国木田「あれ…長門さんだ」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:長門「どうもー☆ゆきりんでーっす!」

ツイート

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:09:27.61 ID:XRmbV2gb0

宇宙人でも未来人でも超能力者でも異世界人でもなく、かといって
そういう存在を追い求めるほど突飛じゃないし、そんな突飛な女の子に
振り回される毎日を送ってるわけでもない僕からすれば、高校生活ってものは
思ってたより地味なものだった。部活をしてるわけでもないし、谷口みたいに
ナンパに夢中だったり、キョンみたいに謎の集団と遊んでるわけでもないし、

思えば僕自身地味なんだよね。よく飄々としてるなんて言われるけど、
ほんとはただぼーっとしてて熱くなれるようなことがないだけだもの。
そんなことを考えながら授業を終えて、下校しようと下駄箱で靴を履き替えたとき、
窓ガラス越しに外を見つめている女の子がいることに気づいた。

…あれ…長門さんだよね。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:13:50.61 ID:XRmbV2gb0

「こんにちは…長門さん」

とりあえず声をかけると、長門さんは返事をせずにじっとこちらを見つめてきた。
あ、そうか、僕なんて知らないか

「あ、僕は国木田…ほら、キョンの友達の…」
「知ってる」

あ、知ってるんだ…。長門さん、何してるんだろ?と思ってふとガラス越しに外を見ると、
いつの間にかざあざあ雨が降っていることに気がついた。よかった。傘もってきて
あ、そうか。

「ひょっとして傘忘れちゃったの?」
「そう」

うーん、本当必要最小限しか喋らないんだな…

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:20:45.61 ID:XRmbV2gb0

それっきり黙っている長門さん。多分谷口だったらナンパの絶好のチャンス!
…とか思うんだろうな。僕はそんな勇気ないけど。あ、でもこういう場合は…
うん、下心とかそういうんじゃなくて、ほら、雨に濡れて帰るなんて風邪ひいちゃうし。

「どっち行くの?…あの、駅までだったら入っていかない?」
「駅とは反対方向」

…あ、そう。
それっきり長門さんは喋らない。どうしよう。いや、方向が違うんじゃしょうがない。
このまま帰ればいいんだ。でも…なんか気になるな。うーん…。

なんて考えながら長門さんの横顔を見つめていると、視線に気づいたのか不意に僕と
視線を合わせた。あ、どうしよう…すごく帰りづらい…っていうか…

「あ、あの…これ使って」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:25:58.96 ID:XRmbV2gb0

「え?」

自分でも考えていなかった言葉が口をついて出た。
長門さんは不思議そうにこっちを見ている。

「か、傘…長門さん使って…」
「でも、あなたは」
「あ、いやほら…そっちすぐにコンビニあるしさ。どうせ僕そこ寄る予定だから…」

嘘だけど。なんだか恥ずかしくなってきた。でも長門さんの瞳はまっすぐに僕を見つめている。
耐えきれなくなった僕はちょっと視線をはずして、右手で傘をつきだした。

「はい」
「でも…」
「いいって!じゃあ!」
「あ…」

強引に傘を持たせると、長門さんの小さな声を無視して僕は走り出した。
なんで走ってるんだろう。濡れたくないからだ…多分。
なんだか猛烈に恥ずかしい。こんなの僕らしくないよなあ…。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:29:10.39 ID:XRmbV2gb0

コンビニに駆け込んで、傘を買って外に出ると、駅に着く前に雨はやんで、
なんだか誰かにからかわれてるような気がした。

「はぁ…なにやってんだろ…」

とぼとぼと駅へ向かう間も、家に帰ってからしばらくの間も、
長門さんのこっちを見る目が頭に浮かんできた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:30:03.18 ID:XRmbV2gb0

あ、俺この2人でSS書くの初めてです。誰かと被ってたらごめんね。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:38:15.43 ID:XRmbV2gb0

「ねえキョン、長門さんってどんな人?」
「あん?なんだ急に」

翌日の昼休み、いつものように谷口と3人でご飯を食べながら、僕は
さりげなくキョンに切り出した…つもりだったけどわざとらしかったらしい。

「い、いやその…昨日ね、廊下で会ったんだけど、どんな人だっけなあって…」
「ふうん…どんなって言われてもなあ…」
「あいつは無理だ!」

谷口がよこから口をはさむ。無理って何が…ってまあ谷口だからひとつしかないか。

「とにかくあいつは会話が成り立たねえ!顔は良いしなんでも器用らしいが、
 とにかく途方もなく無口で誰とも関わろうとしないんだ。ありゃ有る意味
 涼宮以上に付き合いにくいぞお」
「まあ、確かになんでも器用だな。あと、本が好きで…何かと頼りになる」
「ふうん…」

キョンならもっと色々知ってるかもって思ったけど、あんまりわかんないな。
でもやっぱり相当かわった子みたいだ。
知ったからっていって、どうするわけでもないんだけど。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:44:00.19 ID:XRmbV2gb0

放課後になって、僕は図書室に向かった。前から借りたかった本が返却されて
いたので、それをかり出しに。受付で本を借りて、後は帰るだけ。
なんだけど、なんとなくそのまま奥の方まで足を進めてみる。
長門さん…部室にいないときはよく図書室にいるって言ってたな。

…いた。奥の席でハードカバーの本を読んでいる。
僕はふらふらとした足取りで、吸い寄せられるようにその席へむかった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:48:56.90 ID:XRmbV2gb0

大きめの机を挟んで長門さんの前に立つと、その気配を感じたのか
彼女はこちらの方を見た。あ、だめだ。何も考えてない。

「あ、あの…国木田…昨日の…」
「覚えている」

…あたりまえだ。この人の前だと、この人の目に見つめられると、僕の思考は
止まるようにできてるんだろうか。
と、長門さんはかがんでなにかを持ち出した。昨日の傘だ。

「返す」
「あ…持ってきてくれたんだ。ごめん、かえって邪魔だったかな」
「いいえ…ありがとう」

初めてまともに会話出来た気がして、僕はなぜかものすごく安心した。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 20:59:08.19 ID:XRmbV2gb0

ありがとう、と言われたことに安心したせいか、僕は少し調子にのってみた。

「ここ、座っていい?」
「どうぞ」

もう僕には用事がないということなのか、視線を本に落としたまま
長門さんは答える。僕はそのまま席について、読みたかった本を読む。
図書室にいるんだから当たり前だけど、会話は全然ない。
まあ、昨日初めて話したばっかりだしね…。

…だ、だめだ!本の内容が全然頭に入ってこない!
早く逃げ出したいような、いつまでもここにいたいような不思議な感覚。
結局僕はほとんど機械的にページをめくり20分そこそこで席を立った。

「じゃあ…僕は…」
「また」

図書室を出た僕は、ひどく手汗をかいていることに気がついた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:10:17.59 ID:XRmbV2gb0

