第〇七〇七小隊SOS団 【ハルヒ】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 20:46:00.08 ID:iq2L04SB0

「ねえ、キョン。第二次世界大戦って何のために始まったの」
 知らん。目の前にあるパソコンに訊いてくれ。
「当時の兵隊とかって生きてる意味あったのかしら」
 さあな。
「上官の思うがままに動くなんて、まっぴらごめんだわ」
 そうかい。
「ちょっとキョン! 真面目に聞きなさい!」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 20:48:00.55 ID:iq2L04SB0

 サンタクロースをいつまで信じていたか、なんてことを話題に挙げる奴は即刻米英の密偵と看做される世の中である。

 それはともかく、そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら俺はたいした感慨も無く実業学校を卒業し――、
赤紙を受け取った。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 20:51:01.95 ID:iq2L04SB0

 厳密に言うと、俺は志願兵だ。それゆえ、こんな物騒な紙切れが届いても驚く理由はどこにも無い。
 どうして志願なんてしたのかって? それはすぐにわかるさ。
 ともあれ、俺は手紙に書かれた内容に従って軍医の診察やらなんやらを受け、晴れて大日本帝国陸軍に
なっちまったのである。

 支給された軍服を身に着けて、俺は広島へと向かう機関車に乗っていた。
 定期的な振動が体全体に伝わる。
 俺にこんな服を着るときが来るなんて、数ヶ月前までは考えもしなかった。
 ふと、車窓に目をやる。いつの間にか紅葉もまばらになっちまったなあ。

 ところで、出発前に村が総出で俺の出征を祝ってくれたのだが、あまり嬉しくなかった。
 死して国のためになる、それが大日本帝国の軍隊だ。すでに未練は断ち切った。
 ただ、あの妹を残して戦地に赴くのはちょっと心残りがあるな。
 わがまま放題しないだろうか。贅沢は敵だぞ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 20:54:00.27 ID:iq2L04SB0

 時間の経過というものは、当事者の感覚との間で大きなズレが生じるものである。
 あれこれ考えていると、あっという間に広島入りしてしまった。
 薄茶色の地図とにらめっこをしつつ、俺は福山の陸軍基地へと足を向ける。
 大抵の人間は、この間に何かしらの感情を抱くという話をよく聞いた。戦意高揚するもの、
表には出さなくても恐怖を感じるもの、実に多種多様らしい。
 だが、俺はそういった心情の変化を微塵も感じなかった。
 自身の性格が影響しているからかもしれないが、何より問題視すべきなのは志願した動機にある。
俺はそう断言する。
 そんなことを頭に浮かべつつ足を動かしている間に、他の志願兵と異質である俺は、
他の志願兵と同じ集合場所に到着した。

 まず、お偉いさんらしき人物からの話があった。司令官と呼ぶのが適切だろうか。
 この話を聞きたいやつはいるか? 満場一致で省略させてもらう。
 その後もいろいろとあり、ようやく全員の配属が発表される段階へ移行した。
 辺りの空気が一瞬よどむが、声を出す者は誰もいなかった。当然か。
 各小隊長が順に前へ出て、名前を読み上げていく。そして返事をする。まるで卒業式じゃないか。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 20:57:02.04 ID:iq2L04SB0

 発表も終盤を迎え、あとは最後の1小隊を残すのみとなった。まだ俺の名前は呼ばれない。
 そして、最後の小隊長がカツカツと壇上に上がった。
 できることなら、そこに立つ人物を見たくなかったさ。だが悲しいかな、思わず目を向けてしまう。
 懐かしい顔がそこにあった。

「陸軍士官学校出身、第〇七〇七小隊SOS団団長、涼宮ハルヒ。
 ただの兵卒には興味ありません。この中に、百発百中の狙撃手、白衣の天使、異界の戦士、
一騎当千の豪傑がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
 隊員発表はどうした。


◆第〇七〇七小隊SOS団◆

 〜序章 月月火水木金金〜

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/10(月) 21:00:00.15 ID:iq2L04SB0

 とまあこんな流れで、俺はSOS団に再び入団、いや入隊したのである。
 SOS団なんて小学校以来か。あの頃は宇宙人を捜すとかで大変だったなあ。
 それより、このご時世に鬼畜と称される米英の文字を使って大丈夫なのか。

 おっと、俺が陸軍に志願するまでの経緯をまだ言っていなかったな。
 簡潔に説明するなら、俺はハルヒに招集された。それだけだ。
「ニュウタイシナサイ」なんて、わざわざ電報まで使いやがって。

 小学校卒業後、ハルヒは男子の出世街道である第一中学校に特例で入学し、
平凡な俺は地元の平凡な実業学校に進学した。
 他のSOS団の奴らも全員バラバラになったんだっけな。
 ハルヒが俺を呼んだ理由がピンと来なかったのだが、たかが小隊にわざわざ付いた名前でようやくわかったよ。
 だがなあハルヒ、小隊は五人では運営できねえんだよなあ。
 その点だけは、翌日に顔合わせをするまで謎のままだった。

8 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:03:00.14 ID:iq2L04SB0

 今日も朝日がまぶしいねえ。ハルヒにとっちゃあこの上無い吉日だろうな、全く。
 新兵は、午前7時に各小隊が指定する場所に集合とのこと。

「遅い、罰金!」
 5年ぶりの再会で、最初に発した言葉がそれか。
「お久しぶりです」
「キョンくん、会いたかった」
「……」
 集合場所である女学校前には、久しぶりにSOS団の面々が揃っていた。
 随分と成長した面持ちだが、あの頃と何も変わっていない。
 その光景を懐かしむと同時に、変に安心してしまったのは内緒だ。

9 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:06:00.72 ID:iq2L04SB0

「さて、じゃあ早速メンバー紹介を始めるわ」
 お前ほど英語を躊躇無く使う人間に、俺は会ったことが無いね。
 というか、今更何を紹介するって言うんだ。
「私たち5人で全員じゃないでしょ。後ろを向きなさい」
 お、初の上官命令ですか。俺はわざとらしく回れ右をする。
 そこには、俺がよく知るやつらが佇んでいた。
「キョン、俺たちを置いて勝手に出発するなんてずるいぜ」
「そうだよ。僕だって呼ばれたんだからね」
 この2人は俺と同じ実業学校を卒業した、谷口と国木田である。
 そして、最後に1人。
「久しぶりね」
 小学校卒業と同時に加奈陀へ引っ越したはずの、朝倉がいた。
「SOS団は、これより8人で構成します!」
 5人から8人に増やしたことは褒めるが、それでも規格外の人数だということを忘れるなハルヒ。

10 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:09:00.32 ID:iq2L04SB0

 俺たちは、暫くの間再会のときめきを純粋に噛み締めた。
「じゃあ、これからの活動予定を伝えるわ」
 ああ、ここは本当にSOS団のようだ。

 ここまでのハルヒの行動は突飛なものが続いたものの、ここから先の活動については予想に反して
現実的なものだった。
 一語で表すなら、訓練。ついに俺のような人間も訓練を受けるときが来たのだ。
 但し、これは後から聞かされた話だが、訓練の内容は他の部隊とは似て非なるものだったらしい。
 最も基本的な行軍演習一つ取っても、一番成績の悪いやつは飲み物奢れなどと言い始める。
 以前のSOS団なら、それは俺が専任の職務だった。だが、今は谷口が加入してくれたおかげで、
専らやつとの最下位争いだ。
 その他、射撃訓練や陣地構築、柔道剣道など訓練したことは山ほどあったが、そのいずれにも
何かしらの催しを付け加えようとするのが我らが団長様だ。
 まあ、そのおかげか訓練が嫌になったことは一度も無かったがな。

11 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:12:01.22 ID:iq2L04SB0

 訓練が始まって一ヶ月が過ぎた頃、雪が重く圧し掛かる夜のことだった。
「夕食後、部屋に来てもらえますか」
 その引き金は、あまりに唐突に引かれてしまったのである。

「何のマネだ、気色悪い」
 俺は、古泉の部屋に来て開口一番そう告げた。こんなことを言うのもいつ以来だろうか。
 それにしても、結構片付いているな。
「まあそうおっしゃらずに。もう少しお待ちください」
 何だ、芸でも披露してくれるのか。
 ところで、お前の部屋には何で洋式の寝具があるんだ?
 突然、軋む音と共にドアが開く。
 その先には、宝塚の主演女優にも引けをとらない美貌を持つ朝比奈さんと、
コーデル・ハルも真っ青で逃げ出すような冷徹の仮面を被る長門がいた。

12 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:15:00.67 ID:iq2L04SB0

「正規SOS団の構成員を集めたようだが、何をするつもりだ」
 ふと感づいた。雰囲気がいつもと違う。
 俺は、広がる恐怖心を外に出さないようにしつつ、ゆっくりと話しかけた。
「我々が何をするのではありませんよ。あなたが始めるのです」
「何のことだ、古泉」
 全くわけがわからない。冗談はニヤケ顔だけにしてくれ。
 古泉は、少しも表情を崩すことなく会話を続ける。
 窓を叩く風の音がやけに目立つ。
「では、率直に質問します。あなたは以前のことを覚えていますか?」
 一筋の矢が空気を切り裂いた。
「以前のことって何だ? 入隊する前のことか。ハルヒから電報を受け取って……、」
「やはり、あなただけが覚えていないようですね」
 さっきから何の話をしているんだ。小学校の話か?
「そうですね、『北高』という単語に聞き覚えはありませんか?」
 『北高』? 妙に聞き慣れた単語だな。北海道の女学校?
「おや、まだ思い出せないですか。これは困りましたね」
 両手を、皿を抱えているみたいに広げるな。困惑しているのはどう考えても俺なんだが。

13 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:18:01.23 ID:iq2L04SB0

「致し方ありません。長門さん、お願いします」
 古泉がそういうと、長門が無表情をこちらに向けて近づいてきた。
「どうした、長門」
 俺は、この質問に対して答えが返ってくるなんてこれっぽっちも期待していなかった。
 だが、今日は違ったんだよなあ。何もかもが。
「あなたの脳内に、わたしが保有する過去の記憶情報を大量に投影させて、記憶の復元を行う。
 直接的な情報操作に対しては何らかの妨害情報による影響を受けるため、止む無くこの手段を採ることにする」
 すまんが、何を言っているのかさっぱりわからない。
「簡単に説明するなら、衝撃に注意してください、ということです」
 古泉、お前には聞いとらん。それに答えになってない。
 もう一度長門の方を見ると、俺の視界には長門の手のひらだけが映った。
「始め」
 わっ、ちょっ待ってくれなが

14 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:21:00.94 ID:iq2L04SB0

 一瞬の間を置いて、即座に俺の視界は閉ざされた。
 いや、閉ざされたわけではなく、突然ぱっと違う景色が見えたんだ。
 県立北高等学校に入学、SOS団結成、ハルヒと俺しかいない空間、…………。
 とにかく、膨大すぎる情報が一気に俺の脳になだれ込んだわけだ。無理やり頭ん中に
何かを押し込められているような、そんな感覚だった。
 ああ、思い出した。全部思い出したよ。
 俺はSOS団の雑用係だ。って、それだとこれまでの記憶と何ら変わりないか。
 とにかく、俺はなぜだかこの世界に飛ばされたわけだ。
 確か、コンピ研が作ったゲームを久しぶりにした、その翌日のことだっただろうか。
 待てよ。この格好、この訓練。ここは第二次世界大戦の真っ最中かよ!
「その、ここが現実の戦時中と同じ時間平面だとは言えないのです」
 そう話を切り出したのは、他ならぬ未来人によるものだった。
「涼宮さんが起こした時空震、それによってできた時間断層の影響で、本来ならそれ以前の過去には
時間移動ができないはずなんです」
「確証は得られていないが、この世界は全て乃至部分的に涼宮ハルヒが創り出した世界である可能性が高い」
 長門が、朝比奈さんに追従するようにして補足を加える。今日の長門さんは饒舌だねえ。

15 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:24:01.24 ID:iq2L04SB0

「今、我々がいるのは本来存在しているべき世界とは全く違います。僕自身、創造された世界に
来るのは初めてなので詳しいことはわかりませんが」
 古泉、お前が随分楽しそうに見えるのはどういうことだ。
「問題は、なぜ涼宮さんがこの世界を作り出したか。この一点に集約されます」
 確かに、単なる暇つぶしにしてはやりすぎだ。
「残念ながら、これに関して明確な回答は見つかっていません。
 ですが、これまでの経験則から一つだけ断言できます。涼宮さんが何かを望んでいる、ということです」
 まあ、当然っちゃあ当然だな。ハルヒのことだ、俺たちが想像もつかないようなとんでもないことを
企んでいるに違いない。
「この世界は、元の世界と根本的な構造が違う。情報統合思念体との通信が途絶え、
情報操作が殆ど制限されたことがその一つ。
 ほか、多方面での影響が確認された」
 何の前触れも無く長門が口を開く。
 長門にしてはなかなかわかりやすい説明だな。
「そして、我々はある重大な異変に気づきました」
 異変? 宇宙人的なことか?
「いえ、もっと身近なできごとです」
 そして、古泉は一呼吸置いてから、
「さて、あなたは第二次世界大戦のことをどれだけ覚えているでしょうか?」

