キョン「暇を持て余した」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:19:31.16 ID:ntoOPfBG0

キョン「今日は古泉もいないし」

古泉「・・・」

キョン「長門は相手してくれないし」

長門「・・・」

キョン「朝比奈さんでも眺めてすごすか」

古泉「・・・あの」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:21:36.85 ID:ntoOPfBG0

キョン「うぉ!?なんだ、いたのか古泉」

古泉「はい、ずっと」

古泉「ていうかこれだけ近いんですから気付いてくださいよ」

キョン「ドアが開いた音は聞いてたが・・・」

古泉「それ僕じゃないです」

キョン「じゃあお前はいつから・・・」

古泉「・・・あなたが部室に向かっている途中からです」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:25:59.60 ID:ntoOPfBG0

キョン「・・・もしかして」

古泉「はい、ずっと無言であなたの横を歩いていました」

キョン「なぜ言わない」

古泉「気付いてないと思わないですよ普通」

キョン「ならさっきドアを開けたのは朝比奈さんか」

古泉「違います。あなたが開けっ放しにしていたのがしまったんです」

キョン「・・・あれ?」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:30:21.40 ID:ntoOPfBG0

キョン「・・・まあいいや。古泉はいなかったことにしよう」

古泉「ちょっと待ってください」

キョン「あ、長門。今日はハルヒは休みなんだが、お前何か聞いてないか」

長門「なにも」

キョン「そうか・・・また良からぬ事でも企んでるのかと・・・」

古泉「あの・・・」

朝比奈「お茶が入りましたよー」

キョン「ありがとうございます」

朝比奈「長門さんもどうぞー」

長門「いただく」

古泉「僕の分は・・・」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:34:04.69 ID:ntoOPfBG0

キョン「今日は将棋もオセロも出来んな・・・」

古泉「お相手しますって・・・」

長門「・・・私がやってもいい」

キョン「勝てる気がしない」

朝比奈「わ、私もやってみたいです」

キョン「朝比奈さんならいい勝負できそうだ」

古泉「じゃあ長門さんは僕と」

長門「なら私は見学させてもらう」

古泉「・・・」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:37:22.87 ID:ntoOPfBG0

古泉「あのー・・・」

キョン「あ、そこの角いただきます」

朝比奈「キョン君強いです・・・」

長門「朝比奈みくるはあと三十手以内に敗北する」

朝比奈「ふぇえ!?」

古泉「実は僕、なにもないところからから揚げ出せるようになったんですよーほーらほーら」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:39:43.34 ID:ntoOPfBG0

キョン「きっちり三十手だったな」

朝比奈「さすが長門さんです」

長門「私ならあと二十手は早く勝てた」

キョン「そこまで圧倒的なら逆に見てみたいね」

長門「受けて立つ」

古泉「あのーキョン君。ひじが、右ひじが湯のみを倒してます。熱いです。お茶が」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:44:36.51 ID:ntoOPfBG0

キョン「・・・負けた」

朝比奈「すごい・・・白一色・・・」

長門「盤を埋めるまで続けることも可能だった」

キョン「参った。勝てん。ちょっとコツを教えてくれ」

古泉「参りましたよほんとに・・・ほら、漏らしたみたいなシミが・・・」

長門「この場合、次に置ける場所が・・・」

キョン「なるほどそうか・・・」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:49:24.32 ID:ntoOPfBG0

キョン「今日は有意義な時間をすごせた」

長門「実は私は将棋も得意」

キョン「今度指南してくれよ」

朝比奈「私もよろしくお願いします」

古泉「・・・」

キョン「さて帰るか・・・どうした?古泉」

古泉「えっ、あっ、はい!帰りましょう!ふふっ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:55:37.38 ID:ntoOPfBG0

家に帰り着いたところで、俺はとんでもない異変に気付く。
急いで携帯を取り出し、さっき別れた古泉に連絡する。

「大変だ古泉。さっきの今で悪いがすぐ来てくれ」

『どうしたんです?そんなにあわてて』

「いいからすぐ来い!公園だ!いいな!」

『・・・ただ事ではありませんね。了解しました』

俺はさっき来たばかりの道を逆送する。
公園に向かう前に、長門を呼んでおかないといけない。
走って長門のマンションへ向かう途中、なんどもモノにぶつかった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 22:58:10.09 ID:ntoOPfBG0

「長門!」

ドアを叩く。
暫くして長門が顔を覗かせる。

「何」

「今公園に古泉を呼び出した。お前も出来れば来て欲しい・・・相談がある」

「ここですればいい」

「すまんが二人の意見が聞きたいんだ。ついてきてくれ」

長門は少し考えた後、こくりと頷いた。
公園はすぐそこだ。時間から考えてもう古泉が来てもいいころだった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:05:25.24 ID:ntoOPfBG0

「どうしたんです?大慌てで」

古泉はやはり既に到着していた。

「どうしたもこうしたもない」

手を引いてつれてきた長門も心なしか不思議そうだ。

「今日、古泉のズボンにお茶を零したよな」

「はい、確かに・・・」

「あれ、わざとじゃないんだ」

一瞬ぽかんとしてから古泉が怪訝な顔をする。

「いたずらの言い訳にしては大げさでは?」

「違うんだ!あの時湯のみをどこに置いてたか思い出してくれ!」

「・・・貴方の、右側ですが」

「私もそう記憶している」

俺は言いたくない事実を口にする。

「あの時、俺は右側に置かれた湯のみが、見えてなかったんだよ」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:09:23.52 ID:ntoOPfBG0

