涼宮ハルヒの選択 - Endless four days -


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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:40:23.30 ID:J4dircPH0

プロローグ


僅かな暇も与えまいとひっきりなしに飛び込んでくる非常識的出来事は
容赦なく俺の自由な時間を蹂躙し強奪し、それはもう暴虐の限りを尽くしていたのだが、
その元凶たる我がSOS団団長涼宮ハルヒは俺とは脳内構造が真逆のようで、
状況の不可思議性に1マクロの猜疑心も抱くことなく日々を愉しんでいた。
時は金なりと古人は言った。が、それは大きな間違いである。何故かって?
俺がハルヒに搾取された時間を換金したらそれこそ零が幾つあっても足りないに違いなく、
例えその金額をハルヒに提示したところで、消費分が還ってくることは未来永劫ありえないからだ。

―――――
―――――――――
――――――――――――――

なーんて長ったらしい口上を垂れていたのが、昔の俺なんだよな。
昨年の春から、俺がため息をつく機会はめっきり減っていた。
別に聖人君子の如き強靱かつ柔軟な精神力を手に入れたわけではない。
周りの環境が変化し、自然と俺の心の湖が波立たなくなっただけのこと。
宇宙人による異空間転送も、超能力者共による拉致も、未来人と時間を超えたことも、
いつも事件の渦中にいた神様が、俺を振り回していたことも……

今ではもう、遠い昔の記憶だ。
俺は至って平凡な毎日を送っている。

三年の春。俺たちは、受験期を迎えようとしていた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:42:31.33 ID:J4dircPH0

「でさー、今度街の方に新しいカフェオープンするらしいんだけど」
「宿題終わってねえんだ、見せて見せて!」
「じゃあ今日は久々に歌いにいきますか」

HRが終わり、教室が喧噪に包まれる。
俺はそれをぼうっと眺めていた。ハルヒというと授業が終わるやいなや

「ちょっと用事あるから!」

と一言残して教室を飛び出していき、その消息は未だ不明である。
ちょっとニュースのリポーターっぽく言ってみたものの、
ハルヒの失踪など日常茶飯事なので、誰の関心も引くことはできないだろうが。

「さて、と―――」

首の骨をならして立ち上がる。時間はまだ3時過ぎ。
これからどうしようか?

>>38

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:05:46.30 ID:uLe3zonzO

 

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:45:09.49 ID:J4dircPH0

空白=睡眠という解釈


寝るか。特にすることもないし。
俺は立ち上げた腰をまた椅子に沈ませて、睡眠をとることにした。
受験期に突入した男子高校生が放課後机に突っ伏して寝るのもどうかと思う。
が、昨日のお花見大会での疲れが若干残っていたようで、
俺は至極スムースに夢の世界へと誘われた。

――――――――――――――――――――――――

「……さい……きなさいってば!」

声が聞こえる。耳慣れた団長様の声。
細く細く目を開けてみれば、憮然とした表情でこちらを見下すハルヒいた。
結構怒ってるな、これは。

俺は目を

1、閉じたまま眠っているフリをした
2、開けて謝った
>>56

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 19:16:08.41 ID:ZeR9wZkz0

おちんちんMAXする

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:46:48.44 ID:J4dircPH0

と、俺がどう反応しようかと迷っていた時だった。
ドクン、と心拍が跳ね上がり、下腹部に血液が収束していく。
くそ、何故こんな時に俺の愚息は元気MAXになりやがるんだ――!!
言葉による目覚ましをあきらめたのか、俺の横ほおをぺちぺちとしてくるハルヒを意識しないようにして、
なんとか血気だった下半身を鎮めようと集中する。この時点で俺の意識は覚醒度100%な訳だが、
冷静にハルヒと向き合える自信はない。ていうかこの意味不明な状況をハルヒに悟られてみろ。
羞恥で死ぬ自信があるぜ。

「どうしたの? なんかあんた変よ?」

が、ハルヒというと俺の異変に感づき始めたようで、残された余裕はもう僅か。

「……よ、ようハルヒ」

咄嗟ににへら笑いを顔面に貼り付けて、俺は面をあげた。

「……………」

不審者を見つめるような視線。俺の心はもうずたずただが、ひとまずあの異常事態には気づかれていないようだ。

「起きたら色々文句言ってやろうと思ってたんだけどね。
 いいわ、帰りましょ。もうこんな時間だし」

ふと教室の時計を見れば針はちょうど6時を指していた。3時間も寝てたのか、俺。

「早くしないと置いてくわよ。昇降口で待ってるからね」

すぐ行く、と返して俺は帰宅準備を進めた。窓の外には、既に夜の帳が降りていた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:50:38.18 ID:J4dircPH0

――――――――――――――――――――――――――――

昇降口には、ハルヒ一人の姿しかなかった。他の部員に関して尋ねてみると
ぶっきらぼうな口調で「先に帰ったわ」とのこと。
長門と古泉が二人っきりね。美形の超能力者にめらめらと殺意が沸いたが、
ま、あいつがいくら話題を振りまいたところで長門からまともな返答をもらえるとは思い難い。
古泉の困惑した表情が目に浮かぶね。いい気味だ。
……えー、誤解なきように断っておくが、これは決して長門に対する恋愛感情故の嫉妬ではなく、
なんと比喩すればいいのか迷うが、つまり娘に対する保護精神みたいなモノと思ってもらえばいい。

「さっきからずっとブツブツ呟いてるけど、端から見てたらものすっごく気持ち悪いわよ」
「なんでもない。忘れてくれ」

そして俺と言えば、結局ハルヒと二人で下校していた。
この辺りは良い感じに外灯が少なく、道を通る車もまばらで雰囲気は満点だ。
がしかし、その雰囲気が役立つのは仲むつまじいカップルに対してだけで、
俺とハルヒにとってはまとわりつくような薄暗さでしかない。
にしても―――今日のハルヒはやけに静かだな。

「…………」
「…………」

ハルヒが一方的に喋りまくるのを、飛ぶ口角泡を躱しつつ話の内容を聞き流しつつ相づちを打ってやり過ごすのが
これまでの下校風景だった。そりゃ機嫌悪いときはぶすっと押し黙ってるハルヒだが、今朝挨拶を交わしたときから
今の今まで、ハルヒは普段通りだったはずなのだが。

ここは

1、俺から話題を振ってみる。
2、黙って歩を進める  >>67までに多かった方

65 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 19:51:13.20 ID:ipQNly280

キョンはハルヒを選ぶべき。キョンにはハルヒを幸せにする義務がある。私と言う固体もハルヒたちには幸せになってほしいと望んでいる。

と言うわけで2

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:51:23.79 ID:VVLrfLSXO



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:52:26.92 ID:Cc4X4NaQ0

1かな。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:55:40.45 ID:J4dircPH0

口を開きかけて、閉じた。沈黙を破ろうとして意気込んだのはいいが、肝心の話題が見当たらない。
尤もハルヒが興味を示すような話題を俺が提供できた試しはなく、

「どーでもいいわ。そんなこと」

と一蹴されて、現在同様、沈黙に帰結するに違いないが。
二年前の入学式当日に比べれば、ハルヒは確かに"普通"の女の子に近づいたと言える。
が、根はまだまだ世界の不思議を追い求める爆弾女。嵐の前の静けさ、というやつなんだろう。
いやはや、こうして前もってハルヒの暴発を予知できるとは、俺も随分と適応したもんだ――
と楽観的思考を並べてみたところで、それ如何に虚構じみているかは、俺が一番よく知るところなわけで。
伏せがちな目に、若干引き結ばれた唇。薄闇に浮かんだ色は、元気溌溂なハルヒのそれよりも、くすんで見えた。
その様子は、俺に二年前のハルヒの独白を連想させて、

「なあ、ハルヒ……「ねえキョン。あんたは今、楽しい?」

掛けた言葉は、ハルヒの言葉にかき消された。
今が楽しいか、だって?

「そうだな。刺激がないと感じることもあるが、俺は十分に楽しいと思ってるぜ」

正直に思ったことをいってみる。俺が鈍いことは俺自身が一番よく知ってる。
ハルヒの質問の真意を深読みする必要もないだろう。

「ふーん。そうなの、それならいいんだけど」

ハルヒは意味深な表情で、返事と言うよりは独り言を言うように呟いた。
首を傾げる俺と、また無言状態に逆行したハルヒ。結局分岐路で別れるまで、俺たちは黙ったままだった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:58:04.72 ID:J4dircPH0

見慣れた街並みを通り過ぎ。俺は安全無事に帰宅した。
飛びついてきた妹に淑女の嗜みを諭しつつ、家族との団欒的夕食を終えて、
一日の疲労を洗い落とすようにゆっくりと湯船につかり、ほくほくと湯気を上らせながら自室に籠もる。
春の晩は涼しく、熟睡には申し分のない気温である。俺は今日は早めに寝ようとベッドに潜り込み、

「キョンくーん、電話だよー」

という妹の呼びかけで、うつらうつらとした微睡みから引きずり出された。
時刻はもう丁度いい具合になっており、夜更かしをする気がないやつならベッドに潜り込む時間である。
やれやれ。少しはこっちの身のことも考えてほしいもんだ。

「もしもし――」

電話をかけてきたのは
>>75

自由記入「     」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 20:32:08.58 ID:XpZHBCRpO

佐々木

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:01:42.51 ID:J4dircPH0

「やあ、久しぶりだね。僕の推量が正しければ、君は微睡んでいた頃合いだ。
 まず睡眠の邪魔をしてしまったことで君の気分を害してしまったことを、謝罪しなければいけないね」

この俺のモノローグとタメをはれるほどに長広舌、そして一人称が「僕」でありながら、
声質は紛れもない女性のモノであるという特徴を踏まえて、相手はまず間違いなく佐々木である。

「はぁ、別に謝らなくてもいいからさ……名前くらい名乗ったらどうなんだ」

分かっていても聞いてやる。

「――相変わらず底意地が悪いなあ、君は。
 やっぱり起こしてしまったことを根に持っているのかい?」
「いいや。それで夜分遅くに何用だ?」
「いや、特に用件はないんだよ。久々に旧友の声が聞きたくなってね。昔はよくとりとめもない話をしたものだ。
 それとも何かな?君は親友の電話を無碍に切り捨て布団を被ると言うのかい?」
「分かった分かった。雑談でもなんでもしてやるよ。正直、そこまで言うほど眠くなかったしな」

教室で3時間も寝だめしていたことは内緒である。
佐々木は俺の返事を快諾と解釈したのか、「くっくっ」とうれしそうに喉を鳴らして、

「そうそう、君とはまだウッティン博士の提唱したM理論の考察について煮詰めていなかったね――」

ハルヒとはまた別ベクトルにぶっとんだ話題を持ち出して来やがった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「というわけさ。興味深い話だろう? 僕の知識欲はもうこれまでにないほどそそられてね」
「あー、俺もそう思う」

一時間後。佐々木の脳内源泉は、枯渇することをしらぬかのように話題を噴出し続けていた。いい加減、子機を持つ腕が痛くなってきたぜ。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:03:43.96 ID:J4dircPH0

しかし佐々木から電話という事態は結構レアである。
例を挙げれば長門が微笑を零すくらいに(俺の表情判別眼は二年の間に爆発的進化を遂げた)珍しい。
佐々木の話が小休止に入ったところを見計らい、俺からも何か尋ねてみることにした。

「なあ佐々木」
「うん?」


1、もう眠いからまた今度にしようぜ
2、自由記述「             」

>>84

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 21:04:03.96 ID:uLe3zonzO

 

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:06:32.37 ID:J4dircPH0

先ほどと同じく空白=睡眠という解釈で

思考が、纏らない。言葉を掻き集めようとしているのに、まるで指から抜け落ちるように
文章が完成しない。不自然に思えるほどの眠気を感じた俺は、なんとか

「おやすみ……」

と子機に投げかけてから、睡魔に屈服した。

『――おやおや――もう寝てしまうのかい?』

とぎれとぎれに、佐々木の声が聞こえる。
話し込むうちに消灯しベッドに寝ころんだ状態になっていたので、
後は切ボタンを押すだけなのだが。睡魔はもう、俺に僅かな身動ぎも許しちゃくれなかった。

『――少し無理を――せていた――だね――』

もし。もし俺があと、数秒起きていられたならば。
普段とは違う佐々木の、

『おやすみ―――キョン』

慈しむように柔らかい女性の声が、聞こえただろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日、目覚めもよかったせいで(そりゃ昨日あれだけ寝たんだから当然か)上機嫌で投稿した俺は、
いつものハイキングコースで谷口と出会った。右肩上がりだったご機嫌グラフは、現在凋落を記録している。
あー……朝から面倒なやつと出会っちまった。俺もつくづく運がない。
朝の正座占いはチェックしない俺だが、まず間違いなく俺の正座は12位だろう。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:09:28.30 ID:J4dircPH0

「ようキョン。機嫌よさそうだな。いいことでもあったのか?」

お前の目は節穴か、なーんてありきたりな科白は胸にしまっておく。

「別に朝から何もねえよ。まあ昨日はそれなりに気分は良かったけどさ」

昨夜の電話を思い出す。朝目覚めた時に脇に転がっていた子機を見て、
勝手に寝てしまったことを後悔していたが、なんとなく、佐々木は怒っていないような気がしていた。
それにしても久しぶだったな。しょっちゅうは願い下げだが、たまにならああいう交流も悪くはないと――

「うおっ! 何すんだいきなり」

後ろから羽交い締めにされる俺。犯人は言わずもがな、アホの谷口だ。谷口は俺から離れるとふふんとそっぽを向き、

「別に」

俺のもの真似をしているつもりなのだろうか。あのな、俺はそんな仏頂面してねえ。

「お前朝からのほほんとしすぎ。なんかさ、お前最近、どっか抜けてるような気がするんだよなー」
「失礼なやつだな。朝は誰でも血圧低いんだよ」

谷口の戯れ言を適当にあしらって、徒歩に専念することにする。
お前はそこでずっと俺のもの真似してるがいいさ。

「おいおい待ってくれよキョン。親友おいてくとか冗談きついって!」


今から思えば。谷口の言葉は戯言でも虚言でもなく、見事にそのときの状況を穿っていた。
誰もが気づくような、違和感。異変。異常。
ただ、その時の俺があまりに緊張感を失っていて、目を逸らしていて、気づくまいとしていただけのこと。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:12:24.34 ID:J4dircPH0

さてHR10分前というベストタイムに教室に着いた俺は、
登校中に考案したHR前の雑談用話題のどれからハルヒにぶつけてみようかと思惑を巡らせて、

「キョーンー……なんであたしのメール無視したのよ!」

用意した話題すべてが水泡と帰したのを悟った。
いやー、あの、ほら、ハルヒ。まずは冷静になろう。激昂した状態で議論なんてできるわけ――

「うるさい。ほら、ちゃんと説明しなさい。聞いたげるわ。ただし……」
「ただし……?」

獅子に睨まれたドブネズミのような心境で復唱する。

「嘘ついたら殺すわよ」

昨日の怠慢(帰宅してグダグダ→電話→即就寝)がこんなところで俺の精神をすり減らすことになるとはね。
流石に丸半日メールを無視されたらハルヒも怒るよな。おそらく、いや間違いなく俺の携帯のメールボックスは
20件分ほどハルヒの未開封メールで占拠されているに違いない。
ここは――

1、いいわけする(高度な)
2、いいわけする(低レベルな)
3、正直に昨夜のことを話す
>>110までまでに一番多かったのを取る

104 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:48:44.96 ID:ipQNly280

懸命だな。
では、キョンらしく1で。・・・いや、3かな?

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:49:18.81 ID:hN8nwEG8O

3

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:49:38.78 ID:PThGRXRjO



執筆スピード早すぎるだろ常考

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:50:57.94 ID:fX61220j0

3かな
キョンなら素直に話すんじゃないだろうか

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:51:20.32 ID:iMAbem8ZO

1

109 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:52:14.09 ID:ipQNly280

うかつにぺらぺら話してハルヒの機嫌を損ねるのがキョンと言う生き物だ。

・・・が、嘘をつくよりはダメージは軽減されるだろうな。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:53:06.09 ID:ShWwqgNqO

3

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:13:15.01 ID:J4dircPH0

下手に嘘をつくのはよくない。昔の偉い人は言いました。
一度嘘をつけば、その嘘がばれないようにするために嘘を重ねなくてはならないと。
ま、そんな一般論はともかく、教室の張り詰めた空気は刻一刻と息苦しくなっているし、

『さっさと宥めろよキョン』
『早くしないと涼宮さん切れちゃうじゃない』

クラスメイトからの無言の圧力に俺は圧死寸前だ。言い訳を考えている時間なんて一秒もない。
俺はありのままの事実を述べることにした。哀しいかな、これがSOS団平団員の使命なのである。

「――――というわけだ。ま、昨日は忙しかったんだよ」

ハルヒはしばらく俺の話に静かに耳を傾けていたが、「佐々木」の名前が出た辺りから
ゆっくりと表情をゆがませはじめ、終には怒気全開の微笑というなんとも複雑な表情を浮かべてこうのたまった。

「あ、あらそうだったの。それじゃ、し、仕方ないわよね。
 何しろ大事な親友佐々木さんからの電話だもんね」
「ハルヒ……無粋な質問かもしれないが、一応聞いておく。怒ってるか?」

数瞬の間。

「……あたしが怒ってると思う?」
「いいえ思いません」

俺は機械仕掛けの人形のように体を前方方向にロールさせることを余儀なくされて、
結局HR前の雑談は叶わず、いそいそと授業に備えることにした。

午前の授業中、ずっと背中にシャープペンシル突きが浴びせかけられていたことは、言うまでもないだろう。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:15:48.02 ID:J4dircPH0

滞りなくHRが終了し、放課後が訪れる。
今日も授業は早めに終わり、まだ時間は3時を少し回ったくらいだ。
受験生ってのはいいね。勿論のこと、俺にこの放課後を勉強に回す気は毛頭もないんだが。

「昨日はあたしがいないからさぼったみたいだけど、今日はそうはいかないわよ」
「分かってるって。あ、ちょっとばかし片すから、時間かかるかもしれん。先に行っててもいいぞ」
「その手には乗らないわよ。見張っとくわ」

俺の信用も奈落に落ちたか。まあいい。
見つめられているというのは落ち着かないが、朝の分も何か話してみよう


1、なんで昨日元気なかったんだ?
2、朝のこと、ほんとに怒ってないのか?
3、昨日の終業前、教室抜け出して何処行ってたんだよ?
>>125までに多かった方

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:18:30.37 ID:iMAbem8ZO

3

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:19:29.73 ID:fX61220j0

どれも興味深い3択だな
しかし話の流れ的には3が一番だろう

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:26.84 ID:r8swOcWJ0

4 ここでいきなりフラグブレイカー鶴屋さん登場 

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:38.51 ID:qvhkx5OOO

ここは1で

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:46.54 ID:shgFtu60O

3!3!

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:47.33 ID:iY/MTkxC0

まさかココまで伸びるとは

1

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:17:31.89 ID:J4dircPH0

「昨日の終業前、教室抜け出して何処行ってたんだよ?」

胸の中で燻っていた疑問を、片手間に聞いてみる。昨日の授業終了前。
だん、と大きく椅子を引いて、毅然とした態度で教室を抜け出していったハルヒは、
何かに突き動かされているような感じだった。

「ああ、あれねー……」

ハルヒは逡巡するように語尾を伸ばしてから、

「大したことじゃないわよ」

抑揚のない、静謐の声で"あんたとは関係ない"と言った。
それはまるで、ハルヒではない、別人が話しているような酷薄さで。

「ハル………ヒ………?」

鞄をのぞき込んでいた顔を上げる。
俺の視界で、こちらの作業を逐一観察している少女は――やはり、ハルヒだった。
同時にがやがやとした喧噪が、今更のように耳朶を震わせる。

「もう、何時までかかってんのよ。古泉くんと有希、きっともう待ってるわよ?」
「悪い悪い。今終わった」

連れだって文芸部室に向かう。横には昨日の静けさが嘘のように明るいハルヒがいて。
俺の中に生まれた懐疑は、自然となりを潜めた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:20:29.87 ID:J4dircPH0

申し訳程度にノックして、

「入るわよー」

恒例の爆発音と共に、ハルヒが文芸部室のドアを蹴り開けるハルヒ。
よもや文芸部室のドアは木製なんかではなく、オリハルコンかそれに準ずる未知の金属物で
できているのではないかと首を捻っていた俺に、湯飲みが差し出された。

「……どうぞ」

清冽な水を連想させる、透き通った声。ありがとな、長門。

「かまわない」

朝比奈さんが卒業してからというものの、SOS団部室のメイドは、専ら長門に一任されていた。
あのメイド服などの衣装は現在大切に保管されており、残念ながら長門は制服のままである。
ま、長門にはメイド服よりも、もっと似合う衣装があるからいいんだけどさ。
ちなみにときたま古泉がお茶煎れを担当しているが、俺はその度に「今日は来なければ良かった」と後悔に苛まれている。
閑話休題。

「昨日は無断欠勤。今日は重役出勤ですか」
「うるせえ。こっちもいろいろあるんだよ」

右手で口元を押さえつつ左手に指導書を持ち、眼下に広がる盤面を睥睨する古泉が話しかけてきた。
このままじゃ将棋につきあわされて一日が終わるのは目に見えている。
俺は――
>>150 自由記述「        」 

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 23:09:44.49 ID:ZeR9wZkz0

チン毛MAXもっさりビューティー、
股間にアジエンス使ってんだぜwwwセレブっしょwww

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:24:04.40 ID:J4dircPH0

古泉に勝負を申し込まれるのを覚悟しつつ、詰め将棋の行く末を見守ることにした。
本来なら今日課題として出されたレポートを仕上げるなり、本棚から本を拝借して読書に勤しむ方が
余程建設的なのだが、まあぼんやりとしている時間も長い人生に於いて大切な事だ、と勝手に理由づけてみる。

「ふむ……これは興味深い」

呻吟している。あのデフォルトが余裕綽々の古泉が、片手の本を凝視しながら呻いている。
興味深いとな? 回答の差し手が見事すぎるということだろうか。

「僕も一度はこういう体験をしてみたいものです」

独り言は続く。たまりかねた俺は、慎重に席を立って古泉の後ろに回り込んだ。
古泉は魅入っているのか、こちらに気づいたそぶりは見せない。
何だ。何が古泉を感嘆させている?

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:25:42.12 ID:J4dircPH0

「――――――!!!」

驚きのあまりに、呼吸ができない。
まず一目で分かったのが、古泉が手にしているのが将棋の指導書でも何でもなく、週刊誌系の薄っぺらい雑誌ということだった。
だが、俺の驚愕は見開きのページに掲載された写真に集約される。
もしゃもしゃの縮れ毛が、これでもかと言うほどに泡立ち白泡の固まりと化していた。
横には「巷で噂のアジ○ンス! 高級感溢れるコイツで、毎日洗ってセレブ気分だぜ!」という文字がデカデカと踊っている。

「これは……間違いなくチン毛MAXもっさりビューティー……しかもアジエンスで丸洗い……セレブ…すぎる……」

言い表しようのない虚脱感が俺を包んでいた。
古泉がこんなものを読んでいること以上に、この発想にたどり着けなかった自身への失望が――

「いやぁ、アフロをアジエ○スで丸洗い。いいですね。あなたも読んでみますか?
 これは僕が定期購読している髪型専門誌なんですが、今月はアフロ特集でして」 

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:27:10.37 ID:J4dircPH0

所定位置のパイプ椅子に戻り、お茶を一口飲んで古泉と真正面から向き合い

「誰にでも間違いはあるよな」
「ええ、人間誰しも、早とちりしてしまうことは多々あると僕は思っていますが」
「ありがとう、お前はとてもいいやつだ」

共通認識に達したところで、落ち着きを取り戻した。

さて、

1、もうそろそろ部活が終わる時間だ
2、誰かに話しかけよう 名前自由記入(ただし部室内にいる人間のみ)  >>181

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:08:40.81 ID:PVhY/F4e0

ハルヒ

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:28:56.44 ID:J4dircPH0

落ち着いたところで、部室全体を軽く見渡している。
長門はメイド仕事を淡々とこなした後定位置に座って本の虫になっていて、
ハルヒはカタカタと軽快にタイピング音を響かせていた。
何時も通り。朝比奈さんが欠けたこと以外は、一年前と変わらない平和な光景がある。

ハルヒは佐々木たちとの一騒動の後、めっきり閉鎖空間を発生させなくなった。
涼宮ハルヒの精神分析医と自負する古泉医師から詳細は聞かされていないので、
直接的な理由は俺の知るところではない。
だが、閉鎖空間が発生しなくなったことは事実で、古泉がそれに駆り出されることがなくなったのも、また事実。
騒動から一ヶ月した辺りに、古泉がぽつりと

『いざ閉鎖空間が発生しなくなると、寂しいものですね。
 3年前は、毎日のように鳴り響く携帯が煩わしくて仕方がなかったのに』

と漏らしていたが、本心は現状に安堵しているはずだ。
そして、衝突後硬直状態にあった天蓋領域と情報統合思念体も今では調停らしきものを結んだらしく(長門談)
長門は涼宮ハルヒの観察役として、俺たちと時間を共にしている。
あれから、半年近くが過ぎた。未来的宇宙的超能力的出来事が、一つも起こらないままに――

だが、依然ハルヒが神様的能力を保持していることに変わりはない。
ただ行使していないだけ。でも「行使しないこと」がどれだけ難しいかは、一番近くにいた俺が、一番よく知っている。
その精神的な成長は、素直に褒めてやるべきだろう。

「さっきからずっとディスプレイ眺めて、何してるんだ?」
「ふふー、秘密よ、ひ、み、つ。完成したら見せてあげるけど今はダメ」

後ろからのぞき込んだ俺に、悪戯っぽく舌を出して画面を覆うハルヒ。
ま、大方HPのリニューアルだろうし、ここは一つ、先達としてアドバイスでもしてやるとするか。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:32:44.13 ID:J4dircPH0

ハルヒが犯していそうな単純ミスを、思いつく限り列挙していく。
勿論それは俺が一度突き当たった問題であって、俺にホームページ作成の才能があるわけではない。

「な、何バカなこといってんのよ。
 あたしがそんなミスするわけないじゃない。
 あたしのプログラムは完璧よ――あ」

ふっ。勢いに乗って喋りすぎたな。ともあれ、これでハルヒがHPを弄っていることは明白になった。

「見せてみろ。俺が荒直ししてやるから」

しぶしぶといった風にキーボードを明け渡すハルヒに、変にいじったりしないと約束して、
俺はソースコードの修正を開始した。一つ、二つ――ん、結構あるな。
肩に顎を乗せているハルヒに、間違っている部分について丁寧に説明してやる。

「おいおい、スペル間違ってるじゃねえか」
「煩いわね! これでも頑張ったんだから」

結局、最後まで修正してやることになってしまった。

「ふぅ、こんなもんか。後はハルヒがやるんだぞ」
「分かってるわよ。ほんとは全部一人でやるつもりだったんだから」

だがしかし。ハルヒに教え事をするのも悪くはない。
万能のこいつにちょっとした優越感を味わえる上に、

「でも………ありがと」

滅多に聞くことのできない、お礼を賜ることができるのだ。
報酬なんてそれで十分さ。教授した疲れも妥当だと言えよう。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:35:36.50 ID:J4dircPH0

パタンという音が響く。長門が小さな手に似合わぬハードカバーを携えて、

「……下校の時間」

抑揚のない、しかしよく通る声で下校宣言をした。
長門の口数は、日に日に、目に見えないような遅々とした速度ではあるものの、
確実に増えている。この下校宣言も、その成果と言えるだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、さよならですね」

「………また明日」

分岐路にさしかかるごとに、一緒に歩いていた影が減っていく。

「じゃねー。寄り道しないで帰りなさいよー」

お前は俺のお袋か。
じゃあな、と右手を軽く振ってやる。
暗褐色の夕陽を背に、ハルヒの後姿が小さくなっていく。

トントン

その時だった。肩の振動に振り返れば、そこには

1、別れたはずの古泉がたっていた 2、橘京子がたっていた
>>200までに多かった方

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:59:32.39 ID:DVpbTWFw0



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 00:59:49.99 ID:mteKImFg0

古泉

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:00:18.62 ID:+XO7UC290

古泉

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:00:27.50 ID:DL3rKH250

1で。 鶴屋さんでないの?

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:01:02.81 ID:eeE3VnsXO



なんで安価小説でこんなにクォリティ高いんだw

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:38:30.13 ID:J4dircPH0

ついさっき別れたはずの古泉が、当たり前のように佇んでいた。

「うわっ、なんでお前がここにいるんだよ!」

飛び退く俺と、悪びれた風もなくニコリとする古泉。

「驚かせてしまってすみません。どうしてもあなたと二人で話がしたかったものですから」

斜陽でくっきりと浮かび上がる、シャープな顔立ちとスラリとした体躯。それに芝居がかった口調も加えると、
古泉はまるで俳優のようだ。その実態は、本人に無断で一般市民をストーキングする変態野郎なんだが。

「電話じゃ駄目だったのか。文明の利器は利用しなくちゃ意味がないんだぜ」
「いえ、直接でないと意味がないのです。何しろ、彼女に関係することですから」

一瞬だけ。古泉の能面から、アルカイックスマイルが剥がれた気がした。俺は緩んでいた気を若干引き締めて、

「ふうん、ハルヒ絡みね。久しぶりじゃねえか。もう半年になるのか?」
「ええ、そうですね。勿論水面下では例の一件の事後処理が成されていましたが、
 彼女と、それを取り巻く人間、つまり私たちが共通の問題に直面するのは、約半年ぶりといえます」
「立ち話もなんだし、場所、移さないか」
「近くに行きつけの喫茶店があります。静かで密談には最適かと」

古泉に案内されるがままに、とっぷりと日の暮れた街並みを歩いていく。
悠々と歩を進める背中を追いながら、俺は古泉の言葉に、どうしようもない不安を抱いていることを自覚していた。
どうしてだ? 半年前から何も変わらず、安寧を保ち続けた俺たちが、何故?
SOS団の誰もが、充足した毎日を送っていると信じていた。それをとりまく環境も、人々も、変わらなかったのに、どうして―――

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:41:43.55 ID:J4dircPH0

注文したコーヒーが運ばれてくるまで、古泉は本題については緘黙したままだった。
微笑を浮かべたまま、取り留めもない話(それでも谷口トークよりは数倍マシだ)を投げかけてくる。
喫茶店に付くまでの足取りからするに、切羽詰まった状況でないことは理解していたが――悠長すぎないか、おまえ。

「いえ、決して現況を楽観視しているわけではありませんよ。
 事がまだ、急を要する段階ではないだけのこと。それと、恐らく勘違いしているようですから断っておきますが、
 今回お話がしたかったのは、我々機関の不手際故の事後処理についてではありません」

ハルヒに関する話題において古泉は嘘をつかない。虚飾もしない。
だから、俺はその言葉を聞いて僅かながらに安堵した。それを悟られないようにして、本題に入る。

「それで……俺たちが半年ぶりに直面した問題ってのはどういった類のものなんだ?」
 少なくとも俺には、あいつとの関係に罅を入れた憶えは微塵もないぜ」

俺が早口になっているのは、分かっていた。
しかしそんな俺とは対照的に、古泉は上品な仕草でコーヒーに口を付けてから

「落ち着いてください。まずは僕の話を聞いていただきましょうか。閉鎖空間の発生原理を、あなたは憶えていますか?」

愚問だな。忘れてる方がどうかしてる。
ハルヒの機嫌が悪くなったとき、自分の思い通りに行かなくなったときに閉鎖空間は発生する。

「ご名答です。では、昨年の春の一件の後、閉鎖空間の発生率が零に等しくなったのは何故でしょう?」
「それは……あいつが精神的に成長したからじゃないのか」

この世の中のつまらなさを理解した上で、そこに小さな愉しみを見つける。
そんな"当たり前"のことを、ハルヒがようやく受け入れたからじゃなかったのか。
古泉は過去を反芻するかのように、目を細める。

「ええ、そう考えるのが合理的です。機関の見解も同じでしたよ。閉鎖空間の修正作用が発見されるまでは、ね」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:44:57.49 ID:J4dircPH0

修正、作用……? 新出単語に戸惑う俺。数学に比べりゃ現国の成績は良かったんだがな。

「破壊されることだけを目的とした閉鎖空間が、何を修正するっていうんだ」
「誤謬がありましたね。修正、というよりは瞬間的な自己消滅と言った方が適切でしょうか。
 彼女は閉鎖空間を発生させているわけじゃない。
 発生しようとしている閉鎖空間を押しとどめているのです。勿論のこと、識域下でですが」

閉鎖空間は発生する前に封じ込められている。だから表面上はハルヒの精神は安定している。そういうことか?

「ええ」

古泉はコーヒーに視線を落としたまま、あっさりと同意した。
そう簡単に頷いてもらっても困るね。お前の言っていることが正しければ、

「ハルヒは毎日を楽しく思っていない、という結論に至るんだが」

ハルヒが毎日に我慢していたとは思えなかった。
周囲への物腰が柔らかくなったことと、行動に冷静さが伴うようになったこと以外は、出会ったときから何も変わっちゃいない。
100Wの笑顔も健在だしな。

「それは極論ですよ。落ち着いてください。
 閉鎖空間の発生規模は4年前に比べれば月と太陽ほどの違いがありますし、
 彼女が"叶うはずのない"欲望――宇宙人と邂逅を果たしたいなど――を抑圧するのに、ストレスは付随していません」
「なら、どうして閉鎖空間が瞬間的に消滅するとはいえ発生するんだよ」

間髪入れず質問を返した俺に、古泉は苦笑しつつ

「それが分からないからこそ、あなたにお話を伺いたかったのです」

……ははあ、そういう訳か。二年前から相変わらずのその問題丸投げ姿勢には、呆れを通り越して感服するね。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:46:35.62 ID:J4dircPH0

「まあまあそう仰らずに。彼女と心理的な距離が一番近いのはあなたです。
 あなたの視点から見て、何か気づいたことがあれば教えていただきたいのですが」

俺は数刻前の古泉と同様、グラスに視線を落とした。
どうやら無意識の内に飲み干していたようで、溶けかけの氷が積み上がっている。

ハルヒについて心当たり、か。

そういや―――

1、今朝はメールのことでこってり絞られたっけ
2、昨夜の帰り道で、「今が楽しい?」なんて聞かれたな
3、別に心当たりはないな

>>298までに多かったので

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:45:12.01 ID:5lIYIJ/t0

>>293
2

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:46:17.16 ID:XHwaLHLd0

1

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:47:31.88 ID:eeE3VnsXO

ここは2だろ

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 16:50:10.65 ID:+XO7UC290



298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 16:50:28.85 ID:WLxbJ9UG0

まあ2だな

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:48:52.64 ID:J4dircPH0

「昨日の夜、あいつと一緒に帰ったときのことなんだが……」

俺は心に小さく巣くっていた疑問を、打ち明けてみることにした。
やけに元気がなかったハルヒ。妙に居心地が悪くなって、声を掛けようとしたときに、
「今が楽しい?」なんて抽象的な質問をされたんだっけ。

「それで―――あなたはどう答えたのです?」

ふと視線を上げた先。古泉はいつになく真剣な面持ちで、話の続きに耳を傾けていた。
こんなに眼光が鋭い古泉を見るのは久方ぶりだ。
昨夜の会話には、何か重要な意味が込められていたのかもしれない。

「嘘偽りなく答えたよ。
 刺激がちょっと足りないと思うことはあるが楽しいと……って、どうしたんだよ古泉」

蒼い眼光が一層強くなる。それは長門の視線のように無感情で、その実俺を咎めていた。
しかし瞬きした直後にはいつもの細目に戻っており、表情から、ましてや視線からなど、微々たる負の感情もくみ取れない。
古泉はそれからしばし沈思黙考した後、

「それでは――二つ目にして最後の質問です。あなたにとって、彼女とはなんですか?」

シリアスな雰囲気を一転させる、とんでもない質問をしてきやがった。コーヒーを飲み干しておいて良かったぜ。
もし口に含んでいたら、古泉のビューティフェイスがコーヒー塗れになっていただろうからな。

「き、急にそんなこと聞かれても返答に困る」

どもる俺。我ながら情けないほどの耐性のなさだ。
だが勝手に焦っている俺をよそに、古泉は大真面目な顔で復唱した。

「あなたにとって彼女は、神ですか。友人ですか。それとも―――特別な存在ですか」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:50:36.75 ID:J4dircPH0

俺はあいつとの距離を測ることを、無意識の内に避けていた。
世界を思うがままに書き換えられる、神の如き力を持った少女。
俺はそいつと出会ってからというものの、今の今までずっと共に毎日を過ごしてきた。
それは何故だ。神のご機嫌をとらなければ世界が破綻するから?
済し崩し的に友人関係という既成事実が完成したから?
それとも―――備わった能力なんて関係なく、俺にとって掛け替えのない、大切な存在だから?

カラン。小気味よい音とともに、グラスの氷が瓦解する。

「古泉、俺は――――」

1、あいつは神で、俺はただ、そいつに近くにいることを許された凡人だと思ってる。
2、最初は鬱陶しかったが、今じゃ俺を愉しませてくれる良い友人だよ
3、俺はいつのまにか、あいつなしじゃ毎日を楽しめなくなっちまった。だから、掛け替えのない、大切な存在だ。


※ルート分岐  ハルヒルート(まあこれが一番ノーマル)or他の人
>>324 までに多かったので決めます

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:44:00.70 ID:eeE3VnsXO



なんかマジでノベルゲーやってるみたいだ

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:52:17.18 ID:P5irAd6D0

今追いついた

ここは3だろ

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:52:27.28 ID:S9yL8A9z0



308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 17:53:15.24 ID:oKXfilSj0

3!なんといっても3!

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 17:57:20.31 ID:HTqoqBiEO

お前らハルヒ好きだな〜


3

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:57:25.95 ID:5lIYIJ/t0

最初はヒロイン攻略でしょ
ってことで3

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:58:03.83 ID:XHwaLHLd0

2だと思った俺はもう駄目かもしれない

だけど、僕は空気を読めなくてもいいんだ!!

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:59:47.45 ID:L3S5RWlP0

3

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:04:03.81 ID:4a/tHXrN0

3だな

314 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:06:31.57 ID:OwF4xvah0

ソロモンよ!私は帰ってきた!!!
愛と勇気だけが友達さ!!

