ハルヒ「ただのヒューマンには興味ありません」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/25(水) 23:36:49.54 ID:6hCaPwOGP

ハルヒ「宇宙マン、未来マン、異世界マン、超能力マンがいたら、私の所に来なさい。以上」

 キョンは驚愕した。何故なら目の前の女がとんでもないことを言い出した、からではない。
 彼の古い友人である国木田が、拳銃をこめかみに押し当てたまま、爆笑していたからである。

国木田「ふ、ふはは、ははっ、はははははっ」
キョン「や、やめろ! はやまるな!」

 ところで先ほどの涼宮ハルヒ、彼女はご自慢の演説が国木田のインパクトにかき消されてしまったのが面白くないらしく、机に突っ伏して「ないわー」と呟いていた。
 明らかに人に聞いてほしい口ぶりで、周囲の3、4人は一度彼女の方を見やったが、その後すぐに国木田のほうに向き直っている。

国木田「キョン、止めても無駄だ。僕が死ぬのは規定事項だ」
キョン「落ち着け! 一体なんだって――」

 そのとき谷口がくしゃみをして、少しばつの悪そうな顔をし、ちっちゃい声で「違う」と呟いた。
 舌打ちがクラスの各所より聞こえたが、その一つがキョンのものであった事は、最早疑いの余地が無い。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/25(水) 23:47:14.08 ID:6hCaPwOGP

キョン「と、とりあえず落ち着け! 拳銃も床に……何故拳銃なんか持ってるんだ!」
国木田「君たちの前で死ぬために用意したのさ。人間はいつか死ぬ。
     それなのに君たちときたら日々を浪費して、リアルってものがありゃしない。
     薄っぺらな表層で生きる君たちの目を覚ますために僕は引き金を引く。
     ちっぽけな金属片が僕の頭蓋を砕き、脳漿を床にぶちまける。赤の世界、血の惨劇だ」

 長いな、とキョンは思ったし、聞き取れない部分もあった。いつ口を挟もうか迷った。
 ハルヒは机に突っ伏すのも忘れて国木田を見ている。全員の視線が国木田に注がれており、彼自身もそれを受けて少し顔をほころばせている。
 教員は教室から消えていた。彼は大人だ。そして国木田を見るすべての眼球は子供の眼球。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/25(水) 23:53:25.32 ID:6hCaPwOGP

 不意に立ち上がって叫ぶものがいた。そう、彼女である。

ハルヒ「卑怯だわ!」
国木田「……解せない。何がだい」
ハルヒ「あなたが死んだって変わるかどうかはわからない。あなただけがリアルにいるような口ぶりだけど」
国木田「変わるさ。そういう風にできてる」
ハルヒ「どうかしらね。往々にして世界は無関心よ」
国木田「ならこうして僕は見つめられちゃいないだろう。
     そして涼宮ハルヒ、あなたの演説が他者を惹きつける事も無い」
ハルヒ「教えてあげるわ。あなたはリアルから逃げようとしている」
国木田「死が逃げだと? 死は絶対的な回答だ」
ハルヒ「違うわ、死は嘘。強烈なパフォーマンスで人の心を麻痺させる」

 谷口がさっきからしきりに首を傾げていた。国木田は即座に彼を射殺し、続けた。

国木田「嘘か、そうだとしたら僕の自殺は一時的な幻を君たちに見せることになるね」
ハルヒ「そうよ」
国木田「ではこういうのはどうかな? 君たちが僕を殺す」

 クラス全員が息を呑んだ。谷口だった肉塊以外は。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/25(水) 23:57:35.61 ID:6hCaPwOGP

 キョンは恐れていた。涼宮ハルヒの前情報として、とにかく奇抜な事をしたがる人間だということ。
 その絶好の機会が今まさに訪れており、ハルヒは国木田から拳銃を手渡されたこと。
 そして、ハルヒの目は輝きに満ちていたこと。

ハルヒ「あたしの言ったことを覚えているかしら」
国木田「宇宙ヒューマンがどうの」
ハルヒ「ええ」
国木田「あなたも可愛いところがある」
ハルヒ「でもね、」

 知ってる。そんなのどこにもいやしない。私の頭の中以外のどこだって。
 このリアルはただのヒューマンしかいないの。
 国木田の笑みが狂気を帯びる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:02:02.97 ID:BzUr7gACP

国木田「僕らは同じ人間だったね」
ハルヒ「そのようだわ」
国木田「世界が嫌い」
ハルヒ「でも嘘もつきたくない」
国木田「だったら」
ハルヒ「変えなきゃ」
朝倉「ぼくたちわたしが――って? お笑いだわね」

 クラス委員の朝倉は重力を無視したかのような動きで、ハルヒの胸部に体重のかかった足裏蹴りを食らわせる。
 ハルヒはよろけ、机をなぎ倒し倒れた。すぐさま朝倉はその手に握られていた拳銃をとりあげ、天井に向かって発砲する。

朝倉「面白かったわよ」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:08:49.89 ID:BzUr7gACP

