つかさ「いーこと思い付いちゃった」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 22:49:53.95 ID:QcixYY9f0

夜・柊つかさの部屋。

つかさ「うふふふ……」

   ぺらっ

つかさ(この本おもしろいなぁ……まあ半分以上は漢字が読めないけど)

   ガチャ

かがみ「つかさーまだ起きてるー? う、ゴホッ……コホッ……」

つかさ「あ、おねぇちゃん。風邪のほうはだいじょーぶ?」

かがみ「……うん、大丈夫。あー、あ〜〜〜……うーん、喉の調子が悪いなぁ……」

つかさ「そう」

   ぺらっ

かがみ「あー、あー、あ〜〜〜……」

つかさ(煩いなぁ……本の内容に集中できないよ……)

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 22:56:32.74 ID:QcixYY9f0

かがみ「へぇー、あんたにしては珍しく堅そうなものを読んでいるわね」

つかさ「まぁねぇー……えへへ」

かがみ「どうせ、漢字が読めなかったりするんじゃないの?」

   カッチーン

つかさ「そんなことないよ! ぜんぶ読めてるから!」

かがみ「じゃあさ、この部分はなんて読むの?」

つかさ「これ……?」

   『僥倖を希った時、袋小路への第一足目は踏み出されている。』

つかさ「えーっとね……」

つかさ(出だしからアレすぎるなぁもぅ……でも読めなかったら笑われちゃうだろうし……こうなったら)

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:03:00.52 ID:QcixYY9f0

つかさ「んにゃむにゃをふわったとき、ふくろこーじへのだいひとあしめはふみだされている」

かがみ「よく聞き取れなかったような」

つかさ「ちゃんと読んだよ? たぶん、お姉ちゃんは風邪のせいで耳がやられてるんだよ」

かがみ「それに後半の方は堂々と読み違えていたような」

つかさ「気のせい気のせい、お姉ちゃんの耳が腐ってるだけ」

かがみ「そうかしらぁ〜? ……んっ、ごっふぉ! ゴホッ!」

つかさ(うるさいなーもぅ、人がせっかく楽しく読んでたっていうのに……)

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:08:16.64 ID:QcixYY9f0

かがみ「わからない所があったら、私に聞きなさいね」

つかさ「う……うん、そうするよ」

   ぺらっ

つかさ「……」

かがみ「……」

   ジィ〜〜〜〜〜〜……

つかさ(うっざ――――い!!!)

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:16:26.87 ID:QcixYY9f0

かがみ「ゴホッ……ごっほぉ……」

つかさ「あのさぁーお姉ちゃん」

かがみ「うん、なぁに?」

つかさ「私ね、風邪が体に響いちゃうから早めに寝ておいたほうがいいと思うんだ」

かがみ「心配してくれているの?」

つかさ「当り前だよ。だって私のお姉ちゃんなんだもん」

かがみ「流石つかさね、私の妹なだけはあるわ」

つかさ(早く帰れ)

かがみ「でも……」

つかさ「……?」

かがみ「そんな可愛い妹がいるせいで、ますます部屋に戻れなくなっちゃった!」

つかさ(逆効果だったー……!)

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:23:26.04 ID:QcixYY9f0

かがみ「はぁー……つかさがあったかぁ〜い……」

つかさ(はぁー……お姉ちゃんがうざったぁ〜い……)

かがみ「今日は久しぶりにこのまま一緒に寝ちゃおうか?」

つかさ「駄目だよ、お姉ちゃんはお病気してるんだからちゃんと寝ないと」

かがみ「いーじゃないの」

つかさ「そ、それに私、まだ続きを読むつもりだから遅くまで起きてるだろうし」

かがみ「なら私も付き合ってあげる」

つかさ「……」

   ぺらっ

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:29:58.18 ID:QcixYY9f0

かがみ「あ、ちなみにこれ『きょうかく』って読むのよ」

つかさ(めんどくせぇなぁこの人……)

かがみ「それから……ひっ――きしッ!」

つかさ(私にまで風邪が移っちゃいそう……)

かがみ「じゅるじゅる……あっ、ごめん」

つかさ「うっ……いいよ、気にしないで」

つかさ(お風呂上がりのパジャマに鼻水が……うぅ〜……)

かがみ「はぁ〜……冬休み前だけはあって、夜は冷えるわねぇー」

つかさ「そうだねぇー」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:35:09.29 ID:QcixYY9f0

   ぺらっ

かがみ「私の予想だと犯人はこいつね。登場シーンの素っ気なさが却って怪しいし」

つかさ「そうかもしれないねぇ」

つかさ(別にお姉ちゃんの意見なんか聞いてないのに)

   ぺらっ

かがみ「あっ、ちょっとページ捲るの早いって。戻って戻って!」

つかさ「ご……ごめん」

かがみ「ううん、いいのよ」

つかさ(普段なら良いんだけど、なんで本を読んでいる時に限って絡んでくるのかなぁ……)

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:43:01.88 ID:QcixYY9f0

つかさ(そうだ!)

   スタッ

かがみ「どうしたの?」

つかさ「ずっと閉め切ってたから窓を開けようと思って」

かがみ「なんでよ、寒いじゃないの」

つかさ「だって長い間ストーブを点けてたから、一酸化炭素チュードクとかが危ないかなって」

つかさ(帰れっ……帰れっ……!)

   ガラっ

かがみ「やっぱり寒いわよ」

つかさ「だよねー! だからさ、お姉ちゃんは部屋に」

かがみ「……まぁ、つかさの布団に入ってればいいか」

つかさ(がっ……駄目っ……! 失策……!! どん詰まりっ……!!)

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/30(火) 23:53:02.67 ID:QcixYY9f0

つかさは思わず漏れそうになった溜息を堪えながら、底冷えのくる街並みと夜空を眺めた。

つかさ(わっ……昼間の天気が良かったせいか、いつもより星が綺麗に見えてる……)

かがみ「なにやってんの? 窓際にいると寒いでしょ? 早くこっちにおいで」

つかさ「お姉ちゃんの言う通り寒いけど……でもほら……空、凄いよ?」

かがみ「空?」

つかさ「びっくりするくらい星が綺麗に見えるから」

かがみ「そりゃまぁ、夏と並んで今の時期は天体観測シーズンとして挙げられるくらいだし」

つかさ「へぇー」

かがみ「えーっと、今の時期で観測できる星座って何があるんだっけ……っくしゅん!」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:00:27.05 ID:8eEcAXvq0

つかさ(あ、こう言えば追い払えるかも)

つかさ「私、ちょっと見に行ってくるね」

かがみ「……え? 見に行ってくるって何を? どこへよ?」

つかさ「ちょっと天体観測でもしてみようかなって。それで神社の方まで行こうかと」

かがみ「なんでわざわざ神社へ……」

つかさ(理由は適当にそれらしいことを並べようっと)

つかさ「ほら、ここって屋根があるし家の前は建物や電線が多いから邪魔だなぁって」

かがみ「でも……」

つかさ「それに神社の方なら石段を上った高い位置にあるし、辺りも暗いから良く見えるかなって」

かがみ「うーん……」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:09:31.78 ID:8eEcAXvq0

かがみ「確かに明るいと眼が光に慣れちゃうから、観測地点は暗い方が相対的に良いって……前にみゆきが言ってたけど……」

つかさ「年の瀬も近いことだし、流れ星なんかもあったりするかもしれないし見納めってことで」

かがみ「この寒い時期に御苦労なものねぇ」

つかさ「えへへっ……という訳でお姉ちゃんは部屋に」

かがみ「うんっ、わかったわ!」

つかさ「……へ?」

かがみ「私も一緒に行ってあげる」

つかさ(お姉ちゃんは寝てていいよーっ! 私だって寒い外には行きたくないのにーっ!)

かがみ「さぁー、入念に着こんでから行きましょ……ひっ――くしゅッ!」

つかさ(これじゃ引き返しがつかない……! 墓穴……! 痛恨のミスっ……!)

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:24:54.05 ID:8eEcAXvq0

夜も更けてからの外出は家族にとやかく言われる恐れがあった為に、二人は息を顰めながら外を目指した。
二人が玄関を抜けるとすぐさま寒空が歓迎してやるとばかりに、身を切るような冷風が吹き抜けていく。

つかさ「さむぅ〜〜〜いよぉ〜〜〜〜」 ガタガタ

かがみ「ううっ……そうねぇ……風邪が悪化しちゃいそう……」

つかさ「やっぱりお姉ちゃんは部屋に戻りなよ、酷くなっちゃうよ」

かがみ「心配してくれているの?」

つかさ「そぉ〜だよぉ〜……ううっ……」 ガタガタ

かがみ「でも、そんなつかさの希望なんだもんね。姉である私が足を引っ張る訳にもいかないわ」

つかさ「ってことは……?」

かがみ「風邪なんかには負けない。つかさと一緒に天体観測を頑張ってみせるから!」

つかさ「もうっ、お姉ちゃんの馬鹿ぁーッ!」

かがみ「そんなに怒るくらい心配してくれていたのね……これがツンデレってやつなのかな……」

かがみ「ぐすっ……ほんとに良い妹ね、あんたって……なんか私、感動しちゃった……」

つかさ「ひっつかないでぇ〜〜〜! 歩きにくいからぁ〜〜〜!」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:38:58.27 ID:8eEcAXvq0


ざわっ……

   ざわっ……

つかさ「ひっ……森が生きてるみたい……」

かがみ「風が強いからよ……にしても不気味ねぇ……」

つかさ「なんで神社って高い位置にあるんだろぅ……無駄に森もあるし……お陰で暗いし怖いよぉ……」

かがみ「うちの家業なんだからそのくらいは知っておきなさいよ。あのね、これは鎮守森っていって社を守る為の森なの」

つかさ「そんなの要らないってばぁー」

かがみ「ところがさぁ……神社ってのは元々、強烈な怨みを残して朽ちた人……つまりは怨霊を鎮める為のものなのよ」

つかさ「そんな話もいらないってー!」

かがみ「もちろんすべてがそうだとは言えないし、地域や場所によって意味合いが異なるんだけど……」

つかさ「うぅ〜……うぅ〜……」 ガタタタタタタタタ

かがみ「あらぶる怨霊を鎮めるため、森で囲い、見晴らしの良い景色を用意して……」

つかさ「お姉ちゃんが私を虐めるーっ!!」 ブワッ

かがみ「可愛い妹……!」 ゾクゾク

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:48:51.10 ID:8eEcAXvq0


   コツン……

      コツン……

つかさ「響いてる……響いてるよっ……!」

かがみ「当り前でしょ、石段なんだからね」

   ざわぁっ……

つかさ「蠢いてる蠢いてる!」

かがみ「当り前でしょ、風で木々が揺れてるんだからね」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 00:53:19.24 ID:8eEcAXvq0


   カツン……

      カツン……

通行人「こんな夜更けに参拝とは精がでますのぅ……」

つかさ(こっ、ここここここの人――!)

かがみ「そちらこそ御足労さまです。では、お気を付けて」

通行人「ええ、では」

   カツン……

      カツン……

つかさ「ねぇ……今の人、足が……」

かがみ「当り前でしょ、幽霊なんだからね」

つかさ「えっ……?」

かがみ「うふふ、冗談よ」

つかさ「そうなの……? じゃあ私の見間違い、だよね……」

かがみ「どうかしら……でもね、例え判ってしまったとしても、気付いちゃいけないことってのもあるものなのよ……」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:00:45.83 ID:8eEcAXvq0

つかさ「こんなに長かったかな……この階段……」

かがみ「そうそう、神社の怪談といえば」

つかさ「もうお姉ちゃんは喋らないで! お願いだからっ!!」

かがみ「そんなに怖がらないでよぉ」

つかさ「お姉ちゃんなんか嫌い! あっちへいけぇ〜!!」

かがみ「……ごめんね、私が悪かったわ。ちょっとだけ意地悪してみたくなっただけだから許してね」

つかさ「じゃあ、それ以上喋らないで!」

かがみ「わかった」

   コツン……

      コツン……

つかさ「……」

かがみ「……」

   コツン……

      コツン……

つかさ(無言になると、それはそれで怖いよぉー……)

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:05:44.53 ID:8eEcAXvq0

   コツン……

      コツン……

つかさ「……ねぇ、お姉ちゃん」

かがみ「……」

つかさ「……ねぇ、ねぇってば」

かがみ「……」

つかさ「ねぇー」

かがみ「ひっ――ブルスコファー!」

   ブルスコファー……

         ブルスコファー……

               ブルスコファー……

つかさ「!?」 ビクッ!

かがみ「はぁー……寒いわねぇ……くしゃみがこだましちゃったわ……」

つかさ(ちくしょう……絶対わざとだ絶対わざとだっ……!)