ポニーテール仮面ただいま帰還!!!

315 名前:―愛に囚われし愚者―ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:09:07.91 ID:OwF4xvah0

とりあえず、ハルヒの幸せを願って3

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:17:14.66 ID:/YKtWrRnO



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:17:30.58 ID:RVGM/Grf0

圧倒多数によりハルヒルート決定
まあ最初はメインヒロイン攻略だよな


飯食ってくる 7時くらいに戻ってくるぜ

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:18:12.06 ID:uBdPH21WO



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:18:28.62 ID:OG9K5x6JO

これはこのスレじゃ完結しないんじゃね?
全然いいけど
3!

320 名前:―愛に飢えた野獣―ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:19:56.15 ID:OwF4xvah0

7時・・・今は6時20分・・・

それまで保守だな

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:20:27.08 ID:anDbLizxO

何?まだこのスレ残って……

3でしょ

322 名前:311[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:22:18.68 ID:XHwaLHLd0

待ってくれ俺をそんな冷たい目で見つめないでくれ!!
俺はこう・・・あんまり直接的に言うとガチホモ嫉妬ルートかと・・・

保守

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:27:47.26 ID:WLxbJ9UG0

良かった皆3で
3だよ3!!

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:28:21.34 ID:UnSgCWK00

だれかこのスレ落ちても保管しといて

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:54:48.42 ID:J4dircPH0

「古泉、俺はさ――――」

第一印象は最悪だった。SOS団なんて珍妙な組織に引っ張り込まれ時なんか、
どれだけHR前に話しかけたことを後悔したか知れない。

「いつのまにか――――」

だが、悔悟心は消えていった。SOS団には俺が子供の時に夢見ていた幻想が、現実化していた。
超能力者、未来人、宇宙人、ひいては神様にまで振り回されて。
いやいや引きずられていたはずの俺は、いつしか、自らの意志で関わりを持つようになった。

「いや、ほんとにいつのまにこんな風になっちまったのかわかんねーんだけど―――」

中庸平凡といった言葉が似合う俺を、こっち側に無理矢理引き込んだのはあいつだ。
でも、俺にフツーに暮らすよりもずっと充実した日々を贈ってくれているのもあいつだ。
認めるのは悔しいが、

「あいつなしじゃ毎日が楽しくないんだよ――――」

だがしかし。俺を飽きさせぬ摩訶不思議体験はハルヒの神様パワーだとしても、
そのパワーの持ち主に対する気持ちは掛け値なしの、純粋な気持ちなわけで……まあ、要するに

「俺にとってあいつは、孤高の神様でもただの友人でもない、特別な存在なんだ」

……いっちまった。こんな芝居じみた科白は古泉の専売特許だってのに。
古泉は俺の答えを聞いてからは黙ったままで、なにやら考え事をしている様子。
俺はといえばあんなことを口走ってしまった後悔の念でいっぱいで、
もうまもなく脳内で、脳内人格による"大反省会"が開かれようとしていた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 14:57:56.10 ID:J4dircPH0

「ふふ……どうやら僕は、あなたを見くびりすぎていたようですね」

しかし議長が議員のカウントを始めたところで、反省会は頓挫する。

「あなたの意志は十分に伝わりました。これで僕も、あなたにヒントをあげることができます」

瞑目から覚めた古泉は、意味ありげな笑みと共に、そう宣った。……ヒント?

「ええ、涼宮さんを葛藤から救い出すためのヒントです」

ここで俺は、ある矛盾が生じることに気づいた。ちょっと待て。
出題する側は答えが分かっていなきゃ、ヒントなんて余裕かます以前に出題できないはずだ。

「答えならとっくに分かっていますよ。
 客観的な視点とは、主観者よりも多彩な推論が立てられるのです。
 先ほどの質疑応答で、僕は抱いていた仮説に、確かな確証を持ちました」
「ほう。ならご託はいい。さっさと解決方法を言え」

俺なりに精一杯強面をつくって、超能力野郎を脅迫する。だがそれは軽くそれを受け流し、

「あなたが自発的に理解しない限り、意味はありません。それは僕の強制になってしまう」
「時間的な余裕はあるとしても、だ。もし俺が何時までたっても気づけなかったらどうするつもりなんだよ」

お馴染みのポーズをとったまま、古泉は続ける。

「その心配はありえませんね。彼女の生成された瞬間消滅する閉鎖空間は、
 機関の戦闘員が侵入するのがやっとなくらい矮小なものです。放置しても、現界にはなんら影響はありません」
「……騙してたのかよ。一人で焦ってた俺は、なんだったんだ?」
「おや、僕は一言もタイムリミットがあるとは言っていませんが。
 それに――彼女の中に蟠りがあると知った今、あなたにそんな縛りは意味がないのではありませんか?」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:00:03.57 ID:J4dircPH0

「ぐ……」

痛いところをついてきやがる。だが、先ほど「ハルヒは俺にとって大切な存在だー」と豪語した俺に、
上手い返しは見あたらない。

「じゃあヒントでいい。教えてくれ」
「まあヒントというわけでもありませんが。
 彼女の行動の一つ一つに、目を向けてあげて下さい」
「は……?」

あまりに大雑把なヒントに、拍子抜けする。

「そして、あなたと出会った当初の彼女と、どう変わったのか。それをもう一度再確認してみてください」
「そんな適当なことでいいのか」
「ええ、構いません。十分です」

………。それきり喋ろうとせずにこちらをニコニコと見つめる古泉に、俺は1分間だけ付き合って、

「あー、俺、帰るわ」

コーヒー代を置いて席を立った。不完全燃焼感が拭えないが、もう話すことは何も残っていない。
もし俺が佐々木なら、知的トークで深夜まで盛り上がれるんだろうけどな。

「じゃあな」

新しいコーヒーを注文した古泉を捨て置いて喫茶店を後にする。春先だというのに、夜風は秋風のように冷ややかだ。
ふと空を見上げれば。菫色に染まった空に、不定期に瞬く、寂しげな外灯があった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:07:16.70 ID:J4dircPH0

――――――――――――――――――――――

「ふぅ」

二杯目のモカを一口。長広舌の所為で乾燥した口内が、温かい味で満たされていく。
美味しい。素直にそう思える味だ。それでも昨年卒業した、朝比奈さんのそれには遠く及ばないが。

必要なファクターは既に出揃っていた。
後は、そう――不器用な彼女と、鈍感な彼が如何に誤解なく歩み寄れるか。
相互理解さえしてしまえば、後は済し崩し的に事は進む。僕の補助は無用になる。
これでもう、表面的に僕ができるのは静観だけとなった。
例えイレギュラー因子が登場したとしても、僕に手出しをする資格はない。
まあ……彼は自分の気持ちには正直な人だから、この想定こそが無意味なのだろうけど。

カラン。残ったモカは四分の一ほど。

もし彼が彼女の蟠りを重要視していなければ、僕はどういった反応を返していたのだろう。
明確な答えを貰った今となっては、仮定が難しい。
けど、一つだけ自信を持って言えることがある。例え返事が快いものでなかったとしても。
―――僕はSOS団の一員として、彼らの仲を取り持つよう努力したのではないかと思う。

摩擦することのないすれ違いを傍観するのは、あまりにも辛すぎるから。

――――――――――――――――――――――――――――――

遅くなったことに関して、家族の反応は様々だ。
「連絡しなさいよ」と小言を漏らす親。俺が帰ってきたことにも気付かずに爆睡しているシャミセン。
そして最愛の妹はというと――

「ただい「キョンくんおかえりー! ずっと待ってたんだよー!!」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:14:02.90 ID:J4dircPH0

なあ妹よ。俺はときどき、お前が何歳か分からなくなる。

さて。俺は風呂に入ったあと、居間でTVを鑑賞している。
だがどれもこれもつまらない番組ばかりで、チャンネルが定まらない。
ここは――

1、メールのチェックでもするか。昨日はそれを怠って災難にあったわけだし。
2、古泉の話について俺なりに考えてみよう。
3、久々に妹と遊んでやるか。
>>352までに多かったの

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:37:54.29 ID:+Nu3vrWmO



351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:38:04.28 ID:eeE3VnsXO

文才があふれてますね



352 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:38:21.49 ID:OwF4xvah0

3もいいかもしれんがここはあえて2で。
…う〜む一番書きにくそうだな。ごめんよID:RVGM/Grf0さん。

古泉の話を、もう一度俺なりに整理してみよう。
ハルヒは昨年の春の一件の後、閉鎖空間を発生させなくなった。
俺はそれを、ハルヒの外面的印象から、精神的に成長したのだと決めつけていた。
だが、それは俺に都合がいいだけの、なんとも勝手な解釈だった。
閉鎖空間は発生していた。だが、瞬間的に抑圧されて消滅し、機関の観測員に発見されずにいたのだ。
この特殊な閉鎖空間(以後、便宜上「特殊閉鎖空間」と呼ぶ)を機関が認知していなかった理由は、もう一つある。
それは特殊閉鎖空間の規模が、あまりに矮小であったこと。4年前の最盛期と比べると、それはとてもとても小さなものらしい。
偶発的にでも発見されたのは、奇跡的なことだったということだ。
が、発見されたところで、機関のお偉いさんにはその発生原因が突き止められなかった。古泉は俺に助力を求めた。
その結果。古泉は特殊閉鎖空間のタネが分かったらしいが、質問された俺はといえば、さっぱりである。
古泉はハルヒの動向に目をむけろと言っていた。過去のハルヒとの違いが、答えにつながるらしいが――
まったく、古泉も具体性に欠けるヒントをくれたものである。
ちなみにこの事態の解決にタイムリミットはない。
特殊閉鎖空間が拡大する蓋然性は無に等しく、放置していても現界に影響はないからである。
要するに。ハルヒの蟠りを解消するか放置するかの判断は俺に一任されている、ということになる。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:19:56.42 ID:J4dircPH0

「キョーンーくんっ!」

と、俺が思考に耽っていたときのことだった。油断していた俺はその掛け声に気づき遅れ、

「ぶへぇあ」

見事にボディプレスが脇腹に決まり、情けないうめき声を上げる俺。
早速マウントポジションをとった妹が、小悪魔的冷笑を口端に浮かべる。怖い。怖いよMy sister。
妹の愛らしい手は近場にあった小型の直方体をつかむと、一気に俺の顔面に振り下ろし、

「はい。携帯ふるえてるよー。キョンくんってば、ぼーっとしすぎ」

携帯を胸に落として去っていった。兄からの忠告だ。
ワンピース型のパジャマでマウントポジションはやめたほうがいいぜ。その、色々と問題がある。

「えーなんでー? あ、眠いからねるね。おやすみー」
「ああ、おやすみ」

妹に夜の挨拶を返して、携帯のディスプレイに目を向ける。新着メール一件、か。

誰だろう。俺は携帯を持ちながらもメールを多用する人種ではないので、
こちらから発信しない分、発信されることもないという結構寂しいメールライフを送っている。
例外はいるものの、あいつを除けば暇つぶしにメールを送ってくるような暇人はいない。
いるとすれば、歴とした用件を携えているやつだけだ。
片手でボタンを操作して、俺はメールボックスを開けた。

送信者の名前は――

>>375 自由記入「      」

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 21:18:35.64 ID:13Aa5Xu60

ハルヒ

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:22:50.16 ID:J4dircPH0

「ハルヒ……」

送信者の名前が、ぼう、とディスプレイに表示される。
一覧を見る限り、本日のハルヒからのメールはこれが初めてのようだ。
俺は今頃夢の世界をはね回っているであろう妹に、心中で謝辞を述べた。
さんきゅ、お前のおかげで早期発見することができたぜ。

4/24
from:ハルヒ
subject:
今起きてる?
起きてたら絶対メール返しなさいよね

スクロールバーはない。用件は記載されておらず、俺が起きているかどうかの確認らしい。
それにしても……素っ気ない文章だな。絵文字を使用しているのが唯一の救いだ。
初めてメール交換したときなんかは、あまりに殺伐とした文章で辟易したもんだった。
疑問符や感嘆符は使用されているものの、顔文字や絵文字が一切使用されていなかったのである。
後日伺えば、曰く、余計な装飾は不要とのこと。
あれからあいつに絵文字による感情表現の大切さを説いてやって、次第に絵文字をつけるようになったんだっけ。
と、閑話はここまでにしておいて。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:24:49.35 ID:J4dircPH0

to:ハルヒ
subject:
ああ、起きてるぜ
昨日はマジで悪かった
それで、今日は何の用だ?

送信ボタンをプッシュする。送信中...という文字が表示されて、俺のメールはハルヒの元へと旅立っていった。
便利な時代になったもんだ。どんなに離れていても簡単にコミュニケートできるなんて、古人は想像もしなかったに―――
ヴー、ヴー、ヴー……送信終了から約40秒後のこと。どうやらハルヒは、俺にモノローグを吐露する寸暇も与えてくれないみたいだ。

from:ハルヒ
subject:
用なんて何もないわ
メールしたいからメールしたの

用件ないって、お前な。
メールしたいからメールしたいって、目的と手段がごっちゃになってないか?

to;ハルヒ
subject:
まあ予想はついてたけどな
要するに暇なんだろ?
俺で良ければ話し相手になるぜ

送信、と。そして携帯を脇に放り投げた30秒後に、携帯が着信したことを誇張する。
ハルヒの反射神経が天性のものであることは重々承知していたが、幾ら何でも早すぎる。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:26:17.95 ID:J4dircPH0

from:ハルヒ
subject:
あんたは大きな勘違いをしてるわね
キョンが話し相手になるんじゃなくて
あたしがキョンの話し相手になってあげるの

あー…こんな簡単に伝家の宝刀を出さざるを得なくなってしまうとは、俺も修行不足ということか。
急激に衝動が込み上げ、俺はそれに流されるままに、
「やれやれ」
深〜い溜息をはき出した。ハルヒ節ここに極まれり、だな。
さて、この我が儘な団長様を愉しませるには、どんな話題が良いだろう?

>>445 自由記入「      」

445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 23:41:55.54 ID:eeE3VnsXO

今度の休日は遊びにいこうぜ

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:27:39.97 ID:J4dircPH0

携帯片手に、しばし思案する。
ふと焦点をずらせば、なんとなしに流していたTV番組が特集をやっていた。

『――いよいよ開場が明日に迫った――たくさんの入場客で賑わうと予想され――』

都会近くに建設が進められていたテーマパークの話は、谷口に聞かされて知っていた。
なんでもどこかの財閥が巨額の資金を擲って建造した「金にものをいわせた娯楽施設」らしい。
一瞬脳裏を、麗しい翠緑髪を靡かせた、ハルヒに勝るとも劣らない明るさの先輩がチラつく。まさか、な。

……いや待てよ。一昨日夜桜を見せにもらいに行ったとき

「今度うちの家の一大プロジェクトが完成するにょろ。その時はみんなで遊びにきてほしいっさ」

とかなんとか言ってなかったか? 自然、俺はニュースキャスターの声に、耳を欹てた。

『――――鶴屋財閥は推定で――億円かけたと言われおり―――』

ビンゴ。

「マジかよ……」

嘆息する。
鶴屋家の総資産額は日本の国家予算を遙か眼下に、どこかの大国と渡り合えるほどなんじゃないだろうか。
でもま、丁度良い話題が見つかったもんだ。早速ハルヒに、知っているか聞いてみよう。

to:ハルヒ
subject:
鶴屋さんの家が造ってるっていうテーマパークのこと、知ってたか?
なんでも明日が初開場らしいんだが

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:29:13.98 ID:J4dircPH0

from:ハルヒ
subject:
あ、あんた……それわざと…じゃないわよね
キョンだもんね
この前あれだけ誘ってもらったのに忘れたの?

愕然とする。くそ、俺の脳はもう寿命が近いということか。
だがしかし、ハルヒが知っているなら話ははやい。

to:ハルヒ
subject:
すまん、忘れてたみたいだ
ところで……どうだ? 今度行ってみるっていうのは
折角誘ってもらってるわけだし

送信、っと。女の子をデートに誘う、なんてシチュエーションはどきどきモノの筈なのだが、
なかなかどうして、今の俺は落ち着いていた。
古泉の言葉を反芻する。ハルヒの動向に注目しろ、と古泉は言った。
それがハルヒの蟠りを氷解させる、足がかりになると。
ならば、テーマパークで遊ぶのはそれを確認する絶好の機会である。ヴー、ヴー……
お、返ってきた返ってきた。二つ返事でOKしてくると有り難いんだが。

from:ハルヒ
subject:
あたしは構わないけど
他のみんなも誘うの?

長門と古泉の顔が、眼窩に浮かぶ。俺としたことが、完全に他のSOS団メンバーを失念していた。
ここは――1、他のメンバーも誘おうか
       2、二人きりで行こう        >>490までに多い方

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:43.07 ID:u8DCXcX4O



484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:44.83 ID://6UsQ4q0

2

485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:51.50 ID:kIywUJmOO



486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:59.94 ID:ynMXANjg0



487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:24:15.65 ID:XgP2eEfI0



488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:24:34.16 ID:Ds8bZv2YO

それでもある程度推測することは可能だろ
さっきのチソ毛のように話を別の方向に持って行くなりだな
しかしそれも含めて才能だ、この1には頭が下がる
携帯厨はこの辺で引き下がります

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:25:04.69 ID:9MaUaj5g0

個人的には2だけどキョンなら1

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:25:12.61 ID:XarJ5EtbO



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 15:30:55.20 ID:J4dircPH0

to:ハルヒ
subject:
二人きりで遊びに行かないか
古泉はともかく、長門はあまりああいうトコ好きじゃなさそうだし……
久々にお前と俺だけってのも悪くないと思うぜ?

気恥ずかしくて長門の喧噪嫌いを引き合いに出したが、本意は三行目に集約されている。
確かに二人きりという条件は、ハルヒの様子を観察するのに役立つだろうが――
いつしか俺は、ハルヒと二人で遊びにいくということが、何よりも愉しみになっていた。俗に言う「目的のすり替わり」である。
携帯を放り投げてから、3分後。若干の間隔を開けて返ってきたメールを、急ぎ開封する。果たしてハルヒの返事や如何に?

from:ハルヒ
subject:
ま、それも悪くないかもね。
行くのは……土曜日がいいわ
どうせ知らないだろうから教えてあげるけど
明日はプレオープンで、明後日から本格的に稼働するの
それに合わせておっきなセレモニーもやるそうよ

……どうやら喜ばしいことに。ハルヒも乗り気なようである。
結果的に部活は休んでしまうことになるが、団長直々のずる休みだ。
団員が咎められるわけもない。俺はSOS団公認の休日を、ハルヒと愉しむとしますかね。

to:ハルヒ
subject:
へえ、セレモニーか……ますます楽しみだ
詳しい話はまた明日聞かせてくれ
もう時間も遅いしな   おやすみ

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:07:55.59 ID:J4dircPH0

携帯をポケットにしまって、体を起こす。
食べた後すぐに横になっていた所為か、全身が鉛のように重かった。
牛になるといういう寓話は、存外、嘘でもないのかもしれないな。

自室にたどりついた俺は、倒れ込むようにベッドに沈んだ。
白塗りの天井は消灯しているのに薄明るく、ふと、光源の探して視線を彷徨わせる。
淡朦朧とした光の正体は月光だった。窓外は暗闇に包まれていて、その中心で半月が煌々と輝いている。
雲はなく、しかし星もなく、月だけが昇っている空。ただただ索漠とした印象の、幻想的な風景が広がっている。
だから。微睡みの中で聞こえた

「おやすみ、キョン」

という声も、きっと、夢想の一部に違いない。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:09:02.05 ID:J4dircPH0

薄目に時計が映り込む。午前7時過ぎか……まだ時間的な余裕はたっぷりあるな。
寝返りを打って布団を頭から被る。本当はつい数分前から覚醒していた俺だったが、
窓から差し込む朝日に当てられて、ぐずぐずと起きるのを躊躇っていた。
春眠暁を覚えず。俺がその例に違わず春の眠りを満喫して何が悪い。

「キョンくーん、朝だよー!」

だが残念なことに。

「やっぱり寝てるー」

それを許さぬ小悪魔が、家に一匹棲んでいる。

「もう、しょうがないなあ」

面倒だ、という割に声が弾んでいるのは、俺の幻聴ではない。
と、次の瞬間に飛び跳ねる音がした。一、二、三――今だ!
思いっきり身を捻って、体ごと脇に転がり落ちる。
それと同時に、俺が寝ていた場所で

「あむっ……んー、んー」

というくぐもった呻き声が聞こえた。
立ち上がって確認すれば、そこには案の定、毛布に絡まって足をばたばたとさせている妹の姿が。
良い具合に絡まってるじゃねえか。何時もやられっぱなしだと思ったら大間違いだぜ。
俺は、

1、いい機会だ。ちょっと苛めてやろう。
2、急いで支度するか。たまには早く登校するのもいい。
>>593までに多かった方

591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:17:43.58 ID:s1dcvMpyO

2

592 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:23:34.14 ID:d8XhuRqC0



593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 15:25:00.26 ID:KWJMKkIU0

2かな。ハルヒの驚いた顔が見れるかも試練

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:10:41.49 ID:J4dircPH0

「さらば妹よ。お前の兄に生まれてよかったぜ」

と嗚咽混じりに言い残し、支度をすることにした。
たまには早朝に登校するのも悪くない。普段とは違ったやつらと会えそうだしな。
妹は――まあそのうちこの家の誰かに救助されるだろう。それまで春眠のありがたさを味わっているがいいさ。
蛇足だが。妹が次の朝から、変則的かつ強力無比なニードロップを仕掛けてくるようになることを、その時の俺は知る由もなかった。

――――――――――――――――――――――

歩きなれ過ぎて、眼を瞑ったままでも歩いていけそうなハイキングコースを、今日も歩く。
朝の冴えた空気は心なしか美味しく感じられ、淡い陽光は徐々に体温を上げてくれる。
うん、今日の滑り出しは快調だ。
たまに見かける北高の生徒は、時間帯が違う所為だろう、知らない顔ぶればかりだったが、
その中に後輩らしき男女の連れを発見して、俺は後ろからその様子を眺めていた。幽かに声が聞こえてくる。

「もう――って言ってるでしょ!」
「わりぃわりぃ―――だったんだよ」

漠然と。その知らないはずの二人を、よく知っているような予感がして。
郷愁の念にも似た、妙な情動に襲われた――その時だった。

「なーに朝っぱらから辛気くせぇ顔してんだよ、キョン!」

ドン、と背中に衝撃を受けて前のめりになる俺。相手が一瞬であの野郎であることを理解し、

「やれやれ」

面倒なヤツにあっちまった、と言葉ならずとも身振りで表現する。これも一重に、古泉演技指導教官の教授の賜である。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:14:25.80 ID:J4dircPH0

「ひでぇ………お前がそんな冷酷なやつだとは思ってなかったぜ」

が、存外谷口は俺の演技を真に受けたようで、壁に向かってさめざめと泣いている。
分かった。俺が悪かったから、いい加減近隣住民の方々が奇異の視線を向けていることに気づいてくれ。

「にしても、二日連続でお前に出会うとはな」

谷口と朝一緒になることなんて、多くて週に二回程度。
二日連続なんてのは入学当初から記憶を洗っても、数えるほどしかない。
そんな俺の感想に、哀咽から立ち直った谷口は、

「なに寝ぼけたこといってんだよ。俺は大抵この時間帯だ。
 今朝あったのは、お前が妙に朝早くに登校してきたからだろ?」

的確な指摘に得心する。

「まったくお前の言うとおりだ」

しかし谷口は、俺が先刻の非礼を詫びる前に

「おうよ。ま、そんな勘違いはいいとして、なんで低血圧のお前がこんな朝早くに――」

不自然に語尾を切って俺の後方三十メートルあたりに眼を凝らし

「あー、俺先に行くわ。俺はこう見えても空気の読める男なんだよ」

足早にハイキングコースを上り始めた。ニヤニヤと、性根の悪そうな笑みを残して。
学校に用があったのかもしれないな。アホの谷口の行動一つ一つに濫觴を求めていたら、キリがない。
適当に思考を切り上げて、さっさと学校に向かうことにする。
だが、ふと背後まで迫っていた足音がやんだのが気になって、俺は首を捻った。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:17:51.51 ID:J4dircPH0

「こんなとこで何してんの、あんた」

整った目鼻立ちにセミロングの黒髪、そしてこれ以上にないほどに目立つ黄色いカチューシャ。
果たしてそこには、ハルヒが仁王立ちで佇んでいた。
これは毎度感じることなんだが、結構な身長差があるはずなのに、それを実感できないのは何故だろう。
威厳の差か?

「いや、さっきまで谷口がそこにいたんだが……」
「朝っぱらから谷口に捕まるなんて、あんたも災難ねー」

まったくだ。早く起きられて、喜んでた矢先にこれだもんな。

「そういえばあんたがこんな時間に登校するなんて珍しいじゃない。丁度いいわ。一緒に行きましょ」

極自然に、並んで歩き始める俺とハルヒ。

「―――それでね、有希ったらこの前――信じられる?――」
「――ほんとかよ――――俺も居合わせたかったな―――」

とりとめのない会話は続く。すぐに枯渇するかと思われた会話の種は、
しかし途切れることもなく。俺とハルヒは、穏やかな朝の登校風景を描いていた。
ふと。眼窩に、先ほどの後輩たちの会話が再生される。
今の俺たちはあの二人に似ているようで、何処か違っていた。
そう、それは――分かってしまえば失笑してしまいそうなほどあっけなく、
同時に、切欠がなければずっと正体が掴めないような違和感。

「……まだ完全に起きてないんじゃないの? しゃんとしなさいよね、しゃんと」

ハルヒの声に我に返る。特にわけもなく、ハルヒの凛とした声なら、どんなに眠い朝でも眼が覚めそうだな、と思った。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:18:53.51 ID:J4dircPH0

――――――――――――――――――――――――――――――――

いざ到着してみれば、校舎の壁に設置された時計の針は、
俺が想定していた到着予定時刻よりも、随分若い数字を指し示していた。
自然と、しゃきしゃきと歩くハルヒに歩調を合わせていたのだろう。

こんな時間に登校するのは特別な用事があるヤツか、誰かと適当にだべりたい暇人と相場が決まっている。
従って昇降口から教室にかけての廊下に人影は少なく、俺は新鮮な校内の一面を垣間見ることができた。
しかし――厳粛な雰囲気漂う廊下と対照的に、無駄に活気があるのが俺たちのクラスなわけで。

ドアを開けた瞬間。がやがやとHR前のお喋りに勤しんでいたクラスメイトたちの視線が、こちらに集中する。
なんだこの生暖かい視線は。気にせずお喋りに戻ってくれていいんだぞ。

「えー、おはよう、涼宮とキョン」

と、ドアを開けて硬直している俺たちの元へ谷口がやってきた。
お前、一度通学路で会っただろ。その仰々しい口調は何なんだ。

「俺がこういうことを言うのもあれなんだが」

谷口はニヤニヤ笑いを隠そうともせずに口を開き、

「お前らさ、朝から熱すg「黙りなさい」

叩き潰すような詰斥の元に沈黙した。
ハルヒの顔は先ほどまでの微笑のままなのだが、なんというか、凍っている。
いつものハルヒなら、谷口の戯言をまるで羽虫を扱うように無視するんだが……何か気に障ることでも含まれていたのだろうか。
それからハルヒはずんずんと席に向かい、拗ねたように窓に視線を投げて頬杖をついた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:21:56.68 ID:J4dircPH0

谷口はまるで冷凍保存されたマグロみたいに大口を開けたまま硬直している。
んー、前衛的なオブジェに見えんこともないな。このまま教室に飾っておくのもいい。
がしかし、芸術性は皆無な上とても邪魔なので解凍してやることにした。

「おい、起きろ谷口」
「……はっ! 涼宮のヤツ、あんなに怒らなくたっていいのによー」

あのな、冗談半分でもあいつをからかうのはやめてくれ。
そのしわ寄せは後処理は、全て俺にまわってくるんだよ。しかも1.5倍増しで。

「へいへい」

……もう何も言うまい。
さて。HR前の雑談は恒例行事なわけだが、今日はHRまでまだまだ時間がある。
ここは―――

>>647
行動対象自由記入(学校にいるであろう人物名に限る)「      」

647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:08:06.55 ID:8b/1eH6L0

ハルヒ

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:24:09.74 ID:J4dircPH0

早朝という慣れない時間の潰し方を、暗中模索する。
SOS団部室には誰もいないだろうし(ひょっとしたら長門が読書しているかもしれないが)
朝練で扱かれている部活の中に、俺の知り合いはいない。グラウンドに行っても無駄だ。
こんな平凡極まる北高の屋上、体育館裏、無人のプールサイドで超常現象が起るはずもないし。
ハルヒなら行きそうだけどな。それに第一、俺はアクティブな人間じゃない。

かくして。俺は体を捻らせて壁に背中を預け、

「おい、ハルヒ」

恒例のHR前雑談20分拡大版を企画したのであった。

「なあに?」

グラウンドを走る人影を追いかけていた瞳が、こちらに動く。
ハルヒの言葉遣いは柔らかかった。谷口の意味不明な失言も、既に記憶の彼方だろう。
だが……特に話のタネは用意していないし、雑談といっても登校時に語り尽くしたしな。
何について話そうか?

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
3、さっきはどうしたんだ 谷口、固まってたぜ?
>>657

657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:25:51.51 ID:d8XhuRqC0



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:25:34.93 ID:J4dircPH0

ここは何か建設的な話題を―――することもないか。
一見非生産的な行動が、後々意味を成すことは多い。俺の人生史がそれを証明しているからな。
うーん……ついさっきハルヒが最強の威圧感を以て谷口を黙らせたワンシーンについて、徹底リサーチしてみるか。

「さっきはいきなりどうしたんだよ。谷口のやつ、彫刻みたいに固まってたぜ?」

質問はシンプルかつ相手が答えやすいようするのが基本だ。
そして俺の質問は、まさにそのテンプレートの的を得ていた。

「…………」

だがハルヒはそれに答えることなく、ぷい、と顔を逸らしてしまう。
不味いな、雑談の出足からくじかれた。どうやらハルヒの怒りは、まだ鎮火されていなかったようである。
ちょっと聞いてみるつもりが、燻っていた火に油を注ぐ結果となってしまった。

「おい、まだ谷口に怒ってるのか?」

反応はない。堪りかねて、ふくらんだハルヒの頬を押してみる。
いい加減こっち向きやがれ。

「な、ななっ……!」

するとどうだろう。RPG的な表現をするならば効果は抜群といった風に、ハルヒはびくりと身を震わせた。
あ、いや、そこまで脅かすつもりはなかったんだが。

「あんたって本当に……」
「本当に?」
「…………ばかね」

俺の頭中に疑問符が席巻する。理不尽な暴言には慣れちゃいるが、脈絡もなしに馬鹿とは傷つくね。 

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:27:21.76 ID:J4dircPH0

ま、ハルヒが忘れたがっていた事柄をぶり返したのは良くなかったかもな。
猛省とまではいかないが、反省してしかるべきは俺だ。

時間を確認すれば、まだHRまでには10分ほどの猶予が残されていた。
何か話すにしても、あと一つぐらいが限度だろう。

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
>>686

686 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 20:58:47.97 ID:3oGbPqZq0

王道で2

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:39:23.23 ID:J4dircPH0

「あ、そうだ。昨日言ってたテーマパークについて、詳しく教えてくれないか」

昨夜十分に話し合えなかったことを煮詰める必要がある。
ハルヒは心なしかむすっとしているように見受けられたが、予想に反してすぐに言葉を返してくれた。

「詳しくって言われてもね。何が聞きたいの?」
「ほら、どんな遊具があるとかさ」
「そうねー……中にあるのは、既存の遊園地と大差ないって話よ?」

その言葉に小さく落胆する。俺としては、新感覚の次世代アトラクションなんかを期待していたんだが。

「安心なさい。その代わりね、どの遊具の作りも半端な出来じゃないわ。
 あれだけお金を注ぎ込んだんだもの、完成度はそこらの比じゃないんじゃないかしら」

超高速な三次元的移動を可能にした最新型ジェットコースターや、
ホラー映画よりもリアリティのあるお化け屋敷。むくむくと想像がふくらんでいく。

「ほう。杞憂だったみたいだな。でもあれだけ注目集まってるんだし、当日は滅茶苦茶込んでるんじゃねーのか」
「それはあたしも予想済みよ。酷ければ何時間も待たされるかもしれないわ」
「ま、5つでも楽しめたら良い方か。セレモニー当日だし、高望みはしないほうが―――」
「何言ってるのよ」

ハルヒが俺の悲観的予測に口を挟む。
殊勝な笑みが、ハルヒの表情に浸透していく。
ああ、鈍い俺でも分かるぜ。お前はこういいたいんだろう?

