古泉「大変な高校デビューをしてしまいました……」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 21:44:58.98 ID:iogYW/0J0

ハルヒ「東中学出身、涼宮ハルヒ」

ハルヒ「ただの人間には興味ありません。
    この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、
    あたしのところに来なさい」

古泉「ぶはっ」

ハルヒ「……」
クラス「……」
古泉(思わず、吹き出しちゃった。
   面白いこと言う人だなあ、って、
   あれ、何このシーンとした空気……!)

ハルヒ「……以上」(ギロ)

古泉(な、なんか、背後の視線が痛い! 辛いっ!)

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 21:46:48.76 ID:iogYW/0J0

前にたった、古泉とキョンの立場が入れ替わったスレの設定が
あまりにも古ハル好きな私めにクリーンヒットしまして、
自分なりにその設定を生かしてみようと思って書いたものです。
至らない点はあると思いますが、愛は思い切り込めて書いてます。
どうぞ、最後までお付き合いしてくださると恐縮です

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:01:16.17 ID:5lIbJm1iO

規制で携帯からです……



古泉(自己紹介、終わったけど。
   後ろからの視線が痛すぎて身動きが出来ない……)

ハルヒ「ちょっとあんた」
古泉「は、はい!」
ハルヒ「さっきの。どういうつもりなわけ?」

古泉(どういうっていうか、あそこは笑うところなのかと思って。
 ……みんなぜんぜん笑ってはなかったけど)

古泉「あ、いえ、あの、
   僕も、涼宮さんと同じようなこと考えていたもので!
   びっくりしてしまったんです!」
  (いくらなんでも、動揺して何言ってるんだ僕は)

ハルヒ「……あんたも、宇宙人探してるの?」
古泉「ええ、そうなんです!
   未来人とか、超能力者とか、夢がありますよね!」
  (正気に戻れ、僕)

ハルヒ「ふぅん。例えば?」
古泉(例えば!?)

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:06:48.53 ID:5lIbJm1iO

古泉「そ、そうですね。
   僕らには理解できない、彼らの高次元の理解と常識は、
   高次の技術の発達へ期待できる可能性を秘めてますよね!」
  (なんだろう。自分で言ってて、さっぱりわからない)

ハルヒ「……」
古泉「……」
  (……変だったか。やっぱり)

ハルヒ「あんた、コイワタリイッキって言ったっけ?」
古泉「あ、古泉一樹です」
ハルヒ「イッキね。覚えておいてあげるわ」
古泉「え、あ、ありがとうございます!」
  (イツキ、なんだけど、な。
   でも、とりあえず怒ってはないみみたい……?)

ハルヒ「そういや、なんであんた、敬語なの? 同じ年なのに」
古泉(それは、あなたが醸し出す何かのオーラに気圧されて…
   ってはさすがに言えないし……)
  「ええと、これは癖みたいなものですよ。気にしないでくださいね」
ハルヒ「ま、耳汚い言葉使いよりはだいぶマシかもね」


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:14:02.50 ID:5lIbJm1iO

古泉「……はぁ」
  (涼宮さんか。なんだか、すごい人だなあ。
   って、もしかして僕は、今の会話で敬語なキャラ決定?
   みんなの前で笑っちゃった手前あるし、今更ウソですとも言い辛いなあ……)

谷口「おい、お前」
古泉「! 僕ですか?」
谷口「おう。あ、俺は東中の谷口ってんだ」
古泉「こ、古泉です。よろしくお願いします」
谷口「よろしくな。それよりお前、さっきはどんな魔法を使ったんだ?」
古泉「ええ?? 魔法ですか?」
  (宇宙人、未来人の次は、魔法使い!?)
谷口「涼宮だよ、涼宮! 俺、涼宮と同じ中学なんだけどよ。
   あいつが、怒鳴るでもなく変な呪文唱えるのでもなく
   あんなに長い間喋ってるの初めて見るぞ」
古泉「あ、はは……」
古泉(涼宮さん、ずいぶんな言われ方されてる……)

谷口「しかも、あいつの話を真顔で噴き出したやつ相手に、だ!
   俺は以前、あいつの話で爆笑していたやつが、
   一週間ひとっことも喋れなくなる状態に陥ったことを知ってる。
   まさに、驚天動地だぜ」

古泉「え」
  (今なんか、とんでもないこと聞いた気がするけど)



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:19:20.93 ID:5lIbJm1iO

谷口「ま、お前もあいつが恐ろしかったら、
   無難に近寄らない方がいいぜ。
   君子、危うきに近寄らず、っていうだろ?」
古泉「で、でも」

古泉(むしろ、恐いっていうより)

古泉「涼宮さんは、とても可愛らしい方だと思います」

谷口「……」
古泉(あ、あれ? なんか、変だったかな?)

谷口「お前、なんだ、天然っていうか、癒し系?」
古泉「はい?」
谷口「うん、お前、癒し系だろ。
   実際、あの爆笑のおかげで、涼宮の奇天烈さが絶妙に癒されてたしな。うん。
   よし、お前、その調子で涼宮のあのイカれ具合を癒してやってくれよ!」
古泉「は、……はあ」

古泉(……い、癒し系にされてしまった……)

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:21:18.88 ID:5lIbJm1iO

古泉「はあ……」

古泉(なんだか、密度の濃い一日だったな)
古泉(敬語キャラで、癒し系……って)
古泉(違うって言いそびれちゃったし)
古泉(まだ入学したてなのに、変なキャラ付けになっちゃった……)
古泉(うう、どうしよう)

古泉「大変な高校デビューをしてしまいました……」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:25:39.94 ID:5lIbJm1iO

古泉「おはようございます」
ハルヒ「おはよ」

古泉「あれ? 涼宮さん、今日はポニーテールなんですね」
ハルヒ「悪い?」
古泉「いいえ。とてもお似合いで、可愛いです」
ハルヒ「……あそ」(ぷい)

古泉(不機嫌にさせちゃった……。
   うう、昨日の今日じゃ馴れ馴れし過ぎたかな……)


谷口「よう、古泉」
古泉「あ、おはようございます。谷口君」

国木田「おはよう、古泉君」
古泉「おはようございます……ええと」
谷口「こいつは国木田ってんだ。
   昨日ちょっと喋ったら、割と面白い奴でよ!」
国木田「割とってのは、余計だけどね。
    僕これでもお笑い芸人目指してたんだから」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:28:36.06 ID:5lIbJm1iO

古泉「そうなんですか? すごいですね!」
国木田「うん、五歳のころね」
古泉「……ええと、今は?」
国木田「んー、とりあえず、秘密結社のボスとかかな」
古泉「秘密結社のボスですかあ。あ、じゃあ、僕参謀になってみたいです」

国木田「……ぷっ」
谷口「な! こいつ、良い感じで癒し系だろ?」
古泉「?」
国木田「あはは、確かに、良い癒し系だね」
古泉「? ?」
  (別に、何も癒してないんだけどなあ……)

国木田「まあ、古泉君。これから仲良くしていこうよ」
古泉「あ、はい! よろしくおねがいします!」
谷口「なんだよ、いまさらんな挨拶いらないだろーが。
   もうダチなんだし。なあ?」
古泉「え、あ、そ、そうです、よね!」(ぱぁあ)

古泉(と、友達! すごいっ。
   僕に、お友達が二人も出来ちゃった!)




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:33:33.28 ID:5lIbJm1iO

古泉(可笑しな高校デビューを飾った僕の高校生活だけど、
   思った以上に楽しくて、毎日キツい坂を登ることだって辛くない)
古泉(谷口君や、国木田君といると、いつも笑いが絶えないし)
古泉(それに……)

古泉「涼宮さんはリボンが好きなんですか?」
ハルヒ「別に好きってわけじゃないわ。ただ長いから縛るのに使ってるだけよ」
古泉「そうなんですか? でも、毎日きれいに結われてますよね。
   僕、涼宮さんが今日はどんな髪型なのかなって、毎日楽しみなんですよ」
ハルヒ「別に、あんたのためにやってるわけじゃない」
古泉「ふふっ、じゃあ宇宙人さんのためですか?」
ハルヒ「……まあね」
古泉(当たっちゃった!)

ハルヒ「あたし、思うんだけど、
    曜日によって感じるイメージってそれぞれ異なる気がするのよね」
古泉「イメージ、ですか?」
ハルヒ「色で言うと月曜は黄色、火曜が赤で水曜が青で木曜が緑、
    金曜は金色で土曜は茶色、日曜は白よね」
古泉「あ、だから涼宮さん、毎日違う色のリボンだったんですね?」
ハルヒ「まあね。あと、数字に表わしたら、月曜がゼロで日曜が六とか」
古泉「太陽が消えるとき、月が現れる感じで

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:40:34.00 ID:5lIbJm1iO

文切れちゃたので台詞重複です


古泉「太陽が消えるとき、月が現れる感じで?」
ハルヒ「……! よくわかったわね」
古泉(すみません、適当です)
キーンコーンカーンコーン

古泉(あ、そろそろ先生来るかな)
ハルヒ「そういや、あんた」
古泉「あ、はい」
ハルヒ「あたし、あんたとどこかで会ったことがある? ずっと前に」
古泉「……? もし会ったことがあったとしたら、
   涼宮さんのような可愛い人をそう簡単に忘れることはないと思いますよ」
ハルヒ「……そんな意見は聞いていないわよ」(ぷい)
古泉(うっ、また怒っちゃった)

岡部「うおーい、授業はっじめっるぞー♪」



>>31
ありがとう!
憂鬱の最後まで長いけど、がんばります!

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:42:22.96 ID:5lIbJm1iO

谷口「それにしても、お前なんかすっかり涼宮と話せてんなあ」
古泉「え、でも、いっつも僕、涼宮さんを怒らせちゃってますけど……」
国木田「いやいや、それでも十分だと思うよ?
    涼宮さんと二言以上会話してる人、
    この学校に古泉君しかいないみたいだしね」
谷口「そのうち、涼宮専用通訳係に任命されるかもな!」
古泉「あはは」
  (無理だと思うけどなあ)

朝倉「私も古泉君に、涼宮さんの通訳お願いしたいくらいね」
古泉「あ、委員長さん」
朝倉「やあねえ、涼子で構わないわよ?」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:46:14.86 ID:5lIbJm1iO

朝倉「それにしてもねえ、ほんと、あたしがいくら話しかけても、
   なーんも答えてくれない涼宮さんがどうしたら話すようになってくれるのかし
ら。
   なにか、コツでもあるの?」
古泉「コツ、ですか? んー、よくわからないです」
  (怒らせることばっかしか言ってない気がするけど)
朝倉「ふーん。でも安心した。
   涼宮さんったら、入学してもう一か月は経つのに、
   いつまでもクラスで孤立したままじゃ困るもんね。
   一人でも友達が出来たのはいいことよね」
古泉「……はあ」

古泉(友達……か)

朝倉「その調子で、涼宮さんをクラスに溶け込めるようにしてあげてね。
   せっかく一緒のクラスになったんだから、みんな仲良くしていきたいじゃな
い?
   よろしくね」
古泉「よろしくと言われましても……」
朝倉「ふふ、これから何か伝えることがあったら、古泉君から言ってもらうようにす
るから。
   がんばってね、涼宮さん専用通訳さん♪」
古泉「あ、あの……」
  (行ってしまった)


谷口「古泉、俺たち……友達だよな?」
古泉「! あ、もっもちろんです!」(ぱぁああ)
谷口「……ほんとお前癒し系だなあ〜

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:56:18.23 ID:5lIbJm1iO

【次の日】

古泉「あれ、涼宮さん!?」
ハルヒ「なによ」
古泉「髪……切っちゃったんですか??」
ハルヒ「だから?」
古泉「え、あ、ええと……」
ハルヒ「昨日も言ったけど、別にあんたのために髪縛ってたわけじゃないわよ」
古泉「それは……そうですけど」
ハルヒ「なによ」
古泉「いえ、長い髪が似合ってたと思ってましたけど、
   ……短い髪も涼宮さんは似合うんだなあと思って」
ハルヒ「……」
古泉「そのオレンジのカチューシャも、
   涼宮さんの雰囲気に、よく合ってます。可愛いです」
ハルヒ「……あ、っそ」


古泉(長い髪、ちょっともったないと思ったけど、
   短いと、涼宮さんの顔、はっきりとみえるから……けっこういいかも)

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 22:58:19.37 ID:5lIbJm1iO

古泉「あ、そういえば、涼宮さんって、
   全部のクラブに入ってみたっていうのは本当なんですか?」
ハルヒ「だったら?」
古泉「クラブ決めの参考に、楽しかったクラブはなかったかなあと」
ハルヒ「ない」
古泉「はい?」
ハルヒ「全然ない」

古泉「そ、そうなんですか?
   でも、クラブ紹介で寸劇のようなことをやってた、
   ミステリ研究会とかは、面白そうでしたけど……」
ハルヒ「ミステリ研究会ね。笑わせるわ。
    今まで一回も事件らしい事件に出くわさなかったって言うんだもの。
    部員もただのミステリ小説オタクばっかで名探偵みたいな奴もいないし」
古泉「ええと、他にも、超常現象研究会とか」
ハルヒ「ただのオカルトマニアの集まりだったわ」

古泉「う、うーん」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:01:05.76 ID:5lIbJm1iO


ハルヒ「高校に入れば少しはマシかと思ったけど、
    これじゃあ義務教育時代と何も変わんないわね」
ハルヒ「あー、もう、つまんないわ!
    どうしてこの学校にはもっとマシな部活動がないの?」
古泉「んー、涼宮さんはどんなことがしたいんですか?」
ハルヒ「つまらなくなくて、なにか不思議なことがいっぱい起こる、楽しいことがし
たいわね」
古泉「楽しい、こと、ですか」

古泉(僕は、涼宮さんや、谷口君、国木田君と一緒にいるだけで楽しいけどなあ)

ハルヒ「あんたは?」
古泉「え、僕ですか? 僕は……
   普通に、街中で遊んだり、いろんなところに行ったり、
   季節の行事を一緒にするのも、してみたいかもしれません。
   って、これは部活動じゃなくて、ただのやってみたいことですね。あはは」
ハルヒ「……あんた、結構じじくさいこと言うのね」
古泉「う」
ハルヒ「ふぅん、でも、ま。それはそれであんたらしいけど」
古泉(ほ、褒められてるんでしょうか……?)



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:04:17.82 ID:5lIbJm1iO


古泉(そんな会話があったのは、たしかに鮮明に思い出せる。
   そのあと、また不機嫌そうに顔をそむけた涼宮さんが、
   何を考えていたのか、僕はわからなかった、けど)
古泉(まさか)

――ガンッ

ハルヒ「気がついた!」
古泉(い、っ!!)
ハルヒ「どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!」
古泉(!??? 首、苦し、頭、いたいっ)
古泉「な、何に気付いたんですか?」
  (頭、机にぶつけた? ぶつけられたっ?)

ハルヒ「ないんだったら作ればいいのよ!」
古泉「な、何をでしょう?」(ひりひり)
ハルヒ「部活よ!」
古泉「……はあ」
ハルヒ「なに? その反応。
    もうちょっとあんたも喜びなさいよ、この発見を」

古泉「あの、その発見はあとでゆっくりお聞きしたいのですが。
   とりあえず、今は落ち着いた方がいいかもしれません」
ハルヒ「なんのこと?」
古泉「……授業中なので」

古泉(……うう、頭も痛いですが、クラス中の視線も痛いです)



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:06:23.43 ID:5lIbJm1iO


ハルヒ「というわけで、協力しなさい」
古泉「協力するのは、いいですけど……何をです?」
ハルヒ「あたしの新クラブ作りに決まってるじゃない。
    あたしは部室と部員を確保するから、あんたは学校に提出する書類を揃えな
さい」
古泉「ほんっとうに、クラブを作るつもりだったんですか!」
ハルヒ「だからさっきからそう言ってるでしょ。
    詳しい内容はあとから決めればいいし、とりあえずまず作るのよ」

古泉(とりあえずで、作ってしまえるんだ……。
   クラブ作りなんて、僕にはとっても大きいことなんだけどな)

ハルヒ「いい? 今日の放課後までには調べておいて。
    あたあしもそれまでに部室を探しておくから。いいわね」
古泉「りょ、了解しました!」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:10:24.06 ID:5lIbJm1iO


キーンコーンカーンコーン

古泉「わっ、涼宮さんどこへ行くんですか?」
ハルヒ「部室に決まってるじゃない!」
古泉(そ、それはいいですけど、
   手、手、繋いじゃってるって……!)

ハルヒ「ここよ!」
古泉「文芸部部室って書いてありますよ?
   って、涼宮さんっ! そんないきなり開けちゃ――」

古泉(……あれ? 誰もいない?)

ハルヒ「ま、見た目がしょぼいのはしょうがないけど。
    意外と広いし、テーブル、椅子、
    おまけに本棚がセットしてあるってのはポイント高いでしょ!
    これからこの部屋が我々の部室よ!」
古泉「それは素敵ですが、あの、あくまでここは文芸部の部室では……?」
ハルヒ「文芸部はね、今年の春に三年が卒業して部員ゼロ、
    新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。
    で、このコが一年生の新入部員」
古泉(! 人、いたんだ。
   というか、この騒ぎで本から目を離さないなんて、ある意味すごい人だな……)



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:12:58.44 ID:5lIbJm1iO


古泉「ええと、じゃあ休部になってるだけってことなんじゃあ?」
ハルヒ「似たようなもんでしょ。一人しかいないんだもん」
古泉「そうかもしれませんけど、あのこはどうするんです」
ハルヒ「別にいいって言ってたわよ」
古泉「本当ですか?」
ハルヒ「昼休みに会ったときにね。
    部室貸してって言ったら、どうぞって。
    本さえ読めればいいらしいわ。変わってるっちゃー変わってるコよね」

古泉「はあ……」

古泉(ええと、)

長門「長門有希」
古泉「あ、古泉一樹です。あちらは涼宮ハルヒさんです」
長門「そう」
古泉「あの、いいんでしょうか? この部室を使うというのは」
長門「構わない」
古泉「もしかしたら、ものすごく迷惑をおかけするかもしれませんが……」
長門「別に」
古泉「不都合ではないですか?」
長門「ない」


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:14:56.81 ID:5lIbJm1iO

【次の日の放課後】

古泉「……はあ」
  (谷口君と国木田君が一緒に帰ろうと誘ってくれたのに、
   断っちゃった……。やっぱり死刑は怖いしなあ)

ガチャ

古泉「あ、こんにちは。長門さん。お早いですね」
長門「……」
古泉「僕も早く来たつもりですけど、
   あ、涼宮さんは何か用があるらしく、少し遅れてくるそうですよ」
長門「そう」

古泉「……」
長門「……」
古泉(か、会話が続かないっ!)



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:16:58.29 ID:5lIbJm1iO


古泉「……何を読んでらっしゃるのですか?」
長門「……」(ひょい)
古泉「昨日読んでいた本とはまた違いますね。面白いですか?」
長門「ユニーク」
古泉「長門さんは本が好きなんですね」
長門「割と」
古泉「僕も本はよく読むので、
   もしよろしかったら、今度お勧めの本教えてください」

長門「……これ」(すっ)
古泉「?」
長門「お勧め」
古泉「でも、これは今長門さんが読んでいたのでは……?」
長門「今読み終わった」
古泉(いいのかな……)



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:19:35.22 ID:5lIbJm1iO

古泉「あ、でも、ありがとうございます。さっそく読ませていただきますね!」

ガチャ

ハルヒ「やあ遅れてごめんごめんー! 捕まえるのに手間取っちゃって!」
みくる「ひゃああ」

古泉(なにごと?)

みくる「なんなんですかー?」
みくる「ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか、何で、
    かか鍵を閉めるんですか? いったい何を、」
ハルヒ「黙んなさい。
    みんな、紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ!」

古泉「……」
長門「……」

古泉「ええと、涼宮さん」
ハルヒ「なによ」
古泉「この方に、ちゃんと事情を説明して連れてきたんでしょうか?」
ハルヒ「それはあんたが説明することでしょうが」
古泉「僕ですか!」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:22:49.78 ID:5lIbJm1iO


古泉(説明って言われても……)

みくる「あ、あのお、いったいなんなんですかあ??」

古泉「あの、ですね。
   ここは、そちらにいらっしゃる涼宮さんが作ろうとしているクラブの部室でし
て……
   あの、朝比奈さん? は、その部員に選ばれた、みたいなんですが」
みくる「ひぇ? ええ? な、なんでですかあ?」
古泉「ええと。涼宮さん、なんでですか?」
ハルヒ「わっかんないの?」
古泉(わかりません!)

ハルヒ「まあ、見てごらんなさいよ」
古泉「はあ」
ハルヒ「めちゃめちゃ可愛いでしょう」
古泉(確かに、涼宮さんや長門さんとはまた違った可愛さの方だけど)
ハルヒ「あたしね、萌えってけっこう重要なことだと思うのよね」
古泉「? どこも燃えてはないですよ?」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:24:49.89 ID:5lIbJm1iO


ハルヒ「違う! 萌えよ、萌え! いわゆる一つのおかずネタってこと!」
古泉「ぶはっ」
  (な、なにを言い出すんだ、この人……!)
ハルヒ「基本的にね、何かおかしな事件が起こるような物語には
    こういう萌えでロリっぽいキャラが一人はいるものなのよ!」

古泉「そういう、ものなんですか?」
ハルヒ「もちろんそれだけじゃないのよ!」
古泉「?」

ハルヒ「ほれ!」(むぎゅ)
みくる「わひぁああ!」
ハルヒ「ほれほれほれぇっ!」(もみもみ)
みくる「どひぇええ!!」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:28:59.17 ID:5lIbJm1iO


古泉(な、なにして! というか、な、なにこの状況!?)

