みくる「へ、へっ、変身〜ッ!」


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9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 18:18:33.40 ID:3ARBkrkx0

「変身ッ!」

 叫ぶ必要はないのだが、まあ、こういうのは気合が大事だからな。
 こいつの前で変身したらどういった反応を示すのかは、前々から気になってたんだ。
 驚くか?
 喜ぶか?
 それとも、意外と普通の反応だったりしてな。

 右手に圧力。

 だが、今の俺にはトラックが全速力で突っ込んでこようが関係ない。
 変身した俺は、人間では有り得ない事も平気でやってのける。

 何故なら俺は、仮面ライダーなのだから。

 膝で衝撃を吸収し、片手で難なくトラックを止めた。
 おいハルヒ、どうだ? 今の見てたか?
 俺って、実は凄い奴だったん―――。

「ば、化け物っ……!」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 18:26:28.19 ID:3ARBkrkx0

「っ!?」

「……ここは?」

 誰に問いかけても返事はあるはずも無い。
 そりゃそうだ、だってここは俺の部屋で、時刻は深夜なんだからな。
 くそ、最悪の夢見だな、こりゃ。
 ……やれやれ。
 右手を額に当てると、大量に汗をかいていることがわかった。
 夏とはいえ、この汗の量は普通では有り得ない。

「多分、今の夢のせいだろうな」

 ここ最近よく見る夢だ。
 だが、俺はハルヒに話しかけたりなんかしちゃいないし、
どんな反応をするかなんて余裕はこれっぽっちも無かった。

 事実と同じなのは、俺がトラックを受け止めたこと。
 そして、俺があいつの前で変身したこと。
 それと、

「……化け物、か」

 あいつが、ハルヒが俺をそう呼んだこと位だ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 18:35:46.55 ID:3ARBkrkx0

prrrrr!prrrrr!

 携帯が、深夜だというのに遠慮なく着信音を吐き出している。
 はいはい、今出ますよ、っと。
 ……もしもし?
「怪人が現れた」
 わかった。場所は?
「三時方向、300メートル地点」
 了解。
「…………」
 ん? どうした?

 ここ最近かかってくるようになった長門からの電話。
 別に、あいつが俺と話したいから電話してくるなんて甘ったるいもんじゃない。
 これは、そう、必要な事だ。

「…………」
 切るぞ? 急ぐしな。
 そう言って電話を切ろうとした時、

「気をつけて」

 ……こりゃ驚いた。
 お前からそんな台詞が聞けるとは思わなかったよ。
「そう」
 ああ、そうさ。
 それに、心配するな。
 お前にそこまで言われちゃ、気をつけないはずがないだろう?

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 18:47:42.93 ID:3ARBkrkx0

 玄関を出ると、そこには大型のバイクが止まっていた。
 よう。

「挨拶ってさ、大事だと思うのよ。だから、こんばんは」

「そりゃそうだな。おはよう」

 黒いライダースーツ、といっても仮面ライダーの事じゃない、
を着た人物に短く挨拶の言葉を告げた。
「ねえ、今は夜なんだからさ。こんばんはじゃない?」
 悪いね。
 俺はさっきまで寝てたからおはようでも間違いじゃないんだ。
「ふうん」
 そいつは形の良い、少し今の子に言わせりゃ太い眉をひそめた。

「さあ、行こうぜ朝倉」
「キョンくん。何か忘れてない?」

 ああ、そうだったな。
 足を肩幅まで開き、いつもの言葉を言った。

「変身ッ!」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 18:57:42.13 ID:3ARBkrkx0

 腰を落とし、両足に力を溜めていく。

「ライダー……」

 おいおい、今さら逃げようったって遅いぜ、怪人さんよ。

「キック!」

 溜めた力を一気に開放し、地を蹴る。
 アスファルトがへこみ、周囲に亀裂が走るが、そんな事は知ったこっちゃない。

 相手を貫く超高速の飛び蹴り。
 それが俺の、仮面ライダーの必殺技、ライダーキックだ。

「ぐううあああっ!」

 胴体に風穴をあけた怪人が断末魔の悲鳴をあげた。
 相手は人間じゃないとはいえ、この瞬間はいつも何ともいえない気分に襲われる。

 それは、もしかしたら怪人にも慈悲をかけちまうっていう俺の優しさか。

 それとも、“俺と同じ存在”を殺しちまってるっていう罪悪感かは、わからない。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 19:05:58.43 ID:3ARBkrkx0

「お疲れ様」
 朝倉が俺に声をかけたのとほぼ同時に、周囲の景色のズレが戻っていった。
 お前もな。
 送り迎えもしてもらって、いつも悪いね。
「だって仕方ないじゃない。あなた、バイクの運転出来ないんだもの」
 そりゃそうだ。
 お前、俺の年齢知ってるだろう?
「年齢の問題じゃないと思うんだけど」
 そうかい。
 なら、金が無いって言った方が早いかな。
「……恰好がつかないわよね」
 言うな。俺だってそんな事は十分にわかってる。

 朝倉は、俺をあの化け物、“怪人”の所への送り迎えと、
周囲へ被害を出さないために空間をズラすだかなんだか知らないが、
まあ便利な事をやってもらっている。
 そのたんびにこんな小言を言われているが、まあ、良しとしよう。

「ヒーローが女の子につかまって二人乗りって、本当に恰好がつかない」

 ……だから、言うなって。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 19:15:14.43 ID:3ARBkrkx0

 時は、ほんの少しだけ前にさかのぼる。

「おい長門、そりゃ一体どういう事だ?」
 自然と語気が荒くなる。
 それも当然だ。むしろ、怒鳴らなかった自分を褒めてやりたいね。

「そのままの意味。情報統合思念体は、涼宮ハルヒを守るために
直接的な戦闘を行うことはしないと決定を下した」

 だったらどうするんだ?
 あの化け物はなんだか知らないが、ハルヒの命を狙ってるんだぞ。
「…………」
 長門が悪い訳じゃない。そんなことは分ってる。
 だけど、俺は冷静になることが出来ないでいた。
「落ち着いてください」
 落ち着けだと?
 古泉、お前はなんとも思わないのか。
「長門さんは、涼宮さんを守らないと言った訳ではありませんよ」
 何?
「彼女は“直接的な戦闘”は行わないと言ったんです」
 そりゃどういう意味だ。
「…………」
 長門は、ゆっくりと本を閉じ、俺の目を見て言い放った。

「戦うのは、あなた」

 ……。

 マジでか?

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 19:53:39.95 ID:3ARBkrkx0

 おいいお長門、そりゃどういう事だ。
 どうして俺が戦わなきゃならんのだ。

「俺は普通の―――」

 普通の高校生。
 そう言いかけて、口を閉じた。

「あなたは普通の高校生ではない」

 長門は、目をそらさず、真っ直ぐに俺を見つめている。
 その視線から、なんとなくだが逃げてはいけないような気がした。

「あなたは、仮面ライダー」

 仮面ライダー。
 まだガキの頃に名付けた、変身した後の俺の姿。

「戦う力は……ある」

 ああ、そうだな。
 お前の言う通りだよ長門。

 たしかに俺は、ただの人間じゃない。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 20:03:03.83 ID:3ARBkrkx0

「キョンくん、そんな事言わないで!」
 それまで話を聞いていた朝比奈さんが声をあげた。
 いいんですよ、本当のことなんですから、気にしないでください。
「キョンくん……」
「ハルヒが最初にした挨拶、知ってますか?」
 軽い調子で言う。
 この人を、俺のせいで落ち込ませる訳にはいかないからな。

「ただの人間には興味ありません」

 あの時、俺の席の後ろであいつは高々とこう宣言したんですよ。
 なるほど、それなら俺がここにいる理由にも納得がいきます。

 未来人。
 宇宙人。
 超能力者。

 そして、仮面ライ―――。

 パシン!