「全部制覇するに決まってるじゃない!」
「全部制覇する、に決まってるよな。お前なら」

重なる声と声。分かってるじゃない、と団長様は団員の聡明さにご満悦のようだ。恐悦至極に存じます。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:39:55.57 ID:J4dircPH0

それから俺たちは明日の待ち合わせ場所と時間について話し合い、
結論が出たまさに絶妙なタイミングで担任岡部が姿を現し、HR前の雑談は幕を閉じた。

――――――――――――――――――――――――――――――

時は変わって昼休み。ぐぅ、と情けない音が鳴る。
睡眠導入剤という名の鋭利なナイフを手にし、執拗に俺に群がる睡魔どもを追い払うことによって退屈な授業を凌ぐ、
という矛盾だらけの午前中を終えた俺の胃袋は、消費したカロリーを求めて悲鳴を上げていた。
まあ待て。すぐに炭水化物をこれでもかというくらいに放り込んでやるからさ。
机を合わせて手を合わせれば、お待ちかねの昼食タイムだ。

「あー、腹減った。なんで数学の授業はあんなに腹が減るのかねえ」
「谷口、それはね。授業に対する意識の持ち方によって変わってくると思うよ」
「まさに国木田のいうとおりだ。俺が言えたもんじゃないが」

谷口がこの世の何処から掻き集めてきたのか不思議になるくらいに多量の無駄情報を披露し、
それに国木田が的確なつっこみを返し、時たま俺が口を挟むという、二年前から少しも変わらぬ食事風景が展開される。
だが本日の主題提起は谷口ではなかった。国木田は、鯖の皮を丁寧に剥がしながら、

「今日ってあのテーマパークのプレオープンだよね」

それを聞いた谷口は、さも無念そうな表情を形作り苦言を呈す。

「そうなんだよなー。何も平日にプレオープンしなくってもいいのによぉ」
「あのテーマパークが狙ってる顧客年齢層は学生じゃないんだと思うよ。入場料が若干他のトコより高いし」

会話には参加せず黙々と口にご飯を運ぶ俺。
下手に加わればうっかり明日のことについて口を滑らせてしまいそうだ。
そう考えて、口を食べ物で塞ぐことにしたのである。だが空気の読めなさに関してはピカイチの谷口。
俺の急所をつく、見事な一撃を繰り出してきやがった。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:41:59.18 ID:J4dircPH0

「なあ。お前らは明日の予定、もう入ってるか?」
「僕はないけど。キョンは明日はアレで無理でしょ?」

もぐもぐとコロッケを咀嚼しながら首肯する。
アレとは勿論SOS団の活動のことだ。ナイスフォロー、国木田。

「………うーん、男二人でテーマパークは流石にねえしなあ……」

煩悶する谷口をおいて、俺と国木田は箸を動かすことに専念する。
どうやら危ない橋は無事に渡り終えられたみたいだな。もし明日のことが谷口にバレたら、どうな凄惨なことになるか想像もしたくないね。
だが。常に俺の期待の光を塗りつぶすのが、谷口なわけでもあって。
もうそろそろ違う方向へと話が向かい始めるかと胸を撫で下ろしかけた、その時だった。

「いいこと思いついたぜ」

谷口は得意げな視線をあたりに振りまくと

「キョン、お前涼宮つれてこれないか。俺と国木田もクラスの女子誘ってみるからよ。
 どうだ。涼宮が嫉妬しない上に、男女比率三対三の完璧なプランだろ?」

そして国木田も追い打ちをかけるように、

「僕がクラスの女子を誘うのが決定事項なのは納得がいかないけど、確かにその計画なら問題はなさそうだねぇ」

二人揃って俺の返答を待っている。逃げ道はない。有り体だが、絶対絶命の大ピンチという訳だ。
よし、ここは――

1、言い訳(ハイレベル)しよう
2、言い訳(低レベル)しよう
3、素直に明日の予定を打ち明けよう
>>728

728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 22:29:07.74 ID:8b/1eH6L0



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:43:14.14 ID:J4dircPH0

数秒間の思考の末、最善の選択肢を選び出す。
俺が穴だらけの言い訳をしたところで、谷口&国木田コンビには砂上の楼閣に違いない。
ならここは無駄なあがきはせず、正直に話すのが得策か。

「実は……明日は先約があるんだ」
「へぇ、どんな?」

寸暇も与えてくれない谷口。諦観した俺は、洗いざらい話すことにした。
もうどうにでもなれ、だ。

「ハルヒと二人で行くって約束してるんだよ。
 例え向こうで鉢合わせても、悪いがお前らとは別行動になる」
「……………」
「……………」

だがしかし、俺の決死の告白に対する二人のリアクションは、なんとも乏しいものだった。

「えーっとだな。俺、失言しちまったか?」

錯覚に陥る。あちこちから愉しげな談笑が聞こえてくる教室内で、
あたかもこの一角の空気だけが、お通夜のそれに変質してしまったかのような。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:52:33.70 ID:J4dircPH0

「ねぇ谷口。どうやら君の提案は、キョンには無用の代物だったみたいだね」
「……なあ国木田。お前はずっと俺の友達だよな………」

雨霰の冷やかしを覚悟していた俺は、意気消沈した谷口と、それを慰める国木田に声を掛ける術を持たなかった。
食い終わった弁当箱を片付けて、席を立つ。最早ここにいる意味はない。
谷口の口から漏れる呪詛のような恨み言が一過性のものであると信じて、俺は午後の授業に備えることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――

切れ長の眸子に、懊悩の色が浮かぶ。
退けば死の口に飲み込まれ、待てどもいずれは同じ運命を辿ることとなる。
ならば、残された手段は一つ。口元にあてられていた指先が、
漠然とした不安をを振り切るように「進軍」を命じる。
それは一見、勇猛果敢な強毅の一手のようで―――しかし。

「俺の勝ちだぜ古泉。後はどうあがこうと、お前の王将は詰む」

計算し尽くされた敵陣へと飛び込む、無謀の一手であった。

「おや。確かに詰んでいますね。投了です」

古泉は悔しそうな風もなく、投了を宣言する。こうしてまた、俺の対戦歴に価値のない白星が追加された。

「何度も言ってる気がするが………お前、俺に勝つ気ないだろ」
「いえ、決してそんなことはありませんよ。僕の胸中はいつもあなたへの憧憬と嫉妬でいっぱいです」

なんとも白々しいね。
俺がお前に勝利して快哉を叫べたのは精々最初の一、二回で、その後は勝った気がしないんだよ。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:53:50.51 ID:J4dircPH0

なんとも白々しいね。
俺がお前に勝利して快哉を叫べたのは精々最初の一、二回で、その後は勝った気がしないんだよ。

「精進しましょう」

アルカイックスマイルでそう言われてもな。まあいい。
数年後相まみえたときに俺が圧勝しているイメージは想像に難くないが、期待しておくとしよう。

午後の授業とHRを消化しハルヒと共に文芸部室に到着した俺は、現在古泉と将棋に興じている。
だが実際は"興じている"とは言い難い状況であり、古泉には悪いが別のことで時間を潰したい気分だ。
そうだな、たとえば――――

行動対象指定安価(校内の人間のみ)>>773「         」

773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 00:04:53.73 ID:dwO/hJCF0

長門

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:55:36.03 ID:J4dircPH0

最近は何かと忙しく、ほとんど長門に構ってやれなかった。
勿論この「構ってやれなかった」は居丈高な意味ではなく、
自分から他人に接触しようとしない長門に話しかけてやれなかった、という意味だ。
荷物棚からチェス盤を引っ張りだし始めた古泉はどうするかって? 捨て置くに決まってるだろ。

「なあ長門。今、話せるか?」

長門はコクリと数センチだけ頷いて、本の頁から顔を上げた。
読書を中断させられたことを怒っているのか、俺の声に耳を傾けてくれているのかは分からない。

「その本、この前図書館で借りたやつだよな」
「そう」
「もう読み終わりそうだな」
「あと少し」
「どうだ、読書家のお前から見て、それは面白かったか?」
「……わりと」

サクサクと会話は進む。

「その本の続編が出たらしいぜ。知ってたか?」

長門はフリフリと首を振った。ボブショートの麗髪が揺れる。

「もしその本がここにあったら、読みたいか?」

長門は小さく首肯した。それは数ミクロンでも数ナノでもない、確かに視認できる頷きだ。
そしてそれを確認した俺は、満を持して鞄の中から一冊の本を取り出した。

「それは……」
「この前図書館で見掛けてな。借りてきたんだよ」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:58:14.36 ID:J4dircPH0

長門の元に歩み寄り、本を差し出す。

「読み終わったら俺に返してくれればいいからさ」

カーディガンに半分包まれた手が、本を受け取ろうと手を伸ばす。
その時だった。開けていた窓から、一陣の春風が吹き込み――――
パラパラと、長門が読んでいた本の頁を勝手に捲っていく。
なのに長門は頁には委細構わず、受け取った本を手に俯いていた。

「おい長門―――」

慌てて声をかけても、反応はなく。
ただならぬ様子に不安に駆られた俺は、とにかく頁を抑えようとして屈み込み、


「ありがとう」


消え入りそうな長門のお礼を聞いていた。
再び顔を上げた長門と、俺の視線が交錯する。……確かに聞こえたぜ、長門。

「また図書館行くときは遠慮なく誘ってくれ」

最後にそれだけ言い残し、俺は長門の下を離れた。
時間と共に口数が増えているとはいえ、長門の言葉はとても短い。
洗練された言葉といえば聞こえはいいが、必要最低限の文節のみというのはやっぱり味気ない。
だが―――俺は思うのだ。
琥珀色の瞳に滲む1pxの暖色や、空気に溶けてしまいそうなほどに小さなお礼。
長門の感情の機微は、触れにくいからこそ価値があるんじゃないか、ってな。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 16:59:12.69 ID:J4dircPH0

思わぬ長門の返礼に幸福感に満ち満ちつつ、席に戻る。
テーブルには、一人寂しくパチパチと詰め将棋を嗜んでいる男の姿があった。
その男――古泉だが――は俺を哀切の滲む瞳で一瞥し、

「…………」

無言で駒を進める作業を再開した。なんというか……寂寥感が半端ない。
俺が罪悪感に囚われて声を掛けようとしたその時、

「コホン」

わざとらしい咳払いが聞こえてきた。

「えーっと……今日はみんなにお知らせがあるの」

ハルヒが立ち上がって演説モードになっている。

「明日は特別にお休みにします。各々自由に休日を愉しんでもらって結構よ」

チラリ、と俺を一瞥して、ハルヒはそう宣言した。
そういやこの二人にも明日の活動中止を連絡する必要があったんだよな。
もし忘れていれば、明日長門と古泉は喫茶店で待ち惚けをくうことになっていただろう。
フェミニストにして団長至上主義の古泉は、

「了解しました。僭越ながら、丁度僕も明日は静養したいと考えていまして」

と心にもないであろう返事をする。副団長の鏡だね。
毎週の恒例行事であり、発熱していようと町内探索を敢行するハルヒが
突然理由もなしに活動中止を宣言しても、一切動じない。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:01:15.41 ID:J4dircPH0

古泉は流し目をこちらに送り、詰め将棋を再開した。
明日の特別休暇が俺に関係していることは、既に見抜いているのだろう。

「ごめんね。じゃ、そゆことだから」

古泉の了承を受けてハルヒが座る。
こういう場合、長門は基本的に返事を返さない。暗黙の了解というやつだ。
だが―――

「………して?」

今日の長門は、何かが違っていた。恣意的な独断専行を許さぬ鶴の一声。
PCに意識を沈ませていたハルヒが、ぎょっとして顔を上げた。

「……どうして?」

誰が想像できただろう。滅多に語尾に疑問符をつけない長門の問いかけもさることながら、
たった四文字の言葉に激しく動揺しているハルヒを。

「あ、あのね、有希。別に明日の休みに意味はないの。だから有希も気にすること――」
「あなたの言動はとても不自然」
「ぐっ……」

ハルヒが長門にやりこめられている様は見ていて面白い。俺はといえば、古泉と共に傍観に徹している。

「あーもう! どうだっていいじゃない。気まぐれよ、気まぐれ」
「なら質問を変える。明日の行動予定を教えて」

ほう、長門のやつも強気に出たな。
ハルヒも正直に明日のことを話してしまえば楽になれるだろうに。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:03:21.03 ID:J4dircPH0

微温的なハルヒの返答の穴を、長門は正確無比な指摘で打ち抜く。
そんなループが5分ほど続き。
困憊したハルヒが、アイコンタクトを送ってきた。翻訳するとこうだ。

"ちょっとキョン! あんた黙って見てないでなんとかしなさいよ!"

んー、どうするかな。こんな長門は初めてだし、もう少し眺めていたいんだが。
百獣の王が愛らしいひよこにぼっこぼこにされてるみたいで微笑ましいし。
相手が俺なら無理矢理俺の意見をねじ曲げ、
古泉なら華麗にスルーするハルヒも、従順な長門に反旗を翻されると弱い。
ここらで一つ―――


1、助け船を出してやるか
2、ハルヒが根負けするまで眺めていよう
>>890

890 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 11:36:57.34 ID:yctAho950

1

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:06:11.21 ID:J4dircPH0

助け船を出してやるか。この調子じゃ下校時間まで続きそうだし。

「なあ長門。なんでそんなに拘るんだ?」

間に割って入った俺に、長門は拗ねたように手を握りしめて、

「ただの興味」
「何故ハルヒの予定なんかに興味があるんだ?」
「…………」

長門は答えない。やれやれ、いつから長門は反抗期に突入したんだ。
性格変異を目的とした生命情報素子にでも罹患したのか?

「長門。まあ聞いてくれ」

相変わらず口を閉ざしたままの長門に、持論をぶつけてみる。

「人間誰しも、それぞれ自分だけのプライベートを持ってるんだ」
「…………」
「そんでもって、大抵は本人が許さない限り、それには干渉しちゃいけない決まりになってる」
「…………」
「関心を持つのと、立ち入ることは違う。お前だって自分の行動予定を逐一俺に監視されてちゃイヤだろう?」
「…………」
「だからもうかんべんしてやれ。ハルヒも困ってるしさ」

数秒の沈黙。長門は視線を下げたまま、分かった、と呟いた。
しぶしぶといった風ではあったが、納得してくれたことに違いはない。偉いぞ長門。
俺は無意識の内に手を伸ばし、長門の頭を撫でていた。ぽふぽふとした感触が心地よい。

………あれ? おかしいな。何か、有象無形の刃物が俺の背中に突き刺さってるよ?

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:09:05.73 ID:J4dircPH0

振り向けば。腕を組み指をトントンとさせているハルヒと目があった。
ジト目怖い。もしかして俺の出した助け船、喫水線下回ってたり?

「あー、まあ納得してくれたみたいで嬉しいぜ」
「……そう」

逃げるように定位置に舞い戻る。ハルヒの依頼通りにミッションコンプリートしたってのに、このやるせなさはなんなんだ?

「意図していないから恐ろしいですね。逆に賛嘆に値します」
「……??」
「いえ、こちらの話ですよ。お気になさらず」

首を傾げた俺と意味深な言葉を零す古泉、
そして依然顔色の優れないハルヒとどことなく嬉しそうな長門がギクシャクしたまま、本日の活動は終わりを告げた。

――――――――――――――――――――――――――――――

昇降口で皆と別れた俺は、一人寂しく帰路についていた。ハルヒは

「ちょっと用事があるの。でもあんたはついて来ちゃ駄目」

と笑顔で釘を刺して走り去ってしまい(怒っているわけじゃなさそうだったが)、古泉は

「僕も所用がありまして」

と通学路から外れた道に消えてゆき、長門に至っては昇降口に姿を見せなかった。なんでも生徒会室に用があるんだそうな。
というわけで――真っ直ぐ帰宅するか寄り道するかは俺の自由だ。
1、腹減ったし真っ直ぐ帰ろう
2、自由記入(SOS団メンバー以外でも可)→「    」のことが気になるな
>>927

927 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 12:43:56.04 ID:DhE5DLAC0

長門

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:11:02.14 ID:J4dircPH0

ふと、無性に長門のことが気になった。
生徒会室という単語から連想できるのはペルソナ被った生徒会長ぐらいで、少なくとも良いイメージはない。
長門ならあいつの居丈高な物言いに露程も不快に感じないだろうが、やはり不安は残る。
余計な甲斐性かもしれないが。俺は長門の様子を見に、学校に戻ることにした。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 17:12:59.67 ID:J4dircPH0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

下駄箱には長門の下靴があった。綺麗な書体で、漢字が二つ並んでいる。
ホント、几帳面だよな。俺なんて中学の頃から持ち物に名前を書くことが億劫になってたってのに。
ともあれ長門が生徒会室に在室中だということは分かり、記憶を辿りつつ足を進める。
生徒会室の近くに人気はなかった。壁一枚を挟み、中の様子は伺えない。
だが――日頃の所行が良い所為か、はたまた気紛れな神の計らいか。ドアは薄く開いていた。

「――――でしょう――わたしは―――」
「―――そう―――」

黄昏時の空気を、細い声が伝ってくる。途切れ途切れで会話内容を把握することはできないが、人がいるのは確かなようだ。
瞬間、俺の脳内で悪魔と天使の言論合戦が幕を開けた。お馴染みのアレだ。察してくれ。

『覗いて視野狭窄に陥れば、誰かが廊下を歩いてきても気づけない。不審者扱いさるぜ』 確かにそうだ。リスクは高い。
『欲望に忠実になれ。好奇心に従えばいいんだよ』 好奇心に忠実に、か。魅力的な響きだね。
『中にいる誰かに盗み聞きがばれたらどうする』 ああ。その可能性は十分にある。
『うるせえ黙れ。なら黙って帰るのかよ、情けねえ』 一理ある。ここまで来て引き返すのもな。
『俺の合理的な意見が聞けねえのか』 おいおい性格変わってないかお前。
『化けの皮剥がれたなこの野郎。今日こそ決着をつけてやる―――』 あのー……俺は放置っすか

天使と悪魔は暫く舌鋒鋭く論じていたが、やがてもみ合いになり両成敗で消滅した。さて、どうしたもんかね。

1、危険を承知で覗いてみよう
2、ま、険悪な雰囲気でもなさそうだし帰ろう   >>960

960 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:24:05.44 ID:1tjvDIlL0

当然1

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 19:04:03.87 ID:J4dircPH0

覗くか。立ち去るか。その二択を天秤に乗せてみた。
ここで踵を返しちまうと、往復分の足労は一体なんだったのか分からなくなる。
長門の所用の正体が掴めないまま家に帰ってもやもやするより、
リスクを承知で覗いてみた方がいいのではないだろうか。

順調に錘が、右皿――覗くほう――に積まれていく。

女子更衣室を覗くという「共学高校三大禁忌」の一つを犯しているわけでもなし、
ただ長門の様子を確認するだけなのだから、盗み聞きの罪にも問われまい。

最後の錘が積載される。いよいよ右皿の底は地面につかんとし――

俺はそっと足を忍ばせて、ドアの隙間に右目を近づけた。
一気に狭まった視界に、滅多にお目にかかれない生徒会室内の様子が映り込む。
応接用の、高級そうな二対のソファ。その手前の方に長門がちょこんと座っていた。
そしてそれに相対するように座っているのが、黄緑さんである。

「あなたらしいですね。それで彼は、なんと?」
「………何も言わなかった」
「落ち込む必要はありません。大丈夫ですよ。それは感情による行動抑止の典型的なパターンです」
「わたしは落ち込んでなどいない」

様子を伺うだけのはずが、つい聞き入ってしまう。しかしそれも仕方がない。
長門を対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース(最近やっと噛まずに言えるようになった)扱いするのは
気が引けるが、黄緑江美里さんとのツーショット、つまりTFEI同士が和やか(?)に会話しているというのは、かなりレアなシーンなのだ。

「―――そうですか――てっきり――」
「―――あなた――話には――不確定条件が――含まれて――」

俺が息を潜めているとはつゆ知らず、二人の会話は続く。

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 19:34:36.40 ID:J4dircPH0

しかし主語が曖昧な会話の概要を、半ば強制的に途中参加した俺が掴めるわけもない。
これ以上覗きを続けても収穫はないだろう。しかし見納めに、と軽い気持ちで生徒会室を見渡した俺は、

「苦労してそうだな、あの人も」

まるで反抗する部下悩んでいるマフィアのボスのように、
左手で髪を掻き上げながら煙草をふかす、会長の御姿を見つけたのだった。
ペンを握った右手は書類審査でもしているのだろう、せわしなく動いている。
……そりゃそうだよな。書記が仕事ほっぽり出して、組織のよしみとはいえ、お喋りに勤しんでいるんだから。
ちなみに会長は留年しながら生徒会長を続行している。
色々と根回しがあったに違いないが、学校側もよく了承したもんだ。
黄緑さんはというと……卒業後も何事もなかったかのように3年生を続けており、
それに異議を唱える者はいない。つくづく思う。情報操作って便利だよな。

「あー、黄緑くん。最終下校時刻は過ぎている。そろそろお暇してもらった方が―――」
「何かいいましたか、会長?」
「いや、独り言だ。彼女の相手を続けたまえ」

すっかり尻にしかれてる会長に内心で苦笑しつつ、俺は再び視線を長門に向けた。
と、その時だった。カチャリと陶器がふれあう音が響き、

「お代わりの紅茶でもいれましょうか」

黄緑さんが優雅な物腰で立ち上がる。そして目を凝らさなければ絶対に見逃してしまうようなタイミングで、
こちらに向かってウインクした。一気に肩の力が抜ける。なんだ、気づかれてたのか。

"わたしは気づいてますよ。彼女が気づくのも時間の問題でしょう"

そんな意図を感じて、俺は今度こそ立ち去ることにした。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:02:28.85 ID:J4dircPH0

すっかり日の落ちた坂道を下っていく。
生徒会室を覗いたことによって得られた眼福は、朝比奈さんのコスプレとはまた違った趣向のものだった。
例えるなら、仲の良い姉妹の掛合いを見掛けた時のような、そんな幸福感だ。
TFEI同士は互いの私生活に干渉しないのか不明だったが、
どうしてなかなか、良い感じに親睦を深めあっているようじゃないか。
長門も「生徒会室に用事」なんて堅苦しい言い方じゃなくて、軽く「喜緑に会いに行く」と言えばいいのにな。

あとこれは余談だが……ハルヒと古泉は昇降口で別れた後、一体何処にいったんだろう?

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「すごぉい、見て見てキョンくん!」
「ほう、手品か」
「キョンくんはできないのー?」
「残念ながらな。期待に添えなくてすまんが」

現在時刻10時半。
俺は欠伸をかみ殺しながら、マジック番組に夢中になっている妹の相手をしている。
良い子は寝る時間であり、明日にハルヒとの約束を控えている俺としては今すぐにでもベッドに向かいたいのだが、

「ねぇねぇ。あれって練習したら誰にでもできるようになるのかなー」

俺のあぐらの上に鎮座した妹は就寝のそぶりを全く見せず、膠着状態が続いている。
懐いてくれているのは純粋に嬉しい。
だが、中学生にも関わらず大人びた一面をチラリとも見せぬ妹が、兄としては少し心配です。
夜は更けていく。俺は――

1、妹に明日の予定を説明しておこう。朝振り切っていたら遅刻しそうだ。
2、もう夜も遅い。妹を寝かしつけるか
3、TVを見る気は失せている。メールチェックでもしよう
>>228までに多かった方

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:24.21 ID:DhE5DLAC0

3

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:38.77 ID:px0JwCwVO



225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:52.05 ID:rw0T3klA0



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:58.16 ID:dwO/hJCF0

2

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:03.26 ID:OVEvZWQoO

3

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:04.58 ID:jfeWkqVoO

3

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:17:45.15 ID:J4dircPH0

どうせ誰からも来ていないだろうが、一応メールチェックしておくか。
邪魔になって机の上に放り投げていた携帯を取り、問い合わせてみる。

ヴー、ヴー……

おかしい。明日の集合場所と時間については今朝ハルヒとじっくり話し合ったし、
谷口と国木田には明日は一緒に行けないと釘を刺してある。
俺に用がある人間を、想像することができない。受信ボックスを開く。
そこには、

1、麗しの未来人の名前があった
2、幾度となくお世話になった、機関のあの人の名前があった
3、テーマパークを建設した財閥の、令嬢の名前があった。


>>238までに多かったの

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/08(土) 20:18:16.04 ID:ggM3cgZd0

2

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:19:31.66 ID:LaiyV6SSO

3

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:04.01 ID:TfHsX+Au0



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:08.51 ID:7FqznmZLO

3が妥当だがあえて1

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:40.98 ID:TfHsX+Au0



238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:57.47 ID:i6dl3gwiO

3

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:43:14.37 ID:J4dircPH0

「朝比奈さん……」

朝比奈みくる。その響きはとても懐かしく、自然と、俺に一年前の日々を想起させた。
あの天使のような笑顔にどれだけ助けられたことだろう。
部室のドアをノックすればメゾソプラノの声と共に出迎えてくれて、
玉露のように味わい深いお茶を毎日のように俺の湯飲みに注いでくれたっけ。
一緒に時間の壁を越えたことも、一度や二度ではない。
特殊能力のない俺はあの人の力になれなかったが、
それでも、その思い出は今でも瑞々しく、大切な記憶として残っている。
コスプレ衣装も、卒業前には軽く20着を超えていて。
卒業パーティの時にファッションショーみたく全部着替えて見せてくれた。
そして、別れの時が来て―――――――

柄にもなく、俺は感慨に耽っていた。懐古するのは後でいい。
メールを開ける。電子情報なのに、実際に手紙を開けるような期待感があった。

from:朝比奈さん
subject:お久しぶりです
キョンくん、元気にしていますか
古泉君や長門さん、そして涼宮さんは、変わっていませんか?
ほんとはもっと色々書きたいのに、無理を言ってこのメールを送らせて貰っているので
本題に移らなきゃいけません。久しぶりなのに、残念です。

明日、キョンくんは涼宮さんと約束をしている筈ですよね。
それで詳しくは言えないんですけど、下記の言葉を覚えていて欲しいんです。
絶対に役に立ちますから。

"F7"

それじゃあ、またね

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:03:03.68 ID:J4dircPH0

F7――――この英数字の並びに心当たりはなかった。
朝比奈さんが時間の壁を越えてでも伝えたかったことだから、
何かしらの意味が含み隠れていることは間違いないんだが……

「とりあえず返信しておくか」
「誰とメールしてるのー?」

TVに興味を失くしたのか、妹が振り返る。
こいつは憶えているだろうか――朝比奈さんとのとの思い出を。

「大切な先輩とだよ」
「名前は〜?」
「禁則事項だ」

むぅ、と頬をふくらませる妹の脇を抱え上げ、二階へと運んでいく。
妹は最初はシャミセンのようにされるがままだったが、やがて気恥ずかしくなったのか

「自分であるけるもん」

と階段を駆け上っていった。
しかし慌てた所為だろう、最後の一段で足を踏み外して、しこたま頭をぶつけている。栗色の髪が、ふわりと靡く。
――――刹那の、既視感。

「おいおい、怪我してないか」
「いったーい……でも大丈夫だもんね〜。てへっ」

ドジっ娘の資質アリだ。それを自在に操れるようになれば、この世の男はお前にイチコロだぜ。
妹のおやすみにおやすみを返し、俺も寝ることにした。

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:30:50.87 ID:J4dircPH0

消灯して眼を閉じる。すぐにでも訪れると覚悟していた睡魔は一向に足音を鳴らさず、
俺は眼窩に、懐かしの光景が投影されるのを止める術を持たなかった。

『はぁい、キョンくん。今日はいつもと一味違いますよ。みくるオリジナルです!』

俺は未だに、あなたのお茶を超える飲料に出会っていません。

『ふぇぇええ、こんな服きれましぇーん……露出が多すぎますぅ……』

ハルヒの我儘にも随分困らされましたよね。あのコスプレ衣装は文芸部室で、今でも新品同様に保管されているんですよ。

『なっ、ななな長門さん! 今度街に新しい洋服屋さんができたんですけど……その、わたしと一緒に……』

いつのまにか長門ともうち解けてましたっけ。あいつはあなたの名前を耳にすると、必ず寂しそうに眼を伏せます。

走馬燈のように情景が移り変わり、そして最後に―――泣き笑いの朝比奈さんが現れる。

『ふぇ……ぐす……本当に、……本当にありがとうございました……みんなに会えて、ひくっ…良かったです……』


寝返りを打って、もう一度眼を瞑り直す。込み上げた想いは許容量を超えて横溢する。

「また、会えますか」

無意識に零したその言葉を最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。
脇で震える携帯には、気づかぬまま。


当たり前の話だが。返信した宛先は、既に存在していなかったのだ。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 21:34:04.29 ID:J4dircPH0

【三日目終了】

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 23:09:44.58 ID:J4dircPH0

朝日がカーテンの隙間から漏れて、瞼の裏が白く染まる。
まるで深海で留まっていた気泡が水面に浮上するような、穏やかな目覚め。
薄目を開けて携帯を見れば、そこには確かに4/26と表示されている。約束の日だ。
時間にはまだまだ余裕があった。ベッドから抜け出した俺は特に慌てることもなく、ゆっくりと準備をすることにした。
だが、その前に――

「まったく、こんな深夜に誰が送ってきたんだ?」

日付を確認したときに発見した、新着メール受信の表示。
受信時刻は0:24であり、丁度俺が眠った直後に来たことになる。
朝食代わりの総菜パンを頬張りながら、片手間にメールを開いてみる。

「……なんだ」

別に未知のメールに心躍らせていたわけじゃあないが、あまりにもつまらない内容に溜息をつく。
果たしてその内容は、宛先が存在しないことを示すエラーメールだった。
しかし俺には昨晩誰かとメールした記憶はなく、それを証明するかのように昨夜のログは真っ白である。

「サーバーのミスってやっぱあるんだなあ……」

と。携帯会社の怠慢に愚痴っていた時だった。

「痛っ……なんだ?」

"――絶対に役に立ちますから 憶えていて欲しいんです――"

ザー、というTVの砂嵐のような音が頭蓋骨の中で残響し、急性の偏頭痛が、一瞬だけ俺を襲っていった。
おかしいな。睡眠は十分で精神的肉体的両面で疲労はなく、コンディションは抜群のはずなんだが。
しかし頭痛は一過性のものだったようで、俺は特に気にとめることなく、朝食を続けることにした。
これくらいで頭痛薬を服用しているようじゃ、俺の精神はとっくにパンクしてる。

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 23:31:56.78 ID:J4dircPH0

さて。俺的に一番良いと思う服を選び、髪を軽く整えて鏡の前で風貌を確認すると、
どこか冴えない男が、胡散臭そうに片眉を釣り上げてこちらを見つめていた。誰だコイツは。俺は知らないぞ。
だが、俺の十八番「現実逃避」も、真実を写す鏡には全くの効果ナシである。
でもまあ、これが俺ができる最大限のお洒落なんだし。もしハルヒに

「あんたふざけてんの? 出直してきなさい!」

なんて文句を言われてもしょうがねえよな。
腕時計を見る。8:30に駅前で、というのが約束の内容だった。
まだかなり余裕はあるが……たまにはハルヒを待ちうけるのもいいだろう。
俺は家人にいってきます、と言おうとして、

「ん………」

寝ぼけ眼を擦りつつ階段を下りてきた妹に気がついた。
非常に不味い。ここで妹に捕まったりしたら、まず間違いなく遅刻するだろう。
ハルヒの底冷えした冷笑が眼に浮かぶ。だが、家人に黙って外出するのも気が引けるしな。

よし、ここは――

1、行ってきますと叫んでダッシュだ。
2、穏便にことを済ませよう。妹には悪いが、帰ってきてから謝ればいいし。

>>397

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 23:33:14.94 ID:Y5EEHvyI0

1

424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 23:55:58.03 ID:J4dircPH0

ここは――思いっきり叫んでダッシュだ。
下手に隠密行動したところで、嗅覚鋭い妹に効果はない。
俺は軽く息を吸い込み、

「行ってきます!」

近隣住民の方々もびっくりの大声で出発を告げ、玄関を飛び出した。
自己最短記録で愛機に跨り、初速から超スピードで駅前に向かう。
景色が流れていく。振り返っても妹が追いかけてくる気配はない。
ははっ、流石のあいつも、ここまで来たら追いつけまい。俺はしてやったり顔で、軽快にペダルを漕いでいた。
―――風を切る音に混じる、眠そうな声を聞くまでは。

「キョンくんどこ行くのぉ〜?」

…………まじかよ。
のど元まで迫り上がった溜息を飲み込んで急ブレーキ、180°ドリフトからUターン、自宅に逆行する。
腰に巻き付いて離れない妹を、家においてこなければならない。
約束の時間には大丈夫かって? 間に合うわけねーだろこんちくしょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「それで―――もう言い訳は終わりかしら」

虚心坦懐の面持ちで、ハルヒはばっさりと切り捨てた。ここまで信じてもらえないと、いっそ気持ちがいいね。

「言い訳言い訳って、ほんとの話だっつーの」
「妹ちゃんを素材に嘘つくなんて、信じらんないわ」

現在俺は周囲の視線を一身に受けながら、ハルヒの機嫌修復に奮闘中だ。
予定の急行は既に駅を発っており、次の普通電車までは数分の間隔がある。

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/09(日) 00:23:09.09 ID:dOB8nj920

「遅れたのは悪かった。この埋め合わせはあっちでちゃんとするから、機嫌直してくれよ」

手を合わせて懇願する。だがそんな俺には目もくれず、

「それも怪しいわね。あたしを待たせるならまだしも、予定時刻に遅れる時点で意識の低さが伺えるわ」

ぷいっ、と顔を背けるハルヒ。やっぱ月並みな科白じゃ駄目か。
俺がどう宥めようかと頭を抱えていると、背広を着た若い男が生温い流し目を送ってきた。
さっきから俺たちの脇を通り過ぎるやつらは、揃いも揃ってこんな視線を向けてくる。
それはクラスメイトがたまに見せるそれと酷似していて、俺は視線を向けられる度に、
通行人とクラスメイトが不可視の共通意識で繋がっているんじゃないかと不安になる。

「どうやったら許してくれるんだ?」
「自分で考えないと意味ないでしょー」

ハルヒは俺の甘えを許さない。物腰は柔らかくなっているから、あともう一押しってところなんだが。
――よし。ここは逆転の発想で、別の感情でハルヒの怒りの噴出口を塞いでしまおう。

1、相変わらず綺麗な髪だ
2、良い服だな。いつも制服だから新鮮だぜ
3、もしかしてメイク……してるのか?

>>470

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/09(日) 00:25:11.99 ID:NRYBZl+GO

2

532 名前:ハルヒのコーディネートに時間かかった……[] 投稿日:2007/12/09(日) 01:05:36.25 ID:dOB8nj920

「そ、そういや今日の服、よく似合ってると思う」
「急に何言い出すの?」
「なんかこう、ほら、少女のあどけなさの中に、一抹の大人っぽい女性の雰囲気があるというか」

ダメダメだ。ハルヒみたく毀誉褒貶に慣れていないので、ついどもってしまう。
駅に到着したときに一度見たが、もう一度隈無く見直してみるか。あ、そこ、変態とか言うなよ。

えーっと……黒のチュニックブラウスに、ふんわりとした新雪を連想させる白のウールコート。
春らしいピンクのフレアスカートからすらりと伸びた足は、レザーのロングブーツに収まっている。
軽く開いた胸元に光るダブルモチーフのネックレスが印象的、と。

なんだ。言うことは一つじゃないか。別に小難しい文句を考える必要はない。
こういうのは勢いが大切で、思ってることをそのままそのまま言えば大抵なんとかなる。

「だからさ、俺が言いたいのは……」
「はっきりしなさいよね。もにょもにょ言ってても聞こえな――」

うるさい。お前が静かにしないから言えないんだろ。だから、俺が言いたいのは――

「お前がとんでもなく綺麗で、そいつと一緒に一日過ごせる俺は幸せ者だな、ってことだ」

一気にまくしたてる。鏡がないから分からないが、たぶん、いや確実に俺は赤面している。
こんな機会は初めてなんだ。少々の初心さは多めに見て欲しいね。俺の賛辞をもろに浴びたハルヒはと言えば、

「え、あ、その」

などと言葉を紡げず、先刻の俺以上に返答に窮していた。混乱した小動物みたいで面白い。
素のままでも十分な秀麗さを誇るハルヒだが、案外直球の褒め言葉を受けた経験は少ないのかもしれないな。

583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/09(日) 01:42:12.30 ID:dOB8nj920

僅かに髪から露出した小柄な耳が、赤く染まっていく。ハルヒはそれから視線を滅茶苦茶な軌道で泳がせたあと、

「あ……あんたもかっこい―――」

俺に何か言いかけて、その直後ホームに進入してきた電車の音にかき消された。
無機物に殺意を覚えたのはこれが初めてかもしれない。
何故ブレーキの摩擦時にあんな甲高い音が鳴るのだろう。今日も普遍の物理法則に憤りつつ、

「それじゃ、行きますか」
「うん」

俺とハルヒは、並んで電車に乗り込んだ。
車内は、座る場所がちらほら見当たるくらいに空いていた。
テーマパークの正式オープン当日ということで満員を想定していたのだが、
大半の客は一本逃した急行に、ぎゅう詰めになって運ばれていったのだろう。
まさに災い転じて福となる。俺の日頃の善行を、神様は見てくれていたのだろう。いや、冗談抜きで。

「……………」

ハルヒは車窓を飛びすぎる風景を眺めていた。
沈黙が俺たちの間に影を落としていたが、それは温かく、居心地の悪いものではなかった。
なんとなしに、俺も風景を見るフリをして、窓に映ったハルヒの姿を眺めてみる。
そこで、さっきは服ばかりに着目して見抜けなかった、ふたつのことに気がつく。
ハルヒは薄化粧をしていた。黒髪も、まるで一本一本梳ったかのように艶やかだ。
そう、思わず理性を放擲してでも、触れたくなるほどに―――

「あ、キョン! 見えてきたわ。あれじゃない? っていうか、あれしかあり得ないわよね」

ハルヒの声に我に返る。細い指の指す先。そこには、俺が知っているどの遊園地よりも大きなテーマパークがあった。
遠目でもその違いは一目瞭然だ。久しく忘れていた高揚感が、俺の中に生まれ始めていた。

593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/09(日) 01:46:42.50 ID:dOB8nj920

【四日目 朝 テーマパーク到着】

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 20:24:22.37 ID:cKUa0qce0

「ある程度は覚悟してたんだけど、すっごいわね……」
「あぁ……俺の予想を遙かに上回ってる」

人混みに揉まれつつ、最寄駅から徒歩10分。俺とハルヒは二人揃って、嘆息の溜息を吐いていた。
といってもそれは駅からテーマパークまでの道に等間隔に植えられた桜や、凱旋門と比べてもほとんど遜色のない入場門に対してではない。

『いつまでかかってんだ、遅ぇーんだよ!』
『子供がいるんですが、この近くにトイレは――』

俺の視線の先には、まるで砂糖に群がる蟻のように入場門に殺到する群衆の姿があった。
喧々囂々の大混雑である。キャトルズ・ジュイエのシャンゼリゼ通りでも、ここまでの群衆は拝めないだろう。
警備員が個々奮闘しているものの、波となって押し寄せる大群にはあまり功を奏していないようで、

『おい――君たち―――さい!』
『列なんて――どうでも―――なぁ―国木――?』

え? 一瞬だけ、喧噪の中によく知っている声が混じっていた気がして視線を転がす。
既に声主は人波に消えていた。気のせいだったのかもしれない。

「どうする? このままじゃ全部のアトラクションまわるどころか、入場するのもままならないぜ」

ハルヒに問いかける。群衆に興味を失い、意気消沈しているかに思われたハルヒは、

「そうね、確かにこのままじゃ人混みに揉まれて一日が終わっちゃうわ」

しかし大胆不敵な笑みを浮かべ、

「普通の入場方法で入るなら、ね」

まるで大人を出し抜く子供のように、悪戯っぽくそう言った。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 20:58:53.24 ID:cKUa0qce0

「その言い方からするに、普通の入場方法以外の方法があるみたいだが……初耳だぞ、俺は」
「あんたねぇ、こんな簡単なこと考えなくても分かるでしょ?」

眉を顰めて呆れるハルヒ。その物言いが気に入らなくて、俺は足りない頭を絞る。
前売券はとうの昔にsold outしている。当たり前だ。
俺は気に留めていなかったが、完成が近づくにつれ世間では随分と有名になっていたからな。
とすれば、俺たちが通常方法以外で入場するには、非公式な方法を用いることになる。
例えばそう、テーマパークのオーナー、もしくはそれに準ずる人物とのコネクションを使うとか――そこまで思考を進めて、答えに気づく。

「あぁ、鶴屋さんに頼んだのか」
「よくできました」

光栄だね。だが、その小学生の先生を彷彿とさせる口調はよさないか。

「あたしね、昨日鶴屋さんに会って今日のことを話したの。
 前日いきなり押しかけても無理かな、って半分あきらめてたんだけど……
 流石はSOS団名誉顧問ね、二つ返事で特別優待チケットをくれたわ」

バッグの中を漁っていた手が止まる。
そしてハルヒは、まるで神秘的な宝物を掲げるように、二枚の紙片を取り出した。

「じゃじゃーん。これで優待パスが貰えるはずよ。あたしに感謝しなさいよね、キョン」
「感謝してるに決まってるだろ。」

素直に謝辞を述べる俺。実際、これがなけりゃ俺たちは延々と待たされることになっていただろうからな。
しかしここで引っかかるのが、昨日の下校時、ハルヒが俺を引っ張っていかなかった理由である。
どーだっていいと言えば別にどーだっていいことなんだが………
1、やっぱ気になる。聞いてみよう
2、折角ハルヒが用意してくれたんだ。さっさと入場するか。  >>40までに多かったの

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:19.65 ID:3S0MSM/R0



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:19.81 ID:9tU75C5OO



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:51.59 ID:t95O7jXQO

1

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:01:06.63 ID:fc6ubvUJO

これは2でしょ!

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/12(水) 21:01:50.04 ID:IH8EySHC0



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:35:15.33 ID:cKUa0qce0

……やっぱ気になる。ハルヒらしくない行動には、たとえ小さくとも必ず意味がある。
ハルヒの精神分析医古泉には敵わないものの、俺にだって行動分析くらいはできるのさ。

「適当に聞き流してくれてもいいんだがな。昨日帰るとき、なんで俺に着いてくんな、って言ったんだ?
 鶴屋さんに説明するの、お前じゃ大変だったんじゃないのか?」

入場口に向かいながら尋ねてみる。
ハルヒが群衆を割ってずんずんと歩を進める様はモーゼの奇蹟の再現みたいで圧巻だったが、
あれほど密集していた群衆が何故いとも簡単に割れたのかは、疑問にする方が野暮というものだろう。

「あたし一人で十分だと思ったからよ。二人で行く必要性はどこにも見当たらないわ」

実に合理的な意見だ。でも同時に、一人だけで行く理由も見当たらないな。

「……………」

俺の詭弁に腹を立てたのか、ハルヒはぶすっと押し黙った。後ろ姿なので表情は伺えない。
もしかしたらあの後私用があって、その所為で俺と一緒になりたくなかったのかもしれないな――
と、自責の念に苛まれてけていたその時だった。

「へ、変に誤解されたら困るでしょ。こんなこといちいち気にするなんて、馬鹿じゃないのあんた」

前方から声が飛んできた。声質に怒気は含まれておらず、俺はほっと胸を撫で下ろす。
にしても変な誤解って何だ? 聡明な鶴屋さんのことだ、誤解なんて生まれようもないんだが。

「なあハルヒ――」
「連絡が行っていると思うんですけれど……ええ、そうです」

しかし水を向けたときには既に時遅し。ハルヒは制服に身を包んだ受付の人に、先ほどの紙片を見せていた。
やがて新しい二枚の紙片が、俺とハルヒに手渡される。楽しい一日を、という声を背に。俺たちは、終にテーマパーク入場を果たしたのであった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 22:03:58.87 ID:cKUa0qce0

「……………」
「わぁ……………」

テーマパーク内に入場してから数分後。
俺とハルヒは、今度こそ感嘆の息をついていた。
まず最初に目に入るのが、踏破できるか不安になるほどの敷地の広大さである。
入場門を背にして左手に臨む山はとても険しく、教えて貰わなければ誰が人工物だと思うだろう。
縦横無尽に張り巡らされた曲線は、ジェットコースターのレールだろうか。あんな軌道が有り得るとすれば、の話だが。
右手に臨むのは、これまた巨大な湖である。湖面は快晴の空を反射して、きらきらと覗色に輝いている。
その情景は、魅入ってしまうほど綺麗に澄んでいて、大自然の湖と比べても遜色がないほどに雄大だった。
大きな波紋を残しながら湖面を散歩している客船には、多くの船客の姿がある。
そして遙か前方に――入場客を待ち受けるようにして傾斜している、自然の丘があった。
距離があるせいではっきりと視認できないが、奥には廃屋に近い古い建物が見える。あれもアトラクションの一つなのだろうか?

