長門「一つ、我が侭を聞いて欲しい」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:02:59.29 ID:X1CkA84v0

休日の不思議探索。
午前の部、午後の部の探査メンバーはクジにて決定される。
ハルヒの突発的且つ短絡的な思考により定められたこの規則は、実は俺にとってかなりの負担だ。

例えばハルヒとペアになってしまったとしよう。
考えるまでもない。
どうせ様々な所について行かされるに決まっている。
場合によっては奇行に及ばねばならない可能性すら孕んでいるな。
ともかく、一番のハズレがこれだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:05:17.97 ID:X1CkA84v0

さて長門と古泉はどうだろう。
長門の場合、いつも図書館である。
凄まじい書物の貯蔵量は長門を満足させるには十分なのであるが、俺が聊か暇だ。
読書が趣味な訳ではない。
確かに自己紹介の時に使われる趣味として、最も無難な『読書』だ。俺もたまに使ったりはする。
しかし活字は苦手であるし、漫画ですら読むことはほとんどない。
僅かに、本当に少しではあるが喜んでいる(ように見える)長門を見られるのは嬉しくもあるのだが。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:08:07.94 ID:X1CkA84v0

では古泉は?
残念だが、話すだけで疲れる事が多い。
実際に話してみろよ。まず無駄に並べられる単語の連発に頭から疲れていく。
コイツも容姿は良いし、恐らくこの爽やかな好青年を外でも気取っているだろうから、さぞかしモテる事だろうな。
だが付き合ったが最後。終始頭の中には疑問符が飛び回り続けるだろう。
年相応のはしゃぎっぷりというか、素の古泉一樹が出て来ないものか。
そうなれば、俺も楽しめるさ。
何だかんだ言って、コイツの事は嫌いじゃないんだ。

そして俺にとって一番の大当たりクジ、朝比奈さんとペアになれた場合。
必ずと言っていい程俺が支払う罰金制度だが、この御方と肩を並べて歩けるなら、それだけで十分元は取れたと言えよう。
過去一度、未来人やら時間の歪みがなんやら……面白い告白をして頂いたが、
その時に得た物も多かった。可憐なウィンクやらな。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:11:08.00 ID:X1CkA84v0

少々無駄話が過ぎたか。
ともかく、俺はクジに関しては朝比奈さんとペアになれることだけを切に願う。
週2回のペースで運命の瞬間を迎えているわけだ。

「じゃ、午後のメンバーを決めるわよ!」

ハルヒがクジを取り出す。さて、透視でも出来ないだろうか。
三人の組み合わせもあるので、朝比奈さんと二人きりになれる確率は……
まぁ少ないだろう。どう計算したんだっけな。数学の授業で習った記憶があるのだが。

「待って」
「ん?どうしたの有希」
「一つ、我が侭を聞いてほしい」

長門が我が侭とは珍しい。
こいつが今まで我が侭を言ったことがあっただろうか。
自己主張どころか、そもそも発言すら少ない。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:14:23.74 ID:X1CkA84v0

長門は俺の方へ顔を向ける。
俺か?

「あなたと一緒に行きたい」
「……有希?」
「私は彼と共に行動がしたい。
 涼宮ハルヒ。団長であるあなたの許可が必要と感じた」
「……いや……あのね?
 有希、何かあったの?」
「彼と居たい。
 理由はただそれだけ」

またハルヒ関連で何かあったのか?
長門が俺を呼ぶ理由はそれ一つしか思いつかない。
当然だ。本人の前で、「あなたについて彼と話さなければならない」なぞ言えるものか。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:17:51.81 ID:X1CkA84v0

「!……駄目。
 このクジ引きはSOS団のルールなんだから。
 例外は無いわよ」
「……分かった」
「おいハルヒ……」
「いい。あなたが気にすることではない」
「さ、クジを引きなさい」

長門は、俺に何を言いたかったのだろうか。
古泉と朝比奈さんが動きを見せないことから、以前閉鎖空間にハルヒと共に閉じ込められた時のように、
周囲全体を巻き込むことでは、恐らくないだろう。
となると宇宙人的問題……朝倉か?

「僕は印付きですね」
「あ、私もです」
「……私も」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:21:41.38 ID:X1CkA84v0

「さ、行くわよキョン」

何故よりによってこうなる。
もしまた朝倉の襲撃があるのなら、どこかで長門が監視していてくれることを願うぜ。

「ほら、さっさと歩く!
 団長に合わせなさい!」
「……なぁハルヒ。
 長門の話を聞いてやっても良かったんじゃないか?
 長門は、今まで自分から意見を言う事は無かった。
 たまには、良いと思ったんだが」
「何よアンタ。
 有希があんな事言ったからって、変な勘違いしてんじゃないでしょうね?信じらんない。
 それに神聖な不思議探索中にデレデレされちゃ堪らないわ」

……よく言う。
確かに人間とは程遠い存在だし、SOS団設立の頃から感情の起伏は極端に小さかった。
でも、最近のアイツは意思という物がはっきり見えるようになった。
朝比奈さんや古泉も、長門の表情を読み取ることが出来るようになっていたんだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:24:20.96 ID:X1CkA84v0

「行きましょ」

俺達は探索を始めた。
と言ってもハルヒが色々騒いでいるだけで、俺はちっとも真面目じゃない。
長門の事をぼんやりと考えつつ、団長様の機嫌を損ねない程度に早歩きで付いていった。

「んー……時間切れね。
 今日も収穫は無しかぁ……」
「根気良くやっていけばその内成果は出るかもな。
 さ、戻ろうぜ」
「しょーがないわね」

「どう?みくるちゃん。
 そっちは何かあった?」
「えと……特に何も……
 涼宮さん達の方は……?」
「こっちも無かったわよ」

当たり前だ。
……古泉。何を真面目な顔をしている。
何だ。言いたいことがあるなら言え。

「そうですか、では少々失礼」

だからいちいち顔が近い。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:26:44.99 ID:X1CkA84v0

