長門有希の消滅


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:39:52.51 ID:Teqhur+a0

退屈な授業が終わる。
部室についた俺は、古泉との三戦目を断り、朝比奈さんのお茶を飲み、息をつく。
平和な時間だな。

不意に、扉がノックされた。
「はーい、今開ける」
扉に駆け寄って、来客なんて珍しいなと考えつつドアノブに手をかける。
そして、薄く扉を開いた。
…朝比奈さんが居る。
しかし、既に朝比奈さんは部室に居るし、いつもより幾分か体がすばらしいことになっている。
なるほど、朝比奈(大)さんか。
口を開こうとした瞬間に、しぃと人差し指を唇に当てる朝比奈(大)さん。
そりゃそうか、ここで見られちゃおしまいだもんな。
ちょいちょい手で招かれて部室を出る。
幸いハルヒはコンピュータに釘付けで、俺のことには気付いていない…というより、気にしていないようだった。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:41:14.30 ID:Teqhur+a0

「どうしたんです、もしかしてまたなにかもしかしてまた何か…?」
こっくりと頷く朝比奈(大)さん。
「よく聞いてね。これから、あなたたちは大変なことに巻き込まれます。でもどうか、決して諦めないで…」
曖昧な言葉は不安を煽る。
「ハルヒ関連ですか?」
あの神様はいつもどこでもなんでも、とんでもないことを起こしてくれる。
また、なにか思いつきがあったのだろう。
そんな俺の予想は大きく的を外したようだった。
「いいえ、今回は―…きゃあ!」
突然、朝比奈(大)さんの姿が消える。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:42:56.99 ID:Teqhur+a0

驚いて周囲を見回してみると、閉められたはずの扉のところには長門が居た。
「彼女は強制的にもとの時間軸に送還した」
冷たい声が響く。一体何故と理由を聞く暇も無く長門は自らの指定席に戻る。
仕方なく俺も部室内に戻ったが、この場所で聞くわけにも行かず、解散を待つことにした。
「キョン、さっきの誰だったの? まさかなんかネタを持ってきたんじゃないでしょうね」
ハルヒが、ようやくコンピュータから目を離す。
「いや、国木田だった。谷口がここに来てないかだってさ」
我ながら苦しい嘘である。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:44:35.11 ID:Teqhur+a0


「ふうん…国木田も馬鹿ね、谷口がここに来るわけ無いじゃない」
ありがたいことに、ハルヒは対して疑うことは無かった。
内心息をつく。
俺は、油断していた。
いや、平和ボケしていたのかもしれない。


「……エラーが発生した、このままでは危険」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:45:50.28 ID:Teqhur+a0

窓からは朱色のまざった陽の光が差し込んでいる。
先程の様子など微塵も見せず、パイプ椅子に腰掛けて、手には厚い書物を乗せた長門が呟いた。
「此処から逃げて。早く」
「残り時間5分37秒でこの場所は取り込まれる」
冷たい音声。
長門がこういった冗談を言うわけもなく、それは本当に不味いと知っている。
加えて、先程の長門の行為。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:47:43.66 ID:Teqhur+a0

咄嗟に、俺は古泉に叫んだ。
「朝比奈さんを連れて逃げろ!ハルヒ、お前も早くこっちへ来い!」
承知しました、と頷いて古泉は朝比奈さんの手を取り、部室を飛び出す。
事態を飲み込むことなど出来るはずの無いハルヒは、俺が命令したことに気分を害したらしい。
「なによキョンの癖に、生意気だわ!…ってちょっと、なにすんのよ!」
駆け足で、ハルヒを立たせて無理矢理走らせる。
とにかくこの場を離れなければいけないようだ。
廊下に飛び出ると、部室の扉は音を立てて閉まる。
ぎゃあぎゃあと喚くハルヒを引き摺ってなんとか校庭に出た俺は、古泉たちと合流した。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:51:04.50 ID:Teqhur+a0


「なんなのよ一体!」
状況も分からずに無理矢理連れてこられたハルヒは当然のことながら怒っていて、しかし今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「仕方ないんだ、あとで説明するから!」
俺が真剣なのが伝わったのか、渋々ハルヒは大人しくなる。
その俺よりも小さな体を隠すように前に立ち、部室の窓を眺める。
その時だった。
ひどく大きな破裂音がして、部室の窓が砕ける。
ばらばらと音を立てて地面に落ちていくそれを見た後、もう一度部室を見る。
破裂音と、窓以外にここからは異変が確認できなかった。
こういった事態に多少の慣れがある古泉と俺はともかく、朝比奈さんとハルヒは呆然としている。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:53:44.92 ID:Teqhur+a0

「ひええええええ…なな、なんだったんですかあ…」
ぶるぶると体を震えさせている朝比奈さん。
ハルヒはといえば、俺の背後で固まっていた。
「っな…一体どういうこと!?あそこにはまだ有希が…、そうよ、有希、ねえキョン、有希が!」
一瞬の間を置いて、早口に俺を揺する。
「落ち着けハルヒ、今から俺が見に行ってくるから。きっと大丈夫だから」
振り向いて、肩を掴む。
「でも…それじゃあキョンも危ないじゃない!」
恐怖が見え隠れする瞳を見つめて、首をふる。
「俺は大丈夫だ。だから、お前はここで俺と長門の無事を祈っててくれないか?」
そうすれば、大丈夫だ。
少なくとも死ぬことはないだろう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 19:57:31.23 ID:Teqhur+a0

古泉にアイコンタクトを送ると、なんとか古泉がハルヒを説得してくれる。
ようやく了承を得た俺は、古泉から無事で居てくださいという言葉を貰い駆け出した。
部室までの慣れた廊下が、ひどく不気味だ。
全力疾走とまではいかずとも、後に体力を残せる程度に走る。
なにも考える暇なんてない。
辿り着いた部室の前は、出てきたときと同様に扉が閉まっていた。
勢い良く扉を開ける。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:01:39.74 ID:Teqhur+a0

「どういうことだよこれ…」

飛び込んだ部室の中は、窓が割れているのはもちろんのこと、酷い有様だった。
すべてがなにかを中心にして吹き飛び、壁際に重なっている。
そこら中が黒くこげていた。
そして、中心部には、長門が居た。
「長門…?」
ゆっくりと、距離を縮めていく。
床に座り込んでいる長門の体を抱きかかえると、とても軽かった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:05:39.55 ID:Teqhur+a0


体は少し揺らすと、力なく閉じられた瞳が開く。
そして、唇が弱弱しく動いた。
「…済まない、私の責任。早く、私の家に…」
こんなときでもいつもと変わらない表情で長門は言った。
長門の体を抱き上げて、出来るだけダメージを与えないよう慎重に校庭に運ぶ。
俺の姿が見えた途端に、待っていた三人は走ってきた。
「ご無事で…良かったです」
古泉の本当に安堵したような表情に、少し嬉しくなる。
「ねえキョン、有希は大丈夫なの!?病院に連れて行かないと!」
焦るハルヒと朝比奈さんを宥めて、長門の告げた言葉を伝える。
「長門の家に行かなきゃならんらしい」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:12:18.11 ID:Teqhur+a0

下手をすればハルヒにすべてが露見してしまう可能性もあるのだが、この状況下では仕方あるまい。
病院に連れて行けと聞かないハルヒを強引に連れて、古泉が呼んだらしい機関の車に乗り込む。
車の中では、ハルヒが居ることを気にかけてかハルヒ以外口を開かなかった。
比較的学校から近いところにある長門のマンションにつくと、マンションの玄関口にあるインターホンで、長門の部屋番号を押す。
押してから気付いたのだが、部屋の主である長門が此処に居るのに誰が鍵をあけてくれるのだろう。
しかし、そんな懸念は無駄になる。
がちゃんと鍵の開く音がした。
一体誰が、なんて疑問を抱いたものの、俺たちは長門の部屋まで急いだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:18:42.02 ID:Teqhur+a0

本来鍵のかかっている筈の部屋の扉はいとも容易く開き、中に足を踏み入れる。
全員が中に入ったのを確認したかのように扉は勝手に閉じた。
そして、廊下に人が現れる。

「そろそろ来る頃だと思ってたの」

その声は、紛れも無く消滅した筈の朝倉のものであった。

「朝…く、ら? どうしておまえが! おまえは長門に…」

消されただろうと続く筈だった俺の口には、いつの間にやら目の前にまで迫っていた朝倉の人差し指が当てられる。

「しぃー、今はダメ」

ちょんと唇に触れる朝倉の指は酷く冷たく、体温を持っていないかのようだった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/19(木) 20:24:10.08 ID:Teqhur+a0

