涼宮ハルヒの悪夢


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925 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/12/25(木) 04:09:41.78 ID:hDa1nKgo

『涼宮ハルヒの悪夢』

 俺はドーム型の広いホールにいる。整然と並んでいる椅子の群れは映画館を思わせるがスクリーンがどこかにあるわけじゃない。
右を向いている椅子はこちら側、左を向いている椅子はあちら側と向きによって群れて並んでいる。
何箇所かある出入り口は大きく開け放たれており人の出入りは多い。ホールの中央にある売店にはそれなりにお客が見える。
俺は近くにあった適当な椅子に座る。そうか地下に入場無料の温泉があるんだなと思う。


目覚ましの音で目が覚めた。見慣れた俺の部屋の天井が目に入る。
なんだこりゃ?
妙に明確に夢を覚えていると思いきや心象風景を切り取ったような動きの無い、まるで新聞記事のような夢の記憶に首をかしげる。
目覚めは良かったのだが、気分は複雑だ。なぜだろう、自分の思考をいまだに夢の中に置いてきたような気がする。
なぜか重要な夢のような気はするのに考えてみても別に大したことの無い内容にしか思えない。
うーん、ま、たまにはこんな夢も見るだろうよ。
俺は深く沈殿しそうになっていた思考を切り上げてベットから勢いをつけて起き上がった。
見慣れた自分の部屋で体に染み付いた動作で制服に着替える。
「キョンくん、おっはよー!」
ノックもせずに妹が部屋のドアを開けて駆け込んできた。
「おきてるー!」
目覚ましで目を覚ます事が珍しいみたいな目で見るな。
俺は新技がとかぶつぶつ言ってる妹の頭をこづいて洗面所に向かった。


926 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/12/25(木) 04:10:20.60 ID:hDa1nKgo


毎度毎度のハイキングコースにうんざりしながらも、ぎりぎりホームルームに間に合う時間に校門をくぐる。
おお平穏なる日常。俺はいつもなら嫌気のさす、いつもどおりな日常に少しばかり嬉しさがこみ上げる。
先週エラー吸血鬼と死闘を繰り広げてようやく平穏無事な日々が戻ってきたんだ。命のやり取りなんて金輪際ごめんこうむる。
さて、ハルヒの前で口を滑らせないように気をつけなければな。
過去の自分を呪いながらも俺は自戒をきつく肝に銘じ、教室のドアを開けた。
ハルヒのアクビが目に入った。
「よう、どうしたんだ」自分の椅子に横向きに座りながら我らが団長殿に話しかけてみる。
「何がよ?」いきなりつっかかってきやがった。
「寝不足みたいだな」思ったままを言ったのだが…。
「…」
むすっと黙り込んでにらまれた。
「そうよ、寝不足よ」何だったんだ今の無言の圧力は?えーっと、俺なにか気に障るような事言ったっけか?
ま、ハルヒの不機嫌の原因なんてどうせろくでもないものに決まってる。
非日常との邂逅を常に待ちわびているハルヒと違ってとりあえず俺はここしばらくは日常という安息の時間を満喫したい。
俺は少し肩をすくめ前を向き、ちょうど教室に入ってきた岡部の顔を眺めた。

「傷はもう平気なのか?」
放課後になりいつものごとく古泉とボードゲームに興じている時に小声でたずねてみた。
「ええ、もう大丈夫ですよ。熊の肉をご馳走になったのが効いたのですかね?」
えーっと笑わせようとしているのか?面白くないぞ。ま、とにかくそらようござんした。
俺の心の清涼剤、メイド服の朝比奈さんが湯気が上がる湯飲みをことりことりと俺と古泉の前においてくれた。
「どうぞ」にっこり。後光がさして見えます。
うーむ、眼福眼福。ありがたく頂戴いたします。
喉を潤し窓の外をながめる。
流れる雲の下でパンクした車の屋根に寝っ転がりつぶやきたい。
…平和だねぇ。
ハルヒが朝から不機嫌な顔をしているがそれは見ないことにする。
いつものごとくなんの集まりだかわからない時間を過ごして今日も長門が本を閉じた。
パタン。

927 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/12/25(木) 04:12:10.50 ID:hDa1nKgo


帰り道、古泉に聞いてみた。
「ハルヒの機嫌が悪いんだが心当たりはあるか?」
「いいえ」きょとんとした顔で返された。
「このところ閉鎖空間も発生してませんし、合宿からこちら涼宮さんの精神はいたって平穏ですよ」
…何となく納得できないものがどこかにひっかかるがハルヒの精神鑑定なんて面倒くさい役割は古泉に丸投げだ。
ハルヒがおとなしいならそれに越したことは無い。あいつが何か思いつくたびに右往左往して東奔西走して七転八倒してあげくのはてに死にそうになるのはもうごめんだぜ。
しかしそんな俺の思惑の斜め上を常にすっとんでゆくのが涼宮ハルヒの涼宮ハルヒたるゆえんであり、後で思い返せば俺たちはこのとき既にハルヒの次なる行動に巻き込まれていたのだった。
やれやれ、少しは安寧の心持とやらを味あわせてくれよ…。

