前原圭一たちが居候のようです


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 21:50:52.10 ID:/lD+8mTR0

詩音「おはよう、悟史くん」
悟史「あ、おはよう詩音」

悟史「どうしたんだい詩音。朝からそんなにくっついて」
詩音「別に。ただ、こうして悟史くんと一緒にいられることが嬉しいだけです」
悟史「僕たちが結婚してから半年も経つよ。一緒にいるのは当たり前じゃないか」
詩音「それでも、目が覚めて隣にあなたがいてくれると心が落ち着くんです」

詩音「悟史くんは目が覚めて私が隣にいて、嬉しいと思ってくれないんですか?」
悟史「むぅ……」
詩音「うふふ」

詩音「お布団を片付ける前にもう少しこうしていましょうか」
悟史「詩音」

沙都子「おにーさま、おねーさま、朝ですわよ。いつまで寝てますの。早く起きて来てくださいまし」

詩音「………」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 21:52:51.15 ID:/lD+8mTR0

悟史「あ、沙都子が呼んでる。もうご飯の時間だよ」
詩音「いいじゃないですか。もう少し一緒にいましょうよ」
悟史「みんなを待たせても悪いしね。また後で」
詩音(後って。結局いつも夜まで2人きりになれないじゃないですか……)


圭一「お、悟史に詩音おはよう。もうみんなそろってるぜ」
魅音「ほらほら。悟史も詩音も顔洗ってきた? 目やにがついてるよ」

梨花「ご飯をよそいますから、お茶碗を回してください」
羽入「はーい、なのです」

レナ「お味噌汁もできてるよ」
圭一「お、今日もいいにおいだな!」

詩音「………」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 21:56:51.36 ID:/lD+8mTR0

 私と悟史くんが一緒になったのは、ちょうど彼が23歳になったその日だったから、もう半年前のことだ。
 園崎家と北条家が犬猿の仲だったのはもう遠い過去のこと。私と彼の婚約を好ましく思わない者は誰一人として
いなかった。
 むしろ過去の確執が解消されたからこそ、古き因習を脱するという意味でも私たちの仲をたくさんの人が祝福してくれた。
 式場の花道を万雷の拍手で送られる私は、きっと彼と幸せになれるに違いないと確信していた。事実私たちは幸せだった。

圭一「おい沙都子、そっちの醤油とってくれよ」
沙都子「ちょっと手を伸ばせば届くじゃありませんの。それくらい自分でとりなさいませ!」
圭一「お前の方が近いじゃないかよ。細かいこと言うなよ」

 園崎の家を出て北条家に嫁いだ私は夫である悟史くんと、その妹である沙都子と3人で北条の家で暮らし始めた。
 そしていづれは沙都子も北条の家を出て自立していくだろう。その後、私は悟史くんと共にこの北条家を守っていくようになるだろう。
 そうなるに違いないと思っていた。

沙都子「はいどうぞ!」
圭一「なんだよ。そんなに乱暴によこすなよ。って、これソースじゃないか」

 そんなある日。突然の事故が起こった。
 前原家が火事になり、圭一たち一家が焼け出されたのだ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:00:37.59 ID:/lD+8mTR0

 前原家は全焼。見る影も無く焼け落ちた。あの前原屋敷があった土地は今じゃ黒い陰を残したまま更地になっている。
 火災後しばらくは興宮で宿暮らしを続けていた前原一家だったが、火災保険で得た資金で前原家は元いた東京に帰ることになった。
 しかし興宮で職に就いていた圭一は東京へ帰らないと言い、圭一が一人前の大人になったと認めた彼の両親は圭一を鹿骨市に残したまま2人で東京へ引っ越してしまった。

圭一「そうだ。今日給料日だから、家賃払わないといけないんだったぜ」

 何故こうなってしまったのだろう。
 前原圭一は今、我が北条家に家賃を払いながら居候しているのだ。

レナ「そうだ。山菜のお漬物を作って冷蔵庫に入れたままだった。ちょっと待っててね。取ってくるから」
魅音「あ、いいよいいよ。レナは座ってて。私がとってくるからさ」

羽入「レナのお漬物はとってもおいしいから楽しみなのですよ!」
梨花「私もコツを教えてもらいたいわ」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:05:07.02 ID:/lD+8mTR0

 不幸なことというのは一度起こると、往々にして重なるものだ。
 前原家が火災に遭い全焼した1週間後、比較的大きな地震が鹿骨市一帯を襲った。その揺れで、竜宮家が倒壊したのだ。
 ちょうどその時、幸いにも竜宮一家は興宮へ出かけていたため被害者はいなかったものの、家は完全に崩れて人の住める状態ではなくなってしまっていた。

魅音「へっへっへ。お漬物をとりに行ったらこんなん見つけちゃった」
羽入「あうあうあう! それは僕が食後に食べようと思って隠しておいたシュークリーム!」
魅音「いっぱいあるんだからさ。ひとりで食べるなんて言わないで、皆でデザートに分けようよ!」

梨花「朝っぱらからシュークリーム? よくそんな物食べられるわね」
羽入「ひどいのです魅音!」
レナ「魅ぃちゃん、戸棚にみかんがあるから、それをデザートにすればいいじゃない」

 何故か分からない。
 気づくと、私の知らない間に人の好い悟史くんがレナさんにも我が家の一角を貸し与えていた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:09:37.52 ID:/lD+8mTR0

 泣きっ面に蜂というべきか、2度あることは3度あるというべきか。悪いことはさらに重なった。
 雛見沢の中心ともいえる古手神社に突然、隕石が落下したのだ。
 さすがに宇宙からの飛来物まではオヤシロ様も干渉できなかったのだろうか。
 その日、雛見沢村から古手神社という歴史ある建築物が消滅したのだった。

圭一「ふ〜、食った食った。ちょっとトイレに行ってくるぜ」
沙都子「もう、はしたないですわね!」
悟史「あはは」

 かつて梨花ちゃまと寝食を共にした沙都子が親友を見捨てるわけがない。
 こうして晴れて古手梨花、羽入の2人も北条家に居候することとなったわけだ。

詩音「………」
悟史「どうしたんだい、詩音。何かあったの?」
詩音「……別に。なんでもないです」

 お世辞にも乙女とは言えない生き方をしてきた私だけれど。この北条詩音だって、新婚生活というものに人並みの夢を持っていた。
 裸にエプロンで卵焼きを焼いて、照れる悟史くんに 「むぅ」って言ってほしかった。
 狭い机に並び腕をからめて、あーんってやりたかった。悟史くんのネクタイを結んであげて、頭を撫でてもらいたかった。

 なのに……。
 なんだこれ。これじゃ磯野家の食卓じゃないか。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:14:14.31 ID:/lD+8mTR0

魅音「ねえ詩音、あんたもみかんよりシュークリームの方がいいでしょ? ね?」
羽入「あうあうあう!」
詩音「別に」

詩音「みかんでもシュークリームでもどっちでもいいですけど。食事が終わったら食器を持ってきてくださいね。洗っちゃいますから」
レナ「あ、詩ぃちゃん、食器なら私が洗うよ。悟史くんもそろそろ準備しないといけないでしょ」
詩音「お気遣いありがとです。食器は私が洗いますので、レナさんは食卓の後片付けをお願いできます?」
レナ「あ、うん……」

悟史「詩音?」
詩音「………」

圭一「あー、出た出た! すっげぇ出た! 今日もお通じ快調だぜ!」

圭一「俺の超ホットな便所占いによれば、今日の俺の運勢は大吉だな!」

圭一「ウンだけに運がいい! がはははは!」
沙都子「お下品な報告はいりませんわよ!」

悟史「あ、待って、詩音?」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:18:55.88 ID:/lD+8mTR0

悟史「どうしたんだい詩音。なんだか不機嫌そうに見えるけど……むぅ」
詩音「別に不機嫌なんかじゃないですよ。いつものことですから」
悟史「そうは見えないけどな」

詩音「慣れてるつもりだったんだけどなぁ」
悟史「え、なにが?」
詩音「悟史くんとふたりきりじゃないことに」
悟史「ああ……でも、仕方ないよ」

詩音(仕方ない、か)

詩音(確かに仕方ないことかもしれないけど。でも……)

詩音「今日はいつもより悟史くんとベタベタしてたかったから、久しぶりにイラついてしまっただけですよ。ただそれだけのことです」
悟史「やっぱり詩音はいやなのかな。新婚なのにふたりきりの時間が持てないこと」
詩音「いやじゃないですよ。みんなは昔から仲のいい家族のようなものでしたし。でも、たまにそれが煩わしくなることもあるんです」
悟史「むぅ……」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:25:03.13 ID:/lD+8mTR0

羽入「あうあう! 魅音が僕のシュークリームを食べちゃったのです! ひどいのです!」
梨花「シュークリームの1個くらいで騒がないでよ。ほら、早くお皿を持ってきて。片付けくらい手伝いなさい」」
魅音「なにも泣くことないじゃないのさ。分かったよ、今日エンジェルモートのジャンボシューを買ってきてあげるから!」
羽入「絶対なのですよ!」

レナ「圭一くん、もうこんな時間だよ! 急がないと仕事に遅れちゃう!」
圭一「ホントだ! やべっ、後のことは任せるぜ!」

圭一「沙都子、すまん。今日も車乗せてくれ!」
沙都子「しょうがないですわね」

沙都子「圭一さん、収録は何時からですの?」
圭一「えと、今日は興宮珍品ツアー1本だから8時から」
沙都子「今から出て間に合いますの!?」
圭一「ギリギリ間に合うはずだ! 大丈夫だよ、今日の俺は大吉だからな!」
沙都子「まったく。お笑い芸人だからって、車の免許くらい持ってるのが普通ですわよ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:29:31.94 ID:/lD+8mTR0