背後で、古泉の声がする。

「涼宮さん!」

振り向いてみると、古泉の腕の中には倒れたらしいハルヒの姿。
まさか、朝倉がなにかしたというのか。

「大丈夫、ちょっと眠ってるだけよ。…だって、ばれちゃまずいもの」

ようやく俺の唇から指を離して柔らかく笑みを浮かべる。
相手に殺されかけたことを理解していてもそれは魅力的な笑みだ。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
長門の危機に、朝倉の再来。
俺達は、もしかして今非常にやばいんじゃ…
朝倉を直接知らないとはいえ、俺と長門が説明していた古泉と朝比奈さんは黙って会話を聞いている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/19(木) 20:30:13.77 ID:Teqhur+a0

「あのね、安心して。もう殺そうなんてしないから。今の私は、本当にただの長門さんのバックアップだから」

「だけどな、そんなこと…」

ちらりと目を閉じた長門の顔に視線を落す。

「うん、仕方ないよね。でも信じて? 長門さんも言ってたでしょ、バックアップが居るって」

それはこいつのことだったのか?
なんにせよ、今の朝倉からは確かに以前のような殺気は見えないし、長門の言葉もある。
敵というわけではないのだろう。
しかし、何故一度消滅したはずの朝倉が?
その疑問を、俺の心を覗いたかのように朝倉が潰した。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/19(木) 20:37:31.23 ID:Teqhur+a0

「長門さんはね、このことを予測してたの。でも、それは避けられないことだった。だから、長門さんに抵抗出来ないようにプロテクトをかけられた上でバックアップとしてまた作り出されたってわけ」

宇宙を統括するなんとやらでも変えられないなんて、とんだ事件だ。
それほどまでに大変なものなのか?

「…大丈夫。三日もあれば長門さんはちゃんと元に戻るわ。それまでに、あなたたちには、こうなった原因を探してほしいの」

そうか、元に戻るのか…。
良かった。
安心すると同時に、疑問も浮き上がる。

「原因を?」
「そう、三日間の間に」

三日というリミットつきで、一体何故原因が必要なのか。
長門本人に問うことや、なんたら思念体に聞くことはできないのか。

「…長門さん自身がそれを拒んでいるの。情報統合思念体は、基本的にこちらのことには干渉してこないわ」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:44:53.06 ID:Teqhur+a0

僅かに眉尻を下げる朝倉。
申し訳なさそうなその声色に、それが事実であることを確認する。
そして、いつもの笑みを浮かべ、「いつまでもここに居たって」と室内に案内する朝倉の後ろを歩き出す。
敷かれた二組の布団の上に長門とハルヒを横たえて、俺たちは小さなテーブルを囲む。

「それで、具体的にどうすればいいんだ?」

まだ警戒しているのだろうか、珍しく一言も言葉を発しない古泉と朝比奈さんに代わり、問う。

「うん、それなんだけど…私にもよく分からないの。長門さん、かなり強力に情報を閉じ込めてるみたいで…」
「じゃあどうしたらいいんだ?」

宇宙人に出来ないことが俺達に出来るのだろうか。
視線をテーブルに落とし、朝倉は言う。

「今の私には、いえないの。彼女の言葉を借りると、禁則事項…ってことね」

自嘲気味に笑んで呟く朝倉は、ごめんなさいと付け足した。

「そうか…俺達も頑張ってみるよ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:48:00.21 ID:Teqhur+a0


手掛かりを手に入れられないのはきついが、無理を言える立場ではないことを知っている。
朝倉から、ハルヒは一時間もすれば目覚めると聞き、俺達四人は長門のことを朝倉に任せてマンションを出た。

「…これからどうする」

春が近いとはいえ、日が暮れるのは早い。
学校を出てきてから二時間ほどしか経っていないのに、もう辺りは薄暗く、そして肌寒い。
眠ったままのハルヒを背負う古泉が言う。

「そうですね…正直、僕では何も。機関からの連絡もありません」

朝比奈さんも、すまなさそうに項垂れる。

「あたしもですぅ…未来に情報を求めても、応答がもらえなくって…」

つまり、打つ手無し、と。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:50:17.72 ID:Teqhur+a0

「あ」

ふと言い忘れていたことを思い出す。
恐らく、古泉たちは、朝倉との会話内容は全て長門の部室での件だと理解していることだろう。
しかし、それだけではないのだ。
俺はそれも伝えないといけない。

「すまん、言い忘れてたんだ。…俺達はなんか大変なことに巻き込まれるそうだ。いや、もう巻き込まれてるか…」

何処から聞いたのかは聞かないでくれ。
二人は、驚いたように目を見引く。

「それは一体…」
「詳しくは俺にも分からないんだ」

色々と質問をしてくる古泉には申し訳なかったが、俺はそれ以外に一切の情報を与えられなかった。
よって、その場は解散と決定される。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:56:42.62 ID:Teqhur+a0

ハルヒを自宅に送り届けるために、朝比奈さんにも付き添ってもらう。
そうでなければ、下手をすれば俺達は変質者ととられてしまうかもしれないからな。
適当に誤魔化しハルヒを自宅まで連れて行った後に、朝比奈さんや古泉と別れる。
しかし、そのまま自宅に戻るのはなぜか億劫で、長門がいつか俺を呼び出した公園に足を運んで来ていた。

「長門よ…一体なにがあった?」

もちろん、返答など…

「制御不可能」

あった。
聞き慣れた長門の声。
思わず振り返ると、そこにはいつもの無表情とは少し異なる、無機質な瞳。
長門の姿だった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 20:58:24.96 ID:Teqhur+a0

「長門…!お前、もういいのか!?朝倉は三日かかるって…」

「制御不可能、済まない、もう私自身が止められない」

噛み合わない会話。
俺が理解する間も無く、長門は右手を振り上げた。
そして、辺りは灰色に包まれる。
一瞬眩暈を感じたものの、すぐに目が慣れる。
…閉鎖空間だ。
いや、少し違うかもしれない。
灰色でありながら、どこか物悲しい閉鎖空間と酷似した、ただ無機質なだけの別の空間。
遅く、長門が作り出したのだろう。
景色、灰色であるだけではなく、先程までいた公園ではなくなっていた。
それは見慣れた校舎内の、ある一角。
俺達の、部室だった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:03:08.88 ID:Teqhur+a0

長門もいない、この場所から早く逃れたいと感じるのは、異質な空間の所為だろうか。
扉を開くと、いつも通りの廊下が広がる。
いつだったか、屋上にハルヒが居たことを思い出した俺は、今度もまたハルヒが居るような気がして屋上に向かった。
閉鎖空間ではないのだから、居ないかもしれないというのに。
階段を上る音が妙に響いて、さび付いた重い扉を押し開ける。


その先には、ハルヒが居た。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:05:11.58 ID:Teqhur+a0

「…誰?……キョン、キョンなの?」

外を眺めるようにして立っていたハルヒが振り向く。
どうやら、朝倉が眠らせていたのが切れたらしい。
そうだと首肯し、近寄っていく。
ハルヒもまた、俺に駆け寄ってきた。

「ねえキョン、ここは学校よね?でも、なんだかおかしいの。…まるで、前に見た夢の中みたいで…もしかして、これも夢なの?」

夢という言葉を否定してしまえば、きっとハルヒはすべてを知ることになる。
不思議とそう感じた俺は、「ああ、これはおまえの夢だ」と答えた。

「そう…」

心なしか少し残念そうに見える。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:07:50.47 ID:Teqhur+a0

「ハルヒ俺は今から部室に行くがお前はどうする?」

部室にはきっとなにかヒントがあるはずだからな。

「あたしも行くわ」

二人で並んで階段を降りる。
不気味なほどに静まり返った廊下をただ、黙って歩いていた。
辿り着いた部室の扉を開くべく、ドアノブを握ると、酷く重たく感じる。
開けた扉の先には、なんとまあ、古泉と朝比奈さんが居た。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:10:53.83 ID:Teqhur+a0

ご丁寧に、室内はきれいさっぱり元通りだ。
まさかここに居るとは思っても居なかった俺は、中に駆け込む。
ハルヒも驚いていたようで、声を上げていた。

「ああ、お二人とも…やはり来ておられましたか。一体此処はどうなっているんでしょうね?」

朝比奈さんとハルヒが不思議そうに話をしているのを見遣り、古泉がひっそりと耳打ちする。

「どうも長門が作り出したらしい」
「そんなまさか…。どうりで僕の能力も使えないわけですね…ふむ、どうしましょう」

わざとらしく顎に手を当ててみせる古泉。
各々いつもの席に着いて、これからどうするかを話し合った。
といっても、ハルヒに分からない程度に、「これからどうするか」とかだがな。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:13:47.08 ID:Teqhur+a0