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俺はホールの椅子に座りながら周囲を歩き回る人物を見るとも無く眺めていた。
それぞれの人物の顔に視線をあわせるとぼやけて性別年齢不詳になる。
視線を外すとはっきり見えてる気がするのだが意識するとするりと焦点から逃げる。
だがそんな事は不思議にも思わず俺はぼんやりと椅子に座って誰かを待っていた。
しばらくすると俺の横にだれかが立った。見上げて顔を見ても相変わらず顔は定まらない。
しかし俺はそいつが誰だか分かった。
「なぜお前がここにいる?!」俺の体が瞬時に緊張する。
相手はくすっとにこやかに笑う気配を身にまとう。
「--宮ハル----。----夢-----気をつ-----」俺の耳というか意識が聞き取りを拒否しているのか相手が何を言っているのか分からない。
くるりと俺に背を向けてホールの外に出て行った。
背中のほうから猛烈に存在感を持つ人物が近づいてくる気配がした。こんな存在感のあるヤツは俺の知り合いでただ一人。
そいつの名前は涼みy「いたー!!!!」
走りこんできたハルヒが俺にとび蹴りを食らわした。ずさーっと顔面をすりむきながら床をすべる。
「なにしやがる!」数メートル先で起き上がり怒鳴りつける。
「おっそいわよ!探し回って3回も温泉はいっちゃったわ!」
知るかそんな事。お前の都合に俺を合わすな。
と言おうとしたところでハルヒが俺の都合を気にするわけでもなくいつもどおりのハルヒの傍若無人な行動にささやかな抵抗としてため息をついた。
いつもの駅前の集合でもあるまいにハルヒの後ろには朝比奈さん、長門、古泉の三人がいつもの見慣れた表情で立っていた。
「罰金!!!!」

928 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/12/25(木) 04:12:37.94 ID:hDa1nKgo

声も高らかにハルヒが俺の鼻先に人差し指をビシッと突きつけた。
「待ち合わせるなんて聞いてないぞ」
「他の団員を見なさい!既に全員そろっているわ!」
そいつらは俺とは違って特殊プロフィールの持ち主たちなんだ。完全無欠の一般高校生のお墨付きを古泉からもらった俺と一緒にするなよな。
と、毎度の事ながら言えるわけもなく、俺は仕方なく再びため息をついた。
「さっ!キョンのおごりで何か買いましょう!」ハルヒがまぶしいほどの笑顔を見せながら売店に向かって歩き出した。
ふーんだ、もう慣れたわい。
「キョン君いつもごめんなさい」朝比奈さんが俺の隣にとととと走りよってきて申し訳なさそうに頭を下げた。
いやいやいや、朝比奈さんの口に入るものを買うのなら俺の財布はとことんゆるくなりますから、そう、まるで孫を前にした「いいのよ、みくるちゃん、これは罰金なんだから!」
ハルヒが勝ち誇った顔を俺の目の前に突き出して言い切った。
目の前にあるハルヒの顔をしみじみと眺めて思う。
うーん、ツラはいいんだがな…。
何を思ったのかハルヒが突然一歩下がってふくれた。
目線を外してぼそっと「罰金なんだから…」
へいへいわかってますよ。
「多分、お分かりになってないと思いますよ」
後ろから古泉が俺にささやいてきた。
このやろう、なんかむかつくぜ。
売店で適当な飲み物を買い全員が飲み終わるのを見るや否やハルヒが高らかに言い放った。
「出発するわよ!」
心の底から叫びたい、どこに?



929 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/12/25(木) 04:13:06.66 ID:hDa1nKgo

みんなごめんね

977 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2009/02/07(土) 05:00:05.76 ID:2462y36o

意気揚々と歩き出したハルヒの後ろ姿を見ながら俺はもう一度深くため息をついて歩き出した。
「さて、どこに向かうのか楽しみですね。」
古泉が嬉しそうに隣を歩きながら耳打ちしてきた。
楽しくない、楽しくないぞ。絶対に俺が喜ぶような事態になるはずがない。
しかし、それでも俺はハルヒがSOS団の面子をどこに連れてゆくのかわずかながらにも期待していた。

が、ホールの扉をくぐってみると目の前に広がるのは見慣れた駅前の雑踏。
少し残念な気持ちを持ちながらも後ろを振り返ってみるとなんといつもの喫茶店の出入り口があった。
どう考えてもホールの扉と喫茶店の出入り口の寸法には差がありすぎだろう。
しかし夢ならこれもありか。