その日からしばらく、僕は自分で考えても変になっていた。
授業を受けているとき、夜寝るときに、不意に長門さんを思い出す。
そして放課後になると図書室をのぞいて、長門さんがいれば一声かけて
向かいに座り、いなければ帰る。その繰り返し。
せっかく長門さんを見つけても、あんまりしょっちゅう声をかけたら
変だろうと思って、そのまま帰ることもある。
意味がわからない。なんだか自分が自分じゃ無いみたいだ。

「…というわけなんだけどね、キョン。あらためて長門さんってどんな人なのかなあって…」
「あ…ああ…」

持つべきものは友達。長門さんが口をきく数少ない相手であるキョンが、
僕の友達で助かった。あんまり自分が変で耐えきれなくなった僕は、
キョンに電話で助けを求めることにした。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:18:22.15 ID:XRmbV2gb0

「キョン?どうかした?」
「いや…ははは…つまりさ、えーと…お前は要するになにがしたいんだ?」

なんだかキョンはしどろもどろだ。

「いやだから、長門さんともっと色々話したいなあなんて思うんだけど、
 彼女は何に関心もってるのかさっぱりわかんなくて…なんかない?」
「ああ…そのつまりだ…お前長門が…いや長門がなあ…つまり…」
「?うん」

「……あれ?キョン?」
「…いや!なんでもない!わかった。長門の興味なあ…コンピュータは得意
 らしいんだが…うーん…」

キョンもやっぱり長門さんのことはよく知らないみたいだ。
僕も別にパソコンは得意ってほどじゃないし。
あーあ、結局これからも今とあんまり変わらないってことかな…

「…なあ国木田。お前、人のことは鋭いのに、自分にはさっぱりだな…」
「うん?なにそれ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:23:50.09 ID:XRmbV2gb0

「ここ、座っていい?」
「どうぞ」

恒例になった挨拶を挟んで、僕はいつの間にか自分の指定席になった椅子に
座る。この席での沈黙にも、ずいぶんなれたもんだなあ。
でも、僕は結局何がしたいんだろ。
あ…。

「長門さん、その本」
「…?」
「僕も読んだんだ、その本。ほら、僕がこないだから読んでるの、
 それ書いたのと同じ人」
「そう」

…なんか一人で舞い上がっちゃった。

「感想を」
「え?」
「その本の感想を、聞かせてほしい」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:32:19.41 ID:XRmbV2gb0

長門さんが初めて自分から話しかけてくれた。
僕はうれしいよりも先に驚いて、しばらく言葉が出なかった。

「あ…これはまだ…途中までしか読んでないから」
「では、私が読んでいるこの本」
「あ、それ…面白かったよ。すごく。ノンフィクションなのに凄く熱いっていうか…
 もう何十年も前の話なのに、そこにいるみたいっていうか…
 あとその人アメリカ人なのに日本のこと凄く詳しいよね。でもやっぱり
 文体が日本人と違って…面白かった」

あたふたしながから一生懸命本の感想を話す。必死だけど、結局面白いってことしか
言ってない気がする。本当はもっと読み込んでる本なのに。

「あの…」
「そう」

長門さんの返事はいつも短くて、僕の心の動揺なんかおかまいなしに冷静だ。
なんとなく、悲しくなって視線を落とすと長門さんは僕の方を見てつぶやいた。

「私も、同じ感想」

そのとき、長門さんは初めてかすかに笑ったような気がした。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:43:36.93 ID:XRmbV2gb0

「国木田、お前最近なんか変だぞ…」
「えー?どこが?全然変じゃないよー谷口の気のせい!」

変だということは自覚しているけど、今日は気分がいいから笑いながら否定できる。
なぜなら昨日は長門さんとお薦めの本を交換しちゃったからだ。

「いや、その…日によって機嫌が全然違うっていうかさ…」

反対にSOS団ってのに長門さんが行ってるらしくて図書室に現れない日は、
僕は相当落ち込んで見えるらしい。もう間違いない。僕は長門さんと沢山話したい。
長門さんと友達になりたい。長門さんと…話したいんだ。うん。

「あー国木田。それなんだがな、そのー」
「うん?」
「あーいやその…」
「キョン!あんたまだ話してないの!?」

キョンがなにやら話しにくそうにしていると、いきなり涼宮さんが現れた。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 21:52:34.57 ID:XRmbV2gb0

「いや、だから今言おうと…」
「国木田、明後日ね、SOS団恒例不思議探しがあるのよ」
「あ、市内探索するやつねー。なんか面白そうだね」
「なに人ごとみたいに言ってんのよ…あんたも来るの!」

…へ?なんで僕が?

「あんたも準団員でしょ!たまにゃー参加しなさいってことよ」
「お、じゃ、じゃあ俺も行くって!」
「あんたはいーの!」

谷口が右手を挙げて名乗り出る。目的は…言うまでもない。
しかし僕を呼んで谷口がダメってなんだろう?
野球にしても映画にしても、僕らセットで扱われてたけど。

「ちきしょー!なんだよなんだよ俺だけ仲間はずれかよお!
 久々に朝比奈さんに会えると思ったのによぉ…」

ほら、やっぱり。

「あー、そういう訳だけど国木田…」
「うん、いいよ。行く」
「おう…」
「ほーら、言った通りでしょ?」

うん…長門さんも来るんだよね。
…でも言ったとおりって、なんだろう。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:05:37.54 ID:XRmbV2gb0

土曜日がやってきた。長門さんの前で初めて着る私服だ、とわけのわからない
理由で張り切った僕は、服選びに時間をかけてしまい、でも大して服なんて
持ってないことに気がついて、結局パーカーにダウンの大していつもと変わらない格好で
時間ぎりぎりに待ち合わせ場所に駆けつけた。

「遅い!罰金!」
「ば、罰金!?」

SOS団て罰金あんの!?っていうか涼宮さん、まだ約束の時間前なんだけど…
キョンがその辺を代弁してくれてなんとか僕が罰金刑を免れている間、
僕は初めて見る長門さんの私服姿に見とれていた。
あぁ、やっぱり制服姿と違う魅力があるや…。

「…はい!んじゃチームわけね!今回は古泉君とみくるちゃんが東側、
 あたしとキョンがその向こう側で、国木田と有希は西の方!」
「え?今日はくじ引きしないんですかあ?」
「み・く・る・ちゃん!いくわよー!」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:14:07.01 ID:XRmbV2gb0

朝比奈さんは鈴宮さんに引きずられつつ、古泉君とともに駅の向こう側へ消えていった。
いやあ、SOS団て美男美女揃いなんだね。
なんだか知らないけど、みんながあっち側で僕と長門さんがこっち側に…ってことは、あれ?
…ひょっとしてキョンと鈴宮さんって、なんか気を利かせてくれた?