16 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:27:36.85 ID:iq2L04SB0

 第二次世界大戦について? そんなことは小学生でも知っているだろう。
 確か、ええと、そういえば、その、いや、あれ?
 どういうことだ。ここだけ記憶がごっそり抜け落ちたような感覚だ。
「気づきましたか? そう、我々は第二次世界大戦のことを何も知らない、否、忘れている。
 残っている記憶は、第二次世界大戦という固有名詞。それと、この世界で既に起こったことぐらいでしょうか」
 どうでもいいが、喋りにいちいち勿体つけるのはやめろ。
 しかし、日本が勝ったか負けたかすらわからなくなるとは驚きだ。
「残念ですが、これらの現象が発生した原因については、未だ結論が出ていません。今は無視しておきましょう。
 何よりの問題は、我々が無事に元の世界に帰ることができるかどうか。そのためには、ある条件を
満たさなければならないはずです」
 で、その条件を絶賛捜索中というわけか。
「これは私の持論ですが、この一連のできごとはあなたが鍵になっているでしょう。
 今までがそうであったように、今回もそうであると断定せざるを得ません」
 わかった。俺も協力しろってことだな。
 そう言うと、古泉は口を結んで頷いた。

17 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:30:00.77 ID:iq2L04SB0

「ちょっと待った。気になることがある。
 谷口と国木田、それに朝倉は何でこの場にいるんだ?」
 この世界でSOS団を再構成するなら、俺たちだけで十分なはずだ。
 それに、例え人数合わせだとしても、この三人が選ばれた理由にはならない。
「ああ、そのことはまだ説明していませんでしたね。
 仮定に過ぎませんが、我々の持論を三人についての解説と共に伝えておきましょう。
 まず、谷口くんと国木田くんですが、彼らは以前の記憶を保有していないようです。
 なぜ彼らがこの世界にいるのかは、元の世界で行った活動から納得できるかと」
 文芸部の機関紙作りとかがあったな。まあ、この二人に関してはSOS団にいても不自然ではない。
「だが、朝倉はどうなんだ? あいつがSOS団に関わったことなんて無いだろうに」
 俺が本当に訊きたいのはこれだった。
「そうですね。朝倉さんの復活は、我々にとって最大の疑問です。
 まずはっきりと申し上げておきますが、彼女は以前の記憶を保有しています」
 これを聞いた瞬間、俺の体が少し震えた。

18 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:33:00.77 ID:iq2L04SB0

「ということは、あの教室でのできごとも覚えているのか」
「ええ。あなたにとっては少々不都合かもしれませんが、仕方ありません。
 ですが、彼女も自分の意思でこの世界に来たわけではないようです。
 なぜこの世界で復活を果たしたのか、現時点では原因不明です」
 そうなると、ハルヒの能力に因るものと考えるのが自然だな。呼びつけた理由はさっぱりわからんが。
 しかし、そんなことは既にどうでもよくなっていた。古泉が話した内容の、ある部分が納得いかなかったからだ。
「ちょっと待て古泉。
 お前は、朝倉が以前の記憶を持っていることで俺が苦労するだろうと言ったが、それは間違いだ。
 そりゃあ、再会したばかりのときは抵抗があったさ。
 だがな、これまで一ヶ月間共に訓練を続けてきたんだ。今では大切な仲間だろ?」
 俺は、勢いに任せて台詞を吐いた。少々きつく当たりすぎたかな。
 だが、その不安は古泉の笑い声に掻き消される。
「そうですか。いやいや、僕の思い過ごしだったようですね。
 その言葉が聞けたことを感謝します」
 やけに恭しい態度だな。いつものことか。

19 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:36:02.34 ID:iq2L04SB0

「まだ警戒すべき点がある」
 そう言い出したのは長門だった。
「何らかの影響によって、元の世界の記憶と現在の世界の記憶、両者の境界が曖昧になりつつある」
 淡々と言葉を羅列する長門。
 なんとなく意味はわかるが、それでどうなるんだ?
「この状態を打破しない限り、解決の糸口を探すことは困難と判断した。
 帰還には長い期間を要する」
 なんてこったい。

 こうして、俺の異世界ドンパチライフは幕を開けたのだった。
 おっと、敵性言語は慎まなければ。

20 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:39:00.46 ID:iq2L04SB0

 訓練が始まってから三ヶ月が過ぎ、我がSOS団はなんとか一小隊としての機能を確立させつつあった。
 広島の木々は、僅かだった雪化粧をすっかり落としている。
 そして今日、俺たちは長崎県の佐世保へ集合していた。
「みんな、今日は初めての大規模演習よ! SOS団の威光を知らしめてやるんだから!」
 我らが小隊長様は、太陽に負けず劣らずの輝きを放っている。
 そういえば、結局のところハルヒに以前の記憶はあるのだろうか?
古泉曰くほぼ無いだろうとのことだが、どうだろうね。

 それにしても、まだ時間でもないのに辺りが妙に騒がしいな。
「ふん、あれが軟弱で非国民の小隊か」
「女が前線に立つなんてどうかしてるな」
 なっ! なんなんだあいつらは!

 第〇七〇七小隊、つまりこの世界でのSOS団が設立された当初から、疑問に思っていたことがあった。
 それは、構成員の半分が女性であるということだ。
 衛生兵の朝比奈さんや狙撃手の長門は大目に見るとしよう。
 だが、朝倉は躊躇無く先陣に立ち銃をぶっ放す。さらに、隊長が女であるという始末だ。
 挙句の果てに、部隊名が英字である。
 周囲の人間がバカにする要素は有り余るほどあった。

「ハルヒ、あんまり気にするなよ」
 俺はそっと言ったつもりだった。だが、焼け石に水だったんだろうね。
「うるさいバカキョン! 頭に来たわ。みんな、思う存分見返してやりましょう!」
 ハルヒは、腕を組んだまま怒鳴り散らしやがった。
 俺、生きて帰れるだろうか。

21 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:42:01.21 ID:iq2L04SB0

 俺達が所属するのは第五師団、その中の歩兵第四十一連隊である。
 まあ、そんな細かいことは気にしなくてもいい。とにかく、今日は第五師団を構成する部隊全てが
集まったということだ。
 師団長の話によれば、今日はここで上陸を中心とした作戦を演習するとのこと。
 各部隊が、砂浜に並んだ上陸用舟艇に乗り始めている。大発動艇ってやつか。
 特大の板切れが大量に打ち上げられているかのような光景だ。
 さて、俺も急がなければ。寒空の下で海に放り出されるのだけは勘弁して欲しいね。

22 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:45:00.32 ID:iq2L04SB0

 場所は変わって舟の中、すっかり陸が遠くなっちまった。
「では、これより作戦内容を発表します!」
 これから地獄の演習が待っているというのに、始まる前からエンジン全開とは全く素晴らしいやつだ。
「まず、接岸したらキョンと谷口で上陸ね。その際、ええと、涼子は機関銃で制圧射撃を頼むわ」
「おう、任せとけって!」
 お前もやけに威勢がいいな、谷口。
 それと朝倉、頼むから間違えて俺たちを撃つなよ。いや、上陸演習では弾薬無しだったな。
「次に、古泉くんと国木田くんが続いて上陸。国木田くんはキョンたちのところに、古泉くんは涼子の上陸を
援護しつつ、一緒に上陸してもらうわ。
 あとは、他の小隊と合流するまで継続躍進よ!」
 あー、ここで説明しておこう。
 継続躍進とは、部隊を二つの班に分け、片方が前進しつつ片方が援護射撃をする戦い方だ。
それをひたすら交互に行う。
「有希は、キョンたちが陣地構築を終えたら前進して、そこで構えててね。
 みくるちゃんはここでケガ人の手当てをよろしく!」
「はぁい」
 誰が負傷するっていうんだ、誰が。
「連絡は通信機器を持った国木田くんと取るから。
 陣地構築後、国木田くんはその場に残って、他のみんなは中隊長の言うことを聞いてね。
 以上!」
 早い話、上陸して陣地を作れってことだな。了解。
 ところで、会話の最後に出た中隊長だが、この方はSOS団に味方する数少ない人間である。
 それに加えて人をまとめる能力に長けていることから、ハルヒもそれなりに信頼しているようだ。
 一応上官なんだから、信頼じゃなくて尊敬しろよ。

23 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:48:00.64 ID:iq2L04SB0

 そんなこんなで、演習が始まってしまった!
 まず、舟が岸に辿り着く。その瞬間、俺と谷口が地面を蹴り出す。
 全力で走り適当な岩場を見つけ、その辺りに両膝をつけて一気に倒れこむ。
 一気に砂が舞い上がった。痛くない分、砂浜で助かったよ。
 国木田が来るのを待ち、合流した後は予定通り継続躍進だ。
 その途中、国木田の持つ機器に電波が入る。
「他の部隊より遅れてるわ! もっと速く進みなさい!」
 言いたい放題だなハルヒよ。死んだら元も子も無いんだぞ。
 俺は半ば呆れつつ、少し急いで歩を進めた。これでも上官命令だからな。

 何とか目標地点に辿り着き、他の小隊と共にせっせと陣地構築を始めた。
 先にも書いたが、俺たちが所属する中隊の隊長はSOS団に好意的だ。
 その影響もあってか、ここの中隊以下に所属する人たちとの作戦行動で不快な思いをしたことは
一度も無かった。
 ああ、言い忘れていたが中隊というのは数個の小隊で構成されているんだ。
 他の部隊に関しても、いくつかの下部組織が集まったものだと考えてもらって構わない。

24 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:51:00.98 ID:iq2L04SB0

 陣地構築を終えた後は、弾薬を装填した演習に切り替わった。
 俺、谷口、古泉、朝倉の四人で固まり、他の小隊と足並みを揃えつつ前進。
 この地区では、戦車を中心とした部隊と戦うことを想定しているとのことだ。
 俺と谷口が小銃で戦車の周りにいる歩兵もどきを狙い、独逸製の無反動砲を持つ古泉が戦車を狙う。
機関銃手の朝倉は俺達の援護射撃だ。
 時折、後方の長門が持つ狙撃銃から放たれる弾が飛んでくる。一発撃てば、確実に一つの的が潰れる。
 後方部隊の合流を待つときは、俺と谷口は他の小隊が用意した軽迫撃砲を使って対象を狙う。
八九式重擲弾筒だっけ。
 これの繰り返しだった。しかし、弾薬があると無いとでは緊張感がまるで違う。少なくとも俺たちはそうだった。
 谷口なんかチャック開きっぱなしだったしな。
 緊張感もそうだが、恐怖感も味わった。
 破裂音と同時に人一人を殺せる弾が簡単に飛んでいくのである。特に、全身を襲う
迫撃砲の衝撃には身震いしたね。
 だがな、俺はまだ何にもわかっちゃいなかった。これは訓練であり、これから俺たちが向かうのは
戦場なのだから。

25 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:54:00.50 ID:iq2L04SB0

 こうして、SOS団初の軍事演習は終わった。
 肝心の成績はというと、所属する中隊では最優秀で、連隊内でもなかなかのものだった。
 これも、SOS団の独特な訓練あってのものなのかねえ。
 俺たち前線組は、夕陽の下でしばしの間達成感に酔いしれていた。

 ただ、その訓練を推した張本人は不満たらたらなようで、開口一番、
「あんたたち! 他の部隊に負けちゃったじゃないの!」
と言い出す始末である。
「ハルヒ、まずは俺たちを労うべきだろう」
「ん、それもそうね。みんなご苦労様! 明日からもがんばるわよ!」
 もう明日のことを考えているのか。その体力を少し俺に分けてほしいものだ。
 事実、この演習でハルヒを除くSOS団全員が疲弊しているはずだ。
 いくら毎日訓練しているからといって、実戦に関しては何もかもが初めてのことである。
 誰もが、体力的にも精神的にも限界を感じているだろう。このまま倒れたい気分だ。

26 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 21:57:00.86 ID:iq2L04SB0

 それからというものの、日々の訓練にも一層の気合が入ったものとなった。主にハルヒが。
 十代にして鬼教官とは賞賛に値するね。
 一方それを受ける俺たちは、日の出と共に走り出し、日の入りと同時に倒れこむような生活が続いていた。
 けれど、これはこれで楽しかったんだよな。
 苦楽を共にする仲間の存在、これほど心強いものは無かった。
 みんな生き生きしていた。
 それだけではない。連日厳しい訓練を受け、演習ではいつも上位の成績を修めるようになった俺たちに対して、
周囲の目が次第に変わってきたのだ。
 いつの日からか、誰も俺たちをバカにしなくなった。わざわざ妬んでくるようなやつまでいる。
 SOS団は、ハルヒの望み通り名実共に最強の部隊になったのかもしれないな。それは自惚れか。

