涼宮ハルヒの選択 - Endless four days - 2nd route 2週目 1日目


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210 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 20:12:11.98 ID:rXL.B/Yo

麗しの鐘音が鳴り響く。
遙か遠くの鐘楼は真昼の陽炎のように、あるいは真夜中の朧月のように霞んでいる。

「――あたしね――今――なの――」

ふと、懐かしい声がした。

「――だから―――ずっと―――」

誰かを呼び止めようとしていたそれは、遠ざかるように小さくなっていく。

「―――一緒――――に―――――」

再び独りになった、誰か。やんでいた鐘音が、慰めの鐘音が鳴り始める。
耳障りな音の源を確かめたくて、もう一度鐘楼を凝視する。
聳え立つ時計台の頂上。力無く揺れる鐘の下には、四柱の一つにもたれる人影があった。

―――――――――
――――――
―――

「…………なんだ、メールかよ」

寝惚け眼を擦り擦り、ぶるぶると痙攣する携帯を黙らせる。
こんな中途半端かつ最も安眠していたい時間にメールを寄越す人間は一人しかいない。
涼宮ハルヒ。我らがSOS団団長様にして宇宙人未来人超能力者から一目置かれる神的存在、つーか神。
さてその神様が、一般ピープルの中でも最たる凡庸性普遍性中庸性を誇る俺に、こんな早朝から何の用なんでしょうかね?

ハルヒの片仮名三文字と、律儀に毎日変更される日付――4/23――の文字を一瞥し。
期待半分、失望半分の心持ちで、俺はメールを開封した。

226 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 20:45:10.59 ID:rXL.B/Yo

――――――――――――――――――――――――――――――

「おはよう、キョンくん。今日は自分で起きられたんだねー、えらいえらい」
「お褒めに与り恐縮です」

何故妹の高慢な物言いに付き合ってやっているかといえば、
それにはマリアナ海溝より深くオリンパス山より大きな理由がある、というわけでもない。

「何か学校に用事あるのぉ〜?」
「別に」

素っ気なく返事すると、妹は口をぷくりと膨らませて、

「キョンくん冷たぁ〜い。どうせハルにゃんに呼び出されたんでしょー」
「いんや、違うね。学校の所用でだ」

妙に勘が鋭い妹にたじろぐ俺。

「ふぅん。ほんとかなぁ〜?」

やれやれ。いつからお前は母親並の甲斐性を発揮するようになったんだ。
お前は俺専属の起床係に留まってりゃいいんだ。余計な勘ぐりはいらねぇんだよ。
機械的に朝食を食べ終えて席を立つ。

「あ、ちょっと待ってキョンくん―――」
「良く嚼んで食べるんだぞ」

朝の慌て時にも妹への心配りを忘れぬ良き兄を演出しつつ、俺は玄関を飛び出した。
蒼穹からさんさんと降り注ぐ陽光が眩しい。今朝の天気予報によると、終末まではぽかぽか陽気が持続するのだとか。
普段は天気予報を信じていない俺だが――特に根拠もなく、今回の予報は当たるという確信があった。

242 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 21:10:53.33 ID:rXL.B/Yo

下履きまばらな昇降口から、今年から場所が変わった教室へ赴く。
ハイキングコースでの珍獣谷口との邂逅事件を、ごっそり割愛した理由はシンプルだ。
酒の肴どころか水の肴にもなりそうにない下世話トークに、週刊誌コラムよりも価値のない無駄情報。
賢明な方なら俺の気持ちを察してくださっていることだろう。あぁ、最高につまらなかったさ。
教室の框を踏むと、そんな俺の暗澹たる気分を知ってか知らずか、

「おはよう。キョン」

ハルヒが満面の笑顔で、おいでおいでと手招きしていた。
それに誘われるまま、指定席に腰を落ち着ける。

「指定時間ぴったりに到着するなんて、なかなかやるじゃない」
「意図的に時間をずらしたわけじゃねえよ。そっか、ギリギリだったんだな」

眠気を一切感じさせぬ快活なハルヒに、こいつに睡眠の概念はあるのかと疑いを掛けながら今朝のメールを反芻する。
"起きてるならすぐに学校に来なさい! 以上"
この上なく簡潔で別解釈ができない文章に、俺は溜息をつきつつ跳ね起きるという奇妙な目覚めを体験した。
直ぐさま理由を問いただしても返信は梨のつぶて。結果、俺は昨夜の疲れが取れぬ体に鞭を打ってここまで早朝出勤してきたわけだが――

「で、どんな用事だったんだ?」
「え? 別に特に用事はないけど?」

は?
疑問符に疑問符で返すのは憚られるが、致し方ない。

「用事がないのに俺を呼んだって、いったいどーいうことだよ?」
「だーかーら。特に理由はないって言ってるでしょうが。朝早く起きちゃって、暇になりそうだから呼んだのよ」

団長直々の呼び出しよ、と偉ぶるハルヒに、言葉を失う。溜息を禁じ得ないね。
ここまで理不尽な呼び出しを食らったのは何時以来だろう。

255 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 21:28:19.36 ID:rXL.B/Yo

―――――いや待て、現況をよく見直してみろ。
これは一見、我侭女に振り回された男子生徒の不幸な早朝風景だが、
視点を変えれば、ほうら、貴重な朝の校内を満喫できる素晴らしき余暇に様変わりしたではないか。
この数年間で培ったポジティブシンキングを遺憾なく発揮する。ハルヒは俺を

「どうしたのあんた……大丈夫?」

と不審がっているが、そんなことは些末な問題だ。この際プライドは抜きだぜ。
さて、この有意義な時間をどう過ごそうか?


1、当初の目的通り、ハルヒの暇つぶしに付き合ってやるか 聞きたいこともあるし
2、人物指定安価(北高に無関係な人は不可)「   」が気になる

>>292

292 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 21:38:19.68 ID:KGbVCw.0

1

331 名前:鶴屋さんは卒業してるけど放課後幾らでも絡めるぞ[] 投稿日:2007/12/26(水) 22:16:33.37 ID:rXL.B/Yo

がしかし、幾重のフィルターをかけたところで、HR前の休憩時間はそれ以外の何者でもなくて。
あれほど盛っていた気概は早くも衰え、俺は無意識のうちに水を向けていた。無論、ハルヒに。

「昨日の部室でのことなんだがな。古泉がまた勝負をしかけてきやがったんだよ」
「いつものことじゃない」
「いや、それが昨日はちょっとばかしいつもと違っててさ――」

頬杖をついて窓の外に視線を投げ、話に耳を傾けているのか判別つきにくいハルヒと、
壁に背中を預け、教室の他生徒たちの動向を観察しながら話題を振る俺の
噛み合っていないようでしっかり噛み合っている会話は、それから数十分ほど続いた。
と、教室内に人が溢れ始め、恒例の微温視線がこちらに飛び始めたときのことである。
俺はふとした拍子に、思考の端っこに隠れていた疑問を引っ張り出した。

「なあ。お前が今朝みたく寝てる俺を起こすのって、かなり久しぶりのことじゃないか?」

突然の話題転換にハルヒは数秒面食らっていたが、

「そうかしら。あー……、そう言われてみればそうかも」

納得したように首を何度か縦振りし、

「なんでかしら。あたしがあんたに遠慮するはずがないんだけどね」

余計な言葉を語尾にくっつけて首を捻った。それに釣られて、俺も後頭部をガラスに当てる。
無視してもなんら支障ない疑問だが、それ故に解明できないとむず痒く感じられる。
時期を特定できないものの、いつのまにか、ハルヒが俺に我侭をぶつけてくる機会は激減していた。
どうしてこんなに分かりやすい間違い探しを、ずっと放置していたのだろう。
常日頃から騒がしいハルヒが静かになろうものなら、誰よりも早く気づける自信があったんだが。

「でもま、今気づけたんだしどうでもいいじゃないの。あたしもついつい忘れちゃってたんだと思うわ。去年は忙しかったしね」

355 名前:色々と修正[] 投稿日:2007/12/26(水) 22:53:07.63 ID:rXL.B/Yo

投げ遣りな言葉。しかしそれには、俺の懐疑を封さつする妙な説得力があった。

「お前が気づいてなかったんなら、黙ってれば良かったな」
「墓穴を掘ったわね。これからは積極的にあんたを振り回してやるとするわ」

お前の私的願望を叶えるくらいなら骨を折ってやってもいいが、超常現象は勘弁願いたいね。
振り回すなら振り回すで、周囲に迷惑を掛けない程度にパワーセーブしてくれ。

「あんたが迅速かつ的確に行動すれば他の団員に被害は及ばないわよ?」

【被害】なんて単語が出るとは驚きだ。お前も自分が台風であることを自覚してたんだな。

「いちいちうるさいわね! とにかくあんたはこれからもSOS団平団員としてせっせと働くの」
「へいへい、肝に銘じておきますとも」

わざとらしく頭を振って、古泉よろしく肩を竦める。
隣の団長殿が喜色満面であることは想像に難くなかった。
大方、明日からにでも夜中に携帯が絶叫し始めることだろう。
いい迷惑だが――これがいつもの日常だったんだから、ある意味では元の状態に戻った、とも言えるけどさ。

「起立」

凛とした委員長の声が響き渡る。どうやらお喋りが過ぎていたみたいだね。
俺たちは条件反射的に席を立ち、自動的にHR前の雑談も終了した。
席についてからの出来事は特筆すべきことでもないので省略したいところなのだが、
惰性で俺が意識を失うまでを描写しきってしまうことにする。
担任岡部の明朗な話が数分あって、1時限目の授業に備えた俺は、いざ授業が始まってから数分で訪れた睡魔にあっけなく侵攻を許した。
俺の対睡魔防壁は基本耐久値が著しく低い。それが早起きしたことによって攻められる前から罅だらけになっていたのだ。抵抗しただけ名誉の敗北と言えよう。
加速度的に意識が薄まっていく頭の中。俺は内側に敏感になった感覚で、小さな音を聞いていた。
それはパズルがはまるような、或いは鍵が一つ開いたような、気持ちの良い音だったが――その全体像を掴む前に、俺の意識は途絶えていた。

366 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 23:19:07.29 ID:rXL.B/Yo

――――――――――――――――――――――――――――――

時は変わって昼食時、いや正確には昼食後の昼休み。
昼飯恒例のメンバーと袂を分かち、暖かな陽光に包まれた絶好の昼寝タイムを満喫しようと机に突っ伏し早10分。
眠気は一向に襲ってこなかった。午前中に眠りすぎたんだろうか。
机に無造作に突っ込まれたノートは98%が白紙で構成されており俺の推測を裏付けてはいるが、
それを現実と認めたら認めたで俺の学習状態の穴がポロポロとまろびでてくることになるわけで、判断材料として採用するわけにはいかない。
しかし、かといってこれ以上机に突っ伏すわけにもいかず……数分堂々巡りを続け、俺は思考を投擲した。

「さて、どうすっかなー」

ハルヒは学食へダッシュしたきり戻ってこない。文芸部室もといSOS団本拠地でよろしくやってるのかもしれないね。
長門にお茶を煎れて貰ってご満悦のあいつが目に浮かぶ。
と、俺が重い腰を上げようと、力を入れた時のことだった。