「…」
「…あ…長門さん…」
「…?」

う、その目でまっすぐ見ないで。心が止まるから。

「あの…不思議探しって、何をすればいいの?」
「実際には好きなところを散策するだけのことが多い」
「ふうん…長門さん、どっか行きたいとこある?」
「…強いて言えば」

そう言って長門さんはすたすた歩き出した。
僕は黙ってついて行く。

「…ん?」
「何か」
「あ、いや…気のせい」

何か背後に気配を感じるのは、気のせいだろう。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:23:35.51 ID:XRmbV2gb0

「ここは…」
「図書館」

やっぱりですか。という気もするけど、長門さんは本が好きなんだ。
うん、ここでいつもみたいに本を読むのもいいかもね。
なんだかんだいって、最近は本を通じて色々しゃべれるようになったんだし。

「ここでは、いや?」
「ううん。僕もなんか本探すよ」

そう聞いてくれることがうれしいです。
とりあえず荷物を置くと、長門さんは慣れた様子でSFのコーナーに吸い込まれていった。
僕はノンフィクションの方が好きなので、自然とお目当ての別れて本を探す。
せっかく一緒の組みにしてくれたのに…なんかなあ。
贅沢な悩みを抱きつつ、面白そうなエッセイ集を見つけた僕は、荷物を置いた席に向かう

「長門さ〜ん…あれ?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:34:45.51 ID:XRmbV2gb0

席に戻った僕が見たのは、意外にもというか、ソファに座ったまますやすやと
眠る長門さんの姿だった。僕は結構長い間長門さんを探していたから、その間に
素早くお目当ての本を見つけて、途中で寝てしまったのかな。
なんだか意外。だけどそんな一面と寝顔を見れたことも、なんだかうれしい。
…なんか変態っぽいかな

長門さんを起こさないように隣にそっと座ってエッセイを開いた僕は、
この席が結構眠りやすいことに気がついた。ここは学習机がある固い椅子と
違って、柔らかいソファと低い高さの机がある座席。くつろげるんだ。

うん、たしかにこれじゃあ眠っちゃうのも無理はないね…。

あ、そういえば僕昨日は全然眠ってないんだ…。

なんでだっけ…長門さんに会えるから…。

うーん…。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:46:52.11 ID:XRmbV2gb0

ポケットになんだか振動を感じる。うーん携帯か…。あ、そうだ図書館だから
マナーモードにしてたんだ。よかった着信音ならなくて。…ん?

ふと右肩に重みを感じて視線を右に動かすと、長門さんの頭が僕の右肩に乗っていて、
僕の頭はその長門さんの頭にもたれかかってるような、なんとも大変密着した
格好で、僕らはなんというか寄り添って寝ていたことが判明した。
…うわぁ、もったいない…。

なんて思っていたら、長門さんがゆっくりと目を開けて、僕と目があった。

…近い。

「…」
「……あ、ご、ごめん長門さん!あ、いやちが、携帯が…じゃなくって居眠りで…
 あ、その今携帯鳴ってるんだ、ちょっと外いってくるね!」

小声で叫んだ僕は、長門さんが小さくうなずくのを確認すると図書館の外へ
飛んで出た。はぁ、もう本当に僕らしくない。
…あ、キョンの番号じゃないか。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 22:58:33.43 ID:XRmbV2gb0

「もしもし、キョン?」
「あーもしもし?俺だ。あのなーハルヒが言うにはもう解散にするから、
 お前らは好きにしろって…ちょ、待てっておい!」

なにやらキョンの背後に、そうじゃないでしょ!とか、はやくききなさいよ!とかの
声が聞こえるのだけれど、気のせいじゃないよね。

「あーその〜、つまりだ、どうだった?長門とその…」
「あ、うん…なんか一緒に寝ちゃった…」
「はあ!?んんなんだって!?」
「い、いやそうじゃない!あの椅子が低くて机がソファでエッセイ読んだら長門さんが寝不足で…」

と、僕が錯乱気味に言い訳している途中で、電話の主が交替してしまった。
とんでもない誤解を与えてなければいいけれど

「あーもしもし国木田!?あんたこのまま帰るんじゃなくて、ちゃーんと
 一緒にご飯食べて帰るのよ!わざわざそういう時間帯にしてあげたんだからね!
 図書館行っただけで帰るなんて許さないわよ!いい!?」
「あのー、鈴宮さん?」
「なによ」
「なんで僕らが図書館行ったって解るの?」
「い、いいからしっかりエスコートすんのよ!?わかったわね!」

ブツッっと一方的に電話は切れた。ふふ、鈴宮さんの方がよっぽどわかりやすいや。
それにしても、なんで僕をこんなに応援してくれるんだろう?

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 23:10:28.82 ID:XRmbV2gb0

ふと後ろをみると、長門さんが、自分と僕の荷物を持って立っていた。

「あ、ありがとう。なんか…キョン達解散しちゃったんだって。
 それで…よかったら一緒にご飯食べて帰らない?あの駅の方、
 ちょうどおいしいピザ屋さんあるからさ」
「行く」

ふたつ返事で長門さんはOKしてくれた。
うーん今日はなんて良い日なんだろう!僕なんか良いことしたっけ?

店内に入ると、僕はあさり入りのパスタを、長門さんはマルゲリータを注文した。
料理を待っている間、そして食べている間、僕と長門さんは今までで多分
一番色々な話をした。といっても僕が話して、長門さんは答えるって風だけど。
それでも本を介さないで話すだけで、気分も話せる量も変わってくる。

ああ、今度キョンと鈴宮さんになんかおごらなきゃ。
もちろん、あの2人もペアで。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 23:24:44.96 ID:XRmbV2gb0

SOS団のこと、今まで読んだ本のこと、ひとしきり話し終わった後、
僕はふと、前から気になっていたことを軽い気持ちで聞いてしまった。

「長門さんって一人暮らしなんだよね」
「そう」
「ふうん…高校生では珍しいよね。実家ってどのへん?」
「いない」
「えっ…」

そのとき長門さんは、ああしまった、という顔をした。僕の初めて見る顔。
いろんな顔が見られるのはうれしいけど、こんなのは嫌だ。
長門さんの表情を読み取れるようになったのは、長門さんの笑顔がまたみたいからなのに。
僕は軽率すぎた。親がいるのは当たり前と心のどこかで思ってたんだ。
でも、今のが聞いちゃ行けない質問だったことは明らかだ。

「…あの…」
「ご、ごめんね!無神経なこと聞いちゃって…ちがう話にしよう…」

そうは言ったけど、すぐに話題は浮かばない。
気まずい。せっかく最高の日だったのに自分でぶちこわしてしまった…。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 23:35:46.90 ID:XRmbV2gb0

「あの…昨日は寝不足だった?」
「…」

我ながらアホな質問だ。長門さんが無言なのは呆れてるからかな。
でも、これ以上沈黙に耐えられないよ…。

「昨日は、ほとんど寝ていない」
「そ、そっかあ…僕もなんだ…それで寝ちゃった…」

間抜けな会話だ。ああもう…谷口の軽い口がほしいなあ。
なんて思っていると、長門さんの方から話を続けてくれた。

「昨日の夜、彼女からあなたが来ると電話で聞いた」
「あ、涼宮さん?」
「そう」

ふうん…僕は木曜日だったけど、長門さんは知らなかったんだ。
ってことは今日のはまた涼宮さんが唐突に思いついたんだろうな。

「そうしたら…眠れなくなった」
「え?」
「…あなたが来ると聞いてから、そのことばかり考えていた」

…長門さん、そんなこと言われたら、僕は色々期待してしまいます…。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 23:41:00.27 ID:XRmbV2gb0

何を言えばいいんだろう長門さんのこの顔は…照れている…?