「とりあえずどこ行くか決めましょ。効率よくまわっていかないと、時間なんてあっという間だし」

無料配布のフィールドマップが広げられる。
アトラクションを示す赤点はそれこそ無数に点在し、非常に盛況しているセレモニー当日、
待ち時間を考慮すれば全部まわる事なんて夢のまた夢なのだが……
ハルヒと俺には、そんなアノマリーをいとも簡単に解決する、魔法のチケットがあった。
言わずもがな、先ほど紙片と交換した「特待パスポート」である。
説明は不要だろうが、このパスポートさえあれば、俺たちは待ち時間を吹き飛ばして全てのアトラクションを体験することができる。
これでますます、鶴屋さんには頭が上がらなくなったな。

「ねえキョン、あんたは一番最初に行きたいところってある?」

さて――瞳を小さな子供のように輝かせているハルヒが俺の返事を待っていることだし、
そろそろ、記念すべきテーマパーク第一号のアトラクションを決めるとしますか。

「なあハルヒ(    )はどうだ?」    >>84 自由記述 ただしテーマパークにありそうなのに限る

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 22:06:36.07 ID:fc6ubvUJO

おばけ屋敷

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 22:33:43.43 ID:cKUa0qce0

「ハルヒ、幽霊屋敷なんてどうだ? ほらこれ、Hill of deadlineってやつだ」
「この丘の上にあるヤツかしら」

フィールドマップから丘の方へ視線を移し、目を細めるハルヒ。
この距離じゃ見えないだろうに。ハルヒはしばし緘黙した後、

「最初から幽霊屋敷に行くってていうのはどうかしら」

躊躇の気配を見せたハルヒに、加虐心がそそられる。なあ、お前もしかして――

「さっさと行くわよ!」

唇を堅く引き結んで、奮然と歩き始めるハルヒ。お前の意気込みはよく分かったよ。
でもな、一応いっとくと、直通の巡航バスのバス停はそっちと真逆方向だぜ。
いや、お前が丘まで踏破するというのなら止めはしないんだが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

バスの凝った内装に感心しつつ、窓から見えるテーマパークの景観に今一度感動しつつ、
ほぼ無振動の快適なバスの旅を終えた俺たちは、

「……まるで何処かの廃墟をそのまま運んできたみたいね」

快晴の空の下だというのに、まるで豪雨に打たれて崩壊寸前のような廃館の前に佇んでいた。
内奥から滲み出るような不気味さ。ここら一帯だけ、空気が重い。バスに引き返す客もいるほどだ。
間近に見るまでは屋敷攻略の自信に満ちあふれていた俺だったが、今ではその気概も衰えつつあった。
なあハルヒ、確かに一発目からお化け屋敷は難があったのかもしれん。俺は一時撤退を進言しようとし、

「ふぅん、面白そうじゃない」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 23:02:35.96 ID:cKUa0qce0

それが不可能になってしまったことを悟った。
後悔先に立たず。調子に乗って幽霊屋敷を提案した十数分前の自分を説教したい。
お前はいったい、何を考えていたのかと。それからハルヒ大胆不敵な笑みを覗かせて、

「ここまできたら引き返せないわ。
 そうね、あたしたちが最短でこの館を攻略するのよ。
 幽霊やお化けなんてぶっ飛ばしてやるわ。所詮つくりものよ。つ、く、り、も、の」

廃館の入口に向かって歩き始める。仕方なく後に続く。
どれだけ幽霊屋敷が不気味であろうとも、怖いモノ好きの人間はたくさんいるようで、
入口には末尾が判別できないほどの行列ができていたが、

「おふたりですね。それでは此方の道をお進み下さい」

係員に誘導されるまま、俺たちは一秒も待つことなく館の中に足を踏み入れることができた。
無防備な俺の背中に、何百本という鋭利な視線が突き刺さる。ちらっと振り向けば、そこには恨めしげにこちらを見据える待機客が。
……そう怒るなよ。俺だって順番を譲ってやりたいくらいなんだ。
ま、仮初の非日常性に嬉々としているハルヒが、考えを改めてくれるのは万に一つもありえないんだけどさ。

「それでは、ここからは自由にお進み下さい。無事の帰還を」

中央ホールのようなところで、係員が足を止めた。先導は終わりのようだ。深々と一礼して去っていった。

「なんかリアリティあっていいわね。それっぽい雰囲気が出てるわ」

二人きりになったホールで、ハルヒが呟く。所々破けた壁紙の上には、絵画がいくつも飾られていた。
性質の悪いことにどれもこれも人物画だ。絵の中の瞳が動くはずないのに、監視されているような錯覚に陥る。
先に進もう。留まっていても仕方がない。閉ざされた来た道とは別に、ドアが3つ並んでいる。
マンションのドアのような、金属質のドア。押しただけで脆く壊れてしまいそうな木製のドア。そして比較的真新しい、真鍮製のノブがついたドア。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 23:07:17.94 ID:cKUa0qce0

「どれにしようか迷うわ。キョン、あんたが決めていいわよ」

気色の違う三つのドアを前に、気軽に選択権を譲渡するハルヒ。
決めるのはいいが、後で文句言っても受け付けないからな。

ここは―――


1、マンションのドアのような、金属質のドア
2、押しただけで脆く壊れてしまいそうな木製のドア
3、比較的真新しい、真鍮製のノブがついたドア


に進もう。

>>125

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/12(水) 23:11:01.94 ID:VBw1a2P+0



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 00:13:13.66 ID:auBZ9bfH0

ここは真ん中の、押しただけで壊れてしまいそうなドアにしよう。
大きく亀裂の入ったからは今にも屍の手が突き破って来そうだし、
ドアノブの鍵穴からは怨霊の息づかいが聞こえてきそうだし、これぞ幽霊屋敷、って感じがする。
さっきまで怖じ気づいてたのにどういった心境の変化だ、と思われた方もいるだろう。
その方の為に説明するならば、恐怖心なんてのは、心のあり方によっていくらでもコントロールできるのだ。
最悪の未来を予測するから、あり得ない平穏無事な道程を期待するから、怖くなるのである。
だから俺は気持ちを切り替えて、飄々とした態度で幽霊屋敷攻略に臨んでいる―――というのは勿論嘘。

「じゃあこのボロいヤツにしようぜ」
「そうね、あたしもそれがいいな、って思ったの。じゃ、行きましょう」
「どうした、足が止まってるぞ」
「あたしはあんたの後ろでいいわ。後方警戒は任せなさい」

先行させようと背中を押すハルヒに、形だけの抵抗を見せて、

「それじゃ、開けるぞ」

俺はゆっくりとドアノブを回した。ギィィ、と独特の嫌な音を響かせてドアが開く。
広がった視界に洋風の広間が現れる。傷んだソファとテーブルは壁際の暖炉に照らされて、橙色に染まっていた。
あくまで憶測だが、談話室、といったところだろうか。

「洋館、って感じね。でもこの部屋からどこかに通じるドアはないわ」
「何処かに隠し扉があるんだろ」
「あら、考えてることは一緒だったのね」

探偵よろしく視線をあちらこちらに走らせるハルヒ。
でもなハルヒよ、実際に部屋のオブジェに触らず見ているだけならそれは調査じゃない。ただの観察だ。

「う、うるさいわね。そういうのはあんたの仕事でしょう」

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 00:23:52.05 ID:auBZ9bfH0

そうかい、と返してもう一度部屋を見渡してみる。闇雲に調べてもキリがない。
最初の部屋からどん詰まり、ってことはないだろうから、隠し扉を見つけるヒントがあるはずだ。

まずは――


1、テーブルの上の写真立てに注目する。
2、ガラス張りの棚に注目する。
3、本棚に注目する
4、暖炉に注目する

>>145

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/13(木) 00:24:52.58 ID:Zd1ynlc90

1+2 = 3

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 00:39:30.59 ID:auBZ9bfH0

壁にはたくさんの書物が陳列されている本棚があった。
背表紙は俺の知らない言語で書かれており(少なくとも日本語や英語ではない)なんの本かは分からない。

「でもま、中身見たら何か分かるかもしれないし」

一冊抜いてみる。抜いた刹那は身構えたものの、何かが作動した気配はなかった。
今ちょっと警戒してたでしょ、なんてからかってくるハルヒはおいといて本を開く。
相変わらず中の頁も俺の知らない数式と文字ばかり。既知の情報は何もない――と、本を閉じかけたその時だった。

「なんだよこれ……」

俺の目にとまったのは、一枚の挿絵だった。
複数の動物の特徴を継ぎ合わせたような怪物が、苦しそうに悶えている。
キメラ、か。耳にしたことはあるが、そんな空想の産物が、何故こんな学術書に?
俺はしばらくそれに魅入っていたが、

「なんか見つけたの?」

ハルヒの弾んだ声で、我に返った。慌てて本を元の位置に戻す。

「いや、特に手がかりはなかったぜ」
「そう。あ、今思い出したんだけどね。この館主の設定に、何かの研究してる、ってのがあったのよ。
 どんな研究してたのか、キョンは興味ない?」
「いや、別にないな………」

いやな妄想を振り払いつつ、俺は手がかり探しに戻ることにした。

1、テーブルの上の写真立てに注目する。
2、ガラス張りの棚に注目する
3、暖炉に注目する        >>155

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/13(木) 00:39:56.69 ID:ewtkYurM0



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 01:11:08.96 ID:auBZ9bfH0

視線を手近なものに移す。ハルヒの座るソファの前――
傷だらけのテーブルの上には、暖炉の炎に煌めく写真立てがあった。
セピア調のぼろぼろの写真が入っている。

「相当昔の写真でしょうね、それ」
「みたいだな。これに写っているのは誰なんだろう?」

ハルヒは暫く考え込むそぶりを見せてから

「ここの館主じゃないの。一人暮らしだったみたいだけど」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって。ソファとテーブルは一組しかないし、暖炉も部屋全体を暖めるには不十分な大きさだわ。
 一人が近くに寄って暖を取るぐらいしかできないでしょうね」

ふむ。ハルヒの推理はもっともだ。
淡泊なアンティークから推測するに、館主――いや博士と呼ぶべきか――は奥さんも子供もいなかったのだろう。
研究に人生を注ぐとは、なんともストイックな生き方だね。寂しい人生と言えばそれまでだが。
設定上の人物に想いを馳せながら、俺は最後に残していたガラス張りの棚をチェックすることにした。
ガラス扉はロックされていて開くことはできないものの、収納されているモノを見ることはできる。

――綺麗なコーヒーカップが三つに、ポットが一つか。

「………ん?」

突如、強烈な違和感が俺の脳髄を走り抜ける。おかしい。
決定的な何かが俺に異常を伝えている。いくつもの情報が、錯綜する。
廃墟となった館。一人暮らしだった博士。小さな暖炉。3つの綺麗なコーヒーカップ。そして館の何処かで行われていたという研究――
全てが、繋がる音がした。未だに答えが分からないのか、不思議そうに首を傾げているハルヒに教えてやる。

「研究室への入口はこの裏だよ。手伝ってくれ、俺だけじゃ少し重い」

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 01:34:35.91 ID:auBZ9bfH0

「どうしてそんなことが分かるわけ? ちゃんと説明しなさいよ」

俺が隠し部屋を見つけてしまったことが不満なのか、ハルヒは頬をふくらませている。
教えを請うときは行儀良くするもんだぜ。ま、元より全部説明するつもりだったんだから結果に変わりはないが。

「博士は何かの研究をしている。でもその研究内容は明かされていない。どうしてだと思う?」
「さあ。生涯をかけた研究だもの、発表したくなかったんじゃないの」

ハルヒは投げやりに答えつつ、ガラス棚の左側に手を添えた。

「違うよ。恐らく博士は、発表できないような研究をしていたのさ」
「発表できない研究って……」
「それは後で教えてやる。
 博士は一人暮らしだ。それはあの褪せた写真と、この部屋のオブジェがほぼ証明してるよな」
「ええ、それはあたしにも分かったわ」

と、ここで俺は先ほどのハルヒよろしく、ジェスチャーで探偵を演出しながら、

「じゃあ何故、一人暮らしの博士の館に、コーヒーカップが3つもあるんだ?
 しかも一度も使われていない、綺麗なままで」
「あ!」

驚きにぱかーんと口を開くハルヒ。大口開いてることを指摘しつつ、俺は棚をゆっくりとスライドさせた。

「このガラス棚は、研究室への隠し扉を隠すためだけに設置されていたんだよ」

最後によいしょと押し切って、棚を完全に元位置からずらす。果たしてそこには、壁に窪むような形で奥に続く道があった。
暖炉の炎が届かない、薄闇の世界への入口だ。俺はハルヒの耳元に、声を殺すようにして囁いた。

「ここから先が本番だ。博士が研究してたのはな、たぶん人体実験だ。研究室にはキメラが待ってるかもしれないぜ?」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 01:53:17.66 ID:auBZ9bfH0

びくり、と身を震わせるハルヒ。いつのまにか俺の心に巣くっていた恐怖心は消えていた。
そしてその代わりと言っちゃあなんだが、ハルヒが怖がる様子を見てみたい、なんて背徳的感情を抱いている自分がいて。

「行こう。来た道は閉ざされてるんだ、脱出するには進むしかない」
「ええ、そうね……」

先刻同様俺を先頭に、隠し通路に足を踏み入れる。
僅かな感触を腕に感じて振り向けば、ハルヒが小さく袖をつまんでいた。

「どうしたんだ、今になって怖くなったのか?」
「暗いからはぐれないようにしてるだけよ。SOS団団長のあたしに、怖いモノなんてないわ」
「そうかい」

拗ねたように顔を背けるハルヒに、不意打ちを食らう。
庇護欲をそそる仕草は朝比奈さんの専売特許だったのにな。

「安心しろ、俺が――」

虚勢を張っているハルヒを宥めようと、俺が声をかけようとしたその時。
後ろから微弱な光をもたらしてくれていた暖炉の炎が、急速に弱まっていき……フッ、と消える。
そして同時に……カーペットをずるずると這い回るような音が聞こえてくる。暗闇の中でも分かるのは、それが人間じゃない、ということ。

「――ッ」

ハルヒの袖をつまむ力が、一層、強くなった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 20:43:15.36 ID:La+IXiXH0

「パニックになるな。俺が先導してやるから」

ぎゅっと目を瞑っているハルヒにそう言い聞かせ、壁伝いに通路を進んでいく。
這いずる音は、だんだんこちらに近づいてきていた。
足下に気をつけながら10mほど歩いたとき、俺の手が、壁とは違う金属製のドアに触れた。
独特のザラザラとした感触。表面は酷く錆び付いている。

「先に入れ」
「え………なに、きゃっ!」

重いドアを押し開き、驚きに目を見開いたハルヒを放り込む。後で「女の子を手荒に扱うな!」などと小言を食らうのは必至だが、
男の俺が先に安全圏に逃げ切る事なんてできないし、こうするしかなかったんだ――って、俺は一体誰に弁解しているんだろうね。

「ハッ………ハッ………」

喘ぐような呼吸音とともに、這いずる音が間近に迫ってくる。
だが、いよいよ俺の立ち位置に接するといった刹那――追跡の気配が一転し、静寂が訪れた。
ここで相対しているのが捕食者なら、とっくに襲われて血肉を貪られている距離。暗闇に慣れてきていた目を、更に凝らす。

「……なるほどね」

――――――――――――――――――――――――――――――

錆び付いたドアを開けると、脇から白い何かが飛び出してきてきた。幽霊みたいに顔を青白くしたそいつは、一瞬でドアを閉鎖した後、

「もう、なんですぐにこっちに戻ってこなかったのよ!」

どうやら一人にしてしまったことにご立腹のようである。悪い悪い、ちょっと手間取ってな。でも団員の身を案じるなんてお前らしくないじゃないか。

「俺が怪物に丸呑みされたんじゃないか、とかゾンビに襲われてるんじゃないか、なんてB級ホラーレベルの想像でもしてたのか?」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 21:12:56.36 ID:La+IXiXH0

「そんな子供みたいなこと考えるわけないでしょ!
 第一ね、化け物なんて生物学的に存在し得ないし、幽霊とか霊障の類は科学的に解明できるってこの前TVで……」

舌鋒鋭く「お化けはいない」と主張するハルヒに、俺は辟易せざるを得なかった。
あれだけ常日頃から盲目的に未確認生物の存在を信じているお前が、こうも簡単に持論を曲げるとはね。

「お前この前まで幽霊がいたらいいわね、とかなんとか言ってなかっけ?」
「それはあくまで希望的観測よ。いたらいいな、とは思うけど」

最近修得した現実的観念を披露されても、正直どう反応すればいいのか困るね。
お前の言い分を吟味すれば、お前はお化けを信じていないが故に、この状況に全く恐怖を抱いていない、ということになるんだが。

「あったりまえじゃない。何度も言うけどね。あたしに怖いモノなんてないのよ」

ハルヒは中空を睨みつつ、自分に言い聞かせるようにいった。

「大した自信じゃねえか……でもさ、ハルヒ」

袖をつままれたまま言われても、説得力は皆無なんだよな。今更ながらに、それを指摘する。

「…………!!」

途端、ハルヒは放り捨てるように俺の腕から離れた。おいおい、何もそこまで過剰反応することねえだろ。

「もしかして無意識下の行動だったのか?」
「………」

ハルヒは喋らず俯いている。無言を貫き通す所存のようだ。
素直になれない団長様にやれやれ、と溜息をつきつつ、俺は辺りを見渡した。
談話室の隠し通路からドアを抜けた先。今現在俺の視界は、闇に塗り替えられた白で埋め尽くされている。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 21:27:29.90 ID:La+IXiXH0

白い壁。白い床。白い天井――。俺は知った。
夥しい白色がもたらすのは清冽さでも清潔さでも清廉さでもなく、純粋な嫌悪感なのだと。
天井に蛍光灯は等間隔でならんでいるものの、それら例外なく切れていて、
光源といえば非常用の常夜灯のみ。緑色の光が、不気味に廊下を照らしている。

「まさに秘密の研究室、って感じだな」
「そうね……」

リノリウムの床が、乾いた足音を反響させる。
ハルヒの口数は目に見えて減っていた。いつの間にか俺の袖は再びハルヒのものになっていたが、
ここでハルヒをからかうほど、俺は鈍い男ではない。もしこれ以上ハルヒの矜持を傷つけたら、二度と口聞いて貰えなさそうだし。

さて―――どこに進もう?


1、通路を直進した先に、非常灯に照らされたドアがある。脱出できるかもしれない。
2、通路はこの先二手に分かれている。右に行こう。
3、通路はこの先二手に分かれている。左に行こう

>>95

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 21:29:59.30 ID:C83CHjHqO



113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 22:07:21.43 ID:La+IXiXH0

白い通路を進むと、三叉路となっていた。
非常灯に一際明るく照らされたドアが、直進したところの突き当たりにある。
左右に分かれた通路は左右対称に設計されたのだろう、見た感じまったく同じで、違いが分からい。

「隠し通路を見つけるのにもあれだけ手間がかかったんだ。ここにも仕掛けが容易されてるに違いない。
 とりあえず虱潰しに調べてみようぜ」

左の通路に進むことにする。論理的根拠は何もない、ただの勘だ。乗り気になってきた俺とは対照的に、

「脱出できそうな扉があるのにわざわざ行くことないじゃない? ほら、あたしはもう十分楽しんだし……」

ハルヒは全く気乗りしないようだったが、

「じゃあ一人で待ってろ。すぐに戻るから」
「行くわ」

考えを改めたのか、俺の"後方警戒"を担当することを勝手に決めて袖をつまみなおした。
どうやらハルヒの脳内では「ひとりぼっち>畏怖対象との邂逅」という不等式が完全に成り立っているようだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「―――なによ、これ」

ゴクリ、と生唾を飲み込む音。それはハルヒの白皙の喉から漏れ出したものだ。
瞳孔を大きく開いて、ハルヒは白骨死体を眺めていた。
その様子は一見、眼前の光景に魅入っているようだったが、俺にはハルヒが今にも逃げ出したがっていることが分かっていた。

「どうも殺されたみたいだな。こいつが博士の死体かどうかは判別できないが」

骸骨は壁に凭れるようにして眠っていた。辺りにこびり付いた血痕は、死体の死因が自殺でないことを物語っている。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 22:34:40.76 ID:La+IXiXH0

左の通路の先にあったのは、博士の私室だった。
ドアには鍵がかかっていようだったが、ドアノブごと破壊されていたので進入することができた。

「日記、か?」

白骨死体から目を逸らし、机の上に置かれた本を手に取る。
先ほどの談話室で手に取った専門書と違い、筆記された文字は全て英語だったが……
残念なことに、俺は英語が得意なわけでもない。最後の頁の走り書きに至っては、文字かどうかも疑わしいほどに歪んでいた。

「やつが逃げ出した、ってどういうことかしら」

突然、俺の肩から身を乗り出してハルヒが言った。あぁ、お前ならこの程度の筆記体は読めて当然だよな。
博士の研究は人体実験に関することだった。ということは、逃げ出したっていうのはその実験体のことだろうか。
しかもこれは憶測だが、博士を殺したのも、その実験体だったりしてな。

「縁起でもないこと言わないでよね」

俺から体を離して、部屋の入口に向かうハルヒ。日記を閉じて、その後を追う。
逃げ出したというヤツとは十中八九談話室に潜んでいたやつだろう、という推理は内緒にしたまま、俺はハルヒに袖を貸した。


博士の私室を出て三叉路に戻ってきた。未調査の道は、来た道を背にして直進と右折の二つ。

ここは――

1、直進しよう。非常灯に照らされたドアがある。
2、右の通路を進もう。

>>128

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 22:36:51.40 ID:WDm6l/dUO

1

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 22:55:39.31 ID:La+IXiXH0

俺がどちらの道に進もうかと思い悩んでいると、ふいに袖が強く引っ張られた。
ちょっと待て、せめてゆっくり歩いてくれないか。幾度となく引き伸ばされている服の繊維が悲鳴を上げてるんだ。

「駄目よ、もうたくさんだわ。あたしは十分楽しんだし、あんたも十分楽しんだでしょ!」

ハルヒは俺の懇願を一刀両断した後、三叉路の真ん中の道を確固たる目的の下行進し、

「これでこの廃館ともおさらばね」

希望に満ちた様子でドアを開けた―――はずだった。
がちゃがちゃ。無情な金属音が、非常灯に照らされた空気を伝わってハルヒに届く。

「あー、非常に残念なんだが……ハルヒ、これを見てくれ」

コンコン。俺は右手の甲で通路の側面に設置されたディスプレイをたたき、

「ロックされているみたいだ。ほら、ランプが赤だろ。
 コンピュータで制御されてるだろうから、お前の十八番、蹴破りも効果は薄いと思うぜ」
「そのコンピュータってのは何処にあるのよ……」

絶望感に苛まれた、乾ききった声。俺は自分が非道いなあ、と自覚しながらも淡々と推量を述べた。

「調べてないトコは一つだ。右の通路の先――恐らく研究室だが、そこにコンピュータがあるんじゃないかと予想するね。俺は」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 00:35:52.06 ID:cJ28/Ryh0

ハルヒを半ば引きずるようにして、右の通路を進む。
予想通り、この隠しフロアは三叉路の真ん中の道を中心にして、左右対称に設計されていた。
もっとも――研究室の中までが、博士の私室と同様であるとは考えられないが。
研究室の前で足を止める。厚みのあるドアは、十数cmほど開いたままになっていた。
物音を立てないよう、慎重に足を踏み入れる。

「惨状ね……滅茶苦茶だわ」

果たして。研究室の中は、まるで台風に直接曝されたみたいな様相を呈していた。
研究に使用されていたと思われる器具――試験管や三角フラスコなど――は尽く破損していて原形をとどめておらず、
貴重な書類と思われる紙束は、机の上に散乱している。ラボの側壁の三分の二ほどを占めるガラスには、幾本もの罅が入っていた。
ガラスはくすんでいたが、辛うじて向こうを透視することができた。正方形の空間が広がっている。
そしてその空間の側面には三つの窪みがあり、鉄格子がはめられていた。

「どう、コンピュータは見つかった?」

控えめなハルヒの声。作り込まれたディティールに感心していた俺はざっと研究室を観察し、

「ん……ああ、これのことじゃないかな。ご丁寧にプログラムまで起動されてるし」

YesとNoが表示されているウィンドウを指さした。光源の曖昧な閉鎖空間のようなこの研究室で、ディスプレイだけが機械的な光を放っている。

「押してみろよ」
「あんたが押しなさいよ」
「いや、遠慮しとく。俺はまだこの研究室に興味があるし」

俺は内心でハルヒの反応を心待ちにしながら、期待に胸を高鳴らせていた。
おそらく。この先に待ち受けるのは、オーソドックスなストーリーに沿ったありがちな展開だ。ハルヒもそれは重々承知しているはず。
だが、俺にはすぐにここを脱出する気は毛頭ない(ということにしている)。
一向に解除プログラムを起動させようとしない俺に痺れを切らしたハルヒは――必然的に、己の手でマウスを動かすことになる。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 01:05:14.08 ID:cJ28/Ryh0

「押すわよ。押したらすぐに走るからね」

小さな手が、まるで爆発物に触るようにマウスを動かし、カーソルがYesに重なる。

「…………」

カチリ。承認を示す画面が表示される。異常事態は起らない。

「杞憂だったみたいね。それじゃちゃっちゃと脱出しましょ」

ハルヒは安堵の溜息をついて余裕の態度を取り繕うとし、

「な、なにあれ――」

表情を凍り付かせたまま、ガラス壁を呆然と見つめていた。ほう、ようやくのおでましか。
鉄格子から解放された異形の獣が――ガラス越しで輪郭は曖昧だが――最短距離を駆け抜けてこちらに向かってくる。

「キョンっ!」

ミシリ、という心許ない軋みを上げて、ガラスが揺れた。衝突したそれは跳ね返り、再び距離をとって突進する。
防護ガラスの耐久値は計りかねるが、精々あと数度の衝突持てば良い方だろう。

「…………やだ、やだぁ」

と。俺は今更ながらに、俺の腕にしがみついているハルヒに気がついた。
それはまるで、寓話のお化けを畏れる子供のように。純粋に庇護を求めるハルヒに、心が揺れ動く。

「ここにいてもいずれガラスは破られる。さっきの扉に戻ろう」

狂ったような奇声を上げている獣の輪郭を背に、俺たちは研究室を後にした。ドアを堅く閉めた瞬間、ガラスの破られた音が壁越しに空気を震わせた。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 01:38:50.61 ID:cJ28/Ryh0

―――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ、はぁっ………」

扉まで全力疾走した所為か、ぷつりと緊張の糸が切れた所為か。
ロックが解除された扉の向こう側で、俺は呼吸が荒いハルヒの背中をさすって、息を整えるのを手伝ってやっていた。
扉はといえば、ハルヒに神速で密閉された後、微動だにしていない。"怪物"もあきらめたのかも知れないね。

「はぁ……もう大丈夫よ。ありがと」
「この下がたぶん出口だ。もう歩けるか?」

こく、とハルヒは頷いた。繋いでいた手を引いて、終わりの見えない階段を下っていく。
何故腕に絡ませていたハルヒの腕を解いて、手を引く形になっているのかといえば、
密着率の高いその手法のまま歩けばハルヒの女性を誇張する部分が俺の腕に当たってしまい、
折角の廃館攻略達成という穏やかな雰囲気を邪念が破壊してしまう危険性を多々孕んでいるからで――話が横道に逸れた。
軌道修正を試みる。

「お前的には、このお化け屋敷はどうだった?」
「……こんなに怖い思いしたのは久しぶりよ。あたしが小学校低学年の時に見た悪夢よりも怖かったわ」

答えは聞かずとも分かっていた。一度さらけ出した後は自分の気持ちに正直なのが、ハルヒである。
この期に及んで強がっていたら、それはそれで尊敬するけどな。

「ねえ。あんたは怖くなかったの?」

階段が中盤にさしかかったとき。ハルヒは拗ねたように唇を尖らせて呟いた。
廃館に入ってから出るまでを反芻する。館探検に恐怖を伴っていたのは――実質、隠し通路を抜けるまでだった。
談話室と隠しフロアを結ぶドアの前。そこで這いずってこちらに近づいてきたモノを確認したとき、俺の中の畏れは消えた。
立体音響、特殊加工されたシリコンに、再現度の極めて高い血痕、
そして絶妙のタイミングを以て登場した、実験生物の挙動を再現する移動機械。冷静に観察すれば、その正体は暴かれているも同じだ。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 02:17:57.38 ID:cJ28/Ryh0

「じゃあ……あのガラスにもなんか仕組みがあったわけ?」

氷解しない疑問を、次々に俺にぶつけてくるハルヒ。
くもったガラスは実験動物に扮した移動機械の不自然な挙動を誤魔化すためだ。
輪郭が朧気なら、パニック状態の人間はほぼ確実に最悪の方向に勘違いするだろうしな。

「あたし、あんたの洞察力を過小評価してたみたいね」

珍しく俺を褒めたハルヒに驚いて視線をやると、頬が上気していた。

「そう……これは団長としてなんだけど……頼れる団員になったというか、なんというか……」

しかも羅列された言葉は支離滅裂だ。自然、俺は優しく声を掛けた。どうした、まださっきまでの興奮が抜けきってないのか?

「前言撤回。あんたはどうしようもなく鈍くて、唐変木で、朴念仁よ」

あまりの温度差に背筋が震える。俺は心配したつもりだったのが、ハルヒには余計な一言だったらしい。
ハルヒの体が纏っていた婉然な空気は塵と消え失せ、今では静かな怒りの炎が燃えていた。
まったく……あの小さな子供のように愛らしかったハルヒは、一体何処にいったんだろうね?
にしても、だ。階段を下りながら、思考に耽る。
もし仮にこのやけに凝った廃館のギミックを解明できていなかったとしても――俺には泰然自若と超常現象を受け入れる自信があった。
確かに未知への畏怖はあっただろうが、いざ異形のモノと相対すれば、落ち着いて行動を選べたはずだ。
俺には一般人とは決定的に違う部分がある。それは、圧倒的な経験の差だ。外宇宙生命体(カマドウマ)と邂逅を果たしてみろ、
あんな実験動物なんて可愛いモグラに見えるね。俺を驚かそうなんて、並の魑魅魍魎じゃ永劫叶わない夢だろうさ。
だからさ、ハルヒ。洞察力とかそんなの関係なく……俺はいつだって、お前を守ってやることができるんだぜ?

「もうそろそろか」
「長かったわねー……なんか一日分の気力を使い果たしたみたい…………でも、」
「でも?」
「なんだかんだ言って、楽しかったわ」

人工ではない、透き通った光が眼下を照らしている。俺たち二人は、喜び勇んで出口に走った。
周囲の客の視線も気にせずに、随感の思いで新鮮な空気を吸い込む。乾いた空気に傷んでいた肺が、蘇る。
廃館攻略を開始してから40分、俺たちはようやく脱出した。―――繋がれた手は、そのままに。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 19:19:22.78 ID:dKg07nL70

出口付近で一礼してくれた係員に会釈を返して、俺たちは人並みに溶け込んだ。
時刻は11時前。高く昇った陽の光に、瞳孔が収縮する。横を見れば、ハルヒも眩しそうに目を細めていた。

「意識してなかったけど、かなり歩いてたみたいね、あたしたち」
「丘の麓まで下ってきたわけか……」

後方に視線をやれば、小さく廃館が見えた。入口に立った時と変わらぬ不気味さを醸している。
今頃館主は、ハルヒと俺の反応に思い出し笑いしながら、新たな侵入者を迎えているのだろう。

「次はどうする? 想像してたより一発目が凄かったから、休憩してもかまわないけど」

ハルヒらしくない消極的な意見に、一瞬面食らった。
俺は肉体的精神的ともにまだまだ元気いっぱいだが、お前が小休止したいなら全然構わないぜ。

「それでこそSOS団員第一号ね。あたしはちっとも疲れてないわよ」

当たり前でしょ、と言わんばかりに胸を張るハルヒ。
俺は幽霊屋敷でのハルヒの恐がりっぷりをからかおうとして、閉口した。
どうせからかうなら、古泉や長門の前での方が二倍楽しめそうだ。リスクも二倍になる諸刃の剣だが。

さて――
片手で器用に広げられたフィールドマップに、視線を落とす。

次は何処へ行こう?

1、アトラクション自由記述「」
2、ん? マスコットキャラクタに人だかりができている
3、小腹が空いたな。何か買うか。

>>305

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 19:24:11.11 ID:TGKVEg+m0

2

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 19:51:14.34 ID:dKg07nL70

現在地から徒歩三分以内で尚かつ二人で楽しめそうなアトラクションを検索していると、
いきなりフィールドマップが取り上げられた。なんだ、気になるアトラクションでも発見したのか?

「キョン、あの人集りはなにかしら? 気にならない?」
「見せ物屋か、マスコットキャラクターでも現れてるんじゃないか」

こういった催しは神出鬼没だ。よって、現れた瞬間に人々の注目の的となる。
ハルヒはしばらくぴょこぴょこ背伸びをしていたが、肝心の人集りの中心までは見えなかったようで、

「行くわよ。アトラクションは逃げないけど、ああいう面白そうなことは追っかけなくちゃ逃げてくからね」

俺の手を引いて駆けだした。
人集りの中心がこちらに気づいて逃げ出すわけもなし、なにも全力疾走することないだろうに。
しかしそんな諌言虚しく、ハルヒは遠巻きの人たちをなぎ倒しながら(語弊があるが概ね正しい)人混みに接近していく。
俺はハルヒという名の暴走機関車に撥ねられた人々に冥福を祈りながら、
はて、このテーマパークのマスコットキャラクターはなんだったっけなあ、なんてことをのんびりと考えていたのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「めがっさにょろにょろ!」

『キャーカワイイー!!』
『にょろにょろだってー口癖なのかなぁ?』

……………………………。
さて。まず俺が衝撃のあまり状況描写をおろそかにし、長門並みの三点リーダ羅列してしまったことを、深くお詫びしたいと思う。
明晰な方ならもうお分かりだろう。人混み最前線に駆けつけた俺たちが目にしたもの。
それは、鶴屋さんをそのままデフォルメしたとしか考えられない、人懐こい笑みを浮かべたマスコットキャラクターであった。

325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 20:11:31.90 ID:dKg07nL70

「鶴屋さんのお父さん、かなり子煩悩な方なんでしょうね」
「言えてる」

いったいこの世の何処に自分が建設したテーマパークのマスコットに、
愛娘のデフォルメキャラクターを選ぶ親がいるのだろう。ま、現在俺はその実例を目の当たりにしているわけだが。
ハルヒといえば唖然とした面持ちで、マスコットキャラクターが愛嬌を振りまく様子を眺めている。

「今日は楽しんでいって欲しいにょろ!」

わぁーい、と歓声を上げて握手を求める子供たち。評判は上々のようである。

「中に入ってるの、本物の鶴屋さんかしら」

周囲に拾われない程度の声量で、ハルヒが尋ねてきた。
へぇ、純粋無垢な子供たちの夢を破壊する気はないようで安心したぜ。

「あたしだってそのくらいの配慮はできるわよ! それで、あんたはどう思う?」
「口癖が偏ってる気がするな。先輩は"にょろにょろ"ばっか言ってるような人じゃない」

「にょろ」を語尾につけるだけなら、素人のバイトにでもできる。
声で判断できれば楽なのだが――ぬいぐるみを隔てているせいかくぐもっていて、判別材料としては不安が残る。

ここは――

1、下手に声をかけるのはよそう。周りには俺たちと鶴屋さんの繋がりを知らぬ子供たちもいるわけだし
2、折角会えたんだ。特待パスポートのお礼も兼ねて声を掛けてみよう


>>330

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 20:15:34.84 ID:jOT5HJbX0



342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 20:44:41.66 ID:dKg07nL70

折角の機会だ。特待パスポートのお礼も兼ねて声を掛けてみよう。
俺は子供たちがマスコットキャラクターから離れた頃合を見計らい、

「もしかして、鶴屋さ――ぐむ」

ぬいぐるみの柔らかい感触に押しつぶされた。
やわらけーあったけー……って、あれ、いつまで抱きしめてくれてるんだろう、
すいません息できません、窒息する、いやマジで死にますって!?