「あ……」
 頬に軽い衝撃を感じた。
 ごめんなさい、すいません。
 今のは俺が悪かったです。だから、

「うえっ、ぐすっ……キョンくんの……馬鹿!」

 だからどうか、泣かないでください。朝比奈さん。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 20:10:53.00 ID:3ARBkrkx0

「どうして……どうしてそんなに自分をいじめるの……!」
 泣きながら怒る朝比奈さんに、俺はたじろぐ事しか出来なかった。
 とにかく泣くのはやめてください。
 俺のために、朝比奈さんが泣く必要は無いんですから。
「ふうっ、ふ、ふえええっ!」
 まずい。
 これは非常にまずいぞ。
 俺が何か言うたびに、朝比奈さんの体から出る水分の量が増えている気がする。
 おい古泉、お前からも何か言ってくれ。

「そうですね。僕が何か言うとすれば、それはあなたにですよ」

 おい、今なんとかしなきゃいけないのは俺じゃない。
 それとも何か?
 お前は泣いてる女の子を放っておくつもりか?
「そんなつもりはありませんが、彼女を泣き止ませるには
あなたを何とかした方が早い、そう思ったまでです」
 どういう意味だ。

「思い上がらないでください」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 20:19:45.41 ID:3ARBkrkx0

「……なんだと?」
 普段の古泉が見せない、攻撃的な物言いに、つい棘々した言い方になる。
 だが、思い上がるなと言われて冷静でいられる人間がどれだけいるってんだ。

 正面から古泉を睨みつけた。
 いつもの爽やかすぎる笑顔はなりを潜め、変わりに、
見たこともないような真剣な目でこちらを見つめている。

 思い上がるな、ってのはどういう意味だ?
「あなたが、まるで自分だけが特別な存在であるかのような言い方をしていたもので、つい」
 そりゃあそうだろう。
 姿が変わって、人間では考えられない力を発揮する奴が普通の人間の訳がない。
「そうですね。たしかにトラックを片手で止める人間が、普通ではありえません」
 だろう。
「では、逆に質問をさせていただきましょうか」
 なんだ。

「宇宙人、未来人、超能力者。これらの存在は、普通の人間と言えるのでしょうか?」

「それは……」

「普通とは、言いがたいでしょう?」

 そう言った古泉の表情は、いつもの無駄に爽やかな笑顔に戻っていた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 20:32:47.36 ID:3ARBkrkx0

「ですから、あなたがここにいるのは偶然のようで、必然でもあるんですよ」
 ……やれやれ。
 非常に残念なことに、俺はお前が言いたいことを理解しちまったよ。
「おや。最後まで言わせてはもらえないんですか?」
 ああ、さすがにそんな恥ずかしい事を言われるのはゴメンだね。
 お前は満足するかもしれんが、俺が耐え切れん。

 古泉は、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
 ありがとうよ、礼は言わないでおく。

 だが、とりあえずやる事はわかった。
「朝比奈さん」
 出来る限り優しい声を出したつもりだ。
 これ以上は無い、ってくらいに。
「……何?」
 ようやく顔をあげてくれた事に、ほっと胸をなでおろした。

「朝比奈さん、確かにおれは仮面ライダーです」

「っ!」
 朝比奈さんの体がビクリと反応した。
 ああ、待ってください。続きがありますから!

「……ですが俺は、仮面ライダーである前に、SOS団の団員です」

 これで泣き止むだろう。
 そう思ったんだが、そんな俺の考えは甘かったようだ。
 なんと朝比奈さんは、さっきよりも大粒の涙を流している。

 ……女の子を泣き止ませるってのは難しいね、全く。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 20:49:32.70 ID:3ARBkrkx0

 なんとか泣き止んでくれた朝比奈さんは、今は顔を洗いに行っている。
 なんでも、顔が涙でぐしゃぐしゃになったから恥ずかしいとの事だったが、
そう言って照れくさそうにはにかんだ朝比奈さんも魅力的だったのは言うまでも無い。

「とりあえず、直接的じゃない戦闘ってのと、
どうしてお前のボスは俺を戦わそうとするのかを教えてくれるか」

 朝比奈さんと古泉のおかげで幾分か冷静になった頭で考えたが、答えはサッパリわからない。
 考えてわからないんだから、聞いてみるのが一番だろう。
 俺の言葉を聞き、長門はかすかに頷いた。
「情報統合思念体は、あなたに、仮面ライダーという存在に非常に興味を示している」
 まあ、そりゃなんとなくわかる。
 だけどな、それはハルヒを守らないって理由にはならないんじゃないか?

「涼宮ハルヒの身柄は守る」

「は?」
 さっきまでとは言ってる事が違うぞ。
 おかげで間抜けな声が出ちまった。
「なるほど。そういう事ですか」
 おい古泉。
 お前はわかったのかもしれんが、俺にはわからん。

「つまりですね。情報統合思念体は涼宮さんを守りはする、
しかし、怪人を倒す役目はあなたが行う。そういうことですよね、長門さん?」

 その言葉が正しかったのか、長門は頷いた。
 説明役を取られたことに腹を立てているように見えたのは気のせいだろう。 

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 21:03:48.32 ID:3ARBkrkx0

 もっとちゃんと説明してくれ。
 それに何だ、今の“怪人”ってのは?
「ああ、すみません。“怪人”というのは、
組織で使うことになった化け物の呼び名のことです」
 怪人、ね。
 神人といい、どうやらお前の組織はなんたら人って呼び方が好きみたいだな。
「“神人”は、神である涼宮さんの心の具現、
“怪人”は、それに逆らおうとする奇怪な輩、
ただそれだけの意味ですよ」
 なるほど。
 つまり、俺もハルヒに逆らったら怪人な訳だな。
「いいえ。あなたは“怪人”ではなく、“仮面ライダー”ですから」
 古泉は楽しそうに言った。
 まあ、いいさ。

 とりあえず、長門。お前の方の説明も頼む。
 出来るだけわかりやすくな。俺にもわかる程度に。
「…………」
 その言葉を理解しているのかいないのか、長門はコクリと頷いた。
「情報統合思念体は、あなたが怪人を倒す事を望んでいる」
 そりゃまたどうして。
「戦闘行為が、あなたの、仮面ライダーの能力を観察するのに最も相応しいと判断されたから」
 ふむ。
 つまり、俺が戦うことでお前らは仮面ライダーが何なのかがわかるかもしれない。
 いざという時は、長門達が戦う、ってことか。
「そう。サポートは全力で行う」

 ……なるほど、ね。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 21:22:43.05 ID:3ARBkrkx0

「でもさ。まさか承諾するとは思わなかったわ」
 俺も、自分の正体ってのが知りたくてね。
 このまま戦い続けてれば、どうして俺が変身出来るかがわかるかもしれない。
 そういう個人的なメリットもあるし、ハルヒも守れて一石二鳥だ。
「あ、ついでみたいな言い方だ」
 楽しそうに言うな。
 それにな、まさか俺もサポートの中にお前が入ってるとは思わなかったんだぞ。
「うん。私もさ、どうかと思ったのよね」
 朝倉は長い髪をかきあげながら言った。
 その身長は、制服を着ていた時よりも若干高く、顔つきも少し大人びていた。
 なんでも、再構成する時に“やりやすい”年齢にしたとのこと。
「いくら私とキョンくんが面識があるって言っても、ねえ?」