ハルヒ「げほごほっ……」
国木田「朝倉さん?」
朝倉「朝倉さんよ」
国木田「ええっと……そうだなぁ……『何してるの?』」
朝倉「風紀が乱れていたから是正をしたわ。馬鹿な思想は自分ひとりに閉じ込めておくべきね。
    ちょうどお仲間もいるようだし、よろしくやったらどうかしら」
国木田「……」
朝倉「それから――そこの汚い塊を捨ててきて頂戴」

 数名の男子が谷口を構成していた脳細胞の容器を蹴り飛ばす。
 朝倉はクラスを見渡し、続けた。

朝倉「ホームルームの続きをしましょう」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:26:10.34 ID:BzUr7gACP

 彼女は言った。SOS団、と満面の笑みで。
 何の略かたずねると、少しずつお前を殺害する団、だと言う。物騒だな、とキョンは呟いた。

長門「私は宇宙人」
キョン「はい」
朝比奈「私は未来人」
キョン「はい」
古泉「僕は」
キョン「はい」

 キョンの世界は変化する。彼女の知らない彼女の力で。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:34:48.94 ID:BzUr7gACP

 キョンは毎週水曜日午後8時28分から同日午後10時前後にかけて、朝比奈みくると性交に耽っている。
 淡いピンクの唇がかみ締めた甘い吐息、また磨き上げられたオブジェの如き滑らかな曲線美と匂いたつような彼女自身の香がキョンの理性を麻痺させる。
 それは国木田が行おうとしていた「死」に良く似ていた。

 古泉は長門の肩を揉む。ほぐれているのかどうか、というのは彼の感覚の知るところではないが、それはコミュニケーションだった。
 とはいえ、双方が口を開くことは無い。ただ、空間に鎮座する静謐こそが、共有されている。

 ハルヒは国木田と遊園地にデートに出かける。
 園内における観覧車の配置、夕日の沈む位置、アトラクションを回る順序から、彼と彼女はその日のデートにおけるピークポイントを議論した。
 ハルヒは不安だった。国木田が死を恐れてしまうことが。
 国木田は不安だった。ハルヒが夢を亡くしてしまう事が。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:48:20.78 ID:BzUr7gACP

 当然の話だが――日常は終焉する。キョンは知っていた。
 SOS団は解散した。キョンは少しずつ殺されて、ついには全部殺されたという。
 被害者に自覚は無い。向こう50年は生きる予定だ。しかし、キョンは確実に死んだ。
 キョンの感傷は死んだ。

ハルヒ「意味無いわ」
国木田「そうかい?」
ハルヒ「そうよ」
国木田「宇宙マンや未来マンや異世界マンや超能力マンがいる」
ハルヒ「でもそれを認知できないの。それならば、いないのと同じ」
国木田「君は――」
ハルヒ「私は、もうやめる」
国木田「……そうか。じゃあ、終わりだね」
ハルヒ「……まだ終わらないわ。あなたの最後の言葉を聞くまで」
国木田「ああ」
ハルヒ「……」
国木田「僕は、死にたくない」
ハルヒ「さようなら」

 ハルヒが望んだ、全てを受容する人間――国木田は死んだ。
 それはハルヒが夢を捨て、夢想することを停止した結果だった。
 この世界にただのヒューマン、以外はいない。文芸部室に風が吹いて、銀髪が揺れる。
 ――長門有希はこれより記録を終え、インターフェイスの破壊を以ってデータ改竄を防ぐ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/26(木) 00:57:33.21 ID:BzUr7gACP

長門「緩やかな死亡」
長門「SOS団、"少しずつお前を殺害する"団」
長門「私は死亡した」
長門「無機質を失った」

 古泉は記憶を失っている。超能力も無い。覚えているのは指先に残るかすかな感触のみで、それを感覚するとふと彼は笑ってしまう。
 看護師は「あなたは3年間植物状態だったの」と言った。そうですか、と彼は答えた。覚えたはずの無い作り笑いを浮かべて、好青年のように。

朝比奈「キョン……くん……っ」
キョン「朝比奈さんっ……」
朝比奈「ぁ……んっ」
キョン「っ……!」

 二人で息をつく。時計は夜の10時を少し回ったところだった。キョンと朝比奈みくるは3年前、中学の先輩後輩として出会った。
 委員会活動を通し二人は惹かれあい、やがて恋に落ちた。朝比奈みくるを追ってキョンは同じ高校に入学し、二人は生徒会役員としてその勤めを果たしている。

 この世界に涼宮という苗字の人間は存在しない。

27 名前:かがみくす ◆kaGAMix/fk [] 投稿日:2009/03/26(木) 01:04:56.59 ID:BzUr7gACP

2009年3月26日13時51分、長門有希、古泉一樹、またキョンと朝比奈みくるのカップル計4名は、町の一角で接触しているが、何も起こらなかった。

この世界にはただのヒューマンしかいないためである。



                                            糸冬
                                       ---------------
                                        制作・著作 NHK

29 名前:かがみくす ◆kaGAMix/fk [] 投稿日:2009/03/26(木) 01:10:23.81 ID:BzUr7gACP

わけわかんねーし超つまんねえかがみくす先生の次回作にご期待下さい!



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