「キョンくん、ちょっと声が大きすぎるっさ。あたしが入ってることは皆には秘密なんだよっ?」

意識が朦朧としかけたその時、鶴屋さんの囁きが聞こえてきた。解放される。
外見ではいい大人がマスコットキャラクターにハグされている風に写っていたんだろうが、実際は圧死寸前だった。
周囲の子供を顧みない浅はかな行動に、しばし恥じ入る。ハルヒに偉そうな口聞いていた自分が馬鹿みたいだ。

「なに一人で堪能してるのよ! 抜け駆けはよくないわね」

ハルヒが、俺の手を引き戻した。マスコットを先行体験してきた俺にご立腹のご様子だ。

「で、どうだったの? 鶴屋さんだった?」
「分からなかったよ。ま、もしそうだったとしてもこの状況じゃどうすることもできないだろうさ」

適当に嘘をつく。ハルヒは不服そうに溜息をついた。昼から客足が増えれば、鶴屋さんは更に多忙を極めることになる。
とてもじゃないが、先輩に俺たちと個人的なお話をしている時間はとれないはずだ。
しかし――俺が謝罪と感謝の意を込めて頭を下げ、この場を立ち去ろうとした時だった。

「そこの二人ちょっと待つにょろ。写真を撮ってあげるにょろ!」

慌てたような声が大きく響く。足を止めて振り返れば、マスコットキャラクター――いや、もう鶴屋さんと呼ぶべきだな――が、こちらに手招きをしていた。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 21:22:52.68 ID:dKg07nL70

俺たちと鶴屋さんの間に道ができる。くりくりとした無機質な瞳が、真っすぐにこちらを見つめている。
ハルヒは最初、その突然の申し出を訝しがっていたが、

「いい機会だわ。撮ってもらいましょ、キョン」

やがて持参のデジタルカメラをマスコットに手渡した。定番品といえば定番品だが……用意周到だね、まったく。

「それじゃあ並ぶにょろ」

もふもふのぬいぐるみハンドが、器用にカメラを構える。
が、もともとカメラが苦手な俺だ。3秒もしない内に、大量のダメだしを食らってしまった。

「きみ、もう少し笑顔をつくるにょろ! 体もこわばってるにょろよ?」

これでも精一杯なんですよ、とアイコンタクトを送る。
限界なのは事実だった。元々俺は写真写りが悪い。下手に作り笑いしても悪化するだけなのである。
首を捻る鶴屋さん。テレパシーが通じたかどうかは定かではないが、俺に無理矢理笑顔を作らせることは諦めてくれたようだ。

「うーん……じゃあ……もっとくっつくにょろ。隙間がないくらいが望ましいにょろね」

えっと、何を仰っているのかよく分からないんですが。
言語処理能力が著しく遅滞化した頭で横に視線を移せば、ハルヒは黙ったままシャッターの音を待っている。なーに私は余裕です、みたいな風に構えてるんだよこいつは。

「もどかしいにょろ!」

と、ぐずぐずしている俺を見かねたのか、鶴屋さんは一旦構えを解いて此方にずんずんと近づき、
これ以上にないくらいにぎゅっと俺たちをくっつけた後、目にもとまらぬスピードでシャッターを押した。
――俺がハルヒの白皙の項に見惚れていた、そんな刹那に。

「それじゃこれは返すにょろ。楽しい一日を過ごすにょろ〜」

363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 21:40:12.77 ID:dKg07nL70

デジタルカメラがハルヒに返却される。
お礼を告げる間もなく、鶴屋さん扮したマスコットキャラクターは人集りに飲み込まれていった。
この分じゃ今日が終わる頃には、鶴屋さんはくたくたになっているんじゃないだろうか。

「……あ」
「……あ」

今更ながらに、体が密着していることに気づき、おずおずと距離をとる俺たち。
ぼっ、と顔が火照る。これじゃあ余計に意識しているみたいだな。
鶴屋さんの介添えがあったにせよ、体を押しつけちまったことを、ハルヒが不快に思ってなければいいんだが。

「こ、幸運だったわね。滅多にないわよ、初日に写真撮って貰えるなんて」
「あ、ああ。是非さっきの写真は現像して俺にも一枚くれ」

ぎこちない会話を紡ぎつつ。俺とハルヒは次のイベントを探して歩き出した。


時刻はもう昼前だ。ここは――

1、昼飯を食べよう。
2、ミニアトラクションならまだ一つくらいいけるかもしれん 自由記述「(大型アトラクションは不可)」

>>369

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 21:42:20.12 ID:KwxtyfII0

2で二人乗りボート的なものに

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 22:18:58.16 ID:dKg07nL70

テーマパークのレストランやファーストフードが混雑するのは、主に昼前からお昼時にかけてだ(俺調べ)。
それに今日の胃袋は機嫌がいいのか、せっかちに食べ物を要求してこなかった。後回しにするか。
腹が減っては軍はできぬと言うが、腹が減っていない状態で食べて、美味しく味わえなくては本末転倒だろう。

「あと一つくらい楽しまないか。幽霊屋敷とマスコットとの邂逅で午前中を終わらすのは勿体ないし」

先に昼食をとりたいのなら別だが、と付け加えるのも忘れない。ハルヒは逡巡する素振りを見せた後、

「そうね、あたしとしてはもっと早くにお昼とっておきたかったんだけど……今からじゃもう遅いわよね」

俺の提案に賛成した。早速マップで、近場のアトラクションを探してみる。
付近にはアトラクションを示す点がまばらにあった。
だがしかし、どれも最低必要時間が30分以上と記載されていて、それらを候補から除外していくと、

「ボートしかないな。お前さえ良ければ、これにしよう」

かくして。午前最後のアトラクションは質素なボートでの湖遊覧という、パッとしないアトラクションに決定された。
まあハルヒが不満じゃないのなら――質素だろうが簡素だろうが、俺はなんでもいいんだけどさ。

――――――――――――――――――――――――――――――

何処までも続く湖の上を、ボートが波紋を残して滑っていく。
乗り始め、まるで沈溺したカナヅチの腕みたいに水飛沫を飛び散らせていたオールは、
コツを掴んでからというもの、しっかりとした手応えを俺の手に、水を押し返している。

「気持ちいいわねー。本物の湖の上にいるみたい」

思わず伸びをしてしまいそうになるくらいに、長閑な蒼穹の下。
ハルヒは日光を乱反射する湖面に瞳を輝かせながら、俺はマイペースにオールを手繰りながら、
他のボートが一隻も見当たらない湖を自由気儘に愉しんでいた。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 00:13:45.03 ID:jJ2dZ8LV0

当初は興味本位でオールを握っていたハルヒだったが、
数分もたたない内に投げ出し、今では俺が船頭の役割を果たしている。
オールを漕ぐのは一見単調な作業のようで、その実、奥深い。
お前も根気よく続ければ、ボート漕ぎの極致に至れたかもしれないぜ。

「いやよ。力仕事はあんたに任せるわ」

即答。ま、答えなんて聞く前から分かってたけどな。

「団長は敬ってしかるべき存在よ。団員は団長から仕事を全部奪う気概でないとね」
「へいへい。ボート漕ぎも団員その一の悲しき宿命ってわけか」

独りごちた俺に微笑んで、ハルヒはボートから身を僅かに身を乗り出させた。
湖底は覗き知れないものの、湖水には濁りが全くといっていいほどない。
ハルヒもそれを知っているのか、二指で静かに、湖面を弄んでいる。
ぱしゃぱしゃという断続的な水音と、ぽかぽかとした陽気が、睡魔の活動を活発化させる。
ボートが湖の中心に来た辺りで、俺はオールを漕ぐ作業を中断した。
なに、ここまでせっせと漕いできたんだ。ちょっと小休止したところで文句は言われまい。
ぐっ、と大きく背伸びをし、これまた盛大に一つ欠伸をする。こんなぽかぽか陽気、昼寝しない方がどうかしてるさ。

「ちょっと休憩させてもらうぜ――」

俺はハルヒにぶつからないように足を投げ出そうとし、

「うおっ、冷てぇ!」

ぱちゃ、という音とともに、ひんやりとした感触を顔面に浴びた。清らかな冷たさに、容赦なく眠気が吹き飛ぶ。
ぱちくりと目を瞬かせている俺は、さぞかし間抜けに見えたことだろう。

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 00:42:12.53 ID:jJ2dZ8LV0

「だーれーが、寝てもいいって許可したのよ」
「これは俺の独断だ。人の睡眠欲にまでけちをつける気なのか、お前は」
「あたしを退屈させる行為を敢えて実践するなんて、大した度胸じゃない」

これだけならギスギスとした掛合いだが、攻撃的な科白を吐き合いながらも、
俺たちは互いに冷笑を湛えていた。ゆっくりと湖面に卸していた右手が、水に浸かる。
そして空気に入り交じっていた感情が、飽和状態を超過した瞬間、

「さっきのお返しだ!」

俺は指先に付着した水を、ハルヒの方へ投げかけた。同時に、ハルヒからも水飛沫が飛来する。

「何がお返しよ! まだ目が覚めきってないんじゃないの?」

応酬に次ぐ応酬。俺とハルヒは、それからしばらく飛沫を掛け合った。
服を濡らさないよう節度はわきまえてあるが、しかし幾度となく繰り返されれば、投擲した総量は両手一杯に湛えた水と等しくなる。
3分後。至る所を濡らした俺とハルヒは、手を掴みあった状態で息を切らしていた。

「……ここらで休戦しないか」
「えぇ……そうね……少し熱くなりすぎたわ」

ぽたり、と髪から雫が落ちる。ぬれた髪のハルヒはいつになく煽情的で、俺は咄嗟に掴んでいた両手を話して、顔を背けた。
行き場の失った手にオールを握らせて、

「そろそろお昼に集中していた客も店を出始める頃合いだ。腹減ったし、戻らないか」
「うん。あんたの所為でこんなになっちゃったけどね」

俺はハルヒの皮肉を一身に受けながら、ボート置き場に向かって漕ぎ始めた。
ボートの軌跡を印づけるように、波紋が続く。乗り始めと同じく、雲一つない蒼穹。
視線を下ろせば、汲々と俺を見つめるハルヒがいた。漠然とだが――午後は、もっと楽しくなる予感がした。

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 01:10:09.71 ID:jJ2dZ8LV0

――――――――――――――――――――――――――――――

「はむはむ、そこらのファーストフードなんかより、はむはむ、比べものにならないくらい美味しいわね」

なあハルヒ。これは常日頃から妹に口酸っぱくして言っていることなんだが……
食べ物をを口いっぱいに頬張りながら感想を述べるのはやめた方がいいぜ。
料理人からすれば直感的な感想は嬉しいだろうが、正面で食事を共にする俺にとっちゃ、絵的に厳しいものがあるんだよ。

「はむ……細かいことは気にしなくていいのよ」

ごくり、とスパイシーチキンサンドを嚥下して宣うハルヒ。
満腹感に綻ばせたハルヒを見ているうちに、行儀の教授をする気が失せてしまうのは何故だろう。
サーモンサラダサンドイッチの肉厚を堪能しながら考える。が、俺が最後の一口を食べ終える直前に、

「あむっ」

どんな手品を使ったのだろう、俺の手に収まっていたサンドイッチは、跡形もなく消失していた。

「サーモンも美味しかったのね。次に来たときはこれにしましょう」

下手人に反省の色はなく。俺は自然と言葉を失った。憐れサーモンサラダサンドイッチ、ハルヒの胃袋で成仏するがよい。

昼時を過ぎたファーストフード店で、俺たちは遅めの昼食をとっていた。
腹が減っていた分、サンドイッチとホットレモネードは至高の美味に感じられたが、
サーモンサラダサンドイッチの半分と、ホットレモネードは現在進行形でハルヒの口に吸い込まれている。
じゅごご、と低俗な音が鳴る。まったく……お前の胃袋はブラックホールか。

「ごちそーさま。この値段でこの美味しさは今までになかったわね」

満足げに完食宣言したハルヒに辟易する。お代が誰の財布から支払われるか知っての発言なのか、それは。

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 01:23:05.40 ID:jJ2dZ8LV0

店内の軽快なBGMに見送られる形で、俺とハルヒは外に出た。
現在時刻、2時13分。午前中に幽霊屋敷という大物を消化した所為で、まだ二つしかアトラクションを巡れていない。
実質、これで俺たちが一両日中にテーマパーク内全てのアトラクションを巡れる蓋然性は無に等しくなったわけだが、

「さ、次はどこに行くか決めましょ」

あくまでハルヒの姿勢に変転はなく、できるだけ多くのイベントを体験するつもりのようだ。
品定めするように、フィールドマップ内の赤点を睥睨している。


さて――次はどこに行こうか


>>525  自由記述(大型・小型なんでも可)

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 01:27:01.82 ID:l2eE1+I5O



649 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 17:16:05.98 ID:wwXYEKl10

午前は幽霊屋敷にボートと静的なものばかりだったから、午後は動的なアトラクションにしよう。
絶叫系の代名詞、ジェットコースターなんてどうだ?

「あんたからそんな科白が出るなんて想定外だわ。
 そういうのは苦手っていうイメージがあったんだけど」

それは酷い偏見だ。ジェットコースターやスライダーみたいな急落アトラクションは大得意なんだぜ。
ま、それも幼少の頃からずっと、絶叫系こよなく愛していた妹に随伴させられたが故に得た耐性なんだけどさ。

「ふーん、じゃあ遠慮する必要なかったのね。
 キョンがどうしてもイヤだっていうなら、今日は勘弁してあげるつもりだったのに」
「本当か? 俺がいやいや首を振っても首根っこ捕まえて引きずっていくつもりだったんじゃないのかよ?」
「それこそ酷い偏見だわ」

呆れたように息を吐いたハルヒを尻目に、ジェットコースターに位置づけされるアトラクション名を探す。
……入場時の予感は当たっていた。高く聳える山の中心に、若干大きな赤点がある。
小見出しの文句は以下の通りだ。
"未体験の疾走感がここにある! 次世代型ジェットコースター『乙』"
漢字一文字で乙。実にシンプルな名前だね。
鶴屋財閥の期待に添えようと不眠不休で制作活動に勤しんだであろう制作者には悪いが……あんたのネーミングセンス、かなりキてるぞ?

「ここからだと、若干距離があるな」
「いい腹ごなしよ。早歩きでも構わないくらいだわ」

そうかい。胃袋の中で踊るサンドイッチを慮りつつ、俺たちは歩き出した。

だがしかし。使い古された言い回しだが――俺は想像もしていなかったのだ。
「乙」という一風変わった名前が意味する、後に絶叫系最強の名を欲しいままにしたジェットコースターの全貌を。

667 名前:>>662 予想はマジ勘弁……[] 投稿日:2007/12/15(土) 18:00:07.57 ID:wwXYEKl10

――――――――――――――――――――――――――――――――

「鶴屋財閥の財力は伊達じゃないわね。どう見ても本物じゃないの」

悠然と構える山の天辺を眺めながら、ハルヒは言った。
衒いのある笑みはまさに"好敵手に不足なし"といった感じであり、十分な自信が窺える
並の絶叫好きなら尻尾を巻いて逃げ出すような迫力に、ハルヒは一歩も動じていなかった。
無論、それは数多の絶叫アトラクションをこなしてきた俺にも言えることで、俺は至極冷静に「乙」を考察していた。
遠目に見えた曲線の交差は、やはりレールだった。
険しい山の壁面を這うように張り巡らされている。目で追うだけでも眼精疲労になりそうだ。
山の構造はプリンみたいな細身の台形状で、乗車スペースまでのエスカレータは内部に設置されている。
だが――既存のジェットコースターをグレードアップさせただけのこのコースには、別段高揚感が沸いてくることもなく、
なんらかの仕掛けがあるには違いないと予想している分、突然の変則的挙動にもさして驚くことなくコースが終わってしまいそうな気がする。

「二名様ですね。それではこちらへ……非常用エレベータをお使い下さい」

相変わらず、万能チケットの効力は絶大だった。
一般用のスロープを使うことなく、山の中腹あたりの乗車スペースにまで一気にワープする。
無線で話は伝わっていたようだ。係員はエレベータから現れた俺たちに一礼すると、

「ご自由に乗車席をお選び下さい。次着までには時間があります」

ここまで優遇されると謝りたくなってくる。

「どうする? あたしとしては一番前がいいんだけど」
「そうだな、俺の希望は――」

1、一番前がいい(身構え不可)
2、一番後ろがいい(身構え可)
>>670

670 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 18:04:01.70 ID:RlhQ+ZKt0

1いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

675 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 18:31:55.72 ID:wwXYEKl10

「―――俺も一番前がいい。後ろも後ろで別の落下感が楽しめるが、最初だしな」
「決まりね。あ、来たみたいよ!」

意見が合致した絶妙のタイミングで、乗車スペースに機体が滑り込んできた。低い駆動音が反響する。
だが、固定具を外されて乗客が次々に降りていった――その時だった。
あるはずのものが欠けている。そんな違和感が俺に危険信号を告げていた。
そしてその違和感に、ハルヒはいち早く気づいたようで、

「フツーさぁ。もっと余韻醒めやらぬ、って感じよね。みんな、不自然なまでにテンションが低いわ」
「確かに。付添人に立たせて貰ってるやつもいるしな」

違和感の正体は、乗客全体に言える憔悴っぷりだった。絶叫系の醍醐味は、スリルによる一時的興奮である。
大抵の場合、隣同士で「すごかったなー」なんて有り体な感想を述べながら降車するもんなんだが――

「乗車下さいませ」

係員の機械的な声に、俺は思考を中断した。
恐らくさっきの乗客はジェットコースター慣れしていない初心者か中級者ばかりだったのだろう、
と勝手に結論づけて最前列に座る。
続けて、俺の右隣にハルヒが座る。発車を心待ちにしているのだろうか、ハルヒには落ち着きがない。手と手は、今にも触れそうな距離。

「なあハルヒ、もしお前が怖いんなら、」

刹那、体の内側から引っ張られるような感覚が俺を襲う。
俺が冗談半分本気半分に言いかけた科白は、強制的に流された。

「――なに――?」
「――なんでも――ない――!」

乗車スペースを飛び出す。風と高い日差しに目が眩む。
高揚感に瞳を燦然と輝かせているハルヒを尻目に――俺は右手を引っ込めた。

685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 19:19:36.13 ID:wwXYEKl10

レールの機会補助による急加速の後に待ち受けていたのは、これまた重力に任せた急降下だった。
速い。まだまだ許容範囲内だが、序盤でこのスピードは異例だ。

「キャ―――!!!!」

黄色い悲鳴が後方から飛んでくる。右隣のハルヒといえば、俺の予想に寸分違わぬ澄まし顔。
急降下のお次は急上昇だ。強烈なGが体にかかる。空気が一気に質量を帯びたような錯覚に陥る。

「ねぇ――見て―――!」

興奮した声に振り向くと、そこには100万ドルの夜景に勝るとも劣らぬ絶景が広がっていた。思わず息が漏れた。
テーマパーク内を一望できる、束の間の俯瞰視点。固定具がなけりゃ、ハルヒのデジカメに納めていたところだぜ。

「――――うぉっ!」

が、そんな感想を述べるまでジェットコースターが待機してくれるわけもなく、

「――――ひゃうんっ!」

再び疾走を開始する。乗車前に見ていたレールを、実際に走り抜けていく。
気がふれたかのような激しいアップダウンに、壁面をなぞるような高速蛇行。
どれも今までのジェットコースターの常識を無視した軌道ばかり。まるで滅茶苦茶だ。

でも……俺は認めなくちゃならない。

「キョン――これ―――すっごく――おもしろいわ――!!」
「ああ―――こんなの――初めてだ―――!!」

今までに乗ったどのジェットコースター、いや、どの絶叫マシンより、この「乙」の方が文句ナシに面白い。
「乙」はその垢抜けない名前とは裏腹に、とてつもないスリルと疾走感を持ち合わせている。制作者様、どうか先ほどのご無礼をお許し下さい。

692 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 19:51:24.32 ID:wwXYEKl10

だが。喜楽の時は速く、怒哀の時は遅く流れるのが、時間の道理というものである。
あれほど張り巡らされていたレールもあっという間に走り過ぎ、

「――ふぅ、もう終わり?」
「――そうみたいだな」

徐々に減速していく機体に、ハルヒは不満そうに零す。

「もっと乗っていたかったわ。短すぎるわよ」
「お前の感想には同感だがな。俺たちがマイノリティであることを忘れちゃダメだ」

後ろを見てみろ、と顎で示す。振り返ってから数秒後、

「……一般の人にはちょっとスリルが強すぎたのかしら」

ハルヒは得心したように頷いた。
あれほどうるさかった黄色い悲鳴は、中盤あたりから尻すぼみになり始め、終盤あたりまでくると完全に沈黙していた。
見なくても分かる。後部座席では阿鼻叫喚の地獄絵図とまではいかぬとも、疲弊しきった乗客が困憊の呻きを漏らしていることだろう。

「そういうことだ。俺たちにはあのチケットがあるから、心ゆくまで何度も乗ることができる」

ハルヒは胸元のチケットホルダーを見下ろして微笑んだ。そう、今日だけじゃなくて、俺たちはいつでもこれるんだ。
俺はハルヒにそれを伝えようとし―――ガチリ、という撃鉄が落ちるような音に身を震わせた。

「今の音、なに?」
「分からん。歯車と歯車が噛み合ったような音に聞こえたが」

得体の知れないギミックが作動している事は確かだ。「乙」め、最後の最後に大仕掛けを残していやがったな。
360°全方向に移動しても大丈夫なよう、身構える。
だがそんな警戒を馬鹿にするように、コースターはゆっくりと、山の斜面に添って上昇し始めた。

713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 20:27:30.98 ID:wwXYEKl10

いつ上昇専用レールから脇に逸れて、湧水が山壁を滴り落ちるがごとく落下を始めないかと身構えること十数秒。
コースターは終に、山の天辺――台形状なので、その上辺に当たる水平部分――にまで到達した。
序盤の絶景を超える偉観がここにある。
碧空との距離が、日常よりも近い。雲の切れ目から降り注ぐ日差しは、テーマパークの施設とそれを取り囲む自然を彩っていた。

「綺麗ねぇ……」
「めちゃくちゃ高いところにいるんだぜ、俺たち」
「うぉー、最高じゃん!」

屍と化していた後部座席の乗客も、にわかに生気を取り戻していた。
へぇ、最後の最後に眼福の贈り物か。制作者も粋な計らいをするじゃないか。

「なぁ、ハルヒ……って、どうしたんだ?」

同意を求めた先に返事はない。ハルヒはまるで眼軸を瞬間接着剤で固定されたかのように、レールの先を見据えている。
その様子を訝しんだ俺は、その視線をゆっくりと辿り、

「は?」

人間が理解不能な状態に陥ったときに漏らす感嘆詞ベスト3に入る言葉を漏らして絶句した。
山頂から水平に飛び出したレールが、途中で消失している。いやそれでは誤謬があるな。レールは元から存在しちゃいなかった。
10mほど飛び出したところで、意図的に途絶えさせられている。まるで海賊船に取り付けられた、投身台のように。
ハルヒの左手が、ぎゅっと俺の右手を握りしめた。コースターの直進は止まらない。
コースターは順調にレールに沿っていき――終に俺たちは、上空百十数メートルの高所に置いてきぼりにされた。

「あたしたちどうなるの? こんな高いところ、落ちたら死んじゃうわ!」

パニックに陥りかけているハルヒを宥めようと科白を探すが見当たらない。くそ、とにかく今は、可及的速やかにここから脱出を――
だが、俺が思考を纏める間もなく、「乙」のギミックが作動する。碧空が地に、地上が天に。風景が180°逆転した。
とてつもなく嫌な予感が――俺の脳裏を駆け抜けた。

722 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 20:45:48.36 ID:wwXYEKl10

咄嗟に本能が俺の空間把握能力に予防線を張るものの、間に合わない。
この後の進行ルートを予想するのは簡単だ。
反転したコースターはこのまま山壁を抉るように山の中に進入し、
滑らかな曲線を描きつつ出発地点へと戻って、ある漢字一文字を作り上げるに違いない。

「は……はは……感服するぜ……」

名は体を表すと言うが、乙、まさにその通りじゃないか。
諦観した頭で、俺は制作者に心からの拍手を送っていた。がくん、と体が揺れる。
焦らしタイムは終了したみたいだな。そろそろ、地獄への直行便が出発する時間だ。
鏡がないので分からないが。宙ぶらりんになったまま、俺は悟りを開いたような爽やかな笑みを浮かべているんだと思う。

「いやぁぁあぁぁああぁぁぁぁ!!!」

止まっていた時間が動き出す。どこか遠くで――
よく知っている団長様の、しかし滅多に耳にできない叫び声を聞きながら、俺は意識を失った。

――――――――――――――――――――――――――――――

749 名前:>>735修正 文章gdgdすぎワロタ[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:22.41 ID:wwXYEKl10

頭が、痛い。
力の入らない瞼を少しずつ開ける。視界はまるでデタラメだった。
色という色が、ミキサーで攪拌されたみたいにぐるぐるとまわっている。
TFEI同士の攻性情報戦にでも巻き込まれているのか、俺は。

「…………だい……うぶ…かしら……」

どこか憂いを帯びた声が、濁った視界を若干クリアにする。
ふと、視界の端をハルヒの心配そうな顔が掠めた気がして、急速に意識が回復していく。
そうだ、俺は「乙」に乗って、最後の仕掛けで見事に意識を奪われて――情けない姿、ハルヒに見せちまったんだっけ。
でもいつまでも目を瞑ったまま自責していてもしかたがない。俺はハルヒに貶されるのを覚悟して、


1、一気に体を起こした
2、おそるおそる体を起こした


>>751までに多かったの 

736 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/15(土) 21:08:53.07 ID:vuyKXUh+0

これは1

737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:09:21.19 ID:OWHGGWV80



738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:09:53.02 ID:exhEyLxp0

2!2!

739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:09:56.30 ID:dub9jyb00

1

740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/15(土) 21:09:59.54 ID:PSc8889Z0

ようやく追いついた!激しく乙です

1.

741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:10:08.13 ID:+uiSqnjF0

じゃあ1で

742 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:10:09.44 ID:pjEcXSsxO



小説化マダー?

743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:10:50.65 ID:QGl3UZPoO

乙 一 ←

744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:11:11.24 ID:YoFltsHV0

いや2だな

745 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:11:13.11 ID:0OFBv8br0

あえて2で

746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:11:16.85 ID:nJuJcoUbO

1の流れだから2

747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/15(土) 21:11:30.72 ID:vuyKXUh+0



748 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:11.21 ID:PSc8889Z0

なんだか” 乙 ” が” 2 ”に見えてきた

750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:27.61 ID:fADiFG3LO

2

751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:37.52 ID:uSlW1qMZ0

2

788 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 22:36:59.56 ID:wwXYEKl10

俺はハルヒに貶されるのを覚悟して、一気に体を起こした――はずだった。
ごちん。鈍い音が、鈍痛とともに頭蓋骨内で反響する。しかし悲劇は終わらない。
地面に転がり落ちた俺は、美しく舗装されたアスファルトに強かに後頭部を打ち付け、
よもや陥没骨折しているんじゃないかという激痛にのたうち回りながら、

「いってぇええぇぇぇぇええぇぇえ!」
「痛いのはこっちよ! よくも頭突きなんか食らわしてくれたわね、このバカキョン!」

ハルヒの怒声に、自分の愚かさ加減を知った。
どうやら俺は、俺の顔を覗き込んでいたハルヒに正面衝突する形で頭を上げてしまったようである。

「すまん、まさかお前が目の前にいるとは知らず――」
「言い訳無用よ! まったく、団長であるあたしの恩を仇で返すだなんて、どーいうつもり?」

覚醒の絶叫から一転、平謝りに徹する俺。
ハルヒは烈火の如く怒っている。そうだよな、恩を仇で返したら怒って当然だよな、って

「ちょっと待て、俺はさっきまで失神して寝てたんだよな?」
「そうよ! だからあたしが膝枕してあげてたのに……あ」

怒気で飽和していた大気が緩む。ばっ、と口を覆い隠したハルヒは、しかし既に手遅れであると知暁したのか、

「あんたが失神なんて情けないことするからいけないのよ。はぁ〜あ、テンション下がるわね、もう」

まるで台本を読み上げるようなたどたどしさでそう言い終えて、くるりと俺に背を向けて、足早に歩き始めた。
酷ぇ。こっちのコンディションはまだ完璧じゃないってのに、放置していきやがった。
ハルヒの酷薄っぷりに溜息をつきつつ、先ほどまで寝ていたらしいベンチに視線を移す。
一枚の濡れたハンカチが落ちている。額に手をやれば、僅かな湿り気があった。
どうも、俺がハルヒに手厚い看病を受けていたというのは本当のことらしい。意識がなかったのが悔やまれるね。
ハンカチを拾って立ち上がる。さあ――あの感情表現が苦手な、心優しい団長様の背中を追いかけないと。

813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 23:04:17.23 ID:wwXYEKl10

「……もう3時か、はやいもんだな」
「結構ジェットコースターで時間使っちゃったからね。誰かさんのせいで」
「はいはい、俺が失神しなかったらまだまだ時間があったって言いたいんだろ」
「ふふ、よくわかってるじゃないの」

「乙」降車後、俺たちはテーマパーク内を散策していた。
ハルヒの適当にぶらつきましょ、という提案が根因だ。
中央の噴水近くでドーナツワゴンを見つけて買い食いしたり、
再び見掛けたマスコットキャラクター「ちゅるやさん」に
好物らしいスモークチーズを与えたりと(中身は交代しているようだった)、
アトラクションなしでも、俺とハルヒはテーマパークでの時間を充実させていた。

「そろそろ歩き疲れたわね」

そんなわけがないだろうに、ハルヒは白々しく弱音を吐く。

「なんあらおんぶしてやってもいいんだぜ?」
「冗談きついわね。あ、でもお姫様だっこなら、王女気分になれていいかも」
「へいへい、それは恥ずいからまた今度な」

取り留めもない会話。それでも俺は感じていた。
ハルヒとの距離が、朝よりもずっと狭まっているということに。

さて――そろそろ散策も飽きてきた。この王女様と共に、夜までの時間をどうするか考えるとしよう。

1、アトラクション自由記述「」
2、アイスクリームが売られている。買ってみよう。
3、ん? どこからか視線を感じる。
>>830

830 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 23:09:11.15 ID:kMzRaSTG0

1.こいずみくんライド

863 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 23:59:41.95 ID:wwXYEKl10

「どう、次に行くトコは決まったの?」
「…………」

次なるアトラクションを検索していた俺が、あり得ない名前の3Dシューティングアトラクションを見つけてそれを睥睨しはじめ、はや30秒が経つ。
"魔の手から地球を救え!こいずみくんライド☆"
平仮名表記というところを遊び心と感じるか一部の関係者を困惑させるための曖昧さと感じるかは、人それぞれ。
そして悲しいかな、俺は後者に分類される。「ちゅるやさん」と同じく可愛らしくデフォルメされた青年のキャラクターが、俺の懐疑に更に拍車を掛けていた。
眼を閉じれば眼窩で、イケメン超能力者が「ええ、僕がモデルなんですよ」と爽やかに謳っている様がエンドレスリピートされる。
訳もなくむかついて、俺は無性に、このアトラクションの詳細を確かめたくなった。

「もう、キョンってば! あたしの質問に――」
「お前、シューティングは得意か? そもそもお前、ゲーセン行ったことあるのか?」
「失礼ね! ゲーセンくらい行ったことあるわよ。シューティングゲームは、そうね、一度か二度くらいなら経験があるわよ」

胸を張って経歴を述べるハルヒ。分かった、つまりほぼ未経験ってことでいいんだな?

「どうしてそうなるのよ。あんた、あたしの射撃の腕をなめてるんじゃないでしょうね」

ハルヒの射貫くような瞳に、泳いでいた俺の視線が束縛される。
いや、お前の反射神経は誰もが認めるところだが……あんまり銃の扱いに長けた女の子なんていないだろ?

「それじゃ、その例外を今から示してあげるわ。さ、早くそのシューティングアトラクションに行きましょ!」
「道なりに進めば見えてくるはずだ。それなりにデカい建物らしい」

ハルヒは今までの散策モードを解き、意気揚々と俺の手を引いて「こいずみくんライド☆」に歩き始めた。
どうやら俺は、ハルヒの急性行動喚起爆薬の導火線にうっかり火をつけちまったらしい。
この状態になったハルヒを止める術はなく、あとは引きずられるままに身を任せるしかない。
にしても――この「☆」が語尾につくだけで、どんな硬派なネーミングでも幼児向けのアトラクションっぽくなるのはどうしてだろう。
読む者の言語処理能力を一時的に退行させる、魔的な秘密が含隠れているのかもしれないね。
閑話休題。

877 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 00:34:40.10 ID:VK+MqGWl0

近未来を思わせるサイバネティックかつインテレクチュアルな建造物が見えてきたのは、それから間もなくのことだった。
なんてったって目立つ。だが、周囲のアトラクションが翳むくらいに存在感を顕わにしているのは、その前衛的な建築手法ではなく――
建造物の上で燦然と輝く、デフォルメされた古泉の巨大看板であった。これから陽が沈むにつれて、ネオンが点灯すんだろう。
もし俺がモデルなら、全財産をかけてでも取っ払いたい代物だ。よく了承したな、あいつも。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「貴重品はこちらで預からせていただきます。立体ゴーグルを各自お取り下さい」
「はーい。でも貴重品まで預かる必要があるのかしら?」

ハルヒの余計な質問に、係員は懇切丁寧に返答した。

「ゲーム中はプレイヤーが無防備なる可能性が高いのです。安全にご協力下さい」

待ち時間が3時間30分のところを待ち時間0分で通過した俺たちは、制服の毛色が若干他のアトラクションと異なった係員に、奥のブースに通された。
外面と同様内装も凝っていて、四面の壁の境界から専用リクライニングチェアまで、あらゆるオブジェクトが滑らかな流線型だった。
古泉主体のアトラクションにしては、勿体ないくらいの完成度である。
そして、まるで本当に未来の宇宙船に乗り込んだような気分になったのは俺だけではなかったようで、

「さっさと始めましょ。このゴーグルを付ければいいのよね?」

ハルヒが新しい玩具を与えられた子供のように、声を弾ませて聞いてきた。

「そうだ。チュートリアルが始まるから、最初は何もしなくていい」

せーの、と息を合わせて3Dゴーグルを付ける。暗転する視界。しかし幾ら待てども、肝心の映像が投影されない。
だが、俺が痺れを切らしてゴーグルを外そうとしたそのとき、

「こんにちは。このゲームの管理人、いちゅきです!」

890 名前:やっと復活ktkr[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:46:41.56 ID:TQ2adfHR0

意図的に変調された古泉の声が、俺の耳に届いた。崩壊しそうになる腹筋を必死に支えつつ、ハルヒの反応を耳だけで伺う。
どうやら笑いをこらえているわけでも驚きにたじろいでいるわけでもなさそうだ。意外と元が古泉だって気づかれないもんなんだな。
それで……えーっと……いちゅきくん、だったかな? 早速だが、このゲームの概要を説明してくれないか?

「このゲームは多人数参加型シューティングアクションです。
 他ブースに存在するプレイヤーと共に、地球の制服を目論む悪の巨人を倒すのが、このゲームの目標となります」

ザー、と視界にノイズが走ったあと、デフォルメされた古泉(ええい面倒だ、以下いちゅき)が現れる。
そいつは現実世界の古泉と同じく長広舌を垂れ始めたが、要約すると、こうだ。
人々が寝静まった夜。悪の巨人は街を壊すために眠りから目覚める。
それと同時に選ばれし者が覚醒し、街の破壊を阻止すべく、戦闘機「こいずみくん☆」を駆使して巨人と戦う――というのが一応のストーリー。
どう見ても流用だが、この際気にするのはよそう。
そして選ばれし者である俺とハルヒが、そのこいずみくん☆を操作するわけだが、

「勝手に要約されては僕の立場がありません。
 つまり、射撃役と移動役は別々になります。二名以上の場合は移動役は一人、残りは射撃役となります。
 丁度あなたたちは二人ですので、分担してください」

割り込んできたいちゅきに悪態をつきつつ、俺はハルヒに水を向けた。

「どうする? 俺はどちらでもいいが」
「んー、そうねえ。あたしも最初は撃つ方が楽しいかなって思ってたんだけど、
 3D空間を飛び回るっていうのもいいかも。キョンが決めていいわよ」


じゃあ俺は――

1、射撃担当
2、移動担当
>>900までに多かったの

892 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:48:57.89 ID:vESNfxU7O

乙(ジェットコースター的な意味で)
1

893 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:03.81 ID:GrfRnymV0



894 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:25.22 ID:CnLnAFbe0



895 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:46.27 ID:wkzKCFgoO

1

896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:47.08 ID:uyw6G47yO

乙!
安価は1だ!

897 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:49.32 ID:+bkTi/Ic0

やっぱ撃つのはハルヒだろということで2

898 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:50.01 ID:PhqAMlp9O

2!

>>890乙!!
俺も明日バイト7時上がりだ

899 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:51:38.05 ID:ODHM1w1Y0

復活ktkr
2で

900 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:51:50.09 ID:mJduV3rtO

1

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 19:36:39.93 ID:TQ2adfHR0

じゃあ俺は――射撃を担当しよう。
中学校時代、シューティングゲームの覇王とまで謳われた国木田。
学校帰りにゲーセンに寄ったことは数知れず。その国木田に鍛え上げられた腕が鳴るぜ。

「あんたってシューティングゲーム得意だったの?」
「まあな。自称中級者上級者には一日の長があるつもりだが」

ハルヒは珍しく感心しているのか、ふーん、と細い息を漏らした後、

「じゃあ攻撃は任せるわ。あんたの働きには期待しているからね」

居丈高にそうのたまった。もう対巨人兵器戦闘機「こいずみくん」の船長になったつもりなのか?
二人しか乗組員はいないんだ、ヒエラルヒーなんてあってもなくても一緒だと思うんだが。

「気分よ気分! さ、それじゃ早速ゲームを始めましょ」
「了解しました。それではゲームを起動します」

親しみやすい口調から一転、懐かしい仰々しい口調になって、いちゅきが画面脇に退いた。
ゲームでよく見掛ける「Now loading...」の文字列が流れていく。そして――

轟音をかき消す轟音。空気を震わす衝撃の波。画面一杯に飛び交う紅玉。
天にも届かんばかりに聳え立つ巨人が、鈍い動きで長い腕を振り下ろし、

「きゃっ!!」
「うおっ!!」

俺たちの初期位置であるタワーの、二つ隣にあった廃ビルを吹き飛ばした。
鼓膜が張り裂けそうな爆風とともにコンクリート片が吹き荒れ、思わず顔を背ける。

「どうです、まるで現実世界をトレースしたようでしょう?」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 20:11:20.56 ID:TQ2adfHR0

気取った抑揚の声が聞こえてくる。そちらの方に視点を捻ると、
どういう理屈かは知らないが、とにかく3D化されたいちゅきが気障なポーズで佇んでいた。
先ほどまでのカジュアルな服装からインストラクタータイプにドレスアップされているものの、
それでも間抜けさが拭えないのは俺の腰程度までしかない身長故か。

「とても失礼なことを言われた気がしますが、説明を始めます。
 まず、専用チェアの肘掛けにあたるマニュピレーターに手を当ててください」

言われた通りに手をあてる。ひんやりとした感触が両手を包んだ。例えるなら、固めのゼラチンか。
興味本位で動かしてみると、前後左右に視点が動いた。ほう、主観視点のゲームが、さらに直感的になったような操作感だな。
FPSゲーム慣れしていなさそうなハルヒが気になって耳を欹てると、

「すっごいわね! えっと、こうしてこうしたら……」

早くもゲームの仕様に順応しているようだ。無用な心配だったな。
暴れ続けている巨人と、その周囲を高速で飛び駆けている機体群をバックに、いちゅきは説明を続ける。

「プレイヤー操作に関してはお分かりいただけましたか?
 それでは次に、対巨人兵器こいずみくんの初期機体タイプを選択していただきます」

いちゅきの可愛らしい指が、パチリと鳴った。
なんでもありの3D空間。燐光が弾けた後、俺の眼には三台の「こいずみくん」がまるで最初からそこにあったかのように映っていた。
カラーリングは青、赤、黄の三原色だった。もしかして、ゲームシステムは従来のそれを採用しているのか?