「おいキョン、お前そんなとこでのほほんとしてないで、こっちこいよ!
 今度の土曜に正式オープンするテーマパークの特集記事があるぜ」

谷口のお呼びに首を捻る。教室の一角で、なにやら談義をかもしている一群があった。
そのテーマパークとやらはクラスメイト共通の注目事項であるらしく、雑誌は男女ともに仲良く回し読みされている。
今雑誌を興味津々の様子で読みふけっているのは――阪中か。
あいつがテーマパークなんて娯楽施設に興味あったとは甚だ意外だ。
が、いつまでもここで昼休みの身の振り方を悩んでいてもしかたがない。時間は有限なのである。

ここは――
1、文芸部室に行こう 長門やハルヒ(ついでに古泉)がいるかもしれん
2、テーマパークね……初めて聞いた気がしないな
3、場所自由指定(ただし知人がいそうなところに限る)「   」に行こう

>>376

376 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 23:22:36.38 ID:tVa.2u2o

2

390 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 23:52:27.17 ID:rXL.B/Yo

「その記事、ちょっと俺にも見せてくれないか」

普段は谷口情報に猜疑的な俺だが、ソースが目の前にある以上信憑性は高い。
俺が一群に近づくと、クラスメイトたちは既に記事を読み終わっていたらしく

「はいどうぞ。キョンくんもこういう施設に興味あるの?」

阪中がはい、と雑誌を手渡してきた。

「まあな。好きこのんで出掛けようとは思わないが、参考程度に見ておこうと思ってさ」

古泉直伝の柔和な笑みで雑誌を受け取る俺。
が、しかし。この情報もいずれハルヒのデビルイヤーに絡め取られて
特別不思議探索という名の遊覧に引っ張られていくことになるだろうし、
予備知識を蓄えておいて損はないだろう、というのが本当の理由である。非常に悲しいことだが。
家族との関係を壊さぬように嘘をつく安月給のサラリーマンみたいな心情で頁を捲っていると、
お目当ての特集記事が現れた。次世代型ジェットコースター「乙」に、3Dシューティングアクション「こいずみくんライド☆」……なんだこりゃ。
とくに二つ目のアトラクションのマスコットキャラなんて、どうみても古泉じゃねえか。

「どうだ、すっげー面白そうだろ?」
「既存のアトラクションもかなりグレードアップされているみたいだよ。
 もちろん、新開発されたアトラクションも必見だけどねえ」

感想を待ち望む4つの視線。しかし俺にはどうにも、このテーマパークに新鮮味を感じることができなかった。
デジャヴとはまた違う、そう、まるで夢の中で体験したような既知感。
俺が反応を示さず、膨れあがってきた違和感と格闘していると、

「なんでぇ、もっとキョンが驚くと思って持ってきたのによ。……もしかしてお前知ってたのか?」
「その可能性は十分に有り得るよ。だってキョンはあの先輩と深い仲だし」
「ふ、深い仲ってどういうことなの? あたしはそんなこと初耳なのね!」

415 名前:微々修正[] 投稿日:2007/12/27(木) 00:21:54.44 ID:C7i20AEo

谷口、国木田、阪中の三人衆が沸き立ち始めた。
しかも阪中の激しく誤解を招く言動に、クラスメイトどもが集ってくる始末だ。
おーい、何俺を捨て置いて勝手に話進めてやがる。あの先輩って誰のことだよ。

「鶴屋さんのことさ。あの人、SOS団の面々とは特別親交が深いんだろう?」

鶴屋さん? 国木田の口から飛び出た人物名に眉を顰める俺。
すまん、話の流れが掴めん。このテーマパークと鶴屋さんに一体どんな関係があるんだ?

「キョン……君はまだ夢見心地から抜けきっていないんじゃないかなぁ。
 鶴屋さんはテーマパークを建設した鶴屋財閥の令嬢だろう?
 それとも、直接話を窺ってないの? それなら仕方ないけど」

国木田が言い終わる前に、俺は記憶の頁を破れんばかりの勢いで捲っていた。
目当ての頁はすぐに見つかった。昨夜、そう、ほんの昨夜じゃないか。
遅咲きの桜舞い散る木の下で、鶴屋さんはテーマパークについて確かに俺たちに話していた。
こんな印象深い出来事を忘れるなんて、俺の海馬の一部は壊死でもしているんじゃないだろうか。

「思い出したぜ。鶴屋さんから話は聞いてた。そっか、明明後日にはオープンなのか……」
「だってさ、谷口。キョンが驚かないのも無理ないよ」

意気消沈した谷口の肩をポンポンとたたく国木田。俺はしばしその風情に青春の1ページ的何かを感じ取っていたが、

「キョンくんって鶴屋さんとそんなに親密な仲なの?」

阪中を筆頭とする女子群の、リサーチ対象を見つけたリポーターもかくやという好奇心に
嘆息することとなった。どうしてこいつらはなんでもかんでも色恋沙汰に発展させようと目論むのかね。
ほら、男子共も非難の視線を送ってきているじゃないか……あれ、なんでその標的が俺なんだろう。痛い、とても視線が痛いです。

「ハルヒの関係でちょっとばかし付き合いがあるだけだ。お前らが思うような深い関係じゃねえよ」

433 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 00:49:47.25 ID:C7i20AEo

近いようで遠く、遠いようで近い。鶴屋さんの卒業で益々あやふやになってしまったその距離を、俺は暫定的に「遠い」ということにした。
SOS団としての親交は疎遠になるどころかむしろ親密になっているとも言える位だが、
俺個人が鶴屋さんとどこまで親しくなれたかは計りかねる。例え一年でも、歳の差は不可視の距離を生むのだ。
それは今となっては未来に還った朝比奈さんが、存分に証明している。ああ、何度彼女が同年代であったらと妄想したことだろうか。

『えー、キョンくん適当いってるんじゃないのー』
『そうだよー、ホントのトコ教えなさいよー』

俺の拙い返答に満足行かなかったのか、女子群はそれからもやいのやいの問い詰めてきたが、

「たっだいまー。有希のお茶もどんどんみくるちゃんのそれに近づいて―――何やってんのあんた達」

ごくり、と生唾を嚥下する音がハモる。

『いや、これは……』
『ちょっとした疑問を解消しようと……』

喧噪から一転、春風も凍てつくような静謐さを取り戻した教室内で、
ハルヒだけが自在に行動できていた。つかつかつか。
どこぞの大企業の社長秘書官のように、硬い足音を響かせてこちらに一直線に歩いてくる。
ハルヒは俺の首根っこを掴むとそのまま俺の席に放り投げ、
ハルヒ自身も席について優雅に足を組み、これまた優美な動きで指を重ね合わせると、

「さぁキョン。さっきあの子達となに仲良くお喋りしてたのか、話して貰いましょうか?」

とても柔らかな微笑をお浮かべになって、情報開示を要求なされました。
滅茶滅茶な敬語口調になっているのは些末なことだ。今はどのようにこの窮地を乗り切るか。
断頭台に首を固定されたマリーアントワネットの心境を味わいながら、俺は生贄を探して視線を辺りに走らせた。
だが。船の転覆をしった鼠が如し――クラスメイトたちは一人残らず別教室への待避を完了していた。薄情な奴らである。
結局俺の手に残ったのは薄っぺらい週刊誌と怒り心頭のハルヒのみだ。まったく……なんでいつもこうなるんだろうね。未知の法則か何かで定められているのか?

445 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 01:20:55.67 ID:C7i20AEo

――――――――――――――――――――――――――――――

「この上なく春麗らかな午後ですね。午睡したくなる欲求に駆られます」

チェス駒を指先で弄びながら、爽やかフェイスの超能力者が詩を謳うように言った。
その様があんまりにも芝居がかっていたので、

「眠っても良いぞ。なんならもう二度と目覚めなくてもいい」
「おやおや、悪辣ですね。僕が永久の眠りについては、あなたは哀しむのではありませんか?」

まさか。諸手を挙げて快哉を叫んだ後、お前の遺骸をカスピ海上空から降下させてやるさ。
憐れ古泉、海洋生物の糧となって地球を廻るが良い。

「これは手厳しい。迂闊に転た寝もできないということですか」

古泉は片手を顎に添えた後、しかし特に気にした風もなく駒を再配置し始めた。
やれやれ。あと何度敗北を喫せば埋まらない実力差を知暁してくれるんだろうね、こいつは。
気分転換に視線を窓際の方へやると、液体窒素で凍結保存させられているといわれても
百人が百人頷くような静謐さでハードカバーを読む長門の姿があった。
しかしこれは毎度思うことなんだが、頁を捲る所作を、もちっと柔らかくはできないもんなのかね。
いくら発言量が増えたと言っても、行動が着いてこなくちゃ意味がないと思うぜ?

「……………」

そんな俺の感想が通じてか。長門が俺を瞳に映した。
しばしのアイコンタクト。しかしその間に意識がやりとりされることはなく、長門はすぐに視線を本へ戻した。
そういやあの本ももうすぐ読み終わりそうだな。明日にでも続編、持ってきてやらないと。
と、俺が長門の読書量に感嘆していると、今更ながらにけたたましく鳴り響き続けるキーボードタッチに気がつく。
言わずもがな、下手人はハルヒだ。まったく、こいつには静かにタイピングするという概念が存在しないのだろうか。
このペースじゃ母音のキーが吹っ飛ぶまでに、そう時間はかからないだろうさ。

451 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 01:40:32.69 ID:C7i20AEo

ぐるりと団員の様子を確認してから、再び手元に視線を落とす。
長門の煎れてくれたお茶を一口啜って、俺は至福の美味を味わった。
朝比奈さんの玉露にはまだ及ばないものの、それでも十分な甘露となりつつあるお茶。
頑張れ長門、お前がお前自身の究極の味を見出すまで、俺はずっと試飲役を務めてやるから。

さて、実のない閑話はここまでにしておいて。
率直に告白すれば、俺は退屈を持て余していた。
長門は本の世界に埋没し、ハルヒはHP改修に躍起になっていて、
古泉は結果の見えた勝負をしかけてくるのみ。
レポートでもやったらどうだ、という至極まともなアドバイスがどこからともなく聞こえてきたが、
生憎、その意見に従うことはできない。何故かって?
レポートの第一問目からいきなり座礁に乗り上げたってのに、どうやって難問もとい海獣ひしめく荒海を航海しろというんだ。
どんな優秀な航海士でもコンパスを放り投げるだろうよ。ま、例外はいるにはいるんだが。


ここは――

1、ハルヒ
2、長門
3、古泉
4、人物名自由安価(誰でもおk キョンのモノローグで語る)

1、2、3を選んだ場合、すぐにまた話題選択安価があります

>>462

462 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 01:43:33.55 ID:Jwo3d3Mo

ちゅるやさん

555 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 19:14:41.16 ID:NS.o43co