「・・・それは、不注意で、という意味でしょうか」

古泉の表情が曇る。

「違う。さっき気付いた。俺の視界は・・・右側だけ極端に狭いんだ」

古泉の表情が困惑から驚愕に変わる。
あの長門まで眼を見開いた。

「・・・どうして今更?」

「気付いたのがさっきだったんだ。俺の視界の悪さに!きっとこれは」
「待ってください」

まくし立てようとした俺の言葉を遮って古泉が言う。
聞きたくない、信じられない言葉を。

「貴方の視界が悪いのは当然ではありませんか」

「だって貴方は」

右眼が、無いんですから。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:16:20.89 ID:ntoOPfBG0

「・・・は?」

俺は恐る恐る右眼のある筈の位置に手を当てる。
ぺたぺたとした感触。
そこには本来あるはずの球体は存在せず、ただくぼんだ眼窩だけが存在していた。

「どういう、ことだ」

「どういうことだ古泉!長門!俺の・・・俺の右眼は!」

右眼が無い。ずっと一緒だったはずの右眼が。
その事実は俺の正気を深く深く切り裂いた。

「落ち着いてください!僕の記憶では・・・少なくともあなたは出会った時から右眼がありませんでした」

「そんな・・・馬鹿な・・・」

「・・・わかったぞ、古泉。手品かなんかで今日の仕返しをしようってんだろ」

「古泉一樹の言っていることは全て事実。貴方は私達と関係する前から右眼を失っていた」

長門の無感情な声が俺の右眼の穴に吸い込まれていった。
俺はおかしくなったのか?どうしちまったんだ一体!

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:22:27.61 ID:ntoOPfBG0

「考えられる原因が一つある」

訪れた沈黙を破ったのは長門だった。
やはり長門だ!こいつならきっとなんとかしてくれる・・・!

「私達に感知されずに対象の記憶を書き換えるような能力を持つ者がいる」

「あいつか・・・ハルヒか!」

長門は頷いた。
どうやらこの状態はハルヒのせいらしい。
考えてみれば当たり前だ。俺には確かに右眼で見た世界の記憶がある。
だったらおかしいのは周りの連中で、そんな状況を生み出せるのはあいつしか居ない。

「僕も同じことを思っていました。貴方のその眼ははっきり言って記憶に残ります」
「それなのに、全く印象に残っていない・・・初対面のときでさえもね。それは流石に異常と言えるでしょう」

「ってことは・・・ハルヒの奴を問い詰めれば・・・!」

これは希望だ!この異常な状態から抜けだす希望!
ハルヒだ。とにかくハルヒ。あいつさえなんとかすれば・・・

「それは不可能」

長門が俺の高揚した気分に水をぶっ掛ける。
なんだっていうんだ。

「それは、なぜだ?」

一拍ほど、溜めがあった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:27:52.15 ID:ntoOPfBG0

「涼宮ハルヒは、今この世界に存在しない」

希望は打ち砕かれた。
奇しくも希望を与えたのも長門、砕いたのも長門だった。

「どういうことだよ」

「昨日の深夜、大規模な情報爆発が観測された。・・・それ以後、涼宮ハルヒという個体情報はこの世界では確認されていない」

なんてこった!あの馬鹿、やるだけやって消えやがった!

「どうしたらいいんだよ!長門!ふざけるなよ!教えろ!おい!」

俺は長門の襟を掴んで揺すった。
無意識の行動だった。

「どうすればいいんだ!俺は!俺の右眼は!」

「やめなさいキョン君!落ち着いて!」

古泉に止められてやっと我を取り戻す。
長門は尻餅をついて咳き込んでいた。

「あ・・・すまない・・・長門」

「大丈夫、心配ない」

畜生!なんで俺ばっかり!
あの女のせいか!涼宮ハルヒの!

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:33:23.31 ID:ntoOPfBG0

「キョン君。一つだけ確かなことがあります」

「・・・なんだ」

古泉の冷静さに救われながらも腹が立つ。
こいつは全身揃っている。俺のように何かを失っていない。
だからこそ冷静でいられる。そこに・・・腹が立った。

「涼宮さんがこんなことをしたとして、それにはわけがあるはずです」
「彼女なりの、理由が」

「それが満たされるまでは、俺はこのままってことか」

「つらいでしょうが・・・」

辛いでしょうが!辛いでしょうが!?
何も知らない癖に、何をほざいてやがる!
観客席から野次を飛ばすおっさんと同レベルだ。
こいつらは・・・!糞っ・・・!

「今は、ただ待つしか出来ない。・・・お願い、わかって」

わかってるさ。神様相手にゃ俺みたいな普通の人間じゃなにも出来やしない。
いつだって、ただ待つだけだ。

「・・・くそっ!」

俺は近くにあった電燈を殴ろうとした。
だがその拳はなにもない空間に突き刺さっていた。
俺はそれが悲しくて、泣いた。

44 名前:回線が逝った[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:50:50.81 ID:TcuxVGXNO

その日は、とにかく暴れた。
子供のように暴れた。
手足を振り回して、物を投げた。
妹が泣いていることに気付いた時には、俺は冷静に戻っていた。
いや、怒りの塊を小さく押し固めて切り離したとでも言うべきか。
自分の腹の中に新しい自分がいるのがわかった。
俺はそいつに憎悪ちゃん(仮名)と名付けて、大事に育てることにした。
いつかクソッタレの神様にぶつけてやるために。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 23:55:50.45 ID:TcuxVGXNO

翌日は登校しなかった。
未だ腹の中の憎悪ちゃん(仮名)を上手く扱う自信が無かったからだ。
特に機関に当たると言って帰った古泉や、手を打ってみると言っていた長門。
あいつらが手掛かりなしと報告した瞬間解放されそうだった。
携帯は持って出た。古泉なら掛けてくるだろう。
行く宛てもなく駅前をぶらつく。
道ですれ違う連中は俺に嫌な視線をくれる。
時々指指してくる子供もいた。