いくら夢だと言っていたとしても、全てが終わった後に、あいつがどうするかなんて分からん。
しかし、いくら話し合いを重ねても、なんら解決策を見つけることが出来ない俺達。
三十分もすると飽きてしまい、溜息をついた。
もし、ここから出られないとなると、一体どうなってしまうのだろうか。
ふと、ハルヒの力は使えないのかと思って呟いた。

「なあ、ハルヒ。お前は此処から帰りたいか?」

ハルヒがそう望んだのならば、俺たちは帰れるかもしれない。

「うーん…夢なんでしょ、なら目が覚めるまで居たいわね。夢の中まで皆と一緒だなんて素敵じゃない。…有希が、居ないけど」
「そうだな…。そういえば、長門はどこに居るんだろうな」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:16:58.79 ID:Teqhur+a0

ハルヒにとってはただの疑問、事情を理解することの出来る俺と、古泉にとっては命に関わるであろう疑問。
朝比奈さんはどうだろう。

「ふええ…あたしたちこれからどうなっちゃうんでしょう…」

なんて言いながらも、いつの間にかしっかりと湯を沸かしている。
わざわざガスなんかを使えるようにしてくれたのか、長門。
こればっかりは感謝するぜ。
なんたってこんな状況でありながら朝比奈さんのお茶を飲めるんだ。
それはつまり、落ち着くことができるという意味でもある。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:21:33.39 ID:Teqhur+a0

「そうよねえ、有希はここに来てないのかしら。…そうだわ、あたしの夢なんだからあたしが望めば来るかもしれないわね」

やめろハルヒ、その発想はリアルで、真実に近付いてしまう。
実際に長門が来てしまって、ハルヒが何かの拍子に現実だと気付いてしまって、そしたら全てが終わるかもしれない。
止める間も無く、ハルヒは魔法使いのように人差し指を立てて一振りしながら唱えた。

「有希よ、こーい!」

なんとも呑気な奴だ。
しかし、それに応えるようにふっと部室内に現れる長門も長門では無いか。
いつもの席に、長門は居た。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:24:28.94 ID:Teqhur+a0

「うわっ」
「ひぇぇええ!」
「おやおや、これは…」
「成功ね!」

変わり無さそうな古泉の声。
だがその表情には確かな焦りが見えている。

「…長門、なんでこんなところに連れてきたんだ?」

内心どころか、驚きを隠せないままに問い掛ける。

「……答える必要性はある?」

珍しい返答。
無情な程に冷えた言葉は一瞬にしてその場の空気を凍らせる。
ハルヒも、呆然と長門を見つめていた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:27:59.81 ID:Teqhur+a0


「少なくとも、無理矢理連れてこられた俺達は知る権利があるはずだ」

恐らく、長門を除くこのメンバーの中で一番状況を理解しているはずの俺がしっかりしなければいけない。
努めて冷静に、なにがあっても慌てないようにと気をつける。

「そう。…あなたの存在を抹消するため」

唇以外は凍ってしまったかのように、微動だにしない長門。
その口が紡いだ言葉は確かに、殺意を含んでいる。
そして、それは俺に向いていた。
なにも感情を移さない瞳は俺を捉えて離さない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:30:33.29 ID:Teqhur+a0

視線を外すことが許されず、そして信頼していた長門からの殺人予告に俺は一瞬脳内が真っ白になった。

「ちょっと有希、それどういうこと!? 冗談にしては度が過ぎるわ!」

夢だと思っていても、長門の意外で、質の悪い言葉に黙っていられなかったらしい。

「また、あなたはそう。だから私はあなたを殺す」

一度目のあなたは、ハルヒに。
二度目は俺に向けられた。
また、あなたはってことは…長門はハルヒに対して怒ってるのか?
ならどうして俺を殺すなんていうのか。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:33:52.29 ID:Teqhur+a0

そもそもこいつはハルヒの観察のために来たわけであって、ハルヒのこんな言動なんかじゃ怒らないと思うんだが…。
最近芽生え始めたと思っていた感情は、怒りばかりを育てていたのか?

「なんでだよ!俺がなにかしたか?」

理不尽じゃないか。
勢い余って立ち上がる。
無力な俺は、力を持つ長門の手に掛かれば一瞬で消え去ってしまう。
まだ死にたくなんて無い。
けれど、冗談だなんて思わせない言動が、長門がいかに本気であるかを物語る。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:37:08.91 ID:Teqhur+a0


「全て。私は、あなたを殺して、あなたになる」
全てというのは、もしやあれか、イジメによくある「存在が憎い」とか言うあれか。
なにも言い返せずに言葉に詰まる俺。
だってそうだろう。
俺は長門を信頼していて、長門だってそうだと思っていた。
少なくとも、一年は一緒に居るんだしな。
何度も助けられて、たくさんの危機を乗り越えてきた、仲間じゃなかったのか。
そう思っていたのは俺だけだったのか。
助け舟を出すように、古泉が口を開く。

「失礼ですが、長門さん、今の…彼になるという言葉はどういった理由がおありで?」

そうだ、ショックでつい流しちまったがどういう意味だよ。
悩む様子も無く、淡々と長門は言う。

「言葉の通り。私があなたとして生きる。ただそれだけ」

つまり、俺に成り代わるということだろうか。
一体なぜだ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:39:53.36 ID:Teqhur+a0

「どうしてだよ、長門のままじゃダメなのか?」

どうしてこうも俺は冷静なんだろうな。
いや、実際は冷静ってわけじゃないんだが、もう何度も殺されかけているからだろうか、何故かいつもと変わらぬ口調になってしまう。

「不可能。あなたでなければいけない」
「それが情報統合思念体とやらの方針になっちまったってことか?」

だとすれば、俺は完全におしまいだな。

「違う。情報統合思念体は無関係、これは私の独断」
「なっ…じゃあ俺が死ぬ必要なんてどこにもないだろ!?」

思わず声を荒げてしまう。
しかし、目の前のインターフェースは臆することも無く続ける。

「あなたが死ななければ、私はそこに居られない」

そこというのが何処なのか俺は知らないぞ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:45:53.12 ID:Teqhur+a0

ハルヒも、朝比奈さんも、古泉も口を開かない。
俺と長門の会話をじっと聞いていた。

「あなたは私に感情を与えた」

確かに、俺はSOS団の中で一番長門と接する機会が多かった。
だから長門が感情を覚える手伝いをしていたとしてもおかしくはないだろうし、それはむしろうれしいことだ。
それがどうして殺されなければいけないんだ?

「あなたの所為で、私は、私が持ってはいけない感情を持ってしまった」

意味が分からない。
持ってはいけない感情?

「そんなもんあるわけないだろ、感情は、どんなものであれ持っていて悪いことなんかない」
「あなたは!」

責めるような瞳。
初めて聞いた、長門の怒声。
拳を握り、微かに震えている

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:50:19.94 ID:Teqhur+a0

「…あなたは、なにも知らないからそんなことが言える。何も知らないのにのにどうしてそこに居るの」
「さっきから、なにを言ってるか分からない。そこってどこだよ、もっとわかるように教えてくれよ」

そこ、そこといわれても、今の俺じゃあ部室ぐらいしか思いつかない。
助けを求めるように視線をハルヒ達に向ける。
皆が皆、真剣で、焦りや恐怖を感じているらしかった。
俺だって同じさ、さっきから嫌な汗が止まらない。

「私は、あなたたちによって少しずつ感情というものを生み出されつつあった」

俺の質問とは違う返答が帰ってくる。
それはまだ続くようで、素直に聞くことにする。

「最初、私は戸惑った。感情というプログラムを消去することも考えた。しかし、これは、監察するに当たって便利だと考えた。だから私はなにもしなかった」
「けれど、ある人物の介入によって、私の感情のプログラムは大幅に改変された」
「それが、涼宮ハルヒ、あなた」

今まで俺に向けていた視線を、ハルヒに向ける。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:54:17.43 ID:Teqhur+a0

突然名前を出されたハルヒは驚くと同時に、今まで溜めていたらしい疑問をぶつける。

「え…ていうか、さっきからなんなのよ。感情とかどうとか…人間なんだから当たり前じゃない」

もっともだ。
だがハルヒよ、お前がいってることはすまんがハズレだ。

「私は人間ではない。この際だから言う、私は銀河を統括する情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス」
「そしてあなたは、自律進化の可能性を秘めている。つまり、願望を実現する能力がある」
「その監視のために私は送り込まれた」

随分前、出会った当初俺が言われたことと同じような内容。
長い文章を早口に告げる長門に対し、ハルヒはぽかんと口を開いていた。
古泉や朝比奈さんはしまったというように目を見開く。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 21:57:22.59 ID:Teqhur+a0

