ハルヒ「おちんちん! おちんちん!」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:10:18.12 ID:oj+4bqcz0

             __ ,.-¬- 、._
             / '´,  、   、 `ヽ、
          r´    / l ヽ  \ 、ヽ         こんばんは、古泉です。
           /  / /l.  l、 \  ヽ ', lヽ       性格や呼称など、いろいろな改変が行われています。ご注意を。
        /, l. / /´ヽ lヽ   ヽ. ! ヽ. ト ヽ、     性描写も含まれています、ご家族の視線にさらされないようお願いします。
        '´|  V '__ヽ. ト\、_',|   ',|
         | l. ,| | __ \゙、ヽ.__ヽl.  ト.|        このSSは元ネタありきです。
           lハlヘ|´ `   ヽ´ ``〉,^! | !       知らない人は新鮮な気持ちで、知っている人は懐かしい気持ちで読んでいただければ幸いです。
           l\l|    |    //ィ N
          | ハ ヽ  __   /ハ/ `       _  既視感ではありません、あなたの記憶が不正確なのではありません。
          '′lハn\ `ニ´/! !        ,イ |  AAは私しか使われておりません。
           _,.-' /ヽ ` - ´ ,ハ\       | |ヽ
       _, - ' /   |  ヽェ、 '   | ヽー、    _ | ト. ヽ 端的に言うと、パクりです。
  ,.、-‐ ´    /  |  /  〉   |   ヽ `⌒.l ヽ',ヽヽヽ
  / ヽ     〈  ,.-|ヽ/ ヽ-/ ヽ/|、  ,〉     | l_! ヽ ゙lそれではどうぞ

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/16(月) 22:11:23.09 ID:oj+4bqcz0

 ねぇ、聞こえてる?

 私、最初はあんたの外見に惹かれていただけだったの。
 誕生日とか血液型とか、そんなつまらないことを必死で手帳にメモしていたのも
 フロイトの難しい本を徹夜で読んだのも、クラシックのCDを集めてるってウソをついたのも
 そして生徒会に入ったのも……。
 少しでもあんたに近づきたかったから、少しでもあんたの好きなタイプの女の子になりたかったから。
 去年の秋、告白して、OKもらえて、恋人になれて。
 もう、私が世界で一番あんたのことがわかってる女の子だって。
 思い違い、してたわ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:15:12.79 ID:oj+4bqcz0

 でもね?
 私、あんたのこと、本当にわかるようになったの。

 あんたの傷痕。
 痛みに悲鳴を上げるあんたの心。
 あんたが助けを求めているってこと。

 あんたは気づいていないかもしれないけど、あんたの『電波』を受けた相手は、あんたのことがわかるようになるのよ。
 あ、もしかしたら、私だけが特別なのかもしれないけど……
 だとしたら、うれしいかな。
 だから、あんたが私のこと、おもちゃだとしか思っていないのもわかっているけど……。
 でも、いいの。私を抱きしめてくれるあんたは、あんただし。
 私があんたをわかるようになれたように、あんたもいつかは私をわかってくれるかもしれないから。
 あんたのこと、今でも大好きよ。
 私、自分が、あんたの傷を癒してあげられると思ってたわ。
 こんなにもあんたが好きで好きでたまらないから、この思いは信じていれば絶対にあんたに届くって。
 でも、あんたは、私にそんなことは望んでいなかったのよね?
 昨日の夜、私があんたの家に行ったら、あんた、ものすごく怒ってたわね。「お前とはもう終わりだ!」って。
 すごく悲しかった。
 本当じゃなくてもいいから……ウソでもいいから抱き締めていてほしかった。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:21:11.06 ID:oj+4bqcz0

 あれ?
 涙?

「人間の感情は電気信号の集まりにすぎない」って、あんたは笑ってたわね。
 愛だとか感情だとかそんなものは錯覚で、全部ニセモノなんだって。
 こんなに熱い涙の雫も、ニセモノなの?


 もう終わりだということはわかっているわ。
 あんたは、いらなくなった私を、壊すんでしょう?
 あんたの「電波」が、いつも以上に激しいのを感じるわ。
 私が、私がなりたかった私でなくなり、あんたが必要とする私に変わる……。
 身体が熱くて、下着がどうしようもないくらいに濡れて……。
 足を動かすと、いやらしい湿った音が……ほら。
 この授業が終わるまで、あと何分くらいあるんだろう?
 もう、5分も……ううん、1分も我慢できない……。
 隣の席の男の子が、私を見ているような気がする。
 あるいは、クラス中のみんなが、いやらしいわたしを見ているのかもしれない。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:27:28.61 ID:oj+4bqcz0

 ねえ、届いてる?

 こんなはずじゃなかった、って思うけれど、私自身が望んだ結末であるような気もするの。
 ……もう、悲しい思いをするのは嫌だから。私じゃあんたは助けられないから。
 あんたを助けたかった私。
 セックスの道具でしかなかった私。

「セックス」

 いやらしい言葉が、自然に口から零れ出る。
 笑い声。笑い声。笑い声。
 笑ってるのはクラスメイト?
 私?
 それとも――あんた?

「うふ、うふふ。ちょうだい、ねぇ、ちょうだいよ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:32:09.45 ID:oj+4bqcz0

 何を言っているのか、何が起こっているのか、何をどうしたらいいのか、何がどうなっていくのか。
 もう、私には何もわからない。
 ぽたぽたと、机を打つ熱い雫。
 涙?……ううん、それは血の……真ッ赤な血の……雫。
 気が付くと私の顔、ズタズタ。
 どうして?
 爪で引き裂いたから。
 こうやって……びりびりって引き裂いたから。
 人間の皮膚って、結構、簡単に裂けちゃう。
 ほら、こんなに、簡単に。
 ぽたぽたぽたぽたって、簡単に。

「ちんちん、頂戴。わたしもう我慢できないの。ねぇいいでしょ?
 ほしいのよ。ちんちんが。ちんちん! ちんちんがほしいの!
 いれて、ねぇいれてよぉ!」

 ねえ、届いてる?

 これだけはニセモノじゃない、本当のことなの。
 私、あなたのこと、本当に好きでした。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:37:37.13 ID:oj+4bqcz0

 キョンT

 その女の子の話を聞きながら、俺は夢を見ていた。

「……でね、あたしはその時思ったのさ!」

 ハンバーガーショップのテーブルの向かいに座った女の子――鶴屋さんは万華鏡のように
 くるくると表情を変えながら、俺に『情報』を伝えてくれている。
 身振り手振りを交えて、抑揚を利かせて……内省的な俺と違って、鶴屋さんは優秀なストーリーテラーだったし
 その内容は俺が頼んで聞かせてもらっている『情報』だ。

 でも、俺は夢を見ていた。

 鶴屋さんの可愛らしい声にかぶって、遠くから聞こえる何かの合唱が、俺の鼓膜をチリチリとくすぐっていた。
 ……仰げば尊し?
 俺は、卒業式の夢を見ているらしい。
 それにしても、この匂いは何だ?
 鼻腔にこびりつき、肺を充たす生々しい匂い。
 肌で知覚できるくらいにネットリと生暖かく、動物的な……獣臭とでも形容すべきこの匂いは?
 そして、鶴屋さんの顔にオーバーラップしてうごめく無数の塊は?

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:42:30.11 ID:oj+4bqcz0

 ……チリチリチリチリ。

 その時、世界がぐにゃりと歪んだような気がした。
 トレーの上に無造作に置かれた食べかけのハンバーガーが、ポテトが、紙コップが、ナプキンが、スクラッチカードが
 どろどろに溶けて歪んだ。
 鶴屋さんの顔もまた、その世界崩壊に巻き込まれて歪んで溶けた。
 そして、幻影が徐々に色を取り戻していった。
 俺は、すべての疑問の解答を得た。
 その匂いは、欲望の匂いであった。
 その塊は、人間――一糸まとわぬ姿で絡み合う無数の男女の姿であった。
 見たことのある生徒もいれば、ない生徒もいる。教師たちがいる。
 息を荒げている中年の男女は、子供たちの晴れ姿を観にきた父兄たちだろうか?
 とにかく、体育館の中にいるすべての人間が、生まれたままの姿で身体を重ね、蠕動していた。
 仰げば尊しを口ずさみながら、体育館で絡み合う千人の男女。
 それは……まるで地獄絵図のようであった。
 だが俺は、それを美しいと思った。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:47:36.43 ID:oj+4bqcz0

 ……チリチリチリチリ。

 汗ばむ肌。
 形容しがたい焦燥感。
 身体が熱い。炎のように、熱い。
 気が付くと、目の前に女生徒が立っていた。
 目に染みるような白い下着が。桃色に上気した艶やかな肌を辛うじて隠している。
 制服だったはずの布切れは、ズタズタになって身体からぶらさがっている。
 切れ端を手に持っているところを見ると、どうやら自分で引き裂いたらしい。
「キョンくん……」
 それは鶴屋さんだった。
 彼女は乱暴に下着をずらし、乳房を露にして、僕にしがみついた。
 左手で自分の乳房を揉みながら、唇を重ね、乱暴に舌を入れてくる。
 鶴屋さんの舌は、テリヤキバーガーの味がした。
 明らかに狂った行為にも関わらず、俺の身体も、ごく自然にそれを受け入れてしまう。
 俺の右手が彼女の下着にすべりこみ、指先が熱く湿った秘所に触れた。
 俺の指先が、彼女の膣内を激しくこねくり回す。
 ビチャビチャと音を立てて、黒ずんだ血が白い太股を伝い落ちる。哀れにも、鶴屋さんは月のものの真っ最中だったらしい。
 俺の右手が、下着の中のナプキンを引き剥がして、床に捨てた。
 鶴屋さんは右手で俺のズボンのジッパーを下ろし、すでに硬直しきっているペニスを握って引き出した。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 22:53:31.12 ID:oj+4bqcz0

「おねがいです」

 鶴屋さんが、上擦った声で俺に懇願した。
「おねがいですセックスしてくださいおねがいですセックスしてくださいおねがいですセックスしてくださいおねがいですセッ……」
 彼女は、壊れたCDプレーヤーのように、その言葉を繰り返し続けた。
 彼女だけではない。
 隣の女の子も、その隣の女の子も……。
 講堂中にいるすべての女性が、一斉に声を揃えて、その言葉を繰り返していた。
 まるで、宗教のお祈りのようだった。

 ……チリチリチリチリ。

 脳髄と、それを包む頭蓋骨の隙間――目に見えない空間を、目に見えない『粒』が駆け巡っていた。
『粒』はコロコロコロコロと駆け巡り、ぶつかり合い、弾け、そして合体したかと思えば再び無数の『粒』に分離した。
 身体中に、たくさんの熱い何かが集まってくるような奇妙な錯覚。脳をレーザーで焼かれているような不気味な感覚。
 電波?
 わけもなくその単語が脳裏に浮かんだ。
 そう、この『粒』は、電波だ。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:00:32.92 ID:oj+4bqcz0

「交われ」

 どこかで、誰かの声がした。
 それは直接、俺の頭の中に響くかのようであった。

「交われ」

 言葉にならない慟哭が俺の喉を震わせたが、身体が痺れて、舌さえも動かせない。

「交われ」

 俺は立ったまま、目の前の鶴屋さんの片足を持ち上げ、彼女の柔らかい肉体に自分の硬直を突き刺した。

「交われ」

 快楽に痺れ、混沌に沈む意識の中で、俺はこれが夢ではなく――やがて起こる禁断の現実を先んじて見てしまっている、そんな気がしていた。
 世界は狂う。
 きっと、狂ってしまうのだ。
 それは、俺の願望だったのかもしれない。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:06:05.65 ID:oj+4bqcz0

「……ねえ、聞いてるかい?」
 ムッとした口調で問い掛ける鶴屋さんに、俺は本日最高の笑顔で返した。
「聞いてたぞ。バレー部の練習が長引いて、帰りが夜十時になってしまったところまでだったな?
 先を進めてもらえるか?」
「聞いてたのかい? なんだかキョンくん、めがっさ変な感じだったかな」
 鶴屋さんは猫のように大きな目で俺を軽く睨むと、唇を尖らせてストローに吸い付いた。
 さっきまで俺が味わっていたテリヤキバーガー味の口腔に、オレンジジュースが吸い込まれていく。
 ずずずっ。
「ああっ!」
 鶴屋さんはペロリと舌を出して、自分の頭を軽く小突くポーズをとった。
「ごめんごめん!」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:11:20.69 ID:oj+4bqcz0

 聞いていなかったわけではない。
 淫らな妄想に溺れながらも、俺は鶴屋さんの話をしっかりと記憶に刻んでいた。
 だが、その言葉は、情報として刻まれる以上の、何の意味も持っていなかったのだけれど。
 ここ数日、俺はずっと、現実と妄想の二重世界に生きていた。
 なにか不思議などろりとした時間を漂っているような、同じ時間が同じ映像で繰り返されているような……
 そんな奇妙な錯覚を覚えている。
 繰り返される、なんの代わり映えもしないくだらない毎日。
 やがていつの頃からか俺は、この退屈な世界から音と色彩が消えてしまっていることに気づく。
 自分がこの世界に存在しているという現実感が希薄になり、そして俺は甘美な妄想の世界に溺れるようになった。

「……で、後輩たちは、校門で待ってます〜とか言って、先に言っちゃったのさ。
 ひどいと思わないかい? あたしが一年のときは……」

 鶴屋さんの声を記憶に刻みながら、俺は再び物思いの海の中に沈んでいった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:17:39.73 ID:oj+4bqcz0

「月曜日は驚いたな」
 岡部先生は、唐突にそう切り出した。
 俺と先生の関係は高校入学当初からの担任で、現代国語の教師として、ここで出会った。
 赤点あたりを彷徨っていると個人面談の場を設けてくれるなど、生徒に対して親身になってくれると評判だ。
「ハンドボールバカ」と呼ばれているのも愛されているということだろう。
 昼食の、高校生なりに優雅な時間を過ごそうとしているときに、俺は呼び止められた。
「月曜日って涼宮のことですか?」
 谷口に問い返しながら、俺はすぐに間の抜けた質問であると感じた。
 この学校で「月曜日」といえば「涼宮さんのこと」に決まっていた。
 涼宮ハルヒ。
 授業中に精神に異常をきたしたクラスメイトの涼宮ハルヒ。
 淫猥な言葉を口にしながら、自らの顔を爪で引き裂いた女生徒の涼宮ハルヒ。
「あれはびっくりしたな」
「変なところは前からだったじゃないですか」
「お前、涼宮と仲良かったよな?」
 ……退屈な部分は端折ろう。
 俺は、岡部先生に調査を依頼されたのだ。
 狂気に捕らわれる直前、涼宮ハルヒは一体何をしていたのか。
 それを調査することを、岡部先生から依頼されたのだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:23:44.81 ID:oj+4bqcz0

「涼宮の両親が言うには……」
 岡部先生の声が、夢の中の声のように虚ろに蘇る。
 精神に異常をきたす直前の二、三週間、ハルヒはなぜか毎晩のように深夜の学校へ出かけていたという。
 彼女がそこで何をしていたのかは正確には判らないが、一応、病院での検査によって、どこかの男性と性行為を行っていたことは明らかになっている。
 そこで疑われているのは、行為自体を学校で行っていたのではないかということだ。
「涼宮の日記の一部を書き写したものだ」
 そう言うと、先生はポケットから一枚を紙片を取り出して、俺に手渡した。


 三月二日
 今日は学校へは行かない。日曜なのに三年の先生が出勤している。
 作業が夜遅くまでかかりそうだから、今日はない。
 我慢できない。
 我慢できない。
 他の子は、我慢できるの!?
 私は、直接、家のほうに行くことにする。

 神聖な校舎をラブホテル代わりに使用するとは、学校側としては由々しきことである。
 しかもハルヒの残した日記によれば――

 他の子は、我慢できるの!?

 ――他にも数名が、この夜の密会に参加しているようなのだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:29:04.79 ID:oj+4bqcz0

 ――他にも数名が、この夜の密会に参加しているようなのだ。
 ヘタをすれば、刑事事件にも発展しかねない、デリケートな記述であった。
 ハルヒの精神障害と絡めば、テレビの二流ワイドショーや2chが放ってはおくまい。
 女子高生、セックス、深夜の学校、乱交、薬物の影、精神障害、謎の日記。
 スキャンダラスな単語が揃いすぎている。
 かくして、事がおおやけになるのを恐れていた教師たちは、交代で夜の校舎の見回りを開始し……そして、まったくの無駄骨に終わったという。
「その集団も、涼宮がああなったことで、集まるのをやめてしまったんじゃないですか?
 仲間のひとりが精神障害で入院して、学校も調査を開始して……うかつな行動はとらないようにするでしょう」
 俺の意見に、岡部先生は「そうだといいが」と答え、ゆっくりとハルヒの日記の一文を唱えた。

 日曜なのに三年の先生が出勤している。
 作業が夜遅くまでかかりそうだから……。

「こいつらは見ているんだ。先生たちの行動をな……。
 先生たちがこいつらの調査をしていることも、全て筒抜けなのかもしれない。
 事実、昨日も運動部の女子が、怪しい数名の人影を見たらしい」
「……」
「そこで、だ」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:36:18.17 ID:oj+4bqcz0

 鶴屋さんT

 その男の子――キョンくんは、決してあたしの目を見ようとはしなかった。
 最初はただの内気な男の子かと思い、次にはあたしの話を聞き流しているのかと思って腹を立てた。
 でも、どうやらどちらも本当の理由ではないらしいことが、だんだんわかってきた。
 キョンくんがあたしの目を見ないのは、自分の目の中に隠した『何か』をあたしに見せたくないからなのだ。
 あたしの話を聞きながら、キョンくんの目が無防備になった瞬間……あたしは彼の瞳の中に、その『何か』を確かに見た。
 その『何か』は、にごった夜の湖に映る月影のように、ぼんやりと揺れては形を変え、そしてちかちかと明滅していた。
 その『何か』に吸い込まれそうになりながら、あたしは昨晩の体験談をキョンくんに話し続けていた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:41:54.04 ID:oj+4bqcz0

「よし、任務完了っ!」
 鍵穴に差し込んだ鍵を一気に回すと、ガチャリ、と確かな手ごたえが右手に返ってきた。
 銀色のドアノブが、白い月光をかすかに照り返している。
 時計を見ると十時五分。
 あちゃ〜。
 ジャージを脱ぐのに三十秒。制服に着替えるのに一分半。
 ここまでは問題ナシ。でも、乱れた髪を直すのに、三分はかけすぎだったかな?
 これから退館届表を描いて鍵を返却する時間も入れたら、八分近くバレー部のみんなを待たせることになってしまう。
「鶴屋せんぱ〜い。明日ヤック、おごりですよぉ」
 特訓でしごいた三人の後輩の声が聞こえてくるようだ。
 県大会を控えたここ二、三日の猛練習で、口には出さないものの、三人とも、あたしに思うところもあるだろう。
 去年はあたしもそう感じていたから、よくわかる。
 とにかく急ごう。あたしは猛ダッシュで体育館を離れると、体育事務室へと走った。
 地面に伸びた影がぴったりと併走する。
 満月に照らされた校舎裏は、妙に明るかった。
 漆黒の闇と言うよりも、蒼い闇といったほうが近いような……不思議な明るさだ。
 あたしの視界に、早咲きの桜の木が飛び込んできた。
 春が近いとはいえ、陽が落ちるとまだまだ肌寒い。
 にもかかわらず、もう八分がた花を咲かせている早咲き桜――別名狂い桜。
 この奇妙な明るさは、あの狂い桜の木のせいなのだろうか?
 一歩地面をけると、一歩さくらの木が近づいた。
 昼間はただキレイなだけの桜の木が、いま、あたしの前にまったく別の顔を見せていた。
 夜の闇に、夜の闇なりの秩序というものがあるとしたら、あの妖艶な桜色は明らかに無秩序に属する存在だった。
 存在すべきではない、異質のモノ。
 その桜は狂気を感じさせた。
 満開の桜の下には――

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:49:08.98 ID:oj+4bqcz0

(死体が埋まっている?)