あ、そうかこれは夢だったんだ。
俺がそう認識した途端、世界がぼんやりとかすんだ。
ハルヒが高らかに何かを言っているが認識できない。辛うじて声の主がハルヒだと識別できる程度だ。
「おい」
俺が古泉に問いかけると古泉が振り向いたが、既にその顔は周囲の顔と判別がつかない。
古泉が返事をしているが俺にはもはや古泉の声としかわからない。
俺が古泉だと認識ているゆえにこいつは古泉として存在しているかのようだ。
朝比奈さんと思われる可憐な姿が近づいてきて心配そうな仕草をする。
綺麗なものはぼやけても綺麗なんですね。
多分長門の影だと思われる人物が直立不動でこっちを見ているのがわかる。
そして俺は…

目が覚めた。

…あー、二晩続きものの夢か。
もっと幼少の頃はこういう続きものの夢は見ていたような気がするが高校生にもなって再び合間見ええるとは思わなかったな。
しかもハルヒがらみで、だ。


978 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2009/02/07(土) 05:00:47.67 ID:2462y36o

横になったまま首だけ回らせて枕元の時計に目をやる。
げ! アラーム予定時刻より30分も早く目が覚めてしまった。
くそ、あと30分も惰眠を貪っていられたのに、あの夢のせいだ。
30分だけ寝て起きるなんて芸当は俺には無理だ、何より目がさえてしまっている。ええぃ畜生、起きるか。
俺は未練たっぷりにベットから起き上がり朝の支度を始めた。
洗面所で歯を磨いている時に「キョン君が蒸発したー!」と叫んで階段を駆け下りてきた妹を小突いたのは言うまでもない。

毎度毎度のハイキングコースである。
肉体に与えられる苦痛を軽減するには沈思黙考か無心に限る。
で、俺が考えているのは2日連続で見ている夢のことだ。
夢であることは間違いないのだが妙に現実じみている。特に気になるのは現実となにかしらの繋がりがあるような妙な実体感だ。
白昼夢の一言で片付けてしまってもいいものだろうか。片付けられれば一番なのだが。うむむむ。
いちばん嫌な予想はハルヒが何かしでかしてあの夢を見ているという可能性だ。
うーむ…。
よそう、やめ!今回の夢は明らかに夢。現実の俺に何か危機が迫るわけでもあるまい。
しばらくすれば記憶の底に埋没するだろう。
俺がそう結論付けて忘れようと決意したとき後ろから声がかかった。
「いよっ、変な顔しているぞ」薄く汗をかきながらもニヤケ面で谷口が話しかけてきた。
「なんだ変な顔っつーのは」後ろから声を掛けてきて変な顔もねえだろうに。
「涼宮に毒された顔っつーことだよ」うるせー。
この後、谷口のまたしても相手不在のデートコースの予定を聞かされながら教室に向かった。
こいつの話は頭をからっぽにして聞くに限る。おかげで坂道の苦痛が幾分和らいだ気がするぜ。
教室に入ると今日もハルヒのアクビが目に入った。
心なしか目つきもぼんやりしている気がする。
「おい、大丈夫か?」
机にぐだーと伸びながらハルヒが下から俺をにらみ付けた。
「何がよ」こいつは人に話しかけられるとけんか腰で返すのが癖なのかね?
「いやなんでもない」
谷口との馬鹿話で夢のことをすっかり忘れてしまっていた俺は教室に入ってきた岡部に向き直り会話を打ち切った。

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979 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2009/02/07(土) 05:01:17.26 ID:2462y36o

放課後。
今日も今日とて何の集まりか分からない部活動をする。
部活動といっても言わずもがな、ハルヒはネットサーフィン、朝比奈さんはお茶汲みメイド、長門は読書、俺と古泉はボードゲームに興じている。
しかしなんだろうこの違和感。
違和感というよりも全員の覇気の無さ。いつもと変わらないと表現しても構わないのだけれども何か全員が疲れているような印象を受ける。
朝比奈さんがお盆で顔の半分を隠しながらあくびをした。
古泉があくびをかみ殺して目じりをぬぐった。
ハルヒは机に突っ伏しながらマウスをぐりぐり動かしている。
長門は…いつもと変わらないな。
これは、全員もしかして…寝不足?
夢との関連がすぐに思いついたが確かめるのになぜかためらう。
ストレートに古泉あたりに聞いてみるか?
「このところ続きものの夢を見てないか」と。
しかし俺のこの一言が何かの引き金になるという確信めいた予感が走った。
わけのわからんトラブルに巻き込まれるのはまだ嫌だぜ。
俺は頭の中で引き金に掛けた指を外して安全装置をかける。
なによりハルヒの前でのこの発言は文字通り世界を終わらせる可能性がある。気がする。
くわばらくわばら。
それに、まさか3日連続で見ることも無いだろう。
パタン。
長門が本を閉じた。

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いつもの帰り道、皆と別れてなんとなく携帯を取り出した。
タイミングを見計らったかのように鳴り出した。
『古泉一樹』
「なんだ?」
「いつもの公園に来ていただけますか」
悪い予感が段々と膨らんでくる。暗雲立ち込めるとはこのことだろう。


980 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2009/02/07(土) 05:01:38.81 ID:2462y36o

この時点で古泉が振ってくる話題がほとんど読める。このところの夢のことに間違いない。
ハルヒめ今度はいったい何をやらかしたんだ?