27 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:00:00.49 ID:iq2L04SB0

 新生SOS団に入ってから十ヶ月が経ち、俺たちは全員一緒に昇進できた。
 辺りの見慣れた紅葉も、今日ばかりは俺たちを祝っているような気がしてならない。
 まあ、俺と谷口と国木田に関してはただの一等兵だがな。
 そして、俺たちSOS団に転機が訪れた。
「みんな聞いて! 我がSOS団の配属先が決まったわ」
 俺たちが戦地へと赴くときが来てしまったのである。
「まず今月中に上海に行き、そこで第五師団隷下の歩兵第四十一連隊と合流します。そこからは
師団長の指示に従いましょう」
 前にも説明したが、第五師団及び歩兵第四十一連隊は俺たちが所属する部隊だ。
 ちょっと待て、大事なことを忘れていた。
「おい、上海に向かう船が無いのにどうするんだ」
「それなら心配ないわ。今回も鶴屋さんに協力してもらうつもりよ」
 笑顔たっぷりに答えてくれた。
 そうか。だがな、あんまり迷惑かけるんじゃありません。

28 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:03:00.65 ID:iq2L04SB0

 十月二十八日、いよいよ出発のときだ。
 俺たちSOS団は広島の呉港に集まっていた。
 海は、穏やかな水しぶきを立てている。潮の香りがいつもより際立っている気がした。
 空を見上げると、門出の日にも関わらず白い雲を全面に広げていた。
「なあ、キョン。いよいよ俺たちも戦うんだよな」
 谷口が口を開く。
「ああ、そうだ。恐いか?」
 そう言うと、谷口は突然高らかに笑った。
「まさか。武者震いが止まらねえぜ!」
 何様を気取っているんだこいつは。

 くだらない会話をしていると、前方から一人の長髪がやってきた。
 SOS団最大の出資者、鶴屋さんである。
「や、みんな。毎日がんばってるかい?」
 満面の笑顔で口を開く。
 鶴屋さんは、茶色のコオトに身を包んでいる。軍服の俺たちに混ざると不自然極まりない格好だ。
「もちろん! SOS団は天下無敵よ!」
 真っ先にハルヒが答えた。天下無敵の小隊って何だよ。
「上海までさね。早速乗るにょろ」
 俺たちは、「鶴屋丸」と書かれた、少し黒ずんだ大型の漁船に乗り込んだ。

30 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:06:00.49 ID:iq2L04SB0

「ここから上海まで、一週間もあれば着くっさ。それまで、ゆっくり疲れを癒しておくれ」
 船を出してくれた上に気を遣ってくれて、これほど泣ける話は無いね。
 まあ、俺たちは疲れを取ることよりも遊ぶ方を優先してしまったわけだが。
 まだ十八歳だぞ。あっちの世界じゃ高校生だ。
 ん、あっちの世界ってどんなところだっけ?

 出航して数日は、訓練もほどほどにして自由な時間を大いに楽しんだ。
 しかし、上海到着が近づくにつれて、徐々に船内の空気が張り詰めていくのが手に取るようにわかる。
 特に、ハルヒが熱心に陸軍士官学校時代の教科書を読んでいるのが印象的だった。
 普段は表に出さないが、お前にもある種の責任を感じるところがあるのだろうか。

 月が替わり十一月、灰色の海の先にうっすらと黒い物が見え始めた。
 あれが大陸か。地平線の端から端まで陸地じゃないか。
 谷口が無駄に騒いでいないな。SOS団のメンバーは何とか落ち着きを取り戻しているようだ。
 そして数時間後、俺たちは異国の地に初めて足を踏み入れた。
「みんながんばるんだよ! 辛くなったらいつでも戻っておいで!」
 さようなら、また会える日まで。
 鶴屋さんは最後まで笑顔だった。

31 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:09:00.60 ID:iq2L04SB0



 ここには、お国のためだけに戦っているやつは一人もいなかった。少なくとも、俺の目にはそう映ったね。
 自らのために戦い、自らのために死んでいるんだ。敵も味方も。
 信じるもののために、愛するもののために。
 それが、国のために戦うってことだ。


 〜第一章 曉に祈る〜

33 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:12:00.69 ID:iq2L04SB0

 上海に辿り着いてから数日後、とある大会議場で第25軍司令官の演説があった。
 予め言っておくが、長ったらしいなんて決して思ってないぞ。
 話の詳細については、当然だが省略させてもらう。
 ちなみに、第二十五軍とはSOS団が所属する第五師団などを統括する軍である。

「みんな! 作戦内容を発表するわよ」
 俺たちの宿場にもなっている船内のとある一室で、SOS団の会議が始まった。
 周囲は濃い灰色の壁で覆われ、入り口右側に備え付けの二段ベッドがあるだけの簡素な部屋だ。
 ただ、上官の話によると、船にベッドがあるだけでも相当恵まれているらしい。
 なんとなく、壁に押しつぶされそうで怖い。
 で、ハルヒの話した内容を簡潔にまとめるとこういうことだ。
 出航した後は十二月八日に泰国(タイ)に上陸、同国と同盟締結後に泰国領を通過し、馬来半島(マレー半島)で
英軍、つまり英吉利軍と交戦するとのこと。
 いや待て。マレー半島? 英軍? 何の話だ。
「米英に宣戦布告するのよ!」
 なっ、そういう計画だったのか!

 上海に配属された当初、俺はてっきり関東軍に編入されて満州の警備でもするのだと決め付けていた。
 それが突然、これから英吉利と戦いましょう、なんて話があるか。
「何言ってるのキョン。これはチャンスよ? ここで功績を残せば世界最強の部隊だと認められるわ」
 日本を飛び越えて世界一ってか。
 何だってそんな上ばかり目指す必要があるっていうんだ。
「じゃあ、各自しっかりと休んで戦いに備えてね」
 ついに、第〇七〇七小隊SOS団にとって最初の戦いが始まるんだな。

34 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:15:00.36 ID:iq2L04SB0

 その後、俺たちは予定通り十一月中旬に上海を発った。
 今日から、十二月八日までこの船の中で過ごすことになる。
 さて、出航した日のことである。俺は唐突に、去年と同じように古泉に呼び出された。
「何だ、古泉」
「新SOS団が設立されて、一年が経ちました。ですが、我々は未だに元の世界へ戻る方法を見出していない」
 笑顔を絶やさず、それでいて声色は真剣そのものだった。
 ああ、そういえばそんな話あったなあ。
「だが、これまでちっとも話題に挙がらなかったじゃないか。いきなりどうしたんだ?」
「それが、今日突然思い出したのです。恥ずかしながら、僕もすっかり失念していました」
 首を傾ける古泉。
 大事なことを忘れるなんて、古泉らしくないな。
「何の前触れも無く記憶が取り戻されるというのは、めったにありません。
 この現象は偶然ではない。僕はそう睨んでいます」
 そこまで深刻に考えるほどのことだろうか。
「けれど、解決方法が無いとどうしようもないんだろ?」
「その通り。これまでの涼宮さんの動向を振り返ってみても、まだ目的が達成されていないようです。
 今我々にできるのは、この世界での職務を全うすることのみですね」
 古泉は、普段と同じような調子でそう言ってのけた。

 この会話で思い出したが、ここに来てからもう一年経ったのか。
 最後は笑って帰りたいものだ。

35 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:18:00.48 ID:iq2L04SB0

「なあキョン、もう戦地は目の前なんだよな」
 上海を離れてから一週間ほど経ったある日、そう切り出したのはチャックの引き締まった谷口だった。
「それがどうした?」
「いや、なんというか、まだ戦うってことに実感が無いんだよな。
 言っちゃあ悪いが、結局はただの殺し合いだろ? なんのために戦うのかな、って思ってさ」
 いつもより、随分重苦しい口調だった。
「その意味を見出すのが俺たちじゃないか? なんてな」
「そうだな。そりゃあそうだ」
 霧が薄くなる。
「キョン」
 なんだ?
「帰ったら、腹いっぱいわらびもち食おうな」
 ああ。
 それ以上、俺たちは何も言わなかった。
 背負っていた鉛が一つ、ゴロンと音を立てて落ちた。

36 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:21:00.53 ID:iq2L04SB0

 出航してから二週間が経ち、いつの間にか師走の訪れを迎えていた。
 いつもと変わらず寒々しい海だなあ。
 上陸が近づいているからだろう、心なしかどの乗組員も顔が強張っているような印象を受ける。
 そんな中、こいつだけはいつもと変わらなかった。
「今日はお前が掃除当番だぞ、朝倉」
「わかってるよ、キョンくん」

 俺は、朝倉と会うことは二度と無いだろうと思っていた。そう願っていた。
 その考えは、元の世界での十二月に容易く打ち砕かれてしまう。
 そして、この世界での去年、まさかの三度目の再会を果たしちまったわけだ。
 朝倉は何のためにこの世界に来たのだろうか。
 単なる数合わせ? ハルヒがそんなことをするはずが無い。
 いや違う、そもそも前提が間違っているんじゃないか?
 ハルヒの力ではない、他の原因で復活したと考える方がよっぽど自然だ。

 邪推するのはやめよう。今のあいつは敵ではない。

38 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:24:01.26 ID:iq2L04SB0

「なあ、朝倉」
 その日の夜、俺は思い切って朝倉を部屋に呼んで話すことにした。
 空間は微かな上下運動を繰り返している。
「なに? 真剣な顔しちゃって」
 朝倉は、いつものように笑顔で返答する。相変わらず、人当たりのいいやつだ。
 そんな朝倉にこんな質問をするのは、ちょっとばかり罪悪感があるのだが。
「お前、SOS団にいて楽しいとか感じることはあるのか?」
 束の間の沈黙。
 ああ、何が楽しくてこんなこと聞いたんだ俺は。魔が差したのか。
 けれども、朝倉は不快な表情を浮かべることなく答えた。
「ある、って言ったら信じる?」
「これが去年だったら、絶対に信じなかっただろうと思う。
 だがな、今となってはお前も俺たちと共にこれまで過ごしてきた仲間だ」
 妙に口が動かしやすくなった俺は、そのまま話を続けた。
「俺は、なんだかんだ言ってお前が気になっていたんだ。いや、やましい意味じゃなくてだな。
 前の世界でお前が俺にやったことなんざ、この際どうでもいい。
 ただ、一度消された『本物』のお前が、こうして俺たちと一緒になって過ごすことに対して何か
抵抗を感じてるんじゃないか、って考えてたわけよ」
 今まで溜めていたものを一気に吐き出すことができた俺は、ぬるま湯の充足感に浸っていた。

39 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:27:00.55 ID:iq2L04SB0

「へえ、そんなこと思ってたなんて意外ね」
 笑顔のまま。
「わたしね、今までは人間の感情なんて全然わからなかった。
 でも、またこの世界、正確には前いた世界とは違うけど、ここに帰ってきたとき、不思議と全身の力が抜けて
ダラーンってなっちゃったの。
 それから、急に笑い出しちゃって。全く、おかしい話よね」
 おかしくなんか無いぞ、口から自然と出た言葉だ。
「それで、初めて思ったの。これが、あなたたちが言ってた安心感とかそういうものなのかなって」
 俺は、話を始める前よりも神経を研ぎ澄ませて、必死に意思表示している朝倉の言うことを聞き取り続けた。
「なんだか、この世界に来てから妙に人間っぽくなっちゃったのよね。涼宮さんの力かしら?
 とにかく、わたしは毎日楽しく過ごしてるよ」
 そうかい。
「前はあんなことしちゃったのにこんなに親身になってくれるあなたに、いつか伝えたいと思ってた」
 少し間を置いて、
「キョンくん、ありがとう」
 礼は生き残ってからにしろ。
 そう言った後、俺はわざとらしく笑ってみせた。
 その先には、快晴の笑顔を浮かべる朝倉がいた。

40 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:30:00.84 ID:iq2L04SB0

 十二月八日午前一時三十分。
「ヒノデハヤマガタ」
 これが開戦の暗号だった。
 数時間後には、布哇(ハワイ)への奇襲作戦も始まったらしい。
 マレー作戦のみならず、太平洋戦争の始まりである。
 実感は無いけどな。

 話によると、別師団の先遣隊が英吉利領に強行的な上陸を開始したとのことだ。
 俺たちSOS団を含む第五師団は、予定通りに泰国領を通過している最中である。
 暗くて周囲はよく見えないが、象が街中を歩いているわけではないんだな。
 そんなつまらないことを考えられるぐらい、不思議と気持ちは落ち着いていた。

41 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:33:00.64 ID:iq2L04SB0

 十二日、まだ朝陽が顔を出し始めたばかりだ。
 俺たちは国境付近まで迫っていた。
「これから交戦中の友軍部隊と合流し、一気にジッドラ陣地を突破よ!
 準備はいい?」
 小隊長様、今日もご機嫌麗しゅう。
 ジッドラ陣地というのは、泰国国境のすぐ近くにあるイギリスの要塞である。
 ここ半年間は、ジッドラ陣地を始めとするマレーでの戦いを意識した訓練が多かった。
 そのおかげで、こんな言いづらい地名もいつの間にか覚えちまったってわけだ。
「行軍開始!」
さあ、敵は目の前だ。