 長門が言うには、現在の地球での活動に支障をきたさず、
なおかつ俺とコミュニケーションがとれそうな人材は朝倉しかいない。
 だから、わざわざ年齢を引き上げて朝倉を復活させたのだと言う。
 正直、情報統合思念体の人材不足を笑えばいいのか、
俺のコミュニケーション能力が疑われていることを悲しめばいいのかわからない。

「ねえ、何か失礼なこと考えてない?」

「いいや、何も」

 変身をときながら、ちょっとした嘘をつかせてもらった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 22:14:20.29 ID:3ARBkrkx0

 こちらに走り寄ってくる人陰から、鈴を転がしたような素晴らしい声が発せられた。
 朝比奈さん、別に毎回来なくてもいいんですよ。
 ちゃんと寝れてますか?
 さすがにこの時間だと、いくら朝比奈さんでも眠いらしい。
 瞼が落ちそうになっているのをこらえているのが見てとれる。
「いいえ。私にはこれくらいしか出来ないから」
 そう言って、手に持っていたスポーツドリンクを手渡してくれた。
 その事に感動していると、
「あらあら。お姉さんは退散した方がいいのかな?」
 朝倉がニヤニヤとした笑顔とともに声をかけてきた。
 誰がお姉さんだ、この三歳児め。
「あら。今じゃ私の方が見た目は上なのよ?」
 確かにそうだな。
 俺が間違ってたよ、すまなかった。
「うふふ、わかればいいのよ」
 頭は子供、見た目はオバサンだったな。
「は、はあっ!?」
 まあ、実際のところはオバサンと言うのはとんでもない、えらい美人なのだが。
 ここに朝比奈さん(大)が現れてくれれば、一気にアダルトな雰囲気になり
俺は真っ直ぐ立っていられなくなるだろうさ。
 なんて事は微塵も顔にださず、淡々と言ってやった。
 からかわれっぱなしじゃ、癪だからな。

「あ、それとコレ。プレゼント」

 えっ? プレゼントって……俺にですか?

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 22:25:07.83 ID:3ARBkrkx0

「そうよ。開けてみて」

 そんなの当たり前でしょうと言わんばかりの笑顔で、
朝比奈さんは後ろ手に持っていた紙の包みを差し出してきた。
 ぶっちゃけ包みが朝比奈さんの細い体では隠しきれていなかったのだが、
そこは見て見ぬフリをするというのが男ってもんだろう。
 朝比奈さんのいたずらっこのような顔を見たら、な。

 ああ、朝倉。ちょっと静かにしてくれ。
「はいはい、若い子はいいわね。青春を楽しんじゃってさ」
 すねるなって。
 お前も十分若いさ。それに美人だぞ。
「あら、そう」
 やれやれ、完全にヘソを曲げちまったな。
 まあいい、今は朝比奈さんのプレゼントが最優先だ。

 朝比奈さんが見守る中、俺はゆっくりと丁寧に包み紙を開けていった。
 大丈夫ですよ、そんなに見つめなくても。
「そ、そうね」
 妙に緊張した顔をしている朝比奈さんに声をかけ、作業に戻る。
 すぐに包み紙はとられ、プレゼントの正体が明らかになった。
 途中で少し包み紙が破れてしまったのはご愛嬌。
 それを手に取り、しげしげと見つめる。

「これは……」

 それは、赤いマフラーだった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 22:35:14.18 ID:3ARBkrkx0

「あのね、キョンくんって移動にバイクを使うでしょう?」
 俺の反応に困惑したのか、朝比奈さんはまくしたてるように言った。

 確かに怪人の所へ移動する時にバイクを使う。
 これは朝倉の提案で、移動時間の短縮が目的だ。
 勿論、そのバイクは普通のバイクではなく、
宇宙人の妙な技術を詰め込んでいる物らしい。
 なんでも、その時に一番見た目に拘ったのは黄緑さんだとか。
 黄緑さん、申し訳ないんですが、少し派手だと思いますよ。

「それでね、今は夏だけど、キョンくんの乗るバイクって凄い速さが出るんでしょ?」

 確かに、速さだけで言うならあのバイクはもの凄い。
 だが、あの速さは普通の人間には耐えられる速さじゃあない。
 朝倉と、仮面ライダーに変身したからこそ耐えられる速さなんだ。
 そういう意味では欠陥品だな、ありゃ。

「だからね。マフラーがあると、バイクに乗ってても寒くないかなと思ったの」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 22:44:38.74 ID:3ARBkrkx0

「赤い色なのはね。男の子だし、恰好良いかなと思ったからなの」
 ワタワタと説明する朝比奈さんを見つめる。
 慌てる様子も可愛いですよ、とは口に出せるわけがない。

「……やっぱり、気に入らなかったわよね」

 そう言ってうなだれる朝比奈さんに無言で首を横に振り、
ゆっくりとマフラーを首に巻いた。
 今はバイクには乗ってないし、季節は夏なのでもの凄く暑い。
 暑いが、無理矢理微笑み、言った。

「似合いますか?」

 今の、不自然じゃなかったよな?

「……ええ、とっても!」

 良かった。
 朝比奈さんが笑顔を見せてくれてるってことは、変な所はなかったらしい。

 まあ、バイクに乗る時は変身しているから、寒さを感じることはないのだが、
そこは黙っておくのが華というものだろう。

 赤いマフラーか。
 まるで本当にヒーローみたいだ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 22:59:03.92 ID:3ARBkrkx0

 家まで送るという朝倉の申し出を断り、一人家路についた。
 朝比奈さんからも途中まで一緒に行こうと、なんともありがたい申し出があったのだが、
それを泣く泣く断った。

 戦った後、いや、仮面ライダーに変身した後は一人になりたい。

 途中で小さな公園を見つけ、立ち寄ることにした。
「お、自販機もあるな」
 ポケットから小銭を取り出し、冷たい缶コーヒーを買った。
 熱いものと間違えないように、慎重に。
 ただでさえマフラーを巻いてて暑いのに、これ以上暑くなったらたまらない。
 まあ、もし間違って熱いコーヒーを買っても、
マフラーは取らずに冷たいものを買いなおすがね。

 ベンチに腰掛け、俺は誰にも聞こえないようにつぶやいた。

「……ああ、ハルヒを殺したい」

 そのつぶやきは、深夜の公園に響き渡った。
 ……なんてことはなく、ただ、俺の耳を打つだけに終わっただけだった。
 缶コーヒーを傾け、一口だけ飲む。
 そして、グイ、と巻いていたマフラーを上げた。

「……あつい、な」


おわり

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:08:32.13 ID:3ARBkrkx0

第二話っぽいのはこれでおわり

続けて第三話、開始

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:21:56.33 ID:3ARBkrkx0

 俺が仮面ライダーだという事が知られてから、一ヶ月が過ぎた。
 相変わらず戦いは続き、倒した怪人の数は二桁をゆうに超えていた。

「今日の奴は、ちょっと手強かったな」

 いつものように公園のベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲みながら言った。
 怪人の強さは、日を追うごとに増していっている。
 いつかは、俺も倒される側になるのだろうか?