公園につくとハルヒをのぞいたSOS団の面子がそろっていた。
「今みなさんと確認を取ったところです。聡明なあなたのことです何の確認かお分かりでしょう?」
「…毎晩見る夢のことだな」
「ご明察、そしてあなたに最終確認です」
「なんだ?」
「財布の中身をみてください」
…ぞっとした。
このところお金は使っていない。ただし夢の中でおごらされた以外は。
中身が俺の記憶している金額ならともかく、もし減ったいたら…。
恐る恐る財布を取り出し中身を確認する。

…中身は減っていた。

しかも計算してみたら夢の中で払った金額が消えていた。

14 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/03/25(水) 05:31:13.69 ID:E4ZS.sko

「おい!どういうことだ?!」
「あれは夢ではないということです。もしくは現実に影響を与える夢です」
くそったれ、平穏無事な日常はもう終わりか。
「これもハルヒのしわざなのか?」
「自分の思ったように環境を改変出来る人物を涼宮さん以外にご存知ですか?」
長門とか?
「さて、長門さん、どうです?」答えを知っているしたり顔で古泉が長門に聞く。
「私ではない」
やっぱりハルヒの仕業かー。
俺は半ば達観した心境で長門の答えを聞いた。
しかし参ったな。現実でも夢の中でも奢らされると財布の中身が心もとないことこの上ない。
ま、新川さんからもらった経費がまだ残っているからいいといえばいいのだが…。
しかしあの女は寝ても覚めても迷惑を掛けやがって。
「これから毎晩この夢をみるのか?」
「おそらく涼宮さんが飽きるかもしくは満足するまで見続けるでしょうね」
くそー。どうすりゃ俺たちは安眠をとれるんだ。
「あなたの安眠も大事だけれど涼宮ハルヒの安眠のほうが重要」
答える長門に聞いてみる。
「なぜだ?」
「涼宮ハルヒの睡眠だけREM睡眠が持続している。つまり寝ている間は常に夢を見続けている状態」
寝不足の原因はそれか。
「じゃハルヒに快適に睡眠をとってもらえば解決って事か?」
「そうなる」
うむむむむむ。
何故ハルヒはREM睡眠をとり続けるんだろう?
「長門、心当たりはないのか?」
「今のところ不明」
「強制的に眠らせられないのか?」


15 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/03/25(水) 05:31:56.21 ID:E4ZS.sko

「情報統合思念体は現状の涼宮ハルヒの夢が現実に影響を与えるという現象を興味深く観察している」
けど夢が現実になるっつーのは大事だろうが。例えばとんでもない怪物とかが出てきたらどうすんだ?
長門の親玉の主流はたしか穏便派だったろうが。
「今のところ影響があったのはあなたの財布だけ」
・・・なんか腹立つな。
「とりあえず俺たちはどうすれば良いと思う?」
「どうすれば良いと思われますか?」
にこやかに古泉が俺の問いに問いで答える。
はいよ、言わずもがなですな。
「いつかのように非現実的な現象がハルヒの目に付かないように東奔西走すればいいんだな」
俺はため息混じりに自分の問いに答えた。
「東奔西走は言いすぎ…ではないですね」くすくすと古泉が奇妙な笑い方をしながら賛同した。
「キョン君お財布の中身は大丈夫ですか?」朝比奈さんが心配そうに聞いてきた。
「夢でも現実でも出してもらってたらすぐに無くなっちゃうんじゃないですか?」
「大丈夫ですよ、いつか新川さんにもらった経費がまだ残ってますから」
俺が答えると朝比奈さんはほっとしたように微笑んだ。
うーん、その笑顔がいただけるだけで満足です。

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帰宅した俺は自室のベットを眺めている。
寝るのに覚悟がいるというのはいかがなものか。
時刻はそろそろ日付が変わる頃合、よい子はとっくに寝ている時間である。
かくゆう俺もそろそろ睡眠欲の波が押し寄せてきて自らその波に飲まれようとしているところだ。
しかしなー……。
寝れば確実に続きの夢を見るわけだよな。
うーむ、眠るべきか眠らざるべきかそれが問題だ。
ま、考えていても仕方が無い。
なるようになるさ、現状ではどうしようもない。
俺はぬるい覚悟を決めてからベットにもぐりこんだ。
さて今日はどこから続きを見るんだっけか?
そうそう、喫茶店から出てきたところだったな…。