「あなた達と別れてから、閉鎖空間の発生が多数ありまして。
 そのどれもが、機関の人間が一人向かえば対処出来るような、小規模の物だったのですがね。
 神人もミニチュアサイズで可愛かったですよ」

アレに可愛いも糞もあるか。
俺は正直嫌な思い出しかないんでな。

「涼宮さんと何かお話をされたのですか?」
「当たり前だ。長門の希望を認めなかったからな」
「そうなのですよ。
 あれには少々驚きました。
 何せ僕も朝比奈さんもあなたと共に行動したいのですが、まさかあの長門さんが、とね。」

朝比奈さんが?それは嬉しい限りである。
今度は俺から言い出してみようか、と思ったがやめておこう。
後の展開が悪くなるのは明白だ。
古泉の不安の種を増やしてお説教をされるのはもう勘弁してもらいたい。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:29:09.74 ID:X1CkA84v0

「まぁ、何にせよ今の所注視すべき点がある訳ではないです。
 少々気になっただけなのでね」

その日はお開きとなった。
長門の真意はまた明日にでも確かめるとしよう。


「キョンくんおかえりー!」
「あぁ、ただいま」
「ね、ね。
 ごはんどうする?お風呂が先かな?それともぉ……?」
「風呂に先に入る」

服を脱衣籠に入れ、浴室へ。
やれやれ、いつものことだが不思議探索は疲れる。
疲弊した体には、この瞬間こそが至福の時となるんだな。
いかん、年寄り臭い。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:31:58.16 ID:X1CkA84v0

さて、妹のあの台詞……もしや妙な知識でも身につけてしまったか?
アイツは子供っぽい所があるにはある。
しかし純粋な子供で居て欲しい、もう少し落ち着きを持て、という二つ気持ちが鬩ぎ合っているんだ。

そんなことを考えつつ、背中を流していると脱衣所から呼びかけてきた。

「ねーキョンくん」
「ん?どうした?」
「一緒に入っていーい?」

何を言ってるんだ。
小学生高学年なら、もう大人と一緒にお風呂に入るなんて卒業するべきだろう。
しかも達観し切って一種の悟りの境地に達した父親ならまだしも、俺は健全な高校生だ。
もし、万が一、仮に理性を抑えきれなくなったら大変じゃないか。
いや、違う。そもそも俺にそんな趣味は無い。
とにかく教育上非常によろしくない。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:34:22.29 ID:X1CkA84v0

「駄目、やめなさい」
「服脱いじゃったのに」
「だったらもう一回着て、居間で大人しくしていろ」
「えーもう洗濯してるのにー」

次々切り返される。なかなかにしつこい。
第一お前は洗濯機を扱えるのか?
確かに今、ゴウンゴウンと洗濯機の稼働音が聞こえているのだが。

「ね?いいでしょ?」
「……今日だけだぞ」
「やった!」

あぁ言ってしまった。
仕方ないだろう。裸のまま居させて風邪でも拗らせたら大変だし、
新しい服をまた着させると洗濯が億劫だ。
この俺の発言を誰が責められよう。

「入るよー」

湯船に浸かり、後ろを向く。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:37:19.41 ID:X1CkA84v0

「キョンくんどうしたの?」
「何でもない。いいから早く頭でも身体でも洗いなさい」

はーい、とお返事。
何なんだコイツは。
「あわあわー」じゃない。早くしなさい。

……待て待て。コイツは妹だ。血の繋がった。
それなのに、背後で女性が身体を洗っている……そう意識してしまっただけで心拍数が一気に跳ね上がった。
落ち着け深呼吸だ。素数を数えろ。
これはこの時だけの心の迷い。
ハルヒが言うところの精神病だ。

「ねーキョンくん」
「うおわっ!」
「……どうしたの?」
「いや、俺は大丈夫だまだ我慢できる。
 で、何だ?」
「背中あらって?」

分かっててやってるんじゃないか?

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:39:45.15 ID:X1CkA84v0

「それはもっと駄目」
「せっかく一緒に入ったんだから、流しっこしようよー」
「自分でやりなさい」
「……わかった」

はぁ、疲れる。
折角一日の疲れを洗い流す時間だというのに、心が休まらない。
俺の隣に居るこの妹様は、本当に大丈夫か?
……隣?

「うおあっ!」
「もー」

もーじゃない!いつの間に湯船に入っているんだ!

「いいか妹よ。
 今から入り口に背を向けなさい」
「キョンくんの顔が見えないよ?
 人と話すときは目を見て話しなさい、ってキョンくん言ってた」
「今だけ特別」

妹が背を向けている事を確認。
濡れる体を素早く拭き上げ、浴室を飛び出す。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:41:33.86 ID:X1CkA84v0

「はっ……はぁ……」

すぐ隣に在った、妹の身体。
やはり若いだけはある。健康的で玉のような肌だった。
きっと触れた時の弾力はかなりのものだろう。
まだ主張もしていない、年相応の胸。細く、綺麗な腕と指先。うなじ。

俺の頭の中は、妹の事で一杯になっていた。
誰か、鐘ではなく俺の頭を直接108回突いてくれないか?
贅沢は言わん。この際チェーンソーで首を刎ねられようが構わない。

「キョンくん何か変」

言っていろ。
俺だって訳が分からないんだ。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:43:58.48 ID:X1CkA84v0

食事を終えると、すぐさま自室へ向かう。大分落ち着いた。
相手は妹だ。多分普段は見せない積極性に戸惑っているだけだな。
妹も決して妙なことを考えてはいないのだろう。

同時に考えていたことがあった。
長門のことだ。
例えば今の妹のように、子供は主張が激しい。
大人になるにつれて序々に弁えていくもののはずだ。
長門の場合はどうだろう。
生まれてまだ3年。いや、もうすぐ4年か。
感情そのものが無かったのかもしれんが、アイツの場合自己主張をしたことがない。

最近表情が豊かになってきた事を考えると、今が我が侭を言う時期なのかもしれないな。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:46:15.58 ID:X1CkA84v0