「はぁ…?意味わかんないわよ。そりゃ、そんな力があればうれしいけど…」
「悪いがハルヒ、その話しは今度にしてくれ。今は長門の話が聞きたい」
無理矢理会話を切らせて、続きを促す。
もしかしたら話し終えた後、解決策が見つかるかもしれないのだ。
少しむっとした様子だったが、俺の言うことにも一理あると思ったのか、ハルヒも口を閉じる。

「それで、長門よ。その…改変された感情とやらはどうなったんだ?」

うまく理解出来ていないまま問う。

「私は、知らず知らずのうちに涼宮ハルヒに対してある感情を抱くことになった」

もったいぶった言い回しだ。
長門らしくないな。
といっても、殺すなんて発言を向けられている時点でいつもの長門ではないようだ。

「その上で、あなたは邪魔だと認識した」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:00:11.48 ID:Teqhur+a0

ははっ、聞いたか皆。
俺は邪魔なんだそうだ。

「…はは、嫌われちまったな」

うまく笑えない。
喉が乾く。

「あなたは、涼宮ハルヒに対しての対応が酷すぎた。情報を爆発させるわけにはいかない。あなたもそう思うはず」

いきなり古泉のほうに顔を向けたかと思うと、僅かに首を傾ける。

「…確かに彼は、涼宮さんに対してあなたや朝比奈さんと同じような言動を向けられていません。ですが、それは彼なりに涼宮さんに心を許している証拠なのではないですか?」

どうも俺の、ハルヒに対する態度の話らしいが何故それを古泉に問う。

「あなたは自覚すべき。あなた次第で、本当にこの世界は消え去る」

いやに真剣な声。
前に古泉にも言われたな、そういえば。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:02:41.86 ID:Teqhur+a0

ハルヒは、自分のことでもありながら口を挟まない。
なにか思うところがあるのだろうか。

「だから、これからは、私があなたとなって涼宮ハルヒを安定させる。安心して、あなたを消した後、涼宮ハルヒの記憶も改変する」

安心なんか出来るかよ、俺が殺されるっていうんだぜ。
死ぬって時に安心してるやつなんざほとんど居ないだろうよ。

「大体、お前は俺になれるわけなんてないだろ。お前はお前で、俺は俺なんだからな。一人しか存在しない。それに、たとえお前が俺になったとしても、居なくなったことになるお前はどうなるんだよ」
「…私という個体は、幾らでも変わりが居る。まったく同じ個体を作り出すことなど容易」

そうか、お前はそういう存在なんだっけか。

「でもな、違うんだよ。同じ長門だったとしても、それは、ここに居るお前じゃない限り全部偽者だ」
「違う。記憶もなにもかも、すべてコピーできる」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:04:25.61 ID:Teqhur+a0

どうして俺はこんなにも悲しくなるのだろう。
「お前は、俺たちと過ごしてきた日々を簡単に他のやつに渡すのかよ。それで、俺に成りすまして…それでいいのかよ」
そんなにどうでもいい存在だったのか。
そんなに簡単に捨てられるような記憶たちだったのか。
俺は、ここにいるメンバーだからSOS団に居たのに。
「違う!」
「違わないだろ!お前が言ってるのはそういうことだよ」

感情が昂ぶる。
体が勝手に動く。
掌は、音を立てて机を叩いた。
視界の隅に、朝比奈さんとハルヒが肩を震わせたのが見える。

「あなたには分からない。あなたは、涼宮ハルヒから想われているから」

ぱっとハルヒの頬が赤く染まり、何言ってんのよと叫ぶ。
想われてる?…それはつまり、

「好かれてるって事か?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:07:42.49 ID:Teqhur+a0

無意識のうちに口に出していたらしい。
ハルヒは口をぱくぱくさせていた。
古泉も朝比奈さんも目を見開いている。

「本当に気付いてなかったんですかぁ?」

恐る恐るといった様子で朝比奈さんに問われる。

「はあ。…え、これって本当なのかハルヒ?」

ハルヒは、真っ赤な顔のままである。

「ばっ!なな、……これ、夢なのよね。ならいっそ…」

独り言とは思えないほどの声量。
深呼吸を一つして、一度俯いた顔を上げると、ハルヒはいった。

「そうよ、あたしはあんたが好き」

初めての告白に、どう答えて良いか分からないな。
ましてや、相手はずっと我が儘な団長だと思ってたやつだぜ?
…ていうか、今俺殺されそうなんだぜ?

「あー…え、え…おう…ありがとな?」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:09:51.36 ID:Teqhur+a0

なんとか礼を述べたところで、がしゃんと激しい音がする。
驚いて音の方向を見ると、長門が椅子を、片手で投げ飛ばしたらしい。

「パーソナルネーム、___…あなたを敵性と判断。情報連結の解除を申請する」

いよいよ危なくなってきたな。
朝倉の件の時にも聞いた台詞だぜ、それ。
それが俺に向けられる日が来るなんて思っても見なかったよ。

「待ってくれ長門、なにが気に入らない?俺が、ハルヒにその…告白されたことか?」

静かに頷く長門。

「それ、有希もキョンが好きって事?キョンの事好きすぎて殺すって事なの?」

ハルヒの言葉に、長門以外、俺を含めて驚きの声をあげる。
何処の世界にそんなやつが居るんだよ。
いや、いつだったかネットで見かけたヤンデレとかがそうだったっけか。
なんにしても、この状況じゃ自惚れたり喜ぶこともできねーよ。
ハルヒに告白されたときはちょっとしたけど。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:11:45.25 ID:Teqhur+a0

「私が好意を抱いているのは涼宮ハルヒ、あなた」

おおう、衝撃の告白。

「え、ちょ…有希、それ本当?だってあたしたち、女同士よ?」

明らかに動揺したハルヒ。
それは俺も、ていうか古泉と朝比奈さんも一緒だぜ。
冗談だろ?
別に、俺じゃなかったからとかじゃないが、おかしいだろう。
世の中には同性愛っていうカテゴリーもあるが、こんな身近でそんな。

「そう。そしてあなたは彼が好き。だから、私は彼になる。そうすれば、私は彼としてあなたを愛することが出来る。あなたも、彼から愛されることが出来る」
「愛するという感情はとても複雑。私にはこのような方法しかとれない」
なんてこった。

「ちょっと待ってよ…そんなの嫌よ、あたしは許さないわ」

そうだハルヒ、その勢いだ言ってやれ。
なんて思っても、正直混乱しててどうすればいいか分からん。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:14:32.32 ID:Teqhur+a0

「大丈夫。先程言ったように改変後のあなたはなにも知らずに生きていける。彼に愛されて、生きることが出来る」
「長門、それはおかしいぞ」

その愛の形は、間違ってる。
ずっと立ったままで疲れた俺は、一度席についた。

「それじゃあ、長門がハルヒを愛してるんじゃなくなるんだぜ?」

ずっと、ずっと、気が済むまで偽り続けなければならなくなる。
お前はそれでいいのか?

「構わない。それで涼宮ハルヒと共にあれるのなら」

…どんな純愛小説だよ。

「有希…そんなあたしのこと…でも…」

おろおろと視線を泳がせるハルヒ。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:18:47.52 ID:Teqhur+a0

「今、あなたをそのように悩ませるのは私。今だけは、私という個体としてあなたの思考を埋めることが出来る」
「そして、もうすぐしたら、あなたの中から私という個体は消え去り、変わりに、彼の容姿、口調、内面を模った私があなたの思考を埋める」

命の危機に晒されながらも、俺は思う。
なんて切ない言葉だろうか。
感情を持たずして作り出された長門が、不器用ではありながら愛情を知った。
しかし、それはたくさんの壁で阻まれてしまった。
もしも俺が居なかったら、長門はこんなことをしなくて済んだのか?
長門が男だったならば。
考え出すときりがないほどにifの世界は広がっていく。

「なんで…有希…あたし、あたしはキョンが好きで、有希はあたしが好きで、…有希は女の子で、それにあたしも…」

ふらりと力が抜けて床に崩れるハルヒ。
慌てて朝比奈さんが屈み体を支える。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:23:37.02 ID:Teqhur+a0

「あなたを悲しませてしまう。…いつも考えていた。どうして私は女性に作られた。どうして私はこのような存在だった。どうしてあなたは私という個体を好きになってくれなかった」
「私も彼のように愛されたかった。私も古泉一樹のように、あなたに笑いかけたかった。私も、朝比奈みくるのように、あなたに触れられたかった」
「涼宮ハルヒ、あなたの所為で、エラーが蓄積していく。何故、解析することの出来ないデータばかりが増えていく」

僅かではあるが、悲しそうに歪められた長門の表情。
ごくりと唾を飲む。

「私が私という個体であるが為に、私はあなたと結ばれることができない。それならば、私にはもう、彼として、他の存在として生きるしか道はない」

ハルヒも、なきそうな顔で長門を見上げる。

「けれど、もう遅い。私は、あなたを殺すことが出来なかった」

悲しげな瞳が俺を見て、付け足す。

「本来であれば、私は三分四十二秒前にあなたの情報連結を解除しているはずだった」
「それは、ハルヒの力か?」

長門の言うとおりであれば、既に今頃死んでいたはずの俺が生きている。
それはハルヒがそう望んだからなのか、それとも―…

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:27:39.82 ID:Teqhur+a0

「私が、あなたを消すことが出来なかった。あなたは、私にとって涼宮ハルヒを奪う邪魔な存在であると同時に感情を与えてくれた大切な人」

長門の口から大切なんて言葉が聞けるとはな。
状況は変わらずだが、心の底から嬉しかった。
でも、今だってお前は俺を殺せるだろう。
俺の心を見透かしたように長門が告げる。

「…情報統合思念体は私を朝倉涼子同様不用意に涼宮ハルヒの精神を乱したとして処分を決定した。もう覆すことは出来ない」
「おい、嘘だろ?」

俺は助かるのかもしれない。
しかし、長門の口ぶりだと、長門自身は消えてしまうんじゃないか?