ハルヒ「このコ、ちっこいくせに、ほら、あたしより胸でかいの!
    ロリ顔で巨胸、これも萌えの重要要素の一つなのよ!」
古泉(そんなの、知りたくないです! っていうか、知らないです!)
ハルヒ「あー、本当におっきいなー。これ、顔うずまるんじゃない?」
みくる「ひ、ひええ??」
ハルヒ「なんかだんだん腹立ってきたわ。
    こんな可愛らしい顔して、あたしより大きいなんて!」
みくる「たたたす助けてえ!」

古泉「あー! あー! や、やめてくださいいいいい!!!」

ハルヒ「って、ちょっと、イッキ。なんであんたが恥ずかしがってんのよ!
    こら! ちゃんと目ぇかっぴらいて、耳塞ぐんじゃないわよ!」
古泉「だ、だって、破廉恥なんてダメですよ! 女の子が!」
ハルヒ「破廉恥じゃないわよ。女同士だし、スキンシップよ、スキンシップ!
    これから仲良くなるんですもの、当然の行為よ!」


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:32:53.00 ID:5lIbJm1iO


古泉「当然じゃないです! ……って、涼宮さんは、
   その、朝比奈さんを、そういう理由で連れてきたんですか?」
ハルヒ「そうよ?」
古泉(絶句、……って、こういうときに使うんだろうな)

ハルヒ「あ、みくるちゃん、あなた他に何かクラブ活動してる?」
みくる「ひ、ひえ……あの、……書道部に……」
ハルヒ「じゃあ、そこ辞めて。我が部の活動の邪魔だから」
古泉「涼宮さん、さすがにそこまでは……」

みくる「え、ええと……」(ちら)
長門「……」
みくる「あ! ……そっかー……」
古泉「?」

みくる「解りました。書道部は辞めてこっちに入部します……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:36:23.23 ID:5lIbJm1iO


古泉「え。朝比奈さん、いいんですか?」
みくる「はい。多分、それが必然なんだと、思います。
    それからあたしのことは、どうぞみくるちゃんとお呼び下さい」
古泉「はあ……」
  (長門さんといい、朝比奈さんといい、あっさり決めちゃうんだなあ……)

ハルヒ「ああ、そうそう。
    このクラブの名前も考えておいたわ」
古泉「ほんとですか?」
ハルヒ「もちろんよ!
    世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。
    略して、SOS団よ!」

古泉(……悪くはないけど、学校へのクラブ新設のための書類を提出するのに、勇気入りそう……)

ハルヒ「あとは、残りの部員。謎の転校生を押さえれば完璧ね!」
古泉「それはまた、運試しになりそうですね」



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:43:06.27 ID:5lIbJm1iO

>>61より
以下朝比奈さんはゴトゥーザ様に変わりまして、
泉ピン子になりました




谷口「お前さ、涼宮と最近何やってるんだ?」
古泉「え! な、何……ですか?」
谷口「まさか付き合いだしたとかじゃ、ないだろうな」
古泉「!/// そ、そんなわけ、な、ないですよ、ち、違います!
   誤解です、あ、あの、その!」
谷口「そんなに慌てるなよ! 冗談だろ、冗談!」
古泉「あ、で、ですよね! あー、びっくりしました」
谷口「俺がびっくりだよ! っていうか、俺としてはお前は涼宮とじゃなく……」
古泉「?」
谷口「いや、なんか、お前天然だし、なあ? もっとまともなやつの方がっていう、
   あー、なんか俺、今すっげ、お前の保護者的な心情だよ……」
古泉「あはは、なんですかそれ?」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:47:03.29 ID:5lIbJm1iO


谷口「まあ、お前美形だし、涼宮と一緒にいた方が、変な女とか出なくて逆にいいのかもな?
   涼宮本人が既に変な女だけど」
古泉「??」
谷口「俺の予想だと、絶対お前、モテ過ぎてストーカーとかされてた派だろ!」
古泉「あはは、ありえないですよー! それに、美形とか、なんですかそれっ!
  初めて言われましたよ?」
谷口「まじ?」
古泉「? えらくまじですが」
谷口「……お前、いったいどこの世界にいたんだ、今まで」
古泉「そんなしみじみ言わなくても……。普通の、この世界ですけ……」

古泉(そんなに驚くこと、言ったかな……でも、本当のことだし……。
   変な顔だって……ずっと……)



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:49:06.85 ID:5lIbJm1iO


ハルヒ「ふぅむ」
古泉「涼宮さん、また何か考えごとですか?」(かたかた)
ハルヒ「考えごとってわけじゃないけど、
    新クラブ解説のチラシの内容をね、推敲してるわけ」
古泉「ああ、なるほど。
   でもまだ正式には部として認められてないですよね?」(かたかた)
ハルヒ「謎の転校生の登場が遅いせいでね! まったく、なめてるわ!」
古泉(うーん、涼宮さんの中では、転校生が来ることは決定済なんだ……)


ハルヒ「あ、みくるちゃん、お茶頂戴!」
みくる(ピン子)「はい〜、ちょっと待ってくださいね〜」
古泉(朝比奈さん、いつの間にかお茶汲み係りになっちゃってるなあ。
   でも、朝比奈さんのお茶美味しいし、本人も楽しそうだし、いいのかも……)



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:54:18.10 ID:5lIbJm1iO


みくる(ピン子)「一樹君もどうぞ」
古泉「ありがとうございます」
ハルヒ「ん! みくるちゃん、また一段とお茶の腕をあげたわね!」
みくる(ピン子)「ふふ、毎日頑張ってますから」
古泉「朝比奈さんのお茶を飲んでしまうと、普通のお茶が飲めなくなりそうですね」(かたかた)
みくる(ピ略)「大袈裟ですよう、一樹君ったら〜。
    そういえば、一樹君は、さっきから何をしているんですかあ?」
古泉「先ほど涼宮さんに頼まれて、我がSOS団のホームページを作っているんですよ」(かたかた)
みくる(ピ)「はあ、そうだったんですかあ〜。すごいですねえ。
    このパソコン貰ってきたのもそうですけど、一樹君はパソコンに詳しいんですか?」
古泉「あはは、それがさっぱりでして。
   善意で下さったコンピ研の部長に申し訳ないですけど、説明書を見ながらの手探り状態です」

古泉(……まあ、善意というか……
   コンピ研の部長に、好きな芸能人に似ているから写真を撮らせてくれという要求を断ったら、
   向こうからパソコンと引き換えにって言われたからなんですけども)
古泉(前に涼宮さんがパソコン欲しいって言ってなかったら、絶対引け

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:55:40.67 ID:5lIbJm1iO

また切れた…
ピン子表記はこれきりですよ!涙出る


古泉(前に涼宮さんがパソコン欲しいって言ってなかったら、絶対引け受けてなんか
なかった。うん。
   ……それにしても僕に似ている芸能人って、誰なんだろう……)





93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 23:59:57.36 ID:5lIbJm1iO

ハルヒ「出来た!」
古泉「早いですね。あ、でも僕のほうはまだなんですが……」
ハルヒ「ホームページくらいは、あとでもなんとかなるわ。
    必要だったのはメールアドレスだしね。
    じゃあ、あたしちょっと印刷室行って二百枚くらい刷ってくるから!」


みくる「涼宮さん、楽しそう……ふふ」
古泉「ほんとですね、見ているこっちまで楽しくなります」
みくる「最初はどうなるのかなって思ってたけど、
    こういうの、相乗効果って言うんですか?
    なんだか、あたしも楽しくて楽しくて」


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:02:58.35 ID:DS84hqsuO

古泉「僕もです。涼宮さんと一緒にいると、退屈なんて忘れてしまいますよ」
みくる「退屈かあー、そう、うん。確かに、そうかも」
古泉「……?」
みくる「ううん。なんでもないの」

長門「……」(こと)
みくる「あ、長門さん、お茶のお代わりですかあ?」
古泉(時々、朝比奈さんって意味深なことを言うよなあ。
   意味はさっぱりわからないけど、微妙に気になる……)


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:06:45.59 ID:DS84hqsuO

>>94
このピン子(大)は俺の嫁


キーンコーンカーンコーン

ハルヒ「イッキ! イッキ! 本当に来たわよ!」
古泉「おはようございます、涼宮さん。
   まだ岡部先生は来てないですよ、って……
   何が来たんですか?」
ハルヒ「転校生よ!」
古泉「ええ! 来たんですか!?」
ハルヒ「来たのよ!」
古泉「ほ、本当に?」
ハルヒ「岡部が言ってるの聞いたのよ!
    ほらあいつ、九組の女担任に想い寄せてるじゃない?
    なんか先輩面して、転校生を扱う極意とか教えていたもの!」
古泉(そうだったんだ……)
  「はあ……本当に、来ちゃいましたねえ」
ハルヒ「遅すぎる感じがしないでもないけど、待望の謎の転校生よ。
    またとないチャンスね。同じクラスじゃないのは残念だけど」
古泉「でも、まだ謎だと決まってるわけでは……」




103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:09:26.36 ID:DS84hqsuO


ハルヒ「前にも言ったでしょっ?
    こんな中途半端な時期に転校してくる生徒は、
    んもう、高確率で謎の転校生なのよ!」
古泉「じゃあ、僕も中途半端な時期に転校してきていたら、謎だったんですかね?」
ハルヒ「んー、イッキだったら、八割は残念で謎じゃないわね」
古泉「じゃあ、せめて六割くらいにするよう、精進してみます」
ハルヒ「よきにはからえ!
    ま、とりあえずあたあしは、一限が終わったら即効で見に行ってくるわ」

古泉(ほんとに、授業終わるなり猛スピードで行っちゃった……。
   九組まで結構距離あるし、涼宮さん、二限に間に合うかなあ?)

ハルヒ「うー、ただいまー」
古泉「おかえりなさい。どうでした?」
ハルヒ「あんまり……謎な感じじゃなかったなあ」
古泉「じゃあ、謎の転校生じゃなかったってことですか?」
ハルヒ「ちょっと話してみただけだけど……、でもまだ情報不足ね。
    まだ謎じゃないとは決めつけられないわ。
    転校初日から正体を現す転校生もいないだろうし、次の休み時間も行ってみる」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:17:03.97 ID:DS84hqsuO

連弾スマソ


古泉「次は僕も行きましょうか?」
ハルヒ「あんたがいったら、絶対ほのぼのになって終わっちゃうから、だ・め」
古泉「そんなこと、ないと思いますけど……」
ハルヒ「だってあんた、谷口から、癒し系って呼ばれてるじゃない。
    っていうか、たまにセクハラされてない?」
古泉「されてないですよ!?? 普通です! 普通の友達のスキンシップです!」
ハルヒ「ふぅん……ま、とりあえず、あんたの疑惑より、今は謎の転校生よね」
古泉(酷い疑惑!)

古泉「あ、転校生は、男性ですか? 女性ですか?」
ハルヒ「変装している可能性がなくはないけど、男には見えたわね」
古泉「じゃあ、SOS団二人目の男子部員ですね!」
ハルヒ「にっこにこしちゃって。なに、女だらけじゃヤだったってわけ?」
古泉「そういうわけではないですけど、でも、やっぱり、
   涼宮さんや長門さん、朝比奈さんのような、美しい女性たちに囲まれてると、
   もう残りの人生の幸せ全部使い果たしてしまった気分になるといいますか……」
  (さらにその中で男子一人だと、すっごい浮いてるという感じもするわけで)
ハルヒ「それだけで使い果たすって、安いわね〜あんた

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:18:55.39 ID:DS84hqsuO

また追加


ルヒ「それだけで使い果たすって、安いわね〜あんたの人生」
古泉「……かもしれません。あはは」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:20:54.12 ID:DS84hqsuO


古泉「と、そういうわけで、今涼宮さんがその転校生をここに連れてくるそうです
よ」
みくる「ふぇえ、ほんとうに転校生が現れたんですねえ」
古泉「びっくりですよね。ほんと、偶然ってすごいものです」みくる「じゃあ、その転校生さんの分も、お茶の用意しておいた方がいいかな?」
古泉「まだご本人が入るかどうかはわからないですけどね」

古泉「あ、そういえば長門さん、この間お借りした本、とても面白かったです!
   SFは読んだことはなかったのですが、あの本で一気に嵌りました」
長門「そう」
古泉「他にも長門さんのお勧めがありましたら、教えて下さるとうれしいです」
長門「……」(すっ)
古泉「あれ? もしかしてこれ、初めてこの部室に来たとき、
   長門さんが読んでいた本ですか?」

長門「読んで」

古泉「え……? あ、はい! もちろんです!」
  (うわあ! 初めて、長門さんが受け答えだけじゃなくしゃべってくれた……!)





116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:24:28.31 ID:DS84hqsuO




バンッ

ハルヒ「みんなー! おっ待ちぃ〜!」
古泉「あ、いらっしゃいました」

ハルヒ「一年九組に本日やってきた即戦力の転校生!
    その名も〜……!」
キョン「……あーっと、なんだかよくわからんが……名乗ればいいのか?
    周りからはキョンって変なあだ名で呼ばれてたりするが、本名は……」
ハルヒ「ってなわけで、キョン君よ!」
キョン「おい、まだ自己紹介の途中だろ!」

ハルヒ「ここ、SOS団ね。あたしが団長の涼宮ハルヒ。
    そこの三人は団員その一と二と三。ちなみに、あなたは四番目。
    みんっな、仲好くやりましょう!」
古泉(涼宮さん、まだその人、本名言ってないです……。
   っていうか、転校生さんもカッコいい人だあー。
   この美形集団じゃあ、やっぱり僕だけかなり浮いてる……)


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:28:24.42 ID:DS84hqsuO



キョン「まあ、……入るのは別に構わんが、
    SOS団って、いったい何をするクラブなんだ?」
ハルヒ「イッキ」
古泉「また僕ですか!?」
ハルヒ「なによ、文句あんの? 良いわ、じゃああたしから言うわよ」
古泉(文句とかじゃなくて、僕も何をするクラブかいまいちわかってないんです……!)

ハルヒ「丁度いいし、みくるちゃんも有希にも教えるわね。
    SOS団の活動内容、それは、」

ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して、
    一緒に楽しく遊ぶことよ!」

長門「……」
みくる「……!」
キョン「……ほう?」
古泉(前に言ってたこと……に、プラスアルファがついてる)


124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:32:26.28 ID:DS84hqsuO


キョン「なるほど。さすが、ってところか」
古泉(……なんでこの人、長門さんや朝比奈さんを、訳知り顔で見てるんだろ?)

キョン「わかった、俺もSOS団に入るよ」
古泉「え! 今の説明で、本当にいいんですか?」
キョン「いいもなにも、興味がわいたしな。これからよろしく頼む。
    えーっと……?」
古泉「あ、僕は……」
ハルヒ「そいつはイッキ。
    あっちの可愛いのがみくるちゃんで、そっちの眼鏡っ娘が有希」
古泉(イッキ……)


ハルヒ「そういうわけで五人揃ったことだし、これで学校としても文句はないで
しょ!」
古泉「あ、そういえばそうですね」
ハルヒ「いえー! SOS団、いよいよベールを脱ぐ時が来たわよ!
    みんな、一丸となってがんばっていきまっしょー!」

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:36:37.29 ID:DS84hqsuO

ここまでで4分の1


古泉(今日は、歴史の一ページって感じだったな……。
   涼宮さんのカツ、改めてクラブを作るって思ったら、すごいどきどきしたもん。
   そうなんだよなあ。何もなかったところから、あっという間に部員も集まって……。
   これから、あのメンバーでいろいろ出かけたり、するのかな。
   仲間みたいに……、ううん、まだ成り立てだけど、仲間、なんだよね。
   ……やばい、すごい、楽しみだ)

古泉「……こんな楽しいこと、高校に、ここに来なきゃ……
   いや、涼宮さんに出会わなきゃ、味わえなかったんだろうなあ」
古泉「……」

古泉(あ、そうだ! 長門さんに新しい本借りたんだった。
   この前の本も面白かったし、長門さんのお勧めは期待大だなあ……って、あれ?
   なんだろ、このしおり……?)

『午後七時、光陽園駅前公園にて待つ』

古泉「……!?」
古泉(今、何時!? 七時……十分前!)



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:40:26.67 ID:DS84hqsuO


古泉「は……、はあ、はあ、……っ、
   ど、どうも……お、お待たせ、し、しまして……!」
長門「丁度七時」
古泉「ぴったり間に会いましたね。あはは、良かった〜」
長門「……」
古泉「え、ええと。長門さん。
   あのしおりの伝言は、僕宛てで、良かったんですか?」
長門「……」(こくり)
古泉「何か、学校で言えないこと……でしょうか」
長門「……こっち」
古泉「どこへ行かれるんですか?」
長門「……」

古泉(へ、返事がない……!)
長門「ここ」
古泉「え? あの、ここって……」
  (なんだか凄い高級マンションなんだけども!)
長門「わたしの家」
古泉「……長門さんの家は、とてもお金持ち、なんですねえ」
長門「……」

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:42:12.28 ID:DS84hqsuO


ガチャ

長門「入って」
古泉「え、あ、はい。……失礼します」
  (長門さんの……家かあ。
   い、いいのかな……! 入っても!)

長門「座ってて」
古泉「まっ! ……あ、ええと、家の方は?」
長門「いない」
古泉「ご旅行か何かですか?」
長門「最初から、わたししかいない」
古泉「ひょっとして、一人暮らし……なんですか?」
長門「そう」

古泉(こんな高級マンションに、女子高生が一人暮らしかあ。
   セキュリティはしっかりしてるみたいだけど、
   こんな広い部屋じゃ寂しくないのかな)



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:44:35.71 ID:DS84hqsuO


古泉「それで、長門さん。
   僕に用って、もしかしてSOS団のことでしょうか……?」
長門「そうとも言える」
古泉(……やっぱり)

古泉「……長門さん、これだけはいいですか?」
長門「……」

古泉「たしかに、長門さんは勝手にSOS団に入れられたかもしれません。
   でも、きっと一緒にいれば、楽しいですよ!
   現に、僕だって毎日学校に行くのが楽しみでなりません!
   だから……!」

長門「……なんの話?」

古泉「辞めるだなんて、言わないでくださ……って、」
長門「別に辞めるつもりはない」
古泉「……!/// あ、そ、そうですか!」
長門「そう」

古泉(が、学校じゃ話せないことっていうから、
   てっきり辞めたいってことなのかと……! うっわああ、僕恥ずかしい!!)


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:47:11.15 ID:DS84hqsuO



長門「わたしがあなたに話したいことは」
長門「涼宮ハルヒのこと」
長門「それと、私のこと」
古泉「涼宮さんと、長門さん? どういうことですか?」

長門「……うまく言語化出来ない。
   情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」
古泉「は、はい……!」

長門「涼宮ハルヒとわたしは普通の人間じゃない」
古泉「あの、意味が良く……」
長門「文字通り。
   純粋な意味で、彼女とわたしはあなたのような大多数の人間と同じとは言えない」
古泉「?」

長門「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた、
   対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
   それが、わたし」


141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:49:59.71 ID:DS84hqsuO

長門「わたしの仕事は涼宮ハルヒを観察して、入手した情報を統合思念体に報告する
こと。
   生み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。
   この三年間は特別な不確定要素がなく、いたって平穏。
   でも、最近になって無視出来ないイレギュラー因子が涼宮ハルヒの周囲に現れた」
古泉「……」
長門「それが、あなた」

長門「情報統合思念体というのは」
古泉「ちょ、待って下さい!」
長門「……」
古泉「え、ええと、銀河を統括するって、それによって造られたって……。
   じゃあ、長門さんは、……宇宙人さん、なんですか?」
長門「現在の有機生命体の名称では、その呼び名が妥当とも言える」
古泉「……すごい」
長門「?」
古泉「あ、じゃあ!
   涼宮さんは、目的の一つはもうクリアしてることになるんですね!」
長門「そうとも言える。が、そうとは言えない」
古泉「どうしてです?」



147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:53:27.13 ID:DS84hqsuO


長門「我々の存在は、涼宮ハルヒに自分の存在価値と能力を自覚させる危険が高い。
   涼宮ハルヒの行動を観察するには、涼宮ハルヒの自覚は不要だと認識している」
古泉「? 涼宮さんの、価値というのはわかりますが……能力とは?」

長門「あなたが認識している涼宮ハルヒの価値と我々の価値は異なる。
   涼宮ハルヒは自律進化の可能性を秘めている。
   おそらく、彼女には自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力がある。
   それこそが、わたしがここにいる理由。あなたがここにいる理由」

古泉「よく、わかりません」

長門「……涼宮ハルヒは、宇宙人、未来人、超能力者と遊びたいと思った。
   だから、わたしはここにいる」
古泉「……じゃあ、僕もそのどれかのうちの一人なんですか?」
長門「違う。けれど、多分あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。
   あなたと涼宮ハルヒが、すべての可能性を握っている」
古泉「冗談、ですよね?」
長門「本気」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 00:55:47.48 ID:DS84hqsuO


長門「……すべてを理解できるとは思っていない。
   だけど、信じて欲しい」
古泉「……はあ」
長門「情報統合思念体が地球に置いているインターフェースはわたし一つではない。
   情報統合思念体の意識には積極的な動きを起こして情報の変動を観測しようという動きもある。
   あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。
   危機が迫るとしたら、まず、あなた」
古泉「……」

古泉「正直、情報なんとかとか鍵だとか、よくわからないですけど……」
長門「……」
古泉「それでも僕は、長門さんと一緒に、SOS団をやっていきたいです。
   きっと、絶対楽しいはずですから」
長門「……」

古泉「だから、本当かどうかはまだわかりませんけれど、僕は長門さんを信じてみようと思います」
長門「……」
古泉「……それでも、いいですか?」
長門「いい」






長門「……ありがとう」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:00:36.51 ID:MbqZ2PAH0


古泉(長門さんにはああ言ったけど、本当に長門さんは宇宙人なのかなあ。
   あんなに可愛いのに、……ワレワレハ宇宙人ダ、とか、言うの?
   って、それは違う宇宙人か)
古泉(涼宮さんの能力って、言われてもなー。
   確かに勘は鋭いし、強運が強いってのは見ていてわかるけど、
   だからって能力とかって括るようなものじゃない、よね)
古泉(でも、あの長門さんがそんな大げさな嘘をつくはずないし……。
   うわああん、もうっ、わかんない!
   小説の読み過ぎだとかの理由の方が、よっぽどマシだあ!)