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:18:10.42 ID:8eEcAXvq0

神社、境内にて。

つかさ「やっと着いた……」

かがみ「陽が落ちると景色が変わるせいか、やたら長く感じたわね」

つかさ「そうだねっ! いやぁ楽しかったなぁー! じゃあ帰ろっか!」

かがみ「なーに言ってんのよ。私に遠慮はいらないから観測観測!」

つかさ「もう十分に楽しめたんだし私はいーよぉー……」

   タタタッ

かがみ「うーん、ここからでも空は十分に見えるんだけど……そうだ、奥へ行ってみましょ!」

つかさ「……奥?」

かがみ「こっち側は石段をのぼる為に緩やかになっているんだけど、反対側はブッツリ切り立ってるのよ」

つかさ「もしかしてぇー……あの鬱蒼としたところに入ってく気ナンデスカ……?」

かがみ「もちっ!」

つかさ「ソーデスカ」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:26:52.42 ID:8eEcAXvq0

かがみが指差した方向は、いま二人がいる石段側の対角線上に位置していた。
建物の後ろ側、鬱蒼と茂った鎮守の森。
つかさは強引に帰ることもできず、やたら張り切る姉に気圧され先導されていく。
やがて二人が森に入ると、だいぶ前に誰かが通ったためか細い獣道が目に付いたので、かがみはそれを辿ることにした。
かがみは先導していく。
つかさは連れられて行く。
二人仲良く、共に並んで。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:37:28.76 ID:8eEcAXvq0

   ざっ……
           ざっ……

つかさ(木が邪魔すぎて月明かりが全然届いてこない……足元も見えないし……)

つかさ「ねぇ、蛇とかでないよね? お化けとかでないよね?」

かがみ「蛇は冬眠中。お化けは……どうだろ。話をしていると寄ってくるのかも?」

つかさ「うぐっ……」

かがみ「今さら口を噤んでも一緒だと思うんだけどね、あははっ」

つかさ(怖いのは苦手なんだよぅ……)

かがみ「大丈夫、そんなのいないから」

つかさ(それにしてもお姉ちゃんって、よくこんな暗い場所をスイスイと歩けるなぁ……)

かがみ「あっ」

つかさ「え、なにっ!?」

かがみ「ほら、あっち側が抜けてるみたいよ」

つかさ「ってことはこの道って、前に私達と同じ目的で来た人が作ったのかな……」

かがみ「かもね。行ってみましょ」

つかさ「う、うん……」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:44:32.28 ID:8eEcAXvq0

境内奥側、崖上。

かがみ「着いたー!」

つかさ「……おぉ〜」

かがみ「こういうのを壮観、または絶景って言うのかもね」

つかさ「他の場所からだと木が邪魔だけど、こっち側からだと街が一望できるようになってるんだ……」

かがみ「盲点みたいなものよ。ま、家とは反対方向だから私達の家は見えないけど」

つかさ「住宅街の灯りがすっごく綺麗……」

かがみ「ちょっと待ちなさい、それ以上進んじゃ駄目!」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 01:53:02.11 ID:8eEcAXvq0

つかさ「ふぇ……?」

   がしっ

つかさ「え、なに……?」

かがみ「足もとが暗いうえに草で隠れてはいるけどさ……」

つかさ「……?」

近場を探ったかがみが手頃な石を拾い上げると先程の場所へ向けて転がした。
石は鈍い音を立てながらも転がり、やがて視界から消えていった。

かがみ「……ね?」

つかさ「あっぶなーいよぉー! ここ、あっぶなーいよぉー!」

かがみ「絶対に押しちゃ駄目だからね。絶対に……ね?」

つかさ「う……うん……」

   ドキドキ……

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 02:01:43.92 ID:8eEcAXvq0

かがみ「……それにしても、凄い星空ね」

つかさ「そだね。全部はとても数えきれないくらい多いよ。すごくチカチカしてるし」

かがみ「明滅するのは大気の影響のせいらしいわ。それが季節ごとで変わるのかまでは知らないけど」

つかさ「あっ、流れ星……」

かがみ「どこどこ?」

つかさ「ほらほら、あのデッカイ星があるよね? あれの隣あたりにさっき」

かがみ「……どれがデッカイ星なのか判んないわよ」

つかさ「そうだね……えへへ……」

かがみ「……」

つかさ「……」

かがみ「……流れ星……かぁ……」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 02:09:00.08 ID:8eEcAXvq0

かがみ「つかさは何か、願い事とかある?」

つかさ「私? 私は……そうだねぇ……願い事……ねがいごと……」

かがみ「もうっ……考えすぎよ。そんなんだから流れ星が見えてもチャンスを逃しちゃうのよ」

つかさ「さっきのはお姉ちゃんが私に話し掛けたからだよ」

かがみ「ごめんなさぁーい」

つかさ「そういうお姉ちゃんは?」

かがみ「私はぁ……そうだなぁ……」

つかさ(お姉ちゃんだって考えてるじゃーん)

かがみ「そうねぇ……」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 02:17:22.24 ID:8eEcAXvq0

かがみ「無いわ」

つかさ「……え、どうしてなの?」

つかさ(私は一杯あるのに……)

かがみ「だって、星に願ったところで……ね?」

つかさ「……シビアなんだね」

かがみ「そうじゃないわ。私は別に、願う必要がないだけよ」

つかさ「もう欲しいものがないくらいに満ち足りてるってこと?」

かがみ「そーいうこと! それに願うよりは自分の手で掴まなくちゃね!」

つかさ(自分の手で……?)

かがみ「ほらぁー……つかさは一杯あるんじゃないのぉ? しょっちゅう、苦労ばっかりしてるし……あははっ」

つかさ「……うん……そうだね……苦労ばかり……だよ……」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 02:27:13.54 ID:8eEcAXvq0

かがみ「私に構わず、つかさは好きなだけ願っときなさい。今日はそれなり流れ星が見れると思うから」

つかさ「どうして流れ星が?」

かがみ「うんっとね、えっと……ちょっと前に、つかさの部屋で星座の話をしてたでしょ?」

つかさ「うん」

かがみ「あれから何かなかったかなぁ〜と考えててさ、今になって思い出したのよ」

つかさ「なにを?」

かがみ「星座じゃないんだけど……流星群の話。この時期っていえばさ、アレがあったなぁって」

つかさ「なんていう流星群?」

かがみ「私達にぴったりの名前よ。当ててみて」

つかさ「私達にぴったりって……ハルマゲドンとか?」

かがみ「わざと言ってるだろ、それ。しかも私に対するふつとした悪意を感じるわね」

つかさ「冗談だよぉ……私、天体のこと詳しくないし……」

かがみ「はぁ〜……この時期に見える流星群。その名も……」

つかさ「その名も?」

かがみ「ふたご座流星群」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 02:40:35.32 ID:8eEcAXvq0

つかさ「ふたご座……」

かがみ「つかさはさぁ……偶然、この時期に天体観測をしようって言いだしたの?」

つかさ「うん、私は適当に言っただけだよ」

つかさ(お姉ちゃんを部屋に追い返したかっただけだし……)

かがみ「たとしたら大したものね。双子の縁ってものなのかも」

つかさ「そんなもの無いと思うけど」

かがみ「可愛い妹め、恥ずかしがりおって。このっ、このっ……」

つかさ「やめてぇ〜、頬っぺたつつかさないでぇ……」

つかさ(うざったぁ〜い……)

かがみ「……ふぅ、それにしても流星群かー」

つかさ「……」

かがみ「つかさは何を願うんだろ……あ、私に言う必要はないから好きなだけどーぞ」

つかさ「そ……そう……」

かがみ「私は街の景色でも眺めているわね」

つかさ「……」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:00:24.97 ID:8eEcAXvq0

私の願い。
私の願い……。
願い事って、なにがあったんだっけ。
こうやって考え込んでみれば、いまひとつ思い付かない気がする。
……ううん、多すぎて一つには絞り切れないだけだよね。
欲しいものは沢山ありすぎて困っちゃうけど、それでも叶えたい順に選ぶとすれば何があるんだろう。

やっぱり最初に思い付くのは、皆と対等な立場でありたいってことくらいかな。
そんな願い、たいそれたことではないのかもしれないけれど、それでも私にとっては大きな願い事だもん。
だって、お姉ちゃん、こなちゃん、ゆきちゃん。
皆は何かしら良い部分を持っていることだけは違いない。
じゃあ自分には? と訊ねられたら、これといったものが見当たらない気がする。
だったらそれを……。
だけど……それを星に願ったところで意味はあるのかな?
お姉ちゃんだって願う意味がないって言ってたし、チャンスは自分の手で掴めとも言ってた。
自分の手で。自分の手で……?
あっ、そうか。そういうことなんだ。簡単なことだったんだね。
お姉ちゃんのお陰で気が付けたよ。
もしかすると、私があの本を読んでいた時から、外へ出ようと私が言いだした時から、その全てがチャンスの始まりだったのかもだけど。
えへへっ。

いーこと思い付いちゃった。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:08:11.37 ID:8eEcAXvq0


かがみ「真夜中だってのに、どの家も電気の無駄遣いをしているものねぇ……」

   ざっ……

      ざっ……

かがみ「うーん……流れ星も今一つみたいだし……」

   ざっ……

      ざっ……

かがみ「あっ……いま流れた……ほら、つかさはちゃんと探してるの〜……?」

   ざっ……

      ざっ……!


ありがとう、お姉ちゃん。


かがみ「えっ――?」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:14:58.44 ID:8eEcAXvq0


   ざっざっざっざっ……!


つかさ(急いで家に帰らなくちゃ……これから、やらなきゃならないことは沢山あるんだし……)


   ざっざっざっざっ……!


つかさ(まずはお姉ちゃんの携帯電話からゆきちゃんにメールを送って……)


   ざっざっざっざっ……!


つかさ(それから家族に……)


   ざっざっざっざっ……!


つかさ(できるできる絶対できる諦めんなそこで! この寒空のなか私だって頑張ってるんだから!)


   ざっざっざっざっ…………

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:26:00.25 ID:8eEcAXvq0


う〜ん……。
朝……かぁ……。
眠いなぁ……それに寒いし布団から出たくないし……。
昨夜はネトゲに嵌り過ぎちゃったかなぁ。
夜更かしのしすぎは翌日に響くって頭ではわかっちゃいるんだけど、ニンゲン誘惑には勝てないってもんだし。
でもまだまだ若いんだから二時だろうが三時だろうが貫徹だろーが。
そんくらいで参ってちゃ駄目だよね。

よぉ〜〜〜っし!
今日も適当に学校へ行くぞー!

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:36:59.42 ID:8eEcAXvq0

朝、食卓。

こなた「おふぁよぉ〜……」

ゆたか「おはよー……って、すんごく眠そうだね」

こなた「年の瀬も近いってことで色んな意味で追い込みをば……ネトゲとかカタログの切り出しとかね……」

ゆたか「カタログ?」

こなた「おっと、ゆーちゃんは知らなくていいことだよぉ〜」

ゆたか「そう言われると余計に気になるよー」

こなた「よいよい、気にしないでくれたまへ〜」

ゆたか「いじわるぅー……」

こなた「あさー、あさだよー。朝ゴハン食べて学校行くよ〜」

ゆたか「気になるなぁ……」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:46:37.39 ID:8eEcAXvq0

学校。

こなた「じゃあねぇ、ゆーちゃん」

ゆたか「うん、それじゃっ!」

こなた(さてさて……今日も憂鬱な一日の始まりですよっと……)

   ペタペタ……

こなた(皆はもう来てるんだろーか)

   がらり

つかさ「あ、こなちゃんおはよー」

みゆき「お早うございます」

こなた「やぁやぁ皆の衆、おはやい御様子で」

みゆき「泉さんが少々、のんびりとされているだけですよ」

こなた「遅刻ギリギリの時間を狙うことには長けておりますので……よっと」

   ガタン

こなた(はぁ〜……眠いぃ〜……)

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 03:59:38.43 ID:8eEcAXvq0

昼休み。

こなた「ねぇ、どーして?」

つかさ「……なに? どうかしたのぉ?」

こなた「いやさぁー、昼になったっていうのに……ねぇ?」

みゆき「かがみさんが見えられませんね」

こなた「そーそー、珍しい事もあるもんだなぁって。もしかして、かがみんに何かあったの?」

つかさ「……」

みゆき「……つかささん?」

つかさ「……お姉ちゃん……今日は休みだから……」

こなた(どうしたんだろ……いきなり雰囲気が暗くなったような……良く分かんないけどフォローしなきゃ……)

こなた「そ、そうなんだ……まぁ、インフルエンザとかが流行ってるらしいしねぇ〜……急に休むって事もあるよねー……」

みゆき「そうですね、私達も気を付けないとなりませんね」

こなた(ナイスっ、みゆきさん!)

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 04:07:40.13 ID:8eEcAXvq0

授業中。

つかさ「……」

こなた(何かおかしい気がする……)

つかさ「……」

こなた(つかさが静かすぎるよ……それはまぁ、今は授業中だからだけど……ってそうじゃなくて……)

つかさ「……っくしゅ!」

こなた(それとも単に風邪を引いているから、体調が悪いだけなのかな……?)

つかさ「……」

こなた(う〜〜〜ん……何か引っ掛かるんだよねぇ〜〜〜……)

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 04:18:02.62 ID:8eEcAXvq0

つかさ「……」

こなた(かがみが居ないと、なんか物足りないんだよね。バランスが取れてないっていうか)

つかさ「ブルッ――モルスァっ!」

こなた(よし、かがみにメールでも送ってみよっと……病気なら暇してるだろうし……)

つかさ「ずずっ……」

こなた(それに寂しがり屋だから、私がメールを送って30秒も経たずに返信が来たりして……)

つかさ「……」

こなた(だとしたら、あとでネタにして笑ってやろうっと)

こなた「えーっとえと……」


   『い……き……て……ま……す……か……?』


こなた「……っと、これでよし!」

こなた(死んでます、とボケて来るか……生きてるわよっ! っとツッコミでくるか……お手並み拝見といきましょう)

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 04:33:46.80 ID:8eEcAXvq0

休み時間を挟み、六時間目の授業。

こなた(つかさは相変わらずみたいだから話し掛け辛いし……だからといってこの状況……)

つかさ「……」

こなた(変だ。おかしすぎる。どうして返信が来ないの? かがみはいつだって返信が早いのに)

つかさ「……」

こなた(家で薬でも飲んで眠っている……それも考えられるけど……)

つかさ「っくしゅん!」

こなた(だけど休んだ時って、余計にメールなんかに気を遣うもんじゃないの? 特にかがみの性格ならさ)

つかさ「……」

こなた(なにより、つかさの態度が……普通じゃない……メールと合わせて考えれば、漠然とそんな気がする……)

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 04:48:45.90 ID:8eEcAXvq0

掃除中。

みゆき「あの……泉さん」

こなた(みゆきさんが声を抑えている。ってことは、私だけへの話ってことかな)

こなた「……なに、どうかしたの?」

みゆき「つかささんの様子が……その、変だと言いますか、元気がないと言いますか……」

みゆき(流石はみゆきさんだ。考えることは私と同じってことらしいね)

みゆき「それでどうしたものかと頭を悩ませておりまして……どうすればいいのでしょうか?」

こなた「私も今一つわかんないんだけど……でも、何か引っ掛かるんだよね。かがみにメールを送っても帰ってこないし」

みゆき「泉さんは先ほど、送信されたのですか?」

こなた「うん、かがみが暇してるかなって思ったから。もしかして、みゆきさんも?」

みゆき「いえ、私は何も……ただ」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 04:58:10.09 ID:8eEcAXvq0

こなた「何か……あったの?」

みゆき「何かという訳ではありませんが……昨晩、かがみさんから送られてきたメールがその……」

こなた「メール……が、なに?」

みゆき「今になってみれば、どことなく引っ掛かる文面だなと感じましたので」

こなた「……ちょっと見せてよ」

みゆき「わかりました」

こなた(引っ掛かる文面……ということは、良い方へよりも悪い方向へと連想される内容だったってこと?)

