そう言う一樹さんは、私の王子様ね」
古泉「ふふ。僕としてはお姫様と言うよりも女王様って呼んでもいいと思っているのですよ涼子さん」
朝倉「あら。それじゃあ一樹さんは何になるの?」
古泉「女王の身を守る懐刀でありたいですね。もちろん、片時も側を離れない伴侶として」
朝倉「嬉しいわ。一樹さん」
長門「…」ペラリ

…何を惚気ている古泉、朝倉。
ハルヒの話をちゃっかり聞いているんじゃない。まったく。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:00:04.93 ID:tGFhftI20

部活が終わり、俺とハルヒで朝比奈さんを家に送り届け、それから俺はハルヒを家に送り届けてから、俺は古泉と長門を駅前の喫茶店に呼んだ。
長門のマンションには朝倉も住んでいるので、長門には十分に注意をして出てくるように言っておく。
幸い、長門は問題なく出てくることができたようで、俺が喫茶店に着いたときには既に席に座り、アイスティーを飲んでいた。

キョン「悪い、待ったか?」
長門「問題ない」
キョン「古泉は?」
長門「まだ」
キョン「そうか」

長門の対面に腰をおろして俺はアイスコーヒーを注文する。いったい古泉は何をやっているんだ?
長門と二人向かい合って喫茶店。傍から見ればデートのようにも見えるかもしれないが、あいにく俺のネクタイは青で長門のリボンは赤なので、北高を知っている人間が見ればカップルと間違えられることは無い。

長門「古泉一樹は今、朝倉涼子と共にいる」
キョン「は?」
長門「現在、朝倉涼子の部屋で二人」
キョン「そ、そうか」
長門「…そう」

おいおい、古泉、お前はいったい何をやっているんだ。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:04:07.91 ID:tGFhftI20

キョン「あー、長門。ハルヒのことだが」
長門「涼宮ハルヒの精神状態は極めて安定している。あなたのおかげ」
キョン「そうか」
長門「しかし、このまま行くと推定で2日後には世界が確定する」
キョン「リミットは明日か」
長門「必然的にそうなる」
キョン「そうか」
長門「またあなたに委ねることになる。…ごめんなさい」
キョン「いや、お前は悪くない」
長門「…」

やれやれ、忙しいことだ。

キョン「なあ、長門」
長門「なに?」
キョン「その、完璧に元通りってわけにはいかなくても、いいのか?」
長門「質問の意味が曖昧」
キョン「あー、うまくいえないんだが。そうだな、たとえば長門の好物が変わるとか、性格が少し活発になるとかしても問題ないか?」
長門「長門有希という固体のパーソナルデータに若干の誤差ができても問題はないと思われる」
キョン「じゃあ、ハルヒが少しおしとやかになるとか、古泉がゲームに強くなるとかはどうだ?」
長門「必然が必然ではなくなるのは好ましくない」
キョン「そうか」
長門「ただし、ある程度の相違は許容範囲としても良いと判断する」
キョン「どういうことだ?」
長門「私の嗜好が少し変わった」
キョン「嗜好?」
長門「子供化したときの嗜好をそのまま受け継いでいるが、問題ではない」(くまさんプリン…好き)
キョン「…」

そんなに気に入ったか…くまさんプリン。まあ、たしかに美味いんだけどな。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:09:10.76 ID:tGFhftI20

キョン「そういえば、世界が改変されるたびに、俺たちの時間も戻っているのか?」
長門「涼宮ハルヒが世界を改変するたびに金曜日の朝にリセットされる」
キョン「なら、もし、この世界で確定しても、ハルヒが望めばまた改変されるってことはないのか?」
長門「涼宮ハルヒが望めば可能。ただし、確定後はこの世界がベースになるため、リセットは二日後の日曜日の朝になると思われる。本来の世界の情報も希薄なものになる」
キョン「おいおい、まずいじゃないか」
長門「違う世界を経由しているので、本来の世界への影響がどの程度のものになるかは予測不能」
キョン「…もしかしたら大きな誤差が現れる可能性があるってことか?」
長門「あまりにも大きな変革は世界が崩壊する恐れがある」
キョン「だが、ハルヒがそれを望むことは無い…だろう?」

いくらハルヒが厚顔不遜とはいえ、世界を滅ぼそうとは思うはずが無い。
ああ見えても結構ハルヒの奴は、優しいところがある…はずだ。
なんだかんだいっても、団員思いな奴だからな。うん。

古泉「すみません。遅くなりました」
キョン「まったくだ」
長門「…」
古泉「お詫びに奢りますよ。ああ、もちろん先に飲んだ分も含めて」

古泉が来た時には既に、俺と長門はそれぞれの飲み物をとっくに飲み干していた。
それにしても古泉が奢ってくれるとは珍しいな。一人だけ何かを飲ませるのも気がひけるし、ここはお言葉に甘えようか。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:15:15.49 ID:tGFhftI20

キョン「じゃあ俺はブレンドで」
長門「…アプリコットティー」
古泉「わかりました。すみません。注文お願いします」

ブレンド2つとアブリコットティーを注文すると、古泉は小さくため息を付き、目を伏せる。
なんとなく声がかけずらい雰囲気だ。らしくない。
運ばれてきたブレンドを口にして、もう一度ため息を付き、少しの間逡巡してから顔を上げ、手招きをする。
周りを気にしているのか?やれやれ、いったいどんな内緒話をしようと言うんだ、古泉。
内心で肩をすくめ、古泉、俺、長門の三人は顔を寄せた。

古泉「私事で恐縮なのですが…困った事態に陥ってしまいました」
キョン「いったいどうしたんだ?」
古泉「その、ですね…なんて言いましょうか…」
長門「朝倉涼子と肉体関係を持った」
キョン「なんだって?」
古泉「…ご存知でしたか」
長門「推測に過ぎないが、確率的には78.2%。なお朝倉涼子は監視対象」
古泉「参りました」

そう言って頭を下げる古泉。普通に会話しているが、どうしてそんな冷静なんだ?長門。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:22:04.15 ID:tGFhftI20

キョン「いや、待て、古泉。つまり、そのアレか?」
古泉「アレとは?」
キョン「アレだ。その、ABCのC」
古泉「これはまたレトロな例えを持ち出してきますね。…まあその、それです」(かぁっ)
キョン「…赤くなるな」
古泉「これは失礼。しかしこのようなことは初めてですのでご容赦いただきたいものです」
キョン「そうか」

古泉も赤くなることはあるんだな。いや、野郎に目の前で赤くなられても気持ち悪いだけだが。

古泉「…まあ、それはさておき…この世界は涼宮さんの作り出した仮想世界、と言ってもいいものです」
長門「少し違う。仮想世界ではなく具現世界」
古泉「失礼。その具現世界は所詮まやかし、と言ってもいいでしょう」
長門「…」
キョン「…何が言いたい?」
古泉「…涼子さん自体がイレギュラーな存在と言うことはわかっているつもりです。しかし、僕は彼女を愛してしまった」
キョン「…」
長門「…」
古泉「彼女がいなくなることを考えると…僕の心は引き裂けそうになります」

お前、恥ずかしくないのか?なぜそんな言葉をすらすらと口にできる。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:27:46.07 ID:tGFhftI20

長門「今現在存在する朝倉涼子は、情報統合思念体とは何の関係も無いただの人間」
古泉「どういうことです?」
長門「涼宮ハルヒがクラスメイトとして認識している人間としての存在」
古泉「…しかし、彼女の家、家族がいませんよ」
長門「一人娘で両親はカナダに赴任中。実際に両親の存在も確認した」
古泉「情報統合思念体は関与していないとなれば、僕としては一縷の望みに賭けるしかないようですね」
長門「涼宮ハルヒ次第」
キョン「どういうことだ?」

こういうとき、俺は自分の凡庸さがつくづく嫌になる。古泉と長門は見事なまでにお互いの意思の疎通を図っているようだが。

古泉「あなたは『鍵』だと言ったことを覚えていますか?」
キョン「ああ。良くはわからんが」
古泉「あなたは涼宮さんに影響を与えることができる唯一の存在なのです」
長門「実際、あなたの何気ない言葉から世界は改変された」
キョン「…」
古泉「僕が縋るのもそこにです。いや、そこにしか縋れるものがないと言った方が正しいかもしれませんね」

やれやれ。やっぱりそうなるのか。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:33:02.39 ID:tGFhftI20

古泉「涼子さんの存在をアピールしてもらえないでしょうか?」
キョン「…まあ、やってみる」
古泉「ありがとうございます」
キョン「まあ、仲間の頼みだしな。うまくいくかどうかはわからないけど、やれるだけやってみる」
古泉「いや、なんて言っていいか…。あなたに最大級の感謝を」
キョン「よせよ。くすぐったい」
古泉「これは失礼」

軽くおどける古泉。うん。お前はそういう風に飄々としているのが似合ってるぞ。
それにしても…朝倉と古泉がなあ。
ニヤケ面が鼻に付くところがあるけど、古泉は整った顔立ちしてるし、朝倉も世間一般では美少女の部類に入る。
まあ、ベストカップルではあるな。少なくとも外観は。

ブルブルブルブル ブルブルブルブル

ん?携帯の着信だ。ハルヒからか。キョン「もしもし」
ハルヒ「あ、キョン。今、古泉君と一緒?」

俺が携帯に出ると、長門が人差し指で自身を示してから、手でバッテンをして『私はここにいない』というジェスチャーをする。
何か理由があるのだろうから、片手を上げて『わかった』と合図をすると、俺はハルヒに悟られないように会話を続けた。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:37:32.01 ID:tGFhftI20

キョン「…ああ、ちょっと話を聞いてるところだ。珍しくあいつの奢りでな」
ハルヒ「そう。…朝倉さんから連絡があって、キョンが何してるかなって思っちゃって…」
キョン「おいおい、わけわかんないぞ、ハルヒ」
ハルヒ「ん、ごめんね。ちょっとキョンの声が聞きたかっただけ」
キョン「そうか。…あー、その、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「そういうこと言われると、照れる」
ハルヒ「あっ、ごめんなさい」
キョン「いや、謝ることじゃないが…」

言いかけて、俺は受話器側を手で覆う。

キョン「おい古泉、笑うな」
古泉「いや、失礼。なんか微笑ましかったもので、つい」
キョン「…後で覚えてろよ」

俺の言葉に軽く肩をすくめて笑う。まったく、古泉の奴。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:41:32.84 ID:tGFhftI20

キョン「っと、すまん。ちょっとな」
ハルヒ「ううん。いいの」
キョン「で、どうする?古泉と変わるか?」
ハルヒ「もう。さっき言ったでしょ。キョンの声が聞きたくなったからかけたの」
キョン「そ、そうだったな。スマン」
ハルヒ「ふふ。ねえ、キョン」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「朝倉さんと古泉君って、素敵なクゥプルよね?」
キョン「…そうだな」
ハルヒ「…うん」

…なあハルヒ、なんで他のクゥプルの話でそんな小さな声になるんだ?もしかして、朝倉から俺が古泉に聞いたようなことを聞かされてるのか?
もしそうなら…。
俺は古泉に視線を向ける。

キョン「俺たちも、古泉と朝倉のようになりたいな」
古泉「!!」
長門「…」
ハルヒ「!!そ、そうね。じゃ、じゃあ古泉君にもよろしく。じゃあね」
キョン「あ、おい!…なんだよ、いきなり切りやがって…」
長門「当然の反応」
キョン「は?」
古泉「やれやれ」
キョン「なんだよ?お前ら」

またアイコンタクトかよ。なんなんだお前ら。超能力使ってるのか?

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:46:28.72 ID:tGFhftI20

古泉「涼子さんが涼宮さんに連絡をしたから僕とあなたがいることを知っていたのでしょう。そうなると当然、僕が行ったことを涼子さんが涼宮さんに言っているかもしれません」
キョン「だから?」
長門「朝倉涼子が涼宮ハルヒに性行為の話をした可能性は79.9%」
古泉「同じように涼宮さんも私があなたに話をしたと思っているはずです。そうすれば、『僕たちみたいになりたい』イコール…下世話な言い方ですがあなた風に言えば『俺たちも肌を重ねたい』と言っているのと同義に取られるのではないかと」
キョン「…なんてこった」(かぁっ)
長門「エッチ」
キョン「…長門に言われるのは新鮮だな…じゃなくて!」

俺は古泉と長門を交互に見て、がっくりとうなだれた。

キョン「俺、催促したことになってるわけ?」
古泉「そうなります」
長門「エッチ」
キョン「長門…それはもういい」
長門「そう…」
古泉「あなたも隅に置けませんね」
キョン「…うるさい」

やれやれ、参ったな。ハルヒよ、何でそういうことには敏感なんだ?
俺はただ朝倉の存在をアピールするのを兼ねて、『もう少し仲良くなろうな』って言いたかっただけなんだが。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 01:52:11.36 ID:tGFhftI20

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。

キョン「…ん?」

誰だ?もう朝か?それにしては静かな気がするが。
それに俺、机に突っ伏しているみたいだな。確かにベッドで寝たはずなんだが。

ハルヒ「ねえ、起きてよ…キョン」
キョン「ハルヒ!?」
ハルヒ「ああ、良かった。ねえキョン、何で私たち部室にいるの?」
キョン「なんだって?」
ハルヒ「窓の外を見てもすごい静かだし、なんだか薄暗いし…」
キョン「…」

閉鎖空間…か。

キョン「ハルヒ、俺、ちょっと外を見てくる」
ハルヒ「え…」
キョン「すぐ戻るから、ここで待っててくれ」
ハルヒ「あ、でも…」
キョン「すぐ戻るから」
ハルヒ「…」

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 20:47:08.99 ID:tGFhftI20

保守感謝なのです><

何か言いたげなハルヒを置いて、俺は廊下に出て、階段を降り、昇降口から外へ。
灰色の空と人の気配の無い薄暗い世界。
校門へ向かって歩き、外に出られないことを確かめる。
間違いない、閉鎖空間だ。
周りを見回してみるが、赤い光は目に入らない。古泉の奴は入ることができないようだ。
あまりハルヒを一人にしても仕方ないので、俺は部室へと戻りながら考えを巡らせる。
…今回もあれか?スリーピング・ビューティー。
問題は、目が覚めたとしてどの世界に戻るのかだ。
SOS団のあるいつもの世界か、ハルヒとクゥプルになっている今の世界か、もしかしたらまた別の世界に飛ばされることも考えられる。
まあ、なるようになれ、だ。このまま手をこまねいていても、事態はなんの進展もしないのだから。

キョン「ただいま」

そう言って扉を開けて中に入る。ハルヒは椅子に座って机に臥せていた。
俺の声を聞いて、微かにビクッと体を震わせてからそっと顔を上げる。その瞳は涙に潤んでいた。

キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「寂しかったんだから。キョンの馬鹿!」
キョン「…スマン」
ハルヒ「気が付いたら部室で二人で眠っていたみたいで、…とりあえずあなたがいたのは良かったけど、起きたらいきなり私を残してどっか行っちゃうなんて…」
キョン「あー、その、…我慢できなかったんだ。…漏れそうで」
ハルヒ「え?…ああっ、そう、だったの…」(かぁっ)
キョン「スマン」
ハルヒ「そ、そういうことなら仕方ないわね」

我ながら馬鹿みたいな言い訳を口にしてしまった。小学生かっつーの。
ハルヒの奴は素直に納得してくれたが。

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 20:51:10.59 ID:tGFhftI20

ハルヒ「あ、あのね、キョン」
キョン「どうした?」
ハルヒ「…その、生理現象だったなら仕方ないんだけど…、寂しい思いさせたわけだし…」
キョン「…」
ハルヒ「もっと我儘言えって言ってたし、クゥプルになって結構たつし、そろそろ…」

待てハルヒ。お前は何を言っている。

ハルヒ「キョン…」
キョン「…」
ハルヒ「…」

顔を上げて目を閉じるハルヒ。少し紅潮した頬と微かに震えているのがまた、なんともいえない。
こういうシチュエーションは誰もが夢見るものだとは思うが、男だけじゃなく女もこういう王道パターンは憧れるものなのか?

キョン「なあハルヒ、こういう我儘も結構だが、もっとこう、みんなで楽しもうみたいな我儘もいいんだぞ?」
ハルヒ「…今はこれだけでいいの」
キョン「まあ、俺としても悪い気はしないが、心の準備ってものがあるからな、少しだけ話を聞いてくれ」

まあ、心の準備ではなく現実に戻るための布石なんだけどな。
ちょっとの間、我慢してくれハルヒ。

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 20:55:18.99 ID:tGFhftI20

キョン「部活とか作って、みんなでわいわい楽しんだりとか、いろんなものを探してみたりとか」
ハルヒ「…」
キョン「やってみたいことをやってみるのもいいよな」
ハルヒ「…」
キョン「一風変わった学生生活っていうのも、以外と楽しいものだ」
ハルヒ「…グスッ」(じわっ)
キョン「なぜ泣く」
ハルヒ「だって、お話して誤魔化そうって思ってるんでしょ?目を瞑っているだけでもすごい恥ずかしいのに…」
キョン「スマン」

律儀に目を瞑ったままのハルヒ。
朝倉のことは電話でそれとなく話しておいたし、これ以上待たせるのも精神衛生上よくない。
そっとハルヒの肩に手を置くと、俺はその唇に自分の唇を重ねた。
柔らかく、しっとりとした感触。

ハルヒ「ん…」
キョン「…」

どのくらいそうしていただろうか?ハルヒの小さい身じろぎと吐息を感じて、俺は唇を離した。
…相変わらず俺は、閉鎖空間の中にハルヒと二人でいる。

ハルヒ「…ドキドキした」(かぁっ)
キョン「ああ」(かぁっ)

顔を見合わせて赤くなり、照れたように笑顔を浮かべる。そんなハルヒは反則的に可愛い。
机を挟んでいなければ今すぐにでも抱き寄せてしまいそうだ。
しかし、困ったことになった。前回と違いキスで出られるわけじゃなさそうだ。
いったい、なにがしたいんだ?ハルヒ。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:01:20.93 ID:tGFhftI20

そういえば、今回は閉鎖空間の中に神人がいない。ハルヒの精神が落ち着いているってことか。
いや、そもそも閉鎖空間が出るってことは、ハルヒの精神がネガティブな方向に来ているってことのはずだよな?
どういうことだ?

ハルヒ「ねえ?」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「傍に、来て」
キョン「いるじゃないか」
ハルヒ「そっちじゃなくて、こっち」

そう言って隣のパイプ椅子を叩くハルヒ。
まったく、そんな目で見られたら断れないじゃないか。

キョン「これでいいか?」
ハルヒ「うん」
キョン「ずいぶん我儘になったな」
ハルヒ「キョンのせいでしょ」
キョン「それはそう…!!」
ハルヒ「ん…」

言葉を遮って唇を重ねてくるハルヒ。いきなりのことに俺は目を見開いたままだ。
ハの字になった眉、上気した頬。

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:06:14.66 ID:tGFhftI20

そっと唇が離れる。ハルヒは上目遣いで俺を見ると、ちょっと怒った表情を浮かべる。

ハルヒ「もう。なんで目を閉じないのよ」
キョン「いきなりすぎるんだよ」
ハルヒ「それでも、閉じるのがマナーでしょ」
キョン「以後気をつける」
ハルヒ「じゃ、実践」
キョン「…」

そう言って目を閉じるハルヒに、俺は抗うことができなかった。目を閉じて唇を重ねる。
ハルヒが俺の肩に手を回して、そっと抱きついてくる。
唇を離し、お互いの鼻が触れそうなくらい近くで見つめあうような格好になる。正直かなり恥ずかしい。

キョン「なあ、これって恥ずかしいぞ」
ハルヒ「そうね。でも、キョンとなら恥ずかしいよりも嬉しい方が大きいわ」
キョン「さらっと恥ずかしいことを言うな」
ハルヒ「ふふ。何回もキスしちゃったからそれに比べたら大したこと無いわよ」
キョン「…」(かぁっ)
ハルヒ「…ねえキョン」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「…好きよ」
キョン「…ハルヒ」
ハルヒ「…あなたの気持ちを…聞かせて」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:11:28.42 ID:tGFhftI20

潤んだ瞳で俺を見つめてくるハルヒ。肩に回された手の指にぎゅっと力が入るのがわかる。
遠くで何かが崩れるような音が聞こえる。微かな振動が部屋を揺らし、ハルヒが不安そうな眼差しで俺を見上げている。
神人が現れたみたいだな。ハルヒの不安が具現化した証拠だ。
ハルヒ、お前の望みは…それか。

ハルヒ「キョン…怖い」
キョン「…大丈夫だ。俺はここにいるだろう?」
ハルヒ「…でも」
キョン「大丈夫だ」
ハルヒ「…うん」(こくり)
キョン「いい子だ」ナデナデ
ハルヒ「…」

そんな不安そうな顔するなよ。お前に、そんな顔は似合わないぞ。
まあ、俺が悪いんだけどな。

キョン「…ハルヒ」
ハルヒ「…」

やれやれ。いざ言葉にするとなると結構恥ずかしいものだな。まあ、仕方ない。

キョン「俺は、お前のことが…」

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:18:13.65 ID:tGFhftI20

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。

妹「キョン君〜!朝だよ〜っ!!」
キョン「…」
妹「朝だよ〜っ!!」
キョン「…ああ、おはよう」
妹「ご飯できてるよ」
キョン「ああ、すぐ行く」

元気良く駆け出していく妹を見送って、俺はベッドから起き上がった。
…さて、どうなっているやら。
身支度を整えてからリビングへ行き、朝食を取って所用を済ませてから家を出る。
新聞によると今日は金曜日だったから、とりあえずはループの初日に戻ったわけだ。
坂を上り学校へと向かう。今日も相変わらずの苦行だ。

???「キョン君」

声をかけられて振り返ると、そこにはここ最近で見慣れた顔があった。

キョン「おはよう。朝倉」

朝倉がいるってことは、とりあえず完全な元の世界ってわけではなさそうだ。
そのころにはもう、朝倉は消滅していたからな。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:24:42.87 ID:tGFhftI20

朝倉「おはよう…ねえ、キョン君…その、なんて言えばいいかしら…」グッ

両手を握ってファイティングポーズみたいな格好で俺を見る。
おいおい、朝っぱらから殴り合いはゴメンだぞ。

キョン「すまないがお前と喧嘩をする気はないぞ」
朝倉「え?…あ、これはその、気合って言うかなんていうか…」
キョン「朝倉らしくないな」
朝倉「そう…ね。そうかもしれないわ」
キョン「何か良くわからないが、とりあえず落ち着け」

慌てて拳をおろし、朝倉が一つ大きなため息をつく。

朝倉「そうね…、とりあえず話しながら歩きましょう」ニコ
キョン「ああ、ここで立ち止まってれば遅刻だからな」
朝倉「…もう少し早く来てくれれば落ち着いて話せたのに」
キョン「そんな早く学校に来てもやることないからな」
朝倉「…まあいいわ。ところでキョン君…その、聞きたいんだけど」(かぁっ)

なんか変だな。朝倉にしては歯切れが悪いって言うか…。

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:30:46.18 ID:tGFhftI20

キョン「どうした?」
朝倉「…涼宮さんの部活…、えーと、SOS団?のもう一人の男の人のこと」
キョン「古泉のことか?」
朝倉「こ…いずみさんって言うの?どんな字?」
キョン「古い泉で古泉。ちなみに下の名前は数字の一に樹木の樹で『いつき』だ」
朝倉「こいずみ…いつきさん…」(かぁっ)
キョン「…」

完全に乙女モードの朝倉。これは朝から実に珍しいものを目にしている。
この世界にはSOS団が存在するようだ。何はともあれ一安心か。
朝倉はこの世界ではまだ、古泉と面と向かって話してはいないみたいだな。
確かめなくてはいけないこともあるので、俺は携帯を取り出し、古泉へ電話をかける。

朝倉「ちょ、ちょっと!?」
キョン「…」

慌てる朝倉に対して俺は静かにするように人差し指を自分の唇に当てて合図を送る。数コール後、聞きなれた声が携帯から聞こえてきた。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:36:41.44 ID:tGFhftI20

古泉「はい。もしもし」
キョン「古泉、お前は覚えているか?あの夜の喫茶店での会話」
古泉「…あなたと僕と長門さんの3人での会話のことですか?」
キョン「珍しくお前に奢ってもらったな」
古泉「いやはや、これはこれは…」
キョン「あー、それでだ。その件で知らせたいことがあるから今すぐ校門に出て来い。あー、そうそう、俺は今、クラス委員と一緒だからそのつもりで」
古泉「!!…わかりました」
キョン「じゃあ、校門でな」

古泉のことだ。ああ言っておけば朝倉のことを汲み取っただろう。
どうやら、ハルヒもベストカップル-バカップルでもあるが-を認識してくれていたようだ。

朝倉「えーっと、今の古泉さん?」
キョン「そうだ」
朝倉「よ、呼び出したの?そんな、いきなりなんて…」(かぁっ)
キョン「あー、朝倉。なぜ俺がわざわざ『クラス委員と一緒』だなんて言ったかを考えてくれ」
朝倉「…どうして?」
キョン「クラス委員は誰だ?」
朝倉「私?」

自分の鼻先に人差し指をあて、小首を傾げる朝倉。
なんとも可愛らしい仕草だった。

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:42:14.68 ID:tGFhftI20

キョン「…つまり、そういうことだ」
朝倉「え?え?何?わけわからないよ」
キョン「古泉は俺たちのクラスの『クラス委員』に対しての相談を俺にしてきたんだ。そう言えばわかるか?」
朝倉「え…それって…。えええ?そう…なの!?」(かぁっ)

坂の上に見える校門前に、息を切らせた男が立っている。
まったく、あいつらしくないな。でも、それだけ本気ってことか。
朝倉はちょっと戸惑っているようだが、そんなことはお構い無しに俺は足を進める。
古泉の横で止まり、目配せする。

古泉「…あなたに、感謝を」
キョン「馬鹿、それよりも先に言うことがあるだろう?…朝倉に」
古泉「そうですね…では後ほどまた…」

俺は古泉の肩を軽く叩き、昇降口に向かって歩き始めた。

朝倉「あ、ちょっと…キョン君!」

そんな朝倉の呼びかけに軽く片手を挙げて応える。

古泉「おはようございます、朝倉…涼子さん」
朝倉「…あ、はい…」
古泉「ちょっとお時間をいただきたいのですが…よろしいですか?」
朝倉「はい…」

着実に話を進めている古泉に任せて、俺は教室へと向かう。人の恋路を邪魔する奴はなんとやらってな。
教室に入り自分の席に向かう。俺の後ろはハルヒの指定席だ。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:50:04.05 ID:tGFhftI20

ハルヒは憮然とした表情で椅子に座り、俺の顔を見ると眉を顰めた。

キョン「おはよう」
ハルヒ「…おはよう」
キョン「なんだ?機嫌悪いな」
ハルヒ「…あんたのせいよ」
キョン「は?」
ハルヒ「いいから、ちょっと来なさい」
キョン「は?おい、こら、引っ張るな、こら…」
ハルヒ「うるさい。黙って歩く!」

有無を言わさず俺の手を引っ張り、ハルヒはずんずんと結構な速さで校舎内を歩いていく。
こうなると逆らうだけ無駄と言うことはわかっているので、何も言わずにハルヒに引かれるまま歩いた。
部室の鍵を開け、さっさと中に入ると、当然のように団長席に腰を下ろして俺を見る。

ハルヒ「キョン!ぼさっとしてないで早く中に入りなさい」
キョン「へいへい」
ハルヒ「とっととする!」
キョン「へいへい」

やれやれ、どうやら朝倉というイレギュラーは除いて元の世界に戻れたみたいだ。
古泉のゲーム類、朝比奈さんのコスプレ衣装、コンピ研から奪ったパソコン等、懐かしいものが部室には存在していた。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:55:54.06 ID:tGFhftI20

ハルヒの席の前にあるパイプ椅子を出してハルヒの方を向いて座る。

ハルヒ「ちょっと、キョン」
キョン「なんだよ?」
ハルヒ「あんたの座る場所はこっちでしょ!」
キョン「は?」

自分の席の隣の椅子を叩いてじっと俺を見るハルヒ。おいおい、何の冗談だ?

ハルヒ「『は?』じゃないでしょ?決まりなんだから守りなさい」
キョン「あ、ああ。わかった」
ハルヒ「よろしい」
キョン「…」

言われるままにハルヒの隣に座る。なんなんだ、いったい?

ハルヒ「…もう一回聞かせてよ」
キョン「…」

聞かせるも何も、なんのことだかわからない。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:00:07.58 ID:tGFhftI20

キョン「なんのことだ?」
ハルヒ「その…あれよ、あれ!」
キョン「はあ?」
ハルヒ「もう!あんたの気持ちよ!」(かぁっ)
キョン「…は?」
ハルヒ「あんたが夢で変なこと言うから、不安になったの!」(ぶつぶつ)
キョン「なんだよ、変なことって」
ハルヒ「…言いたくない。言ったら本当になる気がして嫌!」(ぷいっ)
キョン「あのなあ、それじゃあわからねえよ」
ハルヒ「わかりなさい!」
キョン「わ・か・ら・ね・え」
ハルヒ「このバカキョン!アホキョン!」
キョン「わからねえもんはしょうがないだろうが!」
ハルヒ「こ、この…」

怒り心頭のハルヒは、俺のネクタイを掴んで引き寄せる。苦しいぞ、ハルヒ。
そんなに睨むなよ。

…え?

