朝日の昇る頃に


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20 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:15:42.46 ID:rWGT4GJ70

葛西との銃撃戦により負傷した富竹と梨花は、
入江の診察室の窓から診療所へと忍び込もうとしていた。


富竹「どうやら診療所の周りにはもう敵はいないようだね」

梨花「はい。これなら安全に忍び込めるのです」

富竹「まだ安心できないよ。気を引き締めていこう」

梨花「…それにしても詩音、遅いのです」

21 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:20:27.55 ID:rWGT4GJ70

富竹「そうだね…そろそろ僕らに追いついてもいいころなんだけど」

梨花「もしかして…林の中で迷っているのでしょうか」

富竹「うーん、僕達も途中で迷いそうになったし、それはあり得るな…」

梨花「詩音…」

富竹「し、心配いらないよ梨花ちゃん!あの詩音ちゃんだよ!すぐ来るさ」

23 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:27:08.84 ID:rWGT4GJ70

梨花「…そうですね。ありがとう富竹」

富竹「ははは。…あつつ、…」

梨花「富竹!?大丈夫なのですか!」

富竹「…ああ、大丈夫だよ。ちょっと腹の傷が痛んだだけさ」

梨花「…早くその傷を処置しないといけませんね」

富竹「すまないね…そうしよう」

25 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:38:03.64 ID:rWGT4GJ70

二人は診療所の周りを警戒しながら進む。
しばらくして入江に聞いていた診察室の窓を見つける。

富竹「この窓だな。入江先生がカギを開けていったのは」

梨花「まさかカギを閉められたりはしてないですよね…」

富竹「ま、まさか…」

梨花が窓に手を掛け開けると窓はなめらかにスライドした。

梨花「よかった。カギは閉められてないです」

富竹「よし。入ろう」

26 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:40:27.37 ID:rWGT4GJ70

窓枠を乗り越え二人は診察室へと入った。
診察室の中は、だんだん明るくなってきた外の光がぼんやりと照らしている。

しかしそれでも室内なだけあって外より暗い。
梨花と富竹は周りに気をつけながらあたりを伺う。

梨花「気をつけてください。暗いので注意しながら行かないと…」


富竹「ごめん、梨花ちゃん。その前に、…ふう」

富竹は辛そうに診察室のベッドに腰掛けた。

梨花「富竹?」

富竹「すまない、先にこの開いた傷をなんとかしたい」

27 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:43:47.45 ID:rWGT4GJ70

梨花「あ…」

富竹は上着をまくって横腹の負傷部分に巻いた包帯をあらわにした。
包帯は既に真っ赤に染まっていた。

梨花「だ、大丈夫なのですか!?」

富竹「とりあえず応急処置をするよ」

梨花「必要な物はありますか」

富竹「ああ、この部屋にあるものでなんとかなりそうだよ」

28 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:48:14.66 ID:rWGT4GJ70

梨花「そうですか…」


富竹「しかし、氷がないな…」

梨花「氷が欲しいのですか?」

富竹「うん…」

梨花「それじゃあボクが探してきますです」

富竹「僕も行くよ」

梨花「ダメです。富竹はここでおとなしくしててください」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 02:49:05.74 ID:rWGT4GJ70

富竹「そんな、梨花ちゃん一人なんて危険だよ」

梨花「そんな傷で歩き回って、
   探してる途中で倒れたりしたら目も当てられないのですよ」


富竹「…そうだね。それじゃあ梨花ちゃんに任せるよ」

梨花「任せてくださいなのです。それじゃあとってきますです」

富竹「ああ、よろしくね」

30 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:53:25.38 ID:rWGT4GJ70

梨花は診察室から廊下へと出る。
廊下は診察室よりも窓がない分さらに暗かった。
しかし梨花はこの暗さでも飄々と廊下を進んでいく。

梨花「入江の研究に協力していてよかったわ…
   こんな暗い中じゃ動けなかったわよ」

梨花は地下を除けば診療所には何度も出入りしていたので
暗闇の中でも障害物や部屋のドアの位置なども体で覚えていた。

31 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 02:57:36.75 ID:rWGT4GJ70

梨花「たしか冷蔵庫が置いてある部屋は…ここね」

梨花が入った部屋は職員が休憩する部屋らしく、
給湯の設備やシンクなどがあった。
梨花はその部屋の隅に置かれた冷蔵庫を見つける

梨花「よかった。早く氷をもっていきましょう」

梨花は診察室から持ってきたビニール袋を取り出し、
それに氷をいれようと冷蔵庫へと近づく。

そこで梨花はふと気づいた。

梨花「(それにしても疲れたわね…体がだるいわ)」

32 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:03:31.40 ID:rWGT4GJ70

羽入「(…梨花、顔色が悪いのですよ)」

梨花「(ん…羽入。いたんだ)」

羽入「(最初からいたじゃないですか!)」

梨花「(ああ、ごめんごめん)

