キョン「橘…」


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17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 19:01:55.52 ID:IhZ+lULz0

なんでだろう。
気がつけば俺はあいつに惹かれていた。
あいつは朝比奈さんを誘拐した張本人だというのに、
ハルヒとは違う――まるで太陽のような――明るさに目を奪われていた。

ハルヒと佐々木が巻き起こした春の嵐が去り、夏が過ぎ、秋が来た。
当事者二人と、それを取り巻く未来的宇宙的超能力的組織の面々もそこはかとない退屈を感じていたいに違いない四ヶ月、
俺はまるで卵を温める雌鳥のそれのように、優しく、時間をかけて橘との関係を温めていた。

そして今、俺は駅前の喫茶店に向かっている。
もし約束を忘れていなければ、橘が隅のほうで所在なげに座っているはずだ。
橘が俺に好意を抱いているという確信はある。
あとはあいつが、課せられた行動の制約を振り払うことができるかどうかにかかっている。
あいつは組織のせいで奔放な恋愛をすることができない。したこともない。
ハルヒの監視で青春が終わる。
そんなの、悲しすぎるじゃないか。

愛機を止めて、喫茶店のドアを前に立ち、深呼吸する。
冷たい空気が加熱気味の頭を冷やしてくれた。
腕に力を込めた。

涼しげな鈴の音が俺を出迎えてくれた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 20:04:32.61 ID:TYuuK3ZqO

>>17

キョン「…よぅ橘」

そう言って前の席に座っているツインテールの少女に挨拶する。

橘「…遅いじゃないですか」

時計に目をやる。
よし。まだ10分前だ。

キョン「なに言ってんだ橘。まだ集合時間にはなってないぞ?」

そう言うと橘は頬を膨れさせて言った。

橘「女の子を待たせるなんて最低なのです!男なら例えそれが一時間前だろうと女の子より先に来るのが当たり前なのです!」

…やれやれ。
こいつもいつの間にかハルヒみたいになってやがる。
キョン「はいはい。すみませんでした…。それで今日はどこに行くんだ?」

橘「そんな軽い謝りかたじゃ許さないのです。…と言いたいところですけどせっかくの休みを説教だけで終わらせるのはもったいないので許してあげます。」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 20:30:47.89 ID:TYuuK3ZqO

キョン「でだ、今日はどこに行くんだ?」

そう橘に尋ねると、予想だにしない回答が返ってきた。

橘「んー、じゃあ今日わたしの家に来ませんか?」

…落ち着け俺…。
橘にどこもおかしい様子はない。
と言っても冗談を言っているようにも見えない。
つまり今日は「家に遊びにきませんか〜?」くらいの軽いノリでの発言だろう。
エロい展開?そんなもん期待してるわけないじゃないか。

…そこ、ヘンな目で俺を見るな。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 21:04:29.59 ID:TYuuK3ZqO

キョン「そういえば橘の家ってどこにあるんだ?」

店を出て、共に家を目指している橘にそう尋ねる。

橘「わりと近くですよ?あ、ほら、あそこのマンションです。」

そう言って橘が指さした方を見…うわぁ…。

長門んところのマンションかそれ以上あるぞこれは…。

橘「どうかしましたか?キョンさん。」

キョン「あぁ、いや、なんかそのー…、デカイ家だなぁって。」

橘「そうですか?まぁわたしは実家のほうが好きなんですけどねー。」

キョン「いつか連れてってくれよ?」

そう言うと橘は、顔を真っ赤にして、

橘「な、なにを言ってるんですか!」

…うん。やっぱり可愛い。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 21:24:37.43 ID:TYuuK3ZqO

マンションに着く。
長門のところ同様にここもオートロック式のようだ。
いやはや、さすが高級マンションといったところか。

キョン「ここは何階建てなんた?外から見ても十分高かったが。」

橘「えーと、確か20、30階くらいだった気が…」


ったく、自分の住んでるところのことくらい少しは覚えとけ。

キョン「やっぱり橘って頭悪いんだな…」ボソッ

橘「へっ?なにか言いましたか?」


そう言って首を傾げる橘。
うん。どうしようもなく愛しい。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 22:40:50.41 ID:TYuuK3ZqO