 いつも朝はこんな感じだ。みんなが慌しく朝食を済ませ、バタバタと家の中を駆け回って、各々身支度を整えて仕事へ出発する。
 まず一番に出て行くのは圭一だ。マイナーな興宮芸人とはいえ、若手でありながらラジオのレギュラーを1本もっていることは将来有望な証だろう。
 そして車の免許を持っていない圭一を送り、その足で興宮の会社へ直行するのはOLの沙都子だ。お茶汲みとコピーばかりさせられているとよく文句を言っているっけ。
 次に家を出るのが悟史くんとレナさん。悟史くんはサラリーマンでレナさんは食品関係の会社へ勤めている。

 最後に家を出るのがお姉、梨花ちゃま、羽入さんだ。
 この3人は少々特殊な仕事をしている。なんせ雛見沢を支える園崎家党首と古手神社の巫女なのだ。

 隕石の墜落を受けて壊滅した古手神社は、今は祭具殿の前にプレハブの仮設神社を設けて臨時稼業している。神社は鋭意再建中だから、完成までの辛抱だ。

 ここまでの人たちは百歩譲って何故うちに居候しているのかが理解できる。各々が自宅を無くし、行くあてもなくうちに居候しているだ。
 一番理解できないのがお姉だ。園崎本家も興宮の実家も健在であるにもかかわらず、何故に新婚の妹宅に家賃を払ってまで住み込んでいるのか。

 答えはひとつ。みんな一緒に住んでいるのが羨ましいから、だそうだ。バカバカしい……。
 いくら鬼婆さまが老衰で興宮の実家に移り住んで一人になったからって、本家を空けて妹の家に住み着くなんて。何を考えてるんだ……。
 相手が相手なら、悪質な嫌がらせじゃないか。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:36:46.47 ID:/lD+8mTR0

 悟史くんを無事送り出し、お姉や梨花ちゃまたちが家を出た後、ようやく私はひと息つける。
 慌しい時間が過ぎ去り、寂しいくらい静まり返った家の中で、テレビをつけてやおら掃除機を取り出す。

詩音「ふぅ。ようやく今日の朝も終わりましたね」

詩音「あ〜、いつまでこんなことが続くんだろ。いつになったら悟史くんとふたりきりの夫婦らしい時間が持てるようになるんだろ」

詩音「……別に今の状況がいやなわけでもないけど。賑やかで、気の置けないみんなとわいわい楽しく暮らすのもいいけど」

詩音「ここは北条家で、新婚夫婦が住んでる家のはずなのに……」

詩音「はぁ……」

詩音「あ、テレビに圭ちゃんが映ってる。収録に間に合ったみたいですね」

詩音「似合わない蝶ネクタイなんて着けちゃって。お姉も今頃本家で観てるのかな?」

圭一『あつ、あっつぅぅぅ! ちょwwwやめwwwww』

詩音「あはは。熱々のおでんでもだえるなんて、デフォすぎますよ」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:41:34.22 ID:/lD+8mTR0


 〜12:00 興宮〜

沙都子「だから、おでんであのリアクションはベタすぎですわよ。もっと斬新なリアクションをとらないと未来はないですわよ!」
圭一「分かってないな、沙都子は。昔から親しまれてきたリアクションってのはな、一種の伝統芸能なんだよ。お約束なんだよ」

圭一「その万人に受け入れられるリアクションを、どう自分なりにアレンジできるかで芸人の質が決まってくるんだよ。俺はアナログの中にもオリジナリティを求める新世代の芸人を目指しているのであってだな」
レナ「そうだよね。熱々おでんを口に入れたままサライを歌いつつ3べん回ってワンて言うなんて。圭一くんにしかできない芸だと思うよ、思うよ」
圭一「レナは分かってるじゃねぇか! そういうことだよ! 俺独自のムーブがあの数秒の中に凝縮されてるわけよ!」

沙都子「すいません、塩ラーメンと味噌ラーメンと、あとおでんをお願いしますわ」
給仕「かしこまりました」

圭一「おいちょっと待て沙都子。誰もおでんなんて頼んでないだろ」
沙都子「ほほほ。そこまで言うなら、この場で見せてもらおうじゃありませんの。圭一さんのオリジナリティとやらを!」
圭一「あれは仕事でやってんだよ! なんでプライベートの昼食でまで身体張った芸しなきゃならないんだよ!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:46:56.45 ID:/lD+8mTR0

 〜13:00 園崎本家〜

羽入「ごちそうさま、なのです」
梨花「ごちそうさまです」

魅音「悪いね、梨花ちゃん、羽入。いつもお昼作ってもらっちゃって」
梨花「いつも昼食にお邪魔してるんだから、これくらいの手伝いは当然よ」

羽入「魅音、忘れてないですよね。今日はエンジェルモートのジャンボシューを買ってくる約束なのですよ!」
梨花「さっきお昼を食べ終わったばっかりでしょ。シュークリームのことなんて後でいいじゃない」
羽入「よくないのです! 魅音が忘れてしまわないように、気がついた時に念を押しておくべきなのです!」
魅音「たはは。まいったね」

羽入「あ、テレビに圭一が映ってるのですよ! またいつもの芸をやってるのです」
梨花「本当だ。懲りずに同じモノマネばっかり。まあ、だんだん上達はしてるけど」
魅音「まったく。だいぶ板についてきたよね。圭ちゃんの松田優作のモノマネも」

圭一『なんじゃこりゃああぁぁぁ!?』

梨花「でも、なんで松田優作なのかしら」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:51:20.13 ID:/lD+8mTR0

 〜13:40 北条家〜

詩音「というわけなのよ。どう思う!? ひどくないですか!? まだ私たちは花も恥らう新婚夫婦なんですよ!?」
葛西「詩音さんの言い分も分かりますよ。新婚時代というのは夫婦にとってデリケートな時期ですからね」
詩音「おぉおぉ、花の独身貴族が言いますねぇ」

葛西「しかし、詩音さんと悟史さん夫婦がつれそって行くのは、これから先ずっとです」

葛西「50年、60年。それ以上。長い年月を共に過ごすことになるんですよ」

葛西「しかし気心の知れた仲間たちと賑やかに過ごせるのは今だけです。ひょっとすると、来年の今頃にはみんなバラバラになっているかもしれません」
詩音「………」

葛西「悟史さんと過ごす時間は永遠のように長い時間ですが、皆さんと共有できる時間は有限です。今の時間を大事することも大切と思いますが」
詩音「分かってるけどさ……」

詩音「ちぇっ。葛西に相談した私がバカでございましたよ!」
葛西「ははは。困ったことがあれば、いつでも相談してくださって結構ですよ」

 ぴんぽーん

詩音「ん? 郵便かな? ねえ葛西、受け取ってきてよ。あたしゃ動くのが面倒になりましたよ」
葛西「まったく。仕方ないですね」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:56:45.44 ID:/lD+8mTR0

葛西「………」

詩音「ん? どしたの葛西? 何か深刻そうな顔しちゃってるじゃん」

葛西「え? あ、いえ。なんでもありません。詩音さんにお手紙が届いておりますよ」
詩音「ん〜?」

詩音「ねえ葛西、届いた手紙ってこれだけ? 他にもあるんじゃない?」
葛西「……いえ。それだけです」
詩音「怪しい。なにか隠してるでしょ!」
葛西「何も隠してなどおりません」

詩音「………本当に?」
葛西「………」

詩音「ま、いいや。葛西が下心からうちの物に手を出すなんて考えられないし」

詩音「請求書とかだったら私の許可なく持って帰ってくれてもいいですよ。もち、葛西が払ってくれるなら」
葛西「詩音さんもずいぶんたくましくなりましたね」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 22:59:27.84 ID:/lD+8mTR0

詩音「あたしゃこれから晩御飯の買出しに行ってきます」

詩音「葛西、帰るときには鍵をかけてから帰ってね」
葛西「分かりました」

 ばたん

葛西「………」

葛西「……ふぅ」

葛西「参ったな。つい隠してしまったけれど。こんな時期に、こんな手紙が届くなんて……」

葛西「服役していた北条鉄平が出所、か」

葛西「間宮律子が組の金を着服して蒸発した以上、鉄平が帰ってくる場所は……」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:03:29.53 ID:/lD+8mTR0

 〜19:30 北条家〜

「いただきます!」

圭一「おっ、今日は野菜炒めか。うまそう!」
詩音「新鮮なお野菜をおすそわけしてもらったんで、たくさん作ったんですよ。たくさん食べてくださいね」
沙都子「うぅ……なんでカボチャまで入ってるんですの……」
詩音「それは沙都子用の特製ですから!」

魅音「みんなみんな〜! 今日は朝にも言ってたとおり、エンジェルモートのジャンボシューを買ってきたよ!」

魅音「羽入の分だけじゃなくて全員分あるからね! たくさん食べてね!」
羽入「はうあう、テンション上がってくるのです!」
梨花「落ち着いて食べなさいな。ほら、よくかんで食べるのよ」