みゆき「……これです」

こなた「なになに……って、ちょっと見づらいから借りるね」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 05:18:43.95 ID:8eEcAXvq0


From:柊かがみさん
Sub:夜遅くにごめんね

こんな夜更けにごめんね。
突然な話になっちゃうけど今の時期って星が綺麗だよね。
流れ星も多くてさ。
この時期ならふたご座流星群だってこと、みゆきなら知ってるでしょ?
それで実は私、今夜は綺麗に晴れてたから神社まで見に来ててさ。
こういうのを天体観測っていうのかな?
まーそんなことはどうでもいいんだけどね。
あのさ、星っていいと思わない?
綺麗だし。いつまでも光ってるし。たぶんこの先もずっと消えないんだろうなって。
運が良かったら流れ星もたくさん見れちゃうだろうし、希い事とかも叶っちゃったりしてさ。
もし私が最後に見れる景色があったとしたなら、こんな景色がいいなっていま実感してるよ。
ふたご座流星群。
どうせなら、つかさと一緒に見たかったなぁ〜なんてね。
じゃあね。
さよなら。
そしておやすみ。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 05:31:43.80 ID:8eEcAXvq0

こなた「……長文乙」

みゆき「私も初めにそう思ったのですが、気に掛かったのはやけに内容が感傷的と言いますか……」

こなた「それに『さよなら』なんて、普段のメールにわざわざ書くのもおかしいよね?」

みゆき「はい。仮にその一文がなくとも、『じゃあね』や『おやすみ』といった二つもの同義の句がありますし」

こなた「こう言うとなんだけど……思い過ごしであって欲しいというか……」

みゆき「病気で弱っているせいで精神的にも落ち込んでおられる可能性も考えられないことはありませんが……そうなると……」

こなた「夜分に出歩くという事実と矛盾する。病気で体が弱っているのなら、部屋で寝ているはずだからね」

みゆき「仰る通りです」

こなた「だとしたら、かがみはどうしてもそこへ行きたかった……ってことだよね」

みゆき「なのに本日、かがみさんは学校をお休みになられた」

こなた「……やっぱりおかしい」

みゆき「はい……」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 05:44:28.01 ID:8eEcAXvq0

こなた(だとしたらどうしようか……まだ思い過ごしだという可能性も捨てきれないし……よし)

こなた「任せて。私が、かがみの様子を見てくることにするよ」

みゆき「でしたら私も御一緒させてください」

こなた「あ〜……いや、私だけで十分。というよりそっちの方がいいと思う」

みゆき「ですが……」

こなた「みゆきさんは家が反対方向だからさ、平日に遅くなっちゃうと家の人に心配されちゃうでしょ?」

みゆき「それはそうですが……」

こなた「さらに言えば、まだ何かあったんだと確定したわけじゃないし、そんな時に二人で押し掛けるのは……」

みゆき「そうでしょうか?」

こなた「つかさも何か調子悪いみたいだしさ。もし私達の思い過ごしであった場合、今度はつかさと変に拗れちゃうかもしれないから」

みゆき「……」

こなた「……ね?」

みゆき「……はい、わかりました。泉さんにお任せします」

こなた「なにか分かったらこっちの方から連絡するよ。それまでは待っててくださいな」

みゆき「すみません、ではかがみさんの事をよろしくお願いします」

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 05:57:00.32 ID:8eEcAXvq0

放課後。

みゆき「私は委員のほうで所用がありますので」

こなた(気を遣わせちゃってごめんね、みゆきさん)

こなた「わかった、バイバ〜イ」

つかさ「……ばいばい、ゆきちゃん」

こなた「それじゃあ私達は帰るとしましょっか」

つかさ「うん……」

こなた(本当にどうしたんだろ……? でも聞き難いし……ええい、やんわりと探ってみよう)

こなた「あのさ……どうかしたの? つかさってさ、今日は元気ないみたいだし」

つかさ「別に……風邪を引いてるだけ……」

こなた「そうなんだ」

つかさ「そう」

こなた(どっかの無口キャラみたいになってるし……私にはつかさの心の障壁を打ち破れそうにないよ……)

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:09:22.31 ID:8eEcAXvq0

下校途中。

つかさ「……じゃあね」

こなた「えっ? まだ、いつも私達が別れる場所までは来てないよ?」

つかさ「私ね、ちょっとだけ寄り道したい所があるから」

こなた「だったら私も、」

つかさ「ごめん。大したことない個人的な用事だから、こなちゃんとはここで……」

こなた「そ、そうなの……?」

こなた(明らかに拒絶されているよ)

つかさ「うん、そう」

こなた(これじゃ一緒に行くなんて言える訳ないし……だったら……)

こなた「あのさ、一つだけ教えて貰ってもいいかな?」

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:18:07.31 ID:8eEcAXvq0

つかさ「なに……どうしたの……?」

こなた「その、さ……今日……かがみってどうして学校を休んでるの?」

つかさ「……」

こなた(眼を逸らされた……しかも表情が目にみえて暗くなった……)

つかさ「……ごめん、その話は……あんまり聴きたくないし……話したくもないから……」

こなた「え……?」

つかさ「お姉ちゃんは少しのあいだ眠っているだけだよ……私はそうだって……思ってるから……」

こなた「……どういう意味なの?」

つかさ「それじゃあ……私はここで……」

こなた「あっ……!」

   コツ……コツ……

      コツ……コツ……

こなた(行っちゃった……)

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:32:17.13 ID:8eEcAXvq0


   ビュォォォオオ―――!!!


こなた「風が身に沁みるぅ……」

こなた(つかさの言葉は意図が掴めない……だけど……)

   ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … …

こなた(つかさは私に何かを隠している。それもかがみの事で。これだけは間違いない)

    ド ド ド ド ド … …

こなた(でも、そのかがみが学校で姿を見せていないし、私が送ったメールにも依然、返信がこないまま……)

   ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

こなた(だったら……私がやることは……)


        /´〉,、     | ̄|rヘ
  l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
   二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
  /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
  '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                `ー-、__,|     ''

こなた「確かめなくちゃあ……な……」

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:38:21.73 ID:8eEcAXvq0

柊家、門前。

   コッ……コッ……

こなた(考えてもみれば、つかさと一緒じゃなくて却って良かったのかも……)

   コッ……コッ……

こなた(つかさが居ると色々と訊ねづらいし……よし……だったら今のうちに……)

   ピィィィィィンポォ〜〜〜ン

こなた「ごめんくださぁーい!」

   がちゃっ

ただお「……おや、こんにちは」 ニコッ

こなた「あ、こんにちは……」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:45:27.77 ID:8eEcAXvq0

ただお「つかさとは一緒じゃなかったのかい?」 ニコリ

こなた「あ、はい。下校途中で別れましたので」

ただお「そうかい……」 ニコニコ

こなた「あの……」

ただお「うん?」

こなた「かがみちゃんは……」

ただお「……」

こなた「いらっしゃいますか?」

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 20:53:01.15 ID:8eEcAXvq0

こなた「……」

ただお「……」

   シィ〜ン……

こなた「……あの」

ただお「残念だったね」

こなた「……え?」

ただお「かがみは外出中だから、今は家に居ないんだよ」

こなた「外出中って……どこへ……?」

ただお「遠くへ……かな」

こなた(遠く……?)

ただお「そういう訳だから……ね?」

こなた「あ、はい。失礼します……」

ただお「また今度。季節がら交通量も多いし、暮れ時は事故も多い。帰りは気を付けなさい」

こなた「はい……では……お邪魔しました……」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 21:06:58.28 ID:8eEcAXvq0


   がちゃっ   ぱたん

こなた(なんだか非常に居辛かったから外に出ちゃったんだけど……)

こなた(どう考えても腑に落ちないよ。かがみが外出中なんてそんなこと……ある訳ないよ……)

こなた(でも確かに、玄関にはかがみの靴が無かった……下駄箱の中までは探れなかったけど……)


   ビュォォォオオ―――!!!


こなた(寒っ……)

   ざわぁっ……

こなた(うわ、神社の方の木がすんごい揺れてる……)

こなた(そういえば昔話か何かで、おいでおいでをする木の話ってのがあったっけ……)

こなた(季節がら早くも陽が翳ってて……なんだか不気味だけど……でも、みゆきさんに届いたメールの件も気になるし……)

こなた(だったら!)

   ザッ――!

こなた「あの場所へ行かなくては」

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 21:13:23.73 ID:8eEcAXvq0

神社、石段。


   コツ……

      コツ……

こなた(気味が悪いよまったく……人も全然いないし……)

   コツ……

      コツ……

こなた(オバケだとかなんとかは信じないタチだけど、陰鬱な雰囲気の場所って否応なく心に訴え掛けてくるっていうか……)

   コツ……

      コツ……

こなた「はぁ……」

   コツ……

      コツ……

こなた(こんなことなら、みゆきさんに付き合って貰えばよかった……)

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 21:22:51.34 ID:8eEcAXvq0

通行人「こんな暮れ時に参拝とは精がでますのぅ」

こなた「えっ――!?」

通行人「おやおや、脅かしてしまいましたかな? すまないねぇ、すれ違う人に声を掛けるのが性分なものでねぇ」

こなた(下を向いていたから気が付かなかったよ……)

こなた「……いえ、ちょっと考え事をしていたもので、ボーっとしてただけです。こんばんは」

通行人「ええ、えぇ、こんばんは」

こなた「あの……いつもこちらへお参りに?」

通行人「そうですねぇ……一日に何度も参りますもので。歳をとるとこういったことが習慣になってしまうからねぇ」

こなた「そうなんですかー」

通行人「ええ、歳をとるとどうにも人恋しくなるものでして。それで挨拶がてら、声を掛けることにしとります」

こなた「はぁ……そういうものなのかもしれませんね……」

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 21:35:59.44 ID:8eEcAXvq0

通行人「それにしても……私は相当に怖い顔をしているのかねぇ……?」

こなた「いえ……取り立ててそのようには見えませんけど。ってことは何か、あったんですか?」

通行人「いやねぇ、昨夜も大層に驚かれてしまったもので」

こなた(昨夜……?)

通行人「まるでオバケにでも会ったかのように棒立ちとなられて……こっちの方がびっくりしたので足早に御暇しましたが」

こなた「オバケ、ですか……」

通行人「だけれど、片割れさんは気丈で礼儀正しい方でして。今どき珍しいと言いましょうかねぇ」

こなた(片割れ……ってことは、複数人?)

こなた「あの、ちなみにどんな人でしたか?」

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 21:52:13.40 ID:8eEcAXvq0

通行人「どんなと言われましても……ここらは御覧の通り暗くてねぇ……若い女の子二人組としか……」

通行人「仮に明るかったとしても、すれ違う人の顔なんて私の使い古された頭じゃあ……憶えきれないものでして……」

こなた(もしかして、その人はかがみ……? だとしたら特徴……かがみの特徴を挙げれば……となると、アレしかない)

こなた「髪型はどんな感じでしたか?」

通行人「髪? 気丈な方はスラリと長くて、もう一人は短かかった……ような」

こなた「リボンは着けていませんでしたか? それと出来ればその時間帯もお願いします」

通行人「リボンは無かったと思いますねぇ……時間は真夜中の……午前零時前後くらいかねぇ……私の習慣通りだとですけど」

こなた(午前零時……ってことは入浴後? なら、近場への外出にリボンをしていない可能性も大いにありえるけど)

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 22:02:28.58 ID:8eEcAXvq0

こなた(かがみだという確証はない……だけど、真夜中にここに来る人なんて多分そんなには……)

こなた「質問ばかりで申し訳ないんですが、ここへはよく来られるんですよね?」

通行人「ええ、えぇ、先に申しました通りほぼ毎日」

こなた「でしたら、夜中に人とすれ違うことって割とあるものなんですか?」

通行人「ほとんど無いと思いますねぇ……たまに逢引しておられる方が……まぁ……」

こなた(やっぱり、みゆきさんへ届いたメールの時間帯から考えても、かがみである可能性が非常に高い)

こなた(でも……だったら方割れは……誰? つかさ? でも、メールの内容から察すれば、かがみは『一人』だって……)

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 22:20:10.24 ID:8eEcAXvq0

通行人「私も若い頃はねぇ……」

こなた「……?」

通行人「大切な方や友人達と神社へ遊びに来たもんですよ……今みたいに、ハイカラな遊び場なんてなかったからねぇ……」

通行人「その時、自分がどう思っていたかなんて……それすらももう……思い出せないのが悲しく感じますが……」

通行人「そう、寂しいもんですよ……憶えておかなくてはならない人のことまで、無かった物のように消えていくというのは……」

こなた「つかぬ事を御伺いしますが……」

通行人「いえいえ、やめておいてください。私の記憶からだけでなく、お迎えが来られた方ばかりですので」

通行人「そういう人の話を、こんな場所でするのはよろしくない。よろしゅうないんです」

こなた「……そうですね。その方たちには……残念です。すみません、余計なことを聞いてしまって」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 22:29:37.23 ID:8eEcAXvq0

通行人「いいさ、いい……。歳には勝てんよ、どうしようとも。私にはわかる」

こなた「……だからこの場所に? この場所が懐かしいから……」

通行人「さあ……どうでしょうな? ……おぉっと、話込んでいるうちに夜の帳が下り始めて参りましたね」

こなた「言われてみれば、かなり陽が傾いてますね」

通行人「……それじゃあ私はそろそろ」

こなた「……そうですね、私もそうします」

通行人「この辺りは陽が沈むと見違えるほどに暗くなる。あまり遅くならないよう、お気を付けて」

こなた「はい……そちらこそ……その、お気を付けて」

通行人「ええ、では」

   コツ……

      コツ……

こなた「あの人……」

こなた(……いや、今の私がやるべきことは、かがみを探すことだね)

   コツ……

      コツ……

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 22:41:40.27 ID:8eEcAXvq0

神社、境内。

こなた(予想はしてたけど、やっぱり人がいない……私も初詣くらいにしかお参りには来ないし当然なのかもね……)

   ざわっ……

      ざわっ……

こなた(なんで神社ってこんなに木が多いんだろ……不気味で堪んないよ)

こなた(それで、かがみは一体どこに……そもそも、私が今さら神社を探して意味があるのかな……?)