風呂入ってました

では続き>>37

エレベーターで上って行く。
てか、ホントに何階建てなんだろうかまったく。

キョン「おい、まだ着かないのか?」

橘「もうすぐですから子供みたいなことを言わないで下さい。」


ピンポーン

どうやら着いたようだ。
部屋の数もハンパじゃないな。

橘「ここです。」

そう言われてふと思い立った。
そういえば女子の家に遊びに行くの初めてだな。

長門のときは…なんか違ったし、阪中のときはSOS団絡みだったからな。

純粋に女子の家に行くのは今日が初めてだな。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 22:51:13.90 ID:TYuuK3ZqO

ていうか俺達は付き合ってるわけじゃないし、橘が俺のことを想っているというのも――俺は橘のことを想っているが――俺の勘違いかもしれない。

ちょっと考えてみたが別にどうでもよいことだ。

俺は橘が俺を誘ってくれたことをとても嬉しく思っているし、つまり橘は俺のことを嫌ってるということはまずないので、十分満足だ。

この想いはそのうち伝えればいいだろう。

別にヘタレというわけじゃないからな?

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 23:01:02.15 ID:TYuuK3ZqO

橘「さあさあ、どうぞ上がって下さい♪」

キョン「おじゃましま」


橘の部屋に入ろうとし―――一緒足を止めた。

橘の部屋は長門の無機質さとは違う、またファンシーすぎるわけでもない。
ごくごく一般的な――まあ女子の部屋に上がるのは初めてだが――雰囲気だった。


橘「どうしたんですか?」

キョン「いや、なんかホントに女子の部屋だなー、って思ってな。」

橘「当たり前じゃないですか。早く入って下さい。わたしが部屋に男連れてきたのを近所の人に見られたら大変なのです。」

キョン「わかったわかった。だからそう急かさないでくれ。」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 23:11:18.86 ID:TYuuK3ZqO

橘「お茶を煎れるので待ってて下さい。」

キョン「わかった。」

…やはり落ち着かない。
好きな女子の家で二人きり。
このシチュエーションで冷静にいられるやつがいたら見てみたいもんだ。

橘「〜〜♪〜〜〜♪」

台所から橘の鼻唄が聴こえる。
それすらも愛しいと感じてしまうのはやはり好きという感情なためだろうか。


まったく、ハルヒや佐々木の言っていた『精神病』の意味がここ最近やっと理解できた。

…やっかいなもんだな。


橘「〜〜〜〜♪」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 23:27:04.85 ID:TYuuK3ZqO

橘「お待たせしました〜♪」

キョン「サンキューな。…って、こっちのクッキーは?」


そう、橘は一緒に出来立てほやほやの手作りクッキーとおぼしきものを持ってきたのだ。

橘「それはですね…なんとわたしが焼いたのです!料理は得意なんですよ♪」

確かにうまそうだ。
しかし疑問がある…。
橘はこのクッキーをいつ焼いたのだろうか。
明らかに今の時間じゃ無理だ。

これじゃまるで、あらかじめ―――

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/15(火) 23:30:25.95 ID:TYuuK3ZqO

キョン「橘…。もしかしてお前今日最初から俺を家に誘う気だったのか?」

橘「へ?なんでですか?」

キョン「いや、このクッキーが焼きたてみたいだからな。まるでちょうど俺が来るのがわかってたみたいだ。」

橘「え、そ、それは違うのです!勘違いもいいところです!たまたまなのです!」

どうやら図星のようだ。
橘は顔を真っ赤にして反論してくる。

橘が俺のためにクッキーを焼いてくれたなんて…。

正直、たまりません。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 06:29:15.28 ID:sMQuRxWnO

再開

橘「もう…!馬鹿なことばっかり言わずに早く食べてください。」

そう言って橘はクッキーを無理矢理俺の口まで持ってくる。

これは俗にいう"あーん"というものではないか?

いかん、考えたら妙に恥ずかしくなってきた。

キョン「い、いや、別に自分で食うから…。」

橘「あ…!わたしったらなにを…。」

ばか!俺のばかっ!
橘のあーんを自分で止めるなんて…。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 06:36:27.04 ID:sMQuRxWnO

後悔と、後悔と後悔の念に苛まれながらクッキーを口まで運ぶ。

―――正直味なんてどうでも―――

等とというアホな考えは一瞬で吹き飛んだ。

キョン「…美味い。」

橘「へへ〜♪さすがわたしの手作りクッキーなのです。」

と、橘は言う。
が、実際このクッキーははっきり言って今まで食った中でもトップクラスに美味い、もちろん、お世辞なんかではない。

キョン「お前料理できるってほんとなんだな。正直ビビったぞ。」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 06:46:03.64 ID:sMQuRxWnO