レナ「やっぱり詩ぃちゃんもお料理うまいね。とってもおいしいよ」
詩音「さんきゅです。誰かさんのためにだいぶ特訓しましたので。その成果が出てきたってことですかね」

詩音「ね、誰かさん?」
悟史「ん? なに?」
詩音「聞いてなかったんですか!?」
悟史「むぅ……ごめん」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:08:45.95 ID:/lD+8mTR0

沙都子「そろそろじゃありませんこと? 圭一さんの番組」
レナ「ほんとだ。じゃラジオつけようか」

圭一『前原圭一のスーパーお笑いナイト!』

沙都子「何度聞いてもネーミングセンスのかけらもない番組名ですわね」
圭一「うるせぇな、俺がつけたんじゃねぇよ。ディレクターがだな」
梨花「みー。でも、圭一は前に気に入っているって言ってたじゃないですか」
圭一「ま、まあ……毎週毎週言ってたら愛着もわいてくるってもんだよ」

圭一『1週間のご無沙汰だったね、愛しのBABYたち! オレだよオレオレ、オレ前原圭一!』

魅音「毎週同じこと言ってるよね。たまには違う入り方したら?」
梨花「たまには趣向を変えないと飽きられるわよ。放送開始当時からずっと同じセリフじゃない」
圭一「だから原稿にそう書いてあるんだから仕方ないだろ!? ディレクターと作家が気にいってるんだよ、この入り」

悟史「でも圭一も気にいってるんだよね?」
圭一「う、うむ……まあな」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:14:17.89 ID:/lD+8mTR0

魅音「それじゃ、はいはい! ちゃっちゃと机どけてね」
レナ「イスはこっちにね」
羽入「あうあう。月に1度のお楽しみなのです!」

梨花「準備ととのったわよ」
沙都子「それじゃ、早速はじめましてよ。圭一さん、ブツは用意できてまして?」
圭一「お、おう……」

圭一「それじゃ、これ。はい。今月分の家賃」
悟史「はい。確かに受け取ったよ」
詩音「悟史くん、ちゃんと数えないと」

悟史「いいじゃないか。圭一は家賃をごまかしたりする人じゃないよ」
圭一「そうだぜ! 痩せても枯れてもこの前原圭一、居候として家賃をごまかすなんてケチな真似は絶対にしないぜ! 詩音、お前俺を疑ってるのか!?」
詩音「ええ。疑っていますよ」

詩音「ほら。やっぱり、思ったとおり。千円札が1枚多かったですよ。これは消費税ということで家賃に含めさせてもらって良いんですか?」
圭一「すいませんごめんなさい。俺が間違ってました」
詩音「分かればよろしい」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:17:15.94 ID:/lD+8mTR0

 月に1度の家賃お支払い会が終了する。その後はまた机とイスを居間の中央に出してきて、みんなそろっての四方山話が始まるのだった。
 今日はお姉の買ってきたジャンボシューを食べながら、いつものように騒がしいくらい我先に各自が1日にあった出来事をまくしたてていく。
 一番しゃべっているのは圭一。これはもう毎度のことだ。そこへ沙都子が茶々を入れて話をかき混ぜる。
 話が紛糾してきたらお姉が仲裁に入るし、レナさんだって黙っていない。時にはかぁいいモードを発動させてさらに事態をややこしくもする。
 それを傍から見守っているのは梨花ちゃまとスイーツに夢中になっている羽入だ。
 騒がしい騒がしいと思いつつ、それでもやっぱり私と悟史くんも騒ぎの輪の中に入っていってしまう。

 だってそれが、家族っていうものだから。

 なんだかんだ言ったって。やっぱり暖かい。そう思う。純粋に。

 葛西が言ってたっけ。夫婦の仲は永遠でも、そうでない仲は有限だ、と。
 今は。この瞬間は。この家族たちとの仲も永遠だったらいいのに、と思えるのに。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:20:47.52 ID:/lD+8mTR0

 〜22:00 北条家寝室〜

詩音「今日もお疲れ様」
悟史「そうでもないよ。晩御飯を食べたら疲れも何もかも全部ふっとんだみたいだ」
詩音「まあ、あれだけ騒げば肩の凝りも飛んでっちゃうかもしれませんね」
悟史「そうだね」

悟史「ねえ、詩音」
詩音「ん?」
悟史「おいしかったよ。野菜炒め」
詩音「………」

詩音「今さらそれを言いますか」
悟史「むぅ。みんなの前じゃ言いづらいじゃないか」

詩音「しょうがない人ですね」

詩音「あなたのそんなところも好きなんですけど」
悟史「むぅ……」
詩音「ねぇ」

詩音「そっち行ってもいい?」
悟史「いいよ」

詩音「電気、消しますね……」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:24:57.35 ID:/lD+8mTR0

 〜23:00 北条家玄関前〜

レナ「こんな時間にどうしたんですか?」
葛西「夜分遅くにすいません」
圭一「何かあったんですか?」

羽入「僕はもう眠いのです……ふわぁ……」
梨花「我慢しなさい」

魅音「で、どうしたんですか葛西さん。北条家の3人抜きで話って」
葛西「……ええ」

葛西「単刀直入に言いましょう。今日の昼刻、私が北条家へお邪魔したときこのような手紙を受け取りました」
魅音「手紙? 手紙って、何の?」

魅音「ええと、なになに……?」

魅音「……!? これって!」
葛西「思わず懐にしのべてしまったので詩音さんには見せておりません。悟史さん、沙都子さんにも知らせていません」
魅音「なんてこと……」

圭一「おいおい、なんだよ。どういうことだ。その手紙に何が書いてあるんだよ?」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:29:25.65 ID:/lD+8mTR0

魅音「務所に入っていた北条鉄平が、出所してくるんだって。来週に」
梨花「……!?」
レナ「北条、鉄平? 確か……ひょっとして、あの!?」
葛西「声が大きいです。詩音さんたちに聞こえます」
レナ「あ、ご、ごめんなさい……」

圭一「鉄平っていやぁ、昔ここへ帰ってきてさんざん沙都子をいじめて逮捕されたクソ野郎だよな?」
魅音「そう。圭ちゃんを中心にみんなが一致団結して刑務所送りにしてやったクズさ」
羽入「なんてこと……」

葛西「北条鉄平が帰ってくる場所はここしかありません。いつまでも隠し通せることではありませんが、それでもまずは皆さんにお知らせしておこうと思った次第です」
梨花「忘れていたわ。完全に。あの男の存在を」

魅音「ど、どうしよう!?」
レナ「どうしようって言っても、私たちにどうこうできる問題じゃないし……」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:33:08.49 ID:/lD+8mTR0

沙都子「おじ様が、帰ってこられるんですわね」

圭一「さ、沙都子!?」
梨花「聞いてたの?」
沙都子「ええ。悪いとは思いましたけど、ついつい聞き耳を立ててしまいましたわ」
魅音「沙都子……」

沙都子「ほほ、良かったじゃありませんの。おじ様もようやく罪を償って刑務所から出てこられるわけですから。おめでたいことですわ」

沙都子「ご馳走を作ってお出迎えしてあげないといけませんわね」
魅音「もういいんだよ沙都子。昔みたいに強がらなくても。嫌いなんでしょ、あの叔父が!」

魅音「だったら、園崎組の意地にかけてでもあいつを雛見沢へ近づけないから!」

魅音「私たちがあんたを守ってやるから!」
沙都子「それはいけませんわ」
圭一「どうして!?」

レナ「だって。北条鉄平にとって、帰ることができる場所は、ここだけだから」
梨花「レナ……」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:37:45.80 ID:/lD+8mTR0

沙都子「レナさんの言うとおりですわ。おじ様がどんな人間であれ、それは関係ない」

沙都子「おじ様にとって唯一帰ることが許される居場所は、ここだけなんですもの」

沙都子「刑務所の壁の向こうで辛い思いをして、ようやく出てくることのできたおじ様から居場所を奪い取るなんて、できるわけがないですわ」

詩音「それに、昔と今じゃ状況が違う。沙都子も悟史くんももう子どもじゃない。あの男の被保護者じゃないの」
魅音「し、詩音!? それに、悟史も」

悟史「僕と詩音に内緒でそんな大事な話を進められたら困るな」
葛西「すいません」
詩音「まったく。葛西? いつまで私を子ども扱いしてるつもりなんです?」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:41:06.04 ID:/lD+8mTR0

梨花「それじゃ、沙都子も悟史も詩音も、叔父が帰ってきたら同じ家に住まわせるつもりなの?」
悟史「叔父さんも、他に行くところはないんだし。放り出すようなまねはできないよ」
詩音「私は本当は嫌なんですけどね。でも、旦那がこう言うんじゃ仕方ないでしょ」

詩音「夫をたてる出来た妻。私はそういう女なんですよ」

圭一「悟史たちがそう判断したんなら、居候の俺たちがとやかく言う筋合いはないよな」
魅音「うん、まぁね」

レナ「みんな、悪い方にばかり考えることはないよ」
沙都子「そうですわ。叔父さまも刑務所に入って、人が変わって帰ってくるかもしれないじゃないですの」
羽入「その可能性がないわけじゃありませんけど……あぅ」

詩音「とにかく。なるようになりますよ。なるようにしかなりません」

沙都子「来週。1週間後には答えがでていますわ……」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:43:27.99 ID:/lD+8mTR0

 〜1週間後 北条家〜

詩音「………」
魅音「なんだか落ち着かないね」
レナ「まあまあ。そう緊張せずに悟史くんたちが帰ってくるのを待っていようよ」

圭一「悟史と沙都子が刑務所へ迎えにいってからだいぶ経つぞ。まだ帰ってこないのかな」
羽入「きっと積もる話でもしているのですよ」
梨花「料理の準備もできてるっていうのに」

富田「こんばんは、富田豆腐店です。豆腐届けにきました」

羽入「豆腐もきたのです。早く夕食にありつきたいのですよ」
梨花「みんなそろうまで待っていなさい」

レナ「あ! 車のエンジンが聞こえてきた。帰ってきたみたいだよ、だよ!」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:45:51.42 ID:/lD+8mTR0

悟史「ただいま。遅れてごめんね。晩御飯、まだ食べてなかった?」
魅音「当たり前じゃない。悟史と沙都子をおいて先に夕食を食べたりなんてするわけないじゃない!」

鉄平「………」

詩音(……北条鉄平……!)

