古泉「副団長として・・・」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:32:07.91 ID:oaJW3FxJ0


笑えるような要素一切なし

当然泣ける要素も一切なし

話の抑揚なしにただ淡々と続くオナニー文

書き溜めとまではいかないまでも、メモ書きくらいで最後まで残してあるから書いていくのはすぐなはず

時間設定としては、二年生の夏前くらいかな

原作読んでないとわからない話も結構あるけど、かと言って>>1が原作を読み込んでるわけじゃないから間違った箇所もあると思う

以上、了承願う

つーわけで投下開始する

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:33:43.88 ID:oaJW3FxJ0

かつて、彼が長門有希の世界改変に巻き込まれ、遭遇してしまった異世界が存在した。
そこでは、長門有希の願望が具現化され、長門有希と彼だけが同じ高校に、そして他のメンバーは他の高校へ在籍していたという。
その世界での僕は彼女と同じ高校に在籍し、彼女の傍らでいつも通りにやけ面をしていたと彼は言っていた。

以前はこう思ったことがあった。
それは長門有希だけではなく、僕の隠れた願いをも取り込んで創造したものだったのかもしれない、と。

かといって、当然それを僕の力によって成したものだということはあり得ない。
それは、今考えつくこととしては、僕自身がただの制限付きの超能力者に過ぎないという理由だけには留まらない。

僕が守りたい世界は、彼女が僕の傍らで絶えず不機嫌そうな仏頂面をしているだけの世界ではないからだ。
そんな世界を、僕は望まないという自負が今はある。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:35:53.92 ID:oaJW3FxJ0

・・・・・
・・・


SOS団に入団して一年以上が過ぎているが、SOS団は何も変わらない。
彼女が居て、彼女の傍らにはいつも彼が居て、僕と朝比奈みくると長門有希がそれを囲み、何のことはない放課後を過ごし、週末にはグループ分けして不思議探索に繰り出す。

今日の午前の部は僕と彼のペアと、女性3人のグループに別れた。
この組合せになったとき、彼は必ず『何が楽しくて休日に野郎と二人で・・・』なんてぶつくさ言いながら歩き始める。
しかし、彼のその不機嫌は初めの間だけで、歩き始めれば何のことはない。

「なあ古泉、今度の夏もハルヒの我侭に付き合ってどこかに連れ出すつもりなのか?」

黙って無言で過ごすこともあるが、大抵は他愛もない会話をしながら歩くことになる。
どちらも僕にとっては楽しい時間で、充実した時間を送ることができたと感じることができる。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:37:20.17 ID:oaJW3FxJ0

「ハルヒのやつ、海外に行きたいなんて言っていたが、無理に合わせなくていいぞ。あいつの傍若無人な我侭にお前が奔走させられる理由は無いしな。」

僕は即答する。

「僕が無理をして皆さんが喜んでくれるならお安いものですよ。」

これは紛れも無い本心。

「お前のその自己犠牲精神にはいつも呆れるよ」

彼はお得意のやれやれと言った仕草と、その仕草に合わない笑みを含んだ表情で返してくれた。

「貴方自身はどこに行きたいのですか?参考のために伺っておきましょう。」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:41:13.67 ID:oaJW3FxJ0

「俺の行きたいところなんて関係ないだろう。」

また唐変木なことを言う。

「貴方が楽しむことができなければ、涼宮さんも心から楽しんではくれないんですよ。」

彼は首を少し傾け、眉を寄せながら考え込む。

「そうだな・・・正直どこでもいいかもな。近くの温泉やテーマパークとかでも俺は満足だぜ。ハルヒのことは心配しなくても、みんなで旅行ってだけで満足してくれるだろ。」

僕に無理をさせまいと気を使ってくれているのだろうか。

「『〜でも満足だ』と言うような消極的なことではなく、僕らの夏合宿という枠を外してもっと正直に自分の希望を仰ってみてくれませんか?」

彼は再び考え込んだ。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:45:30.70 ID:oaJW3FxJ0

以前は『本当はこんな喋り方もするんだ』『こんな表情もするんだよ』と声を大にして言いたくなる衝動に駆られたものだったが、今となってはそれももうない。
SOS団にとっての古泉一樹と僕自身は、いつの間にか一致するに近い様相を持っていた。
それだけに、自分にとってのSOS団という小宇宙が掛替えのないものであることを自覚している。