橘「このわたしにとってクッキー作るのなんて朝メシ前なのです♪それに今日は少し頑張っ…、いや!なんでもないのです!」

またまた顔朱くして橘は言う。
ところで、最後のほうはなんて言ってたんだ?
ゴニョゴニョ喋ってて聞こえなかったが…。

まあ、どうでもいいか。

キョン「とても美味しかったぞ、橘。ほかの料理も食べてみたいもんだ。」

そう言うと、橘は嬉しそうに

橘「はい♪キョンさんのためならいつでも作ってあげますよ♪」

そう、満面の笑みで、橘は言った。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 06:55:33.11 ID:sMQuRxWnO

決まった!
ふふふ、ついに言ってやったのです。

…顔、 変になってないでしょうか。

まあ、このニブチンにはこれくらい言ってやらないとわからないのです。

ていうか、キョンさんはホントに好きなんでしょうか…。
実際、本人に言われたわけじゃないし、わたしの予想にすぎないのです。

…考えてみたら、自信がなくなってきました。

で、でも最初の頃と比べると全然嫌そうな顔をしないし、凄く口数も増えたし、それに最近は微笑んでくれるようになったのです。

あの笑顔はまったくもって反則なのです…。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 07:04:03.92 ID:sMQuRxWnO

ていうか、この男はホントに卑怯です。
普段はぶっきらぼうにしか接さないくせに、いきなり優しくしてくるのです。

さっきの『クッキー美味い』で思わずにやけてしまいました…。

べ、別にいいじゃないですか!
あんな笑顔で言われたら誰だってああなっちゃいますって!

…ほんと、この男は卑怯ものです。

だから、わたしも今日はちょっと卑怯になります。

目の前で口をポカンと開けてる男にさらなる追い撃ちをかけてやります。

できるだけ平常心で…、できるだけ普段通りに…。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 16:20:32.29 ID:sMQuRxWnO

橘「どうでもいいことですが、わたしは佐々木さんたち以外を家にあげるのは初めてなんです。」

淡々と橘は語る。

橘「だって、本当に心を許せる人しか呼びたくなんかないのですから。」

橘の紡ぐ、一言一言が俺の耳にはっきり届く。

橘「そして、キョンさんはそれに値する人物です。」
そして最後に…、

橘「ではキョンさん…、貴方ははわたしのことどう思ってるですか…?」

この一言で俺はパニックに陥った。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 16:38:20.13 ID:sMQuRxWnO

『わたしのことどう思ってるですか?』

確かに、橘は俺にそう尋ねた。

どういうことだ?
橘は俺になにを言わせようとしてるんだ?

『心を許せる人しか呼ばないんですよ。』

『キョンさんはそれに値する人物です。』

言葉のピースをひろい集める、形にしていく。

そうか、そういうことか。
橘の言って欲しい言葉がわかった。

つまり――――――


キョン「あぁ、橘。俺にとってお前は唯一無二の親友だ。」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 17:07:33.89 ID:sMQuRxWnO

俺は本当に馬鹿な人間だ…。
人として最低なことしちまったな…。


『唯一無二の親友だ。』

あの一言の後、橘は凄い剣幕で俺を追い出した。

『橘、なにをそんなに怒ってるんだ!?』

そんなもんわかりきったことじゃないか。

『ちゃんと説明してくれ!』

むしろ俺のほうがちゃんと説明できるんじゃないか?

なんて馬鹿なやつなんだ俺は…。

いくら後悔しても足りなさすぎる。

あそこはちゃんと言うべきだったんだ。


―――好きだ―――

と…。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 17:33:12.84 ID:sMQuRxWnO

『なんですかなんですかあなたは!』
『期待させるだけさせといて!』
『結局わたしの勘違いだったんですか!?
『もういいです!さっさと帰ってください!』


あの後、わたしは何時間か泣きつづけた。

はぁ…。どうしてだろう。
いくら考えてもわからない…。

橘「ホント…、やになっちゃいます…。」

これからキョンさんとどうしよう…。

ピンポーン

まったく、こんなときに…。
わたしは玄関に向かう。

橘「どちらさまですか…?」

誰だろう?もう夕方だというのに。

?「あれ?どうしたの橘さん。元気ないね。」

そこには、わたしの数少ないホンモノの親友、佐々木さんがいた。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 17:40:44.95 ID:sMQuRxWnO