「私という個体の情報連結は解除される。安心して、涼宮ハルヒの記憶は私が消えた後にきちんと改変される」

なんでそんな冷静なんだよ、お前消されるんだろ。

「私の変わりなど、いくらでもいる」

悲しげかつ液体ヘリウムのような瞳が俺を見詰める。
殺されそうになったとはいえ、長門は俺達の仲間なんだ、そう簡単に消してたまるか。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:32:15.28 ID:Teqhur+a0

長門の存在をきちんと理解していないハルヒでも、長門が居なくなることは分かったのだろう。
夢だと思っていても、こいつは仲間想いだ。

「だめよ有希!どこにも行っちゃダメ!あたしはあんたの想いに応えられないけど…でもあんたはあたしの大切な団員なんだから!」

気付けばハルヒは、頬に幾筋も涙を流していた。
それは、朝比奈さんもだ。
涙もろい彼女は、長門に同情して泣いているのだろうか。
すまん、そんなこと言ってる俺も泣いてるらしい。
頬を伝う涙の所為で、皮膚がむず痒い。
ごしごし拭う。

「そうだ、ハルヒの言うとおりだ!お前が俺を殺そうとしたって、ハルヒが好きだったって、なんだって、お前は俺達の仲間なんだよ、変わりじゃダメなんだ!」

それに、俺には切り札だってあるんだぜ。
それでも、長門は首を振った。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:34:34.04 ID:Teqhur+a0

「もう、遅い。さようなら、私はあなたたちと出会えて良かったと思う。あなたには済まないことをした。そして涼宮ハルヒ、…どうか、なかないで」
「……私が、消滅する前にあなたを抱きしめさせて?あなたに、私が居たことを忘れてほしくは無いから、そして私も忘れたくは無いから」

ゆっくりと長門はハルヒに歩み寄り、涙で濡れるハルヒの頬に白く細い指を滑らせる。
優しく、壊れ物を扱うようにハルヒの体を細い腕の中に閉じ込めた。
そういった趣味もないし、今はそんな場合でもないのに、綺麗だと思う。

「有希…有希…ねえ…いやよ…」

そんなとき、長門の足元が光の粒として消え始めた。
嘘だろ、そんなことってないだろ。
なあ情報統合思念隊とやら、聞こえてるんだろ。
応えろよ。
俺はハルヒにばらしちまってもいいんだぜ、すべてを。
俺がジョンなんだ。
長門が必要なんだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:36:58.32 ID:Teqhur+a0

「長門!待ってくれよ長門!」
「長門さん!」
「あ…あ…有希…いやよ、まって。あたし、有希のとは違うけど、有希のこと大好きなのよ?お願いだから待ってよ」
「長門さん、どうしても止められないのですか?」

冷静に見えて、堪えるような、震える声で古泉が問う。

「…済まない。涼宮ハルヒ、最後に言わせて。………あなたを、愛している」

長門の半身は既に消えていた。
これが夢なら覚めてくれないか。
俺はもう耐えられない。
みんなだってそうなんだ、頼むよ。
こんな悲しい夢なら、いらねーよ。
金をつまれたって、いらない。
頼むよ、お前は無敵のはずだろ。
ハルヒだってこんなにも望んでるのに。
なんだよ、なんなんだよ。
誰も悪くないのに。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:38:21.35 ID:Teqhur+a0


「さようなら」
その言葉を最後に、長門の姿は消え去った。
後にはなにも残らない。
いや、正しくは、ハルヒの頬に落ちた、最初で最後の長門の涙だけだった。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:41:16.54 ID:Teqhur+a0

あっけなかった。
あんなにも脆く消え去ってしまうものなのだろうか。
誰一人として口を開くことはない。
ただ、残された俺達は泣いていた。
ハルヒと朝比奈さんは、えぐえぐと嗚咽を漏らす。
古泉までもが、顔をゆがめている。
長門が居なくなってしまったからだろうか、灰色の空間は、閉鎖空間とは違い砂のように散り始めた。

「なんでだよ…」

座ったまま、机に握った拳を振り下ろす。
どんと机が揺れた。
何度も何度も、机を叩く。
そんなことしたってどうにもならないことは知っていた。
けれど、気が済まない。
長門のしたことは、確かに間違っていた。
けれど、長門が持った感情はなにも間違っちゃ居なかった。
なのに、どうして。
情報統合思念体とやらは、ダイヤモンド級に頭が硬いのかよ。
悔やんでも悔やんでも、なにも起こらない。
ハルヒが、帰ってきてと何度呟いても、帰ってこない。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:43:05.49 ID:Teqhur+a0

もうだめなのか?
諦めそうになる。

「絶対に諦めないで」

朝比奈(大)さんがいった言葉を思い出した。
これが、規定事項だったのかどうかは分からない。
だが、もしかしたらなにか方法があるかもしれない。
考えろ、誰なら長門を救い出せる?
…誰なら、情報統合思念隊と掛け合うことが出来る?
一人しか居ないだろう。
いや、正確には二人居るのだが、彼女はどこに住んでいるか知らないしな…。
つまり、あいつしか居ない。
俺の中に芽生えた僅かな希望。
望みをかけて、立ち上がった。
長門と共に消滅したかもしれない、

「朝倉」

五秒、十秒、二十秒…

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:46:15.83 ID:Teqhur+a0


「はあいキョン君、待たせた、わ、ね…っ…」
いつも長門が座る椅子の隣に、朝倉が居た。
その顔は、涙に濡れてぐしゃぐしゃで、しかし笑顔を浮かべている。
「なんでもっと早く来てくれなかったんだよ!長門が…長門が…」
どうしてここに朝倉がと驚くハルヒを他所に、俺は責め立てる。
「全部見てたわ。でもね、長門さんが許してくれないの…私の介入を」
「そんな…でも長門は帰ってこれるんだろう?お前だって帰ってきたんだ!」

消滅した朝倉が帰って来れたのに長門が帰れないはずは無い。
返答を待つ間の沈黙が憎い。
拳を握ると、最近爪を切っていなかった所為か少し伸びた爪が食い込んだ。

「ごめんね、ごめんね…大丈夫、明日、ちゃんと戻ってくるから。今は、少し休ませてあげて…」
「本当か!?」

俺だけではなく、全員が朝倉の言葉に顔を上げて希望を宿す。
頷いて涙を拭った朝倉は、付け足した。

「そのためのバックアップですもの。今度こそ、さよならよ」

首を少し傾けて笑う。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:49:21.92 ID:Teqhur+a0

それはつまりお前が消えるということなんじゃないのか?
またしても朝倉は俺の考えを読み取ったようで首を立てに振る。

「うん。でも私は一度消えた身だもの。いいのよ、それじゃあね。そうそう、みんなお家に帰しておいてあげるから―…涼宮さんの記憶も、ね」
「そんな…お前本当にいいのかよ」

長門には帰ってきてほしいが、だからってお前を変わりに消させるわけにはいけないだろう。
しかし、朝倉は言う。

「…ありがとう。そうね、きっと涼宮さんが望んでくれたら戻ってくるのも夢じゃないかもね。ふふ…なんてね、それじゃあ本当に、これで」
「待っ…」

待ってくれという間も無く、朝倉はあの高速詠唱を始めたかと思うと、気付けば俺の部屋に居た。
ところであいつは何故俺達の家や部屋を…いやそんなくだらんことはどうでもいいんだ。
すまん、朝倉。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:51:39.97 ID:Teqhur+a0