 太陽が傾き始めた頃、俺たちはようやく前線に辿り着いた。
 だが、そこに英軍の姿は無い。
 訝しげに思っていると、それまで微動だにしなかった長門が口を開いた。
「ジッドラ陣地で篭城していた英軍は全面退却した」
 敵は逃げたってことか。
 その言葉を聞いた瞬間、全身の気力が髪の毛のように抜け落ちた。
 戦わなくて済むのは、俺たちにとってはありがたい限りだ。
 だが、一部の人間にとってはいい加減じれったくなってくるんだろうな。ハルヒとか。

42 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:36:00.46 ID:iq2L04SB0

 翌日、先発の部隊を見送ってから、俺たちにも進軍命令が下された。
 そのとき、進軍するにあたって支給されたものが、なんと自転車である。
 まあ、様々な形式の行軍演習を行った俺たちにとっては別段驚くことでもないのだが。
 右を向いても左を向いても銀輪ばかり。この光景、買い物に向かう主婦の様子と酷似するような気がしてならない。
 但し、乗っている連中は異常に真剣な顔つきだがな。
 それにしても、自転車に乗っている長門が楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
 風を切る感覚が嬉しくて仕方ないのかもしれない。俺の勝手な妄想だ。

 それからというものの、最前線では軽く英軍の抵抗を受けているようだが、中盤に位置する俺たちには
何の被害も無かった。
 毎日銃を構えなければならないと思っていただけに、この状況には密かに感謝している。
 英軍がご丁寧に全ての橋を壊しつつ退却するので、川が近づいたら行軍をやめて橋が修復されるのを待つ。
そんな日々が続いた。
 もっとも、橋を直す工兵たちは不眠不休の作業を強いられているようなので、全軍が楽をしているとは言えない。

43 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:39:00.51 ID:iq2L04SB0

 年が明けて一月六日、それまで順調だった俺たちの足取りが止まってしまった。
 最前線との通信によると、敵陣と衝突して本格的な交戦が始まったとのことだ。
 微かだが、砲撃の音が以前よりも大きくなっているような気がする。
 そして、進軍が止まるということは、俺たちが戦闘に参加するということを意味していた。
 頼むから、初陣で散るのだけは勘弁してくれよ。

 暫く進んでいくと、他の部隊が用意した野営地を発見した。どうやら、ここが後衛の陣地であるようだ。
 辺りは、日本では見慣れない木々に覆われている。薄暗い。
「もうじき戦闘ね。やつらの喉元に切っ先を突きつけてやるのよ!」
 実際にそれをやるのは、隊長のお前ではなく俺たちだということを忘れないでほしい。
「キョンくん、無事に帰ってきてくださいね」
 朝比奈さん、あなたに傷の治療は絶対させませんよ。
「敵は攻めてこないようね。そろそろ始めましょう。
 いつもの六人は、前線に到着したら新たな陣地をつくって、そこで敵を迎え撃ってね。
 陣地構築中に敵の攻撃があるかもしれないわ。その場合も、自分の命を優先して戦うこと!」
 お前にしては真っ当な指示だな。
 如何なる局面でも気合で乗り切りなさい、とかそんなことを言うだろうと思っていたが。
「それでは、」
 そこでハルヒは大きく息を吸って、
「全軍前進!」
 辺りに木霊する。いつか鼓膜が張り裂けそうだ。

44 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:42:00.73 ID:iq2L04SB0

 前進した俺たち六人は、敵の抵抗を受けることなく野戦築城を遂行できた。
 いつ移動を始めるかがわからないだけに、ただ単に掘っただけの極めて簡素なものだ。
 今は、狙撃手の長門に監視役を任せ、俺たちは束の間の休息を取っているところである。
 太陽の位置からして、もうすぐ夕方ってところか。
「なあ古泉、ここに敵が攻めてきたら俺たちはどうすればいい?」
 俺は、何気なくこんな質問をしてみた。
「どうするも何も、普段通りの迎撃態勢をとれば大丈夫ですよ」
 そりゃあそうだな。何を言っているんだろうか俺は。
 独白では平静を装っているが、実際のところそうではないのかもしれない。
 しかしまあ、みんな何も喋らないな。
 上陸してから一ヶ月が経ったとはいえ、まだ敵との接触は無い。
 それ以前に、俺たちにとっては初めての戦いだ。緊張するのも当然か。

 結局、夜になっても敵が現れることは無かった。
 見張りは別の小隊に任せ、俺たちは夕食を取ることにした。
 これは訓練のときから思っていたことだが、軍では食事のときが一番楽しい。食事の間だけは、何もかも
忘れることができるからだろうか。
 いつも通り、他の部隊も盛り上がっているようだ。行軍中とは空気の荷重がまるで違う。
 さて、俺たちも準備を始めなくては。

45 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:45:00.55 ID:iq2L04SB0

 今日は、ハルヒと朝比奈さん抜きの食事か。
 少し寂しいと感じるのは、朝比奈さんだけの所為だよな。
 しかし、あの二人だけで過ごすのは大丈夫だろうか。心配だ。
「涼宮さんから通信が入ったよ。みんなの安全確認だって」
 国木田は俺にそう告げた。
 ハルヒからの連絡か。今は食事中だってのに。
 黒色の長方形に手をかける。
「キョン! あんた、みんなに迷惑かけてないでしょうね!」
 通信機を取るや否や、音割れするほどの怒号が耳に刺さった。
 少しぐらい俺の心配をしても、バチは当たらんぞ。
「お前じゃあるまいし、誰にも迷惑はかけとらんよ」
「ふん。せいぜい生きて帰ってくることね」
 そう言ってから、ハルヒは一方的に通信を遮断した。
 正直言おう、何がしたかったんだ。

46 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:48:00.47 ID:iq2L04SB0

「相変わらずキョンはモテるなー」
 黙れ谷口。
「それにしても、今日は大変だったな」
 わざと疲れたような表情をされても、反応に困るのだが。
「今日は築城作業があったからな。敵もすぐ近くにいるわけだし、いつでも出られる態勢をとっておくのが妥当だろう」
 とでも言っておくか。
「そうだね。明日には敵が来るかもしれないよ」
 口に物を含みながら話す国木田。器用だな。
「ええ。今の戦況を考慮すると、いつ戦闘が発生してもおかしくない状況です」
 この口調、古泉の発表会が始まりそうだ。誰か止めてくれ。
「しかし、まだ実感無いんだよな。実弾が入った銃で人を狙ったことは無いし」
 素行から鑑みるに、悪いがそういう風には見えないな。
「俺だって、いろいろ思うところがあるんだよ」
 谷口が人に威張れるようなことを考えているようには、残念ながら全く感じられない。
「明日もがんばらないとね」
 そう言ったのは、人間らしい朝倉だった。
「朝倉のためなら、たとえ火の中水の中ってな!」
 谷口いい加減にしろ。

47 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:51:00.34 ID:iq2L04SB0

 夕食の片付けも終え、俺は持ち場に戻った。
 いつもなら、この後すぐに就寝準備に移る。だが、今日は夜間の監視業務があるため
前線に張り付いていないといけない。
 監視役も他の役割と同じく当番制で、悲しいかな、偶然にも今日は俺が割り当ての日だった。
 ただ、監視役は二人体制だ。一人で寂しく過ごす必要が無いのは助かる。
 当番表をもう一度見る。俺と長門の名前を発見。
 前言撤回。だめだこりゃ。

 辺りは闇に、そして静寂に包まれている。その先には敵がいるのだろう。
 しかし、この雰囲気を重苦しく感じることは無かった。
 側に誰かいるだけで、こんなに心強いものなのか。改めてそう感じた。
 で、その長門は相変わらず口を開く素振りを見せない。
 突然、何か芸を始めたらおもしろいんだがなあ。
 まあ、ここは俺が何か話さないと始まらないよな。
「なあ長門、能力を制限されているのに正確な射撃ができるのはなぜだ?」
 この機会に、以前から疑問に思っていたことを問うてみる。
 すると、今まで人形のように静止していた長門の口元が動き始めた。
「制限されていない演算能力を利用したもの。
 距離、風向き、銃の状態などを考慮し、着弾位置を計算によって特定する」
 なるほど。俺には到底辿り着けない境地だ。
「これは言語の概念で説明できるもの。だから、過程を把握すればあなたも理解できるはず」
 いや、遠慮しておくよ。
「それにしても、この世界に来てからは微妙に口数が増えたな。
 特に今日なんか、普段と比べて妙に積極的じゃないか」
「それは、わたしがあなたと会話することを望んでいるため」
 今日の長門はどうしちゃったんだ。

48 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:54:00.19 ID:iq2L04SB0

 長門の喋りは止まらなかった。
「これは朝倉涼子にもその兆候が見られることだが、この世界に来てから所謂人間らしさが表れつつあるのを、
一個体として感じる。
 だから、SOS団として共同で活動することに人間で言う喜びを感じ、あなたがなかなか呼びかけに
応じないときに悲しみを感じる。
 その原因は、情報端末としての能力が殆ど失われているのが一つ。
 しかし、わたしのなかに感情というものが生じたのをはっきりと認識できるため、それだけが
理由であるとは言えない」
 なんだなんだ? ようやく口を開いたかと思えば、急にあれこれ話し始めるとは予想外だ。
 ただ、この感覚は一度感じたことがある。以前に朝倉と話をしたときと同じく、必死に自分の思いを
伝えようとしているのが手に取るようにわかる。
 長門の目が、そう俺に訴えているからだ。
「俺なりの解釈だが、より人間に近い存在になったという認識で構わないか?」
「そう」
 ええと、肯定と判断していいよな。
「泰国に上陸してからは、あなたと話しているときと自転車に乗っているときに、格別楽しいという感情を
抱くようになった。
 原因は、現時点では不明」
 自転車に乗っているときに見た楽しそうなお前は、俺の見当違いでは無かったってわけか。
「長門、楽しいと思うのに理由なんて無いんだぞ。楽しいから楽しいんだ」
 そう言うと、長門は少し間を開けて、
「楽しいから楽しい、記憶しておく」
 と囁いた。
 そう話す姿が楽しそうに見えるのは気のせいではないはずだ。
「長門、俺でよければいつでも話相手になるぞ。
 お前が楽しい、悲しい、そんな感情を持つようになってくれて、俺は本当に嬉しい。
 今まで、お前がはっきりとした意思表示をすることなんて無かったんだ。この際、お前が喜ぶことは
なんでもしてやろう」
 言い終えて、俺の中には恥ずかしさだけが残った。何言っているんだろうなあ俺。

49 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 22:57:00.81 ID:iq2L04SB0

「そうだ長門、空を見てみろ」
 ふと思いついた俺は、長門にそう言った。
 さっき話したことを、すぐに現実にしてやろう。そう思ったからだ。
 何も言わず上を向く長門。仰角四十三度。
 見えたか? そうだ。満点の星空だ。
「どうだ。綺麗だろう」
「星空を視認した瞬間、心拍数の増加を感知した」
 それが、感動というものだ。
「この光景を見ていたい。わたしはそう望んでいる」
 誰も星空を奪うことなんてしないさ。思う存分見ればいい。
 そう告げると、長門は
「そう」
 とだけ言って、再び動かなくなった。
 じゃ、監視を続けるとしますか。長門、こっちは俺に任せておけばいい。
 静寂は、より心地のいいものにかわっていた。

52 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:00:00.60 ID:iq2L04SB0

 監視役は交代制だ。深夜に他の小隊と交代して、俺と長門は就寝した。
 長門がなかなかその場を離れようとしなかったので苦労したのだが、それについては割愛する。

 夜が明けても敵が攻めてくることは無く、俺たち前線組は後方に残した二人とようやく合流することができた。
 今日の朝食は八人だな。なんだか久しぶりに揃ったような気がする。
 しかしなんだ、朝からうるさいのがいるのは精神衛生上よろしくないな。もう慣れてしまったことだが。
「キョン! みんなに迷惑かけてないでしょうね!」
 ハルヒのしかめっ面によって、俺の一日は始まった。
 昨日も聞いたぞ、それ。
「お前こそ、朝比奈さんに迷惑かけてないだろうな」
「うるさい! 何もしてないわよ」
 そうかい。それならいいんだ。

 午後になり、敵が一向に現れないこの状況にいい加減飽き飽きしていた頃だった。
 まあ、他の方面では既に衝突があるようだがな。
「みんな! SOS団の次なる任務が決まったわ」
 そう言い始めたのは、この世に一人しかいない、SOS団の団長である。
「今夜、戦車を中心とした部隊で敵陣に夜襲をかけるの。
 それで、SOS団を含む歩兵第四十一連隊はその援護を命じられたってわけ。
 早速、準備を始めるわよ!」
 ハルヒがそう言い終えた瞬間、辺りは急に騒がしくなった。
 変化っつーのは、唐突に訪れるものなんだな。