「そうだな、行ってみたいところというのを真面目に考えるとだな、世界中の古代遺跡を見てみたいという気持ちがあるな。
 ハルヒの不思議探しには持って来いだし、朝比奈さんの不用意なうっかり発言がまた聴けるかもしれない。
 長門にとっては全く違う文化・文明に触れてみるってのは一般の人間以上に重要なことだと思うしな。」

結局他の人の意志を忖度している辺り、彼らしいと言うか何と言うか…

「そうですか。それではやはり海外に行ってみましょうか?
 費用なら機関が負担できますし、現地での安全を手配することもできるでしょう。その点は保証します。」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:48:25.57 ID:oaJW3FxJ0

彼は再び考え込んだ。
彼が僕の好意や提案に甘えてくれたり乗ってくれることは僕にとっては不愉快ではない。
むしろ嬉しく感じる。

こんなことを考えていたため、この後、彼が口の端に登せてきた言葉は意外性を極めた。

「なあ・・・」

彼は何かを言いかけるが躊躇っているようだ。
沈黙が流れたので、僕から彼に問いかける。

「はい。どうしました?」

また少し沈黙が入る。
一体なんだというのだろうか。

「前から気になっていたんだがな・・・

僕は「はい」と相槌を入れながら次を促すがなかなか次が出てこない。
旅行先でのことでここまで言い難いこととは何だろうか。

「・・・機関って一体何なんだ。」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:53:25.40 ID:oaJW3FxJ0

焦らした挙句、彼が絞り出したことはこれだった。
漠然とし過ぎていて彼が何を気にしているのかがわからない。
今は合宿先の話だったはずだ。

彼は先ほどの状態から堰を切ったように話始めた。

「お前等の機関はハルヒのご機嫌取りの為に島を丸ごと用意できる。そこにほぼ新築のお屋敷も用意できる。
 海外旅行の為の費用を全員分捻出して、現地で身に危険が及ばないよう色々手配もできる。
 必要となる費用は直接的なものだけじゃない。根回しにはかなりの時間と労力と費用を必要とするはずだ。」

僕は、彼が何を訊きたいのか探るべく耳を傾ける。

「余計な人が入らないように交通規制をかける。口止めをする為に口止め料を払う。安全を確保するために警備体制も確保する。
 一体どれくらいの費用を使うのか、俺には検討も付かない。」

「そういえば、生徒会長を擁立してその地位に就けるには国家議員の選挙活動に必要なくらいの費用、つまるところ数千万から億単位の金を使ったんだったか。」

彼の質問が具体性を帯びてくる。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 21:56:41.86 ID:oaJW3FxJ0

「機関の息のかかった病院があって、そこでは機関を通せば一年間は格安で泊めてくれるんだったか。医師会にも影響力を行使できるのか?」

嫌だ。

「我らが公立の北高にはお前以外にも機関の人間いるなら、教師にも間違いなくいるだろう。
 結成した3年前からそこまで根回しをしてきたわけではないだろう?
 それならお前の転校同様に突発的に入れた要素も多いんだろ。
 ということは公機関にもかなりの影響力を持っているってことだよな。」

できれば訊かれたくない。知られたくないことだ。
今まで触れてきたことはなかったのに、何故今頃になって・・・

「おそらく、公権力にも影響力を持っているんだろ?警察を含めた行政機関、政治家を含めてだ。」

途切れた。
どうやら僕に回答を求めているようだ。

「・・・ええ。そうでなければあれくらいの活動はできませんからね。」

今更否定できることではない。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:00:24.61 ID:oaJW3FxJ0

「なら、億単位の金を簡単に動かせる資金源は一体どこにあるんだ?
 まさか、お前の同士の超能力者や機関の中に王族やドバイの石油王がいるわけじゃないんだろ。」

これくらいなら応えても問題はないだろう。

「貴方もご存知のように、鶴屋家のような資産家から投資を受けていますよ。」

そうか、と言わんばかりの相槌を目でしてくる。

「それは知ってる。鶴屋さんの家はほんの一部なんだろ。
 他にも似たようなところから援助をしてもらっているわけだな。
 億単位の金を動かせるくらいだ、かなり大規模な援助活動なされてるんだろうな。」