羽入「(全く梨花ってば…。それより、調子が悪いんですか?)」

梨花「(今日は朝早かったし寝不足かもしれないわ)」

羽入「(そうなのですか?)」

33 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:07:46.06 ID:rWGT4GJ70

梨花「(さっきまではまったく疲れなんて感じなかったんだけど…はぁ)」

羽入「(これから頑張って沙都子を救わなきゃいけないのに
    そんな弱音はいてちゃだめなのです。
    ふぁいと、おーです梨花!)」

梨花「(…わかってるわよ)」

羽入「(それでこそ梨花なのです)」

梨花は冷凍庫を開け、その中にあるたくさん溜めてある氷を
ビニール袋へと移していく。

梨花「よし、こんなもんね」

冷凍庫にあった氷を全部入れたビニール袋を掲げ見る。

梨花「さあ富竹が待ってるわ。行きましょう」

34 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:14:58.30 ID:rWGT4GJ70

梨花はその部屋を出て暗い廊下を診察室へと進んでいく。
しかし梨花の足はさっきのように思うように進まなかった。

梨花「(おかしいわね…本当に疲れが溜まってたみたい…
    歩くのさえしんどいわ…)」

羽入「(もしかして今日は体の具合が悪かったんですか…?)」

梨花「(いいえ…そんなことは…)」

羽入「(さっきよりも顔色が悪いし、辛そうです)」

梨花「(本当、どうしたのかしら…)」

35 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:23:17.88 ID:rWGT4GJ70

羽入「(…この診療所に入ってからじゃないですか?)」

梨花「(何がよ)」

羽入「(梨花の体調が優れないのは)」

梨花「(…そういえばそうかもしれない)」

羽入「(梨花、これはもしかして…)」

梨花「(なによ…)」

羽入「(梨花の体が疲れているのは、能力のせいじゃないですか?)」

36 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:26:41.49 ID:rWGT4GJ70

梨花「(つまり私は敵の能力にはまってる、と言いたいの?)」

羽入「(はい…)」

梨花「(…ありえるわね)」

羽入「(はい。そうなると富竹が心配です)」

梨花「(そうね。もしかしたら彼も同じような症状がでているかもしれない)」

羽入「(早く戻りましょう)」

梨花「(ええ…)」

37 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:30:30.74 ID:rWGT4GJ70

ガチャ

梨花「(ふぅ…、やっと着いたわ)」

梨花が診察室のドアを開ける。

梨花「富竹、氷を持ってきたのです」


富竹「…」


富竹はベッドに横になっているようだった。
富竹からは返事がない。

梨花「大丈夫ですか?」

38 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:32:55.44 ID:rWGT4GJ70

富竹「…ああ、…梨花、ちゃん…」

窓の方を向いていた富竹がこちらに顔を向ける。

梨花「氷を持ってきたので……!!?」

富竹「……あ、…ありが、とう……」

梨花「!?…あなた、と、富竹なの!?」

富竹「…え、なんだって?…よく、聞こえないんだ…」

梨花「富竹が…」

羽入「お、おじいさんになってます…!」

39 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:34:46.64 ID:rWGT4GJ70

梨花を見る富竹の顔は、先ほどまでのハリのある肌を持った
若さを見て取れる顔ではなかった。
しわだらけの老人のような顔になっていた。

梨花「これは…」

羽入「富竹が、一気に、」

梨花「歳をとった…」


羽入「やっぱり、梨花…」

梨花「ええ、これは能力ね…」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:35:17.57 ID:rWGT4GJ70

羽入「ということは梨花の疲れの原因も…梨花!?」

梨花「なによ、うるさいわね…」

羽入「梨花の顔にも、その、しわができてます」

梨花「ええ!?うそでしょ…この歳で…」

羽入「はい…口元のところに、少し」

梨花「くっ…許さないわ」

羽入「早く犯人を捕まえましょう!」

41 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:36:11.32 ID:rWGT4GJ70

梨花「それにしても…」

羽入「なんですか?」

梨花「老化させる能力なんて最低ね!」

羽入「そんなに怒るとまたしわが増えますよ」

梨花「…あんた、そんなにキムチが食べたいのね…」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:36:51.78 ID:rWGT4GJ70

羽入「あ、あぅあぅあぅうう!!」

梨花「落ち着け馬鹿神」

羽入「ば、馬鹿いわれました…」

梨花「とにかく、こんな外道な能力使うやつなんて、
とっちめてやるんだから!」

羽入「とっちめ?」


梨花「よし、そうと決まればこの氷をとりあえずどっかに置いて…」

43 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:38:30.40 ID:rWGT4GJ70

羽入「…梨花、その氷、持っていたほうがいいと思います」

梨花「なによ急に?邪魔になるだけじゃない」

羽入「…ちょっとボクの話を聞いてほしいのです」

梨花「そんなことより早く敵をみつけなきゃ富竹が!」

羽入「相手の能力…老化させる能力についてです」

梨花「…何かわかったの?」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:39:18.80 ID:rWGT4GJ70