きっとお前も元に戻して見せるよ。
長門とお前のツーショット、嫌いじゃないんだ。
明日になったら、いつもの長門が見られるのかと思うと、朝倉に対する申し訳なさと共に嬉しくなる。
もしもまた暴走したら、その時だって俺達はきっと大丈夫なはずだろう。
色々考えなければいけないことはある。
だが今日は疲れた。
もう、寝よう。
うまく情報操作してくれたのか、家族は俺が不在だったことに気付いていないしな。
シャワーも浴びずに深い深い眠りに落ちる。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:54:19.21 ID:Teqhur+a0

翌日、いつもより大分早めに起きて、シャワーを浴びる。
すっきりしたところで、時計を見ると、なんと朝食まで二時間もあった。
まあ、今は早朝の五時ってことだよ。
深く短く眠ったということか?
とても頭がはっきりしている。
自室に戻ると、ベッドの上に寝転がって昨日のことを振り返った。
ハルヒに告白されたこと、本人はもう覚えていないだろうが。
思い出すだけでも恥ずかしくて、嬉しい。
俺だってその…ハルヒのこと嫌いじゃないしな。
むしろ、好きなんだと思う。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 22:57:07.18 ID:Teqhur+a0

次に、長門の想い。
応援してやりたいと思うが、俺だって負けるつもりはない。
意地悪を言えば、俺はハルヒに好かれているそうだから有利なんだぜ。
まあ、いつ人間の心が変化するかなんてわかりゃしないんだが。
ここには描写しないが、たった一日の間に起こった数々の出来事は、今でも正直信じられないものだった。
むしろ、困難の中にありながら、それは長門に導かれていたのではないかと思う。
驚くほどに早く進んでいく展開。
最初から仕組まれていたことのように終わってしまった。
あれは、もしかしてゲームだったのだろうか。
感情を持った長門が、俺たちを驚かせようとしたんじゃ無いか。
がちゃ、と扉の開く音がして妹が飛び込んでくる。

「キョンくーん朝だよー…ってあれ、おはよう。珍しいね、おきてるなんて」

目を丸くして朝食の準備が整った旨を伝えると、母さんにキョン君が起きてるよと言いながら階段を駆け下りていった。
その後をついて、手早く朝食を済ませる。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:01:22.49 ID:Teqhur+a0

朝一で部室に行きたかった。
そして長門の姿を確認して、安心したい。
珍しい珍しいと何度も言う家族に早口で挨拶して、家を飛び出る。
遅刻寸前でもないのに、全力疾走。
とはいえあの坂を上りきるには何度も立ち止まって息を整え、また走り出すというなんとも間抜けな姿を晒してしまった。
もしも部室に居なかったらどうする。
焦りが心を支配して、さらに俺を急がせる。
開いた校門には、朝一と言ったものの既に何人かの生徒や教師が居た。
誰一人昨日の事件について話していない様子からして、朝倉が情報操作したのだろう。
靴を履き替え、冷たい廊下を走る。

「頼む…居てくれっ!」

辿り着いた部室の前。
扉は、閉ざされている。
深呼吸をして、ゆっくりと扉を開いた。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:06:21.36 ID:Teqhur+a0

そこには、いつものようにカーディガンを着た長門の姿が―…無かった。

「そんな…」

力が抜ける。
へなへなと床に座り込んでしまう。
大丈夫って言ったじゃないか朝倉よ。
いやまて、もしかしたらまだ完全じゃないのかもしれない。
放課後にはいるはずだ。
大体、いくら長門だって朝からずっとここに居るわけじゃない。
ちゃんと家があるんだから今はまだそこにいるか、きっとまだ体の具合を調整中なんだろう。
俺が焦りすぎただけだ。
何度も浮かび上がる「もう戻ってこない」という思考を叩き落してたくさんの理由を考える。
それらは俺自身に言い聞かせたもので、事実であってほしいと強く願った。
まだ不安が残ったままの体を持ち上げて、教室に戻る。
何人かの生徒と、ハルヒの姿。
生徒と挨拶を交わして、自分の席につく。
後ろを向いてハルヒにも声をかけた。

「よう。まだ眠たいのか?」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:08:34.33 ID:Teqhur+a0

いつもより少し目つき悪いハルヒは、いつだったかと同じような言葉を呟いた。

「…おはよ。悲しい夢見たの、もうあんなの嫌よ。今日は絶対部活するから」

どうやらこちらも記憶に関して操作が行われているらしかった。

「へえ。どんな夢だったんだ?」

聞いてやるべきなのかと想い、とりあえず形だけ尋ねる。
もっとも、内容は俺だって知ってるんだからハルヒが言おうが関係なんだがな。

「……あんたには関係ないでしょ」

以前と同じく内容は口にしないハルヒ。
それほどまでに、ショックな出来事だったのだろう。
夢と処理されたのは正解のようだ。
チャイムと共に岡部が入ってきて、気だるい授業が始まる。
こんな時に限って時間というのは早く過ぎてくれないらしく、俺は放課後が待ち遠しくてたまらなかった。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:10:40.87 ID:Teqhur+a0

一時間、二時間と過ぎていく。
一分一秒がまるで一日のように長く思えて仕方ない。
ようやく昼休みに突入すると、また部室に走る。
ハルヒも誘ったのだが、いかないと言われた。
もしかしたら。
しかし、また俺の期待は裏切れられる。

「ちくしょうっ…まだか、まだなのか?」

がらんとした、寂しい部室。
中に入って定位置に腰掛けて、母さんお手製の弁当を食べ始める。
暫くすると、扉が開いた。

「…キョンくんも来てたんですね」

沈みがちな声。
可愛らしい包みを手にして朝比奈さんが入ってきた。

「どうも。…はは、気になっちゃって」

うまく笑えただろうか。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:13:55.43 ID:Teqhur+a0

「私もです。長門さん…まだ、なんですね」
「それと、昨日はごめんなさい。私なんにも出来なくて…ほんと、役立たずですよね」

寂しげに呟く姿に思い切り首を振る。
そんなことないですと口が動いて、朝比奈さんに何度助けられたことかと内心に叫ぶ。
ただ、それは口にしてしまうと、彼女の知らない事実も知ることになる。
まだ朝比奈さんに、もっと大人になったあなたの存在を知られる訳にはいかないんです。
俺のほうこそ済みません、そう言って目を伏せると彼女は少し微笑んでくれた。

「ううん…じゃあ御互い様にしてもいいですか?」

控えめに首を傾ける朝比奈さん。

「もちろんですよ」

そして、昼休みの時を朝比奈さんと話しながら終えた俺は、また放課後までの長い時間を過ごしに教室に戻った。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:17:56.90 ID:Teqhur+a0

よく話題に出るが、本当に時間というものは、早く過ぎろと願えば長く、もう少しと願うと短く感じるものだ。
実際に過ごした時間は、確かにいつも通りに流れているというのにな。
誰かが「自分が早く過ぎろと願っている時間は、それ以上にもう少しと願ってる人が居るから長く感じるのかもしれない」と言っていたのを思い出す。
なるほど確かに、そうかもしれない。
ならば、この場合は、もしかすると長門がもっと休ませてほしいと願っているのだろうか。
それとも、ハルヒが、まだ安定せず昨夜の出来事を…あいつにとっての夢の中での出来事を引き摺っているから会い辛いとでも思っているのだろうか。
そんな風に考えると、この長い時間も少しは紛らわせることが出来た。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:19:59.83 ID:Teqhur+a0

英語教師が、身振り手振りで正直余り理解できていない言語を説明するのをぼぅっと見詰める。
傍から見ると真面目に授業を受けているように見えるかもな。
しかし、ふとした時に脳裏を過ぎる長門の涙にまた考え込んでしまう。
元気になった長門が、ハルヒに対する好意を持ったままだった場合俺はどうすればいい?
そんなこと今は考えるべきではない。
そう、今はただ長門の帰りを待つだけだ。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:26:21.50 ID:Teqhur+a0

いつの間にやら俺は睡魔に取り込まれていたようで、起立の合図で目が覚めた。
掃除当番では無い俺は、いつでも帰宅できるように鞄を持って部室に向かう。
廊下を行き交う生徒達の間をすり抜けて、辿り着いた扉の前で、

「入るぞ」

一声かけて扉を開ける。
床に落とした視線を長門の座る席へ、そこには、確かにあの小さな姿があった。

「っ…長門っ…ながと…よかった…」

鞄を床に投げて、駆け寄った長門の方を掴む。
呼んでいたらしい本を閉じて、こちらを向いた長門は一度目を伏せた。

「済まなかった。あなたたちを危険な目にあわせてしまった。今後、注意する」

いつもと変わらぬ様子に安堵する。

「もう大丈夫なのか?」

心臓が大きく脈打っている。
首肯する長門。
本当に良かった、どうしようかと思った。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:29:45.99 ID:Teqhur+a0