ハルヒ「ではこれより、第一回SOS団全体ミューティングを開始します!」
古泉(! あ、今は部活中だった……)

ハルヒ「今まであたしたちは色々やってきました。
    SOS団のビラも人海戦術で、全学年のクラス中に配ったし、ホームページも完成したわ。
    校内におけるSOS団の知名度はウナギの滝登り!
    これで、第一段階は大成功だったといえるでしょう」
古泉「わー」(ぱちぱちぱち)
みくる「わー」(ぱちぱちぱち)





規制とけたああああああ!!!

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:02:06.04 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「おっほん、静粛に。静粛に」

ハルヒ「しかしながら?
    わが団のメールアドレスには不思議な出来事を訴えるメールが一通も! ないばかりか、
    この部室に奇怪な悩みを相談しに来る生徒もいません!!」

ハルヒ「果報は寝て待て。昔の人は言いました。
    でももうそんな時代じゃないのです!
    地面は掘り起こしてでも、果報は探し出すものなのです!」
キョン「なるほど」
ハルヒ「だから、探しに行きましょう!」

古泉「何をですか?」
ハルヒ「この世の不思議をよ!
    市内をくまなく探索したら一つくらいは謎のような現象が転がっているに違いないわ!」
古泉「わ、楽しそうですね!」
ハルヒ「ふっふーん、でしょう?
    次の土曜日! つまり明日! 朝九時に北口駅前に集合よ! 遅れないように。
    では、本日は解散!」


163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:04:01.25 ID:MbqZ2PAH0


【次の日】

古泉「ん、今日は絶好の洗濯日和だー」

古泉(天気が良くて気持ちイイから、ずいぶん早く出てきちゃった。
   まだ八時過ぎだし、行っても誰もいないだろうけど……。
   こうやってのんびり散歩していくのも、いいかもなあ)

ハルヒ「……あ」
古泉「あれ、……涼宮さん? お、おはようございますっ」
ハルヒ「お、おはよ……」

古泉「……待ち合わせの前なのに、会っちゃいましたね。ふふ」
ハルヒ「ほんと、奇遇ね。って、あれ?
    あんたん家ってこっち方面だったっけ?」
古泉「違いますけど、今日は天気がいいからぷらぷら散歩しながら歩いてきたんですよ」
ハルヒ「ぷらぷらってねー、これから不思議を探しに行くんだから、
    もっとしゃきっとしなさいよねー、しゃきっと!」
古泉「あ、はい! しゃき!」
ハルヒ「ばか、背筋だけ伸ばしても意味ないわよ!」
古泉「あはは、怒られちゃいました」
ハルヒ「まったく、あんたといると、ほんと毒気抜かれるわ」
古泉「ええー、そうですか?」



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:07:46.85 ID:MbqZ2PAH0

古泉「それにしても、涼宮さん、お早いですねー。
   今八時半になったころですよ。
   ここからなら、もうちょっと遅く出ても間に合うでしょうに」
ハルヒ「あたしはね、いつだって早め早めの行動をするようにしてんのよ。
    ちんたらしてる間に、不思議なことを見逃すかもしれないでしょ!
    それに、そういうあんたこそ、ずいぶん早いんじゃない?」
古泉「僕は涼宮さんのような立派な理由じゃないですけどね」
ハルヒ「ふうん? 何、待ち遠しくて寝れなかったーなんて、
    いまどき小学生でもやらない遠足前の心境だった、とか言わないわよね?」
古泉「……あはは、まさか、そんなわけ、ないですよ……あはは」
ハルヒ「……」
古泉「……」
ハルヒ「あ! 目の下に、クマ!」
古泉「うそ!」(ばっ)
ハルヒ「うっそ〜」
古泉「っ」

ハルヒ「ぷ、あ、あはははは!!」
古泉「わ、笑わないでくださいよう!」
ハルヒ「いやあ、ほんっと、あんたって飽きないわあ!」
古泉「そんなに、笑わないでくださいってばあ!」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:10:15.11 ID:MbqZ2PAH0

ハルヒ「はひー、はひー、あーー笑った笑った! お腹痛い!」
古泉「笑われました。うう」
ハルヒ「んもう、ちょっとは今日のあんたの私服見て見直したのに、
    やっぱ中身はぜんっぜん変わんないのねー!」
古泉「服変わっただけで性格は変わりませんよ!
   す、涼宮さんだって、めちゃくちゃ可愛い私服来てるのに、
   中身は変わってないでじゃないですかあ!」
ハルヒ「……は?」
古泉「だから、最初あったとき、誰だかわかんなかったですもん。
   女の子は制服と私服だと全然違うって言いますけど、
   涼宮さんは元が良すぎるから、もう、なんていうか別格で……涼宮さん?」

ハルヒ「……」(すたすたすた)

古泉「え、あ、涼宮さん……!」
  (うっ……ぼ、僕、なにか怒らせるようなこと言っちゃったのかな……?
   今まで楽しそうに笑ってたのに、ど、どうしよう???)
ハルヒ「……」(すたすた)
古泉(……どうしようじゃない、あ、謝らなきゃ!)

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:15:24.81 ID:MbqZ2PAH0

古泉「涼宮さ……っ」
ハルヒ「遅い。罰金!」
古泉「ええ?」
  (な、なんでそうなるの!?
   って、あ。いつの間にか駅前についてたんだ。
   もう長門さんたちも来てる……)

古泉「あ、どうもお待たせ致しました!」
みくる「ふふ、まだ九時前ですから、大丈夫ですよう?
    おはようございます、一樹君」
古泉「おはようございます」
キョン「おう」
長門「……」

古泉「あの、ところでなんで僕が罰金なんですか?」
ハルヒ「一番最後に来た奴は罰金なの! それがあたしたちのルールなの!」
古泉「はあ。でも、涼宮さんと僕って同着じゃ……」
ハルヒ「最後は最後でしょ! 男がぐちぐち言わない!」
古泉「は、はい!」
ハルヒ「よろしい! それじゃあ、全員にお茶を奢りなさい!」
古泉「了解、喜んで払わせていただきます!」

古泉(あれ? って、別に、涼宮さんもう怒ってないみたい……?
   そっかあ……これが女の心は秋の空……。あ、今は初夏か)

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:18:40.91 ID:MbqZ2PAH0

ハルヒ「じゃ、これから二手に分かれるから、くじ引きしましょ。
    はい、どーぞ!」

みくる「ええとぉ、私赤い印ついてますう」
キョン「俺は無印だ」
古泉「あ、赤ついてました」
長門「……ない」

ハルヒ「……みくるちゃんとイッキが赤組、ね。
    じゃあ、無印組は、あたしとキョン君と有希ってわけか」

みくる「えとえと、よろしくお願いしますね、一樹君」
古泉「こちらこそ、よろしくお願いします」

ハルヒ「イッキ? 一応いっておくけど、これはデートじゃないんだからね。
    真面目にやるのよ? いい?」
古泉「しゃきっですよね。ふふ、任せてください!」
ハルヒ「……心配する必要は、ないか」(ぽそ)
古泉「? なんですか?」
ハルヒ「なっ、なんでもないわよ!
    さ! SOS団、突撃開始よ!!」

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:21:20.76 ID:MbqZ2PAH0

古泉「さ、どこから探しましょう」
みくる「うーん、不思議そうな場所を探すんですよねえ」
古泉「とりあえず、近くを歩いてみましょうか」
みくる「あ、じゃあ河川敷の方に行ってみませんか?」
古泉「河川敷ですか」
みくる「はい。春に通ったとき、河川敷の桜並木がすごくきれいだったんですよ。
    もう桜は散っちゃってるだろうけど、どうかな、って」
古泉「僕は全然構わないですよ。河川敷なら、こっちですね」

みくる「……ふふ」
古泉「どうしました?」
みくる「わたし、男の人とこんなふうに出歩くの初めてなんです。
    でも、どきどきする感じじゃなくて、
    わくわくするのは、一樹君と一緒だからなのかな、って」
古泉「わくわく、ですか」
みくる「うん。なんていうのかな。
    一樹君の雰囲気って、とっても安心するんです。
    あ、ぜんぜん、そんな、変な意味じゃなくて!」
古泉「あは。僕、変なオーラでも出してます?」
みくる「そういうことじゃ……あ、でも、そうかもしれません。
    安心オーラ、みたいな感じで」
古泉(安心オーラ、かあ。
   谷口君には、癒し効果振りまいてるって言われたりするけど……。
   むむ、僕、本当に何か出してるのかな)

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:23:24.22 ID:MbqZ2PAH0


みくる「そんな一樹君だから、……聞いて欲しいことがあるの」
古泉「? なんでしょう」
みくる「どこから話せばいいのか。
    でも、一樹君にはちゃんと知ってもらいたいから、
    信じられないような話なんだけど、聞いてくれますか?」
古泉(い、いったいなんの話だろう。
   朝比奈さん、今まで見たこと無いくらいすごい真剣な顔してるけど!)

古泉「ぼ、僕で宜しければ」
みくる「ありがとう、一樹君……あのね」

みくる「わたしはこの時代の人間じゃないの。今よりもっと未来から来た、人間なんです」

古泉(……)
古泉(……)
古泉(……)
古泉(……ええっ?)


198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:25:07.27 ID:MbqZ2PAH0


みくる「いつ、どの時間平面からここに来たのかは言えません。
    過去の人に未来のことを伝えるのは、厳重に制限されていて……。
    だから、必要以上のことは話せないんだけど、そのつもりで聞いて下さい」
みくる「時間というのは連続性のある流れのようなものではなく、
    その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんです」
みくる「時間と時間との間は繋がってないってことね。
    もちろんそれは限りなくゼロに近いけど、必ず時間と時間との間には断絶があるものなの。
    だから本質的に時間には連続性がないとされてるわ」
みくる「時間が連続していないから、たとえばわたしみたいな未来からやってきた人間が
    過去を改ざんしようとしても、その平面上のことだけで終わってしまう」
みくる「時間はあの川みたいにアナログじゃないの。
    その一瞬ごとに時間平面が積み重なったデジタルな現状なの。解ってくれた?」

古泉「つまり、朝比奈さんは……未来人、ってことですか?」
みくる「そう、なります」
古泉「……長門さんが宇宙人で、朝比奈さんが……はあ、なるほど」
みくる「! 長門さんからもアプローチ、あったんですね」
古泉「ええと、……はい。つい先日に」
  (これは言わない方が良かったのかな)


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:27:05.23 ID:MbqZ2PAH0


みくる「長門さんがどう説明したかはわからないですけど、
    わたしたち、未来の人から見ても、涼宮さんは異質な存在なんです」
古泉(! また、涼宮さんか)
みくる「三年前、大きな時間震動が検出されたの。あ、今の時間で数えて三年前ね。
    調査で過去に飛んだ我々は驚いた。三年より前の過去の遡ることが出来なかったから。
    その原因として挙げられたのが……」

みくる「涼宮さん」

みくる「時空の歪みの真ん中に、彼女がいたの」
古泉「……」
みくる「一人の人間が、時間平面に干渉出来るなんて未だに解明できてないの。
    まったくの謎なんです。
    だけど実際に我々は三年より前の過去に飛ぶことができない」
みくる「わたしがこの時間平面にいるのは、
    涼宮さんの近くで新たな時間の変異が起きないかどうかを監視する……、
    手頃な言葉が見つからないけど、監視係みたいなものだから」

古泉「……はあ」
みくる「やっぱり、信じてもらえないかな。こんな話」
古泉「いえ……というより、どうしてそんな大事な話を僕にするんです……?
   さっき、未来のことは過去の人に伝えるのは制限されてるって、言いましたよね。
   あの、大丈夫なんでしょうか。僕に、そういうことを言ってしまっても……」
みくる「それは……あなたが、涼宮さんに選ばれた人だから」
古泉「え?」


205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:29:19.12 ID:MbqZ2PAH0


みくる「詳しくは言えないの。だけど多分、一樹君……あなたは涼宮さんにとって重要な人。
    彼女の一挙手一投足にはすべて理由がある」
古泉「この、SOS団が作られたことにもですか?」
みくる「その集まったメンバーにも、です。
    まさか涼宮さんがこれだけ的確に集めてしまうなんて、思わなかったけど」
古泉「でも、僕には……涼宮さんの行動が……
   時間? をどうにかするとか、大それたことに繋がるなんて、思えないです」
みくる「……ううん、無理に信じてとは言いません。
    ただ知っておいて欲しかったんです。一樹君には」
古泉「……」
みくる「ごめんね」

古泉「あの」
みくる「?」
古泉「朝比奈さんの話を全部理解することは、やっぱり出来ないです」
みくる「うん、それは……」
古泉「でも朝比奈さんを信じないってことじゃないんです。
   朝比奈さんが、大事な話を、僕にしてくれたことってことはすごく嬉しいですし。
   だから……保留ってことでも、いいでしょうか?
   僕がちゃんと朝比奈さんの話を理解できるようになるまで、保留でも」
みくる「はい、それでいいんです。今は
    ……あの、こんなわたしだけど、今までと同じように接してくれるかな?」
古泉「そんなの、もちろんですよ!」
みくる「ふふっ、ありがとう、一樹君」



207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:30:55.46 ID:MbqZ2PAH0


古泉「あ。でも、ちょっと質問が」
みくる「なんでしょう?」
古泉「朝比奈さんが行った過去って、ここ以外にもあるんですか?」
みくる「あるにはありますけど……その内容だったら禁則事項です」
古泉「いえ、朝比奈さんにとって、どの過去が一番面白かったのかなって」
みくる「……!
    ふふ、禁則事項ですっ」


みくる「あれ? 一樹君、電話鳴ってますよ」
古泉「あ、ほんとですね」



古泉「もしもし」
ハルヒ『あんた遊んでるんじゃないでしょうね?』
古泉「涼宮さん、不思議ひとつ発見しましたよ!」
ハルヒ『! それ本当!?』

みくる「あ、一樹君! わたしのことは内緒で……!」

古泉「はい! なにやら、僕、変なオーラがだせ」
ハルヒ『十二時にいったん集合だから。さっきの駅前のとこね』

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:32:23.95 ID:MbqZ2PAH0



ハルヒ「……で、収穫は?」
古泉「あのですね、なにやら僕は変なオーラが」
ハルヒ「だから、さっきから何言ってんのよ、あんたはっ?
    んもう、みくるちゃん!
    こいつはほっとくと変な方向に考えまくるんだから、
    ちゃんと見ててって言ったでしょう!」
みくる「ひえ!? あ、あのう、すみませんでしたあ!」
古泉「へ、変な方向じゃないですよ……! ね、朝比奈さん!」
ハルヒ「ああもう、ほら、午後の部もやるんだから、
    さっさとお昼食べるわよ!」


213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:35:13.13 ID:MbqZ2PAH0


古泉「あ、今度は長門さんと一緒ですか」
長門「……」(こく)

ハルヒ「……じゃあ、あたしは、キョン君とみくるちゃんとね。むーっ」
古泉「涼宮さん、どうしました?」
ハルヒ「なんでも、ない、わ、よ!」
古泉「!??」
ハルヒ「あ、有希。
    たまにこいつ変なこと考えるみたいだから、ちゃんと見張っててやってね」
長門「……」(じ)
古泉「な、長門さん? そんなこと、ないですよ? ないですからね?」
ハルヒ「頼んだわよ、有希!」
長門「わかった」
古泉(わかられた!)

古泉(……別に、変なことじゃ、ないもん)
長門「……」
古泉「あ。長門さん、午後はどこ行きましょう」
長門「図書館」
古泉「図書館ですか? いいですね、じゃあ図書館にしましょうか」
長門「……」(こく)


218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:39:00.51 ID:MbqZ2PAH0


長門「……」(ぺら)
古泉「あ、そうでした。こないだ長門さんに借りた本も、とても面白かったですよ」
長門「……」(ちら)
古泉「前からミステリ系は好きで読んでいたんですが、
   もう今じゃ、すっかりSFに嵌っちゃってます」
長門「そう」(ぺら)
古泉「スリルとサスペンスにプラスして、ファンタジーならではの
   情緒がたまりませんよね!」
長門「……わたしの考えは違う。
   SFは、ファンタジーでありながら、
   その奥に感じる現実のノスタルジアを感じるもの」
古泉「むむっ、なるほど」
長門「が、本を読む感情は個々により異なる。
   あなたの考えも、誤りということはない」
古泉「あ、ありがとうございます」
長門「別に」(ぺら)
古泉「ふふっ。あ、何か僕も読むもの見てきますね」

長門「待って」
古泉「?」
長門「これ」(すっ)
古泉「……二葉亭四迷、ですか……?」
長門「あなたが、読むといい」
古泉「珍しいですね。長門さんのおすすめで、SFじゃないのは」
長門「……」

古泉(二葉亭四迷かあ、読んだことはなかったなあ。
   浮雲とかタイトルは授業でちょっと習っただけだったし。
   あ、でもこれは翻訳本……?)