他のメンバーは一様に忙しそうにしているし、ここは瞑想に耽るとしよう。
麗らかな春の午後。太陽はのどかに下界を照らし、時折吹き込む春風はこの上なく快い。
素晴らしき瞑想日和(?)である。ついさっきこれと酷似した見解を述べていたヤツがいる気もするが、
きっと俺の記憶違いだ。体重をパイプ椅子に預けて目を閉じる。

瞼の裏に再生されたのは、昨夜の記憶だった。
鶴屋家の敷地内、古風な日本庭園の一角でお花見は開かれた。
次々と振る舞われる高級日本料理に舌鼓を打ちつつ、一夜限りの禁酒解禁によって
注がれたこれまた高級な日本酒(醸蒸多知だったけか)を嗜みつつ、
鶴屋さん含むSOS団メンバーは夜遅くまで桜を観賞したんだっけ。

『あ、あたしは遠慮しとくわ。度数かなり高いんでしょう?』

鶴屋さんがぐいぐいと酒を勧めるのを、ハルヒが丁重に断って。

『さっぱりとした風味のようで、後味は奥ゆかしくまろやか。とても美味しいですね』

誰も聞いちゃいないのに、古泉が料理一つ一つを絶賛し。

『………………ぷはぁ』

一瞬で自分の料理を平らげた長門は、一升瓶片手にウワバミっぷりを披露して。

『おいお前ら、あんま騒ぎしゅぎんなよぉ』

すっかり酒に言語視野をやられた俺は、
舞い散る撫子色と、それを浴びる鶴屋さんの着物姿に見蕩れていた。

『あらあら、呑みすぎはいけないよっ。百薬の長も毒になるっさ』

576 名前:修正ver[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:02:23.41 ID:NS.o43co

『いやぁ、俺はそれほどいただいてましぇんから』
『顔真っ赤にして言われても説得力ないねぇ』

俺が注がれるままに呑んでいたことを知った鶴屋さんは、
すぐさま俺の手から杯を没収し、水の入ったグラスを持ってきてくれた。

『キョンくんには代わりにこれを呑ませてあげるにょろ』

そして、受けとろうと伸ばした俺の手をするりと躱し――

『……ぷはぁ。自分で飲めますって』
『いーのいーの。後輩の世話を焼くのは楽しいもんなのさ』

まるで酔い潰れた夫を気遣う良妻のように、グラスを口元で傾けてくれた。
焦点が合わない視界いっぱいに、鶴屋さんが映り込む。
後ろで綺麗に纏められた髪や、露わになった白いうなじ。
清廉な性格を表すように真っ直ぐな目鼻筋は、ハルヒのそれとはまた違う美貌を形作っている。
俺が酔いの抜けきらぬ頭で、ぽけーっと鶴屋さんを眺めていると、

『まだ酔いが醒めないのかいっ? 今日は家で休んで「なにのほほんと昼寝してんのよっ!」

頭蓋を割れたかと思うほどの怒声に、瞑想モードが強制解除される。
起きちゃだめだ、俺。曖昧だった記憶があともう少しで蘇るんだぜ。
慌てて心頭滅却雲煙過眼等の四字熟語を唱えて、瞑想に戻ろうと尽力する。
だが我らがSOS団団長に、団員の怠慢を許す慈悲深い心はこれっぽちもなかったようで、

「気色の悪いニヤニヤ笑い浮かべて。ずいぶんと楽しい妄想に励んでいたみたいね」
「人聞きの悪いことを言うな。人の回想を邪魔しやが――痛っ、やめ、まひへひゃめろって」

俺の横に回り込むと、万力でほっぺたを抓り上げてきやがった。なんてことしやがる。

587 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:28:53.68 ID:NS.o43co

「悟りはもっと清らかな面持ちで開くものよ。さあエロキョン、何を考えていたのか白状なさい!」

エロキョン言うな。俺がえっちい妄想していたことは決定事項なのかよ。

「それは今から決める事よ。あんたがずっと黙ってるつもりならそう判断せざるを得ないけど?」

くそ、これで黙秘権を行使する道は断たれた。
ハルヒ一人にどう思われようと勝手だが、団長から変態の烙印を押されるとなると
長門や古泉の俺を見る目が変わってしまう恐れがある。

『………へんたい』

くっ、これはこれでまた魅力的なものがあるが――っていかんいかん。
マジでアブノーマルな趣味に目覚めちまうとこだった。

『ふふ。ようこそ、変態の世界へ』

全裸に葉っぱ一枚の古泉が、脳裏を掠めていく。
偏見で塗り固められたその古泉は、非現実的なようで現実的だ。やべ、吐き気が襲ってきやがった。

「あと三秒以内に言わなかったら私刑だかんね。いーち、」

カウントダウンを始めたハルヒ。
昨夜の花見を思い出していたことは別に話してしまっても構わないだろうが、
鶴屋さんに水を呑ませてもらったくだりは、割愛した方がいいような気がする。第六感的に。
でも、あやふやな記憶を補完するためには順序よく話していく必要がある。とすると、必然的にそのくだりも話さなくちゃならないわけで――

1、昨夜の花見を思い出してただけだよ
2、いや、昨日鶴屋さんに水呑ませて貰ったあとの記憶があやふやでさ。お前ら知ってるか?
>>597までに多かった方

589 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:29:14.40 ID:Kd6kNmo0

2

590 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:29:56.44 ID:rT6SNh6o



591 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:19.11 ID:b/5HU3o0

2

592 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:36.61 ID:H8e5.sDO



593 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:43.77 ID:VNaixAE0

1

594 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:51.08 ID:mLWRfqE0



595 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:56.57 ID:21bNH6Q0

うーむあえて2で

596 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:31:12.97 ID:zXC6HGk0



597 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:31:21.72 ID:rT6SNh6o

2と書きながら迷ってるから1も一票

627 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 21:13:06.42 ID:NS.o43co

「にーい、むぐっ」

口を塞ぐ。

「待った。話すからカウントダウンはナシだ」

どうせ三つ目のカウントダウンは一瞬で終わらせようと企んでいたに違いない、
二つ目で止めた俺に、ハルヒは長い睫毛を瞬かせていたが、

「それじゃ洗いざらいぶちまけなさい」

やがて、成人雑誌を隠し持っていた弟を問い詰める姉のような態度で、脇のパイプ椅子に腰を下ろした。
その不貞不貞しさにに呆れつつ、口火を切る。

「俺が回想してたのは昨夜のお花見のことだよ。
 酒の所為か、どうも記憶が曖昧でな。ばらばらに散った記憶を集めてた、というわけだ」
「確かにあんた、かなり酒入ってたもんねー。強くないのに無理するからよ」
「反省してる。でもやっぱ、記憶が曖昧なままっていうのは気持ち悪い。
 かなり酔ってた俺の他は、禁酒してたお前にほろ酔いの古泉に酒豪の長門と、みんな記憶は確かだろ?
 もしよかったら終盤あたりの出来事を教えてもらいたいんだが」

下手に出て頼んでみると、

「いいわよ。あたしは一滴も呑んでないし」
「いいでしょう。僕も若干酔っていましたが、記憶には自信がありますので」

ハルヒはあっさり承諾してくれた。横から古泉も加わってきたが、役立ちそうなので文句はナシだ。

「それじゃ聞くぞ。鶴屋さんは、泥酔した俺を見かねて水を持ってきてくれたよな?
 そっから後のことが聞きたい。たしか、鶴屋さんが俺に何かを提案してくれたような気がするんだ」

647 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 21:59:08.32 ID:NS.o43co

「あぁー、あのときの。あれはねぇ……」
「あれは?」

期待を胸に復唱する。

「あれは……、鶴屋さんはあんたになんて言ったのかしら……」

が、明瞭な頭脳と正確な記憶を持つハルヒは、わざとらしく口籠もり、

「ごめん、ちょっとあたしも思い出せな――」
「鶴屋さんはあなたに、鶴屋家での宿泊を提案されたのですよ。
 あの状態で帰路に着くのは、危険だと判断されたのでしょう」

代わりに古泉がスラスラと答えを述べた。
切れていた記憶が回復していく。あぁ、確かにそんなお誘い受けたっけ。
それで、俺はその提案を断ったんだよな。次に目覚めたときは自宅だったし。

「厳密に言えば違います。最終的に鶴屋さんの提案を断ったのは、涼宮さんと長門さんの二人ですよ」

ハルヒと長門? 思いがけぬ名前の登場に困惑する。
その本人達に視線をやれば、ハルヒは我関せずといった風に明後日の方向を眺め、
長門は頑なにハードカバーを読み続けていた。二人ともどことなくぎこちない。

「涼宮さんは『団長として団員が迷惑をかけることを無視できない』と主張され、
 長門さんは『自宅に二日酔いに良く効く薬がある』と主張されまして」

古泉は眼精疲労を労るように目頭を押さえながら、

「結局間をとって、僕があなたを家まで送る、ということになったんですよ。
 まったく……酔臥していたあなたを運ぶのは、大変骨の折れる作業でした」

714 名前:一応エロいける[] 投稿日:2007/12/27(木) 23:32:08.58 ID:NS.o43co

むむ。意識が朧気なときに貸しを作るなんて卑怯じゃないか?

「心配なさらず。当然、ノーカウントですよ。
 もっとも、あなたには数え切れないほどの借りがあるので、
 一つや二つ貸しを作った程度では、到底相殺しきれないないでしょうが」

如才なく微笑む古泉から目を逸らしつつ、

「でもま、運んでくれてありがとよ。もし一人で帰っていたら、道ばたで脱水症状起こしてかもしれねぇ」
「これは珍しいですね。あなたからお礼を賜るとは」

もう一度二人を観察する。

「〜♪〜〜♪〜♪〜〜」
「…………」

プログラミングに戻って口笛を吹きはじめたハルヒと
通常時と比較して1.5倍の速さでページを捲る長門は、依然ぎこちないままだった。
当時のこいつらの思惑を窺い知ることができないが……まぁ、醜態をさらしていた俺に何か思うところがあったのだろう。
情けないとか。放置しておけないとか。鶴屋さんの手を煩わせたくないとか。
想像したら悲しくなってくるね。ここらで一服するとしよう――と、俺が煎茶に手を伸ばした時のことだった。

昨夜犯した、致命的にではないにせよ十分悔悟するに値する失態に気づく。
古泉曰く、俺は宴会がお開きになったときには既に酔臥していたらしい。
ということは、他のメンバーがしたお礼を、俺は一言も述べないまま去ってしまったことになる。
鶴屋さんのことだ、俺が辞去しなかったことを不快に思ったりはしていないだろうが、
あれほど豪勢な宴会を楽しませて貰った挙げ句一言のお礼もなし、というのは相当常識外れの行為である。
近々、できれば今日にでも鶴屋家を再訪する必要がある。社会常識云々以前に、そうしないと俺の気が済まない。

748 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 00:05:06.02 ID:RZ8z2Lwo

決意と共にお茶を飲み干す。
すると、どの角度から湯飲みの煎茶残量を計測したのか、

「……もう一杯、いる?」

長門が尋ねてきた。どうやら朝比奈さんのメイド魂は
時空の壁を超えて、しっかり受け継がれているようだ。感涙を禁じ得ないね。
でもな、長門。今日呑んだ分でも既に5杯を超えているんだ。
これ以上呑んだら俺の胃袋は水風船よりもたぷたぷになって破裂してしまうだろうよ。