 現国の先生が言っていたブンガクの一節を思い出すと、背筋に冷たいものが走った。
 あたしは、意識して桜の木を視界から追い払うと、逃げるように一気に加速した。
(!?)
 ふと足が止まった。
 桜の木の下に、誰かがいる。
(なあんだ、まだこんなところにいたんだ)
 幽霊の、正体見たりカレオバナ。あたしは、さっきまでの自分が急にかわいく思えてきた。
 桜の木の下にあるのは死体なんかじゃなくて、かわいい三人の後輩だったのだ。
(驚かしちゃえ!)
 安堵すると同時に、むくむくとイタズラ心が頭をもたげた。
 あたしは、抜き足差し足、背後から三人に接近し、おなかの底から声を放った。
「わ!」
 人影がゆっくりと振り返った。
 それは、あたしが予想したビックリ顔でも、後輩の顔でもなかった。
 見知らぬ女の子たち、私服の、みたこともない……。
 あたしは、この子たちの表情を、今でも夢に見ることがある。
 その子たちの表情は……。

「あ……ご、ごめんなさいっ!」

 でも、その時は、恥ずかしくて恥ずかしくて、そこを逃げ出すことで頭がいっぱいだった、
 次の瞬間、私は一目散に桜の木から離れていた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/16(月) 23:55:40.91 ID:oj+4bqcz0

「その三人組の顔は覚えていないのか?」
 あたしの報告を聞き終えると、キョンくんは目を逸らしたまま尋ねた。
「う〜ん、よふおほえへなひ」
 ハンバーガーの最後のひとかけらを口に押し込んだため、言語が不明瞭になる。
 あたしは、おかわりしたオレンジジュースを慌てて喉に流し込んだ。
「よく覚えてないんだよね。逃げるのに精一杯だったし、なにせめがっさ暗かったからさ。
 雰囲気で女の子ってわかるくらいで、もう顔の細部までなんか、とてもじゃないけどチェックできなかったよ〜。
 でも……これは体験談と言うよりもあたしの感想なんだけれど……
 振り向いたその子たち、めがっさ無反応だったね〜。
 まるでゾンビみたいだったにょろ」
「……無反応?」
 キョンくんは、なにか思い当たることでもあるのか、つと目を伏せて眉を寄せた。
 そんな秘密めいた仕草が、すごく探偵っぽく見える。
 そう、キョンくんは、探偵なのだ。
 学校から依頼を受けて、夜の学校に出没する幽霊――たぶん、あたしが目撃した連中のイタズラに違いないとあたしはにらんでいる――について調査している探偵さん。
 岡部先生は、あたしが桜の木の下の三人組の話をすると、その話を聞かせてやってくれと、キョンくんを紹介した。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:01:36.61 ID:Z1F3x+ey0

「……ありがとう。かなり役に立ちそうだ。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 あたしは立ち去ろうとするキョンくんを慌てて引き止めた。
「何か食べるか?」
「え、あ、そ、そんなんじゃないんだけど……ごちそうさま」
 ちなみに、今日のハンバーガーセットは、キョンくんのおごりだったりする。
「あのねキョンくん、ひとつ提案なんだけどさ」
「提案?」
「あたしにもその調査を手伝わせてくれないかなっ」
「悪いけど、これは遊びじゃない」
 キョンくんは、半ば呆れ顔で、あたしの申し出を拒絶した。
「失礼だね! まったくもう」
 ちょっぴりムッとした声を出してみる。
「あたしだって遊びのつもりじゃないさ」
「じゃあ、なんでまた?」
「それは……」

 毎日がつまらないから。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:06:15.93 ID:Z1F3x+ey0

 何が一番いけないのかって、自分たちの未来が見えてしまっていることだと思う。
 卒業して、大学にいって、OLになって、結婚して、子供を生んで……あとはおばあちゃんになって死ぬだけ。
 つまらない。
 現実がつまらないから、みんな非現実なことを求めてしまうんだと思う。
 ビデオを見たり、ゲームをやったり、漫画や小説を読んだり。
 それって、みんな非現実を求めているんだと思う。友達の中には援助交際をしている子もいる。
 聞いてみると、やっぱりその友達も刺激が欲しいと思っているらしい。
 あたしは、売春とかは賛成できないから、バレーのスパイクに刺激と現状打破の願いを込めてきたけど、もう、それも限界。
 相手コートに叩き込まれる白いボールが……バシーンという音が……なんだかペラペラなものに感じられる。

「ちゅるやさんはいいよね。悩みなんてなさそうで。」

 そんなこと、ないってば。
 あたしだけが特別だなんて、そんなことないよ?
 繰り返し繰り返し、ずっとずっと続くつまらない毎日。
 あたしもまた、そんな永遠の中を漂う一個の肉の塊に過ぎない。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:11:15.47 ID:Z1F3x+ey0

 そんな永遠の中に現れたのが、キョンくんだった。
 あたしは、キョンくんに……瞳に『何か』を宿したキョンくんに強く惹かれている自分を感じていた。
 一瞬だけ垣間見たキョンくんの『何か』は、あたしのつまらない毎日には存在しない『何か』だった。
 好きとか嫌いとか、そういう話題にはいままで縁遠かったあたしだから、この感覚が恋愛感情なのかどうかは、よくわからない。
 でも、この感情は、つまらないあたしの毎日を打開してくれるもの――あたしが待ち焦がれていたもののような気がしてならなかった。


「幽霊騒ぎなんて起こすヤツが許せないのさっ。あたし、こう思うんだよね。
 きっとそいつらは、こんなふうにみんなが幽霊を怖がっている様がめがっさおもしろくって、やってるんだろうって。
 だから、そいつらにガツーンと言ってやりたいにょろ。いい加減にしなさいってね!」
 あたしは、キョンくんにウソの理由を言っていた。
 出会って間もない相手に、あなたの目に惹かれました、なんて言うのははばかられた。
「ね? お願いだよ〜。あたし、一生懸命手伝うから。絶対役に立つと思うよ!」
 キョンくんは、しばし沈黙で答えを引き伸ばした。こりゃダメかな……と思っていると、予想通りキョンくんは首を横に振った。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:17:18.81 ID:Z1F3x+ey0

「やっぱり連れていくわけにはいかない。夜も遅いし、それに危険だ」
「ふう……わかった、わかったよ。キョンくんの言い分もよくわかるから」
 みっともないところは見せたくなかった。
 無理に作った笑顔でキョンくんの肩を叩く。
「じゃ、調査がんばってね、名探偵クン!」
「ああ」
 キョンくんはすまなさそうに片手を挙げて、サヨナラのあいさつを送った。

 キョンくんの両目にある『何か』。
 それは何なのだろうか?

「あたしが個人で調べるのは勝手にょろ?」
 思わず、言葉が口をついで出た。
「なっ!?」
「ウソ! 冗談さ。ジョーダン!」
 気色ばむキョンくんに笑ってそう付け加えたものの、あたしは、それを実行することを心の中で決めていた。
 誰のためでもなく、あたし自身のために。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:23:50.15 ID:Z1F3x+ey0

 キョンU

 ……カリカリカツカツカリカリカツカツ。

 チャイムが鳴り、午前の最後の授業が始まった。
 不気味な静けさが教室中を漂い、感情をなくしたような教師が、聞き取れない外国語を読み上げる。
 生徒がノートにシャープペンを走らせるカリカリという音と、教師が黒板にチョークで書きなぐるカツカツという音が混ざりあう。
 窓から流れ込む緩やかな風がゆらゆらと麻色のカーテンを揺らし、
 色のない無声映画のような授業風景を、
 より一層別世界のことのように感じさせている。
 俺は、細いシャープペンの芯をかちかちと伸ばし、意味もなくノートの上を走らせた。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:28:38.51 ID:Z1F3x+ey0

「交われ」

 あの声が、頭蓋骨の中を反射している。
 響く歌声。
 生臭い獣の匂い。
 絡み合う桃色の肉体。
 そして……『粒』

 とりわけ、あの『粒』――電波が脳を駆け巡る感覚は、忘れることが出来なかった。
 十数年間を生きてきて、初めて味わう奇妙なそれ。いや、数十年を生きようとも、普通の人間は体感することのないものなのだろう。
 なぜなら、それは俺の妄想にしか存在しない感覚なのだから。
 俺は頭を軽く振って、脳にこびりついたその不気味な感覚を振り払おうとした。
 まったく……。
 岡部のせいだ。
 俺は、真後ろの空席――かつてハルヒが座っていた席を見ながら、そう思っていた。
 どうして俺は、先生の依頼を受けたのだろうか。
 もし本当に先生が懸念するような危険な事件だとしたら、自分ごときが介入すべきではないんじゃないのだろうか。
 下手をしたら、身の危険だってありうるじゃないか。
 自分でも良くわからない。一応の調査が済めばバイト料くらいは出す、と先生は言ったが
 そんな小遣い稼ぎが目的ではないような気がする。強いて言えば――
 狂気。
 その言葉に、俺は強く惹かれたのだった。
 何かを軽くぶつけるだけで音を立てて崩れてしまう、ガラス細工のように脆い人間の精神。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:34:42.96 ID:Z1F3x+ey0

 ……カリカリカツカツカリカリカツカツ。


 精神病が発症すると、人はよく『壊れた』とかいう表現をする。
 それでいうと確かにハルヒも『壊れて』しまったことになる。
 でも、俺にとって『壊れる』ことにはもうひとつの意味があるのだった。
 つまらない現実を離れ、そのすぐ裏側にある、別の世界の扉を『開く』という意味が。
 狂気にとりつかれた者しか見ることの出来ない、自分だけの世界。苦痛が支配するのか、快楽が支配するのか。
 永久に形の定まらない混沌の世界かもしれないし、ただ果てしない虚無だけが広がる闇なのかもしれない、狂った精神の世界。
 薬物やアルコールによってではなく、その世界の扉を開く方法があるのだとしたら?
 望むにしろ、望まないにしろ、……いや、ハルヒは決して望んでいたわけではなかったのだろうけど……
 ……彼女はその扉を『開いた』のだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:39:53.03 ID:Z1F3x+ey0

「交われ」

 その世界が、たとえば昨晩の俺の夢のような世界だとしたら、その世界の住人である俺は、果たしてどうするのであろうか?
 きっと、名前も知らぬ女生徒を犯すくらいは当然の世界なのだろう。犯して、犯して、世界中の女を犯して……。

 カリ。

 突如、無機質な音が静止した。
 教室中に獣の匂いが充満していた。
 仰げば尊しが、教室の壁を反射して響き渡っていた。

 気が付けば、教室中の人間が、全裸で互いの身体を貪りあっていた。
 どこかで見たことのある風景。
 妄想が現実を侵食したのか?
 あるいは現実が妄想へと溶け込んだのか?
 真後ろの席から、顔中に包帯を巻いたハルヒが立ち上がった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:45:05.15 ID:Z1F3x+ey0

 ……チリチリチリチリ。

「おねがいですセックスしてくださいおねがいですセックスしてくださいおねがいですセックスしてくださいおねがいですセッ……」

「交われ」

 俺は、ハルヒの身体をリノリウムの床に叩きつけた。
 そして、彼女の服をズタズタに引き裂き、胸を引きちぎらんばかりにつかみ、秘所を壊れろとばかりにこね回した。
 ハルヒ!
 ハルヒ!
 彼女の身体の芯を貫きながら、俺は叫んだ。
 ハルヒ、何がお前に扉を開かせたんだ!?
 俺の叫びに応えるように、ハルヒの唇が開く。
「嫌ッ! いやいやいや……ああああ……ちゃん!」

 !?

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:50:20.02 ID:Z1F3x+ey0

 ハルヒの顔が、ぐにゃりと歪んだ。
 泣き叫びながら、ハルヒの顔は鶴屋さんの顔へと変化し、そしてさらに別の女の顔へと変化していく。
 そして、完全に変化を終えたその顔を見て、俺は全てを理解した。
 そうか。
 そうだったのか!

「愛しているよ」
 俺は、心の底から声を絞り出した
 身体を破裂させんばかりに充ち満ちたエネルギーを……
 破壊欲を、性欲を、独占欲を、自己顕示欲を、彼女のか細い身体に叩きつけていた。
 彼女は泣きながら、俺の身体の下で、びくびくと踊り狂った。
「俺ははお前をこんなに愛しているのに、なのに、なのにどうして?」
 何年も、ずっとしたいと思っていたことを、全部、した。
 何度も何度も、身体中の穴という穴に精液を流し込み、白目を剥いた顔に、痙攣する身体に、自分の精液を塗りたくった。
 犬が、電信柱に小便を引っ掛けるのと同じだ。
 どうして彼女が涙をながすのか、理由がわからなかった。
 だって、俺たちは愛し合っているのだから。
「いけないことなのかい? 誰かを好きになって、その愛を貫くことに禁忌なんてあるのかい?
 愛してる愛してる愛してる愛してるアイシテルアイシテルアイシテルアイシ……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 00:57:25.78 ID:Z1F3x+ey0

 キーンコーンカーンコーン

 ハッと夢から醒めた俺がペンを握った手をゆっくりと広げると、掌は自分でも驚くほどにじっとりと汗ばんでいた。
「続きは来週。しっかりと……」
 五十分の拘束から解放された生徒たちは、教師の言葉にも、そして妄想の世界に恐怖する俺にも、何の関心も払わずに雑談を始めていた。
 恐怖する自分。
 日ごと鮮明に浮かんでくる自分自身の妄想に、俺は身の毛のよだつような戦慄を覚えていた。
 だが、そんな心の裏側にかすかに脈打つ快感が潜んでいることも否めなかった。
 授業中、自分の妄想に酔いながら麻薬のような快感を得ている俺と、そんな自分に怯える俺。
 日ごと鮮やかさと臨場感を増す妄想と、色彩と音を失っていく現実。
 熱く脈打つ狂気と、乾いた砂漠のような理性。
 そして、自分だけの世界に旅立ったハルヒと、つまらない現実から離れられない俺。
 もしかすると、俺はすでに、ハルヒが踏み込んだ世界に足を踏み入れようとしているのだろうか?
 狂気と言う扉を開きかけているのだろうか?

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:03:00.64 ID:Z1F3x+ey0

「いけない、いけない、驚かせちゃったわね」
 その子はそう言いながら、くすくす笑いを続けた。

 その日の昼休み。
 俺はふと思い立って、屋上に足を運んだ。
 理由なんて特にないが、たぶん、風が心地よかったからだろう。
 誰もいないと思い込んでいた屋上には、先客がいた。
 雲ひとつない快晴を背負って。
 甘い春の風を身にまとって。
「いけないわね。くすくすくす……」
 俺はその笑い方を見て、ふと、あの日のハルヒに似ているなと思った。
 知っている子だった。

 朝倉涼子。

 去年、俺と同じクラスだった子だ。
「……朝倉さん、いつからそこに?」
「去年」
「え」
 俺は思わず息をひそめた。
「去年から……よ。キョンくん」
 そんな彼女のわけのわからない返答に言葉を詰まらせつつも、意識は自分の名前を覚えていてくれたという一点に集中していた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:09:40.31 ID:Z1F3x+ey0

 朝倉さんはとても綺麗な人だ。
 去年のクラスの中でも……いや学年全体で見ても、群を抜くほどの美少女だった。
 テレビCMに出ているモデルより、繊細に作られたフランス人形より、俺はそこに存在する朝倉さんの方がはるかに綺麗に思えた。
 近づき難いほどの美少女で、そのうえ、いつも本を読んでいる。とてもおとなしい女の子だった。
 古い文学小説風に言うならば、深窓のお嬢様ということだろうか。
 手を触れたら壊れてしまうガラス細工。そんなイメージが彼女にはあった。
 だから、俺は話をしたことがなかった。
 俺だけじゃなく、クラス中の男子生徒が、朝倉さんには声を掛け辛そうだった。
 その朝倉さんが、俺の名前を知っていた。
 ニックネームだったけども。
 俺は今日も頑張れる、そう思った。


「……去年って、一年前の去年?」
 偶然つながった朝倉さんとの接点を断ち切らないよう、俺は慌てて言葉を返した。
「そう。去年の今もここにいたと思うわよ。雨が降ってなければね」
 朝倉さんはそういって、またくすくすと笑った。
 俺もつられて微笑んだ。
 意外だった。朝倉さんがこんな冗談を言うなんて。
「晴れた日はよく届くから」
 朝倉さんはそういうと、子供のように無邪気に微笑んで、すっ、と空を見上げた。
 白い両手を太陽にかざす。
 真ッ青な空が、繊細な指の隙間からこぼれる。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:15:22.44 ID:Z1F3x+ey0

「ラジオとおんなじなの」
「え? なにが?」
「晴れた日はよく聞こえるのに、ザーザーと雨の降る日は雑音ばかりがザーザー聞こえるでしょ?」
「ラジオ?」
「どっちも同じザーザーだけど、ラジオのザーザーは雨音のザーザーじゃないわよね。
 雨粒がラジオの電波を吸い込んで、一緒に下水を流れていくから、うまく家まで届かないのよ。
 だから雨の日は、マンホールの蓋を開けて地下に潜ればよく聞こえると思うの」
 何を言っているのかさっぱりわからない。
 ラジオ? 電波?
「一体全体何の話なのか、俺には皆目見当もつかないな」
「電波の話だよ」
「電波?」
「うん。私、ここで毎日電波を集めているの。普通の電波を集めるときは金属のアンテナを使うけど
 私の電波は金属のアンテナじゃ集められないから、身体を使うの。私がアンテナになるの。
 アンテナは高いところに置かなきゃいけないでしょ?
 BSアンテナとかも、建物の一番高いとこに置くものね。
 だから私も、学校で一番高いところに来なきゃいけないの」
 そう言ってまたくすくすと笑う朝倉さんの目は、やっぱりあの日のハルヒの目に似ていた。
 精神に障害をきたして『壊れた』者の目。
 狂気と言う世界の扉を『開いた』者の目だ。
 俺にはわかる。
 いま、目の前にいる朝倉さんは、かつて俺が知っていた頃の朝倉さんではない。
 彼女は……いまここにいる彼女は『扉を開いてしまった朝倉さん』だ。
 しかし。
 言っている意味こそよく理解できなかったが、不思議と俺は、彼女が本当の話をしているのだということを信じて疑わなかった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:20:39.01 ID:Z1F3x+ey0

 ……チリチリチリチリ。

 脳髄と頭蓋事の隙間を跳ね回る粒子の焦燥感。
 俺は夢で電波を体感していたし、そして、彼女と同じ『扉』を開きかけている人間なのだから。
「キョンくんも……私とおんなじよね?」
「え?」
 朝倉さんが突然そんなことを言い出したので、俺は心を読まれたのかと思ってドキッとした。
「キョンくんもできるんでしょ?」
「え、俺が? なにを?」
「電波の受信」
 朝倉さんは、その綺麗に澄んだ目で俺を見つめた。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:25:27.06 ID:Z1F3x+ey0

 できる。
 俺は、そう答えてしまいたい衝動に駆られた。
 そう答えることで、電波と言う秘密を共有して、朝倉さんとより親密になれるような気がしたのだ。
 彼女の世界の……狂気の世界の仲間にしてもらえると思ったのだ。
 しかし、それは彼女を馬鹿にする行為のように思えた。
「俺にはないよ、そんな力」
 だから、俺は至極正直に答えた。
「朝倉さんと同じじゃなくて残念なのは確かだけどさ……」
「ううん、あるよ。キョンくんには。私なんかよりずっと強い力が」
 彼女はそう言いながら、そっと俺の手を握り、それを自分の胸元の高さまで持っていった。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:30:58.57 ID:Z1F3x+ey0

 ドクン。

 心臓が膨れ上がるのがわかった。
 触れ合うことがなければ、傷つけあうこともない。俺は、いままで、他の人間との接触を極力避けて生きてきた。
 もちろん、友達はいる。しかし、それは孤立を恐れるがゆえの共生関係であって、孤独を癒すための信頼関係ではなかった。
 白く、柔らかく、そしてちょっとだけ冷たい朝倉さんの手。
 俺の手を弱々しく握る朝倉さんの手は、俺の深い部分に優しく触れていた。
「今もそうだよ。私の集めた電気の粒が、どんどん、どんどん、キョンくんに流れ込んでいくでしょ。 ね?」
 朝倉さんは小首を傾げて、目を細めた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:36:57.19 ID:Z1F3x+ey0

 ドクン。ドクン。ドクン……。

 不思議な気分だった。身体の芯が熱くなり、全身の肌がうっすらと汗ばむ。
 脳にチクチクと刺激が走り、視界が弾むように揺れた。
 それは本当に彼女の言うように、電気の粒が俺の中に流れ込んでくるかのようだった。
 俺は緊張しているのだろうか?
 俺は興奮しているのだろうか?
 俺はこんなにも、朝倉さんのことを意識していたのだろうか?
 二人の後ろで、風がヒューッと、つむじを巻いた。風に舞った朝倉さんの髪が、さらさらと俺の頬に触れた。
 細く、柔らかな髪が……。
 風が通り抜けたあと、不思議なことに俺の鼓動は嘘のようにおさまっていた。

 僅かな沈黙が流れる。
 時間が止まっているような気がした。また、いつものあの感覚だ。
 色の無い、無声映画のような世界。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:40:50.90 ID:Z1F3x+ey0

「ね?」
 朝倉さんはそう言うと、握っていた俺の両手をゆっくりと開放した。
 その瞬間世界が元に戻っていくのを感じた。
「わかったでしょ?」
「……やっぱり、よくわからん」
「いいの、そのうち気づくから」
「気づくって、電気の粒の話か?」
「電波の力……すごく才能があるよ」
 朝倉さんは、なにやらそんなわけのわからないことを口にした。
「才能?」
「だから、そのうち、教えてあげる」
 無邪気に微笑んだ。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:45:38.38 ID:Z1F3x+ey0


「そういえば……キョンくんと岡部先生って仲が良かったんだね。私、知らなかったな」
 朝倉さんは唐突にそんな話題を振った。
「いきなりどうした」
「涼宮さんのこと、話していたでしょ?」
 俺は、再び驚愕した。
「誰がそんなことを?」
「聞いたんじゃないよ。届いたの、電波が」
 朝倉さんは、きっと誰かから噂を聞き込んだのだろう。秘密の漏洩源は……先生か?
 鶴屋さんか? あるいは別ルートか? いずれにせよ、これ以上噂が広まるのは防ぎたかった。
「あの……朝倉さん」
「涼子でいいよ。キョンちゃん」
 いままで「キョンくん」だったのが「キョンちゃん」になった。
 でも、いまの涼子さんになら、そういう呼ばれ方のほうがしっくりくるように思えた。
「涼子さん。誰からか聞いた……受信したことは誰にも言わないでほしいんだ」
「そうよねえ、極秘調査ですものね」
 涼子さんはフフフと笑った。
「あ、ああ。だから、なんだが」
「私、口軽いほうじゃないわよ」
「そうだと思う。安心だ」
「うん、いいわよ」

 キーンコーンカーンコーン

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:50:46.77 ID:Z1F3x+ey0

 その時、午後の授業を告げるチャイムが鳴った。
 午後一時だ。
「もう時間か。じゃあ、お願いな」
「うん、約束」
 涼子さんがすっと小指を差し出した。
「?」
「指きり。しないの?」
「あ、ああ」
 まるで汚れを知らない子供のようだ。
 俺の知らない一年間、いったい彼女に何があったのだろうか?
 先生には悪いが、俺はハルヒのこと以上に彼女のことを知りたいと思った。
 俺の指が、細い涼子さんの指と絡む。
 誰もいない昼休みの屋上。
 二人は指切りを交わし、俺はその場を後にした。
 甘い風が、涼子さんの髪の香りを運んでいた。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 01:55:41.22 ID:Z1F3x+ey0