「長門さん…」
「…」
「…えっとその…僕も…同じだった」

しばらくなんとも言えない沈黙が流れた後、長門さんはいつもより
少しだけはっきり笑ってくれた。

「長門さん、もっと笑ってもいいと思うよ」
「笑う?」
「うん…笑顔ってね、基本的に人を幸せにするものだと思うから。
 長門さんの笑顔を見ると、周りの人もうれしいと思う。それと、長門さん自身も」
「周りが幸せになる…」
「うん、少なくとも僕はもの凄く幸せになるなあ」

長門さんが初めてくすっと、少しだけ声を出して笑ってくれた。
うん。僕はもの凄く幸せ。嘘じゃないでしょ、と言ってみると
うれしい、と言ってくれた

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/19(金) 23:54:00.54 ID:XRmbV2gb0

「んーお腹いっぱい」

いろんな意味で。と心の中でつぶやくと、長門さんが、あの、と話し出した。
そのとき、僕の袖をつかんでくれたのがなぜかとてつもなくうれしかった。

「…ここから私の家までは、遠くない」
「?うん」
「出来たら、寄っていってほしい」
「え、いいの?…あ、でも一人暮らしの家に上がり込むのは…」
「あなたなら平気。傘のお礼をしたい。お茶をいれて…読んでもらいたい本もあるから」
「う、うん…」

僕にはもちろんやましい気持ちなんて全然ない。ないったらないんだ。
それに、こんな魅力的なお誘いを断れるほど僕の意志は強靱じゃない。
長門さんと、一緒にいられるなら…。



「…というわけで、家におじゃまして本貸してもらって、
 お茶までごちそうになっちゃったんだ」
「…それでお前、帰ったのか?」
「え?それでって…すごいでしょ?すごく前進したと思わない?僕」
「なーもー!あんたって奴はほんとにもー!」

なんで僕はキョンと涼宮さんに責められているのだろう?

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:03:02.56 ID:XwAQRY1f0

日曜日を挟んで月曜日。放課後にキョンと涼宮さんに呼び出された僕は
珍しく文芸部室におじゃましていた。ちなみにこのためにわざわざ

「SOS団本日臨時休業」

という涼宮さん直筆の張り紙を貼りだしているんだから、この2人の
野次馬根性はあっぱれかもしれない。お世話になってなんだけど、暇なのかな…。

「いやだってさ、初めて外であって、ご飯食べて、家におじゃましたんだよ?」
「だーかーら!あんたはその先に行きなさいよ!」
「その先って…」
「あのな、一人暮らしの家におじゃましたってのに何にもしないで帰るなんてお前…」
「そうじゃないわよこのエロキョン!」

なんだかキョンは若干不純なことを考えているらしい。
こっちは無視して涼宮さんの話を聞いてみよう。


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:15:47.87 ID:XwAQRY1f0

「えっと…その先ってなに?涼宮さん」
「だから…あんたもう有希にメロメロなんでしょ?」
「え、あ、その…えっと…うん…」
「だったらそれを言っちゃえば良かったのよ!」

…ああ、そういうことですか。うん確かにそれは一理ある。

「う…そ、それはその…む、無理だよぉ…」
「なにが無理なのよ!あんたって奴はお勉強だけできて自分の恋愛はからっきしね!」

あんたに言われたくないよこのツンデレ。
と言いそうになったけど後が怖いので黙っておこう。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:22:11.88 ID:XwAQRY1f0

「だってさあ…おととい初めて外であって、でもってようやっとまともに
 しゃべれるようになったんだよ?そんな急に…」
「それで有希は家に招いてくれたんでしょ!?脈大ありじゃないのよ!」
「そ、そうとは…だってほら、キョンだって一回おじゃまして…」

電話でキョンに相談したとき教えてくれたのは、長門さんが一人暮らし
だっていうことだったけどその理由としてキョンが長門さんの家に行ったことが
あることも聞いていた。
そして言った瞬間これは禁句だった!と思ったけどもう遅い。

「キョン、あんた…」
「ち、ちがう!ちがうぞぉ!国木田!お前誤解招くようなこと言うなって」
「あ、あのちがうんだ涼宮さん!長門さんは文芸部の今後を相談したかっただけで…」
「だからって女の子の一人暮らしにずかずかあがりこむとは何事よこのエロキョン!!」
「そ、そんなこと言ったら国木田だって!」
「うるさーい!」

いつの間にか僕の話がふっとんでいる。
この様子を見ているのはそれはそれで楽しいのだけれど、
キョンが本気で怯えているのでとりあえず涼宮さんを必死でなだめる。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:32:22.87 ID:XwAQRY1f0

「まあ、とにかくよ…あんたが有希を好きなら、そう言っちゃえばいいだけの
 話なの!あ、もちろん直接よ。メールとか電話は絶対ダメだかんね」
「いや、まあそうだけど…でもさ、もうちょっと段階を踏んでいかないとさ、
 心配なんだよ…軽い気持ちだと思われたくないし、長門さんも困るだろうし」
「うーん…そうねえ…」

やっとまともな相談になったなあ、なんて思っていたら、キョンの方が
アドバイスをしてくれた。

「じゃあ、次はお前からデート誘ってみたらどうだ?お前は趣味も多いし、
 長門が興味示しそうなところに一緒にいってこう…ドーンと」
「あ、それよ!国木田!早速デートに誘いなさい!」
「う、うん…」

これは珍しく建設的な提案かもしれない。そうだ。今までは学校で会うのと
キョン達がセットしてくれた時間だけだもの。今度は僕が誘って2人だけで…

「うん、そうする…けど後つけたりしないでよ?」
「う、わ、わかってるわよ…」

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:39:18.48 ID:XwAQRY1f0

珍しい取り合わせの3人で下校する途中、僕は気になっていたことを話す。

「…でもさ、キョン…長門さん、僕が帰るとき何か言いたそうだったんだよね」
「え!?なになにそうなの?あらーならそんなのきまってるじゃないねー」
「んーいや…そうとも限らないかな…」

…なんかよくわかんないなあ。この2人の言うことって。
まあ、いいや。帰ったら色々予定たてなきゃ。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:46:53.19 ID:XwAQRY1f0

家に帰ってからネットを立ち上げて、何かデートになるイベントでもないかなと
調べていると、意外にも簡単に見つかってしまった。好きなインディーズの歌手が、
街の中心の方にあるライブハウスに出演するらしい。あそこは一回いったことがある。
すごく雰囲気のいいお店で、飲み物飲んだりしながら座って演奏が聴けるんだ。
あ、しかも数日後だ。いやあ、うれしい偶然ってあるんだね!
すぐに電話をして2人分の空席を確認すると予約をとって電話を切った。