「ははっ、まさかね」

 何故か、俺にはそれが有り得ない事だとわかった。
 理由を説明しろと言われても、なんとなくそうわかるだけなんだから仕方ない。

 俺より強い怪人は現れない。

 その考えは、ほぼ確信に近いものがあった。
 まあ、俺が倒されたとしても長門達がいるから平気だろう。
 だって、あいつらの方が俺より強いだろうしな。
 むしろ、そうじゃなきゃ困るんだ。

 何故なら、

 ―――俺は、本当はハルヒを殺すための存在らしいのだから。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:32:14.75 ID:3ARBkrkx0

 帰ってベッドに横になるが、眠れない。
 寝たら、あの夢を見るからだ。

 その夢は、前にも見ていた、俺がハルヒに「化け物」と言われるもの。
 しかし、最近ではその続きを見るようになった。
 その続きってのが最悪で、胸糞の悪くなるもんなんだよ。
 やれやれ、怖い夢を見るのが嫌で眠れないなんて、子供みたいだな。

 だが、疲れている体は睡眠を欲しているようで、すぐに瞼が落ちそうになる。
 もう少し頑張ろうぜ、俺。
 もうすぐ朝だ。

 朝になったら学校に行って、後ろの席に座った奴にどやされる。
 授業が終わったら部活に行って、くだらない事を楽しむ。

 まるで、普通の高校生みたいに。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:39:42.35 ID:3ARBkrkx0

「化け物っ……!」

 ああ、どうやら俺は寝ちまったらしい。
 しょうがないな。
 妹が飛び乗って起こしてくるのを待つか。

「あ〜ハルヒ。そんなに怖がらなくてもいいぞ。こりゃ夢だからな」

 とりあえず夢の中とは言え、ハルヒに声をかけた。
 ふむ、今日の夢は部室か。
 いつもと違うシチュエーションとは、俺の頭もワンパターンじゃないらしい。
 お、今日は朝比奈さんも長門も古泉もいるんだな。
 よう、夢の中だからなんて挨拶すりゃいいんだ?
 おはよう? こんばんは? まあ、間を取ってこんにちはが妥当かな。

「正気に戻って!」

 正気に戻って?
 何を言ってるんですか朝比奈さん。

 これって、夢でしょう?

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:48:40.27 ID:3ARBkrkx0

「長門さん! 涼宮さんをお願いします!」
「わかった」

 俺の前に古泉が立ちはだかった。
 夢の中とは言え、お前のそんな必死な表情が見られるとはな。
 おいおい長門、こういう時はお前が前に立たなきゃ駄目だろう?
 古泉なんて、ここじゃあただの人なんだから。

「……至急応援を」

 長門が短く言葉を紡いだ。
 なるほど、朝倉と黄緑さんに助けを求めたのか。
 良い判断だ。
 それなら、今の俺を止められるかもしれない。

「おっと、忘れるところだった」

 いけないいけない、こいつを忘れちゃ駄目だ。
 これがなきゃ、俺は“怪人”だからな。
 まあ、夢の中ぐらいは恰好をつけてもバチはあたらないだろうさ。

 カバンの中から赤いマフラーを取り出し、首に巻く。
 よし、これでおれは“怪人”じゃない。

「仮面ライダーだ」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/18(月) 23:57:13.90 ID:3ARBkrkx0

「―――っ!」

 飛び起きた。

「……はぁ……はぁ……!」

 呼吸が荒い。
 心臓の鼓動の音がうるさい。

「何なんだよ……」

 今日のは本当に心臓に悪かった。
 俺がトチ狂って、部室で変身してハルヒを殺そうとする夢。
 そして、それを止めようとするあいつらを“夢だから”と……殺す夢。

「何なんだよ、俺はっ!」

 ―――なあ、誰か教えてくれ。

 俺はハルヒを怪人から守る、仮面ライダーなのか?

 それとも、ただの化け物なのか?

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 01:36:52.67 ID:4jZM1jYv0

「ねえキョン。あんた大丈夫なの?」
 どうしたハルヒ。
 お前が俺の心配をするなんて、らしくないぞ。
「うるさいわね。あんたがそんなに顔色悪くしてるからいけないのよ」

 確かに、ここ最近はまともに寝れた夜は数えるほどだった。
 それも、極わずかな時間だけ。
 そりゃあ顔色が悪くなるのも仕方が無いといえば仕方が無い。

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」
 どうやら俺の顔色は本当に悪いみたいだな。
 お前がそこまで心配そうな顔を見せるんだから。
「何よその態度。あたしは、あんたのことを心配してやってんのよ?」

 なんとまあ、明日は雨どころか台風なんじゃないか?

 いつもの俺なら、そう返していただろう。
 そして、ハルヒが口をアヒルのようにさせてうなり、
 朝比奈さんがそれをアワアワとなだめ、
 長門は我関せずと言わんばかりに本を読み続け、
 古泉がやれやれと肩をすくめていただろう。

「うるせえな」

 そう。
 いつもの俺なら、だ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 01:46:33.27 ID:4jZM1jYv0

「えっ?」

 ハルヒは俺の言葉に驚いているようだった。
 まあ、いつもの俺からしたら予想外の言葉だろうな、お前にとっては。

「きょ、キョンくん?」
 俺の態度に驚いたのはハルヒだけではなかった。
 声をあげたのは朝比奈さんだけだったが、長門は本を閉じこちらへ視線を向けている。
 おい古泉、駒を動かす手が止まってるぞ。
「……何よ、それ」
 何? 何とは一体何のことだ?
「あんたの態度よ! せっかく心配してやってるっていうのに」

 どうやらハルヒは俺の態度が気に入らなかったようだ。
 すまんな。
 もしかしたら、そう言えば、何かを奢ることで事態は収束したかもしれない。
 しかし、俺は思っていた事をそのまま口にした。

「なあ、俺が心配してくれなんて言ったか?」

 ……おいおいハルヒ、そんなに驚いた顔をするなよ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 01:54:00.07 ID:4jZM1jYv0

 俺がこんなに疲れた顔をしてるのはお前のせいなんだぞ。
 そうさ、誰のために俺がこんなに辛い思いをしてると思ってんだ。

 もしかしたらな、俺が倒した怪人は普通の人間だったかもしれないんだ。
 それが何の因果かあんな姿になっちまって、それまでの生活をぶち壊されたのかもしれない。

 それはなんのためだ?

 そう、お前のためだよ、ハルヒ。

 俺はお前を守るために、怪人を倒してきた。
 そして怪人は、お前を殺そうとしたために、俺に倒された。

 でもな、俺は、仮面ライダーは本当はお前を守るための存在じゃない。

 お前を―――殺すための存在なんだよ。

 ……なんて言葉を吐き出さない程度には、俺の頭はまともだったらしい。

「悪い。俺、帰るわ」

 そう言い残し、逃げるように部室を後にした。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 02:05:38.83 ID:4jZM1jYv0

 prrrrr!prrrrr!