 鶴屋さんU

 生徒会室は、文化部の部室がずらりと並ぶ廊下の一番奥に位置していた。
 もう二年もこの学校で生活しているけど、生徒会質にも文化部にも縁が無いため、こんな場所に来たのは初めてだったりする。
 放課後の廊下は妙に人気が無く、文化部の部室にも出入りする人はいない。
 文化部のことはよくわがらないけど、ちょうどヒマな時期なのかな?
「うう〜、どうしよう……」
 あたしは、しばし生徒会室の扉の前を旋回し続けたが、やがて覚悟を決めて姿勢を正し、ひとつ咳払いをして扉に歩み寄った。

 どしん。

「ったあ〜!」
 いきなり生徒会室の中から現れた人影と正面衝突し、あたしは廊下にぺたりと尻餅をついてしまった。
 見上げれば、大柄な男の子が、心配そうな面持ちであたしを見下ろしている。
「おケガはないですか?」
「あ、うん、大丈夫っさ!」
 あたしは慌てて乱れたスカートの端を直すと、起き上がりこぼしのようにぴょこん、と立ち上がった。


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:00:14.58 ID:Z1F3x+ey0

 古泉一樹くん。
 生徒会とは無縁なあたしでも、その名前くらいは頭にインプットしている。
 眉目秀麗スポーツ万能。エリート街道確約のT大学へ推薦が噂されて、今期の生徒副会長も務めている優等生だ。
 あたしたち二年女子の間でも人気は高く、廊下ですれ違っただけで黄色い嬌声をあげるミーハーな子もいるくらい。
 あたしは別にファンでもなんでもなかったけど、こうして間近で見ると、やっぱりカッコいいのは事実だ。

「すみませんでした。少々考え事をしていて……本当に大丈夫ですか?」
「めがっさ元気さ、ハイ!」
 あはは、と笑ってみせたが、緊張しているのがミエミエでなんだか気恥ずかしい。
「……ところで」
 古泉くんは言葉を区切ると、あたしの顔をのぞき込んだ。
「生徒会室に何か用がおありだったのでは?」
「あ、はい! あの……みく……朝比奈みくるさんにちょっとお話を聞きたくて」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:04:25.98 ID:Z1F3x+ey0

 朝比奈みくるちゃんは、小動物を連想させるような、おとなしそうな女の子だった。
「……」
 うつむき加減にあたしを見るその仕草が、あたしの第一印象があながち見当違いではないことを、はっきりと示している。
 生徒会室にはみくるちゃんのほかに二人の女の子がいたが、そのどちらも無言のままあたしたちにチラチラと視線を送っているのを見ると
 これが生徒会のノリなのかもしれない。
 体育会系のあたしには、なんともいたたまれない雰囲気だ。
 午後の柔らかい日差しが差し込む生徒会室に、気まずい沈黙が流れた。
 こんなときに古泉くんがいてくれれば少しは場も和むのだろうが、その彼も、あたしをみくるちゃんに紹介するとすぐにどこかに立ち去ってしまった。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:10:16.53 ID:Z1F3x+ey0

 かちかちかちかち……。

 壁に掛けられた何の飾りも無い時計が時を刻む音だけが、虚しく響く。
「……あの……わたしになにか御用ですか?」
 耐えかねたのか、みくるちゃんが口をきった。
「あ、自己紹介がまだだったっけ。あたし、2年C組の鶴屋! よろしくねっ!」
「はあ……」
 あたしは不審げな様子のみくるちゃんの両手を強引にとって、ぶんぶんと豪快に握手した。
 こういう時、自分の強心臓が頼もしくなる。
「一応、女子バレー部で主将やってるのさっ。あ、そういえば、女子バレー部の部費、今期はめがっさ減らされたにょろ〜
 まあ、去年の成績が散々だったから仕方ないけど、男子バレー部も似たような成績なのに、あたしたちより全然多いのが
 納得いかないなあっ! 体育館も、取り決め無視して男子が使っちゃうし……」
 呆気に取られた様子のみくるちゃんに気づいて、あたしはふと我に返った。
「……あ、ごめん。別に部費の交渉に来たわけじゃないのさ」
 みくるちゃんが、くすりと笑った。
「あの……」
「ちゅるやでいいよっ。そのほうが名前呼ばれてるって感じだから。
 そのかわり、あたしもみくるって呼んでいいかな?」
 あたしの微笑みに、みくるちゃんはやっと笑顔を返してくれた。
「それじゃ……鶴屋さん。私に何か……?」
「実は……」
 あたしは内心の緊張を抑えながら、ごくごくさりげなくその名前を切り出した。
「実は、涼宮ハルヒさんのことが聞きたくて来たにょろ」
 みくるが、身体をぴくりと小さく震わせた。
「みくる、ハルにゃんと仲良しだって聞いたから。
 それでなにか知っていることがあったら教えて欲しいなって思ってきたんだけど……」
「どうして涼宮さんのこと、調べてるんですか?」
 みくるちゃんの目は、潤んでいた。
 あたしは自責の念に囚われながらも、用意していた答えを自然に口にしていた。
「あたし、キョンくんの助手なんだ」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:15:56.80 ID:Z1F3x+ey0

 キョンくんが、幽霊騒ぎだけでなく、涼宮ハルヒさんのことも調べている。

 あたしは女子トイレネットワークで、そんな情報を入手していた。
 そしてみくるちゃんの名前は、キョンくんが聞き込みを行った人物として、あたしの名前と並んでトイレ情報に登場したのだった。
 涼宮ハルヒさん。ハルにゃんと呼ぶことにしよう。
 月曜日、突然、おかしくなった彼女の話題は、当然耳にしていた。
 ハルにゃんと面識は無かったし、聞いた話によると、「成績優秀、だが、変人」だったらしい。
 だから。
 あたしは、なんとなく彼女に親近感を抱いている。
 彼女が壊れてしまった理由がわかるから。
 あたしたちは、円形に敷かれたレールの上を、ただ道なりに歩んでいる。そこには意思も感情も介入する余地は無い。
 あたしたちにできるのは、ただ、ぐるぐるぐるぐる歩み続けるだけ。
 その無限軌道から外れることが『壊れる』ということならば、それにどの程度のダメージがあるというのだろうか?
 いっそ『壊れて』しまうほうが、どんなに楽だろう?
 あたしだけではなく、この学校中の……ううん、この日本に生きているみんながそうなるんだろうと思う。
 爆発寸前の自分に気づいているから、爆発してしまった人のことが理解できる。
 ハルにゃんが精神病になったとき、みんな結構すんなりと受け入れていたのが、その証拠だ。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:20:16.16 ID:Z1F3x+ey0

 そのハルにゃんの情報と、あたしが話して聞かせた幽霊三人組の情報――それがどこでどうつながっているのか、あたしはすっごく興味をそそられた。
 これには何かウラがある!
 あたしが送っている生活には、ウラなんてなにもない。
 パッと見の印象以上には何も隠されていない毎日を、あたしは送っているのだ。

 そんな毎日に、ウラがあった。
 埋蔵金の手がかりの一端をついにつかんだような気がして、胸がドキドキした。
 キョンくんは、やっぱりあたしとは違う毎日を送っているんだ――そう思うと、以前よりも彼に惹かれている自分が、そこにいた。

「ちょっとワケありでね、あたしも岡部先生に調査以来を受けたにょろ。
 で、この前キョンくんがお話を聞きに来たとき、あたし、どうしても抜けられない用事ができちゃってさ。
 キョンくんに後で教えてもらおうとしたら、直接みくるに聞いてたほうがいいだろうって思ったんだっ」
 もちろん、口からでまかせだ。
 こうやってキョンくんの足跡を追っていれば、そのうち彼の知らない何らかの情報を手に入れられるかもしれない。
 そうしたら、その情報を手に、キョンくんに合流しよう――。キョンくんのドキドキする世界の仲間にしてもらおう。
 キョンくんが瞳に隠している『何か』、それはきっと、あたしの知らない、楽しい毎日への鍵に違いないのだ。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:26:27.93 ID:Z1F3x+ey0

「そうですか……」
 みくるちゃんは、しばしの沈黙の後に静かに口を開いた。
 他の二人は、気を利かせたのか、席を外してくれている。生徒会室には、あたしとみくるちゃんだけだ。
「……近ごろは、誰も涼宮さんのことを口にしなくなりました」
 みくるちゃんが、呟くように言葉を綴った。
「さっきまでここにいた長門さんも、喜緑さんも……涼宮さんがいないことを当然のように受け止めているみたい。
 ここにおいてあった涼宮さんの持ち物も、もう全部どこかに片付けられてしまいました」
「……」
「だから、信じようと思えば、なにもかもが夢だったんだって信じることも出来ます。
 涼宮さんなんて最初からこの世界にはいなかった人で、あんな事件も最初から無かったんだって」
 ぽつり、と机を雫がうった。
 みくるちゃんの瞳からこぼれた、涙の雫だった。
 しばらくすると、みくるちゃんは机の上に小さなオルゴールを乗せた。
 彼女の手の中に握られていたのであろうその機械は、鈍い光を放って机の上にちょこんと鎮座した。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:32:12.35 ID:Z1F3x+ey0

「このオルゴール、亡くなった父が最後に私にプレゼントしてくれたものなんです」
「……」
「わたしが中学に上がってすぐのことでした。
 父が突然亡くなって、ずっと住んでいた町から引っ越したわたしは、本来行く予定じゃない中学校に入学しました。
 右を見ても左を見ても知らない子ばかりで、元々友達を作るのが苦手なわたしは、初めのうち、ほとんど誰とも口を利くことができませんでした。
 いつも校舎の片隅で、ひとりぼっちでこのオルゴールを聞いていたんです」

 膝を抱えて座るみくるちゃんに絡む、オルゴールの切ない旋律。
 あたしは、その光景を思い浮かべた。
「そんなある日、同じクラスの男子のグループが、
 いつもみたいに中庭の隅でオルゴ−ルを聞いていたわたしにちょっとした意地悪をしてきたんです。
 いま思うと他愛もない子供のいたずらなんですけど、私からオルゴールを取り上げて、それでキャッチボールしたり……。
 その時は、なんだか自分よりもお父さんがいじめられているみたいで……悔しくて。
 わたし、やめて、やめてって泣きながら……だけど、何もできずにその場にうずくまって……」
「ひどい! あたしだったら黙ってないね! スモチ漬けに……」
「……それを助けてくれたのが涼宮さんでした。男の子たちに暴力振るわれて、唇が切れていたのに、平気、平気って。
 ぜんぜん見ず知らずの私なのに、どうして? って、わたし、涼宮さんに聞きました。
 そうしたら『そのオルゴールの音が聞きたかったのよ』って。
 それ以来、涼宮さんは、ずっとわたしの一番のお友達でした」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:37:18.22 ID:Z1F3x+ey0


 かちかちかちかち……。

 みくるちゃんは、ぽろぽろと涙を流し続けていた。
 あたしは、生徒会室を訪れたことを後悔していた。
 あたしは自分の心の溝を充たすために、みくるちゃんの心の傷を爪でなぞっている。
 それは、許されることではなかった。これ以上、彼女を騙し続けるわけにはいかない。
「みくるちゃん。あたし……」
「……あれ、なんでこんな話、しちゃったんでしょうね。ふふ、わたしヘンですよね?」
 みくるちゃんは無理に笑ってみせると、ハンカチを取り出して涙を拭った。
「鶴屋さんのハキハキしたところが、なんとなく涼宮さんに似てたからかな……。
 こんな話、キョンさんには話さなかったんですよ。
 キョンさんに話したのは、涼宮さんがああなってしまう直前、どんな様子だったかってことで
 わたしは特に変わったところはありませんでした、って教えてあげただけなんです」
「そうなんだ。ありがとねっ。それじゃ……」
 パイプ椅子から立ち上がろうとしたその時だった。
「……こうして鶴屋さんが話を聞きにきたということは、キョンさん、わたしがまだ言っていないことがあるって気づいていたんですね」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:43:35.58 ID:Z1F3x+ey0

 ドキン。

 心臓が高鳴るのがわかった。
 あたしは、その高鳴りを悟られないよう、努めて平静を装ってみくるちゃんの次の言葉を待った。
「涼宮さんと秘密だよ、って約束していたから……」
「……」
「……涼宮さん、悩んでいたんです」
「悩んでいた?」
「涼宮さん、好きな人がいたんです」
 あたしはついに、キョンくんも触れたことのない秘密の核心に触れようとしていた。
「涼宮さん、その人のことが、好きで好きでどうしようもないくらいに好きで……
 ……毎日がとっても辛いって……電話でわたしに打ち明けてくれたんです。
 わたし、応援するよ、だから頑張ってって、涼宮さんに言いました」

 かちかちかちかち……。

「去年の秋ごろに、涼宮さん、思い切ってその人に告白したんです。
 その時は、隠れてわたしも後ろについていきました。
 結局、その人は涼宮さんの告白にOKしてくれて、涼宮さん、泣いちゃうくらい感動しちゃって……
 わたしも……一緒になって……泣いちゃって。でも最近、涼宮さん、その人とあんまりうまくいっていないみたいで……
 ……あんなことになる前日も、家まで行っていたみたいで……」
「教えて、みくる。その人って……」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 02:48:57.33 ID:Z1F3x+ey0

「朝比奈さん!」
 あたしとみくるちゃんは、弾かれるように背後の扉を振り返った。
「ああ、すみません。今日は何度も驚かせてしまっているみたいですね。
 朝比奈さん、例の野球部の室内練習場設置の件について相談したいことがあるのですが」
 沈みかけた太陽の光を背に、古泉くんが笑顔で立っていた。
「あ、古泉君……」
 みくるちゃんはもごもごと口篭ると、古泉くんから顔を背けるように俯いた。
「……ああ、楽しかったにょろ! みくる、さっき言ってたケーキ屋さん、今度ゼッタイ一緒に行こうね!
 それと、女子バレーの部費の件、めがっさよろしくっ」
 あたしは立ち上がりながら明るい声でそう言ったが、妙に静かな生徒会室には、その言葉は寒々しかった。
「それじゃ、お邪魔いたしました!」
 あたしは入り口に立つ古泉くんにお辞儀をすると、その脇を通り抜けて退室しようとした。
 しかし、古泉くんは笑顔のまま、そこを動こうとはしなかった。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:01:01.71 ID:Z1F3x+ey0

 どきん。

 心臓が再び高鳴った。
 黄昏に染まった生徒会室が、凍りついた。

 かちかちかちかち……。

「涼宮さんと」
 古泉くんが唐突に口を開いた。
「涼宮さんと同じ目だ」
「え……?」
「毎日が辛くて、生きていることが苦しくて……救いを求めている目」
 古泉くんはあたしを見ながら、微笑んでいた。
 それは、廊下でぶつかった古泉くんではなかった。
 姿形は何も変わらないけれど、何かが違う古泉くん。
 まがまがしい鮮血の赤に染まっていく生徒会室。
 鮮血は、白い壁に飛散して染み込んで……

 かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち……

「……いっそ壊れてしまったほうが幸せと思うことがあるでしょう?」

 かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち……

「何を聞いたんですか? 涼宮さんと朝比奈さんの関係?
 それとも、朝比奈さんが涼宮さんとずっ、と一緒にいた、いと思っていること。でしょうか大丈夫ですよいま決めました
 僕は友、情を引き裂くような冷酷な男ではないつもりですし鶴屋さんも同じ目をした仲間である以上……」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:07:31.26 ID:Z1F3x+ey0

 がちん!

 時計の分針が異様に大きな音を響かせて回転し、その瞬間に、鮮血の赤は夕日の朱色と変化し終えていた。
「……あ」
 魂の抜けたような声を漏らし、古泉くんは慌てて笑顔を作ってみせた
「申し訳ありません。少々疲れているんでしょうか」
 古泉くんは入り口から離れると、パイプ椅子にフラフラと腰掛けて額に手を当ててうなだれた。
「そ、それじゃ……失礼するよっ。みくる、またね」
 一刻も早く、この狂った空間から逃げだしたかった。
 あたしは、小走りに生徒会室を飛び出すと、黄昏に染まる廊下を全力疾走した。
 はやく、あたしが知っているあたしの世界に戻りたかった。
 体育館と、バレー部と、後輩たちと……。

「……また、後で会いましょう」

 古泉くんの声が、背後から廊下を流れてきた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:12:31.28 ID:Z1F3x+ey0

 キョンV

 俺は、屋上へと続く階段を昇っていた。
 涼子さんに会うためだ。
 この灰色の冷たい階段を昇りきって、重い鉄の扉を開こう。
 わずかに開いた屋上の扉を開こう。
 彼女はきっとそこにいる。
 細いさらさらの髪をなびかせて、真っ赤な赤銅色の夕日を浴びながら、口元だけの笑みで俺を迎えるだろう。
 彼女はきっとそこにいる。
 なぜだろうか。俺には不思議と確信めいたものがあった。

 先生から紹介された二人の女生徒――鶴屋さんと朝比奈さん――から情報を仕入れた俺は言いようのない感覚に押しつぶされそうになっていた。
 強いて言えば、疎外感とでも言うべき感覚。
 同じ高校二年生でありながらも、俺は彼女たちに、高校二年生であること以外の共通点を、なにひとつ見つけることができなかったのだ。
 バレー部のレギュラーで後輩に慕われ、誰とでもすぐ友達になれる鶴屋さん。
 心の底から大切に思う親友がいて、他人と痛みを共有できる心をもつ朝比奈さん。
 彼女たちは総天然色の世界に生きる人間であり、色の無い半狂気の世界に漂う俺とは根本的に異なる生物だった。
 そんな時、脳裏に甦ったのが、昼間の涼子さんの声だった。

「キョンくんも私とおんなじよね?」

 涼子さんはそう言っていた。俺と涼子さんは、おんなじだと……。

 心を閉ざした涼子さん……。
 俺と涼子さんがおんなじだから……いや、少なくとも、彼女が俺のことを同類だと思っているから、俺にだけ、わずかに心を開いてくれたんだ。
 そんな気がする。
 しかし、彼女の俺に対する仲間意識はいったいどこから来ているんだろう。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:17:59.60 ID:Z1F3x+ey0

「キョンくんも、出来るんでしょ? 電波の受信……」

 涼子さんはそんなことを言っていた。
 電波の受信。
 はっきり言って、俺にはそんな力なんかない。ないどころか、彼女が言う電波が何のことかさえ理解できない。
 だからそれに関しては、彼女の誤解としか言いようがないだろう。
 でも逆に、俺が彼女に対して抱いている仲間意識もある。
 それは……。

 狂気という世界の扉を『開いた』者ということだ。
 俺はそれを『開きかけた』。
 ハルヒはそれを『開いてしまった』。
 じゃあ、涼子さんは?
 彼女はあの扉を、どこまで『開いた』のだろうか?

 そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか階段を昇りきってしまっていた。
 目の前には重い鉄でできた灰色の扉がある。
 わずかに開いた扉の隙間から、真っ赤な夕日が差し込んでいた。
 俺は扉を開いた。
 沈みかけた太陽が空いっぱいに膨張し、眼窩広がる町並みを赤銅色に染めていた。夕日と影のコントラスト。
 鮮やかな赤い光が目にしみる。
 真っ赤な夕日に溶け込むように、ぽつんと黒い人影が立っていた。
 俺はゆっくりと、人影に近づいた。
 彼女は最初から、じっとこっちを見ていた。
 まるで俺の来訪を初めから知っていたかのように。吹き上げる冷たい風が、彼女の細い髪と衣服の裾をなびかせている。
 そして……。
 そして、やっぱり。
 涼子さんは口元だけの笑みで俺を迎えた。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:23:50.65 ID:Z1F3x+ey0

 夕焼け空。灼熱の溶鉱炉からすくい上げたような太陽が、コンクリートの床の上に俺たちの影をくっきりと映し出している。
 照射角の低い陽射しが落とす二人の影は、互いの足元から長く伸びて、やがてその先端は溶け合うように重なり合った。
 溶鉱炉の中の金属が、飴色になって溶け落ちるような赤。火花の赤。線香花火の赤。綺麗で、鈍い赤。
 この空の色は、涼子さんに似ている。
 童女のようなあどけなさと、どろりとした狂気の二面性を持つ、そんな涼子さんに。
 涼子さんは端の金網にもたれて俺をみていた。
 彼女は風に乱れる細い髪を片手で押さえ、ゆっくり目を細めると、優しく微笑んで言った。
「やっと、来てくれた」
 俺は立ち止まる。
「……来てくれたって……俺がか?」
「うん。ずっと呼んでたんだよ」
 すべてが赤で彩られた世界。
 涼子さんの髪も、肌も、制服も、目も、鼻も、口も、爪も……。
 綺麗で、鈍い赤。
「呼んでた?」
「うん。今もね、……私はここよ、ここにいるから早く来てって、キョンちゃんを呼んでたの」
 幼い童女のような無垢な笑いを浮かべて、涼子さんはそんなことを言った。
「ちゃんと、届いた?」
「なにが?」
「電波」
「でんぱ……? あ、ああ、例の電波のことか……」
 昼間の涼子さんとの会話を思い出した。
「電波でメッセージを送ってたの。ちゃんと届いた?」
「メッセージを……」
 涼子さんは笑顔のまま、そう言った。
 本気なのか、からかっているのか、俺にはそれさえもわからない。
「……スマン、俺には何も届かなかった。ここへ来たのは、ただの偶然なんだ」
 俺はあの時と同じく、正直にそう答えた。
 涼子さんにウソはつきたくなかった。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:30:14.90 ID:Z1F3x+ey0

「涼子さん。昼間も言ったけど、俺は電波を感じたりとか、そんなチカラ持ってなどいない」
 俺はなんだか申し訳ない気持ちになった。
 涼子さんに対して奇妙な仲間意識のようなものを感じていた俺は、彼女と同じ世界を共有できないことが悔しかった。
 たとえそれが、彼女の内面だけに存在する幻想であったとしても。

 俺は伏せていた目を上げ、涼子さんを見た。
 それでもなお、彼女の目はやさしかった。
 俺の中にあるどろどろしたものすべてを、みんなまとめて覆い隠してくれそうな、深い深い夜のような瞳。
「でも、キョンちゃんが来てくれたってことは、届いてたってことよね」

 涼子さんはそう言った。
「……だったら、そうなのかもしれない」
 俺もそう思いたい。
 俺がここへ来たのは、涼子さんの不思議な誘いによってなのだと……。
 涼子さんはもたれていた金網から身体を起こし、くすりと微笑むと、ゆっくり俺のそばへと歩み寄ってきた。
「すぐだよ。きっとそのうち、キョンちゃんにもわかるようになるから……」
「!」
 彼女はささやくようにそう言いながら、スッと俺に身体を重ね、その細い両手で俺の頭を抱え込んだ。
 ひんやりと冷たい彼女の手が、俺の後頭部を優しく撫でる。
 涼子さんのいきなりの行動に、俺は戸惑いを隠せなかった。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:35:58.57 ID:Z1F3x+ey0

 涼子さんは俺の胸に顔を埋め、そのまま動かなくなった。
 涼子さんの愛らしい顔。少し指を伸ばせば、その唇にも触れることができる。
 時間がゆっくりと過ぎていく。
 風になびいたさらさらの細い髪が、いたずらげに俺の頬をくすぐった。
 押し当てられた柔らかな胸のふくらみから、規則正しい彼女の鼓動が、波紋のように伝わってくる。
 熱くほてった俺の身体とは対照的に、冷たい寒風に吹かれていた涼子さんの身体は、すっかり冷え切ってしまっていた。
「……涼子さんの身体、冷たいよ」
「キョンちゃんはあったかい……」
 熱いお湯に氷を浮かべ、二つの対立するエネルギーがゆっくりと混ざり合っていくような感覚。
 心地良い香りがし、俺は、まどろむように安らいでいく自分に気付く。涼子さん……。
「感じて……」
 彼女は、息がかかるくらいに顔を近づけると、そうささやいた。
 吐息が首筋にかかる。「……え?」
「電気の粒を……空気中にいっぱい漂ってる不思議な電気の粒を……。私がアンテナになるから……」
「り、涼子さん……?」

 その時、ぐにゃりと世界が揺れたような気がした。

 突然俺の心臓が、ドクンドクンと早鐘のように高鳴り、決壊したダムのような勢いで血液が体中を駆け巡った。
「な、なんだ……どうしたんだ」
 脳にチクチクと刺激が走る。例の、電気の粒が流れるような感覚。
 身体中にたくさんの熱い何かが集まってくるような奇妙な錯覚を覚え、俺の肌はじっとりと汗ばんだ。
 自分の身体が熱い。炎のように熱い。
 逆に涼子さんの身体は、一層冷たく感じる。まるで氷のようだ。

「りりりりり……よよよよよ……ううううう……こここここ……」
 俺の視界が、壊れた八ミリフィルムのように揺れだした。
 おれは 無我夢中で涼子さんの身体を抱き寄せ、彼女の柔らかな胸に顔を埋めた。
 冷たいものが俺の頬を濡らす。 いつのまにか、俺の目から涙が溢れていた。
 やがて、俺は意識を失った。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:40:15.90 ID:Z1F3x+ey0

 ……暗い闇の中で、誰かが泣いている。
 ひっく、ひっく、……。
 嗚咽が聞こえる。

 子供?
 ……いや、違う。
 女の子だ。

 ……ポツ。
 雫? ……雫だ。
 雫が落ちた。涙の雫が……。

 雫はゆっくりと水面に落ち、ゆるやかな光の波紋を描いた。

 波紋の光に照らされて、うずくまる女の子の姿が浮かび上がった。
 それは……涼子さんだった。

 涼子さん。
 どうして泣いているの?
 何が悲しいの?
 だけど、俺の声は彼女には届かなかった。

 また、輝く光の波紋が広がる。
 暗闇が照らされ、涼子さんの姿が浮かび上がる。
 袖の破れたセーラー服。乱れた髪。そして、涙。
 涙の雫。
 涼子さんは汚れ、そして泣いていた。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:46:04.21 ID:Z1F3x+ey0

「……ごめんよ。涼子」
 闇の向こうから、そんな声がした。
 やさしい男の声だった。
「……ごめんよ。涼子」
 声は繰り返す。
 だけど涼子さんは、うずくまって泣いているだけだった。

 俺は、この声を聞いたことがあった。
 妄想の中で、俺はこの声の持ち主だったことがある。
 そして俺は……。
 彼女を暴力で犯した。

「涼子……僕は、こんなにお前を愛しているのに、なのに、なのに、どうして……」
 涼子さんの頬を伝って落ちた雫が、水面に輝く光の波紋を描く。
「いけないことなのかい? 誰かを好きになって、その愛を貫くことに禁忌なんてあるのかい?」
 汚れの無い、純真で無垢な声。
 声は涼子さんを優しく包み込む。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 03:49:23.59 ID:Z1F3x+ey0

 でも、涼子さんの涙の雫は、耐えることなく光の波紋を描き続けた。
「……涼子。愛している。涼子。愛している。」
 涼子さんの方が、嗚咽交じりに震えていた。
「……涼子。愛している。涼子。愛している。涼子。愛している。涼子。愛している。」

 もつれて膠着していたロープが、のたうちながら激しくほぐれていくのがわかった。
 ただの落書きだと思っていた抽象画に、実は意味があったことを俺は知った。
 俺の妄想はただの妄想ではなかった。
 俺は、その声を……声の主の記憶を『受信』していたのだ。

 声は呪文のように、その言葉を繰り返した。
「リョウコ。アイシテル。リョウコ。アイシテル。リョウコ。アイシテル。リョウコアイシテルリョウコアイシテルリョウコアイシテ……」
 声は壊れた機械のように、その言葉を繰り返した。
 俺も壊れた機械のように、その言葉を繰り返した。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:00:48.33 ID:Z1F3x+ey0

 鶴屋さんV

 赤のペンキ缶を蹴り転がしたような体育館。
 ゴム靴っと床の摩擦が奏でる甲高い音が消える。
 ボールが跳ねる低い音が消える。
 明るい笑い声が消える。
 ひとつずつ音が消えていき、やがて静寂と夕日だけが体育館を支配する。
 そしてついには、静寂だけがのこった。

 バン

 バスケットゴールに弾かれたバレーボールが、転々と体育館の隅へと消えた。
「ちぇっ。幸先悪いなあ」
 気持ちよくシュートをきめての探索開始といきたかったけど、やっぱりあたしはバスケには向いていないらしい。
「よしっ、そろそろ初めよっか!」
 あたしは頬をぴしゃりと叩いて気合を込め、ジャージの上にふわりと黒いジャンパーを羽織った。
 厳しい練習のガス抜きの意味も込めて、今日は練習を早めに切り上げている。
 後輩たちは、この前散々待たせたお詫びとしてヤックのサービスセットを要求したが、あたしは「大事な用事があるから」とそれを断った。
 ウソはついていない。
 これは、あたしにとって、とっても大事な用なのだ。
 幽霊騒ぎを起こしている連中をとっ捕まえてギャフンと言わせる――目的を説明してしまうと、全然大事な用には思えないかもしれない。
 でも今のあたしにとって、この深夜の大冒険はとっても大事な用なのだ。無意味なんかじゃない。

 だって、こんなにドキドキしているんだもの。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:05:28.19 ID:Z1F3x+ey0

 結局、ハルにゃんと幽霊騒ぎの接点は、謎のままだった。
 でも、あたしはキョンくんも知らない、いくつかの情報の入手に成功した。
 ハルにゃんが、古泉一樹と付き合っていたこと。そして、二人の仲はうまくいっておらず、精神に異常をきたす前日、ハルにゃんは古泉くんの家を訪ねていたこと。
 あたしはこの事実をキョンくんに伝えたくてウズウズしていた。
 あたしは、生徒会室を離れた後にE組に直行したが、キョンくんはもうそこにはいなかった。
 でも。カバンが置きっぱなしになっていたところを見ると、どうやらまだ学校内に残っているということを察することができた。
(今晩、調査を決行するつもりなんだ!)
 あたしは結構な時間、E組の周りをうろついてキョンくんを待った。
 しかし、どこにいったのやら、キョンくんがカバンを取りに戻る様子はない。
 結局、あたしはひとりで夜の学校を調査することにした。
 調査中にあたしとバッタリ出会ったら、キョンくん、どんな顔をするのかな?
 しかも、そこであたしが口にした衝撃事実が、キョンくんの抱えている謎の事件の解決の鍵だったら……。
 あたしはもう、つまらない毎日を送るその他大勢の人間じゃないんだ。
 キョンくんと同じ、わくわくする毎日に生きる人間に生まれ変わったんだ!


 調査のポイントは、もう決めてある。
 ポイントはあの怪しげな三人組を見かけた第二体育館周辺――闇雲に探し回るよりもはるかに効率がいいだろう。
「ちゅるや秘密アイテムそのいちっ。スーパーペンライト!」
 あたしはポケットから、♪テッテレー、という効果音をつけて全長十五センチほどのペンライトを取り出した。
 まあ、何がスーパーかって聞かれると困るんだけど……。
 しかし、意気揚々とスイッチを入れて、思わずあたしは凹んだ。
 夜の闇はペンライト程度で駆逐できるようなシロモノではなかったのだ。 にょろ〜ん。
 まあ、いい。
 空を見上げれば、今夜も満月があたしを照らしてる。

「!?」

 あたしは思わず息を飲んだ。
 あたしの眼前に、巨大な月が浮遊していた。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:11:11.08 ID:Z1F3x+ey0

 乾ききった灰色の大地。
 深く穿たれたクレーター。
 月面調査隊の足跡。
 砂の一粒まで、あたしは見ることが出来たし、手を伸ばせば、ざらりとそれを握ってとることもできた。
 月から、目に見えない粒子が放射されているのが見えた。
 月の核で生まれた月の粒子は、ぐるぐると渦を巻きながら地球に降り注ぐ。
 目に見えない雪のように、チリチリチリチリと地球に降り注ぐ。
 地球の科学者の誰も気付いていないが、大気成分には確かに月の粒子が含まれていてそれは人間の感情すらをも左右する力を持つ電気の流れであり……

 ……チリチリチリチリ。

 急に満月が翳ったように思えた。

 気が付けば、月はいつものように、宇宙の彼方に遠く漂っていた。
「いまの感じ、なんなのさ……?」
 わけもなく、ぞくっと身体が震えた。
 とたんに怖くなった。
 さっきまでの舞い上がるような高揚感は、一片たりとも身体に残ってはいなかった。
 あるのはただ、冷たい恐怖と重い後悔だけだ。
 はっきり言って、お化けだとか心霊だとかは得意なほうではない。
『深夜の大冒険』なんて金メッキを吹き付けたものの、メッキはしょせんメッキに過ぎず、剥がれてしまえばそこには剥き出しの恐怖だけが残ってしまった。
 目に入る何もかもが、奇怪に歪んでねじくれて見えた。

 ぼんやりと闇に浮かび上がる狂い桜。
 ぽっかりと口をあけた体育館の入り口。
 天空めがけてそびえたつ黒い校舎。
 粒子を放つ狂った月。

「はあ、はあ……」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:15:16.77 ID:Z1F3x+ey0

 息を吸い込むたびに心臓が膨らみ続けていくような苦しさを覚え、あたしはいつのまにか砂利の上にへたりこんでいた。
 自分の身体なのに、どこもかしこもが思い通りにならない。胴体に、神経の通わないゴム製の四肢を縫い付けられたような不気味な感覚。
「あ……あ」
 スカートの上に、ぽたぽたと染みが生まれた。 あたしは、いつのまにか泣いていた。
 ぽろぽろと大粒の涙が、こぼれおちた。 感情すら、すでにあたしの管理下にはなかった。

 ざり。

 背後から、砂利を踏みしめる音が聞こえた。

 ざり、ざり。

 音は徐々にあたしに接近し、

 ざり、ざり、ざり。

 そして振り返ろうとしても首が動かなかった。
 足音がすぐ後ろで止まり、時間が凍りついた。

 キョンくん、助けて!
 あたしは声にならない声を絞った。

「鶴屋……さん?」
「どうしたんですか、こんな夜中に」

 力が入らないと思っていた全身から、一気に力が抜けた。そして、それと同時に、あたしの身体は完全に自由を取り戻していた。
 振り返ると、学生服姿の古泉くんと、制服の上に防寒具を羽織ったみくるちゃんが、すっとんきょうな顔であたしを見下ろしていた。
「どうしたの、鶴屋さん。こんなところに座り込んで」
「みくる、みく……る……」
 あたしは砂利の上にへたりこんだまま、子供のようにワンワンと泣きじゃくった。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:20:39.85 ID:Z1F3x+ey0

「つまり、あなたは幽霊騒ぎを調査していた、と」
 あたしは古泉くんとみくるちゃんに、事の次第を全部説明した。
 騙されていたと知ったみくるちゃんは最初ムッとしていた様子だったが、そのうちクスクスと笑って言った。
「ちゅるやさん、キョンさんのこと好きなんですね?」
 ちょっと喋りすぎたことを後悔しながら、
「あ、これ……ありがとねっ」
 あたしは、涙で濡れたハンカチを古泉くんに返した。あ、洗濯してからのほうが……。
「別にかまいませんよ」
 あたしの表情を読んだのか、古泉くんは笑いながら、ハンカチを折りたたんでポケットにしまった。
 夕方の、あの怖い古泉くんの姿はどこにもない。本人の言うとおり、あのときは疲れていただけなのだろう。
「ところで鶴屋さん。誰か……人影を見かけませんでしたか?」
 古泉くんの言葉に、みくるちゃんの顔がさっ、と真顔に戻る。
「人影にょろ?」
「実は……」
 古泉くんはみくるちゃんにちらりと視線を送ると、沈痛な面持ちで言った。
「涼宮さんが、病院からいなくなったんです」
「ハルにゃんが!?」
「あれから、古泉君と一緒に涼宮さんが入院している総合病院に行ったんです。
 そうしたら、涼宮さん、お母さんが飲み物を買いに席を外したその一瞬のうちに、ベッドから姿を消しちゃってて……」
 月光の下ですら確認できるほど、みくるちゃんは青ざめていた。その肩が、細かに震えている。
「涼宮さん、とても歩けるような状態じゃないんです。
 涼宮さんがジャケットを羽織って病院を出て行くのを見たっていう患者さんがいて……お母さん、すごく取り乱しちゃって……」
 涙ぐむ、みくるちゃんに変わって、古泉くんが後を続けた。
「そこで僕たちは、涼宮さんが学校に来ているんじゃないかと思って、急いでここに引き返してきたんですよ。
 彼女にとってこの学校は……生徒会室は思い出深い場所ですからね。
 ああなってしまったからこそ、心に残っている場所に足を向けるんじゃないかと」
「体育館のほうには誰もいなかったよっ!」
 いきなり遭遇した緊急事態に興奮しながら、あたしは古泉くんに報告した。
 古泉くんは深くうなずくと、視線をきっ、と校舎に向けた。
「生徒会室に急ぎましょう」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:25:33.37 ID:Z1F3x+ey0

 あたしたちは、夜の廊下を無言で走った。
 上履きが廊下を叩くパタパタという音と、三人分の荒い息遣いが、廊下の奥の闇へと吸い込まれて消えていく。
「着いた」
「……中、真っ暗にょろ……」
 臆病虫がそぞろ騒ぎ出して、あたしはドアのガラスごしに生徒会室の中を覗き込んだ。
 しかし、曇りガラスを通してでは、中の様子は一切うかがうことはできない。
「……静かに……開けますよ」
 古泉くんがささやき、みくるちゃんが息を飲んだ。

 がらっ。

 生徒会室の扉は、無神経なほどに大きな音を立てて開いた。

 ぴちゃ、ぴちゃ。

 淡い月光に、生白い塊が、ぼんやりと浮かび上がった。
 奇妙な音を立てて蠕動するそれが、全裸で絡み合う二人の女の子だと言うことを理解するには、さらに数秒が必要だった。
「!」
 ショートカットの女の子が、ウェーブのかかった女の子の……あそこ……に顔を埋めている。
 逆に、ウェーブのかかった女の子は、ショートカットの女の子のあそこを舐め回していた。
「な……長門さん? 喜緑さん!?」
 みくるちゃんが、呆然と立ち尽くしながら、その子たち――夕方あたしが訪れたときに生徒会室にいた二人の女の子――の名前を呼んだ。
 一糸まとわぬあられもない姿の二人は、汗にまみれた身体を重ねあい、愛しそうに互いの身体を舐め回している。
 そしてその指は、互いの下半身へと伸び……。

 ぶちゅっ、ぶちゅっ!

 私は思わず目を逸らした。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:30:45.17 ID:Z1F3x+ey0

「……ああッ……あんあん……はふぅ……」
「……はあッ……はんッ……ひあッ……」

 二人の荒い息遣いと、液体を啜る嫌な音が、暗闇に響く。
 ウソでしょ? これって何? なんでこんなことしてるの?
「……長門さん、喜緑さん……」
 古泉くんが乾いた声で名前を呼ぶと、二人は互いのあそこからゆっくりと顔を上げた。
 唇からだらしなく糸を引いた液体が、月光にきらりと輝いた。

 昼間とは違う顔が、そこにはあった。
 どんよりと濁った目。感情を無くしたゾンビみたいな顔。

 あたしは彼女たちを見たことがあった。
 それは、狂い桜の木の下で振り返った女の子たちだった。

 ドクンッ!

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:35:19.87 ID:Z1F3x+ey0

「!」
 その瞬間、あたしの心臓の鼓動が高まった。
 ドクンッ、ドクンッ!
 血液が激しく身体中を駆け巡った。
 頭にチクチクと刺激が走る。
 脳の前から後ろへ、電気の粒が流れるような感覚があたしを襲う。


 チリチリチリチリ……。


 あたしの目の前に、無数のつきの粒子が漂っていた。

 月の粒子は、磁石に導かれる砂鉄のように、一斉に右に左にと動き回った。
 そして、月島くんの元にざあッ、と凝縮したかと思うと、一気にあたしの脳へと射出された。
「ひあッ!」
 身体が弓なりに跳ね上がる。身体が電気に痺れたかのように痙攣する。
 みくるちゃんもまた、頭を抱えて床にうずくまり、びくびくと身体を震わせている。
「あああ、ああああああッ! たたたた助けててててて!」
 涙と涎と鼻水を垂れ流して床をのたうち回りながら、あたしは古泉くんに哀願した。
「あきらめちゃダメですよ、鶴屋さん。ポジティブが身上なんでしょう?
 ほら、努力しろよ、ははははははは!」
 古泉くんの哄笑を遠くに聞きながら、あたしはどろどろに溶けていった。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:40:16.23 ID:Z1F3x+ey0

 キョンW

 俺は脳髄に、二人の人間の電波を同時受信していた。
 ひとつは、涼子さんの電波。
 そして、より強烈なもう一つの電波が、いま、俺の身体を支配しようとしていた。
 それは、毒に満ちたまがまがしい電波だった。

 涼子さんのか細い身体に獣欲を叩きつけたい。
 涼子さんの身体中の穴という穴に精液を流し込みたい。
 白目を剥いた涼子さんの顔に、痙攣する身体に、精液を塗りたくりたい。

「りょ、涼子さん……俺から……離れて」
 俺は必死に自分の中の欲望と戦っていた。
 涼子さんの柔らかな胸の膨らみが、目の前で呼吸に合わせて上下している。
 このままむしゃぶりついて握りつぶすのは簡単だし、薄布一枚を剥がせばもっと甘美なものがそこには息づいている。

 交われ!
 何を恐れる?
 僕はもう、すでに一度彼女を犯しているじゃないか?

「……キョンちゃん、苦しいの?」
 涼子さんは心配そうな表情を浮かべて、俺の顔をのぞき込んでいる。
 桜色の唇が開き。真珠のような白い歯と。その奥でうごめく生々しい肉片がのぞいた。
 軟体動物のようにひくつくその舌は、涼子さんが分泌した唾液で、てらてらと照り輝いている。

 交われ!
 かつてそうしたように、ペニスで唇をなぶってやれ。
 かつてそうしたように、精液を歯茎に塗りたくってやれ。
 かつてそうしたように、舌で味わった味を報告させてやれ。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 04:45:43.83 ID:Z1F3x+ey0

 理性が、劣情に屈しそうだった。
 ガラスの理性にひびが入っていく。
 暴れまくる何者かの電波は、まもなくそれを破壊して、この俺を支配してしまうだろう。
 そして俺は、力づくで、涼子さんを犯してしまうだろう。

 しかし、俺はわかっていた。
 これは俺の意志なのだ。
 涼子さんを犯したいと思う感情、汚したいと思う感情。
 ……それは俺自身に潜む、俺自身の欲望なのだ。
 電波は、それが暴走するきっかけを作っているにすぎない。

 肌がじっとりと汗ばんでいた。
 やってしまえ、と声がする。
 彼女だってまんざらじゃないはずだ。
 数時間前に会話しただけのお前に、どうして彼女はこんなにも優しいんだ?
 犯してほしいからじゃないのか。

 そんな、吐き気を催すような声が聞こえる。
 だがそれは、甘く官能的で、心地良い誘惑だった。
 涼子さんを犯し、涼子さんを汚し、涼子さんと交わりたい。
 限界だった。
 これ以上、自分の欲望を抑制することはできない。

「ごめん、涼子さん。俺は、俺はもう……」
 そのとき、涼子さんの優しい声がした。
「助けてあげる、キョンちゃん」
 直接、頭の中に響くような声だった。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:00:53.83 ID:Z1F3x+ey0

「助けてあげるよ……私が」
「タスケル……?」
 俺は必死に声を絞り出した。
「キョンちゃん、私を呼んでた。毎日毎日、助けて、助けてって……私を呼んでた」
 涼子ちゃんは、ぎゅっと俺を抱きしめた。
「消えちゃう、消えちゃうって、子供みたいに泣いてたよ。
 それで電波になって、私に伝わってきたの。毎日、毎日……私に届いてた」

 消えそう?
 俺が?
 毎日?
 泣いてた?
 何が悲しくて?