…あ、断られたらどうしようかなあ…。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 00:57:09.41 ID:XwAQRY1f0

「…あ、あの長門さん?国木田です…うん、こんばんは
 あのさ、今日ペアで行くライブの予約取っちゃったんだ。それで良かったら
 長門さん一緒に行かないかなあって…うん、沖縄の人でね、すごくいい歌
 歌うんだ…。うん…あ、4日後。急だよね…え?あ、そう…うん…じゃあ…
 うん、詳しいのはメールでね…はい…あ、おやすみー」

…OKされてしまった。こんなにあっさりと。初デートだ。

やった!僕はうれしさで座っていたベッドに後ろ向きに倒れ込むと、
そのままキョンにメールで今のやりとりを送っていた。
もちろん、尾行されたら困るので詳しい日程その他は伏せといて。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:06:19.24 ID:XwAQRY1f0

朝からそわそわする日曜日。僕は家族に浮かれている事を悟られないように
身支度をすませると、予定より早めに出発した。
電車の中でも気づいたらにやけてしまいそうでおさえるのにだいぶ苦労した。
長門さんが来たら、なんてあいさつしようかな、
待った?ううん、今来たところ…っていうのをやってみたい。うんそれはいい。

我ながらバカみたいなことを考えていると、すぐに電車は待ち合わせの駅についた。
改札を出てすぐの待ち合わせ場所。そこで長門さんをゆっくり待とうと思って、
僕は凍り付いた。

長門さんはもう来ている。それは別にいい。
長門さんの周りに、なんだか体格のいい男の人たちが3、4人集まっていて
なにやらしきりに話しかけている。どうみてもいい雰囲気じゃない。
すると、そのうちのひとりが、不意に長門さんの手をつかんだ。

その瞬間、僕は長門さんの方に走り出した。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:17:59.05 ID:XwAQRY1f0

走って、駆け寄って、長門さんの腕を少し乱暴につかむ。
ばっと長門さんの腕は男の人から解放されて、僕に捕まれた。

「な、長門さん!ごめん!遅くなっちゃった!」

そう叫んで、男の人たちの方を見る。

「あの…僕の…ぼ、僕の…」
「あ、あ、ごめん!ごめんねー。ははは…」

彼らはあっさりと、ぞろぞろ引き下がっていった。あ、あれ?別に悪い人じゃ
なかった?無駄にテンションを上げてしまった僕が拍子抜けしていると、
長門さんが説明してくれた。

「ラグビー部の人たち…。食事しようと言われた」

あ、やっぱりナンパか。どうりででっかいなあ…
なんて思っていると、なんだか右手に長門さんの視線を感じる。
そこで僕は長門さんの手首を掴みっぱなしであることに気づいた。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:23:37.28 ID:XwAQRY1f0

「あぁ、ご、ごめん…」

ぱっと放して謝ると、意外にも長門さんはふっと笑ってくれた。

「大丈夫。…うれしかった。あの人に捕まれたときは、嫌だったけれど
 あなたに捕まれた瞬間は、うれしかった」

長門さんは、本当に僕の心を引っかき回す。

「…あ…手、つないでいい?」

黙って僕の手を握ってくれた。
ああ、もうこのままライブハウスなんかつかなくてもいいや。
むしろこの道がずっとつづいてくれたらいいのに。

「早く来すぎて…それで、ずっと待っているところを見られていた」
「ああ、ごめんね。待たせちゃって」
「いいえ。…もう待ってても来ないと言われた…」
「うん…」
「けれど、来た」
「当然でしょ?」
「…けれどうれしかった」

そう、もちろん来るさ。何回だって。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:36:18.30 ID:XwAQRY1f0

結論から言うと、ライブハウスにつかなければいいという僕の心配は杞憂だった。
長門さんはついてからも、曲を聴いている間も、ずっと僕の手を握っていたからだ。
というか、放そうとしない以上、僕から放すわけはないわけで…。
周りから見たらちょっと不快だったかもしれないけど、いいよね、これくらい。

そういうわけで、せっかくのライブだというのに歌っている彼女の歌は半分くらいしか
頭に入ってこなくて、もう半分は、僕の手のひらの感触を探るようにふにふに
してくる長門さんの左手に注がれていた。長門さん…僕もうもたないよ。

逆に、長門さんの方は歌に相当関心が湧いたらしく、ライブが終わってから僕に
色々と質問してきた。もっとも、半分くらいしか答えられなかったけど。
駅に着いてしまった。これでお別れ…。

いや、無理だ。キョンや涼宮さんに言われるまでもなく、もう僕の方が言わずには
いられないよ。こんなに気持ちがあふれてくるのは初めてだもの。

「な、長門さん…」
「なに?」

手をつないだまま、僕は長門さんに向き合った。


177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:46:46.27 ID:XwAQRY1f0

「長門さん、今日はすごく…楽しかった…うれしかった」
「…私も」

あ、どうしよう。手が震えてきた。もちろん長門さんにはバレバレだ。
うん、でもここで引き下がるわけにはいかないさ。僕だって男なんだから!

「長門さんと、学校で話すようになって…不思議探しやって…一緒にご飯食べて…
 それも全部、すごくうれしかったんだ」

長門さんは黙ってうなずいた。

「それがどうしてなのか…最初わからなかったんだ。こういう気持ちになるのは、
 初めてだったから…でも、もう充分にわかる…だから、聞いてほしいんだ」

長門さんの顔を見ることができない。でも、言おう。
キョンや涼宮さんや、長門さんのこれまでの言葉が僕を後押しする。

「僕は、長門さんのことが…」
「言わないで」
「え…?」
「…言わないで」

言わないでって…どういうこと?

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 01:54:28.47 ID:XwAQRY1f0

「あ…」
「ごめんなさい…言わないで…」

言う前に謝られてしまった。というか、言うのを拒否されてしまった。3回も。
…そんなのってないよ。
僕だってそんなに楽天家じゃない。ふられることだって考えてた。
でも、それでもいいって思えたんだ。
長門さんがどうしようもなく好きだから。それさえ伝えることができればって。
伝えることができればって…それなのに…。

…手を放さなきゃ。

「…わかった。ごめんね、急に」
「…あ…」
「今日は…ありがとう。またね」

もうこれ以上長門さんの顔を見ていられない。みっともない姿を見せるのは嫌だ。
僕は足早に改札を通って、電車に乗り込んだ。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:00:02.73 ID:XwAQRY1f0

ベッドに潜り込むと、思い出したくないのに長門さんとの思い出が蘇ってくる。
僕のことを考えたら眠れなかったと言ってくれたこと、家でお茶を入れてくれたこと。
図書室と図書館でのこと。色々と。
僕は結局、一人でなにやってたんだろう?長門さんと一番話せる人間で、
長門さんの表情を読み取れる人間になれたと思っていたのだけれど。

右手には、まだ長門さんの感触が残っていた。
その右手を抱えるようにして寝ようとしたけれど、どうしても眠れないので、
僕は結局、少し泣いた。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:07:02.54 ID:XwAQRY1f0

月曜日、休むのもなんなので律儀に登校した僕は、まっさきにキョンに
自分がふられたことを報告するはめになった。
キョンは実にうれしそうな顔で話しかけてくる。

「よ、国木田。どうだった?デート、昨日だったんだろ?」
「うん…ダメだったよ」
「…えっ?」
「あはは…ふられちゃった」

あ、涼宮さんも後ろにいたんだ。まあ、いいけど。

「お、お前…だってそんな…」
「んーまあしょうがないよね。あ、長門さんに聞いたりしないでよ?
 お互い別に思い出したいことじゃないだろうしさ」
「国木田、あんた…」
「あー僕なら平気だから。元々ちょっと無理かなーとは思ってたんだ」

…嘘です。すごく期待してました。
けれど、せめてかっこつけるくらいは許されるでしょう?