 携帯が鳴っているが、それに出る気にはなれなかった。
 しかし、そういう訳にもいかず、時間稼ぎをするかのようにゆっくりと携帯を開いた。
 古泉一樹の名前が表示されている事に安堵し、通話ボタンを押した。
 もしもし。
『こんばんは』
 こんばんは。
 で、一体何の用だ?
『僕が電話をした理由に、心当たりが無いとは言わせませんよ』
 言ってみただけさ。
 古泉の怒っている様子が、電話越しにも伝わってくる。

『単刀直入に聞きます。あなたは、これからも戦えますか?』

 さあね。
 よくわからん。

 俺は正直に言った。 

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 02:14:20.28 ID:4jZM1jYv0

『あの後、大変だったんですよ?』
 そうかい。
 そりゃ悪い事をしたな。
『ええ、十分に反省してください。何せ、あの後の涼宮さんといったら……』
 古泉、お前が口ごもるなんて珍しいな。
 どうした、怒り狂って部室を破壊したとかか?
『いいえ、違いますよ』
 ふむ、違うのか。
 それならあれだ、馬鹿でかい閉鎖空間を生み出したんだろう?
 悪かったな、余計な肉体労働をさせちまって。
『それは半分当たりで、半分はずれです』
 結論を言え。
 あの後どうなったんだ。
『そうですね。包み隠さず、真実を伝えましょうか』
 頼む。

『あなたが帰った後、涼宮さんは泣き出してしまったんですよ』

「……は?」

 予想外の言葉に、俺はなんとも間抜けな声を出しちまった。
 だってそうだろう?
 ハルヒが泣き出すなんて、想像すら出来やしないのに。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 02:27:26.47 ID:4jZM1jYv0

「おいおい、そりゃなんの冗談だ?」
 いくらお前でも、そんなセンスの欠片も感じない事を言うとはな。
 それに、ハルヒが泣くなんて信じられんね。
 取り落としそうになった携帯を持ち直しながら言った。
『いいえ、これは本当の事ですよ。なんなら朝比奈さんや長門さんに確認しますか?』
 ……いや、いい。
 そこまで言うって事は、どうやら信じざるを得んようだからな。
『信じてもらえたようで何よりです』
 しかし、ハルヒが泣き出すとはな。
『目は口ほどに物を言う。この言葉をご存知ですか?』
 馬鹿にするなよ。
 流石にそれ位は知ってるさ。
『彼女は言っていましたよ。キョンの目、本当に怒ってる目だった、とね』
 確かに睨みはしたが……泣くようなことか?
 それに、俺があいつに怒ったことなんて一度や二度じゃないだろ。
 本格的に怒ったのなんて、数える程しかないのだが。

『いいえ、あの時のあなたの目は、普段のあなたからはかけ離れていました』

「何?」

『あの目は、完全に涼宮さんを拒絶する目でしたよ。まるで、殺してしまいそうな程に』

 ……なるほど、ね。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 02:41:05.38 ID:4jZM1jYv0

 携帯をベッドの横に置き、天井を見上げる。
 あ、染みがあるな。今まで気付かなかったな。

 閉鎖空間に関しては、
 確かに大規模な閉鎖空間は発生した、
 しかし、そこにいた神人は何かに怯えていた、
 という事だった。

「まあ、それも当然だろうな」

 トラックを受け止めた左手をかざした。
 少し爪が伸びてきてるな。後できることにしよう。

「化け物、か」

 あの時、ハルヒが言った言葉を口にする。
 まあ、確かにお前からすりゃ仮面ライダーも怪人も似たようなもんだよな。

 prrrrr!prrrrr!

 携帯が着信を告げた。

 どうやら、爪を切る時間はないらしい。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 02:51:47.90 ID:4jZM1jYv0

「よう、怪人」

 軽い調子で挨拶をする。
 多分、こいつも俺の敵じゃない。

「……お前が仮面ライダーか」

 どうした、かかって来ないのか?
「俺ではお前には勝てない」
 ふむ。
 今までの怪人は、俺の姿を見るなり襲い掛かってきた。
 だが、今日のこいつは少し違うようだ。
 おい、何が目的だ?
「目的はお前だ、仮面ライダー」
 俺が目的だと?
 そりゃつまり、戦うって事じゃないのか。
「違う。お前と話をしにきた」
 信用出来ない。
 油断させておいて不意打ちなんて、俺には通じないぞ。

「……ならば、証拠を見せよう」

 怪人はそう言うと、ゆっくりと人の姿に戻っていった。

「これで信用してもらえるだろうか」

 現れたのは、人の良さそうな中年サラリーマンといった感じの男。

 俺は、この人との会話を一生忘れることは無いだろう。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:01:41.05 ID:4jZM1jYv0

 悪いが、俺は変身をとかないぞ。
「いや、構わない。俺が人間の姿になったのは、お前の信用を得るためだからな」
 俺の信用を得て何になるっていうんだ。
「いいから聞け」
 ずいぶん偉そうな言い方だな。
 それが話を聞かせようって態度なのか。

 見た目の上では年上でも、こいつは怪人だ。
 弱気になる必要は無い。

「仮面ライダー。お前の戦う理由はなんだ?」
 俺の戦う理由だと?
 それを聞いて何になるっていうんだ。
「何、ただの興味本位さ。大した意味はない」
 そうかい。
 とりあえず、人に物を尋ねるときは、まず自分からそれを言うべきだと思うぞ。
 俺の言葉を聞くと、男は遠い目をして言った。

「……幸せになりたいからさ」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:09:57.23 ID:4jZM1jYv0

 幸せになりたいから?
「ああ、そうさ。まさかお前、いきなり生まれてきたって訳じゃないんだろう?」
 当たり前だ。
 平凡だが、俺なりに楽しく人生を送ってきた。
 今が楽しいかと聞かれれば、正直わからないとしか答えられないが。

「俺だってそうさ」

「……何?」

「俺だって、この歳になるまで平凡だが、頑張っていきてきたのさ」

 ……予感はしていたが、まさか当たっていたとはね。
 怪人は、いきなり発生した化け物なんかじゃあない。

「それが、いつの間にかあんな姿に変われるようになっちまって」

 ああ、俺も最初は怖くてたまらなかった。

「ある女の子を殺したくてたまらなくなっちまった」

「……そうかい」

 ああ、この人も、

 ―――俺と同じなんだ。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:19:50.35 ID:4jZM1jYv0

「……話はそれだけだ」
 肌で感じる。
 この人は、戦うつもりだ。
 いいのかよ、あんたじゃ俺に勝てないぜ?
「勝てなくてもやるしかない。それが俺達、お前さんが言う怪人だからな」
 なあ、本当にやめる気はないのか?
 言葉を交わしてしまったからかもしれない。
 俺は、この人とは戦いたくないと思っていた。

「それは無理だ。お前にもわかるだろう?」

 俺はそれに返す言葉を持っていなかった。
 ただ、沈黙する事しか出来なかった。

「誰かを殺したいなんて思い続けてる奴は、ただの化け物だ」

 化け物。
 その言葉が胸に突き刺さった。

「どこかで、それを消さないといけないんだ」

 この人は、ハルヒを殺す事で人間であろうとしてる。

 なら、俺はどうすれば良い?

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:32:20.29 ID:4jZM1jYv0

『ちょっと、どうして変身をとくのよ!?』

 朝倉、ちょっと黙っててくれ。
 大声を出されると頭の中がキンキンするんだ。
『キョンくん、あなた殺されちゃうわよ!?』
 それに平気だよ。この人は平気だ。

「そうですよね?」

 男は、俺が変身をといたことに目を丸くしていた。
 実は俺、あなたより全然年下なんですよ。
「……なんだ、お前。全然ガキじゃねえか」
 はい。タメ口きいてすいませんでした。
「まあいい。過ぎた事だ」
 そう言ってもらえるとありがたいです。
 男は、俺の姿を上から下へと見定めるように見た。
 そして、ニヤリと笑うと、

「お前、涼宮ハルヒに惚れてんのか?」

 とんでも無いことを口にしやがった。
 いや、俺はですね、あいつのクラスメイトで、同じ部活の人間なだけです。
 断じて、断じてそんな事は―――。
「……くくくっ! まあ、いいさ」
 男は俺の言葉をさえぎるように笑い出した。
 多分、この笑い方は子供の頃から変わってないんだろう。
 目尻の皺が、それを感じさせる。

「それじゃあ、やるか」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:41:39.21 ID:4jZM1jYv0

 男の姿が、ゆっくりと人間のものではなくなっていく。
 日に焼けて赤銅色だった肌は、今では全て濃い緑色になりつつある。
「さあ、お前も“変わり”な」
 最後に一つだけ。
「なんだ」
 あなたじゃ俺に勝てない。
 本当に、やめる気はないんですか?
「わかってる事を聞くな」

 ……ああ、そう答える事は分ってたさ。
 分っちゃいたけど、聞かずにはいられなかったんだよ馬鹿野郎!