「そしてその資金を元に、あちこちに根回しができるってわけか。いや違うな。
 金だけじゃ限界もあるし、時間もかかるはずだ。
 影響力を行使できるのではなくて、公的な力を持った人達からも資金ではない形で多くの協力を得ているんだな。」

彼は僕を誘導しようとしているようだ。
明らかにレールの上を走っているやりとりだ。
彼のボードゲームの強さを見れば、こういうやりとりは彼の本領と言えるのだろうか。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:04:54.60 ID:oaJW3FxJ0

「僕は末端の人間なので、あまり詳しくは分かりませんよ。」

釘を刺すも、

「お前の性格で4年余りも全く何も知らない身を良しとしてきてるはずはないだろ。
 しかも、俺が思うにお前は機関の中でもかなり重要な存在だ。
 何せ超能力者で、しかもハルヒの身辺に近づいている上にハルヒの信頼も厚いわけだからな。
 他の能力者の中でもオンリーワンだろ。何も知らないなんてことはあり得ない。」

釘を刺し返される。
初めの戸惑いがちに話始めた彼の雰囲気はもう無い。完全に追求の構えだ。

「続けるぞ。ここからが本題なんだが。」

もう予想が付いてる。

「機関の本当の目的はなんだ?」

予想が付いていただけに次の応えるべきことも用意していた。
できるだけ自然に、迷うこと無く応えなく応える。

「以前にお話しましたように、世界の安寧と平和のため、我々は努力しているのですよ。」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:09:40.77 ID:oaJW3FxJ0

「違うな。」

彼も予想済みと言わんばかりの即座の否定。
ここまでくれば、彼に否定されることも予想済みだ。

「お前も小さい頃は世界を救うとか悲劇のヒーローとか英雄とか、そういったものに憧れを持っていたことがあるはずだ。
 ・・・まあ、お前はある意味実現しているが。」

これは予想外だった。
何を言い出すんだ彼は・・・

「普通の人間はそれを実現することはないし、歳を取ればその憧れは消え、別の現実に沿った夢へと変わる。
 地位とか名誉とか金と言ったものだ。
 俺は人より賢くないから、そんなことは他人から見た知人の夢という程度にしか思えないが、そう志向する人間が大勢居ることは理解できる。
 俺だって頭が良かったら野心の一つも持ったかもしれない。」

なるほど、こういう展開で持ってくるのか。

「そういうことでしたら心外ですね。貴方は既に世界の命運を握る鍵としての生を送っているではありませんか。」

彼はお得意の仕草を取ってみせた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:11:22.18 ID:oaJW3FxJ0

「でだ、潤沢な資産を所有して俺の色眼鏡ではお歯黒をしてそうな連中や、
 雲の上に鎮座まします権力を持った先生方がスポンサーとして集まって、
 やっていることが世界平和への慈善事業に対しての無償協力なんてことはないだろう?」

・・・

「映画撮影の時だったかな、お前が言ったことがある。ハルヒを巡る組織の駆け引きは機関や朝比奈さんの一派だけではないと。
 水面下では多くの組織が謀略とか暴力とか面倒な事の総力を挙げての生き残り合戦をしているとな。」

「そんなこと言いましたっけ。」

しらばっくれる。それに類することは言ったが、一字一句同じではないわけだから、恍けても別に嘘をついているわけではない。
しかし彼はそれでも構わないと言わんばかりに話し続ける。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:14:53.50 ID:oaJW3FxJ0

「その他の組織にもスポンサーが付いているんだろうな。
 じゃないとお前等の機関と張り合うなんて不可能だからな。」

「機関は、お前が言うには超能力者の全員を擁しているって話だ。
 ハルヒの近辺に一番近づいている組織でもある。一番条件的には美味しいはずだ。
 それなのに他の組織を援助するってのはおかしな話だよな。」

「まあ理由は簡単だ。
 スポンサー同士の何かを巡った対立関係があるからだろ。慈善事業とは関係の無いな。」

「そして、組織にとって、活動資金を提供してくれるスポンサーの意志は絶対だ。
 援助を打ち切られたらどうにもならないからな。」

「待って下さい。我々の目的はあくまで世界の安寧です。それはスポンサーも同じです。
 ですから大義名分のある我々の機関には多くの協力者や資金が集まるし、勢力も強くなります。」