50 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/10(金) 14:33:47.52 ID:dFJgBcYo

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「さぁ!出発よ!」
高らかにハルヒが宣言して先頭を切って歩き出した。
ところで今日は爪楊枝のくじを引かなかったんだな。珍しく5人で市内パトロールとは。
朝比奈さんを小脇に抱えるくらいに抱きついて悲鳴をあげさせながらハルヒが先頭を歩き、長門がその後を幽霊の影のようについてゆく。
俺と古泉は一番後ろでいつもどおりに殿を務めた。
でたらめだろうと思われるコースをハルヒが選び俺たちはおとなしくその後を付いていった。
住宅街の一角を曲がる。
「これはこれは」
古泉が面白そうに目の前に広がった特殊な住宅街に感嘆の声を上げた。
「わー、お寺がいっぱいですね」
朝比奈さんが述べた感想の通り、一般住宅の街並みに大きな寺がいくつも溶け込んでいた。
まるで粘土細工を溶かして引っ付けたように文字通り住宅に寺が溶け込んでいた。
記憶が正確ではないが多分、奈良、京都あたりの有名どころの寺が勢ぞろいといったところだろう。
「あ、茶店はっけーん!」
ハルヒがどどどと店に突入した。
続いて俺達も茶店に入った。
「団子!それとお茶ね!」店員に言いつけて表に面した長いすに腰掛ける。
他の団員達もそれにならいハルヒの横に腰掛けてゆく。
すぐに店員が団子とお茶を人数分もって来てくれた。
「ねぇ、ここ京都みたいじゃない?」
ハルヒが既に2本目の団子をかじりながら言った。
「そうですね。僕もそう思います」
古泉が無責任にハルヒの意見に同意する。
「京都ってこんな町だったんですね」朝比奈さんが感心して周囲を見回す。
いや朝比奈さん、歴史の授業は無かったんですか。いくらなんでも寺が一般住宅と溶け合ってはいませんよ。
長門は花より団子とみえてハルヒよりもちょっと遅いペースで団子を片付けていっている。
「目の前にあるこのお寺って三十三間堂?」ハルヒが聞いてきた。
言われれば横に長いこの寺はそんな気もするな。


51 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/10(金) 14:34:39.55 ID:dFJgBcYo

俺も団子をお茶で流し込みながら道路を挟んでたたずむその寺をみる。
ハルヒがニヤリと俺に笑いかけた。
それは悪人の笑みだぞ。
「三十三間堂でSOS団の通し矢大会をするわよ!」
やめろ、罰当たりなヤツだ。
「罰当たりって何よ?三十三間堂での通し矢大会は正月の恒例行事よ!」
今は正月じゃねぇだろうが。
「さぁ!誰が一番遠く飛ばすか競争よ!ビリには飛びっきりの罰ゲームがあるから気合入れてやりなさい!」
全員がハルヒについて歩き出したらところ、俺は後ろから羽交い絞めにされた。
「お勘定」
店員が俺の耳元でつぶやいた。
もう慣れたわい、ああ慣れたともさ。

「まずは私からね!」
ハルヒがいつの間にやら弓をもち、矢をつがえた。
きりり…。弓が引き絞られ次の瞬間しゅん!という風きり音をたてて矢が勢い良く飛んでゆく。
おぉー、三十三間堂の半分以上は飛んだんじゃないか?
「さ、みくるちゃんやってみなさい!」
「え?え?私ですか?やったことないです」
「簡単よ、引っ張って放せば飛ぶわ」
朝比奈さんが恐る恐るハルヒの言ったとおり弓に矢をつがえて引っ張る。
「ん〜!」
可愛らしく気合を入れて引っ張るがとてもじゃないが絞れない。
俺が朝比奈さんの頑張る姿をほほえましく見ていると古泉が俺にささやいてきた。
「向こうに誰かいます」
見ると三十三間堂の俺達とは反対側に誰かが立っている。
遠目だが、振袖姿の髪の長い女性だ。手に持っているのは…弓だよな?
綺麗な立ち方で弓に矢をつがえて、定めた方向は…SOS団か?!
三十三間堂、長さおよそ121メートル。
女性の腕でまさかここまでは届くまい。


52 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/10(金) 14:35:31.69 ID:dFJgBcYo