「さあ、俺はもうすぐ完全に“変わる”ぞ。早くしないと間に合わないぞ」

 多分、俺はこの人より先には変身出来ない。
 だが、この人は待つだろう。
 少しだけだったが、話していてそう感じた。

「早くしろボウズ! 殺されてぇのか!」

 ……だけど、待たせる訳にはいかないからな。

「―――変身ッ!」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 03:52:48.31 ID:4jZM1jYv0

「よう、どうして俺があんな話をしたと思う?」

 今、俺達の距離は離れている。
 相手がどうだかはわからないが、俺にとっては関係のない距離だ。

 さあ。実は俺、あまり頭が良くない方なんで。
「それはな。お前の情に訴えかけるためだ」
 それは、汚いですね。よくある卑怯な手だ。
「そうさ、俺は“怪人”だからな。勝つためだったら何だってする」
 ははっ! さすがに嘘だってわかりますよ。
 俺を倒すんだったら、変身の最中を狙えば良かったんだから。
「……まあ、お互い頑張ろうや」
 そうですね。
 ……力の限り、命を賭けて。

 お互い、本当の名前を知らない間柄。

「―――行くぞ! 仮面ライダー!」

 ……あなたが俺をそう呼ぶのなら、俺はあなたをこう呼ぼう。

「―――来い! 怪人!」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 04:06:47.15 ID:4jZM1jYv0

「……ちいっ、やはり敵わないか!」

 怪人の外皮は所々が砕け、そこからは濃紺の体液があふれ出している。
 多分、もう助からない。
 言わなくてもわかると思うが、それは俺がやった。
 仮面ライダーの、俺がやった。

「こうなったら、せめて涼宮ハルヒだけでも……!」

 そんな気はないくせに。
 演技、下手っすね。
 ……そう言おうとする口を噛み締めた。

「……させるか」

 今、俺が、仮面ライダーが言うべき言葉はそれだけ。
 腰をゆっくりと落とし、下半身に力を溜めていく。

「―――ボウズ」

「ライダー……」

 踏みしめた脚に力を込めた。
 後は、それを爆発させるだけ。

「上手くやれよ」

 はい、努力します。

「キック!」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 04:19:42.23 ID:4jZM1jYv0

 いつものように、公園のベンチに座り缶コーヒーを傾ける。

 不思議だ。
 いつもだったら、変身した後はあの衝動が襲ってくるのに。

 ちなみに、朝倉と朝比奈さんにはあの後謝っておいたぞ。
 長門と古泉にも、電話をした。

「後はお前だけだぞ」

 呼び出し音が鳴り続けるが、相手が電話に出る気配はない。

 もう寝たのか?
 まあ、明日学校で会うっちゃ会うんだが……。

『……』

 お、出た。
 それにしても、何も言わないなんてまるで長門だな。

「よう、ハルヒ」

『……何よ、こんな時間に』

 そんなに不機嫌そうな声を出すな。
 これでもこっちは緊張してたんだからな。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 04:33:38.62 ID:4jZM1jYv0

 もしかして寝てたか?
 起こしちまったんなら悪いことしたな。
『……そうよ。寝てたに決まってるでしょ』
 声が枯れてるぞ。
 風邪でも引いたのか?
 熱いからって素っ裸で寝るのはオススメ出来ないな。
『そんな事するわけないじゃない』
 どうした、元気がないぞ。
 お前らしくないじゃないか。
『……別に。あんたには関係ないでしょ?』
 まあ、そう言うな。
『何? あんた、あたしをからかうために電話して来たわけ?』
 そんなわけないだろう。
 お前じゃないんだから、とは言わないでおく。
『……じゃあ何よ』

「昼間は悪かった。心配してくれてありがとうな」

『…………』

「ハルヒ? 寝ちまったのか?」

『そんなわけないでしょ! このバカキョン!』

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 04:38:15.29 ID:4jZM1jYv0

「うお!?」

 いきなり大声をだすな。
 耳が痛くなるし、何より近所迷惑だぞ。
『あたしに逆らった罰として、たっくさん奢ってもらうわよ! 覚悟しなさい!』
 ま、そのくらいはするさ。

 上手くやるって、約束したんでね。

『いい? 忘れたとは言わせないわよ。約束だからね』
 はいはい、わかってますよ。
 そんなに念を押さんでも大丈夫だっての。

『もしも忘れたなんて言ったら死刑なんだから!』

 ……やれやれ、死刑は勘弁してくれ。

 俺は生きて、やり続けなくちゃいけない事があるんでね。


おわり

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 04:43:14.32 ID:4jZM1jYv0

こんなくだらないもん最後まで読んでくれてありがとう
とりあず第三話っぽいのはおわり

おやすみ

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 16:51:59.33 ID:4jZM1jYv0

残っててビックリだ。書く

第四話、開始

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:00:31.63 ID:4jZM1jYv0

「あのさ、もうちょっとちゃんとやってよね」

 これでもやってるつもりなんだがな。

 不満をぶつけてくる朝倉にそう言ったものの、
 実は暑いし面倒なのでこんな作業は早く終わらしちまいたいというのが本音だ。
 しかし、お前がバイク好きだとは思わなかったよ。
「別に好きって程でもないんだけど」
 会話をしつつも、朝倉はバイクを磨く手を休めない。
 その姿はどう見てもバイク好きだぞ。
 暑いし、適当で良いんじゃないか?

「……いい? キョンくん」

 俺の今の言葉にひっかかったのか、朝倉は手を止め立ち上がると、
 左手を腰に当て、右手の人差し指をピンと立てながら言った。
 なんだ。
 これからまるで何かを説明するみたいじゃないか。

「そうよ。これから、このバイクの素晴らしさをたっぷりと教えてあげる」

 おいおい、勘弁してくれ朝倉。
 暑いんだから、早くバイク磨きなんて終わらせちまおうぜ?

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:11:46.56 ID:4jZM1jYv0

「本当にわかったの?」
 ああ、わかった。十分に理解したよ。
 お前がどれだけこのバイクに入れ込んでるかってことがな。
「もう、そういうのじゃないんだってば」

「というかだな、朝倉」

「何?」
 俺にこいつの詳しいスペックやらフォルムの素晴らしさやらを
説明しても意味がないと思うぞ。
 正直、こいつは便利な移動手段位にしか思えんね。
 バイクのシートに手を乗せながらそう言うと、
 朝倉はみるみるうちに不機嫌さを増していった。
 それが、なんでわかるかって?
 眉毛を見りゃ一発さ。
「…………」
 おい、何か言えって。
 まるで長門みたいだぞ。
「確かに“こいつ”は便利だが、ここまで入れ込むのは理解出来ん」
 俺は、正直な気持ちを告げた。
 それを聞いた朝倉は、右手を頬に当て、考え事を始めた。
 色っぽい仕草で似合ってるが、オイルが顔に付くぞ。
 そう言おうとした矢先、

「ねえ、ちょっとそこまで出掛けない?」

 なんて事をとびっきりの笑顔で言ってきた。
 そこまでって、どこまでだ?