鉄平「なんじゃ。こんガキどもは。いつの間にうちはジャリどもの集会所になったんね」
悟史「そんなんじゃありませんよ。みんなうちの家族ですよ」
鉄平「わしの留守の間に勝手なことしくさってからに! しょうもないわ!」

鉄平「おう悟史、沙都子、そいつらからしっかり家賃もろうとるんやろね?」

鉄平「長いことまっとうな生活送ってたら、疲れたわ。わしはもう寝るんね。沙都子、後で上の部屋に飯持ってこんね」
悟史「あの、叔父さん。せっかくですし、僕たちと一緒に晩御飯を食べませんか?」

悟史「ほら、古手神社の梨花ちゃん。ご存知でしょ? 彼女が夕食を作ってくれたんですよ」
鉄平「じゃかしいわ! わしは沙都子にもの言うとんじゃボケ。余計なこたぁ言わんでええんよ」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:48:59.43 ID:/lD+8mTR0

悟史「あ、待って、叔父さん!」
詩音「いいよ悟史くん。好きにさせておけば」
魅音「何よあの態度! せっかく出所してきたんだから過去のことは水に流して祝ってやろうとしてたのに!」

沙都子「おじ様は刑務所から出てきたばかりで戸惑っているだけですわよ。今の世間に慣れてくれば理解を示してくれるようにもなりますわ」
レナ「沙都子ちゃんの言うとおりだと思うな。きっと叔父さんも照れてるんだよ。昔のこともあるし。素直になれないだけなんだと思うよ」

詩音「悟史くんの前だけど。それでも私はあいつのこと気に食わないわ」
魅音「同感だね。だいたいさ。昔、沙都子にそうとうな虐待をしてきた奴じゃん。いくら出所したてとは言え、もっとしおらしくしておくのが筋ってもんでしょ」

梨花「もういいわ。みんな、晩御飯にしましょう。遅い時間になっちゃったし、おなか空いたでしょ?」
羽入「あうあう! 僕はもうおなかペコペコなのです!」
梨花「ひとりだけシュークリーム食べてたくせに」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:51:28.45 ID:/lD+8mTR0


 〜北条家 2階〜

沙都子「おじ様? 夕食を持ってきましたわよ」

鉄平「……おう。そこに置いといてぇな」

沙都子「………」
鉄平「………」

鉄平「なんね。まだ何か用かいね?」
沙都子「い、いえ。別に……お疲れかな、と思って……」
鉄平「お疲れやんね。おう、酒の1杯でもやりたい気分や」
沙都子「そう言うと思って。はい」
鉄平「………えらい気ぃきくやんけ」

鉄平「ならもう用はないわ」
沙都子「………」

鉄平「あん?」
沙都子「いえ……おやすみなさい……」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:53:50.28 ID:/lD+8mTR0

鉄平「………」

鉄平「待たんね」
沙都子「はい?」

鉄平「お前がガキじゃったころ、わしらは……まあ、いろいろあったわけやけど」

鉄平「わしが家に帰ってきて……その、なんで迎え入れたんや」
沙都子「え?」
鉄平「……わしのこと嫌ぅとったやろ。お前。下におった園崎のガキどもも」
沙都子「えと……」

沙都子「正直に言えば、そうですわね。おじ様のことを好ましくは思っていませんでしたわ」
鉄平「………」
沙都子「でも……ね」

沙都子「おじ様が帰ってきて良い場所は、ここにあるじゃないですの」
鉄平「……どういうこっちゃ」
沙都子「家族じゃありませんの」
鉄平「………」

鉄平「……もうええわ。はよ下に行け」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/20(金) 23:57:06.69 ID:/lD+8mTR0

魅音「沙都子、無事だった!? 何もされなかった!?」
レナ「おもちかえりされたりしなかった!?」
沙都子「どうしたんですの、みなさん? 階段の下に集まったりして?」

沙都子「やだ圭一さん、なんで金属バットなんて持っているんですの!?」
圭一「いや、沙都子の悲鳴が聞こえたら問答無用で救出に行こうかと」
悟史「今の叔父さんは昔みたいに酷いことはしないって止めたんだけどね」

詩音「大丈夫だった沙都子!? あの男、もし沙都子に傷のひとつでもつけたらスタンガンの刑にしてやる!」
梨花「いいからみんな、食卓にもどったら?」

沙都子「そうですわよ。皆さん、食事に戻りましょう」

沙都子「当分おじ様のことはそっとしておいてあげてくださいまし」
詩音「まあ、沙都子がそう言うんなら」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:01:23.33 ID:WJZmKY/80

 〜数日後〜

葛西「どうですか詩音さん。北条鉄平の様子は」
詩音「最悪」

詩音「今朝沙都子が鉄平を朝食に呼びに行ったんだけど、家中に響き渡るような声で沙都子を怒鳴りつけてね」

詩音「じゃかましいわ、こんガキ!って」

詩音「私は悟史くんが止めなかったら包丁とフライパン持って2階へ駆け上がって行ってましたよ」

詩音「まったく。ただでさえ居候が多いっていうのに、あんな前科者まで住み始めて。あたしゃ胃に穴があきそうだよ」
葛西「ははは。詩音さんの胃に穴があくのは、他の皆さんの胃が潰れてしまってからでしょうね」
詩音「それどういう意味よ」

詩音「結局あの男、昼前にごそごそ起き出してきたかと思うと、小銭をせびってパチンコに出かけていったわ」

詩音「このまま帰って来なきゃいいのに……」
葛西「そんな言い方もないもんです」
詩音「だいたい沙都子も悟史くんも甘いのよ。あんなゴロツキ、さっさと追い出しちゃえばいいのに。私に任せてくれれば1500秒で全て解決よ」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:06:13.02 ID:WJZmKY/80

圭一「分かるか? 俺なら、ものの1500秒で解決できるんだぞ! こんなの準備運動にもならないぜ!」
沙都子「能書きはいいですから、やれるものならやってごらんなさいませ」
圭一「ここをだな、こうやってだな……もっと、そう、デリケートにだな……」
レナ「この知恵の輪を外してないの、もう圭一くんだけだよ。時間切れになったら罰ゲーム決定だよ、だよ」

圭一「うっきぃぃぃ! ここ、この前原圭一さまに歯向かうとは、ふてぇ輪っかだぜ!」
沙都子「をーほっほっほ! バナナを取ろうと必死にもがくチンパンジーみたいで、とても滑稽な姿でしてよ!」

沙都子「あら?」
レナ「どうしたの沙都子ちゃん?」
沙都子「あそこにいるのって……ほら、あの本屋の横の」
レナ「あそこ? あれは、沙都子ちゃんの叔父さん。興宮で何やってるだろう。きょろきょろして何か探してるみたいだけど」
沙都子「パチンコ店か雀荘でも探しているんじゃありませんこと?」

圭一「は、はずれた! はずれたぞ、おい! 制限時間に間に合った!」
沙都子「はずれてないじゃありませんの。すぐにバレる嘘はみっともないですわよ」
圭一「嘘じゃないって。これは、その……はずれたんだけど、もういいだろうと思ってすぐ嵌め直したんだよ。本当ははずれてたんだ」
レナ「私たちが店の外を眺めている間に?」
圭一「そ、そうそう!」
レナ「嘘だッ!」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:10:31.46 ID:WJZmKY/80

沙都子「を〜ほっほっほ! これでここの食事は圭一さんのおごり決定でしてよ!」
圭一「ちくしょー! あと少しで絶対にはずせたのに!」
レナ「あはは。惜しかったね圭一くん。はい、これ伝票」
圭一「くそぉ、軽い昼食のつもりだったのになぁ……って、なんでお前らパフェ3杯も食べてるんだよ。食いすぎだろ!」
レナ「甘い物は別腹なんだよ!」

沙都子「じゃ、わたくしは一足お先に外へ出てますので。後のことはよろしくですわ」
圭一「……くっ、レ、レナ、すまん。1000円貸してくれないか……」
レナ「仕方ないなぁ」

 〜ファミレス 店外〜

沙都子「………」

沙都子「どこに行ったのかしら」

沙都子「たしか、こっちへ向かったはずなのに」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:13:46.55 ID:WJZmKY/80

沙都子「いましたわ。おじ様。あんなところで何をしてるんでしょう」 コソコソ

沙都子「普段着ないようなジャケットを着て」

沙都子「いくら数年ぶりとはいえ、興宮の地理くらい熟知してるでしょうに」

沙都子「あら? さっきからおじ様が右往左往してるのは……」

鉄平「ちっ。どうも緊張するわ……」

沙都子「職業安定所?」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:16:47.40 ID:WJZmKY/80