「遠慮しとく。もう十分味わったから」
「……そう」

寂しそうに目を伏せた長門に、一種の罪悪感を憶えつつ。
俺は時計を見上げた。午後4:30という微妙な時間が、短針と長針で表示されている。
団活終了まではまだかなり時間がある。
誤解なきようにいえば、俺はSOS団の活動をうとんでいるわけではない。
がしかし、あまりに恒例化された団活――ボードゲームに読書にPC弄り――に退屈しているのも確かだ。
この鬱屈した心情を晴らすには、メンバーとの直接接触ぐらいしか手段は残されちゃいない。
ここは誰に話しかけようか――

1、長門
2、古泉
3、ハルヒ

>>755

755 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 00:06:10.52 ID:nq7xLpU0



777 名前:酒入ったから文章に乱れが見られるかもしれんね[] 投稿日:2007/12/28(金) 00:18:00.18 ID:RZ8z2Lwo

ここは長門に話しかけよう。さっきの寂しげな伏目も気になるし。
それにいっつも本の世界に埋没している長門の邪魔をするのは、
背徳感にも似た妙な喜悦感があるしな。水の向け方次第じゃ無視されるかもしれないが、
最近は口数が増えてきたし、大抵の話題なら返事をしてくれるだろう。

「なあ、長門」
「…………?」

ボブショートの髪を僅かに揺らして、長門がこちらに振り向く。
琥珀色の瞳には、迷惑そうでも鬱陶しそうでもない、純粋な期待の色が浮かんでいる。
話題は一切考えちゃいない。即席で何かを用意する必要がある。

ここは――


自由記入「      」について


>>790

790 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 00:20:41.68 ID:rtezjjAo

ちゅるやさん関係の話題

828 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 00:47:31.46 ID:RZ8z2Lwo

ここは、鶴屋さん関係の話題でいくか。
数学教師が言ってたじゃないか、疑問は出来た瞬間に氷解させるに限る、と。

「古泉に聞いたんだが……昨日の夜、
 俺が鶴屋さんに迷惑かけそうになってたのを止めてくれたんだってな」

コク、と首肯する長門。

「どうしてだ?
 もしお前に甘えてりゃ、俺はお前に物凄く迷惑かけてたかもしれないんだぜ?」
「………迷惑ではない」
「それじゃ答えになってねえよ」

二日酔いに良く効く薬。それが自宅にあるから、俺を預けて欲しいと長門は言った。
だがお前の情報操作をもってすれば、俺の血液中からアルコールを飛ばすなんて造作もないことだ。
俺をわざわざマンションに連れて行く必要はなかったはずだろう?

「わたしはあなたを介抱することを迷惑だと思っていない」
「だから答えになってないって。もっと別の方法が――」
「……言い方を変える」

長門はまだ下校時間にもなっていないというのに本を閉じ、しかとこちらを見据えてこう言った。

「………わたしはあなたを介抱したかった。
 あのままではきっと、あなたは二日酔いに苦しんでいた」
「長門……」

今更ながら、今朝の目覚め時に頭痛を伴っていなかったことを思い出す。
二日酔いに良く効く薬があるというのは虚偽だったのだろう。第一、未成年の長門がそんな薬を所持しているとは思えない。
長門は古泉に俺を任せた後で、俺が二日酔いにならないよう魔法を掛けてくれたに違いない。

892 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 13:57:51.66 ID:RZ8z2Lwo

「わり、俺、勘違いしてた」

長門の思い遣りを曲解した俺はとんでもない大馬鹿野郎だ。
こいつの魔法がなけりゃ、俺は今朝から激しい頭痛と嘔吐感に襲われて、
ハイキングコースの中盤辺りで野垂れ死んでいたに違いない。さんきゅな、長門。

「………いい」

長門はしばらく俺のテレパシーに付き合ってくれていたが、
二、三度瞬きすると、本の世界に戻っていった。会話の糸が切れる。
三度の飯(カレー)より本が好きな長門だから、長時間引き留めておけないのは仕方ない。
でもなんとなく、長門との絡みを終わらせたくなかった。
湯飲みを見る。空っぽだ。腹に手を当てる。たぷたぷだ。
長門との交流と胃の健康。常識的に考えれば、当然選ぶべきは後者であろう。
だがそれは、あくまで健康を第一とした場合の選択だ。たとえ胃が破裂しようとも――俺は、長門の奉仕を選ぶっ!
俺は相応の覚悟を持って高々と挙手し、

「お茶、もう一杯もら――」
「じー」
「え?」

ジト目のハルヒに、追加オーダーを中断させられていた。
どうしたんだ、右の頬だけご褒美貰えなかった子供みたいにふくらませて。

「じー」

何か欲しいのか? 今現在、俺の財布は閑古鳥どもの合唱広場と化しているが、
アイスバーかポテトチップス程度なら奢ってやってもかまわないぜ。

「……はぁ。別に何も欲しかないわよ。あたしはそんな即物的な人間じゃありませんよーだ」

908 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 14:40:06.79 ID:RZ8z2Lwo

右頬のみならず、左頬にも空気を送り込むハルヒ。
あの両頬を思いっきりプレスしたらどうなるんだろう。そんな悪戯心を押さえ込みつつ、

「ならジト目をやめてもらおうか。集中できないんだよ」
「よくいうわ、常に意識散漫なくせに。いいわ、分かったわよ。やめてあげる」

ハルヒは口をすぼめると、

「いっつも有希が優遇されてる気がするわ」

と意味深な発言を残してPCディスプレイに身を隠した。
声音に棘はなく苛ついてる様子でもなかったから、放っておいもよさそうだが――
行動学の権威古泉教授は、今の遣り取りに感じるところがあったようで、

「ふむ」

自説を根底から覆された学者みたいに呻吟していた。
眼光は鋭く、チェス駒を透かして別の何かを捉えているかのよう。
表情は常のアルカイックスマイルを消し、滅多に見せない素顔を露呈している。

「不可解だ。最初から僕の杞憂だったのか……いや、そんなことはあり得ない」
「おい。何か悩みがあるなら相談に乗ってもいいんだぜ?」
「ありがとうございます。実は、今日の団活が始まったときから感じていたことなのですが、」

ここで。やっと古泉が、俺の顰め顔に気づく。

「口が滑っていたようですね。忘れて貰えると助かります」
「そりゃ無理な相談だな。お得意の力で記憶消去したらどうだ?」
「何度も説明したと思いますが、もう一度言いましょう。不可能です。
 もしそんなことができるのなら、僕が不定期なバイトに駆り出されることもありませんでした」

928 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 15:39:35.68 ID:RZ8z2Lwo

テンプレート化した説明文句。
それを全て言い終える頃には、古泉は平常時のスマイルを貼り付けなおしていた。

「ま、俺はチンパンジー並に記憶能力が乏しいんだ、明日になったら綺麗さっぱり忘れてるだろうさ」
「ええ、言われてみればそうでした」

おいおい、今のは否定するところだろ。しかし古泉はその科白を華麗にシカトし、

「準備が整いました」

テーブルのチェス盤を指差した。
盤上には、数ミリのズレも見当たらない緻密さで駒が配置されていた。
お前の準備作業もいよいよ機械じみてきたな。

「今度こそ雪辱を晴らさせてもらいますよ」
「俺には見えるぜ。数分後に降参している、お前の憐れな姿が」

渋々、といった風にルークを動かす。古泉とのテーブルゲームは、
いわば学習機能のない機械を相手にしているようなものだ。
はっきりって楽しくない。そう、楽しくないのだが――
暇を持て余しているときに誘われると、つい駒を動かしてしまう。
そして決まって後で後悔するのだ。どうしてあの時勝負を受けてしまったのか、と。

――――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、ここで失礼します」
「…………」
「じゃあね。古泉くんは頼りになるから大丈夫だと思うけど、気をつけて帰りなさいよー」

団員各々の事情によって、本日は昇降口前での解散となった。

939 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 16:14:06.36 ID:RZ8z2Lwo

夕陽に熔けていく二つの人影。それをぼうっと眺めながらも、俺は心中穏やかでなかった。
なんでも長門と古泉の二人は用事があるんだそうで、しかもその帰路は途中まで一緒なのだという。
パーフェクト美男子の古泉と、清楚で小柄な美少女の長門。
余りある身長差から、周囲の目には先輩と後輩の下校風景にしか映らないに違いないが、
伏目の長門に饒舌に語りかける古泉は初心な彼女を気遣う優男という光景に映らんでもなく、
要するにあの二人が交際しているという、天地が引っ繰り返っても起きえぬ誤解が生じる蓋然性が――

「――くッ」
「ちょ、なに痙攣してんのよ! 救急車呼ぶ?」

大きく手を振っていたハルヒが、俺の顔を覗き込んできた。

「いや、救急車はいい。よくある発作だよ、発作」
「発作?」

心配そうな表情が一転、訝しげに歪む。
ふっ。お前には理解できんだろうな、愛する娘を不逞の輩から守ろうとするこの温かい父性が。

「……まぁいいわ」

ハルヒは軽く溜息をつくと、

「不審者が出てるって噂、あんたも知ってる?」

ふいに真面目な声色になってそう言った。

「いや、初耳だが」
「だと思った。最近ね、北高生ばかりを狙う変質者が出没してるらしいのよ」
「変質者ね。レインコート姿のおっさんくらいしかイメージ沸かないんだが」
「あんたの変質者像なんか誰も聞いてないわよ。それが、今まで誰もその不審者を見たことがないんだって」

943 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 16:46:29.85 ID:RZ8z2Lwo

ちょい待ち。その話には矛盾がある。

「誰もそいつの姿を見たことがないのに、何故不審者だと分かるんだ」
「小さな足音がするのよ。一人で下校している時に限って、その足音がついてくるの。
 でも、意を決して振り返っても誰もいないの。で、尾行された人は飛び上がって家にダッシュするってわけ」

ほう、見えない尾行者ね。幽霊みたいだな。

「でしょでしょ? それであんたはどう思う?」

ふむ。もし実体があるなら、そいつは余程尾行に手慣れているということになるが――
現実的に考察するなら、ストーカーにつきまとわれているという妄執に取憑かれた
女生徒たちが作り上げた、空想上の不審者ってところか。つまり存在しない不審者に皆怯えているんだよ。

「それはあり得ないわ。だって……」

俺が罠に填ったことがそんなに喜ばしいのか、

「だって?」

ハルヒはわざとらしく引きをつくり、

「……尾行されているのは、全員男子生徒なんだもの」
「男子生徒ぉ!?」

俺の反応をたっぷり愉しんだ後、解説を再開した。

「誰も実際に襲われていないから、そいつに特殊な趣味があるってことはないみたい。
 不審者の徘徊理由に関しては『誰かを捜しているんじゃないか』っていう意見が大多数ね」