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:21:21.46 ID:4jZM1jYv0

「おい、ここはどこだ!?」
 吹き付ける風が強いため、自然と大声になる。
「ほら! 前見て、前!」
 おっとと、危ない危ない。
 転落死なんて洒落にならんぞ、マジで。
 カーブを曲がり、再度朝倉に問いかける。
「ここ、どこだ!?」
 何がちょっとそこまでだ。
 大自然を満喫出来るような場所が“そこ”と言える程、俺は田舎者じゃないぞ。

 ちなみに運転は俺が担当している。
 もちろん、無免許だ。
 途中何度も転びそうになったものの、
 後ろにいる朝倉のおかげでなんとかなっている。
 胸が当たっているだろうって?
 ……正直、たまりません。

「もうすぐ休める場所に着くから、頑張って!」

 ははっ。
 こいつ、聞いちゃいねえ。

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:33:37.66 ID:4jZM1jYv0

「どう? 自分で運転してみた感想は」
 展望台の柵に寄りかかり、朝倉は言った。
「まあ、悪くはなかったな。うん」
 本音を言えば、滅茶苦茶爽快だった。
 吹き付ける風や、流れていく景色、どれをとっても文句は無い。
「そう♪」
 ……しまった。
 顔に出ちまってたか。

 速度自体は、いつもとは比べるまでもなく遅かった。
 あのバイクは、本来ただの人間には耐え切れない程の速さが出る。
 しかし朝倉は、俺が運転する、そして、変身することは禁止という条件を出してきた。
 なんで俺が条件を出される側なのかはわからないが、
 せっかくだからという気持ちもあり、それに乗った訳だ。

 ほら、俺は一応仮面ライダーだしな。
 いつまでも二人乗りの後ろじゃ恰好がつかない。

 ニヤニヤとこちらを見る朝倉。

 ああ、わかったよ降参だ。

「最高だった」

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:43:57.69 ID:4jZM1jYv0

「いい? バイクとライダーはパートナーなの」
 パートナー、ねえ。
 いまいちピンとこないな。
「キョンくんもさ、ライダーの端くれでしょ?」
 いやいや、仮面ライダーってのは、俺がガキの頃に考えた名前だぞ。
 しかもそん時は自転車によく乗ってたからだ。
「じゃあ、仮面ライダーの正式名称って、仮面自転車ライダーなんだ」
 朝倉は目を細め、笑いながら言った。
 すまん、その呼び名はやめて欲しい。
「やめてあげる変わりに条件があります」
 お姉さんぶるな三歳児。
 というか、条件ってのは何だ。

「それは、この子をちゃんと可愛がってあげて、ってことかな」

 朝倉は、なんともさまになるウインクをしながら言った。
 ……まあ、帰ったらキチンと磨くさ。
「よろしい」
 だからお姉さんぶるなって。

 それにな、朝倉。

 口には出さないが、俺はお前の事をパートナーだと思ってるんだぞ。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 17:54:58.58 ID:4jZM1jYv0

 prrrrr!prrrrr!

 携帯の呼び出し音が鳴っている。
 やれやれ、今日も怪人のお出ましか。

 少し憂鬱な気分になりながらも体を起こした。
 近頃は寝巻きに着替える事はなくなり、外出着でベッドに入っている。
 それは、呼び出されるたびに着替えるのが面倒だなのと、
 出迎えをする奴が時間をかけると文句を言ってくるからだ。

「おっと、急がなくちゃな」

 長門から怪人の出現した位置を聞き、部屋を出た。
 まだそんなに時間は経ってないから、あいつも小言は言わないだろう。

 なんて思いながら玄関を出たのだが、そこに朝倉の姿はなく、
 アイツがパートナーと言った鉄の塊が鎮座しているだけだった。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 18:06:10.17 ID:4jZM1jYv0

 不思議に思い、長門に電話をかけた。
 2コールもしない内に出るあたり、律儀な奴だよ、お前は。
『何?』
 なあ、朝倉がいないんだが、どうしたんだ?
 バイクだけあっても困るんだが。
『問題ない。あなたは彼女から最低限の運転技術を学んでいる』
 いやいや、それは生身での話だろう。
『平気。変身後は反応速度も上がっている事を確認している』
 すっ転んだらどうするんだ。
 それに、なんだっけか? ああ、そうそう。
 空間をズラすってのはどうする。
『その二点も問題ない。走行の補助、位相空間の展開に関してもそのバイクが行う』
 ……マジでか?
『マジ』
 いや、しかしだな……。
『時間が無い。急いで』

 確かに、ここであまり時間を浪費する訳にもいかない。
 わかったよ、また後で電話する。
 そう告げ、電話を切った。
 正直違和感は拭えないが、今は時間がないのも事実だった。

「―――変身ッ!」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 18:20:09.13 ID:4jZM1jYv0

 確かに長門の言う通り、
 このバイクはすっ転びそうになっても勝手に体勢を立て直してくれる。
 加えて、変身した後の俺の体は物覚えが良いらしく、すぐに運転には慣れた。
 まあ、これも人間の時に朝倉に基本的な事を教わってたからなんだろうがね。
 生身でもこうサックリいけばいいんだけどな。
 なんて事を言ったら、あいつは眉をハの字にすると思う。

「グアアアッ!」

 ―――いた。

 しかもあれは、理性をほとんど失ってる怪人だ。
 俺にはわかるのだが、多分あの人はハルヒを殺しても元には戻れない。

 怪人の行く手を阻むように、バイクを滑らせる。
 周囲の景色がゆっくりとズレていく。
 どうやら、長門の言うようにこのバイクにはその機能が備わっているようだ。

 怪人も俺に気付いたらしく、獣のような叫び声を上げた。

「仮面ライダー、参上」

 今、楽にしてやるからな。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 18:35:57.51 ID:4jZM1jYv0

「お疲れさま、キョンくん」
 いつものようにスポーツドリンクを渡してくれる。
 体を壊すからやめてくださいとお願いした事があった。
 しかし、どうやらこの人はその願いを聞き届ける気はないようだ。
 まあ、戦いの後に天使の顔が見れて嬉しいのは事実なんだがね。

「いつもありがとうございます、朝比奈さん」

 すいませんと言うと怒られるので、こう返すのが定番になっていた。
 誰だって謝られるよりは感謝される方が良いに決まってるか。
 あ、そうだ朝比奈さん。
「何? キョンくん」
 ちょっと聞きたい事があるんですが、いいですか?
「ええ、私にわかることだったら、何でも」
 スリーサイズはおいくつ……なんて聞いたら怒られるな、うん。

「朝倉が、今日どうしていないのか知りませんか?」

 まあ、ここは単刀直入に聞くのが一番だろう。
 今日玄関を出たら、何故かバイクだけあったんですよ。
 流石に困りましたね、何せ……。

「……朝比奈さん?」

 朝比奈さんは、非常に困惑しているようだった。

「キョンくん。あなた、まさか知らなかったの……?」

 え? 何をですか?

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 18:46:34.97 ID:4jZM1jYv0

「どういう事か説明してもらおうか、長門」

 怒鳴りだしたくなる気持ちを押さえ、極力平静を装い聞いた。
 もし朝比奈さんが言っていた事は本当だとしたら……。

「朝比奈みくるから聞いた通り」

 長門が言った言葉は、俺の望むものでは無かった。

「……俺は何も聞いちゃいなかった」

 声が震える。

「それは、彼女の、朝倉涼子の意思」

 なんだよそりゃ。

「あいつが黙ってろって言ったのか?」

 なんなんだよ、そりゃ!