「伏せて」
長門の冷静な一言に俺と古泉は同時にその場に飛び伏せる。
俺達に警告しながら長門は朝比奈さんとハルヒをその場に引きずり倒す。
しゅしゅしゅん!
俺達の頭上を勢いの衰えていない矢が走り抜ける。
かかかっ!
後ろに立っていた松の木に深々と突き刺さった。
なんてヤツだ、一度に複数の矢を放ってこの勢いか!
「やってくれるじゃない!」
ハルヒが目から怒りの炎を滾らせて立ち上がる。
見ると相手はこちらに向かって深々と一礼。
まさに慇懃無礼。
さすがに俺もカチンと来た。
「こっちの武器が弓矢だけと思わないことね!SOS団の隠し兵器を喰らいなさい!」
なんだ隠し兵器って????
「みくるちゃん!」
朝比奈さんを引きずるように立ち上がらせてハルヒは振袖女を指差した。
とうの朝比奈さん本人は目を白黒させている。
「ミクルビーム!!!」
「え?」
「え、じゃない!撃ちなさい!」
ハルヒのあまりの剣幕に押されて朝比奈さんがミクルビームのポーズを取る。あらま、衣装もウェイトレス。
「み、ミクルビーム!」
ドゥン!!!
これ、ありかー!
「ひえぇひぇえ!」
ビームを打った本人が一番びびっている。
それもそのはず、振袖女の立っていた周囲はおろか地面とその後ろの塀、さらにその後ろの住宅街までごっそり削り取ったように何もなくなっている。
骨も残さずとはこの事だ。
「もう一発!!」


53 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/10(金) 14:37:08.97 ID:dFJgBcYo

ハルヒが上を見ながら叫ぶ。
なんとはるか上空に振袖女は飛び上がってビームを避けていた。
よくあんな動きを目で追えたな。ハルヒの動体視力に感心しながら頭上に浮いた振袖姿を眺めてみる。
「みくるちゃん!追撃!」
「はいぃ!み、ミクルビーム!」
空中で急激に落下速度を増すという物理法則を無視した動きで再びビームを避け、振袖女が俺達の前に飛び降りてきた。
ざしゅん!
土煙が巻き上がるなか悠々と立ちあがる。
「よくもやってくれたわね!今の攻撃をSOS団への宣戦布告とみなしあんたをぎったぎたのコテンパンに叩きのめしてあげるから覚悟しなさい!さらに逃げたら親戚縁者も血祭りに上げるから今のうちに遺書を書いて弁護士に渡しておくことをお勧めするわ!もっともそんな遺書なんて私が抹消してあげるけどね!SOS団に無礼を働いたことを末代まで後悔しなさい!!!」
ハルヒがビシリと指を突きつける。
「元とはいえクラスメイトにそれはひどいんじゃない?」
にこやかに振袖姿の朝倉涼子が答えた。
ぬおっ、俺こいつ苦手。昔の古傷が痛む気がする。
一度は長門に砂にされたくせにまた出てきたのか、ということは急進派がまた動き出してるってことか?
とりあえずハルヒの意見に今回ばかりは俺も賛成するぜ。矢を避けたからいいが当たったら大事だぞ。
「けど、当たってないわよね?」あくまでも人当たりのいい笑顔で朝倉が答える。
「当たり前じゃない!あんなへなちょこ攻撃へのかっぱよ!」
「長門さんがいるんだもん、あれくらい避けられると思ってたわ。それよりもそっちのビームのほうが危ないんじゃなくて?」
たしかに矢とビームじゃ兵器としては雲泥の差があることは認めるが、何にせよ危なっかしいマネはよせ。俺はお前に良い印象を持ってないんだからな。
「あれ?あんた朝倉よね?」
今気がついたんかい!
「お久しぶりね、涼宮さん」
小首をかしげてにっこりと優等生が挨拶を返す。そしてくすりと俺に微笑みかけた。
「そしてあなたにはもう一度アタックしてみるわ」
「アタックって何?あんたキョンに告白でもしたの?」
朝倉の持っていた弓矢が突然薙刀に変化した。
「こういうことよ」あくまでもにこやか。
朝倉は薙刀を大きく振りかぶり空気を裂いて俺の脳天に振り下ろしてきた。
ぎぃん!
横から俺の頭上にもう一本の薙刀が突き出され朝倉の薙刀を防いでいた。
見るとこれまた振袖姿の長門が襷掛けをして薙刀を突き出していた。

62 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/11(土) 19:57:18.05 ID:6VeAnN.o

俺は前回殺されかけたときと同様最初の一撃で尻餅をついてしまっていた。情けないったらありゃしない。
ぎゃりん!
刃物と刃物がこすれあう音を立てて薙刀同士が離れ、朝倉は後ろに跳んで俺達と距離を取った。
「うーん、やっぱり正攻法じゃ無理かしら」
「大丈夫、あなたは私が守るから」長門が尻餅をついている俺をかばうように立ち、朝倉に向かって薙刀を構えた。
あ、杉田さんからもらった碧い振袖だったんだな。しかし白い鉢巻までしているのは何故だ?