14 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 17:57:39.85 ID:RZ8z2Lwo

北高の男子生徒に用があるんなら、平日の学校の門を叩けばすむ話なのにな。
闇雲に尾行して怪しまれるよりも、そっちの方がずっと効率的かつ平和的だ。

「推測で罵倒するのは憚られるが、そいつはちょっと頭が弱いと思う」

俺は同意を期待したが、ハルヒは会話に一拍間をおき、

「さあね。もしかしたら、不審者の正体は北高男子の一人に思いを寄せている、シャイな女の子かもしれないわよ?」
「ありえねー。そんな女の子が尾行技術マスターしてたら普通引くって」

可憐な少女が電柱から電柱へ、壁から壁へと隠密移動を繰り返していく様を想像して、噴き出しそうになる。
俺は一頻り笑いをかみ殺してから、

「……で、お前はこの噂を聞いてどうするつもりなんだ? そいつをひっつかまえて尋問するのか?」

半ば答えが見えていた質問をした。だが――

「今回は諦めるわ」

あまりに率直な否定に、脳が一時停止する。

「確かに噂の真相は解明したいけど、あまりにも手掛かりがなさすぎるし。
 そんなことに時間を割くより、他の面白いことを探求する方がいいと思うの」
「意外だな。またあの腕章つけて探偵ごっこを始めるんじゃないかと覚悟していたのにさ」
「安心しなさい。探偵ごっこよりももっと面白いことであんたを振り回してあげるから」

ふと隣を見れば。オレンジに染まった校舎をバックにして、同じく西日に照らされたハルヒがニコニコと笑っていた。
その表情に、遠慮や配慮の感情は一片もなく――俺は最後の科白が、本心からのものであったことを知る。

「ははっ、そうだよな。それでこそお前だ」

安堵の溜息が零れる。不審者の話題に花を咲かせている内に、俺たちは校門前まで歩を進めていた。

19 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:14:53.35 ID:RZ8z2Lwo

場の流れに従うのなら、ここはハルヒと二人で帰るところなのだろう。
が、鶴屋さんへのお礼、長門と古泉の謎の所用、北高男子を狙う不審者と、
放課後の活動予定候補は枚挙に暇がない。ここは――


1、鶴屋家を訪問しよう(二日目も可)
2、ハルヒはああ言っていたが、不審者のことが気になるな…
3、古泉の所用とはなんだ?
4、長門の所用とはなんだ?


>>30までに多かったの

20 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/28(金) 18:15:21.79 ID:Du1ZdVQ0

1

21 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:10.87 ID:v86djoAO

1

22 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:20.61 ID:Kp0nFMDO

1しかない

23 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:21.10 ID:6xaVXIE0

4

24 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:42.03 ID:CajzQgDO



25 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:44.11 ID:Qe6n4ago



26 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:49.66 ID:QHKgIIAO

3

27 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:53.28 ID:0m223s20

2

28 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[undefined] 投稿日:2007/12/28(金) 18:17:18.45 ID:Kn.XT4U0

4

29 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:17:58.62 ID:kHU6X3I0

4

30 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:18:13.21 ID:wqpWsp.0

1

64 名前:さすがに羽入は冗談です[] 投稿日:2007/12/28(金) 20:36:52.15 ID:RZ8z2Lwo

鶴屋家を訪問しよう。言いそびれていたお礼を今度こそ伝えないと。

「ハルヒ、今日は一人で帰ってくれないか。用事思い出したんだ」
「あんたもなの? 団員みんながバラバラに帰るなんていつ以来かしら……」

不満そうに鞄が揺れる。その仕草が可笑しくて、

「どうしたんだ。一人で帰るのが寂しいのか?」
「ばっ、馬鹿いってんじゃないわよ」

見え透いた強がりに苦笑しつつ、ハルヒを元気づけてやる。

「偶然予定が重なっちまったのさ。明日からはまた皆で一緒に帰れるんだし、そう落胆するな」
「うん……じゃあ、また明日ね」

ハルヒは最後に明るい笑顔を見せると、駆け足でハイキングコースを下っていった。
不審者の件が気になるが――男子生徒しか狙わないという情報を信頼するなら、
ハルヒが襲われることはないだろう。というより、あいつのことだから襲われても返り討ちにしてそうだ。

校舎の壁時計は午後5時過ぎを示していた。古泉と長門の早退で、一時間近く解散が早まったことになる。
校舎から振り返ると、遠くの方に、黄色いカチューシャが見て取れた。
周囲には数名のクラスメイトがいて、時折、楽しそうに言葉を交している。
二年前とは違う和やかな風景。ふいに、安堵感と寂寥感がごっちゃになった妙な感情が込み上げてきて――
俺は足早に、しかしハルヒに追いつかないように加減して、ハイキングコースを歩き出した。

混濁した情動の正体は、結局分からずじまいだった。

―――――――――――――――――――――――――――――

77 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 21:54:45.99 ID:RZ8z2Lwo

巨大な門に設置されたインターホンを押してから、既に10分が経過しようとしていた。

『やあやあ、キョンくんじゃないかっ。すぐに行くから待ってるんだよっ』

防犯カメラに写った俺を見て、鶴屋さんはそう言った。
がしかし、目的の人が在中している事実に胸を撫で下ろせたのも最初の数分だけで、
あれから門は一向に開く気配を見せぬまま、俺の眼前に立ちはだかっている。

「なにやってんのかなあ、鶴屋さん」

覗色から淡紫へ色を変える空を眺めながら、思う。今の俺は不審者だ。
日本屈指の御屋敷の前で身分不相応な男が長いこと突っ立ってたら、そいつはもう間違いなく不審者だ。
あと数分もすれば通行人の一人が然るべき公的機関つまり警察へと通報し、
近くの駐在所で油を売っていた中年警官二名が現場へ急行、鶴屋家への不法侵入を試みていた
不審人物を捕縛し、俺は相互不信化社会を嘆きながら投獄されるのである、ああ、なんて悲劇だろう――
と、つまらない妄想ストーリーはさておき。いよいよ本当に、屋敷の厳かな雰囲気に気圧されつつある俺だった。
もしかしたら鶴屋さんはインターホンに返事をしたきり、俺のことを忘れてしまったのかも知れない。
あともう一度だけインターホンを鳴らして、それでも鶴屋さんが出てこなければ大人しく帰ろう。
しばしの逡巡を経て、インターホンへと手を伸ばす。と、俺の指がボタンに触れそうになった、その時だった。
ドスン、という閂が落ちる音が響く。次いでギコギコと軋みを上げて門が開き、

「遅れちゃってすまないねぇ。とりあえず上がんなっ。お酒はないけどお茶ならあるからさ」

鶴屋さんが現れた。装いは着物姿に袢纏という鶴屋流ラフスタイル。
だが、いつも無造作に引っ詰められている髪だけは、今は綺麗に結わえられていた。

「それじゃ、お邪魔します」
「遠慮しないの。こっちこっち」

ぴょんぴょん跳ねていく鶴屋さんに追従する。屋敷につくまで、俺は夕暮れ時の日本庭園に目を奪われていた。
朱色に染められた桜には、昨晩の夜桜とはまた違った美しさがある。鶴屋さんはもうこんなの見飽きているんだろうな。
ふと、そんな当たり前のことを考えて。俺は自分と先輩との経済的距離を、痛感した。

121 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 23:29:22.85 ID:RZ8z2Lwo

俺が通されたのは、寒い冬の日に朝比奈さんと訪れた庵だった。
最後に見たときから変わらぬ家具や畳に、二年前の記憶が前触れなしに蘇る。
一人勝手にノスタルジックな気分になっていると、鶴屋さんが袢纏を脱ぎながら

「今日はどうしてうちに寄ったんだい? 忘れモノでもしたのかなっ」

ずばり聞いてきた。

「いえ、まあ忘れモノといえば忘れモノなんですが……」

お茶をできるだけゆっくり啜って思考タイムを稼ぐ。
練りに練ってきた科白は、それを書き連ねた紙ごとどこかへ吹き飛んでいた。

「んーっ、ちょいと話しにくいことなのかなっ?」

いえ、そういうことでもないんですよ。

「昨日の夜、俺、かなり酔ってましたよね」

俺は前置きはなしにして、本心のまま謝罪することを決めた。
遠回しに言ったところで、慧眼持ちの鶴屋さんには無意味だ。
まごついている間に言いたいことを逆に言い当てられてしまっては元も子もない。

「俺、酒弱いのは自覚してたのに、度数高い酒をがぶがぶ呑んで、
 挙げ句の果てには帰り際の記憶がないくらいに酩酊しちまって……」
「あの時のキョンくんは、めがっさ気持ちよさそうだったなあっ」
「それで、そのまま古泉に連れてかえってもらって……」
「うんうんっ、あの時は結構揉めたんだよねー」

146 名前:誠死ね[] 投稿日:2007/12/29(土) 00:05:51.09 ID:9EIFn/Ao

錯覚だろうか。偶に挟まれる相槌はとても楽しそうだ。

「俺、鶴屋さんにまだ言ってないんですよ」
「ふぇえっ? 何をだい?」

ぐい、と俺を覗き込む鶴屋さん。
袢纏を脱いだことによって露わになった肩口から目を引きはがしつつ、

「その」
「んんっ?」
「お礼を、まだ言ってません」

今回の訪問の核心部分を口にする。
鶴屋さんは切れ長の睫毛をぱちくりさせているが、ここで止まるわけにはいかない。

「あんなに御馳走になったのに、勝手に飲んだくれて帰ってしまって……
 遅れましたが、言わせてください。昨夜は本当にありがとうございました」

姿勢を正して頭を下げる。あとは鶴屋さんの返事待ちだ。
門前からここまでの態度から考えて、鶴屋さんが俺の昨夜の失態を咎めているということはまずありえない。
だから今更のこの謝辞も、笑って流してくれるだろう――俺は、そう考えていた。
10秒後。黙りこくったままの鶴屋さんを不審に思い、恐る恐る顔を上げる。
すると机を挟んだ向こう側には、ふるふると双肩を震わせる鶴屋さんの姿があった。
あれ、これってもしかして、激昂三秒前だったり?
肩の震えが全身に感染していく。楽観的にことを考えていた過去の自分を罵倒しつつ、俺は厳しい叱咤に身構えた。
だが――

「あははははははっ、駄目、もう堪えきれないよっ」

昂然と面を上げた鶴屋さんは、お腹を抱えて爆笑し始めた。

162 名前: ◆.91I5ELxHs[] 投稿日:2007/12/29(土) 00:28:47.60 ID:9EIFn/Ao

想定外の反応に激しく戸惑う俺。反射的に尋ねてしまう。
あのー、すいません。今の話、そんなに面白かったですか?