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:16:40.88 ID:XwAQRY1f0

飄々として、つかめない。そういえば僕はそんな風に言われる男だった。
元から生の感情をむき出しにするなんてガラじゃなかったんだ。
恋愛は精神病だって、本当その通りだね。
いつも通りの自分。少なくともキョンと涼宮さん以外にはそう見えていただろう。


「あ…」

…けれど長門さんに廊下でばったり出会ったら、さすがに今まで通りにはいかない。
せめて一声かけて、早く立ち去ろう。

「…おはよう」
「待って」

…袖を掴まれた。あのときはあんなにうれしかったけど、今はもう苦痛でしかない。

「…なに?」
「あの…話を…私は…謝らないと…」
「…無理だよ…そんなの…」
「…え?」
「ごめん」

今度は僕が話を遮る番だった。無理だって…。あんなに好きにさせて、
告白させてくれなかったのに、これ以上僕の心を乱さないでよ。
謝られたって、苦しくなるだけだ。
はじめて長門さんの手を振り切って、さっさと立ち去った。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:26:34.52 ID:XwAQRY1f0

一週間ほどがすぎた。キョンと涼宮さんの僕に対する態度がなんとも
腫れ物をさわるような態度になってるのはおいといて、いつも通りの自分に戻った。
…はずだった。
それなのに、なんでこんなにつかれるのだろう?

授業が終わって、中庭のベンチに腰掛けると、ふと自分をふり返ってみた。
ここ最近の僕って、結局なんなんだろう?長門さんに会った瞬間から
普通じゃなくなって、どんどん自分のペースを乱されて、そして好きになって。
喜んで、心配して、期待して、また好きになって。

…そしてそれを伝える事を拒まれた。

長門さんを失った今、僕は普通に戻れた。
…じゃあなんでこんなにつかれる?
…それはつまり、僕がまだ長門さんを…。

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:28:27.01 ID:XwAQRY1f0

※人様の絵を勝手に挿絵に流用する試み
http://nagamochi.info/src/up20500.jpg

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:35:36.83 ID:XwAQRY1f0

「全然平気じゃなさそうだぞ…国木田」
「キョン…」

キョンはいつも、人の痛みを放っておけない人だ。
だから友達になったんだろうけど、今の僕にはちょっとそれが痛い。

「…長門にな、聞いたよ、お前とのこと」
「…聞かないでっていったのに…かっこ悪いよ…告白する前にふられるなんて…」
「その理由、ハルヒが問いつめてた」
「え?」

キョンによると、涼宮さんはあの月曜日、すごい剣幕で長門さんに詰め寄ったらしい。
キョンだけでなく、古泉君や朝比奈さんがあわてふためくなか、大声で。
それならまた臨時休業すればいいのに。そんなことも考える余裕なかったのかな。
…いい人だね、涼宮さん。

「どういうつもりなのか、お前は人に気を持たせて一方的にふるような人間じゃ
 ないだろうって。そしたら長門、どうしたと思う?」
「…さあ…」
「泣いたんだよ、あいつ」


235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:42:26.76 ID:XwAQRY1f0

「うそ…」
「うそなわけないだろ。泣いたんだよ。ごめんなさいってそれだけ繰り返して」

長門さんが泣いた?僕のことで?
なんで?理由がわからないよ。

「そんな…なんで…」
「大体な、なんで俺とハルヒが、お前と長門の不思議探しセッティングしたり、
 デートするように勧めたりしてたと思うんだ?」
「…野次馬」
「怒るぞしまいに。…お前が相談してくるよりほんのちょっと前、長門が俺たちに
 同じようなこと言ってきたんだよ。お前といるのがうれしいけどどうしていいか
 わからない。なんでうれしいのかがよくわからないって。他言無用でって」
「は!?な、なにそれ!?」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 02:51:54.37 ID:XwAQRY1f0

なんだか話が複雑になってきた。他の生徒に聞かれても困るので場所を変えて、公園に移る。

「だからさ、お前も長門もまるっきりウブで、自分の気持ちがわかってないから
 そういう方向に導いてやるべくハルヒは『長門有希幸せプロジェクト』を
 立ち上げたの。俺と2人で。つまり、お前っていうより長門の応援だったんだ」

え、いやあの、つまりそれって長門さんと僕は同じ気持ちで…

「え、いや、じゃ、じゃあ…なんで僕ふられたの!?好きって言うことも
 できなかったんだよ!?」
「そこんところを説明しようとしたら、お前が聞いてくれなかったって長門が泣きそうな顔で俺に」

罪悪感で胸がしめつけられる。長門さんが謝りたかったのは、前とは多分違う意味だったんだ。
僕は…僕は…

「でな、その理由…お前聞きたいか?」
「うん…聞きたいよ…でも僕…長門さんになんて言っていいか…」
「だってよ、長門」
「へ?」

後ろをふり返るキョン。そこに、いつの間にか長門さんがいた。

「…長門さん」
「国木田…くん…」

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:02:38.97 ID:XwAQRY1f0

長門さんが立っていた。今までのどの瞬間よりも会いたいと思ったその時に。
その瞬間僕は、ああ、そういえば名前呼んで貰えるのってはじめてかな…と思っていた。

「…私があなたの気持ちを聞けなかったのは…嘘をつきたくなかったから…
 私がどういう存在なのか、知らないままあなたと一緒にはいられないから…
 …け、…けれど、あなたの気持ちを聞いてしまったら、もうそれを拒むことは
 できないと知っていたから…」
「うん…」
「でも、私の正体を知ってしまったら、あなたは私を…」
「嫌いになんかならないよ!」

また勝手に言葉を遮って、しかも叫んでしまった。

「どんな理由でも…長門さんの気持ちがどうだって、僕の気持ちはもう
 変わらないから…だから聞かせて…」
「…わかった」

「…けれど言葉では多分理解できない。だから、見てもらう。彼が、私の正体を
 知ったときの様子を」
「…見る?」

「…私が、ふつうの人間ではないということを」

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:13:54.10 ID:XwAQRY1f0

「…1学期の教室」
「え?」

と、突然辺りが暗くなり、次の瞬間僕達3人は無人の教室にいた。
いや、よくみると一人いる。僕も何度か話したことがある、けれど今は
日本にはいないはずの…。

「あ、朝倉さん!?教室?なんで…」
「私たちは移動していない。朝倉涼子もここにいない。この光景は私に
 残された記憶からあなたたちの視覚へ送信された映像。現実ではないけれど、本物の光景」