自分たちは潔白だと言い切りたい。
しかし、この流れからして、それはもう無駄だということは自分でも分かっている。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:19:22.84 ID:oaJW3FxJ0

「野心を持った人間には非常に魅力的な話だよな。
 願望を実現する能力、世界を如何様にも変容せしめる能力、そんな能力を持った少女の存在を知って、世界平和に対しての無償投資で済むはずが無い。
 そんなことで財界人や権力者が動くなら世の中もっと変わっててもいいよな。
 投資ってのは何らかの対価あっての投資だ。
 第一、スポンサーの意志が純然たる慈善事業ならスポンサー同士の争いがそうも起こるはずがないだろ。」

まだレールの上だ。
やはりと言うべきか、あっさり反論される。
僕が言い張ればただの水掛け論に終わらせることができるかもしれないが、明らかに追いつめられているのは僕の方。変に虚勢を張っても暗に肯定するのと同じだ。

「もう一度訊く。機関の目的はなんだ?」

彼がこんなことに首を突っ込んでくるのは一体何故だ。
下手をすれば身に危険を及ぼす可能性があることくらいわかっているだろう。
自分は鍵で、絶対手を出してこないという確信があるからか。
何よりこんな話をして、僕と、SOS団での関係が崩れる可能性は考えていないのか。
それとも、僕に対しての信頼故か?

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:22:47.18 ID:oaJW3FxJ0

「素晴らしい想像力です。ですが、空想の域を出ることはできないですね。」

言い始めてしまったと思った。
こんな返答は雰囲気が悪くなるだけだ。

「それが空想が的を射ているものかどうかは別として、そこまで考察しているなら貴方には貴方自身の見当というものがあるでしょう。
 先に拝聴したいものです。」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:24:34.96 ID:oaJW3FxJ0

彼は少し間を置いて、不機嫌そうに話始める。

「別にここまで来て改めて説明することでもない気がするが、いずれはハルヒの能力を手に入れたい、利用したいと考えているだけだろう。
 今は未確認のことが多いし、他の協力関係にある組織との兼ね合いからできるだけの平穏と現状維持を目標にして、
 その間にせっせとハルヒの観察と能力の研究に勤しんで、いずれハルヒの能力を利用するための算段をする。」

「そして、一方では協力関係に無い組織からの介入を一切許さず、
 ハルヒとお前等の言う鍵である俺を独占するために抗争を繰り返す。
 こんなところか。」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:28:59.17 ID:oaJW3FxJ0

僕がここで応えるべき模範解答は何だろう。

過程は別として、僕のやるべき選択肢は多くはない。
話を反らすか、何とか煙に巻いてしまうこと、しらを切ること。
それもできるだけ奇麗な終わり方に持っていく必要がある。
後に彼に疑義を抱かれることになり、信頼関係が壊れることがあれば、それこそ最低の失策だ。

まずは会話の主導権を握らなくてはならない。

「そう言えば貴方には『機関』と呼称される組織の、正式な名称を教えていませんでしたね。」

「『機関』じゃないのか?」

食い付いてくれた。
僕の経験上、人を欺く場合は、真実をできる限り織り交ぜるのが肝要だ。
直感的に人は嘘を見抜く本能のようなものを備えている。
特に今の彼のように内に据えた一本の芯がある場合は殊にその力を発揮するものだ。
それを少しでも誤摩化す為には真実を織り交ぜることが一番いい。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:39:50.35 ID:oaJW3FxJ0

「正式な名称は『新機関』と言います。」

「は?からかってるのか?」

僕はゆっくりと、事実を述べながら話題の反らしどころを考える。

「そんなつもりはありません。『ノヴム・オルガヌム(新機関)』というベーコンが出した本の題名が由来です。」

「フランシス・ベーコンはイギリス経験論の祖と言われる哲学者で、

「古泉」

「はいなんでしょう?」

「そういう話は苦手だ。回りくどくない、手短な説明を頼む。」

「承知しました。」

彼がこういう話が苦手なのは百も承知のことだ。
だからこそ、こういった話を長引かせて煙に巻こうという気持ちもあっただけに、出鼻を挫かれた。
僕の意図を看破した上での発言なのかどうかはわからないが。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:53:32.82 ID:oaJW3FxJ0