睨んでいた目が閉じたかと思うと、ハルヒの唇が俺の唇を塞ぐ。

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:07:41.77 ID:tGFhftI20

ハルヒらしい不意打ちだな。漠然とそんなことを考えていると、ガチャリと金属的な音がして扉が開かれるのを感じた。
咄嗟に唇を離して扉の方を見る。
扉の向こうでは朝比奈さんが鞄を落とし、両手で口を覆って立ち尽くしていた。

朝比奈「ふぇぇっっ!!」(あわあわ)
ハルヒ「みくるちゃん!とりあえず中!急いで!!」
朝比奈「は、はいぃぃっっ!!」

朝比奈さんはハルヒの命令に従って鞄を拾って中に入ると、真っ赤になって俺たちを交互に見比べた。

朝比奈「わ、私、なにも見てません!忘れ物を取りに来ただけなので、すぐ教室に戻りますし…」
ハルヒ「みくるちゃん、見たのね?」
朝比奈「ふぇぇぇっっ!!お邪魔するつもりはなかったんですぅ!」

真っ赤になってオロオロする朝比奈さん。チラチラと俺を見て無言で助けを求めてくる。

キョン「…ハルヒ。別にいいだろ?」
ハルヒ「駄目よ!」
キョン「なんでだよ」
ハルヒ「他の団員に示しが付かないからよ」

それを聞いて俺はカマをかけてみることにした。

キョン「あー…、俺がお前の隣に座るようになったときからみんな気付いてるんじゃないのか?」
ハルヒ「みくるちゃん、そうなの?」
朝比奈「は、はい。お二人とも仲良くなって良かったですねって、長門さんや古泉君と話していました」
ハルヒ「雑用係から側近に昇格させただけ。そう思ってると思ったのに。…やるわね」

なにが『やるわね』なんだ、ハルヒ。それに側近だからってすぐ横に待機しているものじゃないと思うんだが。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:13:46.52 ID:tGFhftI20

ハルヒ「まあいいわ。みくるちゃん、このことは他の人に言っちゃ駄目だからね!」
朝比奈「は、はいぃっ!言いません!」
ハルヒ「じゃあ、解散!ぐずぐずしてると授業が始まるわ!」
朝比奈「は、はいぃっ!」

鞄を拾って机の上にあったシャープペンシル(おそらく言っていた忘れ物だろう)を取ると、朝比奈さんは大急ぎで部室から出て行った。
相変わらず運が悪いというかなんというか…。そういう星の元に生まれたとしか思えない朝比奈さんのタイミングの悪さは健在だった。

ハルヒ「キョン」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「…昼休み、屋上」
キョン「…お、おい」
ハルヒ「ほら、ぐずぐずしない!授業に遅れるわよ!」
キョン「…はいはい」

昼休みはまた有無を言わさず屋上まで引きずっていくんだろうな…。
その前に何とかして長門に話を聞かないと…。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:18:33.46 ID:tGFhftI20

--一限終了後の休み時間

授業が終わってすぐに朝倉が照れくさそうな笑顔を浮かべて俺の元にやってくる。

朝倉「キョン君!ありがとう!」(にこっ)
キョン「俺は別に何もしていないぞ」
朝倉「そんなことない。私の恋のキューピットは間違いなくあなたよ!」
キョン「…そうか」

朝倉にそんなことを言われる日が来るなんて想像すらしなかった。しかも満面の笑みで。

ハルヒ「ちょっとキョン、どういうこと?」

ハルヒが俺の椅子を蹴り上げて説明を求めてくる。痛いって。

朝倉「涼宮さんにも報告しておかないとね。あのね、私、お付き合いすることになったのよ!」
ハルヒ「!!」
キョン「…朝倉、それだと俺とお前が付き合うと思われるぞ」

最初に『恋のキューピット』って言ってるから大丈夫だと思うが、我が団長様は人の話を聞かないからな。
その証拠に、後ろから来る無言のプレッシャーが半端ない。
朝倉、頼むから誤解を招く言い方だけはやめてくれ。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:24:21.46 ID:tGFhftI20

朝倉「あら、ごめんなさい。私がお付き合いすることになったのはい…、古泉さんなの」
ハルヒ「そ、そうなの?本当?」
朝倉「キョン君が私たちの橋渡しをしてくれたの」
ハルヒ「ちょっと、やるじゃないキョン!」(ぐりぐり)
キョン「まあ、成り行きでな…頭を撫でるな頭を!」
ハルヒ「団員の功績に対しての正統な評価よ。甘んじて受けなさい!」(ぐりぐり)
キョン「…へいへい」
ハルヒ「おめでとう朝倉さん」
朝倉「ありがとう涼宮さん」(にこっ)

その瞬間、朝倉とハルヒの間に何かが芽生えたのを見たような気がした。

--二限終了後の休み時間

授業が終わると同時にハルヒが席を立って教室を出て行った。これはチャンスだ。
携帯を取り出して長門にメールを送ることにする。
トイレに行くふりをして出て行って、なおかつ怪しまれない場所は…と。

『次の休み時間、屋上に来れるか?』

ハルヒの奴もまさか昼休みに連行する場所にいるとは思わないだろう。
ほどなくしてメールの着信を告げる振動がポケットから伝わってくる。さすが長門。速いな。

『了解』

内容も簡潔だ。実に話が早くて助かる。
感謝してるぞ。長門。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:28:10.01 ID:tGFhftI20

--三限終了後の休み時間

二限の時のハルヒと同じように、チャイムと同時に教室を出る。階段の脇にトイレがあるからまず怪しまれることは無いだろうが、念のため踊り場に行く前に後ろを確認してみる。
よし、クラスの奴は誰もいない。
一気に階段を駆け上って屋上の扉を開け、外に出る。太陽の光が眩しい。

キョン「悪い、待ったか?」
長門「いいえ」
キョン「ここは元の世界か?この場合の元の世界ってのは、お前が子供化した世界になる前の木曜日の世界のことだ」
長門「世界の構成は99.84%物質的には99.96%があなたの言う世界と一致する。若干の誤差は許容範囲内」
キョン「朝倉はイレギュラーか?」
長門「朝倉涼子の存在は涼宮ハルヒが認めたためイレギュラーではなくなっている。従って古泉一樹との関係も許容範囲内」
キョン「そうか。もう一つだけ教えてくれ。ハルヒの性格、というか感情にどの程度の変化が起きたかをわかる範囲で」
長門「あなたへの恋愛感情を隠さなくなり、他人への考え方、特に恋愛に関して寛容になった。また、あなたに嫌われることを何よりも恐れている」
キョン「俺とハルヒは付き合っているのか?」
長門「あなたと涼宮ハルヒは恋人同士」
キョン「そうか」

やれやれ、そういうことか。
まったく、世話の焼ける奴だ。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:32:49.51 ID:tGFhftI20

--昼休み

予想通り、チャイムが鳴るや否や俺はハルヒに引っ張られて屋上へと連行された。
手ぶらであるところを見ると、昼飯にはありつけないかもしれない。
扉からは見えない側面の壁に押し付けられるような形で俺はハルヒと向かい合っていた。傍から見れば俺がハルヒにカツアゲされているようにも見える、なんとも滑稽なポジションだ。

ハルヒ「ここなら邪魔は入らないはずよ!」
キョン「誰か来てもすぐには見えない場所だからな」
ハルヒ「わかってるじゃない!だから安心して言っちゃっていいのよ!」
キョン「なにをだよ」
ハルヒ「もう!わかってるくせに」
キョン「わからないぞ…」
ハルヒ「むう…」

ハルヒは眉を顰めて俺を睨むと、朝と同じように不意に唇を重ねてくる。

キョン「…」
ハルヒ「思い出した?バカキョン」
キョン「…お前の唇って柔らかいよな」
ハルヒ「バ、バカ!」(かぁっ)

いきなりのことで驚いたが、前の世界が混在していると考えればハルヒの言っていることについては、ある程度の憶測をすることができる。

キョン「思い出すには、もっとしないと駄目、だな」
ハルヒ「…!!」(かぁっ)

憶測は正しかったようだ。一瞬で赤くなったハルヒは怒っているような照れているような複雑な表情を浮かべて俺を見ている。
やられっぱなしも癪なので、俺は有無を言わさずハルヒの唇を奪った。
一瞬だけ肩に手を置いて俺を離そうとしたが、すぐに抵抗しなくなる。
やれやれ、俺もすっかりハルヒに傾倒しちまったな。

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:39:07.88 ID:tGFhftI20

ハルヒ「…思い出した?」
キョン「もう少し…かな」
ハルヒ「もう…」

少し紅潮した頬で俺の頭を引き寄せて唇を重ねてくる。こういうのも悪くない。
もっとハルヒを知りたいという健全な高校生男子の欲望が俺の中で段々と大きくなってきている。
さすがに、今はまずいだろう。
理性が勝った俺は、とりあえずハルヒに差し障りの無い質問をしてクールダウンを図ることにした。

キョン「なあ、ハルヒ。恋愛は精神病の一種じゃなかったのか?」
ハルヒ「そうよ。私の場合はあんたのことが気になって仕方ないから、キョン病っていう精神病ね!きっと!」

おいハルヒ、そんな恥ずかしいことを真顔で言うな。クールダウンにならないじゃないか。

キョン「…時間の無駄とか言っていた気がするんだが?」
ハルヒ「それは、私が自分の気持ちに気付いていなかったからよ」
キョン「気の迷いとかそういう類だって言ってただろう?」
ハルヒ「本当に好きになるとその人のことしか考えられなくなるなんて知らなかったんだし、そう思っても仕方ないでしょう?」
キョン「なるほど」
ハルヒ「もう!キョンって意地悪なのね!」
キョン「そうか?ハルヒほどじゃないと思うんだが」
ハルヒ「絶っ対!意地悪だわ!」

頬を膨らませて睨むハルヒ。その表情はかなり反則だ。これ以上俺を挑発するな。

キョン「…………」(ぼそっ)

俺が耳元でささやくと、ハルヒは真っ赤になって俯いた。
まったく、これ以上挑発すると大変なことになるぞ。ハルヒ。
そんなことを思いながら、俺はハルヒの顎を持って上を向かせ、少しだけ長めに、少しだけレベルを上げたキスをするのであった。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:45:25.74 ID:tGFhftI20

--放課後 部室

放課後、俺はハルヒと一緒に部室へと向かった。
長門は相変わらず定位置の椅子に座って本を読んでいたし、朝比奈さんは既にメイド服に着替えてお湯を沸かしている最中だった。
古泉は俺を見ると爽やかな笑顔で頷き、胸に手を当てて感謝の意を表しているようだった。相変わらずキザなやつだ。
ハルヒが団長席に座る。その横の席に俺は荷物を置き、ハルヒを見て、それからメンバーの方へ顔を向けた。

キョン「あー、みんな。ちょっと聞いてくれ」
長門「…」パタン
朝比奈「ふえぇ?」
古泉「なんでしょう?」
ハルヒ「…」

視線が集まる。こういうのは慣れていないが仕方ない。

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/18(水) 22:50:20.71 ID:tGFhftI20

キョン「俺とハルヒは付き合うことになった」
ハルヒ「…」(かぁっ)

古泉「おめでとうございます」
朝比奈「お、おめでとうございますぅ!!お、お二人ともお似合いです!」
長門「おめでとう」
キョン「ありがとう」
ハルヒ「みんな、ありがとう!」

満面の笑みで素直に感謝の言葉を口にするハルヒ。
その顔を見たら俺はもう一度、ハルヒに自分の気持ちを伝えたくなった。

キョン「あー、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?キョン」
キョン「…好きだぞ」

おしまい
ヤッター全部投下できたよー。保守ありがとー><
ついでにVIP+にのせたときに描いた落書きも出てきたから載せておくよー(ぇ)
長門「くまさんプリン、好き」ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org372520.png
佐々木「くっく。今回僕の出番はないんだよ」ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org372563.png

274 名前:1 ◆F/bQYgopwk [] 投稿日:2009/11/18(水) 23:21:15.95 ID:tGFhftI20

>>269
酉はキニシナーイ(ぇ)

古泉×朝倉が好評でびっくりだw

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:32:41.12 ID:tGFhftI20

よし、この過疎ぶりならいける!
日の目を見なかったハル×キョン開幕

はじめは、ただからかってみようと思っただけだった。
いつもハルヒには振り回されっぱなしだったから。
本当に、軽い気持ちだったんだ。

ハルヒ「…ん…キョン…」ちゅ
キョン「…」

俺は今、ハルヒとキスしている。
正確に言えば、ハルヒに唇を奪われている、か。
いや、口を侵されていると言った方がいいか?
いったい何故こうなった?
いつもと変わらない放課後のはず、だったんだが。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:35:01.54 ID:tGFhftI20

文芸部室兼SOS団団室の扉をノックして、麗しい朝比奈さんの応えを待つ。
だが、待てども暮らせども、中からの応えは無い。

キョン「…誰もいませんか?」

ドアノブに手をかけ回すと、扉はすんなりと開いた。
そっと中を覗き込み、誰もいないことを確認して体を滑り込ませる。
鍵をかけ忘れるとは珍しいこともあったものだ。
いや、待てよ。灯りはついている。
ということはだ、誰かが来て、何らかの理由で部屋を開けているということであろう。
俺は部屋の一角に目を向け、予想が正しいことを確信した。
コンロの上のやかんが無い。すなわち、朝比奈さんが水を汲みに部屋を出たということだ。
今日も美味いお茶にありつくことができるな。

いつもの席に腰を下ろし、机の下に鞄を置く。
長門と小泉は掃除当番か何かだろうか?
ふとそんなことを考えていると、結構な勢いで部屋の扉が開かれた。

ハルヒ「到着〜っと、あら、キョン、あんただけ?」
キョン「見てのとおりだ」
ハルヒ「珍しいわね、まあいいわ。よいしょっ、と」
キョン「…」

勢いよく扉を閉め、ハルヒは俺の前を横切って手に持っていたやかんをコンロの上においた。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:38:45.62 ID:tGFhftI20

キョン「…めずらしいな、お前が水を汲んでくるとは」
ハルヒ「なによ?悪い?」
キョン「別に悪いとは言ってない。珍しいなって言ったんだ」
ハルヒ「たまにはね、みくるちゃんにばっかりやらせるのも悪いじゃない」

それは殊勝な心がけだ。
しかしまた何故そんなことに思い至ったんだ?

ハルヒ「ちょっと珍しいお茶を手に入れたからみんなで飲んでみようと思って」
キョン「珍しいお茶?」
ハルヒ「色が出ないお茶よ!一見ただのお湯にしか見えないの」
キョン「それはまた珍しい」
ハルヒ「感謝しなさい、あんたにもあげるわ」
キョン「へいへい」

まったく、よくもまあけったいなものを見つけてくるもんだ。
その行動力には感服するよ。

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:41:58.42 ID:tGFhftI20

ハルヒ「みんな来ないわね、いったい何してるのかしら?」
キョン「大方、掃除当番とか日直なんだろ」
ハルヒ「まったく、団員としての自覚が足りないわ!」
キョン「おいおい、掃除当番や日直は仕方ないだろ」
ハルヒ「そんなもの気合でパッパと済ませればいいのよ!」
キョン「無茶言うな」
ハルヒ「喉渇いたのよ!」
キョン「じゃあ先に飲めばいいだろう」
ハルヒ「駄目よ。せっかく珍しいもの持ってきたんだから、みんなで飲まないと」
キョン「じゃあ我慢しろ」
ハルヒ「う〜」

ぷうっと頬を膨らませて席に座る。
やれやれ。

キョン「…」
ハルヒ「…」

特に話すことも無いので必然的に静まり返る部屋。
考えてみればこいつと二人きりになったことなんてそんなに無いんじゃないか?
見た目もいいし、成績だって結構いいし、なんだかんだで面倒見もいい。
性格はちょっとアレだけどな。

ハルヒ「…何よ?」
キョン「別に…」
ハルヒ「団長命令よ!素直に言いなさい」
キョン「何をだ!?」
ハルヒ「今思ってること!はい、10秒前」

280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:47:36.81 ID:tGFhftI20

まったくこいつは…。
楽しそうにカウントダウンをするハルヒ。
俺たちはいつもこいつに振り回されている。
まあそれも悪くは無いと思うこともあるが、たまにはこいつを驚かせてやっても罰は当たらないんじゃないか?

ハルヒ「よ〜ん………さ〜ん…」
キョン「…」
ハルヒ「に〜ぃ………い〜ち………ゼロっ!!さあ言いなさい!」
キョン「…お前かわいいな」
ハルヒ「…は?」
キョン「ハルヒは、かわいい、って言ったんだ」
ハルヒ「な、なによ急に!?」かぁっ///
キョン「何って、思ってることを言ってるだけなんだが」
ハルヒ「そ、そう…うん、確かに言えって言った…けど」
キョン「なんだ?照れてるのか?そんな風にされると、頭撫でてやりたくなるんだが」
ハルヒ「…!!」

おいおい、何で真っ赤になって黙り込むんだ?
そこは、『妹ちゃんと一緒にしないで!』と怒鳴るところだろうが?

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 23:56:23.17 ID:tGFhftI20

ハルヒ「…いい…よ」
キョン「何がだ?」
ハルヒ「…撫でても」
キョン「は?」
ハルヒ「撫でたいんでしょ?撫でていいって言ってるのよ」
キョン「ん、あ、そうか。うん」ナデナデ
ハルヒ「…」///
キョン「サラサラだな」ナデナデ
ハルヒ「当たり前じゃない…ちゃんとお手入れしてるもの」
キョン「…」なでなで
ハルヒ「…」///

キョン「お前は今、何を思ってるんだ?」
ハルヒ「っ!」
キョン「ああ、言いたくなければいいんだけど、俺はこういうのもいいなあって思ってるんだが」
ハルヒ「そ、そう…」
キョン「いい手触りだ」
ハルヒ「…」///
キョン「…」ナデナデ
ハルヒ「…キョンの手っておっきいね」
キョン「そうか?」ナデナデ
ハルヒ「…ん。なんか悪くない…よ」
キョン「…」ナデナデ

うーん。このままずっとハルヒの頭を撫で続けなくてはいけないのか、俺は。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:01:28.46 ID:Y/qyvAe+0

悪くは無いんだが、まあ、なんだ。
ハルヒのやつがしおらしく見えたりして、これはこれで新鮮なんだが、髪の匂いとか、おとなしく撫でられているハルヒの顔とか反応を見ると、
健全な男子なら胸の奥からわきあがる感情ってものがあるわけで…。
ハルヒのやつは美少女、だからな。ポニーテール姿なんぞ、俺にとってはどストライクな超絶美少女だ。
いやいやいや、何を考えてるんだ俺!

ハルヒ「キョン?」上目遣い
キョン「な、なんだ?」ナデナデ
ハルヒ「ちょっと実験。撫でるの、止めて」
キョン「ああ…」

実験?何をする気だ?

ハルヒ「あたしも撫でる」ナデナデ
キョン「な、なんだよ、いきなり」///
ハルヒ「うーん。これは…」ナデナデ
キョン「…」///

なんだ?ハルヒのやつ、俺の頭を撫でながらなにか考えている。
撫でられてみるとわかるが、これって結構、恥ずかしいな。
それにしても、そろそろ誰か入ってきてもいい時間だが、一向に誰も来ない。

ハルヒ「キョン、目を閉じなさい」
キョン「なんでだよ?」
ハルヒ「ちょっと顔を触りたいのよ。あんたは黙って言うとおりにすればいいの」
キョン「…へいへい」

どうせ逆らっても無駄なので、俺は素直に目を閉じる。
少ししてからハルヒの手が俺の頬に触れたかと思うと、鼻、唇を指先がなぞっていき、顎の下で離れた。

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:05:26.54 ID:Y/qyvAe+0

ギシッ-ハルヒが座るパイプ椅子だろうか-と、が軋んだかと思うと、両手が俺の頬を挟むように置かれ…
柔らかな感触が俺の唇を塞いだ。

キョン「!」
ハルヒ「…」

俺、今ハルヒにキスされている。
お互いの唇が触れるだけのキス。
両手でがっちりとおさえつけられているから逃れることもできず、俺はただなされるがままにハルヒを見つめていた。

ハルヒ「…ふぅ」
キョン「…」///
ハルヒ「なによ、ずっと見てたの?悪趣味ね」
キョン「悪趣味って、お前なあ、いきなりそんなことされれば誰だって…んむっ!!」
ハルヒ「…」ちゅ
キョン「!!!」///

ちょ、ちょっと待てハルヒ!なぜまたキスをする!!
しかも今度は舌を入れてくるのか!
これはいったい、どういうことだ?
だめだ、頭がボーっとする。

キョン「…」///
ハルヒ「…んっ」
キョン「…」
ハルヒ「…ふぅ」

人差し指で唇を拭い、小さく笑うハルヒ。
机越しの奇襲に完全に面食らった俺は、ただ顔が熱くなっているのを感じながら相手を見ることしかできなかった。

288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:09:42.95 ID:Y/qyvAe+0

ハルヒ「へへ。キス、しちゃった」にやっ
キョン「…ああ」
ハルヒ「あんたに頭撫でられていてドキドキが収まらなかったの。それで、あたしも撫でてみればどうかなと思って撫でてみた」
キョン「…」
ハルヒ「そしたら余計ドキドキが大きくなったから、あんたの顔に触れてみたら、自然に体が動いたわ」
キョン「…そうか」
ハルヒ「あんた、何でそんな冷静なのよ」
キョン「驚きすぎてリアクションができねえんだよ」
ハルヒ「そ、そう」///
キョン「そうだ」
ハルヒ「あんたらしいっていうかなんていうか…まあいいわ。…私が言いたいのは」///

上目遣いで俺を見るハルヒ。
不覚にもドキッとさせられた。

ハルヒ「…責任、取ってよね」
キョン「はぁ?」
ハルヒ「あんたのせいで病気になったんだから、責任取りなさい!」
キョン「病気!?俺のせいかよ!?」
ハルヒ「そうよ!あんたのせいよ!」
キョン「何で俺がお前の病気の面倒見なきゃいけねえんだ」
ハルヒ「馬鹿キョン!キスまでしといてわからないなんて最低!」
キョン「お前が奪ったんだろうが!」
ハルヒ「嬉しいでしょ!こんな美少女とキスできて!」
キョン「もっとムードってものがあれば嬉しかったかもな」
ハルヒ「…」シュン

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:13:14.82 ID:Y/qyvAe+0

キョン「どうした?」
ハルヒ「…キョンは、嬉しくないんだ」
キョン「は?」
ハルヒ「あたしは、キョンとキスできて嬉しかった」///
キョン「…ハルヒ」///
ハルヒ「…」ぐすっ
キョン「!!」

これはいったいどういうことだ?
あのハルヒが俺の目の前で涙を浮かべている。
それになんて言った?

-キョンとキスできて嬉しかった-

確かにそう言った…よな?

キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「…なによ」
キョン「…お前の病気って、アレか?前に言っていた精神病の一種」
ハルヒ「…」コクン
キョン「そっか」///
ハルヒ「…」

やれやれ。そういうことか。
言葉にはしないんだな。
まあハルヒらしいって言えばそれまでだが。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:17:15.97 ID:Y/qyvAe+0

キョン「…まったく。それならキスの前に言うことがあるだろうが」
ハルヒ「なによ」
キョン「まあ、お前らしいけどな」スッ
ハルヒ「…!!」

ハルヒの頬に手を置くと、俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねた。
一瞬身じろぎしたものの、ハルヒは抵抗せずに受け入れる。

キョン「…お前の真似だ」
ハルヒ「…馬鹿」
キョン「確かにドキドキするな」
ハルヒ「うん」///
キョン「好きだぞ、ハルヒ」
ハルヒ「!!」///

言葉にすれば簡単なのに言葉にしないのがハルヒらしいよ。まったく。
やれやれ…だ。

おしまい

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/19(木) 00:28:59.24 ID:Y/qyvAe+0

古泉×朝倉か…
正統派にすべきか、バカップルにすべきか悩むところだ…
古泉視点で書くのも面白そうだねw

336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 22:20:18.94 ID:Y/qyvAe+0

ま、まだ残っている…だと。
古泉モード難しいorz
遅筆だからなかなか話が書けんのでありますよ…
こんな感じか?

彼の言葉に、胸の高鳴りを抑えることができなかった。
携帯の電源を切ると同時に走り出す。
目的地は--校門前。

古泉「…」

まだ、来てはいないようですね。
校門の柱に体を預け、坂の下に視線を送る。
登校してくる生徒の中。その中に、彼と彼女がいた。
もどかしい。
ゆっくりと坂を上ってくる二人を見て、逸る気持ちを抑えるのに苦労する。
落ち着け、一樹。
坂を上り終えた彼が、僕の横に来て立ち止まる。

古泉「…あなたに、感謝を」
キョン「馬鹿、それよりも先に言うことがあるだろう?…朝倉に」
古泉「そうですね…では後ほどまた…」

彼は軽く肩を叩くと、横を通り過ぎて昇降口の方へと遠ざかっていく。
まったく。彼には一生、頭があがりそうにありません。

朝倉「あ、ちょっと…キョン君!」

困惑した声。ちょっと慌てている表情。
そのすべてが、愛おしい。

339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 22:28:52.94 ID:Y/qyvAe+0

古泉「おはようございます。朝倉…涼子さん」
朝倉「…あ、はい…」
古泉「ちょっとお時間をいただきたいのですが…よろしいですか?」
朝倉「はい…」
古泉「では…そうですね、こちらへ…」ダキッ
朝倉「…!」カアッ
古泉「あ、これは失礼」バッ
朝倉「い、いえ…」ドキドキ

いけません。つい癖で思わず肩を抱いて引き寄せてしまいました。
僕たちはまだ出会ったばかりなのでしたね。
後ろから付いてきてくれるということは、とりあえず、嫌われてはいないと判断します。
無言のまま、昇降口の横を抜け、中庭の一角へ。
移動教室の裏手にあたる場所なので、他の人に見られる危険性は極めて少ない場所へ。
そこは、僕の後ろを付いてくる人と、クゥプルだった世界で短い逢瀬を重ねた場所。

341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 22:36:45.61 ID:Y/qyvAe+0

古泉「改めまして。朝倉涼子さん。僕は1年9組の古泉一樹と申します」ニコ
朝倉「は、はい。二人でははじめましてっ」ペコリ
古泉「これは恐れ入ります。いきなりこんな場所にお連れして申し訳ありません」
朝倉「い、いえ。ぜんぜん、お気になさらずっ」ブンブン
古泉「そう言っていただけると助かります。…と、いけません、どうやら柄にもなく緊張しているようだ」ポリポリ
朝倉「私も緊張してるからぜんぜん大丈夫ですよっ」
古泉「恐れ入ります」

貴女の明るさに、僕は何度も救われました。
と、あまりお引止めしてはいけないですね。

古泉「朝倉涼子さん」
朝倉「は、はいっ」ドキドキ
古泉「…好きです。お付き合いしてください」ドキドキ
朝倉「あ…」ポロポロ
古泉「!!」
朝倉「あ、あれ?何で涙が…」ポロポロ

零れ落ちる涙を見た瞬間に、僕は彼女を抱きしめていた。

342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 22:46:20.75 ID:Y/qyvAe+0

古泉「…失礼。貴女の涙は、見たくない」ギュッ
朝倉「!!古泉…君」
古泉「お嫌でしたら、遠慮なく突き飛ばしてください」
朝倉「い、嫌じゃない…です」ギュッ
古泉「光栄です」
朝倉「…なんか、安心する…。一樹さん」ギュッ
古泉「…僕もです」
朝倉「あっ、ごめんなさい。返事もしていないのに、いきなり名前で呼んでしまいました」カァッ

頬を赤く染めて体を離す彼女。すぐにでもまた抱きしめたい。
でも、ここは暫く我慢。

古泉「構いません」ニコ
朝倉「あ、あの…ですね」カァッ
古泉「はい、なんでしょうか?」
朝倉「…よろしくお願いします」ペコリ
古泉「といいますと?」
朝倉「意地悪ですね。もう」ジロリ
古泉「これは手厳しい」ポリポリ
朝倉「…私を、彼女にしてください」カァッ
古泉「喜んで」ギュッ
朝倉「…」ギュッ

愛しています。涼子。
二人で過ごしたときに幾度となく伝えた言葉を心の中でささやきながら、予鈴がなるまでの間、彼女を抱きしめた。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 22:56:31.60 ID:Y/qyvAe+0

--放課後 部室

涼宮さんの隣で若干緊張した面持ちの彼と目が合った。
貴方に、感謝を。
胸に手を置いて、謝意を表す。
本当に感謝していますよ。貴方には。

キョン「あー、みんな。ちょっと聞いてくれ」
長門「…」パタン
朝比奈「ふえぇ?」
古泉「なんでしょう?」
ハルヒ「…」

緊張した面持ちのまま、我々に向かって声をかけてくる。
彼の隣にいる涼宮さんが、不安そうに彼を見ているのがまたなんともいえません。

キョン「俺とハルヒは付き合うことになった」
ハルヒ「…」(かぁっ)

なんと。交際宣言ですか。これはまた思い切りましたね。

古泉「おめでとうございます」
朝比奈「お、おめでとうございますぅ!!お、お二人ともお似合いです!」
長門「おめでとう」
キョン「ありがとう」
ハルヒ「みんな、ありがとう!」

満面の笑みの涼宮さんと恥ずかしそうに涼宮さんを見つめる彼。
…おやおや、まだ何かしそうですね。

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:03:29.31 ID:Y/qyvAe+0

キョン「あー、ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?キョン」
キョン「…好きだぞ」
ハルヒ「!」カァッ
古泉「!」
長門「!」
朝比奈「!」
ハルヒ「…あ…その…えっと、…あたしも…」///
長門「!」
朝比奈「!」
キョン「サンキュ」