わたしは突然の来客に驚いたが、すぐに招き入れた。

佐々木「さっきも聞いたけど、なにかあったの?」

橘「別に気にしないでください。なんにもないのです♪」

わたしは今できる最低限の笑顔でそう言った。

佐々木「…橘さん。わたし達は親友でしょ?橘さんが辛そうにしてるの、わたしは見たくないよ。」

…どうやら、佐々木さんにはバレバレみたいだ。

それより今は、佐々木さんの優しさで泣いてしまいそうだ。

けど、わたしは涙をこらえて今日のことを話した。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 18:15:11.98 ID:sMQuRxWnO

橘「…ヒグッ…というわけなのです…ウグッ…。」

結局わたしは泣いてしまった。

全て話し終わった後、佐々木さんはなにも言わずにただ優しく抱きしめてくれた…。

佐々木さんに話したことで少し落ち着くことができた。

橘「ありがとうございました…。こんなつまらない話しをわざわざ聞いてくれて…。」

佐々木「…全然つまらない話しなんかじゃない。それよりも、わたしは橘さんが少し元気になってくれたみたいで嬉しいよ。」

佐々木さんは、やはり大切なわたしの親友だ。
その優しさが身に染みる。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 19:27:31.72 ID:sMQuRxWnO

佐々木「だけどね、これからどうするの?」

橘「どうするの、とは?」

もちろんキョンさんのことだ。

…わかってるけど逃げたくなる。

佐々木「キョンのことに決まってるでしょ…。どうせいつまでも逃げることなんてできないんだからね?」

ぐっ…、痛いところを突いてきますね…。

でも、佐々木さんの言ってることは事実で、それにキョンさんと疎遠な関係になるなんて絶対に嫌なのです。

でもわたしは次の言葉がなかなか出ませんでした。

橘「………。」

佐々木「…あんまり意地張ってたらわたしがキョンをとっちゃうよ?」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 19:37:02.09 ID:sMQuRxWnO

えっ?えっ?えぇっ!?

橘「ダメです佐々木さん!キョンさんは」佐々木「はいはい、わかってるよ。」

佐々木「それが橘さんの本心だから、その気持ちはキョンに…ね?」

…佐々木さんもずるい人です。

橘「はい!」

でも、それよりもずっとずっと優しい人なのです♪

佐々木「じゃあわたしはそろそろ帰るね。」

橘「今日は本当にありがとうございました!」

佐々木「ふふっ♪あぁ見えてキョンは橘さんのことばかり考えてるからね。」

へっ?そうなんですか?

佐々木「それでは、またね。」

橘「えっ、ちょ、佐々木さん?」

ホント佐々木さんって人は…。

わたしは佐々木さんが行ってしまった後、もう一度佐々木さんの方へ一礼した。

橘「…本当にありがとうございました。」

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 21:04:44.54 ID:sMQuRxWnO

後悔に苛まれながら家にたどり着いた俺は別になにをするわけでもなく、ただベッドに寝転んでいた。

―――橘に連絡しよう―――

そう思い携帯を手に取り、やっぱりやめる…。

帰ってからずっとこれの繰り返しだ。

このどうしようもないヘタレさを呪った。
…いや、ヘタレなのは自分自身なのだ。

そしてまた携帯わ手に取り、また置こうとした。

その時、

prrrrr....

…ったく、誰だよこんな時に。

キョン「…もしもし。」

佐々木「やあ、キョン。」

佐々木からの電話だった。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 21:13:16.61 ID:sMQuRxWnO

キョン「どうしたんだ佐々木。お前からかけてくるなんて珍しいな。」

佐々木『君こそ一体どうしたんだい?橘さんを泣かせるようなマネをして。返答次第じゃボクは君を許さないよ?』

…橘絡みか。

キョン「別になにもねぇよ…。気にするな。」

そう電話の主に言う。

佐々木『じゃあ君はなにもないのに橘さんを泣かせたのかい?これは絶対に許されないことだね。』

この雰囲気…、佐々木は本当に怒っている…。

下手な返答はよしたほうがよさそうだな。

キョン「その様子だと橘から話しは聞いているようだな。お前だってわかるだろ?俺はそんなポンポンと言えるようなガラじゃないんだ。」

すると、思いもよらぬ言葉が返ってきた。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 21:22:21.96 ID:sMQuRxWnO