長門さんの説明がさっぱり理解できない。いやもうすでに何もかも理解の外だ。
僕達がみているのが、過去の光景?
横にいるはずのキョンが入ってきた。キョンはよく見ているけど同時に2人みたのは
はじめてだ。そしていつも優しかった朝倉さんが、ランボーが振り回すような
ナイフでキョンに襲いかかり、その光景に完全に声をうしなっていると、
ついに長門さんが飛んで現れた。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:22:33.22 ID:XwAQRY1f0

「て、手が…」
「大丈夫。あれは過去の私。肉体の損傷も外見ほどではない」

長門さんと朝倉さんが常識の範疇を越えた速度で跳んだりはねたりしている。
いつの間にか教室の光景も滅茶苦茶に歪んでいる。
そして色々なものが飛び交って、キョンがけっ飛ばされて、朝倉さんが光って…
…長門さんが串刺しになった。

「な、長門さん!」
「大丈夫…。あれは過去の姿だから…本当に、大丈夫だから…」

朝倉さんが消えて、教室がもどった。いつのまにか長門さんが無傷になっていて、
キョンが抱え起こしたとおもったら…谷口が入ってきた。
あ、前言ってたのってこの姿だったんだ…。気になってたけど…。

谷口が走り去り、キョンと長門さんが教室を出て行って、僕達は公園に戻った。

「あ…」
「国木田…」
「…」

今見た光景を理解できない。僕は頭を抱えて座り込んだ。

285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:35:07.09 ID:XwAQRY1f0

「…今いるのは、本当に公園…?」
「今あなた達が見ている世界は、間違いなく物理現実」
「朝倉さんは…どこに…」
「…消滅した」

隣りをみれば、キョンの方も相当参った顔をしている。そりゃあそうだろう…。
自分が殺されかけたところを第三者の視点で見せられたってことだし。

「すまないな国木田…でもこれしか方法がないんじゃないかって…長門と話し合ってな…」
「うん…なんていうか…長門さんが普通の人間じゃないってのは…わかった…」

言い終わった瞬間、ああしまったと思った。事実ではあるけれど、長門さんにとって
おそらく一番言ってほしくない言葉を言ってしまった。
長門さんの顔を見る。凄く悲しそうな顔。僕がさせてしまったんだ。

「…ごめんなさい」

一番聞きたくない言葉を言い残して、長門さんは走っていった。
ちがうんだ、長門さん、僕は…
いや、そうじゃない。今必要なのは、ここで責任を感じることじゃない。
言い訳することでもない。今はただ…。

「く、国木田…」
「キョン!ありがとう!」

あっけにとられるキョンを残して、僕は長門さんをおいかける。
そうだ。だって僕は、まだ肝心なことを言ってない!

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:43:49.15 ID:XwAQRY1f0

勢いよく公園を飛び出したはいいけれど、長門さんはすでにいなかった。
困った…いや、長門さんの行き先なら、なにも迷うことはない!
あのマンション。お茶を飲ませてもらったあのマンションだ。

さんざん走ってマンションの入り口までくると、オートロックの自動ドアが
閉まるところだった。無理矢理走り込んで、ドアに挟まれながら中にはいると、
今まさにエレベーターに乗ろうとする長門さんがいた。

「長門さん…」
「あ…」

長門さんはひとこともらすと、エレベーターの中に入っていって、
ドアが閉まり、エレベーターはそのまま上へと昇っていった。
…あれ?
うわあどうしよう!長門さんまた行っちゃった!
どうするって…追いかけるしかない。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:50:17.89 ID:XwAQRY1f0

階段を駆け上がる。ただでさえマンションまで走ってきたあとでこれはきつい
心臓が爆発しそうで、息も上がる。ああ、僕は元々体育苦手だったなあ。
すれ違った人がものすごく驚く。当たり前だ。
向いてないんだ。こんなのは。派手に転んだ。手をついてすりむく。
ああ、本当に僕らしくない。僕らしくなくて…何が悪いってんだ!

目的の階にたどり着くと、長門さんが部屋に入ろうとするところだった。
もの凄くびっくりしている長門さんの腕をぐっとつかんで僕は言った。

「ご、ごめ…ごめんね……ちょ…ちょっと待って……」

息が上がりすぎてしゃべれない。

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 03:55:40.73 ID:XwAQRY1f0

本当にかっこ悪いなあ、僕。なんて思いつつ、息を整えていると、長門さんは
不思議そうに僕に尋ねた

「走って、おいかけてきたの?」
「うん…だって…長門さん…行っちゃうから……」
「奥に別のエレベーターがあるのに?」
「え…」

うわあ…なんか…僕は空回りしてばっかりだ…。

「あ…はは…階段で来ちゃった」
「…ありがとう」

長門さんが笑ってくれて、僕の高ぶっていた気持ちはずいぶんと和らいだ。
よかった。これなら言える。

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:13:43.33 ID:XwAQRY1f0

「長門さん…僕、長門さんが好きだよ」

その言葉を言った瞬間、長門さんの表情が変わる。笑みが消えて、
泣きそうな顔になって…ついに長門さんは僕の前でぼろぼろと泣き出してしまった。
声もあげず、目を閉じて涙を流す長門さん。それが拒絶でないことは解る。
大丈夫。今の僕なら、君の言葉が出てくるまで待ってられるから。
そのまましばらく時間がたって、長門さんは僕を見つめて口を開いた

「私も……私もあなたが好き。大好き」
「うん…ありがとう」
「でも…私は…私はあなたとは…」
「同じだよ、長門さん」
「え…?」
「ほら、手、つないでみて」

僕の心は落ち着いている。不思議だ。今までは長門さんの前であんなに滅茶苦茶に
乱れてた僕のペースが、いつのまにか元に戻ってる。
いつもの自分のままで、長門さんに大切なことを伝えられてる。

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:14:10.58 ID:XwAQRY1f0

「長門さんの手、暖かいね」
「…あなたも」
「同じ血が流れてるからだよ」
「…うん」
「…それだけで充分だよ。長門さんは人間なんだ。そりゃ、人よりちょっと
 変わってるかも知れないけど…だから、長門さんのこと、もっと知りたい。
 今の僕なら、全部信じることが出来るし、それを受け入れられるよ。
 何を知っても、長門さんが人間だって、長門さんが好きだって言えるから…だから」