まさか、こんな堂々と惚気られるとは…。
…貴方には驚かされてばかりです。

キョン「…」エピローグ おしまい
うーむ、こんな感じでいいのか…。古泉は難しい^^;
こんな感じでよければこのまま後日談へと続くかもしれない。

347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:13:53.91 ID:Y/qyvAe+0

プルルルルル、プルルルルル…

古泉「はい、古泉です…。はい、わかりました。では」

すばやく携帯をポケットに入れ、鞄を持ち上げる。

古泉「申し訳ありませんが、用事が入りました。失礼します」
ハルヒ「おつかれさま…」ボーッ
キョン「気をつけてな」チラ
朝比奈「お気をつけて」
長門「さようなら」

ご安心ください、神人ではありませんよ。
怪訝そうな表情を浮かべた彼に胸に手を当ててサインを送る。
貴方に、感謝を。
部室を出て、真っ直ぐに昇降口へと向かう。

古泉「お待たせしました」
朝倉「ううん、ぜんぜん待ってない」ブンブン
古泉「では、行きましょうか」スッ
朝倉「…は、はい」キュッ

差し出した手をおずおずと握ってくる彼女。
それだけで、幸せな気分になれる。

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:21:49.61 ID:Y/qyvAe+0

朝倉「一樹さん…。あの…」
古泉「はい、なんでしょう?」ニコ
朝倉「変なことを言うけど…、その、ずっと前から貴方を知っている気がするの…。貴方とこうして手を繋ぐのも、初めてじゃないような気がして…」
古泉「…僕も、そう思っていました。貴女とこうしているのが自然な感じがします」ニコ
朝倉「一樹さんも…。そっか、そうなんだ」ニコ
古泉「もしかしたら僕たちには縁(えにし)があるのかもしれませんね」ニコ
朝倉「縁?」
古泉「言い方を変えるとすれば、運命ですよ。…僕たちは、出会うべくして出会った、と」
朝倉「…ずるいな。一樹さんが言うと様になるけど、私が言うときっと浮くわね」ショボン
古泉「恐れ入ります…。でも、貴女が仰ったらきっと、僕には金言よりも尊く聞こえると思いますよ」
朝倉「…キザね」カァッ

あの世界で貴女と過ごした日々は、それよりももっと尊く、儚い。

朝倉「どうか、した?」ジッ
古泉「いえ、なんでもありません」
朝倉「本当?」
古泉「ええ…。いや、なんでもないといえば嘘になりますね…。その、なんていえばいいか判りませんが…」

心が、貴女を求めて止まないのですよ。

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:30:42.67 ID:Y/qyvAe+0

古泉「いささか不安になりまして…」
朝倉「え?」
古泉「いや、何でもありません」
朝倉「一樹さん…」
古泉「何を言っているんだ僕は…。すみません」
朝倉「…」シュン
古泉「…でも、これだけは確かです。涼子さん。貴女が好きです」
朝倉「!」パアア
古泉「多分、貴女が思っている以上に、僕は貴女が、好きです」
朝倉「一樹…さん」カァッ

坂を下りきった駅へと続く道。手を繋いでゆっくりと歩きながら、想いを言葉に紡いでいく。

朝倉「嬉しい…。でも、私も、きっと一樹さんが思っている以上に一樹さんを…好きですよ」ニコ
古泉「これはこれは」カァッ
朝倉「だから…その、私のことも…できれば名前で呼んでください」カァッ
古泉「では…涼子、さんで」
朝倉「はい…」
古泉「…」キュッ
朝倉「…」キュッ

お互いに強く手を握り合う。
ただそれだけで、心が伝わっている気がした。

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:38:28.85 ID:Y/qyvAe+0

古泉「着きました」
朝倉「…着いちゃった」ショボン
古泉「そんな寂しそうにしないでください。辛くなります」
朝倉「…一人だけの部屋は寂しいの」
古泉「僕の理性を吹き飛ばすような発言をしないでください」カァッ
朝倉「ぅぇ?あ、う、あ…、そうじゃなくって」アワアワ
古泉「冗談ですよ」クス
朝倉「もうっ!一樹さんの意地悪!」
古泉「すみません、つい、からかいたくなりました」

怒った貴女も、愛らしいですよ。

352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:48:36.76 ID:Y/qyvAe+0

朝倉「まったく…。あれ、でもどうして私の家を知ってるの?」
古泉「長門さんからの情報です。同じマンションだとお聞きしましたので」
朝倉「あ、そっか。長門さんも同じ部活、だったわね」
古泉「ええ」
朝倉「…」ジッ
古泉「どうしました?」
朝倉「…長門さんの部屋を知っているってことは、長門さんの部屋に行ったことがあるってこと、だよね?」ムスッ
古泉「これはこれは」
朝倉「否定しないんだ…」ムスッ
古泉「ご想像にお任せします」
朝倉「!」ワナワナ
古泉「…ご安心ください。長門さんの部屋に入ったことはありません」
朝倉「じゃあなんで場所を知ってるの!?」
古泉「SOS団の連絡のためですよ」ニコ
朝倉「そっか、部活…。駄目ね、私、長門さんに嫉妬したわ」ショボン
古泉「嬉しいです」
朝倉「何で?私、嫌な女じゃない…」
古泉「いいえ。それだけ涼子さんは僕を必要としてくれているのでしょう?だから僕は嬉しいですよ」ニコ
朝倉「一樹さん…」カァッ

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/19(木) 23:58:26.80 ID:Y/qyvAe+0

真っ直ぐに僕を見つめてくる瞳。
まるで吸い込まれてしまいそうなほど、深く、美しい瞳。

古泉「涼子さん…」ジッ
朝倉「はい…」ジッ
古泉「報酬を頂戴してもよろしいですか?」ニコ
朝倉「報酬?」
古泉「貴女を送り届けた報酬、です」スッ
朝倉「…」ビクッ

彼女の頬に、そっと手を置く。視線は逸らさないまま。

古泉「よろしいですか?」
朝倉「…」コクリ
古泉「…」
朝倉「…」

そっと唇を重ねる。懐かしい感触。愛おしい感覚。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 00:09:30.44 ID:tS30M4Yu0

朝倉「…」ポロポロ
古泉「!」
朝倉「なんで、かな。嬉しいのに、涙が、止まらない…」ポロポロ
古泉「涼子さん…」ギュッ
朝倉「一樹さん…好き、です」ギュ
古泉「僕もです…涼子」
朝倉「いつ…き…」
古泉「…」
朝倉「…」

お互いが求め合うようにどちらからともなく唇を重ねる。
声に出して名前を呼び捨てにするのに、なんの躊躇いもなかった。

朝倉「…キス、しちゃったね…何度も」カァッ
古泉「そう改めて言われると恥ずかしいですね」ポリポリ
朝倉「わ、私だって恥ずかしいっ」カァッ
古泉「ふふ。報酬は確かにいただきました」
朝倉「キザ」
古泉「これは手厳しい」
朝倉「…」
古泉「これからも、ふたりきりの時は呼び捨てにしてもいいですか?」
朝倉「…うん」カァッ
古泉「では、おやすみなさい。涼子」
朝倉「うん。おやすみなさい。…一樹」カァッ
古泉「…」チュ
朝倉「…ん」

最後にもう一度だけキスをして、駅前広場に向かって歩き始めた。

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 00:18:05.20 ID:tS30M4Yu0

ポケットから携帯を取り出し、電話をかける。

キョン「もしもし。どうかしたか?」 『誰から?キョン』
古泉「まだ、学校でしょうか?」
キョン「いや、学校を出て坂を下りているところだ」 『古泉だよ、ちょっと待て』
古泉「涼宮さんとご一緒ですか?これは申し訳ありません、…少々お会いしてお話をしたかったのですが」
キョン「ああ、ハルヒを送り届けるところだ。それが終われば大丈夫だ。…ん?男同士で話したい?わかった何とかする。じゃあ、いつもの喫茶店な」ガチャッ
古泉「…」

最後の方は一方的に話を振られましたが、少なくとも話は聞いてくれるようですね。
では、喫茶店で彼を待つとしますか。

ハルヒ「古泉君なんだって?」
キョン「なんか男同士で相談したいことがあるってさ」
ハルヒ「あんたに古泉君が相談?珍しいこともあるわね」ダキッ
キョン「さりげなく腕を組むな」
ハルヒ「いいじゃない!恋人なんだから」
キョン「馬鹿」カァッ
ハルヒ「なんでよ!」
キョン「…恥ずかしいだろ」
ハルヒ「あたしは、嬉しいわよ!堂々と腕組めて」ニコッ
キョン「…まあ、な」カァッ
ハルヒ「ふふっ素直でよろしい!」ギュッ

これじゃあまるっきりバカップルじゃないか。
…まあ、悪い気はしないんだが。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 00:26:34.89 ID:tS30M4Yu0

キョン「まあ、そういうわけで、お前を送ったら俺は古泉に会いに行く」
ハルヒ「了解。ちゃんと相談に乗ってあげなさいよ」
キョン「そうだな」
ハルヒ「ねえ?面倒なら無理に送ってくれなくても、いいよ?あんたの家、反対方向でしょ?」
キョン「あのなあ、ハルヒ…」
ハルヒ「なによ?」
キョン「…彼女とはなるべく一緒にいたいのが彼氏ってものなんだ。良く覚えておけ」カァッ
ハルヒ「あ、そ…そう。…うん」カァッ
キョン「よろしい」
ハルヒ「むう。なんかそれムカつく」
キョン「…」

相変わらずだな、ハルヒ。まあそんなところも可愛いんだが。

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 00:32:01.56 ID:tS30M4Yu0

キョン「着いたぞ」
ハルヒ「うん…」ギュッ
キョン「着いたっての」
ハルヒ「…わかってる」ギュッ
キョン「あのなあ、しがみついたままだと行けないだろうが」
ハルヒ「開錠が必要よ!キョン」ギュッ
キョン「は?」
ハルヒ「鍵は、…ここ」スッ

そう言うとハルヒは人差し指で自分の唇を指した。
…キスしろってか?自分の家の前で。

キョン「お前、家族に見られたらどうする?」
ハルヒ「構わないわ。むしろ紹介してあげるわよ?私の彼ですって」ニコ
キョン「そうか」カァッ
ハルヒ「ふふ。好きよ、キョン」
キョン「…俺も、好きだぞ、ハルヒ」
ハルヒ「…」
キョン「…」チュ
ハルヒ「…開錠されちゃった」ニコ
キョン「まあ待て、もう一個残ってるだろ」キュ
ハルヒ「…馬鹿」
キョン「お互い様だ」チュ
ハルヒ「…ん」
キョン「おやすみ、ハルヒ」
ハルヒ「うん。おやすみ、キョン」ニコ

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 00:34:33.73 ID:tS30M4Yu0

うん、今夜はこの辺で…。
やっぱ古泉難しいwそれに比べてキョンは書きやすいなw
気がついたら複合文になっていたw
では、おやすみなさいませ〜 ノノシ

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 23:51:43.26 ID:SmdO7amN0

また落ちた…だと…

--喫茶店

古泉「およびたてして申し訳ありません」
キョン「今回はお前だけか?」
古泉「男同士の話ですからね」
キョン「あー、その、悪かった」ポリポリ
古泉「改まれても困りますね」

両手でコーヒーカップを持ち、その温もりを楽しみながら彼が注文をするのをなんとなく眺める。
考えてみると、僕は知らないうちに、結構彼を頼りにしていることに気がついた。

キョン「なあ古泉、その持ち方はなんか女の子みたいで気持ち悪いぞ」
古泉「これは手厳しい」
キョン「そう言いながら止める気はないみたいだな」
古泉「ええ、申し訳ありません。少し温もりが恋しいものでして」
キョン「…」

彼がなんともいえない微妙な表情で僕を見るのと、彼の注文したブレンドコーヒーが運ばれてくるのがほぼ同時だった。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/20(金) 23:56:30.91 ID:SmdO7amN0

砂糖とミルクを無造作に入れてスプーンで掻き混ぜてから、彼は何を思ったか僕と同じように両手でカップを持ち上げた。

キョン「なあ古泉」
古泉「なんでしょう?」
キョン「お前が温もりが恋しいなんて言うから、俺も恋しくなっちまった」
古泉「これはこれは」
キョン「まあ、なんだ。気休め程度にはなるな、これ」
古泉「そうですね」
キョン「…」ズズ
古泉「…」
キョン「で、何か話があるんじゃなかったか?」
古泉「そうでした」

カップをテーブルの上に下ろし、少し逡巡する。
だが、こうして向かい合っている以上、いつまでも話を進めないわけにはいかないので、気持ちを落ち着けるため、一度深呼吸をして、覚悟を決める。

古泉「…軽蔑されるかもしれませんが…、正直、自分の理性というものに限界を感じまして…」
キョン「それまたどうして?」
古泉「なんて言いますか…、その、ですね…。抱きたくて耐えられなくなるんですよ」カァッ

包み隠さず内情を吐露する。彼もまた僕と同じ悩みを抱えていると思うからだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:01:03.37 ID:FKRuJIWB0

キョン「!!ブッ…ゴホッ、ゴホッ」ガチャン
古泉「すみません。大丈夫ですか?」
キョン「…いきなり何を言う」ゼーゼー
古泉「軽蔑します、よね?」
キョン「…それよりも何故いきなりそんなことをカミングアウトされなきゃならんのか教えてくれ」
古泉「貴方は鍵です。それに比べて僕は部品(パーツ)のひとつでしかありません。でも、前の世界では元の世界の記憶を持っていた、それは貴方もご存知ですね?」
キョン「ああ」
古泉「前の世界で僕は彼女を抱いたと、言いましたよね?厳密には長門さんが説明してくれた件ですが…」
キョン「ああ」
古泉「まあ、だからと言っては何ですが、その、記憶が生々しいのですよ」カァッ
キョン「…」
古泉「思い出すだけで、…その、欲求が抑えられなくなりそうで…ですね、彼女を傷つけてしまわないか心配で」
キョン「…」
古泉「貴方は、いったいどうやって抑えているのですか?それを教えていただきたくて…」カァッ
キョン「ちょっと待て!!俺は…」キョロキョロ

何かを言いかけて、声が大きかったのを憚ってか一旦言葉を切り、周りを見回してから彼は声を潜めた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:08:09.25 ID:FKRuJIWB0

キョン「俺とハルヒは、…まだだ」カァッ
古泉「前の世界でも、ですか?」
キョン「ああ。お前の記憶にないトンデモ世界を体験したこともあるが、少なくとも俺の記憶にハルヒとの…そういった思い出はない」カァッ
古泉「それはそれは…」
キョン「まあ、夫婦だったことはあるが」ボソ
古泉「夫婦なら、それこそ行っているのではないですか?」
キョン「あの世界のあいつの中ではそうかもしれないが、俺の記憶にはないんだよ」カァッ
古泉「ああ、なるほど…」

世界の神ともいえる涼宮さんがまだ未体験とは。なんだか僕が汚れている気がしてきました…。

キョン「しかしまあ、なんだ。あー、腕組んだり見つめあったりとかは割と抵抗なくするようになったぞ。キスとかな」カァッ
古泉「恋人宣言は放課後でしたが、キスはもうお済みでしたか」
キョン「あいつの中じゃもう何度もキスしてたんだよ。それで昼休みから、まあ、その、な」カァッ
古泉「いやはや、羨ましい。貴方たちの間には付き合っていたという歴史があるのですね」

実に羨ましい限りです。僕にはそういった歴史がないのですからね。

キョン「あー…。まあ、そうなる、かな」ポリポリ
古泉「僕の場合、りょ…朝倉さんとは、本日晴れて恋人同士になれたのですが…」
キョン「ああ、無理に苗字で呼ばなくてもいいぞ」
古泉「恐れ入ります。その、ですね、唇を奪ってしまいました」カァッ
キョン「あー、朝倉の反応はどうだったんだ?」
古泉「泣かれました」
キョン「やばくないか、それ?」
古泉「いえ、その、『嬉しくて涙が…』的な反応でして…。そのあと抱き締めあって呼び捨てで呼んだり…とか」カアッ
キョン「…」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:14:35.98 ID:FKRuJIWB0

古泉「愛おしすぎて、狂いそうですよ」ハァッ
キョン「…惚気かよ」
古泉「部室で全員の前で『好きだぞ』とか言う人に言われたくありませんね」
キョン「!」カァッ
古泉「まあともかく、事を急いてしまいそうでして…」
キョン「…お互いが必要としていればいいんじゃないか?時間は、関係ないだろ」
古泉「!」

お互いが必要としていれば…時間は関係ない…ですか。

古泉「それはそうかもしれませんが、時間が必要なこともあると考えます」
キョン「少なくとも朝倉は、だいぶ前からお前を見ていたと思うぞ。でなければ、通学路で俺を待ち伏せしてまでお前のことを聞いてこないだろうし」
古泉「…ちょっと待ってください。涼子さんがなんですって?」
キョン「今朝、俺を待ち伏せしてお前のことを俺に聞いてきたんだよ。言わなかったか?」
古泉「初耳ですよ」
キョン「あー、悪い。思いつめた様子でお前のことを聞いてきたから、朝倉にお前の名前を教えてから、お前に連絡したんだ」
古泉「…そうでしたか」
キョン「お前を呼んだって言ったら慌ててな。おたおたする姿が結構可愛かったぞ」ニヤリ
古泉「…どのような感じだったのか詳しくお願いします」
キョン「お前から『俺のクラスのクラス委員』に関して相談を受けたと言っても気づかなかったから『クラス委員は誰だ?』って尋ねて気づかせた」
古泉「…」
キョン「気づいたときに自分を指差して真っ赤になった朝倉はそれはもう可愛かったぞ」ニヤリ
古泉「貴方も意外と意地悪ですね」ムスッ
キョン「怒ったか?だったら悪い。謝る」
古泉「あまりいい趣味とはいえませんね」ムスッ

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:22:00.24 ID:FKRuJIWB0

まったく、人をからかうにも限度と言うものがあるのをご存じないのですか貴方は。

キョン「…ははっ」
古泉「何がおかしいのです?」
キョン「いや、悪い。いつもクールなお前と、こう腹を割って恋話(コイバナ)してると思うと、普通の高校生の友人してると思ってな」クックッ
古泉「そういえば…そうですね…。貴方とこんな話をするとは思いませんでした」
キョン「なあ古泉」
古泉「はい」
キョン「その喋り方は仕方ないとしてもだな、ここまでぶっちゃけたんだ。俺のことはキョンって呼んでくれないか?」
古泉「え?」

言われてみると、僕は今まで彼のことをそう呼んだことがなかったことに気がついた。

キョン「俺はお前のことを『すましたキザ野郎』って思ってたこともある」
古泉「…」
キョン「だけどな、一緒に行動してみてお前が信頼できる男だってことはわかったし、それについさっきの話で親近感が沸いた。それともう一つ…」

彼は人差し指を立て、体を前に乗り出しながら口を開く。

キョン「恋話できる相手が欲しい」カァッ
古泉「…光栄です」ニコ
キョン「実は最近、惚気たくてたまらなくなるんだ」ニヤリ
古泉「それはそれは…」
キョン「もうハルヒの奴が可愛くてたまらないんだ…」ポー
古泉「…」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:29:37.68 ID:FKRuJIWB0

キョン「何であんないい匂いするんだろうな?女の子って」
古泉「好きな子だと尚更ですよね」
キョン「だよな!やっぱりそうか?」パアア
古泉「はい。否定しません」ニコ
キョン「髪とか、さらさらだし」ポー
古泉「白い肌に落ちる髪とか、しっとりと汗に濡れた肌とか、堪りませんよね」ポー
キョン「…おい古泉」
古泉「なんですか?」
キョン「今、さりげなくものすごい描写をしなかったか?」カァッ
古泉「これは失礼。でもさっき言ったじゃないですか、生々しい記憶が理性を失わせるって」
キョン「それはそうだが…朝倉を普通に見れなくなるだろうが」カァッ
古泉「!!涼子さんを変な目で見るのは許しませんよ」キッ
キョン「お前が言う?変な目で見る原因を口走ったお前が!?」
古泉「!それはうかつでした」
キョン「…ふ、ふふふ」
古泉「…は、ははは」

気がつくと顔を見合わせてお互いに笑っていた。
いつ以来だろう。こんなに笑ったのは。もしかすると能力に目覚めてから初めてかもしれない。

古泉「まったく、貴方には敵いませんよ…キョン」
キョン「お、さっそく呼んでくれたか」
古泉「不思議ですね、キョンと呼ぶことで一気に距離が縮まった気がします」
キョン「まあ、同じ部の仲間から友人くらいには格上げしてもらえたか?」
古泉「はい」ニコ
キョン「そうか」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:37:54.69 ID:FKRuJIWB0

レジ「ありがとうございましたー」
キョン「悪いな、奢ってもらって」
古泉「いえ、およびたてしたのは僕ですから」ニコ

二人並んで駅前の道を歩く。SOS団の集合場所でもある北側改札口前の広場の近くで彼は足を止め、ほっと小さく息を吐いた。

キョン「じゃあ、俺の家は向こうだから」
古泉「はい。お付き合いありがとうございました」
キョン「なあ、古泉」
古泉「はい」
キョン「お前みたいな経験はないけど、…まあお互いが求めるなら、時間は関係ないと思うぞ。俺は」
古泉「…それって」
キョン「だからって、強引に襲うのはNGだ。お前のことだ、そのくらいわかるだろう?」
古泉「…そうですね。ご忠告感謝します」
キョン「まあ、がんばれ」
古泉「はい、では失礼します」ニコ
キョン「ああ、また明日な」

軽く手を上げて挨拶をし、僕たちはそれぞれの家路についた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:45:07.21 ID:FKRuJIWB0

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

…ん?もう朝か…

???「起きて…ねえ?キョン?起きないと、悪戯しちゃうぞ?」

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

妹じゃないな…。誰だよ?

???「キョ〜ン?朝ですよ?」

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

キョン「ん…」
ハルヒ「おはよう、キョン」
キョン「おはよう、ハルヒ…って、何でお前がここにいるんだ!?」ガバッ
ハルヒ「起こしに来てあげたわ!感謝しなさい」エヘン
キョン「威張ることじゃないだろうが」ゴソゴソ
ハルヒ「ちょっと!何してるのよキョン」カァッ
キョン「何って、着替えないと学校行けないだろうが」
ハルヒ「ば、馬鹿っ!いきなり脱がないでよっ」カァッ
キョン「廊下で待っててくれるか?」
ハルヒ「そ、そうする」バタン

やれやれ、何がしたいんだ、ハルヒ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 00:54:36.02 ID:FKRuJIWB0

キョン妹「キョンくーん、おはよう。ハルにゃんちゃんと起こしてくれたんだ」ニコ
ハルヒ「あたしにかかればこんなものよ」エヘン
キョン妹「ハルにゃんすごーい」
キョン「…お前か、ハルヒを入れたのは」
キョン妹「だってハルにゃん、わざわざキョン君を迎えに来たって言うんだもん」
ハルヒ「…」ニコ
キョン「そっか、迎えに来てくれたのか、サンキュ、ハルヒ」
ハルヒ「えへへ」ニコ
キョン妹「あれあれ?キョン君とハルにゃん、ラブラブ?」
ハルヒ「えーっと…」チラリ

昨日のお前の家の前での強気はどこいったんだハルヒ?
あー、でも、俺の家族だからか?

キョン「そうだな、彼女になってもらったぞ」
ハルヒ「!」カァッ
キョン妹「ホントに!うわー、ビッグニュースだ!おかあさーん!キョン君に彼女できたー!!」バタバタ
キョン「ハルヒ…逃げるぞ」ギュッ
ハルヒ「え?うん」ギュッ

ハルヒの手を掴み、玄関へ。
とりあえず鞄を降ろしておいたのは正解だったな。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 01:04:23.28 ID:FKRuJIWB0

キョン「いってきまーす」ガチャ
ハルヒ「あ、ちょっと、キョン…。お、お邪魔しました」パタパタ

玄関を出ると同時に走る。

ハルヒ「キョンってば、ちょっと待って!」
キョン「そこの公園まで、な」

子供のころに遊んだことのある小さな児童公園の前で足を止め、水飲み場の水道の蛇口を捻って水を出し、口に含んでうがいをする。
まったく、妹のせいで歯も磨くことができなかった。恨むぞ。

ハルヒ「ねえ、キョン」
キョン「悪いな、いきなり走らせて」
ハルヒ「んーん、平気よ」
キョン「さすがにお袋や親父が出てくると色々うるさいからな」ポリポリ
ハルヒ「別に、構わなかったのに」ボソ
キョン「なんて言うかな、妹のせいで見世物みたいにお前が扱われるのが嫌だったっていうのか?まあそんな感じ」ポリポリ
ハルヒ「キョン…」
キョン「さて、じゃ、行きますか」
ハルヒ「うんっ」ダキッ
キョン「…学校じゃ、開錠はなし、だぞ?」
ハルヒ「じゃあ今、開錠して」ニコ
キョン「歯、磨いてないから臭いかもしれないが?」
ハルヒ「キョンなら、きっと臭くないよ」カァッ
キョン「…」
ハルヒ「…ん」チュ

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 01:13:06.03 ID:FKRuJIWB0

朝倉「…嘘」
古泉「おはようございます」ニコ
朝倉「お、おはよう…って、いつから?」
古泉「30分くらい前ですかね」ニコ
朝倉「馬鹿。なんで電話くれないのよ」
古泉「ただ待ってみたかったんです、貴女を」ニコ
朝倉「そ、そう…」カァッ
古泉「じゃあ、行きましょうか?」
朝倉「…はい」
古泉「手を、握ってもいいですか?」
朝倉「…」コクリ
古泉「…」キュッ
朝倉「…」キュッ

胸が痛い。顔が熱い。
もしかして手汗かいちゃってたりしない…かな?大丈夫、うん、大丈夫。
ていうか、なんか自然に恋人つなぎしちゃってるし…。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 01:20:19.13 ID:FKRuJIWB0

朝倉「あの、一樹…さん」
古泉「ふたりの時は、敬称はなしで」
朝倉「じゃあ、あの、一樹」カァッ
古泉「なんですか?涼子」ニコ
朝倉「あの…ですね…なんて言えばいいか…ちょっと良くわからないんだけど…」
古泉「…」
朝倉「本当に私たち、付き合ってるの、かな?」

あれ?私、何言ってるの?
告白されて、彼女にしてくださいって言ってお付き合いし始めたのに。

古泉「どうしてそんなことを?」
朝倉「何もかもが急で、不安になる…っていうのかな…。うまく伝えられないんだけど、漠然とした不安が私の中にあって…」ポロポロ

そう、なぜかわからないんだけど、一樹といると不安になる。この不安が何か、わからなくて…。

古泉「…泣かないでください」
朝倉「や、やだ…。どうして一樹と話すと涙が出るんだろう…。悲しいわけじゃないのに…」ポロポロ
古泉「…涼子」ギュッ
朝倉「…」ギュッ

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 01:30:59.24 ID:FKRuJIWB0

一樹の、心臓の音が聞こえる。
一樹の、匂いがする。
一樹に、包まれる、感覚。
ああ、そうか。
顔を上げて、一樹を見上げる。心配そうな表情で私を見ている。

朝倉「一樹…」

名前を呼ぶと、とくん、と心臓が大きく脈打つ。
喉が渇く。
今から言おうとしていることは多分、私が今まで生きてきた中でも最大級の爆弾発言だろう。
顔が熱い。胸が痛い。
私はありったけの勇気を振り絞る。
踏み出さなければ、何も始まらないのだ。

朝倉「---------」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 17:36:56.25 ID:FKRuJIWB0

谷口「おはよう、キョン」
国木田「おはよう、キョン」
キョン「おはよう、谷口、国木田」
ハルヒ「おはよう!」ニコ
谷口「!」
国木田「!」
谷口「おいおいおい!キョン、それは一体全体どういうことだ!?」ビシッ
国木田「あはは。もしかして付き合い始めちゃった?」
谷口「いやいやそれはないぞ国木田!これはきっと罰ゲームか何かに違いない!そうだろ?キョン」ニカッ
キョン「あ、国木田が正解」
谷口「青春のバカヤロオオオオオオオオッッ!!」ダッ!

わけのわからないことを叫んで教室を飛び出していく谷口。
うん。まああいつは放っておこう。

国木田「へえ、そっか。おめでとう、でいいのかな?キョン、涼宮さん」ニコ
キョン「ああ、ありがとう」
ハルヒ「ありがとう」ニコ
キョン「そろそろ離せよ、ハルヒ」
ハルヒ「ん。わかった」ショボン
キョン「ああ、そんな悲しそうな顔するなよ」ナデナデ
ハルヒ「うん」
国木田「!」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 17:43:56.80 ID:FKRuJIWB0

朝比奈「…はぁ」

涼宮さんとキョン君、お付き合いすることになったのですよねえ。
喜ぶべきなんだろうけど、喜べない私もいるわけで…。

朝比奈「…はぁ」
鶴屋「おっはよーっ!みくる。ん?どしたの?なんか元気ないみたいだけど?」ニコ
朝比奈「あ、鶴屋さん。おはようございます」ペコリ
鶴屋「そんなときでもきちんと挨拶してくれるみくるはやっぱりいい子だよっ!」ニコ
朝比奈「鶴屋さんはいつも元気いっぱいですね」ニコ
鶴屋「人間、元気が一番さっ!まあそれは置いといて、どうしたんだい?一人で悩んでないで鶴屋さんに話してみなっ!」ニコ
朝比奈「えーとぉ、なんて言えばいいのか…」
鶴屋「うんうん。ゆーっくりでいいから話してごらんっ!」
朝比奈「えーっとですねぇ、涼宮さんのことなんですけど…」
鶴屋「ハルにゃんがどうかしたのかい?」
朝比奈「キョン君とお付き合いすることになったんです」
鶴屋「それは一大事だねっ!名誉顧問としてはさっそくお祝いに行かなくてはいけないねっ!」
朝比奈「…はぁ」
鶴屋「それでなんでみくるが落ち込んでいるんだいっ?」
朝比奈「ふぇ?落ち込んでなんていませんよ」
鶴屋「ため息ばかりついているのは落ち込んでいる証拠さっ」
朝比奈「そう、…なのかな?」

落ち込んでいる?私。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 17:51:47.26 ID:FKRuJIWB0

涼宮さんとキョン君がお付き合いを始めたから?