圭一「おう、沙都子。待たせたな」
レナ「どうかしたの沙都子ちゃん? 電柱の陰になんて隠れて」
圭一「お前が電柱の裏になんて隠れられるわけないだろ。思い切りはみ出てるぜ」
沙都子「余計なお世話ですわ!」

沙都子(あっ、見失った……。おじ様は結局、職業安定所に入ったのかしら……)

圭一「沙都子、そろそろ俺次の収録があるから。送ってくれないか?」
沙都子「今日はせっかくのお休みなのに。圭一さんの運転手にさせられるなんて。ついてませんわ」
圭一「いいじゃないか。昼もおごってやっただろ。かたいこと言うなよ」

レナ「それじゃ、私は会社に戻るから。圭一くん、お昼ありがとう」
圭一「ああ。それじゃな」

圭一「……ああ、懐が……」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:20:01.95 ID:WJZmKY/80

 〜収録現場〜

沙都子「どうせ休みなんだし、たまには圭一さんが普段どんなことをやっているのか仕事ぶりを見にきたのですが……」

圭一「ディレクター、こうですか!?」
PD「違う違う! こうだ! もっと腰のひねりをシャープに研ぎ澄まして、くいっと! こう!」
圭一「こうっすか!」 くいっ

圭一「いろはにおえど散りぬるを!いやんバカンつねならぬ!ウイリーウインキー今日も行き、やらしい夢見て夢精する!」

圭一「はい、バモスバモステラバモス!」

PD「はいOK! いいよ圭一くん。特にいやんバカンの科が色っぽかったよ。腕を上げたね」
圭一「あーざす!」
PD「しかし、最後の締めが乱暴なんじゃない? ムーヴムーヴムーヴコンテ!の方がスムーズな感じがしていいと思うけどな」
圭一「いえ、俺の芸の信念からいって、語感からくる荒々しさからはVAMOSでしか表現できないんです」
PD「それを言うなら俺も引けないな。俺どっちかと言うとダイハツ派だから。譲歩してもTANTOだな」
圭一「俺はバリバリのホンダ派ですから。譲歩してもZESTまでですよ」

沙都子「………」

沙都子「これが芸人の仕事。大変そうなのは分かるのですが、専門用語とかさっぱり分かりませんわ」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:23:38.94 ID:WJZmKY/80

 〜帰宅途中 車内〜

圭一「今日は久しぶりに熱の入った打ち合わせだったぜ。時間が経つのも忘れてエキサイティングしちまった」
沙都子「芸人ってテレビの前で何も考えていないようなバカなことばかりやっているのかと思っていましたけど、そうでもなかったのですね」
圭一「当たり前だろ。綿密な打ち合わせができてなきゃ、テレビ番組じゃなくたって良質な作品は作れないぜ。俺たちは香港映画を作ってるんじゃないだ」

圭一「俺には夢があるんだよ」
沙都子「夢?」
圭一「ああ。今は東京に住んでる両親にもブラウン管を通して元気な姿を見せられる。そんなビッグな芸人になるんだ、俺は」
沙都子「いい夢ですわね。きっとご両親も圭一さんの勇士をテレビごしに見られて喜びますわよ」
圭一「だからさ。いつかは、俺も東京にもどらないとって思ってる」

圭一「やっぱり、なんだかんだ言っても大都市に出ないと知名度は上がらないからな」
沙都子「……そうなると、圭一さんはうちから出て行ってしまう、ということですわね」
圭一「ああ、そうなるな。でも、大の大人がいつまでも居候してるわけにもいかないだろう」

圭一「それにほら。詩音も悟史も新婚なんだしさ。いつまでも俺たちがいたら、迷惑かけっぱなしなわけだし」
沙都子「……そうですわよね」

圭一「あ、いや、違うぞ。沙都子は別だぜ! 俺はレナや魅音のことを言ったんだぞ!」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:26:23.74 ID:WJZmKY/80

圭一「沙都子は悟史たちの家族じゃないか。俺たちはただの居候。な? 違うんだよ」
沙都子「そうかもしれませんけど。それでも、わたくしは皆さんのことを家族じゃない、なんて思ったことは一度もありませんでしてよ」

沙都子「それだけは覚えておいてくださいませ」

沙都子「いつか皆それぞれ、思い思いの未来へ進んでいくでしょうけれど。それでもわたくしたちは、同じ屋根の下で寝食を共にした家族ですのよ」

沙都子「わたくしはどんなに時間が経ってもそれを忘れたくはないし、そんな大事な思い出に家主だ居候だなんて線引きをしたくありませんの」
圭一「……そうだったな。俺たちは、仲間という名の家族だったんだもんな。ずっと前から。今さら他人だ身内だなんて野暮なこと言ってすまなかった」

沙都子「………その」

沙都子「圭一さんは、いつ頃興宮から離れるかとか、予定は立っているんですの?」
圭一「予定? そんなものねぇよ。さっきの話はあくまで俺の夢だから。まず売れなけりゃ話にならない」

圭一「自分で自分の腕が認められるようになるまでは、興宮で芸を磨くつもりだ」
沙都子「それまでは、少なくとも離れ離れになる心配はないってことですわね」

沙都子「圭一さんの腕じゃ、退職までずっと興宮でくすぶっている可能性もありですわね。を〜ほっほっほ」
圭一「なんだと!? これでもちったぁ固定の人気があるんだぜ!」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:30:20.47 ID:WJZmKY/80

沙都子「芸人なんて、才能と人脈と運があってこそやっていける茨の道ですわよ。圭一さんごときに芸人の星が目指せまして?」
圭一「言ってくれるじゃねぇか沙都子。俺には人脈はないが、溢れんばかりの才能、そして運もある!」

圭一「今朝も大吉だったしな!」

圭一「俺くらいの男なら、きっかけさえつかめばとんとん拍子の3段ブチ抜きで芸能界のトップをとってやれるさ!」
沙都子「それくらいのこと、元雛見沢分校部活チームの部員なら当然のことですわ」
圭一「言ってくれるじゃねぇか。それじゃ俺が芸能界の重鎮になる頃にはお前は興宮のトップとってるってことか?」
沙都子「そうですわねぇ。鹿骨市の経済くらいは牛耳ってみせましてよ!」
圭一「言ってくれるぜ! しかしお前が言うと不思議とできそうな気がするな」

圭一「そういえばお前、昼にファミレスから出たときに挙動不審になってたよな。あちこち見回して」

圭一「おおかた落ちてる小銭でも見つけたのかと思ったが、誰かを探してるように見えたし。好きな芸能人でも見かけたのか?」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:35:40.21 ID:WJZmKY/80

沙都子「実は、レストランから出たところでおじ様を見かけましたの」
圭一「叔父を? そういえば、あいつ朝、詩音から金をもらってパチンコへ行ったってレナが言ってた」
沙都子「ちょっと目を離した間に見失ってしまったのですが、その時おじ様が入って行ったのは……」
圭一「ん?」

圭一「なんか家の方が騒がしいな」
沙都子「何でしょう? 口喧嘩のようにも聞こえますが……あの声は」
圭一「沙都子の叔父の声!?」

 〜北条家 客間〜

鉄平「ほんまにもぅ、うっさいやっちゃな! わしゃ知らん言うてるやろ!」
詩音「しらばっくれるんじゃないよ! あんた以外にこんなことをする人、うちにはいません!」
悟史「ちょ、ちょっと詩音。落ち着いて……」

圭一「ただいま」

圭一「おい、何かあったのかよ? 表まで聞こえてるぞ」
レナ「実はね。詩ぃちゃんが戸棚の上においてあった1万円札が今朝なくなったんだって」
梨花「それを詩音が、鉄平のしわざだと決めつけて食ってかかっているのです」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:40:46.80 ID:WJZmKY/80

詩音「うちにはね。お金に困っても黙って他人様の金子に手をつけるような輩はひとりだっていないんです」

詩音「確かに品のないのや手癖の悪いの、口が悪いのもいますけど、盗みを働く人はいないんです!」

詩音「あんたは自分のことをどう思っているのか知りませんけれど。誰がどう見たって犯罪者ですよ?」

詩音「壁の向こうで罪を償ってきたかどうか知りませんが、私は認めませんから」

詩音「幼い頃の沙都子と悟史くんの心を追い詰めて好き勝手やって、悟史くんを入院させて沙都子を虐待して逮捕されたようなやつ! 誰が信用するもんか!」
悟史「やめるんだ詩音。それは言いすぎだよ!」
鉄平「やかましいやつじゃの。キャンキャン吠えるのは園崎の血筋か?」
詩音「この……! 上等だよ、こちとらあんたが戸籍上の身内だってだけで吐き気がするんだ! せめて私の視界に入らないよう、今日限りに北条家からたたき出してやる!」
鉄平「やれるもんならやってみぃ! こんはねっかえりが、返り討ちにしてやらぁ!」

羽入「あうあうあう! 詩音も鉄平もやめるのです!」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:45:36.19 ID:WJZmKY/80

レナ「ふたりともやめて! やめてよ!」

梨花「圭一、ボーっとしてないで仲裁して!」
圭一「あ、あぁ……」

圭一「あ、あのさ、詩音。ひとつ聞きたいけど、戸棚にあった1万円って、電気代の請求書と一緒においてあった、札のこと……?」
詩音「そうですよ。それをこの男が!」
鉄平「わしじゃないて何べん言えば分かるんじゃ、こんだらずが!」
詩音「だからあんた以外に犯人が考えられないって言ってるじゃないですか!」
羽入「あわわわわ! 椅子を持ち上げるのはやめるのです! 危ないのです!」