「はぁっ、はぁ……笑いすぎて涙が出たにょろ」

鶴屋さんは乱れに乱れた呼吸を整えてから、

「キョンくんがいやに真面目な顔してると思ったら、
 そんなことで思い悩んでたなんてねっ。あんまり可笑しくて、笑いを堪えきれなかったのさっ」
「そんなこと、ですか。俺は結構気にしてたんですけどね」
「ごめんごめん。でもね、あたしはそんなことちーっとも気にしてなかったんだよっ。
 前にも言ったと思うけど、あたしは楽しんでいる人を見るのが、楽しんでいる人の傍にいるのが好きなんだっ」

着物の袖で目尻を拭いつつ、

「だからキョンくんはなんにもも気にしなくていーの。
 キョンくん、ハルにゃん、有希っこ、いっくんは昨晩楽しんでくれただろっ?
 あたしはそれを見ることができて、ものすっごく嬉しかったんだ。
 だからお礼を言わなきゃいけないのはあたしの方だいっ」

そう言うと鶴屋さんはコホン、と咳払いをして、
半ば崩れ気味だった正座を修正すると、

「ちょ、待ってくださ――」

制止する間もなく、鶴屋家次期党首の名にそぐう完璧な所作でお辞儀した。

「――――」

目の前の鶴屋さんの別人っぷりと、お礼を返されてしまった自身の不甲斐なさの両面で、言葉を失ってしまう。

215 名前:ちょびっと修正[] 投稿日:2007/12/29(土) 01:19:22.18 ID:9EIFn/Ao

結局。俺の舌が機能を回復し始めるまで、鶴屋さんは頭を下げたままだった。
しどろもどろになりながら説得を試みる。ただし、小声で。

「こんなところ誰かに見られたら、俺の命が危ないですよ!」
「そうかなあっ。家人が客人をもてなすのは当然のことだよっ」
「とにかく駄目なものは駄目なんですって」
「しょうがないなあっ」

なんとか頭は上げてくれたものの、鶴屋さんは依然、慇懃な佇まいを崩そうとしない。
それどころか眼を細め、小さく舌を覗かせる始末である。
先輩相手にこんな言葉を遣うのは憚られるが、やむを得ん。
この人―――確信犯だ。

「どうしたら元の鶴屋さんに戻ってくれるんですか?」
「そうだねぇ。昨日聞けなかったSOS団の内部事情をリークしてもらう、なんてのはどうだいっ?」
「内部事情をリークって、要するにメンバーの近情が知りたいと?」
「そうだよっ。あたしに言えないような秘密があるなら別にいいけどねっ」
「いえ、そんなんでいいなら喜んでお話しますよ」

あなたは名誉顧問ですし、と付け加えるのも忘れない。
すると鶴屋さんは、あっさり次期党首モードを解除し、

「じゃあ、まずはハルにゃんのことから聞きたいなあっ」

世界最高峰のストーリーテラーを前にした聴衆のように瞳を輝かせた。
両手は指先だけ重ね合わせ、机に半ば身を乗り出すようにしている鶴屋さんは随分リラックスしているように見える。。
SOS団メンバーの近情を知ったところで、一体どうするのか。その意図はさっぱり掴めないが、
とりあえず命の危機は去ったのでよしとしよう。鶴屋さんにお辞儀されているところを他の家人に見つかってみろ、
俺はまず間違いなく刎頸に処され、その首は髑髏になるまで庭先に飾られていたに違いない。恐ろしや恐ろしや。
が、交換条件を飲んだ以上、俺に生の充足を得ている暇はなく――

「ハルヒですか…、」

幼女時代の妹を連想させるわくわく顔の先輩に、

「そうですね。最近はあいつも、クラスメイトとフツーに話すようになりました」

俺は慎重に言葉を選びつつ、口火を切った。

281 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 14:55:29.40 ID:9EIFn/Ao

――――――――――――――――――――――――――――――

「ふぅ……」

カラカラに渇いた喉をお茶で潤す。
巧妙な相槌のせいか、はたまた気の緩みのせいか。
俺の口は蛇口が吹き飛んだ水道のように、ドバドバ情報を垂れ流していた。
今振り返ると、大半がどーでもいい情報だったように思える。
鶴屋さんは嫌な顔一つせず聞いてくれていたが、もし俺が鶴屋さんの立場なら、
「お前喋りすぎだって。落ち着けよ」と窘めていただろう。俺は軽く自己嫌悪に陥って、

「すいません、俺ばっかり喋ってしまって」
「んなことないよっ。あたしはみんなのことが知れて大満足っさ」

次の瞬間には、鶴屋さんの朗らかな笑みに救われていた。
ほんとう、あなたは広い器量をお持ちだ。
生まれてこの方一度も人を不快にしたことがないと言われても信じますよ。

「でもま、随分長いこと話を聞かせてもらってたみたいだけどねー」

と、鶴屋さんが障子を見て言った。視線を辿る。
鈍い赤に染まっていた障子紙には、暗褐色が広がっていた。
――もう夜、か。
本来の目的は果たしている。これ以上居座り続けたら迷惑だろう。

「そろそろお暇します。つい長居してしまいました」

腰を上げる。だが、最後の一礼をする直前、

「おやおや、もう帰るのかいっ?
 折角あたしも話を用意してたのに、それじゃパァになっちゃうねぇ」

素っ頓狂な声が、俺を引き留めていた。

289 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:14:36.84 ID:9EIFn/Ao

話を窺いたい気持ちは山々なんですけど、迷惑なんじゃないですか。
俺んちは半放任主義なので夕飯抜けても大丈夫ですが、
鶴屋さんちはそうもいかないでしょう?

「迷惑かどうかはあたしが決めることだよっ。
 夕食までにはまだまだ時間あるしねっ。
 それにね、いざとなったらキョンくんも食べていけばいいっさ」

いやいや、二夜連続でお世話になったら俺の立場がありませんよ。
昨日の不逞を詫びにきたのに……これじゃ夕食泥棒みたいじゃないですか。
狼狽する俺をよそに、鶴屋さんは湯飲みにお茶を注ぎながら、

「いーのいーの。
 皆で一緒に食べた方がご飯はおいしいのっ。
 先輩の言うことは素直に聞いたほうがいいにょろよ〜?」

猫なで声で追撃してきた。否応なしに心が揺さぶられる。
卑怯な人だ、こんな時に限って先輩権限を使用するなんて。

ここは――

1、夕食はナシにしても、先輩の近況を窺おう。
2、二夜連続外食は妹の機嫌を損ねそうだ。またの機会にしよう。

>>297までに多かった方

290 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:19.22 ID:HHfmjpA0



291 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:37.83 ID:4VXOIkQ0

1

292 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:42.97 ID:f08gG0so



293 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:51.19 ID:9KsD96DO

1

294 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:59.74 ID:7qODi8Qo



295 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:16.92 ID:MR0.Aaw0



296 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:27.40 ID:eb.3MvY0

1

297 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:35.19 ID:MR0.Aaw0



328 名前:結構修正ver[] 投稿日:2007/12/29(土) 16:01:19.77 ID:9EIFn/Ao

わざわざ再確認してもらう必要はないと思うが言っておく。
俺は押しに弱い。果てしなく弱い。確固たる意志はあるにはあるが、
絶対譲れない部分以外での押し引きには簡単に負けてしまうのだ。優遊不断というやつである。
だから俺をよく知る鶴屋さんに、俺が言いくるめられるのは時間の問題だったと言える。

「ほら、もう一度座るっさ」
「は、はい……」

再び腰を降ろす。ただし、

「二夜連続で外食したなんて妹に知られたら、自宅で俺の居場所がなくなります」

晩餐のお誘いについてはきっぱり遠慮しておいた。鶴屋さんはそれには答えず、

「何から話そうかなっ。うー、いっぱいありすぎて取捨選択ができないよっ」

悩みに耽るハルヒのように中空を睨み、
古泉お得意のポージングを決め、長門みたく沈思黙考すると、

「それじゃあ、大学のことから話そうかっ。
 退屈だからって居眠りしたら許さないよっ?」

底抜けに楽しげな笑顔で、新しく始まった大学生活のことを話し始めた。
まったく……そんな不躾なことしませんよ。

「――でね、その子がいうには――――それを聞いたら――」

そうですね。ニュアンス的には、居眠りしない、じゃなくて居眠りできないといったところです。

「――我慢できなくて――大笑いしっちゃってねっ―――」

だって、あなたは聞き上手であると同時に……飛切りの話し上手じゃないですか。

――――――――――――――――――――――――――――――

344 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 17:07:59.89 ID:9EIFn/Ao

宵闇に包まれた幽邃の地に、心地よい音が響き渡る。
カランコロンと下駄を鳴らして先導する鶴屋さんは、石畳の位置を全て把握しているようだった。

「いやぁ、あたしもキョンくんに負けず劣らず喋っちゃったなぁ。
 キョンくんは聞き上手だねっ」

庵を出たきり口を緘していた鶴屋さんが、前を向いたまま言った。
俺は冷静に語尾部分を否定してから、

「お互い様ですよ。それに、俺は鶴屋さんの話聞いてて楽しかったし」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないかっ。
 でもホントに退屈しなかったのかい?
 あたしの大学のことなんて、キョンくんにはぜーんぜん関係ないことだったのにさっ」
「無関係ってことはないですよ。話は面白かったですし……
 なにより、鶴屋さんの大学生活が順調そうで安心しました」

鶴屋さんが一番語りやすそうだったのは、やはり大学についてのことだった。
新しくできた友人、お嬢様大学故に厳格な教授、帝王学経済学の奥深さ。
話の合間に見え隠れする、大人びた鶴屋さんに戸惑うこともあったが――

「それに、初めて大学っていう場に興味を持てました。
 俺が来年進学できるかどうかは微妙なところですけどね」

半ば真意混じりの冗談に、鶴屋さんはくすくすと微笑を零しつつ、

「だいじょーぶだいじょーぶ。
 キョンくんにはSOS団があるじゃないかっ」

よいしょ、と閂に手を掛けた。訪問したとき同様に、ギシギシと音を立てて門が開いていく。

356 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 18:19:14.29 ID:9EIFn/Ao

屋敷側から覗いた外の風景は、まるで別世界のようだった。
不定期に瞬く外灯や傾いだ電柱。普段見過ごしているものが、急にくすんで見える。
いやいや、眼を醒ませ。俺はその俗世側の人間だろう――と俺が恒例の葛藤に苦しんでいると、

「寂しいなあっ。ホントにご飯食べてかないのかいっ?」

ぐらつく心をなんとか支えて、

「お気持ちだけ頂戴します」
「んー、残念無念っ。ま、無理に引き留めも意味ないしねっ。次の機会を楽しみにしとくにょろ」

門外へ一歩踏み出す。
屋敷と外界隔てる透明の壁を越えて振り返れば、
やはりそこには鶴屋家次期党首に似付かわしい、着物姿の御仁があった。

「今日はありがとうございました。
 本当は謝るだけで帰るつもりだったのに、つい長居してしまって」
「あははっ、もうその科白は聞き飽きたってば。真っ暗だから気をつけて帰るんだよっ?」
「大丈夫ですよ、安全運転で帰りますから。……それじゃ」