羽入「はい」

梨花「言って」

羽入「はい。富竹を見てください」

梨花「…かなりおじいちゃんね」

羽入「富竹と梨花ではずいぶん老化の進み具合に差がでています」

梨花「…そういえばそうね」

45 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:41:02.49 ID:rWGT4GJ70

羽入「梨花がしわ一本できたのに対して、
富竹はすでに全身が老人と化しているようです」

梨花「うん…私と富竹とじゃなぜか老化の速さが違うってことね」

羽入「そうです。
   今はその老化の進行に何故差が生じたかを考えないといけないのです。
   そうじゃないと敵を見つける前に梨花がおばあちゃんになってしまうのです」

梨花「たしかに、私がこのまま行っても老化して廊下で倒れるだけだわ」


羽入「…つまんねーダジャレを言う元気はあるのですね」

46 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:41:36.07 ID:rWGT4GJ70

梨花「そ、それで!羽入は何が原因で差が生じたと思うのよ」

羽入「はい。そこで考えてほしいのですが、
   富竹と梨花の違いはなんですか」

梨花「違いって…どういうことよ」

羽入「例えば富竹はずっとここで寝ていました」

梨花「そうね」

47 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:43:11.59 ID:rWGT4GJ70

羽入「その間梨花は何をしていましたか」

梨花「氷を探してたわね」

羽入「そうです。そこで、考えられるのは、
   この部屋から出ていた、歩き回っていた、氷を持っていた、
   この三つです」

梨花「…なるほど」

羽入「そして二人のもっと根本的な違いが二つ、
   性別が違うこと、年齢差があること。
   つまりこの五つの要因の中に
   富竹より老化が遅れている原因があると思います」

48 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:43:56.21 ID:rWGT4GJ70

梨花「なるほどね。それで五つもあるうちからあなたが判断したのは
   氷を持っていた、という要因なのね」

羽入「はい」

梨花「理由は?」

羽入「梨花、あの窓のところにある植物を見てください」

梨花「ん?」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:44:36.57 ID:rWGT4GJ70

窓辺に小さな鉢植えには花が植えてあったのだろうが、
しおれて垂れてしまっているためなんの植物かも確認できない。

梨花「…枯れてる」

羽入「はい。枯れています」

梨花「この能力は植物にも効くのね…」

羽入「そうみたいです。でもそこは注目すべきとこじゃありません」

梨花「そうなの?」

50 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:45:29.30 ID:rWGT4GJ70

羽入「次はそこの机の下の植物を見てください」

梨花「机の下?」

梨花が机の下、床に目をやるとそこにも植木鉢があり花が植えてあった。
しかし窓辺の植物とはまるで違った。

梨花「…咲いてる。綺麗に」

机の横に床に直に置いてあった鉢植えからは綺麗な花が咲いていた。

梨花「なぜ枯れてないのかしら」

51 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:46:07.43 ID:rWGT4GJ70

羽入「梨花、外を見てください。もう太陽が出て結構経ちました」

梨花「そうね。私達がここへ入ったときから既に日は出てたけど、
   それがどうしたの?」

羽入「あの窓辺の植物は窓からの日光にずっと当たっていたことになりますよね」

梨花「ええ」

羽入「ということは窓辺の植物は太陽の光に当たり続けていた。
   でも机の横にあった植物は机の陰にあるから光が当たっていない」

52 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:47:21.40 ID:rWGT4GJ70

梨花「そうか、日の光に当たっていたから窓辺の植物は枯れたのね」

羽入「だと思います」

梨花「つまりあの植物は日光によって暖かくなったから老化した、ってこと?」

羽入「そうです」

梨花「ということは…」

羽入「この能力は温度、体温が高い生物ほど老化が進行するんです」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:48:25.63 ID:rWGT4GJ70

梨花「…なるほど。よくわかったわ」

羽入「はい」

梨花「でも他の原因も考えられるわね」

羽入「なんですか?」

梨花「太陽の光よ。私は光がとどかない暗い廊下にいたけど、
   富竹は日の当たるこの部屋で寝ていたわよね」

羽入「そうでしたね」

梨花「ということは日光が老化を早める原因とも考えられるわ」

羽入「…そうかもしれません」

54 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:48:56.07 ID:rWGT4GJ70

梨花「よし、体温の上昇と太陽の光に気をつけながら敵をさがすわよ」

羽入「はい!」

梨花「…富竹、ちょっと待っててね。すぐ敵を見つけて止めさせるから」


梨花は袋詰めの氷を手に診察室を後にした。

55 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:50:11.07 ID:rWGT4GJ70

___________________


梨花「ふぅ…いないわね…」

羽入「ここで三つ目の部屋なのです。まだまだですよ」

梨花「ええ?まだ三つしか回ってなかったっけ?…」

羽入「そうじゃないですか」

梨花「くそっ…しんどいわね…はぁ」

羽入「だんだんため息が多くなってきましたよ梨花」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 03:51:06.30 ID:rWGT4GJ70