佐々木『そんなの関係ないし、興味もない。ただ、なんで橘さんにあんなことを言ったか聞いてるんだ。』

キョン「だから――――」

佐々木『…橘さん、ずっとずっと泣いてたんだよ…?』

佐々木『キョンの話しをする時も泣いてた…。しかもそれを一生懸命堪えようとしながら。橘さんの気持ちが君にわかるのかい?』

…橘。
そんなにお前は…。

佐々木『あまりの痛々しさに見てるこっちが辛かったぐらいだ。君の軽率な、…いや、軽率という言葉は合わないね。キョンも自分自身で考えた末の発言だったのだろうからね。でも、君の"橘さんのこと"を考えない発言のために彼女は来るしんだ。わかるかい?』


…なにも言い返せない自分が情けなくなる。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 21:31:30.28 ID:sMQuRxWnO

佐々木『…彼女もね、気丈に振る舞ってるけどね、只の女子高生なんだよ?こういう言い方は良くないとはわかってるけど、涼宮さんやボクのせいで組織の幹部なんてものをやってるだけの、ごく一般的な女子高生…。』

佐々木『ボクはね、時々ボク自身が彼女を縛ってるんじゃないかと思うんだ。それでそのことを橘さんに話したことがあるんだ。』

黙って佐々木の話しに耳を傾ける。

佐々木『するとね、橘さん、こう言ったんだよ。』

佐々木『――わたしは佐々木さんの友達です!友達が側にいてなにがいけないんですか!――ってね。』

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 22:58:47.54 ID:sMQuRxWnO

佐々木『まさか怒られるなんて思ってもいなかったよ。…でも、橘さんは本当にボクのことを、信仰の対象という存在ではなく佐々木という存在を、しっかり考えくれてたんだなー、って思わされてしまった。あ、もちろん九曜さんと藤原くんもだからね。』

佐々木と橘がこんな 関係だったとは…。
本当に橘はいろんな人に幸せと笑顔を与えてるんだな…。

佐々木『ちょっと昔語りがすぎたね。本題に戻ろうか。』

ここで佐々木は一呼吸おいて、

佐々木『キョン、君は橘さんをどうしたいんだい?』

人生最大とも言える選択をせまってきた。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 23:14:20.62 ID:sMQuRxWnO

切れた電話に目をやる。

「フラれちゃったなぁ…」

そうひとりごち、苦笑を浮かべる。

でも、後悔の念などまったく微塵もこれっぽっちもない。

キョンのあの選択は大正解だったから。


………
……………
…………………

『……俺は、橘に自分の気持ちを伝えたい。』

『くっくっくっ、それでこそボクの知ってるキョンだ。それなら善は急げだ。早く橘さんに連絡をしないとね。』

『ありがとうな佐々木…。お前がいなけりゃ俺は…。』

『キョン、真のお礼とはやはり言葉などその他諸々などの精神的要素だけじゃなく、物質的なものも必要だと思わないかい?』

『はぁ…。いいだろう。今度好きなもん好きなだけ食わせてやる。』

『くっくっくっ、了承した。楽しみにしてるよ。』

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/16(水) 23:25:17.33 ID:sMQuRxWnO

『…でも本当にありがとう。やっぱりお前は俺の大切な親友だ。』

『へぇ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それじゃ、健闘を祈るよ。またね。』

『あぁ、またな。』


…………………
……………
………



まったく、ボクの付け入る隙間もないようだ。

…正直言うとちょっと悔しい。

けれど、それよりも安堵の気持ちのほうが大きいという事実に、ボク自身驚いてる。
恋愛よりも友情をとるなんて、ボクは一生独り身タイプかもしれないな…。

でも、それも良いかもしれない。

冗談なんかじゃないよ?
だって、一生モノの親友が四人もいるんだからね。

…さて、今日はもう寝ようか。

明日の報告が楽しみだな。

それではみんな、おやすみ…。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 06:39:54.12 ID:G25tVnB3O

佐々木との電話を終え、一度深呼吸する。
佐々木にはいくら感謝しても足りないな…。

そして時計に目をやり、現在の時間を視認する。

19時30分。

まだ、全然大丈夫な時間だ。
場所は…、そうだな、あの公園にしよう。

そう思い、携帯を手に取る。
今度は途中でやめたりなどせず、橘に電話をかける。

コールの一つ一つがとても長く感じた。

そして、

キョン「よう橘、お前に伝えたいことがある。今から公園…何時もの公園に来てくれ。じゃあな。」

留守番電話だった。
しかし、それでも十分だ。

そして、意を決して向かう。

俺の、一世一代の大勝負へと。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 06:51:02.30 ID:G25tVnB3O