「…眼帯でも買うか」

俺はふらふらと薬局に入った。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:05:32.18 ID:NLJRx1d0O

「…キョン君?」

店内には見覚えのある客が一人。
青い長髪に綺麗な顔。
かつての級友が、マスクを片手に立っていた。

「…朝倉?」

俺は目的の眼帯を買った。
店を出ると朝倉も着いて来た。

「久しぶりだってのに冷たいじゃない」

クスクス笑う朝倉。

「お前、まだいたのか」

「それってひどいんじゃない?」

むくれる朝倉。

「心配しないで。今度は正真正銘、ただのバックアップ。あなたをどうこうする気も権限もないわ」

笑いかける朝倉。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:11:20.80 ID:NLJRx1d0O

不思議と、腹は立たなかった。

「…宇宙人も、マスクするんだな」

「ああ、これ?お洒落よ、お洒落。結構好きなの。医療用品ファッション」

笑顔が綺麗だと、素直に思えた。

「キョン君…なにかあった?」

タイミングか、他の何かが原因か。
本来信用ならないはずのこの女が、俺の唯一の味方に思えた。

「お前の記憶でも、俺の右目は無かったか?」

朝倉はキョトンとしている。

「…てっきり、私がいない間に怪我したのかと思った」

……!
朝倉は、記憶の改変を受けていないのか?

「朝倉。帰ってきたのはいつだ」

「…二日前の深夜、かなり大きな情報フレアが発生したわ。それを受けて、この街に自然に潜り込めるバックアップユニットが選出された。それが、私」

何かを察したのか、真顔になる朝倉。
なるほど…宇宙までは想定の範囲外だったわけだ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:16:43.08 ID:NLJRx1d0O

「俺は、ハルヒに右目を奪われた」

ありのままに説明する。

「一昨日までは普通に暮らしてたはずだったのに、昨日気付いたら右目は無くなっていた」

「多分、その情報フレアって時になにか起きたんだと思う」

朝倉はなにか考えていたようだった。

「…そうなんだ。でもそれって…」

不意に、朝倉は俺の顔をまじまじと見つめ始めた。
なんだか少し緊張した。

「涼宮さんのこと、憎い?」

笑顔だった。
笑顔で、俺の核心を突いてきた。

「…自分でもおかしいと思うくらい、憎いね」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:26:19.16 ID:NLJRx1d0O

「やっぱり。そんな顔してた」

どんな顔だろう。よっぽど酷い顔だったんだろうか。

「そんなキョン君にプレゼント。はい、これ」

手渡されたのは、冷たい金属塊だった。

「長門さんがね、律儀にとっておいてくれたの」

それは、折りたたみ式の…いわゆるバタフライナイフという刃物だった。

「これでどうしろって言うんだ?」

朝倉はまたクスクス笑った。

「あげたものをどう使うかはあなた次第、期待してるけどね」

「まあ頑張ってみて?とりあえず、またね」

そう言って朝倉は去っていった。
俺はナイフを展開してみた。
銀色の刃が俺の顔を写した。
左半分を写しているはずだったが、その鏡面にはまるで無くした右目が写っているようで、
俺の気分は落ち着いていった。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:35:30.50 ID:NLJRx1d0O

俺はまたふらふらと家に帰った。
眼帯をしたのが良かったのか、群衆の視線はかなり柔らかくなっていた。
家に帰ると、ベッドに腰掛けてナイフを見つめた。
明るいと見にくかったのでカーテンを閉めて、薄暗くした中で見つめた。
なるほど、反転した左目は右目になる。
鏡像の左目を眺めている間は安らいだ。
見ている内に、像の向こうに朝倉が見えた。
「期待してる、か」

携帯が、鳴った。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:42:53.02 ID:NLJRx1d0O

「古泉か」

『ええ、僕です。機関の仲間から連絡がありました』

「ハルヒが見つかったのか」

『…喜緑さんが依頼した事件を覚えていますか?』

「部長の部屋がおかしくなってた、あれか?」

『そうです。今回の件はあの時に近い』

「どういうことだ」

『閉鎖空間ですよ。極々小さな閉鎖空間が発生しています』

「…神はいないはずなのに、か」

『我々は勿論、長門さんも侵入に失敗しました。ですが、貴方なら』

「よし……案内頼む」

『心得ました…が、取り乱して涼宮さんを傷つけるような行為をした場合』

「帰れなくなるかもな」

『…落ち着いて対応すると、誓えますか』

「誓うさ。これでも大分落ち着いたんだ」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 00:56:19.37 ID:NLJRx1d0O

古泉は家まで迎えに来ると言う。
俺は悩んだが…ナイフは持って行くことにした。
使おうってわけじゃない。
ただ持っていたかっただけだ。

暫くして、また携帯が鳴る。

『到着しました』

俺は玄関のドアを開けて、待っていた古泉と黒塗りの車に乗り込んだ。

「……確かに、大分落ち着いた表情をしていますね」

走る車の中で古泉は言う。

「大変な状況の貴方にこんな事を言うのは酷かも知れません。ですが、貴方の行動には世界がかかっています。くれぐれもお忘れなく…」

「わかってるさ。いつもの事だろ。もう慣れた」

無言。ただ俺の片方の目を古泉は見つめていた。
何かを願っているようにも見えた。

ブレーキがかかり、意識が前方に向く。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:02:49.36 ID:NLJRx1d0O