胸の辺りに、とん、と衝撃がくる。長門さんが僕に抱きついた。
あ、だめだ。やっぱり心がとまってしまう。

「あなたの…心音が聞こえる」
「うん…生きてるからね」
「私も…同じ?」

長門さんが僕を見上げて、目があった。ああ、やっぱりだめだ。

「うん、同じ」
「…好き」

そういった長門さんの顔があんまり近くにありすぎて、あんまりにも
かわいすぎて、そしてあんまりにもうれしすぎて。

考える前に、僕は目を閉じて唇を重ねてしまった。


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:32:12.79 ID:XwAQRY1f0

どのくらいの時間だったのか、正直感覚が無くてわからないけど、多分なんていうか
それなりに長い時間がたってどちらからともなく顔を離した。
2人でため息みたいな吐息をつくと…長門さんはなぜかそのまま
口で呼吸している。あ、僕もだ。

「…息をするのを忘れた」
「…うん、僕も」

なんとなく2人で笑ってしまう。
そのままぎゅっと長門さんを抱きしめると長門さんも僕の背中に手をまわしてくれた。

「…僕達、多分ふたりともさ、人より器用じゃないんだよね」
「…そうかもしれない」
「だから色々面倒なこともあるかもしれないけど…でも…ずっと一緒にいたい」
「…私も」
「うん…じゃ、一緒にいようね」

ふと、長門さんが顔を上げて僕の顔をまじまじとみつめた。
う…やっぱり恥ずかしいよ。

「泥が付いてる」
「え?あ、階段で転んじゃったから…」
「…手をすりむいた?」
「うんちょっと…あ、でも大丈夫だよ」
「絆創膏貼るから、入って」
「う、うん…おじゃまします」

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:32:35.48 ID:XwAQRY1f0

2度目の長門さんの部屋。なんとなく、前より緊張するのはなんでだろう?
僕は長門さんに絆創膏を貼ってもらって、お茶を出してもらった。
そして長門さんについての話を色々聞いた。宇宙の使者。というのが僕なりの
まとめで、長門さん曰く「ほぼ正解」らしい。涼宮さんについての話も色々
聞いて、とんでもなく非常識な話ばかりだけど、なんとなく全て信じることができたのは、
あの公園で見た幻のおかげだけじゃないと思う。

僕の鼓動が気に入った長門さんは、しきりにくっついてきた。
それはとてもうれしいけれど、長門さんは自分も同じだから、私の心音も
聞いてほしいと言ってきて、それはさすがに遠慮した。
なんだか寂しそうにしているのをみて、かわりに脈をはかってみたのだけど、
ふと我にかえったらその様子がおかしすぎて、一人で声を殺して笑い転げる僕を
長門さんは不思議そうに見ていた。

色々、とにかく夢のような時間だったけど、長門さんと初めてこたつの同じ
場所に入って、それがとっても暖かかったことと、長門さんの入れてくれたお茶が、
前よりもずっとおいしかったことは確かだ。

341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:48:28.91 ID:XwAQRY1f0

「んっとにキョンおそいわねー!」
「まーキョンて昔からしょっちゅう遅刻してたからねー」
「団員はそうはいかないの!大体みくるちゃんといい古泉くんといいたるんでるわ…」

そういう訳で、晴れてSOS団公認のカップルになれた僕らは、SOS団のみんなと
一緒にテーマパークに遊びに行くことになった。涼宮さん曰く僕の顔見せ。
…よくわからないけどもちろんOKした。
のだけれど、実は朝比奈さんと古泉君は来ない。
あの2人と長門さん、それに僕の4人で話した結果、じゃあダブルデートにすれば
いいじゃないか、と主に超能力者と未来人の提案で決まったのだ。
それはいい。ほっといたら、あの2人はなかなかくっつきそうもないし。
つまりは、お返しだ。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:48:58.48 ID:XwAQRY1f0

「…涼宮さん、僕らがこうなれたのって、涼宮さんのおかげだから…すごく
 感謝してるよ」
「ちょ、な、何よ急に…まあ事実だけどねー」

そうさ。なんせ涼宮さんがいなかったら長門さんもいなかったんだから。

「感謝している」
「ちょ、ちょっと有希まで…なんなのよー」

あはは、涼宮さんって感謝されるとすごく困るんだ。面白いな。

「でね、涼宮さんお礼に…ちょっと耳かして」
「あん?すぐに返しなさいよ」
「………」
「んな!?そ、そんなの!?」
「いや、絶対大丈夫だって〜。あ、ほらキョンきたよ」

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 04:59:55.37 ID:XwAQRY1f0

「よ、お待たせ…ってあれ?この4人だけか?」
「…そうよ。遅いわよ、あんた…」
「…お前、なんか具合でも悪いのか?なんでそんなおとなしいんだ?」
「ど、どういう意味よ!」

ふふ、あの2人はあれで自然なんだろうな。まあ、それはそれでいいや。

「あの…」
「ん?」
「彼女に、何を…」
「んー、内緒」
「…私にも?」
「う、うん…でもね、後ろからついていけば、すぐにわかるよ」

涼宮さんは、少し歩いた後、キョンの手を握った
キョンは、あ、と言った後、そのまま涼宮さんに握らせていて、
そのうちぐっと握り返して、2人はそのまま手をつないで歩きだした

352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 05:00:21.72 ID:XwAQRY1f0

「ね?大体わかったでしょ?」
「…わかった」

自分の気持ちに正直になる。自分らしくある。必ずしも同じ事じゃないけど、
でも何はともあれ、気持ちに正直になることでこんなにも色々成長できるなら、
来年はキョンと涼宮さんが、いやできれば身の回りの人もそれ以外もみんな、
自分の気持ちに正直になれるといいなあ。初詣ではそんなことをお祈りしよう。

ちょっと気の早いことを考えながら、僕はとりあえず初詣も、その先もずっと
隣にいてほしいと思う女の子の手を握って、色々の気持ちをこめてほほえみかけると、
彼女もふっと、ほほえんでくれた





おわり

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 05:08:34.47 ID:XwAQRY1f0

うん、わかっちゃいたけど、全然国木田が国木田じゃなくなっちゃっいましたね…。
いやさ、キョンもハルヒも長門も好きなんだけど特に国木田が好きで、
しかも「キョンと国木田」も好きだけど「国木田と長門」も好きでどうしようかなって…。
結局両方書いたんですよ。誰も気がつかなかったけど、前に書いたのは
キョンと国木田が仲良くてハルヒが嫉妬するやつです。世界は全然別物だけどね。

あと、国木田がふにふにされてもたなくなりそうだったのは「自分の気持ち
を押さえること」であってそれ以外のなにものでもないですぞ!
そういう反応もあると思ったけど反応しすぎだっw


んで、最後に皆さんの支援、応援、ありがとうございましたー。またねー。

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 05:15:31.21 ID:XwAQRY1f0

※あ、おまけ。これも拾いものです。
http://nagamochi.info/src/up20504.jpg

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 05:21:16.40 ID:XwAQRY1f0

※最後におまけ。書きながら思った、映像は全然違うけど私的主題歌。
http://jp.youtube.com/watch?v=Go2KfOezvWw&feature=related

んじゃ、今度こそさよならーノシ



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:ドラえもん「頼るな屑」