53 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:03:00.57 ID:iq2L04SB0

 そして夜、決行のときが来てしまった。
 誰もが、今までに無いぐらい真剣な表情で構えている。ハルヒに至っては、一人で飛び出してしまいそうなぐらいだ。
 上陸してからいろいろとあったが、今回は間違いない。これが俺たちの初陣だ。
「最終確認。
 前進する六人だけど、戦車部隊の後方に着きながら戦車を狙ってくる敵を掃討するのが任務だからね。
 無理に突っ込まないように」
 お前が戦闘に参加するなら、その言葉をそっくりそのまま返したいところだ。
「もし負傷しちゃっても慌てずに、木陰に隠れつつここの陣まで戻れば大丈夫よ。
 でも、ここから離れすぎちゃったりして帰れなくなったら、そのときは小隊全員でどこかに陣を張って、
そこで待機すること。
 あと、こっちとの連絡は常に保つのよ。いい?」
 頷いたり返答したりと、反応は人それぞれだ。
 他の部隊なら、全員声を揃える場面なんだがなあ。
「最後に、みんな無事に帰ってきてね」
 暗闇の中、ハルヒはそう言って話を締めた。
 どうでもいいが、ハルヒの性格が丸くなっているような気がしてならない。

「全軍前進!」
 号令と共に、俺たちは前進を始める。
 ふと後ろを振り返りたくなったのはなぜだろうか。
 そして、俺たちは指示通り戦車隊の後方で構えをとった。
 心臓の高鳴りを感じる。
 一つ安心できる点は、俺たちは突破役ではなく掃討役だということだ。
 前の部隊が撃ち漏らした連中を追い払う。それだけでいい。
 心臓の高鳴りを感じる。

55 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:06:00.63 ID:iq2L04SB0

 突然、前方から砲撃の音が響いた。空気を伝って全身に共鳴するのがよくわかる。
「始まりましたね。さて、我々も行かなければ」
 古泉、悔しいが今日だけはお前が頼もしく感じるよ。

 それから十分ほど経っただろうか、敵は一向に現れる様子が無い。
 しかし、今まさに右側遠くで木々が不自然に揺れるのを、俺は見逃さなかった。
「みんな、向こうから人の気配がしたんだが、どうしようか」
 これを発見した瞬間、頭のてっぺんから一気に血の気が引いた。
 そのためにどうしていいかもわからず、みんなの意見をどうしても聞きたくなってしまった。
「まずは落ち着いて、相手が動くのを待ちましょう。
 視認できる距離まで近づいてきたときは、他の部隊と協力して迎え撃つしかないですね」
 さすが古泉。その貼りついた笑顔も、今は全く気にならない。
「機関でも訓練を受けましたので、これぐらいのことは造作もありません」
 機関で得た経験を発揮できるのが嬉しいんだろうな。心の底から笑ってやがる。

56 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:09:00.38 ID:iq2L04SB0

 天秤が動いた。
「敵軍襲来。総員戦闘配置」
 そう淡々と告げる長門。
 姿勢を低くし、銃を構え、敵が来るのを待つ。
 一瞬の間を置いて、黒い軍服らしきものが見えた!
「撃て!」
 中隊長の合図と共に、俺と谷口は同時に引き金を引いた。
 当たったかどうかはわからない。何人いるかもわからない。

 祭りが始まったかのように、辺りが騒がしくなる。
 気がついたときには、俺は途切れることの無い銃撃音に包まれていた。
 今は、平原を挟んで敵と対峙している状態である。
 小銃を持つ俺と谷口は、敵影が見えたら足並みを揃えて銃を撃っている格好だ。
 機関銃手の朝倉は、敵が前進できないように機関銃で弾幕を張る。
 狙撃手の長門は、精密射撃で敵を狙う。
 国木田は本部との通信を継続し、古泉は弾薬の運搬その他を行っている。
 ここだけ見れば、演習のときと何も変わらなかった。
 だが、いつもとは明らかに違う点がある。それは、当然ではあるが生身の人間を相手にしているということだ。
 俺と谷口が撃つ弾は、見る限り当たっているようには見えない。手が震えているからだろうか。
 相手を退かせることが目的だから、今回はこれでも構わない。俺はそう自分に言い聞かせた。
 しかし、長門が放つ一発一発が、確実に敵を捉えているのがわかった。
 長門が銃声音を響かせる度に、一人また一人と倒れていく。
 生きているのだろうか。それとも死んでしまったのだろうか。一瞬でもこんなことを考えてしまった自分が情けない。
 こんな調子で、他人を狙って撃つなんてできるだろうか。俺に、人を傷つける覚悟はあるのだろうか。
この先、戦場で生き残ることはできるのだろうか。
 頭の中はどす黒い不安で一杯だった。けれども、その全てが銃声音に掻き消されてしまう。
 再び、銃を構えた。重量が双肩に圧し掛かる。
 殺されることへの恐怖は、既に霧散していた。

57 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:12:00.26 ID:iq2L04SB0

 高速で進軍しながらも、結局夜が明けるまでその状態が続いた。
 辺りは靄が立ち込めている。
 眠気をあまり感じないのは緊張の所為だと思うが、訓練のおかげということにしておこう。
「英軍の包囲が完了した。掃討戦に移行」
 長門の表情を見る限りは、疲労は感じられない。実際はどうなんだろうね。
 それにしても、夜戦の次は突撃か。ちょっとでいいから休息がほしいもんだ。
「掃討戦に行こう! なんてな」
 帰るなら今のうちだ、谷口。

 戦車中心の作戦行動だから、突撃とは言うものの俺たちの任務は専ら戦車の護衛だった。
 戦車の陰に隠れて銃撃を行うため、敵の襲撃に怯えることなく戦うことができたのはありがたい。
 何より、他の部隊との連携もあって危険に晒されることも無く、一時間に数発撃ちこむ程度の
軽微な戦闘で済んだのが幸いだ。
 そんな緊張状態が数日間続きながらも、五日ほどで目的地である吉隆坡(クアラルンプール)の市街地に入った。

58 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:15:00.47 ID:iq2L04SB0

 さすがに市街地での抵抗は激しく、すぐ前方の自軍戦車が破壊されることもあった。
 けれども、俺は一心不乱に銃を向ける。
 この数日で、銃弾を放つことに対する後ろめたさは幾ばくか緩和されてしまった。無くなったわけではないが。
 他のみんなも、必死になって銃撃を続けている。
 俺も含めて、全員がこの環境に慣れてしまったようだ。

 それは、市街戦が始まってから一時間ほど経った頃だっただろうか。
 煙の匂いがいよいよ濃厚になりつつあるときだった。
「本部からの連絡によると、この辺りでの英軍の抵抗は完全に無くなったって」
 国木田が唐突に放ったその言葉を、しかして取り零すことなく受け取り、俺たちは無言で構えを下ろした。
 まず、何日もの戦いがようやく終わったことに対して、心の中は安堵で覆いつくされる。
 とにかく辛かった。気持ちを緩めることができない日々だったからな。
 その後少しの間を置いて、いつの間にか俺たちSOS団は、周りの目を気にすること無くみんなで抱き合っていた。
男も女も関係なく。
 ついでに谷口の鉄帽子を叩きまくった。
 嬉しかった。初めての戦いを、SOS団全員で一緒に乗り越えられたのが嬉しかった。
 敢えて不満な点を挙げるなら、この場にハルヒと朝比奈さんがいないことぐらいだろうか。
 街の真ん中で、俺たちは感動を分かち合った。周囲の誰もが、その光景を咎めようとはしなかった。
 太陽を、少し眩しく感じた。

59 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:18:00.58 ID:iq2L04SB0

 クアラルンプールを占領してから数日後、ようやくハルヒと朝比奈さんが追いついた。
「キョン! あんたみんなの足引っ張ってないでしょうね」
 ズカズカとこちらへ向かってくるかと思えば、突然そんなことを言いやがった。
 どうして俺への文句から会話が始まるんだ。まず言うことがあるだろうに。
「みんなお疲れ様! よくがんばったわ。
 暫くはここに滞在だから、ゆっくりしていいわよ」
 そうだ。労いの言葉を忘れちゃいかん。

 それから後発の部隊と先頭を交代し、俺たちは久々の休息を得ることができた。
 各々、思い思いの休暇を楽しんでいるようだ。休暇と言えるほど自由なものではないが。
 暇を持て余す俺は、ついこの間までここで行われていた戦いを思い返してみた。
 一日一日が長かったが、こうして振り返ってみるとあっという間だったような気もする。矛盾だな。
 砲弾に晒される毎日で、安らぐ間も無い環境だった。
 しかし、思いのほか順調に進軍できたことに対し、心のどこかで喜びを抱いたのもまた事実である。
 戦争もそんなに悪いもんじゃないかもしれない。そう思えるぐらい、この数日間が俺に与えた影響は
計り知れないものだった。
 視界の端に、瓦礫の家屋が映った。

60 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:21:00.76 ID:iq2L04SB0

 戦地で平和な日々を送れるはずがねえ。わかっていたさ。
 一週間後、早速の出撃命令である。
 出撃とは言うものの、マレー半島での戦いはほぼ片付いている。
 俺たちの本当の目的地は、その先に構える要塞都市の新嘉坡(シンガポール)であった。
 ちなみに、シンガポールは海を隔てた地であるため、俺たちに支給された通信機器ではマレー半島と交信できない。
 その影響で、今回初めて八人揃っての出撃を命じられた。
 ハルヒがいつも以上に動き回っている。よっぽど戦いたかったんだろうな。

 翌日から自転車による行軍を始め、今日で一週間ぐらい経っただろうか。
 一月三十一日、SOS団はマレー半島最南端のジョホール・バルに到達した。
 戦うことなく来てしまった俺たちには何の感慨も無かったがな。
 それから一週間が経ち、この日の早朝に出撃命令が下された。
 どの兵士も、我先にと舟艇へと乗り込んでいく。
 舟艇での上陸作戦といえば、去年の大規模演習を思い出すなあ。

61 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:24:00.69 ID:iq2L04SB0

 朝陽に潜り込みながら、シンガポール島を目指す。
 それから暫くは、海も人も穏やかだった。事が動いたのは、船内で朝食を取り終えたあとのことである。
「おいキョン! 前の舟が撃たれてるぞ!」
 谷口の声で、全乗組員が前方を向く。
 その先には、敵の機関銃部隊による掃射を正面から受けている舟があった。
 おいおい、これはまずいぞ。
「兵力が手薄なところを狙え! 何としても上陸するんだ!」
 中隊長の指示により、俺と谷口を含めた小銃手全員が一斉に銃を構える。
「右斜め前だ! 撃て!」
 力一杯に引き金を引く。その瞬間、銃撃音がいっぺんに炸裂した。
 少し怯みそうになるが、なんとか気を取り直してもう一度銃を構える。
 しかし、当然ながら敵の反撃が来るわけで。
「みんな伏せて!」
 俺の後ろでそう叫んだのはハルヒだった。
 即座に身を屈める。一足遅れて、弾丸が特急で通過した。
「ハルヒ、いい判断だったな」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。上陸するまで銃撃は終わらないわよ」
 正論だ。なんか悔しい。
 しかし、ひっきり無しに飛び交う銃弾をどう対処しろって言うんだ。
「敵の機関銃手を狙撃する。許可を」
 耳元で声がしたので振り向いてみると、数サンチ先に長門がいた。近い。
「助けてくれるのはありがたい。だが、あんまり無理するなよ?」
「そう」
 この瞬間、長門の電源が入ったようだ。
 銃身を外に出し、狙いを定めている。そして、それは音も無く放たれた。
 敵の銃弾に気をつけながら恐る恐る外を見てみると、長門の弾は見事に命中していた。敵の機関銃に。
 接地した重機関銃が黒煙を上げている。もう使いものにならんだろうな。
 敢えて人を狙わなかったのは、武士の情けってやつか。それとも、ただの偶然なのだろうか。

62 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:27:00.43 ID:iq2L04SB0

 それから一時間ほど、必死に船を揺らしながら一進一退の攻防が続いていた。
 上陸への糸口は、残念ながら全く見えてこない。
「本部から連絡が入った。これより、兵力の手薄な地点に強行で上陸する!」
 中隊長さん、それは本当ですか。
 辞世の句でも用意しておけばよかった。
「具体的な作戦はこうだ。小銃手は、銃身だけを船外に出して撃つ。他の者は伏せておけ。
 但し、敵の位置を常に見ておくための観測手が一人必要だ。
 そうだな、長門、やってくれるか」
 長門は外部の人間からも特に信頼されているからな。
 ここで指名を受けるのも、何ら不自然ではなかった。
「命令を断る理由が見当たらない。全力で任務を遂行する」
 上官相手でも敬語は使わないんだな。今更のことだが。
「そうか、助かる。
 では、総員配置に着け! 工兵は操舵の用意だ!」
 俺と谷口は、温もった銃を再び外に突き出す。
「全員構えたな? よし。進め!」
 中隊長の声と同時に、舟が全速力で動き出す。エンジンの音が反響する。
 正直、敵に突っ込んでいくのは恐い。だが、物陰に隠れられるため、薄っぺらの安心感がある。
それだけが唯一の救いだ。