圭一「た、たぶん、その1万円持っていったの、俺だ」

詩音「…………」
鉄平「…………」

圭一「ほら、昨日詩音に言ってただろ。仕事で使う道具買いたいから金を貸してくれって」
詩音「そういえば、言ってましたね」
圭一「いつも通り朝バタバタしてたろ。それで戸棚にあった1万円を……」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:50:19.77 ID:WJZmKY/80

レナ「……圭一くん? まさか、いくら急いでたからって、黙って詩ぃちゃんのお金を持っていくなんて……」
圭一「いやいやいや! いくらなんでもそんなことしねぇよ! ちゃんとメモ帳に詩音あての伝言書いたよ!」

圭一「なぁ、羽入! 俺は今朝、お前に詩音に渡してくれってメモを手渡しただろ!?」
羽入「えへ!?」

羽入「……えと、あの……あうあう」

羽入「ぼ、ぼくはおトイレを我慢してたから、詩音が忙しそうだったから、あうあう………メモを魅音に渡したのです……」
魅音「ふへ!? お、おじさんに!?」

魅音「あ、ああ、あのメモってそういうメモだったの!? おじさん気づかずに電話の横に置いてきたよ」

梨花「あ、電話の横にメモ用紙が置いてあるのです」

詩音「………圭ちゃん?」
圭一「お、おいおい、羽入!?」
羽入「あうあうあう! 魅音、この冷たい空気をなんとかしてほしいのです!」
魅音「ふぇ!? いや、そそ、おじさんにそう言われても……」

鉄平「ケッ! くだらん!」

沙都子「あ、おじ様! 待ってくださいまし!」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:53:11.71 ID:WJZmKY/80

沙都子「はあはあはあ! 待ってください!」

沙都子「おじ様! こんな時間にどこへ行くんですの!?」

沙都子「義姉さんもおじ様が無罪だと分かれば非を認めてくれますわ! だから、一度家に帰りましょう?」
鉄平「もうたくさんじゃ。分かったんよ、おらぁ」
沙都子「え?」

鉄平「わしみたいな根っからのヤクザ者は、どこで何してもあんな目で見られとるっちゅうこっちゃ」

鉄平「面倒起こしとうないから、部屋に引っ込んで出来る限り家の者と関わらんようにしとったが」

鉄平「はみ出し者はどこに行ってもはみ出し者や。あんなくさい茶番家族の中になんぞ混じれるかい」
沙都子「そんなこと……」
鉄平「わしは北条鉄平やない。無頼の鉄や。北条家なんぞ、今日限り縁切ったるわ!」

鉄平「せやから、もうわしのことを叔父て呼ぶな。ええか。虫唾が走るわ」

鉄平「わしゃ死ぬまで野良のヤクザよ。堅気の連中となんぞ暮せるかい。こっちから願い下げじゃボケ」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 00:57:06.03 ID:WJZmKY/80

沙都子「嘘ですわ」
鉄平「ああん?」

沙都子「堅気の連中と暮せないなんて、嘘ですわ。だって、おじ様は興宮の職業安定所に通っていたじゃりませんの」
鉄平「………お前」
沙都子「毎日義姉さんから小銭をもらって興宮へ通っていたんでございましょう?」

沙都子「わたしはパチンコはやらないから存じませんが、小銭程度で毎日朝から夕まで遊ぶことはできないんじゃございませんこと?」

沙都子「おじ様は義姉さんからもらったお金で昼食を買って、職を探していたんじゃありませんの?」
鉄平「………」

鉄平「くだらんこと言うなボケ。わしはもっと金せびろうとしとったのに、あのケチな園崎のガキがしみったれた額しかよこさんかっただけじゃ」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:00:13.20 ID:WJZmKY/80

鉄平「ええか沙都子。わしはもうあの家には戻らん。帰って悟史にそう伝えとけ」
沙都子「どこへ行くんですの? 行くあてでもあるんですの?」
鉄平「お前には関係ないことやボケ。はよ帰らんね」

鉄平「追いかけてくるんやないで! わしゃもう北条やないんや。ええな!」

沙都子「……あっ」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:02:19.23 ID:WJZmKY/80


圭一「おーい、沙都子!」

圭一「沙都子! こんなところにいたのかよ!?」

圭一「いきなり家を飛び出して、どうしたんだよ。みんな心配して探し回ってるんだぜ」
沙都子「あ、圭一さん……」
圭一「大丈夫か、沙都子? 鉄平になにもされなかったか? あいつはどこに行ったんだ?」

沙都子「………わかりませんわ。自分はもう北条の家も、姓も、全てすてるから……もう追いかけてくるなと言い残して……」
圭一「そうか」

沙都子「……おじ様、もう帰ってこないつもりですわ」
圭一「え? そうなのか? じゃあ良かったじゃねぇか」
沙都子「よくありませんわよ!」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:05:18.01 ID:WJZmKY/80

沙都子「わたくしには物心ついた頃から、居場所がありませんでしたわ」

沙都子「母の機嫌が悪くなり始めると決まって父親は違う人になりましたわ。母もいつもわたくしを邪魔者あつかいしていましたわ。事実、わたくしは母の邪魔になっていましたし」
圭一「そんなことは……」

沙都子「どの父親もわたくしをいじめましたわ。母もいつも、父の味方でしたわ。住んでる家は父が変わるたびに引越しましたし、学校だって」

沙都子「唯一変わらないのは兄の悟史だけでしたわ」

沙都子「昔から、わたくしはずっと寂しかった」

沙都子「だから、わたくしは分かるんですの。おじ様の今の心境が」

沙都子「そりゃ、わたくしだって正直に言えばおじ様は苦手ですわ。いくら罪を償ってきたとはいえ、昔のことは簡単に水に流すことなんてできませんもの」

沙都子「おじ様は新しい自分の居場所を探そうと思っていたんですの」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:11:24.88 ID:WJZmKY/80

沙都子「おじ様の孤独な心境を理解していたのに。たとえ1畳でもいい。おじ様がいてもいいと心から思える居場所を教えてあげたかったのに!」
圭一「沙都子……」
沙都子「もう遅いですわ! これじゃ、救いの手を差し伸べられる瞬間をみすみす見逃したようなものですわ!」
圭一「お前が悪いわけじゃないだろ? そんなに自分を責めるなよ」

圭一「ほら、雨が降ってきたぜ。早いところ帰ろう。このままじゃ風邪ひいちまうぞ」
沙都子「………」

沙都子「………気分が、すぐれませんわ」
圭一「おい、大丈夫かよ。気持ち悪いのか?」

沙都子「………ひっく……ぅぅう………」

沙都子「うわああぁぁぁぁぁん!」
圭一「お、おいおい、泣くなよ! まいったな」

圭一「ほら。とりあえず雨宿りしよう。な? バス停まで歩くぞ」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:13:48.35 ID:WJZmKY/80

沙都子「……ぇく……えぐ……」
圭一「もう泣き止めよ。な?」

圭一「困ったな。家からだいぶ離れてきちまったし、明かりもボロい街頭だけじゃな」
沙都子「………」
圭一「だいぶ落ち着いたか?」
沙都子「………お見苦しいところを見せてしまいましたわね」

沙都子「泣いてしまったりして、ごめんなさい」
圭一「あ、いや……泣くことくらい、誰にだってあるしな。ははは……」



沙都子「わたくしも、本当は最初、おじ様と一緒に暮さないといけないのかと思ったとき、気が遠くなるくらい憂鬱になったものですわ」
圭一「だろうな。昔はそうとういじめられてるわけだし」
沙都子「でも、刑務所でいざ顔を会わせてみると、違ったんですの」

沙都子「力が抜けているというか、乱暴な雰囲気が消えているというか。とにかく、別人のように見えたんですの。あの粗野だったおじ様が」

沙都子「だから、わたくし思ったんですの。ああ、この人は本当に刑務所で罪を償ってくれたんだなって」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:21:12.97 ID:WJZmKY/80

 〜3ヵ月後〜

魅音「おはよ……」
詩音「おはようございます。って、なんですかお姉。そのだらしない顔。顔を洗ってきてください」

レナ「ご飯できたよ〜。みんな起きてきてるかな、かな?」
圭一「ふぁああぁぁぁ! 眠い!」
梨花「ちょうど過ごしやすい季節になったから、みんな朝が弱くなっているのね」

悟史「テーブルふけたよ」
羽入「お茶もいれたのですよ。あとは皆そろって席につくだけなのです!」

レナ「あれ? 沙都子ちゃんは? まだ起きてきてない?」
魅音「ありゃ。本当だ。珍しいね。いつもはおじさんより先に起きてるのに」
圭一「そりゃお前が遅いだけだよ」

圭一「俺ちょっと呼びに行って来る」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:24:11.74 ID:WJZmKY/80

 〜10分後〜

羽入「おそい! おそいのです!」
梨花「本当に。沙都子も圭一もなにをしてるのかしら」
羽入「僕はもうおなかぺこぺこなのです! 食べたいのです!」
レナ「まあまあ、もうちょっと待ってみようよ」
悟史「僕が様子を見てくるよ」

沙都子「おほほほ。皆さん、お待たせしてしまい、申し訳ないですわ。おはようございます」
梨花「沙都子おはようなのです」
詩音「あれ、圭ちゃんは? 沙都子を呼びに行ってたはずですけど」
沙都子「ああ……圭一さん?」