んん…、少し眠っちゃってたみたいです。

えーと今は…19時40分ですか。

おや?携帯が光ってます。
一体なんでしょうか…。ちょっと見てみましょう。

一件着信あり:キョンさん
一件伝言メッセージあり

思わず息を飲みました。。

もう見なかったことにしようか…、いやいや!
佐々木さんとの約束なのです!
わたしは逃げません。

そう思い直し、わたしは伝言メッセージを確認した。

公園に今すぐ…。

気付いたときには既に身体が動いちゃっていました。

そして駆けていきました。
自分の素直を気持ちをキョンさんに届けるために。

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 15:58:29.51 ID:G25tVnB3O

夜の公園。
もう外は暗く、人通りも少なくなっていた。

俺は缶コーヒーを飲みながら、橘を待っている。

しかし、不安である。橘は来てくれるのか?

えぇい、橘が約束を破ったことが…ありすぎてどれにするか迷うな。

まあ約束と言ってもこっちが押し付けたものだからな。

来なかったら待つだけだ。
あいつが来るまで。

なかば変質者気味の思考を巡らせていると、それは、突然現れた。


そう。
俺の待ち人、橘京子が。

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 16:36:39.78 ID:G25tVnB3O

橘が、あまりにも唐突に現れたもんだから俺は一瞬息を飲んだ。

しかし、

キョン「よう…、橘。」

俺の気持ちはあの時より確実に良い方向に向かっている。

橘「…なんですか、こんな時間に。」

橘が少し俯きながらそう言う。

キョン「橘っ!あの時はホントすまん!」

腹の底から声を出して謝罪する。

橘「ちょ、そんな大声出したら近所迷惑なのです!静かにしてください!」

キョン「そ、そうだな。す、すまん…。」

思わず謝る、が、橘も大声出してなかったか?

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 16:56:42.58 ID:G25tVnB3O

橘「今さっき病院で検査したのです。採血が凄く痛かったです…。」グスッ

キョン「あー、確かにあれは俺も嫌いだな。」

橘「やっぱり注射はいくつになっても嫌いなのです。中学校入ったら予防接種なんてほとんどサボってましたし…。」

キョン「おいおい、去年はインフルエンザがめちゃくちゃ流行ってたじゃないか。」

橘「へ?そうだったんですか?結局なにも起こりませんでした。」

キョン(馬鹿は風邪をひかないというが…、風邪とインフルエンザは同族なようだな。うん。)

キョン「ところで何の脈絡もなく始めたこの話しをどう終わらせる気だ?」

橘「うーん…。」


ホントごめんなさい今すぐ再開します

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 18:32:36.93 ID:G25tVnB3O

キョン「と、とりあえずあの時はごめんな…、逃げていたんだ俺は。」

深々と頭を下げる。

橘は一回ため息をつくと、

橘「ふふっ♪そのことは許してあげます。わたしは寛大なのです。」

全てを包み込むような声で、そう言った。
顔をあげると橘はまるで聖母マリア様並の微笑み、しかしこの暗い夜を照らす夏の向日葵のような、そんな笑顔をだった。

しかし…。

キョン「………。」

橘「どうしたんですか?キョンさん。」

今俺が橘と向き合ってるのは、謝るためなんじゃない。

一番大切なことを、今から伝える。

キョン「橘…、今から大事なことを言う。聞いてくれ。」


空気が、変わった。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 18:47:15.18 ID:G25tVnB3O

橘は俺の雰囲気が変わったことに気付き、表情を一変させる。

キョン「ある女がいた。初めて見たのは、場も凍るような騒然とした雰囲気の中だ。俺は、大事な仲間が拉致られたことでもの凄いキレていた。それこそ、犯人をぶっ殺してやれうってくらいな。」

そう、アクション映画顔負けのカーチェイス、その末に見たあの顔。
絶対に許さない、そう思っていた

キョン「次に会ったのは古い友人との再会のつもりが、余計な付属品が三体も付いてきやがった。しかも、片や俺の先輩を誘拐、片や俺の恩人を苦しめた、俺のにっくき敵どもだ。」