「ええ。もうお分かりかと思いますが、赤は攻撃力重視、青は敏捷性重視、黄は中立的な性能となっています。ご自由にお選びください」
「あたしは断然、攻撃重視の赤ね。回避よりも先に相手を叩き潰すのよ」

俺の隣で危険思想を仄めかすハルヒはおいといて。この選択は、この先のゲーム進行に大きく影響を与えそうだ。
ここは――「    」のこいずみくんに乗ろう
>>58  赤、青、黄のいずれかを記入

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 20:14:29.48 ID:hhwEe9dr0

●<赤

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 20:44:40.25 ID:TQ2adfHR0

ここは赤のこいずみくんに乗ろう。いくらゲーム内で直感的な操作が可能だとしても、超初心者の俺とハルヒの操作はしばらく不安定だ。
精密な動作や高度なテクニックを要求する敏捷タイプは、まず使いこなせない。
だから俺は、少々無様でもバシバシ攻撃できるタイプの方が楽しめるんじゃないか、と考えたのだ。
奇しくもハルヒの意見と合致してしまったわけだが、ま、俺の選択理由はハルヒのに比べて至極合理的なんだし、
ハルヒの気も害せずにすんだのだから一石二鳥ということでよしとしよう。

「それでは搭乗下さい。近づいて決定ボタンです」

マニュピレーターを動かす。途端、視点が切り替わって、気づけば俺は、後部のコックピットに乗り込んでいた。
遅れてハルヒも乗り込んでくる。二人揃ったのを確認して、各種ディスプレイが点灯しはじめた。

「無事搭乗できたようですね。次に、こいずみくんの操作方法を――」

機体の壁を透過して、いちゅきの姿がインストラクションを続行する。
が、俺ははやくも、いちゅきの話に耳を傾けるのをやめて、憐憫の視線を送っていた。
お前の講説はありがたいんだが、生憎俺には必要ないし、うちの船長にはちょいと長すぎたみたいだ。
懲りずに続けるのは構わないが……お前、そこにいたら轢かれるぜ?

「ふむふむ、このペダルがアクセルでこっちのレバーがブレーキね。レーダーも良好、と」

ハルヒは順調に点検を済ませていく。腹に響くような駆動音が、耳元で鳴る。臨場感は抜群だ。

「え、ちょっと待ってください! まだ説明が終わってません!」
「んー、それね。もういいわ」

すっかりいちゅきに関心をなくしたハルヒに、アクセルが踏み込まれる。当然のこと、出力は全開で。

「そんな、あ、滑走路はこっちです―――ご、御武運を――お祈り―――」

景色が加速する。途切れ途切れのいちゅきの言葉に見送られて、俺たちは夜の街に飛び出した。

78 名前:>>72 いちゅきには疑似AIが搭載済み[] 投稿日:2007/12/16(日) 21:15:48.85 ID:TQ2adfHR0

巨人を中心にして広がる広大なフィールド。その遙か上空を、俺たちは戦闘に加わらず飛翔していた。
発進時の機体の不安定さは、チェアからは微振動として、画面からは不規則な揺れとして表現されていた。
恐らく、こいずみくんが被弾、もしくは衝突したら、もっと激しい振動が返ってくるのだろう。

「キョン……あたしたち、空を飛んでるわ……雲も、月も、本当に本物みたいね……」

美麗なグラフィクスに陶酔しているハルヒをよそに、俺は試し打ちをしていた。
通常射撃ボタンでは、中くらいの紅弾が発車される。レバー脇に設置されたスイッチは押しても反応がなく、どんな役割を果たすのか分からない。

「あと一分くらい、いちゅきの説明聞いてりゃよかったかもな」
「その内分かるでしょ。それより、そろそろ巨人をぶちのめしにいかない?」

ハルヒが操縦桿を片手で持ちつつ振り向いた。明らかに浮き足だっている。ま、それも当然か。
廃ビルから飛翔して3分後には、プロ顔負けのアクロバット飛行を可能にしているんだもんな。
末恐ろしい才覚だよ、まったく。

「それじゃ、行きますか」
「いい? やるからにはトップの成績を上げるまで射撃の手をゆるめちゃダメだからね!」

機首が傾き、自由落下を開始する。平和的観光の時は終了し、激しい戦火の中に飛び込む時間だ。
厚い雲を抜けた先。そこには青白い燐光を放つ、巨人の頭があった。
遠目でも覚悟していたが、いざ接近するとその巨大さに気圧されそうになる。
だが――こっちには巨人なんかとは比にならないくらいに心強い同乗員、いや船長がいる。

「撃って、撃って、撃ちまくりなさい!」

照準は元より外しようがなかった。いっぱいにトリガーを引く。
甲高い音と共に、大量の紅弾が直線を描いて飛んでいく。1、2、3...Hit。

「やったわ、直撃よ! でも……あんま効いてないみたいね」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 21:54:12.61 ID:TQ2adfHR0

落胆したハルヒの声が、前部から届く。

「もっと近くで撃たないと、威力が減衰するのかもな」

吸い込まれるようにして巨人に落ちた紅弾は、しかし線香花火の終わりのように、火花を上げただけだった。
接近してからの射撃か、もしくは弱点を突いた射撃でないとダメージを与えることはできないようだ。

「面倒ね。ま、そっちの方がやりごたえあっていいけど」

だが、不利な条件と知って尚、ハルヒの姿勢に変わりはない。
そしてそれは俺にとっても好都合だ。弱点を発見するには危険を冒してでも接近しなくちゃならない。
巨人の攻撃にパイロットが怖じ気づいてるようじゃ、とても満足には攻撃できないからな。旋回していた機体が、再び降下を開始した。
街の風景が鮮明になり、他の「こいずみくん」が視認できる距離で、機首が持ち上がる。強烈なGに揺れる画面で、照準を定める。

「さあキョン、思う存分やりなさい。あの土手っ腹に大穴を開けてやるのよ!」

フルバーストで、紅弾をぶち込んでいく。ディスプレイ右脇のログに、Hitの文字がひっきりなしに流れていく。
今度は遠距離射撃とは違う、確かな手応えがあった。巨人が苦悶の咆哮を上げる。

「よし、効いてるぞ!」

と、俺が快哉を叫んでいたその時だった。宵闇が、影で一際暗くなる。俺が上を見上げたとき、既に巨人の豪腕は差し迫っていた。
……油断していた。こんなに上手く行くはずがなかったんだ。開始してから五分、俺たちはまともな戦果も上げられぬまま――

「なーに弱気になってんのよ」

ハルヒが弱気になった俺を一喝し、操縦桿をいっぱいに傾ける。巨人の腕は俺たちを掠めて、後方にあったビルにめり込んでいった。
まさに間一髪。事前にアクセルを踏み込んでいなけりゃモロに食らっていたはずだ。なあ、お前もしかして、巨人の攻撃を読んでいたのか?

「ふふん、あたしを誰だと思ってるの? 天才パイロット涼宮ハルヒよ!」

97 名前:修正[] 投稿日:2007/12/16(日) 22:27:50.42 ID:TQ2adfHR0

その言葉で、俺は自分の愚かさ加減を知った。

「はは、ほんとに馬鹿だな、俺は」

自虐的な嘲笑。ハルヒは持てる力を遺憾なく発揮して、射撃を補助してくれている。
そう、最初から俺は被弾を気にせず、撃つことだけに集中すれば良かったんだ。

「これからは遠慮なくいくぜ!」
「次に手を緩めたら許さないんだから!」

規範法則限界の急旋回から、巨人の体躯に張り付くような軌道を描き、振り払う手を躱しながら、サテライト飛行へ。
その間、紅弾はミリ単位で調整された軌道に沿って、巨人の間接部分を容赦なく穿ち爆砕する。
トリガーを引くごとに昔の勘を取り戻していく俺と、操縦桿をきるごとに飛行軌道の鋭さを増していくハルヒ。
天井知らずに、ポイントが加算されていく。

「そこよキョン。もう少しで膝が崩れるわ」
「オーケー。二度と立てなくしてやる」

回避と攻撃が一体となった、鮮やかなヒットアンドアウェイ。他のこいずみくんが距離を置くまでに、俺たちの攻撃は凄まじかった。
そして――ゲーム開始から20分。巨人は、その惨憺たる巨躯を横たえて、燐光となって消滅した。
気づけば、俺たちのこいずみくん――名称・SOS――の獲得ポイントは、全体プレイヤーの2位にまで上り詰めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「1位ってどの機体なのかしら。気に入らないわね」

マニュピレーターから手を離しつつ、ハルヒが言った。
現在、巨人を倒し一躍有名となった俺たちは、高々度でこいずみくんを遊覧飛行モードに切り替えている。
眼下ではグレードアップした巨人が復活しているが、今は放置しておいて構わないだろう。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 22:54:17.34 ID:TQ2adfHR0

「世の中は広いんだ。俺たちを超える腕前のチームが存在していてもおかしくないだろうさ」
「だって悔しいじゃない。あんたには競争心ってものがないの?」
「あのな、これはプレイヤー同士がポイントを競うゲームじゃないんだ。協力して巨人を倒すゲームだろ?」

俺自身忘れかけていたゲーム概要を、悪ガキを諭す先生のように言い聞かせる。
折角安穏とした3D空間ぶらり旅を満喫してるってのに、1位と決闘したいなんて言い出されちゃ堪らないからな。

「んー……じゃあ初心者をちょっと教育してあげるっていうのは、」
「駄目だ! 一度でもプレイヤーキルしてみろ。俺たちの評判は地に墜ちるぞ」
「いいじゃん、暇なんだしー」

分かったのか分かっていないのか、ハルヒは唇を尖らせて、外の景観を眺める作業に戻った。
しかし――このゲームプログラムが巨人狩りだけのものなら、
退屈のあまり俺がハルヒの暴論に賛同してしまう可能性がないとも言い切れない。
俺はコンソールを叩き、暇つぶしにプレイヤーリストを閲覧することにした。

Raven....Oracle....Jack/O.....Nineball....

どれもこれも知らない名前ばかり。ま、それも当然か。俺たちだってこいずみくんに搭乗してから識別名を入力したんだ。
既知の名前があるはずない。俺はリストを閉じかけて、

「おいハルヒ、一位が誰か分かるかもしれないぜ」

並び替えができることを発見した。ファンクションキーを操作し、ランキング表示に切り替える。
ハルヒが勢いよく振り向く。ディスプレイに四つの視線が集まる中、スクロールが始まる。十位、五位、三位、二位・SOS、そして――

「WAWAWAってなんだ?」
「WAWAWAってなによ?」

俺たちは、仲良く揃って同音同句の疑問を口にした。WAが三つ。命名者の真意が、読み取ろうにも読み取れない。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 00:41:04.95 ID:A2Q8sigt0

「特定の人間だけに分かる、何かの暗号かしら」

口元に手を当てて、ハルヒが推量を述べる。

「一理あるな。でも、WAWAWAの英字六つじゃ、暗号の籠めようがないと思うんだが」
「確かに無理があるわね。籠められたら籠められたらで凄いけど」

的確な俺の反論に、機内に沈黙が降りる。やがて解読を諦めたハルヒが、がしがしと髪を掻きむしって、

「WAが三つで[わわわ]……あーもう、理解不能だわ。もうちょっと捻りなさいよ、馬鹿じゃないの?」

悪癖を発揮し始めた。まあ、お前の歯に何かが挟まったようなむず痒さは分からんでもないが、

「こいつにはパイロットのセンスがあっても、ネーミングのセンスは最悪だったんだろ」
「じゃあ、適当につけたのかもね」
「その可能性が高い。ま、どっちにせよ、命名者が馬鹿であることに変わりはなさそうだ」

議論の焦点は、いつの間にか名前の真意解読から命名者への暴言大会にシフトしていた。
が、その謂われない誹謗中傷が電子情報となって届いたのか。はたまた安全区域で機体を遊ばせている俺たちを偶然見掛けたのか。

『馬鹿で悪かったな! お前ら、好き勝手罵りやがって』

強制的に通信回線が開き、元悪徳消費者金融の変声機使用済みボイスそっくりの声が聞こえてきた。
不味いな、もしかして今までの会話全て、丸聞こえだったりしたのだろうか。俺は一瞬、建前の謝辞を述べようとし、

「あんた誰よ! こっちはのんびりゲーム楽しんでるのに、邪魔しないでよね!」

挑発的な怒鳴り声にかき消された。威圧者に対する反抗姿勢は折り紙付きのハルヒである。だが、相手も黙って引き下がるような小心者ではない。

『俺か? 聞いて驚け! 俺はWAWAWAのキャプテンだぜ!』

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:06:16.55 ID:A2Q8sigt0

「へぇそうなの。だから?」

だがしかし、口喧嘩では古今東西無敵を誇るハルヒ。
反抗されようものなら、反抗意志がなくなるまで打ちのめすのがこいつのやり方だ。

『だからって、ええと、だから………』

超高速ジャブで相手を困惑させ、追撃をたたき込んでいく。

「はっきり喋りなさいよ、情けないわね! あんたそれでも男なの?」
『男に決まってんだろ、俺のナンパ歴をなめんじゃねえぞ!』
「あたしナンパする男って大嫌いなのよね。軽いっていうか馬鹿っぽいっていうか」
『あ、また馬鹿って言ったな!』

キャプテンの切ない叫びが、スピーカー越しに響く。激昂しているのは明瞭だ。
ハルヒは止めに、冷艶な猫なで声でこう言った。

「あんたの言葉全てが馬鹿っぽいのよ。底が知れるわね」
『うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁ』

なあハルヒ。もうそこまでにしておかないか。相手も十分反省しているみたいだし、
つーか、元はといえば俺たちが喧嘩売ったようなもんなんだし。

「あんたが言うならやめるわ」

素直に身を退いてくれたハルヒに安堵する。俺は三点リーダを垂れ流している通信を遮断しようとして、

『うちのが好き勝手に喋ってごめんなさい。僕らの用件は口論じゃないんだ』

どこか聞き覚えのある、幼い声音を聞いていた。いかに高性能な変声機であろうとも、声の特徴全てを隠蔽できるわけではない。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:38:20.37 ID:A2Q8sigt0

「口論じゃないとすると、何なんだ?」
「純粋に、君たちと腕を競いあいたくなったんだよ。ログイン時間は互いにほぼ同時刻。
 ポイント獲得効率においてはこちらの方が若干上回っているけれど、実力は大差ないと思うんだよねぇ」

数値上では計れないことがある。だから実際に戦闘をして、どちらが上か確かめたいと?

「そういうこと。勿論、この戦闘において君たちには何のメリットもない。ハイリスクノーリターン。
 僕の完璧な恣意的申し出だよ。賞品を用意できたらいいんだけど、賭け試合以前に、PKが禁止されているからね、このゲーム」

不合理だよねぇ、とさも残念そうにシステムへの不満を零す、第二の搭乗員。
先鋒のお調子者は自分がキャプテンだと豪語していたが、実質の指揮官はこいつと見てまず間違いないだろう。

「どうだい? 僕の我侭を聞いてくれるかなぁ?」

軽く放り投げられた挑戦状。だが、この三年間培ってきた俺の第六感が、そこに乗せられた覚悟の重みを告げていた。

「少し時間をくれ。こっちで相談するから」
「いいよ。なるべく早く返事が欲しいな」

スピーカーに暫しの別れを告げて、俺は前部座席に身を乗り出した。

「どうする? 面倒なことになっちまったけど、受けて立つか?」
「相手に不足はないわ。でも、あんたが気乗りしないなら蹴ってもいいわよ。わざわざ他のチームと揉めることもないんだし」
「えらく消極的じゃねえか。あれだけ退屈退屈って喚いてたのに」

こいつにとってはまさに千載一遇のイベントのはずだ。だが、ハルヒは煌々と夜空を照らす人工の月を瞳に浮かべつつ、

「あまりこのアトラクションだけに時間を使うことはできないわ。よ、夜のイベントだってたくさんあるんだし……」

俺は―――「     」   1、受けて立ってやる! 2、ハルヒの意向を尊重しよう  >>205までに多かったの

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:42:00.98 ID:rzK+Ap9x0

2

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:43:29.58 ID:jzHAwdRj0



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:43:31.90 ID:LdNjvqn80

ハルヒのために2

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:44:07.75 ID:MesIzPG00



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:44:29.34 ID:79hI5x8+O

2

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:45:11.81 ID:Bozg/kJh0



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 20:54:10.42 ID:A2Q8sigt0

トップランカーからの誘いを受けて、若干なりとも浮き足立っていた思考が冷えていく。
相手の、どちらが上なのか明確にしたい気持ちはよく分かる。
でもそれはあくまで、相手側の都合だ。受けて立ってやる義務はない。

「悪いが、今回はパスさせてもらう」
「キョン……」

ハルヒが、息を呑んでこちらを見つめる。いや、これはだな。
予約済みのディナーショーに夜影に映えるアトラクションと、夜のイベントは盛りだくさんだ。
お前の言うとおり、一つのアトラクションで時間を潰しすぎるのもどうかと思ったのさ。

『どうしてだい? こういった科白は好まないんだけど、もしかして怖いのかな?』

挑発にしては随分やんわりした物腰だな。
俺の意志を挫きたいなら、せめて臨戦態勢の森園生さんレベルでないと埒外もいいとこだぜ?

「畏れをなして逃げ出したとでもなんとでも思ってくれて結構だ。
 こっちにも予定があってな、いつまでもこいずみくんライド☆にかまけてる余裕はねえんだよ」

きっぱりと挑戦状受諾不可を表明する。それを聞いた相手の男は、

『どうせ――がダダこねんたんだ――くそ――』
『これで良かったのね―――争い――よくないのね――』

しばらくWAWAWAチームの面々とプチ議論をしているようだったが、

『そこまで言うなら諦めるよ』

やがて、心底残念そうにそう呟いた。
ネチネチ嫌味を言われるんじゃないかと気構えていた分だけ、拍子抜けする俺とハルヒ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 21:13:15.71 ID:A2Q8sigt0

『君たちにも予定がある。熱くなりすぎて、そんな当たり前のことを失念していたよ』
「分かってくれたならいい。またの機会にでも対戦しようぜ」

社交辞令の挨拶を投げ返す。すると男は、スピーカー越しでも聞こえるように大きく溜息をついて、

『迷惑をかけてごめん。それじゃまたね、キョン』

最後の最後に――超ド級(死語か?)の爆弾を残して一方的に通信を切りやがった。

「おい待て、なんで俺の名前を知ってる!?」

個人情報を握られているという不安が、自動的に声のトーンを跳ね上げる。
が、既に通信は完全に切断されており、俺の声は虚しく機内に響くのみ。

「あんたをキョンって呼ぶのって……限られた人間しかいないわよね」

ハルヒは我が身のことのように表情を翳らせている。お前は余計な心配しなくていいんだ。
ほら、もしかしたら俺の知人だったのかもしれん。
大人数が集まる人気アトラクション内で遭遇する可能性はまさに天文学的確率だが、絶対ないとも言い切れないしな。

「違うわよ、あたしが心配してるのは――」

がしかし、俺のフォローはハルヒの心中を穏やかにするには微々たりとも役に立たなかったようで、

「ああもう、なんでこうなるのかしら!」

苛立ちを隠そうともしないまま、出発地点へと機体を下降させはじめた。
俺のことを知っている人間がいたことで不快指数が上がるのは俺であってもハルヒではあり得ないのに、何故こいつが苛立っているんだろう。
煮え切らない疑問が、胃に耽溺していく。轟という風を切る音や窓外の風景が、急に、色褪せて感じられた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 21:55:37.23 ID:A2Q8sigt0

――――――――――――――――――――――――――――――

さて、3Dゴーグルから解放された俺とハルヒが、網膜に映る現実の非現実っぷりと三半規管の麻痺によって
慢性的な地震に襲われている通路を互いに支え合いながら進み、こいずみくんライド☆の正面玄関まで辿りつくと、

「こんにちわ……じゃなくて、こんばんわなのね。キョンくんと涼宮さん」
「よう、待ちわびたぜ。お前らには言いたいことが山ほどある」
「キョンの断り文句が虚言だったのか、疑いをかけ始めていたところだったんだ」

よく見知った面々が、それぞれ別の感情を胸に秘めて待ち受けていた。胃に溜まっていた不安が、瞬間的に氷解していく。

「野暮な質問だとは思うが、一応聞いとく。WAWAWAってのはお前らのチーム名か?」
「スタイリッシュかつハイテクなフォルムを連想させる、最高にイかした名前だろ? 俺が名付けたんだ――」

無駄に外来語を頻用する谷口は華麗にスルーして、

「そうだよ、勝負を持ちかけたのは僕だ。
 中学時代からキョンがどこまで成長したのか確認したかったんだけどねぇ」

国木田が仮想空間での未練を垂れ流す。
そして最後に半歩退いていた阪中さんが、

「あのね、最初に気づいたのはあたしだったの。SOSっていったら、涼宮さんとキョンくんの二人しかいないもんね」

得意げに発見時の感動を披露してくれた。
つまり――俺たちの活躍の一部始終を見届けた後、谷口が勝手に首位権限で自動音声加工の通信を開き、
平和主義者の阪中が制止するにも関わらず、国木田が中学時代のシューティング魂を再燃させて俺に非公式試合を申し込み、
俺がそれを蹴った、と。事の顛末はそういうわけか?

「概ねそれで合ってるよ。ほんと、キョンが僕の申し出を断るとは予想外だったんだけどさ」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 22:27:41.59 ID:A2Q8sigt0

そう恨めしげな眼でこっちを見るな。俺だって、お前と白黒つけたい気持ちは山々だったんだが――

「分かってる。予定があったんでしょ? 無理をいったのは僕なんだし、気に病むことはないよ。ゲーム中でも言ったけどね」
「ああ、キョンは悪くないぜ。"予定"があったんだからな。
 ところで、涼宮のやつはどこ行ったんだ? さっきからあいつの姿が見えないんだが」

会話に割り込んできた谷口に辟易しつつ、俺は周囲を見渡した。
確かに言われてみれば、正面玄関まで肩を支えてやっていたハルヒは先ほどから気配を絶っている。
さっきまで隣にいたはずなんだがな。俺は古泉ばりに肩を竦めて

「さあな、トイレにでも行ったんじゃ、」

最もありえそうな消息理由を述べようとし、

「あ、涼宮さん、キョンくんの背中に隠れてるのね!」

服の背面部分を急激に引っ張られ、後ろにひっくり返りそうになった。
首をいっぱいに傾けて背中を見ると、俺の服を両手で握りしめ、身を縮めているハルヒの姿が。何やってんだお前は。

「改めてこんばんわだな、涼宮。散々俺のネーミングを馬鹿にしてくれた分、しっかりお返しさせてもらうぜ」

谷口がいやらしく口端を歪める。ビクリと身を震わせたハルヒは、まるで親鳥の庇護なしでは生きられぬ雛鳥のようだ。
妙に高圧的な谷口と、萎縮しているハルヒ。立場が、日常と完全に逆転している。

「さてさて、俺の純粋な好奇心から生まれ落ちた疑問にきっちり回答してもらうぜ。
 なぁに、考える時間が要らないくらい簡単な質問だ」
「な、何よ……」
「何故お前らが二人っきりでここにいる? あの妙ちきりんな活動の一環なら、他のメンバーもいるはずだろ?」

言って谷口は、俺に「黙ってろ」と目配せした。こんな問答に何の意味があるんだか。時間の無駄だとしか思えないね。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 23:00:17.58 ID:A2Q8sigt0

生意気な口調に激怒したハルヒに、こてんぱんにされる谷口を予見する。

「それは……キョンが……たまには、二人でって……」

だが。ハルヒの口から漏れ出たのは、通常時の覇気が数百倍にまで稀釈化された弱々しい一言のみであった。

「ほう。それでお前は了承したわけだ。二人で。テーマパークに。デートしようっていう誘いにな?」

もうそこらへんにしといてあげなよ、という国木田の制止も聞かず、谷口は続ける。

「お前らっていつも一緒だよなー。学校でもプライベートでもさ。
 俺、お前らのことを見る度に勘違いしちまいそうになるんだよな。もしかしてお前ら――おっと、危ない。この先は口が裂けても言えねえ」

谷口は際限なく調子に乗っていく。俺は普段と明らかに様子が違うハルヒが気になって、

「おい、どうして何も言い返さないんだ――」

再び首を捻ったまま驚愕のあまり硬化していた。ハルヒは、まるで重度の黄熱病に罹患したかのように顔を紅く染めている。
外気との気温差で、肌が過敏に反応したのだろうか。ポケットにつっこんでいたおかげで暖まっていた両手で、ハルヒの頬を包み込む。

「大丈夫か? 寒いんなら言えば良かったのに、なんで黙ってたんだ」
「え……あ……うん」

しどろもどろに返事をするハルヒ。その声は細く、今にも消え入りそうである。
どうやらここらで、谷口に熱〜いお灸を据える必要があるみたいだね。
制裁、粛正といった役所は本来俺にまわってくることがなく(主にハルヒ担当)、今回はかなり希少性の高いケースなのだが、
会話の流れからするにハルヒをこんな風にしちまった責任の一端は俺が担っているみたいだし、
懲らしめる対象が谷口であることが、行為後の後腐れのなさを裏付けしている。例え思う存分やっても、お咎めを食らうことはないだろう。

「ところで谷口。昨日の話では男女比率1対1といった話だったが、女子は阪中一人だけみたいだな」

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 23:29:12.89 ID:A2Q8sigt0

出来の悪い小学生でも分かるぜ。現在の男女比率が2対1という数学的矛盾にな。

「とすると普通に考えて、お前らのどちらかが、誘いをかけてフラれたこということになる」

俺は明日の天気予報を尋ねるように、すっかり菫色に染まった西空を眺めながら、

「あー、阪中。お前は国木田と谷口、どちらに誘われたか憶えてるか?」
「えーっと……」
「言うな阪中! こいつは極悪非道な犯罪者予備軍だ、うかつに口を滑らすと――むごむご」

出し抜けに支離滅裂な言葉を吐き出し始めた谷口を、後ろから羽交い締めにする。さあ、続きをどうぞ。

「国木田くんが誘ってくれたのね。明日一緒に行こうって。あたし、とっても嬉しかったのね」
「阪中さんは以前からこのテーマパークに行きたがってたからね。丁度いいと思ったんだ」

にこやかに会話を紡ぎはじめた国木田と阪中。その微笑ましい光景を見遣りつつ。
俺は静かに、今となっては浜辺に打ち上げられた海月のように消沈した谷口に、止めの剣を突き刺した。

「ということは、だ。誰一人として女子を誘えなかったのは、谷口――お前ということになる。
 いや、誘ってはみたが誰にも承諾してもらえなかった、といった方が語弊が少ないのかもしれないが」
「wawa......wawaa.....wa........wawaaa.........wawawa.....」

壊れたラジオと化した谷口。国木田と阪中の手によって、不燃物処理場へと廃棄されるのは時間の問題だろう。

「仇は討ったぞ、ハルヒ」

もう大丈夫だぞ、と背中に隠れていたハルヒに呼びかける。
精神的ダメージによって事実上沈黙した谷口を見て、ハルヒは少しだけ微笑んだ。

「あ、ありがと。でも、あんたにしてはちょっとやりすぎかもね」

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 00:57:55.26 ID:KvqLjiGN0

完熟林檎のようだった頬は白磁の色を取り戻していた。
見た感じ、熱はもう引いている。異常事態は一時的なものだったみたいだな。
俺は、もう一度頬を包もうと上げかけていた手を下ろし、

「お前ら三人は、これからどうするつもりだったんだ?」

阪中と談笑している国木田に水を向けた。

「僕たちはこれから夕食を取ろうかと考えていたんだよ。
 本当はもう少し遅くてもよかったんだけど、君たちが早々にゲームをやめちゃったから」

はいはい分かった分かった。いい加減しつこいぞ。今度お前と来たときは、心ゆくまで勝負してやるから。

「ルソー、ちゃんとご飯食べてるかな……」

夕食という単語を耳にした阪中は、遠い目で豪邸にいる愛犬のお食事事情を気に掛けていたが、

「そういえばキョンくんと涼宮さんは、もう食べるところ決まってるの?」

はた、と名案を思いついたように瞳を輝かせて、

「決まってないならあたしたちと一緒にどう? きっと、皆で食べれば楽しいのね!」

刹那――微妙な空気が流れた。国木田はフリーズドライされた野菜のように人懐こい笑みのまま静止し、
谷口は精神的大ダメージから立ち直れていないのかうんともすんとも言わず、ハルヒは酸欠状態に陥ったかのように口をぱくぱくとさせている。
阪中のお誘いは純粋に嬉しい。だが、俺たちは特待パスポートのおかげでディナーショーを予約してあることになっている。
予定の変更は俺とハルヒ次第。さて、どうしたものか――

1、ディナーショーに行こう。鶴屋さんの計らいを無碍にはできない。
2、阪中たちとどこかで適当に食べよう。また何かの拍子に、ハルヒが真っ赤になりそうで不安だが…   >>200までに多かったの

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 00:58:30.16 ID:GJ/U0fPh0

これは1だろ…

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 00:59:54.90 ID:FfaGoj3A0

1で

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 00:59:57.74 ID:NPYLVpNL0



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:23.91 ID:QbuP4+VA0

1以外ありえない

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:33.89 ID:4NlXlU+m0



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:35.32 ID:FAHE6gZI0

1だろう

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:45.89 ID:+BViWJXYO

ここはあえて・・・
やっぱ1で

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:48.67 ID:bGPcAidW0

1いやあえて2

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:13.10 ID:O37uFNX3O

1

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:15.46 ID:Tfjh1AvDO

さすがに1だな

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:36.40 ID:7IJ6u6IJO

2にしようと思ったがやっぱ1

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:45.80 ID:s01rChzj0

1しかなさげ

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:03.90 ID:qzIx/DTO0

どう考えても1

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:10.72 ID:214ANLH/0

1

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:36.31 ID:oKoB8J7LO

1

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:38.40 ID:y3Rrb9ekO



221 名前:gdgdすぎて修正[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:50:03.84 ID:KvqLjiGN0

「誘いは嬉しいんだが、ディナーショーを予約してるんだ。ここからは別行動ということになる」
「折角会えたのに。でも、それなら仕方ないのね」

納得したように頷く阪中。微妙に張り詰めていた空気が、徐々に呼吸しやすい空気に回帰する。
と、それに従って金縛りからとけたのだろう、国木田は引きつった笑みを解凍しながら、

「キョンと涼宮さんが予約しているのって、中央ホールのディナーショーのこと?」

頭に引っかかっていたものを取るようにそう尋ね、

「中央ホールで6時から、って書いてあるわ。ショーの内容は記載されていないけど……」
「すごいよ、本当に凄い!」

ハルヒがディナーショー開催位置を復唱した瞬間、驚嘆の声を上げた。そしてチケットが自分のものでないことに気づくと、

「いいなぁ。君たちが羨ましいよ。もし持っているのが君たちじゃなかったら、外聞をかなぐり捨ててまで手に入れたい代物だよ、それ」

羨望の視線を俺に、憧憬の視線を胸元のチケットホルダーに向けてくる。
高級料理のオンパレードであることは想像に難くないが、そこまで価値のあるものなのか? ショーの内容は未発表なんだぜ?

「キョンは情報誌とか読まないんだよね。いいかい、今日そこでライブするのは――」
「そろそろ行くのね。あたし、お腹空いちゃった」

気になる部分で、阪中が会話を分断する。だが、その催促ももっともだ。
ふと空を見上げれば。菫色だった空は紺碧に塗り替えられていて、
仮想空間とは違う現実の月は、時間と共に確実に存在感を増し始めていた。夜の帳が、降りようとしている。

「それじゃ、そろそろ僕たちは行くよ。また学校で」
「wawa......waa....wa........じゃあな、キョン」
「寂しいけど、バイバイなのね」

245 名前:ちなみにライブするのはENOZじゃないよ[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:25:01.49 ID:KvqLjiGN0

じゃあな、と軽く手を振って別れを告げる。
最後まで壊れたままの谷口が少し気がかりだったが、明後日あたりには完全に自己修復しているだろうし、
俺があいつ言葉責めをしたことは悔悟すべき事柄じゃない、と割り切ることにした。

「俺たちも行くか。中央ホールまでは遠いから、今から向かえば丁度開演時刻の30分前ってところだ」
「………え、なに?」

ハルヒは三人が雑踏に紛れた方に、目を奪われていた。双眸はまるで寝起き時のようにトロンとしている。
まだこいずみくんライド☆の感覚が抜けきっていないのか? なんならもう10分くらい休憩してもいいが。

「ううん、もう大丈夫よ。さっきはなんて言ったの?」
「時間が迫ってるし、そろそろディナーショーに行かないか、と」
「そうね。でも30分も時間あるなら、ちょっと寄り道していってもいいかも」

こいずみくんライド☆前からは、それぞれ東方面と南方面に通じる大きな通路が、二本に分かれている。
寄り道せずに直行するもよし、開演時間ギリギリまで寄り道していくもよし。だが……こういう二択ってのは決めるのが難しい。
寄り道すれば思わぬ出会いがあるかもしれないし、早めにホール前に行けばバンドの人たちと会えるかもしれない。
どちらにするか悩んだ挙げ句、俺はハルヒに選択権を譲渡しようとし、

「キョンが決めて良いわよ。あたしはそれに従うわ」

例によって例の如く、俺の判断力に一任された。ここは――


1、まだ時間はある。寄り道しよう
2、寄り道せず、真っ直ぐホールに行こう
3、ハルヒは少し眠そう(?)だった。ベンチで休憩しよう

>>255までに多かったの

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 02:25:53.87 ID:GJ/U0fPh0



247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:05.05 ID:Pzf5bCR60

2

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:21.13 ID:bGPcAidW0



250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:53.88 ID:pJCOJbmkO

3

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:59.02 ID:Pzf5bCR60

>>248
乙です。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:08.89 ID:6EoWwGt3O

3で

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:22.76 ID:7IJ6u6IJO



254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:43.42 ID:9/M/tfeuO

3

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:29:46.25 ID:6cg0hYbZ0



398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 19:54:09.40 ID:KvqLjiGN0

「それよりお前、疲れてるんじゃないのか? さっきも顔紅かったし」
「いきなり何よ。あたしはちっとも疲れてないし、顔も全然紅くなんか――」

ごにょごにょと否定するハルヒの手を引いて、近場のベンチに座らせる。
強引な形になったが、これもお前の身を慮っての行動なんだ。批判は受け付けないぜ。

「こんなとこでじっとしてるなんて勿体ないわ。何考えてるわけ?」

激しく抵抗するとまではいかないものの、脚をパタパタとさせるハルヒ。
そのなんでもないような仕草に、息が詰まりそうになる。あぁー、その。ここで誤解なきようにするには、
休憩所望の人間が溢れている夜のテーマパーク内で、ゆとりを持って座るためだけにベンチを専用することはまず不可能であり、
よって零に等しくなったハルヒとの距離のせいで揺れる艶美な脚線が網膜に映り込んだのは不可抗力であったと弁明しなければなるまい。
俺は湧き出ようとする劣情を押しとどめるべく瞑目し、

「じゃあ、これならいいか? 俺が休みたくなったんだんだ。こいずみくんライド☆で疲れたんだよ」

先ほどの提案は「俺の我侭」だということにした。これならハルヒは俺の提案を無碍にはできまい。
他人の懇意を尊重するようになったハルヒの心理の逆利用。二年前には想像だにしなかったそれを、俺は識域下で実践していた。

「よくぬけぬけと心にもないことを言えるわね。いいわよ、あんたがそういうなら座っててあげる」

しょうがないわね、と溜息をついてハルヒは脚の動きを止めた。二重の意味で安堵する。

「もう知ってるヤツには会いたくないわね」
「どうしてだ?」
「だって面倒じゃない。まあそれでもアホの谷口よりは万倍マシだけど」
「夜になっても人は減るどころか増えてるんだ。また誰かと鉢合わせするかもしれないぜ」
「その時はダッシュで逃げるわ。あんたも一々声かけちゃ駄目だかんね」

極度に既知の人物との接触を避けるハルヒに、吹き出しそうになる。お前、誰かに弱みでも握られてるのか?

410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 20:40:40.63 ID:KvqLjiGN0

「まあ、そんなもんかしら……」

語尾を曖昧にしたまま、ハルヒは顔を渋めて空を仰いだ。
手持ちぶさたになった俺も、空の代わりに雑踏へ視線を落とす。
刻々と時間は過ぎていく。老若男女の人波は、夜の食事場を求めて走り回っていた。
如何に巨大テーマパークといえども、内包できるレストランやファストフードの数には限度がある。
夜と昼の境界にあたるこの時間帯。
有名店は言わずもがな、さほど注目されていない店でも、その店外には長蛇の列ができているに違いない。

「食事一つするにも一苦労だな。俺たちは並ぶ必要ない分ゆっくりできるが」

感想を投げつつ、右隣から消えた気配を辿る。灰色のコートの男性が、雑踏の中に消えていった。
一人、また一人と、ベンチから人が消えていく。それと比例するように、雑踏の人影は増していった。

「大都会の大通りの再現みたいだ。いや、それ以上か」

混沌としてきた雑踏から、焦点を引き下げる。
ベンチに座り続けているのは、既に俺たちと3組のアベックのみになっていた。
四つの椅子に四組の男女。一組あたりが占有できるスペースにはかなりの余裕がある。

「ハルヒ、狭かったらもっとそっちによってもいいんだぞ」

十秒後。待てど暮らせど返事は帰ってこない。
無視されるなんて心外だね。微動だにしないのがそのまま意思表示ってことでいいのか?