63 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:30:00.34 ID:iq2L04SB0

「敵機関銃手が抵抗を開始した。銃撃を始めるなら今」
「よし、わかった」
 こういう風に部下の意見をしっかりと聞くところが、結果として高い人望に繋がるんだろうな。ハルヒには
是非とも見習ってほしいものだ。
 そして、一瞬の間の後、
「撃て!」
 再度の一斉射撃。この爆音にも少し慣れてしまった。
「敵の一部に損害あり。今すぐ上陸するべき」
「了解。そのまま舟を進めろ!」
 舟は速力を保ちつつ前進し、そして衝撃と共に接岸した。
「一気に上陸だ! 進め!」
 先発部隊が続々と舟を飛び出す。同時に聞こえるのは銃声だった。
 次第に、辺りは破裂音に包まれていく。

78 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:06:00.83 ID:iq2L04SB0

「ョン、なさい」
 意識の霞みが徐々に薄れていく。なんか聞こえたような気がするが。
「起きろキョン!」
 うわ、なんだ! ハルヒか。
 空が世界を暗闇に閉ざしている。閉鎖空間?
 いやいや、ただ単に夜なんだよな。
「ん、ここはどこだ?」
「あんたが、陣地の真ん中で急に寝ちゃったのよ」
 ああ、そういえばそうだったな。
 ここでようやく、俺は意識をはっきりと取り戻した。
「で、まだ夜中なんだが。敵が攻めてきたのか」
 快眠を妨げられたので、少しイライラしてしまう。
「別に何も無いわよ。さすがに、土の上で寝てる人を放っておくわけにはいかないでしょ」
 反論の余地がない。
「そうかい。じゃ、戻ってもう一眠りとしますか」
 そう言ってから立ち上がろうとした瞬間、ハルヒに両肩を押さえつけられる。
 墜落する戦闘機ばりに、勢いよく地面に叩きつけられてしまった。軍服が泥色になっちまうぞ。
「俺、なんか悪いことしたか?」
「起こしてあげたんだから、ちょっとぐらい話に付き合いなさいよ」
 ああ、わかった。その思考はよくわからんが、すまなかった。
 謝るから、せめて体を縦にさせてくれ。

64 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:34:36.99 ID:vS1k1csRO

 なんとか先陣が周辺の掃討に成功したようで、SOS団はようやく舟を出ることができた。
「ぐずぐずしている暇は無いわ。すぐに橋頭堡を確保するわよ!
 あたしとみくるちゃんで築城作業を進めておくわ。
 あんたたち六人は、他の部隊と協力して敵の侵攻を食い止めて!」
 了解。よし行くぞ。
 後方には傷一つ付けさせない。絶対にだ。

65 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:36:01.53 ID:vS1k1csRO

 俺たち六人は、適当な茂みに伏せて敵の襲来を待つ態勢に入った。
 土と草の臭いが鼻につく。
 心臓が激しく動いている。一人じゃなくてよかったと痛烈に感じるね。
「長門、敵の動向はわかるか?」
「視認できる範囲には存在しない。けれども、敵は上陸を阻止するために必ず反撃してくるはず」
 遅かれ早かれ、敵が攻めてくるってことか。
 それにしても、攻め側のこちらが防衛戦を行うなんて、よくよく考えると滑稽な話だよな。
「古泉、いつになったら進軍できるんだ?」
「そうですね、上陸部隊の第二波が到着するまでの辛抱でしょう」
「他方面の部隊では、既に進軍を始めているところもあるらしいよ」
 国木田がすかさず口を挟む。さすがに通信機器を扱うだけのことはあるな。
「とにかく、絶対にここは守り切ろうね」
 凛とした朝倉の言葉で会話が締めくくられる。
 最近思うのだが、朝倉って隊長向きじゃないか?

66 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:39:02.36 ID:vS1k1csRO

「敵の歩兵部隊と豆戦車一台を確認。総員構え」
 淡々と指示をする長門。なんとなく拍子抜けしてしまう。
 だが、確実に敵は近づいている。これは変えようの無い事実だ。
「ふむ、十人から二十人程度ですね。単純な兵力では敵が優勢と言えます。
 ですが、地の利を生かして、落ち着いて各個撃破すれば大丈夫です。
 そうですね、敵があの木を超えたとき、それを銃撃開始の合図としましょう。みなさんよろしいですか?」
 古泉、立派だな。上等兵を名乗るだけのことはある。この姿を見たら、故郷のおふくろさんも感動するだろうに。
 全員が脇目も振らずに木を見つめる。あと少し、あと少しだ。

68 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:42:01.71 ID:vS1k1csRO

「……、撃て!」
 すまん古泉、俺が言っちまった。
 俺の叫びと同時に、俺と谷口の銃声音が鳴り響く。
 俺たちを発見できていなかったからだろう。敵は一瞬怯んで動きを止めた。
 それから少しの後、敵が態勢を整える前に長門の狙撃が敵兵を貫いた。
「このまま押し切りましょう。僕は、無反動砲であの車を狙います」
「わかった、任せる。
 朝倉、俺たちの援護を頼む!」
「了解! ここは進ませない」
 俺と谷口は、敵が密集している辺りを狙って撃つ。
 朝倉は前進する兵士に足止めをかけ、それに長門が止めを刺す。
 しかしなんだ、長門が撃った相手は必ず足をやられているな。全く器用なやつだ。

70 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:45:00.74 ID:vS1k1csRO

 ん、もうあんなところに豆戦車が!
「古泉! 戦車がこっちに向かってるぞ!」
「ええ。この距離なら確実に当たるでしょう。
 谷口くん、砲撃の指示をお願いします」
「任せとけって!」
 僅かな間の沈黙が発生する。狙いを定めているのだろう。
「今だ古泉!」
「ふんもっふ!」
 その瞬間、古泉のパンツァーシュレックが火を噴いた。本当に噴いたら故障確定だが。
 弾丸が一直線に戦車に向かい、装甲板を貫徹、そして爆発した。
 その光景を見た他の敵兵は一目散に逃げ出した。退却した、と言ってやるべきか。

71 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:48:02.59 ID:vS1k1csRO

「これ以上の戦闘は無意味。すぐに銃撃をやめるべき」
 長門の声で、俺たちは構えを下ろす。
「ということは、俺たち勝ったのか?」
 そうだ谷口。俺たちが掴み取った勝利だ。
「マジかよ。って、やった、やったぞおい!」
「これは、純粋な我々の力によるものですね」
「みんなよくがんばってたよ。さっそく涼宮さんに連絡しよう」
「うれしい」
「よかった。本当に、勝ててよかったね」
 いつの間にか、俺たち六人は勝手に盛り上がっていた。何しろ、初めて俺たちだけで勝ち取った勝利だからだ。
 しかし、まだ終わっちゃいねえ。何としても、何としてもこの戦いを終わらせるんだ。
 そよ風が、過熱する俺たちをそっと癒してくれた。

72 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:50:59.83 ID:vS1k1csRO

「キョン! ちゃんと敵を狙って撃てたの? あんた射撃訓練の成績悪かったから」
 ハルヒは俺を発見するや否や、いきなり食って掛かってきた。
「大丈夫だ、敵を食い止める程度には撃てただろうよ。
 それより、いい加減出会い頭に俺を罵るのは止めろ」
「団員の為を思って言ってるのよ! ありがたく思いなさい」
 そう言われると、返す言葉も無いのだが。
 それとハルヒ、今のは笑顔で言う台詞じゃないぞ。
「みんな、よく持ちこたえてくれたわ。立派だったわよ!
 明日には増援が到着するから、それまでここでゆっくり休んでね」
 深夜から続いた一連の作戦行動も、ここでひと区切りのようだ。
 既に、太陽の半分が地平線に隠れていた。

73 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:54:00.72 ID:vS1k1csRO

 俺たちが休んでいる間にも他の部隊による戦闘は続き、目が覚める頃には敵の大隊規模を
壊滅させるほどの戦果を挙げたらしい。
 朝食後には増援も到着し、あとは進軍命令を待つのみだった。
「みんな、本部からの連絡よ! SOS団が出撃を命じられたわ!」
 そんなに嬉しそうに話すのは止めてくれ。これでも辛いんだからな。
「前線まで縦隊で進んで、敵に遭遇したらすぐに戦闘態勢に入るのよ。
 それじゃあ出発! 全軍前進!」
 それにしても、二日連続で出撃とはなかなか苦しいもんだ。

74 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/10(月) 23:57:00.50 ID:vS1k1csRO

 太陽が傾き始めた頃、俺たちはようやく前線部隊と合流した。
「今から、この先にあるブキッ・ティマ高地を強襲するそうよ」
 なんだ、その水泳大会が始まりそうな名前は。
 またしても言いづらいのが癪だ。
「今回は、わたしとみくるちゃんも先陣に従軍するからね。
 あんたたちの実力を見せてもらうわ」
 そう言ってから、ハルヒは不敵な笑みを浮かべる。
「お前が思ってる以上に俺たちはがんばってるんだぞ。それを証明してやる」
 あまりに言いたい放題のハルヒに、俺ができる精一杯の抵抗をしてやった。
 思わず口の端が歪んでしまう。
「へえ、キョンにしては強気じゃない。
 そんなこと言って本番でヘタなことしたら、どうなるかわかってるんでしょうね?」
 突如、俺の視界に悪魔が飛び込んできた。
 言わなきゃよかった。もう遅いな。

76 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:00:00.89 ID:VZ/Y8RnJ0

 それから、俺たちは特に妨害を受けることも無く最前線近くまで辿り着いた。
 俺と谷口は迫撃砲を空に構え、地面に伏せる。
 ふと右を向くと、同じように地面に貼りついている朝比奈さんがいた。
「そういえば、朝比奈さんは今回が初めての戦闘ですよね。怖くないですか?」
 そう声をかけると、じっと正面を見つめていた朝比奈さんがこちらを振り向く。
 その表情は、味方の旗艦が沈没する様子を見ているかのようだった。
「もちろん、怖いです。でも、みんなががんばってるのに、わたしだけ逃げ出すなんてことはできませんから」
 俺は、その言葉に対して何も言えなかった。軍に所属する限りは、それが現実だからだ。
 なあハルヒよ、朝比奈さんまで戦争に巻き込む必要は無かったんじゃないか?
「その代わり、一つだけお願いしてもいいですか?」
 突然の申し出に驚いた。だが、それを掻き消すかのように、好奇心がすぐさま脳を支配した。
「ええ、何でもどうぞ」
「本当? よかった」
 表情が少し穏やかになった朝比奈さんは、絞り出すようにこう言った。
「その、もしわたしが危ない目に遭ったら、守ってくれますか?」
 俺は、次に発する言葉を失ってしまった。
 外部の人間に言えることではないが、SOS団を守るのは俺たち第一の任務である。
 それにも関わらずこんなことを頼みたくなるぐらい、朝比奈さんは気持ちが滅入ってしまっているのかもしれない。
 俺は、できる限りの優しい口調で答えた。
「SOS団のみんなが無事に帰れるようにするために、俺たちは戦ってるんですよ。
 朝比奈さん、これ以上あなたに嫌な思いはさせません」
 思いの丈を、ここぞとばかりにぶつけてやった。
「キョンくん……、キョンくん……」
 安心したのか、朝比奈さんは突っ伏して啜り泣きを始めてしまった。その姿もまた画になるから困る。
 俺は慰めの言葉をかける代わりに、敵陣をきっと睨みつけた。

77 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:03:00.79 ID:VZ/Y8RnJ0

「長門、敵はいるか?」
「足跡を発見。一度退却した敵兵がこの先で待機していると思われる。
 ここから先は敵の射程範囲内。気をつけて」
 よし。わかった。
 息を潜め、中隊長の指示を待つ。
「砲兵隊撃て!」
 直後、引き金を引くと共に轟音が辺り一面に響く。
「増援の戦車部隊が来たぞ! 全軍突撃だ!」
 中隊長の叫びと共に、周りの部隊が前進を始める。
「みんな、訓練通り継続躍進よ!
 わたしは、みくるちゃんと前進するわ」
 いよいよ、俺たちも出撃だ。
「谷口、国木田、行くぞ!」
「おうよ!」
「うん!」
 夕焼けが空一面を覆っていた。

 戦車部隊の活躍もあり、一時間ほどでブキッ・ティマ高地の占領に成功した。
 さらに敵軍の物資も一緒に奪うことができたのだから、これまでで一番の大戦果だ。
 だが、疲れがひどい。どうしても喜ぶ元気が湧かない。
「安全確認をするわ。みんなケガしてない? 大丈夫?」
 この後、いつも通り陣地構築を行い、そこで横になってしまった。