梨花「それくらいこっちはきついのよ…」

羽入「そうですか…」

梨花「…あんたは、なんともないの?」

羽入「はい。ボクは元気です」

梨花「……あっそ…ふぅ」

羽入「梨花…」

57 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:51:50.28 ID:rWGT4GJ70

梨花「…それにしても…氷で体は冷やしてるし,
   太陽の光も届かないところにいるってのに、
   楽になる気がしないわね…」

梨花は持っていた氷を体に当てたり口に含んだりして積極的に体温を
下げていた。しかし疲労感は溜まる一方だった。

羽入「そんな…どうしてでしょう…」

梨花「はぁ、はぁ…」

梨花は喋る事さえも辛く感じていた。

58 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:53:27.38 ID:rWGT4GJ70

羽入「り、梨花。よくない報告なのですが…」

梨花「…なに…はぁ」

羽入「さっきより顔がだいぶおばあちゃんになってます…」

梨花「…そう…」

羽入「あの、大丈夫ですか?」

梨花「…羽入」

羽入「はい?」

梨花「大丈夫じゃない、っていったら、どうする?」

59 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:54:18.03 ID:rWGT4GJ70

羽入「そんな…困るのです」

梨花「……」

羽入「沙都子はどうなるのですか」

梨花「…そうね。ごめん…」

羽入「さ、行きましょう」

梨花「……うっ」

ドサッ


羽入「…え?」

60 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:55:07.45 ID:rWGT4GJ70

梨花は疲労が限界を迎えたのか、急に地面に倒れてしまった。

羽入「…梨花?」

梨花「……」

羽入「り、梨花!梨花!!しっかりしてください!」

梨花「……」

羽入「りかあああ!!!」


***

61 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:55:49.83 ID:rWGT4GJ70

***


??「これで二人か。ちょろいもんだ」

診療所のある一室に潜む男は二人の侵入者を無力化したことがわかると
満足げに微笑んだ。

男「どうやら一人は俺の能力を勘違いしていたようだな…
   体温の上昇か。いい目の付け所だったな、ふふ」

男「こういう状況なら俺のこの能力に適うやつはいないからな」

男「たしか一階の侵入者は三人だったよな。この調子でもう一人も…」


??「あらぁ、たいした自信ですねぇ」

男「!?」

62 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:56:37.86 ID:rWGT4GJ70

ヒュッ
スカン!


男「ぐっ!?」

病室の扉の方からナイフが男に向かって投げられた。
顔面に向かって投げられたナイフを男は間一髪でかわす。

ナイフは木造の壁に突き刺さる。

男「だ、誰だ!?」

詩音「誰だ!…なんてそんなやられ役御用達の台詞吐く人って
   実際にいるんですねぇ。詩音ちゃんびっくりです」

63 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:57:14.09 ID:rWGT4GJ70

詩音は男に姿を見せず喋り続ける。

詩音「それにしても自分はここでぼーっとしてりゃ勝手に
   爺さんばあさんになってくなんて、汚ねぇ能力ですねぇ」

男「き、貴様…姿をみせたらどうだ?」

詩音「そんなに見たいんですか?それじゃあ見せてあげましょう」

ヒュッ


再度詩音は男に向かってナイフを投げる。

64 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:58:10.46 ID:rWGT4GJ70

男「無駄だ!」

先ほどは油断していた男だが、今回は扉に注意を向けていたので
男は向かってきたナイフをやすやすと避ける。

男「なんども同じ手を…」


詩音「はぁ〜い、詩音でーす」

男「…え?」

詩音の声は男の背後から発せられた。


ザシュッ!

65 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 03:59:01.91 ID:rWGT4GJ70

男「ぐああああ!!」

詩音「あらあら痛そー」

男は詩音に背中をナイフでノの字にばっさりと斬られた。
男の背から血が流れる。

男「くっ、そ、がぁ…」

男は振り返って詩音と対面する。

詩音「はぁーい、お初お見えですね」

男「てめぇ…」

詩音「あらあらそんな恐い顔の人だったんですね」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:00:01.58 ID:rWGT4GJ70

男「く…」

詩音「ふふ…」


男と詩音は無言で対峙する。
すると急に男が口を開く。

男「…聞きたいことがある」

詩音「あら、なんでしょう」

男「どうやってここまで来た?何故老化していない」

詩音「そりゃアンタの能力がわかっちゃいましたからね」

男「なに…?」

67 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:01:05.94 ID:rWGT4GJ70

詩音「あんたの能力、生物を老化させる能力の正体がね」

男「…」

詩音「あんたはこの一階のフロアに生き物を老化させる能力を使った。
   あんたはガスのようなものを噴射した。それは吸い込むと老化するガス。
   このフロアはその老化ガスが既に充満している」

男「…ほぉ。よくわかったな
  だがガスの性質までわかったのか?」

68 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:02:13.28 ID:rWGT4GJ70

詩音「ええ」

男「ほう。貴様の仲間は勘違いしたようだがな」


詩音「…梨花ちゃんはこのガスの性質を間違えてしまった。
   体温や太陽の光なんかこの能力には関係ない。
   ただこのガスは"上に溜まる"ってことです」

男「…」

詩音「窓辺にあった植物が枯れて床にあった植物が枯れてないのも
   そうです。ただ上にあったから。
   富竹のおじさまのほうが梨花ちゃんより背が高かった、
   それだけです」