こなた(まあいいか、まずは適当に歩き回ってみよう)

   ざっ……

      ざっ……

こなた(砂の地面……まさかこの下に埋まってたりはしないよね……RPGじゃないんだから……)

   ざっ……

      ざっ……

こなた(建物の陰にも居ないし……って、そんな場所に居るっていう事態は願いたくないけど……)

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 22:51:27.15 ID:8eEcAXvq0


   ざっ……

こなた(……よーし)

   すぅ〜〜〜

こなた「かーがみーんやぁ〜〜〜い……! どーこにいるのぉ〜〜〜……?」

   いるのぉ……

こなた(気持ち悪っ……自分の声にリバーブやエコーが掛かって返ってくるし……)

こなた(音響さん仕事しすぎだよ……)

こなた「はぁ」

こなた(他に探せそうな場所……あ、そういえば星が綺麗ってメールには書いてあったっけ?)

こなた(だとしたら、もっと星が見えやすそうな場所に……となると、どこがあるんだろ?)

   キョロキョロ

こなた(あれ……? あの木々が茂ってる場所、他の所に比べると草が少しだけ掃けてるような……)

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/31(水) 23:04:02.88 ID:8eEcAXvq0

こなた「あっ……」

こなた(やっぱそうだ、ここって道になってる。それに新しく生えてた草が踏み倒された跡があるし)

こなた(ということは最近、誰かが通ったってことだよね? ……だったら、念の為にも行ってみよう)

   わささっ……

こなた「うぅ〜〜……」

こなた(スカートで来るんじゃなかったー……! 脚に草が当たってすごい気持ち悪い。主に太股がきもい)

   ざっ……ざっ……

こなた(それにここ、ものすんごく暗い。木が多すぎて空が見えないし、ただでさえ時間帯もアレだし)

   ざっ……ざっ……

こなた(これで骨折り損だったら泣けてくるよ……ま、かがみが本当に外出中ならそれに越したことはないけどさ)

   ざっ……ざっ……

こなた「はぁ……寒い……」

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:06:33.00 ID:63zex9TJ0

こなた(もし、かがみがこんな所へ……しかも真夜中に一人で来ていたとしたら……)

   ざっ……ざっ……

こなた(その動機はどう考えても『気が向いたから』の一言ですまされる範疇じゃあないよ……)

   ざっ……ざっ……

こなた(だって、まだ辛うじて陽があるこの時間帯に……こうやって歩いている私ですら恐いのに……)

   ざっ……ざっ……

こなた(だとしたら、よっぽどの理由があったか……或いは、あのすれ違った人の話通り誰かと一緒にいたか……)

   ざっ……ざっ……

こなた「だんごっ……だんごっ……だんごっ……だんごっ……」

   ざっ……ざっ……

こなた(歌った所で仕方ないよね。自分の声に天然性リバーブが掛かるから余計、気味悪くなるし)

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:11:37.51 ID:63zex9TJ0

   ざっ……

こなた(あっ……! あっちの所、木々が抜けてる)

こなた(道……っていうほど立派じゃないけど、踏み倒された草もあっちへと続いているみたいだ)

こなた(なら、あそこが終点ってことか)

こなた「……うん」

こなた(行ってみよう……!)

   ざっ……ざっ……

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:26:59.44 ID:63zex9TJ0

境内奥側、崖上。


   ヒュゥゥゥォォォオオ――……

こなた「なに……ここ……」

   ざわぁ……

      ざわぁ……

こなた(背後には鬱蒼とした森林地帯。なのにこの場所だけ抜けているし、当然ながら空も見えるので明るい)

こなた(そして前は……切り立った崖になってるみたい……)

こなた(地域がら平坦な土地のせいか、かなり遠くまで見通せるんだね……)

こなた(自分が何年ものあいだ住んでいる街なのに、こうしてみるとなんか新鮮だよ……)

こなた「ふぅ〜」

こなた(そんな感傷に浸っている場合じゃないか)

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:28:10.13 ID:63zex9TJ0

こなた(えーっと……空も見えて、街灯りが見えて、しかも辺りは暗い……)

こなた(夜に来たなら……メールの文面通り『綺麗』という言葉にも頷けると思う……)

こなた(だとしたら……様々な情報を照らし合わせて考えると、かがみはこの場所へ来ていたとしか考えられない)

こなた「かがみぃ〜ん……?」

   ざわぁ……

      ざわぁ……

こなた(……返事が来るわけないよね。でもなにか……この辺りに……)


271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:34:43.04 ID:63zex9TJ0

こなた「……ん?」


   ヒュゥゥゥ――……


こなた(なんだろう……何か草むらの中に落ちているようだけど……)

   ざっ……

こなた(あの森の中に比べたら明るいとはいえ……暮れ時と草むらで足もとがよく見えないなぁ……)

   ざっ……

こなた(でも草が生えているんだから大丈夫だよね?)

   ざっ……

こなた(でも何が落ちているんだろ……あれ、あの形って……)

   ざぁっ――!

こなた「えっ、うわっ――!?」

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:44:56.33 ID:63zex9TJ0

   どさっ!

こなた「いたっ……!」

   ざわぁ……

      ざわぁ……

こなた(あいたたた……絡まった草に足を捕られるとは……それなんてブービトラップだよぉ〜……)

こなた(制服に汚れがついちゃったし……これ、手で払ってとれるかなぁ……)

   ぱっ ぱっ

こなた「うぅ〜〜〜とれなぃ〜〜〜……うん?」

こなた(屈んでからよく観察してみると、この辺りって地面が……)

こなた(あ、ちょうど石が落ちてた。これで……!)

   コロっ……

こなた「えっ……?」

こなた(あっぶな! あのまま直進してたら落ちてたじゃん私っ! 九死に一生じゃんっ!)

こなた(そうか、草のせいで崖が直線っぽく見えてはいるけど、実際は波線のようになっているのか……)

こなた(気を付けようっと。一旦、迂回してアレが落ちてるとこまで行かなきゃ)

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:51:47.06 ID:63zex9TJ0

   ざっ……

こなた「……やっぱりだ」

こなた(やっぱり……コレ……)

   ひょい

こなた(なんでこんなものが……って、これじゃあまるで……)

こなた(本当にかがみが……)


   ザァァァァアアアアっ……


こなた(だってコレ……かがみの……靴じゃん……)

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 01:59:25.89 ID:63zex9TJ0


   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

こなた(だからおかしいと思ってたんだよ! つかさの態度がっ!)

   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

こなた(何を聞いても素っ気ないし、何を話しても味がないし!)

   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

こなた(考えたくはなかったんだけど……あのメールの文面からある程度は予想していたんだけど……!)

   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

こなた(もし本当だったら、最悪の可能性じゃん! かがみが崖から……だなんて!)

   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

こなた(確かめなきゃ! つかさでも誰でもいいから、聞いて確かめきゃ!)

   ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……!

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:07:47.77 ID:63zex9TJ0

神社、石段。

   コッコッコッコ……

      コッコッコッコ……

こなた(そんなの嘘だ、嘘っぱちだ!)

   コッコッコッコ……

      コッコッコッコ……

通行人「そんなに走るとまた危ないよ……」

こなた「大丈夫ですから! 気にしないでくださいっ!」

   コッコッコッコ……

      コッコッコッコ……

こなた(急がなきゃっ……できるだけ早く……!)

289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:16:21.61 ID:63zex9TJ0

柊家、門前。

こなた(あの家の前に居るのはっ――!)

こなた「つかさっ! ……はぁ……はぁ、ちょっと質問させて!」

   ドクッ……ドクッ……

つかさ「こなちゃん……」

こなた「はぁ……はぁ……知ってるんじゃないの……はぁ……何かをさぁ……はぁ……!」

つかさ「……」

こなた「ねぇ……はぁ……本当の……ことを……はぁ……教えて……」

   ドクッ……ドクッ……

つかさ「……なにを?」

こなた「とぼけないでよ……私、知ってるんだから……」

   ガサゴソ

こなた「これっ、かがみのじゃん!」

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:22:25.53 ID:63zex9TJ0

つかさ「……」

こなた「はぁ……はぁ……」

   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…

つかさ「……」

こなた「……」

   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…

つかさ「見つかったんだ……」

   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…


つかさ「お姉ちゃんの……」


   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…


つかさ「遺品……」


   トクッ…………


こなた「……え?」

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:31:10.03 ID:63zex9TJ0

こなた「それって……どういう……」

つかさ「そのまんまの意味だよ……」

こなた「だからっ……!」

つかさ「ソレ……どこで見つけたの……?」

こなた「コレは……神社の奥の……そのずっとずっと奥の……崖のとこで……」

つかさ「……だったら……もう……私が言わなくても、こなちゃんには判ってるんじゃないの……?」

こなた「嘘だよ……そんなの……」

つかさ「……」

こなた「そんなの嘘に決まってるじゃん!」

つかさ「違うよ……それが嘘じゃないってことくらい……私にはわかってるから……」

こなた「違うっ――!」

つかさ「違わない! こなちゃんがそう思おうとしてるのと同じぶんだけ! 私だってそう思おうとしたんだからっ!!」

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:45:52.17 ID:63zex9TJ0

こなた「つかさ……?」

つかさ「でもね……嘘じゃなかった……」

こなた「……」

つかさ「お姉ちゃんはね……昨日の夜遅くにね……一人で神社に行ってね……」

こなた「……」

つかさ「飛び降りちゃったの……崖から……それが麓で見つかって……でも……靴だけが見つからなくて……」

こなた「じゃあ……コレは……」

つかさ「偶然脱げたのかまでは判らないけど……お姉ちゃんって……律義だから……」

こなた「嘘だよ……だって葬式とか……」

つかさ「ううん……飛び降りって……普通の逝き方じゃないから……」

つかさ「事件性の有無を調べる為に……お姉ちゃんはここには居ないの……」

つかさ「だから……だから私だって信じられないんだよ……!」

つかさ「静かすぎるから……お姉ちゃんが居た部分だけが静かで……それ以外の他の部分はいつも通りだから……」

つかさ「だから……何事もなかったように……私が学校から戻れば……悪い夢から醒めたみたいに帰ってきてるんじゃないかって……」

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 02:57:30.92 ID:63zex9TJ0

つかさ「でもやっぱり……お姉ちゃんは……遠くへ行っちゃった……」

つかさ「私だけ……置いてかれちゃったよ……」

こなた「そんな……」

つかさ「ふたご座流星群の日を選んだのは……もしかしたら私と……」

つかさ「そんな判り難いメッセージを残すくらいなら……私にも言ってくれれば良かったのにっ――!」

こなた「つかさ……」

つかさ「……」

こなた「ふたご座流星群……星……」


   『あのさ、星っていいと思わない?
    綺麗だし。いつまでも光ってるし。たぶんこの先もずっと消えないんだろうなって。』


こなた「かがみは……ずっと一緒に、つかさと居たかったんだよ……」


   『どうせなら、つかさと一緒に見たかったなぁ〜なんてね。』


こなた「でも……それを言っちゃうと……つかさまで連れて行っちゃうから……だから、多分……かがみは……」

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 03:10:51.26 ID:63zex9TJ0

つかさ「そんな……それにしたって……言ってくれれば……私だって……!」

こなた「そうなるから言えなかったんだよ……きっと……かがみは頭が良いし……それに優しいから……」


   ヒュォォォオ―――……


こなた「はぁ〜〜〜〜……そっかー……そっかぁ〜……」

こなた「あははっ……かがみらしいや……」

こなた「かがみってさ……ああ見えてかなりの寂しがり屋だからさぁー……」

こなた「なんだかんだ言ってて結局、そんなんなんだよね……」

こなた「私にだってさぁ〜……言ってくれれば……良かったのにさぁ……」

つかさ「私だってそうだよ……」

こなた「でも……今さら……今さらすぎて……遅すぎたんだけどね……」

つかさ「……」

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 03:17:02.31 ID:63zex9TJ0


   コツ……


こなた「じゃあ……私は……そろそろ帰るね……なんだか酷く疲れちゃったし……」

つかさ「……」

こなた「つかさは元気をだしなよ? かがみのメッセージの意味を……よく汲んでね……」

つかさ「うん……」

こなた「でもなぁ……あんなメッセージを残すくらいなんだもん……」

こなた「かがみん……絶対に……寂しがってるんだろうなぁ……ははっ……」

つかさ「……そうだね」

こなた「……それじゃあね、つかさ」

つかさ「それじゃ……」


   コツ……コツ……

      コツ……コツ……


315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 03:29:33.26 ID:63zex9TJ0

失意露わに歩き去って行くこなちゃんが、路地の陰に消えるまでを。
私は、じっと見届けていた。
こなちゃんの小さな体。
それがいつも以上に小さくみえた気がして……。
私は何だか酷く気の毒なことをしてしまったんじゃないかと……そう感じた。

やがて、長らく外に居たせいで私の冷え切った体には震えが走るようになり、
尚も刻々と冷たさを増していく風に耐えきれなくなったため、私は静かに屋内へと戻った。

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 03:44:03.51 ID:63zex9TJ0

柊家、キッチン。


   コトコトコト……

つかさ(タイミング……タイミングだよね……)

   コトコトコト……

つかさ(あとはどのタイミングで……メールを出すか……)

   コトコトコト……

つかさ(それは良いとして、これの味はどうだろ……)

   ずずずっ

つかさ(うんっ……味も何もない料理だけど、ひとまずは美味しいかな……)

   コトコトコト……

つかさ(あとは下校途中、こなちゃんと別れた後で、私が寄り道して買ってきたアレを淹れてと……)