翌日。
珍しく朝早く起きた俺は、二度寝を欲する頭を洗顔で無理矢理覚醒させる。
長門に会いに行くか。
アイツならいつでも部室に居そうだしな。
もし朝の下駄箱にまた、「教室に来て」なんて手紙が入っているのは御免だ。

「あれ、キョンくんもう行くの?」
「あぁ」

妹はまだパジャマ姿だった。
若干サイズが大きい為、手は指先が見えるだけだ。これがストライクなもんだから堪らないね。
昨日の一件以来、妙に妹と顔を合わせ辛い。
意識しているのは俺だけなんだろうから、余計にタチが悪いんだけどな。

「じゃあ私も一緒に行く!
 ちょっとだけ待ってね!」

俺も急いでる訳では無いので、構わないのだが……
こちらの言い分も聞けるようになってほしい。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:48:06.53 ID:X1CkA84v0

「ごめんね、待った?」

大方ドラマでも見ていたんだろう。
昨日からこんなのばっかりだ。

「お前が待たせたんだろ?
 いいから行くぞ」

「えへへ、いい天気だね」
「俺は天候としては曇りの方が好きなんだがな」
「むーキョンくん付き合い悪いよー」

北高に通えば分かるさ。
あの憂鬱な坂は、例え冬でも日光がある限り背中が汗ばむことになる。
何が悲しくて冬に汗をかかねばならんのだ。

クルクル回る妹。元気だな。
しかし……なんだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:51:05.34 ID:X1CkA84v0

「そのスカート、短過ぎないか?」
「えー、そう?」
「もう少し恥じらいを持て。
 あまりそういうのは好ましくないぞ」

小学生の女の子ならありがちな長さではあると思うのだが……
妹の場合は少々事情が異なる。
嫌な気持ちになるんだ。

「……」
「もう今日のところは仕方ない。
 だけどな……」

ぼすんっ
妹のランドセルが顔を直撃した。

「……キョンくんのばか!」
「あ……おい!」

妹は走って行ってしまった。
周囲に人が居なかったのは不幸中の幸いというやつだな。
一体何なんだ……
顔が痛い。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:54:00.56 ID:X1CkA84v0

……一丁前に乙女の心を持つようになったか?
スカートの長さを男に指摘されるなど不愉快極まりないだろう。
確かに俺の配慮が足りなかったと言えるな。
妹には、帰ってからの謝罪が必要になりそうだ。

額の汗を拭いつつ、そんな事を考えていた。
あぁもうこの坂いい加減にしろよ畜生。


下駄箱に手紙無し……よし。
長門は居るだろうか?
おそらく朝倉の襲撃に時間帯は関係無いと思われるので、出来るだけ早く長門に会わないとな。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:56:51.94 ID:X1CkA84v0

一応ノックはしておく。
返事は無し。無人か、或いは長門が居るかだな。

「よう、長門」
「始業までまだ30分以上の余裕がある。
 一体何故この時間に?」
「聞いておきたいことがあったんだ。
 昨日の不思議探索なんだけどな、俺に何か話があったのか?」

長門は首を傾げる。
その傾きは過去のようなナノ単位の物ではなく、目測で5°辺りだ。
分かり易くなってありがたいね。

「俺と一緒に回りたいと言ってたじゃないか。
 何かあったんじゃなかったのか?」
「特には何も」
「何だそれは」
「……私にも分からない」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/15(月) 23:59:30.20 ID:X1CkA84v0

「情報統合思念体へ申請を行い、このエラーの除去を最優先して行う」
「待て長門」

お前は自身の成長をエラーと見なし、しかも排斥するつもりでいるのか?
冗談ではない。それこそ意味が無いじゃないか。

「私にとってこの自己顕示は、邪魔でしかない。
 先日においてもそう」
「閉鎖空間か?
 確かに人間の感情ってのは、時に邪魔になる時があるさ。
 だけどな、今のお前にその遠慮は必要ない」
「あなたの言っていることが分からない」
「俺だってな」

一体どうなってるんだか。
長門が自身のことをよく分からないのは仕方が無い。
今までのコイツの生活を考えれば、そりゃ戸惑うだろう。

と、その時、部室の扉が開けられた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:02:56.88 ID:InL0+5uo0

「キョン、有希も……」
「よう、どうしたんだ?」
「ど……どうしたじゃないわよ!
 こんな時間に二人っきりで何してるのよ!?」

待て、何を想像しているかは知らんがそれは長門に失礼だろう。

「俺はたまたま早起きしてな。
 することが無いもんだから部室に来た」
「ホントなの有希?キョンに何か脅されたりしてない?」

ちょっとは信じろ。
お前はかなり俺に失礼なことをしているぞ。
失礼なのはいつものことだが。
そして、長門の返答は意外なものだった。

「それには答えられない。
 私と彼のプライベートな事」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:05:09.39 ID:InL0+5uo0

「な、な、な……キョン!」
「疚しいことなんて微塵も無い!
 長門!急にどうしたんだ!?」
「……」
「嘘よ……ね?」
「だから何も無い!
 たまたま部室で居合わせただけだ!」
「ぐっ……」

ハルヒは、そのまま部室を飛び出して行ってしまった。
何があったのかは知らんが、こりゃ古泉のバイトは確実だな。
……長門。お前は何をしてるんだ。

「これがエラー。
 古泉一樹の負担が増える」
「わざとやってないか?」
「推奨される物とは別の行動プラグラムが発生してしまう。それを抑え切れない。
 あの場は涼宮ハルヒの機嫌を損ねない為にも、『何もない』と答えるべきだった」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:07:45.65 ID:InL0+5uo0

「……分かってくれた?
 このエラーは、取り除く必要がある。
 あなたも、教室に向かった方が良い」
「……そうする」

あぁ、長門。
俺個人としては、そのエラーの除去はあまりして欲しくないけどな。

「そう」
「やっぱり、勿体無い」

俺は部室を出て、教室へと向かった。
ハルヒのアフターケアというか、弁明の必要があるな。
この俺の行為によって神人の勢いが多少弱まってくれれば、古泉のお説教も軽くはなるだろう。
いや、無理か。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:09:37.13 ID:InL0+5uo0

「有希のことはもういいの?」
「元々特に用事があったわけじゃない。
 時間的にもマズかったから戻ってきた」
「あっそ」

自分から振っておいてそれはないだろう。
このままアイツは睡眠に入ると思ったのだが、少々違った。

「ねぇキョン……」
「何だ?」
「アンタ……有希とどういう関係なの?」
「俺と長門は平団員1と2。
 ただの仲間ってだけだ」
「付き合ってるとかは?」
「断じてない」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:11:46.56 ID:InL0+5uo0

そうなんだ、と簡単に返事を返し、ハルヒは顔を伏せた。
何が言いたかったんだ。
長門と付き合う、そういう事は考えたこともない。
長門に感情が芽生えてきているとはいえ、まだ色恋沙汰には疎いんじゃないか?