「僕たちに案内出来るのはここまでです」

俺は車を降りた。
古泉も一緒に降りる。

「信じてます」

俺は無言で手を振った。

景色の、色が変わる。
灰色と青の中間。
前方には、砂漠が広がっていた。

「好き勝手しやがる」

俺はポケットのナイフを握ると、砂の海へ踏み出した。
少なくとも見える範囲にはなにも無かった。
ただ前に歩く。
砂の世界に足跡を刻む。
不意に、視界が歪んだ。

視界が安定し、まず俺の左目に飛び込んで来たのは、なんだか久しぶりに見るあいつの姿だった。

「探したぞ」

「うそ…キョン?」

俺はもう一度ポケットのナイフを強く握った。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:18:21.02 ID:NLJRx1d0O

「なんでキョンがここに…?」

ハルヒは困惑しているようだった。

「言ったろ、探してたって。俺だけじゃない。長門や古泉も探すのを手伝ってくれたし、朝比奈さんも心配してた」

「みんな…」

その時初めてハルヒの顔をしっかり見た。
そしてすぐに理解した。
その右目は、俺の物だった。

「けど…私、キョンの目を…」

「そうだな。…なんでこんなことしたんだ?」

ハルヒは泣きそうな顔をしている。

「だって、キョンが…私は常識が無いって」
「だからね、キョンの目で、キョンと同じ世界が見たかったの。そしたらキョンの常識もわかって、迷惑もかけずにすんで…」
「私のこと、見直してくれるかなって思ったの!」

悲鳴に近い。
それはハルヒの、純粋さ故に生まれた悲劇。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:24:15.15 ID:NLJRx1d0O

俺は本当に鈍い。アイツはいつも、俺に好かれたいって叫んでたのに。

「まったく迷惑な話だ」

「まず第一に眼球交換したって見える景色は変わらない」
「第二にお前に常識は端から期待していない」
「第三に…同じ世界なら、いつも見てるだろ。一緒に」

眼帯を外すと、そこにはいつもの右目があった。

「キョン…キョン…!」
「ごめんなさい…えぐ、うわあああ…」

大泣きするハルヒ。

「泣くくらいなら最初からやるなよ」

「だって…だって」

「あーわかった。わかったよ」

俺はポケットからナイフを取り出した。

「キョン…?」

刃を展開する。
冷たい銀色がハルヒを照らす。
俺は無言で、そのナイフを振り上げた。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:32:07.11 ID:NLJRx1d0O

そのままナイフを捨てた。

「…!」

「いつまで構えてるんだ、ほれ、帰るぞ」

「怒って…無いの?」

「メチャクチャ怒ってたさ。けどな、それはナイフと一緒に今捨てた」
「それとな。お前は俺に嫌われてると思ってるみたいだが」

「俺はお前が好きだ。多分他の誰よりも」

「…やだ」

「やだってお前…」

「絶対じゃないとやだ!」

いつの間にか、ハルヒは泣き止んで。
いつものノリに戻っていた。

「わかった。絶対、他の誰よりも好きだ」

「それでよし!…キョン、団長命令よ!目を閉じなさい」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:36:13.03 ID:NLJRx1d0O

肩を竦めて俺は目を閉じた。
記憶にあるのはここまでで、ここからはすごく曖昧だ。
ただ、唇に柔らかい感触を感じた気がした。
耳元で、ありがと、と聞いたような気がした。

それだけだった。

目を覚ますと、いつぞやの如くベッドの上だった。
朝日が登り、俺の登校時間を告げる。

「…どこから夢だ?」

とりあえず、右目に手を当ててみる。
そこにはぎょろぎょろ動く球体が確かに存在した。

「…なるほど、また夢オチですか」

古泉が例の笑顔で言う。

「夢オチとか言うなよ。大変だったんだぞ」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:43:14.78 ID:NLJRx1d0O

「…ですが、もしも」

「どうかしたか?」

「いえ、考えすぎでしょう。どうです?オセロでも」

「いや、今日はいい」

「どうしたんです?」

「なに、団長様がな。一緒に下校しろとご命令で」

少し照れたが言った。
あの夢を見てから、ハルヒに対して素直になれた。
…それは向こうも同じようだが。

「羨ましい限りで。ではまた明日」

「ああ、またな」

俺は古泉に手を振り校門へ向かう。
そこにはハルヒが待っているはずで、そのことばかり考えていた俺は古泉の不安げな表情を見逃していた。

「ちょっとキョン!遅いわよ!」

「少しくらい許せ……」



完?

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 01:54:10.57 ID:NLJRx1d0O

「…という話を聞いたのですが」

僕は長門さんに事情を聞きに部室に来ていた。
勿論、彼の話だ。

「……」

「なにか、何かが引っ掛かるんですよ。まるで魚の小骨のように、引っかかって取れない」

彼の話を聞き終えた時の違和感。
その正体を掴むため、ずっと考えている。

「…一つのだけ、ある」

「何かあるんですか、長門さん」

長門さんは頷いて言った。

「彼の話が本当ならば、現実を夢だと認識させるよう記憶の改編が行われていると思われる」
「だとしたら、現実にあり得ないことが起こっていてはおかしい」
「私が知りうる情報は一つ。朝倉涼子の事」
「確かに彼女は再び私のバックアップとして配備される予定」
「現在、彼女の情報は解析され、再構築されている」
「再構築が終わるのは、今日の予定」

「…どういうことです?」

「つまり、朝倉涼子が昨日時点でこの街に存在する事は不可能であるということ」

「なら…彼の見た朝倉涼子は…?」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 02:02:07.37 ID:NLJRx1d0O

「彼の記憶にある最も印象深い朝倉涼子は、恐らく殺意の象徴」

「それを…見たということは」

「実際には、自ら刃物を購入したが、その部分の記憶が歪曲している可能性がある」


「…へへっ」

「なんだハルヒ、気持悪い」

「失礼ね!ただ…ちょっとにやけちゃっただけよ」


「彼の精神状態も普通で無かったということですか」

「そう考えられる」

その瞬間、知恵の輪が解けるように違和感が氷解した。
あの違和の正体は…!