おまけにそいつは、『佐々木さんが本当の神様だ』『こっちの仲間に入らないか』等と、ふざけたことを吐かしていた。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 19:18:32.27 ID:G25tVnB3O

キョン「その女は何度も接触を謀ってきた。まあ俺は会うつもりも話すつもりもなかったから、その度に追い払っていた。」

そうだ。
そいつは俺を色んなとこで待ち伏せ、ついには家にまで侵入してきやがったこともあった。

キョン「しかし、あまりにもしつこいからな。一回だけそいつの誘いにのることにしたんだ。そしたらそいつ、子供のように喜んでまわるんだ。そして、そいつの屈託のない笑顔に一瞬目を奪われていたんだ。」

ピョンピョンと跳ね回りながら、『やったー♪』なんて言いやがる。

…もしかして俺はその時既に、そいつに惚れていたのかもしれないな。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 21:16:02.08 ID:G25tVnB3O

キョン「それから俺はそいつと普通の友達のように遊んでいた。」

キョン「そして、それは友達感覚じゃなく、一人の女として惹かれていった。俺は口ではいやいや言いながら、心の奥ではそいつからの誘いを心待ちにしてたんだ。」

休日なんて、ガラにもなく肌身離さず携帯を持ち歩いてた。

キョン「そして俺は自分の気持ちに気付いていった。しかし、俺は全然素直になれなくてな…。」

キョン「今日なんか、俺のせいでそいつを泣かせてしまったんだ。」

目の前にいる少女はいったいどんな顔をしてるんだろうか。

キョン「でもな、ある友人に『自分の気持ちをちゃんと伝えろ!』って言われてな、目が覚めたんだ。」


少し間をあける。
辺りに人はいなく、世界中に俺達二人だけのような気がした。

長いようで、短い。
そんな小休止。

そして―――――

キョン「お前が好きだ。付き合ってくれ。」

―――――俺は思いを告げた。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 21:45:54.50 ID:G25tVnB3O

言ってしまった、と俺は思った。

それは後悔ではなく、充足感、達成感に似たものだ。

返事は、まだない。
ただ、時折聞こえる風がこの世界を包んでいる。

橘は、俯いたまま。
そう思った瞬間。

橘「キョンざんのばがぁ〜!!」

泣きじゃくりながら俺に抱き着いてきた。

橘「…エグッ…いったい…わたしがどれだけ…ヒグッ…待ってたと思ってるんですかぁ…。いつもいつも…グスッ…期待して待ってても…。」

俺の胸の中で泣いている橘を、強く強く抱きしめた。

キョン「…ホントにすまなかったな。こんな可愛いやつに告白しないなんて俺はどうかしてた。」

橘「…エッグ…いまさらそんな調子いいこと言ってぇ…罰としてわたしが泣き止むまでギュッとしててください…ヒッグ…。」

キョン「ああ、お前のためならいつ何時でもこうしてやるよ…。」


そう言って、俺は小さな橘の身体を先程とは違く、愛しく優しく抱きしめた…。

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 22:09:16.36 ID:G25tVnB3O

……
……………
……………………


キョン「…というわけで俺と橘は付き合いことができた。お前は俺達の恩人だ。ありがとな、佐々木。」

佐々木『くっくっくっ、キミ達二人が両思いなのは、明らかだったからね。ホントキミ達はお似合いのカップルだよ。とにもかくにもにもおめでとう。』

こいつには何個貸しをつくればいいのやら…。

佐々木『それで今日はデートかい?』

…何故わかった。

佐々木『キミのその声を聞けばわかるよ。それじゃあまた。…もちろん食べ放題の約束は…ね?では。』

本当に大した友人だ…。

キョン「ああ、またな。」

別れを告げ電話を切る。

外からは愛しい彼女の声。

「はやくきてくださーい!電車に乗り遅れちゃいますよー!」

…やれやれ。
これからは忙しくも幸せな時間が続きそうだな。

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 22:10:03.71 ID:G25tVnB3O

〜Happy End〜

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/17(木) 22:14:38.20 ID:G25tVnB3O

>>1です

支援、保守まことにありがとうございました。

もともと誰かに書いてもらうつもりが結局自分で書くなんて…。

こんなスレに三日間も構ってくれてありがとうございました。

きっとキョンときょこたんのカップルも感謝していると思います。

では、最後に。





きょこたん可愛いよきょこたん



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