鶴屋「もしかしてみくるもキョン君が好きだったとか?」ボソ
朝比奈「ふ、ふぇぇっ!?違いますっ」アセアセ
鶴屋「そんな風に慌てるとかえって怪しいのさっ」ニヤリ
朝比奈「違うのにぃ〜」カァッ
鶴屋「赤くなるともっと怪しいのさっ。さあさあ、吐いちゃいなっ」ニヤリ
朝比奈「き、禁則事項ですっ」
鶴屋「あははっ、みくるは困るとすぐそれだねっ」
朝比奈「…」

あ、そうか。
『禁則事項』
その言葉を口にして、私はこの不安の原因に辿り着いた。

朝比奈「鶴屋さぁん…」ウルウル
鶴屋「ど、どうしたんだい?みくるっ」
朝比奈「禁則事項だけど、禁則事項なんですぅ…」ウルウル
鶴屋「なんか良くわからないけどとりあえず悲しいんだねっ。よしっ、鶴屋さんが胸を貸してあげるさっ!」ギュッ
朝比奈「ふぇぇぇん…鶴屋さぁん…」グスグス

鶴屋さんに抱きしめられながら、改めてこの時間世界の人たちが大好きなんだということに気がついた。
いつかは帰らなくてはいけない。それはわかっているけど…。
高校を卒業するくらいまでは、この時間世界で過ごさせてください。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 18:01:48.73 ID:FKRuJIWB0

朝倉「きょ、今日、学校サボって家に来ない?」カァッ
古泉「…は?」
朝倉「…えっと、ね。ふたりで、話がしたいの」
古泉「涼子…」
朝倉「…駄目、かな?」
古泉「…責任、持てませんよ?それでもよければ、…上がらせていただきます」
朝倉「じゃあ、行きましょうか」ニコ

…僕の言葉の意味に気付いていないのですか?涼子。

変わらない部屋。変わらない香り。
思い出が、生々しい。
これは、失敗だったかもしれません。理性が持てばいいのですが…。

朝倉「お茶、煎れるね」ニコ
古泉「おそれいります」
朝倉「じゃあ、お茶碗取ってくる」

和室の真ん中に置かれた卓袱台を挟んで座る。
部屋の中から涼子がいなくなったことを確認して、僕はひとつため息をついた。

古泉「はぁ」

部屋の中を一通り見回す。ここは居間で、日常生活を過ごすために必要最小限のものが配置されている。
あの襖の向こうが寝室だ。

古泉「…」ブンブン

落ち着け、一樹。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 18:10:10.46 ID:FKRuJIWB0

朝倉「お待たせ」ニコ
古泉「!」
朝倉「えへへ。なんとなくエプロン付けちゃいました」
古泉「…とってもお似合いですよ」ニコ

貴女はどこまで魔性の女なのですか。耐える僕の身にもなってください。

朝倉「はい、お茶どうぞ」
古泉「いただきます」ズズ
朝倉「…」ジー
古泉「…」

じっと僕の顔を見つめている彼女。これは参ります。

古泉「…あの、何かお話があるのではなかったでしょうか?」
朝倉「え?あっ、そうね…」ジー
古泉「…」
朝倉「…」ジー
古泉「…僕の顔に何かついていますか?」
朝倉「ただ見てるだけ」ニコ
古泉「…」
朝倉「嫌?」
古泉「嫌ではありませんよ。ただ…、照れてしまいます」
朝倉「そう言うけど、ポーカーフェイスよね」ジー
古泉「これは手厳しい」ポリポリ

理性を保つにはそうするしかないのですよ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 18:15:25.58 ID:FKRuJIWB0

朝倉「ねえ?一樹」ジー
古泉「なんですか?」
朝倉「私のどこが好き?」ジー
古泉「貴女のすべてが好きですよ」
朝倉「なぜそう言い切れるの?」ジー
古泉「僕の心が…貴女を求めているから」
朝倉「心が求めてる?」ジー
古泉「はい」
朝倉「何でそう思うの?」ジー
古泉「何で…と言われましても。…そうですね」

なぜ僕は彼女に惹かれたのだろう?
なぜ僕は彼女を愛したのだろう?

古泉「ひとめぼれ、ですね」
朝倉「え?」キョトン
古泉「貴女は覚えていないでしょうが、僕は貴女がSOS団の部室に届け物か何かで来た際にその姿を見て、恋に落ちました」カァッ
朝倉「…」
古泉「前も言いましたけど、縁を感じたのですよ」ニコ
朝倉「そっか」
古泉「貴女は?」
朝倉「え?」
古泉「貴女は、僕の何処に惹かれたのですか?」ニコ

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 18:25:02.09 ID:FKRuJIWB0

私、私は…。
彼の何処に惹かれたのだろう?
彼の何処を好きになったのだろう?

朝倉「…あれ?」ポロポロ
古泉「…泣かないでください」
朝倉「なんで?貴方のことを考えると、涙が出ちゃう」ポロポロ
古泉「どうしてそうなるんです」
朝倉「そう言われても、わからない、わからないの」ポロポロ
古泉「ああ、もう!」ガタッ、ギュッ
朝倉「…一樹」ギュッ

不思議、抱きしめられると安心する。
どうしてそうなんだろう?
どうして?

古泉「落ち着きましたか?」
朝倉「…うん」ギュッ
古泉「それは良かった」
朝倉「…うん」ギュッ
古泉「…」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/21(土) 18:28:20.64 ID:FKRuJIWB0

朝倉「…一樹」ギュッ
古泉「はい」
朝倉「もっと強く、抱きしめて…」ギュッ
古泉「!」ギュッ
朝倉「もっと…」ギュッ
古泉「…」ギュッ

胸が痛いくらいに高鳴っている。
肩が痛いほど締め付けられている。
それでも、安心できる。

朝倉「…好き」ギュッ
古泉「りょう…こ」ギュッ
朝倉「大好き…一樹」ギュッ
古泉「…」ギュッ
朝倉「…」ギュッ
古泉「…」ドサッ

気がつくと、私は両腕を丸めるように胸の前に置き、床を背に倒れていた。
見上げるとそこには両腕を支えにして私の顔を覗き込む一樹。
これは、俗に言う『押し倒された』状態、だろうか?

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:13:37.70 ID:Weoju/1G0

古泉「すみません…」
朝倉「どうして謝るの?」
古泉「理性が飛びそうになりました。いや、一瞬、飛びました」カァッ
朝倉「理性?」
古泉「この状態ですよ、わかるでしょう?」
朝倉「まあ、ね」カァッ
古泉「そこで赤くならないでください」
朝倉「赤くなるなって言われても、無理だよ」カァッ

一樹の顔がこんな近くにあるんだもの。赤くならないわけがないじゃない。
まあ、嫌じゃないけど。

朝倉「一樹になら、…いいよ」カァッ
古泉「ば、馬鹿ですか貴女は!」カァッ
朝倉「何でそうなるのよ」ムスッ
古泉「僕が懸命に耐えていることを全て覆すようなことを言うからです!」
朝倉「懸命に耐えている…ってその格好?」
古泉「貴女を抱きたい気持ちですよ!」カァッ
朝倉「ばっ、馬鹿っ!エッチ」カアッ
古泉「誘っておいてそれはないでしょう!」

え?誘っておいてって…?
『一樹になら、…いいよ』
あ、え、ええええ!?

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:21:20.45 ID:Weoju/1G0

朝倉「あ、あれは違う!そうやって見つめられるのはいいって意味で…」カアッ
古泉「それに僕は上がる前に言いましたよね?責任持てないって」
朝倉「う、うん」
古泉「密室で二人きりになるって言うのはそういうことですよ!」カァッ
朝倉「あ、う、うん。ちょっと落ち着こう…ね?」
古泉「…」スーハー
朝倉「…」
古泉「…」スーハー
朝倉「…」
古泉「…」チュ
朝倉「!」
古泉「落ち着きました」ニコ
朝倉「そ、そう」カァッ

う、上からのキスって、なんか凄い。
触れるだけのキスだったけど、なんか、相手を感じることができるって言うのかな?奪われる、みたいな。

古泉「僕のことを考えると涙が出るというのは、ちょっと困りますね」
朝倉「でも、一樹が傍にいるときだけ、だよ」
古泉「なおさら困るじゃないですか」ポリポリ
朝倉「え?」
古泉「貴女の泣き顔は、あまり見たくありません。…貴女には、笑っていて欲しい」
朝倉「一樹…」カァッ
古泉「僕の邪な気持ちを吐露してしまったわけですが、それも貴女が好きだから、好きだからこその気持ちであるということはわかってください」ポリポリ
朝倉「…う、うん。わかった」カァッ
古泉「ありがとうございます」
朝倉「…」

とくん。
胸の高鳴りが止まらない。顔が熱くなる。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:27:03.03 ID:Weoju/1G0

しかしさっきまでとは違い、涙が出ることはなくなっていた。

朝倉「…何で泣いちゃうのか、わかった気がする」
古泉「本当ですか?」
朝倉「不安だったんだと思う」
古泉「どうして?」
朝倉「貴方が本当に私を欲しているのかどうかわからなかったから。恋人になっても、貴方は敬語しか使わないから、貴方の心が見えない気がしたの」
古泉「それは…」
朝倉「でも、さっきの素の感情をぶつける貴方を見て、貴方の喋り方はそれが素なんだってことに気がついたわ。だから、ね。もう涙が出ないよ」ニコ
古泉「涼子…」
朝倉「改めて聞かせて、貴方の気持ち」ニコ
古泉「…また誤解させる言い方をしないでください」ムスッ
朝倉「え?そんな言い方した?」
古泉「…さっきの問いに答えるとしたら、『貴方を抱かせてください』と言うことになります」
朝倉「な、な、なっ!?エッチ!!」カアッ
古泉「ええ、僕は助平ですよ。…貴女に対しては」カァッ
朝倉「え?あ、…うっ…」カァッ

な、何を言ってるのよっ、私に対して助平って!

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:29:33.39 ID:Weoju/1G0

朝倉「…意地悪」ムスッ
古泉「お互い様でしょう?」
朝倉「そうかなあ?」
古泉「はい。そうです」
朝倉「…傷ついた」ボソッ
古泉「僕だって傷つきましたよ。というよりも、僕の方は間違いなく致命傷です」
朝倉「なんで?」
古泉「貴女に『エッチ』という不名誉な称号を頂きましたからね」
朝倉「だってそうじゃない」
古泉「…否定はできません」ムスッ
朝倉「もしかして、拗ねてる?」
古泉「知りません」ムスッ
朝倉「…ふふっ」
古泉「…何で笑うんです…!!」
朝倉「…」チュッ
古泉「…」
朝倉「好き…」ニコ
古泉「僕もです」ニコ

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:33:04.49 ID:Weoju/1G0

--昼休み 一年五組教室

ハルヒ「朝倉さんが休むなんて珍しいわねえ…」ハイ、アーン
キョン「風邪でもひいたんじゃないか?昨日は結構冷えたし…」パクッ、モグモグ。ウマイ。オカエシ。アーン
ハルヒ「大丈夫かしら?」アーン。パクッ、モグモグ。ハイ、キョン。アーン
キョン「まあ、大丈夫じゃないか?」アーン。パクッ

谷口「なんだあの桃色空間は…」ブツブツ
国木田「お弁当も涼宮さんお手製っぽいね」ニコ
谷口「何でわざわざ教室で食うんだ。教室じゃなく自分のアジトで食えばいいのに…」ブツブツ
国木田「きっと、クラスメイトへの牽制だよ」ニコ
谷口「涼宮に手を出す奴なんていないけどな」ブツブツ
国木田「いや、牽制してるのは涼宮さんの方だと思うよ」ニコ
谷口「青い空と白い雲のバカヤロオオオオオオオッッ!!!」ダッ!!

ハルヒ「谷口がまたなんか叫んでるわね」ハイ、アーン。
キョン「ほっとけ。いつものことだ」アーン。パクッ。モグモグ、ウマイ。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 05:35:35.03 ID:Weoju/1G0

--昼休み 文芸部部室 兼 SOS団団室

長門「…」モグモグ

パーソナルネーム朝倉涼子、古泉一樹が同一座標に存在することを確認。
所在地は朝倉涼子の自宅。
朝倉涼子は一般人に分類、監視対象より除外。超能力者である古泉一樹に能力の発動は見られない。
情報統合思念体は監視不要と判断。

長門「…」モグモグ

デザートはくまさんプリン。
…楽しみ。


くっ、予想以上に再投下の量が多かった…。
とりあえず一区切りついたので落ちるのです><
オヤスミナサイ。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 12:37:33.79 ID:Weoju/1G0

--放課後 文芸部部室 兼 SOS団団室

ハルヒ「古泉君は休み?」
朝比奈「そうみたいです」
長門「…」ペラ
ハルヒ「ふぅん。珍しいこともあるわね」
キョン「…」

古泉が休み…。朝倉も今日来ていなかったよな…。偶然か?

朝比奈「涼宮さん、お茶です」ニコ
ハルヒ「ありがとう」ニコ
朝比奈「キョン君、お茶です」ニコ
キョン「ありがとうございます」ニコ
朝比奈「長門さん、お茶です」ニコ
長門「…感謝」ペラ

朝比奈さんがお茶を配り終わると同時に、けたたましい音を立てて部室の扉が開かれる。

ハルヒ「!」
キョン「!」
朝比奈「ひえっ?」
長門「…」
鶴屋「話はみくるから聞いたさっ!ハルにゃん、キョン君、付き合い始めたんだって?」
キョン「ええ、まあ」ポリポリ
ハルヒ「いくら名誉顧問でもあたしたちの仲を裂くことはできないわよっ」キッ

…ハルヒ、それはないと思うぞ。

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 12:44:46.59 ID:Weoju/1G0

鶴屋「にゃははっ。そんな野暮はするわけないさっ。お祝いに来たんだよっ。ハルにゃん、おめでとう」ニコ
ハルヒ「あ、う、ありがとう…」
鶴屋「キョン君もおめでとうなのさっ」ニコ
キョン「ありがとうございます」
ハルヒ「みくるちゃん、お茶。鶴屋さんに」
朝比奈「はぁい」
鶴屋「…ところで、告白はどっちがしたのさっ?」
キョン「…」
ハルヒ「…」カァッ
鶴屋「お?ハルにゃん赤くなったねっ?てことはハルにゃんから告白しちゃったのかい?にゃははっ」
ハルヒ「し、しらないっ」カァッ
朝比奈「お、お茶です。鶴屋さん」
鶴屋「悪いね、みくるっ。…キョン君、駄目じゃないかっ。ハルにゃん困ってるのに助け舟出さないのって彼氏失格だよっ」
キョン「あ、いや、その…」チラ
ハルヒ「…」カァッ
キョン「俺たち、相思相愛だったんで…どっちから告白っていうものじゃなくって、その、ほぼ同時で」カァッ
ハルヒ「!」カァッ
朝比奈「!」
長門「…」ペラリ
鶴屋「にゃははっ!熱い、熱いね二人とも!」
キョン「…あまりからかわないでくださいよ、鶴屋さん」ポリポリ
鶴屋「いいじゃないのさっ!こういうのは縁起物だよっ。縁がない者に幸せを分けてくれないとっ」
キョン「何か違う気がするのですが…」
鶴屋「細かいことは気にしないのさっ。騒いだもの勝ちだよっ」

…やれやれ、この人には敵わないな。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 12:52:14.10 ID:Weoju/1G0

ハルヒ「あ、う、ありがとう…」
鶴屋「キョン君もおめでとうなのさっ」ニコ
キョン「ありがとうございます」
ハルヒ「みくるちゃん、お茶。鶴屋さんに」
朝比奈「はぁい」
鶴屋「…ところで、告白はどっちがしたのさっ?」
キョン「…」
ハルヒ「…」カァッ
鶴屋「お?ハルにゃん赤くなったねっ?てことはハルにゃんから告白しちゃったのかい?にゃははっ」
ハルヒ「し、しらないっ」カァッ
朝比奈「お、お茶です。鶴屋さん」
鶴屋「悪いね、みくるっ。…キョン君、駄目じゃないかっ。ハルにゃん困ってるのに助け舟出さないのって彼氏失格だよっ」
キョン「あ、いや、その…」チラ
ハルヒ「…」カァッ
キョン「俺たち、相思相愛だったんで…どっちから告白っていうものじゃなくって、その、ほぼ同時で」カァッ
ハルヒ「!」カァッ
朝比奈「!」
長門「…」ペラリ
鶴屋「にゃははっ!熱い、熱いね二人とも!」
キョン「…あまりからかわないでくださいよ、鶴屋さん」ポリポリ
鶴屋「いいじゃないのさっ!こういうのは縁起物だよっ。縁がない者に幸せを分けてくれないとっ」
キョン「何か違う気がするのですが…」
鶴屋「細かいことは気にしないのさっ。騒いだもの勝ちだよっ」

…やれやれ、この人には敵わないな。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 12:59:51.42 ID:Weoju/1G0

--同時刻(放課後) 朝倉家

ふたりでいろいろなことを話しているうちに、気がつけば夕方になっていた。
僕は、自分を褒めてやりたい。
途中何度か襲いそうになったけど、今のところ理性が勝っている。
キスは何度かしましたが、…それは些細なこと。

朝倉「ねえ?夕御飯は何が食べたい?」
古泉「さすがに、そこまでお世話になるわけには…」
朝倉「駄目?」ショボン

…それは反則ですよ。まったく。

古泉「そんな顔をしないでください。断れないじゃないですか」
朝倉「えへへ。だって、一人で御飯は味気ないんだもの」
古泉「…それはわかりますけどね」
朝倉「じゃあ、夕御飯食べていって。ね?」ニコ
古泉「わかりました」
朝倉「ふふ。何が食べたい?」
古泉「貴女の作るものなら、なんでも」
朝倉「むぅ。その言い方はずるい」
古泉「材料の関係もあるでしょうし、貴女にお任せするのが一番と思いますが?」
朝倉「…正論ね。くやしいけれど」
古泉「お昼のパスタは絶品でしたよ」ニコ
朝倉「気に入ってもらえてよかったわ」ニコ

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:10:55.23 ID:Weoju/1G0

キョン「…」
ハルヒ「…」
キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なに?」
キョン「忘れ物を取りに来たんじゃなかったのか?」
ハルヒ「そうよ。忘れ物を取りに教室に来たの」
キョン「だよな」
ハルヒ「うん」
キョン「…じゃあ何故、お前は俺の膝の上に乗ってるんだ?」
ハルヒ「忘れ物を回収したらそこにキョンがいたからよ」ニコ
キョン「どういう理屈だ」
ハルヒ「…もう、わかってるくせに」
キョン「…」
ハルヒ「…ん」チュ

まずい。
何がまずいかといえば、今の体勢だ。
ハルヒの奴は椅子に座る俺の真正面、太腿の辺りに跨るようにして俺の上に乗っている。
スカートの下が俺の太腿の辺りに当たっているわけだ。
身動きが取れないからたちが悪い。
触れる部分の刺激は何とか耐えたとしても、がっちりと顔をホールドされてキスをされると、さすがに下半身に緊張が走るのは男の性だろう。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:17:07.31 ID:Weoju/1G0

キョン「…ん」チュ
ハルヒ「!」
キョン「…」ドキドキ
ハルヒ「…」ニヤリ

何だハルヒ、その表情は?

ハルヒ「キョンのえっち」クスクス
キョン「…生理現象だ」カァッ
ハルヒ「あたしで欲情したんでしょ?」ニヤリ
キョン「…悪いか。ていうか、わかってるなら降りろ、離れろ」カァッ
ハルヒ「もうちょっと、いいでしょ?」チュッ
キョン「…ん…!!」チュッ
ハルヒ「…ん」クチュ
キョン「…」クチュ
ハルヒ「…ふぅ。…へへ。ディープキス」ニコ
キョン「…」
ハルヒ「よいしょ、っと」タッ

ハルヒはスカートの裾を翻して俺の上から降りると、腰に手を当てて俺を覗き込むように見た。

ハルヒ「安心した」
キョン「なにがだよ?」
ハルヒ「あんたが、あたしで欲情するってことがわかったから」ニヤリ
キョン「なっ!?」カァッ
ハルヒ「だいたい、あんたわかりづらいのよ。…ちっとも求めてこないし」
キョン「お、俺はお前が大切だからだな…」カァッ
ハルヒ「…ん。わかってる、よ」カァッ
キョン「…」ハァ

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:25:04.71 ID:Weoju/1G0

ハルヒ「…怒った?」ジッ
キョン「少しな」
ハルヒ「…ごめん」ショボン
キョン「…」
ハルヒ「不安だったの。あたしに魅力がないのかなって」ボソッ
キョン「…そんなことは、ないぞ」
ハルヒ「え?」

…まったくこいつは。
俺は立ち上がると、ハルヒの腰に左手を廻し、右手で頭を抑えて前の席の机の上に上半身を寝そべらせるように倒した。

ハルヒ「キョン?…んっ!んーぅっ!」クチュ
キョン「…んっ」クチュ
ハルヒ「…っ!!」クチュ
キョン「…」クチュ

舌を吸って絡ませる。今までにないほど激しく、執拗にハルヒの舌を求める。

キョン「…」
ハルヒ「キョ…ン」ボー
キョン「…俺がお前に欲情している証拠、付けとくな」
ハルヒ「えっ…!あっ」ビクッ

首筋に唇で触れ、そのまま鎖骨の上辺りまで滑らせてから肩口の辺りを強く吸った。
ハルヒの匂い。汗ばんだ肌。荒い吐息。
はっきり言ってこれ以上はやばい。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:31:59.29 ID:Weoju/1G0

ハルヒ「キョン…」ボー
キョン「大丈夫か?」
ハルヒ「…駄目」ボー
キョン「すまん、ちょっとやりすぎた」ポリポリ
ハルヒ「…うん。凄かった」ボー
キョン「すまん」
ハルヒ「…いい。大丈夫」
キョン「そうか」
ハルヒ「うん。あたしに欲情してくれたし」
キョン「言うな」カァッ
ハルヒ「ふふ」
キョン「…あー、ハルヒ」
ハルヒ「なに?」
キョン「俺は、…最初はちゃんとしたところでしたいと思っている。だから、今日みたいに煽るのは、そういう場所限定ってことで」カァッ
ハルヒ「ば、馬鹿っ!!」カァッ
キョン「次は耐えられる自信がないんだよ」ポリポリ
ハルヒ「…わかった」カァッ
キョン「サンキュ」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:37:05.19 ID:Weoju/1G0

古泉「…」
朝倉「…」
古泉「…」
朝倉「…ん」チュッ

気がつくと、キスしてる。
夕御飯を食べ終わって、片付けた後、今で隣に座って、寄りかかってみたりして。
お互いの顔を見ると、それだけで安心して、気がつくと、キスしてる。

朝倉「一樹…」
古泉「涼子…」
朝倉「…ん」チュッ
古泉「…」チュッ

参りました。
キスの連鎖から抜け出せなくなってしまったようだ。
気がつくと、お互いの唇を求めてる。
さすがに…これ以上ここにいるのは、危険すぎる。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:42:45.91 ID:Weoju/1G0

古泉「…そろそろ、帰らないと」
朝倉「…」ショボン
古泉「そんな顔しないでください」
朝倉「…だって」
古泉「また明日、迎えに来ますよ」ニコ
朝倉「…うん」ショボン
古泉「またそういう顔をする」
朝倉「…だって」
古泉「僕だって辛いんですよ、もう!」ドサッ
朝倉「…」
古泉「…」

押し倒された。でも、嫌じゃない。
鼓動が早くなる。でも、心地良い。

朝倉「一樹…」
古泉「…」

彼の目を見つめながら、私は、間違いなく人生最大の爆弾発言となる言葉を口にしようと決めた。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
真っ直ぐに相手を見て、言葉を紡いだ。

朝倉「…いい、よ」

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:50:03.45 ID:Weoju/1G0

ハルヒ「♪」ダキッ
キョン「…」
ハルヒ「♪」ダキッ
キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なに?」ニコ
キョン「…お前、さっき俺が言ったこと、ちゃんとわかってるのか?」
ハルヒ「当然」キッパリ
キョン「…明らかに煽ってるとしか思えないんだが」カァッ
ハルヒ「なっ!?腕組んでるだけじゃないっ」カァッ
キョン「胸を押し付けすぎなんだよ馬鹿!挟み込むような勢いで腕を掴むな!」カァッ
ハルヒ「なっ!ば、馬鹿キョン、エロキョン!昨日はそんなこと言わなかったじゃないのっ」カァッ
キョン「うぇっ!?昨日もこんなだったか?」
ハルヒ「うん」
キョン「…悪いハルヒ。さっきので俺、敏感になってるからちょっとクールダウンさせてくれ」カァッ
ハルヒ「…ん」スッ

絡ませていた腕を外すと立ち止まり、右手をじっと見ておもむろにスカートで擦ってから俺の左手を取り、指を絡ませるようにして手を繋いでくる。
これは、世間一般で言う、恋人つなぎってやつだな。

ハルヒ「これなら、いい?」ギュッ
キョン「ああ」ギュッ

繋いだ手を小さく揺らしながら再び歩き出す。暫くの間はお互い無言だ。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 13:57:46.90 ID:Weoju/1G0

そのまま人気の少ない住宅街の道へ入ると、ハルヒが静かに口を開いた。

ハルヒ「…ねえ」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「試すようなことしてごめん」
キョン「何だいきなり?」
ハルヒ「…あんたが『煽るな』って言うのはわかる。でも、あんたもあたしを『煽ってる』ことがあるっていうの、わかってる?」
キョン「…よくわからん」
ハルヒ「…今更あんたに隠してもしょうがないから、言っとくけど…。あたしも、欲情するのよ」カァッ
キョン「爆弾発言だな」
ハルヒ「うるさい!黙って聞く」
キョン「…」
ハルヒ「…あんただけずるい」
キョン「なにがだ?」
ハルヒ「…動かないで」スッ
キョン「…!」

すばやく小さな路地の影に俺を引き込み、ブロック塀に押し付けたかと思うと、鞄を放り投げて繋いでいた手を解き、俺のシャツを払いのけて首筋に唇を当ててくる。
ハルヒの唇が触れた場所から微かな痛みを感じ、ほんの少しだけ身を捩った。

ハルヒ「これでよしっ」ニコ
キョン「…」

文句を言おうとしたが、ハルヒの右手人差し指が俺の唇を軽く押さえてそれを許さなかった。
それからハルヒは、楽しそうに俺を見ながら悪戯っぽくこう言った。

ハルヒ「あたしがあんたに欲情した証、付けといたからね」ニコ

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 14:06:46.54 ID:Weoju/1G0

キョン「…」ハァ

洗面台の鏡に映る自分を見て思わずため息が漏れた。正確に言えば、首筋を見て、だが。
ハルヒが付けた欲情の証がその存在をこれでもかと言うくらいに誇示している。
俺には、ちゃんと隠れる位置に付けるだけの分別はあったんだけどなあ。
ハルヒの肌の感触を思い出して顔が熱くなる。
それから慌てて蛇口を捻り、雑念を洗い流すように顔を洗った。

キョン「…おいハルヒ、どうしてくれるこれ」

朝の作業を一通り終えてから部屋に戻り、勉強机の椅子に跨り、くるくる回っていたハルヒに向かって俺は首筋を指差して言った。

ハルヒ「…あんた、肌弱い?」
キョン「いや、これはお前が強く吸い付きすぎだろ」
ハルヒ「あー、なんていうか、…ごめんね」ポリポリ

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 14:11:23.51 ID:Weoju/1G0

キョン「…これって絆創膏貼った方がいいか?」
ハルヒ「それだとかえって目立つんじゃない?」
キョン「かといって何もしないわけにもいかんだろう?」
ハルヒ「ん、じゃあファンデ塗ったげる。座って」
キョン「化粧か?」
ハルヒ「そ。いつもは使わないけど…、自然に隠せるし、ね」カァッ
キョン「お前のは、普通は隠れる場所のはずだが?」
ハルヒ「馬鹿。体育あるでしょ」カァッ
キョン「あ、そっか。すまん」カァッ
ハルヒ「…」ポンポン パタパタ
キョン「…」
ハルヒ「はい、できた。どう?」ニコ

化粧品のコンパクトを受け取って、その蓋についている鏡で首筋を見る。

キョン「おお、凄いな。わからないや」
ハルヒ「水を被るとか、我慢大会で大汗をかくとかしない限りは持つと思うわ」エヘン
キョン「便利だな」
ハルヒ「そうね」
キョン「じゃあ急いで飯喰ってくる」
ハルヒ「ん。いってらっしゃい」ヒラヒラ
キョン「…なんか家の中なのに出かけるみたいだな。…まあいいや、いってくる」パタン
ハルヒ「…なんか夫婦みたい」カァッ