「いざ」
長門に似合わぬ古めかしい一言をぽつりとつぶやくと白足袋をはいた足をすっと前に出した。
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃんぎゃんぎゃぎゃぎゃりん!!!!!
み、見えねぇ!
目では追えない速度の白刃が切り結んだ音だけ聞こえる。
「みくるちゃん!ビーム撃って!」ハルヒが叫ぶ。
「涼宮さん近すぎます」古泉が珍しくハルヒに意見した。
「違う!あっち!!」ハルヒが三十三間堂の方を指差した。
三十三間堂の柱の陰に赤い着物を着た人が立っていた。
ん?人…か?
いや、違う!等身大の日本人形…か?
そいつが柱の陰からこちらを凝視していた。
ぞくりと恐怖心が背筋を這い上がる。
あれはヤバイ。
やばいモノだと理由抜きに分かる。体中の毛がゆっくりと逆立つ。
まるで恐怖の根源そのものが無理やり人形の形をとっているようだ。
人形なのに意思がある視線をこちらに遠慮なく放っている。
朝倉と長門も戦いをやめ、日本人形に対して薙刀を構えた。
あれは一体…なんだ?
「早く!」ハルヒが朝比奈さんをせかす。
「は、はい!ミクルビーム!」三十三間堂に向けて朝比奈さんがビームを飛ばす。
が、ビームが霧散した。
「い、いったい、なんですかぁ!」朝比奈さんがおびえる。
何事も無かったかのように日本人形は顔の半分を柱に隠したままこちらを凝視している。


63 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/11(土) 19:58:10.35 ID:6VeAnN.o

うわわわ!
やばい!やばい!
「これはちょっと危険な気がしますね」ちょっとではなく古泉もかなり緊張しているのが手に取るように分かる。
古泉の平常心の乱れを見てさらなる恐怖心が沸き起こる。そんなにヤバイのか?!
「目を覚まして」
長門の冷静な声が聞こえた。
なんだって?
「あなた達は今、自宅で睡眠中。この条件下で全員をあれから守ることは困難。今すぐ意識を覚醒させて」
いや、
起きろといわれてすぐには起きられないぜ。
どうすりゃいいのさ。
「なるほど、これは僕達が見ている夢でしたか」
古泉が納得したかのようにうなずき朝比奈さんに話しかける。
「朝比奈さん、時間移動の際に精神制御系の訓練は受けてますね」
「あ、はい、受けてます」
「では意識レベルを覚醒にまで持ち上げてください」
「はい」
朝比奈さんがうなずくとウエイトレスの衣装がぼやけ朝比奈さんの輪郭がぼやけそのまま空中に解けていった。
「これで朝比奈さんは目覚めました。僕も目覚めます」
続いて古泉の輪郭がぼやけ同じように空中に消えた。
「あなたも急いで」
長門に急かされるが目覚める方法なんて聞いたことも無い。いったいどうすれば?
俺はその場でぴょんぴょんジャンプなぞしてみるが相変わらず世界は世界のままだ。
長門が薙刀を捨てた。
「緊急措置」
そう言って長門は俺の顔を下から両手で挟み、目を閉じて自分の顔に近づけた。
必然的に迫りあう顔と顔。唇とくちびる…。
「こらー!」ドバキ!!
ずしゃー!
俺はハルヒにドロップキックを食らい玉砂利の上をすべり転がった。
「え、え、エロキョーン!!この非常時に何やってんの!?」


64 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/07/11(土) 19:59:02.12 ID:6VeAnN.o

いやこれは長門が…と言っても聞きそうにないな。
「落ち着け、まずは目を覚ませ!」
「なに寝ぼけてんの?!」
どう説明すればいんだ。
ずるずる…。
血みどろの内臓を引きずるような音がし、恐怖に突き動かされてそっちを見てしまった。
日本人形が三十三間堂から出てきた!
地面にべったりと這い蹲りながらこっちに向かってくる。
まともに視線を受けて心拍数が上昇する。
かく、かくかく。
首を奇妙に痙攣させ目を大きく見開き次第にこちらに向かう速度を上げてくる。
ずる、ずる、ずるずるずる。
「あれ何?すっごくヤバそうってのは分かるんだけど」
ハルヒが聞いてくるがあれが何なのかこっちが聞きたい、後半部分には大いに同意する。
あんなわけのわからんものを目の前にして明確にわかること、それはただひとつ。
「逃げるぞ!」
俺は長門とハルヒの手を握り三十三間堂を駆け出した。
「長門!あの人形まだ追いかけてくるか?!」
「ええ、まだ追いかけてきてるわよ」
涼しい声で朝倉が俺の問いに答えた。
うわ、何もお前まで一緒の方向に逃げてこなくてもいいだろうに。
俺のそんな気持ちが顔に出たのか朝倉がちょっとすねたように言った。
「あたしの手も引いてほしかったなー」
無理言うな、俺の手は二本でしかも埋まってる。
「キョン!逃げるのはあたしの性に合わないわ。迎え撃つわよ!」
うわー!そう言い出すんじゃないかと思って手を引いて逃げたのに!
「落ち着け。どうやってあんな化け物を退治するんだ?」
「うー…」
ハルヒが悔しげに唇をかむが、科学兵器の最先端とでも言って良いミクルビームですら霧散させる手合いだ。
ここは逃げるのが賢い選択だと俺は思う。