愛機に跨る。最後に会釈してから、俺は緩慢な動きでペダルを踏み込んだ。
しばらくしてから振り向くと、鶴屋さんはまだ門前で佇んでいた。大きく手を振っている。

「ばいばーいっ! 気が向いたらいつでも寄ってきなっ!」

その純粋な厚意に、思わず心が温かくなって。
気づけば俺は、思いっきり手を振り返していた。角に差し掛かり、鶴屋さんの姿が見えなくなるまで。


人気のない道を走る。何気なく空を見上げると、
夜空よりも先に、一つの外灯が目に映り込んだ。
死際の心臓のように瞬くそれは、その比喩通り、あと数日で事切れることだろう。
ペダルを漕ぐ足に力を込める。さあ、早く帰ろう――急がないと、家族団欒の晩飯にありつけない。

378 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 20:15:13.15 ID:9EIFn/Ao

――――――――――――――――――――――――――――――

風呂から出て気分爽快、ここはビールでもグイッといって春の夜長を満喫しようと
実に親父臭い思考で冷蔵庫を開けると、棚には麦茶ボトルしか陳列されていなかった。

「シケてんなあ」

と文句を言っても麦茶が赤ワインに変質するわけではない。
ボトルの中身をコップに注ぎつつ、冷蔵庫の蹂躙者を呪う。
ビールがないことに文句はなかった。俺は未成年者で、元より家中で飲酒しようとは考えていない。
だが――ジュースや牛乳まで消えているとは一体どういうことなんだろうね。
俺が風呂上がりに飲むと知りつつそれらを欲望のままに飲み干すとは、
犯人は相当肝っ玉の据わっているヤツか、後先のことを考えていないヤツということになる。
俺は脳内データベースに問い合わせ、前科持ちの家人を検索した。
0.3秒で顔写真がピックアップされる。あどけない笑みの少女。間違いない、今回もこいつの仕業だ。

「ふんふふんふふーん♪」

と、その時だった。今し方特定したばかりの容疑者が、

「ぎゅーにゅーぎゅーにゅー飲っみたっいなー」

オリジナルソングを口ずさみつつ現れる。
無垢な視線。無邪気な笑み。
どんな大罪にも恩赦を下させるその武器は、しかし俺には通じない。
牛乳ならあるんじゃないか? 冷蔵庫を開けてみろよ。

「わぁーい……あれぇ、ないよー?」
「おかしいな。朝見たときにはあったんだが」
「あ! おもいだしたぁ。夕方、のどかわいたからぜんぶ飲んじゃったんだー。てへっ」

393 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 20:32:10.94 ID:9EIFn/Ao

悪びれた風なく頭をコツン、とやる妹。
物心ついた頃から変わらぬその仕草に頭を抱えつつ、

「俺になんか言うことないか、おまえ」
「んーと……ぎゅうにゅう買ってきて?」

コップを持つ手がプルプルと痙攣する。
こいつめ、本来なら慕うべき兄を従者か何かと勘違いしてからに。

「あのな。俺だって牛乳飲みたかったんだぞ。
 それを他の家族のことも考えないで飲み倒しやがって」
「だってぎゅうにゅう好きになったんだもーん」
「なんだって牛乳が好きになったんだ?」
「それはねー……・」

妹は人差し指を顎に当てて思案顔を作ると、

「ひみつだよっ」

きゃいきゃい叫びながら居間に駆け戻っていった。
やれやれ。兄に隠し事をするようになるとはね。
妹の思春期突入に複雑な感情を芽生えさせつつ、俺はコップの残りを飲み干した。


麦茶はやっぱり不味かった。

400 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 20:41:19.83 ID:9EIFn/Ao

鶴屋さんへの謝罪という懸案事項を解消した俺は、
現在、たまった宿題を減らそうともせずのんびりとTV観賞に勤しんでいる。
お袋は町内会だかなんだか忘れたがとにかく外出していて、家には俺と妹の二人しかいない。

ここは――

1、自由記入「     」から電話がかかってきた
2、妹に牛乳好きになった真意を尋ねるか
3、自由記入「     」についてモノローグ

>>410

410 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 20:43:58.54 ID:HNu6E220

1 長門

470 名前:修正[] 投稿日:2007/12/29(土) 21:32:02.35 ID:9EIFn/Ao

TVを見始めてから約一時間。
番組は情報発信系からバラエティへシフトしていた。
お袋が帰ってくるまで後15分もない。俺はそろそろ自室に籠もろうと立ち上がり、

Prurururu,Prurururu.....

携帯の着信音に足を留めた。メールではなく電話を使うあたり、
急用、もしくは口頭で伝えなければならない用件ということだが……こんな時間に誰だ?
ディスプレイを確認する。果たしてそこには、事件の節目に電話をくれる、親切な宇宙人の名前があった。
刹那、背筋に緊張が走り抜ける。俺は廊下に出てドア塞ぎながら、携帯を耳に当てた。

「もしもし。何かあったのか?」
「……………」

ひたすらな沈黙。
そして、待つ側にとっては無限に思えるような時間を経て、

「……相談がある」

長門は緊迫感のまるでない、平坦な声で呟いた。
張り詰めていた緊張が溶けていく。俺は心中ホッとしつつ、ちょっとからかってみることにした。

「相談って……あの相対して談話するの相談だよな?」

さて、どうでる長門?

「………今のは、冗談?」

ほう、やるじゃねえか。だが、相手に確認してちゃあまだまだだぜ。
そういうときは逆に冗談を言い返してやるのさ。いいか、次からはそうするんだぞ?

「………がんばる」

494 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 22:10:24.36 ID:9EIFn/Ao

健気な長門の返事に涙を拭いつつ、

「して、その相談とやらは何なんだ?」

話を前に進める。

「………………」

再びの沈黙も、今度は気にならない。
俺はなめていた。長門の穏和な話し口調から、
精々、俺の家に一時保管してある分厚い本の催促か、
図書館デートのお誘い(無論、両方とも前歴はない)だろうと、高を括っていたのだ。

「……朝倉涼子を復活させてもいい?」

だから次に長門が言葉を発したとき、

「は?」

俺は、喉を絞められた鶴みたいな声を上げてしまった。
朝倉を? 復活させる?
脳裏を幾つもの記憶が掠めていく。
AAランク+と評された端麗な容姿。情愛溢れる黒い瞳。
笑うと綺麗に形を変える唇。そして――夕陽に、或いは月光に煌めくナイフ。
心臓が早鐘のように脈打ち始めたのが分かる。俺は胸を押さえながら、

「い、いきなりなに言い出すんだよ。
 あいつは砂塵になって消えちまったはずだろ?」
「……情報統合思念体ならパーソナルデータの修復は可能」

532 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 22:45:54.50 ID:9EIFn/Ao

マジかよ。初耳だぞそんなの。

「……悪戯に警戒心を与えたくなかった」
「そーいうのは話しといてくれた方が良い。人間、パニック回避には前もっての覚悟が一番なんだ」

事前情報なしに登校して教室にいる朝倉を見掛けたら、それこそ卒倒する自信がある。

「それで。なんで今更になって復活させたいんだ?」

当然、俺が納得いくような理由が用意されているんだろうな。
あいつは二度も殺人未遂を重ねてる。その内一度は別世界の朝倉の所業だが、
俺にトラウマを植え付けていった点ではどちらも一緒だ。
ゴミ箱に放り込んだファイルを元に戻すみたいなノリで復活されちゃ困るね。

「………理由はある」
「じゃあ早いとこそれを教えてくれ」
「………それは………」

口籠もる長門。どうしたんだ、お前らしくもない。

「……………」
「おい」

と、俺が長すぎる沈黙に苛つき始めたときだった。

「………あなたはそれを聞いて怒らない?」

躊躇いがちな問いかけが、貴重な長門の感情発露がスピーカー越しに響く。

「怒らないって。だから早く続きを教えてくれ」

だが――俺は焦燥故に、それを軽く流してしまった。
今振り返っても思う。このときの俺は人類最低の大馬鹿野郎だった、と。

「………わたしの中に、不明なエラーが蓄積している」

807 名前:指摘により修正[] 投稿日:2007/12/30(日) 01:18:02.34 ID:3V2rkRco

エラー、だって?
長門の告白に抱いたのは、怒りとは似ても似つかぬ純粋な驚きだった。

「……そう。正確には、メモリ空間に不定期に蓄積したエラーデータが許容量に近づいている」

淡々と事実だけが述べられていく。

「発生当初、そのエラーは増大と減少を繰り返していた」
「プラスマイナスゼロにはならないのか」
「最近では均衡が崩れ増大傾向にある。許容量を超過した場合、異常状態は必至」

久々に耳にする無機質で温かみのない単語群。
俺は長門が人間ではなく、情報統合思念体によって作られたアンドロイドであることを再認しながら、

「そいつはつまり、あの冬の日と同じことをお前が起こしちまうってことか?」
「………可能性がある。だから朝倉涼子を一時的に監視役として復活させる」
「何もわざわざあいつを復活させなくても、喜緑さんがいるじゃないか」

ハルヒが能力行使をやめるようになってから、思念体は穏健派が主流になったと聞いている。
長門の個人的な申請にも喜んで力を貸してくれると思うぜ。

「既に喜緑は監視者として動いている。情報統合思念体はそれでも不十分だと判断した」

黄緑さんでもカバーしきれないって、そんなにヤバイ状態なのか。

「状況は一刻を争うものではない。多角的な監視は、異常事態の未然防止確率を高めるため」
「だからって、元急進派の朝倉を復活させる理由にはならないだろう。
 穏健派から新しいTFEIを派遣してもらうことはできないのかよ?」

無自覚の内に、どうあっても朝倉を復活させまいとしている俺だった。

863 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:04:24.99 ID:3V2rkRco

「無駄な情報操作は避けるべき。朝倉涼子なら帰国という形で潜入できる」

今現在、悠々自適な高校ライフを送っている喜緑さんは、
かなり恣意的な理由で情報操作している気がするけどな。
そんな胸中の呟きが聞こえたのか、

「………彼女の情報操作には意味がある、と思う」

長門は困ったようにそう言って、

「あなたは朝倉涼子の復活に反対?」

恐らくは今回の電話の核心であろう質問をしてきた。

「修復後の朝倉涼子から、急進派のプログラムは除去されている。
 あなたへの殺害意志はない。穏健派として、監視役の役割を果たすだけ。
 危険はない。わたしが保証する」

その畳みかける口調に、ついさっき観たテレフォンショッピングを思い出す。
俺は無感情を装いながら、

「俺が反対したところでどうにもならないのに、そんな質問意味ねぇよ。
 お前がおかしくならないのが第一優先事項だろ」
「………それは違う。あなたが了承がしなければ朝倉涼子は復活できない」
「どうしてだ」
「朝倉涼子のデータ修復には、バックアップ元であったわたしのログが必要不可欠。
 わたしは思念体と約束を交した。あなたが了承しない限り、わたしはログを呈示しない」