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:42:41.92 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……」(もくもく)
長門「……」(ぺら)

ぷるっ
ぷるるるるっ

古泉「! う、わ、あ、!」
ハルヒ『遅い! なにやってんのよ、このバカ!』
古泉「え?」
ハルヒ『え、じゃない! 今何時だと思ってんのよ!』
古泉「今……今、四時半です……!」
ハルヒ『集合は、何時だったって?』
古泉「! 四時でした! ああっすみません、涼宮さん!!!」
ハルヒ『まったく、またボケたことしてたんじゃないでしょうね!
    いいから、とっとと戻ってきなさい!』


230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:44:06.18 ID:MbqZ2PAH0


古泉「い、いやあ、すっかり読み耽ってしまいましたね」
長門「……」(ぺら)
古泉「うう、本、まだ読み途中ですけど、
   涼宮さんたちをお待たせするのも悪いですし、行きましょうか」
長門「……」(ぺら)
古泉「長門さん、その本借りていきます?」
長門「……」(こく)
古泉「じゃあ僕もこの本借りますから、一緒に借りてきますね」
長門「……」
古泉「今は時間がないから僕の使いますけど、
   今度、長門さん用に貸し出しカード作りましょうか。
   いつでも長門さんが本を借りれるように」

長門「……ありがとう」



233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:45:25.70 ID:MbqZ2PAH0


古泉「遅れてすみませんでした!」
ハルヒ「おっそい! 団長を待たせるなんて、罰金よ! 罰金!」
古泉「はいい!」
ハルヒ「で、不思議は見つけられたわけ!?」
古泉「涼宮さんの期待に答えられるかどうかはわかりませんが……」
ハルヒ「また変なオーラとかいうわけじゃないでしょうね」
古泉「違いますよ。あのですね、
   ……本を読んでると、時間があっという間になくなるんです」

ハルヒ「さ、みんな。
    イッキの奢りで、あったかあい飲み物でも頂きましょうか!」



古泉(……みんなの分を奢ると、結構な額に……。
   お、多めに持ってきて、良かった……)
ハルヒ「ま、今日の活動じゃこんなところかしら。
    最初っから気配見せるようなヘマは、向こうもしないでしょうし。
    明日は反省会するから、放課後絶対部室に来ること! いいわね!」


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:50:12.22 ID:MbqZ2PAH0


みくる「……疲れましたー。涼宮さん、ものすごい早足でどんどん歩いていくんだもの。
    ついて行くのがやっと」
古泉「お疲れ様です、朝比奈さん」
みくる「今日は話を聞いてくれてありがとう」(ぽそ)
古泉「あ、いえ、そんな……!」
みくる「ふふっ。じゃ、また明日」
古泉「はい、また!」

キョン「よ。お疲れ」
古泉「あはは、お疲れ様でした。今日はどうでした?」
キョン「なかなかってところか。いや、期待にたがわず面白かったよ。
    おまえと行動出来なかったけど、両手に花は味わえたしな」
古泉「は、はあ」
キョン「またいずれってやつだ。じゃあな」

ハルヒ「で。結局、あんたは今日いったい何をしてたわけ?」
古泉「一生懸命、不思議を探してたんですけど……」
ハルヒ「やることなすこと、全部ズレてたわね」
古泉「ズレてましたか」
ハルヒ「ズレズレよ。これがカツラなら、もうすっかり取れてるわ」
古泉「う、うーん……そういえば、涼宮さんは何か見つけられたんですか?」
ハルヒ「うぐ!
    ど、どーせあたしは、
    せいぜいあんたが大概に大ボケだって事実を見つけたことくらいよ!」

古泉(べ、別にボケてたわけじゃないのにっ)

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:52:38.36 ID:MbqZ2PAH0



谷口「あ〜〜朝からあっついなあ、一樹ー」(べたあ)
古泉「ほんと、梅雨明けしてから一気にあつくなりましたねー」
国木田「んー、そうやって谷口が一樹にくっついてる限り、
    どうやったって涼しくはないだろうねえ。見た目的にも。
    っていうか、一樹はうざくないの? 谷口」
古泉「んー、ちょっとアツいかもです」
谷口「うっ、い、いいだろ! 一樹の体温、冷たくて気持ちいんだし!」
国木田「谷口、親しき仲にも礼儀ありってことわざ知ってる?」
谷口「親しい仲でこそ、礼儀は必要だって意味だろ。それくらい知ってるっつの!」
国木田「じゃあ、厚顔無恥の意味ももちろんわかるよね」
谷口「コーガンムチ? エロワードか?」

ハルヒ「邪魔」(どさ)
古泉「おはようございます、涼宮さん」
ハルヒ「暑苦しい。べたべたすんな、谷口」
谷口「んな! なんで俺個人なんだよ!」
ハルヒ「うざい」
谷口「……うぐっ! す、涼宮なんて嫌いだああ!!!」
古泉「あ、谷口君!!」
国木田「一樹、別に追いかけなくてもいいからね。
    谷口はちょっとでも甘やかすと、すぐ調子に乗る生き物なんだから」
古泉「は、はあ……」


245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:55:43.53 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「ああもうっ、あっついわねー。
    イッキ、ちょっと扇いでよ」
古泉「はい、了解です」(ぱたぱた)
ハルヒ「すずしー」
古泉「ふふ」

古泉「……涼宮さんって、『しあわせの青い鳥』って話知ってます?」
ハルヒ「チルチルとミチル? それが何?」
古泉「あの話の最後って、どうなったんでしょう」
ハルヒ「確かー、家の中に青い鳥はいましためでたしめでたし。
    ……じゃなかった?」
古泉「そうでしたっけ」
ハルヒ「子どもの頃に読んだきりだから詳しくは忘れちゃったわ」
古泉「そうですかあ。長門さんなら知ってますかね?」
ハルヒ「……かもねー」


247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 01:57:50.27 ID:MbqZ2PAH0


【放課後】

古泉「……ところで、キョン君」(ぱち)
キョン「ん? なんだ?」(ぱちぱちぱちぱち)
古泉「あ! そこ取られたら……!」
キョン「お前、ほんとゲーム下手だな。で?」
古泉「これでも最初よりはマシになったと思うんですけど……。
   って、そうじゃなくてですね」
キョン「おう?」
古泉「もしかして、なんですけど」
キョン「うんー?」
古泉「……」
キョン「なんだよ」

古泉(長門さんが宇宙人、朝比奈さんが未来人。
   涼宮さんが望んだ人は、みんなここにいるってことは……。
   キョン君が謎の転校生だから、……つまり)

古泉「……キョン君が、異世界人なんですか?」
キョン「ぶはっ!」
長門「……」(ちら)
古泉「! やっぱりそうなんですね!」
キョン「やっぱりって……なにがだ! ちょっと待て。考えなおせ。
    いや。というか、ここでその話はまずいから、場所変えようか。な!」


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:00:37.55 ID:MbqZ2PAH0


キョン「ほれ。あ、コーヒーで良かったか」
古泉「大丈夫です。どうも」
キョン「それで……とりあえず、お前はどこまで知っているんだ?」
古泉「涼宮さんが、凄い人だってことくらいですけど」
キョン「うん、それなら話は簡単だ。事実その通りだしな」
古泉「それで、涼宮さんが望んだから長門さんや朝比奈さんがいるってことも聞きました」
キョン「それは、長門か? それとも朝比奈さん?」
古泉「ええと、秘密です」
キョン「……まあ、いいか」

キョン「俺が異世界人とか言ったな。その根拠はなんだ」
古泉「涼宮さんは、宇宙人、未来人、超能力者、異世界人と遊びたいといっていました」
キョン「そうだな」
古泉「宇宙人、未来人の心当たりはあるので、僕が超能力者だったら、
   キョン君は残った異世界人かな、と」
キョン「待て。だからなんでそうなる?」
古泉「? SOS団にいるのは、みんな涼宮さんが望んだ人だって」
  (それに、変なオーラ出すって、朝比奈さんも言ってたから……僕がそうなのかなって)
キョン「……なるほどな。
    お前、馬鹿だろ」
古泉「は?!」


251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:02:14.62 ID:MbqZ2PAH0


キョン「いや、いいか。初めに言っておくが……
    お前は、特別何の力も持たない普通の人間だ。
    失礼だとは思うが、ちょっとお前について調べさせてもらった上での結論だ。保証する」
古泉「……つまり、僕は超能力者ではない、と」
キョン「そういうことになるな」
古泉「じゃあ、キョン君は……?」

キョン「ちょっと言い方は違う気もするんだが、そうだな、
    異世界人でないとすれば、超能力者といったところなんだろう」
古泉「……なるほど」
キョン「本当はこんな急に転校するつもりじゃなかったんだが。
    まさか、三竦みの勢力の内の二つが、急に涼宮ハルヒと結託するなんて思わなったんだ」
古泉「さん、すくみ?」
キョン「宇宙人、未来人、超能力者の集団、勢力のことさ。
    さすがに考え方も生体も違うやつらが、仲良し軍団なわけにはいかないからな。
    今までは互いに牽制しつつ、大きないざこざを起こさない程度にやっていたんだが……、
    いや、この話は置いておくか。
    とにかく、これまでの三年間のうち、ありえないことが起きたと理解してくれればいい」
古泉「はあ……」

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:04:14.04 ID:MbqZ2PAH0



キョン「今から三年前、正直何があったかは解らないんだ。
    俺に解ったのは、三年前のあの日、突然超能力としか思えない力が芽生えたことだけだった。
    それと同時に、この能力は誰かから与えられたものなのだということも、な」
古泉「その誰かが、……涼宮さん?」
キョン「そうだ。だが、見てわかるとおり、涼宮ハルヒは自分のしたことの自覚はない。
    もっとも、出来れば生涯気付かないまま平穏無事な人生を送ってもらいたいところだがな」

キョン「……なあ、古泉。お前は、世界がいつから存在していると思う?」
古泉「諸説はいろいろありますけど、……有力なのは、ビックバンでしょうか」
キョン「世間一般的にはな。だが、俺達『機関』は一つの可能性として、
    世界が三年前から始まったという仮説を捨て切れないわけだ」
古泉(『機関』……? いや、それよりも)

古泉「三年前って、だって僕はそれより前の記憶もちゃんとありますよ?
   それに歴史とかだって、三年前に始まったんだとしたら、それらはどうなるんです?」
キョン「もしもだ。お前を含める全人類がそれまでの記憶を持ったまま、
    ある日突然生まれてきたんだって言われたら、どうやって否定する?
    三年前に拘らなくても、ほんの五分前に全宇宙があるべき姿をあらかじめ用意されて世界が生まれ、
    そしてそれからすべて始まった……それを否定できる論拠なんか、あると思うか」
古泉「それは」
キョン「もちろん、それらを肯定する論拠だってないとしても、だ」


257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:06:09.37 ID:MbqZ2PAH0


キョン「『機関』のお偉方……まあ、いるんだよ、そういうのが。
    その人たちは、この世界はある存在が見ている夢のようなものだと考えてる。
    俺達は、いやこの世界そのものがその存在にとって夢に過ぎない、と。
    その存在にとって俺達が現実と呼ぶ世界を、
    自由に創造したり改変したりすることは児戯に等しいんだ。夢なんだから」
古泉「……」
キョン「世界を自らの意思で創ったり壊したりできる存在――
    人間はそんな存在を、神と、そう定義するだろう」
古泉「ちょっと待ってください。いくらなんでも、話が飛びすぎてませんか」
キョン「そう思うか?
    まあ、俺としても、涼宮ハルヒを神と定義するのは行き過ぎな気がするがな」
古泉「で、ですよね」
キョン「だがな。涼宮ハルヒの機嫌を損ねることは、
    高確率で取り返しのつかないことになることだけはわかっているんだ、これが」
古泉「取り返しのつかないこと、とは?」
キョン「今のこの世界が、彼女の不興を買ったことである日突然破壊されてしまう、とかな」
古泉「……どうすれば、いいんでしょうか」
キョン「それが解れば苦労はしないさ」

古泉(長門さんたちの話とは、同じようで全然違う。
   世界が無くなってしまうなんて、そんな……)


258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:09:11.86 ID:MbqZ2PAH0


キョン「だけどな、まだ救いはあるんだ」
古泉「なんでしょう」
キョン「古泉一樹。一番の謎である、お前の存在だ」
古泉「! でも、さっき僕は普通の人間だって」
キョン「そう。調べた限り特異な能力は一切持っていないはずなのに、だ。
    能力を持つ異質な存在を望む涼宮ハルヒが、唯一そばに置いている。
    ひょっとしたら、お前が世界の命運を握っているのかもしれん」
古泉「どうして、僕なんです?」
キョン「さあな。それは誰にも解らん。
    だが、そんなお前だからこそ、涼宮ハルヒがこの世界に絶望しないように注意して欲しいんだ。
    きっと、これはお前にしかできないことなんだろうよ」
古泉「……そう、ですか……」

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:11:22.77 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……」
キョン「……」

古泉「キョン君は、超能力者なんですよね」
キョン「まあ、超能力者とは違う名称をつけていたりするが、一応な」
古泉「その力っていうの、今見ることってできますか?
   例えば、このコ―ヒーを元の熱さに戻すとか」
キョン「いいぜ。ちょっと待ってろ」
古泉「あ、はいっ」
  (……あれ? キョン君、どこ行くんだろう)

キョン「ほら、元の熱いコーヒーだ」
古泉「って、これ……ただ買い直しただけじゃないですか!」
キョン「そうだな」
古泉「?」
キョン「つまり、だ。残念なことに、超能力者って言っても普段の俺には何の力もないのさ。
    せいぜい、自販機でコーヒーを買い直すくらいだな。
    力を使うには、いくつかの条件が重なって初めて出来ることなんだよ。
    いつか機会があったら見せてやるから、今日のところはこれで勘弁してくれ」

古泉(なんだかうやむやにされた気が、しないでもない……)


266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 02:20:18.13 ID:MbqZ2PAH0

さて、とりあえずこれで全体の二分の一終了です
支援してくださってる方や期待してくださっている方には、
心から申し訳ないですが、ここでいったん中断します
明日……って、もう今日ですが、
今日の夜7時過ぎにまた再開しようと思います

一応全部書き上げてからの投稿ですのですが、
さすがに前半だけで四時間かかるとは思わなかったもので……!

とりあえず、スレが落ちていたらまた立てます
古泉「大変な高校デビューをしてしまいました……」2で

それでは、皆さん支援・期待ありがとうございました!
また明日、もしもで良いんですけど、
最後までお付き合い願えればと思います!

おやすみなさい!

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 07:59:42.69 ID:MbqZ2PAH0

おはようございます、まさかスレ残っているとは思いませんでした……!
今朝みょうにがっつく子と母に認定された>>1です
保守本当にありがとうございました!

このままスレが続いていたら、7時にここで続けますね
あ、落ちていたら、2は付けずにまたスレ立てます!

それでは、行ってきます!

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:11:49.94 ID:MbqZ2PAH0


古泉(昨日……結局最後まで涼宮さん、部室に来なかったけど、どうしたんだろう?
   この前の反省会するって言ってたのに。
   でも昨日すごく暑かったし、風邪……引いたのかな。
   そういえば、少し顔色が悪かった気も……だ、大丈夫かな)

古泉「ん?」
古泉(下駄箱になんか入ってる)

古泉(……)
古泉(……?)
古泉(!)


370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:13:44.60 ID:MbqZ2PAH0


古泉(あ、もう涼宮さん来てる!)
ハルヒ「……」
古泉「涼宮さん、おはようございます! 今日はお早いんですね」
ハルヒ「……」
古泉(って、あれ?)

古泉「あのう、涼宮さん。昨日は部室に来ませんでしたけど、どうしたんですか?」
ハルヒ「別に、一人で反省会してただけよ」
古泉「反省会は、みんなでやるんじゃ……」
ハルヒ「いつ言った? あたし言った? みんなでやるなんてひとっことでも言ったかしら?」
古泉「ええっ、それは」
ハルヒ「昨日、見落としがあったんじゃないかって、
    もう一回歩いた道を廻ってたの。別に何も無かったけどね」
古泉「そう、ですか」

ハルヒ「……」
古泉「あ、あの。じゃあ次は、僕も一緒に行っていいですか?」
ハルヒ「は?」
古泉「だ、だって、涼宮さん一人だけ行かせるわけには行きません。
   僕だって、SOS団のメンバーですし。それに……、
   あ、涼宮さんがダメだって言うなら、その、こっそり着いていくだけにしますから!」
ハルヒ「……」
古泉「ダメ、ですか?」

371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:15:22.13 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「はぁ……」


古泉(う、うざかったかなあ)
ハルヒ「……なんか、とーとつに、自分が馬鹿らしくなったわ……」
古泉「? え?」
ハルヒ「ううん、なんでもない。
    ただちょっと、暑かったからイライラしてたのよ。
    完全なあたしの八つ当たり。悪かったわ」
古泉「いえそんなっ。
   最近急に暑くなってきてますから、ありますよ。そういう時も。
   僕てっきり、涼宮さん具合悪かったのかなって思っちゃいましたし。
   でも体調崩していないようで、安心しました」

ハルヒ「……そういえば、昨日あんた言ってたやつ、『しあわせの青い鳥』だっけ?
    有希に聞いたんでしょ。あれ、最後はどうだったの?」
古泉「え? ……ああ! すっかり聞くの忘れてました!」
  (キョン君のあの話を聞いたばかりだったし、だからよけいに)
古泉「涼宮さんが来ないのが気になって……」(ぽそ)

ハルヒ「! ばっ! あ、あんたそんなにあたしが心配だったわけっ?」
古泉「え、あ!」
  (うあ、口に出ちゃってたっ??)
ハルヒ「恥ずかしいやつ!」(ぷい)
古泉「はは、……すみません」


372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:17:20.00 ID:MbqZ2PAH0


古泉「って、あ。そうだった、涼宮さん!
   さっそく、来ましたよ! 来たんです!」
ハルヒ「は? なにが?」
古泉「SOS団への依頼状!」
ハルヒ「え……それ、ほんとっ? わ! とうとう来たのね!」
古泉「はい! 今朝下駄箱の中にあって……、
   これです!」
ハルヒ「依頼者第一弾が来たってことは、このあともどんどん来るに違いないわ!
    さあて、この依頼人はどん……」


『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て』


ハルヒ「……」
古泉「あ、依頼者の名前は書いてないみたいですけどね。
   でもとりあえずSOS団への依頼者様でしょうし、会えばわかりますよ」
ハルヒ「あんた、これちゃんと読んだ?」
古泉「? ええ。だから、放課後に行けばいいんですよね」
ハルヒ「……あんた一人で行ってきなさい。あたしは行かないわ」
古泉「え、だってこれSOS団の……」

374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:19:12.53 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「あんた……」(すう)

ハルヒ「ばっかじゃない!?」
古泉「っ?」(びく)
ハルヒ「これのどこをどう読んだら依頼状なんて思うのよ。
    あんた、これあたしと一緒に行ってみなさいよ。
    さいっこうに、さいっていだから」
古泉「え? え??
   あの、どういうことですか? だってこれは依頼状で」
ハルヒ「依頼状なわけ、ないってんのよ」
古泉「それじゃあ……脅迫状?」
ハルヒ「冗談言ってんじゃないわよ。あんた、ほんとうにわかんないわけ?
    こっそり下駄箱にメモ入れて、誰もいない放課後にって……
    普通、馬鹿でもわかることじゃない」
古泉(依頼状じゃないなら、呼び出してまでの用事ってそんなの……。
   ……今までだって、……)


376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:20:45.14 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「この字、どうみたって女の子でしょ。
    女の子が、わざわざ男子を呼び出すのに、他に理由なんてあると思ってんの?」
古泉「……?」

ハルヒ「告白に決まってんでしょ、どう見ても!」

古泉「え?」
ハルヒ「え? じゃないわよ。なによ、まじでわかんなかったの?
    あんただって中学じゃしょっちゅうされてたんじゃないの?
    それでなんで気がつかないわけ? ワケわかんないわ」
古泉「ま、待って下さい。
   こく……え? なんで、どうして、僕なんですか?」
ハルヒ「なんでって、こっちが聞きたいわよ!
    つーか、あたしに聞くな! 言わせんな、ばか!」
古泉(告白? 考えもしなかった、けど……)


380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:22:49.05 ID:MbqZ2PAH0


古泉「さ、さすがにそれはないですよ、涼宮さん。
   飛躍しすぎですってば。告白とか、ないです。ありえないです」
ハルヒ「飛躍とかじゃなくて、見たまんまじゃない。
    ……別に初めてってわけじゃないんでしょ? あんた、モテそうだしね」
古泉「あはは、涼宮さん。冗談でもきっついですよ……。
   告白なんてされたこともないですし、僕がモテるわけないでしょう?」
ハルヒ「は? 何、ジョーク?」
古泉「こんなこと、ジョーク言ったってどうするんですかあ……」


ハルヒ「と、とにかく、あたしは行かないからね!
    あんた一人で行きなさいよ!」
古泉「でも! もし、本当に依頼者だったらどうします?」
ハルヒ「そんなの万が一にも考えらんないけど、
    その時は、そうね。メールなり電話なりしてきていいわよ。
    いい? 万が一よ!」
古泉「はは……」


383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:24:47.33 ID:MbqZ2PAH0


古泉(告白の方が万が一だっては、さすがにあの場じゃ言えなかったな……。
   はあ。メモの相手が誰だかわからないけど、逃げたくなってきた。
   涼宮さん、授業終わったら本当にすぐ出ていっちゃったし。うう)
古泉(……もう、教室には誰もいないけど……)

朝倉「お待ちどうさま」
古泉「委員長さん……?」
朝倉「遅くなってごめんね。ちょっと委員会の用事があって。
   ふふ、意外だった?」
古泉「意外でした、というか……なんの用ですか。いったい?」
朝倉「用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあったの」
古泉「?」

朝倉「人間って、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい』
   って言うじゃない? これって、古泉君はどう思う?」
古泉「どうって、そのままの意味のような気がしますけど……」
朝倉「じゃあ、たとえ話なんだけど、
   現状を維持するだけじゃ平行線を辿るしかない状況を、
   どうすれば良い方向に向かうことが出来るか解らないとき。あなたならどうする?」
古泉「? あの、意味がよく……」
朝倉「どうせ今のままでは何も変わらないんだったら、
   とりあえず何でもいいから変えてみようと思うかしら?
   それとも、そのまま様子を見ようとする?」
古泉「はあ……」

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:27:08.90 ID:MbqZ2PAH0

朝倉「でもね、正直そんな風に手をつかねていたらどんどん良くないことになると思うのよ。
   それだったら、もう現場の独断で強行に出ちゃっても、いいと思わない?」
朝倉「何も変化しない観察対象に、あたしはもう飽き飽きしてるのね。
   だから……」
古泉(さっきから、委員長は何を言いたいんだろ……)

朝倉「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見ようと思うの」
古泉「!!!!」


古泉(な、なに、なに!! いったい!!!)
古泉(……! う、嘘だ……。
   僕がさっきまでいた場所に……なんで、ナイフが……!)(ずざざざ)
古泉「じょ、冗談、でしょう?
   委員長さんが、なんで、……あ、危ないですってば!
   そのナイフ、まさか本物、じゃ、ないでしょうっ??」
朝倉「冗談だと思う? ふふ」
古泉(涼宮さんの馬鹿! だから脅迫状だったんじゃないか!!!
   い、いくらなんでも、こんなのはっ!!)

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:35:00.43 ID:DS84hqsuO

調子に乗って規制→携帯からです……ううっ


朝倉「ふーん……。
   死ぬのっていや? 殺されたくない?
   わたしには有機生命体の死の概念がよく理解出来ないけど」
古泉(だから! 意味が! わかりませんってば!)
朝倉「ふふっ。捕食者に狙われた獲物って、そんな顔をしているのかしらね」
古泉「お、お願いですから、その危ないの、どこかに置いてくれませんかっ?」
朝倉「うん、それ無理。
   だって、わたしは本当にあなたに死んで欲しいんだもの」

古泉(こ、殺される!)(だっ)
古泉(?????)
古泉(ドアが……開かない!?)