「ベーコンは、4種のイドラ…偏見とでも言えるものの存在があるせいで、人間は本当の知性を得られていないと考えていました。
 その4種は、自分の種族・属性と言った自分に当てはめてしまう枠組み、自分の育った環境という視野を狭くする箱、
 概念が先攻して存在しているために起こる錯覚、知識人の言を正しいと思い込んでしまう権威主義的・依存的な人間的弱さの四つを指します。」

「涼宮さんの能力は、人間としての能力を遥かに越えるものですし、一般常識が通じないものであるし、
 社会的に許容されるものでも、どんな科学理論が通じるものでもありません。
 そして、分けも分からず突然その事実を知ってしまった我々は、とにかく驚きを持って彼女の能力を受け入れることを余儀なくされました。」

「まああの奇想天外摩訶不思議アドベンチャーな言動も含めてな。」

それはそうだと強く納得した様子で彼が苦笑しながら頷く。
彼はどこまで行っても彼でしかない。当たり前のことだが、少し気が楽になる。

「全くですね。」

僕は得意の笑顔で返す。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 22:59:22.45 ID:oaJW3FxJ0

「ベーコンは、それら4つの偏見を完全に排除し、ありのままの自然に服従しなければ人類はより高い・真の知性へと到達することができないと考えました。
 機関の設立も同様のものです。」

「つまり、涼宮さんのことをありのまま受け入れ、涼宮さんの世界に服従するというものです。
 集まった我々 ―といっても僕は途中参加ですけどね― は少しずつ組織としての体裁を作っていきました。
 そして誰がいつ付けたのかは知りません、トップ層のちょっとした洒落っ気だったのか、名付けられていた名称が『新機関』。
 それをいつの間にか誰もが『機関』と呼ぶようになりました。
 もっとも僕個人としては、この理由は後付けによるものである気がしていますが、それはまた別の話です。」

彼は黙って耳を傾けている。
だんだん僕のペースになってきている。

「新機関の目的は二つ。
 かくして一同に会した超能力者たちは、その与えられた能力を使い、彼女の能力の一部分としての理性の行使者として働きました。
 世界の平和を守るためという共通認識は多くの構成員が持ち、彼女を神のように崇拝する者達も数多くいました。」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:05:01.54 ID:oaJW3FxJ0

「そしてもう一つの目的は、彼女の能力の解明です。
 真の知を求めて彼女の能力を研究する。
 本当にそれだけのものでした。
 たったそれだけの、真っ当な目的を持って機関の活動が開始されました。」

ゆっくりと喋りながら反らしどころを思案する。

「しかし、平穏を保つ為には、ただ閉鎖空間を消滅させるだけでは意味がありません。
 お分かりと思いますが、もっと根源的なところでメスを入れる必要があります。
 その帰結として、我々は彼女自身の生活に干渉することで平穏を保つという形で活動範囲を拡大することに踏み切りました。」

「古泉、もういいぞ。後は大体想像が付く。」

話の途中で突然彼が遮る。

「・・・そうですか。」

完全に向こうのペースに戻された。
まったく、その洞察力と手腕はもっと別のところで使うべきじゃないのか。
思わず苦笑してしまう。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:13:29.47 ID:oaJW3FxJ0

「あー、えっと、今更呼び方は変えんぞ。大した違いもないし。」

「それで、どう機関の在り方がどう変容していったかはわかったが、結論はどうなんだ。
 機関の目的はなんだ。」

口に出したくない。

「…僕の願いは世界とSOS団の平穏です。」

出せた言葉はこれだけ。
こんな誤摩化しにも何にもならないくだらない返答しかできない自分が情けない。
まるでいつも彼としている手詰まりボードゲームの気分だ。

しかし、彼の対応は意外にも「そうか」の一言だった。
僕が言い辛くしていることで察してくれたのだろうか。
口に出さなくて済むようにしてくれたのは彼なりの優しさなのか。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:24:19.02 ID:oaJW3FxJ0