「…表情を作るのは、僕の専売だと思ってましたがね」

あの時彼は照れ笑いをしていた。
今日は一緒に下校すると言ったあの時。
だがあの表情の裏にはどう見ても…

「長門さん、急ぎましょう。涼宮さんが危ない」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 02:10:39.96 ID:NLJRx1d0O

「正直夢みたいよ。キョンとこんな風に歩く日が来るなんて」

「嫌か?」

「…嫌なわけ、ないじゃない」

俺はハルヒを見つめる。

「なあ、ハルヒ」

「なによ、真顔で」

「これから、俺の家に来ないか」

「それって…」

「嫌か?」

「…馬鹿」

ハルヒは手を差し出した。
俺はその手をしっかり握ってやる。

「いい。行く。…キョンの家」

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 02:11:54.35 ID:NLJRx1d0O

照れて赤くなってうつ向くハルヒ。
今頭の中でどんな妄想をしているのだろう。

俺の腹の中には獣がいる。
こいつは隠れるのが上手くて、俺自身、たまに見失うくらいだ。
今や俺を喰い破らんばかりに膨らんだ、こいつの名は憎悪ちゃん(仮名)。
机の上では、既に刃の出されたバタフライナイフが煌めいていることだろう。

俺は、今日こそ獣を解き放つと決めていた。






114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 02:18:25.36 ID:NLJRx1d0O

古泉はキョン君って言わないのは書いてみた違和感でなんとなくわかったけど引き返せない面倒くささってあるやん

ていうかわし明日テストやねん前期期末の
なんで深夜までこんなん書いてんねん

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 02:29:00.94 ID:NLJRx1d0O

まあ私まったく関西人じゃないんですけど!ヨホホホホ
とりあえずテストはマジだし寝る
また何か書いたら読んでくれたら泣いて喜ぶ
じゃあの

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[眠れない] 投稿日:2009/08/30(日) 04:21:39.76 ID:NLJRx1d0O

私は神を信じない。
産みの親が全知全能だからだ。

「キョン君は素直だから好き」

私はうきうきしながらキョン君を眺めている。
情報操作すれば尾行なんて軽い。
彼に渡したバタフライナイフ、ちゃんと活用してくれるのだろうか。

「ま、様子を見なくちゃ」

あなたに殺される涼宮ハルヒの出方を見る…嘘はついてないよ?キョン君には何もしてないじゃない!

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 04:26:21.68 ID:NLJRx1d0O

彼はずっと私のナイフを見つめている。
少し嬉しいかな?

「ファントムペインを和らげる方法ってあったよね…」

鏡に残った方の手足を写して、失った方の手足を補完する。
要するにそれなんだろう。
さっきより大分表情が柔らかい。

「さて…彼が来たみたいだし」

向こうから黒塗りの車が来るのが見える。
彼の部屋を覗くのも楽しかったけど、仕事はしなくちゃね。


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 04:31:41.55 ID:NLJRx1d0O

古泉君はキョン君を信用しきってるみたい。
これは友情?それとも…ふふっ。
けど閉鎖空間…長門さんも入れないんじゃ普通には無理か。
キョン君がちゃんと働いてくれるかは半々だし…。
保険かけといて良かったかな?
ナイフの構成情報に私の構成情報を紛れ込ませる…キョン君の所有物としてなら、強固な壁もすり抜けられるんじゃない?

……ほら、上手くいった。
後はキョン君、涼宮さんをちゃんと探し出してね。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 04:37:36.12 ID:NLJRx1d0O

さて…外の私は実質戦力外かな。
どうなるにせよ、まるで蚊帳の外じゃお話にならないし。
ちょっとキョン君どこ握って…やん。
ポケットの中って結構怖いのね。

ザクザク言う音…砂。砂漠か砂浜みたいなところね…。
住宅街から急に砂漠って…涼宮さんの心情かしら?
愛する人に嫌われてカラカラ。
まあ私には関係ないけどね。

あ、足音が変わった。
どこか室内かな?
反響音からしてそんなに広くない…。

『キョン…?』

ビンゴ!涼宮さん発見!
お手柄よキョン君!

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 04:45:48.15 ID:NLJRx1d0O

問題は私をちゃんと使ってくれるか、ってところね。
キョン君って無愛想だけど結構優しいとこあるし…何より相手が涼宮さんだしね。
ん…また変な所握って…って言ってもナイフだからどこかわかんないんだけど。

あら、涼宮さん久しぶり。
キョン君、使わないと思ったんだけどなあ、振り上げてるし。
もう一回、お別れかな。
じゃあね、涼宮さ…あっ!
ひどいじゃないキョン君、投げ捨てるなんて。
まあ予想通りだけど。
キョン君は涼宮さんには勝てない。尻に敷かれるタイプね!
さてと…どうしようかな?

『団長命令よ!…目を閉じなさい』

向こうはいい雰囲気だし、困っちゃうなー。
ん、世界の構成情報に変動。
涼宮さん、すっきりしたみたいね。
ちょっとジェラシー。
とか言ってる間にキョン君もどこか飛ばされそう。
あの情報の波…紛れ込めないかな?