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 14:21:15.58 ID:Weoju/1G0

古泉「…大丈夫ですか?」
朝倉「ん。平気」
古泉「やはり、今日は休んだ方がいいのでは?」
朝倉「なんで?具合が悪いわけじゃないんだし平気よ。体育は見学するけどね」
古泉「…すみません」
朝倉「それって凄く失礼」ムッ
古泉「いや、その…」ポリポリ
朝倉「私から誘ったんだから貴方が謝ることはないの。…それとも、後悔してる?」
古泉「後悔なんてありえません」キッパリ
朝倉「なら、いいじゃない」ニコ
古泉「…」
朝倉「それよりも、私、普通に歩いてるように見えるかな?」
古泉「どこか悪いのですか?」
朝倉「馬鹿!」カァッ

いきなり僕に罵声を浴びせたかと思うと、彼女はすばやく周りを見回してから、耳元でささやいた。

朝倉「…まだ違和感があるのよ」カァッ
古泉「!」カァッ
朝倉「あんな血が出るとは思わなかったし、ね」カァッ
古泉「う、あ、…すみません」カァッ
朝倉「…」
古泉「…」
朝倉「…ちょっとお薬貰うわね」スッ
古泉「…」
朝倉「…ん」チュッ
古泉「…」チュッ

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 14:31:16.84 ID:Weoju/1G0

キョン「どうした?わざわざ呼びに来るなんて珍しいじゃないか」
古泉「ちょっとお話しておきたいことがありまして…」
キョン「話?昨日休んだみたいだが、それに関することか?」
古泉「まあ、そうなりますね」
キョン「そういえば昨日、朝倉も休んでいたけど…」
古泉「…」カァッ
キョン「…おい、ちょっと待て。何故赤くなる」
古泉「…してしまいました」カァッ
キョン「は?」
古泉「涼子さんと、といえばわかりますよね?察してください」カァッ
キョン「う、え、あ…、そうか」カァッ
古泉「勿論、同意の上ですよ。というよりもむしろあちらから…」
キョン「待て待て待て!何でお前は俺が朝倉を普通に見られなくなるようなことを口走ろうとする!」カァッ
古泉「う、っと、そうですね…すみません」ショボン
キョン「…まあ、なんだ。とりあえず、おめでとう」
古泉「ありがとうございます」
キョン「…あのさあ、古泉」
古泉「はい」
キョン「初めてってやっぱり、アレか?上手くできなかったりする?」カァッ
古泉「挿入前に果てたり、場所がわからなかったりは、あると思います」カァッ
キョン「生々しいなおい!」カァッ
古泉「まあでも、何とかなりますよ。結構女性も導いてくれますし…」カァッ
キョン「だから!そう言うことは言うな!」カァッ
古泉「これはうかつでした」カァッ

…すまん朝倉。暫くお前のことは直視できそうにない。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 14:45:35.20 ID:Weoju/1G0

長門「…」モグモグ
ハルヒ「朝倉さん、体育見学したのよね〜。まだ具合悪いなら休めばいいのに」ハイ、アーン。
キョン「…真面目だから無理して出てきたんだろ」パクッ。モグモグ。ウマイ。オカエシ。アーン。
ハルヒ「あたしなら休むけどなあ」パクッ。モグモグ。ハイ、アーン。
キョン「お前が休んだら昼飯がまずくなるなあ」パク。モグモグ。ホレ、アーン。
ハルヒ「ふふ。そんなに美味しい?」パクッ、モグモグ。ハイ、アーン。
キョン「三食ハルヒの弁当でも全然OKだ」パクッ、モグモグ。ゴチソウサマ。
ハルヒ「そ、そう。ありがとう」オソマツサマ。
キョン「いや、礼をいうのは俺の方だ」ニコ
ハルヒ「キョン…」
キョン「…」
長門「…」モグモグ。ゴソゴソ。
ハルヒ「…」
キョン「…」
長門「…」トテトテ、ガチャ、パタン。
ハルヒ「…」チュッ
キョン「…」チュッ

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 14:30:50.74 ID:vRbXij+S0

ま、まだだ…まだ終わらんよ…。
…パー速の方がいいのか?ウーム

ハルヒ「今週の不思議探索パトロールは中止よ!」エヘン
長門「…」ペラリ
朝比奈「ふぇ?」
古泉「…」
キョン「…」
ハルヒ「以上!連絡終わり」チラッ

胸を張って宣言したハルヒが、俺の方をチラチラ見る。
何が言いたいんだ、ハルヒ。

ハルヒ「キョン!何か言いたそうね?」ニコ
キョン「…何でまた急に中止にしたんだ?」
ハルヒ「…」ムスッ
キョン「なに不貞腐れてるんだよ」
ハルヒ「しらないっ」プイッ

一体なんだっていうんだ?急に不機嫌になりやがって。
窓の外に視線を向けて外を眺めているポーズを決め込んでいるハルヒ。
窓側に俺がいるから、俺からはハルヒの顔が良く見えるのだが、あえて見えない振りをしているようだ。
やれやれ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 14:41:02.54 ID:vRbXij+S0

壁側に視線を向けると古泉と目が合った。

古泉「どうですか?一勝負?」ニコ
キョン「…そうだな」
ハルヒ「…」ムスッ
朝比奈「…」オロオロ
長門「…」ペラリ

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 14:43:26.50 ID:vRbXij+S0

キョン「お前の観察眼にはいつもながら頭が下がるんだが、なんでゲームには弱いんだ?」パタンパタンパタンパタンパタン
古泉「おそれいります。しかしゲームは終わるまでまだわからないですよ?」パタンパタン
キョン「…俺はもう勝ちが見えているんだがな」パタンパタンパタンパタン
古泉「これは手厳しい…」ウーム
キョン「…ところで話は変わるが」
古泉「はい、なんでしょう?」

俺はハルヒに聞こえるようにこう尋ねた。

キョン「デートってどんなところ行くんだ?」
古泉「!」
朝比奈「!」
長門「…」ペラリ
ハルヒ「!」パアア
古泉「そうですね、お互いに行きたいところに行くのがよろしいんじゃないでしょうか」
キョン「うーん、そうだなあ」チラッ
ハルヒ「!」ジー

考えるように背もたれに体重をかけ、それからおもむろに後ろを向くと、予想通りというかなんというか、聞き耳を立てて俺の方を見ていたハルヒと目が合った。

キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「な、なに?」
キョン「土曜日、暇か?」ニコ

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 14:49:30.34 ID:vRbXij+S0

朝倉「…あ、涼宮さん。来てくれてありがとう」ニコ
ハルヒ「で、何の用?キョンを待たせてるから手短にお願いね」
朝倉「私も一樹さんを待たせてるからそんなにお時間はとらせないわ」ニコ
ハルヒ「…」
朝倉「キョン君と涼宮さんって、お付き合いしてるわよね?」
ハルヒ「ええ。恋人になってからはまだそんなに立ってないけど、なんだかんだで結構一緒にいるわね」
朝倉「え?恋人にはいつから?」
ハルヒ「…一週間くらい前かな」

本当は一週間もたってないんだけど。恋人になったのは、三日前だっけ?
キョンに言葉で伝えたのは三日前だけど、四日前はキスしたし。五日前には抱きしめられたっけ…。

朝倉「あのね、ちょっと聞きたいんだけど、さ」カァッ
ハルヒ「なに?」
朝倉「最初って、上手にキスできた?」カァッ
ハルヒ「は?はぁっ!?」カァッ
朝倉「いや、その、あれなんだけど、良く本とか見ると『歯がぶつかって痛かった』とかあるじゃない…。でもさ、私そういうのなかったのよね」カァッ
ハルヒ「あ、え、う…」カァッ
朝倉「それどころか、なんかいい気持ちになっちゃうっていうの?キスを不快に感じたことないんだけど、それって、相手が慣れてるとかあるのかな?」
ハルヒ「あ、あたしも、良くわからないけど…、少なくとも、不快に感じたことって、ないわ」カァッ
朝倉「舌を入れられたり、入れたり、絡ませたりすると、なんかもう凄い感じで…」カァッ
ハルヒ「そ、そうね!確かにアレは反則よね!全身の力が抜けちゃうってくらい」カァッ

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 14:55:27.08 ID:vRbXij+S0

朝倉「でも、ついつい求めちゃったりしてさ…」カァッ
ハルヒ「キスしてると、キスマーク付けたくなったりするよね。なんでだろう?」カァッ
朝倉「それは独占欲が強いからじゃないかしら?私は特に付けたいとは思わないけど…」
ハルヒ「そ、そう」カァッ
朝倉「それよりも触れられる方がいいかな」カァッ
ハルヒ「!」カァッ
朝倉「でもなんか慣れている感じがして不安。感じるところとか、触れる強さとか全てわかってるみたいで…」
ハルヒ「ちょ、ちょっと、朝倉さん!ストップ、ストーーーっプ!」カァッ

な、何をいきなり言い出すのよこの人!

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:00:00.82 ID:vRbXij+S0

ハルヒ「そんな話、聞きたくない」カァッ
朝倉「え、あ、ご、ごめんなさいっ!」カァッ
ハルヒ「…暫く古泉君をまともに見られないわ。朝倉さんのこともね」カァッ
朝倉「え、どうして?」
ハルヒ「貴女が変な先入観を埋め込むからでしょ」カァッ
朝倉「そもそも、涼宮さんがキスマークとか言うから済んでると思ったのに」
ハルヒ「す、済んでるって何よっ。いや、言わなくていい!」カァッ
朝倉「…まだなんだ、そっか。ごめんね」
ハルヒ「…」
朝倉「本当にごめんなさい。でも、キスのことは参考になった。上手くできないっていうのは案外少数派なのかもしれないね」
ハルヒ「…あのっ」
朝倉「なに?」
ハルヒ「…やっぱ、その、痛い?初めてって」カァッ
朝倉「そうね。肉体的には凄く痛いよ。体の一部を突き破られるわけだし…」
ハルヒ「…!」
朝倉「でも、人によって感じ方も違うだろうから、一概にどうとも言えないかなあ…」
ハルヒ「どういうこと?」
朝倉「例えば、マゾヒストだったら痛みに快楽を感じるってこともあるし、相手のが自分のより大きかったら痛くてたまらないだろうし、小さかったら痛みを感じないかもしれないし…」
ハルヒ「いきなり生々しい例えは止めて」カァッ
朝倉「ふふ。ごめんなさい」
ハルヒ「…」カァッ
朝倉「でも、涼宮さんとこんな話してるなんて、少し前までは考えられなかったわ」ニコ
ハルヒ「言われてみれば、そうね」
朝倉「ふふ。これからもよろしく」ニコ

そう言って差し出された朝倉さんの手を、あたしは軽く握り返した。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:07:27.18 ID:vRbXij+S0

ハルヒ「ただいま」ガチャ
キョン「用は済んだか?」
ハルヒ「うん」
キョン「よし、帰るか」ニコ
ハルヒ「…そうね。でも、その前に…」チュッ
キョン「…ん」チュッ
ハルヒ「…へへ。ねえキョン、ぎゅってして?」ニコ
キョン「こ、こうか?」ギュッ
ハルヒ「…うん」ギュッ
キョン「…」ギュッ
ハルヒ「…大好き」ギュッ
キョン「…俺もだ」ギュッ
ハルヒ「…」ギュッ
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…」チュッ
キョン「…帰るか」
ハルヒ「うん」

部室を出て鍵をかけてから昇降口へと向かう。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:15:41.41 ID:vRbXij+S0

校門を出る頃、左腕はハルヒの右腕でしっかりと施錠されていた。

ハルヒ「…ねえ、キョン」
キョン「ん?どうした」
ハルヒ「キョンの初めてのキスの相手って、あたし?」
キョン「そうだ」カァッ
ハルヒ「そっか」パアア
キョン「ハルヒは?」
ハルヒ「あんたに決まってるじゃないの」カァッ
キョン「…ハルヒ」ギュッ
ハルヒ「な、なによキョン。こんなところでいきなり抱きついて!」カァッ
キョン「…嬉しくてつい、な」ギュッ
ハルヒ「ふふ」カァッ
キョン「…」ギュッ
ハルヒ「…ねえ、キョン」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「…あたしのこと抱きたい?」カァッ
キョン「なっ」カァッ

いきなり何を言い出すんだハルヒ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:23:54.75 ID:vRbXij+S0

キョン「…煽らないって約束しただろうが」カァッ
ハルヒ「場所なんてその気になれば用意できるし」
キョン「…どうした、ハルヒ?いきなりそんなこと言い出して」
ハルヒ「朝倉さんが…」カァッ
キョン「なあハルヒ、人は人、お前はお前だろ?」
ハルヒ「それはそうだけど…なんか悔しいじゃない」ブツブツ
キョン「なにがだ、この馬鹿」コツン
ハルヒ「いたっ。何するのよ」ムゥッ
キョン「捨て急いだもん貰っても嬉しくないぞ」
ハルヒ「なによそれ」ムゥッ
キョン「お前の、その、…純潔てやつか。どう見ても捨て急いでるようにしか見えん」
ハルヒ「ば、馬鹿っ」カァッ
キョン「状況が整えば嫌でも奪ってやるから、それまで待ってろ」
ハルヒ「…」カァッ
キョン「ハルヒ、耳貸せ」
ハルヒ「…好きにすれば」ムスッ
キョン「…意地っ張りが。…これは貸しだからな」カァッ
ハルヒ「なによ…」ムゥッ
キョン「…焦りすぎだ、馬鹿」
ハルヒ「…」
キョン「…愛してる」ギュッ
ハルヒ「!」カァッ

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:32:23.43 ID:vRbXij+S0

朝倉「お待たせ。一樹」ギュッ
古泉「もう、大丈夫なのですか?」
朝倉「そうね。少なくとも朝よりはましよ。違和感消えたし」ニコ
古泉「そ、そうですか」カァッ
朝倉「夕御飯、何が食べたい?」ギュッ
古泉「さすがに二日連続は…。シャツや下着も替えたいですし」
朝倉「夕御飯って言ってるのに何でそうなるのよっ!一樹のエッチ!」カァッ
古泉「う、いや、貴女の部屋に入ってしまえば出てこられないと思いますので、結果的にはそうなるでしょう?」
朝倉「否定できないのが悔しい!」ムゥッ
古泉「何気に凄いこと言ってますね」クスッ
朝倉「え?」
古泉「いえ、失礼。忘れてください」ニコ
朝倉「気になるんだけど?何よ?」ムゥッ
古泉「…暗に誘ってるじゃないですか」カァッ
朝倉「誘って…もうっ!馬鹿っ」カァッ

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:39:55.09 ID:vRbXij+S0

プルルルル、プルルルル…

古泉「ちょっと失礼」モシモシ、コイズミ?
朝倉「!」
古泉「はい、古泉です…はい、はい、わかりました」ピッ
朝倉「…」ムゥッ
古泉「すみません、急なバイトが入ってしまいました」
朝倉「バイト?」
古泉「はい、人手が足りないようでして、貴女をお送りしたら行かなくてはいけません」ニコ
朝倉「…何のバイトなの?急に呼び出しが来るなんて…っ!」
古泉「…」チュッ
朝倉「いきなり…なによ」カァッ
古泉「困らせないでください。本当に時間がないんですよ」ギュッ
朝倉「…だって」
古泉「…」
朝倉「…わかった。今は聞かないことにする」ムスッ
古泉「すみません」
朝倉「…」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 15:47:05.28 ID:vRbXij+S0

そのまま、私の家のあるマンションの前までは無言で歩いた。
なんとなく解せない。
さっきの電話、百歩譲ってバイト先からの連絡だとしても、漏れて聞こえてきたのは女の人だった。
不安が、私の中を駆け巡る。

古泉「では、行ってきます」
朝倉「気をつけて…」ニコ
古泉「また、明日、迎えに来ますよ」ニコ
朝倉「うん」
古泉「…」チュッ
朝倉「…」チュッ
古泉「…おやすみなさい。では」タッタッタ…
朝倉「おやすみなさい」

もやもやとした気持ちで、彼の背中を見送る。
気が付くと涙がこぼれていた。

朝倉「…あれ、なんで?」ポロポロ

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:00:28.21 ID:vRbXij+S0

プルルルル、プルルルル…

俺の腕にしがみついていたハルヒを数回にわけて開錠し、家に入るのを見送ってから駅の方へと歩き始めたとき、ポケットの携帯が鳴った。古泉からだ。

キョン「もしもし」
古泉「申し訳ありません。今からお迎えに上がりますのでお付き合いいただいてよろしいでしょうか?」
キョン「どうせ断れないんだろう?俺は今ハルヒの家から駅に向かって歩いているぞ」
古泉「だと思いました」
キョン「どういうことだ?」

俺が尋ねるのとほぼ同時に、黒塗りのハイヤーが横を通り過ぎ、俺の5メートルほど前で停車した。
後部座席の扉が開き、中から古泉が俺に笑いかける。

古泉「乗ってください、キョン」ニコ
キョン「ああ」バタン
森「お久しぶりです、キョンさん」
キョン「あ、お久しぶりです」
森「っていうか古泉、いつの間にキョンさんのことをあだ名で呼ぶようになったの?」
古泉「友情の賜物ですよ。ね、キョン」ニコ
キョン「間違ってはいないが、なんとなく誤解をされそうだから笑顔を向けるのはやめておけ古泉」
古泉「これは手厳しい」
キョン「で、俺に何の用だ?」
森「キョンさんには、つい先ほど発生した閉鎖空間へご足労頂きます。理由は、行けばわかるかと…」
古泉「…そういうことです」
キョン「俺は戦力にならないぞ?」
森「今回のケースは、非常に稀でして…、機関のものではなくキョンさんのお力が必要になると我々は判断いたしました」カァッ
キョン「…はあ、そうですか」

森さん、何故赤くなるんです?

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:11:40.14 ID:vRbXij+S0

古泉「そろそろ、到着します」
森「古泉、頼んだわよ。私たちはここで待機しています」
古泉「お任せください。では、行きましょうか」ニコ
キョン「…」

車を降り、幹線道路脇の歩道を古泉と並んで歩く。

古泉「今回のケースは、今までにないパターンでしてね」
キョン「何で機関の人間はそう回りくどい言い方しかできないんだ?」
古泉「これは手厳しい。『まあ百聞は一見に如かず』です。目を閉じてください」
キョン「ああ」スッ
古泉「……もうけっこうですよ」
キョン「…」スッ

あたり一面が灰色の世界。街灯がぼんやりとした光を放っているだけで、他は全部、灰色。
街灯と空を包む燐光がかろうじて闇から世界を守っている。

古泉「こちらです」
キョン「…」

車の無い幹線道路の真ん中を古泉と二人で歩く。
真夜中に家出をしてこれから盗んだバイクで走り出すかのようなシチュエーションだなおい。
まあバイクの免許なんて持っていないんだが。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:22:59.92 ID:vRbXij+S0

古泉「もう少し行ったところに交差点があります。そこを左に曲がってください」
キョン「は?お前は行かないのか?」
古泉「私は行かない方がよろしいと思います。それと、あくまでこれは涼宮さんの無意識が引き起こす現象ということだけ覚えておいてください」
キョン「ちょっと待て、一体なんなんだこの閉鎖空間は?」
古泉「ともかく、行ってみればわかりますよ。一度、確かめてから対策を検証しましょう。まあ検証の必要は無いと思いますけど」
キョン「…なんなんだよ。…じゃあ、まあ、行ってくる」ブツブツ
古泉「では、後ほど…」
キョン「…」

一体なんだっていうんだ。
釈然としないものを感じながら、俺は言われたとおり交差点を左に曲がり、進んでいく。
灰色の世界の中、真っ直ぐに伸びた道の先に、小さな、薄桃色の光がぼうっと瞬いている。
神人とは違う。神人は確か青白かった。それに大きさも学校の校舎より大きかったはずだ。物理法則を無視する大きさとか言っていたな。古泉の奴が。
近づくにつれ、その薄桃色の奴はどうやら人間と対して変わらない大きさであることがわかる。
形は、大きさこそ違えどのっぺりとした神人と良く似ている。
新種の神人か?
教室の端から端くらいの距離で、俺とそいつは対峙する。

キョン「…」

周りを破壊することも、動くこともなく、ただそこに立っているだけ。

キョン「…」

少しずつ間を詰める。だが相手に動きは無い。
なんなんだ、これ?

キョン「!!」

そのとき、何の前触れも無くそいつは仄かな光を放ち、俺の目の前に移動してきた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:31:40.88 ID:vRbXij+S0

キョン…キョン…

キョン「!?」

気のせいか?…いや、確かに聞こえた。俺を呼ぶ…ハルヒの声。

キョン…キョン…スキ…キョン…

キョン「…」

目の前の薄桃色の神人もどきから聞こえてくるハルヒの声。その声は発声器官からというよりは、頭の中に直接語りかけてくるように聞こえる。
実際、音は出ていないのかもしれない。目の前の奴には顔に当たる部分に口も何も無いのだから。

キョン…スキ…キョン…ドコナノ…キョン

キョン「…」

ハルヒの無意識が引き起こす現象。確か古泉はそう言った。
なら、こいつは、形は違うとはいえ、ハルヒということになる。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:37:44.55 ID:vRbXij+S0

キョン…ドコ…キョン…サビシイ…キョン…キョン

キョン「…まったく、仕方ねえなあ」ハァ

俺は大きく息を吐くと、それから薄桃色の奴を両手でしっかりと抱きしめた。

キョン…キョンナノ…ウレシイ…キョン

奴の放つ光がだんだんと強くなり、抱きしめた奴はほんのりとした温かさを俺に感じさせた。

キョン…キョン…

俺を呼ぶ声がやけに鮮明に頭の中を響き渡る。
目を開けていられないほどに眩い光の中で、俺ははっきりとハルヒの声を聞いた。

愛してる。

暗灰色の空に亀裂が入り、それがどんどん大きくなって全体が砕ける。
歩道の真ん中で空を見上げたまま佇む俺の傍に黒塗りのハイヤーが止まる。
迎えに来たときと同じように、古泉が後部座席から俺に呼びかけてきた。

古泉「おみごとです。キョン」ニコ

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:44:00.70 ID:vRbXij+S0

キョン「…ハルヒ」ムニャムニャ
ハルヒ「キョン…キョン」ゆさゆさ
キョン「…」
ハルヒ「…おはよう。キョン」ニコ
キョン「おはよう、ハルヒ」ボー
ハルヒ「もう、早く支度しなさい!」
キョン「へいへい。行ってくる」
ハルヒ「いってらっしゃい」ニコ

パジャマのまま、俺は部屋を後にする。
ハルヒは、俺が朝の身支度を整えて食事を終わらせるまでの間、俺の部屋で待っているというパターンを確立させたようだ。
なるべく急いで戻らないと、勉強机の椅子が破壊されてしまう。まあそんなにすぐ壊れるものでもないのだろうが、ハルヒの奴は椅子に乗ってくるくる回るのがお気に入りだった。

キョン妹「キョン君おはよー」
キョン「おはよう」
キョン妹「もうすっかりハルにゃんと夫婦だね」ニコ
キョン「お兄ちゃんをからかうんじゃない」カァッ
キョン妹「からかってないよー。で、お式はいつ?」ニコ
キョン「からかってるじゃないか、こら!」
キョン妹「わー、キョン君が怒ったー」パタパタ
キョン「…」ハァ

妹にからかわれるのも最近の日課になっている気がするのだが、気のせいだよな?

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/23(月) 16:58:41.79 ID:vRbXij+S0

古泉「おはようございます」ニコ
朝倉「…おはよう」
古泉「どうかしましたか?元気が無いようですが?」
朝倉「あ、ごめんなさい。今日はちょっと用事があるので、先行くわ」スタスタ

冷たくあしらわれて困惑する。一体どうしたのでしょうか。
一人で先に行こうとする彼女を追いかける。

古泉「ちょっと待ってください。行き先は同じ学校でしょう?」
朝倉「ちょっと色々考えたいのよ」ハァ
古泉「どうしたんですか一体?」
朝倉「…昨日の電話」ボソ
古泉「アルバイトの呼び出しですか?」
朝倉「…聞こえたのが女の人の声だった」ムゥ
古泉「…上司が女性ですからね」
朝倉「どんなアルバイトなの?」
古泉「ちょっと説明が難しいのですが…」
朝倉「…もういい!」プイッ
古泉「あ、ちょっと」
朝倉「ついてこないで!」タッタッタ
古泉「…」

22 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 22:53:41.98 ID:eu.DrfY0

キョン「おい古泉」
古泉「なんですか?キョン」ハァ
キョン「お前、自分で呼び出しておいて話すことを忘れたのか?」
古泉「そんなことは…」ハァ
キョン「なんなんだそのため息は」
古泉「申し訳ありません」ハァ
キョン「殴ってやろうか?すっきりするかもしれないぞ」
古泉「申し訳ありませんが遠慮させていただきます」ハァ
キョン「…で、どうした?」
古泉「…涼子さんとちょっと揉めましてね」ハァ
キョン「なんだ、痴話喧嘩か?」
古泉「…貴方のせいですよ」ハァ
キョン「何で俺のせいなんだ?」
古泉「原因は昨日の閉鎖空間ですからね」ハァ
キョン「それこそ俺のあずかり知らぬことじゃないか?文句はハルヒに言え」
古泉「…言えるわけないでしょう」
キョン「まあそうだな」ポリポリ
古泉「…参りました」ハァ
キョン「だから一体どうしたんだ」
古泉「機関からの連絡の電話、森さんからかかってくるんですよ。僕の直属の上司ですから」ハァ
キョン「それで?」
古泉「昨日涼子さんをご自宅まで送っているときに閉鎖空間発生の連絡がありましてね…」ジッ
キョン「そこで俺を見るな」
古泉「そのころ貴方は涼宮さんと一緒だったでしょう?ということは、…わかりますよね」
キョン「ハルヒに精神的ストレスを与えたのが俺ってことか」ハァ
古泉「一体何をしたんですか貴方は」ハァ
キョン「…」ウーム

ハルヒが精神的ストレスを感じること…。

23 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:02:32.32 ID:eu.DrfY0

キョン「もしかして、あれか?」カァッ
古泉「なんです?」
キョン「き、禁則事項だ」カァッ
古泉「なぜそこでその言葉を使うのですか」
キョン「待てよ、朝倉がハルヒにいらんこと吹き込んだからああなったんじゃないか」ウーム
古泉「なんですそれは」
キョン「…その前に古泉、これは絶対に誰にも言わないと約束しろ。いいか?」

俺の名誉ではなく、ハルヒの名誉に関わるからな。
俺じゃないぞ。ハルヒの名誉に、だ。

古泉「わかりました。約束しましょう」
キョン「…簡単に言えば、据え膳を断った」カァッ
古泉「…は?」
キョン「…察しろ」カァッ
古泉「貴方は、馬鹿ですか」ハァ
キョン「なんだと!?」
古泉「魅力的な女性、しかも彼女に迫られて断るなんて!」オーマイゴッド
キョン「…いいだろ別に」
古泉「良くありませんよ」
キョン「なんでだよ」
古泉「いいですか、男と違って女性は喪失するんですよ、色々な意味で」
キョン「お前の言うことはいちいち生々しい」カァッ
古泉「ああ、でもだからあんな神人が現れたのですね」カァッ
キョン「何故赤くなる」
古泉「赤くもなるでしょう、あんなの聞かされれば」
キョン「『淋しい、どこにいるの、キョン』ってやつか?」
古泉「私たちが聞いたのは『キョン、好き、抱きしめて』とかですよ」
キョン「聞くな!」カァッ
古泉「仕方ないでしょう、初めてのパターンでしたし。次回からは可及的速やかに貴方をお呼びしますよ」
キョン「やっぱ、そうなるか」
古泉「貴方しかあのタイプの神人は倒せないみたいですからね」ニコ

まったく、困ったものだな。

24 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:09:12.31 ID:eu.DrfY0

古泉「ところで、先ほど言っていた涼子さんのせい、と言うことについてもっと詳しく聞かせていただけますか?」
キョン「禁則事項だといっているだろうが」カァッ
古泉「いいじゃないですか、誰にも言いませんから」
キョン「しつこいな」
古泉「ここは譲れませんからね」

キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…

キョン「!」
古泉「!」
キョン「おい、授業始まっちまったじゃねえか!」
古泉「これは参りました」ポリポリ
キョン「落ち着いている場合じゃねえ」
古泉「まあまあ」ガシッ
キョン「離せ古泉!」
古泉「手遅れです。あきらめましょう」ニコ
キョン「…」
古泉「さて、話してもらいましょうか」ニコ
キョン「…朝倉がハルヒにヤッたって吹き込んだらしいんだよ」
古泉「ヤッたって言い方はないでしょう」カァッ
キョン「知るか。ともかくそんな感じでさ、ハルヒの奴、焦ってたんだよ。だから捨て急いでるものは欲しくねえって、な」
古泉「…ああ、そういうことでしたか。失礼、それでしたら僕も貴方に同意します」ニコ
キョン「だよな」
古泉「ええ。…まあ僕は『いいよ』って言われたら耐えられませんでしたけどね」カァッ
キョン「だからそういうことは言うな!」カァッ
古泉「これは失礼」ポリポリ

いつも思うんだが、わざとじゃないだろうな?古泉。

25 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:15:49.78 ID:eu.DrfY0

キョン「…で、どうするんだ?アルバイトの件は?」
古泉「女性が上司でも怪しくない仕事ということにすると、やはり飲食業とかですか?」ウーム
キョン「…待て古泉。飲食業だと水商売と思われる危険性があるな。…ホストとか」