「それで、その平穏は守られそうなのか?」

「今はまだ大丈夫です。現状が推移する限りは。
 今は主導権を握り、協調関係にある三勢力間での均衡が保たれていますから。
 それぞれが涼宮さんの近くに切り札を持ち、互いに牽制することで均衡は保たれています。
 まあ均衡と言ってもTFEI端末達を交えて均衡も何もないですよね。力に差があり過ぎますから。」

「言ってしまうと彼らの中で主流になる派閥が変わらない限りは大丈夫と言った方が正確かもしれませんね。
 彼らが平穏を望む限り、他の勢力が何をしようと無駄と言えますからね。」

「そうかもしれないが、当然、それを良しとする機関や未来じゃないんだろ。
 いつ出し抜こうかと人間なりの知恵を絞って機会を窺っているはずだ。」

話をTFEIに反らそうとしてもすぐ戻される。
話が元に戻ってしまった。もっとも、最早規定の事実として捉えられているだろうが…
しかし、彼が続けて言ったことはまたしても意外なものだった。

「いや、いいんだ。済まない。俺が一番訊きたかったことは機関の動向じゃあないんだ。」


では今までのやり取りは何だったんだ??

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:27:53.55 ID:oaJW3FxJ0

「一番訊きたかったのは、機関ではなく、お前自身がどう考えているかどうか。」

「機関やその周りの勢力図については、まあ知りたくもあるがどうでもよくなった。」

「もし機関や、未来、宇宙人どもが今の方針を変えるなりして今の平穏がぶっ壊されることになったとしても、俺は別に自分の境遇を呪う気もないし、後悔もないと思う。
 それだけSOS団ってのは俺にとって大きいし、何よりただの人間の俺にはどうにも抗しようがないからな。まあ悪あがきは当然するが。」

「もしそうなったとしても、お前等に文句を言ってもそれぞれの組織の一員という立場である以上、まあ悔しいし複雑な気分だろうけど仕方がないことなんだと思う。
 それは分かってる。だが、だからこそ確認したい。お前がSOS団をどう思っているのか。」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:29:24.91 ID:oaJW3FxJ0

これまでの話は、恥ずかしがりの彼らしい遠回しな訊き方だったわけか。

「単刀直入に訊くが、お前の機関から与えられた使命は、ハルヒの観察と報告だったな。」

「・・・ええ。」

穏やかになったと思った彼の姿勢は、また追求の構えを見せる。

「さっきも言ったが、お前が機関の中で占める位置は絶対的なものだと俺は思っている。
 超能力持ちで、ハルヒの隣にその身を置いて、ハルヒからの信頼も厚い。
 いかに機関が根回しを得意としても、その位置にお前以外の人間をこれから据えるのは困難だろう。
 機関にとっては、お前の役割は、もうただの観察なんて程度のものじゃないだろ。
 お前は他の対立組織と差別化する上で絶対必要なものになっているはずだ。」

「機関の組織体制がどうなってるかなんて俺には知ったこっちゃないが、機関内でのお前の将来は約束されているようなもんなんじゃないか?
 最重要な役割を担って、超能力も持ってる。後々の組織内での発言力が低いままであるわけがない。」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:33:36.01 ID:oaJW3FxJ0

少し間が空く。
彼が訊きたいことはここからなのだろう。

「そんなお前に訊きたい。お前はどんな夢を描いているんだ。
 やはり他人から見た知人の夢でも描いてるのか。
 お前は頭もいいし、そういった夢を叶えるという意味ではいい環境に恵まれていると言えるかもしれない。」

「お前が閉鎖空間でいつも共に戦ってきた戦友達には及ばないだろうが、俺はお前との間に友誼はあると感じている。」

「でも正直俺は怖い。今感じる平穏が、水面下・雲の上での争いの中で意図的に作られているばかりではなく、身近な存在の中でも意図的に作られているものなのかどうか。。」

・・・

「夢とか馬鹿みたいなこと言ってて恥ずかしいんだからさっさと応えてくれないか。」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:40:47.60 ID:oaJW3FxJ0

つまり彼は、僕までも機関の一員として彼女の能力を利用するという行動原理を持っているのか、それともSOS団に対しての帰属意識を持っているのかを確認したいのか。
信頼されているのかどうなのか、少し残念な気もするが、彼の不安もよくわかる。
実は周囲の環境が全て操作されているものだとしたら、僕だったらどう考えるだろうか。