「おいハルヒ、」

困惑した俺は左に首を捻ろうとし――初めて肩に重みを感じて、ハルヒの無言状態の理由を知った。
やれやれ、俺の直感も捨てたもんじゃないってことか。やっぱりおまえも疲れてたんじゃないか、この嘘つきめ。
ハルヒの耳にそっと囁く。すぅすぅと幽かに寝息を立てるお姫様は、くすぐったそうに身動ぎした。

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 21:16:46.17 ID:KvqLjiGN0

――――――――――――――――――――――――――――――

『わざわざベンチで見せつけやがって、殺ス、コロス、ころ――』
『挑発なのか? それは俺たちへの挑発なのか?』
『く、悔しくないもんね、お、俺は、うわあぁぁぁぁああ』

道行く男性グループからの怨嗟の視線照射を防ぎはじめて、はや30分。
にわかに活気を失った雑踏から腕時計に目をやると、時間は丁度良い頃合いになっている。
そろそろ歩き始めないと遅刻するかもしれない。だが――

「すぅ、すぅ」

ハルヒは俺の焦燥を露ほどにも知らず、定期的に寝息を漏らしていた。熟睡している。

「ここまで気持ちよさそうに眠ってられちゃ、起こす方は辛いよな……」

独りごちる俺。
世の中の母親の気持ちを少しだけ理解できたのはいいが、ここからどうするかが問題だ。
朝が弱い人間は目覚まし時計で起きるというのが一般的常識だが、妹の物理的攻撃による起床が日常的な俺は、
いざ起こす側となっては果てしなく無力である。声を掛けて起こすべきか、揺り動かして起こすべきか。
どちらの方がハルヒにとって良い目覚めとなるのか、全然分からない。

「んー、むにゃむにゃ」

心地よさそうに寝言を漏らすハルヒ。……こっちの気苦労も知らないで。
ま、朝からずっと歩き回って休憩もなしにアトラクションを乗り継いできたんだ。
この睡眠で少しなりとも疲れが取れたんなら、俺はちっとも迷惑に感じたりしないんだけどさ。
だが――。タイムリミットは差し迫っている。もう、問題を遷延することはできない。

俺はハルヒを、  1、揺り起こすことにした 2、声を掛けて起こすことにした    >>435

435 名前:くびきりうさぎ ◆CWqpjLFVQc [] 投稿日:2007/12/18(火) 21:19:10.75 ID:K/kIRIztO

当然2

455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 22:12:03.12 ID:KvqLjiGN0

「おい、起きろ。これ以上眠ってたらディナーショーに間に合わなくなるぞ」

俺は数瞬悩んだ挙げ句、声を掛けて起こすことにした。耳元に口を近づけているので、周りには拾われない程度の声量だ。
だがそんな俺の配慮も虚しく――ハルヒは鬱陶しそうに寝言を漏らすのみだった。

「……るさい……わね……」

俺の聴覚神経が正常ならば、確かに今、うるさいと聞こえたんだが。逸る気持ちを抑えつつ、もう一度声を掛ける。

「おい、起きろってば――」
「……うるさいわね」

ええいこいつめ、人を馬鹿にしてからに。

「起きろって言ってるだろ。いい加減にしないと放ってくぞ」

心にもない脅しをかけてみる。と、頑なに瞑られていた瞼が、ゆっくりと開いていく。
そして瞳が半分ほど顕わになった頃、ハルヒは俺の肩から頭をもたげて

「ん……おはよう、キョン」

よう、目覚めはどうだ。一から状況説明する必要がありそうか?

「えっと……こいずみくんライド☆に乗って、ベンチに座って、その後……」

転た寝してたんだよ、随分気持ちよさそうに眠ってたぜ。ディナーショーの夢でも視てたのか?
寝起きの耳には届いているかも怪しい、からかいの言葉。
だが――それはハルヒにとっては覚醒剤にも等しい効力を持っていたようで、
ぽやぽやしていたハルヒの表情は、急速に通常時の隙がないそれへと変貌していく。
羞恥に顔を染めてぐしぐしとよだれを拭うハルヒは、まるで父親に自室を覗かれた思春期の女の子みたいで可愛らしい。

478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 22:57:06.81 ID:KvqLjiGN0

「あたし、いつから寝てたの?」
「さあな、気づいたときには熟睡してたから」
「不覚だわ………テーマパークに来てるのに眠っちゃうなんて」

いいんじゃないか。3Dゲームってのは視覚に負担をかけやすいんだ、脳が休息を求めてもなんら不思議はない。

「でも、あんたに退屈させちゃったし」
「別段退屈でもなかったぞ。お前の寝顔を観察するってのも有意義な時間の過ごし方だと、」

途端、ハルヒはキッと俺を睨付け、

「今すぐ従前30分間の記憶を消しなさい」

そいつは無理な相談だ。お前の無防備な寝顔は網膜に焼き付けて脳内アルバムに永久保管済みだからな。

「ッ!! あんたにはデリカシーってもんが、」
「冗談だよ、冗談。ま、写真に納めたいほどレアな一面を垣間見ることができて嬉しかったのは事実だぜ」

寝顔の一つや二つ別に恥ずかしがることでもないだろうよ、とのらりくらり弁解しつつベンチを立つ。
ハルヒもそれに追随するが、平衡感覚が取り戻せないのか、足下が覚束ない。

「御手をお貸ししましょうか、お嬢様?」
「結構よ」

強がるハルヒに苦笑して、俺は中央ホール目指して歩き始めた。歩調は遅めの、散歩するような速度。
ディナーショーの開演時間には、このペースではとても間に合わない。だが執事たるもの、常に優先すべきはお嬢様だ。

「ゆっくり行こうぜ。ちょっとくらい遅刻しても入れてもらえるだろ」

やがて隣にハルヒが並ぶ。依然唇は僅かに引き結ばれていて、頬も若干ふくらんでいたが――俺には分かっていた。それが、ハルヒなりの照れ隠しだということに。

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 01:01:47.54 ID:27+zdgbV0

――――――――――――――――――――――――――――――

ところで、ディナーショーという単語を聞いて皆さんは何をイメージするだろうか。
食事は勿論のこと、味覚以外でお客を愉しませる方法についての話だが。

一概にディナーショーといっても、親子連れに受けがいいマスコットキャラクターの喜劇や
中年の方々に人気の艶美なダンスショーなど、年齢層に適したイベントによってこのカテゴリは細分化されている。
そしてその中でも最もポピュラーなのが、有名バンドによる生演奏だ。
演奏するバンドにもよるが、若者の間では圧倒的にこのタイプのショーが好まれる。
その理由は一概には言えないが、慣れ親しんだ音楽に浸りながら束の間の大人気分を味わえるという魅力が主だろう。
さっきから他人事みたいにディナーショーのカテゴリを分析している俺だが、もしどのタイプを選びたいのかと聞かれれば、
俺だって一般的な若者の例に漏れず即答でライブを聴きながらのディナーを所望するさ。
まあもっともその願いも、目まぐるしく移り変わる視覚情報に翻弄されるよりも
ライブ演奏をBGMとして聞き流しつつ本命の料理を愉しみたい、という屈曲した持論から来ているんだが――

「本当にFrom bubbleが来てるだなんて……」

今現在、俺は口をあんぐりと開けた(比喩ではなくマジで)ハルヒの横で、
超有名jazzバンド「From bubble」の演奏に聴き惚れていた。ちなみにこのバンド名を知ったのは、ついさきほどのことである。
だが、空気にアルコールを攪拌させるような流麗な旋律と、アコースティックギターを手足の延長のように扱う神技に、
俺は入場してから5分後には、すっかりFrom bubbleの虜になっていた。
とてもじゃないが、これを聞き流しつつに食事を愉しむなんてことはできそうにない。……嘗めていた。
バンド演奏をBGMにする、とかなんとかほざいていた過去の自分が、最高に馬鹿げて感じられる。

「……それでは、しばらくは食事をお楽しみ下さい。後ほどある主要曲の演奏までには、まだ40分ほど時間がありますので」

主奏者らしき人物が一礼するのを見て、初めて一曲目が終わっていたことに気づく。
テーブルを見れば、並べられたオードブルには殆ど手が付けられていなかった。
主奏者含めバンドメンバーは全員ダークグレーのホンブルグを目深に被っていた。素顔を完全に確認することはできない。
やがて繊細なクレシェンドとともに、上品なjazzが流れ始める。こちらは一曲目とは違い、完全にBGMとして弾かれているようだ。

556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:02:49.71 ID:27+zdgbV0

「これは国木田が羨むのも頷けるわね。吃驚したわ。鶴屋財閥のテーマパークだから何でもありだとは思ってたけど」

ハルヒが、ほう、と嘆息を漏らす。まだ余韻から醒めやらぬ状態で発音したせいで、頬杖は今にも崩れそうだ。

「実際に耳で聞いてこのバンドの凄さは十二分に理解したつもりだが、そんなに有名なのか?」
「有名なんてもんじゃないわよ。jazzバンドの代名詞ね。普段あんまり音楽を聴かないあたしでも知ってるのに」

呆れたようにこちらを見るハルヒ。時代の流行に疎いことをここまで後悔したのは初めてなんだ。
とりあえず明日には発売中のCD全てを購入する所存だから、もっと詳細を教えてくれないか。

「いい? From bubbleは徹底的に正体不明のバンドなの。
 分かってるのは、奏者が全員初老の男性であることぐらい。顔も帽子で半分隠れてるしね」
「週刊誌のカメラマンに盗撮された経歴もないのか。余程ガードが堅いんだな」

ハルヒはほくほくとしたムール貝のブルギニヨンバター焼きを口に運びつつ、

「そりゃもう、音楽関係者でさえ知らないって噂よ。本当の顔を知ってるのなんて家族ぐらいじゃないかしら。
 まさに秘密のベールに包まれてるって感じだわ」

秘密のベールか、魅惑的な響きだね。これ以上情報の収穫は見込めないと判断し、俺もオードブルに手をつけることにする。
フォークとナイフの使い方は学習済みなので、食事行程に支障はない。スモークサーモンのキッシュを二口サイズに切り分けて、口に運ぶ。
スモークの芳ばしい旨みと狐色に焼けたホワイトソースの甘みが、口蓋で自己主張しあい、やがて交ざり合う。
使い古された例えだが――舌が蕩けそうなほど旨い。ま、当たり前のことなんだが。
改めて、周囲を見渡してみる。モルタル塗りの壁に、淡い暖色の照明。
そこにjazzの旋律が絶妙のテンポで融け、まるで街外れのバーのような妖しいムードが漂っていた。
ホール内で唯一のティーンエイジャーある俺とハルヒは、もう幾度となく、他の客からの奇異の視線に曝されている。

「俺たち、浮いてるよな」
「わかりきったこと言ってもしょうがないでしょ。鶴屋さんの采配がなかったら、多分一生かかってもこんなディナーショーに出席できないわよ」

577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:49:18.55 ID:27+zdgbV0

まったくだ、と首肯して、俺は再びナイフを操ることに専念することにした。
身分不相応とか場違いとか、一々気に病む必要はない。来た以上は存分にディナーショーを楽しまないとな。

―――――――――――――――――――――――――――――――

オードブルがなくなる直前、メインディッシュがウェイターによって運ばれてきて、テーブルの上は一気に賑やかになった。
フレッシュフォワグラのソテーも和牛フィレ肉のポアレもレンズ豆のポタージュもどれもこれもが所見であり(当然だ)、
俺はついテーブルマナーを忘れてその殺人的な美味しさを堪能しそうになっていたが、

「はしたないですわね、もっと落ち着きをもって味わいなさい」

まるでどこぞの上流貴族みたいに完璧なナイフ裁きを見せるこいつは、一体何者なんだろうね?
お前には一入の感慨による食欲暴走といった生理的反応がないのか。俺たちは最高級フランス料理を賞味しているんだぜ。

「それとこれとは関係ありません。どんな味であろうと動じない。それが淑女の嗜みというものではありませんこと?」

さいですか。すっかり役になりきっているハルヒに緘黙しつつ、俺はグラスに手を伸ばした。
持ち上げて、軽く傾ける。グラスの中で踊る琥珀色の液体は、白ワインではなくただの水だ。
未成年は飲酒不可。こればっかりは、鶴屋さんもどうにもできなかったようである。
ま、こんなとこでハルヒに飲酒されちゃ、泥酔状態のハルヒがもたらす惨状の事後処理を担当するのは必然的に俺になるわけで、
結局水で良かったという結論に帰結するには帰結するのだが、

「水はねぇよ。せめてジュースだろ」
「いいえ、これで良いのです。あのような甘味著しい低俗な飲み物では、高尚なフランス料理が汚されますわ」

………やれやれ、お嬢様になりきるのも大概にしとけよ。生徒会長みたいにペルソナに食われることになったら厄介だからな。
だが。俺は心中で諌言を呟きつつも、この口調に得体の知れない感情が生まれ始めているのを感じていた。嘘だ、俺は認めないぞ。俺がお嬢様萌えだったなんて――
ここは話題転換に限る。まだFrom bubbleの主演奏までには時間があるし、小話くらいはできるだろう。

話題提起>>586まで多かったの 1、俺たちが去年の文化祭でしたjazz演奏、憶えてるか? 2、ちょっとアルコール頼んでみようぜ 3、From bubbleについてもっと聞きたい

580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:04.48 ID:NdH32dHq0

2で

581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:25.57 ID:NdH32dHq0

乙です

582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:36.59 ID:1g6H+BM+0

1

583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:49.27 ID:dTWsLg0N0



1

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:52:04.25 ID:bF0u/uJE0

1に1票

585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:52:59.05 ID:FLsfXcxn0

1

586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:53:02.05 ID:orbBZ6tn0

乙!!2で

735 名前:ちょこっと修正ver[] 投稿日:2007/12/19(水) 20:31:24.31 ID:srRHJRL0

ナイフとフォークを置いてBGMのjazz演奏に耳を傾ける。
そうしていると、眼窩に去年の文化祭の光景が映し出されてきた。気がつくと、俺はハルヒに水を向けていた。

「去年の文化祭でのjazz演奏、憶えてるか?」
「あったりまえじゃない。昨日のことのように思い出せるわ」

憤慨したようにハルヒは言い切った。そして反芻するように中空を視線を浮かべながら、

「みくるちゃんがトランペットで、古泉くんがドラムで、有希がアルトサックスで――あたしがヴォーカルで、あんたがギターを担当したのよね」
「その通りだ。今だから言えることだがな、よく発表まで漕ぎ着けたと思うよ。あのときはマジで切羽詰まってたし」
「あら、あたしは最初から成功すると思ってたけど? 実際の演奏もほとんど完璧だったしね」

私的満足度100%のハルヒに、どうだか、と頭を振って目を閉じる。
昨年の10月中旬。その時の記憶は、今でも瑞々しいまま脳梁の引き出しに仕舞われている。
例によって例の如く、God knowsのカバーをやりたいと言い出したハルヒが引き金となって、jazzバンド「Type SOS」は急遽結成された。
経験もあってjazzのリズムにいち早く適応したハルヒと、あらゆる基礎技能が神クラスの長門を除いたメンバーは、練習の度に慣れない楽器と悪戦苦闘していた。
朝比奈さんがトランペットのピストンをパフパフ弄ったり、古泉がスティックの構造把握に勤しんだり、
俺がギターの不自然でない持ち方の研究に励んでいたりしたところを、一体何度ハルヒに見つかり厳酷な指導を受けたことか。
演奏発表の3日前には何とか形になり、前日には普通に聞ける程度になり、当日に一応の成功を納めることができたのは、間違いなく長門のアドバイスのおかげだ。
ハルヒは余裕だったと吹聴しているが、あのときは本当にやばかった。発表当日帰宅後、連日の練習の過酷さに寝込んでしまうくらいに。
ま、それでも後日のハルヒの笑顔を見ると、ギターの技術を習得できたし充実感は有り余るほど得ることができたし、結局はバンドを結成して良かったな、と思えてしまう俺がいたんだが。

「でもね――」

と、俺が懐古していると、出し抜けにハルヒがニヤつきながら、

「一人だけ、いつまでたっても上手にならないヤツがいたのよね。
 みくるちゃんが同情しちゃうくらいへたくそなのよ。流石のあたしも、これじゃ文化祭当日までには間に合わないかも、って思うくらいに」

751 名前:名無しさん[] 投稿日:2007/12/19(水) 21:09:31.82 ID:srRHJRL0

その言い方が気になって、記憶の糸を辿る。
古泉はきちんと練習時間に比例して上手くなってたし、長門は元から完璧に演奏できていたし、朝比奈さんはなんとか期限内には吹けるようになっていた。

「……お前の考え違いじゃないのか?」

ハルヒは俺の言葉を無視して続ける。

「んでもって、そいつは意地っ張りで強情で、なかなか人に教えを請おうとしないの」

大馬鹿だな。人間誰しも一度は、形振り構わず頑張るってことを経験しなくちゃならないってのに。

「あんたもそう思うでしょ? このままじゃダメだー、って分かってるのに、プライドが邪魔してたんでしょうね」

お前に矜持云々を指摘されるようじゃ、そいつは相当頭の硬いやつだということになるが、長門朝比奈さん古泉の三人にその特徴は該当しない。
足りない頭を絞ってみても答えは一向に見当たらず、率直に尋ねてみることにする。

「なあ、それは誰のことを言っているんだ?
 俺の記憶が劣化せず、また何者かに改竄されていないとするなら、誰一人としてそんなヤツはいなかったはずだぜ?」
「質問を変えるわ」

心底疲れた表情で、ハルヒは溜息とともにはき出した。

「発表前日まであたしの個人レッスン受けてたのは誰だったか、よーく思い出しなさい」
「……あ!」

初秋の夜長。音楽室での記憶が、一気に蘇る。
最終下校時刻を過ぎた校内で、ハルヒに見守られながらギターの弦を弾いていたのは――

「俺のこと、ね。でも随分酷い言い草じゃねえか。ちゃんと俺は間に合ったぜ」
「あたしが付きっきりで教えてあげたおかげでしょー。まったく、あたしが教授を申し出るまで、ずっと一人で悶々してたんだから」

760 名前:名無しさん[] 投稿日:2007/12/19(水) 21:47:36.18 ID:srRHJRL0

ハルヒは優雅にグラスを左右に揺らしながら、

「みくるちゃんに聞かされたときは焦ったわよ。
 あんたが有希の正確無比な指摘で上達しないこと以前に、練習がうまくいかないことを隠してたってことに」
「知られたらお前が怒ると思ってたんだろうな、その時の俺は。
 問題を先延ばしにしても何の解決にもならないことは、分かりきっていたはずなんだけどさ」

そして事実、その日から俺はハルヒに、強制的に個人レッスンを受けさせられることになった。

「あんたってば、全然あたしの言うこときかなかったわよね」
「お前の教え方は上手かったけど、俺にはちょいとレベルが高すぎたんだよ」
「あら、あたしは懇切丁寧に教えてあげたつもりだけど?」
「音楽に関する才能で、お前の基準と俺の基準には元から雲泥の差があったんだ。溝が生まれるのは必然だったんだよ」

当時の思い出話が尽きることはない。
焦燥感を滲ませるハルヒと理解力に乏しかった俺は、何度も何度も衝突した。
今から思えばハルヒの教えに素直に従っていれば良かったのだが、
悲しいかな、人とは享受される側であるにも関わらず反発の姿勢をとってしまう生き物なのである。

「一人でやる、ってお前を突っぱねたこともあったな」
「それであたしも、じゃあ勝手にやりなさいよ、って音楽室を飛び出したんだっけ。売り言葉に買い言葉ね」

唯一無二の、俺だけを見てくれる先生のいなくなった音楽室で。
俺は開け放たれた扉から目を背け、黙々と独り練習を再開しようとしたが――

「でも、やっぱ独りじゃダメだって気がついて」

いつの間にか、俺の指はハルヒの携帯電話に電話を掛けていた。

「本当にびっくりしたわよ。だって通話ボタンを押した瞬間、あんたったらいきなり謝ってくるんだもの」

775 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 22:31:58.39 ID:srRHJRL00

ふふ、と微笑するハルヒに、つい顔を背けてしまいそうになる。
当時の衝動的な行動をありありと思い出して赤面しているのを悟られたら、もっと弄られそうだ。
俺はハルヒの関心を逸らすべく、

「俺だってびっくりしたぜ。速攻で切られて電源OFFにされるかと覚悟してたのに、すぐに戻ってきてくれたんだからさ」

俺の謝罪後のハルヒの行動を、無脚色のまま陳述することにした。再び先生と生徒が揃った音楽室で、
あたしも言い過ぎたわ、なんて控えめなハルヒの言葉から反省会が始まったんだっけ。

「あ、あたしも悪かったと思ってたのよ。でも、あのまま電話してこなかったら本当に帰るつもりだったんだからね?」

今度はハルヒが恥ずかしそうに目を伏せる。一時的に形勢が逆転した。
俺が電話した3分後に音楽室に姿を見せたことから、俺はハルヒが校内の何処かで隠れていたんじゃないかと踏んでいるのだが、
ま、ハルヒが帰路についていたと主張している以上、追求することもないだろう。

「その後の練習は、至極順調に進んだよな」
「どっちが言い出したのかは思い出せないけど、あんな方法があったなら、最初から試していればよかったわ」

悔しそうにハルヒが呟く。それから俺とハルヒは同時に顔を見合わせて、

「あたしが歌うのに合わせた途端、一発で綺麗に弾けるんだもの」
「今までの練習はなんだったんだ、って思えるくらいに上手く弾けたよな」

これまた同時に、苦笑を零した。
ま、その練習法による上達効率上昇も、論理的に考えれば当然のことなんだが。
俺は絶望的にjazzのテンポを取るのが苦手だった。音楽とは、譜面通りに弾いても修得するものではなく、感覚として掴むもの。
jazzはその最たるジャンルの一つだ。ハルヒの歌声を注意深く聞き取ることで――俺はようやく、jazzを理解することができたのである。

「次の日のリハーサルで皆に驚かれたっけ。長門まで目を丸くしてたもんな」
「要はきっかけだったのよ。あんたは誰よりも練習してたんだし」

791 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 23:17:01.99 ID:srRHJRL00

「そ、そうか?」

妙に俺を立てるハルヒに、戸惑いを隠せない。
俺は胸の辺りで生まれたむず痒い感情を殺すように、グラスの水を飲み干して、

「いや、きっかけ云々以前に、やっぱりお前のお陰だと思う。
 お前の個人レッスンがなけりゃ、お前の歌声でテンポをとれるようになっていなけりゃ、当日は失敗していただろうし」
「そんなことないわよ。あんたの努力が報われたのよ」

しかしやはり俺を立てるハルヒに、違和感を感じていた。
ハルヒの双眸には、決心しては躊躇ってを延々とループしているような、そんな逡巡の光が揺蕩っている。
――こいつ、酔ってるのか?
水で酔う人間は俺が知る限りいないが、ハルヒがこの妖しいムードに当てられた、という可能性は十分にあった。
ハルヒは芯が強いように見えて、その実、雰囲気に流されやすい。舞い降りるはずのなかった沈黙が、会話の隙間に潜り込んでくる。
これは良くない兆候だ。どことなく嫌な予感がした俺は

「そういやこの前――」

即席の話題転換を画策し、

「ねぇ、あたしずっと言い忘れてたんだけど」

ハルヒの独白に、言葉を遮られていた。従来とは一線を画した真剣な口調に、口をつぐむ。

「ほんとは、もっと早くに言わなくちゃいけなかったんだけど……」

BGMが遠のいていく。口の中はさっき水で潤したばかりだというのにからからで、固唾を呑もうにも呑めない状態だ。
やがてハルヒの薄桃色の唇が、小さく動く。だが、ハルヒの喉から声が漏れる直前―――

「大変永らくお待たせいたしました。これより、From bubbleの主演奏を開始しいたします。」

818 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:32:17.15 ID:c8zWvtjJ0

司会者の明朗な声が響き渡った。静逸を保ちつつお喋りを愉しんでいた客たちの視線が、一斉にステージに集中する。
加速度的に、ホール内が喧噪に包まれていく。From bubble再登場の期待に、ディナーに参加している人間全員が浮き足立っていた。

「あ――」

ふと、ハルヒの言葉の続きがいつまで立っても訪れないことに気づく。戻した視軸の先、そこには、

「いよいよねー、愉しみだわ。最初の一曲で確信したんだけどね。
 あたしFrom bubbleの曲は全て網羅してるんだけど、CDとライブじゃぜんっぜん音質とか色々違うのよ」

――さっきまでの様子が、まるで虚構だったかのように明るいハルヒがいた。
表情に決意の色はなく、声音に不安の震えはなく、双眸に躊躇いの光はなく。
すっかり"From bubble登場を待ち望んでいる"状態に戻ったハルヒに、戸惑いを隠せない。
独白の結末を尋ねるべきなのか、それとも虚飾に隠れたハルヒに合わせるべきなのか。思惑を廻らせる。

「どうしたの? なんか浮かない顔してるわよ?」

ここは、

1、さっき、何を言いかけてたんだ?
2、なんでもないって。演奏、楽しみだな

>>825 までに多かったの

820 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:12.29 ID:aeSEotib0

1

821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:16.21 ID:RAIUMl640



822 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:50.14 ID:Rco0oUnh0



823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:04.76 ID:Ptx+AaXY0

1

824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:22.73 ID:AT3G1sXeO

2

825 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:25.22 ID:2nIxgMzC0



850 名前:修正ver 焦って修正多くてすまん[] 投稿日:2007/12/20(木) 01:14:33.78 ID:c8zWvtjJ0

ハルヒの態度が変質したからといって、中途半端に諦めることはできない。
それがもし重要な事柄なら、後で後悔に苛まれるのは間違いなく俺だろうしな。
質問に質問で返すのは御法度だが、この際どうでもいい。

「さっき、何を言いかけてたんだ?」

脈絡を無視した俺の問いかけに、ハルヒは最初、豆鉄砲を食らった鳩のように体を硬直させていたが、

「き、気紛れよ気紛れ」

明らかに挙動不審な動作で、首をステージの方に捻った。あれだけ焦らしといて逃げる気か?そうは問屋が卸さないぜ。

「教えてくれ。このままじゃ気になって、演奏がまるで耳に入ってこない」

質問から逃げ出さないように、ハルヒの撫で肩に手を添える。
俺らしからぬ大胆な行動だが、無意識下での行動なんだし多めに見て貰えるとありがたいね。ハルヒは数秒俺の左手に視線を落としていたが、

「……言い忘れてたの。あたしの我侭きいて、jazzバンド作りに協力してくれて……」

やがて、肩をぴくりと震わせて、

「……ありがとう、って言わなきゃならなかったのに……」

辺りの喧噪に押しつぶされてしまいそうなほど幽かな声で、そう言った。
緊張に張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れる。あのな――なんだって今頃、そんなことを言い出すんだ?
添えていた手を下ろし、懊悩に耽る俺。ハルヒの精一杯の謝辞をどう扱えばいいのか、さっぱり分からない。

「だって、あんたとはあの時たくさん喧嘩したし、無理もいっぱい言ったでしょ?」

僅かに尖った唇で、拗ねたような口調で、ハルヒは続けた。ルージュが、輝度を増した照明に妖しく煌めいている。

906 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 02:32:33.29 ID:c8zWvtjJ0

「……だから、あたしはあんたに感謝してるって言ってるの」

そう言われてもな。先ほどから俺の脳裏を掠めるのはその場凌ぎのしょうもない科白ばかり。
気の利いた受け答えなんぞとてもできそうになく、下手に口を開けばハルヒの謝辞を無碍にしてしまいそうだ。

「んー、とだな。お前の迷惑をかけたという気持ちはその、見当違いで――」

だが、俺がもごもごと口籠もっている間に、

「演奏が始まったわ。聴きましょ、キョン」

美しい旋律が、ホール内に響き始める。From bubble主演奏第一曲目が始まった。
ハルヒは既に俺への独白から気持ちを切り替えたのだろう、目線をステージに合わせたまま逸らさず、
その姿からは"言わなきゃ良かった"という悔悟的なメッセージが容易に受け取ることができる。
――あぁ、またやらかしたのか俺は。
昼行灯の俺が迷ったときにできることなんて唯一つだ。余計なことを考えずに気持ちをそのまま言葉にする。
そしてそれは、今一生懸命捻り出した事じゃなくて、去年の文化祭ライブ終了後に感じたことでも良かったのさ。

「俺だって最初は面倒だとかだるいとか思ってたけどさ――」

音という音を支配されたこの空間で、俺の言葉が届くかどうかは分からないが。
顔をステージに向けて、視線をハルヒのそれと平行させたまま言う。

「――皆の前で演奏して、拍手を貰ったときの達成感は最高だった。だから感謝しなきゃいけないのはお前じゃなくてこの俺だ。
 お前がバンド結成するっていいださなかったら、俺はギターを触ることもjazzに親しむこともなかったんだから」

案の定、返事が返ってくることはなかった。
ふと流し目を送った先で、ハルヒは頬を僅かに綻ばせていたが、十中八九、ライブ演奏に感動しているんだろう。
心中で己の愚昧っぷりを罵りつつ、俺も演奏に耳を傾けることにする。
一曲目と同様に。聴く者全てを引き込むような誘惑の旋律が、耳朶を震わせた刹那――俺はFrom bubbleの虜になっていた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 19:47:59.27 ID:5L/z2vAw0

――――――――――――――――――――――――――――――

主演奏開始から1時間後。
オーディエンスの期待値を遙かに上回るjazz最高峰と言っても過言ではない演奏を存分に堪能し、
他の聴衆同様恍惚としていたハルヒを現実へと引き戻しつつ拍手喝采のステージに拍手を加えた俺は、
ゲリラ企画されたfrom bubbleメンバーとの握手会を経て、ホール外に足を踏み出していた。
ひんやりとした夜気に首を竦める。

「時間も忘れるとはこのことか」

腕時計の短針と秒針は、現在時刻が9時ちょっと前であることを示していた。
ホールに入場してから出るまでに、3時間近くもの時間が経過したことになる。
辺りはすっかり暗くなっていた。空は墨汁を流したように黒く、その上に幾つもの星が瞬いている。
いくら仮初めの自然に囲まれているとはいえ、テーマパークは都会の一端にある。
こんなに空が綺麗に澄んでいるというのはまずあり得ないんだが――と空を仰ぎながら訝しんでいると、

「あぁたのしかった。最高だったわね」

ふいにハルヒが話しかけてきた。なんだ、握手された時の興奮で舞い上がったまま
もう地上に戻ってこないと踏んでいたのに、随分と早いお帰りじゃないか。

「最後の握手会は皆に自慢できるわよ〜。国木田は泣いて羨むでしょうね」
「ホール内の人間は、誰も握手会があることを知らなかったみたいだな」
「あったりまえじゃない。前代未聞よ、前代未聞。from bubbleメンバーと握手できるなんて」

ついさっき温かい掌に包まれた右手を、今一度見直してみる。
ホンブルグから覗いた白髪混じりの髪と、俺の手を握った掌に入った幾筋もの皺は、
ハルヒの情報通り、メンバーが初老の男性であることを証明していた。

「にしても、あんたって運良いわよねー。握手するとき、主演奏者の人と会話できたんでしょ?」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:36:48.86 ID:5L/z2vAw0

一生分の運全部使い果たしちゃったんじゃないの、と怖くなることをいうハルヒを流しつつ、
握手をしている間の、ほんの僅かな時間に交した科白を想起する。

『どうか彼女を大切に。人は失ったとき、初めて喪失の悲しみを知るのです』
『は、はぁ……』

吟遊詩人みたいな台詞回しに対して咄嗟に口から出た言葉は、辛うじて了承の意を伝える間投詞。
ハルヒは羨んでいるが、実際は会話を紡げていたかどうかも怪しいもんだった。
だが、俺にとってはそんなことより、

「なあ、あの人を知っているような感じしなかったか?」

間近で風貌を観察したとき、マイク越しではない声を聴いたときに感じた既知感が、どうにも頭の隅に引っかかっていた。
紳士的な風格に懐かしさを感じたのは、俺だけではないはずだ。お前も何か――

「もう一度言うけどね。超有名スターでしかも正体が完全秘匿されているfrom bubbleの主演奏者と、
 一般ピープルの中でもさらに格式高い中庸性を確立しているあんたが面識あるわけないじゃないの」

ハルヒはまるで夢見る子供に現実の厳しさを教えるように断言した。ま、常識的に考えりゃそうだわな。
冷静になってみれば、俺とあの人の間に接点があるとは、俺が実は地球人ではなく異世界人だった、なんて空想以上に考え難い。
途中、俺がフツーであることを嘲笑するような文句が混入していた気もするが、
それを指摘するとまた話がややこしくなりそうなので、華麗にスルーするとして。

「相当ディナーショーで時間を使っちまったが、今からどうする?」

長いことジーンズのポケットに押し込められ、くしゃくしゃになったマップを広げる。

1、にわかに、人混みの流れが速くなった。何かのイベントがあるのだろうか?
2、アトラクション選択へ                                     >>32までに多かったの

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 20:37:56.62 ID:rQvngZUh0



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:07.77 ID:zNuwY0AJO



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:14.54 ID:DPsCMGeNO



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:21.37 ID:5tmMdJokO

1

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:49.23 ID:1ZluKgm9O

1

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 21:25:23.65 ID:5L/z2vAw0

幽霊屋敷、ジェットコースター、ボートにこいずみくんライド☆とくれば、
残された主要アトラクションは観覧車と豪華客船による湖上一周ぐらい。
時間的に後者の客船は運休しているから、ここは観覧車での高所観光がいいだろう。
消去法により済し崩し的に決ってしまったが、夜の観覧車はロマンチックなこと請け合いだ。

「観覧車はどうだ。夜だから景色は綺麗だし、お前の要望にも添えると――」

俺は自信を持って次のアトラクションを提案しようとし、

「急に人が増えたわね」

眉を顰めて群衆を見つめるハルヒが、俺に興味を失っていることを知って愕然とした。
jazzを口ずさんでいたハルヒの唇は、考え込むように添えられた手によって塞がれている。
おいおい……人が増えたことなんてどーだっていいだろ。
テーマパーク内のスピーカーから流れ出す曲はノクターンへと移り変わり、
ありとあらゆる建物はイルミネーションによってライトアップされ、
テーマパークを囲むように設置されたライトは、夜空へとハイビームを放っている。
時刻はもうすぐ9時だ。大方、子供連れの客が退場しようと、門に駆けつけてるからじゃないのか?

「9時……9時……あ!」

俺の小言が聞こえたのか、はたまた燦然と時間を示す柱時計に気づいたのか。
9時という時間を連呼した後、ポン、と手を打つハルヒ。
しかしその軽快な仕草とは裏腹に、先ほどまでの思案顔が渋面へと変わっていく。

「もう、どうしてこんな大切なことを忘れてたのかしら!!」

その言葉を最後に、ハルヒは近場の係員の元へと駆け出していった。
そして係員と二言三言交すると、パタパタと礼をしてこちらに駆け戻ってくる。何をそんなに慌てているんだろうね、こいつは。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 22:10:54.55 ID:5L/z2vAw0

だが――ハルヒを窘めようとしていた俺は、次に聴いた言葉に、一気に余裕を突き崩されることになる。

「はぁっ、9時からね、はぁっ、丘の上で花火があるのよっ!」

息を切らしながら、ハルヒは活性化した群衆の根因を伝えた。
鶴屋財閥が総力を注ぎ込んで建設したテーマパークの正式オープン当日だ、
その規模は既存のテーマパークの花火がただの火遊びに見えるくらいに、豪華絢爛なものとなるに違いない。
あぁ、どうしてこんな大事なことを忘れていたんだ――ディナーショーに現を抜かしていたとはいえ、
テーマパーク恒例の夜のイベントを失念してしまうなんて。

「とにかく、急いで場所取りにいかないと」
「もうほとんど埋まっちゃってると思うわ。それでも行ってみる価値はあるけど」

ハルヒの手を引いて、南へ走り出す。
花火を一番綺麗な角度で観賞できる場所の条件には、適度な距離と遮蔽物のない平面空間の二つがある。
そしてこのテーマパーク内でそれがぴったり当てはまるのは、入場門から少し進んだところにある大きな噴水広場のみ。
腕時計を見る。9時までにはもう、幾許も時間は残されちゃいない。場所を取れる可能性は限りなく零に近い。

「―――はぁっ――はぁ――っはぁ―――」

でも。諦めようなんて台詞は絶対に口にできなかった。
焦燥と不安に顔を翳らせながらも、慣れないブーツで一生懸命に走るハルヒに現実を諭すのは、
純真無垢な子供にサンタはいないと伝えるのと同等に酷く、愚かなことだと思ったからだ。

噴水広場に近づくにつれて、群衆の密度が増していく。
結末がすぐそこにあるのにも関わらず頁をめくるのを躊躇ってしまうような、
物語の終末を読み終わる時に感じる畏怖感が大きくなっていく。
その感覚を振り払うように、人混みをかきわけて道を進む。

そして、終に俺たちは辿り着いた。否――広場前の群衆の壁に、それ以上の進行を阻まれていた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 22:50:19.24 ID:5L/z2vAw0

広場を中心にして同心円状に広がる壁に、綻びはない。
間に合わなかった。覚悟していたことだが、その現実が重く俺とハルヒにのしかかる。

「――――ッ」

隣で唇を噛み締めるハルヒに、なんと言葉をかけていいのか分からなった。
華やかなノクターンやイルミネーションが、セピア調に褪せていくような錯覚に囚われる。
広場の中心で談笑する家族連れやカップルに、抱いてはいけないと知りつつも、どす黒い羨望と嫉妬を抱いてしまう。

「すまん、ハルヒ。俺がもっと早くに気づいてりゃ、ディナーショーが終わった後すぐにでも駆けつけられたのにさ」

居心地の悪い沈黙に居た堪らなくなって、自分の非を挙げていく。
そんなことをしても現況は好転しないと分かっているのに、俺の舌は止まらない。

「元はと言えば、具体的なプランを決めてなかった俺が悪いんだ、だから、」
「もういいわよ、キョン」

と、花火開始5分前を示すアナウンスが響いた時だった。顔を伏せていたハルヒが静かに俺を制止し、

「花火なんて、また今度来たときに観られるでしょ?」

見てるこっちが辛くなるような、哀しい笑顔を浮かべた。言葉のニュアンスは花火を軽視するもの。
だが――常日頃から鈍感鈍感と罵られている俺だって見抜けるぜ。お前は、本当は今夜の花火を、滅茶苦茶楽しみにしてたんじゃないのか。
いくら毎夜花火があるといっても、今夜の花火は特別だ。正式オープンに伴う、それはそれは盛大な花火になるだろう。
それを見逃して、お前は本当に後悔しないのか?