なにぶんイケメンだからな。古泉は。

キョン「朝倉のことだから、上司じゃなくて客から連絡が来たと勘ぐったんじゃないのか?」
古泉「僕はそんないかがわしいバイトはしていませんよ!」
キョン「まあ慌てるな古泉。あくまで可能性を言っているだけだ」
古泉「いや、でも、しかし…。女性の声ってところに拘っていた感じはありましたね…」ウーム
キョン「変な職業を言ってもかえって怪しまれるだけだしなあ。…機関でどこか適当なファーストフード店とか持ってないのか?そこで働いていることにすれば…」
古泉「それはいいアイデアですね」パアア
キョン「森さんもそこで働いている設定にしないと意味無いんだぞ」
古泉「あの人ならきっと喜んで乗ってくれますよ。そういうところで働いてみたいって言ってましたからね」
キョン「あ、そうなんだ。ちなみに何て店だ?」

古泉が口にしたのは、店数はそんなに多くは無いが、都市圏に展開しているファミレスチェーンだった。
そこの制服は可愛いということでファンも多かったと記憶している。
俺は思わず森さんがそこの制服を着ている姿を想像して、ありだと思った。

キョン「森さんなら似合いそうだなあ」
古泉「そうですね。しかし残念なことに上司となるとマネージャーの服になってしまうわけでして…」
キョン「…俺の夢を返せ、古泉」
古泉「そう言われましても…」ポリポリ
キョン「冗談だ。本気に取るな」
古泉「いやはやこれはこれは…」ピッピッ
キョン「…どこにかけてる」
古泉「森さんですよ。とりあえず、できるうちに準備はしておかないといけませんので…」モシモシ、コイズミ?
キョン「…」

古泉の携帯から漏れてくる森さんの声を聞いて、俺は肩をすくめて空を見上げた。
知らない若い女性から親しげに名前を呼ばれているんだから、そりゃあ、怒るわ。

26 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:23:02.66 ID:eu.DrfY0

昼休みの開始を告げるチャイムの音を聞きながら、俺は屋上で一人佇んでいた。
古泉の奴は、チャイムが鳴る五分ほど前に、『こっそりと購買へ向かえばいつもは買えない人気のパンが買えるかもしれませんので失礼します』などとほざいて校舎内に消えていった。

キョン「そろそろか?」

そう呟くのとほぼ同時に、階段を駆け上ってくる足音がかなりの勢いで近づいてくる。
けたたましい音を立てて扉が開かれる音がする。それに被さるようにして近づいてくる足音。

ハルヒ「キョン!」
キョン「よう、ハルヒ」
ハルヒ「『よう』じゃないでしょ!なに授業サボってるのよ馬鹿キョン!」
キョン「ちょっとな、野暮用で」
ハルヒ「あんたが野暮用?どうせ覗きとかそういうのなんでしょ?」
キョン「天地神明にかけてそんなことはしねえ!」
ハルヒ「なにかっこつけてるのよ!…まあいいわ。よかった、無事で」ポス

右手作った拳を軽く俺の胸に当ててから、俺に寄りかかるように倒れこんでくる。

ハルヒ「心配、したんだから」ムスッ
キョン「すまん」ナデナデ
ハルヒ「…どっかいっちゃったかと思った」
キョン「ここにいるだろ」ナデナデ
ハルヒ「そりゃ、そうだけど…さ」ムスッ
キョン「なあ、ハルヒ」ナデナデ
ハルヒ「なによ」
キョン「腹減った。今日の弁当は何だ?」ニコ

27 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:35:39.35 ID:eu.DrfY0

キョン「ごちそうさま。やっぱりハルヒの弁当は最高だな!」ニコ
ハルヒ「おそまつさま。お世辞言ってもなにもでないわよ」ニコ
キョン「デザートくらいは出るだろ?」
ハルヒ「最近、果物高いのよね…」
キョン「…わかってるくせに」
ハルヒ「…もう」カァッ
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…ん」チュッ
朝倉「…」
キョン「…ん」チュッ
ハルヒ「…」チュッ
朝倉「ちょっと」
キョン「!」ビクッ
ハルヒ「!」ビクッ

いつの間にそこにいたんだ朝倉!
お互いの肩に手を置いたまま、俺たちは突然の闖入者に視線を向ける。

朝倉「お邪魔してごめんなさい。涼宮さんにどうしても聞きたいことがあって」
ハルヒ「な、なにかしら?っていうか今見たことは」アタフタ
朝倉「誰にも言わないから安心して」ニコ
ハルヒ「あ、ありがとう」カァッ
キョン「じゃ、じゃあ俺はこれで…」
朝倉「あ、いいのいいの。キョン君もいて」
キョン「俺が聞いてもいいのか」
朝倉「構わないわ。聞きたいのは古泉君のことなの」
ハルヒ「古泉君のこと?」
朝倉「彼、何のアルバイトしているか、わかる?」
ハルヒ「んー。ごめん、よく知らない。たまに呼び出されていなくなっちゃうけど…」
朝倉「そう。キョン君は知ってる?」
キョン「!」

28 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:44:33.45 ID:eu.DrfY0

これは千載一遇のチャンスかもしれない。
そう思った俺はなるべく古泉が有利になるような証言をしようと無い知恵を搾り出す努力をした。
あとでジュースでも奢ってもらおう。

キョン「あー、確かファミレスでバイトしてるみたいなこと言ってたな」
朝倉「ファミレスって、レストラン?」
キョン「なんでも急にシフトが変わるとかで大変だってぼやいてたな。急に呼び出しくらうとかなんとか」
ハルヒ「へぇ。初耳だわ」
朝倉「…レストランねえ」
キョン「上司の女マネージャーが怖いって言ってたな」
朝倉「ふぅん」
キョン「古泉、古泉って振り回されてるらしいぞ」
朝倉「…わかった。ありがとうキョン君」
キョン「どういたしまして」
朝倉「涼宮さんもありがとう。ごめんね、邪魔しちゃって」ニコ
ハルヒ「!」カァッ
朝倉「じゃあ、お邪魔虫は退散します。ごゆっくり」フリフリ

殆ど音を立てずに扉を開閉させ、朝倉は校舎内に消えていった。
俺とハルヒは肩に置いた手は下ろしていたものの、向かい合ったままの格好で朝倉の相手をしていたことに気が付く。

ハルヒ「…見られちゃった」カァッ
キョン「…だな」カァッ
ハルヒ「…まあ、いっか」
キョン「…だな」
ハルヒ「…」チュッ
キョン「…」チュッ

30 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/23(月) 23:52:58.79 ID:eu.DrfY0

どうしよう、どうしよう。
胸を締め付ける後悔の念と、えもいわれぬ恐怖が私の中を駆け巡る。
一樹…。
どこにいるの?
今すぐに謝りたい。
今すぐに顔が見たい。
今すぐに声が聞きたい。
悲しそうな眼差しが私を貫いて傷つける。
一樹…。
どこにいるの?
とりあえず、彼の教室を目指す。
昼休みの喧騒の中、廊下から一年九組の中を覗き込むが、彼の姿を見つけることはできなかった。

朝倉「…あ」

とぼとぼと階段を降りながら、ある場所を思い出した。
知らないうちに足早になりながら、校舎内を歩いて進んでいく。
中庭の一角、まだ記憶に新しい思い出の場所。
そこに彼は佇んでいた。

31 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 00:05:36.05 ID:BXki4O20

古泉「…涼子」
朝倉「一樹…よかった…」ポロポロ
古泉「!」
朝倉「ごめんなさい。…ごめんなさいごめんなさい」ポロポロ
古泉「何故謝るのです?」
朝倉「…バイト…キョン君に…聞いたの…」ポロポロ
古泉「…」
朝倉「疑って、ごめんなさい…私、嫌な女ね」ポロポロ
古泉「貴女は、悪くありません」ギュッ
朝倉「…だって、親しげに名前呼んでるんだもん…」グスッ、グスッ
古泉「…」ナデナデ
朝倉「いっ、一樹が、慣れてるから…、他に誰かいるのかと思って…」グスッグスッ
古泉「僕には、貴女だけですよ涼子」ナデナデ
朝倉「キ、キスも、エッチも慣れてるみたいなんだもん…」グスッグスッ
古泉「な、なにを、何を言うんですか!」カァッ
朝倉「だって、気持ちいいんだもん、一樹とすると、気持ちいいんだもん」グスッグスッ
古泉「そんな言葉を連呼しないでください!ああ、もうっ」
朝倉「んむっ…ん…」チュッ
古泉「…」
朝倉「…」

32 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 00:20:57.09 ID:BXki4O20

古泉「…落ち着きましたか?」ニコ
朝倉「…ん」ウルウル
古泉「…良かった。あなたに嫌われていなくて」ハァ
朝倉「私も…」ウルウル
古泉「ところで、なぜいきなりあんなことを」カァッ
朝倉「電話の人と一樹が付き合ってると思ったんだもの」プィッ
古泉「なんてことを」ハァ
朝倉「だって、一樹、上手なんだもん」カァッ
古泉「相性がいいんですよ、きっと。上手いかどうかなんて僕にはわかりません。貴女しか知らないんだから」カァッ
朝倉「!」カァッ
古泉「…いいですか。良く聞いてください」
朝倉「…」コクリ
古泉「僕は今日、ついさっきまで失意のどん底にいたんです。貴女に嫌われたと思って」
朝倉「…」
古泉「おかげでお昼御飯も食べていません。思い出の場所で貴女を思っていたんです」
朝倉「…」カァッ
古泉「…貴女を誤解させてしまうようなことを今後もしてしまうかもしれませんが…」
朝倉「…」
古泉「僕は貴女しか愛せません」カァッ
朝倉「…」カァッ
古泉「愛してます。涼子」
朝倉「…うぇっうえええええええん」ポロポロ
古泉「…」ギュ
朝倉「私も、ひっく、私も、あいしてる。一樹っ」ギュッ

またひとつ、忘れられない思い出ができましたね。涼子。

36 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 21:30:36.01 ID:BXki4O20

古泉「まったく、貴方には驚かされてばかりですよ」ニコ
キョン「俺もまた呼び出されるとは思っていなかったからお前に驚かされているぞ」
古泉「これはこれは…。その、涼子のこと、感謝しています」
キョン「…ついに俺との話の中でも呼び捨てかよ」
古泉「貴方に飾る必要はないと思いましてね。それに貴方だって涼宮さんのこと普通に呼び捨てにするじゃないですか」
キョン「…そりゃそうだけど、あいつの呼び方はずっとああだぞ」

入学してから暫くの間は『涼宮』って呼んでいたけどな。気がついたら『ハルヒ』になっていた。まあどうでもいいことだが。

古泉「ふふ。そもそも名前で呼ぶということ事態が特別なのですよ」
キョン「…」
古泉「それはおいといて、いったいどんな魔法を使ったんですか?」
キョン「たまたまお前と話したバイトの内容を、朝倉に教えただけだ。急なシフト変更が入ったり、上司の女マネージャーに古泉、古泉ってこき使われてるってぼやいてたとな」
古泉「なるほど、それで…」フム
キョン「なんだよ?」
古泉「女マネージャーって言うのがリアルだったんですかね。『疑ってごめんなさい』って泣かれちゃいましたから」ポリポリ

授業をサボって適当に練り上げた設定が大いに役立ったようで何よりだ。

キョン「自己完結か?朝倉って意外と騙されやすいのか?」
古泉「純真と言ってください。まあ、おかげで助かったんですけどね」ニコ
キョン「…用件はそれだけか?さすがにまた授業をサボるわけにはいかないだろ。そろそろヤバい」
古泉「わかっています。では手短に…」
キョン「なんだよ?」
古泉「ありがとう。キョン」ニコ

やれやれ。相変わらずキザな奴だ。

37 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 21:40:11.84 ID:BXki4O20

ハルヒ「古泉君は今日お休みよ!」エヘン
キョン「へ?」
朝比奈「ふぇぇ?」
長門「…」ペラリ
ハルヒ「朝倉さんが一緒に出かけたいって言うから、古泉君にはお休みをあげたのよ」エヘン
朝比奈「そうなんですか」
長門「…」ペラリ
キョン「古泉とチェスをする予定だったんだがなあ」

さて、何をするか。長門に本でも借りて読むか?

ハルヒ「キョン」チョイチョイ
キョン「なんだ?」
ハルヒ「一緒に調べるわよ!」
キョン「何をだ?」
ハルヒ「遊園地よ!」
キョン「なに?」
ハルヒ「土曜日、思いっきり騒ぎたい気分なのよ」ニコ
キョン「あー、そっかそっか」ポリポリ

席を立ってハルヒの後ろに回り、背中越しにパソコンのモニターを覗き込む。
ハルヒの両肩に手を置き、左手の上に顎を載せる。

ハルヒ「!」
朝比奈「!」
長門「…」ペラリ
キョン「こりゃ、楽だ」
ハルヒ「ひゃっ、もう、くすぐったい」
キョン「悪い」ポス
ハルヒ「…もう」
朝比奈「…」
長門「…」ペラリ

一瞬、目の前が揺れる。
仲良くパソコンのモニターを見つめている涼宮さんとキョン君の姿が、昔見た気のする似たような光景に重なり合って、溶けていく。

朝比奈「………」ボソッ
長門「…?」
ハルヒ「このジェットコースターは楽しそうねっ」
キョン「最大落差40メートル!?ちょっと凄すぎないかこれ?」
ハルヒ「だっらしないわねえキョン」
キョン「俺はお前と違って繊細なんだよ」
朝比奈「…」
長門「…」ペラリ

楽しそうなふたりの姿。
幸せそうなふたりの姿。
そんなふたりを見て、私は静かに微笑んだ。

38 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 21:51:43.18 ID:BXki4O20

ハルヒ「おやすみなさい」ニコ
キョン「おやすみ、ハルヒ」ニコ

開錠にかなりの時間を費やし、ハルヒが家に入るのを見届けてから俺は駅に向かって歩き出した。
親指で軽く唇をなぞり、ハルヒの唇を思い出す。親指とは比べ物にならないほど柔らな感触。
やれやれ。すっかりハルヒ中毒だな。
夏が終わりを告げ、秋の訪れを予感させる空の色。
北口駅前広場の傍を通る頃には、あたりはもう夜の帳に包まれようとしていた。

???「やぁ、キョン」
キョン「!?」ビクッ

突然後ろから声をかけられて、俺は反射的に振り向いた。
この辺じゃあまり見かけない制服。だが、その顔には見覚えがある。

キョン「お前…佐々木か?」
佐々木「覚えていてくれて光栄だよ、キョン」ニコ
キョン「確か、市外の私立に行ったんだよな?道理でこの辺じゃ見かけない制服を着ているわけだ。元気か?」
佐々木「キミが僕のプロフィールを覚えていてくれて何よりだ。ああ、この通り元気にしているよ。まさかキミから調子を聞いてくるなんて意外だったけどね」クックック
キョン「なんだよそれ」
佐々木「いや、忘れてくれ。少し雰囲気が変わった気がしてね」
キョン「俺が?」
佐々木「ああ。なんとなくだけどね」ジッ

意味ありげにそう言うと、佐々木は俺の顔を真っ直ぐに覗き込むようにして見る。
初めて見る制服姿の佐々木は、私立の進学校の制服だからだろうか、少し大人びて清楚に見えた。
言葉遣いは相変わらず男っぽいが。

キョン「あー、制服、似合ってるぞ」
佐々木「ん?ああ、ありがとう。キミもお世辞が上手くなったね」クックック

なんとも形容しがたい独特の微笑を浮かべる。こういうところも変わっていないな。

39 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 22:02:27.68 ID:BXki4O20

佐々木「僕としては久しぶりに会った友と旧交を温めることに吝かではないのだけど、時間はあるかい、キョン」
キョン「そうだな、大丈夫だ」
佐々木「決まりだ。ではそこの喫茶店に入ろう」
キョン「ああ」

そこは我がSOS団御用達のいつもの喫茶店だった。

佐々木「ブレンド2つ」

ウェイトレスが水を持ってくるなり、佐々木は実に簡単に注文を済ませる。
特に反論することも無かったので、俺は黙ってグラスの水を口に含んだ。

佐々木「さて、キョン」

グラスをテーブルの上に置くと、佐々木は真っ直ぐに俺の目を見て言った。

佐々木「まず、最初に謝っておく。すまない」
キョン「何をだ?」
佐々木「…今日、キミに会ったのは、実は偶然ではないんだ」
キョン「なんだと?」
佐々木「あまり大きな声を出さないで欲しい。…いろいろとまずいことになる」
キョン「…どういうことだ?」
???「おまたせ〜。ちょっと奥に行ってくれるかな?」
キョン「な、何だお前は!?」
???「あはは、いいからいいから」グイグイ
キョン「!?…!」

いきなり現れた女が、有無を言わさぬ勢いで俺の横に半ば強引に体を滑り込ませてくる。
文句を言おうとした瞬間、テレビやドラマでしか見たことの無い黒光りする物体の先を、ブレザーの内側から俺の脇に押し付けているのが見えて、俺は顔を上げた。
佐々木は、苦々しい表情を浮かべて、呟いた。

佐々木「すまない。キョン」

40 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 22:25:23.14 ID:BXki4O20

古泉「…ん」チュクッ
朝倉「…ん」チュクッ

幾度と無くお互いの舌を絡め、吸い、唇を貪るように重ね合わせる。
夕食の後のスキンシップにしてはいささか度がすぎた行為。

古泉「涼子…駄目です…」チュッ
朝倉「ふっ、ん、どうして?」チュッ
古泉「食後すぐ、は…体への負担が…むぐっ」チュ
朝倉「んっ、だって、我慢、できない」チュッ
古泉「…涼子…」チュッ
朝倉「…ん…」チュクッ

プルルルルル、プルルルルルル…

古泉「…電話ですね」プルルルル…
朝倉「…だめ」チュッ プルルルル…
古泉「だめ…です…」チュッ プルルルル…
朝倉「今は、私だけを…見て」チュッ プルルルル…
古泉「…りょう…こ」チュッ プルルルル…
朝倉「…」チュクッ プルルルル…
古泉「…」ドサッ プッ…

41 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 22:33:03.37 ID:BXki4O20

???「ふっくっく。以外と上手く攫ってきたじゃないか」
???「…とりあえず早く出しなさい」
???「わかったわかった」キュルルルル、ドウウウン…
キョン「な、なんなんだお前ら?」
???「黙って」スチャッ
キョン「!?」
???「暫くは、そうね、そのお嬢さんと一緒におとなしくしていてくれるかしら?【キョンの本名】君」
キョン「なんだと?」
???「もっとも、逃げようとしても、これがあるから止めといた方がいいわよ」スチャッ
キョン「…」
佐々木「すまない…」
キョン「佐々木、これはどういうことだ?」
佐々木「…今は、言えない。少し待ってくれ」
キョン「…」

42 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 22:48:11.06 ID:BXki4O20

長門「…古泉一樹とは連絡が取れない」
朝比奈「ふぇええっ。古泉君どうしちゃったの!?」オロオロ
長門「…閉鎖空間の発生は確認されない。従って機関の関係ではないと思われる」
朝比奈「禁則事項で禁則事項ですけどっ、キョン君が危ないのは確かなんですねっ」オロオロ
長門「彼が何者かによって拉致されたのは確か。迂闊だった」
朝比奈「主導しているのは機関の敵対勢力ですか?」
長門「その可能性は高い」
朝比奈「キョ、キョン君大丈夫ですよねぇ?」オロオロ
長門「彼の存在意義を考えれば彼に危害を加える可能性はきわめて低いと思われる」
朝比奈「よかったぁ」ホッ
長門「とりあえず今は推移を見守るしかないと判断」
朝比奈「そうです、ね」
長門「…」

長門有希は静かに朝比奈みくるを見つめる。

長門「…朝比奈みくる。あなたに聞きたいことがある」

46 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 23:10:13.80 ID:BXki4O20

どのくらい車に揺られていただろうか。
走っている車内で銃口を向けられれば、早々に降参するしか手段は無い。
俺は言われるまま、佐々木の膝に頭を乗せ、おそらく道を見せないためだろう。後ろ、つまり佐々木の体へ目を向けることを強制された。
まあ、膝枕の格好になるわけだが、プリーツスカートと白いブラウスの境目を見て、さすがに俺は佐々木に悪いだろうと思い目を閉じた。

佐々木「キョン、頭が落ちそうだ、もっとこっちへ」
キョン「待て佐々木、俺の頭を引き寄せるな」カァッ
佐々木「どうしてだい?キョン。頭から落ちて僕のスカートの中をでも覗こうというのかい?」
キョン「いや、お前の大事なところに俺の鼻が当たってもいいなら止めはしないが」
佐々木「なっ…。くっくっく。こんな状況でもそれだけ軽口が叩けるなら大丈夫かな」
キョン「…なあ佐々木」
佐々木「なんだい、キョン」
キョン「…お前は、何をしたいんだ?」
佐々木「…どういうこと?キョン?」
キョン「拉致されているのにも関わらず、やけに落ち着いているからな」
佐々木「…」
キョン「…」
佐々木「…もうじき着く。それまでは何も聞かないでくれ」
キョン「わかった」

47 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 23:32:22.55 ID:BXki4O20

同じ場所を回っているような動きを繰り返して、車は停止した。
おそらくどこかの立体駐車場にでも止めたのだろう。

佐々木「キョン、暫く目隠しをさせてもらうよ」
キョン「好きにしろ」
佐々木「…すまない」

佐々木が俺にアイマスクを着け終わるのとほぼ同時に、扉の開く音がした。

???「降りなさい」
キョン「…ああ」
佐々木「キョン、まずは上半身を起こして。立ち上がるとルーフに頭をぶつける」
キョン「ああ」

佐々木に誘導されるまま俺は頭を上げ、身を捩って後部座席に座る。

???「さあ、降りろ」グイッ
キョン「…」

腕を引かれ、俺は半ば強制的に外に引きずり出される。だが、目隠しをされた状態で急に車から降りろといわれても無理がある。
当然というか、やっぱりというか、俺は手を引っ張った相手に向かって思い切り倒れこんだ。

???「ちょ、ちょっと!きゃあっ!」ドサッ
キョン「…いてててて。強引に引っ張るからこうなるんだ…。ええと…」ムニュ
???「え?え?え?」
キョン「?」ムニュムニュ
???「な、な、な」
???「ふっくっく。ずいぶん大胆じゃないか。【キョンの苗字】」
佐々木「笑ってる場合か、キョン、さあ手を」グイッ
???「あ、あ、あ、あ…」
佐々木「橘さん、今のはあなたが悪い。事故と思って、ね」
???「く、くく…」
佐々木「すまないねキョン。さあ行こう、こっちだ」ギュッ
???「く、悔しい…」

…俺は何をしたんだ?教えてくれ、佐々木。

48 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/24(火) 23:45:06.86 ID:BXki4O20

佐々木「すまなかった、キョン」

そういうと佐々木は俺のアイマスクを外し、肩を叩いた。

佐々木「もう目を開けて、いいよ」
キョン「…」

そこは、全ての窓をブラインドカーテンで塞いだ、学習塾の教室くらいの広さのオフィスビルの一室だった。
事務机が無造作に端に追いやられ、部屋の真ん中にソファーとテーブルの簡単な応接セットみたいなものが儲けられていた。

佐々木「とりあえず、そこに座って」

促されるまま、俺はソファーへと腰を下ろす。
学校の応接間のソファーよりは高級品だな。これ。
俺の前のソファーに佐々木が座り、その後ろに銃を向けた女と、運転手だった男があらかじめ置いてあったパイプ椅子を広げて座った。

???「…」カァッ
???「…」

女の方は俺を見て赤くなって視線を逸らし、男の方は興味なさげに視線を外した。

50 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 00:10:36.42 ID:ISfdMuA0

佐々木「まず、キミとこんな形で旧交を温めなくてはならなくなったことを謝らせてもらう。すまない、キョン」
キョン「…」
佐々木「まあ、やむにやまれぬ理由があったと、そう思ってくれると嬉しいのだが…。強制はしない」
キョン「…」
佐々木「とりあえず、彼女は橘さん、彼は…キミのお友達で言うと朝比奈みくるさんと立場が似ている…ありていに言えば、未来人だ」
キョン「…なんだって?」
佐々木「橘さんは、キミのお友達で言う古泉一樹君と立場が似ている、と言えばわかるかな?」
キョン「…機関の人間…超能力者か?」
橘「半分当たりで半分はずれ、ですね。【キョンの本名】君。超能力者と言えばそうなると思いますが、あなたの言う『機関』は我々の敵対勢力です」
キョン「で、その『機関の敵』と未来人とお前がつるんで何をしようって言うんだ?佐々木」
佐々木「くっくっく。慌てないでくれキョン。キミのお友達にはまだ彼女たちとは違う人がいるだろう?」
キョン「…なんだ、じゃあ佐々木、お前は自分が宇宙人の手先だとでも言うのか?」
佐々木「くっくっく。本当にキミは面白いことを言う。3年前、僕はキミと同じ中学校で勉学に励んでいたと思うんだけど?」
キョン「ああ、そうだな」
佐々木「キミのお友達の長門さんに立場が似ている人なら…九曜さん、こちらへ」
九曜「--了解---した」

ぞくっと、俺の背中を毛羽立った何かがなぞっていったような感覚に襲われた。
佐々木が手招いた場所にゆっくりと姿を現したそれは、ぼんやりと滲む靄のようなものにしか見えなかった。

53 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:03:07.61 ID:ISfdMuA0

そいつの着ているのが良く見かける女子高、光陽園女子の制服であると気がつくまでに数秒の時間を要した。
自らを全て覆いつくすような、長い漆黒の髪。
人外。そんな言葉がしっくりとくる。こいつは幽霊や化け物の類だ。人間じゃない。
なんだ。こいつは。

九曜「---私は---周防---九曜---」

えらく間延びした抑揚のない喋り方。

九曜「---宇宙の---意思が---遣わす---」
キョン「機関の言うTFEI端末と思って構わないのか?」
九曜「---機関は---人が創る---組織---」
キョン「いや、お前が機関の一員か尋ねているわけではなくてだな…」
九曜「---宇宙は---無限---それは---必然---」
キョン「宇宙論を聞いているわけでもなくてだな…」
九曜「---時は---巡る---人も---巡る---」
キョン「人の話を聞いているのか?」
九曜「--貴方の---瞳は---とても---綺麗ね---」ジッ
キョン「…」

まっすぐに俺の目を見つめる黒い瞳。えもいわれぬ恐怖を覚えて視線を逸らす。
頭が痛くなってくる。会話が成立しない。

54 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:11:19.01 ID:ISfdMuA0

佐々木「くっくっく。なかなかにエキセントリックだろう、キョン。僕も九曜さんと意思を疎通するのには結構苦労するんだ」
キョン「…」
佐々木「ああ、だからといって彼女が僕にとって大切な仲間であることに疑いの余地はないのだけどね」

友人は選んだほうがいいぞ。佐々木。

佐々木「現に今、僕たちがいるこの場所も、彼女の力によって守られているのだからね」
キョン「情報操作…か?」
佐々木「ご明察。…それがどういうことかはキミならわかるよね?キョン」
キョン「機関や他のTFEI端末に存在が隠匿されているということ、か?」
佐々木「くっくっく。話が早くて助かるよ」
キョン「…」

超能力者、未来人、宇宙人を大切な仲間と言う佐々木。

キョン「ちょっと待て、お前らの神は誰なんだ?」
佐々木「くっくっく。面白いことを言うね、キョン」
キョン「いや、真面目に聞いているんだが」
佐々木「この状況でわからないとは言わせないよ」
キョン「超能力者、未来人、宇宙人…」

声にして確認しながら、古泉、朝比奈さん、長門の姿が順に浮かんでくる。

キョン「…そして、鍵か?」

自分の胸に手を当て、同時にまっすぐに佐々木を見ながら、俺は対応するであろう言葉を口にした。

55 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:19:47.14 ID:ISfdMuA0

???「ふっくっく。確かにそう思うのが妥当だな」
キョン「なんだと?何が言いたい?」
???「さあな。ただ、あまりにも予想通りなのでつい、な」クックック
橘「…貴方は少し黙っていてください」
???「ふん。お前に指図される筋合いはない」
キョン「…仲間といっている割に、名前も知らないのか?」
橘「!それは今の話とは関係のないことでしょう?」
キョン「攫われた人間からすると、自分がどうなるかわからない中で誘拐犯が仲間割れして争い始めるのが一番恐ろしいんだ。せめて見えないところでやってくれ」
橘「なっ!」

真っ赤になって反論しようとする橘を、佐々木が手を上げて制した。すると橘はおとなしく引き下がる。
それを見た男は鼻に付く笑みを浮かべ橘を見る。周防九曜は、正直あまり目を合わせたくないので無視することにした。

56 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:29:19.08 ID:ISfdMuA0

佐々木「確かにキョンの言うとおりだ。お互いを認めるためには必要だと思う」
???「くだらん。名前などただの識別記号に過ぎない。ましてやこの時間世界ではな」フン
佐々木「しかし、その方が何をするにも意思疎通を図るには便利なんだ。何か呼称になるものを名乗ってはくれないだろうか?」
???「…藤原」

佐々木の提案にやや逡巡した後で、男は吐き捨てるようにそう言った。

藤原「とでも呼ぶがいい。別に源でも足利でも徳川でも構わないがな」
キョン「お前は征夷大将軍か」
藤原「ふっくっく。人並みの知恵はあるみたいだな。現地人」
キョン「…」ムカ
佐々木「まあ、何はともあれ、これで全員自己紹介は終わったわけだ」
キョン「あまり好意的とは言えないがな」
藤原「茶番だからな」フン
橘「くっ、貴方はどうしてそう協調性に欠けるのですか」
藤原「別にお前たちと協力しなくても問題は無い」フン