14 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:19:09.76 ID:3V2rkRco

スピーカー越しに届く声は少し揺れていた。
ふと、眼窩に受話器をぎゅっと握りしめている長門の姿が映し出される。

さて―――どう答えたもんかね。

復活した朝倉に危険はないらしい。つまりただの可愛い女の子だ。
人畜無害な笑みを浮かべて委員長の座に再臨し、長門のエラーが解析されるまで監視役を果たす。
だが、俺の心的外傷はそんな言葉で癒されるほど浅くない。
教室で、廊下で、帰り道で。俺はあいつと顔を合わせる度に、身震いする羽目になるだろう。
正直言ってあいつはもう、俺の中では恐怖の偶像となりつつあるのだ。
怖い。マジで怖い。そう、復活なんてどうあっても許せるコトではないのだが――
長門がわけのわからんエラーで悩んでいるのも、それと同じくらいに不愉快なコトだった。
前回の突発的異常事態に比べ、今回は事前に不明なエラーの蓄積が分かっているから良かったが、
それはあくまでも不幸中の幸いで、事態は刻々と深刻化している。
現況は喜緑さんだけでもカバーできるそうだが、監視役はやっぱ多い方がいいに決まってる。

「………あなたの気持ちを聞かせて」

長門、俺は――

1、お前に異常が起らないなら、喜んで朝倉の復活を祝ってやるさ。
2、あいつとは嫌な思い出が多すぎる。すまんが、復活は了承できない

>>27までに多かったの

15 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:19:43.57 ID:vLW5aDE0



16 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:16.19 ID:N6TtFGs0



17 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:19.34 ID:zGhSXKI0

1

18 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:20.03 ID:.I5TFd60

1

19 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:40.62 ID:PIejhsE0

1 作者乙だぜ

20 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:44.14 ID:Hls6hyAo



21 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:46.79 ID:n9MS/OU0

2

22 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:57.13 ID:Z23EqiQ0

2

23 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:21:16.03 ID:beHoCYSO

迷うが1

24 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:21:20.99 ID:n7SsDes0

2

25 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:22:25.93 ID:BZBM9.AO

1

26 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:22:50.67 ID:wmopsMDO

1で 明日も楽しみにしてるよー

27 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:23:26.16 ID:O/QGRyw0

1

126 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 21:09:28.61 ID:3V2rkRco

「………あなたの気持ちを聞かせて」

決め手はその言葉だった。
あくまで俺の心情を汲もうとする長門の優しさに、
ぐずついていた思考が冴え渡っていく。

「はっ。何くだんねーことで悩んでんだ、俺はよ」

いいか。長門がエラーに侵されてんだぞ。
あの冬の日の異常事態に似たことが起こるかもしれねぇ。
またこの世界が、別世界に書換えられちまうかもしれねぇんだ。
俺はそんなの嫌だね。俺はこのネタに満ちた世界が大好きだ。平穏な世界よりもずっとな。
そしてそれは長門も同じなんだ。何故そんなことが言えるかって?
アホか。長門が深層意識でこの世界を不快に感じていたら、エラーが蓄積していることを
情報統合思念体に告白するわけがねえんだよ。黙ってるはずなんだ。
黙りこくって、エラーが蓄積してるのを他人事みたいに分析して、そんで最後には一人勝手に暴走するはずなんだよ。
長門はこの世界を気に入ってる。分厚い本を読んで、ハルヒに時々弄られて、週末に俺と図書館に行くことに満足している。
だから自ら防止策をとった。情報統合思念体に、他TFEIによる自己監視を申請した。
思念体は喜緑さんに監視者の役割を与え、次いで朝倉を監視者にするべくデータ修復しようとした。
だが長門はストップをかけた。

何故? どうして?

答えはとってもシンプル。朝倉を畏れる肝っ玉の小さい貧弱男が一人近くにいるからさ。
本来なら第一に優先すべき思念体への修復協力よりも、長門はビビり野郎の意見を尊重した。
馬鹿な話だ。まったくもって合理的じゃない。

なあ長門。お前は本気で、俺がごねたら朝倉修復をやめるつもりだったのか?
これから先も喜緑さんのバックアップだけに頼るつもりだったのか?
もしそうならお前はとんでもねぇ愚か者だぜ。いいか、良く聞けよ?
俺はな、お前自身を犠牲にした上での優しさなんて要らねぇんだよ。
ちょっと我慢するだけで済む問題なんだろ? それなら俺は、

「喜んで朝倉の復活を祝ってやるさ。
 俺なんかにはこれっぽっちも遠慮する必要ないぜ」

143 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 21:48:38.71 ID:3V2rkRco

「……本当にあなたは後悔しない?」

意志に揺らぎがないことを示すために声量を上げて、

「後悔しない」

断言する。

「……そう。データ修復はすぐにでも可能。
 明日にはあなたの教室に朝倉涼子が転入することになる」

明日って……随分はやいんだな。
二年前の事件の時に完膚無きまでに消滅させられてたから
復活には時間がかかると予想していたんだが。

「時間はかからない。恐らくあなたの言う復活とは再構成のこと。
 今回はわたしのログを元にして、朝倉涼子を新規に作成する」

ふーん。じゃあ解りやすく言い換えると、
明日会う朝倉は二年前に削除された朝倉本人ではなく朝倉のコピーなんだな?

「そう。消去される直前までの記憶は継承している」

俺は叶わぬ願いだと知りながらも訊いた。

「どうせなら記憶なしの状態で復活できないのか?」
「できない。何故ならクラスメイト等の既知人物に対する会話に整合性がとれなくなる」

……だよ、な。
OK、この件に関しては了解したよ。
明日朝倉に再会を果たしたら、平常心を心懸けて旧知の友のように挨拶してやるさ。

181 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:41:23.20 ID:3V2rkRco

「……………重ねていう。彼女に危険はない」
「他ならぬお前の言うことなんだ。信じるさ」
「………ありがとう」

長門はそれきり言葉を返さなかった。
なんとなく通話を切らずに、明るい居間と薄暗い廊下の対比を観察する。

『ありがとう』

頻用されて意味が薄れたその言葉も、長門の唇を通すだけで本来の重みを取り戻す。
まるで魔法みたいだな――興奮が冷めた頭で、俺は映画撮影時の長門を回想していた。
時間だけが無為に消費されていく。

「……………」

そして、三点リーダが100個分並んだ頃。長門が受話器を置く気配がした。


1、「待ってくれ。無粋な質問、していいか?」
2、「……おやすみ」


>>192までに多かったの

183 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:16.02 ID:n7SsDes0

1

184 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:22.75 ID:wdGjt1ko



185 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:23.24 ID:x4hH32Y0

>>179
危うく吹く所だったぜwwwwwwwww

186 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:29.37 ID:xmmOJhUo



187 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:31.18 ID:bhbThLwo

ここは1だな

188 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:32.68 ID:BzhOWDk0



189 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:38.84 ID:5YszTbI0

1

190 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:09.93 ID:HEEVunYo

もう1でいいよ

191 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:16.18 ID:BB8afF2o



192 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:16.67 ID:x4hH32Y0

1

252 名前: ◆.91I5ELxHs[] 投稿日:2007/12/31(月) 00:19:06.67 ID:QjrV0Ogo

カチャリ。子機と本体が触れあう音がする。だが完全に通話が途絶える直前に、

「待ってくれ」

俺は長門を呼び止めていた。
人間にはあり得ない反応速度で、長門が受話器を静止させる。

「無粋だってことは分かっているんだが、質問していいか?」
「…………」

沈黙を肯定と判断して、俺は燻っていた蟠りを告げた。

「再修正プログラムは、使えないのか?」

二年前の冬の日。暴走した長門に対して用いた短針銃。
急拵えであったにも関わらず、銃から発射されたプログラムは抜群な効果をもたらしたよな。
今回はあの時と違う。お前は不明なエラーの蓄積を、情報統合思念体に告白した。
情報統合思念体が本気を出せば不明なエラーなんて一瞬で――

「それはできない」

遮った声は、まるで人工音声のように無感情だった。

「……わたしは誕生してから今までの間に莫大な経験値を獲得した。
 初期デバイスからかけ離れたわたしを、思念体が解析することは不可能」
「そう、なのか」

想像できていた答えだった。俺に考え至れたことを、長門や情報統合思念体が考案していないわけがない。

259 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/31(月) 01:06:55.53 ID:QjrV0Ogo

だが――今の言葉を鵜呑みにするなら、無視できない疑問が浮かび上がることになる。

「お前らのエラー解析の仕方は、多分どんなに根気よく説明されても理解できないだろうから訊かないけどな。
 お前の親玉にも解決できない問題を、お前は一体、どうやって解決するつもりなんだ?」
「……………」

数瞬の沈黙を経て。
スピーカー越しに、すぅ、と息を吸い込む音が聞こえ、

「もうっ、いつまでキョンくんでんわしてるのー?」

ドンドンと振動を伝えるドアに、俺は文字通り飛び上がった。
やれやれ、長電話しすぎたか。俺が時間を忘れていたことを後悔していると、妹はドア叩きによる説得を諦め、

「テレビみててもつまんないよぉ〜キョンくんいっしょじゃなきゃおもしろくない〜」

結構な声量で駄々をこねはじめた。
やがてB級ホラーの演出が子供のお遊戯に見えるくらいに、ドアノブが激しく回り始める。
と、俺が頭を抱えていたその時だった。
廊下の薄闇に光明が差す。メシアが帰還を果たしたのである。
俺はドアから背を離し、

「妹よろしく」

何事かと目を丸くしているお袋に妹を一任すると、一目散に階段を駆け上がった。
自室に立て籠もり、再びドアを背にして様子を伺う。

「……あのねー、キョンくんが女の子とず〜っとでんわしてたんだよー……」

あいつめ、あたかも俺が不純異性間交友をしているかのように吹聴しやがって。
溜息をつきつつ、携帯を耳に当て直す。しかし――

ツー、ツー……

スピーカーから流れ出るのは、無機質の極みとも言うべき電子音だった。……あぁ、無情。

269 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/31(月) 02:07:47.84 ID:QjrV0Ogo

俺は窓の外を一瞥してから、携帯をベッドに放り投げた。
今夜はもう遅いしリダイヤルはやめておいた方がいいだろう。訊く機会は幾らでもあるしな。
適当に明日の支度をしてベッドに倒れ込む。消灯してすぐには寝付けなかった。
印象深かった出来事が、スライドになって眼窩に投影されていく。
夕陽に染められたハルヒ、大人びた着物姿の鶴屋さん、不明なエラーが蓄積していると告白してきた長門。
最初距離をとっていたそれらはやがて一つに重なりはじめ――
完成形を見届ける前に、意識は眠りに落ちていた。


その夜、不思議な夢をみた。
真っ赤に染まった教室で、朝倉が微笑んでいる。
俺は訊いた。
"何故お前がここにいる?"
朝倉は答えた。
"さあ。どうしてだと思う"
俺は考える。だが、あと少しで答に辿り着くといったときに、
"ふふ、時間切れ"
朝倉が音もなく俺の前に移動していた。
腹に違和感が生じる。手を当てると、掌は夕陽よりも鮮やかな朱に染まった。痛みはない。
"ごめんね"
視線を戻すと、朝倉は微笑みながら泣いていた。
あらゆる事象が矛盾していた。俺はこれが夢であると認識した。
"これは、未来のひとつなの"
俺は耳を塞いだ。そして、夢の記憶が消えますようにと祈った。


一日目終了



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