朝倉「無駄なの」
古泉「いつの間に……鍵、掛けたんですかっ」
朝倉「鍵なんかじゃないわ。見て。
   全部灰色の壁にしてみたの。ふふ。きれいでしょう?」
古泉「……! なんで……っ」朝倉「この空間は、わたしの情報制御下にある。脱出路は封鎖させてもらったわ。
   この惑星の建造物なんて、ちょっと分子の結合情報をいじってやればすぐに改変できる……。
   笑っちゃうくらい簡単ね。だから、今のこの教室は密室。
   出ることも入ることも出来ない」



390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:38:49.09 ID:DS84hqsuO


古泉(嘘だ……。なんで、……どういうこと?
   この教室はいつの間にコンクリートの壁で覆われてる!?)

朝倉「ねえ、あきらめてよ。結果はどうせ同じことになるんだし。ね?」
古泉「……これは、現実、なんですか……?」
朝倉「その答えは、死んでみればわかるんじゃないかしら」
古泉「委員長さんは、いったい、何者なんです」
朝倉「それはあなたが知っても、意味がないことだわ」
古泉「どうして、僕を殺そうと……」
朝倉「あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
   多分、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会なのよ」
古泉「……なんで、僕が死ぬことが、涼宮さんに繋がるんです?」
朝倉「? 人間って可笑しなことを聞くのね。
   そんな当たり前のこと、考えなくてもわかるでしょう?」
古泉「?」
朝倉「呆れた。あなた、ものすごぉく鈍いのね。
   人間って、自意識過剰なほどに他人の感情を誤解するものじゃないのかしら」
古泉「あは……それは人にも寄るんじゃないですか?」
朝倉「そうなのかしら。ほんと、あなた達人間って観察し甲斐があるわね」
古泉(普通に話しているつもりなのに、なんで、
  

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:41:42.73 ID:DS84hqsuO


古泉(なんで、冷や汗が止まらない……っ)

朝倉「でも、もうお話は終わり。
   そろそろ、死んで貰うわ」


――ピシ

朝倉「! まさか!」
古泉「っ??」

ピシ
ピシピシピシ――ガドンッ

古泉(何が起き……え。あ、長門さん!?)

長門「一つ一つのプログラムが甘い」
古泉「長門さん、なんでここに!」
長門「天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。
   だからわたしに気づかれる。侵入を許す」
朝倉「どうあっても、邪魔する気なのね。
   でもいいのかしら? この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。
   これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ?」


396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:50:50.89 ID:DS84hqsuO


長門「あなたはわたしのバックアップのはず。
   独断専行は許可されていない。わたしに従うべき」
朝倉「いや。って言ったら?」
長門「情報結合を解除する」
朝倉「出来るかしら。ここではわたしのほうが有利よ。
   わかるでしょう? この教室はわたしの情報制御空間だもの」
長門「情報結合の解除を申請する」

古泉(なんだ、これ。
   映画とかドラマでしか実現不可能そうな光景、なんだ、けど……)


古泉「! 長門さん危ない!」長門「離れないで」
古泉「!!! 長門さん!!」
長門「……へいき。
   あなたはわたしが守る」(ゴフッ)

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 19:55:12.58 ID:DS84hqsuO


朝倉「ふふ。その人間を守りながら、いつまで持つかしらね?」

古泉「……な、長門さん……」
長門「あなたは動かないでいい」(ぼろ)
朝倉「もう限界かしら?
   同士が苦しむのを見ているのは辛いし、今楽にしてあげるわ。
   死になさい」(シュッ)


長門「――終わった」
朝倉「終わったって、あなたの三年あまりの人生が?」
長門「ちがう」

長門「情報連結解除、開始」

古泉(! 目が、まぶしっ)



401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:01:01.10 ID:DS84hqsuO


朝倉「そんな……っ」
長門「あなたはとても優秀。
   だからこの空間にプログラムを割り込ませるのに今までかかった。
   でももう終わり」
朝倉「……侵入する前に崩壊因子を仕込んでおいたってわけね。
   どうりであなたが弱すぎると思った。あらかじめ強性情報を使い果たしていたってわけね」
長門「……」
朝倉「あーあ、残念。しょせんわたしはバックアップだったかあ。
   膠着状態をどうにかするいいチャンスだと思ったのになあ」
古泉(朝倉さんの、身体が……光って、消えて、いく?
   な、なんで!)

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:03:55.57 ID:DS84hqsuO


朝倉「わたしの負け。よかったね、延命出来て。
   でも気を付けてね。情報思念体は、この通り一枚岩じゃない。
   相反する意識をいくつも持ってるの。ま、これは人間も同じね」
古泉「あ、朝倉さん!」
朝倉「いつかまた、わたしみたいな急進派が来るかもしれない。
   それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない」


古泉「――待って下さい! 消えないで!」

朝倉「! ふふ。何を甘いこと言っているの?
   わたしは、あなたのことを殺そうとしたのよ?」
古泉「……今日のことは、確かに怖かったけど、
   でも、朝倉さんは僕に話しかけてくれたじゃないですか!」


405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:07:15.67 ID:DS84hqsuO


朝倉「誤解しないで。それは任務だったからよ?」
古泉「それでも……っ、僕には……すごく、大事なことだったし……
   嬉しかったから……」


朝倉「変な人間。でも、あなたみたいな人間、嫌いじゃないかもね」
古泉「……っ」
朝倉「でも、残念。わたしはもう終わり。
   もうちょっとあなた達を観察してみたかったけど……。

   古泉君、涼宮さんとお幸せにね。じゃあね」


古泉「あさくらさ……っ」

407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:10:53.98 ID:DS84hqsuO


長門「……」とすん

古泉「! 長門さん! しっかりしてください、い、今涼宮さんを……!
   じゃない、救急車!!」
長門「いい」
古泉「でも!」
長門「肉体の損傷はたいしたことない。正常化しないといけないのは、まずこの空間。
   不純物を取り除いて、教室を再構成する」
古泉「再構成……?
   わっ」
古泉(教室が、元に戻ってく……。
   これ、長門さんがやってる……の?)
長門「……っ」
古泉「長門さん、大丈夫ですか! 無理、してないですか?
   今からでも救急車呼んできますか??」
長門「へいき。処理能力を情報の操作と改変に回したから、
   このインターフェースの再生を後回ししただけ。今やってる」
古泉「……手、お貸しします。
   あまり、無理しないでください」



412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:13:24.86 ID:DS84hqsuO


長門「あ」
古泉「?」
長門「眼鏡の再構成を忘れた」
古泉「……あははっ。大丈夫ですよ。
   眼鏡しててもしてなくても、長門さんは可愛いですから」
長門「そう」




がら
谷口「ういーっす、わ、わ、わ、わっすれモノ〜♪」

古泉「あ、谷口君」
谷口「〜ん? 一樹? お前まだ帰ってなかったのか、……
   って……」
長門「……」
谷口「ちょっ!! うわ、ご、ごゆっくりぃいいい!!!」



413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:15:49.72 ID:DS84hqsuO



古泉「……どうしたんでしょう。
   あ、今のは僕の……お友達、の、谷口君です」
長門「面白い人」

古泉「……長門さん」
長門「なに」
古泉「あの、朝倉さんは……」
長門「再構成は可能。けれど、一度起きたバグは何度も同じことを繰り返す。
   推奨はできない」
古泉「そう、……ですか」
長門「朝倉涼子は転校したことにする。
   ……いけない?」
古泉「いいえ……よろしく、お願いします」
長門「わかった」

414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:18:02.90 ID:DS84hqsuO


古泉(結局、昨日のことは、現実……だったのかな。
   すごくSFチック過ぎて、いまいち……実感がないけど……。
   登校するといつもいるはずの朝倉さんが、この朝の教室のどこにもいないのは
……やっぱり、)

ハルヒ「おはよう」
古泉「! おはようございます」

ハルヒ「……で」
古泉「で、というと?」
ハルヒ「連絡無かったってことは、やっぱりそういうことだったんでしょ。
    どうしたのよ。付き合うことにしたわけ」
古泉「……ああ!
   違いますよ、結局、あれは……」
ハルヒ「あれは?」

古泉(……あれは、一種の脅迫状ではあったわけだけど。
   でも……)



418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:23:39.77 ID:DS84hqsuO


古泉「これからのSOS団を影ながら応援してますって。
   SOS団の、ファンの方からでしたよ」
ハルヒ「はあ!? それだけ??」
古泉「はい」
ハルヒ「下駄箱にメモ入れて! 放課後にわざわざ呼び出してまで!?
    はあ? なんなのよ、それ!」
古泉「だから言ったでしょう?
   告白なんて、万が一にもないって」
ハルヒ「……昨日のあたしの心労を返せって感じだわ……」(ぽそ)

古泉「でも、嬉しいですね。SOS団にファンがついたんですよ!」
ハルヒ「それはそうだけどっ、
    でーも、そのファンって子はなんで団長のあたしじゃなくて、
    雑用のあんたなんか呼び出したのかしら!
    まったく我がSOS団のファンを名乗るなら、そこんとこちゃんとして貰いたいわ!」

古泉「……涼宮さんと話したくても、なかなか相手にされなかったって言ってましたよ」
ハルヒ「あら、そうだったの? でも、別にあたし、
    SOS団の話をされて相手しなかったことなんてなかったと思うんだけど……」



420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:27:46.31 ID:DS84hqsuO


古泉「そうそう。その人に、涼宮さんとお幸せにって、言われちゃいました」
ハルヒ「ぶはっ! ……な、なんなのよ、本当に、その子!
    っていうか、いったい誰なわけ!?」
古泉「秘密にして欲しいとのことで、ちょっと名前は言えません。
   でも、すごく、良い人でしたよ」
ハルヒ「う、なんだか逆に恐ろしいファンの子のようね……!」
古泉「そうかも、しれません」
  (ナイフ、突き付けられたし)

ハルヒ「そだ。あんた知ってた?
    うちのクラスの委員長、転校だって」
古泉「そうなんですか?」
  (やっぱり……)
ハルヒ「そうなのよ! なんでも外国行きが急遽決まったらしくて。
    でも、いくらなんでも昨日の今日よ? あんまりにも早すぎると思わない!?」

古泉「そう……ですね」

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:29:56.97 ID:DS84hqsuO


ハルヒ「あたしが思うに、これって事件よ。
    謎の転校生が来たと思ったら、今度は理由も告げずに転校していく女子!
    何か関連性があるはずよ!」
古泉「……えと、親の仕事の都合という可能性は?」
ハルヒ「そんなベタな理由、認めらんないわ。
    だいたい、転勤の辞令から引っ越しまで一日もないって、どんな仕事の都合よ。それ」
古泉「んー……」

ハルヒ「とにかく、SOS団にファンがついたことだし!
    この謎は我がSOS団として座視するわけにはいかないわ!」

古泉(涼宮さんの顔、今までになく生き生きしてるなあ。
   本当はその謎の真相、全部知っているんだけど……
   でも、涼宮さんのその顔見てると、何か違う謎が見つかりそうで……どきどきする)




427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:33:13.96 ID:DS84hqsuO


谷口「……よ、よう。一樹、クン?」
古泉「あ、おはようです、谷口君……?
   あの、どうしたんですか?」
谷口「いや別に!? ただ、あの、……昨日、お前」
古泉「そういえば、昨日谷口君、何か用事があったんじゃないですか? すぐ帰っていかれましたけど……」
谷口「いっいや、数Uの教科書忘れて……」
古泉「……?」
谷口「……」
古泉「? あ、あの?」

谷口「……」
谷口「……」
谷口「……」(ぼろっ)
古泉「えっ、谷口君っ?」
谷口「……」(ぼろぼろぼろぼろ)
古泉「どうしたんですか、谷口君!」



429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:35:19.30 ID:DS84hqsuO


国木田「一樹、谷口、おはよー。
    で? 一樹、谷口は何で朝から泣いてるの?」
古泉「おはようございます。あの、それが、急に……」
谷口「急にじゃねえよ……俺は、俺はなあ……っ」(ぐず)
国木田「うんうん、そうだよね。
    谷口が良い奴だってのは凄く解ってるよ、きゃあ谷口君かっこいー。
    はい、こんなもんでいい? そろそろ岡部来るだろうし、さっさと席着きなよ」
谷口「うう……そんな一本調子で言われても嬉しくもなんともねえ……」(ぐずぐず)
古泉「大丈夫ですか? 谷口君……」
国木田「そんなに一樹が心配することじゃないと思うよ。
    本当にダメだったら学校来ないだろうし。多分生理中で情緒不安定なんじゃない?」
古泉「せ……っ///」

谷口「……生理じゃねえし……」(ぐずぐずひっく)

433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:43:44.96 ID:MbqZ2PAH0


古泉(谷口君……。ずっと朝泣きっぱなしだったから、目、腫れちゃってたよなあ。
   改めて昨日のことちゃんと説明したらしたで、すっごい微妙な顔されちゃったし……。
   あとでまたちゃんと謝っておいた方がいいかも。目冷やすものも渡さないといけないし)
古泉(……っと。
   とりあえず、今は朝比奈さんに会ってから、じゃないと)

『昼休み、部室で待ってます  みくる』

古泉(昨日と同じように、今朝下駄箱に入ってたこの手紙を見て、
   正直不安がないわけではないんだけど、
   だからといって大事な話だったらって思うと、無視もできないよなあ……)

コンコン

朝比奈「あ、はーい」
古泉「失礼します……」
  (……あれ?)

朝比奈(?)「一樹君……久しぶり」

古泉(だれ?
   でも、なんだか朝比奈さんに似てる……)
古泉「あの……朝比奈さんのお姉さん、ですか?」
朝比奈(?)「うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる、本人です」
古泉「朝比奈、さん?」
朝比奈「そう。ただし、あなたの知ってるわたしより、もっと未来から来た朝比奈みくる。
    ……会いたかった」


435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:47:17.61 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……」
朝比奈「あ、信用してない?」
古泉「いえ! ただ、あの、なんというか、大人っぽくというか、綺麗になって……!」
朝比奈「ふふ、古泉君の天然褒め殺しを聞くのも、久しぶりね」
古泉(てんねんほめ……え?)
朝比奈「でも、この時間平面にいるわたしが未来から来たって、本当に信じてくれたかな?」
古泉「信じるもなにも、目の前にいらっしゃいますし。
   ……あれ? だったら、今って、二人の朝比奈さんがこの時代にいるってことですか?」
朝比奈「そうね。過去の……わたしから見れば過去のわたしは、
    現在教室でクラスメイト達とお弁当食べてるところかしら」
古泉「朝比奈さんは知ってるんですか? ええと、未来の自分がここにいるってことは」
朝比奈「いいえ、知らないわ。実際知らなかったしね」
古泉(……あ、そうか。
   混乱しちゃうけど、この人は今の朝比奈さんの未来なんだっけ)

朝比奈「一樹君に一つだけ言いたいことがあって、
    無理を言ってまたこの時間に来る許可を得たの。
    あ、長門さんには席を外してもらったのね」
古泉「朝比奈さんは、長門さんのこと知ってるんですか」
朝比奈「すみません、禁則事項です。あ、これ言うの久しぶりね」
古泉「僕は最近聞いたばかりです」
朝比奈「そ、そうでしたね!」
古泉(……大きくなっても、朝比奈さんは朝比奈さんなんだな。ちょっと安心しちゃった)



脳内泉ピン子さんになってしまった人は、IDの数字分腹筋!
しなくてもいいです。

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:50:35.04 ID:MbqZ2PAH0


朝比奈「ごめんね。あまりこの時間にとどまれないの。だから手短にいいます」
古泉「?」
朝比奈「これから一樹君が何か困った状態に置かれたとき、
    『月が綺麗』だって言葉を、思い出して欲しいんです」
古泉「月が……綺麗?」
朝比奈「夏目漱石って、知ってる?」
古泉「『坊ちゃん』の?」
朝比奈「そうです。その作者の方」
古泉「ええと、困ったことって……もしかして、これから何かまた起きるんですか?」
朝比奈「詳しくは言えないの。
    でも、その時、あなたの側には涼宮さんがいるはずです」
古泉「涼宮さんも? でも、それってどういう状況で……」
朝比奈「……涼宮さんはそれを困った状況とは考えないかもしれませんが……
    これは一樹君だけじゃなくて、わたしたち全員にとって困ることなの」
古泉「……」

440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:53:29.05 ID:MbqZ2PAH0



朝比奈「ごめんなさい、詳しく教えることができなくて。
    でもヒントだけでも、って。それが今のわたしに出来る精一杯」
古泉「それが、さっきの?」
朝比奈「ええ」
古泉「わかりました。覚えておきます」

朝比奈「それじゃあ、もう行きます」
古泉「お気をつけて、っていうのは、変でしょうか」
朝比奈「ふふ。……最後にもう一つ。
    特別な言葉は、あんまり多用しないで」

古泉「……僕も最後に一つだけ」
朝比奈「なあに?」
古泉「朝比奈さんが一番楽しかった過去は、どこでしたか?」

朝比奈「……ふふっ。
    それはもちろん、禁則事項ですっ」


441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 20:57:38.58 ID:MbqZ2PAH0


古泉(朝比奈さん。最初に会った時、『久しぶり』って……。
   そうだよ。未来から来たってことは、
   普通に考えれば、朝比奈さんはずっとこの時代にいるわけじゃないんだ。
   ……なら、少しでも、この時代を楽しいって思ってくれるように、したいな……)

長門「……」(がちゃ)
古泉「長門さん……こんにちは。
   あの、昨日の怪我は、大丈夫ですか?」
長門「問題ない」
古泉「そうですか、良かった……。
   あ、さっき、朝比奈さんに良く似た人とすれ違いませんでした?」
長門「朝比奈みくるの異時間同位体。朝に会った。
   今はもういない。この時空からは完全に消えた」
古泉「……」
長門「……」

古泉「そうだ。昨日はありがとうございました」
長門「お礼ならいい。朝倉涼子の異常動作はこちらの責任。不手際」
古泉「朝倉さん、外国に行ったってことにしたんですね」
長門「出来るだけ会う可能性のない場所にした」
古泉「そうですね。……あ、長門さん眼鏡止めたんですか?」
長門「……」
古泉「眼鏡してても可愛いかったですけど、
   眼鏡がないと顔がはっきりして、もっと可愛いですね」
長門「……そう」

447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:01:50.69 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「遅い! どこ行ってたのよ、あんたは!」
古泉「え? ええと、校内をぐるっと一周してました」
ハルヒ「はあ? 何やってんのよ、もうっ。
    すぐ帰ってくると思ってご飯食べないで待ってたのに!」
古泉「え! す、すみません! え、ええと、じゃあ今からでも一緒に」
ハルヒ「もう食べたわよ。いいからさっさとこっち来て」
古泉「?」

ハルヒ「さっき職員室で岡部に聞いたんだけど、
    朝倉の転校って朝になるまで誰も知らなかったみたいなの。
    朝一で朝倉の父親から急に引っ越すことになったって……、そんな無責任な親、いる?
    しかも引っ越し先は、カナダよ、カナダ! 胡散臭すぎるわ!」
古泉「カナダですかあ……いきなり寒そうなところですね」
ハルヒ「そんなのはいいのよ! それであたし、連絡先教えてくれって言ったの。友達だからって。
    そしたら、引っ越し先さえ知らないってのよ!?
    もうこれは何かあるに違いないわ!」
古泉(何かあるかないかでいえば、あるにはあったけど……)

ハルヒ「せっかくだから引っ越し前の朝倉の住所訊いてきたの。
    学校が終わったら、その足で行くことにするわ。何か解るかもしれないし!」
古泉「あの、それって、僕も行っていいですよね?」
ハルヒ「あたりま……
    し、仕方ないわね!
    同行を許可してあげてもいいわ!」
古泉「ふふ、ありがとうございます。涼宮閣下」


451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:05:48.32 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「……はあ……、でっかいマンションねえ……」
古泉(あれ? ここって長門さんの住んでるマンションじゃ)
ハルヒ「ここの505号室に住んでたみたいよ。
    しっかし、朝倉の親って何やってんのかしら。まあ相当設けてるわね、この調子じゃ」
古泉「ですね。でもどうやって入るつもりですか?
   こういうマンションは、セキュリティがしっかりしてるでしょうし。」
ハルヒ「みたいね。玄関も鍵付きのようだし……。
    これって、適当に押せば開くんじゃない?」
古泉「さすがにそれは犯罪ですよ。ダメです!」
ハルヒ「言ってみただけよ!
    しゃーない。こうなったら、持久戦で行くしかないわね!」
古泉「持久戦って……」

ハルヒ「あ、ラッキ。もう人が来たわ!
    ほら、もたもたしてないで行くわよ!」
古泉「大声出しちゃダメですってっ。よけい怪しまれますから」
ハルヒ「わかってるわよ。いいじゃない、中入れたんだし。
    ほら、さっさとエレベータに乗りなさい。五階に急ぐんだから」
古泉(……涼宮さん、犯罪者にだけはならないで!)