「雪山で言ったことがありますよね。もし長門さんが危機に陥るようなことがあれば、機関の意志に反してでも貴方に協力する、と。」

「ああ、覚えている。一度だけっていう制限付きだったがな。」

「あれは僕の心からの本心です。
 制限については、状況によっては一度に限ったものとは思っていません。
 それでも敢えて制限を付けたのは・・・僕にも優先順位があるからです。」

彼の心境の動きが手に取るようだ。
さっきまで会話の主導権がどうとか考えていたのが馬鹿らしくなる。

「誤解を恐れず言えば、僕にも野心はあります。」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/28(土) 23:54:22.87 ID:oaJW3FxJ0

「でもそれは、貴方が言うところの能力のある人の夢というようなものとは形を異にします。
 基本的に貴方の意に反するものではありません。
 SOS団の意に反するものでもありません。誓います。」

「そうか。」

彼は短く応える。

「僕が望むのは世界の平穏、SOS団の平穏、これは間違いのないことです。
 未だに小さい頃の世界を救うヒーローに憧れているわけではありませんが、
 毎度命の危険のある閉鎖空間に赴くのには、容易ならざる決意があるからです。」

「同様に、僕が機関に所属し続けることも、SOS団に所属し続けることも、容易ならざる決意があるからです。
 そしてその決意の所在は、繰り返しになりますが決して貴方の意に反するものではないと思います。」

「『容易な決意』なんてものが存在するのか、俺は知りたい。」

彼は皮肉めいた言い方をした。
いつもの彼だ。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:07:25.01 ID:dCkWGA630

いつもの調子に戻った彼が時計を見ながら言う。

「そろそろ姫様がお待ちかねの時間だ。戻ろうぜ。」

待ち合わせ時間にはまだあるが、確かに彼女なら既に彼を待ちこがれている時間だ。
それにこの上ない話の切り方だ。
こういう長けたものがあるなら、それを他のところで使ってくれれば僕も楽ができるのに。

「そうですね。貴方の貯金も底を突きそうですし、遅刻はよろしくないですね。」

それなら僕も流れに合わせるだけだ。

「なっ!?まさか俺の預金残額まで把握してるのか!?」

「さて、どうでしょう。」

僕はいつも以上にわざとらしいまでのスマイルを使う。

「冗談じゃないぞ。最低限のプライバシーは守ってくれ!」

「少しくらいは我慢してください。」

僕のスマイルと彼のやれやれが交錯する。

何のことはない平穏。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:12:54.91 ID:dCkWGA630

・・・・・
・・・



僕は一つだけ、嘘を付いた。
たくさんある隠された事実の内の一つだが、絶対に悟られてはならないものの一つ。

とは言っても、機関の性質を理性的にでも見抜いていた彼なら、おそらく機関が僕に何をさせようとしているかは想像が付いたはずだ。
殊に、自分自身朝比奈みくるについてその可能性を彼に示唆したこともあったことを考えれば尚更だ。

彼が口に出し、僕が肯定、或いは暗に肯定とも取れる反応をしてしまった場合、彼との、そしてSOS団内での人間関係に悪影響を及ぼしてしまう可能性のあった事実。

口に出さなかったことは彼の優しさなのだろうか。
それとも、僕に対しての信頼だろうか。
おそらく両方だろう・・・


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:17:31.67 ID:dCkWGA630

― 現在、 新機関より僕に与えられている至上命令

『いずれは涼宮ハルヒを籠絡し、鍵の立場に取って代わることで、彼女の能力を新機関のものとすること。」

それが適わない場合の第二案として、

『鍵を排除し、鍵に取って代わることで涼宮ハルヒの能力を新機関のものとすること。
『鍵を懐柔し、或いは洗脳し、間接的にでも涼宮ハルヒの能力を機関のものとすること。」

の二つが掲げられている。
第一案が達成されるなら一番穏便に事が進む。第二案は達成されるまでにどんなリスクが存在するかも予想できず、強攻策に近い意味で重要度が下がる。