69 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:02:55.84 ID:rWGT4GJ70

男「俺の能力を見破るとはな…恐れ入ったよ」

詩音「そのおかげでここまで慣れないほふく前進ですよ。
   あーあ、服が汚れちゃってる」


男は自分の能力の性質を見破られ、動揺した。
そして男は不可解なことがもうひとつあった。

男「…もうひとつ聞きたい」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:03:34.82 ID:rWGT4GJ70

詩音「もうお喋りはこのへんでいいでしょう?」


男「最後だ。…俺の老化ガスの性質をわかっていながら、
  今お前は何故"立っている"?」


詩音「そんなの簡単です。
   私が老化する前にアンタを再起不能にするからです」


男「…ふ」

詩音「さぁ、観念してくだ、さい!」


シュッ

詩音が再び持っていたナイフを投げる。

71 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:04:14.41 ID:rWGT4GJ70

男はそれを横移動で避ける。


詩音「…ふふ、これで最後です」

男の背後からの声。

先ほどと同様、詩音は男の背後に瞬間的に移動していた。


男「…」


キィンッ

詩音「くっ…」

72 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:04:53.34 ID:rWGT4GJ70

男「無駄だ。貴様の能力はもうわかっている」

男は最初に詩音が投げて壁に突き刺さっていたナイフをいつの間にか回収し、
それで詩音のナイフによる斬撃を防いでいた。


詩音「…へぇ、私の能力、言ってみて下さい」

男「"ナイフを自分の位置に変える能力"だな…」

詩音「…気づかれずにいけると思ったんですけどね」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:05:23.66 ID:rWGT4GJ70

男「その攻撃はもう無駄だぞ」

詩音「あらら、それじゃ私このまま老化して死んじゃうじゃないですか」

男「ああ。おとなしくそうしろ」

詩音「それは嫌ですねぇ」

男「ふふ、あきらめろ」


詩音「それじゃ本気でいきますね」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:05:55.36 ID:rWGT4GJ70

男「なに?」

詩音「じゃーん!」

詩音は腰やポケットなどから何かを取り出して男に見せる。
その手にはナイフ、メスなどの刃物が数十本握られていた。

男「…?」

詩音「いやぁ、この部屋に来る前にいろんなとこから拝借したんですけどね
   さすが入江せんせの研究施設なだけあっていっぱいありました」

75 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:06:54.27 ID:rWGT4GJ70

男「…それでどうするつもりだ?
  いくら投げても俺には通用しないといったはずだが?」

詩音「さぁ、どうでしょうね!」

男「!?」


詩音はその手にもった刃物を全て部屋にばら撒いた。
部屋の床にはいたるところにナイフやメスが転がっている状態になった。

詩音「はい、準備完了です」

男「…なにがしたかったのか知らんが、もう終わりにしよう」

詩音「ふふ。そうですね」

76 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:07:28.90 ID:rWGT4GJ70

男「そうか。ならこれで終わりだ!」

男はナイフを手に詩音に迫る。

男「うらあ!」

シュッ

男が詩音に向かって突いたナイフは空を切った。

詩音「こっちですよ」

男「……!」

詩音は再び男の後ろにいた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:08:06.79 ID:rWGT4GJ70

男「ならこれでどうだ!」

男は左足を軸にして後ろ回し蹴りを繰り出す。
重心ののった見事な蹴りだった。

しかし詩音は既に後ろにはいなかった。

詩音「こっちでーす」

男から少しはなれたところにまた移動していたのだった。


男「…そういうことか」

78 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:08:39.19 ID:rWGT4GJ70

詩音「はい、そういうことです」

男「貴様の能力、"ナイフを自分の位置に変える能力"というより、
"ナイフがある場所に瞬間移動する能力"というわけか。
  ナイフを床にばらまくことで瞬間移動する場所を増やし、
  相手を翻弄する…これがお前の本気か」

詩音「ご名答。景品はナイフです♪」

詩音が再び男の目の前から消える。

男「また後ろか!」

詩音「残念、左です」

79 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:09:31.89 ID:rWGT4GJ70

ザシュッ


男「ぐ、うううう…」

詩音のナイフは男の胸を切り裂いた。
男はたまらず屈みこむ。

詩音「その傷じゃもう逃げることも無理です。
   さ、老化の能力を解いて降伏してください」

男「く、くそが…」

詩音「クソはあんたです。
   さっさと降伏しないと私の改造スタンガンで
   強制的に眠らせますよ?」

80 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:10:40.49 ID:rWGT4GJ70

男「ス、スタンガンだと…くく、最近の若い奴は…」

詩音「…あんたさっきから定番台詞はきまくりでウザイです。
   やっぱ眠らせます」


男「…おら!」

男は急に立ち上がり床に何かを投げつける。

ドンッ!