452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:08:14.26 ID:MbqZ2PAH0


ウイーン

ハルヒ「朝倉なんだけど」
古泉「はい」
ハルヒ「おかしなことがまだあるのよね。
    朝倉って、この市内の中学から北高に来たんじゃないらしいのよ」
古泉「? それっておかしいですか?」
ハルヒ「絶対おかしいでしょ。どっかの市外の中学から越境入学よ?
    北高が有名進学校だったんならまだしも、ただの県立高校だってのに。
    なんでわざわざそんなことするわけ?」
古泉「んー、なんとなく、ですかね? 僕も市外からなんで、なんとも言えないですけど」
ハルヒ「え? あんた、そうだったの?」
古泉「ええ、まあ。でも、この地区は市どうしがそんなに離れてないですし、
   市内の高校よりこっちの方が近かったとかの理由で、
   市外から来た人はクラス内にも何人かいたと思いますよ」
ハルヒ「……あんたも、そのクチ?」
古泉「あはは、そうかもしれませんね」
ハルヒ「? ふーん、でもそうだったんだ……。知らなかったわ」
古泉「ですから別におかしいことはないかなって、ことです」

ハルヒ「……でも、朝倉の住居はこんな学校の近くにあるのよ?
    しかも分譲よ、このマンション。賃貸じゃないのよ。
    立地もいいし、高いのよ、ここ。そんなとこから、なんで市外の中学に通ってたっての?」
古泉「引っ越ししてきた、とか」
ハルヒ「むむ。朝倉がいつからここに住んでたのか調べる必要があるわね」

453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:10:48.52 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「さて、ここが朝倉の元部屋の入口なわけ、だけど」
古泉「当然、鍵がかかってますよね」
ハルヒ「そうね」
古泉「……どうします?」
ハルヒ「……ん」
古泉「……」
ハルヒ「……」

ハルヒ「あ、そうだ。管理人室に行きましょ」
古泉「鍵は貸してもらえないと思いますけど……」
ハルヒ「そうじゃなくて、朝倉のことを聞きにいくのよ!
    いつから住んでたのかとか!」
古泉「あ、なるほど」

ハルヒ「というわけで、管理人さん。
    ちょっと訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」

管理人「……あぁ?」
ハルヒ「あたしたちここに住んでた朝倉涼子さんの友達なんですけど、
    彼女ったら急に引っ越しちゃって連絡先とか解らなくて困ってるんです。
    どこに引っ越すとか聞いてませんか?
    それからいつから朝倉さんがここに入居してたのかそれも教えて欲しいんですけど」
管理人「え? え? あ、ああ……あのめんこいお嬢さんのことけえ?」
ハルヒ「ええ、そうなんです。彼女、ほんと急に引っ越しちゃったもので」
管理人「なあ? ほんと、いつ引っ越したんか、さっぱりでな。
    わしも、寝耳に水だっぺ? んでも引っ越し屋がきたっちゅう感じもなかったのに、
    部屋は空っぽだし、度肝抜かれたわ」


454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:13:17.02 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「管理人さんも知らなかったんですか……。
    それで、朝倉さんはいつ頃このマンションに?」
管理人「ありゃあ、……三年前だったっけなあ。
    いやあ、こがめんこいお嬢さんがわしんとこに和菓子さ持って来たのよ。
    マンションだってローンなしの一括ニコニコ払いって、こりゃえれえ金持ちだと思って!
    んでも、お嬢さんはよぐ見たんげど、ご両親さんとはついぞ挨拶した覚えはねがったなあ」
ハルヒ「ご両親は、何をやってる方なんでしょうね」
管理人「いんやあ、それはしらねけど。
    お嬢さんはほんとお、いい娘だったー。
    わし、ほら、訛りが酷いべ。だからこのマンションの人と話せねえのよ。
    なに言ってっかわかんねえって、な。
    だけんど、あのお嬢さんはニッコニコして、
    嫌な顔もしねえで、いつもわしの話さ、聞いてくれんだわ」
ハルヒ「……」
古泉(……やっぱり、朝倉さんって……)
管理人「いい娘だったよ、ほんとお……」

ハルヒ「……ご丁寧に、ありがとうございました。
    あたし、朝倉さんの友達で本当に良かったと思います」
管理人「うん。力になれんくてごめんなあ。
    連絡先わかったら、こんなジジイでも心配してたって、言ってくれっかい?」
ハルヒ「はい……!」
管理人「ありがとないありがとない……」


457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:16:08.25 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「……」
古泉「……」

ハルヒ「そういえば、朝倉……さんって、
    入学のときから、よくあたしに話しかけてくれてたのよね」
ハルヒ「そのときは、なにこいつとか、偽善ブっててうざいって思って、無視しちゃったけど」
ハルヒ「誤解してたのかな、あたし。
    もしかしたら、朝倉さんって本当に優しい人で、
    ただ単に、あたしを心配してくれてたんじゃないかしらって。」
ハルヒ「他人のことなんてほっとけばいいのにって今でも思うけど、
    でも、あたし、朝倉さんにひどいことしちゃったなって。今、すごく思ってる」

古泉「その誤解が……、
   その誤解が誤解じゃないってわかったなら、それで良いんじゃないでしょうか」
ハルヒ「そうかな」
古泉「……ええ」
ハルヒ「でも、……あたし、すごく朝倉さんに謝りたい気分なの。ううん、謝らなきゃいけないわ。
    そうよ。この際、カナダにいるんだったら、手紙でもなんでもいい!
    絶対住所調べあげて、勝手に引っ越したことも含めてなっがい手紙送り付けてやるんだから!」
古泉「ふふっ」
ハルヒ「なによ?」
古泉「いえ。それでこそ、僕の知る涼宮さんだなって」
ハルヒ「ほ、褒めても何も出ないわよ! ばか!
    って、あら? あれ、有希じゃない?」
古泉「え? あ、ほんとですね」


464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:19:56.06 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「有希、奇遇ね! ん、今買い物帰り?」
長門「……」(こく)
ハルヒ「じゃあ、あんたんちって、この辺にあるの?」
長門「あそこ」
ハルヒ「へえ! 有希もあのマンションに住んでるんだ……凄い偶然ね!」
長門「そう」
ハルヒ「あ、同じマンションだったらさ。
    朝倉さんのこととか、何か聞いてない?」
長門「ない」
ハルヒ「そっか……。あ、でももし朝倉さんから連絡があったとか、
    住所のこととかなにか解ったら教えてくれる?」
長門「わかった」

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:24:55.62 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「あれ。有希、眼鏡どうしたの?」
長門「……」(じ)
古泉「あ、長門さん、昨日眼鏡を壊してしまったみたいなんです」
ハルヒ「そうだったの!? でも眼鏡がないんじゃ、生活困んじゃない? 大丈夫なの?」
長門「なくても、ある程度はへいき」
ハルヒ「あたしは視力良いほうだからよくわかんないけど、そういうものなのかしら。
    まあでも、有希は眼鏡ない方が顔が明るくなっていいかもね」
古泉「そうですよね。長門さんはもともと可愛いですし、さらに魅力的です」
ハルヒ「……」
長門「そう」

ハルヒ「……あ、じゃあ、あたし達は帰るから。また、明日ね」
長門「……」(こく)
古泉「それでは、また明日に」
長門「……」


長門「気を付けて」(ぽそ)
古泉「え?」

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:28:48.97 ID:MbqZ2PAH0



古泉(あれ、こっちって涼宮さんちの方面じゃないような……)

古泉「どこに行くんですか、涼宮さん」
ハルヒ「うん……」
古泉「帰るんじゃ……?」
ハルヒ「わかってる」
古泉「?」

ハルヒ「……あんたはさ、自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか、
    自覚したことって、ある?」
古泉「……え?」
ハルヒ「あたしはね、あるの。忘れもしない」


470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:32:16.02 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「小学校の六年のときだったかな。家族で野球を見に行ったことがあるの。球場まで。
    テレビとかでもわかるけど、見渡す限り人だらけなの。びっくりするわよ。
    しかも、野球場の向こうにいる人間なんて米粒みたいにちっちゃいの。
    当たり前なんだけど、その一人一人が人間よ。息を吸って吐いて、生きて、存在してるの。
    それなのに、ときどき大きなテレビに映る姿は、どう見たってその他大勢。
    その中にはドラマじみた人生を辿ってきた人がいるのかもしれない。
    でも、大勢人が集まれば、有名人だって米粒と一緒なの」
ハルヒ「その時思ったのよ。だったら、あたしなんてさらにさらに意味のない米粒だって。
    それまで、あたしは自分がどこか特別な人間のように思ってた。
    家族といるのも楽しいし、なにより自分の通う学校の自分のクラスは
    世界のどこよりも面白い人間が集まっていると思ってたのよ。
    でも、そうじゃないんだって、その時気づいたの」
ハルヒ「あたしがすごく楽しいと思ってることは、周りから見たらごく普通の当たり前ことでしかない。
    そう思ったら、そんなあたしの人生ってすごくつまらないものだって……。
    それからよ。急にあたしの周りの世界が色あせたみたいに感じた」
ハルヒ「小学を卒業するまで、どうしてあたしの人生は面白くないのかしらって考えてた。
    どうしたら面白くなるのかって。考えて考えて、思いついたの。
    面白いことは待っててもこないって。
    だから中学に入ったら、あたしは自分を変えてやることにした。
    待ってるだけの女じゃないんだぞって。世界に訴えたかったの。でも結局何もなし」

ハルヒ「いつの間にか、あたしは高校生になってた。
    ……高校になれば、もっと何かが変わるかもって思った」

472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:34:24.22 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……変わらなかったん、ですか?」
ハルヒ「ううん、違う。違うの。そうじゃなくて……。
    ごめん、なんでもない。変なこと言ったわ」
古泉「いえ、そんな」
ハルヒ「……今日は、帰る」
古泉「はい……」

古泉(送るべきなんだろうけど、それはわかってるんだけど。
   どうしてこの足は、動こうとしないんだ。
   ダメだ。頭の奥がチリチリする)


古泉(――涼宮さんの最後のあの顔が、頭に張り付いて離れない)


473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:37:55.85 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……」
キョン「よ」
古泉「……どうして、キョン君がうちの前に」
キョン「いつぞやの約束を果たそうと思って、帰りを待たせてもらったわけだ。
    もっと遅くなるかと思ってたが、割と早かったな」
古泉「まるで僕がどこに行っていたか知ってるような口ぶりですね」
キョン「ははっ、ストーカーとか言うなよ。任務だ。任務。
    で、さっそくで悪いが、案内したいところがあるんだ。今いいか?」
古泉「涼宮さんがらみで?」
キョン「涼宮がらみで」


古泉「なんだか……すごくタイミング良くタクシーをつかまえられましたね」
キョン「だろ? これ、俺の超能力な」
古泉「嘘ですよね」
キョン「ああ、嘘だ」
古泉「……ところで、いつぞやの約束ってなんのことですか?」
キョン「力を使える機会があったら見せてやるっていったろ?
    ちょうどいい機会が来たもんだから、御同行を願い出たわけだ」
古泉「わざわざタクシーを使ってまで?」
キョン「ま、な。言ったろ? 俺が超能力者的な力を発揮するにはいろんな条件が必要だって。
    これから行くところは、その条件に合ってる、ってわけだ」


478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:42:42.54 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……僕、キョン君の話を聞いて、ずっと考えてました」
キョン「うん?」
古泉「涼宮さんは、神様じゃないと思います」
キョン「……」
古泉「そんなこと、あるわけないじゃないですか。
   涼宮さんは普通の女の子です。ちょっと夢見がちな、可愛い女の子ですよ」

キョン「……なあ古泉。人間原理っつー言葉は知ってるか?」
古泉「? いえ」
キョン「煎じ詰めれば、だ。
    『宇宙があるべき姿をしているのは、
     人間が観測することによって初めてそうであることを知ったからだ』
    という理論だ」
古泉「はあ」
キョン「つまり、宇宙が宇宙足り得ているのは、
    宇宙を、肯定する知的生命体がいて、初めて宇宙と成り得ているっつー、
    わけのわからん人間本位的な理屈のことだ」
古泉「……キョン君、好きそうですね。そういうの」
キョン「ほっとけ。ああ、安心しろよ。
    別に俺は全知全能たる絶対神が人間の創造主だなんていう、
    信仰心は持ち合わせてないからさ。が、疑ってはいる」
古泉「何をです」
キョン「俺達は、崖っぷちで爪先立ちしているピエロなんじゃないかってな。
    笑えるだろ?」



482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:45:34.60 ID:MbqZ2PAH0

古泉「……」
  (わけがわからない……)
キョン「ははっ、冗談だ」
古泉「笑えませんし、真偽がわからない冗談は嫌いです」
キョン「そうか? その割には涼宮によく付き合ってると思うがな」
古泉「……涼宮さんは、あなたみたいな冗談は言いません。
   いつだってまっすぐ過ぎるくらい、まっすぐな方です」
キョン「ふうん?」
古泉「……」
キョン「ま、人間原理を引き合いに出したのは、ものの例えだと思ってくれ。
    肝心の涼宮の話がまだなんでな」

キョン「覚えてるか。俺が、この世界は涼宮ハルヒが見ている夢かもしれないって言ったこと」
古泉「はい、……忘れようもないですよ」
キョン「だが、この世界が夢ではなく現実だとすれば、さらにこうも考えられるだろう?」
古泉「?」
キョン「涼宮ハルヒには願望を実現する能力がある、ってな」
古泉(それ……長門さんも、言っていた……?)

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:48:33.53 ID:MbqZ2PAH0


キョン「覚えがあるだろ?
    なんせ涼宮はいとも簡単に、数ある生徒数の中から、
    宇宙人や未来人、超能力者をぴたりと見つけだしたんだからな」
古泉「でも、長門さんは……たまたま、休部になった文芸部員で、
   朝比奈さんは可愛いからって……、
   それにキョン君は、謎の転校生だったから」
キョン「その定義は誰が決めたんだ? 涼宮ハルヒだろう」
古泉「でも……、だったら、なおさら変じゃないですか。
   本当に、涼宮さんがそういう能力を持っていたのだとしたら、
   どうして涼宮さん本人は、そのことに気付いてないんです。
   自分で望んだのに、自分でそれを叶えてるのに、涼宮さんは満足していない」
キョン「矛盾してると思うか?」
古泉「だって、そうでしょう?」
キョン「いいや、矛盾してるのはこっちの理論じゃない。
    逆だ。涼宮の方が矛盾してるのさ」
古泉「解りやすく、言ってください」

キョン「結局のところ、涼宮は宇宙人だの未来人だのがいるだなんて、本気で信じちゃいないんだよ。
    おっと誤解はするな。いたらいいとは思っていることは、確かなんだ。
    それでも、いるはずがないという常識論が、涼宮ハルヒの中でいつもせめぎ合っている」


484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:52:14.83 ID:MbqZ2PAH0


古泉(……どうしてこの人は、涼宮さんの心を読み取ったように話すんだろう。
   それも、確信を込めたように。
   まさか、だけど。超能力って、心を読む能力です、とか……?
   今の僕じゃ、そんな能力なんてありえないって、……言いきれないからこわい)

キョン「もっとも、そんな砂嵐みたいな精神も、ここ数カ月は割と落ち着いてはいたんだ。
    俺としちゃあ、このまま落ち着いてくれたら願ったり叶ったりだったんだけどな。
    が、ここに来てまた、トルネードを発生させている」
古泉「……どうして?」
キョン「お前のせいだ」

古泉「は?」

キョン「お前が涼宮に妙なことを吹き込まなきゃ、まだ遠目からの観察だけで済んだものを」
古泉「ぼ、僕が何をしたんですか!」
キョン「涼宮がお前との会話によって、奇妙な人間ばかり集めたクラブを作る気になったんだから、
    少なくとも、お前にも責任はあるだろう?
    結果、涼宮ハルヒに関心を抱く三つの勢力の末端が一堂に会することになったわけだしな」
古泉「……濡れ衣です」
キョン「理由はそれだけじゃないけどな、
    ……、おっと?」

運転手「到着しました」


488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:56:38.75 ID:MbqZ2PAH0


キョン「さて、ここまで連れてきて言うのも何だがな」
古泉「?」
キョン「今なら引き返せるぞ。一応な」
古泉「……それこそ、いまさらですよ」
キョン「だな。
    悪いが、ちょっと目閉じておいてくれないか?」(すっ)
古泉「手、握る必要があるんですか?」
キョン「ほんの数秒だ。我慢しろ」

古泉(こんな人通りも車の通りも多い横断歩道のど真ん中で目を瞑れって!
   ああ、もう、なんでこの人はいつもなんだか偉そうなんだ……!)

キョン「もういいぞ」

古泉「……」

古泉(な、……っ、なんだ、この世界……!?)

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 21:59:25.62 ID:MbqZ2PAH0


古泉「こ、ここは……?」
キョン「次元断層の隙間、我々の世界とは隔絶された、閉鎖空間。ってところか」
古泉「閉鎖、空間」
キョン「ちょうどこの横断歩道の真ん中が、この空間の≪壁≫だったんだよ。
    ほら、こんな感じで」
古泉(空気が、かたい……? ゼラチンみたいな、質量がある。
   どうして? 何が、起きてるの?)
キョン「半径はおよそ5キロくらいか。大きさは毎回変わるんだがな。
    通常、物理的な手段では出入り出来ん。俺の能力の一つが、この空間に入ることとも言える」

古泉「いったい、どういうところなんです。ここは」
キョン「歩きながら話すか。
    ……そうだな。詳しくはわからんが、俺達の住む世界から少しズレた場所にある違う世界、
    とでも言おうか? 今この瞬間も、外部では何ら変わりない日常が流れてるはずだ」
古泉「じゃあ、ここは異世界……?」
キョン「いや、それともまた違う。
    地上に発生したドーム状の空間を想像してみれくれ。
    今はその内部にいるだけで、実質的にはここも現実であることには変わらない。
    とは言っても、ここでの出来事が現実に繋がるわけでもないが」
古泉「……はあ」

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:01:48.14 ID:MbqZ2PAH0


キョン「この空間はまったくランダムに発生するんだ。
    一日おきに現れることもあれば、何か月も音沙汰なしだってありえる」
古泉「あ。キョン君が言っていた条件って、それだったんですか」
キョン「ああ。最近は驚くくらい出現なしだったもんでな。
    今日のこれは、本当に久々だったんだ」
古泉「でも、もしかしたら……キョン君の知らないところではあったのかもしれないですよ?」
キョン「いや、この空間が生まれれば、俺はそれを探知することが出来る。仲間もな。
    なぜそれがわかるかって聞かれれば、まったくの謎だ。
    謎なくせに、出る場所と時間は解っちまう」

キョン「そんでもってこのわけわからん空間でも、ただ一つ明らかなのは――
    涼宮ハルヒの精神が不安定になると、この空間が生まれるってことだ」
古泉「なんで、そんなことまで……わかるんです?」
キョン「わかっちまうから、わかるんだよ。
    仕方ないだろう。そういう力なんだよ。俺が与えられた能力ってやつはな。
    例えるなら、この世界が涼宮の精神に生まれたニキビだしたら、俺はその治療薬ってところか」
古泉「? 意味がよく……」
キョン「ちょっと待て。もうそろそろだから」

古泉(だから、何がって聞きたいのにっ!)

495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:04:52.10 ID:MbqZ2PAH0


キョン「そら、始まった。後ろ見てみろ」
古泉「後ろ?」

古泉「……」

古泉「な、なんですか! あれ!」
  (青い発光物……? って、え!
   ビル、壊しちゃってえるけど、いいの。あれ!?)
キョン「涼宮ハルヒのイライラが具現化したもの、とみてる存在だ。
    心のわがかまりが限界に達するとあの巨人が出てくるみたいだ。
    ああやって、傍迷惑に周りをぶち壊すことでストレス解消しようとしてるらしい」
古泉「らしいって、そんな悠長に言ってていいんですか!?」
キョン「よくはない。≪神人≫……あの巨人のことだが、
    ≪神人≫が破壊活動を続ければ続けるほど閉鎖空間も拡大していくからな。
    ほっとけばそのうち全世界を覆い尽くしかねないんじゃないか?」
古泉「そんな! ど、どうするんですかっ」
キョン「落ち着けよ。そのためにいるのが、俺やその仲間たちなんだって、さっき言ったろ?」
古泉「……あ」


496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:07:02.61 ID:MbqZ2PAH0


キョン「仲間の何人かはもう行ってる。見えるか?」
古泉「小さい、赤い光が……?」
キョン「言っとくけど、あれはあの≪神人≫がでか過ぎるんだぞ。
    あの光だってこっからじゃ豆粒みたいに見えるけどな、実際はこのくらいだ」
古泉「……! きょ、キョン君っ?」
  (赤い……あ、あの小さい光と同じ……!)