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 04:55:42.31 ID:NLJRx1d0O

『…どこから夢だ?』

キョン君の声。
そっか、成功したみたい。
けど、どうしようかしら。
もう涼宮さんと和解しちゃった感じだし…一か八か、話してみようかな?

「キョン君」

「キョン君」

「優しいキョン君」

「あなたの右目を奪ったのは誰?」
「いつもあなたに負担をかけるのは?」
「あなたを妙な世界に引き摺り込んだのは誰?」

『朝倉か』

「そう、私。けどね、私はあなたでもあるの」

『…幻聴聞くとは、大分キてるな』

「そうかしら?誰でも内なる声を聞けるものだっえ本に書いてあったわよ」

『じゃあ俺よ、言ってやる。俺は涼宮ハルヒが大好きだ。大好きな人間に憎悪は抱かんだろう。第一お前はあの時ナイフと一緒に捨てたはずだ』

「キョン君。人間の憎悪はそんな簡単に消えるモノじゃないの。本当はわかってるんでしょ?」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 05:02:40.68 ID:NLJRx1d0O

「あのね、キョン君はずっと抑圧されて生きてきた」
「そろそろ解放されてもいい頃だと思わない?」
「私にはわかるよ。怒ってるね」
「結局自分がキョン君に好かれたいって」
「それだけの我が侭で君は目を奪われた」
「許せないよね」

『お前は何だ…?悪魔か?』

「情報統合思念体によって作り出された対有機生命体ヒューマノイドインターフェース」
「そして、キョン君の憎悪ちゃん(仮名)」

「そろそろ自分の気持ち、わかった?」

『…わかったよ、わかった』

「それじゃもう一回プレゼント。机の上見てみて」

『このナイフ…』

「私がいま作ったの。あげちゃう。勿論使い方は自由。…頑張ってね」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 05:09:10.32 ID:NLJRx1d0O

……お帰り、ナイフだった私。

ただいま、外にいた私。
って、涼宮さんのせいで私を作った記憶もないんだっけ。
いいわ。すぐ戻るから。私が見たもの、聞いたもの…全部感じて?

「……だいたいわかったかな」

さて、間違いなくキョン君は古泉君に相談を持ち掛けるでしょう。
そうしたら長門さんにも伝わって…面倒なことになりそう。
仕方ないから今日は一日キョン君の護衛ね!
思う存分想いを遂げてもらわないと!

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 05:15:44.55 ID:NLJRx1d0O

「急ぎましょう。涼宮さんが危ない!」

ほら、ね。こんなことだろうと思った。
長門さんもやっぱり出てくるのね。

「涼宮ハルヒは彼の自宅に向かい移動中。まだ間に合う」

「邪魔させてもらうけどね」

結構かっこいい登場じゃない?
二人とも驚いた顔してる…と思ったけど長門さんの表情わかんないや。

「あなたは今日ここにはいられないはず」

「ああ、再構築の時間ね。アレ嘘」

「邪魔をするとは、どういった意味でしょう、朝倉さん」

既に情報操作仕掛けてあるんだけどね。

「教えない…恋人達は見守ってあげないとね。邪魔は野暮ってもんじゃない?」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 05:27:30.13 ID:NLJRx1d0O

「じゃあ、そういう訳だから…お二人にはしばらく部室にいてもらいますね」

情報改編、出入り口封鎖。
長門さんが解除するにしろ、時間は稼げる。
今のうちにキョン君達のところへ行こう。

「長門さん、どれくらい時間かかりますか」
「時間はいらない」
「彼女を視認した瞬間から、予め複数種類の予防線を張っておいた」
「その内の一つが、これ」

パシュンッ

軽い音に驚いて振り向いた先には、閉じ込めたはずの二人がいた。

「嘘…」

「僕は二人の所へ急ぎます。…任せてよろしいでしょうか」

長門さんが私から目を逸らさない…ちょっとこれはまずい…かな?

「任された」

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[ちょっとでも寝るます] 投稿日:2009/08/30(日) 05:42:44.48 ID:NLJRx1d0O

た、と言い切る前に私に向かってまるで流星群のように槍が降り注いだ。
避ける?無理、間に合わない!
情報連結解除!

バサァッ
槍は全て砂と化した。
けれど第二波の準備が既に始まっている!

「させない!」

詠唱している長門さんにナイフを投げつける。
それは雑作もなく弾かれたが、意識は逸れた。
一瞬、私から目を離しナイフを見たのだ。

「じゃあね、長門さん」

床を踏み抜くまで蹴って跳躍。
もう後1cm振り降ろせば、握ったナイフは長門さんを捉える。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 05:44:20.70 ID:NLJRx1d0O

と、思った時だった。
銀の槍が私の腹部を貫通し、床に縫い止めた。

「あれっ」

おかしい!だって長門さんはまだ…

「詠唱中のはずでしょう?」

ほら、今だって!

「下人は夜の闇に消えていった」

……?

「芥川竜之介・羅生門、五倍速」

な、なるほど…。

「とっくに詠唱は終わってたのね」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[10時からテスト] 投稿日:2009/08/30(日) 08:33:47.25 ID:NLJRx1d0O

「流石にすごいね」

「そうでもない」

「私はどうなるの?」

「また情報連結を解除させてもらう」

「そう…残念」

今度はいけると思ったんだけどなー。
この距離じゃ、どの手を打っても長門さんに負けちゃう。

「私は急ぎ向かわなければならない」

「ん、じゃあやっちゃって?」

長門さんが私を解析しようと手を触れる。
その瞬間を狙っていた。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 08:46:38.38 ID:NLJRx1d0O