 ……だけど、本当は答なんかとっくにわかっている。
 それは、俺自身が一番よく知っているじゃないか。

 俺という存在そのものが、現実世界から消えそうになっていたんだ。

 毎日、毎日、同じ時間が同じ映像で繰り返されているような……そんな奇妙な感覚。
 やがていつの頃からか俺は、この退屈な世界から音と色彩が失われてしまっていることに気付く。
 そんな中で、俺は独りぼっちで泣いていた。
 消えちゃう、消えちゃうって、子供みたいに泣いていた。
 そして……見知らぬ誰かに、助けを求めていた。

「だから助けてあげようって思った」

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:05:24.91 ID:Z1F3x+ey0

 涼子さんのひんやりと冷たい手が、俺の背中を優しく撫でる。
「私が助けてあげる。その苦しみからも……兄さんの電波からも……ひとりっきりの寂しさからも……助けてあげるよ」
 兄さんの電波!?
「りょ……涼子さん……」
 彼女は今、確かに「兄さんの電波」と言った。
「そうか……そうなんだな……」
 そんな彼女の言葉を聞いて、俺にはすべてがわかったような気がした。
 強いアンテナ能力を持つ俺は、無意識のうちに、涼子さんのお兄さんの電波を受信していたのだ。
 妄想と信じていたのは、涼子さんのお兄さんの記憶だったのだ。
 ということは……。
「涼子さん……」
 涼子さんはくすりと優しく微笑むと、柔らかな唇を俺に重ねた。
 ほんの短い接吻のあと、涼子さんはゆっくりと唇を離した。
「……キョンちゃんの好きにしていいよ……」
 彼女はすでに、俺の心の中の欲望に気付いていた。……知っていて、俺に身体を許してくれた。
「キョンちゃんの……こと……好きだから……」
 ……そして、心も。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:10:41.42 ID:Z1F3x+ey0

「……涼子さん」
 俺は燃え上がった劣情に身を任せ、脆く壊れそうな彼女の細い身体を、強く、強く抱き締めた。
 俺の心の中から、ドス黒い欲望が徐々に消え失せ、かわりに暖かな充足感が沸き上がってくる。
 彼女を犯したいというサディスティックな感情が、純粋に彼女とひとつになりたいという気持ちに変わる。
 いま俺は、胸の中にいる涼子さんが、たまらなく愛しかった。
 俺の震える指先が、涼子さんの制服のリボンをゆっくりとほどいた。
 真っ赤なはずのリボンが、月光と混ざり合って、暗いブラウンに見える。
 それはシュルリと音を立てて彼女の襟元から抜け、ひらひらと二人の脇に舞い落ちた。
 涼子さんはなにやら神妙な面持ちで、不安そうに俺を見つめている。
 俺の心臓が、激しく高鳴った。
「りょ、涼子さん……す、好きだ」
 それは、俺が初めて口にした、涼子さんへの愛の告白だった。
 思えば、他人に自分の本心を告げたことなど、今までなかった。
 これが、初めての告白だった。
 俺の指先が彼女の胸元に伸び、制服に触れる。俺は腰のあたりから徐々に、上服を捲り上げた。
 胸元がはだける。
 涼子さんの白い肌が、屋上の冷たい空気に触れる。
 彼女は一度、ぶるっと身体を震わせた。
 俺の視線は、そんな涼子さんの純白のブラジャーに釘づけになっていた。
 俺は震える手のひらで、そっと彼女の乳房に触れた。
 柔らかく、温かなそれは、俺の手の中から溢れているほどの、わがままな大きさだった。
 俺のてのひらが、恐る恐る涼子さんの胸に圧迫をかける。
 彼女は「あっ……」と小さく声をあげた。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:16:05.29 ID:Z1F3x+ey0

「わ、悪い。痛かったか?」
 俺は自分の心臓の激しい高鳴りを聞いていた。
 涼子さんはゆっくりと、首を横に振る。
「ううん……きもち……いいよ……」
 甘く切ない声。
 俺の股間がどくんどくんと激しく脈打った。
 俺は涼子さんの白いブラジャーの端をつかむと、ぐいっとそれを上にめくり上げた。
 情けないことに、俺はブラジャーの外し方を知らなかった。
 涼子さんの白い乳房が露になった。
 淡くほのかな月光を浴びた涼子さんの白い肌は、なんともエロチックに見えた。
 すべすべと滑らかな双丘の先端に、つんと、桜のつぼみのような乳首がある。
 俺は唇を寄せ、それに口付けた。
 最初に唇でくわえたときはクニクニと柔らかかったそれも、舌の先端で舐めているうちに、やがては口の中でつんと硬くなった。
 刺激を受けると勃起してしまう。男の自分にはそれが素直に理解できた。
 俺の右手が、涼子さんの柔らかな乳房を鷲掴みにする。力が入らないよう、優しく優しく揉む。
 今度は手のひらの中央で、涼子さんの乳頭が勃起していくのがわかった。
 そのまましばらく、俺は夢中で涼子さんの胸を揉んだり、吸ったりし続けた。
 彼女は時折、「んっ、んっ」と切ない声を上げながらも、その手で優しく俺の髪を撫でてくれた。
 母親に抱かれるような不思議な安心感に包まれて、小さく震えていた俺の身体から、だんだんと緊張感が消えていった。
 俺は、彼女のスカートの腰元に手をかけた。
 ベルトを外し、ジッパーを下ろす。
 女子のスカートの構造くらいはなんとなく知っていた。
 俺は、涼子さんの太股を滑らせながらスカートを脱がせていった。うつむき加減の涼子さんは、恥ずかしそうに俺の目をのぞき込んでいる。
 スカートは、彼女の足元に脱ぎ捨てられた。
 俺は、制服の上着がはだけた下着姿の涼子さんをぎゅっと強く抱き締めた。
 そして、不意をつくように、涼子さんの下着のなかに指を滑り込ませる。
 涼子さんが「あっ」と声を上げた。
 俺は指の腹の部分で、彼女の恥丘に圧迫をかけた。
 涼子さんの身体がぴくりと反応したのを確かめると、俺は二本の指先を重ね合わせ、わずかに湿った割れ目に沿って、ゆっくりとそれを上下に這わせた。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:22:14.53 ID:Z1F3x+ey0

「あっ……あっ……あっ……」
 涼子さんが切ない声を上げる。
 俺の指先は、ちゅっちゅと篤い愛液を掻き分け、彼女の熱く湿った性器をいじり続けた。
 涼子さんは、「……んふっ」と鼻にかかった甘い息を漏らして、俺の愛撫に身体を震わせる。
 俺は、少しだけ愛液の染みた下着に手をかけると、それをするすると太股へと滑り下ろした。
 彼女のひざを立てさせる。下着は、太股から膝元へ、膝元から足首へと下りていき、足首から脱げるころにはくるくると小さく丸まっていた。
 制服の上着とソックスをまとっただけのあられもない姿の彼女が、心細そうな表情で俺を見つめていた。
 俺は彼女のすべすべした太股に手をかけ、ゆっくりと両脚を開かせる。
 涼子さんの綺麗な桜色の性器が、恥ずかしそうに姿を見せた。
 彼女の恥ずかしい箇所を濡らす愛液が、月の明かりにきらり輝いて見える。
 涼子さんは恥ずかしいのか、口に手を当て、泣きそうな表情を浮かべていた。
「涼子さん……綺麗だよ」
 俺はそっと呟くと、彼女の可愛い性器に唇を寄せ、ちゅぷりと舌を這わせた。
「……あっ、あっ、ああっ!」
 彼女の下半身がぴくっと震える。
 俺はわざとちゅぷちゅぷと音を立てて、涼子さんの恥ずかしいところを舐め続けた。
 俺の唾液が、彼女の愛液と混ざり合う。
 俺の舌は割れめに沿って上下し、特に膣口あたりを念入りに舐め回した。
 俺は舌先を丸めてとがらせると、それを彼女の膣の中に差し込んだ。
 涼子さんの身体がピクピクと痙攣している。
 可愛い……俺は素直にそう思った。
 俺の舌はぴちゃぴちゃと音を立てながら、少し上に移動する。
 尿道口を二、三回往復してからそこを通過し、さらにその上にあるクリトリスに辿り着く。
 俺は、包皮に埋もれた可愛いクリトリスをペロリと舐め上げた。
 その瞬間、涼子さんは今までにないほどに激しくビクンと身体を震わせた。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:27:28.17 ID:Z1F3x+ey0

「……ふあっ……ふああっ!」
 涼子さんは切ない声を上げながら、涙に潤んだ瞳を俺のほうに向けた。
 俺の舌先がチロチロと愛撫を繰り返すうちに、彼女の小さなクリトリスは少しづつ硬くなり、やがて恥ずかしそうに包皮から顔をのぞかせた。
 身体で最も敏感な部分を責められて、涼子さんは苦しそうに、息を殺しながら小さく喘いだ。
「……あっ、ああっ、キョン……ちゃん」
 涼子さんが官能の甘い声を上げる。
 俺は涼子さんの性器が充分愛液で潤ったのを確認すると、舌の愛撫を止めて、口を拭った。
 顔を涼子さんのすぐ目の前に持っていく。
 涼子さんは気まずそうに、うっすらと涙を浮かべた瞳で、俺を見つめた。
「涼子さんの……中に……入りたい」
 俺は今の気持ちを率直に、彼女に告げた。
「涼子さんとひとつになりたい。セックスがしたい」
 涼子さんは恥ずかしそうにじっと俺の目を見つめてから、ゆっくりコクンとうなずいた。
「……涼子さん」
 俺は涼子さんに激しく口づけした。
 涼子さんの愛液で塗れた舌を、涼子さんの舌に絡める。
 俺はズボンのチャックを下ろし、その中から、熱くたぎったペニスを取り出した。
 俺のものは、可愛い涼子さんの裸体とその行為のせいですっかり興奮しきっていて、かつてないほどに勃起していた。
 我慢できなかった。
 一刻も早く彼女と交わりたかった。
 早くこの敏感な部分で、彼女の中を感じたい。
 彼女の中に入りたい。
 俺はペニスの先端を彼女の膣の辺りにあてがった。ぐいっと腰を前に突き出す。
 それを二、三度繰り返したが、うまく挿入することができなかった。
 あれだけ間近で愛撫して、色も形もよくわかっているというのに、下半身だけを重ねあうと、どうも位置が把握できない。
 俺は恥ずかしくて、焦りすら感じ始めていた。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:31:03.02 ID:Z1F3x+ey0

 俺があたふたしていると、涼子さんのひんやりとした手のひらが、優しくそっと俺のものをつかんだ。
「りょ、りょう……」
 涼子さんを見ると、彼女は気恥ずかしそうに顔を伏せて、自らの下腹部に視線を落とした。
 涼子さんの手が、ゆっくりと俺のものを導いてくれる。
 やがてペニスの先端は、ちゅっと音を立てて、彼女の膣口に頭をうずめた。
「……あ、ありがとう」
 こんな礼は言わなくても良かったのかもしれない。涼子さんは眉を寄せて、上目遣いに俺を見上げると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「い、いくぞ……涼子さん」
 俺はゆっくりと腰を下ろしていった。
 俺のペニスが少しずつ、少しずつ、彼女に膣の中にずぶずぶと埋没していく。
「んっ……んんっ!」
 涼子さんは左右に頭を振って、鼻にかかった可愛い喘ぎ声を漏らした。
 やがて俺のペニスは、深く根元まで彼女のヴァギナに埋まった。
 先端が彼女の奥に当たっている。
 涼子さんの膣内は熱いほどに火照っていて、そしてとても気持ち良かった。
 柔らかな膣壁が、きゅんっと俺のものを締め付けてくる。
 ぬるりとした愛液に包まれ、二人の性器は隙間なく結合していた。
「はああああああ……」
 涼子さんが吐息を漏らして、俺に抱きついてくる。
 俺はゆっくりと腰を動かした。
 彼女の膣は、溢れるほどの潤滑油でたっぷり濡れているにもかかわらず、俺のものをきゅっと締め付けて離さない。
 少しずつ中から引き抜くだけでも、このまま果ててしまいそうだった。
 それでも俺は夢中で腰を振り続ける。
 俺は何度も涼子さんの中を往復した。
 涼子さんが可愛い喘ぎ声を上げる。
 俺はもう、いつ果ててもおかしくなかった。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:37:44.50 ID:Z1F3x+ey0

 チリチリチリチリ……。

 そのとき、俺の頭の中を、例の電気の粒が駆け巡った。
「!」
 あまりにも唐突に訪れたそれは、どんどんどんどん強くなり、やがて俺の視界は真っ白になっていた。
 ……光が溢れる。
 目の前の涼子さんが、徐々に光に飲まれていく。
 そして何も見えなくなった。
 何も見えない光の中で、俺は、ある光景を見ていた。

 過去の悲劇。
 涼子さんの俺の心の傷跡。
 そして――古泉一樹の傷跡。

 月が真円を描いている。
 ……満月だ。
 ほのかな月の明かりに照らされて、俺と涼子さんの裸体は、青白い炎のように輝いていた。
 足元には、月光に照らされた二人の影がくっきりと浮かんでいる。
 その光景は……なぜか、とても神秘的に思えた。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:42:58.80 ID:Z1F3x+ey0

 俺は、涼子さんの胸の中にいた。
 彼女は薄く瞳を閉じ、じっと黙ったまま、俺の頭を抱き締めていた。
 安らかな呼吸音。心臓の鼓動。ゆったりとした胸の動き。体温、吐息。
 それらすべて……涼子さんがここにいるという確かな存在感が、俺をまどろむような安らぎへと誘う。
 まるで幼い頃、母親に抱かれているような安心感に包まれていく。
「涼子さんは俺に、泣いている、泣いてるって言ってたけど、泣いているのは……涼子さん、あなたのほうじゃないですか。
 いま、ようやくわかりました。あなたは助けて……助けてって、今も、ずっと泣いているんだ」
 俺は、涼子さんの柔らかな髪をなでた。
「俺と涼子さんは、おんなじだと言いましたよね。それは、今ならなんとなく分かる気がします……」
 涼子さんはずっと微笑んだまま、俺を見ていた。
「なにもかもおんなじ。心の中でいつも泣いていることも、世界から消えちゃいそうなことも、誰かに助けをもとめていることも……
 ……私とおんなじだから。だから私、助けてあげようと思った。私とおんなじだから。辛くて、苦しいのが、私にも分かるから。
 だからキョンちゃんも、きっと私のこと……助けてくれるって、そう思った」
「ああ、今度は、俺が涼子さんを助ける番だ。今の俺にはそれができる……そうだろう?」
 黄色い月明かりが、俺たちを照らしていた。
 二人はオブジェクトのように抱き合ったまま、互いの息づかいを感じていた。


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 05:47:44.57 ID:Z1F3x+ey0

 鶴屋さんW

「僕は、この電波の話をするのが大好きでして。
 まぁ、いわゆる自慢話で恐縮なのですが……貴女たちは、毒電波をご存知ですか?」
 古泉くんは、自慢のおもちゃを見せびらかす子供のような、とてもうれしそうな笑みを浮かべていた。
 チリチリとした感覚は、依然あたしの頭の中を駆け巡っていた。
 先ほどまでの激しさは息を潜めているが、そうしてしまったらまたあの苦痛が襲ってきそうで、あたしは身動きすることすらできずに床に転がっていた。
 みくるちゃんも、あたしの横で息も絶え絶えに天井を仰いでいる。
「……いいですか。毒電波というのは空から降り注いで人を狂わせたり、おかしな行動をさせたりする、言葉通り、毒のような電波のことです。
 目に見えないし、知らないうちに脳内に侵入するから、防ぎようがないんですよ」
 古泉くんは、笑顔のまま話し続けた。
「もともと人間の意志とか感情とかは、電気信号の集まりでしょう?
 毒電波はそれを歪め、汚染してしまうんです。面白いと思いませんか?
 人の心が外から歪められてしまうなんて」
「……」
「でも、そんな毒電波を、もし仮に自分の力で操ることができたら……とても面白いとおもいませんか?
 他人の脳を、離れたところから直接操作できるんですよ。リモートコントロールのようにね」
「……狂ってる。あなたは、狂ってます!」
 みくるちゃんがを言葉を吐き捨てた。
「そう、狂っているんですよ。お望みなら、もっと狂わせてあげましょうか?
 それが僕にはできるんです! 涼宮さんの精神も、僕が壊してやった! ハハハ、壊してやったんだ!」
 哄笑する古泉くんの声に引き寄せられるように、部屋の隅の闇の中から、ひとつの人影が歩み出た。
 パジャマの上からジャケットを羽織っただけのラフな格好。
 顔中にグルグルと巻かれた包帯。
 包帯の隙間からのぞく、痛々しい傷跡。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:00:31.41 ID:Z1F3x+ey0


「す、涼宮さん!」
 みくるちゃんが叫んだ。動かない身体を必死で動かしながら、みくるちゃんは芋虫のように涼宮ハルヒさんへと近づいていった。
「涼宮さん! わたしです、みくるです、わかる!? こんなところにいちゃダメですよ!
 早く出ましょう! 病院に戻って、もう少しだけ入院すれば……」
 みくるちゃんを見下ろすハルにゃんの目には、なんの感情もなかった。
 焦点の合わない、月夜の暗い湖のような目。
 まるで、命を持たない人形のような目。
「……無駄ですよ、朝比奈さん。今の涼宮さんには、あなたの声が聞こえないどころか、自分が何をしているのかすら、わかっていないんですから」
 薄暗い生徒会室の中でなお、古泉くんの目は怪しく光り輝いていた。
「古泉君? な、なにを……」
「今の彼女は、いやらしいことにしか興味を示さないロボットのようなものですので。
 あ、ロボットですか。ハハハハハハ、我ながらうまい例えが出来ました。あなたのお友達は、心を持たないロボットなんです」
「な、何を言っているんですか?」
「僕はね、朝比奈さん」
 ハルにゃんは、ふらふらと雲の上を歩くような足取りで古泉くんの下に歩み寄り、そして彼の足元にひざまづくと、ズボンの前を愛しそうに撫で擦り始めた。
「うるさいだけの彼女なんてほしくはなかったんです。僕がほしかったのは、性欲処理の玩具なんですから。
 飽きたら捨てるだけの、使い捨ての道具が欲しかった。涼宮さんは、玩具としては遊べたほうですが、それももう飽きました。
 だから、捨てた」
 古泉くんは、ハルにゃんの髪の毛を優しく撫でた。確かに優しかったが、それは忠実な飼い犬を撫でるような手つきだった。
「彼女は捨てられるのが嫌だと言って、僕にすがって泣いた。おもちゃのままでも構わないから、捨てないでくださいと哀願した。
 彼女はそういって、しつこく僕につきまとい、挙句にはあつかましくも、僕の自宅にまで押し掛けてきた。
 彼女自身辛そうだったし、いい加減僕も迷惑でしたから……心を壊してあげました。
 それで全てが丸く収まったんです。もともと、玩具には心なんて必要なかったんだし」
「ひどい……」
 思わず唸った私に、古泉くんは意外そうな顔をした。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:02:03.91 ID:Z1F3x+ey0

「ひどくないですよ。これは、彼女たちが望んでいることなんです」
 古泉くんは、股間にじゃれつくハルにゃんを振り払って、床に転がる長門有希さんと喜緑江美里さんに近づいた。
 そして、長門さんの身体に舌を這わせている喜緑さんの下腹部を、靴の踵でギュッと踏みつけた。
「あ、ああ、あああッ……!」
 下腹部を圧迫された喜緑さんは、奇声をあげながら、勢いよくおしっこを迸らせた。
 すぐに部屋中にアンモニアの匂いが充満する。
「この子たちは、僕のペニス無しじゃ生きていけないんです」
 古泉くんは、続けて長門さんの短い髪を鷲掴みにし、その顔を喜緑さんの放った黄色い液体の中に叩きつけた。
 追い討ちをかけるように、長門さんの頭を足で踏みつける。
「涼宮さんは苦しんでいた。毎日、辛そうにしていました。だから僕は、そんな状態から救ってあげたんです。
 くだらない現実に、苦しみ喘いでいるくらいなら、夢の中の快楽に身を投じて、すべての苦悩を断ち切ったほうがいい。
 そう思いませんか? 涼宮さんは、今のほうがきっと幸せなんですよ」
「す……涼宮さんは……あ……あなたのことを想って……あなたを想っていたから辛かったのに……」
 みくるちゃんは泣いていた。
「それが本当だったら……わたし、あなたを許しません! 涼宮さんは、あんなにあなたのことが好きだったのに! 許せない!」
 その涙は、みくるちゃんの心の深いところから溢れだした、本当の涙だった。
「しょせん彼女も、僕の心の拠り所にはなり得なかった。もともと彼女なんかに、涼子の代わりなどつとまるはずがなかったんだ。
 だから彼女には、性の欲求を充たすための道具としてしか使い道がなかった……」
「もう嫌です! 嫌! 嫌! 長門さん、喜緑さん! 目を覚まして!」
 みくるちゃんの金切り声も、二人には届かなかった。喜緑さんは失禁の余韻に浸りながらへらへらと涎を流し、長門さんは嬉しそうにおしっこを啜り飲んでいた。
 そして、みくるちゃんの胸の痛みをさらに堪え難くするのは、ハルにゃんが、古泉くんになぶられる二人を羨ましそうに眺めているという事実だろう。
「もう嫌……こんなの悪い夢よ、きっと全部夢なの……」
 みくるちゃんは、お腹の中で眠る赤ちゃんのように床に丸くなり、ひっくひっくと嗚咽を漏らしていた。


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:17:50.64 ID:Z1F3x+ey0

「安心してください。すぐに、夢も現実もわからないようにしてさしあげますから。
 ……その前に、朝比奈さん?」
 古泉くんは、泣きじゃくるみくるちゃんを尊大に見下ろした。
「涼宮さんや長門さんや喜緑さんの身体を遊び尽くしてしまうと、貴女のその豊満な身体もなかなか捨てたもんじゃないと思いましてね」
 みくるちゃんの身体が、びくっ、と恐れるように痙攣した。
 古泉くんは、みくるちゃんに覆いかぶさるようにしゃがみこむと、彼女の耳元で淫猥な言葉を囁き続けた。
「前から貴女とセックスしたいと思っていたんですよ。その乳牛みたいな身体に僕のペニスをブチ込んで、ずたずたに引き裂いてみたい……。
 その顔に僕の精液をたっぷりひっかけて、雪景色のようにしてみたい……。その膨らんだ胸に……」
「い、嫌ぁ……」
 みくるちゃんは頭を抱えて耳を塞いだ。


 もう何も聞きたくない!
 もう傷つきたくない!