「有希なんて、マークしてなかったわ……どうしよう……」

後方の席からぶつぶつ声が聞こえる。
何がだ。

「何でもない!」

こら、蹴るな。
一体何を不機嫌になってるんだ。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:13:00.00 ID:InL0+5uo0

放課後。部室へと向かう。
長門が居るだろうし、もう少し話がしたいところだ。

長門はすっかり人間らしくなった。
それが、出会った頃のように無機質な宇宙人になってしまうのだろうか。
それは断固拒否する。
なんなら情報統合思念体に直談判してもいい。

ちょうどハルヒは掃除当番だし、何から話そう。

部室をノック。
はぁい、と小鳥の囀りのような可愛らしい声が返ってきた。

「こんにちは、キョンくん」
「……」
「どうも」

部室のデフォルト備品となっている長門と、麗しの朝比奈嬢である。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:15:15.90 ID:InL0+5uo0

「キョンくん、今日もお疲れ様」
「おっと、ありがとうございます。
 朝比奈さんもお疲れ様です」

目の前にお茶が淹れられる。
うん、良い香りだ。

「おいしいですよ」
「ふふ、ありがとう。
 長門さんもどうぞ」

置かれた湯呑みには無反応。
…お前も飲んだらどうなんだ。
冷めてしまっては朝比奈さんに失礼だろう。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:21:59.19 ID:InL0+5uo0

「キョンくん……
 長門さん、無理に飲まなくっても大丈夫ですよ」
「いい」

音を一切発せず長門はお茶を飲む。
相変わらずというか。

「おいしい」
「あ、本当ですか?
 ありがとうございます」
「別に」

何故だか今日の長門の発言には、若干棘があるように感じた。
あるいは不機嫌……?
気のせいだろうか。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:24:07.74 ID:InL0+5uo0

ドアがノックされる。
「失礼します。
 おや、涼宮さんは?」
「アイツは教室の掃除当番だ」
「それはちょうど良い」

大方の予想は付く。
閉鎖空間だろ?
言っておくがな、事情があるんだよ。

「ではまずそちらからお願いします。
 事情とやらをお聞きしましょう」

俺は長門の言うエラーとやらから説明を始めた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:26:50.85 ID:InL0+5uo0

「成る程。日曜の不思議探索での出来事は、そういうことだったのですね」

ふむ、と顎に手を当てつつもいつもの笑顔は絶やさない。
最早癖になってしまっているのではないか?

「それが原因で間違いないでしょう。
 今日の閉鎖空間も、異様な光景が見られましてね」
「今度は何だ?」

コイツの様子を見る限り、大問題ではなさそうだけどな。

「神人の自滅です。
 建物に頭を打ち付けて、ね」
「……?」

俺はあの青白く輝くジェル巨人の狂気じみた行動を頭に思い浮かべた。
確かにある種異様だ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:30:04.65 ID:InL0+5uo0

「何故そうなったんだ?」
「神人の破壊行動イコール涼宮さんの破壊衝動ですので、今回も涼宮さんの心情を表しているのでしょう。
 神人がやるから異常なのであって、人間なら分からなくもありませんね」
「……訳が分からん。
 ハルヒの機嫌が悪いんだから、結局はいつも通りじゃないのか?」
「……まぁいいでしょう。とにかく、害はありません。
 安心してください」

どこか腑に落ちない点があるにはあるがな。
問題が無いならそれでいいだろう。

「長門さん、そのエラーの除去ですが、経過状況はどうですか?」
「現在解析を進行中」

やはりどこか不機嫌な気もする。
この世で最も長門の表情が読める俺がそう感じたんだ。というかはっきり分かる。
古泉も、朝比奈さんもそれに気付いているはずだ。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:32:45.98 ID:InL0+5uo0

「あの、長門さん……」
「なに」
「と、とにかく、そのエラーの放置が後に大きな問題になったりはしないんですよね……?」
「とりあえず」
「そ、そうなんですか。良かった、です……」
「……」

暗い空気だ。
長門から放たれるそれは、部室全体に充満し、出口を求めて飛び回る。
正直に言おう、長門が怖い。
触らぬ神に何とやらだ。このままそっとしておいた方が良い気もする。

「おや、いらっしゃったようですね」

ドタドタと廊下に響く足音。
もう少し落ち着きを持て。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:34:47.10 ID:InL0+5uo0

「待たせたわね!」

待っとらん。

「あ、みくるちゃん。お茶はいらないわ。
 私この後ちょっと用事があるから」
「はい……」
「さて、明日は祝日だけど不思議探索に出掛けます!
 集合場所はいつもので!遅刻したら罰金!
 それでは以上!絶対に集まるように!」

嵐が通り過ぎるという表現が最も似合うな。
ハルヒが部室に入ってから出て行くまで1分掛かってない。

「まさに、嵐のようでしたね」

……コイツと同じ考えに至ってたのか俺は。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:36:43.24 ID:InL0+5uo0

帰宅。
いつもならすぐ俺の隣まで走ってきて、やたらめったらに話しかけてくる妹が今日は居ない。
寂しさを感じてしまうな。
部屋に居るようだが……
夕食時になったら出てくるだろう。その時に謝ればいいか。