「長門さんにもプレゼント。これ、あげる」

彼女の中枢に直接叩き込む。
よりコミュニケーションに特化した私だから読み取れた情報を、解りやすく改訂して長門さんに読ませてあげた。

「この、情報、は」

彼の内に潜む憎悪。神の意思で生まれすくすくと育った獣。
長門さんは優秀だから、その分衝撃も大きかったみたい。

「涼宮さんはね」

腹部の孔を埋めながら立ち上がる。
血を一杯吐いたけど、すっごく痛かったけど、長門さんのこの表情で全て報われる気がした。

「自己嫌悪に陥っていたの…いるの、かな」
「自分勝手で我が侭な自分を嫌って欲しい」
「それでも好きだと言ってくれた…彼に比べて自分のなんて浅ましい」
「やっぱり嫌われないと!報いを受けないと!」
「それが、もう一つの彼女の願い。彼女の中の、卑屈で小さな女の子ね」

説明してあげているのに、長門さんは全く聞いていない。
カチカチと歯を鳴らしながら、無言で涙を流している。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 08:53:09.87 ID:NLJRx1d0O

「長門さんはちょっと勉強不足だったみたいね。人間は、結構面白いのよ?」

私は腹いせにへたりこんだ長門さんを思いっきり蹴り飛ばした。

「私にはあなたを消去するほど権限が与えられてないわ」
「だから後少しだけ大人しくしてもらう仕掛けをしていく」
「今度こそじゃあね。私は古泉君を追わないと」

思ったより早く決着が付いたので、古泉君もまだ近くにいるはずだった。
近くの情報を検索している私の向こうで、長門さんは死んだように動かなかった。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 09:31:03.32 ID:NLJRx1d0O

すごいスピードで移動してる…。
車?だとしたらもう間に合わないかも…?
しかし一体誰が?

「助かりましたよ森さん」

「古泉、お前に何か策はあるのか」

「正直、わかりません。ですがなんとかしようって気概は、恐らく誰よりもあります。機関の誰よりも、ね」

「そうか…そうだな」

「そこ、左です。見えて来ました」

「私に出来るのはここまでだ」

「わかっています。団長と団員の間を持つのも副団長の役目ですから」

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 09:40:55.59 ID:NLJRx1d0O

「良かったね長門さん。古泉君には追いつけなそう」

返事をしない長門さんに話掛ける。

「けど、彼は間に合ったのかしら?もしかしたら状況を悪化させるだけかも。あなたならどうにか出来たの?朝比奈さん」

「私には…そこまで積極的に関与する権限が与えられていません」

「禁則事項、ですもんね」

「その通りです。まあ、それもさっきまでの話ですけど」

「…どういうことですか?」

「今、上の許可が降りました。朝倉涼子さん。あなたを…拘束します」

私は思わず吹き出してしまった。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 09:48:57.12 ID:NLJRx1d0O

「朝比奈さん…あははははっ、あなた、どこまで…!」

「わ、笑える状況ですか?」

「まず、いくら時代が違う技術だとして、私を捕まえられるのかってことと」

「私はもう何もする気が無いってこと」

「…そんな」

私が帰ってきてたのを一番に気付いてたのがこの人だっていうのは驚きだけど、それだけ。

「手遅れね、朝比奈さん。どうせあなたは他の二人にも何の相談もされなかったんでしょう?」

「長門さんや古泉君が動いてるのを知ってたら結果は変わってたかもね。信頼薄いのね、あなた」

朝比奈みくるが震えている。本当、笑っちゃう。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[テストイテキマース] 投稿日:2009/08/30(日) 10:05:38.73 ID:NLJRx1d0O

「でも…私は信じてます」

「みんなから役立たずって思われても」

「みんなの事を信じてます」

「古泉君も」

「キョン君も」

「涼宮さんも…!」

信頼!素晴らしい!
けれど悲しいのは、現実には信頼なんて何の役にも立たないってこと。

「祈ってみるのもいいかも。祈りで世界が変わるならね」

「けど、そんなこと出来るの、涼宮ハルヒくらいだと思わない?」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[次は現代社会] 投稿日:2009/08/30(日) 11:29:06.18 ID:NLJRx1d0O

「キョン、シャワー借りていい…?」

俺は首を振った。

「いらないだろ、そんなの」

「でも…心の準備が」

「いいから座れ」

「うん…」

ハルヒは真っ赤になっている。
俺のベッドの端に座って、なにやらもじもじと落ち着かないでいた。

「目、瞑れ」

そっと目を閉じ、何かを待つハルヒ。
俺はゆっくりと机の上のナイフを手に取る。
途端、俺の中で憎悪ちゃん(仮名)が…いや、朝倉が喜び弾む。
まだ待てよ。すぐに解き放ってやる。
俺はハルヒのすぐ横に座る。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 11:30:46.44 ID:NLJRx1d0O

「ねぇ、キョン」

「…何だ」

「キス…してくれないかな」

俺はいつかのように唇を重ねる。

「…もう目開けていいかな」

「もういいぞ」

さようなら、涼宮ハルヒ。
俺は俺の思うままに、ハルヒの白い喉を刺した。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 11:35:35.48 ID:NLJRx1d0O