すると床から強烈な光が発せられ、詩音の目を光が襲う。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:11:20.08 ID:rWGT4GJ70

詩音「っ!?閃光弾!?」

詩音の目が閃光によってくらむ。

男「くふふ…」

その隙に男が病室から出て行く。

詩音「ま、待ちなさい!…うう」

視界が完全にふさがれた詩音は男を追うこともできず
その場に立ち尽くす。

82 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:12:12.63 ID:rWGT4GJ70

___________


詩音「…よし、もう大丈夫ね。よく見えるわ」

数十秒後に詩音の目はほぼいつもどおりの視界を取り戻した。

詩音「あの野朗をはやく追わないと…あの傷ならそう遠くまでは
   逃げられないはず…」

老化の能力によって若干の疲労を感じてきた詩音は
早急に男を探すため部屋を出た。

詩音「…!?」

すると、部屋を出たすぐに人影を見つけ詩音は駆け寄る。
しかしそれはさきほどの男ではなかった。

83 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:13:14.66 ID:rWGT4GJ70

??「あれ、詩音ちゃん?」


詩音「え…も、もしかして、公由のおじいちゃん?」

喜一郎「まさかこんなところで会うとは、びっくりじゃわい」

詩音「…そりゃ私の台詞です」

喜一郎「よかったわい。これで探す手間が省けた」

詩音「…なんでこんなところに?」

喜一郎「実は入江先生に今回の作戦に協力してほしいと言われての。
    それで今日は早くから詩音ちゃん達と一緒に行くつもりだったんじゃが
    寝坊してしまっての」

84 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:13:51.38 ID:rWGT4GJ70

詩音「…そうだったんですか」

喜一郎「こうみえてもわしも能力者じゃからな。
    力になるぞい」

詩音「そりゃ頼もしいです」

喜一郎「ところでさっき変な男とすれ違ったんじゃが、
    あれは誰じゃ?」

詩音「敵です。逃げられちゃいました」

喜一郎「なんと!?…そうじゃったのか。
    知ってたらわしがひっとらえたんじゃが…」

85 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:14:56.26 ID:rWGT4GJ70

詩音「いえ、大丈夫ですよ」

喜一郎「?」


詩音「その男なら私の目の前にいますから」


バチッ!