……と思っていたのだが、中々降りて来ない。
母に聞いてみたところ、体調を崩して部屋で休んでいるということらしい。
しかし朝の様子を見る限り、風邪であるとは思えない。
部屋に、行ってみるか。
まぁ何とかなるだろう。


コンコン

「俺だ。入っていいか?」
「……やだ」

さて、どうするか。
無理矢理入るか?しかし妹とはいえ女の子のプライベートルームだ。
さすがにマズイ。
こういう時に、相手の心に踏み込むのは良くないな。
無難に行こう。

「そうか、なら仕方ないな。
 じゃあ、このままでいいから聞いてくれるか?」
「……」

返事は無し、と。
続けよう。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:39:40.29 ID:InL0+5uo0

「今朝のことなんだがな、すまなかった。
 俺は鈍感だから、何故お前があれほど怒ったのか、それすら分かっていないんだ。
 それに反省していることだけは知っててほしいし、理由が知りたい」

優しさを込めて伝えた。
妹との関係は壊したくないんだ。

「……キョンくん」
「なんだ?」
「……ちょっとだけなら、入っていいよ」

よし、効いたか。
入らせてもらうぞ。


「もう一回言おうか。
 何か失礼な事をした。それに気付かなかったことも反省してる。
 許してくれないか?」
「う……あの……」
「ん?」
「……こっちこそ、ごめんなさい……」

何を謝る必要がある。
お前にランドセルの攻撃を受けたのも、当然の報いだったんだよ。

「いいさ。怒っていない。
 仲直り、良いか?」

す、と小指を出す。所謂指切りというやつだ。
こんな事をするのは久しぶりだな。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:41:09.71 ID:InL0+5uo0


「指切った」
「……えぐ……ひんっ……」
「泣くなよ。な?」
「ごべんなざい……」

年相応の子。
やっぱり、まだまだ子供だな。
俺は、泣きじゃくる妹を抱き締めた。

「今回はちょっとすれ違っちまったんだよ」
「……うん……」
「な。明日から、また仲の良い兄妹に戻ろう」
「戻らない……もっと、仲良くなるもん」

やれやれだ。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:43:51.94 ID:InL0+5uo0

「何で怒ったのか、聞いても良いか?」
「……新しい服だったから……」

つまり服装を新しくした事に突っ込まないどころか、貶したという事か。
それは顔面にランドセルを飛ばしたくもなる。
己の愚鈍さを恥じよう。

さて、妹様。そろそろ離れてはくれないか?

「名前で、呼んで。妹じゃなくて」
「―――。
 ……これで良いか?」
「……ありがと!」

完全にしがみ付いていた妹は、俺の膝からぴょこんと降りて一階に降りていく。
もう治ったーお腹空いたー、と響く声が何故か随分懐かしく思えた。
まぁ、何にせよ問題は解決したんだ。
明日の不思議探索に備えて寝るとしよう。

ここ最近寝るのが早くなり過ぎているけどな。
だが不思議探索の体力消費量はかなりのものだし、仕方無いだろう。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:46:15.35 ID:InL0+5uo0

妹ってSOS団5人のことどういう風に呼んでるんだっけ
教えてくれるとありがたい

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:50:32.53 ID:InL0+5uo0

>>79
ありがとう

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:52:26.94 ID:InL0+5uo0

起床。
やはり昨日早めに寝たおかげでかなり時間が空いている。
久しぶりにゆっくりと朝の休日の朝を楽しめそうだ。

「ねーキョンくん」
「どうした?」
「今日早いね。お出掛け?」
「あぁ、ハルヒ達とな」

へぇー……と意味あり気に頷く妹。
何を言いたいか大体分かるぞ。

「私も行く!」

ほら来た。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:56:42.31 ID:InL0+5uo0

爽やかな朝。
妹を腰にしがみ付かせて自転車を走らせている。
穿いているのはミニスカート。
俺は自身の記憶の全てを掘り起こし、それが今まで見たことのあるものかを検索した。
これも新しく買った物か。

「そのスカート、可愛くて似合ってるぞ」
「ホント!?」
「あぁ」
「えへへー///」

きゅうっと妹の抱きつく力が強くなる。
どうやら対応はこれで良いようだ。

「さて、ここから歩くぞ」
「はーいっ」
「元気があってよろしい」

妹と共に歩き出す。
集合場所には既に全員が集まっていた。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 00:58:40.40 ID:InL0+5uo0


「遅くなって悪いな」
「妹ちゃん、どうしたの?」
「付いていくと聞かなかった」

その後妹は、不思議探索に関しての説明を受ける。
涼宮ハルヒ、そしてその崇高な理念に賛同する同志達に因って行われる神聖な活動云々。
そんな事言わなくとも、「とりあえず不思議なことを探しつつそこら辺をブラつく」と説明すれば早いじゃないか。

「あ、そうなんだ」
「何言ってるのよキョン!そんな簡単に片付けないでくれる!?」
「実際に体験してもらった方が良いだろう。
 それに妹がまだ小学生だということを忘れるなよ。
 時間は貴重なんだぞ」
「まぁ……それはそうだけど……」

早く始めるぞ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:00:21.61 ID:InL0+5uo0

「そうね。じゃあクジを引きなさい!
 今日は妹ちゃんが居るから、3:3に分けるわよ!」
「午前と午後でチームを分けるんだよ」
「へぇー?」

引いた結果、
俺・ハルヒ・妹
古泉・朝比奈さん・長門

となった。

「よし、じゃあ早速行動開始!
 古泉君、何か見つけてきなさい!」
「なるべく結果を残せるように致しましょう」
「じゃあキョン、妹ちゃん!行くわよ!」



「……あなたは、卑怯」
「その、気持ちはよく、分かりますけど……」
「僕達としては、少々控えて頂きたいですね」
「……」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:02:22.51 ID:InL0+5uo0

「さて、妹が居るからな。
 あまり期待は出来そうにないが、良いのか?」
「UMAや異世界人、未来人はさすがに知らないけどね。
 でも心霊現象に立ち会う数は、大人よりも妹ちゃんくらいの歳の子の方が圧倒的に多いわよ」
「こんな時間から心霊現象か……」
「あくまで一例よ。
 もしかしたら妹ちゃんが異世界人かもね」