ガタッ

私が支配権を持っているはずの長門さんの体が、不意に起き上がった。

「世界が、終わる」

私にもわかっていた。
今、涼宮ハルヒが、死んだ。
いいえ、キョン君に殺された。

「長門さん…それって」

朝比奈みくるが涙をこぼす。
長門さんの表情はいつもより無機質に見えた。

「…どうやら、僕は間に合わなかったようです」

「気にするな古泉、お前に責任はない」

「僕は所詮人間…神の考えにはいつまでも到達できないのでしょう」

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 11:48:00.84 ID:NLJRx1d0O

「私が一番興味あるのが哲学なの」
「生み出されてから数年だけど、必死に研究してきたわ」
「神なんかいない!私は知ってたの!」

けらけら笑いながら朝倉涼子が言う。
今まで自宅にいたはずの俺は、わけのわからない空間に立っていた。

「わかる?世界はこんなにも簡単で、呆気ないモノなの」

「キョン君だってそう。自分の感情すら他称神の手の平の上」

「憎かった?嫌いだった?全部涼宮さんが自ら望んだ結果」

「人は神になれない」

いつかと違う。
今の朝倉の笑顔には不快感しか生まれない。

「私ね、実はバグがあるの」

「解析されて構成される段階でね、偶然零れたバグデータ」

「それが私。私の神に従わない、裏切者の宇宙人」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 11:52:41.48 ID:NLJRx1d0O

「朝倉涼子のいらない部分の寄せ集め。存在がバグ」

「そんなものに殺される神に価値なんてないと思わない?」

ねえキョン君
ねえキョン君
ねえキョン君キョン君キョン君!

騒がしく謡う朝倉に、腹の底から不快感が湧く。

「俺は操り人形か」

「そうよ?偽神様どころか、私が唆しただけで陽気に踊るお人形」

「ふざけるな」

ふざけるな、と、心底思った。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 11:57:46.55 ID:NLJRx1d0O

「俺は認めないぞ」

「自分を殺せとか言いやがるハルヒも」

「神とやらにビビってやがるお前も」

「そして今も俺達を眺めてるだろう神様もだ!」

「私は神を信じないの。怯えてるわけじゃない」

「うるせえぞ、欠陥品」

「偶然出来上がったってのが本当ならな、その偶然を起こした奴がいるだろう」

「それは…」

「神はいるさ。ハルヒなんかが可愛く見えるほど悪趣味なヤツがな」

「だけどな、そんなヤツが神を名乗るなんて」
「誰が許しても、俺は認めない」

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 12:03:52.89 ID:NLJRx1d0O

「うそ…キョン君から異常な量の情報出力を感知」

「これはもう爆発よ!情報爆発だわ!」

「神様とやらは余程余裕があるらしい」

俺に、ハルヒと同じ力を与えるなんてな。

「私達が神と呼ぶ能力の持ち主でさえ…神に選ばれた只の人間だったってこと?」

「じゃあこの世界は一体なんのためにあるの?ここまで全能なら不確定要素なんて一切ないでしょう…?」

「箱庭だろう」

そう、ここは箱庭だ。
遊びで作って、お人形さんを住ませている。

「結局世界は、暇を持て余した神の遊び場なんだろう」

「だったら一度ぶっこわしてやる」

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 12:10:15.14 ID:NLJRx1d0O

「リテイクだ!」
「こんな結末俺は認めないぞ!」
「神を騙して新しく世界を作る!」
「後悔させてやる!俺の前に道を作ったことを!」

吠えるキョン君。
意外と熱い人だったんだなって思う。
私も世界ももうすぐ消える。
次の世界では、きっと幸せになれるだろう。
私の愛した、神が治めるなら。

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[テストのせいで脳みそ沸いた] 投稿日:2009/08/30(日) 13:37:57.65 ID:NLJRx1d0O

「おい、ハルヒ。次の文化祭、映画を撮ってみないか」

「なによ、薮から棒に」

「主役はお前でさ、団員みんなで撮ろうぜ」
「映画ね…まあ悪くないけど」

「よし、監督と脚本は俺にやらせてくれよ。実はもう考えてあるんだ。スピルバーグより上手く撮る自信、あるしな」

「えらくノってるのね…まあいいわ、つまんなかったら許さないけどね!」

「わかってるさ、実はもうタイトルも考えたんだ」

「気が早いのね…ちょっと聞かせてみなさいよ」

「題して、涼宮ハルヒの憂鬱」

「なにそれ、センスない」

「二人とも楽しそうね」

「ああ涼子、聞いてよ。キョンがね……」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 13:50:56.08 ID:NLJRx1d0O

「涼宮ハルヒは神ではありません」

「常に隣にいる彼こそが神はないかと僕は考えます」

「神ならば、その力を他人に与えることも可能かと」

「なるほど、そういう考え方もありだね」

「ですが、彼には何かを為そうという意志が感じられない」

「力を自覚していながらそれはいかがなものか」

「で、僕にお鉢が回ったってわけかい」

「その通りです。僕達機関は、あなたこそ神であるとして活動します…佐々木さん」

「くつくつ、参ったね。僕はそういうの苦手なんだよ」

「構いません。我々がバックアップします。…まずは、一番の障害になりうるあの二人を」

「…君は結構、怖い人だね」

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 14:51:28.19 ID:NLJRx1d0O

古泉が、SOS団を抜けた。
俺は勿論ハルヒだってそんな意図をしていないだろう。

遂に、という感じだった。
奴は俺の挑戦を受けたのだろう。
これから俺の脚本を邪魔する色んな要素が出てくるだろう。
望むところだ。
なにが来ようと俺の望む世界を作ってやる。
これからだ。
これからが、リテイクした本当の意味。
俺は神を…超える。

「キョン君?どうかした?」

「涼子、そいつがぼーっとしてるのはいつものことよ!」

やれやれ、呑気なもんだ。
だがそれでいい。
アイツらの平和を守るのが、俺の戦いだ。



完…否・続

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/30(日) 14:59:00.62 ID:NLJRx1d0O

一応これで終わり
ちょっとテスト中に寝過ぎて頭ぼーっとしてるからこれ以上英気が持たない!

休憩したらまた違うネタで書くと思う
また見てくれたら泣いて喜ぶ



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