また、一、二案のいづれも、特に第二案の2つについては未来と宇宙からの干渉がある限り達成は難しいだろう。

だが、そんなことは関係なく、第一案の遂行が、僕には、そして誰にも不可能であることは誰よりも僕がよく知っている。

他の能力者には無い、僕にだけ与えられた能力故に・・・

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:28:34.32 ID:dCkWGA630

その能力が僕が彼女の傍らに居ることで得たものなのか、僕が彼女に持つ感情によって得られたものなのかはわからない。

ひょっとしたらそういう能力があるものと錯覚しているだけなのかもしれない。
彼女の傍らに居る時や、閉鎖空間にいるときは勿論、離れていても感じてしまう彼女の情動。
彼女との片道切符の共感能力とでも言うべきだろうか。
その能力は僕に嫌と言うほど教えてくれる。

彼女にとって、彼の存在がいかに強大なもので、他のいかなるものの介入を許すものではないということを・・・

そして、これは能力によるものではなく、ただの勘・・・或いはただの願望なのかもしれないが、
彼もまた、例え世界中の誰が敵になろうとも無条件に、そして無償で彼女の傍らにいるであろう。

それらは、まともな環境に育つことができなかった僕にとっては、例え自分以外の他者へ向けられたものであるとしても、実感することができるのは幸福なことだった。
聊か複雑な気持ちを兼ね備えることも否定できないとしても、それは紛れも無い本心であり、
その本心は僕を機関の至上命令から解放してくれたばかりではなく、僕が上を目指す理由を与えてくれた。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:40:19.17 ID:dCkWGA630

「やっと戻ってきたわね!」

「やっぱりもういやがる・・・」

「キョン!おっそいわよ!罰金!!」

「おいおいまじかよ・・・勘弁してくれ。ちゃんと時間には間に合ってるだろ。」

今、僕の団員としての生活は一年を経過している。
この一年は僕の生涯のほんの何十分の一でしかない。
敦盛でいう人間五十年としても、たったの五十分の一だ。
学校の3階まで登る階段の段数で言えば、まだ一段目も登れない程度だ。

「それに遅刻って言うなら古泉だって一緒だろ。」

「あ、あの…遅刻したわけじゃないですし、いつも奢らせるのは可哀想ですよ〜」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:51:15.34 ID:dCkWGA630

「甘いわよみくるちゃん!
 ちゃんと厳罰を持って処置をしないとつけあがるだけよ!
 それに古泉君は悪くないでしょーが!
 どうせあんたがのろのろしてるから遅れたに決まってるじゃないの!
 そうでしょ?古泉君。」

自分の今の判断がただの子供っぽさによるものなのかもしれないと時々思う。しかし、そうでは無いものもあるはずだ。
僕は人生の三分の一程度の年齢で、人生のほんの数十分の一の期間で得た、生涯通すべく容易ならざる決意を手に入れている。

「古泉君?」

それは確かに虚構かもしれない。
しかしその芯は、少なくとも今はしっかりと自分を支えている。

それは、機関の一員にして、副団長である自分にしかできないこと。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 00:58:31.56 ID:dCkWGA630

「古泉君? もしかして体調でも悪いの? ちょっと顔色も良くないかも・・・大丈夫・・・?」

「彼の体調は正常、問題ない。」

「・・・あ、済みません。何でもありませんよ。ちょっとお腹が空いてぼーっとしていただけです。早く食べに行きましょう。」


・・・貴女が時々見せるその優しさが、僕は好きなんです。


「そっ、ならいいわっ。古泉君はうちの副団長なんだから、あんまり団員を不安にさせるような顔をしてはだめよ!」


・・・貴女が笑顔でいれば、僕も絶えず笑顔でいることができるんです。


「ええ。任せて下さい。」

僕は全力の笑顔で返す。

「それでこそ副団長よ!それじゃあお昼ご飯行くわよ!」

そう言って、彼女は彼の腕を掴み、他の二人を連れ立っていつもの喫茶店へと向かう。


・・・貴女が彼の傍らにいるときに見せる満面笑顔が、僕は一番好きなんです。

 

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/29(日) 01:01:33.32 ID:dCkWGA630



彼女の後ろ姿を見て僕は容易ならざる決意を改めて口にする。
それは、彼には言えなかった、新機関内で僕が上を目指す理由、野心の所在

「…貴女の笑顔を、…優しさを、僕は必ず守ってみせます。」

「超能力者として、いずれ機関を動かす者として、そして ― 」

「副団長として・・・」




 終わり
 



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