喜一郎「いぎゃあああ!!」

詩音のスタンガンが喜一郎に当てられる。
喜一郎はその場に倒れこむ。

詩音「自分に能力を使って私をだまそうとするなんて私にゃ通用しません。
   圭ちゃんくらいなら騙せそうですけどね」

86 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:15:53.90 ID:rWGT4GJ70

詩音「それにしてもまさかおじいちゃんの
   本当の歳が40歳くらいだったなんて…ショックですねぇ」

喜一郎「…な、…何故………」

詩音「最初に私がナイフを投げたとき頬にかすったの気がつきませんでした?
   今のおじいちゃんの頬にもおなじ傷があるんですもん」

喜一郎「な………」

詩音「というか色々怪しすぎです。残念ながら」

喜一郎「…そう、か…」

87 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:17:07.67 ID:rWGT4GJ70

詩音「まぁ小さい頃お世話になった仲です。そこで寝ててください。
   帰るとき忘れてなかったら
   担いで持ってってあげますから」

喜一郎「……ふっ…」

詩音「それじゃ」

詩音は梨花と富竹の元へ向かった。

88 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:18:15.23 ID:rWGT4GJ70

_______________


詩音「さぁ二人とも、行きますよ!沙都子が待ってます!」

梨花「はい!」

富竹「ああ!」

詩音が喜一郎を倒した後、老化ガスの能力が解除され梨花と富竹は
依然の状態に回復した。

その後富竹の腹の傷の応急処置を済ませ、
現在三人は沙都子がいると聞いた地下一階に
来ていた。そして入江に説明された沙都子のいる病室へと向かっていた。

富竹「いやぁ、しかしさっきは詩音ちゃんが来てくれなかったら僕たち危なかったよ」

89 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:18:59.01 ID:rWGT4GJ70

詩音「そうですよ〜?私に感謝すべきです」

梨花「詩音、ほんとうにありがとう」

詩音「…なんか梨花ちゃまに普通にお礼いわれると怪しさが募りますね」

梨花「富竹、詩音がひどいことを言うのです。みぃ〜」

富竹「ん、あははは…お、この辺りじゃないかな。
   入江先生が言ってた沙都子ちゃんがいる病室は」

梨花「確かそうです」

詩音「うーん、でもいくつか病室がありますねぇ…」

そのフロアには廊下の両脇に病室が続いていた。
詩音達から見て左側に4部屋、右側にも4部屋ある。
廊下の先は行き止まりになっている。

梨花「この病室のどこかに、沙都子が…」

90 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:19:34.48 ID:rWGT4GJ70

富竹「しかし、これはまた…」

詩音「さすが入江先生いわく
   高レベル発症患者だけが隔離されてる病室なだけありますね」

梨花「扉が普通の病室のとまったく違うのです」

富竹「窓もない頑丈そうな扉、それにカードキーで開くドアなんて。
   このこのご時勢そうは見れないよ」

91 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:20:12.09 ID:rWGT4GJ70

詩音「…おっと、二人とも、珍しいドアに見とれてないで
   さっさと沙都子を探し出しましょう。」

詩音は入江から預かっていたこのフロアの病室の
カードキーをポケットから取り出す。

詩音「それじゃあ手前の部屋から見ていきましょう」

詩音達は自分達に一番近い部屋から順に探すことにした。
三人は右側の最も手前の病室の前に行く。

92 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:21:01.13 ID:rWGT4GJ70

梨花「詩音、見てください。ドアの横」

詩音「これは部屋番号と、…ネームプレートね」

ドアの横には部屋の番号と、患者の名前が書かれるためのネームプレートが掛かっていた。
今詩音達の前にある病室の部屋番号は"T105"、
そしてネームプレートには名前は書かれていなかった。

富竹「名前がないってことは、きっと空き部屋だね」

詩音「よし、次いってみよう」

三人は"T105"号室の隣、
"T104"号室のネームプレートを見る。

富竹「えっと、北条…」

詩音「沙都子ですか!?」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:22:06.33 ID:rWGT4GJ70

富竹「…鉄平」

詩音「ちっ!鉄平かよ」

梨花「鉄平はどうでもいいのです」

詩音「というかなんで鉄平がここに?あいつもL4になったんですか?」

富竹「いや、彼は沙都子ちゃんのスタンドにかなりの恐怖を刻まれたらしくて
   普通の病室だとそのせいで暴れるらしいからここに移されたんだ。」

詩音「ふーん」

梨花「あっそう」

詩音「どーでもいいですね」

94 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:22:45.98 ID:rWGT4GJ70

富竹「…え、えっと、北条鉄平も連れて行くんだよね?」

詩音「どっちでもいいんじゃないですか?」

梨花「というかむしろ置いてったほうがいいわ」

詩音「そうですね。初めて梨花ちゃまと意見が一致しました」

富竹「は、ははは…とりあえず全部終わってから
   また北条鉄平を連れにこようか…」

95 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:24:38.07 ID:rWGT4GJ70

三人は鉄平の部屋の扉を離れ隣の部屋のネームプレートを見る。

詩音「よし、次は隣です。えーっと」


梨花「T103…北条、沙都子!!」

詩音「ここね!やっと見つけたわ…」

富竹「この中に沙都子ちゃんがいるんだね」

詩音「それじゃあ早速カードキーで開けます」

富竹「あ、詩音ちゃんちょっと待った」

詩音「なんですかおじさま、
   どうでもいい話なら後にしてくださいな」

96 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:25:21.28 ID:rWGT4GJ70

富竹「入江先生に言われたこと、わかってるね」

梨花「…沙都子はL5を発症して大変危険な状態にあります」

詩音「わかってます…
   起こさないように連れ出せばいいんでしょ」

富竹「うん。よほどのことでは目は覚まさないようになってるはずだから
   大丈夫だろうけど、一応ね」

詩音「わかってます。それじゃ、開けますよ」

詩音はカードキーを扉のカードリーダーに通す。
すると ピッ という電子音とともに重厚なドアは開錠された。

富竹「開いたみたいだね…」

詩音「入りますよ」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:25:58.02 ID:rWGT4GJ70