   こぽこぽこぽっ

つかさ「でっきあっがりぃ〜」

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:01:11.97 ID:63zex9TJ0

   コンコンっ

つかさ「入るよぉ〜」

   がちゃり

かがみ「あら……なによソレ?」

つかさ「お粥と、お姉ちゃんの為にと買ってきた生姜湯だよ。いま作ったの」

かがみ「流石は私の可愛い妹よ! ――っひ、ごっふぁ! ブルスァ!」

つかさ「あれまー、随分と酷くなっちゃったね……」

かがみ「うぅ〜……昨夜の天体観測でトドメを刺されちゃった感じかな……」

つかさ「だから外出しないほうがいいって言ったのに」

かがみ「そんなこと言ったって、妹の誘いなんだから断れる訳ないでしょ……っくしゅ!」

つかさ(自分から強引についてきたくせにぃ〜……)

かがみ「あっ、そうだ。そんなことよりアンタ、いい加減に私のケータイを返しなさいよ」

つかさ「代わりに昨日、私が読んでたミステリー小説を貸したよね? あれを読み切るまでは……」

かがみ「だーーーめっ! 私が休むと皆が心配しちゃうじゃないの。早く返さないと、犯人言っちゃうわよ?」

つかさ「でも待って! お願いだからあとほんの少しの間だけ貸してて。ちょっと色々やってるから。あとは仕上げだけ」

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:10:12.52 ID:63zex9TJ0

かがみ「……仕上げって……なんなのよ?」

つかさ「う〜んとねぇ、実はぁ……昨日ミステリー小説を読んでてさぁ……それで流れ星を見に行ったでしょ?」

かがみ「そうだけど、それがどうかしたの?」

つかさ「それでね……願い事は自分の手でってお姉ちゃんに言われたから……」

かがみ「うんうん」

つかさ「私の書いたシナリオで、どこまで対等に渡り合えるかなぁ〜って試してみようと思って……それで……」

かがみ「ほうほう、それでそれで?」

つかさ「予想通り、お姉ちゃんが風邪で休んじゃったからさ……思い切って実行してみたの」

かがみ「実行って……?」

つかさ「えと、つまりぃ〜〜〜……今のお姉ちゃん、死んだことになってるから」

かがみ「……はい?」

つかさ「まぁまぁ、じゅんぐ〜りに説明していくから聞いててよ」

かがみ「……まぁ、話くらいはいいけど」

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:23:41.97 ID:63zex9TJ0

つかさ「ただね、公平さを保つ為っていうか……実質的な協力者を作るのは無理だったから……」

つかさ「その辺りの調整が難しかったんだよ。唯一自由に動かせるのは、私の演技くらいのものだし」

かがみ「……どういう事をやったのよ?」

つかさ「まずはお姉ちゃんの携帯電話で意味深なメールをゆきちゃんに送って……」

かがみ「……そんなことを勝手に……?」

つかさ「私が学校で落ち込んでいるフリをすれば、それが元でメールの真意が気に掛かるのは確実」

つかさ「……なぜかメールを受けた筈のゆきちゃんじゃなくて、こなちゃんが来たのは予想外だったけど」

かがみ「……で?」

つかさ「あとは私が動き過ぎると怪しまれるだろうから、敢えて付かず離れずの立ち位置を保つのもポイント」

つかさ「例えばお父さんやお母さん、まつりお姉ちゃんにいのりお姉ちゃん……」

つかさ「その人達には『風邪で休んでいるお姉ちゃんの友達が来たら、外出してると答えて』と言っておくの」

かがみ「……そんなの上手くいくわけないじゃん」

つかさ「ものは云い様ってことだよ。『お姉ちゃんの性格上、遊びの誘いを断れないから』って付け加えればオッケーなんだもん」

つかさ「だってお姉ちゃん、昨日の晩だって風邪引いているのに無理に出ちゃって……その結果が御覧の有り様だよ?」

かがみ「うっ……」

341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:35:28.57 ID:63zex9TJ0

つかさ「でも、お父さんって嘘が下手だから……咄嗟に『遠くへ』なんて答えちゃったそうだけど……」

つかさ「だけど、偶然にもそれが良い方向へと働いたみたい」

かがみ「……私はどういうことになっているの?」

つかさ「昨日、二人で崖に行ったよね? 鎮守森の、その奥のとこ」

かがみ「うん」

つかさ「あの時、あの場から飛び降りたことになってる。それも一人で」

かがみ「……」

つかさ「あとはお姉ちゃんの靴をあの場所に用意したし……」

つかさ「お姉ちゃんが家に居ないことは小説のアイディアを借りて『事件性の有無の検証』ってことで誤魔化す」

つかさ「どっちみち、すぐに真実を明かす気だったから長期的じゃなく、短期的な嘘が成り立てば十分なんだし」

つかさ「まさに偶然が重なって生まれたシナリオだよ。ミステリー小説、流星群、そしてお姉ちゃんの風邪」

つかさ「ぜんぶ、あの最初の時点から始まってたのかなぁ〜って」

かがみ「……それで、騙された相手は?」

つかさ「こなちゃんなら、さっき帰ったよ。お姉ちゃんのことを『寂しがり屋』だって言ってた」

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:44:43.38 ID:63zex9TJ0

つかさ「意外だったよ。すっごくね。まさか思い通りに事が運ぶなんて……」

つかさ「私もやれば出来るんだなぁ〜って、変な自信がつきそうだよ」

かがみ「あのさ……あんたさ……」

つかさ「……なに?」

かがみ「最低だよ。私の可愛い妹が、まさかこんな人間だったとは思いもしなかったわね」


   ざわっ……


つかさ「……え?」

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 04:54:06.53 ID:63zex9TJ0

かがみ「自分のしたことの意味が……あんたは、わかってるの?」

つかさ「わかってるよ。だから、今からメールを送ってミステリーツアーでしたって事を……」

かがみ「わかってない。あんたはなんにも判ってない。私が言いたいのは、そういうことじゃあないわ」

つかさ「あぅ……ニセ自殺のデマの為に、お姉ちゃんが酷い事になってたってのは謝るから……ごめん……」

かがみ「そうじゃない。私のことなんてどうでもいい」

つかさ「えと……」

かがみ「なんであんたのシナリオ通りに事が運んだのか。その部分をあんたは、ちぃっとも理解できてない」

かがみ「……そういう人達を騙すなんて……あんたは最低よ」

つかさ「……」

かがみ「……」

つかさ「……わかってないのは」

つかさ「わかってないのはお姉ちゃんの方なんじゃないの?」

つかさ「私がどうしてこんな事をしようとしたのか……私のことなんて、誰もわかってない」

つかさ「私には私の考えがあるの……だからこそ私はこうやって計画を立てたんだから!」

354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:05:45.67 ID:63zex9TJ0

かがみ「そう……あんたはそう言うんだ……だったら……」

   スッ……

かがみ「このお粥も生姜湯も、私はいらないわ」

つかさ「……どうして?」

かがみ「そんな人間なんて私は信じられないもの……」

かがみ「ほら……もしかしたら今度こそ本当に殺す為に、毒が入っているかもしれないでしょ?」

つかさ「そんなこと……私が……するわけないよ……」

かがみ「その確証はどこにもないわ。だって私は、あんたのことを何にもわかってないらしいし」

つかさ「……」

かがみ「出て行って。私の携帯電話は暫くのあいだ、お前に貸しておいてやるわ」

つかさ「……」


   ガチャ……

         ……パタン

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:15:54.18 ID:63zex9TJ0

柊家、つかさの部屋。


つかさ(なんにもわかってない……本当に誰も彼も、なんにもわかってない……)

つかさ(私がどうしてこの計画を立てたのか……そこの所をなんにもわかってない……)

つかさ(だけどいいや。こなちゃんにドッキリだったと伝えるメールを送るのは、また別の問題)

つかさ(ここまで運べた計画は、最後までやり遂げてこそだから……)


   パカっ

   ピッ……ピピッ……


つかさ(届いていたメールの内容は、『いきてますか?』だね……だったら……)


   『い……き……て……ま……す……よ……』


つかさ「……っと」

つかさ(これでいいかな。なかなかにスマートだと思うし……)

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:20:56.66 ID:63zex9TJ0


   ぴろりんっ♪


つかさ「……わっ」

つかさ(まだ送ったばかりだっていうのに、いやに返信が早いんだね)

つかさ「なになに……」


   パカっ

   ピッ……


つかさ「……えっ……なに……これ……どういう……?」

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:34:05.48 ID:63zex9TJ0


From:こなた
Sub:無題

だましたんだわたしのこと
そんなことならはやくいっ
てくれればよかったのにで
ももうおそいしみたいだし
クビがはずれないしどうし
ようもないところまできち
ゃた。だけどわたしはゆる
さないからねつかさのこと
をさおぼえとけよ。もしつ
かさかわすれてもわたしは
わすれないからとちらても
いいけとこのまましゃおわ
らないことたけはたしから
たからそれたけはわすれる
なよ


383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:44:50.99 ID:63zex9TJ0

あいたたた、またミスだ
眠いとどうにも駄目みたい
正しくは下の文章。上のと違う部分は『つかさ』が『おまえ』に訂正されるってとこ
セリフだと人名多すぎてどうもね


From:こなた
Sub:無題

だましたんだわたしのこと
そんなことならはやくいっ
てくれればよかったのにで
ももうおそいしみたいだし
クビがはずれないしどうし
ようもないところまできち
ゃた。だけどわたしはゆる
さないからねおまえのこと
をさおぼえとけよ。もしお
まえかわすれてもわたしは
わすれないからとちらても
いいけとこのまましゃおわ
らないことたけはたしから
たからそれたけはわすれる
なよ

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:47:39.70 ID:63zex9TJ0

つかさ「なんなのぉーこれぇ〜……!?」

つかさ(この携帯電話は1行12文字。ってことは改行がただの1回すら挟まれていないってこと?)

つかさ「お姉ちゃ……」

つかさ(……にすぐ頼るから私はいけないんだ。気持ち悪いけど自力で解読しつつ読まなくちゃ……)


『騙したんだ私のこと、そんな事なら早く言ってくれれば良かったのに。
 でも、もう遅いしみたいだしクビが外れないしどうしようもないところまで来ちゃった。』


つかさ(……クビ? それはともかく、漢字が無いし打ち損じがある……)


『だけど私は許さないからね、お前のことをさ。おぼえとけよ。』


つかさ(許さないって……)

396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 05:57:15.14 ID:63zex9TJ0

つかさ「次は……」

つかさ(あれ、濁点や半濁点が足りてない……それを足して読むと……)


『もしお前が忘れても私は忘れないからどちらでもいいけど、
 このままじゃ終わらないことだけは確からだから、それだけは忘れるなよ』


つかさ(また打ち損じもあるし……なんで……なんでそんな状況に……?)

つかさ(なんなのこれ、なんなの……?)

つかさ「そうだ……」


   ピッピピッ……


つかさ(電話帳からこなちゃんの番号へ掛ければ……)


   とうおるるるるる……

   とうおるるるるる……

   とうおるるるるる…………


   ただいま、電話に出る事ができません――

400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 06:02:49.41 ID:63zex9TJ0

柊家、門前。


   ダっ――!!!


つかさ「なにかまずいなにかやばい!」


   たったったった……


つかさ(急がなきゃ何か危ない気がする……というより……)


   たったったった……


つかさ(もう既に……違う、そんなことない……人がそんな簡単に……!)


   たったったった……


つかさ(違う違う違う違う――!!!)

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 06:13:03.66 ID:63zex9TJ0

泉家、門前。


つかさ「はぁ……はぁ……!」


   たっ……


つかさ「あの! つかさです! 誰かいらっしゃいますか!?」

   がらり

ゆたか「あっ、つかさ先輩こんばんは……どうしたんですかぁ?」

つかさ(どうしよう……ゆたかちゃんに話す……っていうのは、これが思い違いだった場合を考えると良くない……)

つかさ「あのっ、上がってもいいかな?」

ゆたか「どうぞー」

つかさ(ゆたかちゃん……なんの本を手に持ってるんだろ? やたら分厚いみたいだけど……いや、そんなことはいい……)

つかさ「こなちゃんはどこに……?」

ゆたか「お姉ちゃん……なら座敷の方にいるんじゃないんでしょうか? なにかやってたみたいですけど……」

つかさ「そう……ありがと。おじゃまします」

ゆたか「はぁ〜〜〜い、どうぞー」

419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 06:42:32.38 ID:63zex9TJ0

迂闊でした。
私は、すべてにおいて迂闊でした。

架空のミステリーを創り上げ、見事に人を騙し通せたという喜びに打ち震えていた私は、
座敷に居た友達の姿をみた瞬間、一挙にしてどん底へと叩き落とされました。

見落としていた肝心なプロット片。
それは騙す為に用いる仕掛け部分ではなく、
いつタネを明かしてエンディングを迎えるかというラストシーンにおいての部分。
もっとも遠くにあって、ミステリー小説においては軽視され易いと感じられる部分。結び目。
私が今までに読んできたそれらと、まったく同じ事を実演してしまっただということに……今さらにして気付かされました。
戻れなくなった今となって、気付くことができたのです。

迂闊でした。
私は過程にばかり気を取られ、その先に発生するはずの結果を見落としていたのです。
そして、それに伴う弊害も。
創作の世界ではなく、実在する人の心に与えてしまうダメージの大きさにも。
決定的な部分を見落としていたのです。

こなちゃんは座敷に居ました。ちゃんと居ました。
その足元には携帯電話が落ちていました。
そしてこなちゃんの両足は地面に着いてはおらず、傍には椅子が倒れ、
小さな体を引き摺る重力は、その首に掛けられた太い紐によって受けられていました。
こなちゃんが自室ではなく座敷を選んだ理由。自室にはなくて座敷にはあるもの。
それは、紐を掛ける為の場所、『欄間』があるからという端的なものに違いありません。

皮肉にも……それらが一目で見抜けてしまったのは……。
私がやってきたことに基づいた利得なのでしょうか。

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 06:54:43.18 ID:63zex9TJ0

つかさ「これ……そんな……嘘だよ……」

   ガタッ

つかさ「だって……そんな簡単に人が……死ぬわけ……自殺するわけ……」

   タッ……

つかさ「トリックが……きっとどこかにトリックが……」

   タッ……

つかさ「見えないガラス板か何かが……強力な磁石とか何かで浮いたりとか……」


   『かがみん……絶対に……寂しがってるんだろうなぁ……ははっ……』


つかさ(あっ――!)