エライ事を抜かすな。
正真正銘、真っ当な人間である俺の妹だぞ。

「ねーねーハルにゃん」
「なーに?」
「私、オバケとか見たことない……」
「いいのよ、別に見つけられなくても。
 でも人は多い方が助かるから、協力してくれない?」
「うん」

妹と目線の高さを合わせ、優しい雰囲気で話しかけるハルヒ。
俺達には発見を強要するくせにな。
差別だ。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:04:12.44 ID:InL0+5uo0

「じゃ、行きましょ!」
「おー!」
「……やれやれだ」

後は若い二人に任せよう。
俺は無理だ。

「……ねぇ妹ちゃん?」
「なーに?」
「その、あんまりベタベタするのは良くないと思うんだけど……」
「なんでー?」

妹は俺の腕にしがみ付いている。
あの一件から、妹はより積極的になった。
このように妹から好かれるのは、兄としては嬉しいものだぞ。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:06:06.13 ID:InL0+5uo0

「で、どこから行く?」
「今日は少し冒険してみましょうか。路地裏ね。
 昼間は日光を嫌うゾンビ達の巣窟になっているに違いないわ!
 妹ちゃんを守ってなさいよ!」
「キョンくん守ってね!」


そもそもゾンビなぞ出るはずがない。
出てくるとしたらそれは素行の悪いお兄ちゃんお姉ちゃんだろう。
俺としてはゾンビの方がまだマシだ。

「やっと出れたよー……」
「汚らしいだけだったわね」
「……まったくだ」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:08:09.12 ID:InL0+5uo0

結局午前の部は碌な事が無かったので省略させて頂こう。
後半なんて何故か妹の服を買う事になってしまったしな。
そんなこんなで昼休憩。

「キョンくん、その荷物何ですか?」
「妹の服ですよ。
 すみません。そちらは真面目に活動しているのに、この団長ときたら……」
「し、仕方ないじゃない!だって妹ちゃん色んな服似合いそうなんだから!」

今度は妹にコスプレでもさせる気か。

「申し訳ありませんが、こちらは何も発見出来ませんでした。
 お相子、ということで如何でしょうか?」
「あー……ごめんね古泉くん」
「いえいえ」

上手く治めた。
これが俺の発言なら問答無用の一蹴だろうな。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:09:36.10 ID:InL0+5uo0

「じゃ、午後の部のクジよ!引きなさい!」

結果……
俺・長門・妹
ハルヒ・朝比奈さん・古泉
となった。

「あんまり成果の望めなさそうなチームよね……
 ま、仕方ないわね。
 ないと思うけど、もし見つけた時は連絡しなさいよ?」
「はいよ」

恐らく連絡することはないだろう。『恐らく』すら必要ないか。
先ほどハルヒが購入した妹の服を駅のロッカーに預け、午後の部、スタート。

「どうする長門。
 図書館はコイツがご不満かも知れないんだが」
「……いつもそうしてるの」

俺に張り付く妹を見つつ言う。

「いや、今までこんなことはなかったんだけどな。
 いきなり随分と懐かれたんだ」
「あなたと彼は兄妹。
 血縁関係でそのような行動は控えるべき」
「なんでー?
 キョンくんだって嫌がってないし、良いと思うんだけどな……」
「そうなの?」

俺か、いきなり振りに来た。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:11:18.69 ID:InL0+5uo0

「……まぁ嫌ではないけどな」
「……そう」

背を向ける長門。
その背中に妹からの恐ろしい提案が飛ぶ。

「あ、一緒に手をつなごうよ!」
「……」
「だめ……?」
「構わない」

いや、恐ろしいと言っても、したくない訳ではない。
むしろしたいさ。
だけどな、マズくないか?
なんというハーレムだ。そんなのがハルヒのバレたらどうする。
次の罵詈雑言の全てを尽くした悲劇の開幕だぞ。

「それは彼自身の羞恥が大きい。
 彼が嫌がっている」
「別に嫌ではないけどな。
 やっぱり恥ずかしいんだよ」
「じゃあ私が真ん中!」

……どうあっても手を繋ぎたいらしい。
長門、良いか?

「あなたが望むなら」
「望むとは違う気がするけどな。
 頼まれてくれ」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:12:55.96 ID:InL0+5uo0

俺と長門が妹を挟み、三人で手を繋ぐ。
あまり大きな声では言えないが、妹はかなり小さいんでな。
その妹を俺と長門が面倒を見ている。
つまり、そういう事だ。

「あなたははしゃぎ過ぎている。
 それでは彼の腕に負担が掛かる。
 もう少し控えて」
「はぁい……」
「長門、仕方ないから見逃してやれ」
「キョンくん子供扱いしないでよー!」

ま、悪くはなかった。


「本当なら、あなたと手を繋ぐ事を望んでいた。
 ……でも、これも幸せ」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:14:31.15 ID:InL0+5uo0

「図書館は好きか?
 俺と長門はいつもそこに行ってるんだが
「大丈夫だよー」

妹の許可も得、俺達三人は図書館へ向かう。

「わぁーすごーい……」
「あまりうるさくするんじゃないぞ」
「うん」

あまりの書物の数に驚いたようだ。当然だろうな。
妹の通う学校に図書館だってあるが、そことはまずが量が違うし、妹はあまり湿っぽい場所は好まない。
さて、一体どんな本を読むのやら。

「長門も、行ってきていいぞ」
「分かった」

とてとてと歩き回って物色、本を次々に棚から下ろし、机に広げていく長門。
やはり本は好きなのだろうか。動きが軽やかだ。
俺は、寝るとしよう。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:16:46.73 ID:InL0+5uo0

「―――ンくん、キョンくん……」
「ん……?」
「時間。ここを出る必要がある」

くぁ、よく寝た。
椅子から下り、大きく背伸び。

「あはは、キョンくんよく寝てたよ」
「疲れていたんだよ。
 さて、行くぞ」

若い妹や、体力無尽蔵の長門とは違うんだ。
ちょっと動いただけで疲れがどっと押し寄せる。
早く行かなきゃハルヒの奴が煩いな。


「さて、アンタ達どこに行ってたのかしら?」
「何がだ。不思議探索をやってたさ。」
「嘘付きなさい。アンタのしょぼくれた目ですぐ分かるわよ。
 どうせ漫画喫茶にでも行って寝てたんでしょ!?」