 みくるちゃんは小さく縮こまりながら、全身で必死に叫んでいた。
 そんなみくるちゃんの姿も、古泉くんには滑稽にしか映らなかったらしい。さもうれしそうに笑ってから、彼は冷酷な処刑宣告をした。
「……しかし僕も鬼じゃありません。僕たちは、一緒に生徒会を運営してきた仲間でしょう?
 それに免じて、貴女の処女は、貴女の大事な涼宮さんに奪ってもらうことにしましょうか」


121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:30:17.29 ID:Z1F3x+ey0

「ひあッ!」
 みくるちゃんは身体をのけぞらせた。
 もう、十分以上も、それは続いていた。
 電波によって自由を奪われ、全裸に剥かれて床に転がるみくるちゃんの身体の上に、こちらも一糸まとわぬハルにゃんが覆い被さって愛撫を続けている。
 硬くなった乳首をカリカリと歯がかじり、全身の敏感な部分を十本の指が撫で回す。
 びっしょりと濡れた性器を硬く尖らせた舌が出入りする。
「も、もう、やめてくださいぃ! し、死んじゃいます!」
 ガクガクと膝を揺らし、小刻みに身体を震わせるみくるちゃん、涼宮さんが性器から舌を離すと同時に、そこから勢いよく、キラキラと輝く液体が噴出した。
「い、いやあ……鶴屋さん……見ないで」
 チョロチョロとみくるちゃんのオシッコが流れる。
 かわいそうに、あまりの快感におかしくなった彼女は、我慢できずに失禁してしまったのだ。
 白い太股の間から、湯気が上がっていた。
「ううっ……こんなのって……」
 羞恥の限界を迎えそうなみくるちゃんは、ぐたりと横になったまま天井を見上げていた。
「ハハハハハハハ! 放尿しながらイクなんて、朝比奈さんって見かけによらず、結構淫乱なんですね」
 みくるちゃんは天井を見つめたまま、ぽろりと大粒の涙を流した。
 それでもまだ、ハルにゃんはみくるちゃんを休ませはしなかった。
 再び彼女の上に覆いかぶさると、絶頂を迎えたばかりの敏感な身体に、追い打ちのような愛撫を行う。
「もう……やめて、ね? 涼宮さん……」
 みくるちゃんはポロポロと涙を零しながら、子どもに言い聞かせるように優しく、ハルにゃんに言った。
「何度も言うようですが、彼女にはもう何を言っても無駄なんですよ、朝比奈さん」
「嘘だよね、涼宮さん、わたしがわかりますよね? 悪ふざけしてるだけなんでしょ?」
 そんな涙ぐましいみくるちゃんの声も、涼宮さんの耳には届いていないようだった。
「涼宮さーんッ!」

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:40:16.90 ID:Z1F3x+ey0

 あたしは胸が張り裂けそうになった。それと同時に、黒くて熱い感情が、胸の底から湧き上がってくる。
 そして、恐怖に凍り付いていた舌が、その感情を激しく吐き出した。
「どうしてこんなことをするにょろ! みくるが何したっていうのさッ!
 あんたおかしいよッ! こんなことして何が楽しいのッ!?」
「……人の心配もよろしいですが、鶴屋さん」
 古泉くんはあたしの声に振り返ると、狂気の笑みを浮かべた。
「朝比奈さんの身体が涼宮さんに占領されてしまっている以上、僕の性欲は貴女に処理してもらうことになるんですよ?
 理解していますか? 貴女の処女は、今晩、好きでもなんでもない男に永遠に奪われることになるんですよ?
 運命の相手のために大事にとっておいた……」
 ここまで言ってから、古泉くんはポン、と手を打った。
「……ところで貴女は処女なんですか?」
 そして、すぐにゲラゲラと大声で笑い始めた。
「これは傑作ですね! 鶴屋さんは処女だって思い込んでいたけれど
 もしかしたら、もうさんざんヤリまくっている淫乱女かもしれないじゃないですか! ハハハハハ!」
 悔しくて、涙が溢れ出した。
 あたしは……まだ男の人に身体を許したことなどなかった。
 でも、そんなことは、今は何の価値も持っていなかった、処女だという事実は、古泉くんを喜ばせるあたしの弱点に過ぎなかった。
「まあ、すぐにわかることですが。さて、開通式は、朝比奈さんと同時に行うとしましょう。
 とりあえず、涼宮さんはまだ朝比奈さんを舐め足りないみたいですからね。
 僕たちも少し、前戯を楽しもうじゃありませんか」
「やめろっ、この変態ッ! あたしに触る……」

ドクン!

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:45:19.70 ID:Z1F3x+ey0

 今まで最悪の電波が、あたしの全身を駆け抜けた。
 目の前が真っ黒になったと思った次の瞬間、視界すべてが真っ赤になり、真っ青になり、真っ黄になった。
 身体を構成している細胞のひとつひとつが膨張し、バラバラに砕け散って再び結合した。
 血液が沸騰して血管を逆流した。脳味噌がどろどろに溶け、身体中の毛穴から流れて落ちた。
「うあ、うあ、うああああッ!」
 動物のような叫びが、口から迸る。
「たたたた助けけけけけ……ななな、なんでも、するにょろ!」
「なんでも?」
「なんでもするにょろ! だから、でででで電波ぱぱぱ……止めてえええッ!」
「まったく……最初から協力していただければすぐ気持ち良くなれるんですが」
 電気の流れがピタリと止まった。しかし、身体はピクリとも動かない。ごろんと仰向けになったまま、あたしは意思のない肉人形と化していた。
 ただ涙だけが頬を伝って流れ落ちた。

 キョンくん、どうして助けにきてくれないんだい?
 だれか、たすけて。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:51:23.34 ID:Z1F3x+ey0

 古泉くんは、最初に上履きを脱がせて、二足揃えて綺麗に並べた。
 次に、たっぷりと時間をかけて、胸骨あたりで留めたジャージの前チャックをジリジリと下ろし終えた。
 そのまま引き抜くように、上半身からジャージを剥ぎ取る。
 半袖の体操着から露出した二の腕が、ひんやりとした夜の空気に触れた。
 古泉くんは、上下するあたしの両腕に、手のひらをぴたりと密着させた。
 恥ずかしさに顔を覆いたくなったが、あたしには顔を覆う手がなかった。
「鶴屋さんの胸の鼓動」
 古泉くんは、手のひらをぐいぐいと押しつけ、
「鶴屋さんの胸の膨らみ」
 あたしの胸を押しつぶさんばかりに圧迫し、続いて円を描くように肉の集まりを揉みしだく。
 やがて胸を弄るのに飽きたのか、古泉くんはジャージのズボンに手を掛けると、それを一気に引き下ろした。
 紺のブルマと白い太股が一気に露出する。
「くすくすくす」
 古泉くんは、ズボンの中から……お○んちん……を取り出した。
 生まれてはじめて見る、男の人のものだった。
 子どもの頃の記憶にあるそれや、保健体育の授業で習ったそれとは、根本的に異なる存在に思えた。
 あたしが思っていたそれは……うまく言えないけど、こんな不気味なものではなかったはずだ。
 古泉くんが握り締めたそれは、醜く捩れて節くれ立ち、彼の歪んだ精神そのものを具現化した禍々しいものに思えた。
 目を背けることすら出来ないあたしの眼前に、古泉くんは見せびらかすようにその硬直を近づけた。
 嫌な臭いが鼻をつき、微かな脈動が目に映った。
「そう邪険にするものでもないですよ。どうせすぐに、コレ無しじゃ生きていけない体になるんですから。
 涼宮さん達みたいにね」
 古泉くんはそう言って嘲笑うと、あたしの下腹部へと身体を移動させ……そしてあたしのブルマに自分のお○んちんを擦り付け始めた。
 しゅっ、しゅっ、という音と、ブルマごしにも分かる硬い感触。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:55:20.86 ID:Z1F3x+ey0

 あたしはその感覚に怯えながら、ある事実を古泉くんに知られることを恐れていた。
 あたしは、もう……
「なんだ、もう濡れているじゃないですか」
 身体中の血液が、一気に顔に集まるのがわかった。
 できるなら、このまま死んでしまいたかった。
「もうブルマまで染みていますよ。この様子じゃ、朝比奈さんが犯されている様子がよほど気に入られたようですね。
 友達が犯されるのを見て濡れるなんて、ひどい人ですね鶴屋さんは」
「やめて……そんなこと言わないで……」
 古泉くんが、あたしが恥ずかしがる様子を見て楽しんでいるのはわかっていた。
 恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、古泉くんを喜ばせるだけ――わかっていたけど、込み上げる羞恥心を抑えることはできなかった。
「もうやる気まんまんみたいですね。あんまり焦らすのもかわいそうだ。
 お望みどおり、淫乱な鶴屋さんの性器を、直接いじってあげますよ。まずはブルマ……」
 生暖かい布切れが太股を移動して、足首からするりと消えた。
「うわあ、もう下着なんて水に浸したみたいにビショビショじゃないですか。
 風邪を引くとかわいそうですから、さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね。淫乱な鶴屋さん」
「やめて……もう、こんなこと嫌にょろ……」
「では、もう一度電波を流しましょうか?」
「嫌!」
 あの感覚をもう一回味わうくらいなら、死んだほうがマシだ。でも、このまま古泉くんにいたぶられつづけるのも、耐えられそうになかった。
 あたしに、逃げ道はなかった。
「じゃあ、おとなしく僕に性器を見せてくださいよ。
 ……ああ、こんなに糸ひいちゃって……本当にだらしない性器ですね。
 いつもオナニーしているんでしょう?」
「してない!」
「しているんでしょう?」
 有無をも言わせぬ口調が、『古泉くんの満足できる答え』を口にすることを強要していた。
 たとえそれが真実の答えではないにしても、あたしは彼を喜ばせる義務を負わされた、みじめな肉人形なのだ。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:56:04.22 ID:Z1F3x+ey0

 それでも、電波を流されるよりは遥かにマシに思えた。
「週に何回ぐらいしているんですか?」
「そんな……うあああッ……2回……ででで電気を止めてててて……うあああああああッ!
 ……毎日! 毎日していますッ! 毎日、めがっさオナニーしてるにょろ!」
「学校でもしているんでしょう?」
「してるにょろ!」
 思考も、意思も、自尊心も、全てが電気に痺れていた。あたしは、求められるままに卑猥な言葉を口にして、古泉くんを喜ばせようと努めた。
「男子トイレに忍び込んで、個室でオナニーしてるにょろ! 授業中もみんなに気づかれないようにオナニーしてるにょろ!
 男子更衣室に忍び込んで男子のパンツでめがっさオナニーしてるにょろ! 部活の後輩の……」
「わかったわかった、もういいですよ」
 古泉くんは、もうウンザリだとでも言わんばかりの口調でそういうと、湯気を立てるあたしの下着を、ずるりとひきずり下ろした。
 身に着けているのは、白いソックスと体操着だけになってしまった。全裸でないのが、かえって恥ずかしい。
 きっと、それも計算のうちなのだろう。
「まずは味見からですね」
 古泉くんは、あたしの両腕を握ってばんざいをさせると、体操着を少しめくり上げて腋の下に舌を這わせた。
「んあっ……!」
 痺れるような感覚は、今度は電気のせいばかりではなかった。
 しばらくすると、古泉くんはあたしから舌を離し、意地悪い口調で言った。
「汗臭いし、しょっぱいですね。セックスの時にはシャワーくらい浴びておくのがエチケットというものではないですか。
 不潔ですね、鶴屋さんは。淫乱で不潔。これは救いようがありませんね」
「嫌ぁ……そんなこと言わないで……あたし、不潔なんかじゃないよッ! 今日は部活があって、そのままにょろ……」
 堪えていた涙が、再び堰を切って零れ落ちた。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 06:59:17.35 ID:Z1F3x+ey0

「そうでしたか、それは悪いことを言ってしまいました」
 古泉くんは、待ってましたとばかりに、いまだ絡み合っている生徒会の二人の女の子に声を掛けた。
「皆さんで鶴屋さんにシャワーをかけてあげましょう」
 最初は意味がわからなかったが、三人の人間に囲まれて、ようやく自分がなにをされるのか理解できた。
「やだやだ、やだよおおおおっ!」
 三条の黄色い迸りが、びちゃびちゃと音を立ててあたしの身体を叩いた。
 熱くて、痛かった。目をきつく閉じて、呼吸をすることをやめた。
 一刻も早くこの悪夢が覚めてくれることだけを祈った。
 濡れた髪の毛がべったりと頬に張りつき、湯気と異臭が全身から立ち上がった。
 ぽたぽたと全身から滴る雫の音が、奇妙に静かな生徒会室に響いていた。
「運動の後のシャワーは気持ちがいいでしょう、鶴屋さん?
 これからは、部活が終わったら毎晩この部屋に来て、僕たちのシャワーを浴びるんです。
 ……泣いているんですか? さてはシャワーの量が足りなかったですかね。
 だったら涼宮さんと朝比奈さんも参加させましょうか?
 五人分のシャワーなら、いくら欲張りな鶴屋さんでも満足でしょう。 はは、はははは!」

 あんまりな惨めさだった。
 あたしが望んだ新しい毎日は、こんな狂った時間じゃなかった。
「さあ、そろそろ朝比奈さんの準備もいいようですので、同時に開通式といきましょう」
 なんだか、もうどうでもいいことのように思えた。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:02:12.92 ID:Z1F3x+ey0

 キョンX

 向かうべき場所はわかっていた。
 すべてがわかっていた。
 俺の脇には、寄り添うようにぴったりと、涼子さんが並走している。
 俺たちが走る廊下は、長く長く、はるかに長く俺の目の前に続いていた。
 この廊下の一番奥に、彼がいる。
 びょうびょうと全身に吹き付ける膨大な量の電波が、彼の存在を強烈に示している。
 その電波は、空中に漂う通常の電波とはことなり、誰かの意志によって運動を強制されていた。
 誰か――言うまでもなく彼。彼――言うまでもなく古泉一樹。古泉一樹――言うまでもなく、瑠璃子さんのおにい……
 ふと、思った。
 実の兄弟ならば、名字が同じはずだが、涼子さんと古泉では、明らかに違う。
 涼子さんに聞けば……やめておこう。
 古泉一樹は瑠璃子さんのお兄さんに変わりはないのだし、そのことを俺は『知っている』じゃないか。
 俺は、古泉を止めるべく、生徒会室へと走った。

 勢いよくドアをあけると、視覚よりも早く、聴覚と嗅覚が反応した。
 悩ましい喘ぎ声と荒い息遣い。アンモニアとフェロモンの混ざった淫臭。
 俺はすぐに、あの妄想を思い出していた。
 わんわんと仰げば尊しが響く講堂で、奔放無尽に交わる千人の男女。
 かつて俺が見た妄想――いや、かつて俺が受信した古泉の電波の縮図が、目の前で繰り広げられていた。
 そして、鶴屋さんと朝比奈さんは、その地獄絵図の中に溶け込んで蠢いていた。


 朝比奈さんは、二人の女の子によってその身を苛まれていた。
 朝比奈さんのからだに群がるひとりは、髪がウェーブがかった女の子。
 そしてもうひとりは――こうした痴態と出くわすことを予想してはいたものの、俺はその子がここにいることに驚きを隠せなかった――涼宮ハルヒだった。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:15:25.82 ID:Z1F3x+ey0

 ウェーブのかかった女の子は、朝比奈さんのたわわに実った胸を、両手と舌を使って刺激し続けていた。
 ぴん、と屹立した乳首を指でつまみあげ、ねじりあげると、朝比奈さんの口からせつなそうな吐息が漏れる。
 女の子は、その吐息を愛しそうに吸い込むと、朝比奈さんに口付けて肺に直接送り返した。
 朝比奈さんの喉が隆起し、同時に流し込まれた大量の唾液を嚥下していることを示していた。
 ハルヒはといえば、朝比奈さんの下半身にしがみつき、何かにとりつかれたように――実際、彼女の精神は狂気という名の破滅にとりつかれてしまっているのだが――朝比奈さんの性器を弄くり回していた。
 二枚の唇が朝比奈さんのクリトリスを挟み、尖った舌先が間断なく刺激を送り続ける。
 舌のリズムにあわせて、朝比奈さんの身体は小刻みにダンスを踊った。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
 ハルヒの指が朝比奈さんの胎内を出入りする。
 そのたびに、っぷっぷ、といういやらしい音があがり、ピンク色がかかった液体がこぼれ落ちる。
 この紅は……朝比奈さんの破瓜の血の色なのだろう。
 涙はどんなに流れても、枯れることはないのだろうか?
 長い間泣き続けたのであろう、朝比奈さんの真っ赤に腫れ上がった目からは、いまもなお、きらきらと輝く雫が溢れつづけていた。


 鶴屋さんは、ぐったりとした様子で上下運動を繰り返していた。
 ショートカットの女の子が鶴屋さんの両脇を抱きかかえ、ゴム人形のように弛緩しきった彼女の身体を上に持ち上げ、下に下ろし――上下運動を繰り返させている。鶴屋さんは力なく頭を垂れたまま、その運動に身をまかせている。
 上下運動にあわせて、壊れた人形のようにかっくんかっくん、と頭部が動く。
 そして、上下運動を強制される鶴屋さんの身体は、その下に寝そべるひとりの男とひとつに繋がっていた。
 繋がった部分に白い泡が立ち、ぶちゅぶちゅ、と信じられないくらいに淫猥な音が上がる。
「……っ……っ」
 男の身体を跨ぐような形の口から、声にならない声が漏れた。
「もっと早く!」
 男の勅命で、上下運動がよりスピードを上げた。
 途端、壊れたゼンマイ仕掛けが息を吹き返したかのように、がくんっ、と鶴屋さんの顎が天井を向き、だらしなく開いた口の端から、どろり、と白い涎が溢れた。
 それは涎ではなく、精液だった。
 形のいい顎を伝って糸を引いて落ちそうになった白濁液は、直前、ショートカットの女の子が両脇に回した手で掬い上げられ、そのまま鶴屋さんの顔面になすりつけられた。
 ぐっちゃぐっちゃと音を立てて、手のひらが鶴屋さんの顔を陵辱する。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/17(火) 07:31:17.75 ID:Z1F3x+ey0

 しばらくしてやっと解放された顔と手のひらの間には、涙と涎と鼻水とそれ以外の液体が交じり合った白いものでべっとりとした橋が作られた。
 鼻に、ちょうちんのようなあぶくが膨らみ、ぱちん、と割れた。
「そろそろ……八回目の射精ですか」
 ドアが開いたことも、俺たちがいる事も気づいているであろうに、男は余裕の口調でそう宣言した。
「……赤ちゃん……できちゃう……」
「はははは! いまさら何を言っているんですか? 貴女はもうセックスしかないんですよ。
 バレーなんてもうできないんですし、そんなこと気にする必要がないじゃないですか」
 男の腰がびくん、と跳ね、一瞬遅れて鶴屋さんの全身がぶるるっ、と震えた。


 天井を見上げた鶴屋さんの目は、すでに何も見ていなかった。
 何かを見ることを――感じることを拒絶していた。
 俺は、ハンバーガーショップで話した鶴屋さんの目を思い出していた。
 くるくるとよく動く、猫のように大きな目。
 俺は彼女の瞳の中に、自分には持ちようもない希望の光を見た。
 総天然色の世界で生きる彼女をうらやましく思い、狂気の無色世界の住人である自分を呪った。
 まぶしくて、彼女の目を直視できなかった。
 呪われた種族であることを看破されそうで、目を合わせられなかった。
 なのに……なのにいま、彼女の目は死んでいた。
 俺は悲しくなった。
 そして、ドス黒い怒りを感じた。