つかさ(あの時の言葉と笑顔……まさか……そういう意味だったなんて……)


428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 06:56:14.01 ID:63zex9TJ0


   タッ……


つかさ(まさか後追いするなんて……そんなっ……)


   ダッ――!!!


つかさ(逃げなきゃ! 違う、私は悪くない! そんなことまでシナリオとして組んでない!)


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(これは事故だから! 人が自殺するなんてそんなこと……)


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(こなちゃんが死んじゃうなんてそんなこと……嘘っぱちだよ――!!)

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:02:35.79 ID:63zex9TJ0

柊家。

   ガチャッ!

   はぁはぁはぁはぁ……


かがみ「……うわっ!? そんな慌てて、なにしてんのよ?」

つかさ「……知らないよ……何も知らないっ……!」

かがみ「何が……?」


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ「私は違う、アレは私のシナリオじゃない!」

かがみ「ハァ……? それより、こなたの奴にはちゃんと謝ったの?」

つかさ(言えるわけない……本当のことなんて言えるわけがない……!)


   ダッ――!!!


かがみ「おい、つかさ!」

つかさ「うるさい! ほっといてよ!!」

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:11:39.94 ID:63zex9TJ0

柊家、自室。


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(きっとアレはトリックだ……絶対にそうだそうに違いない……)


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(だって私だってお姉ちゃんが死んだと見せ掛けるためメールで暗に仄めかすような……)


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(違うっ……私がメールのトリックを使ったのは『本当には殺せない』から……!)

つかさ(『本当に飛び降りるシーン』なんて創れないから……だからああいう遠回りな手を使ったんだ……!)


   はぁはぁはぁはぁ……


つかさ(じゃあ、こなちゃんはどうしてこなちゃんはどうして……なんで首を吊って……それを『実演』してたの……!?)

つかさ(どこから崩せるのこのシナリオは……こなちゃんのシナリオはどこが破綻してるの……どこがどこがどこが――!!)

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:22:47.95 ID:63zex9TJ0

アレは私の見間違いだ。きっとそう、きっとそうだ!
こなちゃんはきっと、ただでさえ低い身長を伸ばそうと思って、
ぶら下がり健康気かなんかを応用した技術を用いて身長を伸ばそうとしていた最中で、
そこにたまたま私が遭遇しちゃって、さらにそれを私が見間違えただけで、
その私の見間違えに根拠を付け加えるならたぶん『こなちゃんを騙してる』なんていう罪悪感が生み出した幻視であって、
だからこなちゃんが……しんじゃったなんてのは嘘で、明日になれば身長が15ポイントくらい伸びて、
ストップ高を迎えたこなちゃんが『やぁーやぁー皆さん』なんて言いつつ私を見下ろしてくるんだ……。

そうだっ、アレがあったじゃん!
ラストシーンにおいて尤も扱いやすく、すべてを『無かったこと』にできるオチ。
そうだよ、考えてみれば全部全部ぜぇ〜〜〜んぶ上手くいきすぎだもん。
私の創ったシナリオにこなちゃんが騙されて、そのうえ首を吊っちゃうなんてそんなこと……。
だってこなちゃんは私より頭の回転が早いし、私は皆やこなちゃんに追いつきたくて星に願おうとしたくらいなんだよ?

なのにそれがこうもバッチリ決まっちゃうなんて不自然すぎるよ。
うん、やっぱりこれで要素も足りてる。オチに至る伏線も足りてる。
そうだそうだ、これはアレだよ。

夢オチだよ。

だから醒める。
これは醒める。
こなちゃんに言った演技の言葉。あれも伏線だったんだよ、多分。

『だから……何事もなかったように……私が学校から戻れば……悪い夢から醒めたみたいに帰ってきてるんじゃないかって……』

ほら、醒める!
今に醒める!
きっと醒める!
きっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっと――

459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:35:42.05 ID:63zex9TJ0


   ぴろりんっ――♪


ひっ!?
なになになになになんの音――って携帯電話!?
なによ急に脅かしちゃって人が考え事してる最中に水を差すようなマネをしてくれちゃって――

ちがっ……嘘……よく考えれば今のメール着信音って……!?
そんなまさか……どうして……だってそんな……。
確かめればわかる。
みればいいだけ。
きっとこれも思い過ごし。
だから確かめても何の問題もないはず! 絶対そうだ! うん、そうだよ!!

ピッ……ピッ……。

なっ……なんで……。
やっぱりこれ……やっぱりこれって……夢……だよね……?
そんなことが起こる得る訳が……。

ピッ……。

こんなことが起こる訳が……

462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:38:22.87 ID:63zex9TJ0



From:こなた
Sub:そういえば質問に答えてなかったね

死んでます。あなたのせいで。



467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:43:47.76 ID:63zex9TJ0

つかさ(質問って……まさかあのメールに対する答え……!?)

つかさ(だったらなんで今頃……じゃない、なんで死んでいるはずのこなちゃんから!?)


   ピピピピピッ――!!!


つかさ「きゃっ!」

つかさ(今度は私の携帯電話に……?)


   ピッ……

      ピッ……


つかさ(こっちにも来てる……こなちゃんからのメール……)


   ピッ……


472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:54:38.63 ID:63zex9TJ0

From:こなちゃん
Sub:無題

こっちに送るね。
もう、わかっちゃったから。
つかさが仕組んでたってこと。
不思議だけど
死んで終わりかと思ったら
案外そうでもなくて。
死んでも終われない。
ってことみたいだ。
神社の由来って知ってる?
つかさなら知ってるよね。
元は強い怨みを抱いて
死んだ人の怒りを鎮める為
に立てられたんだって。
なんでそんなことを
する必要があったと思う?
私には分かる。
今の私には分かる。
これが答え。
今の私がその答え。
つかさも分かるよね?
だってつかさのせいで
私はこんなんなんだから。

475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 07:59:38.30 ID:63zex9TJ0


怨みはたさでおくべきか。
言葉の意味も今なら分かる。
便利なものだよね。
死んだら全てがお見通し。
いやぁ〜便利なもんだ。
あのさ、そんなに
驚かないでいいじゃん?
つかさ? 顔怖いよ?
それでね
一つ伝えておこうって
思ってさ。

待ってるから。私。
かがみが飛び降りた
ってつかさが言ってた
あの場所で。

今すぐ来いよこんちくしょう!
待ってるから。

じゃあね。
ああそうそう
わかってるとは思うけど
人に喋るとどうなるか
言わなくても解るよね?
怨みの仕組み。
つかさになら説明する
までもないだろうし。
じゃあ、お楽しみに。

486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/01(木) 08:15:59.38 ID:63zex9TJ0

つかさ(バレてる……私が犯人だってバレてる……!)

つかさ(直接的にはタネを明かしてないし、私がこなちゃんの家に行ったのはこなちゃんが首を吊った後のはず……)

つかさ(なのにバレてる――!)

つかさ(それに……神社に今すぐ来いって言われても……)


   タッ……タッ……


   がらり


   ヒュゥゥゥォォォオオ――……


つかさ(もう……外は完全に暗くなってるし……月明かりも雲に隠れて全然見えないよ……)


   がららら……ぱたん


つかさ(あの場所まで、私一人で行けっていうの……? それも……)


つかさ(私に怨みを抱いて死んだ人に、会う為に……?)

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:00:13.00 ID:o0rxjORe0

柊家、つかさの自室。


   がちゃっ


かがみ「ねぇ……」

つかさ「ひゃっ!」

かがみ「なーに驚いた顔してんのよ?」

つかさ「別に……なんでもないよ……」

かがみ「ふーーーん……そうなの……」

つかさ(隠さなきゃ隠さなきゃ隠さなきゃ……)

かがみ「こなたには許してもらえたの? 怒ってなかった?」

つかさ「う、うん……」

かがみ「……ならケータイ、返してよ。もう必要ないんでしょ?」

つかさ「そ、そうだけど……」

つかさ(あっ……こなちゃん関連のメールを消してなかった……)

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:12:33.32 ID:o0rxjORe0

つかさ「ちょっと待って!」


   ぱかっ

   ピッピッ……ピッ……

   『選択されたメールを削除しました』


つかさ(これでひとまずはバレないはず……)

つかさ「は、はい……えと……どうぞ……」

かがみ「……」

   スッ……

かがみ「じゃあね」


   がちゃっ……

      ……ぱたん


つかさ(うぅ〜〜〜……こなちゃんもだけど、こっちの方も怖いよぉ〜〜〜……)

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:22:35.46 ID:o0rxjORe0


   シィ〜〜〜ン


つかさ(行きたくない……あんな場所なんて行きたくない……)

つかさ(暗いし怖いし静かだし、それに絶対こなちゃんが待っているんだし……)

つかさ(なんでこなちゃんは死んじゃったの……だってそんな簡単に自殺しちゃうなんて……)

つかさ(そんな急に自殺しちゃうなんて……おかしいよ……お姉ちゃんの方は偽装だったからなのに……)

つかさ(私はただ……冗談のつもりで……ミステリーごっこを……演じただけなのに……)

つかさ(なのに……なのになのになのにっ……)

つかさ(…………)

   ぎゅっ

つかさ(嫌だよ……やっぱり……)

つかさ(友達が……死ぬなんて……そんなこと……嫌だよ・……やっぱり……)

つかさ(でも……それをやったのは私……こなちゃんが首を括っちゃったのは……私のせい……)

つかさ(直接的な加害者ではなかったとしても……殺したのは……私……)

つかさ(私なんだ……)

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:39:40.61 ID:o0rxjORe0

心臓がバクバクとうるさくて。
喉の奥がキリキリと痛くて。頭が変にズキズキと疼いて。
私が重力からは逃れられないのと同じように、絶え間なしの漠然とした恐怖感がのし掛かってくる。
それがこうまでも実感できてしまう。

考えたくない。
でも考えなくちゃならない。
すべての発端は私にあるんだから。
それらの原因を作ったのは、私自身なんだから。
逃げ出したいけど。耳を塞ぎたいけど。
そうすることが許されるわけがないから……。

そのようなことを何度も考えているうちに、私のなかにあった恐怖感は少しづつ薄れていきました。
代わりに後悔の念ばかりが浮かんできて。
それと同じぶんだけの諦観にも苛まれました。

私が始めたこと。
だったら、私自身の手で終わらせなくちゃならないこと。

『ここまで運べた計画は、最後までやり遂げてこそだから……』

それが例え、自分の立てた計画とは別に発生した、予定外のことだったとしても。
発端は私にあるのだから、責任をとらなくちゃならないのは私以外にはいません。

だったら……私は……

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:49:28.85 ID:o0rxjORe0


   がちゃっ


つかさ「……」

かがみ「……」


   ピッピッ……ピッ……


つかさ「……なにしてるの? 私の部屋の前で?」

かがみ「……なにも。ようやくケータイが返ってきたから、皆にメールを送っていただけよ」


   ピッピッ……ピッ……


つかさ「そう……」

かがみ「あんたこそ何かする気? 表情、変に暗いじゃない?」

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:54:39.64 ID:o0rxjORe0

つかさ「……なにも」

かがみ「……そう」


   ピッピッ……ピッ……


つかさ「……」

かがみ「……」


   ピッピッ……ピッ……


つかさ「……ごめん」


   ピッ……

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 21:59:53.60 ID:o0rxjORe0

つかさ「……」

かがみ「……」

つかさ「……少し、出掛けてくるから」


   タッ……


かがみ「……外、寒いわよ」

つかさ「わかってるよ……でも平気……だから……」


   タッ……タッ……

      タッ……タッ……


334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:12:13.15 ID:o0rxjORe0

柊家、門前。

   ヒュォォォオ―――……


つかさ(行かなくちゃ……鎮守森の……その奥へ……)

つかさ(お姉ちゃんが飛び降りたという……嘘がはじまった場所に……)


   コツ……コツ……


つかさ(寒いし……明かりがないから暗いし……怖いけど……)

つかさ(そんなことには構ってられない……)

つかさ(本当に恐いのは……暗さとか……風で揺れる木々とか……見えないオバケなんかじゃなくて……)

つかさ(こなちゃんの……私に対する……怨みなんだから……)

つかさ(それの原因を作った……私自身……なんだから……)

つかさ(だから……行かなくちゃ……終わらせなくちゃ……これで終わるように……償わなきゃ……)


   コツ……コツ……


つかさ(それにどうしても……こなちゃんに言わなくちゃないけないことが……まだ……あるんだから……)

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:17:13.87 ID:o0rxjORe0

神社、石段。


   ざわぁっ……

      ざわぁっ……


つかさ(前に来た時と同じで……人もいないし見通しも利かない……)


   コツ……

      コツ……


つかさ(でも……戻る訳にはいかないよ……)


   コツ……

      コツ……

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:22:43.63 ID:o0rxjORe0


   コツ……

      コツ……


通行人「おや……あなたは……」

つかさ「すみません、急いでいますので」

通行人「そうですか……暗いのでお気を付けて……」


   コツ……

      コツ……

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:30:41.39 ID:o0rxjORe0

神社、境内。


つかさ(ここにも人がいない……時間が時間だし当たり前だよね……)


   ざっ……ざっ……


つかさ(こなちゃんが待っているのは……奥の方……崖の所……そこへ行くには……)


   ざっ……ざっ……


つかさ(見つけた……ここだ……ここから森のなかへ入っていったんだっけ……)


   ざわぁっ……


つかさ(天候が優れないせいか、前来た時よりもずっと暗くて……トンネルのなかみたいになってる……)

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:41:27.29 ID:o0rxjORe0

境内奥側、鎮守森。


   わさっ……わさっ……


つかさ(道が合っているのか……不安だけど……)


   わさっ……わさっ……


つかさ(眼を凝らせばなんとか……草が倒れているのが……わかるみたい……)


   わさっ……わさっ……


つかさ(その辺の木の陰に何かが隠れていたり……しないよね……?)