79 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:09:00.60 ID:VZ/Y8RnJ0

「どうした。何かあったのか? 悩み事か」
 ようやく座る権限を与えられた俺は、冗談半分で言ってみた。だが、ハルヒはそれを聞いた途端に俯いてしまった。
 あれ? もしかして当たっちゃったのか?
 全く口を利かない。これは只事じゃないな。
「辛いことでも、今の内に吐いた方が後々楽だぞ。
 口出しはせん。なんでも聞いてやる」
 俺は、ハルヒがばら撒いた地雷に触れないよう、慎重に言葉を選んだ。
「そこまで言うなら、教えてあげないことも無いわ」
 どこまでも素直じゃないなハルヒ。
 そう思っていたが、その直後のハルヒを見て聞いて、俺は目と耳を疑った。
「あたしね、その、恐い。戦争が、ということじゃなくて、みんなの上に立つのが恐いのよ。
 もしあたしが判断を間違えちゃったら、みんな、その、死んじゃうかもしれないでしょ」
 普段の歩く太陽とは打って変わって、まるで萎れたアサガオのようだ。その姿に、俺は少なからず衝撃を受けた。
 いつも強がっているハルヒだが、今のこいつは俺に相談したくなるぐらい精神的に参っているのだろう。
未だに信じられんが。
 しかし、SOS団の誰かが辛いときは、みんなで助けてやらんとな。そうじゃなきゃ、この先生き残るなんて
夢のまた夢だ。

80 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:12:00.72 ID:VZ/Y8RnJ0

「ハルヒ、お前がそういう気持ちになってしまうのもわかる。
 SOS団みんなの命運を左右する立場だからな。そう考えてしまうのは仕方の無いことだ。
 だがな、SOS団の団長は誰だ? 俺でも古泉でもなく、お前ただ一人のはずだ。代わりはいない。
 俺もいろいろと文句を言うことはあるが、俺を含めてSOS団全員がお前のことを信頼してる」
 ハルヒは、黙って俺の言葉を聞き続けている。触れたら今にも崩れてしまいそうだ。
「ハルヒ、お前はお前らしくすればいい。余計なことを考える必要は無いだろ?
 それに、俺たちはそう簡単にはやられねえよ。
 仮に、万が一ってことがあっても、死ぬときはみんな一緒だから心配するな」
 ハルヒ、これが俺たちの意思だ。宇宙人、未来人、超能力者、そんなの関係ねえ。
 わかってくれただろうか。
 ハルヒは暫く黙ったままだったが、ようやく重い口を開いた。
「うん、そうよね。あたしの団だもの、あたしらしくしなくちゃね」
 既に、ハルヒはハルヒに戻っていた。
「あんたなんかに元気付けられるなんて、なんか悔しいわ」
 今回は俺の勝ちだな。これにて一件落着だ。
「ハルヒ、そろそろ戻るか。明日の行動に支障が出るぞ」
 一瞬の空白。
「、そうね」
 何か言いたげな様子だったが、ハルヒはそれ以上何も喋らなかった。
 頬を撫でる風が、俺に感謝を伝えに来た。

82 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:15:00.28 ID:VZ/Y8RnJ0

 翌日、俺たちに前線陣地での駐留が命じられた。
 占領したばかりのブキッ・ティマ高地、その最前線に新たに陣地を用意して、敵の反撃に備えろってことらしい。
 ちなみに、昨日急場で拵えた陣地は後方の部隊がしっかり利用するそうだ。なんだかなあ。

 敵との衝突も無く築城に成功し、その日は何事も無く終わった。
 日が変わり、今日は他方面の部隊が攻撃を仕掛けるため、俺たちは待機するのみだ。
 そのはずだった。
 突然、前方で炸裂音が響く。
「なんだ! 何が起こった?」
 思わず声を上げてしまった。
「ちょっと待って。連隊本部に連絡を取ってみる」
 国木田、お前はまさに縁の下の力持ちだな。
「こ、ここは安全ですよね?」
「大丈夫よみくるちゃん。いざというときは、あたしたちが守ってあげるから」
「えーと、本部の情報によると、敵が防衛戦を張って」
 国木田が言い終える前に、二つ目の爆音が台詞を遮った。
「おい、どういうことだよ?」
「谷口、まずは国木田の報告を聞くぞ」
 まずいな。全体が混乱し始めている。
「もう一度言うよ。
 敵軍が島の南東部に防衛戦を張って、そこから反撃し始めてるらしいんだ。
 一部の敵が突撃してるって情報もあるよ」
「なるほど。敵が反抗を開始したというわけですね。
 すぐに迎撃態勢を取らなくては」
「わかったわ。みんな、戦闘の準備よ!」
 何事も、始まりは唐突ってもんだ。

83 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:18:00.70 ID:VZ/Y8RnJ0

 それから数分後、この辺りは瞬く間に砲火に晒されてしまった。ひっきり無しに砲弾が炸裂する。
 さすがに、これは冗談にならんぞ。
「ハルヒ、どうするんだ? 退くなら今の内だぞ」
 本心としては、こんな物騒な場所からさっさと逃げたかった。だが、団長様は強情なお方のようで。
「バカキョン! ここで逃げたら戦いが長引くでしょ!
 幸い、ここにいれば砲撃を防げるわ。何としても守りきるのよ!」
 そうかい。
 これまでの俺なら、強く反対していただろう。しかし、昨日ハルヒからあんなことを聞いちまったんだ。
 団員の安全を最優先していることがわかった以上、命令に背くなんて無粋なことはできない。
 仕方がない、とことん付き合ってやるか。
 俺は溜息交じりに、銃を前方へ向けた。

84 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:21:01.07 ID:VZ/Y8RnJ0

 それから暫くは、ひたすら陣地の中で耐え忍ぶばかりだった。敵の姿は未だ見えない。
 一時間ぐらい経っただろうか。陽は中空を超えようとしていた。
 相変わらず、砲弾は雨のように降り注いでいる。
 しかしなぜだろうか、俺は違和感を感じていた。
「なんか、微妙に敵の弾数が増えてないか?
 それに、弾の質も変わってるような気がするんだが」
 俺は、思い切って疑問をぶつけてみた。
「そうですね、確かに状況が変化しているような気はします。
 長門さん、何が起こっているのでしょうか」
 そうだ、長門に聞けば一発だったな。すっかり忘れていた。
 俺たちがこうして会話をしている間も、敵の砲弾は全く止まない。
「砲弾数は、変動はあるものの今は安定している。
 但し、小型弾の割合が増加傾向にある」
 なるほど。ということは、ええと、何だ?
「敵の歩兵部隊による攻撃、が考えられますね。
 迫撃砲などを利用している可能性が高いでしょう。所謂準備砲撃ですね。
 確実に敵は近づいています」
 さすがに、この状況なら直接戦わなきゃダメだよな。ある程度は覚悟していたさ。

85 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:24:00.61 ID:VZ/Y8RnJ0

「でも、こっちの攻撃を掻い潜って来てるんだから、大規模な部隊ではないんじゃない?
 多くても三十人ぐらいだと思うよ」
 朝倉が、前方を注視しながら補足を加える。
「三十人って、こっちの四倍ってことだよな。
 俺たちだけで防げるだろうか?」
 絶え間無く聞こえる爆発音によって、俺はすっかり気が滅入っていたのだろうか。
 だから、こんな弱気なことを言ってしまったのかもしれない。
 気配がしたので右を振り向くと、眉間に皺を寄せたハルヒがいた。
「キョン! みんながせっかく戦おうとしてるんだから、勝手に水を差さないでちょうだい!
 絶対に勝つの! いい?」
 怒号が俺を貫いた。
 ああ、そうだな。俺がどうかしていた。
 言っておくが、命令を反故にするわけではなかったんだぞ。ちょっと正気を失っていただけさ。
「お前の言う通りだ。勝てるかどうかじゃなくて、勝ちに行くんだよな」
「そうよ! キョン、あんたもわかってきたわね」
 景気のいい返答と共に、いつの間にかハルヒは満点の笑顔を取り戻していた。
 全く、世話のかかるやつだ。

86 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:27:00.74 ID:VZ/Y8RnJ0

「敵部隊を視認。一個小隊と同程度の規模と推測する。総員戦闘態勢」
 さらに一時間ほど経過した頃、長門の声によって戦端は開かれようとしていた。
「いい? 初動が大事なんだからね。
 わたしが指示したとき、一斉に撃つのよ」
 言葉の後、陣中に静寂が訪れる。もちろん、砲弾は今も飛び続けているんだがな。
 息を潜め、ただただ期を待つ。
「……、銃撃開始!」
 その瞬間、俺と谷口が同時に引き金を引く。訓練通りだ。
 毎度のことだ、一発目が外れてしまうのは仕方ない。すまんハルヒ。
 砲撃が勢いを増す。敵が近づいてくる。
「距離が詰まった! 朝倉頼む!」
 振り向くと、俺が言い終える前に朝倉は既に発砲していた。
 朝倉の制圧射撃に、長門の精密射撃が加わる。
 いつも思うが、この二人が揃えば死角無しって感じだな。これでは、相手も簡単には進軍できまい。
 事実、暫くは敵の侵攻を食い止めていた。いや、俺だってがんばったつもりだからな。
 しかし、戦力差が大きいのは事実であり、そう都合よく均衡が続くはずが無い。
 敵がにじり寄っているのがわかる。
「長門、何人を撤退させたかわかるか?」
「わたしの狙撃で三人、朝倉涼子が一人、あなたたちは〇人。
 決定的な打撃は与えられていない」
 まあ、そうだよな。十分しか経っていないし、これだけ被害を与えられれば十分か。
 俺が言えた台詞じゃないな。

87 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:30:00.60 ID:VZ/Y8RnJ0

「おいキョン! あれ戦車じゃねえか?」
 谷口に言われて、全員がその先を見る。
ぼんやりと車両が見えるが、距離が遠いため種類はわからない。
「古泉、仮にあれが戦車だとしたらどうする?」
「そうですね。装甲の厚さにもよりますが、落ち着いて対処すれば問題無いと思いますよ。今のところは
一両しか無いようですからね。
 ただ、機銃掃射には要注意です」
 確かに、一両だけなら歩兵輸送の装甲車と何ら変わりねえな。焦る必要は無い。
「す、涼宮さん、車が十台に見えますよ」
 突如、朝比奈さんのか細い声が俺の耳に届いた。
 朝比奈さん、そこまで精神的に追い詰められてしまったのだろうか。
 まあ、あちこちで爆音が響いているんだ。無理もない。
「十両よ! 十両いるわ!」
 なんだ? ハルヒも結構切羽詰まっているようだな。
「現実逃避しているのはあなた。前方を注視するべき」
 長門、それは冗談のつもりか? いや、違う。
 急に現実味を帯びた世界が広がる。その先には、見間違うわけがねえ、十門の銃口がこちらを向いていた。
 ああ、あれは全て戦車だ。
 できることなら、今すぐ逃げ出したい。だが、俺がするべきことは他にあるよな。
「ハルヒ、落ち着いて対処すれば大丈夫だからな」
「あんたに言われなくてもわかってるわよ!
 みんな、しっかりと守りを固めるのよ!」
 ハルヒは、あちこちに手を振り回しながら全員に指示を出した。
 その言葉を聞いて安心したよ、ハルヒ。

88 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:33:49.63 ID:9y7eg2elO

 必死になって随伴兵を相手にするも、戦車との距離は確実に縮まっている。
 そして、戦車に有効な打撃を与えられるのは、無反動砲を持つ古泉しかいない。
「古泉、そろそろ戦車を撃ち始めないと間に合わんぞ」
「ええ、あと少しでお互いの射程圏内ですからね。
 ですが、僕一人で十両の戦車を相手にするのは困難を極めます」
 だからといって、今更諦めるわけにもいかんだろう。今ここから出れば、相手にとって
格好の的になることは自明だ。
 本音を言うと、あのとき無理にでも撤退しなかったことをかなり後悔している。
 だが、不思議と敗北の二文字は頭の片隅にも入る余地を与えなかった。
「そこで、ここはあなたにも協力してもらいます」
 おいおい、俺はその馬鹿でかい筒なんか使ったこと無いぞ。

89 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:36:00.63 ID:9y7eg2elO

「いえ、もちろんこれは僕が使います。
 あなたには、使い捨てで誰にでも扱えるこちらをお願いします」
 そこで渡されたのは、棒の先端に闘球、つまりラグビーの球がくっついたようなものだった。
 ざらついた直方体の木箱に入っている。全部で四本。
「携帯式対戦車用無反動砲、パンツァーファウストです。
 使い方は、畳まれた照準器を起こすことによって安全装置が解除されるので、あとは狙いを定めて
引き金を引くだけです。
 ここの照準器の穴から覗き込んで、弾頭の頂点がおおよその着弾点となります」
 なるほど。これなら何とか俺にも扱えそうだ。