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:46:20.58 ID:Z1F3x+ey0

「……ようこそ。キョンくんと呼んだほうがいいですね」
 鶴屋さんと繋がったまま、その男――古泉一樹は言った。鶴屋さんを解放するどころか、俺に視線を飛ばすことすらしない。
「いずれここへ来るとは思っていました。鶴屋さんと朝比奈さんに大体の話は聞きましたので。
 ……もうちょっと早く来ていれば二人の処女喪失の瞬間を見られたんですが。残念でしたね」
 天井を仰いだ姿勢のまま、古泉は低く笑った。
「ですが、鶴屋さんも朝比奈さんも処女じゃなくなってしまったものの、まだまだ遊べる玩具ですよ。
 本当は貴方も混ぜてほしいんでしょう? セックスがしたいんでしょう?
 ……いずれ学校中の生徒も参加させましょう。善人面した教師たちもだ!
 そうだ、卒業式がいい。
 式が始まり、全員が講堂に集まったときに始めようじゃないか!」
 古泉は自分の言葉に興奮したかのように、徐々に声のトーンを上げていった。
「セックス、セックス、セックス。どいつもこいつもセックスさせてやる。ペニスとヴァギナが擦り切れて、血塗れになっても腰を振らせ続けてやる。
 血と精液と愛液に濡れながら……。喉が乾いたらそれをすすらせ、腹が減ったら互いの肉を食い千切らせる。そして延々続けさせてやる。
 セックス、セックス、セックス、セックス、セックス、セックス、セックス、セックス、セックス。
 セックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスせっくすせっくすせっくすせっくすせっくすせっくす……」
 その声は、生徒会室の壁にぶつかって、合わせ鏡のように無限に反響した。
 ある時、何かの機械から部品が抜け落ちた。取るに足らない部品だったのかもしれないし、少しは重要な部品だったかもしれない。
 とにかくそれは、あるひとつの歯車に微妙な影響を及ぼした。
 歯車は別の歯車を狂わせ、またその歯車を狂わせる。
 ……少しづつ、少しづつ。
 やがてそれは大きな歯車を狂わせるのだ。誰かがその微妙な狂いに気がついたとしても、もう遅い。
 そのときすでに、機械は間違った方向に動き出してしまっているのだから。
 もう誰も、古泉を止めることはできない。
 通行人を跳ね飛ばしながら暴走を続ける狂った機械。
 それを止めるには、機械を壊してしまうしかなかった。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:50:28.35 ID:Z1F3x+ey0

「邪魔です!」
 古泉は、身体の上に崩れ落ちている鶴屋さんを乱暴に突き飛ばし、片膝をついて立ち上がった。
「これが僕の力です。僕はこの力を使って学校を、いや、この日本を支配するでしょう。
 ……そういえば、ここにいる連中にはもう説明済みですが、貴方にはまだ電波の話をしていませんでしたね。
 いわゆる自慢話で恐縮だけど、僕は……」
 古泉はここまで言うと、ぽかんと口を開けたまま驚愕の表情を浮かべた。
 まるで、UFOだの幽霊だの、そんな信じられない何かを見ているような顔だった。
「りょ……涼……子……?」
 古泉の目に、俺の横に立つ涼子さんが映っていた。
 虚ろな瞳に映る涼子さんは、とても悲しそうな顔をしていた。

「違うんですよ、涼子……。聞いてください、僕は……僕はこんなことを……僕は……何をしてたんでしょう……?
 僕は、僕は……」
 自信に充ち溢れ、世界を支配すると豪語していた古泉は、見る影もなかった。
 いたずらを親に見つかってしまった子供のように、真っ青になって狼狽し、がたがたと震えていた。
 そんな古泉を、涼子さんは無言のまま見つめていた。

 涼子さんは何を思っているのだろうか?
 狂った力を使い、夜の学校の支配者として君臨していた兄。
 涼子さんは、その事実をすべて知っていた。
 でも、涼子さんの電波は、兄の狂行を止めるほどの力を持っていなかった。
 涼子さんは、屋上に昇って、兄を止めることのできる強大な電波の力を持った戦士を探し続けていた。
 みんなの電波をその細い体に受けながら、助けて、助けて、と毎日電波を送り続けていた。
 そして涼子さんは、自分とおんなじな、俺を見つけた。
 俺もまた、自分とおんなじな、涼子さんを見つけた。
 俺たちはお互いに体を重ね、心を重ねることによって、お互いを理解した。
 だから、俺は涼子さんのすべての悲しみがわかった。
 でも、あれから三分と経っていないのに、涼子さんは俺の知らない新しい悲しみに包まれていた。
 こんなに悲しい人がいていいのだろうか?
 人が味あわなければならない悲しみの量に、上限はないのだろうか?

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:51:37.27 ID:Z1F3x+ey0

「涼子……涼子……」
 古泉は、うなされたように涼子さんの名前を呼び続けた。そして、
「……貴方が……涼子を連れていくんですか?」
 かすれた声でそう言うと、死人のような目で、なめるように俺を見た。
 ドロドロと渦巻く狂気のエネルギー。
 垂れ込めた狂気の渦が、じっとりと重苦しく、肌にまとわりつく。
「……返してくださいよ……涼子は僕の物なんですから」
 嫉妬とか、憎しみとか、そんな生易しいものじゃない。
 殺意。
 古泉は、明らかに俺への殺意を抱いていた。
 ……そして俺も。
 怪しい月の光に照らされた古泉の顔は、まるで幽鬼のようにおぞましく見えた。
「……僕は、涼子を取り戻す」
 冷たい声で言う。
 その声に反応するように、床に倒れていた朝比奈さん、鶴屋さん、ハルヒ、二人の女の子が、ムクリと立ち上がった。
「……みんなで、彼を殺してください」
 彼女たちは、からくり仕掛けの人形のような、ぎこちない足取りで俺に近づいてくる。
「……僕は玩具を壊すことができますが……貴方はできないでしょう……?」
 一番近かった鶴屋さんが俺のシャツをつかみ上げ、古泉の顔に残酷な狂喜が浮かんだのと同時だった。

 鶴屋さんは、ピクピクと身体を震わせて、その動きを止めた。
 後ろの四人も同じように身体を震わせている。
 そして五人の女の子は、糸が切れたように床に崩れ落ち、安らかな寝息を立てはじめた。
「……貴方も……電波が使えるんですか?」
 古泉が冷ややかに、小さく言った。
 俺は無言で古泉を睨み続けた。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:52:47.91 ID:Z1F3x+ey0

 俺は涼子さんを理解することで、電波を理解した。
 理解したものを使うのは簡単だった。
 俺は鶴屋さんたちに、「倒れろ」そして「眠れ」と電波を送ったのだった。
 他人に電波を使うのは初めてだったが、俺には出来るという確信があった。
 そしてうまくいった。
 コツとか訓練とか、そういったものは必要ない。誰にでも当たり前のように出来ることなのだった。
 ただ、その使い方に気づいているのか、いないのか程度の違いでしかない。
「……貴方も……電波を……使えるんですか?」
 古泉がもう一度、同じ言葉を小さく言った。
 狂気があふれ出しそうなその目が、スッ、と細くなった。

 電気の粒が、小さな一点に――古泉の頭に収縮していく。
 俺は、電気のエネルギーをはっきりと感じていた。
 電波の波長パターンを読むことができた。
 いま、古泉の頭に収縮している電波のエネルギーが形成する波長。
 その波長パターンとは……。
 ……それは……。
 目の前の男……つまり俺……の精神を……、
「破壊しろ」だ。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:55:16.68 ID:Z1F3x+ey0

 バチッ、バチッ!
 普段は決して目に見えない電波が、異常な濃度になったため、紫電の火花を散らし始める。
 チリチリと、電気の粒が焦げて消滅するきなくさい匂いが生徒会室に充満した。
 すかさず、俺も電波を集中させ、放出する。
 ドス黒い精神同士のぶつかりあい。
 俺の放った電波が、古泉の電波を押し返す。
 電波が押し返されたの見ると、古泉は焦りの表情を見せながら、集めた電波の波長パターンを急変させた。
 さすがは電波の使い方に一日の長がある。
 そのパターン変換は迅速かつ的確だった。

 ……肉体を……
「拘束しろ」だ。


 俺は、古泉が操る電波の動きを、それこそ粒子ひとつ見落とすこと無く把握していた。
 それを把握していれば、電波を押し返すのも簡単だった。
 さっきよりも簡単に、古泉の電波を空中に四散させることができた。
「……なぜ……ですか? なぜ……電波が通じないんですか!?」
 古泉。
 それは俺が、お前をはるかに超える電波操作能力を持っているから。
 だからこそ涼子さんは……俺を選んだんだ。


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:56:36.93 ID:Z1F3x+ey0

「電波が使える……ということは……」
 古泉はここで、ハッと何かに気づいたようだった。
 ノドに詰まっていたアメ玉が一気に取れたような表情をしていた。
「貴方ッ!」
 突然、黒く渦巻く殺意が一刃のごとく俺を貫いた。
「涼子と……セックスしたんですね!」
 次の瞬間、ゴウッ、と怒涛のような電波が俺を襲ってきた。
 すかさず俺も電波を放ち、古泉の電波を消滅させようと試みる。
 しかし!
 古泉の電波は俺の電波をすべて打ち砕き、唸りをあげて俺の脳を直撃した。

「……したんだな! 涼子と! したんだな!」
 とてつもなく巨大で、重苦しい電波が津波のように襲い来る。
 すさまじい量の電波だった。
「しらばっくれてもわかるんだ、僕にはわかるんだよ! 僕だってそうだったんだ!」
 対抗して放った俺の電波が、古泉の電波に押し戻されていく。
 やがてそれは、決壊したダムから押し寄せる鉄砲水のように再び俺を直撃した。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 07:57:24.35 ID:Z1F3x+ey0

 全身にガツーンと、鈍い衝撃が走る。
 脳が引きちぎられるような感覚。
 視界がガクガク揺れ動く、耳鳴りがする。
 涼子さんの電波が、俺の精神を飲み込んでいく。
 ……俺の心が、精神が、存在そのものが、ミキサーでグチャグチャにかきまぜられていく。
 細胞のひとつひとつが、きしんで弾けながら断末魔の悲鳴をあげる。
 鶴屋さんたちは、こんな苦しみを味わっていたのか!?
 壊れてしまったハルヒは、こんな痛みにどれくらいの間耐えていたんだ!?
 俺には、もう三秒も耐えられそうになかった!
「……もともと電波を使えたのは涼子だった! 僕は涼子と交わることで電波の存在を知った!
 涼子と交わることで!
 涼子とセックスすることで!
 ひときわ強力な電波の塊が、ガツーンと俺にぶち当たった。
 十階建てのビルの屋上からバレーボールぐらいの鉄球が頭に直撃する……そんな感じだった。
 船酔いしたときの百倍ぐらい、ぐらり、と世界が揺れた。
「お前の精神を……木っ端微塵にしてやる」
 膨大なエネルギー量の毒電波。
 下手をすれば、俺だけじゃなく、鶴屋さん、朝比奈さん、朝倉さんまで巻き添えを食ってしまうほどの破壊的なエネルギー。
「……砕けてしまえ!」
 古泉が、圧縮された超密度の電波を一気に開放した。
 世界が真っ白になった。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:00:29.77 ID:Z1F3x+ey0

 鶴屋さんX

 ドブのように澱んだ頭の中に」、きらきらしたものが流れていた。
 それは、意識の壁にこびりついた厚い油膜を洗い落とし、あたしの乾いた心はスポンジのようにその輝きを吸収した。
 ……それは……

 オルゴールの音色だった。


 フラッシュバック。
 校舎の隅で膝を抱えるみくるちゃん。
 その身体に絡みつくオルゴールの切ない旋律。
 みくるちゃんは、うつむいた顔をあげ、そしてニッコリと微笑んだ。
 見下ろすように、太陽のような笑顔を浮かべたハルにゃんが立っていた。
 ブラックアウト。


「ミクル、ゴメンネ……。ミクル、ゴメンネ。ミクル、ゴメンネ。ミクル、ゴメンネ。ミクル、ゴメンネ。ミクル、ゴメンネ。
ミクル……」
 目の前は霞んで何も見えなかったけれども、あたしはその声が、ハルにゃんのものであることを確信していた。
 壊れたCDのように同じ言葉を繰り返すその声を聞きながら、あたしは涙を流していた。
 涙はとめどなく流れ落ちた。
 ねぇ、みくるちゃん、聞いてる?
 ハルにゃん、やっぱりみくるちゃんのこと、忘れてなかったよ。


 みくるちゃんのこと、忘れてなかったよ。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:15:16.08 ID:Z1F3x+ey0

 キョンY

 どこで鳴っているのか、オルゴールの音色が生徒会室に響いていた。
 そのメロディは聞いたことのないものだったが、俺はわけもなく、それが悲しい物語を背負った旋律であるように感じていた。
 唐突に、押し潰さんばかりに押し寄せていた電波が力を失った。
 真っ白だった世界が、一気に色を取り戻す。
 霞がかった視界に必死でフォーカスを合わせると、古泉が頭を抱えてうずくまっているのが見えた。
 そして、その背後に、魅入られたように立ち尽くす涼宮ハルヒの姿が……その手に握られた血に染まった小型消火器が見えた。

「玩具の分際で!」
 口汚く罵り、古泉は電波の塊でハルヒを打ちのめした。
 危険な角度で床に崩れ落ちるハルヒ。
 その瞬間、俺は古泉の電波から完全に解放されていた。

 パリッ、パリッ!

 いくつもの紫電が、空気中に走る。
「しまった!」 古泉が跳ねるように振り返った。
 しかし、古泉の電波集積能力は、ハルヒに打ち据えられた頭の傷によって大幅に低下していた。
 ほんの先程までは底知れない力に恐怖を感じたものだが、今の俺には、古泉の電波など、まるで子供騙しのように思えてならなかった。
「く、くそぉッ!」
 古泉が、自分の許容範囲ぎりぎりまで電波を集め、それを一度に照射した。
 だが、古泉の放った電波は、圧倒的な力を持った俺の電波に、飲み込まれるようにかき消されていった。
「ば、ばかな! こんなはずは……」
 古泉は何度となく無駄なあがきを繰り返した。
 だが、そのどれもが同じ結果に終わる。
 奴の電波は、俺の脳には決して届かなかった。
「こんなはずはない! 僕は、僕は……」
 そのとき、とてつもなく巨大な俺の電波が、グラリと古泉のほうに傾き始めた。
 もはや、俺にも制御し切れそうもない。電波が雨のように、古泉へと降り注いでいく。 俺はナイアガラの滝を思い出していた。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:30:17.88 ID:Z1F3x+ey0

「うッ、うわッ、うわあああああああああ……」

 ドドドドドドドド……。

 怒涛のように押し寄せる俺の電波が、古泉の心の壁を打ち壊していく。
 通常の電波になら、ある程度は耐えたであろう古泉も、この膨大な電波の量の前には、ひとたまりもなかった。
 あっという間にすべての防御をうち崩された古泉は、脆い丸裸の精神をむき出しに曝けだした。
 俺の電波は、そんな古泉の精神に容赦なく攻撃を仕掛ける。
 古泉の精神を、内部から破壊するためだ。

 目、耳、口、皮膚、頭蓋骨。
 古泉の身体中のありとあらゆる場所から、俺の電波が浸透していった。
 俺の意識が身体から離れ、古泉と同化する。
 赤、青、緑……様々な色の光がチラチラと瞬き、俺の精神は、ゆっくりとした速度で古泉の精神世界へと入っていく。

 どんどんどんどん……。どんどんどんどん……。
 入っていく。入っていく。
 古泉の……心の中へ。

 ごしごしと両目の涙を拭う。
「だれ……?」
 涙と鼻水混じりの声、男の子が尋ねた。
「俺は……キョン。お前は?」「いつき、こいずみいつきです」

「りょうこが……ぼくのいもうとの……りょうこがいなくなっちゃったんです」
 古泉は、ぶるっと身体を震わせると、寒そうに膝を抱えて丸くなった。
「いままで……ずっと……ふたり……いっしょにいたのに」
 古泉は再びじわりと涙ぐむと、潤んだ目元を手の甲でごしごしと擦った。
「……ぼく…もうやだよ……ひとりっきりなんて……もうやだよ」
 そう言うと古泉は、「あっ」と呻いて素早く耳を塞いだ。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:39:34.69 ID:Z1F3x+ey0

 ……アア……

 どこからともなく、女性の喘ぎ声が聞こえてきた。

 ……アアン……

 セックスのときに女があげる、よがり声。

 ……アアッ……

 微かにエコーがかかったその声は、まるで地の底から響いてくるかのようだった。
 小さな古泉はよっぽどそれが怖いのか、小さく丸まって身体を震わせた。
「りょうこ……どこにいるの……ぼく……もう……ひとりはやだよ」

 俺の脳裏に、ある双子の兄妹の物語が蘇った。
 屋上で、涼子さんの心が俺に語った二人の過去の物語。
 その物語は、古泉の心の中にいる今、よりはっきりとした質感をもって俺に迫ってきた。
 涼子さんの電波を受け止めたときにはわからなかった部分――古泉の心の動きも、はっきりと読み取ることができた。
 古泉の両親は、彼が五歳のとき、突然の交通事故で亡くなった。
 当時まだ幼かった古泉は、悲しみに身をちぎられそうになりながらも、あふれそうになる涙を必死にこらえた。
 古泉には、涼子さんがいたから。

 泣いてなんていられない。俺には守らなければいけない人が……涼子がいる。
 だから、泣いてなんていられないんだ。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:45:56.75 ID:Z1F3x+ey0

 古泉は、総合病院の委員長である伯父に引き取られ、残された唯一の家族である妹と引き裂かれた。
 そこは、幼い彼にとって、安らぎの場所にはなりえなかった。
 幼い子供を引き取ったことが原因で、伯父夫婦の仲が険悪になり、もともと子供がいなかった二人はあっさり離婚してしまったのだ。
 一応古泉はそのまま伯父の下に残ったが、それをきっかけに、伯父は徐々に二人に辛くあたるようになっていく。
 古泉が中学に上がるころには、伯父は彼に対して毎日のように暴力を振るうようになっていた。

 そんな伯父に対して、古泉は決して心を開くことはなかった。
 彼は幼いころに別れた妹の影にしか心を許すことはなかった。
 そんな日々が続いたが、古泉は毎日を精一杯明るく振舞った。
 学校でも友達を作り、いつしかクラスの中心的な存在にもなっていった。
 独りになった伯父は身軽なのをいいことに、多くの女性問題を抱えていた。
 総合病院の院長という魅惑のポストも手伝って、こと性処理の相手には不自由せず、夜ごと見知らぬ女を家に連れ込んでは、不埒な性生活を送り続けた。

 ……アアアッ……

 毎夜のように聞こえる見知らぬ女性の喘ぎ声。
 古泉は耳を塞いで、震える身体を抱きしめた。
 これがいずれコンプレックスになり、こんな事件を起こす原因になってしまうとは、いったいだれが予測しただろうか?
 毎夜、響き渡る官能の声の中で、寄り添って震える少年。
 すさんだ生活の中で、いつしか古泉の妹を思う兄弟愛は、徐々に男性が女性を愛する性愛へと屈折していった。
 それが禁断の愛であることは、当の古泉にもわかっていたことだろう。
 だが、激しい心は、彼にその禁忌を犯させてまで、一途な想いを遂げさせた。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:47:22.03 ID:Z1F3x+ey0

 古泉は、伯父が行為に至る間、手淫に浸るようになった。
 妹の姿を浮かべながら枕を抱きしめて……禁断の欲望は、そんな方法でしか昇華させることができなかったのだ。
 笑っている妹の唇……。
 スカートからのぞく真っ白な太股……。
 さらさらと流れる妹の細い髪……。
 近くにいない分、残酷だった。

 限界まで押さえつけられた古泉の理性は、窒息寸前だった。
 そして、限界まで押さえつけた理性をさらに押さえつけたとき、理性には、壊れるしか道は残されていなかった。
 それは、暑い夏の出来事だった。
 古泉は、壊れた。

 古泉は、狂ったように大きなセミの大合唱に耳を塞ぎながら、月一度の面会日に涼子さんを自分の部屋に連れ込んだ。
 そして、嫌がる涼子さんの身体を無理矢理に奪った。
 愛する妹を床に叩きつけ、ひきちぎらんばかりに胸をもみしだき、壊れんばかりに性器をこねまわし、
 身体中の穴という穴に精液を流し込み、それだけが愛する妹を自分のものにする方法だと信じた。
「アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシ……

 古泉に身体を奪われた涼子さんは、心に深い傷を残し、そのまま精神を闇に閉ざしてしまった。
 そして彼女は、やがて闇の奥に潜んでいた狂気の扉を開くのだった。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:49:00.68 ID:Z1F3x+ey0

「……いままでずっとふたり……いっしょにいたのに……りょうこ、りょうこ」
 小さな古泉は、消え入りそうな声で涼子さんの名を呼び続けた。
 これが、古泉の本当の姿なのだ。
 成績優秀で、生徒会副会長で、教師たちの信頼も厚い優等生。
 冷酷残忍で、高圧的で、日本を支配すると豪語する狂気の支配者。
 悪夢のような現実。
 自分を解放してくれる狂気。
 甘美な狂気に憧れながらも、現実に縛られていた男。
 結局は狂気の侵食に身を任せてしまった弱い男。
 こいつは、俺だ。
 ちょっと運が悪かっただけの、俺なのだ。
 目覚める前であったにもかかわらず、俺が古泉の電波を受信できたのも、古泉と俺が同じような魂の波長を共有していたからに他ならないのだろう。
 古泉が辿った道は、俺が辿ろうとしていた道なのだ。

 ……しかし……

「涼子さんがいなくなったのはお前が涼子さんを傷つけたから……そうだろう?」
 俺は冷ややかな声でそう言った。
 だからといって、輝きを失った鶴屋さんは、親友に犯された朝比奈さんは、そして精神を閉ざしてしまった涼子さんは、紛れもなく古泉の犠牲者なんだ。
 俺は、古泉に手を差し伸べた。
 古泉は、涙で濡れた瞳をぱちぱちと瞬かせると、きょとんとした顔で、その手を見た。
「……」
 俺は、さらにその手を古泉に近づけた。
 最初はためらっていた古泉も、俺が微笑むと、少し警戒を解いたのか、恐る恐るその手を握ってきた。
 古泉の小さな手が、俺の手を握る。俺は、ゆっくりとその手を引いて、古泉を立ち上がらせた。
「……お前は、責任を取らなくちゃいけない」
「せき……にん?」
「涼子さんや、みんなを傷つけた責任がある」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:50:02.37 ID:Z1F3x+ey0

 俺は涼子さんの手を引いて、ベッドから降ろした。
「うん、じゃあ、ぼく、せきにんとるよ。そしたら、そしたら、りょうこも、ぼくをゆるしてくれる?
 またここにかえってきてくれる?」
 小さな古泉は、ごしごしと涙目をこすりながら、必死に笑顔を作ろうとした。
「涼子さんは……多分、もうここには帰ってこない」
 俺は冷たい声で言った。
「……ど、どうして?」
「これ以上、涼子さんを苦しめる気か!」
 小さな古泉はびくっ、と後ずさった。
 だが、俺は手を離さなかった。
「古泉……何もかもお前が悪いんだぞ。お前のその弱い心のせいで、どれだけ涼子さんが苦しんだと思っているんだ!」
 そう言うと同時に、俺は小さな古泉の手を乱暴に引っ張った。
「あっ!」
「お前なんか壊れてしまえ!
 ここに閉じこもって、ずっとひとりで泣いていればいいんだ!」
 このまま逆に突き飛ばせば、古泉の心はガラスのように粉々に砕け散るだろう。
 闇の世界にキラキラと七色の光を放ちながら、その破片は淡雪のように溶けてしまうのだろう。
 そして、永遠に消滅するのだろう。
 俺は、それを見てみたいと思った。
 タールのようにドロドロとドス黒い感情が、俺を支配していた。
 そんな感情に呑まれながらも、俺の耳は、確かに小さな声を聞いていた。
 その声は救いを求める少女が、風が吹く屋上から、来る日も来る日も送り続けたメッセージだった。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 08:50:43.95 ID:Z1F3x+ey0

「……助けて……」

 涼子さん、あなたが俺を助けてくれたように、今度は俺が助ける番だな。
 そうだろう?