   わさっ……わさっ……


つかさ(どっちにしろ……わざわざ隠れなくても……ちょっと離れるだけで見えなくなるんだけど……)

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 22:52:03.71 ID:o0rxjORe0

   ざっ……


つかさ(あっ……見えた……遠くのほうが明るくなってる……)

つかさ(あそこは木々が抜けてる場所だ……ってことは……道は正しかったんだ……)

つかさ「……」

つかさ(いるのかな……こなちゃん……)

   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…

つかさ(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…………でも…………)


   ぎゅっ


つかさ「逃げるな、私。行くしかないよ」


   ざっ……


360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 23:05:12.02 ID:o0rxjORe0

境内奥側、崖上。


   ヒュゥゥゥォォォオオ――……


つかさ「……」

   キョロキョロ……

つかさ(どこに……?)

つかさ「こなちゃん……来たよ……私……」


   ヒュゥゥゥォォォオオ――……


つかさ「……いるんでしょ……こなちゃん……?」


   ざっ……


つかさ(――えっ! 後ろから足音!?)

365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 23:20:48.56 ID:o0rxjORe0

「待っでたよ……づかさっ……」

私が振り向くと同時、やや離れた場所から声が聴こえました。
掠れてしゃがれ潰れた、おばあさんのような声色。
私はいつもとは違うその声の調子に戸惑いつつも、
それが誰であるかの区別は……辛うじて付けることができました。

「こなちゃん……だよね……?」

相手の姿がよく見えません。
相手は木々の茂った場所に立っているため、私の場所からではその輪郭がぼんやりとしか窺えないんです。

『確かに明るいと眼が光に慣れちゃうから、
 観測地点は暗い方が相対的に良いって……前にみゆきが言ってたけど』

不意にお姉ちゃんの言葉が思い起こされました。
私が月明かりの差す場所へと出たために眼が光に慣れ、相対的に暗い場所が見えなくなってしまったんだと思います。

けれども相手の背が低くて。
その右手で首根の辺りを押さえていることは……何となくにもわかりました。
まるで私がやったことを訴えるような雰囲気が。
ぼんやりとした輪郭からでも、伝わってきたからです。

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 23:36:17.46 ID:o0rxjORe0

こなた「こんな声に……なっ……ぢゃったよ……」

つかさ「……」


   ざわぁっ……

こなた「首に……ざぁ……体重が……さ……掛かったっ……せいで……」

こなた「……づかさの……せい……で……」

こなた「こんな……事に……なっぢゃ……たよ……」

こなた「ねぇ……見える……コレ……?」


   ざわぁっ……


つかさ(眼が慣れてきたせいかちょっとだけ見えるようになってきた……)

つかさ(首に……何か……巻き付いているアレは……紐……?)

つかさ「それ……欄間から吊るした……あの時の……こなちゃんが首を……」

こなた「そう……コレ……とれない……んだよ……コレ……どう毟っても……とれなくで……」

こなた「だけど……苦しくて……ざ……終われなくて……さッ……だから……」

こなた「コレを……とるには……必要な手順が……あるんだなっで……ね……ハハっ……」

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/02(金) 23:50:02.05 ID:o0rxjORe0

こなた「怨恨って……いうのがな……それに縛られっ……魂……」

こなた「地縛霊……に……なっちゃ……った……らしい…………私……」

つかさ「どうして……ここに……この場所に縛られて……?」

こなた「この場所に……遺恨を……残しちゃっ……らじ……くて…………」

つかさ「私の嘘が……やっぱり……」

こなた「ソレが……ソレさえ……ながったら……私は……こんな事に……は……ぐっ――ゴホッ……カホッ……」

つかさ「……」

こなた「ハァ……ハァ……」


   ゴォォォォオオオオ――……


つかさ「……ごめん……謝った所でどうにもならないけど……」

こなた「ハァ……ハァー……」

つかさ「まだ謝ってなかったから……それだけは言わなくちゃって思って……」

こなた「……」

つかさ「ごめんなさい……こなちゃん……」

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 00:00:49.21 ID:Cry5PIdg0

こなた「謝って……済む……なら……警察は……要らないっで……言うで……しょっ……」

つかさ「わかってます……何でもします……それで終われるのなら……」

こなた「その前……に……あと七歩……こっちへ……」

つかさ「……七歩って……なに……?」

こなた「こっちへ……」

つかさ「そっちに……歩けってこと……でいいの……?」

こなた「こっちへ……」

つかさ(手招かれてる……おいでおいでって……こと……?)


   ざっ……ざっ……ざッ……

      ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……


つかさ「……これでいいの?」

こなた「ゴホッ……それで……コホッ……いい……コホッ…………」

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 00:11:51.51 ID:Cry5PIdg0

こなた「ゴホッ……ハァ……条件……終わりにする……終われるっ……条件……」

つかさ「私が……ここから……崖から……」

こなた「――違うっ! そんなことじゃないッ!!」


   ざわっ……


つかさ「……」

こなた「……遺恨は……嘘……それが……鎖……私の紐を解く……条件……」

つかさ「じゃ……じゃあっ……どうすればっ……!」

こなた「嘘じゃ……なくなれば……ソレが……嘘で……なくせば……本当に……すれば……」

こなた「嘘なんか……じゃ……なくなる……」


   ざわっ――


こなた「かがみを……落とせ……それこそが……条件……」

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 00:26:07.66 ID:Cry5PIdg0


   ざっ……


つかさ「お姉ちゃんを……落とせって……崖から……下に……? ここから……下に……?」

こなた「ハァ……ハァ……そう……それこ……条……件……」

つかさ「そんなのっ……! お姉ちゃんは……関係……ない……よ……」

こなた「でも……私には……ハァ……有るから……仕方……ない……んざ……よ……」

つかさ「そんなの……だってお姉ちゃんは……嘘の事故で……死んだことになっただけで――」


こなた「くくっくっ……」


つかさ「……こな……ちゃん?」

こなた「くっくっくっく……くくっ……早く……くっ……会いたいなぁ……かがみに……」

こなた「私が……いなくなっで……寂しがっ……る……からっ……くくくっ……」

つかさ(まさか……あの去り際の一言までもが逆転して……今度はお姉ちゃんを……呼ぼうとしてるの……?)

こなた「早くっ……連れて……きてよ……ねぇ……早く……こっちに……さぁ……?」

416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 00:45:02.16 ID:Cry5PIdg0

おかしいよ……どこでどう拗れたら……
お姉ちゃんが生贄まがいにならなくちゃなんないの……?
だって、嘘を吐いたのは私で、嘘を創り上げたのも私。
お姉ちゃんは嘘の被害者で、何にも絡んでいない部外者。
なのになんで……どうして……

『お姉ちゃんはね……昨日の夜遅くにね……一人で神社に行ってね……
 飛び降りちゃったの……崖から……それが麓で見つかって……でも……靴だけが見つからなくて……』

それをどうして……実行しなくちゃいけいないの……?
おかしいよ……間違っているのは私なのに……おかしいよ……

そりゃお姉ちゃんは……私が本を読んでいる時に邪魔してきたし……
やたらベタベタしてくるし……ちょっかいを出してくるし……空気が読めないし……
そういうのが私にとっては煩わしく感じる時もあるけど……
だけど、だけど私はお姉ちゃんが嫌いなわけじゃないから……
本当に嫌いなら、風邪を引いたお姉ちゃんの為にお粥を作ったり生姜湯を買ってきたりはしないよ……
今日は食べてくれなかったけど……でも……それは私が悪かったからなんだし……だから謝ったんだし……

大体、そんな些細なことなんか何も関係なしにして。
お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんなんだから。

そのお姉ちゃんを突き落とすだなんて……
そんなことになるんだったら……だったら……私は……

426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 01:02:30.64 ID:Cry5PIdg0

   ヒュゥゥォォォオ――

こなた「づがっ――ゴホッ……カホッ……さぁ……コホッ……早く……」

つかさ「……だめ」

こなた「……よく……聴ごえない……なぁっ――コホッ……ゴホッ……」

つかさ「……できない……お姉ちゃんは……連れて行かないで……」

こなた「なに……を……」

つかさ「お姉ちゃんを突き落とすなんて、私にはできない。できる訳がないよ」

こなた「それじゃあ……私は……どう……なるの……?」

つかさ「その代わり……」


   ざっ――!


つかさ「私が傍に居てあげる。こなちゃんの傍に、ずっとずっといつまでも居るから」

こなた「ちょっ――!」

つかさ「だから私が代わりに落ちる。それで全部おしまい。シナリオも嘘も、ぜんぶぜんぶおしまいだから!」


   ざっ――!

438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 01:22:48.17 ID:Cry5PIdg0

走りました。崖へ。
残念だったのはあの時、お姉ちゃんと見ていた綺麗な星空が今夜はなかったことです。
その代わりに暗く淀んで塗りつぶされた雲と月明かりが申し訳程度に灯っていて、
星空の役目を務めようとしたのか、街灯りは一段にキラキラと輝いていました。

……十分かな。
私の最後に。諸悪の根源でもある私の最後には、これがふさわしいかな。
だって、ふたご座流星群だなんてロマンチックなもの、とても似合わないし。
だからこの景色が私の身の丈には合っていて、なんだか落ち着くような気がするんだよね。

そういえば、私が創り上げた嘘のシナリオのなかの一節に、こういうのがあったっけ。

『ふたご座流星群の日を選んだのは……もしかしたら私と……』

あれって本当は、私が願っていたことでもあったんだよ?
シナリオのように命を絶つ気なんてサラサラなかったとしても、
一緒にいてもいいやって思ってたのは本当なんだから。少しだけだけどね。
もう今日は流れ星が見えないし、願うことなんてできないけど……。
それでも願ってみるのは……願うだけなら……良いよね?

どうせならもう一度、お姉ちゃんと一緒に見たかったなぁ〜なんてね。
じゃあね。
さよなら。
そしておやすみ。

みんな。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 01:46:21.63 ID:Cry5PIdg0

いやぁ、長かったです
ここまで来るのに年を挟みましたからね
ともかく長らく付き合って頂いた方たちには、多謝一杯ということですね

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 01:51:04.31 ID:Cry5PIdg0

足元に何かが当たった。
それが何かもわからないうちに、私は短い悲鳴をあげて顔面から地面へと叩きつけられていました。

私はもう下に落ちたの?
そう思ったのですが、それにしては意識があるのがどうにもおかしい。
そのように私が今一つ状況を理解できないうちに、誰かが背中へとのし掛かってきました。
次いで、声。

「途中からずっと思っていたのですが……少々、度が過ぎるのでは?」

この声……?

「私もそう思っていたんだけど、キツく頼むって言われたから……このくらいで丁度いいかなって――ゴホッ、コホッ」

こっちは、こなちゃん?

「あぁ〜、喉が痛い。ほら……起きなよ、つかさ?」

私の背から重しが取れ、手を差し出されます。
首に紐が巻き付いたこなちゃんからです。
その隣には私の背に乗っかっていたゆきちゃんもいます。
何が何なのかよくわかりません。
けれども私は、差し出されたその手に指を絡めました。

477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 02:02:23.55 ID:Cry5PIdg0

みゆき「ハラハラしましたよ……もし本当に下へ落ちていたらと考えると……」

つかさ「なんで……ここに、ゆきちゃんが……? それに、こなちゃんも首は……?」

こなた「あっ、コレ? 単に紐の一部を巻いてるだけだから……って、ゴホッ……あぁ〜喉がイカれちゃいそう」

つかさ「えっ……どういうことなの……?」

こなた「私、首根を押さえてたでしょ? アレって喉仏を圧迫して声を変える為だから……で、みゆきさん」

みゆき「泉さんが首吊に使った紐を利用して、こうやって地面へと隠しておいて……もしもの場合には私が引きます」

こなた「まっ、私に生じた不幸から生まれた仕掛けだね。ブービートラップ」

みゆき「暗ければ私が潜んでいても見えませんし、草に隠れた紐ならば尚更です。片方はあちらの木に結んであります」

つかさ「えっと……なに……だから七歩前にって……」

こなた「そうだよ。崖に近すぎるとまずいし、止める時間が稼げないからね。私が森側に居たのもそれが理由」

つかさ「なっ……なんで……こなちゃん……首を吊ってたんじゃ……死んだはずじゃ……」

485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 02:13:39.42 ID:Cry5PIdg0

こなた「ところが、それも簡単なトリックなんだよね、コレが」

つかさ「トリック……?」

こなた「こうやって普通の輪っかを作った紐を首に巻き付けておく。それとは別に、吊るした紐を用意する」

つかさ「それで……?」

こなた「後は吊るした紐を首輪の内側に通して、体重は両脇に通した本当の首つり紐で受ける」

こなた「冬って着込むからさ、タートルネックにコートを羽織っておけば、一瞥した程度では見抜けないように体系は誤魔化せる」

こなた「ちなみに、ゆーちゃんは協力者だからね。仕掛けを手伝って貰ったし……それに……」

こなた「もしつかさが私の体を調べようとしたら、ゆーちゃんに騒ぎ立てて貰うように頼んでおいたから」

こなた「もちろん、私のミスで本当に首を吊ってしまった場合にも備えた安全監視役としてもね」

こなた「代わりに、どうしてもとコミケカタログを取られちゃったんだけどね……あははっ」

つかさ(カタログって……あの時、ゆたかちゃんが読んでた分厚い本のこと……?)