おいおい、ずいぶんと険悪だなお前ら。

佐々木「すまないキョン。話が逸れた」
キョン「…ああ、はやめに済ませてくれ」
橘「!」
藤原「…」フン
九曜「…」

明日はハルヒと出かける約束をしているからな。

57 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:39:27.10 ID:ISfdMuA0

佐々木「じゃあ、続けよう。まずは三年前の世界改変。これにより未来人は三年より前の過去へは行くことができなくなった。またその世界改変とほぼ時を同じくして超能力に
目覚める者が現れ、『機関』を組織し、次元断層の狭間にできる閉鎖空間及び、そこに現れる神人の狩人としての行動を開始することになる。正にダーヴィニズムも霞むほどの
突然変異だ。その世界改変の中心が、僕たちの住んでいるこの街であり、一人の人物が基点となっている」
キョン「…」
佐々木「その人物を中心として様々な要素が集まって世界を構成していく。であるならば、その人物を神と呼ばずしてなんと呼べばいい?」
キョン「また壮大な物語だな、佐々木」
佐々木「くっくっく。僕もそう思うよキョン」
キョン「で、その人物は誰なんだ?」
佐々木「くっくっく。わかっているだろう?」
キョン「…まあな」
佐々木「神一人に対して対抗する勢力が、今のところわかっているだけでも二グループある」
藤原「…」
橘「…」
九曜「…」

そのグループの一つを担っている共同体が目の前に揃っているってわけだ。
今頃、もう一つのグループも集まって作戦会議をしているんだろうか。

佐々木「一つのグループは出遅れた。仲間を集めるのに手間取り、意思疎通に手間取っている」
キョン「…」
佐々木「だけど、少なくとも今現在は相手より優位に立っていると、確信しているよ」

佐々木特有の笑みを見て、俺は形容しがたい不安に苛まれた。
なんだ、この感覚は…。

58 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 22:52:08.09 ID:ISfdMuA0

佐々木「キミの仲間は、キミを騙している」
キョン「馬鹿なことを言うな」
佐々木「くっくっく。そう思うのも無理は無い。彼らの言葉は99%真実なのだからね」
キョン「誰だって多少の虚言は弄するだろうが」
佐々木「確かに。真実を隠すための嘘もあれば、人を騙すための嘘もある」

次元断層の狭間で神人を狩る超能力者
未来の記憶を封印された未来人
情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス
それらのプロフィールは、それぞれ行動や能力によって嘘でないことを証明してもらっている。

キョン「あいつらが俺に嘘を言っているとは思わないけどな」
佐々木「くっくっく。キミはいい仲間を持ったようだね。羨ましいよ。まあ僕も君達までとはいかなくても、それに近いくらいには仲良くなるつもりだがね」
キョン「健闘を祈る」
佐々木「ありがとう」
キョン「お前がこいつらと仲良くしたいと思うのは勝手だが、俺は謹んで辞退させてもらう」
佐々木「だろうね。キミならそう言うと思ったよ」
橘「そんな!佐々木さん」
佐々木「落ち着いて橘さん」
橘「…」

佐々木と橘は結構仲が良さそうだな。周防九曜は何を考えているかわからないし、藤原の野郎は友好的に振舞う気が始めからないようだが。

佐々木「キョン」

佐々木は俺を呼ぶと、ただ真っ直ぐに俺の目を覗き込んできた。
何もかも見透かすかのような透き通った輝きに吸い込まれそうになる。

佐々木「涼宮さんと同じ存在として僕がいる」

なんだって?
どくんっ。心臓の音がやけに大きく感じられた。

佐々木「…僕は、涼宮さんと同じ存在だ」

もう一度、同じことを佐々木は静かに告げた。

59 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 23:07:32.72 ID:ISfdMuA0

朝比奈「一体何を聞きたいのですか?長門さん」
長門「放課後、彼と涼宮ハルヒを見ながら呟いた言葉の意味を教えて欲しい」
朝比奈「…聞こえていたのですか」
長門「…」コクリ
朝比奈「…」ハァ

思わず大きなため息が漏れる。
キョン君と涼宮さんを見て浮かんだ光景。
遠い日の記憶の断片。

朝比奈「…言葉通りの意味…です」
長門「…そう」
朝比奈「信じられますか?」
長門「朝比奈みくるの存在、そのものが全てを物語っている」
朝比奈「えっ?」
長門「すべての事象において、それは涼宮ハルヒの力によるもの」
朝比奈「…」
長門「従って否定するための根拠も証拠も見出せない」
朝比奈「…」
長門「…私という固体は、…朝比奈みくると離れることを望んでいない」
朝比奈「…長門…さん」
長門「…」
朝比奈「…ありがとう」
長門「…」コクッ

60 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 23:17:40.82 ID:ISfdMuA0

佐々木「キョン。着いたよ」
キョン「…ああ」
佐々木「キミのご両親に説明をさせてもらっていいかな?僕がキミを引きとめて、こんなに遅くなってしまったのだから」
キョン「すまないな」
佐々木「いや…じゃあ一緒に行こう」

そう言うと佐々木は俺の家の玄関先に自転車を止め、インターホンを押した。

キョン妹「キョン君遅いよ〜。あれ?お姉さん誰?」
佐々木「こんばんは。妹ちゃん。お母さん、いるかい?」
キョン妹「うん、ちょっと待ってね。お母さーん。お客さーん、とキョン君」
キョン「おい」
佐々木「くっくっく。しかし僕のことは忘れてしまったみたいで少なからずショックだよ」

佐々木の横顔は少しだけ寂しそうに見えた。

キョン母「【キョンの名前】!お前こんな遅くまでどこにいたの!心配させて…あら、あなたは佐々木さん?あらあら、久しぶりね」
佐々木「ご無沙汰しております。すみません、私が久しぶりに会った【キョンの名前】君を引き止めてしまって、気がついたらこんな時間になってしまいまして…」
キョン母「まあまあ、そうだったの。あら、いいのよ佐々木さん。【キョンの名前】、遅くなったのは仕方ないから、ちゃんと佐々木さんを送ってきなさいよ」
キョン「わかってるよ」

佐々木が辞退しようとするのを横目に俺は庭においてあった自転車を引き出し、俺の母親と押し問答をしている佐々木に向かって声をかけた。

キョン「佐々木、行くぞ」

61 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 23:31:27.06 ID:ISfdMuA0

佐々木「ここでいいよ。キョン」
キョン「バス停、新しくなったんだな」
佐々木「くっくっく。僕たちが待ち合わせしていた時はボロボロだったよね」
キョン「…そうだな」

中学生の頃、佐々木とここで待ち合わせて塾へ通っていたのを思い出す。

佐々木「まだ、その自転車を使っているんだね」
キョン「ああ。結構頑丈だからな」
佐々木「くっくっく。そうだね。僕を乗せても壊れなかった」
キョン「お前そんなに重くないだろう」
佐々木「キョン。女性に向かって『重い』は禁句だよ」
キョン「そりゃ失礼」

俺は軽くおどけて見せる。

佐々木「キョン」
キョン「なんだ?」
佐々木「今日は、すまなかった」
キョン「もう過ぎたことだ」
佐々木「ショックだっただろう」
キョン「いや、思い当たることもあったからな」
佐々木「そう…。キミは強いな」
キョン「そんなことはない」
佐々木「いや、強いよ」

俺を真っ直ぐに見つめて、佐々木はそう断言した。

62 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 23:40:19.30 ID:ISfdMuA0

佐々木「じゃあ、僕はこれで」
キョン「ああ」
佐々木「…おやすみ、キョン」
キョン「…おやすみ、佐々木」

お互い軽く手を上げて別れる。
佐々木が見えなくなるまでその背中を見送ると、反転して家に戻るためにペダルを踏み込もうとして自転車を止めた。
セーラー服の少女が俺の行く手を遮るようにして立っているのが見えたからだ。

キョン「よう、長門」
長門「…?」
キョン「どうした?」
長門「…探した」
キョン「俺を?」
長門「…」コクリ
キョン「…大丈夫だ」
長門「…」
キョン「俺は、大丈夫だ」
長門「…ごめんなさい」
キョン「お前が謝ることじゃない」
長門「…」シュン
キョン「心配するな。俺は、大丈夫だ」
長門「…」コクリ

63 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/25(水) 23:51:12.33 ID:ISfdMuA0

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

???「いい加減、起きてよキョン」

ん?朝か…。
目を開ける。見慣れた天上と、見慣れた同級生の姿。
すっかりこのパターンが定着してきたな。

キョン「おはよう」
佐々木「まったく。キミはねぼすけなんだから」
キョン「そう言うな」
佐々木「ほらほら、急いで支度してきてくれ」

椅子に座り、制服のスカートが皺にならないように気をつけながら、彼女は俺を急かした。

キョン「じゃ、行ってくる」
佐々木「はい、行ってらっしゃい」

なんだか、夫婦みたいだな。

64 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 00:04:37.91 ID:bVdNPnY0

--HR前、教室

国木田「おはよう、キョン。佐々木さん」
谷口「相変わらず熱いねえ、お二方」
佐々木「くっくっく。悔しかったらキミも彼女を作ればいいじゃないか」
キョン「それは禁句だ、佐々木。谷口が泣くぞ」
国木田「あはは。これは一本獲られたね、谷口」ニコ
谷口「バカップルなんか嫌いだああああああ」ダッ
佐々木「それにしても、何故谷口はあんなに打たれ弱いんだ?」
キョン「それだけお前の言葉が辛辣なんだろう」
佐々木「くっくっく。そんなつもりは無いんだがね」
キョン「自覚が無いのかよ」
佐々木「くっくっく。何気に失礼だね、キョン」

--放課後 文芸部室 兼 SOS団団室

九曜「---」ペラリ
藤原「フン。お前の番だ。早くしろ」
キョン「…まあ待て、ここをああすれば…」
橘「佐々木さん、お茶です」ニコ
佐々木「ありがとう、京子ちゃん」
橘「キョンさん、藤原さん、お茶です」ニコ
キョン「ありがとうございます」
藤原「…ああ」
橘「周防さんお茶です」ニコ
九曜「--あり--がと--う」

65 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 00:16:09.26 ID:bVdNPnY0

佐々木を送り届けてから家に戻る。変わらない日常。変わらない毎日。
でも…。
何かがおかしい。
俺は、こんな生活を送っていたか?
俺は、こんな仲間と過ごしていたか?
俺は、佐々木と付き合っていたか?

何かが違う。頭の中で何かが警鐘を鳴らしている。
誰かが俺を呼んでいる…。

キョン…キョン…

誰だ…

キョン…ドコナノ…

誰だ!

キョン…

強気な瞳、黄色いカチューシャ。

キョン…

甘い吐息、甘い香り。

キョン…

ハ…ル…ヒ…

光の洪水が俺の頭の中を駆け巡る。全てを真っ白に染める閃光。
その中で、はっきりと聞いた愛しい声。

愛してる。

69 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:00:14.03 ID:bVdNPnY0

キョン「!!」ガバッ
佐々木「!」
橘「!」
藤原「…」フン
九曜「---失敗---理解---不能---」

なんだ?何があった?

佐々木「キョン…」
キョン「…佐々木、俺は…」
佐々木「…」
キョン「答えろ」
佐々木「キミと涼宮さんの絆の強さがそれほどとは思わなかったよ」
キョン「何を言っている?」
佐々木「くっくっく。僕の負けだ。認めよう」
キョン「だからお前は何を言っているんだ、佐々木」
佐々木「わからないのかい?」ジッ
キョン「まったくわからん」
九曜「---記憶---上書き---失敗---」
キョン「!」

記憶の上書き、だと?

70 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:08:13.48 ID:bVdNPnY0

キョン「佐々木、お前…」
佐々木「…くっくっく。軽蔑してもらって構わないよ。キョン」
キョン「なんだと?」
佐々木「僕は涼宮さんに取って代わろうとしたんだ」
キョン「なぜそんなことを」
佐々木「くっくっく。本当にわからないのかい?キョン」
キョン「ああ、わからないね」
佐々木「まったく…キミは、変わらない」

佐々木は俺を真っ直ぐに見つめて口元を歪める。どことなく悲しそうな表情を浮かべて。

佐々木「くっくっく。自分が次元断層の狭間に世界を作ることができるのに、望んでも自分ではいけないなら意味が無いよね。キョン」
キョン「何を言っている」
佐々木「橘さん、九曜さん、藤原さん。悪いが暫く外してくれないか?」
橘「…わかりました」
九曜「---監視は---続ける---」
藤原「…ふん。好きにしろ」
九曜「---済んだら---呼んで---」
佐々木「ありがとう九曜さん」

周防九曜を先頭にして三人が部屋の端の方へと進んでいくと、彼女たちの前に扉が現れる。
…再構築。TFEI端末が得意とする物質変化だ。
三人が外に出ると再び扉は塗りつぶされるように壁の中へと消えていった。

71 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:13:45.12 ID:bVdNPnY0

佐々木「くっくっく。閉鎖空間に自分の意思で行けるのなら、キミを拉致するなんて回りくどいことをしなくて済んだのに」
キョン「佐々木、何を言っている」
佐々木「…キョン」チュッ
キョン「!」

不意に佐々木は身を乗り出し、電光石火の早業で俺にキスをした。
完全な不意打ちで、なすすべも無く唇を奪われる。

佐々木「キョン…君が好きだ」カァッ
キョン「さ…さき」
佐々木「高校に入ってから、気がつくとキミのことばかり考えていた」
キョン「…お前、恋愛は精神病の一種とか言っていなかったか?」
佐々木「くっくっく。思春期にはありがちな妄言だよ。キョン。キミが恋愛に興味なさそうだったから僕もそのふりをしていただけだ」
キョン「…」
佐々木「キミを思いながら僕は、何度も自分を慰めたよ。身体を持て余しもした」

言いながら佐々木は、今までに見せたことのない艶やかな表情を浮かべる。

キョン「な、なにを」カァッ
佐々木「少しは身体的にも成長したと思うが、どう思う?キョン」
キョン「やめろ、佐々木」
佐々木「なぜ?僕は女として見られないのかい?」

72 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:25:01.04 ID:bVdNPnY0

身を乗り出した佐々木が机の上に乗り膝を着く。そのまま俺の首に手を廻して耳元でささやいた。

佐々木「キミの好きにしてくれ」
キョン「…佐々木」
佐々木「今だけで構わない。好きだキョン」ギュッ
キョン「…めろ」
佐々木「…抱いてくれ」ギュッ
キョン「…やめろ」
佐々木「…愛してくれ」ギュッ
キョン「やめろ!」バッ

佐々木の両肩を掴み、体から引き離す。

キョン「お前は、俺の知っている佐々木じゃない」
佐々木「僕は僕だよ」
キョン「佐々木はこんなこと言わない」
佐々木「君が気付かなかっただけだ」
キョン「佐々木はこんな行動をとらない」
佐々木「身体が求めるんだ!」
キョン「黙れ」
佐々木「黙らない」
キョン「黙れ!」
佐々木「黙るものか!」
キョン「佐々木!」

肩を掴む手に力が入る。

73 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:32:45.84 ID:bVdNPnY0

キョン「すまん、佐々木。俺は…」
佐々木「…」
キョン「…俺は、ハルヒを…、愛しているんだ」
佐々木「…」
キョン「すまん」
佐々木「…」ポロポロ
キョン「…」
佐々木「…くぅっ、ふっ…うっ」ポロポロ
キョン「…すまん」
佐々木「うっうわあああああっ、うわああああああん」ポロポロ
キョン「すまん」

橘「彼は受け入れてはくれないでしょうね。佐々木さんのことを」
藤原「フン。遅すぎたからな」
橘「そうやって何もかもわかっているみたいな話し方はやめてくれませんか?」
藤原「仕方ないだろう。既定事項なのだから」
橘「…わかっていて何故貴方はこの時間世界にいるのですか?」
藤原「知りたかったからだ」
橘「何をですか?」
藤原「平行世界で、奴が誰を選ぶのか。それがどんな奴なのか」
橘「そうですか…」
藤原「フン。暇つぶしにはなる」
橘「…」
九曜「---種は---植えた---」
藤原「ふっくっく。もう一手、残っているみたいだな。さて、どうなるか」
橘「…」

74 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:40:09.91 ID:bVdNPnY0

佐々木「…すまなかった。キョン」
キョン「いや」
佐々木「こんなことなら、北高にしておけばよかったよ」
キョン「佐々木…」
佐々木「くっくっく。そんな顔をしないでくれキョン」
キョン「…」
佐々木「…できれば、これからも友人としての付き合いはしていきたい」
キョン「…暫くは、無理かもしれない」
佐々木「どうしてだい?」
キョン「奪われたからな」
佐々木「キョン、奪ったんじゃない。捧げたんだ」
キョン「!」
佐々木「くっくっく。初恋の人に初めてを捧げるのは特別な思い出になるからね」
キョン「…言うな」
佐々木「長い間想っていたんだ。そのくらいはいいだろう。キョン」
キョン「…」

佐々木は形容しがたい独特の笑みを浮かべ、それから何かを振り払うように踵を返し、周防の名を呼んだ。

75 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:47:25.14 ID:bVdNPnY0

橘「もういいでしょう」
佐々木「そうだな。キョン、もう外しても構わないよ」
キョン「…」
佐々木「駅前に着くまで、もう少しこうしているかい?僕は一向に構わないが」
キョン「いや、起きるさ」
佐々木「そうか」
キョン「ああ」

アイマスクを外し、目を開けてゆっくりと身体を起こす。

藤原「…」キキキキッ、ブオオオオオン
キョン「うわっ」グラリ
佐々木「キョ、キョン、大丈夫かい」ギュッ

急ブレーキでバランスを崩し、前方に投げ出されそうになる。
慌てて佐々木が俺の腕を掴んで自分の方へと引き寄せる。
結果、俺は佐々木に抱きとめられる形でなんとか堪えた。

キョン「す、すまん」ポスッ
佐々木「いや…大丈夫」ギュッ
キョン「…」

身体を横にずらし、そのまま反転して前を向く。

キョン「ふう」
佐々木「…」

フロントガラスから見える景色を見て、北口駅前の近くと気付く。
止まってくれと声をかけるよりも早く、車は減速を始め、ウインカーを出して喫茶店の側で止まった。

藤原「着いたぞ。俺はこのまま橘を送っていく」
佐々木「頼みます。さ、キョン。降りよう」
キョン「ああ」
橘「…」
藤原「…」

76 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/26(木) 23:56:38.67 ID:bVdNPnY0

車から降り、佐々木が自転車に鍵を差し込みながら言った。

佐々木「キョン。…すまなかった」
キョン「…」
佐々木「少し歩こうか」
キョン「ああ」

佐々木と並んで歩く。何を話すでもなく、ただゆっくりと並んで歩く。
すっかり暗くなった駅前の道を、佐々木と並んで歩く。まるで中学生に戻ったかのような錯覚。
そのノスタルジックな空気を破ったのは、やはり佐々木だった。

佐々木「…キミは涼宮さんを選んだ。そうだろう?」
キョン「ああ」
佐々木「くっくっく。即答か。キミらしくない。けど、それだけ彼女を信頼している」
キョン「…」
佐々木「鍵穴は二つ、鍵は一つだ」
キョン「!」
佐々木「何を驚いているんだいキョン。キミはもう選んだんだ。なら、迷うことは無い」
キョン「待て、何を言っている」

おかしい、根本的な何かがおかしい。

78 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 00:02:51.56 ID:EzqqZKk0

佐々木「キミは『涼宮さん』を選んだんだ。僕じゃなくて彼女のことを」
キョン「いや、待て。一人っていうのはハルヒのことだろうが?」
佐々木「くっくっく。何を言っているんだいキョン」

皮肉を塗した笑みを浮かべ、佐々木は足を止める。

佐々木「少し考えればわかるだろう。どうして今まで騙されていたんだ」
キョン「…」
佐々木「ああ、騙されてはいないのか。キミが『鍵』というのは正しいからね」
キョン「…」
佐々木「ただ、『神=鍵』ではなく、『神=鍵穴』と言われていたのだね」
キョン「…」
佐々木「キョン、涼宮さんの周りが非現実的な体験をしているわけじゃない」
キョン「…」
佐々木「キミと涼宮さんの周りが、非現実的な体験をしているんだ。考えてくれ。キミが非現実的な体験をしたのは高校に入ってからだろう?」
キョン「…ああ」
佐々木「なら、涼宮さんが中学生の頃に彼女の周りで非現実的な体験をしている人はいるのか?」
キョン「…」
佐々木「答えはNOだよ、キョン。『機関』の人間は神人と戦ったことがあるだろが、キミたちが体験したようなことを体験した人はいない」

79 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 00:21:28.98 ID:EzqqZKk0

キョン「いや、だが…」
佐々木「三年前、キミは未来人の力でその場所に行き、涼宮さんの力を解放したんだ」
キョン「…」
佐々木「そして僕は君と過ごした時間の中で力を解放された」
キョン「…」
佐々木「高校で再会したキミと涼宮さんは、友人としてお互いを認めるようになり、それに伴って周囲を巻き込むだけの力を発現させた」
キョン「…」
佐々木「鍵は、鍵穴に力を与えると同時に、鍵穴を制御する。そう僕は考えている」
キョン「…どういうことだ?」
佐々木「そのままの意味さ」
キョン「よくわからないが」
佐々木「キミと涼宮さんが傍にいることによって涼宮さんの無意識下の願望が非現実的な事象となって発現する」
キョン「…」
佐々木「二人がお互いを認めたとき、キミは涼宮さんの能力を制御できるようになるか、その力を打ち消せるようになると思う。あくまで予想だが」

85 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 23:03:26.82 ID:EzqqZKk0

キョン「お互いを認めたとき?」
佐々木「本当にお互いが相手を必要と認めたとき、何かが変わるんだと僕は思うよ」
キョン「…」
佐々木「鍵と鍵穴が揃って初めて扉が開くんだ。その扉とは何か?そう考えればわかりやすいんじゃないかな?キョン」

鍵と鍵穴が揃って初めて扉が開く…。

佐々木「ああ、言っておくけど、…純潔を奪うことが扉を開くってことじゃないよ」
キョン「!」カァッ
佐々木「くっくっく。もしかしてそうだとでも思っていたのかい?確かに鍵と鍵穴はその行為の隠語でもあるけどね」
キョン「…」

佐々木は面白そうに笑いながら、自然な動きで俺の耳元に唇を寄せる。

佐々木「もしそうだったら、さっき、僕はキミを犯していただろうね」クックック
キョン「なっ!?」カァッ
佐々木「だってそうだろう?キミと繋がれば世界を救うことができるってことなら、感情なんて関係ないんだ」
キョン「…佐々木」
佐々木「それでも、僕は嬉しかっただろうけど…、いや、これは失言だ。忘れてくれると嬉しい」
キョン「…」
佐々木「懐かしいな。中学生の時はここでキミと待ち合わせたね」
キョン「そうだったな」
佐々木「僕はキミの自転車の後ろに乗って、塾に行った。今思うと、あの頃が一番楽しかったよ」
キョン「…」

86 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 23:12:40.20 ID:EzqqZKk0

佐々木は涼しげな眼差しを空へと向け、そして呟いた。

佐々木「キョン。ひとつだけ忠告しておく」
キョン「なんだ」
佐々木「九曜さんに暗示をかけてもらった。効果があるのは一度きりだが強力な暗示を」
キョン「なんだと?」
佐々木「涼宮さんの反応次第では、世界が崩壊するかもしれない」
キョン「…」
佐々木「…そのときは、僕のところに来てくれ。キョン」
キョン「…」
佐々木「軽蔑してもらっても構わないよ。これが正真正銘、鍵穴としての僕の最後の切り札だ」
キョン「…佐々木」
佐々木「さようならキョン」
キョン「待てよ」
佐々木「…僕は一縷の望みに期待して待つとするよ」
キョン「待てよ!」
佐々木「…さようなら」
キョン「佐々木!」

俺の呼びかけに応えることなく佐々木は去っていった。
暗示ってなんだよ、佐々木。

キョン「馬鹿野郎…」ボソッ

聞こえるはずの無い言葉を佐々木に投げかけて、俺は方向転換をしてそのまま立ち止まった。

87 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 23:21:09.37 ID:EzqqZKk0

明らかに俺と佐々木が離れるのを見計らっていたかのように、無言のまま近づいてくる三つの影。

キョン「…お前ら」
長門「…」
古泉「…」
朝比奈「…」
キョン「聞いていたのか?」
古泉「はい」
キョン「佐々木の言っていたことは正しいのか」
古泉「…」
朝比奈「…」
長門「…」
キョン「答えろ、古泉」
古泉「…貴方がどう思うかは貴方の判断にお任せします。ただ、我々『機関』の見解はあくまでも涼宮さんが神であることに間違いはありません」
キョン「まあそうだろうな。神人と戦うのはお前らだ」
古泉「…」
キョン「朝比奈さん、貴女の、未来の見解は?」
朝比奈「…私の未来と敵対する勢力の未来は異なる世界であることが確認されました」
キョン「…」
朝比奈「未来は一つじゃない、これだけしか言えません。ごめんなさい」
キョン「長門」
長門「情報統合思念体は先ほどの貴方と佐々木【名前】との会話から涼宮ハルヒに関する情報の整合性及びシミュレーションを行った。その結果、彼女の言っていることは
検討に値すると判断。現在、検証作業中であり、明確な回答は得られない」
キョン「そうか」

『機関』の立場上、ハルヒを神とすることは仕方が無い。
しかし、朝比奈さんと長門の言葉を聞く限りでは、佐々木の言っていたことの信憑性が高いことに間違いはないようだ。

88 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 23:35:27.58 ID:EzqqZKk0

長門「ごめんなさい。貴方を3時間28分42秒の間、見失った」
キョン「いや、お前のせいじゃない」
長門「…」
キョン「わざわざ、俺を見つけて来てくれたんだろう」
長門「…」
キョン「朝比奈さんも、古泉も、わざわざありがとう」
朝比奈「いえ、そんな…」
古泉「恐れ入ります」
キョン「もう時間も遅い。長門をマンションまで送ってから朝比奈さんを送って行きますよ。古泉、付き合ってくれるよな?」
古泉「もちろんですよ」ニコ
朝比奈「えぇ?大丈夫ですよ」
長門「…夜の女性の一人歩きは危険」
朝比奈「ありがとう。キョン君、古泉君」
キョン「いえ、そうと決まれば早く行きましょう」
朝比奈「はぁい」
長門「…」コクリ
古泉「…」

何事もなく長門をマンションに送り、朝比奈さんを下宿先まで送り届け、俺と古泉は再び駅前に向かって歩く。

キョン「古泉、お前こっちだったか?」
古泉「涼子の部屋に行くのですよ」
キョン「さらっと凄いことを言うな」
古泉「いえいえ、貴方がいなくなったということを伝えてくれる電話を無視してしまいまして。いやはや参りました」ポリポリ
キョン「…」
古泉「閉鎖空間の発生なら感じ取ることもできますのでそういったことはないんですけどね」
キョン「そうか」
古泉「はい。逆に閉鎖空間を感じなかったから電話を取らなかったというのもありますが」
キョン「古泉、そろそろやめておけ。また朝倉を正視できないことを言いそうだ」
古泉「これは手厳しい」ポリポリ

そんな取り留めのない話をしながら、俺たちは来る時に寄ったマンションへと歩くのであった。

89 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/27(金) 23:49:03.11 ID:EzqqZKk0

ゆさゆさ。ゆさゆさ。

心なしかいつもより優しい揺らし方。

ゆさゆさ。ゆさゆさ。

ハルヒ「…キョン。起きて?キョン」

ゆさゆさ。ゆさゆさ。

ハルヒ「キョンってば」ガバッ

勢い良く布団を剥がされて、俺は目を開ける。

キョン「もう少し眠らせてくれよ、ハルヒ」
ハルヒ「早く行かないと楽しめないじゃない」
キョン「元気だなあ」
ハルヒ「あんたが年寄り臭いのよ」
キョン「…臭うか」クンクン
ハルヒ「ば、馬鹿、そうじゃなくって」
キョン「冗談だ」
ハルヒ「もうっ!早く顔洗ってきなさい」ムゥッ
キョン「わかったわかった」

立ち上がり、扉に手をかける。

ハルヒ「いってらっしゃい」
キョン「いってきます」

90 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 00:00:54.67 ID:D33Yxzg0

キョン妹「やっと起きた〜」
キョン「おはよう」
キョン妹「おはよう〜。キョン君」
キョン「…」モグモグ
キョン妹「土曜日もハルにゃんに起こしてもらって、ラブラブだね、キョン君」
キョン「まあな」モグモグ
キョン妹「おおっ、否定しないなんて!」
キョン「ふふふ。デートだしな」
キョン妹「え〜、それなのに起こしてもらったの?ダメダメだよキョン君」
キョン「なんでだよ」
キョン妹「待ち合わせでドキドキするのも恋愛の醍醐味?だってテレビで言ってた」
キョン「…そうか」
キョン妹「そうだよ」
キョン「以後気をつける」
キョン妹「そうだね〜。あ、シャミ〜、ごはん?」
シャミセン「にゃあ」
キョン妹「わかった〜。ちょっと待ってね」
シャミセン「…」ゴロゴロ

妹とシャミセンのやり取りを横目に、俺はせっせと朝食を平らげるのだった。

91 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 00:11:39.11 ID:D33Yxzg0

キョン「ただいま」
ハルヒ「…」スースー
キョン「…」

俺が部屋に戻ると、ハルヒがベッドで横になっていた。
ご丁寧に布団に包まっている。

キョン「おいハルヒ、お前は普段寝るときもカチューシャを付けたままなのか?」
ハルヒ「…」スースー
キョン「急げって言うから急いできたのになあ」
ハルヒ「…」スースー
キョン「…こうして改めて見るとハルヒって可愛いなあ」ボソッ
ハルヒ「!」
キョン「おい、ハルヒ、起きろ」ユサユサ
ハルヒ「…」スースー
キョン「…」ナデナデ
ハルヒ「!」
キョン「すべすべだなあ、ハルヒのほっぺた」ナデナデ
ハルヒ「…」
キョン「もしかしてお姫様は毒林檎でもお召し上がりになりましたか?」
ハルヒ「!」ドキドキ
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…」チュッ
キョン「お目覚めですか?お姫様」ニコ
ハルヒ「馬鹿」カァッ

92 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 00:20:01.88 ID:D33Yxzg0

最悪だ。
すっかり忘れていた。こいつの存在を…。

キョン「…」ウップ
ハルヒ「だっらしないわねえ、キョン」
キョン「誰だって3回も乗ればこうなるわ!」ウップ
ハルヒ「あたしは全然平気だけどね」エヘン
キョン「化け物め…」ウップ

最大落差40メートルの絶叫マシーン。
ハルヒの奴はことのほかお気に入りのようで、何をとち狂ったか3回連続で列に並んでは乗るを繰り返した。
付き合わされる方は堪ったものじゃない。

ハルヒ「仕方ないわね、じゃあ休憩!観覧車に乗るわよ」ビシッ
キョン「はいはい」

観覧車なら高いだけで大したことはない。
やれやれ、やっと一息つけるな。

キョン「…」
ハルヒ「…」ピトッ

向かい合って乗るものだとばかり思っていた俺はまだまだ勉強不足だったようだ。
横に乗って密着してくるハルヒ。

キョン「…」
ハルヒ「…」ピトッ
キョン「なあハルヒ」
ハルヒ「なに?」ピトッ
キョン「傾いたりしないか?これ?」
ハルヒ「大丈夫でしょ」ピトッ
キョン「ならいいんだが…」
ハルヒ「…」ピトッ

まあ、いいんだけどな。

95 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 22:56:10.46 ID:D33Yxzg0

ハルヒ「あーっ、楽しかった」ニコ
キョン「…」ウップ

締めだとか言ってジェットコースターに乗せられたのには参った。
結局何回乗ったんだ…。6回か、7回か?