気を緩めると、昨日のようにまた涙が流れてしまいそうだったから、ばれないように舌を噛んでみる。
そんな俺の様子を察してか、長門は「もうすぐ古泉一樹が来る」といった。

「ありがとうな」

結局、ハルヒに対する感情については聞け無さそうだが、それでいい。
もし、またなにかありそうなら、そのときは俺が相談に乗る。
…なんか俺が言うとただの嫌味にしか聞こえないかもしれんな。
いや、自分で言うのもなんだが。
なんにせよ、またいつものように皆で不思議探索が出来る。
いつもは奢らされたりなにかにつけて俺が不当な扱いを受けるから嫌で仕方がなかった探索も楽しみになる。
普通ってやっぱいいもんだな…まあ既に普通からは遠ざかってるが。
うっすらと浮かんだ涙で袖で拭い、少し送れて入ってきた古泉に挨拶をした。

「どうも、長門さんは…良かった、ご無事のようでなによりです」

あまり普段と変化の見られない嘘臭い笑みだが、今日だけは本心だと思う。
俺に対してと同じような返答をして、まるで何事も無かったかのように俺は古泉と向かい合わせに座った。
これ以上この話題に触れてしまうと、良くない気がして話せない。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/19(木) 23:35:24.76 ID:Teqhur+a0

「うし、今日は囲碁でもするか」
「…おや、珍しいですね、あなたから誘ってくださるなんて。もちろんです」

いそいそと席を立ちボードゲームを取り出してくる古泉に、これまたいつものように賭けをするか問う。
「そうですね…では今日は、僕が勝ったら今までのつけをチャラに、なんてダメでしょうか?」
なるほど、考えてみるとこいつには貸しがあるな…いいだろう。
了承し、早速ゲームを開始する。
本のページを捲る音と、駒の音をBGMに進んでいくゲーム。
特に会話はない。
しかし、気まずい沈黙ではなく、それが心地よい沈黙なので会えて口を開くということはしない。
もっとも、喋ってばかりの古泉は気まずく感じているかもしれないな。
一回目のゲームは俺の勝利に終わり、残念そうな古泉にジュース一本と告げる。

「了解しました」

二回目のゲームを初めて中盤頃、今度は慌しくハルヒと朝比奈さんが入ってくる。
朝比奈さんは、ちらりと長門のほうを見て「よかったぁ」と呟いた。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:00:40.31 ID:2JoTVWXW0

ハルヒはといえば、何も気にしていないような素振りではあるが、何度も何度も長門のほうを見ている。
そして、団長席に座り、机を叩いたかと思うと声高らかに言った。
「SOS団は不滅よ!皆…皆絶対に勝手に居なくなったりしちゃだめなんだから」
「やれやれ…もちろんだぜ」
それに続いて、「ええ」とか「もちろんですぅ」とか、無言で頷く姿に満足したらしいハルヒは、パソコンに向かった。
全員揃って、ようやく完全な形で戻ってきた日常。
この日は、結局いつも通りに部活を終えた。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:03:18.57 ID:2JoTVWXW0

俺達は、ハルヒを除く四人で公園に集まるように約束し、それぞれの自宅に戻っていく。
夕飯を食べ終えて約束した時間の二十分前に公園につくと、そこには既に古泉が居た。

「やあどうも」

笑みを湛えて片手を上げる古泉に軽く返事をして、ベンチに腰掛ける。

「…良かったですね、長門さん。安心しましたよ」
「そうだな、正直なきそうになった」

それだけで、会話は終了する。
おいお前もっと喋れよ、続かないだろ。
まあもちろんそんなこと言わないぜ。
何故なら朝比奈さんが走ってきたからだ。

「すみませぇーん、遅れちゃいましたか?」

ふうふう息を整えている姿に見惚れる。うん、私服もやっぱり綺麗ですね。

「大丈夫ですよ、今来たところ…それにまだ待ち合わせまで時間もあります」

朝比奈さんのフォローは任せろ!
可愛らしい笑顔を浮かべた朝比奈さんに座っていただくためにベンチから腰を上げる。

「どうぞ」

よし、中々いい感じじゃないか。


ID変わりましたが>>1です。すみません、さるさんくらってました。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:07:17.21 ID:2JoTVWXW0

今は何時ごろだろうと携帯を見ると、待ち合わせ時間の一分前。
長門は、まだか…。
と、画面に表示された時間が、待ち合わせ時間を表示すると同時に長門が現れる。

「うぉっ!?」

流石長門。
さて、全員集まったところで真剣な話しに入るからだろうか、一気に空気が変わる。

「…昨晩の件はすまなかった。全て私の責任。以後あのような事態が起こらない様対処する」

制服姿のままの長門は淡々と告げる。

「失礼ですが、あの…あなたの、涼宮さんへのお気持ちは現在どうなっているのでしょうか」

一見なんの変化もないように見えたが、俺には分かる。
長門が少し動揺していた。

「大丈夫。無駄な情報として削除済み、安心して」
「おい長……っ」

それでいいのか、お前は。
その言葉は続けられなかった。
長門が、何も言わないでと言わんばかりにこちらに視線を向けてくる。
そのまま俺は閉口してしまった。
なあ、それってまだ好きって事だよな?

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:11:19.38 ID:2JoTVWXW0

「……そうですか、それはそれは、こちらとしても安心ですよ」

古泉、顔が笑ってないぞ。
用件だけ伝えてさっさと帰ってしまった長門。

「やはり、長門さんはまだ涼宮さんのことが好きなようですね」
「なあ古泉、それってやっぱりまずいのか?」

長門に、本当にその感情を削除しろなんていわないよな?
もしそんなこというなら、俺はお前を殴るぜ。

「そうですね。機関としては不味いでしょう。…涼宮さんに多大なショックを与える可能性が高いですから」
「しかし、僕個人としても、彼女は仲間ですから…長門さんには幸せになっていただきたいものです」

古泉…。

「お前、やっぱりいいやつだな」

一瞬でも殴るとか思って悪かった。

「おや、そう思って頂けて光栄ですよ」
「あのう…邪魔してごめんなさい、私そろそろ帰らないと…」

朝比奈さんの言葉で時間を見ると、いい加減帰らないと起こられそうな時間だった。

「そうですね、それじゃあまたな」

各々帰り道が違うこともあり、公園で解散する。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:18:47.58 ID:2JoTVWXW0

一人で歩く夜道は、人通りが少ないために少々不安になる。
自然に歩く速度は早くなり、小さい頃よく考えていたように、ここで突然不審者が現れたりしたらとか思うよな。
もちろんそんなことが起こるはずも無く、無事に家に辿り着いたわけだが。
ようやく心から安心することが出来たというこで、シャワーを浴びて部屋に戻った後、ベッドの上に寝転がった。
うーん、なんて素晴らしい。
俺もう布団と結婚したいぜ。
まあ冗談は置いといて、もう寝よう。
明日も、学校はあるからな。
あっけなく眠りに落ちた俺は、翌朝妹によって叩き起こされる。

「いてえ…」

ダイブされた結果ダメージを受けた原を擦りながら制服に着替える。
母さんの作った朝飯を食って、くそがつくほど長ったらしい坂道を登っていく。
いつもの光景だ。
ハルヒの奴も、昨日長門がいたことで安心したらしく今日は楽しそうだ。
授業中は居眠り、放課後はSOS団。
今なら言えるぞ。
俺は充実している。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:23:00.41 ID:2JoTVWXW0

さて、そんなこんなでもう一週間が経ったわけだが、特に変化はない。
今日も今日とて放課後は部室に行き古泉とゲームだろう。
といっても、まだ俺と長門以外は居ないのだが。
そろそろ暖かくなってきて、暖房がいらないと感じるようになる。
部室内も適度な暖かさが保たれていた。
「…これ」
不意に長門が立ち上がり、近付いてきたかと思うと、一枚の栞を渡す。
裏に文字が書かれている。
『午後六時 何時もの公園で』
紛うことなき長門の字。
「またなにかあったのか?」
何度目だろう、この台詞は。
相手が違えど、もう何度も繰り返した気がする。
「話したいことがある。どうか、内密に…」
「分かった」

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:27:54.76 ID:2JoTVWXW0

タイミングよく振動する携帯は、ハルヒからのメールを受信していた。
急用が入ったから部活は無しだそうだ。

「今日は部活は休みらしいぞ。ここじゃだめか?」
「駄目。ここには古泉一樹たちが現れる可能性もある」

結局、一度家に帰ってからまた公園に行くということで話しはまとまった。
長門に戸締りを頼んで先に部室を出る。
そこまでして伝えなければいけないことって一体なんなんだよ。
もしもまた殺すなんていわれたら…いや、絶対そんなことはない。
あいつはもうそんなことしない。
駆け足に自宅に戻って、夕飯はいらないと伝える。
楽な服装に着替えるとそのまま、また家を出てコンビニに向かった。
手軽に食えるもんを購入したあと、ぶらぶら夕食代わりの商品を食べながら公園まで歩く。
少し早めについた、夕焼けに照らされた、いつぞやと変わらない公園の景色。
既に、長門は居た。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:30:09.70 ID:2JoTVWXW0