キョン『さて、そろそろ俺も参加してくる。ちょっと待っててくれ』


古泉「はは……デタラメだ、わけ、わかんない……」

古泉(これを作りだしてるのが、涼宮さん、だって?
   こんな……)
古泉(誰か嘘だといって。そうしたら、……僕は素直にそれを信じるから)

499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:09:28.92 ID:MbqZ2PAH0


キョン「っと。少し手間取ったな。待たせて悪い」
古泉「お疲れ、さまです」
キョン「最後に、もう一つ面白いのがある」
古泉「?」
キョン「≪神人≫が消滅すると同時に、この空間も消滅するんだ。
    上、見てみ」

ピシっ

古泉「……あ」

――パリン

古泉「……光が降ってくる……?」
キョン「憂鬱な灰色の空が砕ける瞬間ってのも、なかなかスペクタクルだろ?」

古泉(きれいだけど、なんでだろう。
   まるで、世界の終わりみたいだ)


500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:11:20.20 ID:MbqZ2PAH0


キキィ、パタン

古泉「すみません。わざわざ送っていただいて、ありがとうございます」
キョン「いや。礼を言うのは俺の方だ。付き合ってくれてありがとな。
    ……何度も言うが、ここしばらくの涼宮の精神は本当に安定していたんだ。
    それが変化し始めている。変化が良い方向に行くなら、全然問題はないんだけどな。
    お前からも、涼宮の動向には十分注意しておいてくれ」
古泉「……ええ。あのような光景を見せられて、知らないフリはしないですよ」
キョン「ならいいんだけどな。
    あ。それと、前から聞きたかったんだが」
古泉「なんでしょう?」

キョン「お前、俺のこと嫌いだろ」

古泉「は? って、とっ、突然、何を言うんです!?
   そんなわけ、ないじゃないですか!」
キョン「ま、お前ならそう言うだろうとは思ったんだけどな。
    言っておく。俺が涼宮ハルヒについて詳しいのは、たまたま能力者に選ばれたからで、
    それ以上でも以下でもない。警戒することはないぜ?」
古泉「……え、ええと」
キョン「ま、俺としては涼宮のことは、お前にすべてのゲタを預けてもいいと思ってるんだけどな。
    『機関』の中では、色々と思惑が錯綜しているってだけで」
古泉「あ、あの……」
キョン「頑張れよ。青少年」(にや)
古泉「あ、あなただって、同じ歳じゃないですか!!!」

キョン「あはは、それじゃまたな?」
古泉「! も、なんなんですか!! もう!!」


503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:18:24.54 ID:MbqZ2PAH0

ここまでで後半分の二分の一終了です
次から、オリジナル要素・鬱が入るので、乗り越えていただければと!

505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:20:27.04 ID:MbqZ2PAH0


古泉(な、な、なんだったんだろ!
   別に! ちょっと、涼宮さんに気があるのかなとか、思っただけ! なのに!
   警戒とかそんなんじゃ、なくて、……!!!)
古泉「……穴があったら埋まりたい……うう」

古泉「もう何が何だか……。
   はあ……ただいま」
古泉「ん? あれ、なんで電気ついて……)

?「遅かったじゃない」

古泉「……え」
?「今十時よ。あんたでも夜のお遊びなんてするのね。驚いたわ」
古泉「一葉、……? なんで、ここに」


508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:22:46.67 ID:MbqZ2PAH0


一葉「姉が弟を心配して、わざわざこんなきったない家で待っていてあげたっていうのに、
   なんでここにって? はっ! なにそれ?」
古泉「……」
一葉「ねえ、ちょっとあんたさあ。そんな優しいお姉様に対する労りの言葉とかないわけ。
   ほんと、最低ね。いつまでも経っても変わらない。
   ――人間の屑」
古泉「っ」

一葉「……それにしても、父さんもずいぶんよねー。
   たかだか高校生の一人暮らしに、書庫に使ってた家を与えるなんて。
   おまけに――あ、そうそう。持ってけって言われた、仕送り」
古泉「……」
一葉「ほぉらあ〜、さっさと受け取りなさいよ。
   でもお、高校生に二十万って高過ぎよね。それも一か月分なんでしょ、これ?
   ……ふふ、それともこれが手切れ金ってやつなのかしらね?
   この家と金はやるから、もう二度と、家に、帰ってくるなってねえ!!」
古泉「……!!」(ぎゅう)
一葉「あっははは、ねえ、これあんたのだあ〜いすきな、お金でしょ?
   はやく頬ずりしたくて仕方ないんでしょ? 気にせずやればいいじゃない。いつものように。
   それともあたしの前じゃ恥ずかしいかしら?
   んもう、本当愚図な弟なんだからあ。お姉さんがやってあげないと、なんにもできないのねえ?」
古泉「一葉……」
一葉「……いいからとっとと受け取れつってんだよ! 聞いてんのか、死神っ」(ばさっ)


511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:25:18.46 ID:MbqZ2PAH0


古泉(……あ、ああ……)
一葉「ほんと、うぜえな。相変わらずトロいし。ほんと、なんでお前みたいのが生きてんだよ。
   地球のゴミだろ、もうさっさと死ねよ!」
古泉「……」(ぽろ)
一葉「泣けば許されるって思ってるのがムカつくんだよ!」
古泉「ごめ、ごめんなさ、ごめ」
一葉「……はっ。さいってい。やっぱ来なきゃ良かった。
   あんたの変な顔を見に来た時間がもったいなくてしょうがないわ」
古泉「うっぐ……ひっ」

一葉「……ふ。そういえばさあ。ねえ、あんた。今まで、誰といたの?
   まさか友達? なわけないわよねえ。今まで一人も友達がいなかった、あんたが!
   たがが学校が変わっただけで、友達を作れると思ってるの? ねえ」
古泉「ちがっ違う、友達じゃ、ない……」
一葉「そうよね。あんたに友達なんて作れるわけないわよね?
   一樹はトロくて愚図でつまんない人間だものねえ」
古泉「ぼ、ぼくは……」
一葉「ぼくは、トロくて、愚図で、つまんない人間。でしょ?」
古泉「……うっ、ひっく、そ、そう、そう……っ」

一葉「ああ、安心した。
   勝手に市外の高校受けて、あんたが自分の罪から逃げようとしたのかと思ったわ。
   あんたが幸せになれる資格なんて、万が一にもあってはならないものね」
古泉「っく、うう……っ」

一葉「母さんを殺した、あんたが」



515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:27:38.50 ID:MbqZ2PAH0


古泉(……)

一葉『いい? あんたは今までのことを悔い悔やんで生きるのよ。
   そうそう、あたしこれから父さんとデートなの。すごおく、楽しみだわ。
   じゃあね。永遠に、御機嫌よう』

古泉(……)

古泉(忘れて、なんか、ない……。
   僕の、罪。
   一葉の、心の傷も、父さんの痛みも、……忘れられるわけがない……。
   でも、それでも、この学校に来て、優しい人たちがいっぱいいて……)

古泉(こんな僕の名前を呼んで、友達と言ってくれて。
   当たり前のように、僕の存在を認めてくれた……)

古泉(だから、少しでもって、思ってしまったんだ。祈ってしまった)


517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:29:29.07 ID:MbqZ2PAH0


母さんが好きだった。
僕だけじゃない。双子の姉の一葉だってそうだった。
あの頃の父さんも、母さんが笑うと幸せそうに笑ってた。
僕の家族のみんな母さんが大好きだった。

あの頃の僕の自慢は、母さんに似ているとよく言われたこの顔だった。
女顔だって一葉には笑われてたけど、本当は一葉がそれを羨ましがってたことを知っていた。
だから、女顔じゃないって言い返してたけど、
母さんに似ているって言われる度に、僕は内心嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

――雨の日だったんだ。
僕は、お気に入りの傘を風に飛ばされたから、慌てて拾いに行った。
母さんに買ってもらった黄色い傘。
それだけを目指して、飛ばされていく傘を追いかけて、
やっとつかまえたと思ったら、ドン。
鈍い音がした。


519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:31:46.30 ID:MbqZ2PAH0


母さんが倒れてた。
僕には何が起きたかわからない。
母さんが倒れてた。
何が起きたかわからない。
母さんが赤かった。
赤いのは止まらない。
母さんの声が聞こえない。
いつも優しく包み込むような声が、しわがれた呼気しか吐き出さない。
ピーポーピーポー。
僕は知ってる。この音は救急車だ。
『救急車は、怪我をした人を病院に連れていってくれる車です』
そう教えてくれたのは、母さんだった。


521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:34:16.35 ID:MbqZ2PAH0


『人殺しっ!!! 返せ!! お母さんをかえせええええ!!!!!』

一葉が泣いていた。
僕は泣かなかった。
父さんが泣いていた。
僕は泣けなかった。
黒い人だかりの中、
まっしろな服を着た母さんは、
とてもとても綺麗に、笑っていた。

父さんが、僕を見なくなった。
もともと家にいない人だったけど、さらにいなくなった。
代わりに、テーブルの上には、何も言わないお金だけが置き去りにされる。
その額は年々増えていく。


523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:36:32.32 ID:MbqZ2PAH0


僕は自分の顔を見ることをやめた。
母さんに似ているこの顔を、一葉は変な顔だと喚き立てる。
だから、見るのをやめた。
この顔は、母さんに似ていない。まったく似ていない。
変な顔なんだ。
こんな変な顔が、母さんに似ているわけがない。
綺麗な母さんに、似ているはずがない。

一葉は僕を責め立てる。
僕はそれを受け入れる。
そうされて当然のことをしたんだから。
むしろ、もっと責めてくれればいい。

『あんたが死ねば良かったんだ!!!』

僕もそう思う。


525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:38:38.78 ID:MbqZ2PAH0


小学、中学。
僕は独りだった。
学校では誰とも話さなかった。誰とも触れ合おうとしなかった。
一葉がそれを許さなかった。
僕は、笑えるほど典型的ないじめられる対象だった。
殴られても蹴られても、ただ痛いだけで、
傷はそのうち勝手に癒えた。

僕は一葉の言いなりだった。
僕は喜んで言いなりになっていた。
だけどほんとうは、良いように使っていたのは僕だったのかもしれない。
都合良く僕を責めてくれる、僕の分身。
僕の心の闇を、さらに染めてくれる、僕の半身。
一葉が責めてくれることで、酷い言葉を投げつけてくれることで、
母が死んでしまったことを、
僕が殺したんじゃないと、自分に言い訳することができた。
父が僕を見放したことを、
仕方がないんだと、自分に諦めさせることができた。

愛しい、僕の分身。
哀れな、僕の半身。

だから、解放しなきゃ。
まだそう思えるうちに、解放してあげなきゃいけない。
いつか一葉よりも自分が大事になる前に。
僕から一葉を開放してあげるんだ。

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:41:14.10 ID:MbqZ2PAH0


『父さん。僕、市外の高校を受けるよ』

行く高校も決めて、願書も出して、住むところも決めて。
全部周到に用意してから、父に告げた。
対面するのが何か月ぶりなら、
会話をしたのは、数年ぶりだった。

『どこだ』
『北高。学校の近くに、アパートを借りたんだ』

金はどうしたんだと、父が聞く。
あなたがくれたお金を貯めてただけでずいぶんな額になった、と告げる。
歳をごまかしてバイトしていたことは、言わなかった。

『あそこの近くに、書斎に使ってるだけの家がある。
 北高に行くなら、そこに住みなさい』
『仕送りも、お前の口座に毎月振り込む』

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:43:39.35 ID:MbqZ2PAH0


いらないと言った。
そんなこと、必要ない。
アパートにはもう荷物を運んだ。
受かったその足で、まっすぐ行けるように。
金だって、三年は余裕で使える額を貯めた。
もうあなたに迷惑をかけなくていいように。
だから、いまさらそこまでしてもらうことはない、と。


【……ふふ、それともこれが手切れ金ってやつなのかしらね?
 この家と金はやるから、もう二度と、家に、帰ってくるなってねえ!】


そうなのかもしれない。
それでも構わなかった。
僕の顔が父の視界に入るたびに、歪むその顔を見なくて済むから。


532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:48:23.62 ID:MbqZ2PAH0


古泉(思いあがるな、って、言い聞かせてなきゃならなかったのに)
古泉(ここにいるのは、楽しむためなんかじゃないって)
古泉(ほんとうは、……全部から、逃げたいだけだったくせに)
古泉(それでも……)

ハルヒ『イッキね。覚えておいてあげるわ』
ハルヒ『イッキ! イッキ! 本当に来たわよ!』
ハルヒ『まったく、あんたといると、ほんと毒気抜かれるわ』
ハルヒ『ねえ、ちょっとイッキ!』
ハルヒ『イッキ!』


古泉「……涼宮さん」


ハルヒ『あんたはさ、自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか、
    自覚したことって、ある?』




古泉「涼宮さんに……、
   ……会いたいな……」


534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:52:28.44 ID:MbqZ2PAH0


古泉「おはようございます、涼宮さん」
ハルヒ「おはよ。まったく、今日もあっついわねえ〜」
古泉「もうそろそろ、衣替えの次時期ですから、それまで我慢ですよ」
ハルヒ「制服が水着って学校ないかしら」
古泉「あったらあったで、寒い日は寒いですよ?」
ハルヒ「男子はね。女子はあれよ。タオル巻き許可だもの」
古泉「あ、なるほど。って、それはズルいじゃないですかあ」
ハルヒ「いい? むかぁしは、男といったら冬場でも乾布摩擦をやったものよ!
    それなら短パン水着いっちょでいたって、へいきでしょー!」
古泉「あはは、さすがにそれは辛いかもしれません」
ハルヒ「なによっ意気地ないわねえ。
    あ、そうそう! あんた、今日は絶対部活に来なさいよ」
古泉「今日は何かイベントするんですか?」
ハルヒ「な、い、しょ」
古泉「ふふ、それはそれは、楽しみです」

ハルヒ「……? もしかして、あんた、どっか調子悪い?」
古泉「いえ、そんなことはないですけど」
ハルヒ「そう? なんかいつもと違うような……。
    ううん、あたしの勘違いかも」
古泉「涼宮さんこそ、風邪には気を付けてくださいね。
   昨日の帰り、元気なかったみたいに思えたので」
ハルヒ「べ、別にあんたに心配されるほど、やわじゃないわよ。
    それに……昨日のは、ちょっと、うん、変なこと言って悪かったわ」
古泉「そんなこと、ないですよ」



537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:54:25.97 ID:MbqZ2PAH0


谷口「うっす」
古泉「うっす、です」
谷口「……一樹よ、昨日のお前の話で、この前の事情はようくわかった。だがな」
古泉「はい」
谷口「いくら長門有希が俺的ランクAマイナーとはいえ、だ。
   宇宙人だのなんでの、涼宮ウイルスがくっついたとんでも話をするなんて、
   長門有希も正気の沙汰とは思えん。考え直せ、お前はまだやり直せるんだ!」
古泉「え、いえ、でも」
谷口「お前にはなあ、もっと美人でおしとやかで可愛くて、
   親友の俺にもばっちり気を回してくれるっつー、女があってるんだ! うん!」
古泉「あの、別に僕は長門さんと、その、そういう関係ではないですよ?」
谷口「わかってる。当たり前だ。俺がまず許してないんだからな!」

国木田「なんで一樹が誰かと付き合うのに、谷口の許可が必要なわけ?
    谷口、ちょっと気持ち悪いよ」
谷口「うるせ! 俺が一樹の保護者だ!」
国木田「そんな保護者、今どきカミナリ親父でもないよ。
    きっとそのうち、谷口の洗濯ものと一緒に洗わないでって言われちゃんじゃない?」
谷口「そんな……こと、言わないよな! 一樹!」(ぶわ)
古泉「待ってください。その前に、あの、僕は谷口君の子供じゃ」
谷口「何をいう! 誓い合っただろ、あの夕日に!
   俺達の魂の絆を!」

国木田「うん、長門さんを涼宮さんウイルスとか言ってる谷口が、
    一番きもくて涼宮さんより電波だよね」

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:56:30.30 ID:MbqZ2PAH0


古泉「こんにちは」
長門「……」(ちら)
古泉「なんだか、今日は涼宮さんが朝比奈さんと一緒に来るから、
   ちょっとだけ遅くなるそうです。あ、でもちゃんと部活はするそうですよ」
長門「そう」
古泉「キョン君はまだみたいですね。
   知ってました? 特進科って、HR時にも課題出されたりするんですって。
   それが難関大学の入試にも出るような問題だから、予習復習はほんと大変だそうです」
長門「……」
古泉「凄いですよね。普通科だったら絶対無理ですもん。
   あ、でも長門さんだったら余裕で解けるかもしれませんね」
長門「出来ないことはない」
古泉「もしかして、長門さんってどんな問題でも解けたりします?」
長門「可能。でも、ある程度調整している」
古泉「試験のときとか?」
長門「そう」
古泉「そうですかあ。それも、大変ですね」

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 22:58:12.03 ID:MbqZ2PAH0



長門「何かあった?」
古泉「……いえ、何もないですよ」
長門「そう」
古泉「はい」

長門「本」
古泉「?」
長門「図書館の本、読んだ?」
古泉「あ。いえ、そういえば、あの時図書館で読んだところまででした。
   ちょっとこのところいろいろあって……。今度またゆっくり、読み始めようと思います」
長門「今日読んで」
古泉「え?」
長門「帰ったらすぐ」
古泉「あ、……はい」


543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:00:20.18 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「おっまたせー! って、あら? キョン君がいないわね。
    ま、いっか。ほら、みくるちゃん! 早くこっちきなさい!」
みくる「ふ、ふええーん、涼宮さあん、かんべんしてくださいい〜〜っ」
ハルヒ「もう! ここまで来て何いってんの! って、何勝手にカーディガン被ってんのよ!
    みくるちゃん、ほらめっちゃ可愛いんだから!
    堂々としてればいいのよ! 堂々と! ほら、脱いだ脱いだ!」
みくる「ふえ! ひああああっ」
ハルヒ「じゃーん!」

長門「……」
古泉「……え」

ハルヒ「ふふ、どう! メイドさんよ、メイド!
    これこそ、みくるちゃんに相応しいコスチュームでしょうっ?」
みくる「ふえーん……は、恥ずかしいですう……」
ハルヒ「みくるちゃんみたいな萌えキャラには、何かすっごい衣装が必要だ、
    ってずっと思ってたのよね。でもこれがいいのがなくてさあっ。
    で、この前ネットでこれ見つけて、ピーンと来たのよう!
    ようやく昨日届いてたから、さっそく今日持ってきたってわけ!」
みくる「うう、涼宮さぁあん、せめて、カーディガン、カーディガン返してください〜!
    す、涼宮さんだって恥ずかしくないんですかあ!?」
ハルヒ「だーから、みくるちゃんはめっちゃ可愛いんだから大丈夫だって!
    それにね、恥ずかしいって思うから恥ずかしいのよ!」


546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:03:52.99 ID:MbqZ2PAH0


古泉「涼宮さ……、ど、どうしたんですか、その格好!」
ハルヒ「これ? だからネット通販で」
古泉「じゃなくて!」
長門「……バニー」
ハルヒ「ああ、これ? うん、ついでにバニーの衣装もあったからね。
    みくるちゃんの分のバニーもあったんだけど、
    せっかくのメイド服はみくるちゃんに着せてあげたかったし、
    あたしは暑かったから来てみただけよ。あんま涼しくないけどね」
古泉「……」
ハルヒ「で、どうよ。みくるちゃんのメイド姿は!」
古泉「あ、あの……」
みくる「ふぃい〜」
ハルヒ「ほら、なんか言ってやんなさいよ!
    みくるちゃんのこの艶姿に!」
古泉「……あの……」

ハルヒ「……って、あんた顔真っ赤よ。大丈夫?」
古泉「な、なってないです! ち、ちかよっちゃだめです!」
ハルヒ「ま、あんたには、みくるちゃんのこのメイド姿は刺激が強すぎたかしら?
    耳の裏まで、真っ赤っかじゃない」
古泉「!」(ばっ)

551 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:07:18.68 ID:MbqZ2PAH0


みくる「うう、やっぱりわたし着替えてきますう〜」
古泉「あ、ちが! お似合いですよ! 可愛いです、とっても!
   朝比奈さんの、なんていうか、雰囲気に、あってます。
   ……恥ずかしがること、ないですよ。ほんとうのほんとうに可愛いです」
みくる「ほ、ほんとですかあ?」
古泉「はい。朝比奈さんの愛くるしいお顔とすごく合ってますよ。
   この服だって、朝比奈さんのような方に着られて冥利に尽きるはずです」
みくる「ふああ……い、一樹君、褒めすぎですよう!」(かあ)
古泉「そんなことないです。事実ですもん。
   あ、でもこれ、頭のひらひらはどうなってるんですか?」
みくる「うんとね、これはカチューシャになってるみたい。ほら」
古泉「ほんとだ。あ、結構簡単にできてるんですね」

ハルヒ「……みくるちゃん」
みくる「は、はいぃいい!」
ハルヒ「明日から、この部室ではその服を着てること。いいわね」
みくる「え、ええええ!? な、なんでですかああ!?」
ハルヒ「だってそんなに可愛いんですもの、もったいないじゃない」
みくる「え、ええ、だ、だってえ……!」
ハルヒ「決定なんだからね。絶対よ」
みくる「う、ひえええっ」

キョン「すまん、HRが長引いて……って、
    なんだ。今日は仮装大会かなんかか?」
古泉「いえ、別にそういうわけでは、ないんですけど」

555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:12:22.13 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「みくるちゃん、ここに座って」
みくる「え、ええ?」
ハルヒ「いいから。髪の毛やってあげるから」
みくる「ふえ、は、はい……」

キョン「……メイドさんとバニーか。いいな」
古泉「ちょっと、鼻の下伸ばさないで下さい」
キョン「お前、男としてその反応はなんだよ。もっと本能的に生きてみろ? 人生楽しいぞ」
古泉「べ、別に僕が楽しくなくても、あなたには関係ないでしょう」
キョン「なんだよ、冷たいな。昨日のことでも根に持ってんのか?
    しつこい奴は嫌われるぞー。俺が言うんだから間違いない」
古泉「開けっ広げなあなたよりはマシです」
キョン「ふうん? 言うようになったな。
    じゃ、とりあえず、オセロでもやるか」
古泉「まあ、いいですけど」