ハルヒ「もう。あれだけ乗ったのにまだ慣れないの?」
キョン「俺はああいうの苦手なんだよ」
ハルヒ「あたしは好きなんだけどな」
キョン「!」ドクン
ハルヒ「どうかした?」ジッ
キョン「な、なんでもない…」

なんだ?今の感覚は?

ハルヒ「?ぼうっとしてないで帰るわよ」ギュッ
キョン「…ああ」

ハルヒが掴む腕が熱い。なんとなく眩暈がする。

好き。

その言葉が頭の中を回り始める。殷々と響き渡るように。朦朧とし始める頭の中で、佐々木の言葉が思い浮かぶ。
『暗示をかけさせてもらった』
これのことか…佐々木。

96 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:13:29.89 ID:D33Yxzg0

キョン「ハ…ルヒ」ハアハア
ハルヒ「ちょっとキョン、どうしたの?」
キョン「ハルヒ…ハルヒ」ハアハア
ハルヒ「!!」

ハルヒのことしか考えられなくなる。ここはどこなのか、今、何をしているのかもわからない。
ハルヒ、ハルヒ、ハルヒ!!

ハルヒ「ちょっと、キョ…!」ムグッ
キョン「ふっ…ん…」クチュクチュ
ハルヒ「…あ…ん…」クチュ

甘い香り、甘い舌、甘い吐息、甘い表情。
その全てがたまらなく愛おしい。

キョン「ん…ふっ…」クチュクチュ
ハルヒ「…キョ…ン、ちょっと落ち着いて」ガバッ
キョン「ハルヒ…」ボー
ハルヒ「あんた、ちょっとおかしいわよ!いきなりこんなところで!」カァッ
キョン「ハルヒ…ハルヒ」ボー
ハルヒ「…キョン?」
キョン「ハルヒ…」ボー

97 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:21:48.73 ID:D33Yxzg0

彼の肩に手を置いて戒めから逃れようとする涼宮ハルヒ。
焦点の定まらない瞳に言い知れない不安を感じながら、それでもなんとか彼を正気に戻そうと語りかける。

ハルヒ「しっかりしなさいよ!キョン」グググ
キョン「…ハルヒ…ハルヒ」グググ
ハルヒ「…キョン、きゃっ」ガバッ
キョン「…んっ…」クチュ
ハルヒ「…ん」クチュ
キョン「ふっ…ん」クチュクチュ

手を捕まれ、そのまま抱きしめられ、唇を奪われる。
段々と抵抗をする気力もなくなってくる。
そんなにジェットコースターが嫌だったのだろうか?確かに、嫌だって言うのを無視して一緒に乗ったけど。
だからってこんな人の多いところで執拗にキスなくてもいいのに。
7回乗ったから、あと3回、キスしてくるのかな?
そんなことを考えながら、涼宮ハルヒは唇が離れた時に呟いた。

ハルヒ「…もう…、いいよ。あんたがそうしたいなら、好きにして…」ボソッ
キョン「…んっ…」クチュ
ハルヒ「ん…ん」クチュ
キョン「…!」
ハルヒ「…」

目の前にあるハルヒの顔。おずおずと差し込まれるハルヒの舌。
気がつくとそんな状況。
一体どういうことだ?

キョン「…ハルヒ」
ハルヒ「…キョン」ボー

頬を染めて俺を見上げるハルヒ。その可愛らしさに思わず唇を重ねようとして、思い留まる。
ああ、そうか。暗示のせいか。

98 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:29:52.90 ID:D33Yxzg0

ハルヒ「…もう、いいの?」ボー
キョン「…」
ハルヒ「…お仕置き、なんでしょ?」ボー
キョン「え?」
ハルヒ「ジェットコースターの」ボー

待てハルヒ、何を言っている?いや、もしかして都合のいい勘違いをしてくれているのか?
潤んだ瞳で俺を見上げてくるハルヒ。

キョン「…まだ足りないか?」
ハルヒ「…ん」チュッ
キョン「…ん」チュッ
ハルヒ「…」

キスで返事をしてくるハルヒにキスを返し、それからそっと体を離す。
ハルヒの顎を伝う涎をハンカチで軽く拭って、それから俺は手を差し出した。

キョン「…帰るか」
ハルヒ「…ん」ギュッ
キョン「すまん」
ハルヒ「え?」
キョン「我を忘れた」
ハルヒ「え、うん。…いいよ。あたしも悪かったんだし」
キョン「…」
ハルヒ「…だって、一緒に乗りたかったんだもん」ムス
キョン「そうか」
ハルヒ「うん」

どうやらハルヒは罰ゲームか何かと勝手に思ったらしい。そんな風に思いつくのがなんともハルヒらしい気がした。
悪いな佐々木。
ハルヒの考えることはいつも、一般人が考えることの斜め上を行くみたいだ。

99 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:33:52.16 ID:D33Yxzg0

九曜「---失---敗---」
佐々木「…そう」
九曜「---そ---う---」
佐々木「はは。参った。思っていたよりもずっと涼宮さんは彼のことが好きだったみたい」クックック
九曜「---好---き?---」
佐々木「そう。これで私が選ばれることはなくなった」
九曜「わから---ない---」
佐々木「九曜さんはもう少し人の心を学んだ方がいいかもしれないね」
九曜「人の---心---?」
佐々木「そうすれば、もっと仲良くなれる気がするんだ」
九曜「とも---だち---」
佐々木「そうだね。少なくとも私は九曜さんのことを友達だと思ってるよ」
九曜「---とも---だち---」

結局、キミとの関係は友達より先に進むことができなかったね。キョン。

100 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:42:04.11 ID:D33Yxzg0

ハルヒ「到着」ギュッ
キョン「そうだな」
ハルヒ「ねえ、キョン。まだ早いし寄ってかない?」ギュッ
キョン「え?」
ハルヒ「喉渇かない?お茶ぐらいご馳走するわよ」ギュッ
キョン「…じゃあ、ご馳走になるか」
ハルヒ「うん」ニコ

ハルヒが腕を外して玄関の鍵を外し、扉を開けてから振り返る。

ハルヒ「いらっしゃい、キョン」
キョン「お邪魔します」
ハルヒ「あ、鍵閉めてね。チェーンはいいから」
キョン「ああ」ガチャ
ハルヒ「とりあえず、こっち」

言われるままハルヒの後ろについていって階段を上る。
ハルヒは突き当たりの扉を開けると、扉の横で俺を手招いた。

ハルヒ「じゃ、ここで待ってて」
キョン「わかった」
ハルヒ「飲み物持ってくるね」ニコ
キョン「悪いな」
ハルヒ「あ、タンスとか漁るの禁止だからね、キョン」
キョン「漁るか!」
ハルヒ「冗談よ」

笑いながら階段を降りていくハルヒを見送って、俺は部屋に足を踏み入れた。
ベッドと掛け布団のないコタツ(テーブルとして使っているのだろう)にテレビ、勉強机に本棚、タンス、鏡台。
うん。質素だけど女の子の部屋だ。なんとなくいい匂いがする。

101 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:49:29.22 ID:D33Yxzg0

キョン「ハルヒの部屋か」

もっと怪しげな本だの奇怪な魔方陣だのがあると勝手に想像していたのだが。

キョン「…」

絨毯の上に座って足を伸ばして部屋の中を見回す。
勉強机の上に本が散乱しているものの、他は綺麗に片付けられていた。
以外と綺麗好きだな。ハルヒ。

ハルヒ「お待たせ〜」
キョン「おお、本格的だな」
ハルヒ「もう少し蒸らしたら飲み頃よ」エヘン
キョン「楽しみだ」
ハルヒ「ふふ」

テーブルにトレイを置いて床に座ると、ハルヒは部屋を見回して頷いた。

ハルヒ「うん。どこも弄ってないみたいね。関心関心」
キョン「お前なあ」
ハルヒ「ふふ。冗談よ」ニコ
キョン「…」

ハルヒは、頃合とみてティーポットを持ち上げると、慣れた手つきで紅茶をティーカップに注ぐ。

102 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/28(土) 23:58:27.93 ID:D33Yxzg0

ハルヒ「お砂糖とか入れる?」
キョン「ひとつ入れてもらおうかな」
ハルヒ「はい」
キョン「…」
ハルヒ「お待たせ」
キョン「ありがとう」
ハルヒ「ふふ」
キョン「…」コクリ
ハルヒ「…」
キョン「うん、美味い」
ハルヒ「よかった」ニコ

紅茶を飲みながらとりとめのない話をする。些細な話でもハルヒとだと楽しく感じるから不思議だ。

キョン「以外と普通の部屋で安心した」
ハルヒ「なによそれ」
キョン「不思議探索で怪しいもの買ってそうな気がしてさ」
ハルヒ「失礼ね」
キョン「だってそういうの好きだろ?」
ハルヒ「ぐむ。否定できない…。でも、もし持っていても飾らないわよ」
キョン「そりゃまたどうして?」
ハルヒ「それが原因で変なことが起きたら困るじゃない」
キョン「まあそうだな」
ハルヒ「でしょ」エヘン
キョン「でもそうすると、お前が欲しがってる不思議を逃すことになるけどな」
ハルヒ「…それは、盲点だったわ」
キョン「仮定の話で悩むな」
ハルヒ「わからないわよ。もしかすると今度の不思議探索で何か見つけるかもしれないし」
キョン「あー、呪いとかそういうのはやめてくれよ」
ハルヒ「怖い?」
キョン「そうだな」
ハルヒ「まあ、気味悪いものは買わないわよ。もったいないし」
キョン「それなら安心だ」
ハルヒ「あ、でも」ニヤリ
キョン「何だその笑みは」
ハルヒ「あんたが私に逆らえなくなる呪いとかなら欲しいかもね」
キョン「…」

そんなものなくても、ジェットコースターで俺がお前に逆らえないことに気がつかなかったのか?ハルヒ。

103 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:10:27.39 ID:r5jjOZM0

ハルヒ「…ねえキョン」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「あの、さ…」ジッ
キョン「どうした?」
ハルヒ「罰ゲーム、まだ残ってるよね?」ジッ
キョン「は?」
ハルヒ「5回しか、してないよ?」ジッ

ちょっと待てハルヒ。いきなりにじり寄ってくるな。

ハルヒ「…」ジー
キョン「な、なんだ」
ハルヒ「…ディープキス」
キョン「なっ」カァッ
ハルヒ「あんなところでいきなりするから凄い恥ずかしかった」カァッ
キョン「う、その、スマン」カァッ
ハルヒ「でもここなら、いっぱいできるよ?」チュッ
キョン「…ん」クチュ
ハルヒ「…んぅ…」クチュ
キョン「…」クチュ
ハルヒ「あ…ん」クチュ
キョン「…紅茶の味がする」チュッ
ハルヒ「ふふ…あんたも」チュッ
キョン「…ん」クチュ
ハルヒ「んぅ…ん」クチュ
キョン「…」クチュ
ハルヒ「…」クチュ
キョン「…んぅ」クチュ
ハルヒ「ん、…キョン」ダキッ
キョン「うわっ!?」ドサッ
ハルヒ「…」

ハルヒに抱きつかれてバランスを崩し、覆い被さるように倒れこむ。

104 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:23:25.29 ID:r5jjOZM0

キョン「ご、ごめん」ガバッ
ハルヒ「…」

慌てて両腕を立てて身を起こす。

ハルヒ「…」スッ
キョン「!?」

ハルヒの両手が伸ばされ、俺の顔を包み込むように添えられた。

ハルヒ「いいよ…」
キョン「ハル…ヒ」
ハルヒ「…」スッ

ハルヒの両手が俺の顔を離れて、俺の両手首を掴む。
そして、そのまま持ち上げたかと思うと、彼女は小さく笑ってから、自分の胸に俺の両掌を導いた。
初めて触れる、ハルヒの胸。

キョン「…」
ハルヒ「…」
キョン「…」モミ
ハルヒ「!」カァッ

少しだけ手を動かしてみる。ハルヒの体が小さく震えたのがわかった。

キョン「ハルヒ…」モミモミ
ハルヒ「…ぅ…ん」カァッ

温かくて柔らかい。服の上からでもそう感じることができた。

105 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:30:12.26 ID:r5jjOZM0

キョン「…痛く…ないか?」
ハルヒ「…大丈夫…」
キョン「柔らかいな…」モミモミ
ハルヒ「馬鹿…ん」カァッ
キョン「…」モミモミ
ハルヒ「キョン…キス…して」ウルウル
キョン「…」チュッ
ハルヒ「んっ…ん」チュクチュク
キョン「…」チュクッ

ゆっくりと、俺はハルヒの着ている服のボタンに手をかけ、ひとつづつ外していく。
手が震えてなかなかうまくは外せないが、確実にひとつずづ外していった。

ハルヒ「…んぅ」チュク
キョン「ん…」チュク モミモミ
ハルヒ「…あっ」ビクン
キョン「…」チュクッ モミモミ

前をはだけさせ、ブラの上からハルヒの胸を揉む。露になった肌がとても扇情的だ。

106 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:39:25.71 ID:r5jjOZM0

キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「キョン…」ウルウル
キョン「ベッドへ…」
ハルヒ「…うん」カァッ
キョン「…」
ハルヒ「…」

体を起こし、お互い、なんとなく目を合わせないようにして立ち上がる。
ハルヒは少し躊躇ってから、おもむろに上に来ていたシャツを脱いでベッドの上に座った。
俺は窓に近づいてカーテンを引き、それから薄暗くなった部屋の中でハルヒに向き直る。

ハルヒ「…キョンも、脱いでよ」
キョン「…ああ」

言われるまま俺はシャツを脱ぎ、上半身裸になってハルヒの横に座った。

ハルヒ「…恥ずかしいね」カァッ
キョン「まあな」カァッ
ハルヒ「今から、もっと恥ずかしくなるね」カァッ
キョン「そうだな」カァッ
ハルヒ「…好きよ、キョン」
キョン「俺もだ。ハルヒ」
ハルヒ「…んっ」チュッ
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…」チュクッ
キョン「…ハルヒ…その…」カァッ
ハルヒ「…なに?」
キョン「どうやって、外すんだ?」カァッ

我ながら情けないと思いながらも、外し方がわからないのでそう尋ねる。

107 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:46:03.18 ID:r5jjOZM0

ハルヒは一瞬、目を丸くして、それから小さく笑った。

ハルヒ「そっか、触ったこともないんだ」
キョン「…悪かったな」
ハルヒ「んーん。嬉しいよ、キョンの初めて」ニコ
キョン「…」
ハルヒ「背中の真ん中にあるホックで留まってるから…両側から内側に引っ張ってホックを外すの…」カァッ
キョン「…こう、か?」プツッ
ハルヒ「…うん。そしたら肩紐を腕に通して…、片方づつ…、そう…」スルッ
キョン「…綺麗だ…ハルヒ」
ハルヒ「…まじまじ見ないでよ」カァッ
キョン「じゃあ隠してやる」サワッ
ハルヒ「あっ、やっ…馬鹿っ…ん」ビクッ

え、円を描くように優しく包み込むように…。
服やブラの上から触るのとは全然違う感触。熱くて吸い付くようなとでも言えばいいのか。

ハルヒ「あっ…んぅ…くぅ…ん」ビクッ
キョン「…」チュッ…チュッ

首筋から鎖骨の上を跡が付かないよう軽く吸いながら唇を這わせ、ゆっくりと胸に舌を這わせる。
中央の突起を口に含み、軽く吸う。

ハルヒ「あぅ、キョン!」ビクッ
キョン「…」チュッ、チュパッ モミモミ
ハルヒ「…あぁんっ、や…ん」ビクッ

ハルヒの甘い声、口に含んだ汗ばんだ肌の味。手で触れる胸の柔らかさ。舌で転がす乳房の感触。
その全てが何もかも甘美で、狂おしいほどの感情が俺の中を駆け巡っていく。

108 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 00:50:13.92 ID:r5jjOZM0

キョン「くっ…ハルヒ…ハルヒ!」ビクッビクッ
ハルヒ「…あぁ…キョン…」ビクッ
キョン「…くっ…ふ」ガクガク
ハルヒ「…キョン」
キョン「…」カァッ
ハルヒ「…どうかした?」
キョン「…いや、すまん。イっちまった」カァッ
ハルヒ「え?」

穴があったら入りたいとは正にこのようなときに言う言葉なんだろう。
ハルヒの胸を感じていたらそれだけで達してしまうとは…。
多分、パンツの中は凄いことになってるだろう。

キョン「すまん…」シュン
ハルヒ「キョン」
キョン「…」シュン
ハルヒ「いいよ…。あたしで感じてくれたんでしょ?キョン」
キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「…あたしだって、結構感じてるし…」カァッ
キョン「!」
ハルヒ「…」スッ
キョン「!」

ハルヒは俺の手を掴み、スカートの中に導いた。しっとりと濡れた布の感触。

ハルヒ「責任…取ってよ、キョン」カァッ
キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「…今日は、親、帰ってこないから…」カァッ
キョン「!」
ハルヒ「だから、大丈夫だよ。キョン」ニコ

113 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 22:57:11.30 ID:r5jjOZM0

…。
なんか、温かいな…。

キョン「…ん」ムニュ

枕元にある時計を取ろうとして左手が何か柔らかいものに触れた。

キョン「!」

俺の隣でハルヒが眠っている。
ああ、そうか。
ここは、ハルヒの部屋だ。
薄暗い部屋の中のベッドの下には二人の洋服が散乱している。ハルヒの下着がやけに白く見えるのは内緒だ。
そっと眠っているハルヒの頬に触れる。
そのまま、首筋から鎖骨、そして胸の丘陵に手を滑り込ませた。
吸い付くような感触がなんともいえず心地よい。

ハルヒ「…ん」
キョン「…」サワサワ
ハルヒ「あ…ん」
キョン「…」サワサワ
ハルヒ「キョンの…エッチ」カァッ
キョン「すまん」モミ
ハルヒ「あぁんっ」ビクッ
キョン「…」モミモミ
ハルヒ「…もうっ」カァッ
キョン「すまん。つい触り心地が良くってな」モミモミ
ハルヒ「エッチッ」カァッ
キョン「…すまん」

胸から手を離し、天井を眺める。

114 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:07:16.97 ID:r5jjOZM0

ハルヒ「…しちゃったね」
キョン「そうだな」
ハルヒ「幻滅した?エッチな女で…」
キョン「いや、嬉しかった」
ハルヒ「そ、そう」カァッ
キョン「お前こそ、幻滅したんじゃないか?…何度も失敗してさ…」カァッ
ハルヒ「…は、初めてだから仕方ないんじゃないかな…」カァッ
キョン「ごめんな。痛かっただろ?」
ハルヒ「んーん。優しい気持ち、伝わったから…」ニコ
キョン「ハルヒ…」
ハルヒ「以外と血も出なかったしね。まだ違和感あるけど…」
キョン「…」
ハルヒ「ねえ、キョン」
キョン「ん?」
ハルヒ「へへ…」ガバッ
キョン「!」
ハルヒ「…襲うね」ニヤリ
キョン「ちょっと待てハルヒ。何故そうなる」カァッ
ハルヒ「あんたがおっぱい弄ったからいけない」
キョン「あ、う…」カァッ
ハルヒ「それにエッチな方が、嬉しいんでしょ?エロキョン」ニヤリ
キョン「…エロハルヒ」カァッ
ハルヒ「あんたのせいよ」
キョン「…」
ハルヒ「習うより慣れろって言うしね。さっきより痛くないかしら?」
キョン「…無理はするなよ。ハルヒ」
ハルヒ「ふふ…。わかってる。…好きよ」チュッ
キョン「…ん」チュク
ハルヒ「んふ…ぅ」チュク

ハルヒがゆっくりとキスをしながら俺の上に乗ってくる。
甘く痺れた頭で、俺はハルヒを受け入れた。

115 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:17:57.04 ID:r5jjOZM0

朝比奈「…」
藤原「…」
朝比奈「…あのぅ」オドオド
藤原「…」ジロリ
朝比奈「ふぇっ!?」ビクビク
藤原「フン。別に取って喰おうってわけじゃないんだ。そんなビクビクオドオドするな」
朝比奈「て、敵対している相手と二人きりっていうのは…その、怖いです」
藤原「安心しろ。もう敵対する理由もなくなった」
朝比奈「ふぇ?」
藤原「わかっているだろう?」
朝比奈「…」
藤原「疑っているのか?」
朝比奈「…」
藤原「僕は母親似だが、…お前は父親似だな」
朝比奈「!」
藤原「ふっくっく。そんな驚くな。既定事項だろう?」
朝比奈「…あの、じゃあ貴方は…」
藤原「世界は違うが、【禁則事項】兄妹ってことになるのか?少なくとも今の見た目では僕の方が上だな」
朝比奈「やっぱりそうなんですね…」
藤原「ふっくっく。本来なら会うはずのない兄妹がこうして話しているっていうのもおかしな話だな」

まったく、馬鹿げている。とんだ茶番だ。

116 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:26:00.68 ID:r5jjOZM0

朝比奈「…そうですね。あの、でも、どうして私と話そうと思ったのですか?」
藤原「記憶のロックが外されたのは最近だろう?僕は何がきっかけだったかはわからないが、お前には思い当たることがあるはずだ」
朝比奈「…はい」
藤原「この時間世界でやることは殆ど無くなったってことだろうな。少なくともお前とは違う世界の僕にとっては」
朝比奈「…」
藤原「そんな顔するな。既定事項だろう?」
朝比奈「でも、私は…」ウルウル
藤原「泣くな。僕が泣かせていると思われるのは不愉快だ」
朝比奈「…」グスッ
藤原「時間平面で何をしても未来は変わらないって知っているだろうが。すぐに帰って来いとは言われない」
朝比奈「えっ…」
藤原「僕の場合は、…多分通じるだろうが、『TPDD使用運行における甲種例外事項』だ。お前も奴の選択によっては例外事項になる可能性があった」
朝比奈「甲種、…そうでしたか」

甲種例外事項…。平行時間による同軸並列世界への時間遡行。
つまり彼は、この世界とは違う世界の未来から来たってことになる。

藤原「世界の分岐がお前たちの世界にシフトしたと確認が取れ次第、僕はシフト前の過去に戻って自分の世界へ戻る」
朝比奈「…」
藤原「わかるか?お前にもそれは言えるんだ。仮に帰還命令が出ても、無視して構わないってことだ」
朝比奈「あ!」
藤原「ふっくっく。わかったか?」
朝比奈「そうか…、そうよね」
藤原「じゃあ、僕は行くぞ。とりあえずもう暫くは、仲間の監視だ」ニヤリ
朝比奈「あ、あの、ありがとうございました」ペコリ
藤原「礼を言われる筋合いは無い」
朝比奈「私にはあるんです」ニコ
藤原「そうか」
朝比奈「はい」
藤原「じゃあな」

そう言って去っていく彼の背中に、私は小さくお礼を言った。

ありがとう。

117 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:35:36.94 ID:r5jjOZM0

キョン「…」ハァ

いつもとは違う作りの洗面台の鏡を覗き込みながら、俺は一つため息をついた。
胸のあたりに数え切れないほどの痣が付いている。ハルヒのせいだ。
台所では今、シャワーを浴びて着替えたハルヒが夕飯を作っている。
夕食を作っている間に、着ていたものとシーツを洗濯しようということになり、俺がその役目を仰せつかったというわけだ。
『全自動洗濯乾燥機だから丸めて放り込んでおいてくれればいいわよ』なんて言っていたが、さすがにベタベタのパンツや血の付いたシーツをそのまま放り込むのは抵抗があったので、
シャワーを浴びる前に風呂場でシーツやパンツのベタベタしたものなんかを洗い流すことにした。

キョン「…」ゴシゴシ

裸でこんなことしているのって結構シュールだよな。


長門「…」モグモグ

世界は極めて安定している。敵対勢力の干渉も認められない。
涼宮ハルヒの精神もいつに無く安定している。
彼の存在を涼宮ハルヒと同一座標に確認。…涼宮ハルヒの自宅。
先ほどは二人ともに、心拍の上昇と興奮状態を確認したが、今は安定している。
何か運動をしていたと判断。

長門「…」モグモグ

118 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:44:10.73 ID:r5jjOZM0

キョン「…ああ、そういうことだから。うん。頼むな」ピッ

電話を切り、ほっと一息つく。

ハルヒ「どうだった?」
キョン「プリンとジュースを買っていくことで何とかなった」
ハルヒ「なにそれ」クスクス
キョン「まだ小学生だからな。相談相手は」
ハルヒ「で、どういうことにしたの?」
キョン「団長様が合宿って言い出したから今日は帰れないってことにした」
ハルヒ「ふぅん」
キョン「なんだよ?」
ハルヒ「ふたりだけで合宿?」ニコ
キョン「そうだ」
ハルヒ「ふふっ」
キョン「嘘は言ってないだろ?」
ハルヒ「そうね、確かに団長が合宿って言ってるもの」
キョン「そうだろ?」
ハルヒ「そうね」ニコ
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…」チュッ

119 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/29(日) 23:54:54.70 ID:r5jjOZM0

ハルヒ「裸に布団って、結構気持ちいいわね。癖になりそう」
キョン「…そうだな」
ハルヒ「それに、キョンが隣にいるし」ニコッ
キョン「…」ナデナデ
ハルヒ「えへへ」
キョン「…体、大丈夫か?ハルヒ」
ハルヒ「ん。平気」
キョン「ならいい」ニコッ
ハルヒ「ふふ。なぁに、それ」
キョン「いや、結構、体に負担かかっただろ?」
ハルヒ「ん」カァッ
キョン「結構、したし」カァッ
ハルヒ「…」カァッ
キョン「…」カァッ
ハルヒ「ねえ、キョン」
キョン「ん?」
ハルヒ「あたし、幸せよ」
キョン「俺もだ」
ハルヒ「…ん」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「なぁに?」
キョン「愛してる」
ハルヒ「!」
キョン「お前は?」
ハルヒ「…愛してるわ。キョン」
キョン「ありがとう。言葉で聞きたかった」
ハルヒ「そっか」
キョン「ああ」

120 名前: ◆F/bQYgopwk[] 投稿日:2009/11/30(月) 00:05:11.58 ID:f/oGWEk0

ハルヒ「…」
キョン「…」
ハルヒ「…ねえ」
キョン「ん?」
ハルヒ「さっきのもう一回、聞かせて?」
キョン「あまり連呼するものじゃないと思うんだが」
ハルヒ「減るもんじゃないしいいじゃないの」
キョン「…」
ハルヒ「それに、今度はいつこんな風に過ごせるかわからないし…」カァッ
キョン「それもそうだな…」
ハルヒ「うん…」
キョン「愛してる。ハルヒ」
ハルヒ「…愛してるわ。…【キョンの名前】」
キョン「!」
ハルヒ「へへ。どうせなら名前の方がいいでしょ?」
キョン「凄い嬉しいぞ。ハルヒ」
ハルヒ「うん」
キョン「…」チュッ
ハルヒ「…」チュッ

愛してるぞ。ハルヒ。

おしまい

後はもうグダグダなイチャラブ展開くらいしか思い浮かばないのでここで終わらせた方が切りがいいかなと思いました。
読んでくださった皆様ありがとうございます。感謝!



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