492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 02:25:38.25 ID:Cry5PIdg0

つかさ「どこで見抜いていたの……? これが嘘だって……」

こなた「ここに靴があった時点で、おかしいとは思っていたよ……ただ……それで別の心配事が生まれたんだけどね」

つかさ「別の心配事?」

こなた「つかさに話を聞いたら、『一人で』って頑なに答えてたでしょ……そして事件性の有無もあるって……」

こなた「でもね、私は石段の人からかがみが二人でここに来たことを聞いていたから、知ってたんだよね。二人だってことを」

こなた「そしてあの靴。靴の情報量って多いから、それがあるかないかは自殺か他殺かの判断基準にもなり得る重要証拠だというのに……」

こなた「それがここに置かれていた。警察の捜査の眼を漏れることはまずないから、正確には、『後から誰かが置いた』ことであるのはほぼ確定」

こなた「そうなると……それが出来るのは……家族であるつかさ、ただ一人しかいないんだよ……」

こなた「だって、かがみの携帯からみゆきさんに送られたメールの内容も、つかさは知っていたでしょ?」

こなた「私やみゆきさんは話してないというのに……だから思ったんだよ……」

こなた「つかさが突き落として、その後で偽装している可能性もあるんじゃないかって……ね」

こなた「だから敢えて追及しなかった。追及できなかった」

497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 02:41:25.90 ID:Cry5PIdg0

こなた「まさか友人が殺人者だなんて……信じたくもないからね……」

みゆき「私が泉さんからの連絡を受けたのは、泉さんがつかささんと別れたすぐ後のことですね」

こなた「あの時は参ったよ、本当にね。どうしようか困ったから相談するしかなくてさ」

みゆき「それで私は家を飛び出しまして……」

こなた「そう、そしてみゆきさんがこっちへ来る間、私はこれが嘘であることを信じてメールを作っていた」

こなた「暫くして、かがみの携帯電話から『生きてます』メールが来た時、心底から安心したよ」

こなた「同時に悔しかったから、予め作っておいたメールで脅かしてやろうと思ったんだけどね」

つかさ(だから返信が早かったんだ……)

こなた「それで終わるはずだった。首吊トリックもあの場で明かすつもりだったし、私のなかでは冗談で済ますつもりだった……」

こなた「だけどね、つかさが私の家に来ている間に、かがみから連絡が来たんだよ」

こなた「その時、かがみから聞かされた事情のお陰で『神社の由来』なんてものを利用させて貰ったわけだけど」

みゆき「同じ頃、私もかがみさんからの連絡を受けて、一連の事情と、トリックの為に敢えて距離を取るように言われました」

つかさ(そういえば私が家に戻った時、お姉ちゃんが起きていたけど……あれは家の電話を使う為に……?)

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 02:52:42.27 ID:Cry5PIdg0

こなた「後はもう、説明するまでもないでしょ?」

つかさ「まさかお姉ちゃんや……他の皆まで……私と同じような仕掛けを作っていたなんて……」

みゆき「違いますね、同じではありません」

こなた「そう、ぜんぜん同じなんかじゃないよ」

つかさ「だって……騙して……」

こなた「一つ訊ねておくけどさ、つかさの部屋の前に、かがみが居なかった?」

つかさ「……いたよ……メール打ってるって……」

こなた「あれさ、どうしてだと思う?」

つかさ「どうしてって……どういうこと?」

こなた「簡単だよ。私が首を吊ったのと同じように、つかさが思い詰めたあまりに自殺しないかを見張る為」

こなた「そして……みゆきさんがここにいるのもそれと同じ理由」

みゆき「はい。本当に事故が起こらないように、それを止めるのが目的です」

こなた「つかさの計画と私達の計画には、決定的な違いがあるんだよ」

こなた「嘘のシナリオが元で、本当の事件が起きてしまえばそれは嘘でなくってしまう。それをさせない。そこが唯一にして最大の違い」

こなた「こういう事をやるのならさ、責任を持たなくちゃ……いけないでしょ?」

509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:06:31.24 ID:Cry5PIdg0

こなた「かがみが、つかさに携帯電話を貸しっぱなしだったのだって……」

みゆき「泉さん」

こなた「うっ……後が怖いから、その辺りのかがみの話はここらへんでいいかな」

つかさ「なんで……こんな計画を……?」

こなた「かがみに頼まれたから、だけじゃ納得できない?」

つかさ「……」

こなた「たぶん、私が言わなくてももうわかっているはずだよ……」

こなた「つかさってさ、私が死んだと思った時、どう感じた?」

つかさ「それは……」

こなた「……たぶん、言葉には出来ないくらいに驚いたんじゃない?」

つかさ「……うん」

こなた「それが答え。その為に、計画を立てたんだよ。つかさと同じことをする為にね」

みゆき「念の為に補足しておきますが、なにも悪意があった訳ではないということを留意しておいてください」

こなた「大体、辻妻が合わないと思ったんだよね……最初から……」

515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:16:00.53 ID:Cry5PIdg0

    ザァァァァァア――……


つかさ「どういうこと……?」

こなた「だってさ、もしかがみに何かがあったとしたらだよ?」


   ぽんっ


こなた「優しいつかさが、平気で学校に通えるわけないじゃん。涙の一滴すら見せないなんてね」


   なでなで


みゆき「お二人には身長差があるので、今一つ決まりませんね」

つかさ「ううっ……ぐすっ……」

こなた「そんなことを言わないでよ……みゆきさん……」

みゆき「すみません……うふふっ……」

こなた「じゃ、帰ろうか……」

みゆき「ええ、冷えてきたことですしね」

520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:27:47.81 ID:Cry5PIdg0

境内奥側、鎮守森。


   ざっ……ざっ……


こなた「でもね……不安だったんだよ?」

つかさ「……」

こなた「つかさがここには来てくれないんじゃないかってさ……」

みゆき「私達二人ですら、真っ暗なこの森を抜けるのは恐ろしくて堪りませんでしたからね」

つかさ「だってっ……私が……ぐすっ……行かなかったら……他の人が……こなちゃんがっ……」

こなた「いいよ、喋んなくても……一人で来れただけでも大したもんだよ……」

つかさ「悪いのは……私だったんだし……当たり前っ……なんだし……」

みゆき「それを正せるのが、難しいことなんだと私は思いますよ?」

つかさ「……わかんないよっ……そんなの……皆には……やっぱり敵わないんだし……」

みゆき「私はそのようには思わないのですが……私にとってのそれと、同じようなものなのかもしれませんね」

つかさ「……それって……?」

みゆき「……願い事は秘密にしておかないと叶わないので、秘密です」

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:36:26.32 ID:Cry5PIdg0

神社、石段。


   コツ……コツ……

      コツ……コツ……


つかさ「ぐすっ……」

みゆき「いつまでも泣いていると、かがみさんが心配されますよ?」

こなた「その通りだねっ……ん?」


   コツ……コツ……

      コツ……コツ……


こなた「ねぇ、みゆきさん……先にかがみの所へ行っててよ」

みゆき「どうかされたのですか?」

こなた「ちょっとね……ま、大したことじゃないから。つかさと一緒に先に行ってて」

みゆき「……はい、わかりました。つかささん、行きましょう」

つかさ「……うん」

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:45:08.50 ID:Cry5PIdg0


   コツ……


通行人「……こんばんは。また……お会いしましたねぇ……」

こなた「ええ、こんばんは」

通行人「なにかまでは察せませんが……良かったというものですねぇ……」

こなた「……どうして、そう思われるんですか?」

通行人「そのような顔をされているからですよ……」

こなた「……そう、ですか」

通行人「ええ、えぇ……」


   ざわぁっ……

      ざわぁっ……

536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 03:56:23.75 ID:Cry5PIdg0

こなた「いくつか……お訊ねしてもよろしいでしょうか……?」

通行人「このような私にも……答えられることならば……なんなりと……」

こなた「私がここを駆け下りていた時……確かあなた……こう仰いましたよね……?」


   『そんなに走ると”また”危ないよ……』


こなた「どうして私が崖から落ちそうになったことを……知っているような口ぶりだったんですか……?」

通行人「はて……そのような事を口走りましたかねぇ……なにぶん使い古された私の頭では……」

こなた「考えすぎなのかもしれませんが……あの”絡み付いた草”だって……」

こなた「タイミングが良すぎると思うんですよ……」

通行人「……」

こなた「あれが無かったら……もしかすると私は……本当に……」


   ざわぁっ……

      ざわぁっ……

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 04:05:16.98 ID:Cry5PIdg0

通行人「何を仰られておられるのやら……私にはなにも……存ぜませんよ……」

こなた「そうかもしれません……ですけど……あなたは……」


   ヒュゥゥゥゥ――……


こなた「あの場所を……知っていますね?」

通行人「……」

こなた「友人からもチラリと聞きましたが、なぜかあの場所には獣道が出来上がっていました」

こなた「一度通ったくらいでは……道と認識できるほどには……ならないはずなのに……」

こなた「だけどそれがあった……」

通行人「……」

こなた「あなたは……あの場所へと足を運んでおられるのでは……ないのでしょうか……?」

547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 04:16:58.31 ID:Cry5PIdg0

通行人「……ええ、えぇ、知っておりますよ……」

通行人「なにぶん……昔はよく遊びに出向いたものですので……」

こなた「大切な方や友人達と……でしたよね……?」

通行人「そうですそうです……その通りです……」

通行人「ですがもう……もう……忘れてしまって……いつだったかも思い出せないくらいの……」

通行人「遠い……昔の話ですよ……」

こなた「だから懐かしいこの場所へと……あなたは出向かれているんですよね……?」

こなた「何度も何度も……幾度も幾度も……」

こなた「まるで……まるでその想いに……」


   ザァァァァァァアアア――……


こなた「縛られているみたいに……ずっと……ここから離れられずに……」

552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 04:31:05.48 ID:Cry5PIdg0

   ざわぁっ……


こなた「あなたは……いつまで階段を上り下りし続けるおつもりなのでしょうか……?」

こなた「だって……おかしな話ですよ……いつもいつもタイミングが良すぎるんですから……」

こなた「友人達がここを通った昨夜にも居て……私が通った夕方にも居て……今もここにこうして居られる……」

こなた「どう考えたって……何も無いと考える方が不自然だというものです……」

通行人「……」

こなた「それとも……それすらも……忘れ去ってしまわれたのですか……?」

通行人「どうでしょうなぁ……さぁ……どうでしょうなぁ……」

通行人「例え判ってしまったとしても……気付くべきでないこと……それが有るのかはわかりませんが……」

通行人「少なくとも……私があなたに語るべきではないと……そのように私は……思いますねぇ……」

こなた「……」

通行人「どうでしょうなぁ……」

559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 04:50:24.77 ID:Cry5PIdg0

こなた「どうして……私に……私達に話し掛けて来られたのですか……?」

通行人「……どうして……とねぇ……難しい事を……訊ねなさるものだ……」

こなた「どうして私達の前に……狙ったかのようにことごとく現れるのか……」

こなた「その理由くらいは……それとも……それも駄目なんでしょうか……?」

通行人「……」

こなた「……」

通行人「さぁ……明確な理由……それは私にも……思い出せないんですよ……」

通行人「どこで何を落としてしまったのか……それが判らないからどうにも……なりません……」

通行人「どれだけ思い出そうとしても……どう頭を捻ってみても……」

通行人「私の頭じゃ靄が掛かるばかりで……何かに阻害されるように……消えていくのですからねぇ……」

こなた「だからこうして石段を……何度も何度も……終わらせることができずに……」

通行人「話し掛けたのに理由はございませんよ……だけれど……あなた方には……」

通行人「昔の……いつかの……なんとも言葉にできない……懐かしさが感じられたもので……」

通行人「気がついた時には……こうして……話し掛けておりました……それだけです……」

562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 05:03:17.72 ID:Cry5PIdg0


   ザァァァァァァアアア――……


通行人「なにはともあれ……この場所で不幸が起こらなくて……良かったというものですねぇ……」

通行人「……さぁさ……夜も更けておりますので……そろそろ御暇と……しましょうか……」

こなた「あなたは……もう……」

通行人「いえ……もう……もう……わかりましたので……仰られずとも……」

こなた「そうですか……」

通行人「余計なことなのかもしれませんが……あなた方は……お忘れにならないように……」

通行人「私のように……何もかもが思い出せないようには……ならないように……」

通行人「それだけを心の隅にでも留めておいて貰えれば……私は……」

通行人「私としては……他に申しあげることなど……なにも御座いません……」

こなた「……わかりました……じゃあ……さようなら」

通行人「ええ、では。達者で」


   コツ……コツ……

      コツ……コツ……

572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 05:23:06.49 ID:Cry5PIdg0

温かな空気で満たされた室内。
そのベッドに腰掛けていた私は、届いたばかりのメールをチェックする為に携帯電話を開いた。
送信元は神社へと向かった友人からだ。
内容を確認する。


From:みゆき
Sub:無題

今、境内のところまで来て
います。もうじきそちらへ
とお邪魔しますね。
つかささんも反省しておら
れるようなので、あまり強
くはあたらずに、優しく言
葉を掛けてあげてくだされ
ばと思います。
私も泉さんも、怒ったりな
どはしておりませんので。
それではまた後で。


つくづく、芸の細かいやつよねみゆきは。
表立っては口を開かないくせに、こういう所ではしっかりと輪を取り持つようなことをするんだから。
計画への協力を依頼した時だって、急だというのに乗ってくれたんだし。
こなたと併せて、感謝しなくちゃね。

581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/03(土) 05:42:13.34 ID:Cry5PIdg0

でも大丈夫かな……
こなたが『あい、わかった。時間ないから切るね』
なんて言ってたから計画の細部までは聞かなかったけど、
あいつ、やりすぎてないだろうなぁ……?
どうにも現実と妄想の区別がついていないような節が……
いやいや、そんなことないよね。たぶん。
……私がそう思いたいだけなのかもしれないけど。

はぁー……つかさ怒ってないかなぁ……
でもあの家を出ていった時の様子じゃ……きっと泣いているだろうなぁ……
謝って許して貰えるかなぁ……駄目かなぁ……
やっぱり家を出ていく前に謝っとけば良かったかな。
でもあの時、つかさが走っていっちゃったから余裕がなかったもんなぁ。
……携帯電話を渡す時だって、もうちょっとマシな渡し方をすればよかったかなぁ。
でもああでもしないと、つかさがちゃんとこなたに謝らないかもしれないし……
しょうがないよね。うん。あれはしょうがない。

それよりどうしよう。
コレ……食べちゃったんですけど。
お粥と生姜湯。
どうやって誤魔化そう。
あんなこと言って食べちゃったもんなぁ……
だって毒が入っている訳ないし、せっかくつかさが作ってくれたんだからさ。
棄てられるわけもないってもんだし。で、どうしよう。
どうやって誤魔化そう。

そうだ……今のうちに流しへ運んでおけばいいんだ。



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