「お前俺より後に帰ったんじゃ…ああ、ここからお前のマンション、近いもんな」
「そう」

ベンチに腰掛ける。
立ったままの長門にも座るよう促したが、断られた。
もしかしてあれか、俺の横は嫌だとかそういう…

「違う、このほうが話しやすい」

そうか。
心を読まれた気分だぜ、まあそうなんだが。

「それで、話しってのはなんなんだ?」
「私の事」
「まさかまた消滅だとかそんな…」
「……」

沈黙が痛い。
やめてくれ、頼むから。
なにも悪い話は聞かせないでくれ。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:32:56.90 ID:2JoTVWXW0

「…私は、私は、長門有希」

また世界の崩壊だとかを想像した俺は、間抜けな声を上げる。

「へ?」

そんなことは知ってるぜ。

「よく聞いて。私はあなたの知っている長門有希ではない」

夕焼けを背に、表情を少しも変えずに言う。

「冗談はやめてくれないか」

少なくとも俺は、冗談を聞くつもりで来たわけじゃない。
折角のところ申し訳ないが…。

「違う、本当。私は、今までの長門有希という個体ではない」

冗談だとか言ったが、長門が嘘を言ったりはしないと思う。

「つまり、あの時…先週長門がいってたコピーとかそういうのか?」

だとしたら俺達は朝倉に騙されたということだろうか。
言葉の変わりに長門は首を振った。


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:35:06.50 ID:2JoTVWXW0

「そうではない。私は、長門有希という情報を引き継いだ別の個体」
「それをコピーというんじゃないのか?」

もし本当にそうだとしたらどうして俺は気付けなかった?
いつから…恐らく先週から。
今まで、長門の成長に気付いてきたのに。

「正確には、元々あった器に長門の有希の情報を加えた」
「よし、その話が本当だと仮定するぞ。お前の言う器…つまり、長門の体だが、あの時確かに目の前でなくなったはずだ」

涙とともに、確かに長門の体は一度光の粒になった。

「あれではない」
「じゃあ…、っ…まさか…」

浮かび上がる、一つの可能性。
有り得ない話ではない。
だってそうだろう、ここに長門は居るが…あいつはいない。

「朝倉…なのか…?」

目の前に佇む少女はゆっくりと頷いた。

「そう」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:53:32.85 ID:2JoTVWXW0

状況を整理しよう。
長門は復活した。
しかし偽者だった。
オーケー?

「つまり、お前は元朝倉で、今は長門ってことか?」
「間違いではない」

それじゃあ朝倉が消えたのはこのために…最初から分かってたっていうのか。

「なんてこった…」

思わぬ知らせに戸惑ってしまう。
視線は地面に落ち、溜息が零れる。
戻ってきたと思ってた平和は作り物だったのか…?
長門は長門じゃなかったなんて。


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:55:34.28 ID:2JoTVWXW0

「ねぇ、キョン君」

突然長門の口調が変わった。
まるで朝倉のようだ。
いや、視線を上げるとそこには確かに朝倉が居る。
「朝っ…!?」
「ごめんね、騙しちゃって。いつでも本来の私に戻ることは出来るの。そして、長門さんはもういないの。…もう、戻ってこないの」

眉尻を下げて笑む朝倉に、俺は文句も質問も、何も言えなかった。
なんで騙したんだ、とか、どうして長門は帰ってこないのかとか。
だって朝倉も寂しそうだったんだぜ。


二度目のさるさんくらってました…。
なんなの、寝ろってことなの?

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 00:59:04.52 ID:2JoTVWXW0

「あのね、情報統合思念体じゃないの」
「情報統合思念体は、今回のことには関与してないの」
「え?だって長門が…」

長門が、言ってたじゃないか。
訝しげに眉根を寄せると、朝倉が続ける。

「情報統合思念体は、あの事件の前から長門さんの涼宮さんに対する感情を把握してたの」
「それで、その感情は良くないから削除するよう通告したらしいんだけど、長門さんが拒否しちゃって…」
「一方的に情報統合思念体とのアクセスも切断しちゃったの。最後に、なにがあっても、大丈夫だから手を出さないでほしいって伝えてね」
「そして、この前のあの事件を起こしたのよ」


みんなありがとう。がんばります。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:02:51.88 ID:2JoTVWXW0

じゃあどうして長門が消えたのか?
この話しを聞いた今なら分かるぞ。
長門は、自分自身で望んで消えたということか。

「なんでそんなこと…」

それ以外にも道はあったはずなのに。

「耐え切れなかったんですって。彼女を苦しませてしまうぐらいなら、想いを伝えて消えるって言ってたわ。…私は、止められなかった」
「キョン君のことだってそうよ。本当にあなたを殺すつもりなんてなかったわ。ただ、そうでもしないと涼宮さんに消えることを阻まれてしまうから」
「殺そうとしたって言う事実によって、涼宮さんが力を使って長門さんを止めることを躊躇えるように、ね」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:04:50.46 ID:2JoTVWXW0

朝倉が告げる事実に、俺の頭はついていけていなかった。
そんなに長門が俺達のことを考えていたなんて。
そんなになるまで悩んでいたなんて。

「くそっ」

ベンチの背を叩く。
はは、前にも机を叩いたっけ。
朝倉はなにも言わなかった。


143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:07:23.60 ID:2JoTVWXW0

「本当に長門は戻ってこないのか?」

「ええ。これからは、私が長門さんとしてやっていくことになるわね」

長門とは違い、感情表現豊かな朝倉は、分かりやすく悲しんでいた。

「俺はお前に朝倉のままでいてほしいし、長門は長門がいい」

それが普通なんだ。
そうであるべきなんだ。

「もう無理よ。長門さんの望みなんだもの…ひどいよね、長門さんったら」

自嘲気味に取れる声色。
ふうと息をついて朝倉が笑う。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:09:44.04 ID:2JoTVWXW0

「私だって、私のままで居たいわ。でも、所詮バックアップなのよ、長門さんの情報を取り込んで、長門さんとして生きる。それが私の存在する意味」
「でもね、長門さん…私の中に、涼宮さんへの気持ちまで置いていったのよ。ねえ、私はどうしたらいいの?」
「伝えることは許されない。私の気持ちじゃないのに、私の中にあるから、私が苦しい」

制服の胸元を掴んで小さな嗚咽を漏らしている。
肩が震えて、それにあわせて青く長い髪が揺れる。

「朝倉…」

俺にはどうしようもできないようで、だからこそ声を掛けられなかった。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:12:20.62 ID:2JoTVWXW0


「ごめんね、こんな話して…でももう大丈夫。ちょっとだけすっきりしたわ」

人差し指で涙を拭ったかと思うと朝倉は、ありがとうと付け足した。
そして、見る間に身体つきが小さくなり、ショートカットの長門の姿になる。

「済まない、今日の記憶は忘れてもらう。…さようなら」

俺は口を開く間も無く気を失った。
最後に見えたのは、そう、沈みかけた太陽だった気がする。


150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:15:35.25 ID:2JoTVWXW0

………
……


ああ、今日も平和だ。
長門は戻ってきて、ハルヒもご機嫌だしな。
放課後は部活。
ただ、この前からどうも長門を見るたびに違和感を感じている。

なにかがあったんだ。
なにか、大事なことを忘れているらしい。
なんだっただろう?

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:17:05.23 ID:2JoTVWXW0

もしかしたらあれかもしれないな。
最近の長門は、少し明るくなったが、たまに悲しそうな顔をする。
それが引っ掛かっているのかもしれない。
後でどうしたのか聞いてみようか。
ハルヒ達に用事があるから少し残ると伝えて、長門のもとへ向かう。
まだ部室で本を読んでいた長門に、問い掛けてみた。
「なにか悩みでもあるのか?いつでも相談に乗るぞ。お前は大切な仲間なんだから」
パタンと本を閉じて顔を上げた長門は、少し微笑んだように見えた。

「大丈夫、ありがとう」



答えはいつも私の胸に…




154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/20(金) 01:19:22.39 ID:2JoTVWXW0

これで終わりです。
支援とかコメントありがとう、励みになりました。
最終的に長門も朝倉も救われないエンドになったんで期待させてしまってたら申し訳ない。
気が向いたら今度はほのぼのしたのとか書いてみるんでそのときはまた良かったら見てください。

付き合ってくれてありがとう、眠い人は無理せず寝てくださいね。



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