漫画喫茶……惜しい。
しかし考慮してなかった。どこか公園ででも顔を洗っておけば良かったか。
古泉。真面目な顔でこっちを見るな。
俺だって悪いと思っている。

「涼宮さん、申し訳ありませんが急用が入ってしまいました。
 僕はここで失礼します」
「じゃあここで解散!」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:18:13.24 ID:InL0+5uo0

ドカドカという擬声語が似合う大股歩きでハルヒは帰路についた。
場に残された5人。

「―――さて。
 僕が言いたい事はお分かりですね?」

お前は頭に血が上っていようが、その回りくどい言い方は同じなんだな。

「茶化さないでください。
 あなたと言い長門さんと言い、どうなさったのですか。
 お陰で機関の人間は酷く疲弊しています。
 いつ行動を起こすか分からない神人を見張り続け、そして戦闘になっているんですよ。
 今日の所は、閉鎖空間への出張任務ではなく、あなた達とお話をするべくここに残ったのですが」
「そうだな。確かに俺の不注意だ。
 ハルヒがあそこまでの観察眼を持っているとは思わなかった」
「涼宮さんは非常に鋭い。特にあなたに関してはね」
「そうかい」

思いきり肩を竦めたくなる。
正直言って勘弁して欲しいね。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:19:50.25 ID:InL0+5uo0


「こ、古泉くん……妹さんも、居るし、今日はそろそろ……」
「……そうですね。
 熱くなり過ぎました。申し訳ありません」
「古泉」
「はい?」
「悪かったって思ってる。
 だけどな、我が侭を言うつもりは無いが俺だって人間なんだ。
 機関の人間に伝えといてくれ」
「はい、それではまた明日」


「悪かったな。もう、大丈夫だ」

傍らで震える妹の頭を撫でてやる。

「キョンくん……皆、ケンカしてるの……?」
「……明日には仲直りするさ。
 約束する」
「……うん……」

妹の前で神人だの閉鎖空間だの喋って、マズイかとは思ったがそれどころではなかったようだ。
抱きついてくる妹を宥め、今日は解散となった。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:21:11.55 ID:InL0+5uo0

帰宅後、妹の入浴を確認し、その後に入る。
また以前のように一緒に入りたいなどと言われては困るからな。
湯船に浸かり、さて今日の残りはどう過ごそうかと考えていると、ノックの音が。

「キョンくん」
「ん?どうした?」
「今日は、楽しかったね」
「そうか。それは俺としても嬉しいさ」
「それでね……えっと……」

これは……まさか?

「駄目だぞ妹。お前はもう既に入浴を済ませているだろう」
「……そうじゃなくて、約束……」

『……明日には仲直りするさ。
 約束する』
あれか。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:22:44.18 ID:InL0+5uo0

「分かってるよ。ハルヒとも、古泉とも話をしてみる」
「ホント?約束だよ?」
「あぁ」

ボリュームが一段階高くなった。
大丈夫だろう。
まったく分かりやすい。

「じゃあ、私寝るね。
 おやすみ、キョンくん……」
「おやすみ」

約束は守らなきゃな……
確かに、俺に非があった。サボり自体余り宜しい事ではない。
したらしたで上手い隠蔽工作が必要だったんだ。

……不思議探索でなくて、もう少し実のある事だったらサボることもないんだが。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:38:23.66 ID:w490ba6dO

バイバイさるさん。

翌朝。
これからハルヒにどう話しかけようかを考えつつ坂を上る。
こちとら考え事をしているんだ。そうやって太陽との連携技を見せるのはやめてくれ。

大した結論も出ないまま、教室の前に来てしまう。
無難に謝る所から始めるべきか……

「ハルヒ」
「……何?」
「昨日はすまなかった。
 漫画喫茶とは少々違うが、まぁ確かにサボってしまった」

こめかみをピクピクと震わせ、不機嫌オーラを八方に放出してやがる。

「だから、許してくれ。
 この通りだ」

クラスメイトの奇異な目は耐えよう。
俺はハルヒに頭を下げた。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:41:21.70 ID:w490ba6dO

「行動にしては物足りないけど……
 まぁいいわ。今回だけは特別よ。
 一回だけだから、今度やらかしたら毎週罰金確定だからね」
「……いいのか?」

なんだ、えらくあっさりしているな。
と、ここで安堵の表情でも零そうものなら追加の懲罰が待っているので、体勢は変えない。

「別にいいわよ。
 私だって言い過ぎたって反省してるんだから……
 妹ちゃん、大丈夫だった?」
「昨日、仲直りすると約束したばかりだ。
 ショックを受けていた」
「そう……今度、妹ちゃんに会いに行かないとね。
 とりあえず、アンタも有希も責める気は無いわ」
「あぁ」

どうやら言っている事は本当らしい。
感謝する。

「……ふん」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:45:13.55 ID:w490ba6dO

席に着き直すと携帯に着信が。
古泉からだったが……長過ぎる。
一体これだけの量を打つのにどれほど時間を掛けたのだろうか。
削りに削って簡略化すると、

「昨晩から続いていた閉鎖空間が消失しました。感謝します」

という事だ。
古泉の言っていた通り、機関の人間達は疲れきっているのだろう。
俺がある程度緩和出来ればな。避雷針にはなれそうにない。

「どうも」
「閉鎖空間はどうだ?」
「今のところはありません。
 前日までの乱発騒ぎが嘘のようですよ。
 あなたのお陰ですね。感謝します」

スマイルを崩すことなく古泉の礼が述べられる。
後は……

「長門、エラーはどうなった?」
「約96%の解析終了を確認」
「ということは、もう今夜にでも結論が出せるという事ですね?」
「そう」

こっちも問題無さそうだな。
俺は、ハルヒが持ってきた行き当たりばったりな提案にも、胃を痛めはしなかった。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:48:55.32 ID:w490ba6dO

その夜。
自宅で悠悠閑閑と時を過ごしていたんだが、携帯に着信。長門のようだ。
しかもそれは普段滅多に使われない電話機能だった。

「長門か?」
「……エラーの解析が終了した」

携帯だと余計に声が聞き取りづらいな。

「そうだったのか。もう大丈夫なんだよな?」
「……不可能」
「なんだって?」
「対処は不可能」

対処不可能とは……
そこだけ聞けば絶望的な状況に思えなくも無いが、俺はそれでもいいと思うぞ。
人間らしさが芽生えるっていうのは、嬉しいことだし、実際放置していても何も起こらないんだろう?