75 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/08/02(日) 23:19:54.15 ID:b2jAc96o

「ねぇ、長門さん」
朝倉が振袖姿で走りながら話しかける。
「今、私たちの手段と目的が一致していると思わない?」
こいつ何言ってるんだ?
「…手段は同じかもしれないが目的は違う、結果が同じ」
何か嫌な予感がして長門を見るとわずかに感情の起伏がある沈黙が帰ってきた。
突然長門が手をつないだまま立ち止まる。必然的に俺とハルヒはそれに引っ張られる形になった。
「そうこなくっちゃ、じゃぁね」俺にウィンクひとつ。
軽い口調で朝倉が薙刀を振りかざし俺めがけて振り下ろしてきた。
「ぬおおおぉおおぉおお!!!」「いゃぁあああ!!!」
朝倉の薙刀が俺の心臓に深々と突き刺さった。

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「ぬおおおぉおおぉおお!!!」(いゃぁあああ!!!)
夢の中であげた悲鳴と同じ悲鳴をあげて俺はベットから飛び起きた。
最後に聞こえた女の悲鳴が未だに耳の奥でこだましている。
はぁ…はぁ…はぁ…
呼吸はもちろん脈拍もかなり高くなっているのが分かる。
全身にびっしょりと汗をかいているにもかかわらず背筋には悪寒が残っている。
殺された余韻がまだ体中を駆け巡っており微かに指先も痙攣のように震えている。
そんな状態のときに突然鳴った携帯電話の呼び出し音でびくりと体が反応した。
ディスプレイを確認する。
『涼宮ハルヒ』ふう…。
周囲を見回す。俺が自分の部屋にいることを今更ながら確認し、時計を見てから電話に出た。
何か用か、と言う前に携帯電話からハルヒの声ががなりたててきた。
『馬鹿キョン!!いるならいるで早く出なさい!!』
「落ち着け、大体この時間なら普通はねて」
『うるさい!あたしが電話を掛けてきたときには1コールで出ること、いいわね!!』
「あー、善処するよ」


76 名前: ◆KMIdNZG7Hs[sage] 投稿日:2009/08/02(日) 23:20:54.36 ID:b2jAc96o

明け方前から怒鳴られて反論する気力も無く俺はハルヒの傲慢な要求をとりあえずはのんだ。
「で…なんだ?」
『あんた大丈夫よね?』
「…」
『何よ、その沈黙は?』
「大丈夫だが…なぜそんな事を聞く?」
『なんでもない、今日遅刻するんじゃないわよ』
プツン、ツー、ツー、ツー
このやろう、自分の言いたいことだけ言って切りやがった。
ま、いつものことか。
しかし、長門のやつめ、確かに結果は同じかもしれなかったが手段を選んで欲しかったぜ。
文字通り死ぬかと思った。というか殺された。
いくら緊急回避とはいえ他に方法はなかったのかよ。
ちょっと待て、この夢って続き物で現実に影響を与える夢だよな?
てことは…この続きは俺死んでから?
いやまて朝倉の薙刀が胸に突き刺さった直後からか?
どっちにしろそんな経験は夢の中だろうと現実だろうともう二度と御免こうむる。
くそ、どうするかな…。
俺はもう一度ベットに倒れこむと天井をにらみ対策を考えた。
…思いつかねぇ。
何かないか、何かないか。
堂々巡りの思考はあろう事か睡眠欲を刺激し、俺は眠りそうになると、はっと目を覚まし、またとろとろと浅い睡眠をとり目覚めるということを朝まで繰り返した。

そして朝だ…。
当然のごとく寝不足なのは言うまでもない。
連続した睡眠時間が取れないというのがこうまで疲れるとは。
俺はへろへろになりながらベットから起き出し学校へ行く準備を始めた。
着替えるとき胸に違和感を感じた。見ると丁度心臓の辺り、夢で朝倉に刺された箇所の皮膚がケロイド状になっていた。
眠気が吹っ飛んで冷や汗が噴出す。本当に死ぬ寸前だったんじゃないのかこれ?!
くそっ!ハルヒがレム睡眠をとり続ける原因が分かるまで俺はもう絶対に眠らないからな!
俺はそんなむちゃくちゃな決意をしながら学校への坂道を登り始めた。



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