詩音が重い扉をゆっくりと押し開ける。
室内は照明がついていて暗い廊下に扉の隙間から光が漏れる。

病室の中は窓は無く、コンクリートの打ちっぱなしの壁によって囲まれていた。
24畳ほどの広さの部屋に左隅にぽつんとベッドと機械類がおいてあった。

詩音「あ…沙都子!」

梨花「沙都子…」

そのベッドには北条沙都子が眠っていた。
三人は沙都子の元へ駆け寄る。

詩音「ああ、沙都子…ごめんね、こんなさびしい所に一人でいさせて…」

梨花「沙都子…よかった」

98 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:26:31.58 ID:rWGT4GJ70

沙都子はぴくりとも動かず、本当に死んだように眠っていた。
ただ沙都子の心拍数等を確認している生体モニターだけがそれを否定していた。

富竹「さぁ、二人とも。早く沙都子ちゃんを連れてここを出よう」

詩音「そうですね。私が連れて行きます」

詩音は沙都子の体から点滴の管だけを残し
他の電子機器につながれたコードなどを取り除くと、
沙都子を背中におぶる。

梨花「落とさないように気をつけてくださいね」

詩音「私はこの子のねーねーですよ。そんなことするわけないです」

梨花「ふふっ、そうですね。それじゃ行きましょう」

三人は沙都子を病室連れ病室を後にする。
他の病室が面している廊下に出る。

99 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:27:04.42 ID:rWGT4GJ70

詩音「そういえば…他の病室にも患者がいるんですかね。
   ちょっと見てみましょ」

詩音は沙都子がいた病室の隣の病室のネームプレートを見ようとする。

梨花「!?い、いいえ!いないのですよ!」

富竹「そ、そうだよ!いるわけないよ!」

梨花と富竹はそのネームプレートの前に立ち
詩音が名前を見るのを邪魔する。

詩音「?? なんですかあんたたち…」

100 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:27:44.05 ID:rWGT4GJ70

梨花「さ、!こんなところもう出ましょうです」

富竹「そうだねはやく戻ろう!敵がくるかもしれない」

詩音に言い聞かすように二人は脱出を推し進める。


詩音「…そうですね。こんなとこさっさとおさらばです」

富竹「うん。さぁ早く診療所を出よう」

富竹と詩音が走り出す。


梨花「…」

しかし梨花だけは足を動かすことは無かった。

101 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:28:14.29 ID:rWGT4GJ70

***


梨花「…」

羽入「梨花、なにぼーっとしてるんですか」

梨花「うん…」

羽入「富竹達について診療所を出ないんですか?」

梨花「うん…」

羽入「暗くてわからないから、
   きっとあの二人は梨花がそばにいるものだと思って行ってしまいますよ」

梨花「そうかもね…」

102 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:28:48.34 ID:rWGT4GJ70

羽入「梨花の任務はもう終わったのですよ?
   沙都子を取り返したんですから」

梨花「ええ…わかってるわ」

羽入「じゃあ何故二人と一緒に行かないんですか」

梨花「…私も、鷹野を止めたいの」

羽入「…梨花が行っても無駄じゃないですか」

梨花「そうね。きっと圭一達の足手まといになるわね」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:29:18.75 ID:rWGT4GJ70

羽入「わかってるんなら帰りましょう。あの二人と」

梨花「私はね…知りたいのよ」

羽入「?」

梨花「私を幾重にも渡って殺してきた鷹野…その理由を」
羽入「それは梨花の珍しい能力を研究するためじゃないですか」

梨花「それは私の予想よ。
   …本当の理由を、彼女の口から直接聞きたいの」

羽入「…そうですか」

梨花「ええ。だから、行かせて。鷹野の所へ」

104 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:30:35.19 ID:rWGT4GJ70

羽入「…勝手にすればいいのです」

梨花「…ありがとう」

羽入「死んでもしりませんよ」

梨花「ここまできたんだもの。意地でも死なないわ」

105 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:32:44.38 ID:rWGT4GJ70

羽入「……あ、梨花そういえば」

梨花「なに?」

羽入「さっき詩音が隣の病室ネームプレートを見ようとしたとき、
   梨花と富竹が必死で見せないようにしていたのはどうしてですか?」

梨花「ああ…それね」

羽入「隣には詩音に見せたくない人でもいるんですか」

梨花「まぁ、そんなとこね」

羽入「誰ですか?」


梨花「…悟史よ」

106 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:33:40.95 ID:rWGT4GJ70

羽入「…悟史」

梨花「来る前に入江に言われたのよ。
   沙都子の部屋の隣は悟史がいる病室だから、
   詩音には隠したほうがいいって」

羽入「なんでですか?」

梨花「ここに悟史を隠してたことを知ったら
   詩音は鷹野への怒りで何をするかわからないわ。
   あの詩音だもの。作戦を無視して鷹野に単身乗り込むかもしれない」

羽入「なるほど」

梨花「それにさすがに悟史まで担いでいくとなると色々大変だしね」

107 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:34:41.66 ID:rWGT4GJ70

羽入「たしかに、敵に襲われたときに対処が遅くなりますね」

梨花「そ。だから悟史も鉄平と同じで
   全部終わった後に連れて行くことになってる」

羽入「そうだったんですか」

梨花「そうだったのよ」

羽入「でも悟史もあんな何も無いようなところで
   一人でいるなんて可哀想ですね」

梨花「…そうね」

108 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:35:37.21 ID:rWGT4GJ70

羽入「……あ、悟史の隣にも部屋があります」

梨花「ああ、そこは誰もいないはずよ」

羽入「そうなんですか?」

梨花「ええ。入江に聞いたわ」

羽入「…あれ?でもここもねーむぷれーとに名前がかいてありますよ?」

梨花「え?」

羽入「えーっと、…ボクは字が読めないのでわかりません。
   梨花、なんて書いてありますか?」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/09/06(土) 04:36:29.24 ID:rWGT4GJ70

梨花「あんた何年生きてんのよ…どれどれ…」

羽入「なんて読むんですか?」

梨花「……は?…どういうことよ…」

羽入「…梨花?」

梨花「な、なんで…」

羽入「梨花ぁ、教えてください、なんて書いてあるのですか?」


梨花「…前原、圭一」


朝日の昇る頃に・前編 終

110 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:37:39.67 ID:rWGT4GJ70

これで 朝日の昇る頃に・前編 は終わりです
次回最終章は三日後、同じスレタイで立てます

111 名前: ◆7LsipGI0Aw [] 投稿日:2008/09/06(土) 04:38:14.80 ID:rWGT4GJ70

よんでいただいてありがとうございました。
あなたが神か。



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