556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:14:50.13 ID:MbqZ2PAH0


古泉(僕たちはオセロをして、涼宮さんは朝比奈さんの髪をいじって、
   長門さんは相変わらず本の世界に浸っていた。
   そんな感じで、今日の活動は終わって。
   僕は家に帰って、長門さんに言われた本を読み終えて、眠りについた)

古泉(確か、そのはずだった)

ハルヒ「……ッキ、イッキ」
古泉「……?」
ハルヒ「起きてよ」
古泉「すずみや……さん? なんで、僕の家に……」
ハルヒ「なに寝ぼけてんのよ! いいから起きなさい!」
古泉「! えっ!?」

ハルヒ「やっと起きたわね」
古泉「……」
ハルヒ「ここ、どこだか解る?」
古泉「どこって……学校、……?」

古泉(――違う。
   月も星も雲さえない、一面壁のような灰色空。
   世界が静寂と薄闇に支配された、この空間)

古泉(僕はここを、知っている)

557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:17:06.31 ID:MbqZ2PAH0



ハルヒ「目が覚めたと思ったら、いつの間にかこんな所にいたのよ。
    隣であんたは伸びてるし。ねえ、どういうこと?
    どうしてあたしたち学校なんかにいるの?」
古泉「涼宮さん、ここにいたのは僕たちだけですか」
ハルヒ「そうよ。あたし、ちゃんと布団で寝たはずよ。
    なんでこんな所にいるの? それに空も変だし……」
古泉「どこかでキョン君を見ませんでした?」
ハルヒ「ううん。……なんで?」
古泉「いえ、何となくです」

古泉「……とりあえず、ここを出ましょう。
   もしかしたら寝たままここに来た可能性もありますし」
ハルヒ「そんなことある? って、意外ね。あんた、あんまり驚いてないの?」
古泉「あはは……驚き過ぎて、逆に冷静になっちゃってるのかも、しれません」
ハルヒ「そう、そうね。まあいいわ。早く出ましょう」


560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:21:07.58 ID:MbqZ2PAH0


ぶに

ハルヒ「……何、これ」
古泉(この感触は、覚えがある)
ハルヒ「なんで、なんにもないのに押し戻されるの!? 絶対変よ!」
古泉「ここからは……出られそうもないですね。
   裏門に回ってみましょう」
ハルヒ「待って。それより、どこかと連絡取った方がいいわよ。
    だって絶対おかしいでしょ、こんなの」
古泉「でも、携帯なんて今持ってないですよ」
ハルヒ「あたしもないわ」
古泉「どうしましょう……」

ハルヒ「……職員室。
    そうよ、電話なんて職員室にあるじゃない!
    ここにいてもどうしようもないし、行ってみるだけ行ってみましょ! 誰かいるかもしれないし!」

563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:24:39.18 ID:MbqZ2PAH0


パチ
ブ、ブ……イーン

古泉「……ひとまず、電気は通っているみたいですね」
ハルヒ「電話あった! えっと、……あれ?」
古泉「どうしました?」
ハルヒ「……通じてないみたい」
古泉「ちょっと、貸してみてください」

古泉(確かに、何の音もしない……)

『……って、〜けじゃ、……いの?』

古泉「!?」
ハルヒ「ね、通じてないでしょう?
    なんでなのかしら、不気味だわ」

『あな……あ……〜だけ、……かわ……って、いって……い……』

古泉(通じてる……いや、声が聞こえてくる!?
   聞いたことがある声で、何か言ってる。
   涼宮さんには聞こえないのか?)

『……たし以外に……いわな……、いで……かわいい……、いや……』

古泉(何を言ってる……の?)


565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:28:15.29 ID:MbqZ2PAH0


『あたし以外に、可愛いって言わないで!』
ハルヒ「わけわかんない! いいわ、どっか違うところに行きましょう!」
古泉「……あ」
ハルヒ「イッキ、どうしたの?
    いつまでも繋がらない電話持ってても、仕方ないでしょ」

古泉(繋がってるんだ、この電話は……多分、)

古泉「……そ、ですね。教室に、行ってみましょう。
   上から覗けば、周りがどうなっているかわかるかもしれないですし」
ハルヒ「うん、……あ」
古泉「?」

ハルヒ「ね。手、繋いでも、いい?」
古泉「……心ぼそいですか?」
ハルヒ「ち、違うけど!」
古泉「ふふ……」

ハルヒ「……あんた、手、暖かいね」
古泉「涼宮さんは、ちょっと冷たいです」
ハルヒ「いや?」
古泉「いえ、冷たくて気持ちいいです」
ハルヒ「そっか」
古泉「はい」


566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:29:57.97 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「やっぱり、私たちの教室も誰もいないのね。
    通ってきた教室にも、誰もいなかったし……」
古泉「涼宮さん?」
ハルヒ「イッキ……見て」
古泉「……これって」
ハルヒ「いくら今が夜だとしても、電気一つ点いてないって、ありえる?
    街灯の光もないし、コンビニだってあったはずよ」
古泉「停電してるわけでも、ないですよね。ここの電気は点いているんですから」
ハルヒ「いったい、どこなの、ここ……」
古泉「……」
ハルヒ「気味が悪い」

古泉「どう、しましょう」
ハルヒ「……部室に行ってみる?」
古泉「そうですね。行ってみましょう」
ハルヒ「何も変わんないとは思うんだけど……。
    ここで、この景色を見ているよりは、ずっとマシだわ」

567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:31:13.56 ID:MbqZ2PAH0


古泉「ここは、今日の放課後と変わらないですね」
ハルヒ「そうね」
古泉「涼宮さんのバニーさんと、朝比奈さんのメイドさんの衣装もそのままです」
ハルヒ「うん」
古泉「……お茶、飲みます?」
ハルヒ「いらない」
古泉「飲んだ方がいいですよ。落ち着きます。
   朝比奈さんのように美味しいとまでは、いかないですけど」
ハルヒ「……ありがと」
古泉「こういうときだったら、ココアとかの方が雰囲気には合ってるんでしょうね」
ハルヒ「ううん、お茶でも十分あったかいよ。
    いつも飲み慣れてるからかな。すごく、落ち着く」
古泉「そうですか……良かった」

ハルヒ「あたしたち、どうなるんだろうね。全然、何にも、さっぱり解んない。
    ここはどこで、あたしはなんでこんな場所にいるの?
    それに、なんであんたと二人だけなのよ?」
古泉「……なんで、でしょう」

ハルヒ「うん、でも……そうね」
古泉「?」
ハルヒ「あたし、ちょっと探検してくるわ」
古泉「え、ええ、探検ですか!?」
ハルヒ「ここでうじうじしててもしょうがないしね。
    あ、あんたはここにいて。何か起きるかもしれないし。すぐ戻るから!」
古泉「涼宮さ……って、もう行っちゃった……」


569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:34:18.84 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……あれ?」
  (赤い、光?)

キョン「よ、放課後ぶりだな」

古泉「その声……え? キョン君、ですか?」
キョン「こんな姿じゃ解りづらいか? ま、一応、そのつもりだ」
古泉「ど、どうしたんです。その姿は」
キョン「それも込みで、ちょっと話すことがある。
    本当はもっと早く来たかったんだが、手間取ってな」
古泉「何かあったんですか。それに、どうしてこの空間に僕や涼宮さんがいるんです?」
キョン「そのことだが……正直に言う。これは異常事態だ」

キョン「ここに入るのだって、正直かなり難しかった。
    仲間のすべての力を借り受けてまでも、こんな不完全な姿でしか侵入できなかったんだ。
    それも、長くは持たない。俺達に宿った能力が今にも消えようとしているみたいだ」
古泉「いったい、どうなってるんですか?」
キョン「つまり、恐れていた事態がついに始まったってわけだ。
    とうとう涼宮ハルヒは世界に愛想を尽かして、新世界を創造することに決めたらしい」
古泉「そんな、嘘でしょうっ?」
キョン「おかげで『機関』のお偉方は恐慌状態だ。その状況だって傍から見れば笑えるけどな。
    ……神を失ったこっちの世界がどうなるか、誰にも解らん。
    もし涼宮に慈悲があるなら、何事もなく存続するかもしれんが」
古泉「なんで、そんなことに……」
キョン「さあな」


571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:37:12.48 ID:MbqZ2PAH0




キョン「ともかく、お前と涼宮はこっちの世界じゃ完全に消えてる。
    物理的な意味じゃない。生きてきた過程も含めて、
    お前たち二人の存在は、すでに跡形も無くなっている」
古泉「え?」
キョン「いいか、そこはもうただの閉鎖空間じゃないんだ。
    涼宮ハルヒが構築した新しい時空なんだ。
    いやもしかしたら、今までの閉鎖空間もその予行演習だったのかもな」
古泉「冗談だとしたら、最高ですよ……それ」
キョン「残念なことに、大マジだ。
    そっちの世界は今までの世界より涼宮ハルヒの望みに近いものになるだろう。
    涼宮が何を望んでいるかは知らんが、さあどうなるんだろうな?」
古泉「……なんで、僕はここにいるんです?」
キョン「本当に解らないか?
    何度も言われたんだろう。お前は、涼宮に選ばれたんだよ。
    涼宮ハルヒが唯一、共にいたいと思ったのが、お前なんだ。
    ――とっくに気付いていただろう? なあ、古泉一樹」
古泉「……」


574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:40:09.05 ID:MbqZ2PAH0



キョン「さて。形が保てなくなってきたようだし、そろそろ限界だな。
    このままいけば、お前たちとはもう会うこともないだろう。
    元気でな、ってのは、可笑しいか?」
古泉「こんな灰色の世界で、涼宮さんと二人だけなんですか」
キョン「嬉しいだろ? それに、リアルアダムとイブじゃないか。
    産めや増やせで頑張れよ。男の夢だろ? そういうの」
古泉「……殴りますよ、本気で」
キョン「ははっ、まあそれは冗談として。
    おそらく、閉ざされた空間なのは今だけだ。
    そのうち、また見慣れた世界になる。こっちと同じではないだろうけどな。
    俺も朝比奈さんも長門も、涼宮が望んでくれていれば、また会えるかもな。
    そのときはよろしくやってくれ」

577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:42:19.43 ID:MbqZ2PAH0


古泉「もう、僕たちはそちらには戻れないんですか」
キョン「涼宮が望めば、もしくは……どちらにしても望みは薄いだろう。
    そうそう、朝比奈さんと長門から伝言を任されてたんだった」
古泉「きょ……っ」
  (消えて、しまう!?)

キョン「朝比奈さんからは……叱咤激励か? 『男の子なら根性見せてあげて下さい』ってな。
    長門は、『パソコンの電源を入れるように』、だそうだ。じゃあな」
古泉「キョン君!!!」

古泉(……消え、ちゃった……)

古泉(朝比奈さん……、根性って……なにを? だれに?
   い、いや、それよりもまず、パソコンの電源を入れなきゃっ!)

プツ――ブオン

古泉(でもパソコンが、何の役に立つんだろ……?
   ん? OSが立ち上がらない?)
古泉「!」

583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:44:13.26 ID:MbqZ2PAH0


YUKI.N>みえてる?

古泉「……」
古泉「……」
古泉「……あ!」

古泉『はい』(かた)
YUKI.N>そっちの時空間とはまだ完全には連結を絶たれていない。
    でも時間の問題。すぐに閉じられる。そうなれば最後。
古泉『どうすれば?』(かたかた)
YUKI.N>どうにもならない。こちらの世界の異常な情報噴出は完全に消えた。
    情報統合思念体は失望している。これで進化の可能性は失われた。
古泉『進化?』
YUKI.N>高次の知性とは情報処理の速度と正確さのこと。
    情報統合思念体は高次の知性を持つが、すでにその進化は止まっている。
    思念体が今以上に進化することは、情報のみで構成された意識体である以上不可能なことだった。
古泉『涼宮さんは、』
YUKI.N>涼宮ハルヒは何もないところから情報を生み出す力を持っていた。
    それは情報統合思念体にもない力。
    故に、その情報創造能力を解析すれば自律進化への糸口がつかめるかもしれないと考えた。


587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:46:05.93 ID:MbqZ2PAH0


古泉「……」

YUKI.N>あなたに賭ける

古泉『何を』
YUKI.N>もう一度こちらへ回帰することを我々は望んでいる。
    涼宮ハルヒという重要な観察対象は、もう二度と宇宙に生まれないかもしれない貴重な存在。
    わたしという個体も、あなたには戻ってきて欲しいと感じている。
古泉『でも、どうしたらいいか』

YUKI.N>また図書館に

古泉「!」
  (画面が、暗転する……!)




YUKI.N>『片恋』

608 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:52:44.27 ID:MbqZ2PAH0


古泉「ど、したら……僕はどうすればいいんですか……長門さん、キョン君……」

古泉「……」
古泉「? なんだ、急に外が明るくなっ……」

古泉(嘘だ……!
   なんで、し……≪神人≫!!?)

ハルヒ「イッキ! なんか出た!」
古泉「涼宮さん」
ハルヒ「なにアレ? やたらでかいけど、怪物?
    まさか蜃気楼じゃないでしょうね!」
古泉(≪神人≫まで、涼宮さんの前に姿をあらわすなんて!)
ハルヒ「宇宙人? それか古代人類が開発した超兵器が現代に蘇ったとか!?
    学校から出れないのは、あいつのせいかしら!」

610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:54:55.13 ID:MbqZ2PAH0


古泉(って、まてよ……!)

古泉「涼宮さん、はやくここから出ましょう!」
ハルヒ「な、ちょ! ちょっと、何!?」
古泉(あの空間のビルみたいに、ここも壊されたらどうしようもないっ!!)

ハルヒ「ねえ! ねえ、イッキ!
    あれさ、襲ってくると思う? あたしには邪悪なもんだとは思えないんだけど。
    なんでだろう。なんかそんな気がするの!」
古泉「涼宮さん、はやく、走って!」
ハルヒ「あたし、すごい、今ワクワクしてるわ!
    今なら何でも出来そう! ううん、出来るんじゃないかしら!」
古泉「涼宮さん!!」

612 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:56:38.02 ID:MbqZ2PAH0


ハルヒ「はあ、はっ……もう、ここら辺なら、いいんじゃない?
    それにしても、ホント変なの。この世界も、あの巨人も」
古泉「……は、……っ、そ、ですね」
ハルヒ「でも、これよ。あたしが求めていたのは、これなのよ!
    今はっきりわかった。きっと、そうなのよ!」

古泉「……涼宮さんは、元の世界に戻りたいと思わないんですか」
ハルヒ「え?」
古泉「一生こんなところにいるわけにはいかないでしょう?
   変な壁があって外には出れないし、あの巨人がいつ襲いかかってくるかもわかりません」
ハルヒ「んー、なんかね。大丈夫だと思うの。
    不思議だけど、そんな気がするわ。なんとかなるのよ、きっと。
    自分でも納得できないけど、今、本当に楽しい!」
古泉「SOS団はどうするんです。一緒に不思議なことを見つけるために、創ったんでしょう?」
ハルヒ「いいのよ、もう。だってあたし自身がすっごい面白い体験してるんだし!」

古泉「僕は、戻りたいです」

ハルヒ「どうして? あんただって、楽しいでしょう?!」
古泉「楽しくないと言えば、嘘になります。
   でも、僕は……っ」
ハルヒ「?」


614 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/25(水) 23:58:33.97 ID:MbqZ2PAH0


古泉「谷口君や国木田君と冗談を言って笑い合ったり、
   いなくなってしまった朝倉さんや……クラスメイトと何気ない会話。
   朝比奈さんや、長門さん、キョン君たちと一緒に遊んだりするだけで、
   僕は、涙が出るくらいに、楽しかったんです……!」
ハルヒ「……何、言ってるの?」
古泉「僕は、もう一度彼らと会いたい。
   まだ話してないことも、話したいことも、いっぱい残ってるんです」
ハルヒ「……」

ハルヒ「会えるわよ、きっと!
    この世界だっていつまでも闇に包まれているわけじゃないでしょう。
    明日になったら太陽だって昇る。あたしには、解るの」
古泉「そうじゃないんです。この世界でのことじゃない。
   僕は、元の世界の彼らに、会いたいんです」
ハルヒ「……意味わかんない」
古泉「お願い、解ってください」

616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:00:11.20 ID:AhKzgUBP0


ハルヒ「あんたは、世界がつまらないってうんざりしたことはないの?
    特別なことが何も起こらない普通の世界より、もっと面白いことが起きて欲しいって、
    一度でも思ったことはないの?」
古泉「……思ってました」

古泉「普通の学校生活、普通の友人、楽しい放課後の部活動。
   家に帰れば、優しい父と母がいて、姉は僕に可愛い頼みごとばかり言う。
   ……多分涼宮さんにすれば面白くないことかもしれません。
   そんな何気ないことを、僕はずっとずっと気が遠くなるくらい思っていたんです。
   だけど、思えば思うほど、空しかった」
ハルヒ「……」
古泉「でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。
   僕はそれを手に入れるために、何の行動も起こさなかった。
   涼宮さんみたいに、クラブを一から創るとか、
   自分で動き回ってでも見つけ出すとか、考えもしなかった。
   いつだって悲観的な自分を見て、そんな自分に……僕は酔っていたのかもしれない」
古泉(一葉を、父を犠牲にしてまで……。
   でも、もう僕は……逃げない。
   逃げて、後悔して、誰かのせいになんてしたくない)

ハルヒ「……イッキ?」


620 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:02:51.58 ID:AhKzgUBP0


古泉「ねえ、涼宮さん」
ハルヒ「な、なによ」
古泉「……今日は、月が綺麗ですね」
ハルヒ「はあ……? あんた、いきなり何言ってんの。
    月なんて、星さえあの空にはないじゃない」
古泉「そうですか? でも、涼宮さんと一緒に見る月は、きっと綺麗ですよ」
ハルヒ「別に、月なんて誰と見ても一緒じゃない」
古泉「涼宮さんと見るから、綺麗なんです」
ハルヒ「……」

古泉「ね。僕、ここ数日ですごい面白い目にあってたんです。
   努力じゃどうにもならないような、すごいすごい面白いことを。
   それを起こしていたのは、涼宮さんなんですよ。世界は涼宮さんを中心に動いていたんです。
   涼宮さんが知らないだけで、世界は確実に面白い方向に進んでいたんですよ」
ハルヒ「それって……?」

古泉(朝比奈さんが言ったのは、『月が綺麗』だって言葉。
   夏目漱石は、英語教師だったころ生徒の訳を、そんなことを日本人は言わないと否定した)
古泉(長門さんが図書館で渡したあの本。
   ツルゲーネフの「片恋」の翻訳で、二葉亭四迷は『あなたとなら死んでもいい』と訳した)


623 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:04:09.14 ID:AhKzgUBP0


古泉「涼宮さん、あなたに聞いて欲しい言葉があるんです」
ハルヒ「改まって、なに?」
古泉「……ほんとうは、ずっと言いたかったのかもしれません。
   だけど、僕にはその勇気がなくて。
   でも言いたい。今、すごく言いたいんです。
   言って後悔するかもしれないけど、でも、今やっとその勇気をみんなからもらえた気がするんです。
   だから、伝えたい。あなたにだけしか言わない、特別な言葉です」
ハルヒ「……?」



古泉「涼宮ハルヒさん。
   初めてあったときから、僕はあなたが――」


あなたが、好きです。




626 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:06:07.22 ID:AhKzgUBP0



キーンコーンー……

古泉「今日は、天気がいいですねえ」
ハルヒ「……そうね」
古泉「ふふ。そういえば、昨日。僕、素敵な夢を見たんですよ」
ハルヒ「へえ。あたしは変な夢を見たわ。
    おかげで全然寝れないったら。もうひどい隈出来てるから、あんたこっち見ないでよね」
古泉「涼宮さんなら、どんな顔でも可愛いですよ」
ハルヒ「……あんた、素敵な夢見たって言ったけど。
    どんな夢だったの?」


古泉「あのですね……」






 〜 古泉「大変な高校デビューをしてしまいました……」〜
                          fin

656 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:11:26.24 ID:AhKzgUBP0

支援・保守、及び昨日から二夜跨いだ方、今夜からこんにちはの方、
このたびはわたくしめの初SSにお付き合いくださいまして、
まことにありがとうございました!

一応この話はこれで完結です。
ハルヒと古泉のことは、
これが終わりではなく、すべての始まりなので、あえて書きませんでした。
古泉の家族については、たぶんなんとかするでしょう。
古泉には、ハルヒがいることですし。

667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:20:25.14 ID:AhKzgUBP0

次回作、調子に乗ればぜひ書きたいとは思ってます。
でもこの二人での続編は、これでわたしの中でのハッピーエンドなもので、
どうなるかわかりません。
また沸騰したら書きますが!

途中で書こうとしてた、みくるんがキョンの立場になったら、は
正直大人キョンに煩悩を持て余しそうですよね。

何か書いてほしいものがありましたら、一応候補にいれてまた駄文ひっさげて
あらわれようと思います!

694 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/26(木) 00:39:23.17 ID:AhKzgUBP0

さて、宴もたけなわ。
今宵はこれでお別れといたしましょう。

また次回作でお目にかかれることを祈って、お疲れさまでした!



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