「だって………だって仕方ないじゃない! 観賞席は満席で、他の微妙なとこも全部埋まっちゃってるに決まってるわ!
 これ以上どうすればいいって言うのよ!! 諦めるしかないじゃない!!」

前触れもなく。ハルヒの叫喚が、広場前に響き渡る。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:17:39.90 ID:5L/z2vAw0

「ハルヒ………」

大きく見開かれた双眸は、薄闇でも分かるほどに潤んでいた。

「せっかく、キョンと一緒に見られると思ってたのに……なんで……」

そうしてハルヒは、再び視線を地面に落とした。
後ろの騒ぎに一瞬振り返った群衆も、すぐに視線を空へと移す。
男女の連れが揉めていたところで、こいつらにとっては何の影響もないんだろう。
それは極めて普通な反応だ。もし仮に俺が場所取りに成功して、
後ろで場所を取れずに嘆いている人間を発見しても、場所を交代するという愚挙には出ない。

「…………」

終わりの見えない沈黙が影を落とす。
二年前なら。ハルヒは環境操作能力を識域下で駆使して、
群衆を丸ごと何処かに瞬間移動させるか何かしていただろう。
でも、今俺の隣で大人っぽく着飾っているハルヒは、二年前のハルヒじゃない。
識域下であるにせよ私利私欲のために能力を使うことをやめ、普通の女の子になろうとしているハルヒだ。

「くそ―――」

もう一度花火を観られる場所を思索するが、見当たらない。
役に立たない頭に心底嫌気が差す。
こんな時になって初めて、俺は自分の無力さを思い知る。いつだってそうだ。
今にも哀咽を漏らしそうになっているハルヒを、俺は傍観することしかできない――と、その時だった。
電流のような火花が頭の中で散る。頭を抱え込まなければ、苦悶の叫びを上げてしまうほどの激痛がこめかみに走る。

1、何か、何か大事なことを忘れている気がする。思い出さなくちゃ一生後悔しそうな、大切な何かを――
2、こんな時に頭痛かよ。俺はこの状況をなんとか打開しなくちゃならないってのに         >>110までに多かったの

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:18:52.97 ID:UGOama640

1    F7の出番か?

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:07.91 ID:8NUdLtoG0

1

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:10.37 ID:QTMi8i+AO

111111111
そんな気分

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:17.23 ID:ueHNJKnG0

1

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:38.00 ID:n1jo0eL20

>>49でキョンがいいかけたアトラクションを!!

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:44.62 ID:ZT6cQJBr0

1だろ常考

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:47.95 ID:0I0mQXQn0



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:04.83 ID:2+uq21TPO

1歯科

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:36.13 ID:DrtYMC9a0



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:48.49 ID:DPsCMGeNO

乙! じゃあ1で

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:49.27 ID:gRfY2nKbO

どっち選択しても同じ展開になりそうだけど1

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:49.94 ID:jr78i2oU0

1だ

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:21:00.74 ID:j2aeS0g2O

ついにみくるのメールがああああ

1 1

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:21:01.98 ID:rn8Y29Kc0

今追いついた


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 00:30:03.89 ID:Dhb0fEf90

何か、何か大事なことを忘れている気がする。
思い出さなくちゃ一生後悔しそうな、大切な何かを。
砂嵐のような頭痛を乗り越えて、隠された記憶を手探りで探し当てる。
刹那――ノイズとノイズの隙間に、麗しの先輩の微笑みが現れた。


覚えていて欲しいんです
絶対に役に立ちますから

"F7"

それじゃあ、またね


頭痛が急速に引いていく。どうしてこんな大切なことを忘却していたのだろう。
先輩からのメッセージを一時ならずとも丸一日忘れていただなんて、自分で自分のニューロン構造が信じられない。
だが、自己嫌悪に陥り始めた俺に、眼窩に投影された朝比奈さんは語りかけた。優しく慈悲深い、天使のような声が響く。

『ふふ、忘れちゃってたことを責める気はありません。それは必然だったから』

ありがとうございます、朝比奈さん。情けないですね。
あなたが未来に帰った後も、俺はあなたに助けられてばかりいる。

『さあ、今は早く、涼宮さんを喜ばせてあげて』

はい、と俺が首肯した瞬間、朝比奈さんの姿は再びノイズにかき消されたが――
俺は最後の大きなノイズが走る直前、朝比奈さんのメッセージを眼窩に刻みつけていた。
『F7』 もう、二度と忘れたりしませんよ。

瞼を開く。酷い頭痛が駆け抜けた直後の景色は、どこまでも鮮やかで、華やかだった。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 01:10:14.73 ID:Dhb0fEf90

瞼の裏で煌めいて存在を主張する、F7という英数字。
頭に火花が走った途端に、事態を解決する答えが思い浮かぶというのは出来すぎた話だ。
得体の知れぬ英数字は、それだけなら意味を成さない。元よりあるモノに付加させて初めて、意味を成す。
そう、これはヒントなんだ。いつも俺を優しく見守ってくれている誰かが、窮地に立った俺を助けるために送ってくれた、救済のメッセージ。
それに何を組み合わせて思考を再構築するかは俺次第だ。思考停止に陥っていた頭が、急速に回り始める。

「………F7は、場所を示している?」

もしこの英数字が現況を好転させるためのものとするならば。
それは広場以外の場所を示唆する、ということに他ならない。フィールドマップを開く。
丘、噴水、中央ホール、山、湖――F7が関係する文字はない。
俺の考え違いだったのか、とマップを閉じかけたその時だった。
彷徨っていた視線が、英字と数字の並びに止まる。

横方向にA,B,C,D,E,F,G......
縦方向に1,2,3,4,5,6,7,8.....

それは、マップ内での場所を座標指定するための数字だった。
F7に該当するブロックを指で辿る。果たしてそこには、湖の畔と森が、水色と淡緑で表現されていた。
高台も何もない平らな場所だ。周囲を森に囲まれている所為で、見通しも悪い。
もし、F7のブロックにマップから窺い知れぬ未確定要素がなければ。俺はハルヒを今以上に哀しませるという、大罪を負うことになるだろう。
だが――この閃きに、賭けてみる価値はある。

俺は緘黙したままのハルヒの手を握って、

「ハルヒ。もしかしたら、とびっきりの花火が観られるかもしれないぜ」

根拠もなければ確信もない、虚構に化けるかもしれないことを口にした。
伏せられていた瞳がこちらに動く。そこに光が灯り始めたのを見て、俺はもう、後には引けないことを確信した。

191 名前:ちょこっと修正ver[] 投稿日:2007/12/21(金) 01:55:11.84 ID:Dhb0fEf90

「ほんとなの?」

引き結ばれていた唇が戦慄く。

「ああ、俺を信じてくれ」

ハルヒの双眸を真っ直ぐに見据えて、断言する。こいつの懐疑はもっともだ。
手詰まりの状態から一転、噴水広場以上の観賞スポットを用意する、なんて言い出されても、
普通は呆れ果てた憐憫の視線を送るか、一笑に臥して相手にしないに違いない。

「こんなところに居てもしょうがないわ」

だが、ハルヒは違っていた。俺の瞳を覗き込み、そこに欺瞞の色がないと知ると、

「行きましょ――あたしは、あんたについてくから」

俺が一方的に握っていた手を、指を絡めるやり方で繋ぎ直した。小さな手に、確かな力が籠もる。

「少し走るぞ。足は大丈夫か?」
「まだまだ持つわ。あたしを誰だと思ってるわけ? 」

殊勝な笑みを浮かべるハルヒ。余計なお世話だったな、と苦笑して、俺は群衆の壁から踵を返した。
俺たちと同じく立ち往生していた客は、反対方向へと進む俺たちを注視することもなく、広場への進入を試みている。
腕時計を見れば、時間はいつ花火が打ち上げられてもおかしくないほど差し迫っていた。
進めば進むほど人が疎らになる道を、駆け抜けていく。春の夜にしては肌寒い夜風に、頬が上気する。
ふと隣を見れば、ハルヒはさっきまでのメランコリー状態が演技だったかのように目を輝かせていた。
瞳にはテーマパークの装飾が、きらきらと映り込んでいる。と、俺は自分の視界にも異常が起っていることに気がついた。

火照った頭で考える。最初に走り抜けたときは、あれほど色褪せて感じられたのに――いったいどういう理屈なんだろうね。
七色に光り輝くイルミネーションと仄かな夜想曲に彩られた大通りが、なんとも幻想的な風景に映るのは。

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 20:27:26.54 ID:Dhb0fEf90

大通りから分岐した小道に入る。
等間隔に並んでいた外灯が、湖に近づくにつれて、一つ、また一つと減っていく。
ささやかに活気があった大通りと違い、小道には人の気配がほとんどなかった。
そしてその道は、湖の畔を覆い隠すように生繁る、暗い森へと続いていた。

「――はぁっ、――この中にあるのよね?――っはぁっ――」
「――そうだっ―――あと少しで――はぁっ――到着だぞ――」

酸素を欲しがって朦朧とする頭で、マップを思い描く。F7ブロックまではもうすぐだ。

「――急ぎましょ――」
「―――あぁ――――」

一瞬のアイコンタクト。ハルヒの足はとっくに限界を迎えているはずだった。そこにかかる負担、苦痛は計り知れない。
だが、その痛みをおくびにも出さずに、ハルヒは走る速度を上げていった。

カーテンのように視界を阻む木々や、進入してきた人間を惑わすように蔓延る暗闇。
いざF7ブロックに到達しても、中々湖の畔は見えてこなかった。
方角のみを頼りに、不完全に舗装された道を走る。

F7には何もない
無駄足だった 悪足掻きだった 無意味な努力だった
何故あんな妄想を信じたんだ?

自虐的な嘲笑が、脳裏を掠めては消えていく。
弱気になる自分を叱責して、俺はハルヒの手を握りなおした。
あれほど折重なっていた木々が、どんどん疎らになっていく。
暗闇の先で、仄かな光が瞬いているのが見える。限界まで酷使していた足に、ラストスパートをかける。

そして俺たちは辿り着いた。―――湖の畔に悠然と浮かぶ、客船の下に。

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 21:06:24.00 ID:Dhb0fEf90

「―――っはぁ、キョン――これって……」

巨大な船体を仰ぎながら、ハルヒが言った。

「――はぁっ、――……昼間湖の上を遊覧していた客船みたいだな」

全体像が把握できない所為で一際大きく見える客船は、無人のようだった。
不気味ではない、心を落ち着かせるような静けさが、客船の周囲に漂っている。

「あんたが言ってた観賞スポットって、これのことだったの?」

心なしか弾んだ声に、俺は無言で頷いた。動悸が収まってくるにつれて、この客船がここにある理由が分かってくる。
客船による湖上遊覧は、午後7時の時点で終了していた。
豪奢な装飾ゆえに、湖の上に放置していても十分映える客船だが、
今日は初運用だし、点検も兼ねて人目に付きにくい場所に安置されることになったのだろう。
そしてそれは俺たちに好都合なことに、

「煌びやかな装飾はこの暗闇じゃ意味ないが――」
「――とびっきりの望楼として、客船を使うことができるわ!」

俺の言葉の末尾を、ハルヒが引き取った。
苦痛に歪められていた顔は、喜色満面に塗り替えられている。
その笑顔に、つい全ての問題が解決したような気になってしまうものの、まだ難関は残っていた。
確かに高見台は発見できた。だが、どうやってこの客船に乗船する?
船体と俺たちの位置の間には若干の距離がある。
係員もいなければ整備員もいないんだ、湖を泳いで船壁をよじ登らない限り、乗船は――

「可能よ、だってタラップが降りてるもの」

ととと、とハルヒが桟橋を歩いていく。暗闇に目を凝らせば、そこには確かに、地上と客船を繋ぐ道ができていた。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 21:37:22.46 ID:Dhb0fEf90

やれやれ。ここまで段取りがいいと、本当に神様を信仰してもいいような気分になってくるね。

「あんたも早く来なさいよ。忍び込んだところで咎められるわけないわ。
 タラップを直し忘れていた、テーマパーク側の不手際ね」

鶴屋財閥が構築した管理体制なんだ、そんなミスを犯すわけないだろうに、
と内心思いつつも、階段の一段目に足を掛けているハルヒの下へ向かう。
ふいに閃いたヒントを解読してF7ブロックまで赴くと、
まるで乗ってくださいと言わんばかりにタラップを展開している客船があった、
なんていうのは今一度考察しても出来すぎた話だと思う。
でも現実としてそうなっている以上……俺にできるのはハルヒの望みを叶えてやることだけだ。

――俺と一緒に花火が観たい――

泣きそうになるほど切望していたことが、もう、ハルヒの目の前にある。

「ちょっとそこで待っててくれ」

細波立つ湖面の上を、一足先に渡り終えて、

「――足許にお気をつけて、お乗り下さいませ」

俺は恭しく一礼し、手を差し伸べた。俺の船上員のような態度に、ハルヒは最初目を丸くしていたが、

「ありがとう。助かるわ」

衒いのない微笑を浮かべて、俺の手を取った。もう何度も繋いでいるはずなのに。
初めて手を取り合ったような興奮が、俺の理性に襲いかかる。一気に掌が汗ばんでいく。
顔が熱い。火照っていることを悟られたくなくて、俺はハルヒを甲板へと案内することにした。
――掌に滲んだ汗が、俺一人だけのものであると錯覚したまま。

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 23:23:19.30 ID:Dhb0fEf90

―――――――――――――――――――――――――――――――

船の構造を確かめつつ上層部に歩を進めた俺たちは、さして迷うこともなく甲板に出ることに成功した。
真っ新な甲板に、二つ分の足音が響く。眼はすっかり暗闇に慣れていた。
夜空を反射した黒い湖面には、やはり夜空と同じように、宝石のような星々が鏤められていた。
これを拝めただけでも客船に進入した価値がある。そう思えるほどに、その光景は美しかった。
だが……

「遅いわね。もうとっくに始まっててもいいくらいなのに」

手摺りに体を預けながら、ハルヒが不平を零した。もう何度となく見た腕時計を、もう一度確認する。

「時間はもう9時をまわってる。遅れてるな」

恐らくは一般人の想像もつかないほどに入念なチェックが重ねられてきたであろう、花火の打ち上げ台。
発射予定時刻を超過している原因は別のところにあるのではないか、と見当をつけながらも、俺は適当な嘘を並べた。

「もしかしたらさ。俺たちがスタンバイするのを待っててくれたのかもしれないぜ」
「そうね、」

だが、ハルヒはその言葉を真に受けたようだ。

「本当に、あたしたちのことを待っててくれたのかも―――」

穏やかな声で、俺の言葉を繰り返し、

「―――あっ」

まるで初めて雪の結晶を見た赤児のように、喉を鳴らした。
黒洞々とした満天に、大輪の花が開く。遠雷のように低い音が、数秒遅れて鳴り響く。

460 名前:ちょっと焦ってた…修正ver[] 投稿日:2007/12/22(土) 00:15:28.21 ID:GWiW+NFV0

儚く散った先の花火を忘れさせるように、打ち上げられる花火は大きく、華やかなものになっていった。
赤、青、黄、緑――いくつもの色彩が、一瞬だけ光り輝いては消えていく。

「……………」

お互いに言葉を発しない。いや、それでは語弊がある。俺には発することができなかった。
どこか思い詰めた瞳で花火を見つめるハルヒには、たとえどんな言葉を掛けても水を差すことになりそうだったからだ。
俺の手を下にして重ねられていたハルヒの手に、熱が籠もる。
ふと夜空から視線を降ろせば、ハルヒはぎゅっと、俺の手を握りしめていた。
撫子色の唇は、喉から出ようとしている言葉を堰き止めているように軽く嚼まれている。

「―――ッ」

本能的に眼を逸らす。心の準備が出来ていない俺が
見てはいけないものを偶然見てしまったような、そんな罪悪感に囚われる。
思考の逃げ場所を探して、俺は古泉の台詞を反芻した。

"彼女の行動の一つ一つに、目を向けてあげて下さい"
"あなたと出会った当初の彼女と、どう変わったのか"
"それをもう一度、再確認してみてください"

テーマパークで夢中で遊んでいるうちに、記憶の彼方へと押しやっていた主目的。
今日一日をハルヒと過ごして。俺は、ハルヒの蟠りを氷解させるファクターを揃えることができたのだろうか。
いや――元より出揃っていたファクターを、理解できるようになったのだろうか。
やけに現実味を失った花火の音を聞きながら、ハルヒの行動を反芻する。

駅前で息を切らせた俺を出迎えてくれたのは、艶やかな衣装を身に纏ったハルヒだった。
こいつが、何処で購入したのか疑問になるような奇抜柄のTシャツや上着を着なくなったのは、
俺と二人で出掛けるときに限って、薄くメイクをしたり髪を綺麗に整えてくるようになったのは、いつからだろう。

532 名前:修正何度もごめん[] 投稿日:2007/12/22(土) 01:40:27.09 ID:GWiW+NFV0

初っ端の幽霊屋敷。偽りのお化けに怯えたハルヒは、躊躇うことなく俺の腕を取った。
袖をつまむのにも抵抗を見せていた昔のハルヒと比べれば、随分と自分の感情に素直になったと言える。

気分転換にと推したボート。
静的なアトラクションは好まないかと予想を付けていたのに、ハルヒはその案を笑顔で受け入れてくれた。
湖の真ん中で眠気に襲われ、独り勝手に昼寝しようとした俺に、ハルヒは拗ねたように水飛沫をかけてきたんだっけ。
もし二年前なら、俺は問答無用でびしょびしょにされていただろうな。

ジェットコースター下車直後。不甲斐なく失神してしまった俺を、ハルヒは介抱してくれた。
俺が目を醒ました後は、素っ気ない態度に戻っていたが……普通膝枕は、介抱する人への優しさがなければしないもんだ。

シューティングゲームの途中に受けた挑戦に、ハルヒは消極的だった。
昔の好戦的なハルヒなら、夜のイベントなんてそっちのけで首位プレイヤーと交戦していただろう。

偶然にも鉢合わせた、谷口国木田阪中の三人組。
さっと俺の背中に隠れたハルヒは、谷口のからかいに言い返すことができなかった。
俺と一緒に遊びに出掛けていることを指摘されて、何故ハルヒはあんなに恥ずかしがっていたのだろう。
いや――いつからだ。ハルヒが俺と街を出歩いているところを知人に見つかる度、恥ずかしがるようになったのは。

ディナーショーのjazz演奏。
それに喚起されたのか、ハルヒは一年前の文化祭での我侭を謝罪してきた。
俺が忘れていたことを、ハルヒはずっと心に留めていた。
咄嗟に言葉を返せなかった。ハルヒに振り回されるのが日常だったのに、それをハルヒ自身に否定されたような気がしたから。

花火が一番綺麗に見える場所だと信じていた、噴水広場前で。
俺と一緒に花火を観たかった、と呟いたハルヒは諦観していた。
叶わないと知って泣きそうになるほどの願いも、ハルヒに環境操作能力を行使させるまでには至らなかった。
空想の出来事を現実化させるならまだしも、広場に少しスペースを空けるくらいなら、良心は咎めなかっただろうに。

533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 01:42:03.61 ID:GWiW+NFV0

そして、花火を除く上記の行動全てに、総じて言えることがある。
ハルヒは俺の意見を、自分の意志よりも尊重していた。
アトラクションを決めるとき、二択から選択しなければいけないとき――
あらゆる局面で、ハルヒは己の一存で行動を決定しなかった。
一見、俺はハルヒに追従しているようで、自由にテーマパーク内での活動を取り決めていたのだ。


夜空の彩りをより一層増していく花火に目が眩む。隣のハルヒが、口を開く気配があった。


現在と過去を照らし合わせてみれば。ハルヒの俺に対する姿勢は
団長と団員という関係性を超えて、俺が見過ごしている間に大きく変化していたのだ。
それは今日の記憶だけでなく、過去数日の違和感が付きまとう記憶と照合しても辻褄があう。

昨日早朝、通学路を歩いていた時に見掛けた、後輩の男女の理由なき諍い。
その光景は今の俺とハルヒと似ているようで、違っていた。
その後教室で谷口にからかわれたとき、ハルヒは一旦拗ねたように窓外を睨んでいたが、
いざ俺が話しかけると愛想良く返事をしてくれた。まるで先ほどの出来事で怒っているのを、俺に知られたくないという風に。

いつからかは忘れたが、ハルヒが俺に理不尽な情動を投げかけてくることはなくなっていた。
例え腹の虫の居所が悪かろうと、ムシャクシャした気分でいようと、俺に向けるのは常に平常時の顔。
顰めた顔に仮面をして、時には笑顔の仮面を被ってまで、俺に不機嫌を悟られまいとするようになっていた。


「ねぇキョン……あたしね……」
湖面を震わせていた号砲の音が、遠のいていく。


そんなことを露程にも知らぬ俺は、毎日が平和に廻っていると信じて疑わなかった。
非日常的事象は起らなくなりハルヒとの関係は至極円滑になっていると、盲目的に安堵していた。

573 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 02:27:02.01 ID:GWiW+NFV0

だが俺の楽観的思考の枠外で、ハルヒには蟠りが生まれていた。
生じては瞬間的に消滅する、過去の閉鎖空間と比較すれば圧倒的に小さな、特殊閉鎖空間。
それは非日常的な現象を望むハルヒが、己の普遍性に我慢ならずに発生させたものじゃない。
ハルヒは既にフツーの日常に適応している。だから、その根因は別のところにあるということになる。

古泉は言った。
機関はこの特殊閉鎖空間への対策を放棄し、
ハルヒの蟠りを解消できるのは俺しかいなくなったのだ、と。
それは裏を返せば、俺に特殊閉鎖空間発生の原因があったということにはならないだろうか。

もしかしたら――ハルヒの思い遣りや、俺への負担をかけまいとする心配りは、
同時にハルヒの欲求や希望を、抑圧することになっていたのかもしれない。
それが刹那的なストレスとなってハルヒを襲い、特殊閉鎖空間を発生させていた可能性は十分に考えられる。

でも。もしそうと仮定するなら、俺は一つの根本的な矛盾と相対しなければならない。
今までの関係でも良かったはずだ。ハルヒが自分勝手な願い事を言い出して、俺がそれを辟易しつつ嘆息しつつも叶えてやって、の繰り返し。
ハルヒが自分の意志を殺してまで、俺と良好な関係を築こうとする理由が、存在しなかった。


「……いつかあんたに言おうと、決めてたことがあるの」
声は細波のように消え入りそうだった。


――いや。その矛盾を解消できる仮説は、あるにはあった。
しかしそれはあまりに利己的で恣意的で身勝手な仮説だ。
ハルヒは「恋愛感情は病の一種」と常日頃から謳っていたが、
もし、万が一にもハルヒが俺に恋愛感情を抱いているとするのなら、先の矛盾は綺麗さっぱり消滅する。

経験が浅い、というかナシの俺が偉そうなことを言えたものではないが……
一般的に好意を向けている相手に、自分の意志を曲げてでも喜んでもらいたいのは、当然のこと。

599 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:09:18.89 ID:GWiW+NFV0

通常の閉鎖空間を発生しなくなった理由を、俺はハルヒが精神的に成長したからだと決めつけていた。
しかしこうは考えられないだろうか。
外面上は"平穏無事な日常を望んでいる"というスタンスで過ごしてきた俺。
俺に好意を抱き始めたハルヒは、それを無意識下で感じ取り、俺の思考を世界に反映させた。
その結果、非日常的な事象は一切発生しなくなった。そして副次的に、ハルヒが自分の意志を抑えてまで俺に合わせるようになった。
この推理が当たっているとするならば、いつかの帰り道での「今が楽しい?」という問いかけの説明がつく。
あの質問は――ハルヒの深層意識が、俺が何も起らない世界に、俺の意志を優先するハルヒに、
満足しているのかどうか確かめたかったが故の質問だったのではなかったか。


「ずっと、ずっと怖くて言い出せなかったんだけど……」
一言一言噛み締めるように、言葉が紡がれていく。


はは。失笑してしまうほどに自己中心的な暴論だ。
憶測に憶測を重ねただけの世迷い言。こんな妄想しているとハルヒに知られれば、俺は間違いなく軽蔑されるだろうな。
でも――もし仮に何千億分の一の確率で、この仮定論が当たっているとすれば、俺は今すぐにでもハルヒの蟠りを溶かせるということになる。
ハルヒが俺に恋愛感情を抱いているか抱いていないかなんて別にして、自分の気持ちを口にすることは可能だ。
例えそれが、思い切り的外れなことだったとしても。俺の気持ちをハルヒに伝えることは無駄にはならない。

俺は――

1、俺はわだかまりを抱えたままでも、俺の意志を尊重してくれるハルヒを選ぶ
2、自分を抑えているハルヒなんかいらない。俺は我侭な、いつも俺を振り回してくれる自由奔放なハルヒを選ぶ。

ラスト安価

>>610までに多かったの

601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:21.04 ID:6pPIsVLs0

俺は2。やっぱり俺の中のハルヒは2

602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:21.45 ID:HMTrS8Zz0



603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:53.73 ID:Vlq3422BO

俺の美麗なる保守を魅せる時がきたか…


ほぉぉう!しぃぃぃゅううう!!!

604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:58.40 ID:brmZCByWO



605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:06.86 ID:evqUjG150

22222222222222222222

606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:08.04 ID:0d7PSPfd0

・・・2!!

607 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:12.13 ID:Sj3yx8Wa0



608 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:14.78 ID:T+dfyt/m0

1

609 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:19.23 ID:++OkguY70

2

610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:24.99 ID:l6Rcc23D0

2だあああああああああ

784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 20:44:59.03 ID:GWiW+NFV0

俺は――自分を抑えているハルヒなんかいらない。
迷惑を顧みないで周囲を振り回す、自由奔放なハルヒを選ぶ。


「もしあんたさえ良かったら……」
空を映していた瞳が、俺を映す。


必要以上に気を遣ってくれるハルヒとは、一緒にいて心地よかった。
例え表面上はつっけんどんでも、その裏で俺を一番に思っていてくれるハルヒに、満足感を得ていたりもした。
だが、それは俺の一方的な優しさの甘受に過ぎない。二人の関係が強くなるときに、どちらか一方に負担が押しつけられることはあってはならない。

だからさ、ハルヒ。お前ばかりが我慢する必要なんて、最初から全然なかったんだ。
お互いに距離を近づけて、衝突して、どちらかが妥協して、再び距離を近づける――それが本当の関係の深め方だろう?


「あ、あたしと、」
「待ってくれ」

ハルヒの独白を遮る。

「どうしても今、言っておきたいことがあるんだ」

大きく見開かれた瞳には、不安と期待の色が入り交じっていた。

「いつの頃からかは忘れたけどさ。俺ってお前から、理不尽な暴力や暴言を受けなくなったよな。
 昔はお前にあんなに振り回されてたのに、今じゃ、すっかり平穏な生活を手に入れちまってる」
「……………」

817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 21:50:03.95 ID:GWiW+NFV0

「機嫌損ねる度に時間構わずメールを送ってくることも、
 相談事ができた次の瞬間は吹っ掛けてくることもなくなった。
 そしていつの間にか、お前は、俺に悩み事を打ち明けなくなっていったよな」

解消されることのない負の感情は、どんどん鬱積していく。

「お前は認めないかもしれないが……お前は俺に気を遣ってくれるようになった。
 滅茶苦茶な我侭をいうこともなくなったし、感情の捌け口にすることもなくなった。
 それどころか、俺の意見を優先するようにまでなってくれていた」

鬱積したそれらは、しかし処理されることもなく。

「お前が無条件で不機嫌な自分を曝していたのは、もうずっと前のことだ。
今俺の目の前にいるのは、無条件で笑顔を見せてくれるハルヒだよ」

許容値を超えてはあふれ出し、許容値内に戻っては、再びあふれ出すを繰り返していた。
それをハルヒは訴えようとしなかった。黙ったまま、別の自分を演じていた。

「―――なあ。お前、無理してないか」
「それはちがっ、………」

勝手に喋り始めた唇を、人差し指で塞ぐ。

「今から言うことは全て俺の独り言だ。だから、お前が聞きたくなければ耳を塞いでいてもいい。
 でも一つだけお願いがあるんだ。俺が話すのを、止めないでくれないか」

数秒の間をおいて、ハルヒが首肯する。人差し指に、柔らかい感触が伝わってきた。

「こんなことを言うのは最初で最後だぞ。あのな、これは最近気づいたことなんだが――
 どうも俺は平穏無事な生活よりも、お前に振り回されている方が性に合っているらしい」

842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 22:41:54.83 ID:GWiW+NFV0

「……………」
「中身のない話題で長電話に付き合わされるのも、くだらん相談メールで熟睡中に起こされるのも、
 俺の知らぬところで機嫌を損ねたお前を宥めることも、俺は全然苦にしちゃいなかった」

冒頭で独り言だと断った割に会話口調になっているのは、ハルヒが耳を傾けてくれていると確信しているからだ。
そして事実、ハルヒの唇は俺が言葉を重ねるごとに、熱を帯びていった。

「お前の傍若無人で自分勝手な願望を叶えてやるのも、ありえねーってくらいに滅茶苦茶な我侭を聞いてやるのも、
 俺は全然嫌じゃなかったんだよ。いや、むしろ率先してその役割を引き受けていたと言ってもいい」

人差し指を離し、

「どうしてだと思う?」

真っ直ぐにハルヒを見据えて問いかける。

「……分からないわ……」

そう言うと、ハルヒは俺の視線から逃げるように俯いた。髪から覗いた耳は、朱に染まっている。
答えが分かっているのに答えないなんて卑怯にもほどがあるね。
結局、俺がハルヒの代わりに模範解答を言わなければならなくなったじゃないか。

「それはな。俺が苦労すればするほど眩しくなるお前の笑顔が、
 無条件で見ることができるそれとは比べものにならないくらいに好きだからさ」

息を詰まらせたハルヒに構わず、解答文を読み上げていく。

「だからハルヒ――お前は好きなだけ俺に我侭をぶつけて良かったんだよ。
 団長様の願いを叶えるのが、団員その一である俺の宿命だ。
 その平団員のためにお前が我慢するだなんて、愚の骨頂だとしか言いようがないぜ」

887 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/23(日) 00:18:50.70 ID:ADLmFi7+0

悩みごとができたら遠慮なく持ってくればいい。
最低な気分なときはそいつを俺に押し付けろ。
他人に迷惑を掛けるのを自重しても俺を振り回すのを躊躇うな。
俺に叶えられる範囲の願い事が出来たらまっすぐ突っ込んでこい。
ただし、ブレーキをかけようとかクッションを間にはさもうなんて余計な配慮は要らないぜ。

「どんなに突拍子な望みを抱えたお前でも、真正面から受け止めてやるからさ」

最後に後で回想したら間違いなく赤面モノの台詞を吐いて、言葉を切る。
そして今更ながらに、台本が用意されていたわけでもないのに"伝えたいこと"をすらすらと綴ることができた自分に驚いた。
頭の天辺から足先まで全身が火照っている。脳髄は、沸騰しているんじゃないかと疑えるくらいに熱い。

「とまあ、俺の独り言はここまでだ。
 同時に、俺が言いたかったこともこれで全部言い終わったことになる」

"独り言"が終わっても、ハルヒは面を上げようとしなかった。
俺のあまりに気障な台詞廻しに失笑しているのか?
と、そんなあり得ない懐疑心が膨らみ始めた、その時――

「……、ひくっ、馬鹿……じゃないの…ひくっ……」

嗚咽混じりの罵倒が聞こえてくる。
お前は知らないかもしれないが、脈絡のない中傷は結構心にくるんだぜ。

「ひくっ……思い上がりも、……いいとこね……ひくっ……………」

確かにお前を顧みない、俺の欲求を満たすためだけの独白だったな。
もしさっきの独り言がただの見当違いだったなら、どんなに蔑まれても俺は反論できないだろうさ。

「……その大馬鹿に、……命令、…するわ……ひくっ……」

911 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/23(日) 00:53:02.44 ID:ADLmFi7+0

有無を言わさぬ命令口調。やっぱりお前はこうでなきゃな。
「もしあんたさえ良ければ」なんて下手に出た嘆願は、お前に似合わないんだよ。
叶えたいことがあるなら、声を大にして命令すればいい。
何度も言ってるだろ? お前の望みとあらば、俺はなんでも叶えてやるってさ。
腰をかがめて、ハルヒに顔を近づける。

「さて、その命令とはなんなんだ?」

伏せられていた顔が上がる。双眸は熱く潤んでいた。懐かしの殊勝な笑顔に、一筋の涙が零れ落ちる。
そして――ハルヒは飛切りの我侭を口にした。

「あたしと付き合いなさい! い、言っておくけどあんたに拒否権は、」

やれやれ。久々に本気の団長命令だから、どんな無理難題かと思っていたら――

「お安いご用だ。なんなら、一生幸せにしてやると誓ってもいいぜ」
「え――」

即答した瞬間。堰を切ったように、ハルヒの双眸から涙が溢れ出す。

「……こんなに嬉しいのに、ひくっ、……なん、で……」

突然の感情の横溢と、それにリンクした涙の理由が分からないのだろう。
ハルヒはコートの裾で目をぐしぐしと擦りはじめた。
それに見かねてハルヒの両手を掴む。案の定、メイクは台無しになっていた。

「み、見ないで」
「どうして?」
「……あたしの顔、今酷いことになってるから……」
「へぇ、だとしたら俺の眼は検査の必要があるだろうな。だって俺の目には、世界で一番可愛い彼女が映ってるんだからさ」

83 名前:◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/12/23(日) 01:33:13.80 ID:ADLmFi7+0

元々紅かった頬が、さらに紅潮していく。
唇は言葉を探すように戦慄いている。その様子が、堪らなく愛しい。
劣情とは別の、純粋な愛情からくる衝動に突き動かされる。
刹那の逡巡もなく、俺はハルヒの矮躯を抱き寄せて――

「―――!!」

震える唇に、自分のそれを押し当てた。元々大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。
密着している体が、繋がっている唇が、熔けているように熱い。
最初驚愕に彷徨っていた視線は、やがて蕩けるような甘いものへと変わっていく。至近距離で見つめ合う。

『どうしていきなりこんなことしたのよ?』

口吻に理由が欲しいのか?
そうだな、強いて言うなら、俺はお前に疑心を抱かれたくなかったんだ。。
お前の告白を受け入れたのが、団長命令による強制的なものではなく――
俺の意志によるものだと、知ってもらいたかったのさ。
お前のことが好きでもなんでもなけりゃ、俺は絶対にキスしたりはしない。
これは二年前の、世界を救うためのキスとは違う。純粋な欲求からきた、極めて自然なキスだ。
恋人同士がキスをするのに明確な理由が必要か? 要らないだろ。
だから……お前は何も考えずに俺を抱きしめ返せばいいんだよ。

『キョンのくせに生意気ね。言われなくてもそうするわよ』

俺のアイコンタクトに、ハルヒの目が細められる。
やがておずおずと背中に回ってきた手に、俺は幸福感を噛み締めようとし、

『でも、やられっぱなしはイヤ』

啄むように動くハルヒの唇に、なされるがままになっていた。

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/23(日) 02:21:35.26 ID:ADLmFi7+0

まったく――俺の不甲斐なさに嘆息を禁じ得ない。
キスの主導権も握れないようじゃ、この先が思いやられるね。
行為に夢中になっているハルヒから、夜空へと視線を逸らす。
と、その時だった。


最後の花が瞬く夜空に、麗しの鐘音が鳴り響く。
その音はまるで、望楼で愛を確かめあう俺たちを祝福するかのように、
儚い夢の終わりを少しでも遷延しようとするかのように、澄み渡っていた。
何故だろう。聳え立つ時計台の鐘楼は、霞んでよく見えなかった。


「あむ……っん……」

しかしその違和感も、激しさを増したハルヒのキスに埋もれてしまう。
まるで俺の存在を確かめるように舌で唇をなぞるハルヒに、理性が奪われていく。

朦朧とした意識で予想する。
明日からハルヒは、気兼ねなく俺を振り回すようになるだろう。
恋人関係というアドバンテージをフルに活用して、赤面必至の要求を重ねてくるかもしれない。

だから。この鐘音が鳴りやむまで、俺は、ハルヒの甘える姿を目に焼き付けておこうと思う。
夢幻のようなこの夜に、ハルヒに告白し告白されて、恋人同士になったことを―――ずっと、忘れないために。


-haruhi route end-

250 名前:◆.91I5ELxHs [] 投稿日:2007/12/23(日) 02:36:07.52 ID:ADLmFi7+0

↓ 後書きみたいなもの (うぜぇ、って思う人は読み飛ばして全然おk)


さて暇つぶしに乗っ取ったスレからここまで続けてきたわけだが

安価で進めていくという制限の中でどれだけストーリーに奥行きを出せるか不安だった

複線全て回収できた自信ないしね……

急いで構成したストーリーなんで、矛盾点は多々あるだろうけどそこは見逃して欲しい

あと誤字、脱字もいっぱいあったはず 全て修正しきれなくてごめんなさい


でも、一つだけ言えることは、書いてて楽しかったということ

安価に参加してくれた人にも保守してくれた人には感謝してもしきれないくらい

今思い返しても穴だらけのSSだけど、楽しんでもらえたなら幸いです



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