沙都子「圭一さんでしたら、そこの廊下に立ってましてよ」
レナ「廊下に?」

魅音「まったく、なにしてるんだい圭ちゃんは。いくら暖かい季節だからって立ったまま廊下で寝ることないじゃない」

魅音「呼んでくるね!」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:28:31.58 ID:WJZmKY/80

魅音「圭ちゃん!」
圭一「………」
魅音「ちょいと圭ちゃん! こんなところで何をボーっとつったってるんだい? ボーっと立ってるのは案山子だけで十分!」
圭一「……んあ、ああ、魅音。おはよう」
魅音「ったく、なにをボヤっとしてるんだい! 挨拶なら居間でしたじゃないか! ほら、行くよ。みんな待ってる」
圭一「ああ……」

魅音「実はね。おじさんだけが先行で詩音から聞いてるんだけどね。ふっふっふ。今日は朝食の席で重大発表があるんだよ!」
圭一「重大発表?」

魅音「そっ! それは聞いてからのお楽しみ!」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:32:55.14 ID:WJZmKY/80

詩音「ということで。突然ですが、皆さんに重大発表があります」
レナ「重大発表? いきなり何かな、かな?」
羽入「あう? 今晩のおかずはステーキとかですか!?」
梨花「あなたは食べ物から離れなさい」

悟史「実はね……へへ」
詩音「うふふ。私がママで、悟史くんがパパになりました!」

詩音「ちょっと最近違和感があったから検査してみたら……ビンゴでした! きゃっ!」

圭一「え……、マジで!?」
羽入「本当なのですか!? あうあう、それはおめでたいのです!」
梨花「驚いたけど、ようやくっていう感じがしないでもないわね」
魅音「今、妊娠2ヶ月なんだってさ!」
レナ「へぇ、そうなんだ。なんだか信じられない気持ちだけど、とても幸せなことだね!」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:36:16.34 ID:WJZmKY/80

沙都子「………」

詩音「んや? 沙都子、さっきからずっとだんまりですね。ビックリしなかった?」
悟史「沙都子には今はじめて教えたのに。驚きすぎて声もでないっていうことかな? ははは」
沙都子「ま、まあ、そんなところですわ……」

羽入「でも、そうなるとこれからがいろいろ大変なのですよ!」
梨花「そうね。ベビーカーとかも用意しないといけないだろうし」
魅音「気が早いね、梨花ちゃんは。ベビーグッズよりもまずはマタニティーグッズだよ」

沙都子「あ、あの……実は、わたくしも、その、重大発表がありますのよ」
詩音「ん? 沙都子も? それは奇遇だね。ついでにどんどん言っておきなさい!」
悟史「カボチャが食べられるようになったとかかな?」
詩音「あ、それいいです! 私も肩の荷が下りて大助かりです! うふふ!」

沙都子「あ、あの、えと……信じてもらえないかもしれませんが、一応言いますわね」
詩音「なに言ってるんですか。私たちの仲で水臭い! 沙都子が言うことならなんでも信用しちゃいますよ〜!」
悟史「そうだよ。大事な妹の言うことを信じないわけがないだろ?」

沙都子「……………実は……わたくしも、その、妊娠していますの」

詩音&悟史「………は?」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:40:29.14 ID:WJZmKY/80

沙都子「その、実は、ですね。2ヶ月どころか……3ヶ月目、なんですの……」

詩音「ふぅ……」 クラッ
悟史「ああ、詩音しっかり! たおれたいのは僕の方なのに!」

梨花「ささ、沙都子、それは本当なの!?」
羽入「あうあうあうあう! これはダブルでおめでたいのです! ダブルシューなのです!」
レナ「どど、どういうこと!?」
魅音「こんなこと訊くのもあれだけど、相手は!? 父親はだれ!?」

沙都子「………」

圭一「すんまっせぇぇぇん!」

魅音「……え?」
レナ「まま、まさか、圭一くんが、沙都子ちゃんの……?」

圭一「心当たりはあの日の夜!」

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:46:00.25 ID:WJZmKY/80

詩音「さあ! 圭ちゃん! はやくッ! こっちへッ!」
圭一「いやああぁぁぁ! 地下祭具殿だけは堪忍やぁ!」
詩音「このヘタレ芸人、嫁入り前の私の義妹に手を出すとはいい度胸じゃないかぃ!」

詩音「爪だけじゃ生ぬるい! ち○こを落としてもらおうかッ!」
圭一「ひっぱらないで! それだけは! アッー!」

悟史「ま、待って詩音! とりあえず話し合おう! ね? これからのことをしっかり話し合うんだよ!」
梨花「そうよ詩音。いきなり沙都子をシングルマザーにする気?」
詩音「くっ!!」

レナ「で、沙都子ちゃん。それは本当のこと? 私たちをからかおうとしてるんじゃないんだよね?」
魅音「……私は専門じゃないから分からないけど、沙都子のおなか、ちょっと出てる気がする。太ってるとかじゃなくて」

魅音「詩音の腹はただ脂肪がついて太ったのかと思ったけど、沙都子のおなかは違う」
詩音「人がイラっときてるときに余計腹の立つこと言わないでください」
羽入「そりゃ2ヶ月の妊婦と3ヶ月の妊婦のおかなは違って当然なのです」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:48:51.74 ID:WJZmKY/80

圭一「実は、心当たりというのは、3ヶ月前のあの日。鉄平を追って家を駆け出した沙都子をみんなで探しに行ったことがあったろ?」
沙都子「その時、雨宿りのつもりで雛見沢のバス停跡に寄ったときに……」

詩音「やけに帰ってくるのが遅いと思っていたら……そんなことしてたのねッ!」
悟史「むぅ……」

梨花「まあまあ。今更そんなことを言っても始まらないのです」
羽入「そうなのです。まずは建設的な話をしないといけないのです。詩音のことも、そして沙都子のことも」
沙都子「梨花、羽入さん……ありがとう。やっぱりふたりはわたくしの親友ですわ……」

レナ「そうだよ。まずはひとつづつ問題を解決していくことが大事だよね」
魅音「緊急の家族会議を開こう」
沙都子「わたくしのために、ありがとうございます」

レナ「で、まずは一番の問題を解決しなきゃいけないね」
魅音「うん」
沙都子「一番の問題?」

レナ「沙都子ちゃん。言いにくいことかもしれないけど、教えて。沙都子ちゃんのおなかの子どもの父親は誰なのかな?」
沙都子「はぁ?」

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:53:48.08 ID:WJZmKY/80

圭一「いや、だから、俺が……」
魅音「そうだよ沙都子! 豊かになったとはいえ、世の中を女の手ひとつで子ども連れてわたっていくのは大変だからね!」
レナ「父親さえ分かれば私たちもじっくり話し合いに加わってこれからのことを検討していけるからね!」
沙都子「いえ、だから、おなかの子どもの父親は圭一さn
レナ「嘘だッ!!」

梨花(さすがレナ。受け入れたくない事実を、聞こえないふりをしてやりすごすとは…ッ!)

魅音「そうだよ沙都子。今私たちは真剣な話し合いをしてるんだからさ。その場しのぎの嘘でやり過ごそうっていうのはよくないな」

羽入(さすが魅音なのです。自分に少しでも追い風となる意見を見つけると、それに乗っかる巧妙さ。さらにやるようになったのです)

沙都子「だから! このおなかの子は圭一さんなんですの!」
圭一「信じられないなら、DNA鑑定でもなんでもしてくれ!」

圭一「とにかく! 俺は責任をとって沙都子と一緒になろうと思ってる! それが俺からの重大発表だ!」

レナ「うっそーん!」
魅音「うっそーん!」
富田「うっそーん!」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 01:56:56.66 ID:WJZmKY/80

レナ「けけ、圭一くんが……沙都子ちゃんの……おなかの……」
魅音「圭ちゃんの不潔ぅ! ばかぁ! うわーん!」

 ばたん!

圭一「え!? あ、おい、レナ!? 魅音!? なんでお前らがそこで怒って出て行くんだよ!?」

沙都子「………ふたりとも、ごめんなさい」
梨花「沙都子が負い目を感じる必要はないのですよ。こういうのは早い物勝ちなのです」
羽入「そうなのです。圭一の心を射止めようと思えばいくらでも行動を起こせる時間はあった。でもあのふたりは互いに意識しあってその努力を怠った。そういうことなのです」


悟史「圭一」
圭一「あ、悟史……」

悟史「きみは、本当に妹の……おなかの子どもの父親なのかい? もしもこれが悪い冗談なら、今ちゃんと断るんだよ」
圭一「俺は嘘も冗談も言っていない。俺の言葉に嘘偽りはないし、沙都子の言うことも本当だ」
詩音「ぶつぶつぶつ………」


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:00:54.24 ID:WJZmKY/80

悟史「圭一。きみももう立派な大人だし、いつまでも幼い妹だと思っていた沙都子も興宮で働く社会人だ」

悟史「ふたりが互いに話し合って決めたことなら、僕から言うべきことは何もない」

悟史「圭一はさっき、沙都子と一緒になると言ったね。その言葉にも、嘘偽りはないのかい?」
圭一「ない。本心からそう思っている」
悟史「聞いた話だと圭一と妹は勢いで深夜のバス停跡で 【くんずほぐれつオーイエー】 をしてしまったということだけれど、心から互いに愛し合っているのかい?」
沙都子「……なかなか恥ずかしいことを訊きますわね」