91 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:39:00.41 ID:9y7eg2elO

「僕が持っているパンツァーシュレックを含めて、開発元の独逸では試作段階の武器です。
 それはご存知ですよね?」
 ああ。鶴屋さん提供の武器は大抵試作品だからな。
「ですが実践で使用するに十分堪えうるので、その点に関してはご安心を。
 さて、そろそろ行きましょうか」
 そうだな。って、どこに行こうとしてるんだ!
「少しでも早く攻撃を始めるために、我々だけでさらに前進します。
 ほら、あそこに二箇所の個人用陣地があるでしょう?」
 そう言われて前方を注視すると、二つの茶色い蛸壷が大きく口を開けていた。
 その姿は、今か今かと獲物を待っているようにしか見えない。
「正直ここから出たくないんだが、そんなこと言ってる場合じゃねえよな。
 よしわかった。谷口、朝倉、支援頼むぞ」
 もうどうにでもなってしまえ。

92 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:42:05.95 ID:9y7eg2elO

 古泉の掛け声に合わせて、同時に地面を蹴りだす。そして、足から一気に穴に飛び込む。これで
五秒ぐらいだろうか。
 砲弾の中を走り抜けるってのは、想像以上に心臓に悪い。
「古泉、言っておくが俺はこれの射程が全くわからない。
 お前の指示無しには撃ち始めないからな」
「了解です。貴重な弾薬を無駄にはできないですからね」
 それから、俺たちは言葉を発しなくなった。
 古泉に言われた通りに照準を定める。若干手が震えてしまうのは仕方ない。
 荒々しい波のように直進する戦車。実際の速度は、隣で走っている歩兵とほぼ同じなのだが。
 なかなか目標が定まらない。焦る気持ちを必死に抑えるので精一杯だ。

93 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:45:10.84 ID:9y7eg2elO

 一瞬、時が止まったかのように音が消える。というよりは、周りの音が全く耳に入らなくなった。
 その直後。
「今です!」
 古泉の声と共に引き金を引く。体が押さえつけられるような、そんな衝撃がかかる。
 間を空けて、爆発炎上した二両が目に映る。少しだけ、心に余裕ができた。
 しかし、まだ八両も残っている。残った棒を投げ捨てて、すぐに次の構えに入った。
 再び狙いをつけて、そして発射する。命中。
 だが、撃てば当たるってのは、敵が至近距離にいることを意味するわけだ。
 煙に紛れて前進する戦車数台が、こちらに照準を合わせていた。
 反射で身を隠す。
 そうだ、古泉はどうしているのだろうか。
 様子を見ずにはいられなくなった俺は、慎重に慎重に穴から顔を出す。
 そこには、下を向いたまま弾を入れ替えている、防毒面を顔に被った古泉がいた。
 視界を遮られているから前方が見えていないのかもしれない。これはまずい。
「古泉伏せろ!」
 咄嗟の判断でそう叫んだ。古泉が前を向く。
 その瞬間、銃声が響き、そして貫いた。

94 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:48:03.94 ID:9y7eg2elO

 円弧を描いて蛸壷の中に倒れる古泉。
 すぐにでも向こうに飛んで行きたい気分に駆られたが、前方の爆音によって正気を取り戻す。
 なぜか一両が破壊されていたが、なおも三両が前進を続けている。後方にはさらに二両。
 古泉が倒れてしまった今、戦車に有効な打撃を与えられるのは俺だけだ。この局面を捨てるわけにはいかない。
「谷口、古泉を運べ!」
 後ろを向いてそう言ってから、突出している金属塊に照準を合わせる。
 発射。爆発。発射。爆発。
 普段の俺では考えられない命中率で敵を撃破する。当人が信じられないこと、それが今まさに起こっているわけだ。
 次の獲物を捕らえるため、すぐさま木箱の中に手を伸ばす。
 掴んだのは空気だけだった。何も入っていない。
 おいおい、これは何の冗談だ?
 空気を触った瞬間、頭に浮かぶは絶望の二文字のみ。
 身も心も疲れきっていた俺は、それに抗う術を失っていた。
 どうやらここまでのようだ。すまんみんな、俺には荷が重すぎた。

95 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:51:01.41 ID:9y7eg2elO

 最後に一丁やってやるか。そう決めた俺は、すぐに蛸壷を飛び出した。
 随伴兵のいない一番前の戦車の横で伏せ、勢いよく手榴弾のピンを抜いた。あばよ九九式手榴弾。
 SOS団のみんな、元気でやれよ。靖國で待っているからな。
 起爆させるために筒の底を叩いた、その瞬間だった。
「キョン! お前も早く戻れ! 死ぬぞ!」
 諦めかけていた俺に、堂々と蜘蛛の糸を垂らしたのは谷口だった。
 谷口の言葉で、俺の心はすぐに色を取り戻した。
 そうだよな。ここで死んだら意味ないよな。何やってんだよ俺は。
 そう考えてから走り出すのに、二秒とかからなかった。
 谷口、お前が輝いて見えるよ。俺がどうかしていた。
 必死に走る。必死に走る。もう少しだ。必死に走る。
 砂が舞い上がった。

96 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:54:00.68 ID:9y7eg2elO

 爆風で大きく体が浮いた俺は、そのまま数メートル前の地面に思い切り叩きつけられた。
 倒れた瞬間、疲れが一気に体を支配する。駄目だ、もう動けねえ。
 砲撃の炸裂音が、やけに耳に響く。
 砲弾で死ぬか、銃弾で死ぬか。もうどっちでもいい。
「キョン、大丈夫か!? すぐに助けにい」
 谷口の台詞を遮るかのように、後方からけたたましい機銃の音が鳴る。
 即座に穴に隠れた谷口が目に映った。
 谷口、俺のことは放っておいて帰れ。そう言おうと思ったが、どうしても声にならない。
 そのとき、頭上からまたしても騒々しい音が聞こえた。この音、戦闘機か?
 余力を振り絞って空を見てみると、確かに一機の飛行機が空を飛んでいた。
 ああ、あれに撃たれて終わるのか。なんでもいい、さっさとやってくれ。
 もう、俺には意識を持つだけの気力も無かった。急速に脳が活動を止める。
 何かが炸裂する音を聞いて、俺は神経を遮断した。

97 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 00:56:59.38 ID:9y7eg2elO

 目を開けると、黒が目に入った。
 意識が混濁する。どこだここは。
 次第に目が慣れ、真っ暗な空と辺りの木を視認できた。どこだよ。
 暫く横になったままでいると、前方から誰かが走ってきた。
「あ! キョンくん気がつきました!?」
 息を切らしながら、目に水晶を浮かべる朝比奈さん。
 なぜ泣いているんだ? どうして俺はこんなところで寝ているんだ?
 必死に頭の中を掻き回し、そしてようやく思い出した。
「朝比奈さん、心配かけてすみません」
 これぐらいは言わないとな。
「いえ、そんなのいいんですよ。ああ、よかった……」
 笑顔のまま泣き崩れてしまった。
 誰だ朝比奈さんを泣かせたやつは。夜なのに眩しいじゃねえか。

98 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:00:01.32 ID:VZ/Y8RnJ0

 俺はあることに気がついた。結局、勝ったのか負けたのか。
 朝比奈さんに直接尋ねてもよかったのだが、涙を流す朝比奈さんにそんなことを訊くなんて、
到底できるはずがない。
 とりあえず、歩き始めた朝比奈さんに着いていって、俺はみんなのいる場所へ向かった。
 焚き火が据えられた広場に足を踏み入れた瞬間、六つの影が俺のところに向かってきた。
「キョン! あんた昼寝が長いわよ」
「キョンキョン言いながら震えてたのはどこのどいつだっけな。キョン、待ってたぜ」
「うるさい谷口! キョン、こいつの言うことは全部嘘だから」
 途端に辺りが騒がしくなる。
「キョン、もう体は大丈夫?」
 国木田、心配かけてすまなかった。
「みんな、あなたの登場を待ち望んでいたんですよ」
 左腕に包帯を巻いた古泉。
「おかえり、キョンくん」
「……」
 柔らかな眼差しを向ける二人の、人間。
 ああ、生きてるんだな俺。

100 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:03:00.43 ID:VZ/Y8RnJ0

 ひとしきりの賑わいが終わって解散した後、俺はついに疑問をぶつけることにした。
「なあ古泉、結局勝ったのか?」
 そう訊くと、古泉はいかにも答えづらそうな様子で口を開いた。
「結果は知っています。ですが、僕も倒れていたので詳細は全くわからないですね。
 そこにいる長門さんに訊いてみてはどうでしょうか」
 そうか。お前は俺が気を失う前に撃たれたんだっけな。
「そうだった。すまんな古泉。
 長門、今日の戦いについて教えてくれないか」
「大日本帝國側の勝利」
 眉一つ動かさず、即座に返答する長門。
 あの状況で勝ったのか。
「あなたが気絶する寸前、一機の爆撃機が飛来した。
 その機体が残り三両の戦車を爆撃し、決着した」
 なるほど。援軍に助けられたってわけだな。
「その爆撃機は、国木田くんが要請した増援だそうですよ。
 そして、その搭乗者ですが、実は僕のよく知る人物でした」
 突然、古泉が目を輝かせて話し始めた。
「お前の知り合い? まさか機関の人じゃあないだろうな?」
 この問いを投げかけた瞬間、古泉はこちらに勢いよく身を乗り出してきた。何がしたいんだ。
「その通り。いずれご紹介しましょう。といっても、あなたにも面識がある方ですよ」
 古泉は、普段の二割増しぐらい嬉しそうな顔つきで答えた。
 対する俺は、いつも以上に気が滅入ってしまった。ようやく落ち着いたと思ったら、また新たな課題を
吹っかけやがる。
「ということは、俺たち以外にもこの世界に来た人がいるのか」
 そういう重要なことは早く言え。
「そうなりますね。ただ、長門さんによると世界中に散らばっているのとのことです。全容を把握するのは
困難を極めます。
 新たな情報が入り次第、追って連絡します」
 そうしてくれ。俺にはさっぱりわからん問題だ。

102 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:06:00.42 ID:VZ/Y8RnJ0

 それから数日間は、ずっと同じ陣地で駐留していた。
 相変わらず敵味方の砲弾が地面を揺らし続けているのだが、敵と直接戦うことはあれっきり無くなった。
 そして、二月十五日の夕方を迎えたとき、通信を終えた国木田がゆっくりと口を開いた。
「本部から連絡で、英吉利軍が降伏したとのことだよ」
 国木田のひとことで、二ヶ月に及ぶ戦いがこの瞬間に終わってしまった。
 昨日食べた調味料無しの和え物よりもあっさりしている。これでは実感が湧かない。
 暫く、誰も口を開かなかった。放心状態なのだろう。
 結局この沈黙を破ったのは、お約束と言うべきか、あいつだった。
「みんな、やったわ! 我がSOS団の勝利よ!」
 声高らかにそう宣言するハルヒ。その瞬間、辺りがどっと沸いた。といっても八人だけだが。
「やった、やったぞキョン!」
 谷口が全速力で俺に飛びついてくる。
「止めろ。誰が抱きついていいって言った」
 笑顔で押し返してやった。
「いやあ、長かった戦いにもようやく一つの節目を迎えることができましたね」
 溢れんばかりの満足感を顔に浮かべる古泉。今まで見たことの無い表情のような気がする。
「今回だけは、お前に感謝しといてやるよ」
 俺は、古泉の顔と左腕を交互に見てそう言った。

104 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:09:01.46 ID:VZ/Y8RnJ0

 俺たちは、結局夜まで騒ぎ通した。他の部隊も含めて、誰もがこの勝利を純粋に喜んでいた。
 いや待て。俺はお気楽にやっている場合では無いよな。
 そう思ったのも、寝る前に急に元の世界のことを思い出したからだ。
 どうして誰も話題に挙げないんだ? マレー半島に上陸してからというものの、長門、古泉、朝比奈さん、
この三人からその手の相談を聞いた憶えが無い。
 なぜ、このことについて触れようとしないんだ。
 この世界は、そんなに居心地のいいものだろうか。なるほどそうかもしれない。
 そもそも、この世界は何のために存在するんだ。
 いつの間にか、結論を見出すことに必死になっていた。戦いの疲れも忘れて。
 しかし、明確な答えも出ないまま、思案をめぐらしている間に意識は途絶えてしまった。

106 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:12:00.39 ID:VZ/Y8RnJ0

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      盆休み恒例戦争スペシャル

            ◆第〇七〇七小隊SOS団◆


          1日目  8/10(月) 20:30〜25:00
          2日目  8/11(火) 21:00〜未定
          3日目  8/15(土)  7:00〜12:00


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107 名前: ◆SOSWARrJY. [] 投稿日:2009/08/11(火) 01:15:00.39 ID:VZ/Y8RnJ0

これで今日の分の投下は終わり
基本的に予定通りに進めていくが、時間に若干のズレがあるかもしれない
それと、無くなったらまた新たにスレを立てるから、ここは落としてもらって構わない

質問その他は、最終日なら答えられると思う
最後に、書き込んでくれたみなさんありがとう



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