「……助けて……」

 涼子さんを苦しめる古泉を打ち砕いて、すべての悲しみから救ってやる。

「……助けて……」

 でも、

「……助けて……」

 それはきっと、古泉を打ち砕くことなんかじゃなかった。

 確かに、古泉の暴走を止めることは、涼子さんの救いになるだろう。
 罪もない人たちが、自分の兄のせいで苦しんでいる。それは、涼子さんの悲しみだったはずだ。
 でも、古泉の存在を消滅させることが救いなのだとしたら、涼子さんは、わざわざ俺を探す努力なんてしなかっただろう。
 毎日毎日、風が吹く屋上で、誰に届くかもわからない電波なんて送り続けなかっただろう。

 涼子さんが助けてほしかったのは、古泉なんだ。
 涼子さんは、自らが深く傷つきながらも、古泉の痛みを悲しんでいたんだ。
 だから、涼子さんは電波を送り続けた。
 「兄さんを助けて」、と。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:00:17.95 ID:Z1F3x+ey0

「涼子さんは」
 俺は、おびえきった小さな古泉に言った。
「涼子さんは、とっくにお前を許してる」
「ほ……ほん……とう?」
 小さな古泉は、微かに震えながら繰り返した。俺はコクリとうなずく。
「ただ、あなたが一方的に心を閉ざしてしまっているだけだ」
「じゃあ、どうしてりょうこはここへきてくれないの?
 どうしてぼくをずっとひとりにしておくの!?」
 小さな古泉は、涙に濡れた目を俺に向け、悲痛な声で訴えた。
「りょうこはぼくのこときらいになっちゃったんだ! だから……」
「古泉!」
 俺は、古泉の声をぴしゃりと押さえて、先程の言葉を繰り返した。
「何もかもお前が悪いんだ。お前のその弱い心のせいで、どれだけ涼子さんが苦しんだか、わかっているのか?」
「ぼく……りょうこをくるしめてるの?」
 俺はコクンとうなずいた。
「涼子さんだけじゃない。鶴屋さんも、朝比奈さんも、ハルヒも、あの二人の女の子も、みんなみんな苦しみ、傷ついた。
 俺はお前を許すことはできない。
 が……」
 こうするしかないんだ。

「くやしいが、俺じゃ涼子さんの心を救うことはできない。
 涼子さんには……お前が必要なんだ。俺と一緒に外に出よう。涼子さんをこんな闇の中に引き戻しちゃだめだ。
 かつてあなたがそうしようと努力したように、暖かな陽の光の下に涼子さんを連れていってやってくれ」
「ぼくに……できるの?」
「お前にしか、できない」
 小さな瞳が、不安と戦っていた。
 そして不安は、小さな瞳から駆逐された。
「……うん……わかった」
 小さな古泉は、涙を払ってうなずくと、ニコッと微笑んでみせた。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:15:46.15 ID:Z1F3x+ey0

 俺の電波は、すべての殻を振り払った古泉の心に触れ、その中で苦しんでいた彼の心を開放した。
 心の中のイメージでは、俺が古泉の手を引いて外へ連れ出したのだが、実際には、彼自らがドラウマを克服したのだ。
 人間の精神は、繊細なガラス細工のようなものだ。
 ほんのちょっと、なにかをぶつけただけで、簡単にこわれてしまう。
 それを傷つけずに癒すのなら、本人自らに心を開かせるしかない。
 俺はそのきっかけを与えたに過ぎないんだ。

 古泉の心の中から戻った俺は、両腕の中にあるほのかな温もりを感じていた。
 それが涼子さんの身体の温もりだと気づいた俺は、懐かしい故郷に帰ってきたような安らぎを得た。
 ゆっくりと瞼を開く。
 薄暗い生徒会室の中。
 精神を切り離している間、俺はずっと涼子さんの肩を抱きしめていたらしい。
 鶴屋さんをはじめとする女の子たちは、全員が安らかな寝息を立てている。
 部屋は静寂に包まれていた。

 目の前には、古泉がいた。
 彼はぺたんと床に座り込んで、ぐったりと上半身を壁にもたれ掛けていた。
 薄く開かれた目は、すべての生気を失い、死んだ魚のようにどろりと濁っていた。
 その瞳が、少しずつ、色を取り戻していく。
 古泉は、パチパチと何度か瞬きを繰り返して、瞳の焦点をゆっくり、涼子さんに合わせた。
「……涼子……」
 古泉がささやく。
「……僕は……」
 その目には、もう、狂気のひとかけらも残ってはいなかった。
「涼子さん?」
 俺は、涼子さんの細い肩を抱き寄せると、さらさらの髪を、そして頬を、優しく撫でた。
 彼女はちょっと困ったような表情で、俺を見つめていた。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:31:16.61 ID:Z1F3x+ey0

(……行っていいの?)
「……それが賢明だろう」

(……キョンちゃん、淋しくない?)
「……いいや、大丈夫だ」

(……ほんとう?)

 俺は優しく肯いた。
「ああ、本当だ」

 うそだ。本当は、このままずっと涼子さんを抱きしめていたかった。
 いかに古泉に同情すべき過去があったにせよ、精神世界で叫んだとおり、彼が行った罪を俺は許してはいない。
 だが、そんな彼でも、涼子さんにはかけがえのないたったひとりの兄なんだ。
 古泉には、俺にはできないことができる。
 涼子さんの心を癒すことが……。「……本当だ」
 もう一度俺がうそをつくと、涼子さんは無言のままコクンとうなずいて俺の腕の中から離れ、古泉のもとへ歩み寄った。
 涼子さんの瞳は、古泉一点を見つめて動かなかった。
「涼子……ごめん……僕は……僕は……」
 古泉の瞳から涙が溢れる。雫が、ゆっくりと頬を伝わって、床に落ちた。
「……お兄ちゃん……やっと……帰ってきてくれた……」
 涼子さんがささやくようにそう呟いた。

 そして古泉を見つめたまま、宝石のような涙の雫をこぼした。
 やわらかな月明かりの中で、二人はそっと身体を寄せ合った。

 ……これでいいんだろう? 涼子さん……俺は、約束を守ったぞ。

 俺はある決心を胸に、抱き合う二人に、おそらくこれで最後になるであろう電波を送った。
 ……さよなら、涼子さん。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:41:21.60 ID:Z1F3x+ey0

 鶴屋さんY

 綺麗な朱色の絵の具を溶かして流したような夕空。
 薄暮れの屋上を、一陣の透明な風が吹き抜けていった。
「だーれーだっ」
 あたしは彼の背後から手を回し、一気に目隠しをした。
「鶴屋さんでしょ?」
 ちっともびっくりしていない様子のキョンくんは、呆れたように笑うと、そのまま再び鉄格子にもたれかかった。
 背中に哀愁が漂っている。
「どうしたのさ、誰彼ちゃって?」
「……いや、別に……。ただ、綺麗だなって思って」
 なんだかそらぞらしいその言葉に、あたしは思わずぷぷっ、と笑い声を洩らした。
「気取っちゃって、しぶいねー、キミィー!」
 指先でちょん、と頬をつつくと、キョンくんは照れたのか慌てて言った。
「そ、それくらい誰だって思うだろ!」
「あ、キョンくん、照れてるねー」
「違うぞ、断じて違う!」
「アハハ、ゴメンゴメン! ウソウソ!」
 笑いながらあたしは、『夕日を美しいと思えるのは若者の特権である』という、何かの本に書かれていた言葉を思い出していた。
 そう。
 あたしたちは、今という、かけがえのない時間を生きている。
 もしかしたら、明日はこの夕日を美しいと思えなくなっているかもしれない。
 もしかしたら、明日はキョンくんと会えなくなっているかもしれない。

 だとしたら、あたしはなんて素敵な時間を生きているんだろう?

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:45:05.40 ID:Z1F3x+ey0

 あたしは割り込むようにキョンくんの横に陣取ると、校庭を見下ろしながら尋ねた。
「……あのさっ、結局幽霊騒ぎってどうなったにょろ?」
「どうにもなってない。なにもありませんでした、先生も安心、それでお終いさ」
「え〜っ。じゃあさ、ハルにゃんの日記はどういうことなんだいっ?」
「彼女が見た幻覚、あるいは妄想みたいなものだったんだろう」
「でもぉ……」
「それに、鶴屋さんも夜の学校を調査して、何も見つけられなかったんだろ?」
「う。たしかにそうにょろ……」
 そうなのだ。
 陽が暮れるのを待って学校探検に出発したあたしだったが、不思議なことに、その後何がどうなったのか、まったく記憶がないのだ。
 目が覚めると朝になっていて、体育館で爆睡していたあたしは、みんなの笑いものになっていたのだった。
「な〜んか、ヘンな感じなんだよねえ。何か重要なことがあったような、なかったような……。
 ああーっ、なんだかイライラするっ!」
「何もなかったのさ。……何も」
 キョンくんはいつものように、何かを知っているかのような探偵っぽい口調で呟いた。
 夕日が逆光気味に照らしているため、彼の表情は読むことは出来なかった。
「そっか、あたしが知らない間に全部終わっちゃったんだ。
 ま、なんか今となってはどうでもいいような気がするんだけどね〜」

 ふわっ。

 舞い上がるような風が吹き抜けた。
 上空を飛ぶ飛行機の影が、校舎を通り抜け、屋上にいるあたしたちを飲み込んだ。
「……朝比奈さん、あのオルゴール、机の奥に……」
 ハルにゃんの容態は、もう絶望的とのことだった。
 彼女の身体は、総合病院から精神病院へと移されたという。
「わたし、もう泣かないことに決めたんです。
 涼宮さん、わたしが落ち込んでると心配で夜も眠れない、って言ってましたから……。
 このオルゴールも、机の奥にしまっておきます。 オルゴールがなくても、涼宮さんはいつもわたしのここにいますから」
 みくるちゃんは胸をぽん、と叩いて、ニッコリと笑った。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:46:25.93 ID:Z1F3x+ey0

 影が通過すると、再び夕日が辺りを包んだ。
「オルゴール?」
「なんでもないっさ!」
 なんだか、もうすべてが終わったことのように思えた。
「よっ、と!」
 あたしは勢いをつけて鉄柵から離れると、クルリと一回転してキョンくんに言った。
「キョンくん、ひとつ提案にょろ」
「夜の学校探検なら他をあたってくれ」
「違うよ! 今度の日曜日、ヒマかな?」
「ん? あ、ああ、別に予定はないが……」
「ホント、ラッキー! じゃあさ、一緒に映画観に行かないかい?
 前からめがっさ観たかったやつやってるのさ!」
 あたしはキョンくんの瞳をのぞき込んだ。
 キョンくんの瞳が、あたしをのぞき返す。
 そこには、もう、あの『何か』は残っていなかった。
 でも、そんなキョンくんも、あたしは素敵だと思った。
「……ああ、いいぞ」
「やったー! 楽しみにしてるからね、約束にょろ!」
 あたしは小躍りしながらキョンくんに小指を突きつけた。
「ゆびきり、しよ」
「……」
 キョンくんは、しばし無言であたしの指を見つめていた。
 その目に、『何か』が浮かんだ。
 そして、すうっ、と溶けるように消えていった。
 キョンくんは、何かを決意したかのような勢いで左手の小指を出した。
「ゆーびきりげーんまーん……」
 あたしは確信していた。
 キョンくんの瞳に、あの『何か』はもう二度と現れないと。
「……指切った! 忘れたら、ハリ千本だねっ!」

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:47:02.21 ID:Z1F3x+ey0

 また、延々と続く毎日が始まる。
 でも、今のあたしには、それがとっても愛しいものに思えていた。
 何も覚えていないけれど、あの夜、きっとあたしは何かを見たのだろう。
 それをみて、退屈な毎日も捨てたものじゃないって気づいたんだと思う。

 だって、こんなにドキドキできるじゃない。

「来年、おんなじクラスになれるといいね」
 口にしてから、自分でも驚いた。
「そしたら、もっと近くにいられるのに……」
 それは、するすると自然に口から溢れた、心の声だった。
 誤解とか体面とか、そんなものを気にしない飾らない言葉。
「!」
 キョンくんが、突然あたしの身体を抱き締めた。
 キョンくんは、泣いていた。
 夕日が、こぼれ落ちる涙の雫をきらきら輝かせた。
 いきなりのことで心臓が止まるくらい驚いたけど、あたしはすぐに彼の胸に、自然に顔を埋めた。

 泣いていいよ、キョンくん、辛かったんでしょ?

 優しい気持ちが、胸をいっぱいに充たした。
 真っ赤に燃える炎の赤。
 あたしたちは強く抱き合ったまま、その光に溶け込んでいった。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:48:54.19 ID:Z1F3x+ey0




      くるくる少女は爆弾少年の夢を視るか?       完




160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 09:58:21.45 ID:Z1F3x+ey0

              __ ,.-¬- 、._
             / '´,  、   、 `ヽ、
          r´    / l ヽ  \ 、ヽ     ここまで読んでいただいた方。
           /  / /l.  l、 \  ヽ ', lヽ    支援などレスをしていただいた方。
        /, l. / /´ヽ lヽ   ヽ. ! ヽ. ト ヽ、  ありがとうございます。
        '´|  V '__ヽ. ト\、_',|   ',|
         | l. ,| | __ \゙、ヽ.__ヽl.  ト.|    投下し始めてからおよそ12時間経っているんですね。
           lハlヘ|´ `   ヽ´ ``〉,^! | !    時間の流れは速いものです。
           l\l|    |    //ィ N
          | ハ ヽ  __   /ハ/ `       _
          '′lハn\ `ニ´/! !        ,イ |  個人的には>>61-62の流れはもっと評価されてもいいと思うのですが……。
           _,.-' /ヽ ` - ´ ,ハ\       | |ヽ
       _, - ' /   |  ヽェ、 '   | ヽー、    _ | ト. ヽ
  ,.、-‐ ´    /  |  /  〉   |   ヽ `⌒.l ヽ',ヽヽヽ
  / ヽ     〈  ,.-|ヽ/ ヽ-/ ヽ/|、  ,〉     | l_! ヽ ゙l

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 10:16:48.41 ID:Z1F3x+ey0

              __ ,.-¬- 、._
             / '´,  、   、 `ヽ、
          r´    / l ヽ  \ 、ヽ     さて、
           /  / /l.  l、 \  ヽ ', lヽ    冒頭や皆さんのレスにもありましたように、このSS……というよりは改変ですかね。
        /, l. / /´ヽ lヽ   ヽ. ! ヽ. ト ヽ、  『雫』という1996年にアダルトゲーム会社のリーフが企画・制作したものが
        '´|  V '__ヽ. ト\、_',|   ',|     元ネタとなっております。(元ネタの元ネタは……ここで言うのは野暮でしょう)
         | l. ,| | __ \゙、ヽ.__ヽl.  ト.|
           lハlヘ|´ `   ヽ´ ``〉,^! | !    物語性……に関しては言及することはもはやないでしょうね。
           l\l|    |    //ィ N       チュンソフトの『弟切草』にインスパイヤされたシステムをアダルトゲーム業界で最初に取り入れたこと。
          | ハ ヽ  __   /ハ/ `       _  『雫』の世界に引き込まれるような背景、音楽。
          '′lハn\ `ニ´/! !        ,イ |  それら全てが一体となり、エロゲ史上に残る作品であるといわれています。
           _,.-' /ヽ ` - ´ ,ハ\       | |ヽ
       _, - ' /   |  ヽェ、 '   | ヽー、    _ | ト. ヽ
  ,.、-‐ ´    /  |  /  〉   |   ヽ `⌒.l ヽ',ヽヽヽ なお、同年にはエルフの『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』が発表されていますね。
  / ヽ     〈  ,.-|ヽ/ ヽ-/ ヽ/|、  ,〉     | l_! ヽ ゙lこちらも名作ですので、機会があればプレイすることをおすすめします。

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 10:40:54.65 ID:Z1F3x+ey0

             __ ,.-¬- 、._
             / '´,  、   、 `ヽ、
          r´    / l ヽ  \ 、ヽ       個人的な妄想に過ぎないんですが
           /  / /l.  l、 \  ヽ ', lヽ     雫の登場人物とハルヒの登場人物には相似関係がある気がするんですよ。
        /, l. / /´ヽ lヽ   ヽ. ! ヽ. ト ヽ、
        '´|  V '__ヽ. ト\、_',|   ',|     みずぴー=みくる、月島兄=古泉は簡単に想像できましたね。
         | l. ,| | __ \゙、ヽ.__ヽl.  ト.|     とくに、みずぴーの中の人はリニューアル版で同じ人が選ばれたようですし。
           lハlヘ|´ `   ヽ´ ``〉,^! | !
           l\l|    |    //ィ N      太田さん→ハルヒなのは……おまけを知っている方ならわかるかと。
          | ハ ヽ  __   /ハ/ `       _ 瑠璃子さん→朝倉さんは悩みましたね……長門にしようかと思ったのですが、セリフ回しが難しかったので彼女に変更しました。
          '′lハn\ `ニ´/! !        ,イ | 新城さん→鶴屋さんなのは自分の中で「ハルヒにあこがれているイメージ」があったからです。
           _,.-' /ヽ ` - ´ ,ハ\       | |ヽ        さすがにキョン妹で「はさみー!」は良心が痛みますので。
       _, - ' /   |  ヽェ、 '   | ヽー、    _ | ト. ヽ
  ,.、-‐ ´    /  |  /  〉   |   ヽ `⌒.l ヽ',ヽヽヽ     >>165 起きていましたよ。
  / ヽ     〈  ,.-|ヽ/ ヽ-/ ヽ/|、  ,〉     | l_! ヽ ゙l    さるさんの基準が一時間に10レスなので5分刻みで10分休憩にしようとしたのですが……。
                                      最後のあたりは、ラスト10分で詰め込めるだけ詰め込んでみました。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/17(火) 10:55:08.71 ID:Z1F3x+ey0

             __ ,.-¬- 、._
             / '´,  、   、 `ヽ、
          r´    / l ヽ  \ 、ヽ
           /  / /l.  l、 \  ヽ ', lヽ
        /, l. / /´ヽ lヽ   ヽ. ! ヽ. ト ヽ、
        '´|  V '__ヽ. ト\、_',|   ',|          >>167 さあ、どうでしょうか
         | l. ,| | __ \゙、ヽ.__ヽl.  ト.|               登場人物の改変が行うことが出来れば可能でしょうね
           lハlヘ|´ `   ヽ´ ``〉,^! | !
           l\l|    |    //ィ N
          | ハ ヽ  __   /ハ/ `       _          さて、僕はこれからバイトがありますので失礼させていただきます。
          '′lハn\ `ニ´/! !        ,イ |          それではまたVIPのどこかでお会いしましょう。
           _,.-' /ヽ ` - ´ ,ハ\       | |ヽ
       _, - ' /   |  ヽェ、 '   | ヽー、    _ | ト. ヽ
  ,.、-‐ ´    /  |  /  〉   |   ヽ `⌒.l ヽ',ヽヽヽ
  / ヽ     〈  ,.-|ヽ/ ヽ-/ ヽ/|、  ,〉     | l_! ヽ ゙l



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