圭一「俺たちは互いに愛し合っている!」

圭一「俺は沙都子のことを愛しいと思っているし、沙都子もそう思ってくれているに違いないと確信している」
沙都子「キャー」

悟史「そこまで言うなら、僕は何も意見しないよ。ふたりで頑張って、僕たちのような幸せな家庭を築いておくれ」

悟史「ね、詩音?」
詩音「………わたしよりも沙都子の方が1ヶ月早く……」 ブツブツ

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:04:52.46 ID:WJZmKY/80

 〜園崎家本家 縁側〜

魅音「………」
レナ「………」

レナ「……ねえ、魅ぃちゃん。私たちって、なんなんだろうね」
魅音「私は圭ちゃんが好きだったし、レナも圭ちゃんのことが好きだったんでしょ?」
レナ「互いにそれが分かってしまったから。親友に気をつかって圭ちゃんに思いを伝えそこなっていたら……」
魅音「なんで、こんなことに……どうして、こんなことに……」
富田「……北条さん……」

レナ「……むなしいね、魅ぃちゃん」
魅音「……だね」

レナ「………」
魅音「………」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:06:59.31 ID:WJZmKY/80

レナ「なんかさ、疲れたよね」
魅音「レナもそう思う? 実は私もそう思ってたところ」
レナ「本当はさ。私、圭一くんのことは諦めようと思ってたんだよ、だよ」
魅音「奇遇だね。実は私も。圭ちゃんのことは、悔しいけど、私なんかより家庭的で思いやりのあるレナにゆずった方がいいと思ってた」
レナ「私なんかより魅ぃちゃんの方が圭一くんにふさわしかったんだよ。だって、魅ぃちゃんは昔からあんなに圭一くんと気があってたじゃない」

魅音「………」
レナ「………」

魅音「ってことはなに? 私たち、余計な気ばかりつかって時間を浪費してたってこと?」
レナ「はぅ……そうみたい……」

魅音「レナ!」
レナ「魅ぃちゃん!」

魅音&レナ「私たち、これからもずっとずっと親友だよ!」

魅音&レナ「うわ─────んっ!!」

富田「北条さぁん!」

富田「北条さああぁぁぁん!!」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:08:49.57 ID:WJZmKY/80

1です。
みんなに一言いっておくぞ。
一番かわいそうなのは、北条家に居候しているにも関わらず完全に空気になっていう
レナの父親だからな。そこ忘れるなよ。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:14:24.12 ID:WJZmKY/80

 〜北条家 客間〜

悟史「圭一と沙都子の気持ちはよく分かったよ。さっきも言ったように、ふたりの気持ちを無下にする気はない」
詩音「……腑に落ちないところもありますが、仕方ないですね」

詩音「思い返してみれば、私が悟史くんに恋したときはそりゃもう徹底的な反対があったものです」

詩音「こういう波乱があった方が、互いの心はより近づけるということかもしれませんね」

圭一「ありがとう、悟史、詩音! いや、義兄さん、義姉さんと言った方がいいかな」
沙都子「気が早いですわよ!」

梨花「いえ、全然早くないのですよ。にぱー☆」
羽入「これからずっとそう呼ぶことになるのですから、今のうちから練習しておくといいのですよ」

悟史「今日は朝から色々なことがあったね。とにかくみんな仕事があることだし、積もる話は夜にでも」

圭一「いえ、あとひとつだけ義兄さんの耳に入れておきたいことがあります」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:19:04.13 ID:WJZmKY/80

悟史「もうどうしても会社には遅れてしまうし。有給をとるついでに聞くよ。話って、なに?」
圭一「実は……」

圭一「…………」

沙都子「圭一さん」
圭一「ああ」

圭一「実は、今俺が所属している会社よりももっと大きな東京のプロダクションから引き抜きの声がかかっているんです」

圭一「それで俺、その話、受けようと思っているんです」
詩音「それって……ここを、出て行くっていうことですか?」
圭一「そうです」

圭一「もちろん、沙都子も一緒にいきます
沙都子「そういうことなんですの」

悟史「……そうか」
詩音「突然すぎですね。いきなりそう言われても」
悟史「分かった。沙都子、行ってくるといい。圭一と一緒に」
詩音「悟史くん!?」

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:24:28.73 ID:WJZmKY/80

詩音「いいの、悟史くん? そんなに急に決めて。せめて2,3日考えてもいいんじゃないですか?」
悟史「2,3日考えても、きっと僕の答えは一緒だと思うよ」

悟史「だってそうだろ? 僕に沙都子の意思を遮る権利はない」
沙都子「そんなことは……」
悟史「僕は家族の幸せを1番に祈りたい。沙都子にとってそれが1番の幸せだというなら、どうして反対することができるんだい?」
詩音「ま、まあ、それはそうですけど……」
悟史「詩音。寂しいから沙都子を手放したくないって言うのは、僕たちの心の問題だよ。それを沙都子におしつけてはいけない」
詩音「………」

圭一「ありがとうございます。沙都子は、いえ、沙都子さんは必ず俺が幸せにしてみせます!」
悟史「うん。圭一なら信用できるよ」

悟史「じゃじゃ馬の妹だけど、こちらこそよろしくお願いします」

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:29:39.26 ID:WJZmKY/80

圭一「これから忙しくなるな」
沙都子「ええ。だらしない圭一さんの面倒をみてさしあげるのは大変ですが、つきあってあげますわよ」

沙都子「たとえ世界の果てまでだって、つきあってあげますわ」
圭一「そりゃこっちのセリフだよ。お前みたいなはねっかえり、もらってやれるのは俺くらいのもんだからな」
沙都子「なんですって!?」

梨花「いつも通りの光景に逆戻りね」
羽入「それが1番あのふたりらしくて微笑ましいのですよ。あう」

梨花「さて。それじゃ、私たちも行きましょうか」
羽入「行く? 行くって、どこへ?」

梨花「悪いでしょう。新婚夫婦の家にいつまでも居候しているのも」

梨花「今までは沙都子がいたから好意に甘えていたけれど、それももうお仕舞い」
羽入「あう……そうなのです。詩音と悟史は、本当はもっといちゃいちゃしているべきだったのです」

羽入「僕らもそろそろ、古手神社 (プレハブ) に戻る潮時なのです」

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:34:53.59 ID:WJZmKY/80

 〜古手神社 (プレハブ) 〜

羽入「ということなのです。もう僕らも北条家へは戻りません。こっちへ引っ越すことになりました」
梨花「沙都子と圭一がいなくちゃ、あんな糖分王国になんて住んでいられないわ」

魅音「そっか……もうみんなバラバラになっちゃうんだね。寂しいな」
レナ「そうだね。1年間北条家に居候になってきたけど、竜宮家もずっと居続けるわけにいかないからね」

レナ「これがいい機会だと思う。竜宮家も興宮のアパートにでも移ろうと思うよ」
魅音「私もひとりは寂しいけど、園崎本家で党首として生活していこうと思う」

梨花「1年間、いろいろあったけど本当に楽しい日々だったわ」
羽入「あうあう。うたかたの夢だったのです」
梨花「夢じゃないわよ」

梨花「現実よ」

富田「北条さあああぁぁぁぁぁぁん!」

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:42:00.58 ID:WJZmKY/80

 〜10日後〜

詩音「とうとう、みんな出て行っちゃいましたね」
悟史「うん。昨日まで大勢でにぎわっていた我が家だったのに、気がつくとふたりだけ。静かになったね」
詩音「……この家って、こんなに静かな場所だったんですね」

詩音「私、ずっと悟史くんとふたりだけの生活がしたいって思ってました。でもそれがかなわなくて、イラついた日もありました」

詩音「葛西の言ったとおりだな。今になって思うと、あの皆がいた日々がなつかしい」

詩音「耳栓したくなるくらい色んな声がする食卓で押し合いながら食事したり、家事の順番をおしつけあったりしたことがまだ脳裏に焼きついてる」

詩音「あんな騒々しいときがもう送れなくなるなんて。ちょっと、残念かな」

悟史「寂しい?」
詩音「寂しい? なんで?」

詩音「私には悟史くんがいるし、悟史くんには私がいるでしょう?」

詩音「寂しくなんてない。ね?」

詩音「みんなうちからいなくなってしまったかもしれないけれど。でも、楽しい日々はこれからもずっと続くんだから。寂しくなんてないよ」

詩音「ね、そうでしょ?」


  おしまい

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:49:52.71 ID:WJZmKY/80

富田「北条さあああぁぁぁぁぁん!」

鉄平「なんね?」

 豆腐屋とヤクザ。出会うはずの無い経歴を持つふたりの男が出会ってしまった時、運命の歯車は大きく動き出す。
 傷心の心を癒すべく全てを信じることをやめた青年。
 罪を後悔し、不器用ながら人を信じて生きていこうと決めた男。
 不思議と心の穴がかさなりあったふたりが、すさんだ鹿骨市に奇跡の革命をおこす!

鉄平「男の器は心できまるんじゃ!」

富田「北条さあああぁぁぁぁぁん!」

 熱く切ないハードボイルド巨編! 2月27日全国松竹系にてロードショー!

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 02:53:49.19 ID:WJZmKY/80

遅い時間までおつきあいありがとうございました。
ひぐらしのなく頃にの二次ssです。
当初はルームシェアーにする予定だったり、もっと居候増やしたり、北条家を大改造する予定でしたがやめました。
シンプルにいきました。
たくさんの米と支援、本当にありがとうございました!
それでは、また何かの機会がありましたら。よろしくお願いします。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 03:40:50.28 ID:WJZmKY/80

バモスはホンダの軽だったよね



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