「……独占欲が、止まらない。」
「独占?誰が誰を?」
「私が、あなたを。
 あなたと共に居たい。そうして良いのは私だけ。
 あなたを虐げる涼宮ハルヒが許せない。
 とるべき行動が強制的に一択に絞られてしまう」
「落ち着け長門。とにかく一から説明してくれ。」

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:53:12.94 ID:w490ba6dO

「有機生命体でいうところの、感情がある。喜び、悲しみ、怒り……
 特に占められるのは、涼宮ハルヒへの嫉妬」
「だから、それが人間らしいと言っているんだ」
「古泉一樹は迷惑している」
「閉鎖空間に関してはお前の気にすることじゃない。
 俺は、世界の為に長門の人権を無くすことなんざ良しとしない」
「……だからあなたは分かっていない」

長門の溜息を感じた。
全く想像も出来なかったことだが……とにかく長門が呆れたような気がしたんだ。

「私は、人間ではない」
「だからなんだ。
 俺にとってお前はそこら辺に居る人間と変わらない。
 普通の人間と比べて色々出来るだけなんだよ」

随分と卑屈になっているな。
確かに朝倉の言うような急進派ではないお前が、この状況を喜ばしく思わないのは分かるが……
お前とハルヒは友達で、SOS団の仲間だろう。
団長の言う事にただ唯々諾々としているのは、お前も、きっとハルヒも心から望んではいないだろう。

「……出した結論は、初期化」
「……は?」

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 01:57:17.05 ID:w490ba6dO

間抜けな声を出す。当然だろう。

「この予期せぬエラー。
 処置の具体案が無いなら強制終了しかない」

待て、ふざけるなよ。

「大丈夫。あなたと初めて出会った頃に戻るようなもの」
「違うだろ!お前はそれで良いのか!?
 そんなやり方で納得出来るのかよ!?」
「納得出来るかどうかは関係がない。
 これしか、方法が無い」
「……」
「あなたに、伝えたいことがあった。
 それが連絡を行った理由」

長門は、何を……
記憶を失うことが、仕方ないことと?なんて愚行だ。

「私は、あなたを愛している」

俺は、家を飛び出した。
長門の家へ。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 02:01:01.15 ID:w490ba6dO

正直急展開過ぎて訳が分からんぞ。
長門が初期化。つまりそれは人間で言う所の、記憶を消すという事になるんだろう。
そしてそれは俺達との永遠の別れを意味する。
で、このタイミングで告白かよ。冗談じゃない。

「どうしても伝えたかったこと。
 涼宮ハルヒに、あなたを渡したくなかった」
「長門……」
「私とあなたは、結ばれる事を許されない」

俺はなんだ。
長門の事を、異性として見てやれるか?
人間らしくなっていく長門を、俺はまるで子の成長を見守る父親の気分でいた。
生まれてからたった3年。でも、長門は一人の女の子なんだ。

「長門……俺は……」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 06:28:34.84 ID:w490ba6dO

「……お前のことを、その、付き合う対象に見れはしない」
「……分かっていたこと」

だけど、だけどな!
お前に居なくなって欲しくない!
お前の体は残っていても、今居る長門は一人だけなんだよ!

「……その優しさは、私を苦しめる。
 あなたは私の好意を受け止めることはしない。
 明日から、あなたと顔を合わせることはきっと出来ない」

ちくしょう通じないか!

「長門!今から会いに行く!待ってろ!」
「……やめて。あなたに会えば、決心が鈍る。
 私一人の我が侭で余計な問題を発生させることは許されない」
「いいから何もするな!」

長門の家に向かって全力で自転車を走らせた。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 06:36:07.38 ID:w490ba6dO

「さようなら」

既に交信は絶たれている。相手に向かって届かない言葉を送信。
最後に言いたい事が言えた。
もう心残りは無い。
通話機能で良かった。せめて声だけでもと思った。

今まで得た経験値を全て放棄する。
停止。停止。停止。

……彼がここに到着するのはおよそ5分34秒後。
間に合う。



「初期化プログラム、インストール開始」

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 06:46:19.81 ID:w490ba6dO

長門宅の玄関が開き、中から出てきた顔は、感情の全く篭らないもの。

「長門……まさか、本当に……?」

瞳は真っ直ぐ俺を捉え、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で、言葉が紡がれようとしていた。

「なぁ、嘘だろ……長門……?」

後から聞いた話によれば、持っている情報はハルヒの観察という目的だけだそうだ。
朝比奈さんと古泉の事も、覚えてはいないらしい。

「あなたは?」

―――もちろん俺に関する記憶も。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/16(火) 06:55:10.60 ID:w490ba6dO

終わり

解決策なんて、情報統合思念体に同情を求める以外は無いかと思われるので
変なご都合主義エンドはしたくないです

最後の最後で寝落ちなんてしてしまい申し訳ない
保守してくれた人ありがとう

なんだっけ
消失で長門の消去がどうのこうの……って話あったんだよね
当然だけどそれとは大分ズレがあるはず
憂鬱と溜息しか読んだことない人間の「長門でSSを作ろう」という妄想の結果です
お付き合い頂き、本当にありがとうございました

151 名前: ◆jJBMkxyuJI [] 投稿日:2009/06/16(火) 07:27:15.96 ID:w490ba6dO

酉付けてみる



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