「そう。彼女自身の意思を尊重した」

 なんで―――。

「なんでアイツが、朝倉が消されなくちゃいけないんだ……!」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 18:55:44.95 ID:4jZM1jYv0

「彼女には、あなたのサポートの他にもう一つ義務が課せられていた」

 長門が何か言っている。
 ああ、俺の頭でもわかるように説明してくれ?
 正直、今は何も考えられそうにないからな。

「もう一つの義務とは、あなたの戦闘記録をとり、情報統合思念体に報告すること」

 成る程ね。
 あいつは俺の観察係も兼ねていたってわけか。
 しかしだな、それが何の関係があるっていうんだ?

「…………」

 長門は一口お茶をすすった。
 ちなみに俺はお茶を飲む気にはなれなかったので、丁重にお断りした。
 その時に荒っぽい言い方になってしまったかもしれない。

「朝倉涼子が報告した記録に改竄が見られた。だから、彼女は処分された」

 ―――は?
 おい、まさかそれだけか?

「それだけのために、アイツは消されたってのか!?」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 19:06:45.89 ID:4jZM1jYv0

「そう」

 ははっ、おいおい、冗談はよせよ長門。
 お前はそういう事を言うキャラじゃないだろう?
 それに、意味がわからないし笑えない。

「私が言ったことは本当。信じてもらうしかない」

 そんな理由、信じられるわけが無いだろう。
 包み隠さず教えてくれ。

「…………」

 長門に罪がないことくらい百も承知だ。
 詳しいことを聞かせてくれ、頼む。

「記録が改竄されていたのは、○月×日の戦闘」

 ○月×日?
 確かその日は……。

 ―――わかった。

 ああ、わかったよ。

 その日は、俺がお前の言う事を聞かずに変身をといた日だったな。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 19:17:16.53 ID:4jZM1jYv0

 なんでそんな真似をしたんだよ、朝倉。

「情報統合思念体は、
 あの日出現した怪人に理性がほぼ完全な形で残っていることに注目していた。
 しかし、彼女が提出した戦闘記録には、これまでの怪人と同じ反応しか記録されていなかった。
 調査、分析した結果、その戦闘記録に改竄した形跡が見られた」

 ははっ、おいおい。

「彼女は以前にも独断専行を行っている。
 これを放置するのは危険と判断した情報統合思念体は、彼女の処分を決定。
 しかし、正しい戦闘記録を提出すれば、処分はしないという救済措置もあった」

 なんだって?
 それじゃあ、ちゃんと本当の事を言えばあいつは助かったのか?

「そう。しかし、彼女はそれを拒み、消滅することを望んだ。
 あの日、あなたと、仮面ライダーと怪人がどう戦ったかはあなたしか知らない。
 可能なら、教えて欲しい。あの日、何があったのかを」

 あの日何があったかって? 色々な事を話したな。
 怪人という存在や、仮面ライダー、俺についての事。

 ……なんて事は言わず。

「別に。何もなかったぞ」

 とだけ答えた。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 19:28:17.93 ID:4jZM1jYv0

「そう」
 多分、長門は俺の言ったことを信じちゃいないんだろう。
 しかし、短くそう言うと、あの日についてそれ以上追求はしてこなかった。
 いいか長門、よく聞けよ。
「何?」
 お前、危なくなったら俺に気を使うなよ。
 いざとなったら自分の事を考えろ。
「…………」
 いいな?
 わかったら返事をしろ。
 そう言っても、長門は一向に返事をする気配を見せない。
「…………」
 ただ、こちらを見つめるだけで、口を開こうとはしない。
 最初に比べれば、大分話すようになったと思うんだけどな。
 今のお前、会った当初より喋らない感じがするぞ。
「そう」

 ……やっと口をきいたと思ったら面白い所だけ反応しやがって。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 19:38:11.10 ID:4jZM1jYv0

「あなたに渡すものがある」
 どうしたいきなり。
 俺の誕生日はまだ先だぞ。
「違う」
 まあ、冗談だ。
 ところで長門、それは何だ。
「ベルト」
 見りゃわかるさ、その位。
 お前が改まって渡すくらいなんだから、何か特別な物なんだろう?
「そう」
 長門はコクリと頷くと、そのベルトについて説明を始めた。

「これは記録装置。閉鎖された空間内で、あなたの行動を記録するためのもの」

 ……なるほど。
 そいつが代わりの監視役、って訳か。
「しかし、問題点が一つ」
 何? 新品なのに、問題点があるのか。

「戦闘等で右側面に衝撃を受けた場合、音声の記録が不可能になる。気をつけて」

 ……。

「ああ、気をつける。ありがとうよ、長門」

 俺の返事を聞くと、長門は無言でコクリと頷いた。

 どうやら宇宙人ってのは、良い奴が多いらしい。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 20:32:59.91 ID:4jZM1jYv0

 長門に怒鳴ってしまったことを詫び、部屋を後にした。
 マンションの玄関を出、駐車場へ向かう。

「よう、待たせたな」

 もちろん返事はない。
 こいつは高性能とは言え、おしゃべり機能はついてないんだから当たり前なんだけどな。
 ゆっくりとそいつに近づき、シートの上へ、そっと掌を載せた。

 ブルル……ン……!

 エンジンが動き出す。
 こいつはキーを必要としないってのは、最後に会った時に聞いていた。

 そりゃなんとも盗みやすいもんだな。
 ……そう言った俺に対して、
 この子が反応するのは、私とあなただけだから心配しないで。
 お前はそう返したっけ。

 腕の時計に目をやる。

 全力を出せば、まだ間に合うな。

「……変身」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 20:42:29.63 ID:4jZM1jYv0

「ねえ、今何か言おうとしたでしょ?」
 いいや、お前の気のせいだ。

 俺はお前の事をパートナーだと思ってるんだぞ。

 ……なんて事を言ったら、お前は絶対に、
 パートナーの言う事は聞くものよ、
 なんて言いだすだろうからな。
 お姉さんぶるだけでもアレなのに、それはさすがに勘弁だ。
「ま、いいんだけどさ」
 なんだその含みのある顔は。
 言いたいことはハッキリ言わないとストレスがたまって体に良く無いぞ。
「それはあなたも同じじゃない?」
 俺は言いたくないから言わないだけだ。
 今後のためにもね。

「……今後、かぁ」

 ん? どうした。
「ううん、別になんでもない」
 そうかい。
 しかし、ここからの眺めは良いな。
「そうね。早朝に来たらもっといいかも」
 早朝? 何か変わるのか?

「それは、“また今度”来てみればわかると思うわ♪」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 20:57:00.63 ID:4jZM1jYv0

 この時期とは言え、さすがに早朝の山は肌寒い。
 グイ、と赤いマフラーを上げ、目的のものを柵に腰掛け待つ。
 座った姿勢になると、ベルトの感触が気になったが、すぐに慣れるだろう。

「しかし、お前のイメージは夕焼けだと思ったんがな」

 昇っていく朝日を見ながら言った。
 空気は澄んでいるはずなのに、視界が悪い。
 多分、朝日がまぶしすぎるからだろう。
 そうに違いない。

「俺のパートナーは、この先もお前だけだ」

 返事はない。
 あるはずがないが、言っておく。
「……さあ、戻るかな」
 妹が部屋に俺を起こしに来るんでね。
 間に合うかはお前次第だ。

「頼んだぜ、相棒」

 バイクにまたがり、声をかけた。

 ブルル……ン……!


おわり

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/19(火) 21:03:46.00 ID:4jZM1jYv0

四話おわり
書きたいもん書いたら完結させられなかった。無念



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